(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】反芻動物用飼料添加組成物
(51)【国際特許分類】
A23K 50/10 20160101AFI20220614BHJP
A23K 10/20 20160101ALI20220614BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20220614BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20220614BHJP
A23K 20/142 20160101ALI20220614BHJP
A23K 40/30 20160101ALI20220614BHJP
【FI】
A23K50/10
A23K10/20
A23K10/30
A23K20/158
A23K20/142
A23K40/30
(21)【出願番号】P 2018547805
(86)(22)【出願日】2017-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2017039006
(87)【国際公開番号】W WO2018079748
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2016211131
(32)【優先日】2016-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】柴原 進
(72)【発明者】
【氏名】米丸 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 耕二
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 由紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 高彰
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/041371(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0045957(US,A1)
【文献】特開2000-060440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 - 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ、
(B)0.05重量%以上6重量%以下のレシチン、
(C)30重量%以上65重量%未満の生物学的活性物質、
(D)0.01重量%以上0.8重量%未満の天然植物油、及び
0.1重量%以上6重量%未満の水
を含有することを特徴とする、反芻動物用飼料添加組成物。
【請求項2】
前記(D)が、0.1重量%以上0.4重量%未満の天然植物油である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記天然植物油が、大豆油、パーム油、菜種油、キャノーラ油、オリーブ油、アーモンド油、アボカド油及びベニバナ油からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記天然植物油が、炭素原子数18の不飽和脂肪酸を、該天然植物油の構成脂肪酸に対して60重量%以上95重量%以下含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記天然植物油が、オレイン酸を、該天然植物油の構成脂肪酸に対して55重量%以上90重量%以下含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記天然植物油が、オリーブ油である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記生物学的活性物質が、アミノ酸、ビタミン及びビタミン様物質からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
生物学的活性物質を実質的に含有しない層を表層に有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
生物学的活性物質を実質的に含有しない層の厚さが、30μm以上110μm以下である、請求項8記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻動物用飼料添加組成物に関する。より詳細には、ルーメンにおける高い保護性を備え、且つ、消化管における溶出性にも優れる反芻動物用飼料添加組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
反芻動物が飼料を摂取すると、第一胃(ルーメン)に生息する微生物が栄養源として飼料中の栄養素の一部を吸収する。この機能により、反芻動物は直接には消化できない物質を栄養素として吸収することができる。たとえば、微生物はセルロースを消化し生成した糖類で揮発性有機化合物を発酵生産する。その生産物を反芻動物は栄養として吸収する。一方で、反芻動物に直接吸収させたい栄養源があった場合でも、微生物が消化してしまうため、反芻動物は微生物が発酵して生産する物質しか吸収することができない。
【0003】
反芻動物の健康状態を向上させ、その生産物(例えば、牛乳、食肉等)の生産性を向上させるためには、通常の飼料を補完する栄養素を供与することが望ましい場合がある。
このような場合には、生物学的活性物質(栄養素)が微生物に摂取されずに、効果的に吸収されるよう、ルーメンにおいて栄養素が保護され、その後第四胃以降の消化管で栄養素が吸収されるような反芻動物用飼料添加製剤が用いられている。
【0004】
泌乳牛等の反芻動物の飼料製剤には、従来、栄養素である生物学的活性物質のルーメンでの保護性を向上させることを目的として、油脂等で生物学的活性物質を被覆することが行われてきた。そして、消化管における溶出性を向上させること等を目的として、溶出促進効果のある油脂が用いられることがある。例えば、低融点油脂は、リパーゼ等の腸の消化酵素によって分解され易いため、その添加によって消化管における生物学的活性物質の溶出性を向上させ得ることが報告されている(特許文献1)。また、油脂以外の物質も使用されることがあり、例えば、レシチンはその乳化剤としての作用から、反芻動物の消化管において、飼料製剤からの生物学的活性物質の溶出促進剤として使用されることもある。
【0005】
一方、反芻動物が飼料製剤を摂取すると、飼料製剤はルーメン(第一胃)に数時間から数十時間滞留するため、生物学的活性物質の一部がルーメンに常在するプロトゾア等の微生物に摂取されてしまうが、レシチン及び低融点油脂等の溶出促進剤は、ルーメンにおける生物学的活性物質の溶出を誘引し、その結果、飼料製剤のルーメンにおける保護性が低下するという問題があった。
【0006】
特開2005-312380号公報(特許文献2)には、保護剤として硬化油を含み、更にレシチン及び炭素数12~22の飽和又は不飽和脂肪酸モノカルボン酸塩を含む混合物から、該保護剤の液状化温度(50~90℃)で空気中に噴射する噴射造粒法で、直径0.5~3mmの球状に固化した分散型のルーメンバイパス剤を製造する方法が記載されている。特許文献2には、レシチン及びステアリン酸を含有させることにより、第一胃での保護性と第四胃での放出性に優れたルーメンバイパス剤が得られることが開示されている。一方で、特許文献2には、当該製造方法により、L-リジン塩酸塩を40.0重量%含有したルーメンバイパス剤を製造できることが記載されているが、特許文献2に記載された製造方法では噴射ノズルを通過させるために低い粘度の混合物を用いる必要があり、40重量%を越える高含有量のL-リジン塩酸塩含有製剤は得ることができない。
【0007】
特許5,040,919号公報(特許文献3)には、融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油又は硬化動物油から選ばれる少なくとも1種の保護剤、レシチン、40重量%以上65重量%未満の塩基性アミノ酸及び0.01乃至6重量%の水を含有する、分散型の反芻動物用飼料添加組成物が記載されている。当該組成物は、塩基性アミノ酸を40重量%以上の高含量で含有する。また特許文献3には、当該組成物が、0.06重量%のレシチンによる保護率向上効果と、水分含量のコントロールによる保護率向上効果とを有することが記載され、また高いルーメン通過率を達成し得ることが記載されている。
【0008】
米国特許出願公開第2012/244248号明細書(特許文献4)には、造粒したリジン硫酸塩(粒径0.3~3mm)を、硬化油とレシチン、ステアリン酸、オレイン酸及びパーム油のいずれかの改質剤(modifying agent)との混合物によって、2層以上(望ましくは4層以上)で被覆する反芻動物飼料添加物が記載されている。当該飼料添加物におけるリジン硫酸塩造粒物の含有量は50%以上60%以下(リジン塩酸塩換算で37%以上45%以下)である。また当該飼料添加物は改質剤を0.5~10%含有しており、特許文献4の実施例では2~4%の改質剤が添加されている。改質剤を使用することでこの製剤の被覆層にある細かな傷や割れ目や小さな穴を減らすことができ、特許文献4には、上記飼料添加物のルーメンバイパス率は50%以上で、小腸消化率は70%以上であることが記載されている。
一方で、被覆型の飼料添加物は、反芻動物が飼料を咀嚼して割れた場合には著しくその性能が低下する。
【0009】
米国特許第8,137,719号明細書(特許文献5)には、脂肪酸塩と野菜油とリジン塩酸塩とを均一に混合した後、得られたペレットを成形することによって製造される製剤が記載されている。当該製剤は、リジンを15~25%含有しており、野菜油を1~5%含有している。当該製剤において、野菜油は液化調整剤(liquefiable conditioner)として用いられており、野菜油に限らず油、脂肪、遊離脂肪酸、脂質、レシチン、ワックス等を用いてもよい。特許文献5には、液化調整剤の明確な役割は記載されていないが、脂肪酸塩と液化調整剤とは均一な混合物を形成すると記載されている。特許文献5の実施例に記載されたリジン含有量はリジン塩酸塩換算で18.6~31%であり、含量が高いとは言いがたい。
【0010】
米国特許第8,182,851号明細書(特許文献6)は、パーム油蒸留残渣(PFUD)のカルシウム塩及び脂肪酸カルシウムで、リジン塩酸塩がコーティングされた製剤が記載されている。当該製剤は、カルシウム塩がルーメン通過後の酸性条件で溶解することでコアに含まれるリジン塩酸塩が溶出する。特許文献6の実施例には、リジン塩酸塩濃度が20%であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特公昭49-45224号公報
【文献】特開2005-312380号公報
【文献】特許5,040,919号号公報
【文献】米国特許出願公開第2012/244248号明細書
【文献】米国特許第8,137,719号明細書
【文献】米国特許第8,182,851号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の先行技術文献には、レシチン、野菜油、脂肪酸等を、液化調整剤(Liquefiable conditioner)、改質剤(modifying agent)又は溶出制御剤として用いることが開示されている。これらの成分のルーメン保護性への影響については実施例にて言及されているが、ルーメン通過後の腸内での溶出性への影響については開示されていない。本発明の課題は、生物学的活性物質を30重量%以上含有し、飼料給与時の咀嚼によって性能が低下することの少ない分散型であって、ルーメンにおける高い保護性を備え、且つ、消化管における溶出性にも優れる反芻動物用飼料添加組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、驚くべきことに、特定量のレシチン及び天然植物油を用いることによって、ルーメンにおける高い保護性を保持したまま、消化管における溶出性を高め得ることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0014】
[1](A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ、
(B)0.05重量%以上6重量%以下のレシチン、
(C)30重量%以上65重量%未満の生物学的活性物質、
(D)0.01重量%以上0.8重量%未満の天然植物油、及び
0.1重量%以上6重量%未満の水
を含有することを特徴とする、反芻動物用飼料添加組成物。
[2]前記(D)が、0.1重量%以上0.4重量%以下の天然植物油である、[1]記載の組成物。
[3]前記天然植物油が、大豆油、パーム油、菜種油、キャノーラ油、オリーブ油、アーモンド油、アボカド油及びベニバナ油からなる群より選択される少なくとも一つである、[1]又は[2]記載の組成物。
[4]前記天然植物油が、炭素原子数18の不飽和脂肪酸を、該天然植物油の構成脂肪酸に対して60重量%以上95重量%以下含有する、[1]~[3]のいずれか一つに記載の組成物。
[5]前記天然植物油が、オレイン酸を、該天然植物油の構成脂肪酸に対して55重量%以上90重量%以下含有する、[1]~[4]のいずれか一つに記載の組成物。
[6]前記天然植物油が、オリーブ油である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の組成物。
[7]前記生物学的活性物質が、アミノ酸、ビタミン及びビタミン様物質からなる群から選択される少なくとも一つである、[1]~[6]のいずれか一つに記載の組成物。
[8]生物学的活性物質を実質的に含有しない層を表層に有する、[1]~[7]のいずれか一つに記載の組成物。
[9]生物学的活性物質を実質的に含有しない層の厚さが、30μm以上110μm以下である、[8]記載の組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ルーメンにおける高い保護性を備え、且つ、消化管における溶出性にも優れる反芻動物用飼料添加組成物を提供することができる。
本発明の反芻動物用飼料添加組成物は、レシチン及び天然植物油の両方を特定濃度で含有することにより、レシチン及び天然植物油のいずれか一方のみ含有する場合と比較して、ルーメンにおける保護性を高く維持したまま、消化管における溶出性を一層促進できる。
本発明の反芻動物用飼料添加組成物によれば、多量の生物学的活性物質(例、アミノ酸等)を泌乳牛の小腸まで効率よく運搬することができるため、泌乳牛が栄養素として生物学的活性物質(例、アミノ酸等)を多量に吸収することができ、その結果、例えば、泌乳量生産を増大すること等を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1~5、比較例1、2及びコントロールの組成物の保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を示すグラフである。左の縦軸は、保護率及び溶出率のスケールを示し、右の縦軸はin vitro推定有効率のスケールを示す。
【
図2】実施例6~12及びコントロールの組成物の保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を示すグラフである。左の縦軸は、保護率及び溶出率のスケールを示し、右の縦軸はin vitro推定有効率のスケールを示す。
【
図3】実施例6~12及び参考例の組成物のin vitro推定有効率を、炭素原子数18の脂肪酸の不飽和比率に対してプロットしたグラフである。
【
図4】実施例1の組成物の生物学的活性物質を実質的に含有しない層を示すSEM写真である。
【
図5】実施例13及びコントロールの組成物の保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を示すグラフである。左の縦軸は、保護率及び溶出率のスケールを示し、右の縦軸はin vitro推定有効率のスケールを示す。
【
図6】実施例14、15及びコントロールの組成物の保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を示すグラフである。左の縦軸は、保護率及び溶出率のスケールを示し、右の縦軸はin vitro推定有効率のスケールを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の反芻動物用飼料添加組成物(以下において、「本発明の組成物」とも称する)は、(A)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油及び硬化動物油から選ばれる少なくとも一つ(以下において、「成分A」とも称する)、(B)レシチン(以下において、「成分B」とも称する)、(C)生物学的活性物質(以下において、「成分C」とも称する)、(D)天然植物油(以下において、「成分D」とも称する)及び水を含有することを特徴の一つとする。
本発明において「反芻動物用飼料添加組成物」とは、通常、反芻動物用飼料に添加されて、反芻動物が当該飼料を摂取する際にあわせて摂取される組成物をいう。ただし、反芻動物に摂取されさえすれば必ずしも飼料に添加されなくてもよく、例えば、本発明の組成物は単独で反芻動物に摂取され得る。
【0018】
[成分A]
本発明の組成物において、成分Aは保護剤として作用する。成分Aとして用いられる硬化植物油及び硬化動物油は、常温(25℃)で液状の植物油又は動物油に水素を添加して固化させたものであり、極度硬化油も包含する概念である。本発明において用いられる硬化植物油及び硬化動物油の融点は、通常50℃より高く、ルーメンにおける保護性に優れ得ることから、好ましくは55℃以上であり、より好ましくは60℃以上である。また、当該融点は、通常90℃より低く、消化管での溶出性に優れ得ることから、好ましくは80℃以下であり、より好ましくは70℃以下である。本発明において用いられる硬化植物油及び硬化動物油の融点は、日本農林規格に定める上昇融点測定法により、測定される。
【0019】
硬化植物油の具体例としては、大豆硬化油、パーム硬化油、菜種硬化油、キャノーラ硬化油、オリーブ硬化油、アーモンド硬化油、アボカド硬化油、落花生硬化油、綿実硬化油、コーン硬化油、サフラワー硬化油、ヒマワリ硬化油、紅花硬化油、米硬化油、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ロウ、ミツロウ等が挙げられ、産業上の入手が容易であることから、好ましくは大豆硬化油、大豆極度硬化油である。硬化動物油の具体例としては、牛脂、豚脂、鯨ロウ等が挙げられ、産業上の入手が容易であることから、好ましくは牛硬化油、豚硬化油である。これらの硬化植物油及び硬化動物油は単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0020】
本発明の組成物における成分Aの含有量は、本発明の組成物に対して、通常23重量%を超え、ルーメンにおける保護性に優れ得ることから、好ましくは30重量%以上であり、より好ましくは35重量%以上である。また当該含有量は、本発明の組成物に対して、通常60重量%未満であり、生物学的活性物質を高濃度で含有させ得ることから、好ましくは55重量%以下であり、より好ましくは50重量%以下である。
【0021】
[成分B]
成分Bとして用いられるレシチンは、乳化剤として作用し、生物学的活性物質の表面を改質して、当該活性物質を溶融された保護剤中で偏在させずに均一分散させると考えられる。
【0022】
レシチンの具体例としては、大豆レシチン、アブラナレシチン、なたねレシチン、ひまわりレシチン、サフラワーレシチン、綿実レシチン、トウモロコシレシチン、アマニレシチン、ごまレシチン、米レシチン、ヤシレシチン、パームレシチン等の植物性レシチン;卵黄レシチン等が挙げられ、産業上の入手が容易であることから、好ましくは植物性レシチンであり、より好ましくは大豆レシチンである。これらのレシチンは、例えば、水素添加物、酵素処理物、酵素分解物、レシチン分別物等であってよい。また、これらのレシチンは単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明の組成物における成分Bの含有量は、本発明の組成物に対して、通常0.05重量%以上であり、ルーメンでの保護性に優れ得ることから、好ましくは0.5重量%以上であり、より好ましくは1重量%以上である。また当該含有量は、本発明の組成物に対して、通常6重量%以下であり、ルーメンでの保護性に優れ得ることから、好ましくは5重量%以下であり、より好ましくは3重量%以下であり、特に好ましくは2重量%以下である。
【0024】
[成分C]
成分Cとして用いられる生物学的活性物質は、反芻動物に摂取され、その生体内において生理活性機能を示すことができる物質であれば特に制限されないが、例えば、アミノ酸、ビタミン、ビタミン様物質、酵素、タンパク、ペプチド等が挙げられ、プロバイオティクスの観点から、好ましくはアミノ酸、ビタミン、ビタミン様物質である。
【0025】
アミノ酸は、遊離のアミノ酸であってよく、又は生理学的に許容される塩であってもよい。アミノ酸の生理学的に許容される塩としては、例えば、無機塩基との塩、無機酸との塩および有機酸との塩等が挙げられる。無機塩基との塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩等が挙げられる。無機酸との塩としては、例えば、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等との塩が挙げられる。有機酸との塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸等との塩が挙げられる。アミノ酸は、L-体、D-体、DL-体のいずれも使用可能であるが、好ましくは、L-体、DL-体であり、さらに好ましくは、L-体である。
【0026】
アミノ酸の具体例としては、アルギニン、ヒスチジン、リジン、ヒドロキシリジン、オルニチン、シトルリン等の塩基性アミノ酸又はその生理学的に許容される塩;グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、トリプトファン、5-ヒドロキシトリプトファン、シスチン、システイン、メチオニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、フェニルアラニン、チロシン等の中性アミノ酸又はその生理学的に許容される塩;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸又はその生理学的に許容される塩等が挙げられ、乳牛への生理活性機能が高いことから、好ましくは塩基性アミノ酸又はその生理学的に許容される塩であり、中でも泌乳牛の乳量増産に最も重要と考えられることから、より好ましくはリジン又はその生理学的に許容される塩であり、特に好ましくはリジンの無機酸との塩であり、最も好ましくはリジン塩酸塩である。これらのアミノ酸は単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0027】
アミノ酸及びその生理学的に許容される塩は、天然に存在する動植物等から抽出し精製したもの、或いは、化学合成法、発酵法、酵素法又は遺伝子組換え法によって得られるもののいずれを使用してもよい。また市販品をそのまま又は粉砕して用いてもよい。アミノ酸を粉砕する場合、その粒径は、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは75μm以下である。
【0028】
ビタミンの具体例としては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、ビタミンC等の水溶性ビタミン等が挙げられる。これらのビタミンは単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよく、適切なものを選べばよい。
【0029】
ビタミン様物質とは、ビタミンに似た生理作用を持つ化合物であって、ビタミンとは違って体内で生合成し得るものをいい、その具体例としては、コリン(例えば、塩化コリン、CDP(cytidine diphosphate)コリン、重酒石酸コリン等)、p-アミノ安息香酸、リポ酸、カルニチン、オロット酸、ユビキノン等が挙げられる。これらのビタミン様物質は単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0030】
本発明の組成物における成分Cの含有量は、本発明の組成物に対して、通常30重量%以上であり、多量の生物学的活性物質を効率的に供与し得ることから、好ましくは35重量%以上であり、より好ましくは40重量%以上である。また当該含有量は、本発明の組成物に対して、通常65重量%未満であり、ルーメンでの保護性に優れ得ることから、好ましくは60重量%以下である。
【0031】
[成分D]
成分Dとして用いられる天然植物油は、常温(25℃)で液状である植物油をいい、成分Aに用いられ得る硬化植物油とは区別される概念である。
【0032】
天然植物油の具体例としては、大豆油、パーム油、菜種油、キャノーラ油、オリーブ油、アーモンド油、アボカド油、ベニバナ油、ヒマワリ油、コーン油、米油等が挙げられ、好ましくは、大豆油、パーム油、菜種油、キャノーラ油、オリーブ油、アーモンド油、アボカド油、ベニバナ油である。これらの天然植物油は単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。また、これらの天然植物油は、常温で液状であれば、例えば、エステル交換、分別処理等の処理を施されていてもよい。
【0033】
成分Dを構成する脂肪酸(構成脂肪酸)の種類は特に制限されないが、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等の炭素原子数12~24の飽和又は不飽和の脂肪酸が挙げられ、消化管への溶出性の観点から、成分Dは、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の炭素原子数18の不飽和脂肪酸を含むことが好ましい。
【0034】
成分Dにおける飽和及び不飽和脂肪酸の構成比率は特に制限されないが、in vitro推定有効率に優れ得ることから、成分Dは炭素原子数18の不飽和脂肪酸を、成分Dの構成脂肪酸に対して60重量%以上95重量%以下含有することが好ましく、80重量%以上95重量%以下含有することがより好ましい。
【0035】
成分Dは、オレイン酸を、成分Dの構成脂肪酸に対して55重量%以上90重量%以下含有することが好ましく、70重量%以上90重量%以下含有することがより好ましい。オレイン酸を構成脂肪酸に対して55重量%以上90重量%以下含有する成分Dの具体例としては、オリーブ油等が挙げられる。
【0036】
成分Dに含まれる炭素原子数18の脂肪酸の不飽和比率(炭素原子数18の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸の総重量に対する、炭素原子数18の不飽和脂肪酸の重量の割合)は特に制限されないが、通常40%以上であり、in vitro推定有効率に優れ得ることから、好ましくは50%以上であり、より好ましくは55%以上である。当該不飽和比率の上限は特に制限されないが、通常100%である。
【0037】
本発明の組成物における成分Dの含有量は、本発明の組成物に対して、通常0.01重量%以上であり、in vitro推定有効率に優れ得ることから、好ましくは0.05重量%以上であり、より好ましくは0.1重量%以上である。また当該含有量は、本発明の組成物に対して、通常0.8重量%未満であり、in vitro推定有効率に優れ得ることから、好ましくは0.6重量%以下であり、より好ましくは0.4重量%以下であり、特に好ましくは0.4重量%未満である。
【0038】
本発明の組成物に含有される水は、本発明の組成物の保存安定性に影響し、ルーメンにおける保護性を改善すると考えられる。本発明の組成物に含有される水は、飼料添加組成物の製造に通常用いられ得るものであれば特に制限されず、例えば、超純水、純水、イオン交換水、蒸留水、精製水、水道水等が挙げられる。
【0039】
本発明の組成物における水の含有量(水分含量)は、本発明の組成物に対して、通常0.1重量%以上であり、ルーメンでの保護性に優れ得ることから、好ましくは2重量%以上である。また当該水分含量は、本発明の組成物に対して、通常6重量%未満であり、ルーメンでの保護性に優れ得ることから、好ましくは5重量%以下であり、より好ましくは4重量%以下である。
本発明の組成物における水分含量は、Kett水分分析計(infrared Moisture Balance FD-610)にて、105℃、20分加熱後の減量を測定することにより求められる。
【0040】
本発明の組成物は、成分A~D及び水に加えて、それら以外の他の成分を含有してもよい。当該他の成分は、本発明の目的を損なわない限り特に制限されないが、例えば、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素等の賦形剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等の滑沢剤;炭酸水素ナトリウム、クエン酸等のpH調整剤;ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム等の固化防止剤等が挙げられる。当該他の成分は単独で用いてよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0041】
本発明の組成物は反芻動物が摂取しやすい形状として成形されることが好ましく、その形状は特に制限されないが、例えば、球状、顆粒状、ペレット状、ラグビーボール状、押し麦状、鶏卵状等が挙げられる。
【0042】
本発明の組成物は球状又はそれに近い形状であることが好ましい。本発明の組成物の成形物の粒径は特に制限されないが、通常0.1~20mmであり、飼料との混合度の観点から、好ましくは0.3~10mmであり、より好ましくは0.5~5mmである。本発明の組成物の粒径は、日本工業規格のJIS Z 8801にて規定される標準篩によって篩分することで規定される。
【0043】
本発明の組成物の製造方法は特に制限されず、本発明の組成物は自体公知の方法で製造すればよいが、例えば、国際公開第2008/041371号、米国特許出願公開第2009/0232933号明細書、国際公開第2009/122750号、米国特許出願公開第2011/0081444号明細書に記載の方法又はこれらに準ずる方法で製造し得る。具体的には、本発明の組成物は、成分A~Dを含有する溶融混合物を水中に浸漬させて固化させることを含む方法等によって製造し得る。
【0044】
成分A~Dを含有する溶融混合物の調製方法は特に制限されず、例えば、市販のエクストルーダー(好ましくは、2軸エクストルーダー)等を用いて、成分A~D(所望により他の成分を含んでよい)を加熱する方法等が挙げられる。エクストルーダーのシリンダーに成分A~Dを添加する順序は特に制限されないが、成分Cの表面を成分Bで被覆するために、当該成分B及びCを予めナウターミキサー等で混合してから添加してよく、又は生産効率を上げるために、成分A~Dをほぼ同時に添加してもよい。あるいは、成分A及びCを先に室温付近で混合した後、残りの成分を添加して加熱することによっても、溶融混合物を得ることができる。成分Cは粉砕して用いてよく、例えばパルペライザーを用いて、粒径が好ましくは100μm以下、より好ましくは75μm以下となるまで粉砕し、必要に応じて篩分して用いてよい。
【0045】
成分A~Dを加熱するときの温度は、成分Aの融点以上であれば特に制限されないが、成分Aの融点より5~15℃高いことが好ましい。例えば、成分Aとして大豆極度硬化油(融点:67~71℃)を用いる場合は、80~85℃で加熱すればよい。この際、成分A以外の成分は必ずしも溶融しなくてもよく、例えば、成分CとしてL-リジン塩酸塩(融点:263℃)を用いる場合、L-リジン塩酸塩が溶融せずに分散し、溶融混合物はスラリー状態であってもよい。また加熱当初から成分Aの融点以上の温度で加熱する必要はなく、例えば、まず成分Aの融点より5~10℃低い温度で予備加熱を行い、次いで、エクストルーダーのシリンダー内のスクリュウで原料を搬送した後、成分Aの融点以上の所定の温度で加熱すると、効率的に安定した溶融混合物が得られる。
【0046】
溶融混合物の調製に利用可能な機器は、エクストルーダーに限定されず、自然落下させたときに液滴となり得る溶融混合物を調製できるものであれば適宜用いてよい。
【0047】
成分A~Dを含有する溶融混合物を水中に浸漬させる方法は特に制限されないが、例えば、溶融混合物を、所定の径の孔(穴)を有する容器に貯留し、当該孔から水中に落下させる方法等が挙げられる。溶融混合物を所定の径の孔から落下(好ましくは、自然落下)させると、落下中に表面張力の作用で切断されて、個々に独立した液滴となる。当該液滴を、所定の温度の水槽中に落下させると、液滴は水中で瞬間的に冷却されて固化し、所定の形状の固形物が得られる。液滴が固化して固形物となる際、水槽中の水が固形物に取り込まれる。この水はその後の加熱乾燥処理(後述)で減少させ得る。尚、溶融混合物を水中に浸漬させると、一部の生物学的活性物質が水中に溶出する場合があるが、その量は極僅かである。
【0048】
溶融混合物を貯留する容器が有する孔の直径は、最終的に得られる固形物(溶融混合物の液滴が固化したもの)の大きさに応じて適宜選択すればよい。例えば、粒径が3~5mm程度の小さい固形物を製造する場合には、孔の直径を0.5~3mmとすればよく、粒径が5~10mm程度の固形物を製造する場合には、孔の直径を3~5mmとすればよい。溶融混合物を貯留する容器が有する孔の直径は、通常0.5~5mmであり、好ましくは1~4mmである。
【0049】
溶融混合物を貯留する容器は、所定の径の孔を有すれば特に制限されないが、生産量を効率的に増加させ得ることから、多孔シューターを用いることが好ましい。ここで「多孔シューター」とは、底に複数穿孔された容器であって、溶融混合物を一時的に貯留する設備をいう。また溶融混合物を貯留する容器は、貯留する溶融混合物が冷えないように、加温設備を備えることが好ましい。
【0050】
溶融混合物の落下距離(例えば、多孔シューターの底面から水面までの距離)は特に制限されないが、通常10mm~1.5mであり、好ましくは30mm~1.0mである。溶融混合物の落下距離を調整することによって、最終的に得られる固形物の形状を変更できる。例えば、65℃程度に加熱された溶融混合物を水中に落下させる場合、落下距離を50~150mmにすると、球形からラグビーボールに近い形状の固形物が得られる。また、落下距離をより長くすると、水面との衝突エネルギーが大きくなるため、平坦な押し麦状の固形物が得られ、例えば、落下距離が0.5m程度であると、周辺が波打つ押し麦状の固形物が得られる。
【0051】
水中に落下させるときの溶融混合物の温度は特に制限されないが、通常60~90℃であり、成分A等の融点の観点から、好ましくは70~90℃である。
【0052】
溶融混合物を落下させる水の温度は、溶融混合物が瞬間的に固化すれば特に制限されないが、通常0~30℃である。溶融混合物を落下させる水の温度が高過ぎると、得られる固形物の粒子形状が崩れ、フレーク状となり、割れやすくなる傾向がある。水温は一定に保つことが好ましく、例えば、所定の温度の水を連続的に補充することによって、溶融混合物を落下させる水の温度を一定に保つことができる。
【0053】
水中で固化した混合物を捕集する方法は特に制限されないが、連続的に水を補充することによって水温を一定に保つ場合、固化した混合物(比重:約1.1)は網、網容器等を用いて集めればよい。
【0054】
本発明の組成物を、成分A~Dを含有する溶融混合物を水中に浸漬させて固化させることを含む方法によって製造する場合、当該方法は、固化した混合物に加熱乾燥処理を施すことを更に含むことが好ましい。当該加熱乾燥処理により、本発明の組成物の水分含量を調節できる。加熱乾燥処理は、例えば、固化した混合物に含まれる成分Aの融点より低い温度に設定された雰囲気(例えば、熱水、蒸気、熱風等)に、固化した混合物を概ね数分~数十分曝露すること等によって行い得る。加熱乾燥処理の時間は、加熱乾燥処理の温度、成分Aの種類及び固化した混合物の量等に基づいて、適宜設定すればよく、例えば、固化した混合物に含まれる成分Aの融点よりも低い温度に設定された雰囲気に、固化した混合物を長時間(例えば、0.5~2時間等)曝露してもよい。
【0055】
本発明の組成物は、その表層に生物学的活性物質を実質的に含有しない層を有することが好ましい。本発明の組成物は、生物学的活性物質を実質的に含有しない層を表層に有することによって、撥水性を有し得る。ここで「生物学的活性物質を実質的に含有しない層」とは、生物学的活性物質を全く含有しないか、又は、撥水性を阻害しない量(通常2重量%以下、好ましくは1重量%以下)で生物学的活性物質を含有する層を意味する。
【0056】
生物学的活性物質を実質的に含有しない層の厚さは、通常30μm以上110μm以下であり、撥水性に優れ得ることから、好ましくは30μm以上80μm以下である。
【0057】
生物学的活性物質を実質的に含有しない層を表層に有する本発明の組成物は、例えば、上述の製造方法、すなわち成分A~Dを含有する溶融混合物を水中に浸漬させて固化させること、及び、固化した混合物に加熱乾燥処理を施すことを含む方法等によって製造できる。生物学的活性物質を実質的に含有しない層は、溶融混合物を水中に浸漬させた際に表面の生物学的活性物質が水中に溶出し、その後、固化した混合物の表面が加熱処理により平滑化することによって形成されると考えられる。
【0058】
本発明の組成物の、ルーメンにおける保護性および消化管における溶出性は、以下の方法で評価できる。
以下の方法において、試験液中の生物学的活性物質の濃度は液体クロマトグラフィー(日立社製)により測定する。但し、生物学的活性物質がリジンである場合はバイオセンサー(王子計測機器社製)を用いても測定できる。
<保護率算出のための生物学的活性物質の濃度(濃度A)の測定>
溶出試験器(富山産業社製)を用い、反芻動物(例、乳牛等)の体温に相当する温度(例、39℃)に加温した超純水(Milli Q(ミリポア社製)を使用して製造)900mlに製剤サンプル約3gを入れ100rpmで撹拌し、撹拌開始から20時間後に、撹拌中の試験液から保護率測定用に2mlを採取し、生物学的活性物質の濃度を測定する(濃度A、単位:mg/dl)。
<溶出率算出のための生物学的活性物質の濃度(濃度B)の測定>
上記保護率測定用サンプルを採取した直後の試験液に、100rpmで撹拌を続けながら、胆汁末(和光純薬社製)とパンクレアチン(和光純薬社製)の水溶液(胆汁末及びパンクレアチンの濃度は、いずれも23.4g/100ml)8mlを添加して小腸相当試験液とし、当該水溶液の添加から5時間後に、撹拌中の試験液から溶出率測定用に2mlを採取し、生物学的活性物質の濃度を測定する(濃度B、単位:mg/dl)。
<生物学的活性物質の保護率及び溶出率の算出>
生物学的活性物質の保護率および溶出率は次の式により算出する。
保護率[%]={1-(濃度A[mg/dl]×9.08)/(製剤サンプル重量[g]×1000×製剤サンプル中の生物学的活性物質の含有量[重量%])/100)}×100
溶出率[%]={((濃度B[mg/dl]-濃度A[mg/dl])×9.02)/(製剤サンプル重量[g]×1000×製剤サンプル中の生物学的活性物質の含有量[重量%])/100)}×100
【0059】
本発明の組成物のin vitro推定有効率は、下記の式より算出される。
in vitro推定有効率[%]=(溶出率[%])×(生物学的活性物質の含有量[重量%])/100
【0060】
本発明の組成物が用いられる反芻動物は特に制限されないが、例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ、キリン、ラクダ及びラマ等が挙げられ、好ましくはウシである。
【0061】
本発明の組成物の反芻動物用飼料に対する添加量は特に制限されず、生物学的活性物質の必要量等に応じて適宜調節し得る。本発明の組成物は、通常、飼料に添加されて、当該飼料とともに反芻動物に摂取されるように用いられるが、反芻動物に摂取されさえすれば必ずしも飼料に添加されなくてもよく、例えば、本発明の組成物は単独で反芻動物に摂取され得る。
【0062】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
<試験例1>天然植物油の含有量の検討
[実施例1]
大豆極度硬化油(横関油脂株式会社製、融点:67℃)、大豆レシチン(ADM社製、Yelkin TS)、L-リジン塩酸塩(味の素株式会社製)及びオリーブ油(JOM社製、エキストラバージン)を下表1に示す配合で、2軸エクストルーダー(コスモテック社製)に連続的に投入した。
その後、シリンダー内で加熱(予備加熱温度:65℃、本加熱温度:85℃、出口設定温度:70℃)、溶融及び混合して、溶融スラリー状態の溶融混合物を得た。得られた溶融混合物を、エクストルーダー出口より排出し、多孔シューター(孔の数:2060個、孔の直径:2mm)に投入した後、当該溶融混合物を、多孔シューターの孔から冷却用水槽(水温:5~15℃)に自然落下させた。多孔シューターから冷却用水槽の水面までの距離は10cmとした。多孔シューターから落下した溶融混合物は、落下中に液滴となり、水中に浸漬後、冷却されて瞬間的に固化した。これに室温送風し付着水を脱水した後、52℃に設定した流動層乾燥機(味の素社製)にて7分間加熱乾燥処理を行い、造粒物(反芻動物用飼料添加組成物)を得た。以下において、当該造粒物を、実施例1の組成物と称する。
【0064】
[実施例2~5、比較例1及び2、コントロール]
大豆極度硬化油(横関油脂株式会社製、融点:67℃)、大豆レシチン(ADM社製、Yelkin TS)、L-リジン塩酸塩(味の素株式会社製)及びオリーブ油(JOM社製、エキストラバージン)を下表1に示す配合で投入したこと以外は、実施例1と同様の手順で、実施例2~5、比較例1、2及びコントロールの各反芻動物用飼料添加組成物(以下、それぞれ実施例2~5、比較例1、2及びコントロールの組成物と称する)を得た。
【0065】
実施例1~5、比較例1、2及びコントロールの組成物中のリジン含量、水分含量、保護率及び溶出率を、それぞれ以下の手順で測定した。
【0066】
[飼料添加組成物中のリジン含量の測定]
各組成物のリジン含量は、バイオセンサー(王子計測機器社製)を用いて測定した。
【0067】
[飼料添加組成物中の水分含量の測定]
各組成物の水分含量は、Kett水分分析計(infrared Moisture Balance FD-610)にて、105℃、20分加熱後の減量を測定することにより求めた。
【0068】
[保護率及び溶出率の測定]
下記の試験液の生物学的活性物質(L-リジン)の濃度は、バイオセンサー(王子計測機器社製)を用いて測定した。
<保護率算出のための生物学的活性物質(L-リジン)の濃度(濃度A)の測定>
溶出試験器(富山産業社製)を用い、乳牛の体温に相当する39℃に加温した超純水(Milli Q(ミリポア社製)を使用して製造)900mlに製剤サンプル約3gを入れ100rpmで撹拌し、撹拌開始から20時間後に、撹拌中の試験液から保護率測定用に2mlを採取し、生物学的活性物質(L-リジン)の濃度を測定した(濃度A、単位:mg/dl)。
<溶出率算出のための生物学的活性物質(L-リジン)の濃度(濃度B)の測定>
上記保護率測定用サンプルを採取した直後の試験液に、100rpmで撹拌を続けながら、胆汁末(和光純薬社製)とパンクレアチン(和光純薬社製)の水溶液(胆汁末及びパンクレアチンの濃度は、いずれも23.4g/100ml)8mlを添加して小腸相当試験液とし、当該水溶液の添加から5時間後に、撹拌中の試験液から溶出率測定用に2mlを採取し、生物学的活性物質(L-リジン)の濃度を測定した(濃度B、単位:mg/dl)。
<生物学的活性物質(L-リジン)の保護率及び溶出率の算出>
生物学的活性物質(L-リジン)の保護率及び溶出率は次の式により算出した。
保護率[%]={1-(濃度A[mg/dl]×9.08)/(製剤サンプル重量[g]×1000×製剤サンプル中の生物学的活性物質の含有量[重量%])/100)}×100
溶出率[%]={((濃度B[mg/dl]-濃度A[mg/dl])×9.02)/(製剤サンプル重量[g]×1000×製剤サンプル中の生物学的活性物質の含有量[重量%])/100)}×100
【0069】
実施例1~5、比較例1、2及びコントロールの組成物のin vitro推定有効率を、下記の式から算出した。
in vitro推定有効率[%]=(溶出率[%])×(生物学的活性物質の含有量[重量%])/100
【0070】
実施例1~5、比較例1、2及びコントロールの組成物中のL-リジン含量、水分含量、保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を下表1に示す。また実施例1~5、比較例1、2及びコントロールの組成物の保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を
図1に示す。
尚、溶融混合物中の大豆極度硬化油、大豆レシチン及びオリーブ油の含有量は、水中での造粒の前後で変わらない。
【0071】
【0072】
表1及び
図1に示される結果から明らかなように、本発明の組成物(実施例1~5)は、いずれも高い保護性を備え、且つ、溶出性にも優れていた。
一方、比較例1及び2の組成物は、コントロールの組成物に比べ、保護率及び溶出率が低く、in vitro推定有効率も低かった。
【0073】
<試験例2>天然植物油の種類の検討
[実施例6]
大豆極度硬化油(横関油脂株式会社製、融点:67℃)、大豆レシチン(ADM社製、Yelkin TS)、L-リジン塩酸塩(味の素株式会社製)及びオリーブ油(JOM社製、エキストラバージン)を下表3-1に示す配合で2軸エクストルーダー(コスモテック社製)に連続的に投入した。
その後、シリンダー内で加熱(予備加熱温度:65℃、本加熱温度:85℃、出口設定温度:70℃)、溶融及び混合して、溶融スラリー状態の溶融混合物を得た。得られた溶融混合物を、エクストルーダー出口より排出し、多孔シューター(孔の数:2060個、孔の直径:2mm)に投入した後、当該溶融混合物を、多孔シューターの孔から冷却用水槽(水温:5~15℃)に自然落下させた。多孔シューターから冷却用水槽の水面までの距離は10cmとした。多孔シューターから落下した溶融混合物は、落下中に液滴となり、水中に浸漬後、冷却されて瞬間的に固化した。これに室温送風し付着水を脱水した後、52℃に設定した流動層乾燥機(味の素社製)にて7分間加熱乾燥処理を行い、造粒物(反芻動物用飼料添加組成物)を得た。以下において、当該造粒物を、実施例6の組成物と称する。
【0074】
[実施例7~12、コントロール]
オリーブ油に代えて、大豆油(和光純薬社製)、菜種油(金田油店社製)、アボカド油(金田油店社製)、アーモンド油(金田油店社製)、パーム油(金田油店社製)及びベニバナ油(Jオイルミルズ社製)を用い、下表3-1に示す配合としたこと以外は、実施例6と同様の手順で、実施例7~11の各反芻動物用飼料添加組成物(以下、それぞれ実施例7~11の組成物と称する)を得た。
また、オリーブ油等の天然植物油を用いずに、下表3-1に示す配合としたこと以外は、実施例6と同様の手順で、コントロールの反芻動物用飼料添加組成物(以下、コントロールの組成物と称する)を得た。
【0075】
実施例6~12の組成物の調製に使用したオリーブ油、大豆油、菜種油、アボカド油、アーモンド油、パーム油及びベニバナ油の(i)炭素原子数18の不飽和脂肪酸の、構成脂肪酸に対する含有率、(ii)オレイン酸の、構成脂肪酸に対する含有率、及び(iii)炭素原子数18の脂肪酸の不飽和比率を、下表2に示す。
【0076】
【0077】
実施例6~12及びコントロールの組成物中のL-リジン含量、水分含量、保護率及び溶出率を、試験例1と同様の手順で測定した。また実施例6~12及びコントロールの組成物のin vitro推定有効率を、試験例1と同様に算出した。
【0078】
実施例6~12及びコントロールの組成物中のL-リジン含量、水分含量、保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を下表3-2に示す。また実施例6~12及びコントロールの組成物の保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を
図2に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
表3-2及び
図2に示される結果から明らかなように、成分D(天然植物油)として大豆油、菜種油、アボカド油、アーモンド油、パーム油又はベニバナ油を使用した場合(実施例7~12)も、オリーブ油を使用した場合(実施例6)と同様に、本発明の組成物は、いずれも高い保護性を備え、且つ、溶出性にも優れていた。
【0082】
<試験例3>炭素原子数18の脂肪酸の不飽和比率とin vitro推定有効率との関係の検討
[参考例]
オリーブ油に代えて極度硬化大豆油(横関油脂株式会社製、炭素原子数18の脂肪酸の不飽和比率=0%)を使用した以外は実施例6と同様にして、参考例の反芻動物用飼料添加組成物(以下、参考例の組成物と称する)を得た。
【0083】
参考例の組成物の保護率及び溶出率を、試験例1と同様の手順で測定した後、in vitro推定有効率を、試験例1と同様に算出した。
【0084】
実施例6~12及び参考例の組成物のin vitro推定有効率を、炭素原子数18の脂肪酸の不飽和比率に対してプロットしたグラフを
図3として示す。
【0085】
図3に示される結果から、成分D(天然植物油)の炭素原子数18の脂肪酸の不飽和比率とin vitro推定有効率とには相関があり、炭素原子数18の脂肪酸の不飽和比率が高くなるにつれて、in vitro推定有効率も高くなる傾向があることが確認された。
【0086】
<試験例4>生物学的活性物質を実質的に含有しない層の確認
試験例1で得られた実施例1の組成物を切断して、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した。
図4に、実施例1の組成物の表面近傍のSEM写真を示した。当該写真より、加熱処理によって平滑化した層(生物学的活性物質を実質的に含有しない層)が表面より100μmの深さまで形成されたことが確認された。
【0087】
<試験例5>生物学的活性物質がヒスチジン塩酸塩であるときの効果の確認
[実施例13、コントロール]
大豆極度硬化油(横関油脂株式会社製、融点:67℃)、大豆レシチン(ADM社製、Yelkin TS)、L-ヒスチジン塩酸塩(味の素株式会社製)及びオリーブ油(JOM社製、エキストラバージン)を下表4に示す配合で投入したこと以外は、実施例1と同様の手順で、実施例13及びコントロールの各反芻動物用飼料添加組成物(以下、それぞれ実施例13及びコントロールの組成物と称する)を得た。
【0088】
[飼料添加組成物中のL-ヒスチジン含量の測定]
各組成物のL-ヒスチジン含量は、液体クロマトグラフィー(日立社製)を用いて測定した。
【0089】
実施例13及びコントロールの組成物中の水分含量、保護率及び溶出率を、試験例1と同様の手順で測定した。保護率及び溶出率の測定において、試験液の生物学的活性物質(L-ヒスチジン)の濃度は、液体クロマトグラフィー(日立社製)を用いて測定した。また実施例13及びコントロールの組成物のin vitro推定有効率を、試験例1と同様に算出した。
【0090】
実施例13及びコントロールの組成物中のL-ヒスチジン含量、水分含量、保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を下表4に示す。また実施例13及びコントロールの組成物の保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を
図5に示す。
【0091】
【0092】
表4に示される結果から明らかなように、本発明の組成物(実施例13)は、高い保護性を備え、且つ、溶出性にも優れていた。
一方、コントロールの組成物は、保護率及び溶出率が低かった。
【0093】
<試験例6>生物学的活性物質がアルギニンであるときの効果の確認
[実施例14、15、コントロール]
大豆極度硬化油(横関油脂株式会社製、融点:67℃)、大豆レシチン(ADM社製、Yelkin TS)、L-アルギニン(味の素株式会社製)及びオリーブ油(JOM社製、エキストラバージン)を下表5に示す配合で投入したこと以外は、実施例1と同様の手順で、実施例14、15及びコントロールの各反芻動物用飼料添加組成物(以下、それぞれ実施例14、15及びコントロールの組成物と称する)を得た。
【0094】
[飼料添加組成物中のL-アルギニン含量の測定]
各組成物のL-アルギニン含量は、液体クロマトグラフィー(日立社製)を用いて測定した。
【0095】
実施例14、15及びコントロールの組成物中の水分含量、保護率及び溶出率を、試験例1と同様の手順で測定した。また実施例14、15及びコントロールの組成物のin vitro推定有効率を、試験例1と同様に算出した。
【0096】
実施例14、15及びコントロールの組成物中のL-アルギニン含量、水分含量、保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を下表5に示す。保護率及び溶出率の測定において、試験液の生物学的活性物質(L-アルギニン)の濃度は、液体クロマトグラフィー(日立社製)を用いて測定した。また実施例14、15及びコントロールの組成物の保護率、溶出率及びin vitro推定有効率を
図6に示す。
【0097】
【0098】
表5に示される結果から明らかなように、本発明の組成物(実施例14、15)は、いずれも高い保護性を備え、且つ、溶出性にも優れていた。
一方、コントロールの組成物は、in vitro推定有効率及び溶出率が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、ルーメンにおける高い保護性を備え、且つ、消化管における溶出性にも優れる反芻動物用飼料添加組成物を提供することができる。
本発明の反芻動物用飼料添加組成物は、レシチン及び天然植物油の両方を特定濃度で含有することにより、レシチン及び天然植物油のいずれか一方のみ含有する場合と比較して、ルーメンにおける保護性を高く維持したまま、消化管における溶出性を一層促進できる。
本発明の反芻動物用飼料添加組成物によれば、多量の生物学的活性物質(例、アミノ酸等)を泌乳牛の小腸まで効率よく運搬することができるため、泌乳牛が栄養素として生物学的活性物質(例、アミノ酸等)を多量に吸収することができ、その結果、例えば、泌乳量生産を増大すること等を可能とする。
【0100】
本出願は、日本で出願された特願2016-211131(出願日:2016年10月27日)を基礎としており、その内容は本明細書に包含されるものである。