(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】動物の育成方法及び動物育成装置
(51)【国際特許分類】
A01K 67/00 20060101AFI20220614BHJP
A01K 5/00 20060101ALI20220614BHJP
A01K 61/80 20170101ALI20220614BHJP
【FI】
A01K67/00 Z
A01K5/00 Z
A01K61/80
(21)【出願番号】P 2019037060
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】八木 夕季
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-172901(JP,A)
【文献】米国特許第3473509(US,A)
【文献】中国特許出願公開第104304097(CN,A)
【文献】特開2017-077205(JP,A)
【文献】特開2016-054685(JP,A)
【文献】特開2017-085907(JP,A)
【文献】特開2013-236572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01K 5/00 - 5/02
A01K 11/00 - 29/00
A01K 61/00 - 61/95
A01K 67/00 - 67/04
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物を育成する所定期間の潮汐の変動を求め、前記潮汐の変動周期に同期する時間を、前記動物に給餌を開始する給餌開始時期の次に給餌するまでの特定間隔として決定することを計画する給餌時期計画工程と、
前記給餌時期計画工程を行った後に、前記給餌開始時期に給餌を開始し、前記給餌開始時期から前記特定間隔をおいた時期毎に給餌を繰り返す給餌サイクル工程と、を行うことを特徴とする動物の育成方法。
【請求項2】
前記特定間隔は、太陰日に対応する時間である請求項1に記載の動物の育成方法。
【請求項3】
前記給餌時期計画工程において、更に、前記潮汐の変動を求めた後に、前記潮汐の変動が極大を示す時を含む極大時期の中から選択した1以上の極大時期を、前記給餌開始時期として特定する請求項1又は2に記載の動物の育成方法。
【請求項4】
前記給餌サイクル工程では、明暗条件が明期のみになるように制御を行う請求項1乃至3の何れか一項に記載の動物の育成方法。
【請求項5】
前記給餌サイクル工程では、前記特定間隔に同期するサイクルで明暗条件の制御を行う請求項1乃至3の何れか一項に記載の動物の育成方法。
【請求項6】
前記潮汐の変動は、固体潮汐に連動して変動する重力加速度及び海洋潮汐に連動して変動する潮位の少なくとも一方を参照して求められる請求項1乃至5の何れか一項に記載の動物の育成方法。
【請求項7】
前記動物が、魚綱、鳥綱、両生綱又は爬虫綱に属する請求項1乃至6の何れか一項に記載の動物の育成方法。
【請求項8】
前記動物が、商業用動物であり、孵化した後に出荷予定に至るまで成長させるために要する時間の1/50~1/2のときに、前記給餌サイクル工程を行う請求項7に記載の動物の育成方法。
【請求項9】
動物に給餌する間隔を制御する給餌サイクル制御部を備える動物育成装置であって、
前記給餌サイクル制御部は、
前記動物を育成する所定期間内の潮汐の変動を求める潮汐変動情報取得部と、
前記潮汐の変動に基づいて、前記潮汐の変動周期に同期する時間を、前記動物に給餌を開始する給餌開始時期の次に給餌するまでの特定間隔として決定する特定間隔決定部と、を備えていることを特徴とする動物育成装置。
【請求項10】
前記給餌サイクル制御部は、更に、給餌サイクルを行う間に明期を維持する明暗条件制御部を有している請求項9に記載の動物育成装置。
【請求項11】
前記給餌サイクル制御部は、更に、給餌サイクルに同期するサイクルで明暗条件を制御する明暗条件制御部を有している請求項9に記載の動物育成装置。
【請求項12】
前記給餌サイクル制御部は、更に、前記潮汐変動情報取得部によって求めた前記潮汐の変動に基づいて前記給餌開始時期を特定する給餌開始時期特定部を備えており、
前記給餌開始時期特定部は、前記潮汐の変動が極大を示す時を含む極大時期の中から選択した1以上の極大時期を、前記給餌開始時期として特定するものである請求項9乃至11のうちいずれか一項に記載の動物育成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の育成方法及び育成装置に関する。更に詳しくは、動物の育成を行う所定期間内における管理負担を抑制しながら、動物の成長を促進させることができる動物の育成方法及び動物育成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の動物の生産現場では、生産作業の十分な標準化が未だ達成されておらず、生産目的に応じた生産者の経験や勘働きに頼るところが少なくない実情がある。動物に給餌する作業に関しても、一層効率的に行えるように待望されている。特許文献1には、動物への給餌量の過不足を抑制することを目的に、動物の活動量を計測する活動量計測手段を備えた給餌システムが開示されている。特許文献2には、更に、動物に給餌するタイミングを制御することを目的に、所定の検知装置の回転量、移動量又はアクション回数を検知して給餌装置に給餌指示を送信する制御部を備えた給餌システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-271128号公報
【文献】特開2018-78869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2の給餌システムは、動物を適正に育成するために、動物の活動情報を直接的又は間接的に逐一取得する検知機器(活動量計測手段、又は、回転量、移動量若しくはアクション回数を検知する検知装置)を必要とする。このようなシステムでは、動物の育成を行う所定の全期間内に亘って、検知機器を適切に管理しながら、同時に、リアルタイムで動物の活動状況を把握する必要がある。従って、給餌システムを運用する負担が小さくない点で、生産者に不便を強いている。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、動物の育成を行う所定期間内における管理負担を抑制しながら動物の成長を促進させる動物の育成方法及び動物育成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の動物の育成方法は、以下に示される。
(1)動物を育成する所定期間の潮汐の変動を求め、前記潮汐の変動周期に同期する時間を、前記動物に給餌を開始する給餌開始時期の次に給餌するまでの特定間隔として決定することを計画する給餌時期計画工程と、前記給餌時期計画工程を行った後に、前記給餌開始時期に給餌を開始し、前記給餌開始時期から前記特定間隔をおいた時期毎に給餌を繰り返す給餌サイクル工程と、を行うことを要旨とする動物の育成方法。
(2)前記特定間隔は、太陰日に対応する時間である上記(1)に記載の動物の育成方法。
(3)前記給餌時期計画工程において、更に、前記潮汐の変動を求めた後に、前記潮汐の変動が極大を示す時を含む極大時期の中から選択した1以上の極大時期を、前記給餌開始時期として特定する上記(1)又は(2)に記載の動物の育成方法。
(4)前記給餌サイクル工程では、明暗条件が明期のみになるように制御を行う上記(1)~(3)のいずれかに記載の動物の育成方法。
(5)前記給餌サイクル工程では、前記特定間隔に同期するサイクルで明暗条件の制御を行う上記(1)~(3)のいずれかに記載の動物の育成方法。
(6)前記潮汐の変動は、固体潮汐に連動して変動する重力加速度及び海洋潮汐に連動して変動する潮位の少なくとも一方を参照して求められる上記(1)~(5)のいずれかに記載の動物の育成方法。
(7)前記動物が、魚綱、鳥綱、両生綱又は爬虫綱に属する上記(1)~(6)のいずれかに記載の動物の育成方法。
(8)前記動物が、商業用動物であり、孵化した後に出荷予定に至るまで成長させるために要する時間の1/50~1/2のときに、前記給餌サイクル工程を行う上記(7)に記載の動物の育成方法。
【0007】
上記課題を解決する他の本発明の動物育成装置は、以下に示される。
(9)動物に給餌する間隔を制御する給餌サイクル制御部を備える動物育成装置であって、前記給餌サイクル制御部は、前記動物を育成する所定期間内の潮汐の変動を求める潮汐変動情報取得部と、前記潮汐の変動に基づいて、前記潮汐の変動周期に同期する時間を、前記動物に給餌を開始する給餌開始時期の次に給餌するまでの特定間隔として決定する特定間隔決定部と、を備えていることを要旨とする。
(10)前記給餌サイクル制御部は、更に、給餌サイクルを行う間に明期を維持する明暗条件制御部を有している上記(9)に記載の動物育成装置。
(11)前記給餌サイクル制御部は、更に、給餌サイクルに同期するサイクルで明暗条件を制御する明暗条件制御部を有している上記(9)に記載の動物育成装置。
(12)前記給餌サイクル制御部は、更に、前記潮汐変動情報取得部によって求めた前記潮汐の変動に基づいて前記給餌開始時期を特定する給餌開始時期特定部を備えており、前記給餌開始時期特定部は、前記潮汐の変動が極大を示す時を含む極大時期の中から選択した1以上の極大時期を、前記給餌開始時期として特定するものである上記(9)~(11)のいずれかに記載の動物育成装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の動物の育成方法は、給餌サイクル工程を行う前に、所定期間の潮汐の変動を求め、潮汐の変動周期に同期する時間を動物に給餌する特定間隔として決定する。従って、予め、給餌する時期を簡易に計画できる。更に、決定した特定間隔毎に給餌を繰り返す給餌サイクル工程を行うので、動物の成長を促進できる。
【0009】
他の本発明の動物育成装置は、本発明の動物の育成方法を動物育成装置の観点から把握した発明であり、本発明と同様の効果を奏する。即ち、給餌サイクル制御部の特定間隔決定部が、潮汐変動取得部によって求めた潮汐の変動に基づいて、潮汐の変動周期に同期する時間を動物に給餌する特定間隔として決定するので、予め、給餌する時期を簡易に計画的に理解できる。更に、決定した特定間隔毎に給餌を繰り返す給餌サイクル工程を行うので、動物の成長を促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】動物の育成方法を説明するフローチャートである。
【
図3】実施例の動物の育成方法を説明するフローチャートである。
【
図6】子午線に沿った潮汐の変動を説明する図である。
【
図7】実施例の動物の育成装置を説明する図である。
【
図8】実施例1・3の給餌サイクル工程を説明する図である。
【
図9】実施例2の給餌サイクル工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、詳しく説明する。
本発明における上記動物は、具体的には、例えば、鳥綱、爬虫綱、両生綱、魚綱、及び、無脊椎動物等が挙げられる。この中では、上記動物は、魚綱、鳥綱、爬虫綱又は両生綱に属することが好ましく、爬虫綱又は両生綱に属することがより好ましい。爬虫綱に属する具体的な動物としては、カメ目、トカゲ類・ヘビ類を含む有鱗目、ワニ目等が挙げられ、両生綱に属する具体的な動物としては、サンショウウオ、イモリ、カエルを含むカエル目等が挙げられる。
【0012】
後述する実施例では、上記の中から代表して、日本国内では食用動物として普及するニホンスッポンの育成を取り上げて説明している。ニホンスッポンは、養殖的に育成する方法では育成効率が悪いため、未だに高価な食品と認識されている実情がある。
例えば、養殖池に単に稚カメを放流する育成方法では、スッポン類は、池の水温が15~10℃程度に低下し始めてから15~20℃程度に上昇するまで、摂食しなくなる。このため、摂食しない間は、スッポン類の成長が止まる。水温が20℃以上に上昇すると産卵を開始し、受精卵は約30℃の砂地中で50~60日後に孵化し、体重2~3gの稚カメが生まれる。スッポン類の生育サイクがこのようであるため、スッポン類を露地で養殖的に育成する方法では、体重500g以上の成体となるために、4~6年の長年月を必要とする。
また、一般的に、スッポン類の養殖は、例えば、孵化段階、中程度の育成段階、中程度から成体まで育成を図る段階等のように、生育に応じた段階に分けて管理される。この中で、成長初期の段階において、きめ細かな管理が必要になる。共食いを抑制するために、稚カメ用、育成用又は親用の各養殖池を準備し、場合によつてはスッポン類の年令・大きさ毎に池の数を増加する育成が行われる。
【0013】
このように、自然に任せて単に養殖池に放つ露地育成では、育成効率が悪くなるため、餌を工夫する他に、加温管理できたり、生育段階に応じた収容場所を設けたり、特別な育成施設を整備して育成する方法が行われている(例えば、特許5524431号公報参照)。しかしながら、冒頭の[従来技術]で説明したとおり、育成施設を整備する方法に頼ると、育成施設の維持管理を担うための経済的又は人的負担が大きくなる。
【0014】
ニホンスッポンのような動物を育成する際の問題は、食用のカメ類の養殖に限らず、ペット動物を市場に供給する場合にも、同様に生じ得る。本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、特別な育成施設の整備に頼るのではなく、潮汐の変動周期に同期させるタイミングで給餌を行うことによって、意外にも動物の体重の増加程度に影響を与えることを見いだした。つまり、動物の育成を促進できたので、以下に詳述する。
【0015】
[1]動物の育成方法
本発明の動物の育成方法は、
図1,
図2に示すとおり、動物を育成する所定期間(P
0)の潮汐の変動(Ti)を求め(step11)、潮汐の変動周期(T
0)に同期する時間を、動物に給餌を開始する給餌開始時期(Ps)の次に給餌するまでの特定間隔(T(int))として決定する(step12)ことを計画する給餌時期計画工程(step1)と、給餌時期計画工程(step1)を行った後に、給餌開始時期(Ps)に給餌を開始し(step21)、給餌開始時期(Ps)から特定間隔(T(int))をおいた時期毎に給餌を繰り返す(step22)給餌サイクル工程(step2)と、を行うことを特徴とする。
【0016】
1.給餌時期を計画する工程
本実施形態では、動物を育成すべく実際に給餌を行う前に、給餌を行う給餌時期を計画する。
図2に示すとおり、給餌時期計画工程(step1)では、(a)潮汐の変動を求めるステップ(step11)、(b)給餌開始時期の次に給餌するまでの特定間隔を決定するステップ(step12)を行う。更に、本実施形態に係る給餌時期計画工程(step1)では、
図3に示すとおり、(c)給餌開始時期を特定するステップ(step13)を行ってもよい。
【0017】
(a)潮汐の変動を求めるステップ
一般的に、潮汐現象の変動は、相対的重力加速度(理論値)、気象データ(気圧、潮名、潮位、干満差等)、黄経差(太陽と月の黄経差)及び月齢等に関連する情報に基づいて理解される。また、潮汐の変動周期は、このように把握される潮汐現象に基づいて求めることができる。本実施形態に係る「潮汐の変動を求める」ステップは、今後に動物の育成を行う予定の所定期間に関して、主に、その所定期間内における潮汐の周期的な変動を推測することによって、潮汐の変動の理解に務めることを意味する。
【0018】
本実施形態では、動物を育成する所定期間の長さは特に限定されず、動物の種類に応じて適宜調整される。「所定期間」は、具体的には、例えば、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、1週間、2週間、4週間、3カ月間、6カ月間、1年間等とすることができる。
潮汐の変動を求める具体的な方法としては、変動する重力加速度を算出する方法、より身近に月齢カレンダーや黄経差から潮汐の変動を推測する方法、気象データ(気圧及び潮位)から潮汐の変動予想値を取得ないし推測する方法、天文潮汐に関連してよく知られた潮力変動を参照する方法等を挙げることができる。潮汐の変動を求めるステップを行うためには、動物の育成を開始する予定日から終了日までの所定期間内の潮汐の変動を、上記のような方法で適宜に求めればよい。
【0019】
〔天文潮汐〕
例えば、潮汐の変動を求めるステップは、よく知られた天文潮汐の変動を参照する方法であってもよい。即ち、以下に説明するような自然法則として知られる天文潮汐に関する技術常識を利用してもよい。
地球に天文潮汐を起す力(起潮力)は、天体からの引力と、地球と天体が相対的に回転運動していることによる遠心力との合力として知られている。天体の運動は基本的に周期的であり、天体それぞれの大きさや運動に応じて働く起潮力の周期や位相が算出される。そのため、天文潮汐の変動は、より正確に理解され得る。地球に作用する天文潮汐は、代表的には、地球と月に関連する引力に起因すると考えられる。この場合、潮汐の変動を、動物の育成地点(観測地点)において、月が南中してから次に南中するまでに地球が自転する時間を1周期とする変動として理解してもよい。
【0020】
以下、月が地球に及ぼす起潮力について
図4,
図5を用いて説明する。
図5は、月が南中してから次に南中するまでの主に地球-月の位置関係について、模式的に示す図である。
図4は、
図5のうち太陽-月―地球が1直線上に整列する配置Xについて模式的に示す図である。図示のとおり、地球(E)は自転しながら太陽(S)の周りを公転するように回転運動する。同様に、月(M)も自転しながら地球の周りを公転する。従って、月-地球間に、重心(G)を中心とする地球-月の回転運動系が存在する。
例えば、0:00時に、月を間に挟み、地球の観測地点A-太陽が1直線上に配置するとする(配置X)。即ち、配置Xでは、観測地点Aにおいて、太陽及び月が南中する状態にある。観測地点Aは、その正面方向に月と相対向するため、月との距離が最も小さくなるように配置し、月から受けるその引力が大きくなり、海水(S/W)が膨らむように月側に引き寄せられ満潮状態になる(
図4参照)。このとき地球上の観測地点Aの裏側のB地点は、月との距離が最も大きくなるように配置し、月から受ける引力が最も小さくなる一方で、重心Gを中心とする回転系の遠心力の影響を相対的に大きく受ける。従って、海水(S/W)が月の反対側に遠ざかるように膨らむ満潮状態になる。このように、地球上の観測地点Aで月が南中するときに、観測地点A,Bでは、月との配置に起因して半径方向に沿った起潮力が大きく働き、潮汐の変動が極大を示す。
一方で、観測地点A,Bと直交配置する観測地点J,Kでは、月からの引力と重心Gからの距離に応じた遠心力との合力が地球の中心(E/C)の方向に働く。海水(S/W))は地球の表面に沿って地球の中心方向に流動するため、観測地点J,Kでは干潮状態となる。このように、観測地点A-B線に直交配置する観測地点J及び観測地点Kでは、月との配置に起因して半径方向に沿った起潮力の働きが小さくなり、潮汐の変動が極小を示す。
【0021】
太陽が南中してから次に南中するまでの時間が、24時間として定義される。地球は、0:00から24時間経過する間に自転及び公転するため、観測地点Aで最初の南中時刻が0:00の場合、次に観測地点Aで太陽が南中する24:00には、地球は、太陽の周囲を角O1(実際の計算値を誇張して図示する)公転し、観測地点A-太陽が1直線上配置する配置X’に至る。このとき(24:00)には、月も、地球の周囲を角α1(α1>O1、実際の計算値を正確に図示せず)公転しているため、観測地点Aでは、月は未だ南中していない。観測地点Aで月が次に南中するときには、地球は、角O1から更に角O2(実際の計算値を正確に図示しせず)だけ公転し、月も角α2(>α1)まで公転し、観測地点A-月が1直線上に配置する配置Yに至る必要がある。このように、次回に月が南中するまでに、角O1地球が公転した後に更に角O2だけ公転するために要する時間が、約50分に相当する。従って、1太陰日は、平均的に、約24.8時間として扱われ、月が及ぼす潮汐の変動は、1太陰日を1周期とする変動であると理解できる。
このように、潮汐の変動を求めるステップは、基本的な自然法則を考慮した天文潮汐の変動を参照する方法であってもよい。
【0022】
また、潮汐の変動を求めるステップでは、上記のように自然法則を参照する他に、動物を育成する予定の所定期間内の潮汐情報を、より客観的に数値化した情報として、予め取得してもよい。
潮汐情報としては、地上の固体部分の弾性的な変動に基づく固体潮汐、海面の変動として表れる海洋潮汐、又は、大気の圧力変動に基づく大気潮汐のように、地球の状態変化に応じて大別し、理解する方法がある。これらの中では、固体潮汐を参照することが好ましく、具体的には、固体潮汐の変動に連動する重力加速度に関する潮汐情報を用いることが好ましい。
重力加速度は、地上の固体部分の弾性的な変動に応じて周期的に変動すると考えられるため、動物の育成地点の地形を主なよりどころとし、当該育成地点の地形的な情報に基づいて算出され得る。地形は、海面や大気と比較すると容易に変形できないため、固体潮汐の変動は、より正確に予測され易い。潮汐情報として固体潮汐に連動する重力加速度を用いる場合は、高精度な算出結果を地上の広域な範囲に及ぼすことができ、未来の潮汐の変動を理解する精度が高められるため、好ましい。
【0023】
また、他の好適例として、海洋潮汐の変動に連動する潮位に関する潮汐情報を用いることもできる。即ち、潮汐の変動を求めるステップは、潮位の変動を予測する潮汐情報を取得することによっても行われる。
潮位の変動がヒトの生活に密接に影響を与える情報であるため、潮位変動に関する情報は、種々の海洋管理機関(海上保安庁、気象庁、国土地理院及び港湾局等)から予測データが得られ易い。潮汐情報として海洋潮汐に連動する潮位を用いる場合は、このような情報入手の簡易性の点で好ましい。
【0024】
なお、潮汐の変動を求めるために、固体潮汐では重力加速度及を算出したり、海洋潮汐では潮位の変動予測を求めたりできるが、より好ましくは、各種の潮汐情報を複数種類取得し、組み合わせて用いることもできる。
また、固体潮汐の変動予測のために重力加速度を用いる場合には、後述する実施例で具体的に説明するように、重力加速度を表す指標として相対的重力加速度を用いてもよい。相対的重力加速度を重力加速度(ひいては潮汐の変動)の指標として用いる場合、所定期間内に時間軸に沿って変動する相対的重力加速度に関して、その予測値を算出すればよい。
【0025】
(b)特定間隔を決定するステップ
次に、動物に給餌するときの給餌間隔である特定間隔を決定するステップを行う(step12)。特定間隔を決定するステップでは、上記潮汐を求めるステップで求めた潮汐の変動を参照し、その変動に基づき、変動周期を求める。そして、潮汐の変動周期に同期する時間を、動物に給餌を開始する給餌開始時期の次に給餌するまでの特定間隔として決定する。
【0026】
例えば、「(a)潮汐の変動を求めるステップ」で、地球と月の運動に起因する天文潮汐に基づいてその変動を理解した場合には、地球の観測地点(育成地点)において、月が南中してから次に南中するまでの時間を、潮汐変動の1周期に相当する時間として理解できる。上述したとおり、このような1太陰日は、平均的に、約24.8時間として知られている。従って、潮汐の変動周期に同期する時間を、給餌開始時期の次に給餌するまでの特定間隔として決定する。即ち、特定間隔の時間を、太陰日に対応する時間に決定する。
上記「潮汐の変動周期に同期する時間」のうち『同期する』は、求めた潮汐に関して、変動周期の1周期そのままの時間であってもよいし、整数倍であってもよいし、1/2、1/4等であってもよいことを意味する。具体的には、特定間隔は、1太陰日に対応する時間である24,8時間を基準に、12.4時間(1/2倍)、37.2時間(1.5倍)、49.6時間(2倍)等であっても構わない。種々の動物に応じて給餌による生育に適した時間を考慮しながら、潮汐の変動周期に同期する時間を特定間隔として決定すればよい。
なお、1太陰日を示す時間として、必ずしも24.8時間を採用する必要もなく、天体の個々の運動に応じて適宜に補正を行った精緻な数値を用いてもよい。また、特定間隔は、潮汐の変動周期に対応する時間を1種類特定すれば好ましいが、潮汐の変動周期に同期する時間であれば、1種類よりも多く決定しても構わない。
【0027】
また、潮汐の変動を求めるステップで、潮汐の変動を理解すべく、例えば固体潮汐に関して重力加速度の変動を求めた場合には、求めた重力加速度から潮汐変動の1周期に相当する時間を求めることができる。具体的には、潮汐力予測プログラムを利用し、相対的重力加速度の変動を算出した場合には、その算出値の経時変化から、潮汐変動の1周期に相当する時間を求めることができる。
例えば、
図6に、GOTIC2の固体潮汐力予測プログラムを利用し、日本付近と同経度・異緯度の子午線上に沿った各地で、相対的重力加速度の変動を算出した例を示す。図示のとおり、子午線上に沿った各地で相対的重力加速度の変動態様は異なるが、それぞれの変動態様に応じ、観測地点各地に働く潮汐の変動周期を求めることができる(例えば、
図6中、T
01~T
04参照)。
また、海洋潮汐に関して、関係機関が公表する潮位の予測表を参照して潮汐の変動を求める場合でも、GOTIC2の海洋潮汐予測プログラムを用いて海面の半径方向の変位の算出値を参照する場合でも、同様に潮汐の変動周期を求めることができる。
また、適切な方法で変動周期を求め、潮汐の変動周期に同期する時間を、特定間隔として決定する方法は、上述した天文潮汐に基づいてその変動を理解した場合と同様に行うことができる。
【0028】
(c)給餌開始時期特定工程
給餌時期計画工程(step1)では、更に、給餌開始時期を特定する工程(step13)を行ってもよい。
所定期間内において給餌を開始する時期は、特に限定されずに任意に選べばよいが、潮汐の変動を求めるステップを行った後に、潮汐の変動を参照して給餌開示時期を特定してもよい。例えば、求めた潮汐の変動が極大を示す時Pmaxを含む極大時期Pmの中から選択した1以上の極大時期を、給餌開始時期Psとして特定してもよい。同様に、例えば
図6に示すように、給餌開始時期Psは、潮汐の変動が極小を示す時を含む極小時期P
01minの中から特定されてもよい。求めた潮汐の変動が相対的重力加速度の変動であれば、同様に、ゼロ点の時期P
01(ゼロ)の中から特定されてもよい。又は、極大を示す時から1/4T
02進んだ時期P
02(1/4)の中から特定されてもよい。或いは、給餌開始時期として、極大時期P
02m、極小時期P
02min、ゼロ点の時期P
02(ゼロ)又は1/4T
02進んだ時期P
02(1/4)が混在してもよい。この中では、確実に動物の育成を促進できる観点から、1以上の極大時期Pmを、給餌開始時期Psとして特定することが好ましい。
【0029】
なお、上記の「求めた潮汐の変動が極大を示す時を含む極大時期」の記載のうち、「潮汐の変動が極大を示す時」の記載は、潮汐が極大を示す瞬時を意味する(例えば
図8に示した「極大を示す時Pmax
1」参照)。「極大を示す時を含む極大時期」の記載は、「極大時期Pm」が極大を示す(瞬)時Pmax
1を含む一定の時間幅Tmを有する(
図8参照)ことを表現するために用いるものである。具体的な「極大時期」の時間幅Tmは、動物の種類に応じて給餌作業を行うために適した時間であれば、特に限定されるものでない。また、「極大時期の中から選択した1以上の極大時期を、給餌開始時期として特定」の記載は、即ち、極大時期Pmの全てを給餌開始時期Psとして選択してもよいが、必ずしも全て選択する必要はなく、どの極大時期を給餌開始時期として選択するかは、任意であることを意味する
【0030】
例えば、
図1に示すように、所定期間P
0内の潮汐情報を入手し、求めた潮汐の変動Tiを参照し、求めた潮汐の変動Tiの中から、極大を示す時Pmax
1~Pmax
lを抽出する。この極大を示す時Pmax
1~Pmax
lを含む極大時期Pm
1~Pm
lの中から選択した1以上の極大時期を、給餌開始時期Ps
1~Ps
m(l>m)として特定することができる。
この場合、給餌開始時期Ps
1~Ps
mは、極大時期Pm
1~Pm
lの中から特定されるために、各給餌開始時期Ps
1~Ps
mの間隔には、潮汐の変動周期T
0に関連付けられる規則性が生じる。複数の給餌開始時期Ps
1~Ps
mは、それぞれ後述する給餌サイクルを開始する時期である。複数の給餌開始時期Ps
1~Ps
mを選択することは、それぞれの給餌開始時期Ps
1~Ps
mに応じた給餌サイクルC
1~C
mを行う際に、給餌サイクルの開始時期に規則性を付与することを意味する。このため、動物育成をより計画的に行うことができる点で好ましい。
【0031】
2.給餌サイクル工程
本実施形態では、給餌時期計画工程(step1)を行った後に、定めた給餌計画に従って、実際に動物に給餌を行う給餌サイクル工程(step2)を行う(
図2参照)。給餌サイクル工程(step2)は、給餌開始時期(Ps)から特定間隔(T(int))をおいた給餌時期毎に繰り返し給餌を行う給餌サイクルを実行する工程である。給餌サイクル工程(step2)は、明暗条件を制御しながら行ってもよい(step14)(
図3参照)。
【0032】
(a)給餌サイクル工程
動物を育成する所定期間P
0内に1サイクルの給餌サイクルを行う回数(以下、「サイクル回数」とも記す)は、適宜に定められる。具体的な一例として、
図1には、毎週月曜日の0:00に最も近い時間に示される極大時期を給餌開始時期Psとして特定し、初回の給餌開始時期Psから特定間隔T(int)をあけた給餌時期P毎に給餌を4回繰り返し、この合計5回の給餌を1サイクルの給餌サイクルCとし、この給餌サイクルCをサイクル回数m回だけ行う給餌サイクル工程を図示した。
【0033】
給餌サイクルを行うサイクル回数は、給餌計画工程(step1)で給餌開始時期特定工程(step13)を行っている場合には、特定した給餌開始時期Psの数に応じて自動的に定められ、給餌開始時期特定工程(step13)を行っていない場合は、所定期間P
0内において任意に定めることもできる。
また、
図1に示すように、例えば1サイクル目の給餌サイクルC
1と、次に行う1サイクルの給餌サイクルC
2との間の時間Zの長さは、特に限定されない。時間Zは、1サイクルの給餌サイクルC
1を行う時間X1や給餌サイクルC
2を行う時間X2に対する比で、1よりも小さく、好ましくは3/5以内、さらに好ましくは2/5以内程度であればよい。給餌開始時期特定工程を行っている場合には、所定期間P
0内において、予め定めた最初の給餌開始時期Ps
1から最後の給餌開始時期Ps
mまで、サイクル回数m回の給餌開始時期Psに応じて、サイクル回数m回の給餌サイクルC
1~C
mを行い易くなる(容易に計画できる)。
或いは、給餌サイクル工程は、最初の給餌開始時期Ps
1から特定間隔T(int)をおいた給餌時期P毎に、所定期間P
0を終えるまで、給餌を行うこともできる(即ち、サイクル回数=1)。
【0034】
また、1サイクルの給餌サイクル内で給餌時期毎に給餌を行う回数(以下、「給餌回数」とも記す)は、給餌開始時期Psから特定間隔T(int)をおいて、P1~Pnまでの給餌時期P毎に給餌を行う限り、特に限定されず、適宜に定められればよい。例えば、
図1に、給餌開始時期Ps
1から特定間隔T(int)をおいて、P1~P4までの給餌時期P毎に、給餌回数が4回であって、初回と合わせて合計5回の給餌を行う給餌サイクルC
1を行う例を示した。
【0035】
また、上述したとおり、特定間隔T(int)の時間は、特定間隔T(int)が潮汐の変動周期T
0に同期する時間であれば、1種以上が決定されていても構わない。例えば、所定期間P
0内に、複数のサイクル回数の給餌サイクルCを行う場合に、各給餌サイクルCで採用する特定間隔T(int)は、時間T
0か時間1/2T
0かで異なっていてもよい。1サイクルの給餌サイクルC内であっても、潮汐の変動周期T
0に同期する時間であれば、時間T
0及び時間1/2T
0の2種類を採用しても構わない。
確実に動物の育成を促進できる観点から、1種の特定間隔T(int)を決定することが好ましい。好ましい給餌サイクルの一具体例としては、
図1に示すように、初回の1サイクルの給餌サイクルC
1を、予め特定した最初の給餌開始時期Ps
1に開始し、1回目の給餌を行う。更に、特定間隔T(int)をあけて、給餌時期P1~P4毎に給餌回数=4回の給餌を行う。次の1サイクルの給餌サイクルC
2においても、同様に、最初の給餌開始時期Ps
2に加えて、特定間隔T(int)をあけて、給餌回数=4回の給餌時期P1~P4毎に給餌を行う。順次、同様の給餌サイクルをCを所定のサイクル数m回繰り返し、給餌を行い、動物を育成することができる。
【0036】
(b)明暗条件制御工程
給餌サイクル工程(step2)では、給餌を行う間の明暗条件を制御してもよい。
例えば、明暗条件のサイクルを、給餌を行う時期に、即ち、特定間隔に同期するように制御してもよい。具体的には、明期・暗期を組み合わせた時間が、特定間隔の時間に対応していればよく、特定間隔が1太陰日である場合は、明期・暗期を組み合わせた時間も、1太陰日に対応する時間であれば好ましい。1サイクルの明期・暗期の組み合わせのうち、明期・暗期のそれぞれの時間配分は、自然環境下の明・暗の配分に近ければよいが、基本的には1:1であれば好ましい。
また、少なくとも、動物が餌を食べる蓋然性が高い時間帯には、明期が維持されていることが好ましい。具体的には、少なくとも給餌開始時期や給餌時期の時間帯に明期が維持されるように、明暗条件を制御してもよい。或いは、給餌開始時期や給餌時期の暫く前に明期が開始され、給餌開始時期や給餌時期後に餌を摂取し、その後に運動する間にも明期が維持されるように、明暗条件を制御してもよい。
具体的には、明暗条件は、
図1で初回の給餌サイクルC
1の例を引用すると、給餌開始時期Ps
1又は特定間隔後の給餌時期P1,P2,P3,P4を含む時間帯に明期が維持されるように制御されてもよい。好ましくは、明暗条件は、給餌開始時期Ps
1又は各給餌時期P1~P4の3時間前~30分前頃に明期が開始され、特定間隔T(int)の1/2程度が過ぎるまで明期が維持されるように制御されてもよい。
なお、所定期間P
0内に、給餌サイクルCのサイクル回数が2回以上である場合、給餌サイクルCと次の給餌サイクルCとの間の時間Zの明暗条件は、特に限定されない。時間Zの明暗条件は、給餌開始時期Psの暫く前、又は給餌時期Pのすぐ後の時間帯を除き、暗条件が維持されていれば好ましい。
このように、明暗条件を特定間隔に同期するように制御する場合、食物摂取に加えて明暗条件をも特定間隔の時間に関連付けることができるので、動物の概日リズムを安定させ、動物の成長促進に結びつけることができる。
【0037】
或いは、給餌サイクル工程を行う間の明暗条件を、全く消灯せずに、明期のみになるように制御してもよい。この際、給餌サイクル工程のサイクル回数が複数の場合、給餌サイクルCと次の給餌サイクルCとの間の時間Zの明暗条件をも、明期が維持されるように制御しても構わない。このように、動物の育成を行う所定期間P0内の全期間に亘って明期を維持し続けることにより、動物の活動が極力妨げられないので、動物の成長促進に結びつけることができる。
【0038】
[2]動物育成装置
本発明の動物育成装置は、
図7に示すとおり、動物に給餌する間隔を制御する給餌サイクル制御部(100)を備える動物育成装置(1)であって、給餌サイクル制御部(100)は、動物を育成する所定期間(P
0)内の潮汐の変動(Ti)を求める潮汐変動情報取得部(111)と、潮汐の変動(Ti)に基づいて、潮汐の変動周期(T
0)に同期する時間を、動物に給餌を開始する給餌開始時期(Ps)の次に給餌するまでの特定間隔(T(int))として決定する特定間隔決定部(112)と、を備えていることを特徴とする。
本発明の動物育成装置(1)は、本発明の動物の育成方法を行うために適した装置である。上述した動物の育成方法の説明と重複する説明を可能な範囲で省略し、本実施形態の動物育成装置(1)について、以下に説明する。
【0039】
1.給餌サイクル制御部
給餌サイクル制御部100は、本発明の動物の育成方法を行うべく、育成装置本体部200で行う給餌サイクルを制御するための装置であり、潮汐の変動を求める潮汐情報取得部111と、求めた潮汐の変動に基づいて、次に給餌するまでの特定間隔を決定する特定間隔決定部112と、を備えている。本実施形態に係る給餌サイクル制御部100は、更に、給餌サイクルを行う際の初回の給餌時期を特定する給餌開始時期特定部113を備えていてもよいし、給餌サイクルを行う間に、育成装置本体部200内の明暗条件を制御する明暗条件制御部114を備えていてもよい。
【0040】
(a)潮汐情報取得部
潮汐情報取得部111は、給餌サイクル制御部100の中で、上記動物の育成方法で説明した「(a)潮汐の変動を求めるステップ」を行うための装置であり、所定期間内の潮汐の変動を予め知るための装置である。上記の育成方法で説明したとおり、種々の潮汐情報のなかでは、固体潮汐の変動に連動する(相対的)重力加速度及び又は海洋潮汐の変動に連動する潮位に関する周期的な変動を予測する情報を取得することが、好ましい。
なお、潮汐情報取得部111は、潮汐の変動周期を求める潮汐周期算出部115を備えていてもよい。潮汐周期算出部115は、潮汐情報取得部111が、潮汐力予測プログラムを利用して相対的重力加速度を算出する場合は、それらの算出値に基づいて、更に潮汐の変動周期T0を算出する。
【0041】
(b)特定間隔決定部
特定間隔決定部112は、上記動物の育成方法で説明した「(b)特定間隔を決定するステップ」を行うための装置であり、潮汐情報取得部111に接続され、潮汐情報取得部111が求めた潮汐の変動Tiの情報を取得し、潮汐の変動周期T0に同期する時間を、動物に給餌を開始する給餌開始時期Psの次に給餌するまでの特定間隔T(int)として決定する装置である。
【0042】
例えば、上記「(b)特定間隔を決定するステップ」の前段で説明したとおり、月が南中してから次に南中するまでの時間を、潮汐変動の1周期に相当する時間として理解する場合には、1太陰日に対応する時間が、特定間隔として決定される。つまり、特定間隔決定部112は、潮汐情報取得部111が天文潮汐の自然法則に従って導く潮汐変動Tiの予測に基づいて、太陰日に同期する時間を、特定間隔T(int)に対応する時間として決定する装置である。
特定間隔決定部112が決定する太陰日に対応する時間は、1太陰日であっても(24.8時間)いいし、必要に応じて、しかも、種々の動物の給餌に適した時間であってもよい。また、特定間隔決定部112は、天文潮汐の自然法則に導かれる潮汐情報の他に、別途の情報を取得する機能を備えていても構わない。例えば、潮汐情報取得部111が所定のプログラムを実行して求めた潮汐の変動Tiや或いは潮汐周期算出部115が求めた変動周期の算出値を確認し、特定間隔として決定した24.8時間の数値との間に、両者の差異が小さいことを確認する機能を備える装置であっても構わない。
【0043】
また、上記(b)特定間隔を決定するステップの後段で説明したとおり、例えば、潮汐力予測プログラムを利用し、相対的重力加速度の変動を算出する場合には、特定間隔決定部112は、潮汐力予測プログラム(潮汐情報取得部111)が求めた潮汐の変動Tiや、或いは潮汐周期算出部115が求めた変動周期の算出値に基づいて、当該潮汐の変動周期に同期する時間を、特定間隔T(int)として決定する装置である。なお、海洋潮汐に関して、関係機関が公表する潮位の予測表を参照して潮汐の変動を求める場合や、GOTIC2の海洋潮汐予測プログラムを用いて海面の半径方向の変位の算出値を参照する場合でも、同様である。
【0044】
(c)給餌開始時期特定部
給餌開始時期特定部113は、上記動物の育成方法で説明した「(c)給餌開始時期特定工程」を行うための装置であり、好ましくは、潮汐情報取得部111から潮汐の変動Ti情報を取得し、潮汐の変動Ti情報に基づいて、給餌開始時期Psを特定する装置である。
給餌開始時期特定部113は、所定期間P0内において給餌を開始する時期を、特に限定せずに任意に選ぶ装置であればよいが、上述したとおり、例えば、求めた潮汐の変動が極大を示す時を含む極大時期の中から選択した1以上の極大時期を、給餌開始時期として特定する装置であってもよい。
また、給餌開始時期特定部113は、給餌開始後に特定間隔をおいて繰り返す給餌回数を特定する機能を備えていてもよい。給餌回数の特定により、給餌サイクルを1サイクル行うために要する時間が特定される。給餌開始時期を複数特定し、即ち、サイクル回数が複数の場合に給餌サイクルを1サイクル行う時間を明確にできるので、動物を育成する所定期間の全期間内で、複数サイクルの給餌サイクルが連続的に行われるように、効果的に動物の育成計画を行える。
【0045】
(d)明暗条件制御部
明暗条件制御部114は、上記動物の育成方法で説明した「(b)明暗条件制御工程」を行うための装置であり、給餌サイクル工程を行う間に、育成装置本体部200内の所定の照明装置214の明・暗条件を制御する装置である。
具体的には、明暗条件制御部114は、給餌開始時期特定部113に接続し、給餌開始時期特定部113を介して特定間隔及び給餌開始時期の情報を取得する装置であってもいいし、特定間隔決定部112及び給餌開始時期特定部113に接続し、特定間隔及び給餌開始時期の情報を、それぞれから取得する装置であってもいい。明暗条件制御部114は、所定期間P
0内に給餌サイクル工程を行う期間の計画を把握し、動物育成容器(
図7では、水槽22)を収容する育成装置本体部200内が所定の明・暗条件を維持するように、照明装置214のON・OFFを制御する。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
本発明に係る動物として本実施例では日本産ニホンスッポンを用い、潮汐の変動に応じた給餌サイクルで給餌を行い、動物を育成する育成実験を行った。所定の実験場所における所定期間P0内に、以下に説明する動物育成装置1を用いて行った育成実験結果について説明する。
【0047】
(1.動物育成装置)
実施例の動物育成装置1は、
図7に示すように、ニホンスッポン2に給餌を行う給餌サイクルを制御する給餌サイクル制御部100と、ニホンスッポン2を放つ水槽22を収容する育成装置本体部200とを備える。
給餌サイクル制御部100は、潮汐情報を取得するための潮汐情報取得部111と、所定の給餌時期と次の給餌時期との間隔を決定する特定間隔決定部112と、給餌サイクル1サイクルにおいて最初の給餌開始時期を特定する給餌開始時期特定部113と、育成装置本体部200内の明・暗条件を制御する明暗条件制御部114と、を備える。
【0048】
潮汐情報取得部111は、潮汐予測システム「GOTIC2」(http://www.miz.nao.ac.jp/staffs/nao99/)である。
特定間隔決定部は112は、1太陰日を潮汐変動の1周期とする決定に基づき、特定間隔T(int)を、24.8時間として処理する装置である。
給餌開始時期特定部113は、潮汐情報取得部111(GOTIC2)から、潮汐の変動Ti、即ち、相対的重力加速度の算出値及び当該算出値を示す時のデータを読み出し、給餌開始時期を特定する装置である。また、給餌開始時期特定部113は、特定間隔決定部112から、特定間隔が24.8時間に決定されることを読み出し、給餌回数に応じて最後に行う給餌時期を特定する装置である。
明暗条件制御部114は、給餌開始時期特定部113を介して給餌開始時期を、及び、特定間隔決定部112を介して特定間隔を、把握することにより、必要に応じて、給餌サイクルに同期するサイクルで明暗条件を制御できるように構成される装置である。及び、明暗条件制御部114は、必要に応じて、給餌サイクルを行う間に、明暗条件を明期に維持するように構成される装置である。
なお、
図7において、符号214は照明装置であり、明暗条件制御部114の制御に従って育成装置本体部200内を照明(明期に維持)したり、消灯(暗期に維持)したりする。符号211は、給餌装置であり、給餌サイクル制御部100の制御に基づいて、餌21をニホンスッポン2に給餌する。
【0049】
(2.動物の育成方法-給餌時期を計画する工程)
上記動物育成装置1を用い、
図3に示すように、動物の育成を行う。
潮汐情報取得部111、即ち、潮汐予測システム「GOTIC2」は、実施拠点(愛知県名古屋市)の緯度及び経度を入力することにより、実験場所における所定期間内の重力加速度相対値[相対的重力加速度(RGA)]の経時変化を求める。これにより動物の育成を行う予定の所定期間P
0内の固体潮汐の変動Tiに関する情報を取得する(step11)。具体的には、潮汐予測システム「GOTIC2」は、所定期間内の時間軸に沿って1時間毎に相対的重力加速度を算出し、当該算出値と、当該算出値を示す時のデータを記憶する。
特定間隔決定部は112は、特定間隔T(int)を24.8時間として処理する(step12)。
【0050】
給餌開始時期特定部113は、潮汐情報取得部111(GOTIC2)から、潮汐の変動Ti、即ち、相対的重力加速度の算出値及び当該算出値を示す時のデータを読み出し、及び、参照し、相対的重力加速度が極大を示す(瞬)時を含む極大時期を抽出する。そして、抽出した極大時期の中から育成者の育成都合に応じて選択された1以上の極大時期を、給餌開始時期として特定する(step13)。育成者の育成都合に基いて、毎週月曜日に給餌を開始し、特定間隔をおいて、月曜日から金曜日まで給餌作業を行うことを決定する。この決定に基づき、所定期間P0内に行う給餌サイクルCのサイクル回数m、及び、1サイクルの給餌サイクルC内で給餌を行う給餌回数nを以下のように決定し、給餌時期計画工程を行う。
【0051】
育成者は、潮汐の変動Tiから抽出された極大時期の中から、毎週月曜日に基本的に1日に2度現れる極大時期のうち、育成者の育成都合に合致する一方を給餌開始時期として選択する。給餌開始時期特定部113は、当該選択に基づき、毎週月曜日の当該一方の極大時期を、給餌開始時期Psとして特定する。給餌開始時期Psが毎週月曜日であることに基づき、所定期間P0内に現れる月曜日の数に応じて、動物への給餌行われる給餌サイクルのサイクル回数mが特定される。
【0052】
また、給餌開始時期特定部113は、特定間隔決定部112から、特定間隔が24.8時間に決定されたことを読み出す。給餌作業が月曜日から金曜日まで行われる決定に基づき、24.8時間毎に給餌を行う場合、最後に行う給餌時期Pを特定する。即ち1サイクルの給餌サイクル内で給餌を行う給餌回数nを決定する。
【0053】
(3.動物の育成方法-給餌サイクル工程)
給餌サイクル工程を開始する前に、給餌サイクル工程を行う間の明暗条件のサイクルを決定する。給餌サイクル工程では、育成装置本体部200内部の明暗条件のサイクルが、特定間隔24.8時間に同期する、その1/2の時間、即ち、明期12.4時間及び暗期12.4時間に制御できるように設定される。及び、給餌サイクル工程では、明暗条件を、明期のみに制御できるようにも設定される。必要に応じて何れか一方の明暗条件を実行できるように、明暗条件制御部114を設定する。
【0054】
上記したとおり、所定期間内の第1週目の月曜日であって、最初の給餌開始時期Ps
1に、初回の給餌を開始する。その後、24.8時間後毎に給餌を行い、更に、この24.8時間サイクルで、所定の給餌回数n回に至るまで、即ち、第1週目の金曜日に至るまで給餌を繰り返す。最初の給餌サイクルC
1を終えた後に、第2週目の月曜日であって、2回目の給餌開始時期Ps
2に、2回目の給餌サイクルC
2を開始する。その後、毎週月曜日の給餌開始時期Psに、給餌サイクルCを開始し、所定のサイクル回数m回に至るまで給餌を繰り返す(
図1参照)。
具体的には実施例1~実施例3の育成実験を行った。また、比較例として、特定間隔を24時間とした育成実験を行い、本実施例による育成方法を評価した。
【0055】
《実施例1》
実施例1では、瞬化後1カ月の日本産ニホンスッポンを、水槽22に25体入れ、24.8時間サイクルで給餌を行う動物の育成を行った。
ニホンスッポンを育成する所定期間を3ヶ月とし、月曜日から金曜日まで5日間連続で給餌を行ない、土曜日と日曜日の2日間は給餌しない給餌サイクルを繰り返す育成を計画した。
ニホンスッポンを育成する所定期間の3ヶ月の間に変動する潮汐の変動情報を得るために、潮汐予測プログラム「GOTIC2J(http://www.miz.nao.ac.jp/staffs/nao99/)を用い、相対的重力加速度の算出値を得た。得られた潮汐の変動Tiの情報から、相対重力加速度が極大を示す時を抽出した。一日に極大を示す時が2回ある場合は、日中の与えやすい時間を選択して給餌開始時期として特定した。水槽22の明暗条件が、常時、照明装置214をONした明期を維持するように制御を行った。
《比較例1》
実施例1とは、24時間サイクルで給餌を行う点で異なる動物の育成を行った。
図8に、実施例1及び比較例1で実際に行った給餌サイクルを具体的に示した。
なお、図中、実施例1に係る給餌サイクル工程に対して、給餌開始時期Ps
1,給餌時期P1~P4の各符号を付したが、比較例1に係る給餌サイクル工程に対しては、同様の符号に「'」を付して表した。
【0056】
《実施例2》
実施例2では、ニホンスッポンを、3つの水槽22に15体入れる点、及び、ニホンスッポンを育成する所定期間を2ヶ月とする点で、実施例1と異なる動物の育成を行った。
また、給餌サイクル工程を行う時の明暗条件は、給餌開始時期又は給餌時期の1時間前から12.4時間を明期とし、その後の12.4時間を暗期とする制御を行う点で、実施例1と異なる動物の育成を行った。給餌サイクルと次の給餌サイクルとの間の時期の明暗条件は、給餌開始時期である月曜日の給餌の1時間前の消灯時間が、少なくとも24時間維持されるように暗期を維持する制御を行った。
《比較例2》
実施例2とは、24時間サイクルで給餌を行う点でのみ異なる動物の育成を行った。
また、給餌サイクル工程を行う時の明暗条件は、給餌開始時期又は給餌時期の1時間前から12時間を明期とし、その後の12時間を暗期とする制御を行う点で、実施例2と異なる動物の育成を行った。給餌サイクルと次の給餌サイクルとの間の明暗条件は、給餌開始時期である月曜日の給餌の1時間前の消灯時間が、少なくとも24時間維持されるように暗期を維持する制御を行った。
図9に、実施例2及び比較例2で実際に行った給餌サイクルを具体的に示した。
【0057】
《実施例3》
実施例3では、孵化後4カ月の日本産ニホンスッポンを2つの水槽22に11個体ずつ入れる点で、実施例1と異なる動物の育成を行った。、
水槽22の明暗条件は、常時照明を灯した明期を維持するように制御を行った。
《比較例3》
実施例3とは、24時間サイクルで給餌を行う点でのみ異なる動物の育成を行った。
なお、実施例3は、給餌サイクル及び明暗条件が実施例1と同じであるため、実施例1の
図8を援用し、具体的に給餌サイクルを示した。
【0058】
(4.実施例の育成実験の評価)
実施例1~3及び比較例1~3の育成実験の前後にニホンスッポンの体重を測定し、体重増加率を算出した。体重増加率は、下式から求めた。
体重増加率(%)=(育成後の体重-育成前の体重)/育成前の体重×100
表1に、実施例1~3及び比較例1~3の育成実験条件とともに、求めた体重増加率(%)を示した。
【表1】
【0059】
以下、本実施例の動物育成装置1を用い、本実施例の動物の育成方法を行ったことによって判明した、具体的な効果について説明する。
(1)実施例1~3で行った動物の育成方法では、給餌サイクル工程を行う前に、育成予定期間内の潮汐の変動を求め、
図8,9に示したとおり、潮汐の変動周期T
0に同期する24.8時間を、ニホンスッポンに給餌する特定間隔として決定した。従って、給餌サイクル工程を行う前に、予め、給餌する時期P1,P2.P3,P4を簡易に計画できた。更に、決定した特定間隔である24,8時間毎に給餌を繰り返す給餌サイクルCを行ったので、表1に示したとおり、ニホンスッポンの成長を促進できる評価結果が得られた。
(2)特定間隔として定めた24.8時間は、1太陰日に対応する時間である。当該24.8時間サイクルで給餌を繰り返すことで、表1に示したとおり、確実にニホンスッポンの成長を促進できる評価結果が得られた。
(3)また、各実施例では、潮汐の変動Tiが極大を示す極大時期Pmを、ニホンスッポンに給餌を開始する給餌開始時期Psとして予め特定した。極大時期Pmを給餌開始時期Psとする給餌計画に従って給餌サイクル工程を行うことにより、表1に示したとおり、ニホンスッポンの成長を確実に促進できる評価結果が得られた。
【0060】
(4)また、特に、実施例1の結果が示すとおり、明期のみの明暗条件下で給餌サイクル工程を行う場合は、暗期を含む明暗条件の実施例2との比較から明らかなとおり、実施例1の方が、体重増加率が大きくなっていた。即ち、1月あたりの平均の体重増加率で、実施例1の方が、実施例2よりも1.25倍程度体重増加率が大きくなっており、一層確実に、ニホンスッポンの成長を促進できることがわかった。
(5)また、特に、実施例2が示すとおり、給餌サイクル工程を行う際の明暗条件を、特定間隔である24.8時間を基準に、明期12,4時間+暗期12.4時間に制御する場合には、健康的にニホンスッポンの成長促進を図ることができた。即ち、食物を摂取するタイミングに加えて明暗条件も、特定間隔の24.8時間に関連付けることができるので、食餌のときに明期が維持されやすく、食餌後に暗期中で睡眠に就き易くなり、概日リズムを一層安定させ、健康が維持されると考えられる。
また、実施例2は、実施例1よりも体重増加率が低下するものの、24時間サイクルの比較例2との比較で、優位に体重増加率が大きくなることを示した。このことは、成長促進効果が、単純に明期を維持する給餌環境に依拠するというより、24.8時間サイクルの給餌に関連付けられる証の一つであると考えられる。
(6)実施例1~3では、潮汐の変動を具現する手段として、固体潮汐に連動する(相対的)重力加速度の変動を用いた。従って、固体潮汐が目的地点の地形を主なよりどころとするため、潮汐変動の算出精度を高めることができたと考える。
【0061】
(7)本実施例では育成する動物としてニホンスッポンを用い、生育が促進される効果を示したが、生物分類上、スッポン類は、両生綱に近いので魚綱にも近く、鳥綱にも近い。潮汐の影響力は、広く地球上の生物に作用すると考えられるため、本発明の効果は、これらに属する動物に限られるものではないと考える。
(8)特に動物が、商業用動物であり、ヒトの手により育成を管理されたり、養殖されたり、その商取引によって市場が形成されるものであれば、生産性を向上させる可能性が大きい観点から、経済的にも好ましい。
また、例えば実施例1では、比較例1と比較して、3ヶ月の育成で、1.6倍以上も体重増加率が大きくなっており、成長の促進程度が予想を超える顕著な効果であった。同じ餌量で動物を早く成長促進できるため、出荷体重に達するまでに与える餌の総量が少なくてすみ、スッポン養殖のコストを大幅に削減できる。換言すれば、一般的な養殖方法よりも、同じ育成期間であっても重量を増やせるため、容易にニホンスッポン肉を増産できる。また、予想を超える顕著な成長促進効果を考慮すると、潮汐の変動周期T0に同期する24.8時間サイクルで給餌サイクル工程を行うことにより、食餌による消化吸収効率が変化することが考えられる。この場合、ニホンスッポンの食肉の成分や味の改良に至る期待が大きくなる。
また、本実施例1と実施例3との比較では、孵化後1ヶ月の稚カメを本実施例に係る給餌サイクルで育成する方が、孵化後4ヶ月で初めて本実施例により育成するよりも、体重増加率が大きくなっており、ニホンスッポンの育成が促進されることが分かった。
このように、より弱齢の稚カメで、より大きく成長促進の効果が認められるため、死亡率の一層の低下を期待することができると考える。例えば、冒頭に説明したとおり、スッポン類の養殖では、成長段階に応じて水槽等の育成場を移動させる必要があり、特に稚カメにとっては、その際の移動によってストレスが大きく働き、死亡率が高くなるおそれがある。もともと孵化後間もない稚カメの生存率が高くない実情に照らしても、より弱齢時により大きな体を作ることが、稚カメに生命力を付与すると考えられる。
このように、本実施例の育成方法は、ニホンスッポンの生存率を高め、その生産性を向上させることができる。
本実施例に示されるように、本実施例の育成方法は、孵化した後に出荷予定に至るまでに体重を増加させ、成長させるために要する時間のうち、1/75~2/3のときに、より好ましくは、1/50~1/2の幼鈴のときに、行うことが好ましい。特にスッポン類では、1/150~2/3のときに、好ましくは1/60~1/2のときに、行うことが好ましい。
【0062】
上述のとおり、本発明の動物の育成方法及び育成装置によれば、動物の養殖をはじめとする様々な分野で、動物を育てる育成効率を向上させ、育成期間を短縮したり、育成コストを抑制したりすることができる。
また、本発明の動物育成装置は、動物の育成を開始する前に、潮汐情報取得部を用いて潮汐の変動を予測する。予め、潮汐の変動を把握し給餌を開始する時期及び次の給餌までの特定間隔を決めた後は、普段どおりに給餌しながら動物を育成できる。従って、育成を行う所定期間に亘って現実の情報を取得する検知装置を不要とするので、従来技術のようにシステム運用が大袈裟になる不便さを解消でき、動物育成のための日々の負担を軽減できる。