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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】糸電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20220614BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220614BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20220614BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220614BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/13
H01M4/64 A
H01M10/0562
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020550357
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2019037869
(87)【国際公開番号】W WO2020075512
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2018193540
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 洪
(72)【発明者】
【氏名】近藤 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 充
(72)【発明者】
【氏名】得原 幸夫
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-166155(JP,A)
【文献】特表2018-515900(JP,A)
【文献】特開2001-093581(JP,A)
【文献】特開2005-216787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 10/0562
H01M 4/64 - 84
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に相対する第1端部及び第2端部を有する糸電池であって、
前記糸電池の直径が3mm以下であり、
前記糸電池の直径と長さの比(長さ/直径)が5以上であり、
前記第1端部から前記第2端部に向かって、前記第1端部に配置される第1集電体、長手方向に延びる糸状の第1電極、長手方向に延びる糸状の固体電解質、長手方向に延びる糸状の第2電極、及び、前記第2端部に配置される第2集電体がこの順で接続されていることを特徴とする糸電池。
【請求項2】
前記第1電極、前記第2電極及び前記固体電解質が、いずれも酸化物を含んでいる請求項1に記載の糸電池。
【請求項3】
前記第1電極及び前記第2電極の少なくとも一方が、前記固体電解質と同じ酸化物を含んでいる請求項2に記載の糸電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、薄型化に応じ、電源である電池について、収容スペースの形状に追従させやすい形状の電池が求められている。
収容スペースの形状に追従させやすい形状としては、例えば、特許文献1に記載されたような糸型の電池が挙げられる。特許文献1は、内部集電体と該内部集電体の周面に被覆された負極材料とからなる内部電極と、内部電極の外部に設置された電解質と、該電解質の周面に被覆された、正極材料と該正極材料の周面に設けられた外部集電体及び保護被覆部分とからなる、様々な形状に変形しうる糸型の電池を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4971139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1には、糸型の電池から外部に電流を引き出す具体的な方法が何ら開示されていない。要求電圧は電子機器ごとに異なるため、電子機器に搭載される電池は通常、適切な電圧となるよう複数個組み合わせて用いられる。しかしながら、特許文献1に記載の糸型の電池では、外部に電流を引き出す方法はもちろん、電池同士を接続する方法が不明である。そのため、電池を複数個組み合わせて使用する場合の電圧設計を自由に行えないという問題があった。
【0005】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、外部に電流を引き出しやすく、電圧設計の自由度が高い糸電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の糸電池は、長手方向に相対する第1端部及び第2端部を有する糸電池であって、上記第1端部から上記第2端部に向かって、上記第1端部に配置される第1集電体、長手方向に延びる糸状の第1電極、長手方向に延びる糸状の固体電解質、長手方向に延びる糸状の第2電極、及び、上記第2端部に配置される第2集電体がこの順で接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外部に電流を引き出しやすく、電圧設計の自由度が高い糸電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の糸電池の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2(a)~図2(c)は、第1電極と固体電解質とを接合する方法の一例を示す斜視図である。
図3図3は、絶縁膜が設けられた糸電池の一例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の糸電池について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0010】
本発明の糸電池は、長手方向に相対する第1端部及び第2端部を有する。本発明の糸電池は、第1端部から第2端部に向かって、第1端部に配置される第1集電体、長手方向に延びる糸状の第1電極、長手方向に延びる糸状の固体電解質、長手方向に延びる糸状の第2電極、及び、第2端部に配置される第2集電体がこの順で接続されている。
【0011】
本発明の糸電池では、第1集電体及び第2集電体が電池の両端に配置されているため、それぞれの集電体に導体を接続して電流を引き出すことが容易である。さらに、本発明の糸電池を複数個配置して直列接続や並列接続することによって、電圧設計を自由に行うことができる。
【0012】
例えば、所定形状の基材上に、本発明の糸電池をピンの様に立ててアレイ状に複数個配置することで、任意の形状の電池を構成することができる。このとき、第1電極と第2電極が接触しなければ、隣接する糸電池同士が接触しても短絡が発生しない。また、本発明の糸電池は、向きを揃えて複数個を束ねて使用してもよい。
【0013】
本発明の糸電池の構成の例について、図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明の糸電池の一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示す糸電池1は、長手方向(図1中、両矢印Lで示す方向)に相対する第1端部1aと第2端部1bとを有する。糸電池1は、第1電極10、第2電極20、固体電解質30、第1集電体70及び第2集電体90を備える。
第1電極10、第2電極20及び固体電解質30はそれぞれ、長手方向に延びる糸状であって、第1端部1aから第2端部1bに向かって、第1集電体70、第1電極10、固体電解質30、第2電極20、及び、第2集電体90がこの順で接続されている。
第1端部1aには第1集電体70が配置されており、第2端部1bには第2集電体90が配置されている。
固体電解質30の第1端部1a側の端面は第1電極10と接合されており、固体電解質30の第2端部1b側の端面は第2電極20と接合されている。
【0014】
第1集電体70及び第2集電体90は、その一部が、糸電池1の外周面に回り込むように配置されていてもよい。
ただし、第1集電体70は第2電極20と接触しない範囲とし、第2集電体90は第1電極10と接触しない範囲とする。
第1集電体70及び第2集電体90が糸電池1の外周面に回り込むように配置されていると、第1集電体70と第1電極10との接触面積、及び、第2集電体90と第2電極20との接触面積が大きくなり、内部抵抗が低下する。また、第1集電体70及び第2集電体90が糸電池1の外周面に回り込むように配置されていると、集電体の剥離強度が向上する。
【0015】
本発明の糸電池において、電極と固体電解質との接合方法は特に限定されず、固体電解質の端面と電極の端面とを樹脂系接着剤により仮止めした後、熱処理することによって接合してもよく、電極と固体電解質を撚り合わせて接合してもよく、両者を組み合わせてもよい。
【0016】
電極と固体電解質を撚り合わせる方法について、図2(a)~図2(c)を参照しながら説明する。
図2(a)~図2(c)は、第1電極と固体電解質とを接合する方法の一例を示す斜視図である。
図2(a)では、第1電極10の周囲に固体電解質30を螺旋状に巻き付けることによって、第1電極10と固体電解質30とを接合している。
図2(b)では、固体電解質30の周囲に第1電極10を螺旋状に巻き付けることによって、第1電極10と固体電解質30とを接合している。
図2(c)では、第1電極10と固体電解質30を互いに撚り合わせることによって、第1電極10と固体電解質30とを接合している。
なお、図2(a)~図2(c)では、第1電極10と固体電解質30との接合方法について説明したが、第2電極20と固体電解質30とを接合する方法についても、図2(a)~図2(c)に示した方法と同様の方法を用いることができる。
【0017】
本発明の糸電池は、外周面の少なくとも一部が絶縁性材料からなる絶縁膜により覆われていてもよい。
糸電池の外周面とは、第1電極の外周面、第2電極の外周面及び固体電解質の外周面を意味する。
外周面の少なくとも一部が絶縁性材料からなる絶縁膜により覆われていると、外部からの衝撃や振動等によって第1電極、第2電極及び固体電解質が破損することや短絡することを防止できる。
さらに、第1電極と固体電解質との接合部分の外周面、及び、第2電極と固体電解質との接合部分の外周面が、絶縁膜により覆われていることが好ましい。第1電極と固体電解質との接合部分の外周面、及び、第2電極と固体電解質との接合部分の外周面が絶縁膜により覆われていると、絶縁膜によって第1電極と固体電解質との接合部分、及び、第2電極と固体電解質との接合部分の接合強度がそれぞれ強固となる。
【0018】
図3は、絶縁膜が設けられた糸電池の一例を模式的に示す斜視図である。
図3に示す糸電池3は、図1に示す糸電池1の外周面に絶縁性材料からなる絶縁膜100を設けたものに相当する。
糸電池3では、第1電極10と固体電解質30との接合部分の外周面、及び、第2電極20と固体電解質30との接合部分の外周面に加えて、上記接合部分以外の部分も、それぞれ絶縁膜100により覆われている。
【0019】
本発明の糸電池は、可撓性を有していることが好ましい。
糸電池が可撓性を有していると、収容スペースの形状に追従させやすい。
なお、本明細書においては、糸電池を曲率半径が50mmとなるまで変形させても破壊されない場合に、可撓性を有していると判断する。
糸電池を内径100mmの環の内周面に沿って配置した際に、糸電池が破壊されなければ、曲率半径が50mmとなるまで変形させても破壊されない、すなわち可撓性を有していると判断する。
【0020】
本発明の糸電池の直径は特に限定されないが、0.005mm以上、3mm以下であることが好ましい。
糸電池の直径が0.005mm以上、3mm以下であると、糸電池が充分な可撓性を有し、収容スペースの形状に追従させやすくなる。
糸電池の直径が0.005mm未満の場合、糸電池の直径が小さすぎて、充分な容量を得ることができない。また、糸電池の内部抵抗が大きくなりすぎるおそれがある。一方、糸電池の直径が3mmを超える場合、糸電池の可撓性が低下してしまうおそれがある。
なお、糸電池の直径は、第1電極、第2電極及び固体電解質からそれぞれ無作為に選択した3箇所(合計9箇所)における糸電池の長手方向に垂直な断面の断面形状から直径を測定し、平均値をとることにより求めることができる。第1電極及び固体電解質を撚り合わせて接合している箇所、及び、第2電極及び固体電解質を撚り合わせて接合している箇所については、上記直径を求める際に選択しないこととする。
ただし、糸電池の断面形状が円形でない場合には、断面の面積から求められる投影面積相当円の直径を断面の直径とする。
上記絶縁膜が形成されている場合には、絶縁膜の厚さも糸電池の直径に含める。
【0021】
第1電極、固体電解質及び第2電極の直径は、それぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0022】
本発明の糸電池の長手方向の長さは特に限定されないが、1mm以上であることが好ましい。
【0023】
第1電極、固体電解質及び第2電極の長手方向の長さは、特に限定されないが、それぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0024】
本発明の糸電池において、直径と長さの比は特に限定されないが、[(長さ)/(直径)]が5以上であることが好ましい。
【0025】
本発明の糸電池において、長手方向に垂直な断面の断面形状は円形に限定されず、楕円形状や多角形形状であってもよい。
【0026】
本発明の糸電池においては、第1電極及び第2電極のうちの一方が正極となり、他方が負極となる。以下では、第1電極が正極、第2電極が負極である場合の例について説明する。
【0027】
[第1電極]
第1電極は、長手方向に延びる糸状であって、正極活物質粒子を含む焼結体により構成されている。
正極活物質粒子を構成する材料としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リチウム含有層状酸化物、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等の酸化物が挙げられる。
好ましく用いられるナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の具体例としては、Li(PO等が挙げられる。好ましく用いられるオリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の具体例としては、LiFePO、LiCoPO、LiMnPO等が挙げられる。好ましく用いられるリチウム含有層状酸化物の具体例としては、LiCoO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3等が挙げられる。好ましく用いられるスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の具体例としては、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等が挙げられる。
これらの正極活物質粒子のうちの1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
これらのなかでは、Li(POが特に好ましい。
【0028】
第1電極は、正極活物質粒子の他に、固体電解質粒子及び導電性粒子を含んでいてもよい。
固体電解質粒子を構成する材料としては、例えば、後述する固体電解質を構成する酸化物が挙げられる。
固体電解質粒子は、後述する固体電解質を構成する酸化物と同じものであることが好ましい。
第1電極が固体電解質粒子を含んでおり、該固体電解質粒子が固体電解質を構成する酸化物と同じものであると、第1電極と固体電解質との接合が強固なものとなり、応答速度及び機械的強度が向上する。
導電性粒子は、例えば、Ag、Au、Pt、Pdなどの金属、炭素、電子伝導性を有する化合物、またはそれらを組み合わせた混合物等により構成される粒子が挙げられる。またこれらの導電性を有した物質が正極活物質粒子の表面に被覆された状態で第1電極に含まれてもよい。
【0029】
第1電極の長手方向の長さは特に限定されないが、糸電池全体の体積に占める第1電極の体積の割合が20体積%以上、80体積%未満となるような長さであることが好ましい。
【0030】
[第2電極]
第2電極は、長手方向に延びる糸状であって、負極活物質粒子を含む焼結体で構成されている。
負極活物質粒子を構成する材料の例としては、例えば、MO(Mは、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、Nb、V及びMoからなる群より選ばれた少なくとも一種である。0.9≦X≦3.0)で表される化合物、LiMO(Mは、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、Nb、V及びMoからなる群より選ばれた少なくとも一種である。0.9≦X≦3.0、2.0≦Y≦4.0)で表される化合物、黒鉛-リチウム化合物、リチウム合金、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等が挙げられ、MOで表される化合物、LiMOで表される化合物、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等の酸化物であることが好ましい。
MOで表される化合物は、酸素の一部がPやSiで置換されていてもよいし、Liを含んでもよい。好ましく用いられるリチウム合金の具体例としては、Li-Al等が挙げられる。好ましく用いられるナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の具体例としては、Li(POやLiFe(PO等が挙げられる。好ましく用いられるスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の具体例としては、LiTi12等が挙げられる。これらの負極活物質粒子のうちの1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
これらのなかでは、Li(POが特に好ましい。
【0031】
第2電極は、負極活物質粒子の他に、固体電解質粒子及び導電性粒子を含んでいてもよい。
固体電解質粒子を構成する材料としては、例えば、後述する固体電解質を構成する酸化物が挙げられる。
固体電解質粒子としては、後述する固体電解質を構成する酸化物と同じものであることが好ましい。
第2電極が固体電解質粒子を含んでおり、該固体電解質粒子が固体電解質を構成する酸化物と同じものであると、第2電極と固体電解質との接合が強固なものとなり、応答速度及び機械的強度が向上する。
導電性粒子として好ましく用いられるものとしては、例えば、Ag、Au、Pt、Pdなどの金属、炭素、電子伝導性を有する化合物、またはそれらを組み合わせた混合物等により構成される粒子が挙げられる。またこれらの導電性を有した物質が負極活物質粒子などの表面に被覆された状態で第2電極に含まれてもよい。
【0032】
なお、本明細書において、酸化物には、硫化酸化物を含めないものとする。
【0033】
第2電極の長手方向の長さは特に限定されないが、糸電池全体の体積に占める第2電極の体積の割合が20体積%以上、80体積%未満となるような長さであることが好ましい。
【0034】
[固体電解質]
固体電解質は、長手方向に延びる糸状である。
固体電解質としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物等の酸化物が挙げられる。
好ましく用いられるナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物としては、Li(PO(0.9≦x≦1.9、1.9≦y≦2.1、Mは、Ti、Ge、Al、Ga及びZrからなる群より選ばれた少なくとも一種)が挙げられる。
リチウム含有リン酸化合物としては、Li1.2Al0.2Ti1.8(POが好ましい。
組成の異なる2種以上のナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物を混合して用いてもよい。
【0035】
固体電解質の好ましい組成としては、例えば、Li1+xAlGe2-x(POで示されるガラス化可能な組成[例えば、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO、Li1.2Al0.2Ge1.8(PO等]、Li1+xAlGe2-x-yTi(POで示されるガラス化可能な組成[例えば、Li1.5Al0.5Ge1.0Ti0.5(PO、Li1.2Al0.2Ge1.3Ti0.5(PO等]、AlPO、SiO及びBとからなる群より選択される少なくとも1種とLi1+xAlGe2-x(PO又はLi1+xAlGe2-x-yTi(POとの混合物、Li1+xAlGe2-x(POとLi1+xAlGe2-x-yTi(POの混合物、Li1+xAlGe2-x(PO又はLi1+xAlGe2-x-yTi(POのLiの一部をNa、Co、Mn又はNiで置き換えたもの[例えば、Liの一部をNaで置き換えたLi1.1Na0.1Al0.2Ge1.3Ti0.5(POやLi1.4Na0.1Al0.5Ge1.0Ti0.5(PO等]、Li1+xAlGe2-x(PO又はLi1+xAlGe2-x-yTi(POのGeの一部をZr、Fe又はVで置き換えたもの[例えば、Geの一部をZrで置き換えたLi1.2Al0.2Ge1.7Zr0.1(PO、Li1.5Al0.5Ge1.0Ti0.4Zr0.1(PO等]等が挙げられ、これら2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
固体電解質は、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物に加えて、さらに、ペロブスカイト型構造を有する酸化物固体電解質やガーネット型若しくはガーネット型類似構造を有する酸化物固体電解質を含んでいてもよい。ペロブスカイト型構造を有する酸化物固体電解質の具体例としては、例えばLa0.55Li0.35TiOが挙げられ、ガーネット型若しくはガーネット型類似構造を有する酸化物固体電解質の具体例としては、例えばLiLaZr12が挙げられる。
【0037】
本発明の糸電池は、第1電極、第2電極及び固体電解質が、いずれも酸化物を含んでいることが好ましい。
第1電極、第2電極及び固体電解質がいずれも酸化物を含んでいると、焼結体を形成しやすくなる。また、酸化物を含む焼結体は応力が加わって破断したとしても、各破断片を起点とした連続破壊が起こりにくいため、粉々になりにくく短絡が防止され、電池機能が維持される。
【0038】
本発明の糸電池は、第1電極及び第2電極の少なくとも一方が、固体電解質と同じ酸化物を含んでいることが好ましく、第1電極及び第2電極の両方が、固体電解質と同じ酸化物を含んでいることがより好ましい。特に、第1電極及び第2電極の少なくとも一方が、Li1.2Al0.2Ti1.8(PO等のリチウム含有リン酸化合物を含んでいることが好ましく、第1電極及び第2電極の両方が、上記リチウム含有リン酸化合物を含んでいることがより好ましい。
固体電解質と同じ酸化物を含む電極は、固体電解質との接合が強固となるため、応答速度及び機械的強度が向上する。
【0039】
本発明の糸電池において、第1電極、第2電極及び固体電解質は、硫化物及び硫化酸化物を実質的に含まないことが好ましい。
【0040】
第1電極が固体電解質と同じ酸化物を含んでいる場合、その含有量は30重量%以上、70重量%以下であることが好ましい。
第1電極における上記酸化物の含有量が30重量%未満であると、第1電極と固体電解質との接合強度を充分に向上させることができないおそれがある。一方、上記含有量が70重量%を超えると、第1電極中に占める正極活物質粒子の割合が減少するため、エネルギー密度が低下するおそれがある。
なお、第1電極中に占める酸化物の含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析等の組成分析により測定することができる。また、簡易的には、粉末X線回折(XRD)等のデータ解析を利用することもできる。
【0041】
第2電極が固体電解質と同じ酸化物を含んでいる場合、その含有量は30重量%以上、70重量%以下であることが好ましい。
第2電極における上記酸化物の含有量が30重量%未満であると、第2電極と固体電解質との接合強度を充分に向上させることができないおそれがある。一方、上記含有量が70重量%を超えると、第2電極中に占める負極活物質粒子の割合が減少するため、エネルギー密度が低下するおそれがある。
なお、第2電極中に占める酸化物の含有量は、第1電極と同様の方法で測定することができる。
【0042】
固体電解質の長手方向の長さは特に限定されないが、糸電池全体の体積に占める固体電解質の体積の割合が30体積%以下となるような長さであることが好ましい。
【0043】
[集電体]
第1集電体及び第2集電体について説明する。
第1電極が正極である場合、第1集電体は正極集電体となり、第2電極が負極である場合、第2集電体は負極集電体となる。
【0044】
正極集電体及び負極集電体は、電子伝導性があるものであれば、特に限定されない。正極集電体及び負極集電体は、例えば、炭素や電子伝導性の高い酸化物や複合酸化物、金属等により構成することができる。例えば、Pt、Au、Ag、Al、Cu、ステンレス、ITO(酸化インジウムスズ)等により構成することができる。
正極集電体を構成する材料としては、Ni又はAlが好ましい。一方、負極集電体を構成する材料としては、Cuが好ましい。
【0045】
[絶縁膜]
絶縁膜を構成する材料は絶縁性材料であればよく、例えば、ガラス、セラミックス、絶縁性樹脂等が挙げられる。
ガラスとしては、例えば、石英ガラス(SiO)や、SiO、PbO、B、MgO、ZnO、Bi、NaO及びAlからなる群から選ばれる少なくとも2種以上を組み合わせた複合酸化物系ガラス等が挙げられる。
セラミックスとしては、例えば、アルミナ、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト等が挙げられる。
絶縁性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、テフロン(登録商標)等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等の熱硬化性樹脂、及び、光硬化性樹脂等が挙げられる。
絶縁膜の厚さは特に限定されないが、0.005mm以上、1mm以下であることが好ましい。
【0046】
[製造方法]
本発明の糸電池を製造する方法は特に限定されない。
図1に示す糸電池1は、例えば、糸状の固体電解質と、糸状の第1電極と、糸状の第2電極とを準備し、固体電解質の長手方向の一方の端面に第1電極を配置し、固体電解質の長手方向の他方の端面に第2電極を配置し、かつ、第1電極の固体電解質と接触していない側の端面に第1集電体を配置し、第2電極の固体電解質と接触していない側の端面に第2集電体を配置することで得ることができる。さらに、得られた糸電池の外周面に、絶縁性材料からなる絶縁膜を形成してもよい。
【0047】
以上の手順により、本発明の糸電池を製造することができる。
【0048】
糸状の固体電解質を得る方法としては、例えば、固体電解質を構成する材料と有機バインダと分散媒とを含有する混合液を紡糸し、焼成する方法が挙げられる。
また、固体電解質を構成する材料を溶融させた状態で糸状に加工してもよい。
【0049】
糸状の第1電極を得る方法としては、例えば、第1電極を構成する材料と有機バインダと分散媒とを含有する混合液を紡糸し、焼成する方法が挙げられる。
また、第1電極を構成する材料を溶融させた状態で糸状に加工してもよい。
第1電極の一方の端面に第1集電体を形成する方法としては、例えば、レーザー加工、スパッタ、メッキ等が挙げられる。
【0050】
糸状の第2電極を得る方法としては、例えば、第2電極を構成する材料と有機バインダと分散媒とを含有する混合液を紡糸し、焼成する方法が挙げられる。
また、第2電極を構成する材料を溶融させた状態で糸状に加工してもよい。
第2電極の一方の端面に第2集電体を形成する方法としては、例えば、レーザー加工、スパッタ、メッキ等が挙げられる。
【0051】
得られた糸電池の外周面に、絶縁性材料からなる絶縁膜を形成する方法としては、ディッピング法やコーティング法等が挙げられる。
【符号の説明】
【0052】
1、3 糸電池
1a 第1端部
1b 第2端部
10 第1電極
20 第2電極
30 固体電解質
70 第1集電体
90 第2集電体
100 絶縁膜
図1
図2
図3