(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/67 20060101AFI20220614BHJP
A61K 8/39 20060101ALI20220614BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20220614BHJP
A61K 8/63 20060101ALI20220614BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
A61K8/67
A61K8/39
A61K8/60
A61K8/63
A61Q11/00
(21)【出願番号】P 2018141471
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 和晃
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】平田 江里加
【審査官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-110664(JP,A)
【文献】特開2018-043933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/67
A61K 8/60
A61K 8/63
A61K 8/39
A61Q 11/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)トコフェロール及びその有機酸とのエステルから選ばれる1種以上を0.01~3質量%、
(B)エチレンオキサイドの平均付加モル数が3~
7モルのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を0.1~4質量%、及び
(C)グリチルレチン酸、グリチルリチン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上を0.001~0.5質量%
含有してなることを特徴とする口腔用組成物。
【請求項2】
(A)/(B)が質量比として0.007~20である請求項1記載の口腔用組成物。
【請求項3】
{(A)+(B)}/(C)が質量比として0.3~500である請求項1又は2記載の口腔用組成物。
【請求項4】
更に、(D)ポリアクリル酸及びその塩から選ばれる1種以上を0.01~5質量%含有する請求項1~3のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項5】
研磨剤無含有である請求項1~4のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項6】
歯磨剤組成物である請求項1~5のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンE又はその誘導体の保存安定性及び口腔内滞留・吸収性に優れ、また、保存後も製剤変色が抑制された口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トコフェロール等のビタミンE又はその誘導体は、歯肉組織の末梢循環促進作用(血行促進作用)を有することから、歯周病予防に有用であり、歯磨剤等の口腔用組成物に広く配合されている。油溶性のビタミンE又はその誘導体を口腔用組成物に可溶化させて配合するには、界面活性剤を用いることが一般的であるが、その一方で、ビタミンE又はその誘導体は、界面活性剤や研磨剤の影響を受け易く、経時で分解が進行し、製剤変色を招くこともあった。更に、練歯磨等の歯磨剤では、凝集分散系の準安定状態であるためにその分散状態の変化によってビタミンE又はその誘導体の容器や研磨剤への吸着が発生することもあり、基本特性の泡立ちに影響する場合もあった。したがって、ビタミンE又はその誘導体の作用を口腔内で十分に発現させることは難しかった。
口腔用組成物にビタミンE又はその誘導体を配合する技術として、例えば下記提案(特許文献1~3)がなされているが、ビタミンE又はその誘導体を安定に配合して口腔内での作用性を改善する新たな技術の開発が望まれた。
【0003】
特許文献1(特許第2054209号公報)には、アルカリ金属塩、アミノ酸等の特定の水溶性化合物によって、トコフェロール及びそのエステル誘導体が安定化し、界面活性剤のラウリル硫酸ナトリウムが配合されていてもトコフェロールやそのエステル誘導体の残存率が改善した研磨剤含有の練歯磨が提案されている。特許文献2(特許第3894132号公報)は、酸化エチレンの平均付加モル数5~30のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びラウリル硫酸ナトリウムの併用系によって、酢酸トコフェロール等の難水溶性非イオン性薬効成分の容器吸着を防いで残存率を改善し、起泡力も高い研磨剤含有の歯磨剤組成物が得られることを提案している。特許文献3(国際公開第2010/143589号)は、ビタミンE又はその誘導体とアスコルビン酸リン酸エステル又はその塩と非イオン性殺菌剤又はカチオン性殺菌剤とを組み合わせ、これらにエチレンオキサイドの平均付加モル数が10以上のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を適切な量比で添加すると、前記複数の薬効成分を同時に安定化配合し、これらの効果を付与することができる、外観安定性(分離、変色)も良い研磨剤含有の歯磨剤組成物が得られることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2054209号公報
【文献】特許第3894132号公報
【文献】国際公開第2010/143589号
【文献】特許第5575443号公報
【文献】特開2017-95382号公報
【文献】特開2007-84471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ビタミンE又はその誘導体の保存安定性及び口腔内滞留・吸収性に優れ、また、保存後も製剤変色が抑制された口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ビタミンE又はその誘導体を特定量配合した口腔用組成物に、エチレンオキサイドの平均付加モル数が特定範囲のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油とグリチルレチン酸、グリチルリチン酸又はこれらの塩とを各々特定量で配合すると、ビタミンE又はその誘導体が安定化して保存後の残存率が改善し、これらの口腔内での滞留及び吸収率も高く、また、保存後においても製剤変色を抑制できることを知見した。即ち、本発明では、ビタミンE又はその誘導体として(A)トコフェロール及びその有機酸とのエステルから選ばれる1種以上を特定量配合し、(B)エチレンオキサイドの平均付加モル数が3~10モルのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を特定量、及び(C)グリチルレチン酸、グリチルリチン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上を特定量で配合することによって、(A)成分の保存安定性及び口腔内滞留・吸収性に優れ、かつ保存後も製剤変色が抑制された口腔用組成物を提供できることを知見し、本発明をなすに至った。
【0007】
更に詳述すると、口腔用組成物に(A)成分を配合し、(A)成分を可溶化して安定化配合することを目的にノニオン性界面活性剤として(B)成分を添加すると、(A)成分量が増えるにつれて保存後に製剤変色を起こすという問題が発生した。しかし、本発明では、(A)及び(B)成分を各々特定量で併用した系に、(C)成分を特定量以上で添加すると、(C)成分が変色抑制剤として、(A)及び(B)成分による製剤変色を抑制する予想外の作用を奏し、これにより、保存後も製剤変色を発生させることなく(B)成分によって(A)成分の保存後の残存率を改善し、かつ歯茎等の口腔粘膜への滞留及び吸収率も高く、優れた保存安定性及び滞留・吸収性を付与できた。更に(D)ポリアクリル酸又はその塩を添加すると、曳糸性等の製剤物性を良好に保持することもできた。
本発明では、(A)、(B)及び(C)成分を特定量で組み合わせることによって特異的に上記作用効果を奏した。後述の比較例の結果からもわかるように、(C)成分が配合されていない比較例7は、保存後に製剤変色が発生した。一方、(B)成分が配合されていない比較例3、6は製剤変色が認められず、(A)又は(B)成分の配合量が少ない比較例1、4も製剤変色がほとんど認められなかったが、これらの例では、(C)成分が配合されていても(A)成分の保存安定性(残存率)が低く、更に不適切なポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が配合された比較例6は、(A)成分の口腔内滞留・吸収性(滞留及び吸収率)も低かった。また、(A)、(B)及び(C)成分が配合されていても、(A)又は(B)成分量が多すぎる比較例2、5は、製剤変色が認められ、曳糸性も悪く、(C)成分量が少なすぎる比較例8は、製剤変色が認められた。これに対して、本発明の(A)、(B)及び(C)成分を各々特定量で含有する口腔用組成物(後述の実施例参照)は、(A)成分の保存安定性及び口腔内滞留・吸収性に優れ、保存後も製剤変色がほとんど認められず、また、曳糸性に問題もなかった。
なお、グリチルレチン酸やグリチルリチン酸は、口腔用組成物用の薬効成分として公知である(特許文献4~6:特許第5575443号公報、特開2017-95382号公報、特開2007-84471号公報)。しかし、本発明は、(C)成分による製剤変色の抑制であり、(A)、(B)及び(C)成分の組み合わせによる特異かつ格別な作用効果の付与である。
【0008】
従って、本発明は、下記の口腔用組成物を提供する。
〔1〕
(A)トコフェロール及びその有機酸とのエステルから選ばれる1種以上を0.01~3質量%、
(B)エチレンオキサイドの平均付加モル数が3~10モルのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を0.1~4質量%、及び
(C)グリチルレチン酸、グリチルリチン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上を0.001~0.5質量%
含有してなることを特徴とする口腔用組成物。
〔2〕
(A)/(B)が質量比として0.007~20である〔1〕に記載の口腔用組成物。
〔3〕
{(A)+(B)}/(C)が質量比として0.3~500である〔1〕又は〔2〕に記載の口腔用組成物。
〔4〕
更に、(D)ポリアクリル酸及びその塩から選ばれる1種以上を0.01~5質量%含有する〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔5〕
研磨剤無含有である〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔6〕
歯磨剤組成物である〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トコフェロール又はその誘導体の保存安定性及び口腔内滞留・吸収性に優れ、かつ保存後も製剤変色が抑制された口腔用組成物を提供できる。この口腔用組成物は、トコフェロール又はその誘導体の口腔内滞留及び吸収性が高いことからその作用を十分に発現させることができ、また、変色が抑えられ外観安定性が良く曳糸性の問題もなく品質面も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明につき更に詳述する。本発明の口腔用組成物は、(A)トコフェロール及びその有機酸とのエステルから選ばれる1種以上、(B)エチレンオキサイドの平均付加モル数が3~10モルのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、及び(C)グリチルレチン酸、グリチルリチン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上を含有する。
【0011】
(A)成分は、トコフェロール又はその誘導体であり、前記誘導体としては、トコフェロールの有機酸とのエステルを用いることができる。これらは、1種単独で用いてもよいが、これらから選ばれる2種以上を組み合わせて用いることもできる。(A)成分は、血流促進及び組織修復作用を有する薬効成分であり、歯肉炎、歯周炎等の歯周病の予防又は抑制に有効な成分である。
【0012】
トコフェロールは、例えば、d-α-トコフェロール、dl-α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロール等が挙げられる。また、トコフェロールの有機酸とのエステルは、上記トコフェロールの酢酸、ニコチン酸、コハク酸、リノレン酸等の有機酸とのエステル又はこれらの塩を使用できる。具体的には、酢酸d-α-トコフェロール、酢酸dl-α-トコフェロール等のトコフェロール酢酸エステル、ニコチン酸d-α-トコフェロール、ニコチン酸dl-α-トコフェロール等のトコフェロールニコチン酸エステル、コハク酸d-α-トコフェロール、コハク酸dl-α-トコフェロール等のトコフェロールコハク酸エステル、リノレン酸d-α-トコフェロール、リノレン酸dl-α-トコフェロール等のトコフェロールリノレン酸エステル、コハク酸トコフェロールカルシウムが挙げられる。中でも、トコフェロール酢酸エステル、トコフェロールニコチン酸エステル、とりわけトコフェロール酢酸エステルが、製剤の色調や外観の点で好ましい。
これらのトコフェロール又はその誘導体は、旧化粧品原料基準(粧原基)又は医薬部外品原料規格2006に適合品を使用可能であり、DSMニュートリションジャパン社製、エーザイフード・ケミカル(株)製、BASFジャパン(株)製等の市販品を使用し得る。
【0013】
(A)成分の配合量は、組成物全体の0.01~3%(質量%、以下同様)であり、好ましくは0.3~2%である。上記範囲内であると、本発明の作用効果が優れる。配合量が0.01%未満であると、(A)成分の保存安定性及び口腔内滞留・吸収性が低い。配合量が多いほど歯周疾患の予防又は改善効果が高まるが、3%を超えると、製剤変色を抑制できなくなる。また、泡立ちが低下し、曳糸性が悪化することがある。
なお、本発明では、(A)成分の配合量が比較的多く、組成物全体の0.6%以上、特に1%以上であっても、製剤変色が抑えられる。
【0014】
(B)エチレンオキサイドの平均付加モル数が3~10モルのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、(A)成分の保存安定性の向上作用及び口腔内での滞留・吸収性の促進作用を奏する。
ここで、エチレンオキサイドの平均付加モル数は3モル以上10モル以下であり、好ましくは5~7モルである。上記範囲内であると、(A)成分の保存安定性及び口腔内滞留・吸収性が優れる。3モル未満のものは製造が難しく、市販品としては入手困難であり、一般的な原料としての使用は現実的ではない。10モルを超えると、(A)成分の保存安定性及び口腔内滞留・吸収性が劣る。
【0015】
(B)成分は、1種又は2種以上を使用でき、その配合量は、組成物全体の0.1~4%であり、好ましくは0.2~3%である。配合量が0.1%以上であると、(A)成分の保存安定性が向上するが、多く配合し過ぎて4%を超えると、(A)成分の口腔内滞留・吸収性が低下し、しかも、製剤変色が強くなり抑制できなくなる。また、泡立ちが低下し、曳糸性が悪化することもある。
【0016】
(C)成分は、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上である。本発明では、(A)及び(B)成分の併用系において、(C)成分が製剤変色抑制剤として作用する。
グリチルレチン酸としては、β-グリチルレチン酸が挙げられる。グリチルリチン酸又はその塩としては、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいが、これらから選ばれる2種以上を組み合わせて用いることもできる。中でも、β-グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウムが好ましい。
【0017】
(C)成分の配合量は、組成物全体の0.001~0.5%であり、好ましくは0.01~0.5%である。配合量が0.001%未満であると、製剤変色の抑制効果が劣り、0.5%を超えると、泡立ちが低下する。
【0018】
本発明において、(A)成分と(B)成分との配合量の割合を示す(A)/(B)は、質量比として0.007~20が好ましく、より好ましくは0.2~10、特に0.3~10である。上記範囲内であると、(A)成分の保存安定性及び口腔内滞留・吸収性がより優れる。(A)/(B)の質量比が0.007未満であると、(A)成分の口腔内滞留・吸収性が十分に得られない場合があり、20を超えると、(A)成分の保存安定性が悪化する場合がある。
【0019】
また、(A)及び(B)成分の合計配合量と(C)成分の配合量との割合を示す{(A)+(B)}/(C)は、質量比として0.3~500であり、好ましくは5~250である。上記範囲内であると、特に製剤変色の抑制効果がより優れる。{(A)+(B)}/(C)の質量比が0.3未満であると、製剤変色の抑制効果が十分に得られない場合があり、500を超えると、製剤変色の抑制効果が低下する場合がある。
本発明では、(A)/(B)の質量比と{(A)+(B)}/(C)の質量比とがそれぞれ上記範囲内であると、上記全ての作用効果がより優れ、とりわけ好ましい。
【0020】
本発明では、更に、(D)ポリアクリル酸及び/又はその塩を配合すると、曳糸性等の製剤物性が更に改善する。口腔用組成物、特に歯磨剤組成物は、研磨剤無含有であると製剤物性が悪化し易いが、本発明では、粘結剤として(D)成分を配合すると、研磨剤無含有であっても曳糸性等の製剤物性が改善し、より優れる。
【0021】
(D)成分としては、架橋型であるポリアクリル酸又はその塩が好ましい。
ポリアクリル酸又はその塩の粘度は、BH型粘度計を用いて下記方法で測定した25℃での粘度(以下同様)が7,000~10,000mPa・sであることが好ましい。粘度が7,000mPa・s以上であると、曳糸性等の使用性を十分に改善できる。10,000mPa・s以下であると、十分な分散性が得られる。
粘度測定方法;
プロピレングリコール10gを500mLポリビーカーに測りとり、本品2.50gを加えてよく分散した。分散液に精製水487.5gを1度に加え、均一となるまで手でよく撹拌した後、乾燥防止の蓋をし、1昼夜放置した。次に、25℃恒温水槽に入れて1時間放置した後、BH型粘度計(No.5ローター、測定時間2分間、20rpm)で測定した。
【0022】
(D)成分を配合する場合、その配合量は、組成物全体の0.01~5%が好ましく、より好ましくは0.1~5%、更に好ましくは0.2~5%である。配合量が0.01%以上であると、曳糸性等の使用性の改善効果が十分に得られる。5%以下であると、練り肌等の悪化を防ぎ製剤外観を維持できる。
【0023】
本発明の口腔用組成物は、ペースト状、液体等の形態で、練歯磨、液体歯磨、潤製歯磨等の歯磨剤組成物や洗口剤組成物、更にはマウススプレー剤に調製することができ、特に歯磨剤組成物又は洗口剤組成物、とりわけ歯磨剤組成物として好適である。また、後述のように研磨剤無配合の組成のほうがよいことから、研磨剤を含まない練歯磨等の歯磨剤組成物に調製すると、更に好ましい。
また、必要に応じて、上記成分に加えて、その他の公知の添加剤を本発明の効果を妨げない範囲で任意に配合できる。例えば、研磨剤、界面活性剤、粘稠剤、粘結剤、甘味剤、防腐剤、着色剤、pH調整剤、香料、各種有効成分等が挙げられ、これら成分と水とを混合して調製できる。
【0024】
研磨剤としては、無水ケイ酸、シリカゲル、アルミノシリケート、ジルコノシリケート、結晶性ジルコニウムシリケート等のシリカ系研磨剤、第2リン酸カルシウム無水和物又は2水和物、第3リン酸カルシウム、第4リン酸カルシウム、第8リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム等のリン酸カルシウム系研磨剤、アルミナ、二酸化チタン、ポリメチルメタアクリレート、不溶性メタリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、ゼオライト、ハイドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、合成樹脂系研磨剤が挙げられる。
研磨剤の配合量は、(A)成分の保存安定性及び口腔内滞留・吸収性の点から少ないほうがよく、組成物全体の0~30%が好ましく、0~20%がより好ましく、0~5%が特に好ましい。研磨剤は、無配合(配合量0%)であることが最も好ましい。
【0025】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、(B)成分以外のノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤が挙げられる。具体的には下記に示すものを1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0026】
アニオン性界面活性剤
ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ラウロイルメチルタウリン等のアシルタウリン又はその塩;ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム
ノニオン性界面活性剤
ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレン高級アルコールエーテル;ショ糖脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル、糖アルコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル
カチオン性界面活性剤
塩化ジステアリルメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム
両イオン性界面活性剤
2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のベタイン系
【0027】
上記任意の界面活性剤の配合量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量でよい。中でも、口腔用組成物に多用されるアニオン性界面活性剤、特にラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩の配合量は、組成物全体の0.001~10%が好ましい。
なお、(B)成分以外のノニオン性界面活性剤は配合せず0%でもよいが、配合する場合は、組成物全体の0.001~10%が好ましい。(B)成分以外のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は配合しない(配合量0%)ほうがよい。
【0028】
粘稠剤としては、ソルビトール等の糖アルコール、プロピレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。粘稠剤の配合量は、通常、組成物全体の5~50%である。
【0029】
粘結剤としては、(D)ポリアクリル酸又はその塩に加え、これら以外のもの、例えば、キサンタンガム、カラギーナン、アルギン酸又はその塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース等の有機粘結剤、ゲル化性シリカ、ゲル化性アルミニウムシリカ、モンモリロナイト、カオリン、ベントナイト等の無機粘結剤が挙げられる。有機粘結剤の配合量は、(D)成分の配合量と合計して組成物全体の0.1~5%がよく、また、無機粘結剤の配合量は、組成物全体の0.1~10%がよい。
【0030】
甘味剤としては、サッカリンナトリウム等が挙げられる。防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム等の安息香酸又はその塩が挙げられる。
着色剤としては、青色1号、黄色4号、緑色3号等を通常量で配合できる。
pH調整剤としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等の有機酸又はその塩や、リン酸又はその塩類、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機化合物が挙げられる。
【0031】
香料としては、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、グレープフルーツ油、スウィーティー油、柚油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー等の天然香料や、これら天然香料の加工処理(前溜部カット、後溜部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料、及び、メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3-l-メントキシプロパン-1,2-ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N-置換-パラメンタン-3-カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、更に、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料等、口腔用組成物に用いられる公知の香料素材を組み合わせて使用することができ、実施例記載の香料に限定されない。
香料の配合量は特に限定されないが、上記の香料素材は、組成物中に0.000001~1%使用するのが好ましく、上記香料素材を使用した賦香用香料は、組成物中に0.1~2%使用するのが好ましい。
【0032】
有効成分としては、例えばフッ化ナトリウム、フッ化第1錫、フッ化ストロンチウム、モノフルオロリン酸ナトリウム等のフッ素含有化合物、非イオン性殺菌剤、カチオン性殺菌剤等の殺菌剤、トラネキサム酸、アラントイン等の抗炎症剤、デキストラナーゼ等の酵素、植物抽出物、歯石防止剤、歯垢防止剤等を、本発明の効果を妨げない範囲で有効量を配合できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において%は特に断らない限りいずれも質量%を示す。
【0034】
[実施例、比較例]
表1~4に示す組成の歯磨剤組成物(練歯磨)を常法によって調製し、一般的なラミネートチューブ容器(最内層にポリエチレンを含む。口径8mm)に充填し、下記方法で評価した。結果を表に併記した。
なお、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の( )内の数値は、エチレンオキサイドの平均付加モル数である。
【0035】
(1)ビタミンE又はその誘導体の保存安定性の評価方法
上記容器に充填した各例の歯磨剤組成物を60℃の恒温槽中で1ヶ月間保存した。これを常温になるまで放置した後、歯磨剤組成物を10g分取し、メタノールで抽出した後、下記試験条件に従い、HPLC(高速液体クロマトグラフィー、下記機器を使用)により絶対検量線法にて、ビタミンE又はその誘導体((A)成分)を定量した。
〈使用機器〉
・ポンプ:(株)島津製作所、LC-20AD
・試料導入部:(株)島津製作所、SIL-20AC
・検出器:(株)島津製作所、SPD-20A
・カラム恒温槽:(株)島津製作所、CTO-20AC
・溶離液流量:1mL/min
〈試験条件〉
・検出器:紫外吸光光度計(測定波長:273nm)
・カラム:COSMOSIL 5C18-MS-II
・カラム温度:40℃
・溶離液:メタノール
60℃にて1ヶ月間保存品中のビタミンE又はその誘導体の含有量を算出し、上記と同様にして定量した-5℃にて1ヶ月間保存品中のビタミンE又はその誘導体の含有量を100%とした場合の残存率(60℃で保存品中のビタミンE又はその誘導体の残存率)を求め、下記の評価基準に従い、ビタミンE又はその誘導体の保存安定性を判定した。
評価基準
◎:残存率が96%以上
○:残存率が92%以上96%未満
×:残存率が92%未満
【0036】
(2)ビタミンE又はその誘導体の口腔内滞留・吸収性の評価方法
1.5cm四方にカットした7週齢雄性ヘアレスマウスの皮膚(日本エスエルシー(株);ラボスキン)を6ウェルプレートに置き、人工唾液を5mL加え、2時間静置した。透過面積(約0.8cm2)が一定になるように、ガラス枠を当該皮膚の上に載せ、各例の歯磨剤組成物5gを人工唾液で3倍希釈した液を300μLずつ注入し、5分間静置した。その後、当該希釈液を捨て、5mLの水を加えて振とう機を用いて160rpmで1分間洗浄した。前記洗浄を繰り返し、計2回行った。
洗浄液を捨て皮膚をチューブに回収し、1mLのエタノール(EtOH90%)を加えてボルテックスミキサーで5分間抽出操作を行った。抽出液を回収し、メタノールで等倍希釈後、上記と同様の機器を使用して同様の試験条件でHPLCにてビタミンE又はその誘導体((A)成分)を定量した。
対照として比較例6の歯磨剤組成物のビタミンE又はその誘導体の滞留・吸収量を100%とした場合の各歯磨剤組成物の滞留及び吸収率(各例のビタミンE又はその誘導体の滞留及び吸収率)を算出し、下記の評価基準に従い、ビタミンE又はその誘導体の口腔内滞留・吸収性を判定した。
評価基準
◎:滞留及び吸収率が150%超
○:滞留及び吸収率が100%超150%以下
×:滞留及び吸収率が100%以下
【0037】
(3)製剤変色のなさの評価方法
上記口径8mmのラミネートチューブ容器に充填した歯磨剤組成物をそれぞれ3本用意し、3本を60℃で1ヶ月間又は-5℃で1ヶ月間保存した。保存後、歯磨剤組成物をわら半紙上に10cm押し出し、専門家パネラー5名の官能評価により、-5℃保存品に比べた60℃保存品の色調変化を観察した。下記の4段階の評点基準に従い、官能評価した。5名の評点結果の平均値を求め、以下の評価基準に従い、製剤変色のなさを判定した。
評点基準
4点:変色がまったくない
3点:変色がわずかに認められる
2点:変色が認められる
1点:著しく変色が認められる
評価基準
◎:3.5点以上4.0点以下
○:3.0点以上3.5点未満
△:2.0点以上3.0点未満
×:2.0点未満
【0038】
(4)曳糸性の評価方法
上記口径5mmのラミネートチューブ容器に充填した歯磨剤組成物を歯ブラシ(ライオン(株)製、クリニカハブラシ4列ヘッド、ミディアム)上に約1g載せた後、上方向にチューブ容器と歯ブラシを引き離した際の歯磨剤組成物の曳糸性を試験した。曳糸性とは、チューブ容器から取り出した時、歯磨剤組成物が糸を引くように伸びる性状をいい、その糸の長さを測定し、下記の評価基準で判定した。糸の長さが短いほど、曳糸性が良いと判断できる。
評価基準
◎:糸の長さが0.5cm未満であり、練り切れが良い
○:糸の長さが0.5cm以上0.8cm未満であり、練り切れがやや良い
△:糸の長さが0.8cm以上1.2cm未満であるが、許容できるレベル
×:糸の長さが1.2cm以上であり、使用上問題がある(許容できない)
【0039】
使用した主な原料の詳細を下記に示す。
(A)酢酸トコフェロール:
DSMニュートリションジャパン社製、酢酸dl-α-トコフェロール
(A)ニコチン酸トコフェロール:
エーザイフード・ケミカル(株)製、ニコチン酸トコフェロール
(A)トコフェロール:
DSMニュートリションジャパン社製、dl-α-トコフェロール
(B)ポリオキシエチレン(3)硬化ヒマシ油:
青木油脂工業(株)製、ブラウノン CW-3
(B)ポリオキシエチレン(5)硬化ヒマシ油:
日本エマルジョン(株)製、HC-5
(B)ポリオキシエチレン(7)硬化ヒマシ油:
日本エマルジョン(株)製、HC-7
(B)ポリオキシエチレン(10)硬化ヒマシ油:
日本エマルジョン(株)製、HC-10
ポリオキシエチレン(20)硬化ヒマシ油(比較品):
日本エマルジョン(株)製、HC-20
(C)β-グリチルレチン酸:
丸善製薬(株)製、β-グリチルレチン酸
(C)グリチルリチン酸:
純正化学(株)製、グリチルリチン酸
(C)グリチルリチン酸ジカリウム:
丸善製薬(株)製、グリチルリチン酸ジカリウム
(C)グリチルリチン酸モノアンモニウム:
丸善製薬(株)製、グリチルリチン酸モノアンモニウム
(D)ポリアクリル酸ナトリウム:
東亞合成(株)製、レオジック260H
粘度は7,000~10,000mPa・sの範囲内(上記方法で同様にして
BH型粘度計で測定)。
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