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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】車両のトランスファ構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20220614BHJP
   B60K 17/348 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
F16H57/04 Z
B60K17/348 B
F16H57/04 G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018216347
(22)【出願日】2018-11-19
(65)【公開番号】P2020085043
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(74)【代理人】
【識別番号】100100170
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 厚司
(72)【発明者】
【氏名】大川 裕三
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-194294(JP,A)
【文献】実開昭48-112025(JP,U)
【文献】特開2007-10003(JP,A)
【文献】特開平4-175560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
B60K 17/348
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛合する第1ギヤと第2ギヤとを収容するギヤ室と、前記第1ギヤと同軸上に設けられたカップリングを収容するカップリング室とを備えた車両のトランスファ構造であって、
前記ギヤ室の潤滑油を前記カップリング室に導入する導入経路と、
前記カップリング室に導入された潤滑油を前記ギヤ室に戻す戻し経路とを備え、
前記戻し経路は、前記カップリング室の車両前後方向中間部の下部に開口する開口部から、前記ギヤ室に開口するオイル排出孔まで前記ギヤ室に向けて下方に傾斜していることを特徴とする車両のトランスファ構造。
【請求項2】
前記戻し経路は、前記カップリング室の内周壁を当該カップリング室の軸芯に対して斜めに貫通する貫通部を有することを特徴とする請求項1に記載の車両のトランスファ構造。
【請求項3】
前記カップリング室は、前記ギヤ室と反対側でカバー部材によって閉じられ、
前記カップリング室の内周面には、前記カップリング室と前記カバー部材との合わせ面から前記カップリング室の車両前後方向中間部まで、当該カップリング室の軸芯に平行な溝部が形成され、
前記溝部の車両前後方向中間部における端面に前記開口部が形成され、
前記溝部と前記貫通部は抜き型によって形成されていることを特徴とする請求項に記載の車両のトランスファ構造。
【請求項4】
前記カップリング室は、前記ギヤ室とを仕切る側壁部を有し、
前記側壁部に前記戻し経路の前記オイル排出孔が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両のトランスファ構造。
【請求項5】
前記側壁部に前記導入経路のオイル供給孔が形成され、
前記オイル供給孔は、前記第1ギヤと前記第2ギヤとの噛み合い部よりも前記第2ギヤの回転方向の後方側に対応する位置に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の車両のトランスファ構造。
【請求項6】
前記戻し経路に潤滑油の温度を検知する油温センサが設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車両のトランスファ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪駆動車に搭載されるトランスファ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪駆動車として、車体前部にエンジンなどの駆動源と変速機とを軸心が車体前後方向に延びるように配置し、該変速機から出力される駆動力を車体後方に延びる後輪用出力軸および後輪用差動装置を介して主駆動輪としての後輪に伝達するとともに、補助駆動輪としての前輪に出力する駆動力を取り出すトランスファ装置を設け、該トランスファ装置によって取り出した駆動力を車体前方に延びる前輪用出力軸および前輪用差動装置を介して前輪に伝達し、後輪に加えて前輪も駆動可能に構成したものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載のトランスファ装置は、後輪用出力軸上に前輪用の駆動力を取り出すカップリングが配設され、該カップリングを完全に締結することで駆動力を前輪と後輪に均等に伝達される四輪駆動状態になり、カップリングの完全締結と完全解放との中間では締結状態に応じて前輪に出力される駆動力の配分が調整される。
【0004】
カップリングによって取り出された駆動力は、後輪用出力軸上に設けられた駆動ギヤと、該駆動ギヤに噛み合うとともに前輪用出力軸上に設けられた被駆動ギヤとを介して前輪用出力軸に伝達され、後輪に加えて前輪も駆動可能に構成されている。
【0005】
駆動ギヤと被駆動ギヤとは、常時噛み合い式であるため、両ギヤおよびこれらを支持する軸受は、噛み合い部における焼き付き防止のために潤滑が必要である。そして、これらの潤滑のために、駆動ギヤおよび被駆動ギヤを収容するギヤ室の下部には、潤滑油が貯留されている。そして、この潤滑油が、被駆動ギヤから駆動ギヤへ掻き上げられることによって掻き上げ給油が行われる。
【0006】
このギヤ室の車体後方側には、前述のカップリングが収容されるカップリング室が配置されている。カップリングは、電磁式のパイロットクラッチと、カム機構と、メインクラッチとを備え、パイロットクラッチの締結状態を調整することで、カム機構がメインクラッチの摩擦板の押圧力を増減してメインクラッチの締結状態を変更し、前輪と後輪の駆動力の配分を調整している。このため、メインクラッチの摩擦板は滑りによって発熱する。また、特にFRベースの四輪駆動車では、ファイナルギヤが後輪用差動装置内にあるので、変速機に連結される後輪用出力軸の回転数が高く、その分だけメインクラッチの摩擦板の発熱量が多くなる。このため、カップリングが収容されるカップリング室は冷却する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-65389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のように、トランスファ装置のケースを介した大気による冷却では、カップリングの温度が許容温度を超える虞があり、カップリングの耐久性を確保するためには、カップリングの冷却が必要となる。
【0009】
これに対して、前述のギヤ室同様にカップリング室にも潤滑油を貯留させることで、冷却することが考えられる。また、ギヤ室とカップリング室との間の側壁部にオイル供給孔とオイル排出孔を設けて、ギヤ室の被駆動ギヤが掻き上げた潤滑油をカップリング室に供給して循環させておき、潤滑油の撹拌によりカップリングを冷却することも考えられる。
【0010】
しかし、カップリング室に貯留させた潤滑油は、上り坂や下り坂で車両が傾斜した状態で走行するとき、車両前方又は車両後方に偏ったり、オイル排出孔より潤滑油が多量に流出するので、冷却効果が得られないという懸念がある。
【0011】
一方、撹拌抵抗抑制の観点からカップリング室内の潤滑油を低レベル化することが好ましいが、前述のように、車両が傾斜した状態で潤滑油が前後方向に偏ったり、オイル排出孔より排出されると、冷却効果がさらに低下する。
【0012】
そこで、本発明は、車両のトランスファ構造において、潤滑油を低レベル化して撹拌抵抗を低減した状況であっても、車両の前後方向の傾斜に拘わらず、カップリング室の潤滑油量が安定し、潤滑油の撹拌によるカップリングの冷却効果を維持することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明にかかる車両のトランスファ構造は、次のように構成したことを特徴とする。
【0014】
まず、請求項1に記載の発明は、
互いに噛合する第1ギヤと第2ギヤとを収容するギヤ室と、前記第1ギヤと同軸上に設けられたカップリングを収容するカップリング室とを備えた車両のトランスファ構造であって、
前記ギヤ室の潤滑油を前記カップリング室に導入する導入経路と、
前記カップリング室に導入された潤滑油を前記ギヤ室に戻す戻し経路とを備え、
前記戻し経路は、前記カップリング室の車両前後方向中間部の下部に開口する開口部から、前記ギヤ室に開口するオイル排出孔まで前記ギヤ室に向けて下方に傾斜していることを特徴とする。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記戻し経路は、前記カップリング室の内周壁を当該カップリング室の軸芯に対して斜めに貫通する貫通部を有することを特徴とする。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の発明において、
前記カップリング室は、前記ギヤ室と反対側でカバー部材によって閉じられ、
前記カップリング室の内周面には、前記カップリング室と前記カバー部材との合わせ面から前記カップリング室の車両前後方向中間部まで、当該カップリング室の軸芯に平行な溝部が形成され、
前記溝部の車両前後方向中間部における端面に前記開口部が形成され、
前記溝部と前記貫通は抜き型によって形成されていることを特徴とする。
【0017】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明において、
前記カップリング室は、前記ギヤ室とを仕切る側壁部を有し、
前記側壁部に前記戻し経路の前記オイル排出孔が形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項4に記載の発明において、
前記側壁部に前記導入経路のオイル供給孔が形成され、
前記オイル供給孔は、前記第1ギヤと前記第2ギヤとの噛み合い部よりも前記第2ギヤの回転方向の後方側に対応する位置に形成されていることを特徴とする。
【0019】
また、請求項6に記載の発明は、前記請求項1から請求項5のいずれかに記載の発明において、
前記戻し経路に潤滑油の温度を検知する油温センサが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、ギヤ室の潤滑油が導入経路を介してカップリング室に導入され、カップリング室に貯留する。カップリング室に貯留した潤滑油は、カップリングの回転により撹拌され、当該カップリングを冷却する。カップリング室内の潤滑油の一部は、戻し経路を介してカップリング室に戻されるので、カップリング室においては、戻し経路のオイル排出孔の位置に応じて、ほぼ一定のオイルレベルを保つことができる。
【0021】
戻し経路は、カップリング室の車両前後方向中間部の下部に開口する開口部を有し、ギヤ室に開口するオイル排出孔までギヤ室に向けて下方に傾斜している。このため、下り坂等で車両が前方に下向きに傾斜した場合、オイル排出孔の位置が下がるが、オイル排出孔より高い位置に開口部があるので、潤滑油のオイルレベルがオイル排出孔より上になっても開口部を越えるまでは、潤滑油がオイル排出孔から排出されない。したがって、潤滑油を低レベル化して撹拌抵抗を低減した状況であっても、車両の前後方向の傾斜に拘わらず、カップリング室の潤滑油量が安定し、潤滑油の撹拌によるカップリングの冷却効果を維持することができる。
【0022】
また、請求項2に記載の発明によれば、戻し経路に、カップリング室の内周壁を当該カップリング室の軸芯に対して斜めに貫通する貫通部を有するので、戻し経路をカップリング室の内周壁内に形成することができる。このため、トランスファ室の外壁が増大しないので、トランスファ装置をコンパクトにすることができる。
【0023】
また、請求項3に記載の発明によれば、戻し経路の開口部が溝部の端面に形成されているので、開口部の位置をカップリング室の車両前後方向中間部に正確に位置決めすることができる。また、溝部と貫通は抜き型によって形成されるので、溝部の成形と同時に貫通穴を成形することができ、製造が容易になる。
【0024】
また、請求項4に記載の発明によれば、カップリング室とギヤ室とを仕切る側壁部に戻し経路のオイル排出孔が形成されているので、ギヤ室の成形と同時にオイル排出孔を形成することができ、製造が簡易になる。
【0025】
また、請求項5に記載の発明によれば、オイル供給孔は、第1ギヤと第2ギヤとの噛み合い部よりも第2ギヤの回転方向の後方側に対応する位置に形成されているので、ギヤ室の底部に貯留される比較的低温の潤滑油を第2ギヤで掻き上げて、オイル供給孔からカップリング室に供給することができ、カップリングの冷却効果が確保される。
【0026】
また、請求項6に記載の発明によれば、戻し経路に潤滑油の温度を検知する油温センサが設けられているので、潤滑油に浸漬しなくても、戻し経路に常に流れている潤滑油の温度を油温センサで確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る車両のトランスファ構造を示す概略図である。
図2】本実施形態におけるトランスファ装置を示す断面拡大図である。
図3】本実施形態おけるトランスファ装置のケースを取り除いた斜視図である。
図4】(a)図2におけるA-A矢視で示すトランスファ装置のトランスファケースの第1ケース部材を取り除いたときの正面図、(b)オイル供給孔の周辺の要部拡大斜視図、(c)排出口の斜視図である。
図5】第2ケース部材に設けられた戻し経路を示す斜視図である。
図6】第2ケース部材に設けられたカップリング室潤滑経路を示す斜視図である。
図7】第3ケースに設けられた案内部材を示す斜視図である。
図8】(a)第2ケースのギヤ室及びカップリング室を成形する内型を示す斜視図、(b)第2ケースのカップリング室を成形する内型を示す斜視図である。
図9】第2ケースのギヤ室及びカップリング室を成形する内型を示す断面図である。
図10図2におけるB-B矢視で示すトランスファケースの端面図である。
図11】トランスファケースの潤滑油の貯留状態を示す図4におけるC-C矢視で示す断面図である。
図12】車両が前方に向かって下向きに傾斜した時における従来のトランスファケースの潤滑油の貯留状態を示す断面図である。
図13】(a)車両が前方に向かって下向きに傾斜した時における本発明の実施形態に係るトランスファケースの潤滑油の貯留状態を示す断面図、(b)車両が前方に向かって上向きに傾斜した時における本発明の実施形態に係るトランスファケースの潤滑油の貯留状態を示す断面図である。
図14】(a)車両が水平状態における本発明の実施形態に係るトランスファケースの潤滑油の貯留状態を示す図4におけるD-D矢視で示す断面図、(b)車両が前方に向かって上向きに傾斜した時における本発明の実施形態に係るトランスファケースの潤滑油の貯留状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る車両のトランスファ構造について説明する。
【0029】
(トランスファ装置の概略構造)
図1に示すように、本発明の実施形態におけるトランスファ装置が搭載された四輪駆動車1は、フロントエンジン・リアドライブ車ベースの四輪駆動車1であり、車体前部に駆動源としてのエンジン2と変速機3とが軸心が車体前後方向に延びるように配置されている。
【0030】
変速機3の車体後方には、トランスファ装置10が設けられており、該トランスファ装置10には、変速機3から出力される駆動力を車体後方側に延びる後輪用出力軸11と、該後輪用出力軸11と平行に配置されて駆動力を前輪に出力する前輪用出力軸12とが設けられている。
【0031】
後輪用出力軸11上には、カップリング20と、該カップリング20の車体前方側に配置されるとともにカップリング20から取り出された駆動力を前輪用出力軸12に伝達する第1ギヤとしての駆動ギヤ13と、カップリング20と駆動ギヤ13との間に配置されるダンパ30とが設けられている。
【0032】
また、前輪用出力軸12上には、駆動ギヤ13に噛み合う第2ギヤとしての被駆動ギヤ14が設けられ、カップリング20によって取り出された前輪用の駆動力は、駆動ギヤ13と被駆動ギヤ14を介して前輪用出力軸12に伝達される。
【0033】
前輪用出力軸12は、自在継手40を介して車体前方に延びる前輪用プロペラシャフト50に連結されている。該前輪用プロペラシャフト50は、自在継手60を介して前輪用差動装置70の入力軸71に連結され、該入力軸71は、左右の前輪にそれぞれ連結された車軸72、72に連結されている。
【0034】
これにより、カップリング20によって取り出された駆動力は、駆動ギヤ13および被駆動ギヤ14を介して前輪用出力軸12に伝達され、該前輪用出力軸12から前輪用プロペラシャフト50および前輪用差動装置70を介して前輪に伝達される。四輪駆動車1では、カップリング20は、前輪と後輪とのトルク配分を前輪:後輪=0:100~50:50の範囲で可変できるようになっている。なお、カップリング20の作動は、図示しない制御ユニットによって制御される。
【0035】
また、ダンパ30によって、カップリング20から駆動ギヤ13、被駆動ギヤ14、前輪用出力軸12、前輪用プロペラシャフト50および前輪用差動装置70を介して前輪に至る前輪側の駆動系がエンジン2のトルク変動に共振する共振周波数をエンジン2の実用領域下に低下させるように形成されている。
【0036】
(トランスファ装置の詳細構造)
次に、図2を参照しながら、本発明の実施形態におけるトランスファ装置10についてさらに詳細に説明する。
【0037】
後輪用出力軸11は、変速機3からの入力軸3aと同じ軸心上に配置されるとともに、入力軸3aとともに回転するように設けられている。後輪用出力軸11の前端部には、車体前方側に開放した凹部11aが設けられており、該凹部11aの内周面に変速機3からの入力軸3aの後端部がスプライン嵌合されている。
【0038】
後輪用出力軸11の後端部には、該後輪用出力軸11を、図示しない自在継手を介して後輪用プロペラシャフトに連結するための連結部材15がスプライン嵌合されている。
【0039】
後輪用出力軸11上には、車体前側から順に駆動ギヤ13と、ダンパ30と、カップリング20とが配設されている。
【0040】
駆動ギヤ13は、外周面に斜歯が形成された歯部13aと、該歯部13aの内周側から一体的に車体前方側および車体後方側にそれぞれ延びる円筒状の前方側円筒部13bおよび後方側円筒部13cとが備えられている。
【0041】
駆動ギヤ13の内周側には、後輪用出力軸11が貫通される貫通口13dが設けられている。駆動ギヤ13と、後輪用出力軸11との間の嵌合部16には、ニードルベアリング61が設けられている。駆動ギヤ13は、後輪用出力軸11に対して回転可能とされている。
【0042】
駆動ギヤ13の後方側円筒部13cの内周部には、ダンパ30と連結されるスプライン部13eが形成されている。
【0043】
ダンパ30は、該ダンパ30の外周部を形成する円筒状の外筒部材31と、ダンパ30の内周部を形成する円筒状の内筒部材32と、外筒部材31と内筒部材32との間に設けられると共に結合される弾性部材33とを備えている。
【0044】
ダンパ30のカップリング20側の側面には、ダンパ30の外筒部材31と内筒部材32との間に収納された弾性部材33の飛び出し防止のため飛び出し防止部材34が設けられている。飛び出し防止部材34とダンパ30の外筒部材31のカップリング20側の端部は、スナップリング35によって、外筒部材31に対する飛び出し防止部材34の抜けが防止されている。
【0045】
ダンパ30の外筒部材31の駆動ギヤ13側の端部には、動力伝達部材36がくし歯もしくはスプラインによって嵌合されると共に、スナップリング37によって、外筒部材31に対する動力伝達部材36の抜けが防止されている。
【0046】
動力伝達部材36の内周側には、軸方向において駆動ギヤ13の内周側のニードルベアリング61に近接する位置まで延びる円筒部36aが設けられている。この円筒部36aは、駆動ギヤ13の後方側円筒部13cのスプライン部13eにスプライン嵌合される。
【0047】
動力伝達部材36の内周側には、ダンパ30の内筒部材32の内周側においてカップリング20側に延びてカップリング20に連結される円筒状の連結部36bが設けられている。ダンパ30の内筒部材32の内周側には、動力伝達部材36の連結部36bと並設されるとともに、カップリング20に連結されるスプライン部32aが設けられている。
【0048】
カップリング20は、湿式多板式のメインクラッチ21と、カム機構22と、電磁式のパイロットクラッチ23とが備えられている。
【0049】
メインクラッチ21には、ダンパ30に連結される外側回転部材21aと、後輪用出力軸11によって構成される内側回転部材21bと、両者に交互に係合された複数の摩擦板21cが設けられている。
【0050】
外側回転部材21aは、その内周部に複数の摩擦板21cが係合される円筒状の本体部21dと、該本体部21dの前端側から車体前方側に延びる本体部21dよりも小径の連絡部21eが設けられている。この連絡部21eは、ダンパ30の動力伝達部材36の連結部36bおよび内筒部材32のスプライン部32aに連結される。
【0051】
これにより、外側回転部材21aは、ダンパ30と、駆動ギヤ13と、被駆動ギヤ14と、自在継手40と、前輪用プロペラシャフト50と、自在継手60と、前輪用差動装置70とを介して左右の前輪にそれぞれ連結された車軸72、72へ連絡されている。
【0052】
外側回転部材21aにおける連絡部21eの本体部21d側の端部の内周側と、後輪用出力軸11との間には、軸受62が嵌合されている。外側回転部材21aは、後輪用出力軸11に対して回転自在に支持されている。
【0053】
外側回転部材21aの本体部21dの後端部21fは、車体後方側に開放されている。本体部21dの後端部21fは、カバー部材24によって覆われている。
【0054】
カム機構22は、後輪用出力軸11上で、メインクラッチ21の複数の摩擦板21cと、カバー部材24の間に配設されている。カム機構22は、対向配置された一対のディスク状のメインカム22a、パイロットカム22bと、ボール部材22cとが備えられている。
【0055】
メインカム22aは、軸方向に移動可能に内側回転部材21bとスプライン結合され、周方向外側において、メインクラッチ21の複数の摩擦板21cに近接する位置まで延びている。パイロットカム22bは、後輪用出力軸11上で回転可能に設けられている。パイロットカム22bと、カバー部材24との間には、軸受63が嵌合されて両者が相対回転自在にされている。
【0056】
パイロットクラッチ23は、メインカム22a後方に配置されたアーマチュア23aと、カバー部材24の後方側に配置されたソレノイド23bと、アーマチュア23aとカバー部材24との間に設けられた複数の摩擦板23cとが備えられている。
【0057】
複数の摩擦板23cは、メインクラッチ21の外側回転部材21aの内周側と、パイロットカム22bの外周側との間で交互に係合されている。
【0058】
パイロットクラッチ23は、ソレノイド23bの磁力によってアーマチュア23aが吸引されることで複数の摩擦板23cが締結される。
【0059】
カム機構22は、パイロットクラッチ23の作動により、メインカム22aとパイロットカム22bとが相対回転させられる。これにより、ボール部材22cがメインカム22aを押圧してメインクラッチ21側に移動させる。
【0060】
メインクラッチ21の複数の摩擦板21cは、メインカム22aのメインクラッチ21側への移動によって締結される。
【0061】
なお、パイロットクラッチ23は、ソレノイド23bに流す電流量をコントロールすることで磁界強度が増減可能とされる。アーマチュア23aの吸引力は、磁界強度に対して比例する。アーマチュア23aの吸引力に応じて、パイロットクラッチ23の複数の摩擦板23cの締結力が変化する。
【0062】
パイロットクラッチ23の複数の摩擦板23cの締結力に応じて、パイロットカム22bの周方向への回転量(パイロットカムのメインカムに対する相対回転量)が変化する。両カム22a、22b間の相対回転量に応じて、ボール部材22cのメインカム22a側への押圧力が変化するので、メインクラッチ21の複数の摩擦板21cに生じる締結力が調整される。したがって、ソレノイド23bの電流量によって、カップリング20の前輪側と後輪側への駆動力配分が調整可能となっている。
【0063】
一方、後輪用出力軸11に平行に配置された前輪用出力軸12は、被駆動ギヤ14と一体的に形成されている。
【0064】
前輪用出力軸12には、車体前側において径方向外側に延びる延設部12aが設けられている。被駆動ギヤ14は、延設部12aの上端部から車体前方に延びて形成されるとともに、駆動ギヤ13と互いに噛み合った状態で配置されている。被駆動ギヤ14は、外周面に斜歯が形成された歯部14aを有している。
【0065】
前輪用出力軸12は、中空状に形成されており、前輪用出力軸12の内周部には、前輪用プロペラシャフト50が連結される自在継手40の外側継手部材41に設けられた軸状部42が挿通されている。
【0066】
本実施形態におけるトランスファ装置10の以上の構成は、トランスファケース80に収容されている。
【0067】
トランスファケース80は、車体前方側から順に配置される第1ケース部材81、第2ケース部材82、第3ケース部材83によって分割して構成される。第1ケース部材81と第2ケース部材82とが図示しない締結ボルト等を用いて締結固定されるとともに、第2ケース部材82と第3ケース部材83とが図示しない締結ボルト等を用いて締結固定される。
【0068】
トランスファケース80内には、駆動ギヤ13および被駆動ギヤ14を収容するギヤ室Z1と、カップリング20およびダンパ30を収容するカップリング室Z2が設けられている。
【0069】
ギヤ室Z1の下部は、潤滑油を貯留する潤滑油貯留部としての機能を有している。カップリング室Z2の車体前端部には、ギヤ室Z1とを仕切る側壁部82aが設けられている。
【0070】
駆動ギヤ13は、前方側円筒部13bおよび後方側円筒部13cの外周側に設けられた前方側軸受64および後方側軸受65を介してトランスファケース80に回転可能に支持されている。
【0071】
前方側軸受64のアウタレース64aは、第1ケース部材81に設けられた凹部でなる支持部81aに圧入されている。一方、後方側軸受65のアウタレース65aは、第2ケース部材82の側壁部82aからギヤ室Z1側に立ち上がるボス部でなる支持部82bに圧入されている。
【0072】
また、前方側軸受64の車体前方側の端部には、該前方側軸受64のアウタレース64aに接するとともに、第1ケース部材81の支持部81aの内周面から、後輪用出力軸11の外周面に向かって延びるプレート部材84が設けられている。
【0073】
被駆動ギヤ14は、歯部14aの内周側と、前輪用出力軸12の車体後方側の外周部とに設けられた軸受66、67を介してトランスファケース80に回転可能に支持されている。
【0074】
後輪用出力軸11の後端部の連結部材15は、軸受68を介して第3ケース部材83に回転可能に支持されている。
【0075】
パイロットクラッチ23のソレノイド23bは、該ソレノイド23bを支持する筒状の支持部材23dを介して第3ケース部材83に固定されている。カップリング20の後方側は、軸受69を介して第3ケース部材83に回転自在に支持されている。
【0076】
トランスファ装置10にはまた、トランスファケース80に、複数のシール部材85、86、87が配設され、該トランスファケース80内の潤滑油が外部に漏洩することが防止されている。
【0077】
具体的には、第1ケース部材81の車体前端側で第1ケース部材81と後輪用出力軸11との間にシール部材85が配設され、第1ケース部材81の車体前端側で第1ケース部材81と前輪用出力軸12との間にシール部材86が配設され、第3ケース部材83と連結部材15との間にシール部材87が配設されている。
【0078】
カップリング20におけるメインクラッチ21の連絡部21eの後端部と、後輪用出力軸11の外周側との間には、前側シール部材88が配設されている。カップリングのカバー部材24の内周側と、後輪用出力軸11の外周側との間には、後側シール部材89が配設されている。
【0079】
前側シール部材88と、後側シール部材89とによって、カップリング20内と、カップリング室2とがシールされる。これにより、カップリング20内の潤滑油と、これと異なるギヤ室Z1からカップリング室Z2へ供給される潤滑油とが分離された状態とされている。
【0080】
(潤滑油案内構造)
トランスファ装置10のギヤ室Z1では、ギヤ室Z1に貯留された潤滑油が、被駆動ギヤ14の歯面14bによって掻き上げられるとともに飛散させて、駆動ギヤ13側に供給され、潤滑されることになる。
【0081】
ギヤ室Z1に潤滑に加えて、本実施形態におけるトランスファ装置10は、カップリング室Z2の潤滑および冷却のための潤滑油案内構造として、ギヤ室Z1に貯留された潤滑油をカップリング室Z2へ導入する導入経路と、カップリング室Z2に導入された潤滑油をギヤ室Z1に戻す戻し経路と、カップリング室Z2の潤滑油を車体後方側に案内するカップリング室潤滑経路とが設けられている。
【0082】
<導入経路>
まず、図3、4を参照しながら、潤滑油案内構造の一部を構成するギヤ室Z1に貯留された潤滑油をカップリング室Z2へ導入する導入経路について説明する。
【0083】
図3に示すように、被駆動ギヤ14の歯面14bは被駆動ギヤ14の回転方向に対して傾斜しているため、歯面14bの一方の側部は被駆動ギヤ14の回転方向の後方側に位置し、歯面14bの他方の側部14cは被駆動ギヤ14の回転方向の前方側に位置する。本実施形態においては、図3に示すように、被駆動ギヤ14のヘリカルギヤの歯面14bの回転方向R1の前方側となる方の側部14cが、車体前方側となるように形成されている。
【0084】
被駆動ギヤ14の歯面14bの潤滑油は、静的な状態において被駆動ギヤ14の歯面14bの傾斜に沿って矢印R2方向に流れようとするが、被駆動ギヤ14は、矢印R1方向に回転しているので、潤滑油は、車体後方側には飛散しやすく、車体前方側には、飛散が少なくなっている。
【0085】
図4(a)に示すように、カップリング室Z2の側壁部82aにおける駆動ギヤ13と被駆動ギヤ14との噛み合い部Xよりも被駆動ギヤ14の回転方向の後方側に対応する位置には、オイル供給孔90が設けられている。該オイル供給孔90は、ギヤ室Z1とカップリング室Z2とを連通させている。オイル供給孔90は、カップリング室Z2の側壁部82aの駆動ギヤ13のカップリング20側の前方側軸受64を支持する支持部82bの外周面82cに沿って設けられている。
【0086】
オイル供給孔90には、図4(b)に示すように、側壁部82aからギヤ室Z2側に突出する凸部で形成されるとともにオイル供給孔90へ潤滑油をガイドするガイド部90aが設けられている。
【0087】
ガイド部90aは、オイル供給孔90の下端部に沿って支持部82bの外周面82cから反支持部82b側に延びる底面部90bと、該底面部90bの反支持部82b側の端部からオイル供給孔90に沿って立ち上がる側面部90cと、該側面部90cの上端部からさらに反支持部82b側に被駆動ギヤ14の歯面に沿って延びる傾斜面部90dとで形成されている。底面部90bは、オイル供給孔90に向かって下り勾配で傾斜させることにより、潤滑油を確実にオイル供給孔90に案内することができる。
【0088】
なお、オイル供給孔90は、支持部82bに沿って設けられているので、支持部82bの外周面82cの一部もオイル供給孔90へ潤滑油をガイドする案内部90eとして機能している。
【0089】
ギヤ室Z1には、被駆動ギヤ14によって掻き上げられる潤滑油を駆動ギヤ13と被駆動ギヤ14との噛み合い部Xに対応する位置に輸送し、オイル供給孔90に導くためのオイルパス93を有している。
【0090】
オイルパス93は、図3および図4に示すように、ドーナツ状の円盤からなる基本面部93aと、該基本面部93aの内周側から円筒状に車体後方側に延びる円筒部93bとを有している。基本面部93aの上部には、扇形の切欠部93dが設けられている。
【0091】
オイルパス93の基本面部93aは、第2ケース部材82の内周部に設けられた取り付け部に、複数のボルト93e…93eによって固定されている。
【0092】
オイルパス93の基本面部93aおよび円筒部93bは、前輪用出力軸12の延設部12aの車体後方側の面と、前輪用出力軸12の延設部12aよりも車体後方側とを覆うように配置されている(図2参照)。
【0093】
オイルパス93の基本面部93aの外周部にはシール部材93fが配置されており、該シール部材93fによって、オイルパス93と、第2ケース部材82の内周面とがシールされている(図2参照)。
【0094】
なお、オイルパス93の切欠部93dは、駆動ギヤ13と被駆動ギヤ14との噛み合い部Xに対応する位置に配置されている。
【0095】
<戻し経路>
次に、カップリング室Z2に導入された潤滑油をギヤ室Z1に戻す戻し経路について説明する。
【0096】
図5に示すように、戻し経路は、カップリング室Z2に開口する開口部94と、ギヤ室Z1に開口するオイル排出孔95と、カップリング室Z2の開口部94からギヤ室Z1のオイル排出孔95までカップリング室Z2の内周壁を当該カップリング室Z2の軸芯に対して斜めに下り勾配で貫通する貫通部96とからなる。
【0097】
また、第2ケース部材82の反ギヤ室側の端面、すなわち、第3ケース部材83との合わせ面から、ギヤ室側に向かって、カップリング室Z2の車両前後方向中間部まで、断面三角形状の溝部97が形成されている。カップリング室Z2の車両前後方向中間部は、第2ケース部材82の側壁部82bのカップリング室側壁面と第3ケース部材83の内側端面との間の中間部である。
【0098】
溝部97は、水平側面97aと垂直側面97bとからなる三角形の断面形状を有している。溝部97の水平側面97aは、カップリング室Z2に貯留する潤滑油の最小レベルと同じ高さにある。水平側面97aは、必ずしも水平面でなくてもよいが、カップリング室Z2の半径方向内方に下り勾配で傾斜する傾斜面とし、水平側面97aに潤滑油が球倣いようにする。垂直側面97bは、後述する抜き型103の第2型103bが斜め上方に離型できるように、垂直面とする。溝部97を形成するために、第2ケース部材82の外面の厚肉部を利用したり、第2ケース部材82の外面に膨出部97cを形成する。戻し経路の開口部94は、溝部97のギヤ室側端面97dと水平側面97aに跨って形成されている。
【0099】
図4(a)に示すように、カップリング室Z2の側壁部82aには、オイル供給孔90の下方で、カップリング室Z2の軸心に対してオイル供給孔90の反対側に、戻し経路の
排出口91が設けられている。排出口91は、駆動ギヤ13と被駆動ギヤ14との噛み合い部Xから離れた位置にある。
【0100】
排出口91は、図4(c)に示すように、支持部82bの外周面82cに沿う円弧状の第1排出凹部91aと、該第1排出凹部91aの下流端から下方に延びる第2排出凹部91bとからなっている。第1排出凹部91aの上流端には、カップリング室Z2からギヤ室Z1に開口する略直角三角形のオイル排出孔95が形成されている。オイル排出孔95は、カップリング室Z2の開口部94より低い位置に形成されている。
【0101】
排出口91には、ギヤ室Z1の外面と連通するセンサ取付穴91cが形成され、該センサ取付穴01cに油温センサ98が取り付けられるようになっている。センサ取付穴91cに取り付けられた油温センサ98は、排出口91を常に流れる潤滑油に接触するので、カップリング室Z2に貯留する潤滑油に浸漬しなくても、潤滑油の温度を正確に検出することができる。温度センサ98で潤滑油の温度を検出し、潤滑油の温度が異常に上昇すると、四輪駆動を二輪駆動に切り換える等の処置とることができる。
【0102】
<カップリング室潤滑経路>
続いて、カップリング室Z2の潤滑油を車体後方側の第3ケース部材83にある軸受68,69に案内するカップリング室潤滑経路について説明する。
【0103】
カップリング室潤滑経路は、図6に示す第2ケース部材82の内周面に形成された潤滑溝部99と、図7に示す第3ケース部材83の内側に取り付けられた案内部材100とからなる。
【0104】
図6に示すように、潤滑溝部99は、カップリング室Z2の内周面のうち、戻り経路の溝部97が形成された側と反対側の半周面に、第2ケース部材82の側壁部82aのカップリング室側壁面から、第2ケース部材82の反ギヤ室側の端面、すなわち、第3ケース部材83との合わせ面まで、車体後方側に向かって下り勾配で傾斜するように形成されている。潤滑溝部99の上端は、カップリング室Z2の頂部よりやや低い高さに位置し、潤滑溝部99の下端は、カップリング室Z2の軸心とほぼ同じ高さに位置している。
【0105】
潤滑溝部99は、カップリング室Z2の横断面で見たとき、水平な流動面99aと、該流動面99aの径方向内側に位置する凸部99bと、流動面99aの径方向外側に位置する側面部99cとで形成されている。
【0106】
流動面99aは、カップリング室Z2の下部に貯留され、メインクラッチ21等の回転部材の回転によって掻き上げられる潤滑油を面上に受け入れて重力で流動させるように傾斜している。流動面99aは、上端から下端まで同一の傾斜面上に形成され、車両が30%(16.7度)の勾配を降坂するときでも潤滑油が車両後方側に流れるように、20度の傾斜角を有している(図14参照)。凸部99bの上面は、カップリング室Z2の内周面と曲面で連続し、凸部99bの上面と流動面99a側の側面は曲面で連続し、凸部99bの側面は流動面99aと曲面で連続している。また、流動面99aと側面部99cとは曲面で連続している。凸部99bは、流動面99a上を流れる潤滑油がカップリング室Z2の内側に流出するのを防止する。換言すれば、凸部99bは流動面99a上を流れる潤滑油の高さを規定する。
【0107】
潤滑溝部99の上方側には、カップリング室Z2と潤滑溝部99を成形する内型の離型を可能にするするために、側面部99cと連続する分離用凹部99dが形成されている。分離用凹部99dは、潤滑溝部99の上端からカップリング室Z2の内周面上をカップリング室Z2の軸方向に第2ケース部材82の端面まで延びる上縁99eと、該上縁99eからカップリング室Z2の内周面より径方向外側に凹んで潤滑溝部99の側面部99cと連続する曲面部99fとで形成され、カップリング室Zの内側から見て三角形の形状を有している。
【0108】
図7に示すように、第3ケース部材83の内側に取り付けられる案内部材100は、オイル受入部100aと、オイル案内部100bと、取付部100cとを備えている。
【0109】
オイル受入部100aは、上端が第2ケース82のカップリング室Z2の潤滑溝部99の下端に当接し、潤滑溝部99と同じ勾配で傾斜して、第3ケース83の軸方向に下端まで延びる桶状の形状を有している。
【0110】
オイル案内部100bは、オイル受入部100aの下端から第3ケース83の半径方向に、軸受68の支持部83aの一部に形成された溝部83bを通って、軸受68の近傍まで延びる桶状の形状を有している。
【0111】
取付部100cは、オイル受け部100aの径方向外側の側壁から下方に突出する板状の形状を有している。取付部100cには、第3ケース部材83の内周面に形成された取付凹部83cに圧入される取付用突起100dが設けられている。
【0112】
案内部材100は、取付部100cの取付用突起100dを第3ケース部材83の取付凹部83cに圧入することで、第3ケース部材83の内側に取り付けられる。これにより、車体前方側から第2ケース部材82の潤滑溝部99を通って流動してくる潤滑油を案内部材100を介して、車体後方側に位置する第3ケース部材83の軸受68及びその近傍の軸受け69を潤滑するようになっている。
【0113】
図8図9を参照して、導入経路と戻し経路を成形する金型の一例について説明する。 図8(a)に示すように、第2ケース部材82のギヤ室Z1を成形する第1内型101には、第2ケース部材82の側壁82aに後輪用出力軸11及び動力伝達部材36の軸孔を形成するための第1凸部101aと、オイル供給孔90を形成するための第2凸部101bと、排出口91を成形するための第3凸部101cとが形成される。
【0114】
また、第2ケース部材82のカップリング室Z2を成形する第2内型102は、溝部97と貫通部96を成形するための抜き型103が添えられる。抜き型103は溝部97を成形する断面三角形の棒状の第1型103aと、該第1型103aの先端から斜め下方に延びる貫通部96を形成する断面三角形の棒状の第2型103bとからなる。第2型103bの先端は第1内型101の第3凸部101cと当接する。
【0115】
さらに、図8(b)に示すように、第2ケース部材82のカップリング室Z2を成形する第2内型102の外周面には、潤滑溝部99を成形する第1凸部102aと、分離用凹部99dを成形する第2凸部102bとが連続して一体に形成される。
【0116】
なお、第1内型101及びその第1凸部102a、第2凸部102b、第3凸部102cには、軸方向に平行な矢印P1方向に離型できるように抜き勾配が設けられ、第2内型102及びその第1凸部102bにも軸方向に平行な矢印P2方向に離型できるように抜き勾配が設けられている。特に、第2内型102の第1凸部102aのうち、潤滑溝部99の凸部99bの流動面99a側の側面を成形する面は、P2軸方向に軸方向に平行な矢印P1方向に離型できるように抜き勾配が設けられている。また、第2内型102に添えられる抜き型103の第1型103には、貫通部96の軸方向に平行な矢印P3方向に離型できるように抜き勾配が設けられている。
【0117】
図9に示すように、第1内型101と第2内型102をそれぞれ矢印P1、P2方向に離型した後、抜き型103を、貫通部96を形成する第2型103bの軸と同一のP3方向に引き抜くことで離型することができる。これにより、ギヤ室Z1の成形と同時に、オイル供給口90と排出口91が形成される。また、カップリング室Z2の成形と同時に、溝部97、開口部94、オイル排出孔95、貫通部96が成形されるとともに、潤滑溝部99が成形される。
【0118】
(潤滑油案内構造の作用)
続いて、本実施形態のカップリング20を冷却するための潤滑油案内構造の作用について説明する。
【0119】
まず、図3に示すように、トランスファ装置10では、駆動時に駆動ギヤ13に嵌合された被駆動ギヤ14が回転するとともに、該被駆動ギヤ14によってギヤ室Z1に貯留された潤滑油が掻き上げられて、駆動ギヤ13側が潤滑される。
【0120】
また、本実施形態においては、前述のように、被駆動ギヤ14のヘリカルギヤの歯面14bが回転方向R1の前方側となる方の側部14cが、車体前方側となるように形成されている(図3参照)。
【0121】
これにより、図3に示すように、被駆動ギヤ14の歯面14bの潤滑油は、静的な状態において被駆動ギヤ14の歯面14bの傾斜に沿って矢印R2方向に流れようとするが、被駆動ギヤ14は、矢印R1方向に回転しているので、潤滑油は、車体後方側には飛散しやすくなる。
【0122】
そして、被駆動ギヤ13の車体後方側には、オイルパス93が設けられているので、
被駆動ギヤ14から車体後方側に飛散する潤滑油が受け止められ、被駆動ギヤの回転に伴って、オイルパス93の基本面部93aに沿って周方向に流動し、切欠き部93dを経て、オイル供給孔90に流入する。これにより、ギヤ室Z1の潤滑油を効果的にカップリング室Z2に供給することができる。
【0123】
また、図4(b)の矢印R4に示すように、被駆動ギヤ14で掻き上げられるとともに飛散された潤滑油は、オイル供給孔90のガイド部90aにガイドされる。また、オイル供給孔90は、支持部82bの外周に沿って設けられているので、被駆動ギヤ14から駆動ギヤ13側へ飛散した潤滑油は、支持部82b外周面82cの一部を案内部90eとして機能させて、矢印R5に示すようにオイル供給孔90に導かれる。
【0124】
図10、11に示すように、ギヤ室Z1から、導入経路を構成するオイル供給孔90を通ってカップリング室Z2に導入され潤滑油は、第2ケース部材82と第3ケース部材83の底に貯留される。潤滑油の油面レベルがカップリング室Z2の前後軸方向中間部の下部に形成された戻し経路の開口部94を越えると、該開口部94から貫通部96、オイル排出孔95を通って排出口91からギヤ室Z1に戻される。カップリング室Z2に貯留された潤滑油は回転するカップリング20により撹拌されながら、当該カップリング20を冷却する。
【0125】
なお、戻し経路の開口部94はオイル供給孔90よりも低い位置とされているため、カップリング室Z2に貯留される潤滑油の量は適切なオイルレベルに保持される。
【0126】
これにより、カップリング20の回転による攪拌抵抗を抑制することができるので、効率よくカップリング20を冷却することができる。
【0127】
また、カップリング室Z2においてカップリング20の冷却のために利用された潤滑油が、ギヤ室Z1に戻されることで、ギヤ室Z1の下部で冷却された潤滑油をカップリング室Z2に再度供給することができる。
【0128】
したがって、冷却された潤滑油によってカップリング20を冷却することができるので、より効率よくカップリング20を冷却することができる。その結果、潤滑油を必要以上に増加させることなく、駆動ギヤ13および被駆動ギヤ14の潤滑と、カップリング20の冷却とを効率よく実現することができる。
【0129】
図10に示すように、カップリング室Z2を形成する第2ケース部材82は、その上部に突出する凸部でなる複数のフィン82d…82dが設けられている。これにより、カップリング室Z2に供給される潤滑油を第2ケース部材82の複数のフィン82d…82dを介した熱交換を実施することができる。
【0130】
また、カップリング室Z2と、カップリング20との間には、隙間S1が設けられている。カップリング室Z2の下部においては、カップリング20に対する隙間S2がその他の隙間S1よりも狭められて設けられている。
【0131】
カップリング室Z2の下部に貯留された潤滑油は、カップリング20の回転によって攪拌され、カップリング室Z2の上部側へ引き上げられる。このとき、カップリング室Z2の下部とカップリング20との隙間が狭められているので、潤滑油の流速が速められることで、カップリング室Z2のより上部側へ引き上げることができる。
【0132】
また、カップリング室Z2の上部は、複数のフィン82d…82dによって冷却されているため、上部側へ引き上げられた潤滑油が冷却されることになり、この冷却された潤滑油によって、カップリング20がより効率よく冷却されることができる。
【0133】
車両が下り坂等で前方に下向きに傾斜した状態で走行する時、トランスファ装置10も車両前方に下向きに傾斜する。図12に示す従来のように、オイル排出孔95´が側壁部82aで開口していると、オイル排出孔95´から多量の潤滑油がギヤ室Z1に排出され、カップリング室Z2の潤滑油が減少し、カップリング20の冷却効果が低減する。
【0134】
本発明では、図13(a)に示すように、戻り経路の開口部94は、カップリング室Z2の中間部に開口し、オイル排出孔95より高い位置にある。このため、車両が前方に下向きに傾斜していても、カップリング室Z2内の潤滑油は、オイル排出孔95からは排出されず、オイル排出孔95より高い開口部94の位置に維持される。
【0135】
このように、カップリング室Z2内の潤滑油の量が確保されるので、図13(b)に示すように、車両が上り坂等で後方に下向きに傾斜した状態で走行する時でも、カップリング20を十分に冷却することができる。
【0136】
カップリング室Z2内の潤滑油の量が確保されても、車両が前方に下向きに傾斜した状態で走行する時には、カップリング室Z2の後方の軸受68,69(図2参照)は潤滑油の油面レベルより上方になるので、潤滑油が不足する。本発明では、図14(a)に示すカップリング室潤滑経路の潤滑溝部99と案内部材100により、カップリング室Z2の後方側の軸受68,69に潤滑油が供給される。
【0137】
すなわち、図14(b)に示すように、カップリング20により掻き上げられた潤滑油はカップリング室Z2の内周面に飛散し、その一部はカップリング室Z2の内周面に設けられた潤滑溝部99に受け入れられ、流動面99aの傾斜に沿って自重で車両の後方に流動する。潤滑溝部99を流れる潤滑油は、凸部99b(図6参照)によりカップリング室Z2の内部に流れ落ちるのが防止される。
【0138】
潤滑溝部99の下端に達した潤滑油は、第3ケース部材83内に取り付けられた案内部材100のオイル受入部100aに受け入れられ、該オイル受入部100aを下方に流れて、その下流端から向きを変えてオイル案内部100bを第3ケース部材83の半径方向に流れ、軸受68,69に供給される。これにより、図14(b)に示すように、車両が前方に下向きに傾斜した状態で走行する時でも、カップリング室後部の軸受68,69が潤滑不足となることがない。
【0139】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【0140】
例えば、潤滑油の戻し経路は、前記実施形態では、カップリング室Z1に開口する開口部94からギヤ室Z1に開口するオイル排出孔95までをカップリング室Z1の内周壁を貫通する貫通部96で形成しているが、カップリング室Z1の外側に設けたパイプにより、開口部94とオイル排出孔95を連結するようにしてもよい。
【0141】
また、前記実施形態は、FRベースの四輪駆動の車両に適用したトランスファ装置であるが、本発明はRFベースの四輪駆動車にも適用できる。
【符号の説明】
【0142】
10 トランスファ装置
13 駆動ギヤ(第1ギヤ)
14 被駆動ギヤ(第2ギヤ)
20 カップリング
82a 側壁部
90 オイル供給孔
91 排出口
94 開口部
95 オイル排出孔
96 貫通部
97 溝部
98 油温センサ
103 抜き型
X 噛み合い部
Z1 ギヤ室
Z2 カップリング
図1
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