(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20220614BHJP
B62D 25/04 20060101ALI20220614BHJP
B62D 25/06 20060101ALI20220614BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20220614BHJP
B62D 27/02 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B62D25/08 L
B62D25/04 D
B62D25/06 A
B62D25/20 H
B62D27/02
(21)【出願番号】P 2019033869
(22)【出願日】2019-02-27
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】清下 大介
(72)【発明者】
【氏名】西村 佳和
【審査官】姫島 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-046699(JP,A)
【文献】特開2010-285019(JP,A)
【文献】特開2013-049377(JP,A)
【文献】特開2016-022860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
B62D 25/04
B62D 25/06
B62D 25/20
B62D 27/02
B62D 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における振動源を構成する第1部分と車体を構成する構成部材とを連結し、前記車体を補強する第1補強部材と、
前記振動源における前記第1部分と異なる部分である第2部分と前記構成部材とを連結し、前記車体を補強する第2補強部材と、
前記第1補強部材に沿って伝達される振動の伝達路と前記第2補強部材に沿って伝達される振動の伝達路とが合流する合流部と、
前記合流部に配置され、前記第1補強部材および前記第2補強部材のそれぞれに沿って伝達される前記振動を減衰する減衰部と
を備え、
前記第1補強部材は、当該第1補強部材に沿って伝達される前記振動の伝達を前記合流部の途中で中断する中断部を有し、かつ、当該中断部近傍において前記減衰部を介して前記第2補強部材に接続され
、
前記第2補強部材は、前記構成部材とともに閉断面構造を構成し、
前記減衰部は、前記閉断面構造の内部に形成された減衰節によって構成され、
前記減衰節は、前記第2補強部材の内面に固定された連結部材と、前記連結部材と前記構成部材との間に介在し、前記振動を減衰する振動減衰部材とを備えている、
車体構造。
【請求項2】
前記連結部材は、下方折曲部および上方折曲部を有し、
前記下方折曲部は、前記第2補強部材に対向し、
前記上方折曲部は、前記構成部材に対向している、
請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
前記中断部は、前記減衰部と同じ
程度の高さにある、
請求項1
または2に記載の車体構造。
【請求項4】
前記振動源は、リアホイールを収容するリアホイールハウスである、
請求項1
~3のいずれか1項に記載の車体構造。
【請求項5】
前記構成部材は、前記車体の側面を構成するサイドプレートであり、
前記第1部分は、前記リアホイールハウスにおける前記車体の内側に配置されたホイールハウスインナであり、
前記第1補強部材は、前記ホイールハウスインナと前記サイドプレート内面とに連結されたインナレインである、
請求項
4に記載の車体構造。
【請求項6】
前記第1補強部材は、前記構成部材とともに前記車体の正面視において環状の閉断面構造を有する第1環状構造部を構成し、
前記第2補強部材は、前記構成部材とともに前記車体の側面視において環状の閉断面構造を有する第2環状構造部を構成し、
前記合流部における前記振動源から遠い側において、前記第1環状構造部と前記第2環状構造部とが共用する共用部分を有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の車体構造。
【請求項7】
車両における振動源を構成する第1部分と車体を構成する構成部材とを連結し、前記車体を補強する第1補強部材と、
前記振動源における前記第1部分と異なる部分である第2部分と前記構成部材とを連結し、前記車体を補強する第2補強部材と、
前記第1補強部材に沿って伝達される振動の伝達路と前記第2補強部材に沿って伝達される振動の伝達路とが合流する合流部と、
前記合流部に配置され、前記第1補強部材および前記第2補強部材のそれぞれに沿って伝達される前記振動を減衰する減衰部と
を備え、
前記第1補強部材は、当該第1補強部材に沿って伝達される前記振動の伝達を前記合流部の途中で中断する中断部を有し、かつ、当該中断部近傍において前記減衰部を介して前記第2補強部材に接続され、
前記第1補強部材は、前記構成部材とともに前記車体の正面視において環状の閉断面構造を有する第1環状構造部を構成し、
前記第2補強部材は、前記構成部材とともに前記車体の側面視において環状の閉断面構造を有する第2環状構造部を構成し、
前記合流部における前記振動源から遠い側において、前記第1環状構造部と前記第2環状構造部とが共用する共用部分を有し、
前記共用部分は、前記車体の側部に形成されたサイドウインドウ開口部の下端よりも上方に位置する、
車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体の剛性の向上のために、従来より、閉断面構造や補強材等を用いて剛性の高い骨格で構成された骨格構造が知られている。このような骨格構造は、剛性が高い反面、振動を伝達しやすく、例えば、車両走行時において振動源となるホイールハウスから車室への振動伝達経路となる場合がある。そこで、骨格構造に沿って伝達される振動を抑制するために、骨格構造の内部に減衰材を介在させた構造が特許文献1および2などに開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された車体構造は、車室後部のクロスメンバからホイールハウスにかけて閉断面構造による剛性の高い骨格を構成するとともに、当該骨格の内部には対向する骨格構成部材間を連結する減衰節が配置されている。減衰節は、一方の骨格形成部材に溶接されたバルクヘッドと、バルクヘッドと他方の骨格形成部材との間に介在する粘弾性部材とを備えており、骨格の振動を粘弾性部材によって減衰する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5776451号公報
【文献】特許第5790333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような車体構造は、振動抑制効果が高いものの、骨格ごとに減衰節を設ける必要があるため、車体の軽量化やコストの低減という観点からは、より効率の良い減衰構造が求められている。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、車体の剛性を向上しながら振動源から車体へ伝わる振動をより一層効率よく抑制することが可能な車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る車体構造は、車両における振動源を構成する第1部分と車体を構成する構成部材とを連結し、前記車体を補強する第1補強部材と、前記振動源における前記第1部分と異なる部分である第2部分と前記構成部材とを連結し、前記車体を補強する第2補強部材と、前記第1補強部材に沿って伝達される振動の伝達路と前記第2補強部材に沿って伝達される振動の伝達路とが合流する合流部と、前記合流部に配置され、前記第1補強部材および前記第2補強部材のそれぞれに沿って伝達される前記振動を減衰する減衰部とを備え、前記第1補強部材は、当該第1補強部材に沿って伝達される前記振動の伝達を前記合流部の途中で中断する中断部を有し、かつ、当該中断部近傍において前記減衰部を介して前記第2補強部材に接続され、前記第2補強部材は、前記構成部材とともに閉断面構造を構成し、前記減衰部は、前記閉断面構造の内部に形成された減衰節によって構成され、前記減衰節は、前記第2補強部材の内面に固定された連結部材と、前記連結部材と前記構成部材との間に介在し、前記振動を減衰する振動減衰部材とを備えていることを特徴とする。
【0008】
かかる構成の車体構造は、振動源の異なる2つの部分(第1部分および第2部分)を個別に車体を構成する構成部材に連結して車体を補強する第1補強部材および第2補強部材を備えている。第1補強部材に沿って伝達される振動の伝達路と第2補強部材に沿って伝達される振動の伝達路とは、合流部で合流する。ここで、第1補強部材に沿って伝達される振動は、合流部の途中で中断部によって中断されて当該中断部に集中する。中断部に集中した振動は、中断部近傍の減衰部によって減衰される。一方、第2補強部材に沿って伝達される振動も減衰部により減衰されるが、当該減衰部によって減衰しきれなかった残存する振動は第1補強部材に沿って振動源に戻されるため、車体への振動伝達を抑制することが可能である。これにより、車体の剛性を向上しながら振動源から車体へ伝わる振動をより一層効率よく抑制することが可能である。
また、上記の構成では、第2補強部材が構成部材とともに閉断面構造を構成することにより、車体の剛性がさらに向上する。それとともに、閉断面構造の内部では、第2補強部材に沿って伝達される振動は、減衰部を構成する減衰節において連結部材を介して振動減衰部材に伝達され、当該振動減衰部材によって効率よく減衰される。その結果、車体の剛性のさらなる向上とより効率の良い減衰を達成することが可能である。
上記の車体構造において、前記連結部材は、下方折曲部および上方折曲部を有し、 前記下方折曲部は、前記第2補強部材に対向し、前記上方折曲部は、前記構成部材に対向しているのが好ましい。
【0009】
上記の車体構造において、前記中断部は、前記減衰部と同じ程度の高さにあるのが好ましい。
【0010】
かかる構成では、中断部に集中した振動を分散させずに減衰部によって確実に減衰することが可能である。
【0011】
上記の車体構造において、前記振動源は、リアホイールを収容するリアホイールハウスであるのが好ましい。
【0012】
これにより、リアホイールハウス周辺の車体の剛性を向上するとともに、車両走行中にリアホイールハウスで発生して上記の第1補強部材および第2補強部材に沿って伝達される振動をいずれも減衰部によってより一層効率よく抑制することが可能である。
【0013】
上記の車体構造において、前記構成部材は、前記車体の側面を構成するサイドプレートであり、前記第1部分は、前記リアホイールハウスにおける前記車体の内側に配置されたホイールハウスインナであり、前記第1補強部材は、前記ホイールハウスインナと前記サイドプレート内面とに連結されたインナレインであるのが好ましい。
【0014】
かかる構成により、リアホイールハウスで発生する振動は、車体の内側では、第1補強部材であるインナレインに沿って伝達されるが、合流部の途中で中断部によって中断され、中断部近傍の減衰部で減衰されるので、車室内側における振動の伝播範囲を抑えつつより一層効率よく抑制することが可能である。
【0017】
上記の車体構造において、前記第1補強部材は、前記構成部材とともに前記車体の正面視において環状の閉断面構造を有する第1環状構造部を構成し、前記第2補強部材は、前記構成部材とともに前記車体の側面視において環状の閉断面構造を有する第2環状構造部を構成し、前記合流部における前記振動源から遠い側において、前記第1環状構造部と前記第2環状構造部とが共用する共用部分を有するのが好ましい。
【0018】
かかる構成では、環状の閉断面構造によって構成された2つの環状構造部(第1環状構造部および第2環状構造部)が車体に形成されることにより、車体の剛性がより一層構造する。それとともに、これら2つの環状構造部の共用部分は合流部における振動源から遠い側に位置しているので、合流部に設けられた減衰部によって振動源から共用部分への振動の伝達を確実に抑制することが可能である。また、2つの環状構造部における振動減衰を共通の減衰部で行うことが可能になり、より一層効率のよい減衰が可能になる。
【0019】
本発明の請求項7に係る車体構造は、車両における振動源を構成する第1部分と車体を構成する構成部材とを連結し、前記車体を補強する第1補強部材と、前記振動源における前記第1部分と異なる部分である第2部分と前記構成部材とを連結し、前記車体を補強する第2補強部材と、前記第1補強部材に沿って伝達される振動の伝達路と前記第2補強部材に沿って伝達される振動の伝達路とが合流する合流部と、前記合流部に配置され、前記第1補強部材および前記第2補強部材のそれぞれに沿って伝達される前記振動を減衰する減衰部とを備え、前記第1補強部材は、当該第1補強部材に沿って伝達される前記振動の伝達を前記合流部の途中で中断する中断部を有し、かつ、当該中断部近傍において前記減衰部を介して前記第2補強部材に接続され、前記第1補強部材は、前記構成部材とともに前記車体の正面視において環状の閉断面構造を有する第1環状構造部を構成し、前記第2補強部材は、前記構成部材とともに前記車体の側面視において環状の閉断面構造を有する第2環状構造部を構成し、前記合流部における前記振動源から遠い側において、前記第1環状構造部と前記第2環状構造部とが共用する共用部分を有し、前記共用部分は、前記車体の側部に形成されたサイドウインドウ開口部の下端よりも上方に位置することを特徴とする。
【0020】
かかる構成では、上記の共用部分が車体の側部に形成されたサイドウインドウ開口部の下端よりも上方に位置するので、乗員の耳の近くまで振動が伝達することを防止可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の車体構造によれば、車体の剛性を向上しながら振動源から車体へ伝わる振動をより一層効率よく抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係る車体構造におけるリアホイールハウス周辺を車室内側から見た斜視図である。
【
図2】
図1の車体構造におけるリアホイールハウスおよび前後方向環状構造を車両の外側面から見た図である。
【
図4】
図2のリアホールハウス周辺におけるアウタレインを取り外した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係る車体構造におけるリアホイールハウス周辺を車室内側から見た斜視図である。
図2は、
図1の車体構造におけるリアホイールハウスおよび前後方向環状構造を車両の外側面から見た図である。
【0025】
なお、図中の方向指標(「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」)は車両を基準としており、以下の説明中で用いる方向は、特に言及する場合を除き、この指標に基づくものとする。また、
図1では、リアホイールハウス4の周辺を拡大して示すために、車体1における車体1の右側部分のみが示されている。
【0026】
図1~2に示されるように、本実施形態に係る車体構造が適用される車体1は、車体1の床面を構成するフロアパネル2と、当該フロアパネル2の車両の幅方向(車両の左右方向であり、以下「車幅方向」という)の両側において車両前後方向に延びる一対のフロアサイドフレーム3と、リアホイール(図示せず)が収容された一対のリアホイールハウス4と、一対のリアホイールハウス4の間で車幅方向に延びるクロスメンバ5と、車体1の側面を構成する一対のサイドプレート6とを備えている。
【0027】
本実施形態では、車両走行中においてリアホールで発生する振動に着目して、リアホイールを収容するリアホイールハウス4を振動源として考える。
【0028】
リアホイールハウス4は、
図1~3に示されるように、第1部分として、車体1の車幅方向の内側に位置するホイールハウスインナ4aと、第1部分と異なる第2部分として、車体1の車幅方向の外側に位置するホイールハウスアウタ4bとを備えている。ホイールハウスインナ4aおよびホイールハウスアウタ4bは、それぞれ、車両前後方向に沿って配置され、上方に突出するように半円弧形状に膨らんだ板状の部材である。ホイールハウスインナ4aおよびホイールハウスアウタ4bは、それぞれ円弧状の外周面から外側に突出する円弧状に延びるフランジ部4c、4dを有している。ホイールハウスインナ4aおよびホイールハウスアウタ4bが車幅方向に重ね合された状態で、これらのフランジ部4c、4dが溶接などによって接合されることにより、ホイールハウスインナ4aおよびホイールハウスアウタ4bを備える半円弧形状のリアホイールハウス4が構成されている。
【0029】
また、本実施形態では、サイドプレート6の下端は、フランジ部4c、4dと重なり合った部分に対して溶接などによって接合されている。
【0030】
本実施形態に係る車体構造は、上記の車体1において、
図1~3に示されるように、さらに、第1補強部材としてのインナレイン7と、第2補強部材としてのアウタレイン8と、合流部14と、減衰部としての減衰節15とを備える。インナレイン7およびアウタレイン8は、車体1の内外においてリアホイールハウス4とサイドプレート6とを連結するように設けられ、リアホイールハウス4の周辺の車体1を補強している。
【0031】
インナレイン7は、
図1、3、5に示されるように、リアホイールハウス4のホイールハウスインナ4aと車体1の側面を構成する構成部材である上記のサイドプレート6とを連結し、車体1を補強する補強部材である。インナレイン7は、サイドプレート6に対向する上部7aと、当該上部7aの下方に位置してホイールハウスインナ4aに沿って車両内側(車両左方向)に延びる下部7bを有する。
【0032】
インナレイン7の上部7aの外周縁には、当該外周縁の外側に広がるフランジ部7cが形成されている。フランジ部7cがサイドプレート6に溶接などによって接合されることにより、インナレイン7の上部7aはサイドプレート6に連結される。
【0033】
インナレイン7の下部7bの外周縁には、当該外周縁の外側に広がるフランジ部7dが形成されている。フランジ部7dがホイールハウスインナ4aに溶接などによって接合されることにより、インナレイン7の下部7bはホイールハウスインナ4aに連結される。
【0034】
本実施形態では、インナレイン7は、車両内側に膨らんだ板状の部材であり、
図3に示されるように、サイドプレート6およびホイールハウスインナ4aとともにインナ側閉断面構造18を構成している。
【0035】
アウタレイン8は、
図2、3、6に示されるように、リアホイールハウス4のホイールハウスアウタ4bとサイドプレート6とを連結し、車体1を補強する補強部材である。アウタレイン8は、サイドプレート6に対向する上部8aと、当該上部8aの下方に位置してホイールハウスアウタ4bに沿って車両外側(車両右方向)に延びる下部8bを有する。
【0036】
アウタレイン8の上部8aの外周縁には、当該外周縁の外側に広がるフランジ部8cが形成されている。フランジ部8cがサイドプレート6に溶接などによって接合されることにより、アウタレイン8の上部8aはサイドプレート6に連結される。
【0037】
アウタレイン8の下部8bの外周縁には、当該外周縁の外側に広がるフランジ部8dが形成されている。フランジ部8dがホイールハウスアウタ4bに溶接などによって接合されることにより、アウタレイン8の下部8bはホイールハウスアウタ4bに連結される。
【0038】
本実施形態では、アウタレイン8は、車両外側に膨らんだ板状の部材であり、
図3に示されるように、サイドプレート6およびホイールハウスアウタ4bとともにアウタ側閉断面構造19を構成している。
【0039】
合流部14は、
図3に示されるように、インナレイン7に沿って伝達される振動の伝達路とアウタレイン8に沿って伝達される振動の伝達路とが合流する部分である。本実施形態では、合流部14は、サイドプレート6と、当該サイドプレート6に対向するインナレイン7の上部7aおよびアウタレイン8の上部8aとによって構成されている。
【0040】
インナレイン7は、当該インナレイン7に沿って伝達される振動の伝達を合流部14の途中で中断する中断部7eを有する。本実施形態では、インナレイン7の中断部7eは、インナレイン7の上部7aの上端(具体的には上部7aの上端付近のフランジ部7c)によって構成されている。
【0041】
減衰節15は、合流部14に配置され、インナレイン7およびアウタレイン8のそれぞれに沿って伝達される振動を減衰する構成を有している。本実施形態の減衰節15は、アウタ側閉断面構造19の内部に配置されている。
【0042】
減衰節15は、アウタレイン8の内面に固定された連結部材16と、連結部材16とサイドプレート6との間に介在し、振動を減衰する振動減衰部材17とを備えている。
【0043】
連結部材16は、振動を伝達することが可能な程度の剛性を有する板状部材であり、下方折曲部16aおよび上方折曲部16bを有する。下方折曲部16aは、下方に折り曲げられることによりアウタレイン8の内面に対向する部分であり、アウタレイン8に溶接などによって固定されている。上方折曲部16bは、上方に折り曲げられることによりサイドプレート6に対向する部分である。
【0044】
振動減衰部材17は、振動エネルギーを熱エネルギーに変換して振動を減衰することが可能な粘弾性を有していればよく、具体的には、温度が20℃で、かつ加振力の周波数が30Hzである条件下において、貯蔵弾性率が500MPa以下で、かつ、損失係数が0.2以上の物性を有していればよい。振動減衰部材17としては、減衰ボンドなどの粘弾性部材が用いられる。振動減衰部材17は、連結部材16の上方折曲部16bとサイドプレート6との間に介在している。
【0045】
インナレイン7は、中断部7e近傍において減衰節15を介してアウタレイン8に接続されている。
【0046】
本実施形態の車体構造では、
図1に示されるように、インナレイン7は、サイドプレート6とともに車体1の正面視において環状の閉断面構造を有する第1環状構造部としての車幅方向環状構造A1を構成している。
【0047】
車幅方向環状構造A1は、車幅方向両側に配置された一対のインナレイン7と、一対のインナレイン7の上部7aがそれぞれ連結された一対のサイドプレート6と、一対のサイドプレート6の上端にそれぞれ連結されて上方に延びる一対のリアピラー9と、一対のリアピラー9の上端にそれぞれ連結されて車両前後方向に延びる一対のルーフサイドレール10と、一対のルーフサイドレール10を連結して車幅方向に延びるルーフレイン11と、一対のインナレイン7の下部7bにそれぞれ連結された一対のサスハウジング12と、一対のサスハウジング12に両端が連結されたクロスメンバ5とによって構成された環状の閉断面構造である。
【0048】
車幅方向環状構造A1では、上記の各部材によって以下のように閉断面が構成されている。すなわち、インナレイン7は、上記のようにサイドプレート6およびホイールハウスインナ4aとともにインナ側閉断面構造18を構成している。サイドプレート6は、
図3のアウタレイン8の上部8aとともに閉断面を構成している。リアピラー9は、断面ハット形状のアウターピラーとインナーピラーとが接合された閉断面を有している。ルーフサイドレール10は、矩形筒状であり、閉断面を有している。ルーフレイン11は、図示しないルーフパネルとともに閉断面を構成している。サスハウジング12は、ホイールハウスインナ4aとともに閉断面を構成している。クロスメンバ5は、フロアパネル2とともに閉断面を構成している。これら複数の閉断面が環状に連結されることによって、上記のように環状の閉断面構造を有する車幅方向環状構造A1を構成している。
【0049】
また、本実施形態の車体構造では、
図2に示されるように、アウタレイン8は、サイドプレート6とともに車体1の側面視において環状の閉断面構造を有する第2環状構造部としての前後方向環状構造A2を構成している。前後方向環状構造A2は、リア乗降口21を囲むように、車両の両側面にそれぞれ形成されている。
【0050】
前後方向環状構造A2は、アウタレイン8と、アウタレイン8の上部8aが連結されたサイドプレート6と、サイドプレート6の上端およびアウタレイン8の上部8aに連結されて上方に延びるリアピラー9と、リアピラー9の上端にそれぞれ連結されて車両前後方向に延びるルーフサイドレール10と、リアピラー9よりも車両前側においてルーフサイドレール10から下方に延びるセンターピラー13と、車両前後方向に延びてセンターピラー3の下端とホイールハウスアウタ4bとを連結するフロアサイドフレーム3とによって構成された環状の閉断面構造である。
【0051】
前後方向環状構造A2では、上記の各部材によって以下のように閉断面が構成されている。すなわち、アウタレイン8は、上記のようにサイドプレート6およびホイールハウスアウタ4bとともにアウタ側閉断面構造19を構成している。サイドプレート6は、上記のように
図3のアウタレイン8の上部8aとともに閉断面を構成している。リアピラー9およびルーフサイドレール10は、上記のようにそれぞれ閉断面を有している。センターピラー13も、リアピラー9と同様に、断面ハット形状のアウターピラーとインナーピラーとが接合された閉断面を有している。フロアサイドフレーム3は、矩形筒状であり、閉断面を有している。
【0052】
本実施形態の車体構造は、合流部14におけるリアホイールハウス4から遠い側(すなわち、
図3において減衰節15に対して振動源であるリアホイールハウス4の反対側(上側))において、車幅方向環状構造部A1と前後方向環状構造部A2とが共用する共用部分として
図1~2に示されるリアピラー9を有する。
【0053】
共用部分であるリアピラー9は、
図2および
図4に示されるように、車体1の側部に形成されたサイドウインドウ開口部であるクォータウインドウ開口20の下端20aよりも上方になるように配置されていれば、乗員への振動伝達を防止できる。ただし、リアピラー9の下端位置は、振動伝達防止効果と設計上の要求とを比較しながら適宜決定すればよいので、乗員へ伝達される振動が問題なければクォータウインドウ開口20の下端20aよりも若干下方に位置してもよい。
【0054】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の車体構造では、第1補強部材としてのインナレイン7と、第2補強部材としてのアウタレイン8と、合流部14と、減衰部としての減衰節15とを備える。インナレイン7は、車両におけるリアホイールハウス4を構成するホイールハウスインナ4aと車体1を構成するサイドプレート6とを連結し、車体1を補強する。アウタレイン8は、リアホイールハウス4におけるホイールハウスインナ4aと異なる部分であるホイールハウスアウタ4bとサイドプレート6とを連結し、車体1を補強する。合流部14は、インナレイン7に沿って伝達される振動の伝達路とアウタレイン8に沿って伝達される振動の伝達路とが合流する。減衰節15は、合流部14に配置され、インナレイン7およびアウタレイン8のそれぞれに沿って伝達される振動を減衰する。インナレイン7は、当該インナレイン7に沿って伝達される振動の伝達を合流部14の途中で中断する中断部7eを有する。しかも、インナレイン7は、中断部7e近傍において減衰節15を介してアウタレイン8に接続されている。
【0055】
かかる構成の車体構造は、リアホイールハウス4の異なる2つの部分(ホイールハウスインナ4aおよびホイールハウスアウタ4b)を個別に車体1を構成するサイドプレート6に連結して車体1を補強するインナレイン7およびアウタレイン8を備えている。インナレイン7に沿って伝達される振動の伝達路とアウタレイン8に沿って伝達される振動の伝達路とは、
図3に示される合流部14で合流する。ここで、インナレイン7に沿って伝達される振動は、合流部14の途中で中断部7eによって中断されて当該中断部7eに集中する。中断部7eに集中した振動は、中断部7e近傍の減衰部としての減衰節15によって減衰される。一方、アウタレイン8に沿って伝達される振動も減衰節15により減衰されるが、当該減衰節15によって減衰しきれなかった残存する振動はインナレイン7に沿ってリアホイールハウス4に戻されるため、車体1への振動伝達を抑制することが可能である。これにより、車体1の剛性を向上しながらリアホイールハウス4から車体1へ伝わる振動をより一層効率よく抑制することが可能である。
【0056】
なお、中断部7eは、図3に示されるように、減衰節15と同じ程度の高さにある方が好ましく、その場合、中断部7eに集中した振動を分散させずに減衰節15によって確実に減衰することが可能である。
【0057】
(2)
本実施形態の車体構造では、振動源は、リアホイールを収容するリアホイールハウス4である。
【0058】
これにより、リアホイールハウス4周辺の車体1の剛性を向上するとともに、車両走行中にリアホイールハウス4で発生して上記のインナレイン7およびアウタレイン8に沿って伝達される振動をいずれも減衰部である減衰節15によってより一層効率よく抑制することが可能である。
【0059】
(3)
本実施形態の車体構造では、構成部材は、車体1の側面を構成するサイドプレート6である。振動源の第1部分は、リアホイールハウス4における車体1の内側に配置されたホイールハウスインナ4aである。第1補強部材は、ホイールハウスインナ4aとサイドプレート6の内面とに連結されたインナレイン7である。
【0060】
かかる構成により、リアホイールハウス4で発生する振動は、車体1の内側では、第1補強部材であるインナレイン7に沿って伝達されるが、合流部14の途中で中断部7eによって中断され、中断部7e近傍の減衰節15で減衰される。その結果、車室内側における振動の伝播範囲を抑えつつより一層効率よく抑制することが可能である。
【0061】
(4)
本実施形態の車体構造では、アウタレイン8は、サイドプレート6とともにアウタ側閉断面構造19を構成する。減衰部は、アウタ側閉断面構造19の内部に形成された減衰節15によって構成されている。減衰節15は、アウタレイン8の内面に固定された連結部材16と、連結部材16とサイドプレート6との間に介在し、振動を減衰する振動減衰部材17とを備えている。
【0062】
かかる構成では、アウタレイン8がサイドプレート6とともにアウタ側閉断面構造19を構成することにより、車体1の剛性がさらに向上する。それとともに、アウタ側閉断面構造19の内部では、アウタレイン8に沿って伝達される振動は、減衰部を構成する減衰節15において連結部材16を介して振動減衰部材17に伝達され、当該振動減衰部材17によって効率よく減衰される。その結果、車体1の剛性のさらなる向上とより効率の良い減衰を達成することが可能である。
【0063】
また、本実施形態では、上記のアウタ側閉断面構造19だけでなく、インナレイン7がサイドプレート6とともにインナ側閉断面構造18を構成しているので、車両内外のこれら2つの閉断面構造18、19によって車体1の剛性がより一層向上している。
【0064】
(5)
本実施形態の車体構造では、第1補強部材であるインナレイン7は、サイドプレート6とともに車体1の正面視において環状の閉断面構造を有する車幅方向環状構造部A1を構成している。第2補強部材であるアウタレイン8は、サイドプレート6とともに車体1の側面視において環状の閉断面構造を有する前後方向環状構造部A2を構成している。この車体構造は、合流部14におけるリアホイールハウス4から遠い側(上側)において、車幅方向環状構造部A1と前後方向環状構造部A2とが共用する共用部分であるリアピラー9を有する。
【0065】
かかる構成では、環状の閉断面構造によって構成された2つの環状構造部(車幅方向環状構造部A1および前後方向環状構造部A2)が車体1に形成されることにより、車体1の剛性がより一層構造する。それとともに、これら2つの環状構造部の共用部分であるリアピラー9は合流部14におけるリアホイールハウス4から遠い側に位置しているので、合流部14に設けられた減衰節15によってリアホイールハウス4から共用部分であるリアピラー9への振動の伝達を確実に抑制することが可能である。また、2つの環状構造部(車幅方向環状構造部A1および前後方向環状構造部A2)における振動減衰を共通の減衰節15で行うことが可能になり、より一層効率のよい減衰が可能になる。
【0066】
(6)
本実施形態の車体構造は、共用部分であるリアピラー9は、車体1の側部に形成されたクォータウインドウ開口20の下端20aよりも上方に位置するように構成されている。そのため、車室内では、乗員の耳の近くまで振動が伝達することを防止可能である。
【0067】
(変形例)
(A)
なお、上記実施形態では、インナレイン7(第1補強部材)およびアウタレイン8(第2補強部材)のそれぞれに沿って伝達される振動を減衰する減衰部として減衰節15が採用されているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明では、2つの補強部材のそれぞれに沿って伝達される振動を減衰することが可能な構成であれば本発明の減衰部として採用することが可能である。例えば、減衰節15の代わりに2つの補強部材を連結するように設けられたゴムなどの弾性部材や油圧ダンパなどの減衰性能を有するものも減衰部として採用することが可能である。
【0068】
(B)
また、上記実施形態では、中断部を有する第1補強部材がインナレイン7であり、第2補強部材がアウタレイン8である例が示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、その反対の構成、すなわち、中断部を有する第1補強部材がアウタレイン8であり、第2補強部材がインナレイン7であってもよく、その場合も、上記(1)と同様の作用効果を奏することが可能である。ただし、中断部を有する第1補強部材がインナレイン7である上記実施形態の構成であれば、車室内部の上側に振動が伝播することを抑制することが可能であり、車室内部の振動抑制を達成することが可能である点で好ましい。
【0069】
(C)
さらに、上記実施形態では、振動源としてリアホイールハウスを例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。したがって、本発明の振動源は、車両において振動を発生するものであればよく、フロントホイールハウス、トランスミッションやギアボックス、またはエンジン(またはエンジンを囲む部材)などであってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 車体
4 リアホイールハウス(振動源)
4a ホイールハウスインナ(第1部分)
4b ホイールハウスアウタ(第2部分))
6 サイドプレート(構成部材)
7 インナレイン(第1補強部材)
7e 中断部
8 アウタレイン(第2補強部材)
9 リアピラー(共用部分)
14 合流部
15 減衰節(減衰部)
16 連結部材
17 振動減衰部材
18 インナ側閉断面構造
19 アウタ側閉断面構造
20 クォータウインドウ開口
20a 下端
A1 車幅方向環状構造(第1環状構造部)
A2 前後方向環状構造(第2環状構造部)