(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】モータ制御方法、電力変換装置、モータモジュールおよび電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20220614BHJP
H02P 25/16 20060101ALI20220614BHJP
H02M 7/493 20070101ALI20220614BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20220614BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
H02P27/06
H02P25/16
H02M7/493
H02M7/48 F
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2019543415
(86)(22)【出願日】2018-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2018022990
(87)【国際公開番号】W WO2019058668
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2017180913
(32)【優先日】2017-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】アハマッド ガデリー
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-64373(JP,A)
【文献】特開2008-219956(JP,A)
【文献】特開平6-233450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02P 25/16
H02M 7/493
H02M 7/48
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源からの電力を、n相(nは3以上の整数)の巻線を有するモータに供給する電力に変換し、前記n相の巻線の一端に接続される第1インバータおよび前記n相の巻線の他端に接続される第2インバータを備える電力変換装置に用いるモータ制御方法であって、
前記第1インバータのn個のレグに含まれるn個の第1シャント抵抗に流れるn相電流、前記第1インバータのGNDラインに設けられた第2シャント抵抗を流れるGND電流、前記第2インバータのn個のレグに含まれるn個の第3シャント抵抗に流れるn相電流、および、前記第2インバータのGNDラインに設けられた第4シャント抵抗を流れるGND電流を獲得する電流獲得ステップと、
前記n個の第1シャント抵抗に流れるn相電流および前記第2シャント抵抗を流れるGND電流に基づいて、前記第1インバータにおけるシャント抵抗の故障の有無を示す第1故障信号を生成し、かつ、前記n個の第3シャント抵抗に流れるn相電流および前記第4シャント抵抗を流れるGND電流に基づいて、前記第2インバータにおけるシャント抵抗の故障の有無を示す第2故障信号を生成する故障信号生成ステップと、
前記第1故障信号および前記第2故障信号のレベルの組と複数の制御モードの間の関係を表すテーブルを参照して、前記複数の制御モードの中から1つの制御モードを選択する制御モード選択ステップと、
選択された前記制御モードに従って前記モータを制御するモータ制御ステップと、
を包含するモータ制御方法。
【請求項2】
前記故障信号生成ステップは、
前記n個の第1シャント抵抗に流れるn相電流の総和と前記第2シャント抵抗を流れるGND電流との差分の第1絶対値を算出することと、
前記n個の第3シャント抵抗に流れるn相電流の総和と前記第4シャント抵抗を流れるGND電流との差分の第2絶対値を算出することと、
を包含する請求項1に記載のモータ制御方法。
【請求項3】
前記故障信号生成ステップは、さらに、
前記第1絶対値と第1許容限度値の比較結果に基づいて前記第1故障信号を生成することと、
前記第2絶対値と第2許容限度値の比較結果に基づいて前記第2故障信号を生成することと、
を包含する請求項2に記載のモータ制御方法。
【請求項4】
前記故障信号生成ステップにおいて、
前記第1絶対値が前記第1許容限度値を超える場合、前記第1インバータにおけるシャント抵抗の故障を示す前記第1故障信号を生成し、前記第1絶対値が前記第1許容限度値未満である場合、前記第1インバータにおけるシャント抵抗の無故障を示す前記第1故障信号を生成し、
前記第2絶対値が前記第2許容限度値を超える場合、前記第2インバータにおけるシャント抵抗の故障を示す前記第2故障信号を生成し、前記第2絶対値が前記第2許容限度値未満である場合、前記第2インバータにおけるシャント抵抗の無故障を示す前記第2故障信号を生成する、請求項3に記載のモータ制御方法。
【請求項5】
前記複数の制御モードは、
前記第1および第2インバータを用いて、または、前記第1および第2インバータの一方の中性点および他方を用いて前記n相の巻線を通電する第1制御モードと、
前記第1および第2インバータの故障したシャント抵抗を含む一方の中性点および他方を用いて前記n相の巻線を通電する第2制御モードと、
前記n相の巻線の通電をシャットダウンする第3制御モードと、
を備える、請求項1から4のいずれかに記載のモータ制御方法。
【請求項6】
前記制御モード選択ステップにおいて、
前記第1故障信号は、前記第1インバータにおけるシャント抵抗の無故障を示し、かつ、前記第2故障信号は、前記第2インバータにおけるシャント抵抗の無故障を示す場合には、前記制御モードとして前記第1制御モードを選択し、
前記第1故障信号は、前記第1インバータにおけるシャント抵抗の無故障を示し、かつ、前記第2故障信号は、前記第2インバータにおけるシャント抵抗の故障を示す場合、または、前記第1故障信号は、前記第1インバータにおけるシャント抵抗の故障を示し、かつ、前記第2故障信号は、前記第2インバータにおけるシャント抵抗の無故障を示す場合には、前記制御モードとして前記第2制御モードを選択し、
前記第1故障信号は、前記第1インバータにおけるシャント抵抗の故障を示し、かつ、前記第2故障信号は、前記第2インバータにおけるシャント抵抗の故障を示す場合には、前記制御モードとして前記第3制御モードを選択する、請求項5に記載のモータ制御方法。
【請求項7】
電源からの電力をn相(nは3以上の整数)の巻線を有するモータに供給する電力に変換し、前記n相の巻線に接続されるインバータを備える電力変換装置に用いるモータ制御方法であって、
前記インバータのn個のレグに含まれるn個の第1シャント抵抗に流れるn相電流、および、前記インバータのGNDラインに設けられた第2シャント抵抗を流れるGND電流を獲得する電流獲得ステップと、
前記n相電流および前記GND電流に基づいて、前記インバータにおけるシャント抵抗の故障の有無を示す故障信号を生成する故障信号生成ステップと、 前記故障信号のレベルと複数の制御モードの間の関係を表すテーブルを参照して、前記複数の制御モードの中から1つの制御モードを選択する制御モード選択ステップと、
選択された前記制御モードに従って前記モータを制御するモータ制御ステップと、
を包含するモータ制御方法。
【請求項8】
前記電力変換装置は、ローサイドスイッチ素子、ハイサイドスイッチ素子および第3シャント抵抗を含む中性点用レグであって、前記n相の巻線の一端をY結線する前記モータの中性点ノードに接続される中性点用レグをさらに備え、
前記電流獲得ステップにおいて、前記第3シャント抵抗を流れる電流をさらに獲得し、
前記故障信号生成ステップにおいて、前記第3シャント抵抗を流れる電流、前記n相電流および前記GND電流に基づいて、前記インバータにおけるシャント抵抗の故障の有無を示す故障信号を生成する、請求項7に記載のモータ制御方法。
【請求項9】
電源からの電力を、n相(nは3以上の整数)の巻線を有するモータに供給する電力に変換する電力変換装置であって、
各々がローサイドスイッチ素子、ハイサイドスイッチ素子および第1シャント抵抗を含むn個のレグを有し、前記n相の巻線の一端に接続される第1インバータであって、GND電流を検出するための第2シャント抵抗がGNDラインに設けられた第1インバータと、
各々がローサイドスイッチ素子、ハイサイドスイッチ素子および第3シャント抵抗を含むn個のレグを有し、前記n相の巻線の他端に接続される第2インバータであって、GND電流を検出するための第4シャント抵抗がGNDラインに設けられた第2インバータと、
前記第1および第2インバータのスイッチ素子のスイッチング動作を制御する制御回路であって、
前記第1インバータのn個のレグに含まれるn個の第1シャント抵抗に流れるn相電流、前記第1インバータの前記第2シャント抵抗を流れるGND電流、前記第2インバータのn個のレグに含まれるn個の第3シャント抵抗に流れるn相電流、および、前記第2インバータの前記第4シャント抵抗を流れるGND電流を獲得し、
前記n個の第1シャント抵抗に流れるn相電流および前記第2シャント抵抗を流れるGND電流に基づいて、前記第1インバータにおけるシャント抵抗の故障の有無を示す第1故障信号を生成し、かつ、前記n個の第3シャント抵抗に流れるn相電流および前記第4シャント抵抗を流れるGND電流に基づいて、前記第2インバータにおけるシャント抵抗の故障の有無を示す第2故障信号を生成し、
前記第1故障信号および前記第2故障信号のレベルの組と複数の制御モードの間の関係を表すテーブルを参照して、前記複数の制御モードの中から1つの制御モードを選択し、
選択された前記制御モードに従って、前記第1および第2インバータのスイッチ素子のスイッチング動作を制御する、制御回路と、
を備える電力変換装置。
【請求項10】
電源からの電力を、n相(nは3以上の整数)の巻線を有するモータに供給する電力に変換する電力変換装置であって、
各々がローサイドスイッチ素子、ハイサイドスイッチ素子および第1シャント抵抗を含むn個のレグを有し、前記n相の巻線に接続されるインバータであって、GND電流を検出するための第2シャント抵抗がGNDラインに設けられたインバータと、
前記インバータのスイッチ素子のスイッチング動作を制御する制御回路であって、
前記n個の第1シャント抵抗に流れるn相電流および前記第2シャント抵抗を流れるGND電流を獲得し、
前記n相電流および前記GND電流に基づいて、前記インバータにおけるシャント抵抗の故障の有無を示す故障信号を生成し、
前記故障信号のレベルと複数の制御モードの間の関係を表すテーブルを参照して、前記複数の制御モードの中から1つの制御モードを選択し、
選択された前記制御モードに従って、前記インバータのスイッチ素子のスイッチング動作を制御する、制御回路と、
を備える電力変換装置。
【請求項11】
ローサイドスイッチ素子およびハイサイドスイッチ素子を含む中性点用レグであって、前記n相の巻線の一端をY結線する前記モータの中性点ノードに接続される中性点用レグをさらに備える、請求項10に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記中性点用レグは、前記インバータのn個のレグを接続するローサイド側およびハイサイド側のノードの間に接続される、請求項11に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記中性点用レグは第3シャント抵抗を有する、請求項12に記載の電力変換装置。
【請求項14】
モータと、
請求項9から13のいずれかに記載の電力変換装置と、
を備えるモータモジュール。
【請求項15】
請求項14に記載のモータモジュールを備える電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御方法、電力変換装置、モータモジュールおよび電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動モータ(以下、単に「モータ」と表記する。)、インバータおよびECUが一体化された機電一体型モータが開発されている。特に車載分野において安全性の観点から高い品質保証が要求される。そのため、部品の一部が故障した場合でも安全動作を継続できる冗長設計が取り入れられている。冗長設計の一例として、1つのモータに対して2つの電力変換装置を設けることが検討されている。他の一例として、メインのマイクロコントローラにバックアップ用マイクロコントローラを設けることが検討されている。
【0003】
特許文献1は、第1系統および第2系統を有するモータ駆動装置を開示する。第1系統は、モータの第1巻線組に接続され、第1インバータ部、電源リレーおよび逆接続保護リレーなどを有する。第2系統は、モータの第2巻線組に接続され、第2インバータ部、電源リレーおよび逆接続保護リレーなどを有する。モータ駆動装置に故障が生じていないとき、第1系統および第2系統の両方を用いてモータを駆動することが可能である。これに対し、第1系統および第2系統の一方、または、第1巻線組および第2巻線組の一方に故障が生じたとき、電源リレーは、電源から、故障した系統、または、故障した巻線組に接続された系統への電力供給を遮断する。故障していない他方の系統を用いてモータ駆動を継続させることが可能である。
【0004】
特許文献2および3も、第1系統および第2系統を有するモータ駆動装置を開示する。一方の系統または一方の巻線組が故障したとしても、故障していない系統によってモータ駆動を継続させることができる。
【0005】
特許文献4は、4つの電気的分離手段、および、2つのインバータを有し、三相モータに供給する電力を変換するモータ駆動装置を開示する。1つのインバータに対し、電源およびインバータの間に1つの電気的分離手段が設けられ、インバータおよびグランド(以下、GNDと表記する。)の間に1つの電気的分離手段が設けられている。故障したインバータにおける巻線の中性点を用いて、故障していないインバータによってモータを駆動することが可能である。そのとき、故障したインバータに接続された2つの電気的分離手段を遮断状態にすることによって、故障したインバータは電源およびGNDから分離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-34204号公報
【文献】特開2016-32977号公報
【文献】特開2008-132919号公報
【文献】特許第5797751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の技術では、相電流の検出に用いられるシャント抵抗の故障を適切に検出することが求められていた。
【0008】
本開示の実施形態は、シャント抵抗の故障を適切に検出することが可能な故障検知方法を有するモータ制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の例示的なモータ制御方法は、電源からの電力を、n相(nは3以上の整数)の巻線を有するモータに供給する電力に変換し、前記n相の巻線の一端に接続される第1インバータおよび前記n相の巻線の他端に接続される第2インバータを備える電力変換装置に用いるモータ制御方法であって、前記第1インバータのn個のレグに含まれるn個の第1シャント抵抗に流れるn相電流、前記第1インバータのGNDラインに設けられた第2シャント抵抗を流れるGND電流、前記第2インバータのn個のレグに含まれるn個の第3シャント抵抗に流れるn相電流、および、前記第2インバータのGNDラインに設けられた第4シャント抵抗を流れるGND電流を獲得する電流獲得ステップと、前記n個の第1シャント抵抗に流れるn相電流および前記第2シャント抵抗を流れるGND電流に基づいて、前記第1インバータにおけるシャント抵抗の故障の有無を示す第1故障信号を生成し、かつ、前記n個の第3シャント抵抗に流れるn相電流および前記第4シャント抵抗を流れるGND電流に基づいて、前記第2インバータにおけるシャント抵抗の故障の有無を示す第2故障信号を生成する故障信号生成ステップと、前記第1故障信号および前記第2故障信号のレベルの組と複数の制御モードの間の関係を表すテーブルを参照して、前記複数の制御モードの中から1つの制御モードを選択する制御モード選択ステップと、選択された前記制御モードに従って前記モータを制御するモータ制御ステップと、を包含する。
【0010】
本開示の例示的な他のモータ制御方法は、電源からの電力を、一端同士がY結線されたn相(nは3以上の整数)の巻線を有するモータに供給する電力に変換し、前記n相の巻線の他端に接続されるインバータを備える電力変換装置に用いるモータ制御方法であって、前記インバータのn個のレグに含まれるn個の第1シャント抵抗に流れるn相電流、および、前記インバータのGNDラインに設けられた第2シャント抵抗を流れるGND電流を獲得する電流獲得ステップと、前記n相電流および前記GND電流に基づいて、前記インバータにおけるシャント抵抗の故障の有無を示す故障信号を生成する故障信号生成ステップと、前記故障信号のレベルと複数の制御モードの間の関係を表すテーブルを参照して、前記複数の制御モードの中から1つの制御モードを選択する制御モード選択ステップと、選択された前記制御モードに従って前記モータを制御するモータ制御ステップと、を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本開示の例示的な実施形態によると、シャント抵抗の故障を検出することによって、複数の制御モードの中から適切な制御モードを選択し、シャント抵抗の故障時においてもモータ駆動を継続することが可能なモータ制御方法、電力変換装置、当該電力変換装置を備えるモータモジュールおよび当該モータモジュールを備える電動パワーステアリング装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、例示的な実施形態1によるモータモジュール2000の典型的なブロック構成を模式的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、例示的な実施形態1によるインバータユニット100の回路構成を模式的に示す回路図である。
【
図3】
図3は、モータ制御全般を行うためのコントローラ340の機能ブロックを例示する機能ブロック図である。
【
図4】
図4は、シャント抵抗の故障検知を行うための機能ブロックを例示する機能ブロック図である。
【
図5】
図5は、三相通電制御に従ってインバータユニット100を制御したときにモータ200のA相、B相およびC相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形(正弦波)を例示するグラフである。
【
図6】
図6は、例示的な実施形態1の変形例による、単体のインバータ140を有するインバータユニット100Aの回路構成を模式的に示す回路図である。
【
図7】
図7は、例示的な実施形態1の他の変形例による、単体のインバータ140を有するインバータユニット100Aの回路構成を模式的に示す回路図である。
【
図8】
図8は、例示的な実施形態1による電動パワーステアリング装置3000の典型的な構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示のモータ制御方法、電力変換装置、モータモジュールおよび電動パワーステアリング装置の実施形態を詳細に説明する。但し、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするため、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0014】
本明細書において、電源からの電力を、三相(A相、B相、C相)の巻線を有する三相モータに供給する電力に変換する電力変換装置を例にして、本開示の実施形態を説明する。ただし、電源からの電力を、四相または五相などのn相(nは4以上の整数)の巻線を有するn相モータに供給する電力に変換する電力変換装置、およびその装置に用いるモータ制御方法も本開示の範疇である。
【0015】
(実施形態1)
〔1.モータモジュール2000および電力変換装置1000の構造〕
図1は、本実施形態によるモータモジュール2000の典型的なブロック構成を模式的に示している。
【0016】
モータモジュール2000は、典型的に、インバータユニット100と制御回路300とを有する電力変換装置1000およびモータ200を備える。モータモジュール2000は、モジュール化され、例えば、モータ、センサ、ドライバおよびコントローラを有する機電一体型モータとして製造および販売され得る。
【0017】
電力変換装置1000は、電源101(
図2を参照)からの電力をモータ200に供給する電力に変換することが可能である。電力変換装置1000は、モータ200に接続される。例えば、電力変換装置1000は、直流電力を、A相、B相およびC相の擬似正弦波である三相交流電力に変換することが可能である。本明細書において、部品(構成要素)同士の間の「接続」とは、主に電気的な接続を意味する。
【0018】
モータ200は、例えば三相交流モータである。モータ200は、A相の巻線M1、B相の巻線M2およびC相の巻線M3を備え、インバータユニット100の第1インバータ120と第2インバータ130とに接続される。具体的に説明すると、第1インバータ120はモータ200の各相の巻線の一端に接続され、第2インバータ130は各相の巻線の他端に接続される。
【0019】
制御回路300は、例えば、電源回路310と、角度センサ320と、入力回路330と、コントローラ340と、駆動回路350と、ROM360とを備える。制御回路300の各部品は、例えば1枚の回路基板(典型的にはプリント基板)に実装される。制御回路300は、インバータユニット100に接続され、電流センサ150および角度センサ320からの入力信号に基づいてインバータユニット100を制御する。その制御手法として、例えばベクトル制御、パルス幅変調(PWM)または直接トルク制御(DTC)がある。ただし、モータ制御手法(例えばセンサレス制御)によっては、角度センサ320は不要な場合がある。
【0020】
制御回路300は、目的とする、モータ200のロータの位置、回転速度、および電流などを制御してクローズドループ制御を実現することができる。なお、制御回路300は、角度センサ320に代えてトルクセンサを備えてもよい。この場合、制御回路300は、目的とするモータトルクを制御することができる。
【0021】
電源回路310は、電源101の例えば12Vの電圧に基づいて回路内の各ブロックに必要な電源電圧(例えば3V、5V)を生成する。
【0022】
角度センサ320は、例えばレゾルバまたはホールICである。または、角度センサ320は、磁気抵抗(MR)素子を有するMRセンサとセンサマグネットとの組み合わせによっても実現される。角度センサ320は、ロータの回転角(以下、「回転信号」と表記する。)を検出し、回転信号をコントローラ340に出力する。
【0023】
入力回路330は、電流センサ150によって検出された相電流(以下、「実電流値」と表記する場合がある。)を受け取って、実電流値のレベルをコントローラ340の入力レベルに必要に応じて変換し、実電流値をコントローラ340に出力する。入力回路330は、例えばアナログデジタル変換回路である。
【0024】
コントローラ340は、電力変換装置1000の全体を制御する集積回路であり、例えば、マイクロコントローラまたはFPGA(Field Programmable Gate Array)である。コントローラ340は、インバータユニット100の第1および第2インバータ120、130における各スイッチ素子(典型的には半導体スイッチ素子)のスイッチング動作(ターンオンまたはターンオフ)を制御する。コントローラ340は、実電流値およびロータの回転信号などに従って目標電流値を設定してPWM信号を生成し、それを駆動回路350に出力する。
【0025】
駆動回路350は、典型的にはプリドライバ(「ゲートドライバ」と呼ばれることもある。)である。駆動回路350は、インバータユニット100の第1および第2インバータ120、130における各スイッチ素子のスイッチング動作を制御する制御信号(ゲート制御信号)をPWM信号に従って生成し、各スイッチ素子のゲートに制御信号を与える。駆動対象が低電圧で駆動可能なモータであるとき、プリドライバは必ずしも必要とされない場合がある。その場合プリドライバの機能はコントローラ340に実装され得る。
【0026】
ROM360は、例えば書き込み可能なメモリ(例えばPROM)、書き換え可能なメモリ(例えばフラッシュメモリ)または読み出し専用のメモリである。ROM360は、コントローラ340に電力変換装置1000を制御させるための命令群を含む制御プログラムを格納している。例えば、制御プログラムはブート時にRAM(不図示)に一旦展開される。
【0027】
図2を参照し、インバータユニット100の具体的な回路構成を説明する。
【0028】
図2は、本実施形態によるインバータユニット100の回路構成を模式的に示している。
【0029】
電源101は、所定の電源電圧(例えば12V)を生成する。電源101として、例えば直流電源が用いられる。ただし、電源101は、AC-DCコンバータまたはDC―DCコンバータであってもよいし、バッテリー(蓄電池)であってもよい。電源101は、図示するように、第1および第2インバータ120、130に共通の単一電源であってもよいし、第1インバータ120用の第1電源(不図示)および第2インバータ130用の第2電源(不図示)を備えていてもよい。
【0030】
ヒューズISW_11、ISW_12が、電源101と第1インバータ120との間に接続される。ヒューズISW_11、ISW_12は、電源101から第1インバータ120に流れ得る大電流を遮断することができる。ヒューズISW_21、ISW_22が、電源101と第2インバータ130との間に接続される。ヒューズISW_21、ISW_22は、電源101から第2インバータ130に流れ得る大電流を遮断することができる。ヒューズの代わりにリレーなどを用いてもよい。
【0031】
図示されていないが、電源101と第1インバータ120の間、および、電源101と第2インバータ130の間にコイルが設けられる。コイルは、ノイズフィルタとして機能し、各インバータに供給する電圧波形に含まれる高周波ノイズ、または各インバータで発生する高周波ノイズを電源101側に流出させないように平滑化する。また、各インバータの電源端子には、コンデンサが接続される。コンデンサは、いわゆるバイパスコンデンサであり、電圧リプルを抑制する。コンデンサは、例えば電解コンデンサであり、容量および使用する個数は設計仕様などによって適宜決定される。
【0032】
第1インバータ120は、3個のレグから構成されるブリッジ回路を有する。各レグは、ハイサイドスイッチ素子、ローサイドスイッチ素子およびシャント抵抗を有する。A相レグは、ハイサイドスイッチ素子SW_A1H、ローサイドスイッチ素子SW_A1Lおよび第1シャント抵抗S_A1を有する。B相レグは、ハイサイドスイッチ素子SW_B1H、ローサイドスイッチ素子SW_B1Lおよび第1シャント抵抗S_B1を有する。C相レグは、ハイサイドスイッチ素子SW_C1H、ローサイドスイッチ素子SW_C1Lおよび第1シャント抵抗S_C1を有する。
【0033】
スイッチ素子として、例えば、寄生ダイオードが内部に形成された電界効果トランジスタ(典型的にはMOSFET)、または、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)とそれに並列接続された還流ダイオードとの組み合わせを用いることができる。
【0034】
第1シャント抵抗S_A1は、A相の巻線M1を流れるA相電流IA1を検出するために用いられ、例えば、ローサイドスイッチ素子SW_A1LとGNDラインGLの間に接続される。第1シャント抵抗S_B1は、B相の巻線M2を流れるB相電流IB1を検出するために用いられ、例えば、ローサイドスイッチ素子SW_B1LとGNDラインGLの間に接続される。第1シャント抵抗S_C1は、C相の巻線M3を流れるC相電流IC1を検出するために用いられ、例えば、ローサイドスイッチ素子SW_C1LとGNDラインGLの間に接続される。さらに、GNDラインGLに、そのラインを流れるGND電流IZ1を検出するために用いられる第2シャント抵抗S_Z1が設けられている。4個のシャント抵抗S_A1、S_B1、S_C1およびS_Z1は、第1インバータ120のGNDラインGLと共通に接続されている。
【0035】
第2インバータ130は、3個のレグから構成されるブリッジ回路を有する。各レグは、ハイサイドスイッチ素子、ローサイドスイッチ素子およびシャント抵抗を有する。A相レグは、ハイサイドスイッチ素子SW_A2H、ローサイドスイッチ素子SW_A2Lおよびシャント抵抗S_A2を有する。B相レグは、ハイサイドスイッチ素子SW_B2H、ローサイドスイッチ素子SW_B2Lおよびシャント抵抗S_B2を有する。C相レグは、ハイサイドスイッチ素子SW_C2H、ローサイドスイッチ素子SW_C2Lおよびシャント抵抗S_C2を有する。
【0036】
シャント抵抗S_A2は、A相電流IA2を検出するために用いられ、例えば、ローサイドスイッチ素子SW_A2LとGNDラインGLの間に接続される。シャント抵抗S_B2は、B相電流IB2を検出するために用いられ、例えば、ローサイドスイッチ素子SW_B2LとGNDラインGLの間に接続される。シャント抵抗S_C2は、C相電流IC2を検出するために用いられ、例えば、ローサイドスイッチ素子SW_C2LとGNDラインGLの間に接続される。さらに、GNDラインGLに、そのラインを流れるGND電流IZ2を検出するために用いられる第4シャント抵抗S_Z2が設けられている。4個のシャント抵抗S_A2、S_B2、S_C2,S_Z2は、第2インバータ130のGNDラインGLと共通に接続されている。
【0037】
上述した電流センサ150は、例えば、シャント抵抗S_A1、S_B1、S_C1、S_Z1、S_A2、S_B2、S_C2、S_Z2および各シャント抵抗に流れる電流を検出する電流検出回路(不図示)を備える。
【0038】
第1インバータ120のA相レグ(具体的には、ハイサイドスイッチ素子SW_A1Hおよびローサイドスイッチ素子SW_A1Lの間のノード)は、モータ200のA相の巻線M1の一端A1に接続され、第2インバータ130のA相レグは、A相の巻線M1の他端A2に接続される。第1インバータ120のB相レグは、モータ200のB相の巻線M2の一端B1に接続され、第2インバータ130のB相レグは、巻線M2の他端B2に接続される。第1インバータ120のC相レグは、モータ200のC相の巻線M3の一端C1に接続され、第2インバータ130のC相レグは、巻線M3の他端C2に接続される。
【0039】
〔2.シャント抵抗の故障検出を有するモータ制御方法〕
図3および
図4を参照しながら、
図1に示す電力変換装置1000を例に、電力変換装置に用いるモータ制御方法の具体例を説明し、シャント抵抗の故障を検知する手法を主として説明する。ただし、本開示のモータ制御方法は、インバータの各相のレグおよびGNDラインにシャント抵抗を備える電力変換装置に好適に用いることができる。
【0040】
モータ制御方法を説明する前に、本発明の基礎になった知見を説明する。
【0041】
例えば、
図1に示す電力変換装置1000において巻線M1、M2およびM3を通電する制御(「三相通電制御」と表記する。)では、各相の巻線に流れる電流を独立に制御できるため、三相のうちの二相(例えばA相、B相)の巻線を通電することにより、モータ駆動を行うことが可能となる。本発明者は、インバータのGNDラインに流れるGND電流と三相電流との関係に着目し、シャント抵抗の故障を検知する手法を検討した。
【0042】
シャント抵抗の故障検出を有するモータ制御方法の概要は、下記のとおりである。
【0043】
先ず、第1インバータ120の3個のレグに含まれる3個の第1シャント抵抗S_A1、S_B1およびS_C1に流れる三相電流IA1、IB1およびIC1、第1インバータ120のGNDラインGLに設けられた第2シャント抵抗S_Z1を流れるGND電流IZ1、第2インバータ130の3個のレグに含まれる3個の第3シャント抵抗S_A2、S_B2およびS_C2に流れる三相電流IA2、IB2およびIC2、および、第2インバータ130のGNDラインGLに設けられた第4シャント抵抗S_Z2を流れるGND電流IZ2を獲得する(電流獲得ステップ)。
【0044】
次に、三相電流IA1、IB1およびIC1およびGND電流IZ1に基づいて、第1インバータ120におけるシャント抵抗の故障の有無を示す第1故障信号を生成し、かつ、三相電流IA2、IB2およびIC2およびGND電流IZ2に基づいて、第2インバータ130におけるシャント抵抗の故障の有無を示す第2故障信号を生成する(故障信号生成ステップ)。
【0045】
次に、第1故障信号および第2故障信号のレベルの組と複数の制御モードの間の関係を表すルックアップテーブル(LUT)を参照して、複数の制御モードの中から1つの制御モードを選択する(制御モード選択ステップ)。
【0046】
次に、選択された制御モードに従ってモータ200を制御する(モータ制御ステップ)。
【0047】
上記の電流獲得ステップ、故障信号生成ステップ、制御モード選択ステップおよびモータ制御ステップは、例えば、電流センサ150によって各相電流を測定する周期に同期して繰り返し実行される。
【0048】
本実施形態によるモータ制御方法を実現するためのアルゴリズムは、例えばマイクロコントローラ、特定用途向け集積回路(ASIC)またはFPGAなどのハードウェアのみで実現することもできるし、ハードおよびソフトウェアの組み合わせによっても実現することができる。
【0049】
図3は、モータ制御全般を行うためのコントローラ340の機能ブロックを例示している。
図4は、シャント抵抗の故障検知を行うための機能ブロックを例示している。
【0050】
本明細書において、機能ブロック図における各ブロックは、ハードウェア単位ではなく機能ブロック単位で示される。モータ制御およびシャント抵抗の故障検知に用いるソフトウェアは、例えば、各機能ブロックに対応した特定の処理を実行させるためのコンピュータプログラムを構成するモジュールであり得る。そのようなコンピュータプログラムは、例えばROM360に格納される。コントローラ340は、ROM360から命令を読み出して各処理を逐次実行することができる。
【0051】
コントローラ340は、例えば、故障検知ユニット800およびモータ制御ユニット900を有する。
【0052】
故障検知ユニット800は、インバータユニット100の第1インバータ120側で検出された三相電流IA1、IB1、IC1およびGND電流IZ1を獲得し、かつ、インバータユニット100の第2インバータ130側で検出された三相電流IA2、IB2、IC2およびGND電流IZ2を獲得して、複数の制御モードの中から1つの制御モードを選択する。故障検知ユニット800は、選択した制御モードに応じたモード信号modeをモータ制御ユニット900に出力する。
【0053】
モータ制御ユニット900は、例えばベクトル制御を用いて、第1および第2インバータ120、130のスイッチ素子のスイッチング動作の全般を制御するPWM信号をモード信号modeに基づいて生成する。モータ制御ユニット900は、PWM信号を駆動回路350に出力する。
【0054】
モータ制御ユニット900は、第1および第2インバータ120、130の制御をモード信号modeに応じて切替える。具体的に説明すると、モータ制御ユニット900は、第1および第2インバータ120、130のスイッチ素子の、スイッチング動作を含むオン・オフ状態をモード信号modeに基づいて決定することが可能である。モータ制御ユニット900は、さらにヒューズISW_11、ISW_12、ISW_21、ISW_22のオン・オフ状態をモード信号modeに基づいて決定することが可能である。
【0055】
本明細書において、説明の便宜上、各機能ブロックをユニットと表記する場合がある。当然に、この表記は、各機能ブロックを、ハードウェアまたはソフトウェアに限定解釈する意図で用いられない。
【0056】
各機能ブロックはソフトウェアとしてコントローラ340に実装される場合、そのソフトウェアの実行主体は、例えばコントローラ340のコアであり得る。上述したように、コントローラ340は、FPGAによって実現され得る。その場合、全てまたは一部の機能ブロックは、ハードウェアで実現され得る。
【0057】
複数のFPGAを用いて処理を分散させることにより、特定のコンピュータの演算負荷を分散させることができる。その場合、
図3および
図4に示される機能ブロックの全てまたは一部は、複数のFPGAに分散して実装され得る。複数のFPGAは、例えば車載のコントロールエリアネットワーク(CAN)によって互いに通信可能に接続され、データの送受信を行うことが可能である。
【0058】
故障検知ユニット800は、例えば、加算器811、812、減算器821、822、絶対値ユニット831、832、比較器841、842およびLUTを有する。
【0059】
加算器811は、三相電流IA1、IB1、IC1の総和sum1(=IA1+IB1+IC1)を算出する。加算器812は、三相電流IA2、IB2およびIC2の総和sum2(=IA2+IB2+IC2)を算出する。
【0060】
減算器821は、三相電流IA1、IB1およびIC1の総和sum1とGND電流IZ1との差分diff1を求める。減算器822は、三相電流IA2、IB2およびIC2の総和sum2とGND電流IZ2との差分diff2を求める。
【0061】
絶対値ユニット831は、差分diff1の第1絶対値abs1(=|IA1+IB1+IC1-IZ1|)を求める。絶対値ユニット832は、差分diff2の第2絶対値abs2(=|IA2+IB2+IC2-IZ2|を求める。
【0062】
比較器841、842は、例えばヒステリシスコンパレータである。ヒステリシスコンパレータによれば、入力信号にノイズが乗ったとしても出力信号のジッタを抑制することができる。比較器841は、第1絶対値abs1と第1許容限度値の比較結果に基づいて第1故障信号fault1を生成する。比較器842は、第2絶対値abs2と第2許容限度値の比較結果に基づいて第2故障信号fault2を生成する。換言すると、比較器841は、第1絶対値abs1が許容される範囲内にあるか否かを判定する。比較器842は、第2絶対値abs2が許容される範囲内にあるか否かを判定する。
【0063】
第1許容限度値は、第1シャント抵抗S_A1、S_B1およびS_C1のそれぞれの性能に依存する値である。第2許容限度値は、第3シャント抵抗S_A2、S_B2およびS_C2のそれぞれの性能に依存する値である。典型的には、第1シャント抵抗S_A1、S_B1、S_C1、第3シャント抵抗S_A2、S_B2およびS_C2として同じ性能のシャント抵抗が用いられるので、第1および第2許容限度値は、同じ値を示す。
【0064】
比較器841は、第1絶対値abs1が第1許容限度値を超える場合、第1インバータ120におけるシャント抵抗の故障を示す第1故障信号fault1を生成し、第1絶対値abs1が第1許容限度値未満である場合、第1インバータ120におけるシャント抵抗の無故障を示す第1故障信号fault1を生成する。第1インバータ120におけるシャント抵抗の故障とは、第1シャント抵抗S_A1、S_B1およびS_C1の少なくとも1つの故障を示す。例えば、シャント抵抗の故障を示す第1故障信号fault1に「1(ハイレベル)」を割り当て、シャント抵抗の無故障を示す第1故障信号fault1に「0(ローレベル)」を割り当てることができる。
【0065】
比較器842は、第2絶対値abs2が第2許容限度値を超える場合、第2インバータ130におけるシャント抵抗の故障を示す第2故障信号fault2を生成し、第2絶対値abs2が第2許容限度値未満である場合、第2インバータ130におけるシャント抵抗の無故障を示す第2故障信号fault2を生成する。第2インバータ130におけるシャント抵抗の故障とは、第3シャント抵抗S_A2、S_B2およびS_C2の少なくとも1つの故障を示す。第1故障信号fault1と同様に、例えば、シャント抵抗の故障を示す第2故障信号fault2に「1(ハイレベル)」を割り当て、シャント抵抗の無故障を示す第2故障信号fault2に「0(ローレベル)」を割り当てることができる。
【0066】
本開示の故障検知手法によれば、シャント抵抗が故障していない場合、三相電流IA1、IB1およびIC1の総和sum1はGND電流IZ1に理論上等しくなり、三相電流IA2、IB2およびIC2の総和sum2はGND電流IZ2に理論上等しくなる。ただし、実際は、これらの値は等しくならないので、その誤差を考慮して許容限度値を設けている。一方、シャント抵抗が故障した場合、この平衡関係が崩れる。この平衡関係の崩れを監視することにより、シャント抵抗の故障を検知することが可能となる。
【0067】
ルックアップテーブル(LUT)850は、第1故障信号fault1および第2故障信号fault2のレベルの組と複数の制御モードの間の関係を表す。表1は、ルックアップテーブルの内容を例示している。LUT850は、さらに、第1および第2インバータ120、130のスイッチ素子の制御方式と、ヒューズISW_11、ISW_12、ISW_21およびISW_22のオン・オフ状態とを制御モード毎に表す。
【0068】
【0069】
複数の制御モードは、第1から第3制御モードを含む。第1制御モードは、シャント抵抗が故障していない場合に用いる正常時の制御モードである。具体的には、第1制御モードは、第1および第2インバータ120、130の両方を用いて巻線M1、M2およびM3を通電する制御モードである。または、第1制御モードは、第1および第2インバータ120、130の一方の中性点および他方を用いて巻線M1、M2およびM3を通電する制御モードであり得る。
【0070】
第2制御モードは、第1および第2インバータ120、130の一方のシャント抵抗が故障した場合に用いる異常時の制御モードである。第2制御モードは、第1および第2インバータ120、130の故障したシャント抵抗を含む一方の中性点および他方を用いて巻線M1、M2およびM3を通電する制御モードである。
【0071】
第3制御モードは、第1および第2インバータ120、130の両方のシャント抵抗が故障した場合に用いる異常時の制御モードである。第3制御モードは、巻線M1、M2およびM3の通電をシャットダウンする制御モードである。
【0072】
表1のLUTによれば、第1および第2故障信号fault1、fault2のレベルが共に「0」を示す場合、第1制御モードが選択される。選択した制御モードに対応したモード信号modeが故障検知ユニット800から出力される。モード信号modeは、例えば2ビットで表現することができる。例えば、第1制御モードのモード信号modeに「00」を割り当てることができる。
【0073】
第1故障信号fault1のレベルは「1」を示し、第2故障信号fault2のレベルは「0」を示すとき、第2制御モードが選択される。その場合、例えば、第2制御モードのモード信号modeに「10」を割り当てることができる。さらに、第1故障信号fault1のレベルは「0」を示し、第2故障信号fault2のレベルは「1」を示すとき、第2制御モードが選択される。例えば、第2制御モードのモード信号modeに「01」を割り当てることができる。
【0074】
第1および第2故障信号fault1、fault2のレベルが共に「1」を示すとき、第3制御モードが選択される。例えば、第3制御モードのモード信号modeに「11」を割り当てることができる。
【0075】
モード信号modeは、モータ制御ユニット900に出力される。モータ制御ユニット900は、故障検知ユニット800と同じLUTを共有することができる。モータ制御ユニット900は、そのLUTを参照し、第1および第2インバータ120、130の制御方法をモード信号modeに応じて切替えることができる。
【0076】
モータ制御ユニット900は、「00」を示すモード信号modeを受信したとき、LUTを参照して、第1制御モードを選択する。モータ制御ユニット900は、第1および第2インバータ120、130の両方の全てのスイッチ素子のスイッチング動作を制御するPWM信号を生成し、駆動回路350(
図1を参照)に出力する。これにより、巻線M1、M2およびM3を通電して(三相通電制御によって)モータ200を駆動することが可能となる。
【0077】
第1制御モードにおいて、例えば、モータ制御ユニット900は、ヒューズISW_11、ISW_12、ISW_21およびISW_22を全てオンする。これにより、モータ200は、第1インバータ120および第2インバータ130を介して電源101に接続される。本実施形態では、ヒューズISW_11、ISW_12、ISW_21およびISW_22は、モータ制御ユニット900によって制御される。ただし、これらのヒューズは、例えば駆動回路350によっても制御され得る。
【0078】
図5は、三相通電制御に従ってインバータユニット100を制御したときにモータ200のA相、B相およびC相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形(正弦波)を例示している。横軸は、モータ電気角(deg)を示し、縦軸は電流値(A)を示す。
図5の電流波形において、電気角30°毎に電流値をプロットしている。I
pkは各相の最大電流値(ピーク電流値)を表す。例えば、モータ制御ユニット900は、
図5に示す電流波形を得るためのPWM信号を生成することができる。
【0079】
モータ制御ユニット900は、第1制御モードを選択するとき、中性点を用いた三相通電制御を行ってもよい。モータ制御ユニット900は、ヒューズISW_11、ISW_12をオフし、ISW_21、ISW_22をオンすることができる。モータ制御ユニット900は、その状態で、例えば第1インバータ120の全てのスイッチ素子SW_A1H、SW_B1H、SW_C1H、SW_A1L、SW_B1L、SW_C1Lをオンしてもよい。これにより、第1インバータ120内のノードの全ては等電位となり、等電位のノードを中性点として機能させることができる。モータ制御ユニット900は、この状態で、第2インバータ130のスイッチ素子のスイッチング動作を制御するPWM信号を生成し、駆動回路350に出力する。このようにモータ制御ユニット900は、モータのY結線の場合と同様に、中性点を用いた三相通電制御によってモータ200を駆動することが可能となる。
【0080】
モータ制御ユニット900は、ヒューズISW_11、ISW_12をオンし、ISW_21、ISW_22をオフすることができる。モータ制御ユニット900は、第2インバータ130の全てのスイッチ素子SW_A2H、SW_B2H、SW_C2H、SW_A2L、SW_B2LおよびSW_C2Lをオンしてもよい。モータ制御ユニット900は、第2インバータ130のノードを中性点として機能させた状態で、第1インバータ120のスイッチ素子のスイッチング動作を制御するPWM信号を生成し、駆動回路350に出力することも可能である。
【0081】
モータ制御ユニット900は、「10」を示すモード信号modeを受信したとき、ルックアップテーブルを参照して、第2制御モードを選択する。モータ制御ユニット900は、ヒューズISW_11およびISW_12をオフし、かつ、ISW_21およびISW_22をオンする。これにより、モータ200は、故障したシャント抵抗を含む第1インバータ120から電気的に分離され、第2インバータ130を介して電源101に接続される。
【0082】
第1インバータ120のシャント抵抗が故障すると、第1インバータ120の相電流を測定できなくなるために、第1インバータ120のスイッチ素子をPWM制御することは困難となる。そこで、モータ制御ユニット900は、第1インバータ120の全てのスイッチ素子SW_A1H、SW_B1H、SW_C1H、SW_A1L、SW_B1LおよびSW_C1Lをオンする。モータ制御ユニット900は、第1インバータ120のノードを中性点として機能させた状態で、第2インバータ130のスイッチ素子のスイッチング動作を制御するPWM信号を生成し、駆動回路350に出力する。
【0083】
モータ制御ユニット900は、「01」を示すモード信号modeを受信したとき、ルックアップテーブルを参照して、第2制御モードを選択する。モータ制御ユニット900は、ヒューズISW_11およびISW_12をオンし、かつ、ISW_21およびISW_22をオフする。これにより、モータ200は、第1インバータ120を介して電源101に接続され、故障したシャント抵抗を含む第2インバータ130から電気的に分離される。
【0084】
第2インバータ130のシャント抵抗が故障すると、第2インバータ130の相電流を測定できなくなるために、第2インバータ130のスイッチ素子をPWM制御することは困難となる。そこで、モータ制御ユニット900は、第2インバータ130の全てのスイッチ素子SW_A2H、SW_B2H、SW_C2H、SW_A2L、SW_B2LおよびSW_C2Lをオンする。モータ制御ユニット900は、第2インバータ130のノードを中性点として機能させた状態で、第1インバータ120のスイッチ素子のスイッチング動作を制御するPWM信号を生成し、駆動回路350に出力する。
【0085】
モータ制御ユニット900は、「11」を示すモード信号modeを受信したとき、ルックアップテーブルを参照して、第3制御モードを選択する。モータ制御ユニット900は、ヒューズISW_11、ISW_12、ISW_21およびISW_22を全てオフする。これにより、モータ200は、電源101から電気的に分離される。
【0086】
第1および第2インバータ120、130の両方のシャント抵抗が故障すると、三相通電制御は不可能となる。そのため、モータ制御ユニット900は、三相通電制御をシャットダウンする。例えば、モータ制御ユニット900は、三相通電制御をシャットダウンするシャットダウン回路(
図6を参照)にシャットダウン通知信号を出力するようにしてもよい。モータ制御モードが第3制御モードに切り替わると、例えば電動パワーステアリング(EPS)装置の制御モードは、トルクのアシストモードからマニュアルステアリングモードに切り替わる。
【0087】
本実施形態によると、あるシャント抵抗が故障した場合、第1および第2インバータ120、130のどちらのインバータで故障が発生したかを特定することができる。故障検知ユニット800の出力に従って、適切な制御モードを選択することにより、モータ駆動を継続することが可能となる。
【0088】
本開示によるモータ制御方法は、
図2に示すような3個のHブリッジを有するインバータユニット100を備える電力変換装置1000に限られず、巻線の一端同士がY結線されたモータを駆動する電力変換装置にも好適に用いることができる。
【0089】
図6は、本実施形態の変形例による、単体のインバータ140を有するインバータユニット100Aの回路構成を模式的に示している。
【0090】
インバータユニット100Aは、一端同士がY結線された三相の巻線を有するモータに接続される。なお本開示は、三相電流を検知できるモータに利用可能であり、一端同士がデルタ結線された巻線を有するモータにも利用可能である。インバータ140のA相レグは、ローサイドスイッチ素子SW_AL、ハイサイドスイッチ素子SW_AHおよび第1シャント抵抗S_Aを有する。B相レグは、ローサイドスイッチ素子SW_BL、ハイサイドスイッチ素子SW_BHおよび第1シャント抵抗S_Bを有する。C相レグは、ローサイドスイッチ素子SW_CL、ハイサイドスイッチ素子SW_CHおよび第1シャント抵抗S_Cを有する。GND電流を検出するための第2シャント抵抗S_Zが、インバータ140のGNDラインGLに設けらる。
【0091】
本実施形態によるコントローラ340は、上述した故障検知方法と同様な方法で、以下の処理を実行することができる。
【0092】
コントローラ340は、3個の第1シャント抵抗S_A、S_BおよびS_Cに流れる三相電流IA、IB、ICおよび第2シャント抵抗S_Zを流れるGND電流Izを獲得する。
【0093】
コントローラ340は、三相の相電流IA、IB、ICおよびGND電流Izに基づいて、インバータ140におけるシャント抵抗の故障の有無を示す故障信号を生成する。コントローラ340は、例えば、
図4に示す機能ブロックの上側のブロックを用いて故障信号を生成することができる。
【0094】
コントローラ340は、故障信号のレベルと複数の制御モードの間の関係を表すテーブルを参照して、複数の制御モードの中から1つの制御モードを選択する。複数の制御モードは、例えば、正常時に三相通電制御を行う制御モード(第1制御モードに相当)と、異常時に三相通電制御をシャットダウンする制御モード(第3制御モードに相当)とを含み得る。
【0095】
コントローラ340は、選択された制御モードに従って、インバータ140のスイッチ素子のスイッチング動作を制御する。
【0096】
図6に示すインバータユニット100Aの構成では、三相電流IA、IBおよびICの総和とGND電流Izを比較することにより、それらの差分が許容範囲内であればシャント抵抗は故障していないと判定することができる。その差分が許容範囲を超えると、3個のシャント抵抗S_A、S_BおよびS_Cの少なくとも1つは故障していると判定することができる。その判定結果に基づいて制御モードを切替えることが可能となる。シャント抵抗の故障を検知した場合、三相通電制御をシャットダウンする制御モードに切替えればよい。
図6に示すように、故障検知ユニット800からのモード信号modeは、モータ200とインバータ140の接続を切り離すシャットダウン回路SDCに出力され得る。
【0097】
図7は、本実施形態の他の変形例による、単体のインバータ140を有するインバータユニット100Aの回路構成を模式的に示している。
【0098】
図7に示すように、インバータユニット100Aは、中性点用レグDをさらに備えていてもよい。中性点用レグDは、ハイサイドスイッチ素子SW_NHおよびローサイドスイッチ素子SW_NLを有する。モータ200における結線方式がY結線の場合、中性点用レグD、具体的には、ハイサイドスイッチ素子SW_NHおよびローサイドスイッチ素子SW_NLの間のノードは、巻線M1、M2およびM3の一端をY結線するモータの中性点ノードNPに接続される。中性点用レグDは、インバータ130の3個のレグを接続するローサイド側およびハイサイド側のノードの間に接続される。
【0099】
この変形例による構成において、上述した場合と同様に、故障検知ユニット800は、シャント抵抗の故障を検知することができる。
図7には、シャント抵抗を有しない中性点用レグDを例示している。しかしながら、中性点用レグDも、インバータ140のレグと同様に、シャント抵抗(不図示)を有し得る。その場合、故障検知ユニット800は、中性点用レグDのシャント抵抗により検知された電流と、シャント抵抗S_A、S_BおよびS_Cにより検知された各電流とを比較して、各シャント抵抗の故障の有無を判別することが可能である。
【0100】
故障検知ユニット800は、中性点用レグDのシャント抵抗により検知された電流値と、シャント抵抗S_Zにより検知された電流とを比較して、シャント抵抗S_Zの故障を検知することができる。さらに、故障検知ユニット800は、中性点用レグDのシャント抵抗、シャント抵抗S_A、S_B、S_CおよびS_Zにより検知された電流値を互いに比較して、各シャント抵抗の故障を検知することができる。
【0101】
(実施形態2)
図8は、本実施形態による電動パワーステアリング装置3000の典型的な構成を模式的に示す。
【0102】
自動車等の車両は一般に、電動パワーステアリング装置を有する。本実施形態による電動パワーステアリング装置3000は、ステアリングシステム520および補助トルクを生成する補助トルク機構540を有する。電動パワーステアリング装置3000は、運転者がステアリングハンドルを操作することによって発生するステアリングシステムの操舵トルクを補助する補助トルクを生成する。補助トルクにより、運転者の操作の負担は軽減される。
【0103】
ステアリングシステム520は、例えばステアリングハンドル521、ステアリングシャフト522、自在軸継手523A、523B、回転軸524、ラックアンドピニオン機構525、ラック軸526、左右のボールジョイント552A、552B、タイロッド527A、527B、ナックル528A、528B、および左右の操舵車輪529A、529Bから構成され得る。
【0104】
補助トルク機構540は、例えば、操舵トルクセンサ541、自動車用電子制御ユニット(ECU)542、モータ543および減速機構544などから構成される。操舵トルクセンサ541は、ステアリングシステム520における操舵トルクを検出する。ECU542は、操舵トルクセンサ541の検出信号に基づいて駆動信号を生成する。モータ543は、駆動信号に基づいて操舵トルクに応じた補助トルクを生成する。モータ543は、減速機構544を介してステアリングシステム520に、生成した補助トルクを伝達する。
【0105】
ECU542は、例えば、実施形態1によるコントローラ340および駆動回路350などを有する。自動車ではECUを核とした電子制御システムが構築される。電動パワーステアリング装置3000では、例えば、ECU542、モータ543およびインバータ545によって、モータ駆動ユニットが構築される。そのシステムに、実施形態1によるモータモジュール2000を好適に用いることができる。
【0106】
本開示の実施形態は、シフトバイワイヤ、ステアリングバイワイヤ、ブレーキバイワイヤなどのエックスバイワイヤおよびトラクションモータなどのモータ制御システムにも好適に用いられる。例えば、本開示の実施形態によるモータ制御方法を実装したEPSは、日本政府および米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)によって定められたレベル0から4(自動化の基準)に対応した自動運転車に搭載され得る。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本開示の実施形態は、掃除機、ドライヤ、シーリングファン、洗濯機、冷蔵庫および電動パワーステアリング装置などの、各種モータを備える多様な機器に幅広く利用され得る。
【符号の説明】
【0108】
100、100A:インバータユニット、101:電源、120:第1インバータ、130:第2インバータ、140:インバータ、150:電流センサ、200:モータ、300:制御回路、310:電源回路、320:角度センサ、330:入力回路、340:マイクロコントローラ、350:駆動回路、360:ROM、1000:電力変換装置、2000:モータモジュール、3000:電動パワーステアリング装置、ISW_11、ISW_12、ISW_21、ISW_22:ヒューズ、SW_A1H、SW_B1H、SW_C1H、SW_A1L、SW_B1L、SW_C1L、SW_AH、SW_BH、SW_CH:スイッチ素子、S_A1、S_B1、S_C1、S_A2、S_B2、S_C2、S_A、S_B、S_C、S_Z1、S_Z2、S_Z:シャント抵抗