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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】クロスプライタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/58 20060101AFI20220614BHJP
   B29D 30/30 20060101ALI20220614BHJP
   B29D 30/72 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B29D30/58
B29D30/30
B29D30/72
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018204664
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020069707
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 和記
【審査官】弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-135898(JP,A)
【文献】実開昭62-159621(JP,U)
【文献】特開2012-131168(JP,A)
【文献】特開昭52-37303(JP,A)
【文献】特開平6-262702(JP,A)
【文献】特開2018-24149(JP,A)
【文献】特開2012-111078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00-30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプライ材料を積層して形成されたクロスプライと、トレッドゴム部の両側にサイドウォールゴム部が設けられた外皮ゴムとを一体接合させて、円筒状の生タイヤの成形を行ってクロスプライタイヤを製造するクロスプライタイヤの製造方法であって、
前記生タイヤの成形工程が、
成形ドラム上に複数のプライ材料を積層して前記クロスプライを形成して、円筒状のタイヤ中間体を成形するタイヤ中間体成形工程と、
前記外皮ゴムのサイドウォールゴム部と前記クロスプライとが接触して貼り付くことを防止する接触防止具を、成形された前記タイヤ中間体の前記クロスプライ上に載置する接触防止具載置工程と、
前記接触防止具の上面から前記クロスプライ上に前記外皮ゴムを供給して巻付ける外皮ゴム巻付け工程と、
前記接触防止具をタイヤ軸方向外側に向かって横移動させながら、ステッチローラを用いて、前記クロスプライ上に巻付けられた前記外皮ゴムのサイドウォールゴム部を前記クロスプライにステッチして圧着するステッチ工程とを備えており、
前記接触防止具として、少なくとも、接触防止具本体の前記クロスプライと接触する側の面に、1つ以上のベアリングが、一部が面上に突出するように配置された接触防止具を用いることを特徴とするクロスプライタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記接触防止具本体の前記外皮ゴムと接触する側の面に、1つ以上のベアリングが、一部が面上に突出するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のクロスプライタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記接触防止具載置工程において、前記接触防止具を2つ用い、前記タイヤ中間体のクロスプライ上で、前記外皮ゴムのトレッドゴム部のトレッドセンターに対応する位置の両側にそれぞれを配置することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のクロスプライタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記接触防止具載置工程において、前記接触防止具を、前記トレッドゴム部の側縁から50mm以上、外方に離れた位置に配置することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のクロスプライタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記ステッチ工程において、前記接触防止具を前記タイヤ中間体の中央部から外縁部へとタイヤ軸方向外側に向かって横移動させながら、前記ステッチローラを前記接触防止具に追随させて横移動させて、前記クロスプライと前記外皮ゴムとをステッチすることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のクロスプライタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記ステッチ工程において、前記ステッチローラを2つ用い、前記外皮ゴムのサイドウォールゴム部上で、それぞれのステッチローラをタイヤ軸方向の外側に向けて横移動させて、前記クロスプライに前記外皮ゴムをステッチすることを特徴とする請求項5に記載のクロスプライタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記接触防止具の前記ベアリングとして、フリーベアリングを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のクロスプライタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロスプライタイヤの製造方法に関し、より詳しくは、タイヤの外皮ゴムとクロスプライとを一体接合させて円筒状の生タイヤの成形を行ってクロスプライタイヤを製造するクロスプライタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーカスコードをカーカスプライ間で交差させたMCタイヤ(モーターサイクル用タイヤ)等のクロスプライタイヤ(バイアスタイヤ)の製造においては、通常、プライ材料がクロスして積層されたクロスプライと外皮ゴムとを一体接合させて、円筒状の生タイヤの成形を行っている。
【0003】
図6は、この円筒状の生タイヤの成形を説明する図である。まず、図6(a)に示すように、円筒状の成形ドラムA上に、カーカスプライb1、ブレーカプライb2などのプライ材料bをクロスするように積層してクロスプライを形成させて、円筒状のタイヤ中間体3を成形する。その後、このタイヤ中間体3のクロスプライ上に、トレッドゴム部d1とそのタイヤ軸方向両側に配されるサイドウォールゴム部d2とを一体に具える幅広で帯状の外皮ゴム4を巻付け、タイヤ中間体3と外皮ゴム4との仮接合体Eを形成する。
【0004】
その後、図6(b)に示すように、回転する成形ドラムに合わせて回転する仮接合体Eの外周面に、ステッチローラ2を押し付けながら、タイヤ軸方向外側に向かって横移動させる。これにより、ステッチローラ2が、外皮ゴム4をタイヤ中間体3に圧着して、互いに一体接合された円筒状の生タイヤTを形成する。
【0005】
このとき、外皮ゴム4を巻付ける際に、タイヤ中間体3のクロスプライと外皮ゴム4との間にエアが抱き込まれると、製品タイヤの品質の低下を招く恐れがあるため、ステッチローラ2で圧着する前に、外皮ゴム4のサイドウォールゴム部d2がタイヤ中間体3のクロスプライに接触して貼り付くことを防止している。
【0006】
具体的には、作業者が、外皮ゴムのサイドウォールゴム部とタイヤ中間体のクロスプライとの間に金属製のヘラなどを挿入することにより、外皮ゴムのサイドウォールゴム部を人力で浮かせ、ステッチローラの移動に対応して金属ヘラを外側に向けて引き抜く方法が、従来、一般的に用いられていた。
【0007】
しかしながら、金属製ヘラなどを用いて外皮ゴムのサイドウォールゴム部を人力で浮かせる方法は、作業者が左右別々に浮かせているため、生タイヤのゲージにタイヤ軸方向で差が生じ易く、加硫後の製品タイヤの品質低下を招き易い。また、ステッチローラの移動に合わせたタイミングで挿入されていた金属ヘラなどを手作業で引き抜くことは難しく、外皮ゴムのサイドウォールゴム部がクロスプライと接触して貼り付く恐れがある。また、作業者が仮接合体と共に回転する成形ドラムの近傍で引き抜き作業を行うことは、安全性の確保の面で問題がある。
【0008】
そこで、図5に示すように、先細テーパ軸状(円錐型)の回転自在な一対のテーパローラ5を、タイヤ軸方向に沿って延びる横向き状態で、タイヤ中間体3のクロスプライ3aの軸方向両端部分の外周面上に配置した後、外皮ゴム4を巻付け、ステッチローラ2の中央部から軸方向外側への移動に対応してテーパローラ5をタイヤ軸方向の外方に向けて機械的に引き抜く方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2012-135898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、左右に配置された一対のテーパローラを機械的に移動させて安全に引き抜くことができるため、作業者の安全性が確保でき、また、生タイヤのゲージにタイヤ軸方向で差が生じることは抑制できるが、以下に示す新たな問題の発生があり、さらなる改善が求められている。
【0011】
即ち、テーパローラを軸方向の外側へ引き出す際、テーパローラが外皮ゴムやクロスプライとの間で摩擦力を受けて、テーパローラの引き出しに大きな力を必要とするため、外皮ゴムのトレッドゴム部に伸びが発生したり、クロスプライの巻上げ部にめくれなどが発生する恐れがある。そして、このような外皮ゴムのトレッドゴム部の伸びや、クロスプライの巻上げ部のめくれが発生していると、安定した品質のタイヤが提供できない恐れがある。
【0012】
そこで、本発明は、作業の安全性を十分に確保すると共に、エアの抱き込みを十分に抑制しながら、良好な品質の生タイヤを安定して製造できるクロスプライタイヤの製造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題の解決について鋭意検討を行い、以下に記載する発明によれば上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
請求項1に記載の発明は、
複数のプライ材料を積層して形成されたクロスプライと、トレッドゴム部の両側にサイドウォールゴム部が設けられた外皮ゴムとを一体接合させて、円筒状の生タイヤの成形を行ってクロスプライタイヤを製造するクロスプライタイヤの製造方法であって、
前記生タイヤの成形工程が、
成形ドラム上に複数のプライ材料を積層して前記クロスプライを形成して、円筒状のタイヤ中間体を成形するタイヤ中間体成形工程と、
前記外皮ゴムのサイドウォールゴム部と前記クロスプライとが接触して貼り付くことを防止する接触防止具を、成形された前記タイヤ中間体の前記クロスプライ上に載置する接触防止具載置工程と、
前記接触防止具の上面から前記クロスプライ上に前記外皮ゴムを供給して巻付ける外皮ゴム巻付け工程と、
前記接触防止具をタイヤ軸方向外側に向かって横移動させながら、ステッチローラを用いて、前記クロスプライ上に巻付けられた前記外皮ゴムのサイドウォールゴム部を前記クロスプライにステッチして圧着するステッチ工程とを備えており、
前記接触防止具として、少なくとも、接触防止具本体の前記クロスプライと接触する側の面に、1つ以上のベアリングが、一部が面上に突出するように配置された接触防止具を用いることを特徴とするクロスプライタイヤの製造方法である。
【0015】
請求項2に記載の発明は、
前記接触防止具本体の前記外皮ゴムと接触する側の面に、1つ以上のベアリングが、一部が面上に突出するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のクロスプライタイヤの製造方法である。
【0016】
請求項3に記載の発明は、
前記接触防止具載置工程において、前記接触防止具を2つ用い、前記タイヤ中間体のクロスプライ上で、前記外皮ゴムのトレッドゴム部のトレッドセンターに対応する位置の両側にそれぞれを配置することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のクロスプライタイヤの製造方法である。
【0017】
請求項4に記載の発明は、
前記接触防止具載置工程において、前記接触防止具を、前記トレッドゴム部の側縁から50mm以上、外方に離れた位置に配置することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のクロスプライタイヤの製造方法である。
【0018】
請求項5に記載の発明は、
前記ステッチ工程において、前記接触防止具を前記タイヤ中間体の中央部から外縁部へとタイヤ軸方向外側に向かって横移動させながら、前記ステッチローラを前記接触防止具に追随させて横移動させて、前記クロスプライと前記外皮ゴムとをステッチすることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のクロスプライタイヤの製造方法である。
【0019】
請求項6に記載の発明は、
前記ステッチ工程において、前記ステッチローラを2つ用い、前記外皮ゴムのサイドウォールゴム部上で、それぞれのステッチローラをタイヤ軸方向の外側に向けて横移動させて、前記クロスプライに前記外皮ゴムをステッチすることを特徴とする請求項5に記載のクロスプライタイヤの製造方法である。
【0020】
請求項7に記載の発明は、
前記接触防止具の前記ベアリングとして、フリーベアリングを用いることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のクロスプライタイヤの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、作業の安全性を十分に確保すると共に、エアの抱き込みを十分に抑制しながら、良好な品質の生タイヤを安定して製造できるクロスプライタイヤの製造技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施の形態で用いられる接触防止具の一例の模式斜視図である。
図2図1に示す接触防止具の模式断面図である。
図3】本発明の一実施の形態で用いられる接触防止具の他の一例の模式断面図である。
図4】本発明の一実施の形態におけるステッチを説明する図である。
図5】従来のクロスプライタイヤの製造におけるステッチを説明する図である。
図6】一般的なクロスプライタイヤの製造における円筒状の生タイヤの成形を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を用いて説明する。
【0024】
1.本発明の概要
本発明のクロスプライタイヤの製造方法は、生タイヤの成形を、以下の各工程に従って行っている点においては、従来と同様である。
(1)タイヤ中間体成形工程:成形ドラム上に複数のプライ材料を積層してクロスプライを形成して、円筒状のタイヤ中間体を成形する工程
(2)外皮ゴム巻付け工程:クロスプライ上に外皮ゴムを供給して巻付ける工程
(3)ステッチ工程:ステッチローラを用いて、クロスプライ上に巻付けられた外皮ゴムのサイドウォールゴム部をクロスプライにステッチして圧着する工程
【0025】
しかし、本発明のクロスプライタイヤの製造方法は、従来、接触防止具として使用されていた金属ヘラなどやテーパローラに代えて、少なくとも、接触防止具本体のクロスプライと接触する側の面に、1つ以上のベアリングが、一部が面上に突出するように配置された接触防止具を用いる点で異なっている。
【0026】
このような接触防止具を、外皮ゴム巻付け工程に先立ってクロスプライ上に配置することにより、ステッチを開始する前に外皮ゴムのサイドウォールゴム部とクロスプライとが接触して貼り付くことを防止することができる。また、接触防止具をスムーズに抜き取りながらステッチ工程を行って、クロスプライに外皮ゴムを圧着して一体化させることができるため、作業の安全性を十分に確保すると共に、エアの抱き込みを十分に抑制でき、さらに、外皮ゴムのトレッドゴム部の伸びや、クロスプライの巻上げ部のめくれの発生が抑制されて、良好な品質の生タイヤを安定して製造することができる。
【0027】
2.本実施の形態のクロスプライタイヤの製造方法
(1)接触防止具
本実施の形態のクロスプライタイヤの製造方法の詳細を説明する前に、特徴部である接触防止具について説明する。
【0028】
本実施の形態において、接触防止具は、直方体状の接触防止具本体と接触防止具本体に回転自在に保持されたベアリングとで構成されている。図1は、本実施の形態で用いられる接触防止具の一例の模式斜視図である。そして、図2はその模式断面図である。また、図3は他の一例の模式断面図である。具体的には、図1図2はクロスプライ側ベアリング12bと外皮ゴム側ベアリング12aの両方が配置されている接触防止具1を示し、図3はクロスプライ側ベアリング12bだけが配置されている接触防止具1を示している。
【0029】
図1図3において、1は接触防止具であり、11は接触防止具本体であり、12はベアリングである。また、11aは接触防止具本体の上面の外皮ゴムと接触する側の面であり、11bは下面のクロスプライと接触する側の面である。12aは外皮ゴムと接触する側の面11aに配置された外皮ゴム側ベアリングであり、12bはクロスプライと接触する側の面11bに配置されたクロスプライ側ベアリングである。
【0030】
本実施の形態において、接触防止具本体11は、直方体状に形成されている。接触防止具1において、ベアリング12は、少なくとも、クロスプライと接触する側の面11bにクロスプライ側ベアリング12bとして、一部が面上に突出するように配置されるが、スムーズな引抜きの観点から、外皮ゴムと接触する側の面11aにも外皮ゴム側ベアリング12aとして、一部が面上に突出するように配置されていることが好ましい。
【0031】
このように、クロスプライ側ベアリング12bが、接触防止具本体11のクロスプライと接触する側の面11bから一部が面上に突出するように配置されていることにより、クロスプライ側ベアリング12bとクロスプライとは点で接することになるため、引き抜く際、大きな摩擦力が掛からない。同様に、外皮ゴム側ベアリング12aが、接触防止具本体11の外皮ゴムと接触する側の面11aから一部が面上に突出するように配置されていることにより、外皮ゴム側ベアリング12aと外皮ゴムとは点で接することになるため、引き抜く際、大きな摩擦力が掛からない。
【0032】
この結果、接触防止具1をクロスプライと外皮ゴムとの間から引き抜く際、大きな摩擦力が掛からない状態で、それぞれのベアリングが互いに独立して逆回転して、外皮ゴムのトレッドゴム部の伸びや、クロスプライの巻上げ部のめくれを発生させることなく、接触防止具1を容易に引き抜くことができ、良好な品質の生タイヤを安定して製造することができる。
【0033】
接触防止具1において、ベアリング12は、1つの面に1つ配置されていればよいが、2つ以上配置されていることが好ましい。クロスプライ側ベアリング12bが2つ以上設けられることにより、接触防止具本体11が下面に配置されたクロスプライに接触して貼り付くことを確実に防止して、クロスプライとの摩擦をより低減することができる。また、外皮ゴム側ベアリング12aが2つ以上設けられることにより、上面に配置された外皮ゴムに接触して貼り付くことを確実に防止して、外皮ゴムとの摩擦をより低減することができる。
【0034】
ベアリング12(12a、12b)は、引き抜き方向に回転可能なものであればよく、その種類等は特に限定されないが、フリーベアリングは、接触防止具の引き抜きに合わせて360°全方向にフリー回転可能であるため、スムーズな引き抜きができ好ましい。
【0035】
また、本実施の形態において、接触防止具1は移動装置(図示せず)と接続されており、移動装置により機械的に移動させることができるため、成形ドラムを回転させながら行うステッチにおいて、作業者が成形ドラムに接近して手作業で接触防止具を移動させる必要がなく、安全性を十分に確保することができる。
【0036】
(2)クロスプライタイヤの製造方法
本実施の形態のクロスプライタイヤの製造方法は、(a)タイヤ中間体成形工程、(b)接触防止具載置工程、(c)外皮ゴム巻付け工程と、(d)ステッチ工程を備えている。以下それぞれの工程について詳細に説明する。
【0037】
(a)タイヤ中間体成形工程
最初に、カーカスプライ、ブレーカーなど複数のプライ材料をそれぞれのプライコードがクロスするように、成形ドラム上に積層して貼付け、クロスプライを形成して、円筒状のタイヤ中間体を成形する。なお、成形ドラムとしては、円筒形の拡縮径可能な周知構造の従来の成形ドラムを使用する。
【0038】
(b)接触防止具載置工程
次に、形成されたクロスプライ上に、接触防止具を配置する。これにより、次工程において、外皮ゴムをクロスプライ上に巻付けても、ステッチの開始前に、外皮ゴムのサイドウォールゴム部がクロスプライに接触して貼り付くことを防止することができる。
【0039】
接触防止具の配置位置は、ステッチ工程において外皮ゴムをクロスプライに確実に圧着することを考慮すると、外皮ゴムのトレッドゴム部のトレッドセンターに対応する位置の両側に配置することが好ましい。また、接触防止具は、トレッドゴム部の側縁から50mm以上、外方に離れた位置に配置することが好ましい。
【0040】
(c)外皮ゴム巻付け工程
次に、接触防止具の上面からクロスプライ上に外皮ゴムを供給して巻付ける。このとき、クロスプライ上には接触防止具を予め載置しているため、前記したように、巻付けに際して、外皮ゴムのサイドウォールゴム部がクロスプライに接触して貼り付くことを防止することができる。
【0041】
(d)ステッチ工程
次に、接触防止具をタイヤ軸方向外側に向かって横移動させながら、ステッチローラを用いて、クロスプライ上に巻付けられた外皮ゴムのサイドウォールゴム部をクロスプライにステッチして圧着する。
【0042】
図4は本発明の一実施の形態におけるステッチ工程を説明する図であり、(a)はステッチ工程におけるステッチローラと接触防止具との関係を示しており、(b)はそのときの接触防止具におけるベアリングの様子を示している。図4において、2はステッチローラであり、3はタイヤ中間体であり、3aはクロスプライであり、3bはビードである。
【0043】
ステッチ工程では、従来と同様に、回転する成形ドラムに合わせて回転する円筒状のタイヤ中間体3の外周面に、ステッチローラ2を押し付けながら、タイヤ軸方向外側に向かって横移動させて、ステッチを行う。
【0044】
しかし、本実施の形態においては、図4(a)に示すように、予め、タイヤ中間体3のクロスプライ3aと外皮ゴム4との間に接触防止具1を配置した状態でステッチを開始し、接触防止具1をタイヤ軸方向外側に向かって横移動させながら、ステッチローラ2を用いて、クロスプライ上に巻付けられた外皮ゴム4のサイドウォールゴム部をクロスプライにステッチして、圧着している。
【0045】
このとき、クロスプライ3aおよび外皮ゴム4は、それぞれのベアリングと点状に接触しているだけであるため、成形ドラムを回転させながらステッチを行っても、クロスプライ3aや外皮ゴム4に大きな摩擦力が掛からず、外皮ゴムのトレッドゴム部の伸びや、クロスプライ3aの巻上げ部におけるめくれを発生することなく、スムーズに接触防止具1を抜き取ることができる。この結果、良好な品質の生タイヤを安定して製造することができる。なお、このステッチ工程は、接触防止具1を2つ用いて、タイヤ中間体3の軸方向の両方の側縁部に向けて、同時に行われることが好ましい。
【0046】
上記した本実施の形態におけるステッチ工程は、従来のステッチ工程と比較すると、以下の点で大きな効果を発揮することができる。
【0047】
即ち、ステッチ工程でのタイヤ中間体3と外皮ゴム4との間隔は、従来の金属製ヘラを用いて外皮ゴムを人力で浮かせるステッチ工程とは異なり、接触防止具1の高さによって規定され一定である。このため、生タイヤのゲージにタイヤ軸方向で差が生じることがない。この結果、狙い通りの仕上がりゲージで、かつゲージのばらつきが小さいクロスプライタイヤを製造することができる。
【0048】
また、接触防止具1は、前記したように、機械的に移動させて引き抜くことができるため、作業者の安全性を十分に確保して、ステッチ作業を行うことができる。
【0049】
そして、従来のテーパローラ5を用いたステッチ工程の場合は、テーパローラを軸方向の外側へ引き出す際、テーパローラが外皮ゴムやクロスプライとの間で摩擦力を受けて、テーパローラの引き出しに大きな力を必要とするため、前記したように、外皮ゴムのトレッドゴム部に伸びが発生したり、クロスプライの巻上げ部にめくれなどが発生する恐れがあったが、本実施の形態においては、上記した通り、接触防止具のベアリングと外皮ゴムやクロスプライとの間で大きな摩擦力がない状態で、図4(b)に示すように、互いに逆回転してスムーズに移動していくため、接触防止具の引き抜きに際して、外皮ゴムのトレッドゴム部の伸びや、クロスプライの巻上げ部のめくれなどが発生しない。
【実施例
【0050】
次に、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。
【0051】
1.クロスプライタイヤの製造
以下は、クロスプライタイヤの製造に際して、表1の各項目に示す結果を、「狙い」の値とすることを目的として行った実験である。
【0052】
(1)実施例1
タイヤ中間体と外皮ゴムの間に図1、2に示した接触防止具1を介在させてステッチを実施して生タイヤを成形後、生タイヤを公知の方法で加硫成形を行ってタイヤサイズ80/100-21 M/C 51Mのクロスプライタイヤを製造した。
【0053】
(2)比較例1
外皮ゴムサイド部とカーカス部のクロスプライの間に金属製のヘラを挟み、外皮ゴムサイド部を人力で浮かせる従来の方法でステッチを行ったこと以外は実施例1と同じ方法で生タイヤを成形し、実施例1と同じ方法でクロスプライタイヤを製造した。
【0054】
(3)比較例2
外皮ゴムサイド部とカーカス部のクロスプライの間に先細のテーパローラ(図5)を挟み、ステッチを行う従来の方法でステッチを行ったこと以外は実施例1と同じ方法で生タイヤを成形し、実施例1と同じ方法でクロスプライタイヤを製造した。
【0055】
2.評価方法
(1)生タイヤの評価
実施例1、比較例1および比較例2の生タイヤを対象にトレッドの伸び、およびクロスプライのカーカス巻上げ部におけるめくれの発生の有無を観察した。
【0056】
(2)安全性の評価
実施例1、比較例1および比較例2のステッチ工程の作業の安全性を調査した。
【0057】
(3)製品タイヤの評価
実施例1、比較例1および比較例2の製品タイヤの仕上がりゲージの大きさとそのばらつきの大きさおよびトレッド下におけるエアだまり発生率を測定した。
【0058】
3.評価結果
実施例1、比較例1および比較例2のタイヤの評価本数および評価結果をまとめて表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1より、金属製のへらを用いながらステッチを行った比較例1では、トレッドの伸びおよびカーカス巻上げ部のめくれは発生しないものの、仕上がりゲージの平均値およびばらつきが狙いとした値を大きく超えており、エアだまり発生率も狙いとした値を大きく超えていることが分かる。また、比較例1における作業は回転物に手を出して行う作業であるため、安全性も低い。
【0061】
一方、テーパローラを用いながらステッチを行った比較例2では、仕上がりゲージの平均値およびエアだまり発生率は狙いとした値に収まり、作業の安全性も高いものの、仕上がりゲージのばらつきが狙いとした値よりも大きくなっていることが分かる。しかし、比較例2においては、トレッドの伸びおよびカーカス巻上げ部のめくれが発生しており、本発明における課題が解決できていない。
【0062】
これに対して、本発明における接触防止具を用いながらステッチを行った実施例1では、トレッドの伸びおよびカーカス巻上げ部のめくれがないことが分かる。そして、仕上がりゲージの平均値がほぼ狙いとした値に近い値に、仕上がりゲージのばらつきおよびエアだまり発生率が狙いとした値に収まり、作業の安全性も高いことが分かる。
【0063】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 接触防止具
2 ステッチローラ
3 タイヤ中間体
3a クロスプライ
3b ビード
4 外皮ゴム
5 テーパローラ
11 接触防止具本体
11a 外皮ゴムと接触する側の面
11b クロスプライと接触する側の面
12 ベアリング
12a 外皮ゴム側ベアリング
12b クロスプライ側ベアリング
A 成形ドラム
b プライ材料
b1 カーカスプライ
b2 ブレーカプライ
d1 トレッドゴム部
d2 サイドウォールゴム部
E 仮接合体
T 円筒状の生タイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6