(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】車両のクォータホイールハウス
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20220614BHJP
B60K 15/04 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B62D25/08 L
B60K15/04 D
(21)【出願番号】P 2018242325
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 訓司
(72)【発明者】
【氏名】照山 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】益山 司
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-162467(JP,A)
【文献】特開2002-337736(JP,A)
【文献】特開平08-276866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
B60K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内に給油管の端部が配置された開口が上部に形成され
たホイールハウスアウタと、
車両の左右方向において前記ホイールハウスアウタの内側に位置し、前記ホイールハウスアウタに接合されて当該ホイールハウスアウタと共にホイールハウスを形成するホイールハウスインナであって、前方に配置されたホイールハウスインナフロントと、後方に配置され、前記ホイールハウスインナフロントの後縁と前縁にて接合されたホイールハウスインナリアとを含むホイールハウスインナと、
を備え、
ホイールハウスアウタの上面には、車両の前後方向において前記開口の後方
かつ前記ホイールハウスインナリアの前縁の位置または前記前縁より前方に、車両の左右方向に延びるビードが形成されている、
車両のクォータホイールハウス。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のクォータホイールハウスであって、前記ホイールハウスインナフロントの板厚が、前記ホイールハウスインナリアの板厚より薄い、車両のクォータホイールハウス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のクォータホイールハウスに関し、特にその構造に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車などの車両の多くは、車体後部に後輪の前後および上方を囲むように設けられたクォータホイールハウスを有する。また、車体後部には、燃料タンクに燃料を導入するために給油管が配置される。クォータホイールハウスに開口が設けられ、この開口内に給油管の端部が配置される場合がある。下記特許文献1には、オープンカー(V)の車体後部の構造、特にクォータホイールハウス(リアホイールハウス13)の周囲の構造が示されている。また、段落0049等に、後面衝突時におけるクォータホイールハウス(13)の変形について言及されている。なお、上記の( )内の部材名および符号は、下記特許文献1で用いられている符号であり、本願の実施形態の説明で用いられる部材名および符号とは関連しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クォータホイールハウスに設けられた開口内に給油管の端部が配置される場合、後面衝突時に、給油管の端部が、変形したクォータホイールハウスから荷重を受ける場合がある。
【0005】
本発明は、後面衝突時に、クォータホイールハウスから給油管の端部に伝わる荷重を低減する、または荷重が伝わらないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両のクォータホイールハウスは、内に給油管の端部が配置された開口が上部に形成されたホイールハウスアウタと、車両の左右方向においてホイールハウスアウタの内側に位置し、ホイールハウスアウタに接合されて当該ホイールハウスアウタと共にホイールハウスを形成するホイールハウスインナとを備え、ホイールハウスインナは、前方に配置されたホイールハウスインナフロントと、後方に配置され、ホイールハウスインナフロントの後縁と前縁にて接合されたホイールハウスインナリアとを含み、ホイールハウスアウタの上面には、車両の前後方向において、内に給油管の端部が配置された開口の後方かつホイールハウスインナリアの前縁の位置またはこの前縁より前に、車両の左右方向に延びるビードが形成されている。
ホイールハウスインナフロントの板厚を、ホイールハウスインナリアの板厚より薄いものとすることができる。
【発明の効果】
【0007】
後面衝突時、ビードが屈曲の起点となってクォータホイールハウスが変形し、ビードより前方にある開口周囲の変形が抑制され、給油管の端部に伝わる荷重を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】コンバーチブル車の車体後部の構造を示す斜視図である。
【
図2】クォータホイールハウスおよびその周囲の概略構成を斜め後方から見た状態を示す斜視図である。
【
図3】クォータホイールハウスおよびその周囲の概略構成を側方かつ斜め上方から見た状態で示す斜視図である。
【
図4】クォータホイールハウスおよびその周囲の概略構成を示す平面図である。
【
図5】クォータホイールハウスおよびその周囲の概略構成を示す側面図である。
【
図6】クォータホイールハウスの開口周囲を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。以下の説明において、特段の断りがない限り、前後左右上下等の方向および向きを表す語句は、車両に関する方向および向きを表す。また、車両の左右方向(幅方向)において車両の前後方向に延びる中心線に近い側を車幅方向内側、遠い側を車幅方向外側と記す。各図において、矢印FRの向きが前方、矢印UPの向きが上方、矢印LHの向きが左方、矢印OUTの向きが車幅方向外側である。
【0010】
図1は、ルーフ格納式のオープンカー(コンバーチブル車)の車体10、特に車体後部を概略的に示す斜視図である。車体10の後部左右には、車両外板の一部であるクォータパネル12が配置される。多くの場合、左右のいずれかのクォータパネル12、図示する例では左のクォータパネル12に、燃料の供給口を覆うフューエルリッド14が設けられている。給油の際には、フューエルリッド14を開いて、内部に配置された給油口を露出させる。
【0011】
クォータパネル12の車幅方向内側には、クォータホイールハウス16が位置している。クォータホイールハウス16は、側方から見たとき、後輪(不図示)の前後および上方をアーチ状に囲んでいる。また、クォータホイールハウス16を後方から見たとき、上部は、上方に湾曲しており、上下動するホイールの可動空間が確保されている。以下、クォータホイールハウス16をホイールハウス16と記す。
【0012】
図2~
図5は、給油口が設けられた側のホイールハウス16およびその周囲の概略構成を示す図である。
図2は斜め後方から、
図3は側方から見下ろした状態を示す斜視図であり、
図4は平面図、
図5は側面図である。
【0013】
ホイールハウス16は、ホイールハウスアウタ18と、ホイールハウスアウタ18の車幅方向内側に位置するホイールハウスインナ20を接合して形成される。ホイールハウスアウタ18およびホイールハウスインナ20は、共に鋼板などの板金製である。ホイールハウスインナ20は、前後に配置された2つの部分からなる。ホイールハウスインナ20の前側の部分をホイールハウスインナフロント22、後側の部分をホイールハウスインナリア24と記す。ホイールハウスインナフロント22の後縁とホイールハウスインナリア24の前縁は、重ねられて、溶接、例えばスポット溶接により接合されている。重ねられたホイールハウスインナリア24の前縁24aが
図4において破線で示されている。
【0014】
ホイールハウスアウタ18と、ホイールハウスインナ20の互いに対向する縁には、それぞれアウタフランジ26およびインナフランジ28が設けられ、これらがスポット溶接され、接合されている。
【0015】
ホイールハウス16の上部の前部には、給油管30の上端部分を収容するための給油管収容部32が上方に膨出して設けられている。膨出した部分の内部の空間に給油管30が配置される。ここから、給油管30はホイールハウス16の内側空間、特に内側壁面に沿って下方に向かい、内側壁面の下縁から車幅方向内側に延びて、燃料タンク(不図示)に向かう。給油管収容部32は、ホイールハウスアウタ18に設けられた外側部分32aと、ホイールハウスインナ20に設けられた内側部分32bから構成される。
【0016】
給油管収容部32、特に外側部分32aには、車幅方向外側に向き、特に斜め上方に向いた開口34が形成されている。開口34内には、給油管30の、給油口を有する端部(以下、給油管端部36と記す。)が位置する。この例では、給油管端部36は、一部が開口34から出るように配置されている(
図2参照)。
【0017】
ホイールハウスアウタ18の開口34の周囲には、概略環状の補強板38が配置され、接合されている。補強板38は、上縁に補強板フランジ40を有し、この補強板フランジ40は、ホイールハウスアウタ18およびホイールハウスインナ20のアウタフランジ26およびインナフランジ28と共に重ねられて一緒にスポット溶接されている。
【0018】
ホイールハウスインナリア24には、上方に膨出するようにサスペンションタワー42が形成されている。サスペンションタワー42の内部には、サスペンションのスプリングやショックアブソーバなどの上端部が収容され、これらはサスペンションタワー42の上部に結合されている。サスペンションタワー42およびこの周囲の剛性は、操縦性等に大きく影響を与える。特に、オープンカーの場合、ルーフ等の上部構造による剛性確保が期待できないため、上部構造以外の部分の剛性、例えばサスペンションタワー42自体の剛性を高めている。このため、ホイールハウスインナリア24の板厚は、ホイールハウスインナフロント22に比べて厚くなっている。この例においては、ホイールハウスインナリア24の板厚は、ホイールハウスインナフロント22の約3倍である。
【0019】
ホイールハウスインナ20の上面であって、サスペンションタワー42とインナフランジ28の間には、格納式ルーフ(不図示)の開閉を行うルーフ開閉機構のリンク群44が配置されている。リンク群44を構成する各リンクは、ホイールハウスインナ20の上面に固定されたベース板46に対して回動可能に、または互いに回動可能に、場合によってはスライドを許容して結合されている。この例では、ベース板46は、ホイールハウスインナリア24に固定され、その前端は、ホイールハウスインナリア24の前縁24aとほぼ同じ位置にある。
図5に示されるように、ホイールハウス16の前方には、クォータウインドゥガラスを昇降するためのウインドゥレギュレータのガイド板48が配置されている。ガイド板48には、複数のスロットが形成され、このスロットに沿ってフォロワ49が移動し、フォロワ49に保持されたウインドゥガラスが昇降する。
【0020】
後面衝突時、後方からの衝突荷重によってホイールハウス16は前後方向につぶれる。ホイールハウス16の変形に伴って、給油管30、特に給油管端部36が変形しないようにする必要がある。また、ホイールハウス16の前方には、ウインドゥレギュレータのガイド板48があり、ガイド板48に阻まれてホイールハウス16全体が前方に移動することができない。この結果、変形したホイールハウス16によって給油管端部36が変形する可能性がある。したがって、後方からの荷重によって、開口34より後方でホイールハウス16を変形させて開口34の周囲の変形を抑制する必要がある。
【0021】
このホイールハウス16においては、内に給油管端部36が配置された開口34の後方にビード50が形成されている。特に、ビード50は、補強板38より後方に形成することができる。ビード50は、左右方向に延びており、ホイールハウスアウタ18の上面を凹ませて形成されている。ビード50は、上面を凸にするように膨出形状に形成されてもよい。ビード50を設けたことにより、この部分が前後方向の荷重に対して屈曲しやすい、脆弱な構造となる。後方から衝突荷重が加わると、ビード50の部分が周囲に対して脆弱なために、ビード50を起点にホイールハウス16の上面が屈曲し、ビード50より前方に位置する給油管収容部32の変形が抑制され、給油管収容部32の内部の給油管端部36の変形が回避される。
【0022】
ビード50は、ホイールハウスインナフロント22とホイールハウスインナリア24の接合部分(特に、接合部分の車幅方向外側の端)よりも前に位置するようにできる。前述のようにホイールハウスインナリア24は厚いので、剛性および強度が高い。また、リンク群44が結合されたベース板46も、ホイールハウスインナリア24に取り付けられており、ホイールハウスインナリア24の上部の強度を高めている。よって、ホイールハウスインナリア24は、変形が容易でなく、後面衝突時においては、これより前の部分を変形させる方が容易である。したがって、ホイールハウスインナリア24の前縁24aの位置、またはそれよりも前の位置にビード50を設け、ここに屈曲の起点を形成する。
【0023】
図6は、ホイールハウスアウタ18の開口34の周囲を拡大した図である。アウタフランジ26、インナフランジ28および補強板フランジ40の溶接点52が「×」で示されている。ビード50の上方においては、溶接点52の間隔が他の部分より広げられ、この部分での屈曲を容易にしている。ビード50を挟む2つの溶接点52のうち、前方の溶接点を第1溶接点52-1、後方の溶接点を第2溶接点52-2と記す。第1溶接点52-1の前方の隣接する溶接点52を第3溶接点52-3と記し、第2溶接点52-2の後方の隣接する溶接点52を第4溶接点52-4と記す。第1溶接点52-1と第2溶接点52-2の間隔は、第1溶接点52-1と第3溶接点52-3の間隔よりも広く、また第2溶接点52-2と第4溶接点52-4の間隔よりも広い。溶接点52のうちアウタフランジ26、インナフランジ28および補強板フランジ40を一緒に溶接している溶接点、第3溶接点52-3、および第1溶接点52-1において、隣接する溶接点52の間隔は等しくすることができ、さらにスポット溶接可能な最小の間隔とすることができる。第2溶接点52-2と第4溶接点52-4の間隔も、第1溶接点52-1と第3溶接点52-3の間隔と等しくすることができる。ビード50の位置で、溶接点52の間隔を広げたことにより、ビード50周辺の部分の強度を低くすることができ、この部分が屈曲しやすくなる。
【0024】
以下に、本発明の他の態様を記す。
[1]
内に給油管の端部が配置された開口が上部に形成されたホイールハウスアウタと、
車両の左右方向において前記ホイールハウスアウタの内側に位置し、前記ホイールハウスアウタに接合されて当該ホイールハウスアウタと共にホイールハウスを形成するホイールハウスインナと、
を備え、
ホイールハウスアウタの上面には、車両の前後方向において前記開口の後方に、車両の左右方向に延びるビードが形成されている、
車両のクォータホイールハウス。
[2]
上記[1]に記載の車両のクォータホイールハウスであって、
前記ホイールハウスアウタと前記ホイールハウスインナそれぞれの上縁にはフランジが設けられ、前記フランジ同士が所定の溶接点でスポット溶接されて、当該ホイールハウスアウタと当該ホイールハウスインナが接合され、
前記溶接点は、
前記ビードの位置より前方に位置する第1溶接点と、
前記ビードの位置より後方に位置し、前記第1溶接点と隣接する第2溶接点と、
を含み、
前記第1溶接点と前記第2溶接点の間隔は、前記第1溶接点とそれより1つ前の溶接点との間隔、および第2溶接点とそれより1つ後の溶接点との間隔よりも広い、
車両のクォータホイールハウス。
[3]
上記[1]または[2]に記載の車両のクォータホイールハウスであって、
前記ホイールハウスインナは、前方に配置されたインナフロントと、後方に配置され、前記インナフロントと接合されたインナリアとを含み、
前記ビードは、車両の前後方向において、前記インナリアの前縁の位置、またはこれより前に位置する、
車両のクォータホイールハウス。
[4]
上記[3]に記載の車両のクォータホイールハウスであって、前記インナリアにサスペンションタワーが形成され、インナフロントの板厚が、インナリアの板厚より薄い、車両のクォータホイールハウス。
[5]
上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の車両のクォータホイールハウスであって、前記ホイールハウスアウタの前記開口周囲に補強板が接合されている、車両のクォータホイールハウス。
[6]
上記[5]に記載の車両のクォータホイールハウスであって、前記ビードは、車両の前後方向において、前記補強板より後方に位置している、車両のクォータホイールハウス。
[7]
上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の車両のクォータホイールハウスであって、オープンカーのクォータホイールハウスである、車両のクォータホイールハウス。
【符号の説明】
【0025】
10 車体、12 クォータパネル、14 フューエルリッド、16 クォータホイールハウス、18 ホイールハウスアウタ、20 ホイールハウスインナ、22 ホイールハウスインナフロント、24 ホイールハウスインナリア、26 アウタフランジ、28 インナフランジ、30 給油管、32 給油管収容部、32a 外側部分、32b 内側部分、34 開口、36 給油管端部、38 補強板、40 補強板フランジ、42 サスペンションタワー、44 リンク群、46 ベース板、48 ガイド板、49 フォロワ、50 ビード、52 溶接点。