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特許7087924フーリエ変換赤外分光光度計用データ処理装置、及びフーリエ変換赤外分光光度計
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  • 特許-フーリエ変換赤外分光光度計用データ処理装置、及びフーリエ変換赤外分光光度計 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】フーリエ変換赤外分光光度計用データ処理装置、及びフーリエ変換赤外分光光度計
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/45 20060101AFI20220614BHJP
   G01N 21/35 20140101ALI20220614BHJP
【FI】
G01J3/45
G01N21/35
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018206078
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020071155
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 久人
【審査官】大河原 綾乃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/008025(WO,A1)
【文献】特開平07-151678(JP,A)
【文献】特開2000-131224(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0302546(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00 - G01J 4/04
G01J 7/00 - G01J 9/04
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/74
G01N 23/00 - G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の試料の吸光度スペクトル又は透過率スペクトルである測定スペクトルのデータを取得する測定スペクトルデータ取得部と、
前記測定スペクトルのデータからピークのデータを抽出する測定スペクトルデータ抽出部と、
既知の官能基に由来する吸光度スペクトル又は透過率スペクトルのピークのデータを、該官能基を示す情報と関連付けて記憶している官能基データ記憶部と、
前記測定スペクトルから抽出したピークのデータと、前記官能基データ記憶部に記憶されているピークのデータを対比することにより、前記測定対象の試料に含まれる成分が有する官能基を特定する官能基特定部と
前記測定スペクトルデータ抽出部がデータを抽出したピークに対応する官能基を示す情報を操作者が入力する操作を行う入力部と、
前記入力部から官能基を示す情報が入力されたピークのデータと該情報とを関連付けて前記官能基データ記憶部に記憶させる官能基データ記憶操作部と
を備えることを特徴とするフーリエ変換赤外分光光度計用データ処理装置。
【請求項2】
前記入力部がさらに、波数、波長、又は周波数の範囲を操作者が入力する操作を行うものであって
前記測定スペクトルデータ抽出部が、前記測定スペクトルデータ取得部で取得された測定スペクトルから、前記入力部による入力操作によって設定される範囲内にある該測定スペクトルのデータを抽出するものである
ことを特徴とする請求項1に記載のフーリエ変換赤外分光光度計用データ処理装置。
【請求項3】
振幅が変動する赤外干渉光を生成する干渉計と、該赤外干渉光を試料に照射する赤外干渉光照射部と、該試料を透過する透過光又は試料に反射される反射光を検出する検出器とを有する赤外分光光度計本体と、
前記検出器で検出された強度のデータであるインターフェログラムをフーリエ変換処理することによってパワースペクトルを求め、該パワースペクトルをバックグラウンドのパワースペクトルで除することにより、前記試料の吸光度スペクトル又は透過率スペクトルである測定スペクトルのデータを取得する測定スペクトルデータ取得部と、
前記測定スペクトルのデータからピークのデータを抽出する測定スペクトルデータ抽出部と、
既知の官能基に由来する吸光度スペクトル又は透過率スペクトルのピークのデータを、該官能基を示す情報と関連付けて記憶している官能基データ記憶部と、
前記測定スペクトルのデータと、前記官能基データ記憶部に記憶されているピークのデータを対比することにより、前記測定対象の試料に含まれる成分が有する官能基を特定する官能基特定部と
前記測定スペクトルデータ抽出部がデータを抽出したピークに対応する官能基を示す情報を操作者が入力する操作を行う入力部と、
前記入力部から官能基を示す情報が入力されたピークのデータと該情報とを関連付けて前記官能基データ記憶部に記憶させる官能基データ記憶操作部と
を備えることを特徴とするフーリエ変換赤外分光光度計。
【請求項4】
前記入力部がさらに、波数、波長、又は周波数の範囲を操作者が入力する操作を行うものであって
前記測定スペクトルデータ抽出部が、前記測定スペクトルデータ取得部で取得された測定スペクトルから、前記入力部による入力操作によって設定される範囲内にある該測定スペクトルのデータを抽出するものである
ことを特徴とする請求項3に記載のフーリエ変換赤外分光光度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フーリエ変換赤外分光光度計(Fourier Transform InfraRed Spectrophotometer、以下、"FTIR"とする)で得られるデータを処理する処理装置、及び該装置を有するフーリエ変換赤外分光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
FTIRでは、マイケルソン型干渉計を代表とする干渉計により振幅が変動する赤外干渉光を生成して試料に照射し、試料を透過した透過光又は試料に反射された反射光をインターフェログラムとして検出し、このインターフェログラムをフーリエ変換処理することによって、横軸に波数(又は波長)、縦軸に強度をとったスペクトル(パワースペクトル)を得る。ここでマイケルソン型干渉計は、ビームスプリッタ(ハーフミラー)、固定鏡、移動鏡などを含む装置であり、光をビームスプリッタで2つに分割し、一方を固定鏡で、他方を移動鏡で反射させた後、これら2つの反射光を干渉させるものである。移動鏡を移動させることにより、得られる干渉光の振幅が変化する。このように赤外干渉光を試料に照射したときに得られるパワースペクトルを、試料の無い状態で得られるバックグラウンドのパワースペクトルで除することにより、試料の吸光度スペクトル又は透過率スペクトルが得られる。以下、FTIRの測定により得られる吸光度スペクトル及び透過率スペクトルを合わせて「測定スペクトル」と呼ぶ。
【0003】
測定スペクトルは、試料に含まれる成分が有する官能基に応じた波数にピークを有する。例えば、成分にC-H官能基が含まれる場合、それに由来するピークが波数2900cm-1付近に現れ、C=O官能基が含まれる場合には、波数1770cm-1付近にピークが現れる。従って、測定スペクトルに現れるピークから官能基を特定することができる。
【0004】
このように試料に含まれる成分が有する官能基を特定することは、試料の合成や劣化等の化学変化を確認するために用いることができる。例えば特許文献1には、ポリカーボネート(PC)樹脂が熱で劣化すると、測定スペクトルの波数1770cm-1付近にカルボニル基(C=O官能基)に由来するピークが現れることが記載されている。また、ABS樹脂では、熱で劣化するとC=O官能基が生成され、測定スペクトルの波数1770cm-1付近にピークが現れる。従って、これらのピークの有無、及びピークが現れる場合にはその強度から、樹脂の劣化の有無や劣化の進行状態を把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-031739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
FTIRには、既知物質のスペクトルのデータを集めたライブラリを有し、未知試料から得られた測定スペクトルとライブラリのデータを照合することにより、未知試料に含まれる成分を特定する機能を有する装置がある。しかしながら、このような装置では、成分が有する官能基を特定することはできず、操作者が文献等を調べることにより官能基を特定しなければならない。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、試料に含まれる成分が有する官能基を容易に特定することができるFTIR用データ処理装置、及び該装置を有するFTIRを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係るフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)用データ処理装置は、
測定対象の試料の吸光度スペクトル又は透過率スペクトルである測定スペクトルのデータを取得する測定スペクトルデータ取得部と、
既知の官能基に由来する吸光度スペクトル又は透過率スペクトルのピークのデータを、該官能基を示す情報と関連付けて記憶している官能基データ記憶部と、
前記測定スペクトルのデータと、前記官能基データ記憶部に記憶されているピークのデータを対比することにより、前記測定対象の試料に含まれる成分が有する官能基を特定する官能基特定部と
を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るFTIR用データ処理装置では、測定対象の試料から得られた測定スペクトルのデータと、既知の官能基から得られ、官能基データ記憶部に記憶されたピークのデータを官能基特定部で対比することにより、測定対象の試料に含まれる成分が有する官能基を特定することができる。これにより、操作者が文献等を調べて官能基を特定する作業を行う必要がなくなり、官能基の特定を容易に行うことができる。
【0010】
例えば、測定対象の試料から得られた測定スペクトル中のピークにおけるピークトップの波数(波数の代わりに波長又は周波数でもよい。以下同様。)と、官能基データ記憶部に記憶された、ある官能基に由来するピークのデータにおけるピークトップの波数が、所定の誤差の範囲内である場合に、当該官能基に由来するピークと関連付けられて官能基データ記憶部に記憶されている該官能基を示す情報に基づいて、測定対象の試料に含まれる成分が該官能基を有すると特定する。あるいは、官能基毎に定められた所定の波数範囲において、測定対象の試料から得られたピークと官能基データ記憶部に記憶されたピークの一致度を求め、当該一致度が所定値以上である場合に、成分が当該官能基を有すると特定してもよい。
【0011】
官能基データ記憶部に記憶される、官能基を示す情報として、官能基の名称や構造式等が挙げられる。
【0012】
測定スペクトルデータ取得部は、FTIRによって得られるインターフェログラムから吸光度スペクトル又は透過率スペクトルを求めることで取得するものであってもよいし、他の装置(例えば既存のFTIRが有するデータ処理装置)で求められた吸光度スペクトル又は透過率スペクトルを取得するものであってもよい。あるいは、それら2通りの取得方法の両方に対応しているものであってもよい。
【0013】
本発明に係るFTIR用データ処理装置はさらに、
操作者が入力操作を行う入力部と、
前記測定スペクトルデータ取得部で取得された測定スペクトルから、前記入力部による入力操作によって設定される波数範囲内にある該測定スペクトルのデータを抽出する測定スペクトルデータ抽出部と、
前記測定スペクトルデータ抽出部で抽出された測定スペクトルのデータと、前記入力部による入力操作によって設定される官能基を示す情報とを、両者を関連付けて前記官能基データ記憶部に記憶させる官能基データ記憶操作部と
を備えることが好ましい。
【0014】
このような入力部、測定スペクトルデータ抽出部及び官能基データ記憶操作部を備える構成によれば、操作者が、得られた測定スペクトルから、官能基に由来するピークのデータと該官能基を示す情報とを新たに官能基データ記憶部に記憶させることができ、それ以降に得られる測定データを処理する際に利用することができる。
【0015】
本発明に係るフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)は、
振幅が変動する赤外干渉光を生成する干渉計と、該赤外干渉光を試料に照射する赤外干渉光照射部と、該試料を透過する透過光又は試料に反射される反射光を検出する検出器とを有する赤外分光光度計本体と、
前記検出器で検出された強度のデータであるインターフェログラムをフーリエ変換処理することによってパワースペクトルを求め、該パワースペクトルをバックグラウンドのパワースペクトルで除することにより、前記試料の吸光度スペクトル又は透過率スペクトルである測定スペクトルのデータを取得する測定スペクトルデータ取得部と、
既知の官能基に由来する吸光度スペクトル又は透過率スペクトルのピークのデータを、該官能基を示す情報と関連付けて記憶している官能基データ記憶部と、
前記測定スペクトルのデータと、前記官能基データ記憶部に記憶されているピークのデータを対比することにより、前記測定対象の試料に含まれる成分が有する官能基を特定する官能基特定部と
を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るFTIRは、前記フーリエ変換赤外分光光度計用データ処理装置と同様に、さらに前記入力部、前記測定スペクトルデータ抽出部及び前記官能基データ記憶操作部を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るFTIR用データ処理装置及びFTIRによれば、試料に含まれる官能基を容易に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るFTIR用データ処理装置及びFTIRの一実施形態を示す概略構成図。
図2】(a)C=O官能基及び(b)C-H官能基に由来する吸光度スペクトルのデータ。
図3】(a)ABS樹脂の加熱前及び(b)加熱後の吸光度スペクトルデータ及びデータ処理結果を示す図。
図4】本実施形態のFTIR用データ処理装置及びFTIRの変形例を示す概略構成図。
図5】FTIRで得られた測定スペクトルから、官能基に由来するピークのデータと該官能基を示す情報とを新たに官能基データ記憶部に記憶させる操作を行う際に表示部に表示される画面の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1図5を用いて、本発明に係るFTIR用データ処理装置及びFTIRの実施形態を説明する。
【0020】
図1に、本実施形態のFTIR1の概略構成を示す。FTIR1は、FTIR本体10と、データ処理装置20と、入力部30と、表示部40とを有する。データ処理装置20は、本発明のFTIR用データ処理装置の実施形態に該当する。入力部30はキーボード、マウス、タッチパネル等の通常の入力デバイスであり、表示部40はディスプレイやタッチパネル等の通常の表示装置である。以下、FTIR本体10及びデータ処理装置20の構成について詳細に説明する。
【0021】
FTIR本体10は、赤外光源11、ビームスプリッタ12、固定鏡13、移動鏡14、試料室15、第1検出器161、第2検出器162、半導体レーザ17、レーザ用第1ミラー181、レーザ用第2ミラー182、及び制御部19を有する。これらの各構成要素のうち、赤外光源11、ビームスプリッタ12、固定鏡13及び移動鏡14により、測定に用いる赤外光に対する干渉計である主干渉計が構成される。一方、半導体レーザ17、レーザ用第1ミラー181、ビームスプリッタ12、固定鏡13及び移動鏡14により、移動鏡14の移動を制御するためのコントロール干渉計が構成される。
【0022】
赤外光源11は、多数の波長が重畳した赤外光を生成する光源である。ビームスプリッタ12は、赤外光源11が発する赤外光が入射する位置に配置されており、入射した赤外光のうち、強度比で半分を透過して残り半分を90°方向に反射するものである。固定鏡13は、ビームスプリッタ12が反射した赤外光が入射する位置に配置され、移動鏡14はビームスプリッタ12を透過した赤外光が入射する位置に配置されている。なお、固定鏡13と移動鏡14の位置は互いに逆であってもよい。固定鏡13及び移動鏡14はいずれも、入射した赤外光を180°方向に反射させ、それにより該赤外光をビームスプリッタ12に入射させる向きで配置されている。固定鏡13は位置が固定されているのに対して、移動鏡14はビームスプリッタ12との距離を変化させるように光路に平行な方向に移動する。
【0023】
固定鏡13で反射された赤外光と移動鏡14で反射された赤外光はビームスプリッタ12に入射して重なり合い、それら2つの赤外光が干渉した干渉光が形成される。試料室15は、ビームスプリッタ12から出力される干渉光が入射する位置に配置されている。試料室15内には試料が収容される。第1検出器161は、試料室15(及び該試料室15内の試料)を通過した干渉光が入射する位置に配置されており、該干渉光の強度を検出するものである。
【0024】
半導体レーザ17は、単色(1波長)の光から成り、単色光であって赤外光源11で生成される赤外光よりも径が十分に小さいレーザビームを出射する。図1では、赤外光源11で生成される赤外光の光路を網掛けが付された帯によって表し、レーザビームの光路を太破線によって表している。レーザ用第1ミラー181は、赤外光源11とビームスプリッタ12の間の、前記赤外光の光路中に配置されており、半導体レーザ17から出射されるレーザビームを、該赤外光と平行にビームスプリッタ12に入射させる方向に反射させる。これにより、レーザビームはビームスプリッタ12で2分割され、一方が固定鏡13で反射され、他方が移動鏡14で反射され、再びビームスプリッタ12に入射する。ここで、固定鏡13で反射されたレーザビームと移動鏡14で反射されたレーザビームの光路差が、該レーザビームの波長の整数倍となったときに、それらのレーザビームの強度が干渉により強められる。レーザ用第2ミラー182は、ビームスプリッタ12と試料室15の間に配置されており、上記のように干渉したレーザビーム(単色干渉光)を反射して第2検出器162に入射させる。第2検出器162は、干渉したレーザビームの強度を検出する。なお、レーザ用第1ミラー181及びレーザ用第2ミラー182の大きさは前記赤外光の径よりも十分に小さく、該赤外光はレーザ用第1ミラー181及びレーザ用第2ミラー182によって僅かしか遮られない。
【0025】
制御部19は、赤外光源11及び半導体レーザ17の出力のON/OFF、並びに移動鏡14の移動を制御する。
【0026】
データ処理装置20は、FTIR本体10で測定される赤外干渉光に基づいて、測定された試料の吸光度スペクトル又は透過率スペクトル(以下、これらをまとめて「測定スペクトル」とする)のデータを作成すると共に、それらの測定スペクトルに基づいて、試料に含まれる官能基を特定する処理を行う装置である。このデータ処理装置20は、記憶部21と、測定スペクトルデータ作成部22と、測定スペクトルデータ取得部23と、官能基特定部24とを機能的に有している。これら各部のうち記憶部21はハードディスクやメモリ等の記憶媒体で具現化され、それ以外は中央演算装置(CPU)及びソフトウエアにより具現化されている。
【0027】
記憶部21は、官能基データ記憶部211と、測定スペクトルデータ記憶部212を機能的に有している。官能基データ記憶部211は、種々の既知の官能基について、それに由来する測定スペクトルのピークトップの波数(又は、波長若しくは周波数。以下、「波数」と記載した場合には、同様に波長若しくは周波数でも可。)の値、及び該ピークトップの波数の前後の所定の波数範囲内にある測定スペクトルのデータ(ピークプロファイルのデータ)を、そのピークトップの波数に対応する官能基の名称と共に記憶している。これらのデータは、FTIR1又はデータ処理装置20単体の製造者が予め官能基データ記憶部211に入力しておいてもよいし、操作者が入力部30を用いて入力するようにしてもよい。測定スペクトルデータ記憶部212は、次に述べる測定スペクトルデータ作成部22で作成された測定スペクトルのデータを記憶する。なお、最低限、ピークトップの波数のデータがあれば官能基を特定することが可能であることから、ピークプロファイルのデータは記憶部21に記録せず、ピークトップの波数及び官能基の名称のみを記憶部21に記録するようにしてもよい。
【0028】
測定スペクトルデータ作成部22は、移動鏡14が移動している間に、第2検出器162で検出されたレーザビームの干渉光の強度及び発振波長に基づいて、固定鏡13を通る光路と移動鏡14を通る光路の光路差を求めたうえで、第1検出器161で検出された赤外干渉光の強度を上記のように求めた光路差による分布で示すインターフェログラムに対して高速フーリエ変換を行うことにより、測定スペクトルのデータを作成するものである。
【0029】
測定スペクトルデータ取得部23は、測定スペクトルデータ記憶部212に保存されている各試料の測定スペクトルのデータから、官能基を特定する対象となる試料の測定スペクトルのデータを取得する。なお、測定スペクトルデータ作成部22が測定スペクトルのデータを作成するのと同時に、測定スペクトルデータ取得部23が当該データを取得するようにしてもよい。
【0030】
官能基特定部24は、測定スペクトルデータ取得部23で取得された測定スペクトルのデータと、官能基データ記憶部211に記憶されているピークのデータ(官能基ピークデータ)を対比することにより、測定対象の試料に含まれる成分が有する官能基を特定するものである。これら2つのデータの対比は、例えば、官能基データ記憶部211に記憶されている複数の官能基ピークデータの各々について、当該官能基ピークデータのピークトップの波数から所定の波数範囲内で、当該官能基ピークデータのピークプロファイルと測定スペクトルのピークプロファイルの一致度を求め、その一致度の値が所定値以上である場合に、測定対象試料中の成分が当該官能基ピークデータに対応する官能基を有すると特定する。あるいは、ピークプロファイルは用いずに、官能基ピークデータのピークトップの波数から所定の波数範囲内に測定スペクトルのピークトップの波数が存在する場合に、測定対象試料中の成分が当該官能基ピークデータに対応する官能基を有すると特定してもよい。
【0031】
官能基特定部24で測定対象試料中の成分が有する官能基が特定された後、表示部40には、測定スペクトルデータ取得部23で取得された測定スペクトル、官能基特定部24で官能基の特定に用いた官能基ピークデータのピークプロファイル、及び特定された官能基の名称又は構造式が表示される。
【0032】
次に、図2及び図3を参照しつつ、本実施形態のデータ処理装置20を用いて、試料に含まれる成分を特定した例を説明する。ABS樹脂を加熱する前及び250℃に2時間加熱した後にそれぞれ測定した測定スペクトルをデータ処理の対象とした。前述のように、ABS樹脂では、熱で劣化するとC=O官能基が生成され、測定スペクトルの波数1770cm-1付近にピークが現れる。このC=O官能基によるピークのピークプロファイルである官能基ピークデータ(図2(a))及び官能基の構造式(C=O)を予め官能基データ記憶部211に記憶させておく。この実験では合わせて、官能基データ記憶部211に、C-H官能基の官能基ピークデータ(図2(b))及び官能基の構造式(C-H)も記憶させた。C-H官能基のピークプロファイルは、波数2900cm-1付近に2つのピークが近接して表れる。データ処理装置20が正しく動作すれば、ABS樹脂の測定スペクトルには加熱の前後を問わずC-H官能基のピークは検出されない。なお、C=O官能基の官能基ピークデータはポリエチレンテレフタラート(PET)の吸収スペクトルのデータから抽出したものであり、C-H官能基の官能基ピークデータはポリエチレン(PE)の吸収スペクトルのデータから抽出したものである。また、この実験では簡単のため、C=O官能基及びC-H官能基以外のデータは官能基データ記憶部211に記憶させていない。
【0033】
データ処理の結果を、ABS樹脂を加熱する前について図3(a)に、250℃に加熱した後について図3(b)に、それぞれ示す。図3(a), (b)共に、測定スペクトル(吸光度スペクトル)を上段に表示し、横軸を該測定スペクトルと同じ波数範囲として、官能基データ記憶部211に記憶されているC=O官能基によるピークのピークプロファイルを中段に表示している。下段には、C=O官能基とC-H官能基について、測定スペクトルのデータと官能基ピークデータの一致度を示すスコア、官能基ピークデータのファイルのファイル名、官能基の構造式及び当該ファイルに関するコメントを表で示している。ABS樹脂を加熱する前は、測定スペクトルには1770cm-1付近にピークが見られず、下段の表にはC=O官能基とC-H官能基のいずれも同程度に低いスコアが示されている。それに対して、ABS樹脂を250℃に加熱した後は、測定スペクトルには1770cm-1付近において、他の波数に見られるピークよりも幅の広いピークが見られる。そして、下段の表に示されたC=O官能基のスコアは、(a)におけるC=O官能基のスコア並びに(a)及び(b)におけるC-H官能基のスコアよりも高くなっており、この測定スペクトルにおける1770cm-1付近のピークがC=O官能基に由来することを示している。
【0034】
なお、ここでは測定スペクトルのデータが得られている波数範囲の全体を対象としてデータ処理を行ったが、操作者が入力部30を用いて当該波数範囲のうちの一部の範囲を指定し、この指定された範囲内のみを対象としてデータ処理を行うようにしてもよい。
【0035】
次に、図4を用いて、上記実施形態のFTIR及びFTIR用データ処理装置の変形例を示す。この変形例のFTIR1Aは、上記FTIR1と同じFTIR本体10と、上記データ処理装置20とは以下の点で相違するデータ処理装置20Aを有する。データ処理装置20Aは、上記データ処理装置20の各構成要素と共に、測定スペクトルデータ抽出部25と、官能基データ記憶操作部26とを機能的に有している。これらも測定スペクトルデータ作成部22、測定スペクトルデータ取得部23及び官能基特定部24と同様に、CPU及びソフトウエアにより具現化されている。
【0036】
測定スペクトルデータ抽出部25は、測定スペクトルデータ取得部23で取得された測定スペクトルを表示部40に表示させたうえで、操作者に、入力部30を用いて該測定スペクトルのデータを抽出する波数範囲を設定させる動作を実行するものである。波数範囲41は、例えば図5に示すように、表示部40に表示させた測定スペクトルに、縦に延びる線や三角形の印等から成る2個のマーク411及び412を表示し、これらマーク411及び412をマウス等の入力部30を用いて操作者が横方向に移動させることで波数範囲の上限値及び下限値を指定することにより設定することができる。あるいは、波数範囲の上限値及び下限値の数値を操作者に入力させるようにしてもよい。
【0037】
官能基データ記憶操作部26は、操作者に、設定された波数範囲内に存在するピークの由来となる官能基を示す情報として官能基の名称あるいは構造式を入力させる動作を実行したうえで、当該情報と共に測定スペクトルデータ抽出部25で抽出された測定スペクトルのデータを官能基データ記憶部211に記憶させる動作を実行するものである。官能基を示す情報は、例えば図5に示すように、表示部40に表示させたテーブル42中の「官能基」欄に入力する。図5に示した例では、「官能基」の他に、「ファイル名」及び「コメント」を操作者が入力できるようになっている。
【0038】
これら測定スペクトルデータ抽出部25及び官能基データ記憶操作部26の動作により、FTIR本体10で得られた(インターフェログラムに基づいて測定スペクトルデータ作成部22で作成した)測定スペクトルから、官能基に由来するピークのデータと該官能基を示す情報とを新たに官能基データ記憶部211に記憶させることができ、それ以降に得られる測定データに対するデータ処理に利用することができる。
【0039】
本発明は上記実施形態及び変形例には限定されず、本発明の主旨の範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態及び変形例ではFTIR本体10とデータ処理装置20又は20Aを組み合わせた装置としているが、データ処理装置20又は20Aを単独で用いるようにしてもよい。この場合、データ処理装置20又は20Aにデータ入力装置を設け、データ処理装置20又は20Aの外に設けられたFTIRで取得されたインターフェログラムのデータを該データ入力装置から測定スペクトルデータ作成部22に入力したうえで測定スペクトルデータ作成部22で測定スペクトルのデータを作成するか、あるいは、データ処理装置20又は20Aの外で作成された測定スペクトルのデータを該データ入力装置から測定スペクトルデータ作成部22に入力するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1、1A…FTIR
10…FTIR本体
11…赤外光源
12…ビームスプリッタ
13…固定鏡
14…移動鏡
15…試料室
161…第1検出器
162…第2検出器
17…半導体レーザ
181…レーザ用第1ミラー
182…レーザ用第2ミラー
19…制御部
20、20A…データ処理装置
21…記憶部
211…官能基データ記憶部
212…測定スペクトルデータ記憶部
22…測定スペクトルデータ作成部
23…測定スペクトルデータ取得部
24…官能基特定部
25…測定スペクトルデータ抽出部
26…官能基データ記憶操作部
30…入力部
40…表示部
41…波数範囲
411、412…マーク
42…テーブル
図1
図2
図3
図4
図5