(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】回路の閉成判定の閾値設定装置および方法、鍵盤装置、並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/00 20060101AFI20220614BHJP
G10H 1/18 20060101ALI20220614BHJP
H01H 9/54 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
G01R31/00
G10H1/18 101
H01H9/54 C
(21)【出願番号】P 2018161690
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2019-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】半田 崇
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-070771(JP,A)
【文献】特開昭59-142599(JP,A)
【文献】特公昭49-009352(JP,B1)
【文献】特開2017-220859(JP,A)
【文献】特開平01-136077(JP,A)
【文献】特開平06-043867(JP,A)
【文献】特開2017-167177(JP,A)
【文献】特開2011-197399(JP,A)
【文献】特開2010-127727(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0161367(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/00
G10H 1/18
H01H 9/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路が開閉される部分の電圧値を検知する検知部と、
前記検知部により検知される電圧値が、前記回路の閉成を判定するための第1の閾値を跨いだときの電圧値に基づく値を記憶値として記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された記憶値に基づいて、前記第1の閾値を更新する更新部と、
前記検知部により検知される電圧値が第2の閾値を跨いだことに応じて、前記回路が開成されたと判定する判定部と、
を有
し、
前記更新部は、前記第1の閾値を更新した結果、前記第1の閾値と前記第2の閾値とが逆転した場合に、エラーを報知する、回路の閉成判定の閾値設定装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記検知部により検知される電圧値が前記第1の閾値を跨いだことに応じて、前記回路が閉成されたと判定する、請求項1に記載の回路の閉成判定の閾値設定装置。
【請求項3】
前記回路が開閉される部分は、一組の端子から成る第1の接点と、前記第1の接点に対して相対的に変位する第2の接点とを有し、
前記第1の接点と前記第2の接点とが接触または離間することで前記回路が開閉され、
前記第1の接点の第1の端子はグランドに接続され、前記第1の接点の第2の端子には電源電圧が印加され、
前記検知部は前記第1の接点の前記第2の端子の電位を検知し、
前記記憶部は、前記検知部により検知される電圧値が、前記第1の閾値を下回ったときの電圧値に基づく値を記憶値として記憶する、請求項1または2に記載の回路の閉成判定の閾値設定装置。
【請求項4】
前記記憶部は、前記検知部により検知される電圧値が、前記第1の閾値を下回ったときの電圧値に基づく値を記憶値として記憶し、
前記更新部は、前記第1の閾値を前記記憶値より大きい値に更新する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の回路の閉成判定の閾値設定装置。
【請求項5】
前記更新部は、前記第2の閾値を更新可能である、請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の回路の閉成判定の閾値設定装置。
【請求項6】
前記更新部は、前記第1の閾値と前記第2の閾値との比較に基づいて前記第2の閾値を更新する、請求項
5に記載の回路の閉成判定の閾値設定装置。
【請求項7】
回路が開閉される部分の電圧値を検知し、
検知される電圧値が、前記回路の閉成を判定するための第1の閾値を跨いだときの電圧値に基づく値を記憶値として記憶し、
前記記憶した記憶値に基づいて、前記第1の閾値を更新し、
前記検知される電圧値が第2の閾値を跨いだことに応じて、前記回路が開成されたと判定
し、
さらに、前記第1の閾値を更新した結果、前記第1の閾値と前記第2の閾値とが逆転した場合に、エラーを報知する、回路の閉成判定の閾値設定方法。
【請求項8】
さらに、前記検知される電圧値が前記第1の閾値を跨いだことに応じて、前記回路が閉成されたと判定する、請求項
7に記載の回路の閉成判定の閾値設定方法。
【請求項9】
前記回路が開閉される部分は、一組の端子から成る第1の接点と、前記第1の接点に対して相対的に変位する第2の接点とを有し、
前記第1の接点と前記第2の接点とが接触または離間することで前記回路が開閉され、
前記第1の接点の第1の端子はグランドに接続され、前記第1の接点の第2の端子には電源電圧が印加され、
前記回路が開閉される部分の電圧値を検知する際には、前記第1の接点の前記第2の端子の電位を検知し、
前記記憶値を記憶する際には、前記検知される電圧値が、前記第1の閾値を下回ったときの電圧値に基づく値を前記記憶値として記憶する、請求項
7または8に記載の回路の閉成判定の閾値設定方法。
【請求項10】
前記記憶値を記憶する際には、前記検知される電圧値が、前記第1の閾値を下回ったときの電圧値に基づく値を前記記憶値として記憶し、
前記第1の閾値を更新する際には、前記第1の閾値を前記記憶値より大きい値に更新する、請求項
7乃至9のいずれか1項に記載の回路の閉成判定の閾値設定方法。
【請求項11】
前記第2の閾値は更新可能である、請求項
7乃至10のいずれか1項に記載の回路の閉成判定の閾値設定方法。
【請求項12】
前記第2の閾値を更新する際には、前記第1の閾値と前記第2の閾値との比較に基づいて前記第2の閾値を更新する、請求項
11に記載の回路の閉成判定の閾値設定方法。
【請求項13】
操作される鍵と、
前記鍵の操作により回路が開閉される部分の電圧値を検知する検知部と、
前記検知部により検知される電圧値が、前記回路の閉成を判定するための第1の閾値を跨いだときの電圧値に基づく値を記憶値として記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された記憶値に基づいて、前記第1の閾値を更新する更新部と、
前記検知部により検知される電圧値が前記第1の閾値を跨いだことに応じて、前記鍵が押下されたと判定し、前記検知部により検知される電圧値が第2の閾値を跨いだことに応じて、離鍵されたと判定する判定部と、
を有
し、
前記更新部は、前記第1の閾値を更新した結果、前記第1の閾値と前記第2の閾値とが逆転した場合に、エラーを報知する、鍵盤装置。
【請求項14】
回路の閉成判定の閾値設定方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記回路の閉成判定の閾値設定方法は、
回路が開閉される部分の電圧値を検知し、
検知される電圧値が、前記回路の閉成を判定するための第1の閾値を跨いだときの電圧値に基づく値を記憶値として記憶し、
前記記憶した記憶値に基づいて、前記第1の閾値を更新し、
前記検知される電圧値が第2の閾値を跨いだことに応じて、前記回路が開成されたと判定
し、
さらに、前記第1の閾値を更新した結果、前記第1の閾値と前記第2の閾値とが逆転した場合に、エラーを報知する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路の閉成を判定するための閾値を設定する回路の閉成判定の閾値設定装置および方法、鍵盤装置、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回路が開閉される部分の電圧値を検知し、検知した電圧値に基づき回路の閉成を判定する装置が知られている。このような装置は、例えば、鍵盤楽器における鍵の操作を検出する鍵操作検出装置として実現される。一般的な鍵操作検出装置では、回路が開閉される部分は、固定接点と可動接点とを有する。押鍵(打鍵)操作に応じて両接点が接触することで導通し、回路が閉成される。例えば、固定接点と可動接点の一方の接点はグランドに接続され、他方の接点には電源電圧が印加される。従来の鍵操作検出装置は、他方の接点の電位を検知し、検知電圧が閾値を下回ると回路が閉成したと判定し、ひいては押鍵がなされたと判定する。
【0003】
しかしながら、電気的接点は、繰返しの使用により摩耗し、接触抵抗値が徐々に大きくなる。その結果、両接点が接触しているにもかかわらず、検知される電圧値が閾値を下回らなくなる場合がある。仮に、閾値を高い固定値に設定しておくと、ノイズの発生等により、回路が閉成していないのに閉成したと判定され、誤動作が発生する可能性が高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-226993号公報
【文献】特開2006-209476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1には、絶縁抵抗劣化検出装置が開示されている。特許文献1は、スイッチをオフとし、モータの運転を停止した後、コンデンサの一端を大地に接続すると共に他端とモータコイル間を接続し、コンデンサ、モータコイルおよび大地で形成される閉回路に流れる電流を検出してモータの絶縁抵抗劣化を検出する。また、特許文献2には、電子部品のインピーダンス変化に伴う消費電流の増加から、論理回路や電力供給回路の故障を検出する装置が開示されている。しかし、特許文献1、2はいずれも、スイッチの接点の劣化を検出するものではなく、長期の使用による回路の閉成判定精度の低下を回避することに関し、何ら示していない。
【0006】
本発明の目的は、回路の閉成判定精度を長期に亘って高く維持することができる閾値設定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明によれば、回路が開閉される部分の電圧値を検知する検知部と、前記検知部により検知される電圧値が、前記回路の閉成を判定するための第1の閾値を跨いだときの電圧値に基づく値を記憶値として記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された記憶値に基づいて、前記第1の閾値を更新する更新部と、前記検知部により検知される電圧値が第2の閾値を跨いだことに応じて、前記回路が開成されたと判定する判定部と、を有し、前記更新部は、前記第1の閾値を更新した結果、前記第1の閾値と前記第2の閾値とが逆転した場合に、エラーを報知する、回路の閉成判定の閾値設定装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回路の閉成判定精度を長期に亘って高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】回路の閉成判定の閾値設定装置が適用される鍵盤装置の全体構成を示すブロック図である。
【
図3】1つの検知回路を含む回路の閉成判定の閾値設定装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る回路の閉成判定の閾値設定装置が適用される鍵盤装置の全体構成を示すブロック図である。この鍵盤装置は、鍵盤20を有する鍵盤楽器として構成される。本鍵盤装置は、バス10に接続されるCPU11を有する。バス10には、ROM12、RAM13、タイマ14、発音部15、検知回路16、検知回路17、記憶装置18、通信インターフェイス(I/F)19が接続される。
【0012】
CPU11は、本装置全体の制御を司る。ROM12は、CPU11が実行する制御プログラムや各種データを記憶する。RAM13は、CPU11がプログラムを実行する際のワークエリアとして利用される。タイマ14は、各種時間を計時する。記憶装置18は、上記制御プログラムを含む各種プログラムや各種データを記憶する。記憶装置18は、読み書き可能な不揮発性メモリを含む。
【0013】
通信I/F19は、有線および無線により外部装置と通信する。通信I/F19は、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)信号を送受信するMIDI I/Fも含む。発音部15は、音源回路、効果回路、サウンドシステムを含み、鍵盤20から入力された演奏データや予め設定された演奏データ等を音信号に変換し、さらに音信号を音響に変換する。検知回路16は鍵盤20の各鍵の操作状態を検出し、検知回路17は操作部9の操作状態を検出する。検知回路16、17の検知結果を示す信号はCPU11に供給される。操作部9は設定操作子や表示部を含む。
【0014】
図2は、スイッチの断面図である。鍵盤20は複数の鍵21から成る。スイッチSWは、各鍵21に対応して設けられる。基板30は、複数の鍵21に共通に設けられる。スイッチSWは基板30上に配設される。スイッチSWはベース部31を有する。ベース部31が基板30に取り付けられる。ベース部31の基板30への取り付け態様は限定されるものではなく、接着や締結具を用いた態様の他、基板30に設けた貫通穴にベース部31から突設した突設部を係合させる態様でもよい。
【0015】
スイッチSWは、上方に弾性的に膨出したドーム状膨出部を有する。このドーム状膨出部は、スカート部32および被駆動部33を有する。被駆動部33はスカート部32の上部に形成されている。非押鍵状態においては、被駆動部33の上面に、対応する鍵21が当接または近接している。上記ドーム状膨出部の内側であって、被駆動部33の下部には、下方に弾性的に膨出した膨出部34が形成される。膨出部34は、薄く、弾性変形しやすいスカート部を有する。膨出部34の下部(先端部)には、導電性材料でなる可動接点36(第2の接点)が、基板30に対向して設けられている。
【0016】
基板30の上面には、固定接点パターンとして、一組の端子から成る固定接点35(第1の接点)が可動接点36に対応して敷設されている。固定接点35は、例えば、一対の櫛歯状電極を構成する第1の端子35A(一端)及び第2の端子35B(他端)を有する。従って、可動接点36が対応する固定接点35に当接すると、第1の端子35Aと第2の端子35Bとが短絡することでメイク(オン)し、導通時の検知電圧が得られる。可動接点36や固定接点35を構成する導電性材料は問わないが、例えば、カーボンインクや金メッキである。
【0017】
図3は、1つの検知回路16を含む回路の閉成判定の閾値設定装置の模式図である。検知回路16は鍵21ごとに設けられる。
図3では、鍵21と検知回路16とを1組だけ図示するが、他の組の構成も
図3に示すのと同様である。制御部40は、入力ポート41のほか、機能部として、検知部42、記憶部43、更新部44および押鍵判定部45(判定部)を有する。これらの機能部の機能は、CPU11、ROM12、RAM13、タイマ14、記憶装置18等の協働により実現される。検知部42はA/D変換器等を含む。
【0018】
図3において、スイッチSWは検知回路16が開閉される部分であり、スイッチSWは模式化して図示されている。鍵21の押下操作によって被駆動部33が押圧されると、可動接点36が固定接点35に対して相対的に変位する。可動接点36が固定接点35に対して接触または離間することにより検知回路16が開閉(開成、閉成)される。すなわち、可動接点36を通じて第1の端子35Aと第2の端子35Bとが短絡し、閉成される。固定接点35の第1の端子35Aはグランドに接続され、固定接点35の第2の端子35Bには、抵抗37を介して電源電圧Vccが印加されている。第2の端子35Bの電位が入力ポート41に入力され、検知部42によって、電圧値としての検知電圧Vが取得される。検知部42で取得された検知電圧Vは押鍵判定部45および記憶部43に供給される。
【0019】
押鍵判定部45は、記憶装置18に含まれる不揮発性のメモリを含む。押鍵判定部45は、検知回路16が開成状態から閉成状態となったことを判定するための第1の閾値TH1と、検知回路16が閉成状態から開成状態となったことを判定するための第2の閾値TH2とを記憶している。これら閾値TH1、TH2の初期値は、本鍵盤装置の製品としての出荷前にROM12等に記憶されており、本鍵盤装置の納品後に記憶装置18に記憶される。本鍵盤装置の使用の過程で、第1の閾値TH1は、記憶装置18に記憶され、必要に応じて更新される。更新することには同じ値に書き替えることも含まれる。
【0020】
記憶部43は、記憶装置18に含まれるメモリを含む。記憶部43は、後述するように、検知電圧Vに基づく値を記憶値Vxとして記憶する。更新部44は、記憶値Vxに基づいて、記憶装置18に記憶される第1の閾値TH1を更新する。押鍵判定部45は、検知電圧Vが、記憶装置18に記憶されている第1の閾値TH1を下回ると、検知回路16が閉成されたと判定する。検知回路16が閉成されたことは、本鍵盤装置においては、対応する鍵21が押下されたことを意味する。この場合、対応する音が発音される。
【0021】
非押鍵状態においては、可動接点36が固定接点35と離間しているので、検知電圧Vは、電源電圧Vccまたはそれに応じた値となる。一方、押鍵により、可動接点36が固定接点35の端子35A、35Bと適切に接触すると両端子が導通するので、理想的には検知電圧Vはグランド(GND)電位と同じ0となる。ところが、長期使用によって可動接点36または固定接点35が摩耗すると、夫々の接点の接触抵抗値が大きくなり、押鍵状態で両端子が導通しているにもかかわらず、検知電圧VがGND電位まで下がらなくなる場合がある。そこで、本実施の形態では、第1の閾値TH1を、固定値とするのではなく、検知電圧Vに基づいて動的に更新する。
図4で、第1の閾値TH1の更新の一例を示す。
【0022】
図4は、検知部42によって取得される検知電圧Vを示すタイムチャートである。第2の閾値TH2は第1の閾値TH1の初期値よりも大きい。第2の閾値TH2は電源電圧Vccより小さい。具体的な値としては例えば、TH2=Vcc×0.8であり、TH1=Vcc×0.2である。押鍵されると、波形401、402に示すように、検知電圧Vが下がる。押鍵継続中(端子35A、35Bの短絡中)においても、検知電圧Vは微小に変化し得る。そこで本実施の形態では、記憶部43は、検知電圧Vが第1の閾値TH1を下回った時点から所定時間Txが経過した時点の検知電圧V1を、記憶値Vxとして決定し、当該決定した記憶値Vxを記憶する。
【0023】
更新部44は、記憶値Vx(本実施の形態では検知電圧V1と同じ値)に係数K(例えば、1.2)を乗じた値と、現在の第1の閾値TH1とを比較する。そして更新部44は、波形401に示すように、(Vx×K)≦TH1が成立すれば、第1の閾値TH1を現在の値に維持する。しかし、波形402に示すように、(Vx×K)>TH1が成立すれば、更新部44は、値(Vx×K)を、新たな第1の閾値TH1として設定する。つまり更新部44は、現在の第1の閾値TH1を値(Vx×K)で更新する。
【0024】
一方、押鍵判定部45は、検知電圧Vが現在の第1の閾値TH1を下回ったとき、検知回路16が閉成された、つまり押鍵がされたと判定する。そして、検知電圧Vが第2の閾値TH2以上となったとき、検知回路16が開成された、つまり離鍵がされたと判定する。
【0025】
図5は、閾値設定処理のフローチャートである。この処理は、ROM12に格納されたプログラムをCPU11がRAM13に読み出して実行することにより実現される。この処理は、例えば、鍵盤装置の電源がオンにされると開始される。
【0026】
本処理の開始後、検知部42による検知電圧V1の取得が開始される。まず、ステップS101で、CPU11は、記憶装置18から第1の閾値TH1および第2の閾値TH2をRAM13に読み出す。ステップS102で、CPU11は、検知電圧Vが第1の閾値TH1を下回る(V<TH1が成立する)まで待機する。検知電圧Vが第1の閾値TH1を下回ると、ステップS103で、CPU11(押鍵判定部45)は、検知回路16が閉成された、つまり押鍵がされたと判定する。さらにCPU11は、押鍵に応じた処理、例えば発音部15を制御することで発音等の処理を実行する。ステップS103ではさらに、CPU11は、検知電圧Vが第1の閾値TH1を下回った時点から所定時間Txの計時を開始すると共に、検知電圧Vが第1の閾値TH1を下回った時点から所定時間Txが経過した時点の検知電圧V1をRAM13に記憶させる。
【0027】
次に、ステップS104では、CPU11は、検知電圧Vが第2の閾値TH2以上となる(V≧TH2が成立する)まで待機する。検知電圧Vが第2の閾値TH2以上となると、ステップS105で、CPU11(押鍵判定部45)は、検知回路16が開成された、つまり離鍵がされたと判定する。さらにCPU11は、離鍵に応じた処理、例えば発音部15を制御することで消音等の処理を実行する。次に、ステップS106では、CPU11は、ステップS103でRAM13に記憶させた検知電圧V1を、記憶値Vxとして決定し、当該決定した記憶値Vxを記憶部43に記憶させる。なお、押鍵時間が非常に短く、検知電圧Vが第1の閾値TH1を下回った時点から所定時間Txが経過する前に検知電圧Vが第2の閾値TH2以上となった場合は、検知電圧V1は記憶されない。この場合、記憶部43には記憶値Vxが記憶されないか、または前回の記憶値Vxが記憶されたままとなる。
【0028】
ステップS107では、CPU11(更新部44)は、記憶値Vxに係数Kを乗じた値(Vx×K)が第1の閾値TH1より大きい((Vx×K)>TH1)か否かを判別する。そしてCPU11は、(Vx×K)>TH1が成立しない場合(
図4の波形401)は、可動接点36または固定接点35の摩耗が許容範囲内であると判断できるので、処理をステップS111に進める。ステップS111では、CPU11は、第1の閾値TH1をそのまま維持するか、または第1の閾値TH1を同じ値で更新する。ステップS111の後、CPU11は、処理をステップS110に進める。
【0029】
ステップS107で、(Vx×K)>TH1が成立する場合(
図4の波形402)は、可動接点36または固定接点35の摩耗が進んだことで、第1の閾値TH1の更新が必要と判断できるので、CPU11は、処理をステップS108に進める。ステップS108では、CPU11は、第1の閾値TH1を値(Vx×K)に書き替える。この処理により第1の閾値TH1が、記憶値Vxより大きい値に更新される。
【0030】
次に、ステップS109で、CPU11(更新部44)は、エラー判定処理を実行する。この処理では、CPU11は、第1の閾値TH1を更新した結果、更新後の第1の閾値TH1が第2の閾値TH2を超えた(値が逆転した)か否かを判定すると共に、第1の閾値TH1が第2の閾値TH2を超えた場合は、エラーを報知する。このような場合は、可動接点36または固定接点35の摩耗が進み過ぎて故障したと判断できるからである。なお、エラー報知の態様は問わず、例えば、操作部9を用いたメッセージ表示や発音部15を用いた警告音の発音が例示される。ステップS109の後、CPU11は、処理をステップS110に進める。
【0031】
ステップS110では、CPU11は、その他の処理を実行する。ここでいう、その他の処理には、例えば、鍵盤装置の電源がオフにされた場合に、
図5の処理を終了させる等の処理が該当する。あるいは、記憶値Vxなどの値やフラグをリセットする処理が該当する。ステップS110の後、CPU11は、処理をステップS102に戻す。
【0032】
本実施の形態によれば、記憶部43は、検知回路16が開閉される部分の検知電圧Vが第1の閾値TH1を下回ったときから所定時間Tx経過したときの検知電圧V1を記憶値Vxとして記憶する。CPU11(更新部44)は、記憶値Vxに基づいて第1の閾値TH1を更新する。このような処理により、可動接点36または固定接点35が摩耗したことで接触抵抗値が大きくなっても、第1の閾値TH1を高くすることで、検知電圧Vが第1の閾値TH1を下回る状態を維持することができる。よって、回路の閉成判定精度を長期に亘って高く維持することができる。
【0033】
また、ステップS107では、CPU11は、値(Vx×K)と第1の閾値TH1とを比較し、(Vx×K)>TH1が成立する場合、第1の閾値TH1を値(Vx×K)で更新する。すなわち、更新部44は、係数Kを用いることで、第1の閾値TH1を更新する際、第1の閾値TH1より大きい値に更新する。この処理により、検知電圧V1が第1の閾値TH1を下回らない状況が生じにくくなるようにすることができる。なお、係数Kは、記憶値Vxに乗算する値であるとしたが、加算する値であってもよい。また、処理を簡単にする観点からは、係数Kを用いることは必須でなく、ステップS107で、記憶値Vxと第1の閾値TH1とを比較し、Vx>TH1が成立する場合、第1の閾値TH1を記憶値Vxで更新してもよい。
【0034】
また、更新後の第1の閾値TH1が第2の閾値TH2を超えた場合は、エラーが報知されるので、検知回路16の故障をユーザに知らせることができる。
【0035】
なお、ステップS109において、更新後の第1の閾値TH1が、第2の閾値TH2より小さい固定値である上限値を超えた場合にエラーを報知するようにしてもよい。
【0036】
なお、記憶部43は、検知電圧Vが第1の閾値TH1を下回った時点から所定時間Txが経過した時点の検知電圧V1を、記憶値Vxとして記憶するとしたが、このようにすることは必須でない。例えば、検知電圧Vが第1の閾値TH1を下回っている期間中、記憶部43は、所定のサンプリング間隔で検知電圧Vを取得する。そして、記憶部43は、検知電圧Vが第1の閾値TH1を下回っている期間中に取得した複数の検知電圧Vの最大値から最小値までの値のいずれかを記憶値Vxとして決定し、当該決定した記憶値Vxを記憶するようにしてもよい。例えば、記憶部43は、複数の検知電圧Vのうち、最大値、最小値、平均値または中央値を記憶値Vxとしてもよいし、複数の検知電圧Vの平均値を記憶値Vxとしてもよい。また、例えば、閾値TH1に拘わらず、検知電圧Vの立下りを検出して、立ち下がりから所定時間Txが経過した時点の検知電圧V1を、記憶値Vxとして記憶するようにしてもよい。
【0037】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態では、
図5の閾値設定処理の一部が異なり、その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0038】
本実施の形態では、CPU11は、第1の実施の形態と同様に
図5のステップS101~S111を実行する。ただし、ステップS104でV≧TH2が成立する度に、CPU11は、今回までの直近の複数回(例えば、10回)分の検知電圧V1をRAM13に記憶させておく。なお、各検知電圧V1の取得方法は、第1の実施の形態で説明したのと同じ手法を採用できる。従って、CPU11は、検知電圧Vが第1の閾値TH1を下回った時点から所定時間Txが経過した時点の検知電圧V1を、毎回取得してもよい。あるいは、CPU11は、検知電圧Vが第1の閾値TH1を下回っている期間中に取得した複数の検知電圧Vの最大値から最小値までの値のいずれかの値を、今回の検知電圧V1として取得してもよい。
【0039】
そして、ステップS106では、記憶部43は、直近の複数回分の検知電圧V1の平均値を記憶値Vxとして決定し、当該記憶値Vxを記憶する。従って、記憶値Vxは検知電圧V1の移動平均に相当する。なお、複数回分の検知電圧V1の平均値を記憶値Vxとする際、上下1つずつの値を除外してもよい。
【0040】
このように処理することで、毎回の押鍵時の押圧力のバラツキにより第1の閾値TH1の更新頻度が過剰に高まるおそれを抑制できる。特に、可動接点36、固定接点35にカーボンインクを適用した場合、当接力の強さによって検知電圧Vがばらつくおそれがあることから、記憶値Vxに、検知電圧V1の移動平均を採用する利点が大きい。
【0041】
本実施の形態によれば、回路の閉成判定精度を長期に亘って高く維持することに関し、第1の実施の形態を同様の効果を奏することができる。また、記憶値Vxに、検知電圧V1の移動平均を採用することで、第1の閾値TH1の更新の精度を高めることができる。
【0042】
なお、上記各実施の形態において、ステップS108で第1の閾値TH1を更新した結果、第1の閾値TH1と第2の閾値TH2との差が所定幅未満となった場合は、第2の閾値TH2も更新するようにしてもよい。例えば、CPU11は、更新後の第1の閾値TH1よりも、上記所定幅だけ大きい値に第2の閾値TH2を更新する。このようにした場合、ステップS109のエラー判定処理では、第1の閾値TH1と固定値である上限値との比較により故障を判定するようにしてもよい。
【0043】
なお、上記各実施の形態において、ステップS108での第1の閾値TH1の更新が頻繁に行われないようにする観点からは、第1の閾値TH1の更新の際、予め決めた固定量だけ第1の閾値TH1を増加させてもよい。
【0044】
なお、上記各実施の形態では、1メイクのタイプ、すなわち、1つの鍵21に対して検知回路16が1つ存在する例を説明したが、これに限定されない。2メイクや3メイクのように、1つの鍵21に対して検知回路16が複数存在する装置においても、各検知回路16の閉成判定閾値の更新につき同様の処理を適用できる。
【0045】
なお、上記各実施の形態では、検知回路16は、可動接点36と固定接点35とが接触すると検知電圧Vが低くなる構成であったが、これとは逆に、可動接点36と固定接点35とが接触すると検知電圧Vが高くなる構成としてもよい。すなわち、記憶部43は、検知電圧Vが第1の閾値TH1を跨いだあるいは横切った(超えた)ときから所定時間Tx経過したときの検知電圧V1を記憶値Vxとして記憶してもよい。そのように構成した場合、検知電圧Vが第1の閾値TH1を超えたことに応じて、CPU11は、検知回路16が閉成された、つまり押鍵がされたと判定してもよい。また、第1の閾値TH1や第2の閾値TH2を更新する場合の更新方向も上記説明とは逆にしてもよい。同様に、更新後の第1の閾値TH1と第2の閾値TH2とが逆転した場合にエラーが報知されるようにしてもよい。
【0046】
なお、本発明の回路の閉成判定の閾値設定装置は、鍵盤装置や楽器に限らず、閾値を用いて閉成を判定する回路を備える各種の電子機器に適用可能である。
【0047】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。
【0048】
なお、本発明を達成するためのソフトウェアによって表される制御プログラムを記憶した記憶媒体を、本楽器に読み出すことによって同様の効果を奏するようにしてもよい。その場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が本発明の新規な機能を実現することになり、そのプログラムコードを記憶した、非一過性のコンピュータ読み取り可能な記録媒体は本発明を構成することになる。また、プログラムコードを伝送媒体等を介して供給してもよい。その場合は、プログラムコード自体が本発明を構成することになる。なお、これらの場合の記憶媒体としては、ROMのほか、フロッピディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード等を用いることができる。「非一過性のコンピュータ読み取り可能な記録媒体」は、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含む。
【符号の説明】
【0049】
11 CPU、 42 検知部、 43 記憶部、 44 更新部、 45 押鍵判定部