(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】糸電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20220614BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220614BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220614BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220614BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20220614BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20220614BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/0565
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020550359
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2019037878
(87)【国際公開番号】W WO2020075514
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2018193542
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 洪
(72)【発明者】
【氏名】近藤 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 充
(72)【発明者】
【氏名】得原 幸夫
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-525774(JP,A)
【文献】特開2002-252031(JP,A)
【文献】特開2001-110445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 10/0562
H01M 4/62
H01M 4/13
H01M 10/052
H01M 10/0565
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、前記第1電極とは極性の異なる第2電極と、前記第1電極及び前記第2電極の間に介在する固体電解質とを備える、糸状の電池本体から構成される糸電池であって、
前記電池本体の直径が1mm以下であり、
前記電池本体の直径に対する長さの比率(長さ/直径)が5以上であり、
前記第1電極及び前記第2電極の少なくとも一方の電極は、電極活物質粒子を含むセラミック粒子と導電性フィラーとが樹脂中に分散されたコンポジット材料からなり、かつ、該電極に占める前記樹脂の体積比率が25%以上である、糸電池。
【請求項2】
前記固体電解質は、高分子ゲル電解質である、請求項1に記載の糸電池。
【請求項3】
前記固体電解質は、無機固体電解質粒子を含む、請求項1又は2に記載の糸電池。
【請求項4】
前記無機固体電解質粒子は酸化物からなる、請求項3に記載の糸電池。
【請求項5】
前記コンポジット材料からなる電極は、前記無機固体電解質粒子と同じ酸化物を含む、請求項4に記載の糸電池。
【請求項6】
前記第1電極の外周面に前記固体電解質が配置され、前記固体電解質の外周面に前記第2電極が配置されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の糸電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、薄型化に応じ、電源である電池について、収容スペースの形状に追従させやすい形状を有する電池が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、内部集電体と、上記内部集電体の周面に被覆された負極材料からなる内部電極と、上記内部電極の外部に設置された電解質と、上記電解質の周面に被覆された正極材料からなる外部電極と、上記外部電極の周面に被覆された外部集電体及び保護被覆部分とを有する、様々な形状に変形し得る糸型のフレキシブル電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、内部電極を構成する負極材料、及び、外部電極を構成する正極材料として、種々の材料が記載されている。特許文献1によれば、内部電極及び外部電極は、それぞれ負極材料及び正極材料の粉末、粉末を用いたスラリー、溶液を使用して作製されるか、あるいは、被覆を利用して薄膜状に作製されることが好ましいとされている。しかしながら、電池の可撓性(フレキシビリティ)を高くする点では改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、高い可撓性を有する糸電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の糸電池は、第1電極と、上記第1電極とは極性の異なる第2電極と、上記第1電極及び上記第2電極の間に介在する固体電解質とを備える、糸状の電池本体から構成される糸電池であって、上記第1電極及び上記第2電極の少なくとも一方の電極は、電極活物質粒子を含むセラミック粒子と導電性フィラーとが樹脂中に分散されたコンポジット材料からなり、かつ、該電極に占める上記樹脂の体積比率が25%以上である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い可撓性を有する糸電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の糸電池の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す糸電池のII-II線断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の糸電池を構成する第1電極の一例を模式的に示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の糸電池について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0011】
[糸電池]
図1は、本発明の糸電池の一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示す糸電池1は、長手方向(
図1中、両矢印Lで示す方向)に沿って延びる糸状の電池本体10から構成されている。
図1に示すように、電池本体10の外周面が絶縁膜20により覆われていてもよい。
【0012】
図2は、
図1に示す糸電池のII-II線断面図である。
図2に示すように、電池本体10は、第1電極11と、第1電極11とは極性の異なる第2電極12と、第1電極11及び第2電極12の間に介在する固体電解質13とを備えている。電池本体10は、さらに、第1電極11の集電体である第1集電体14と、第2電極12の集電体である第2集電体15とを備えていることが好ましい。
【0013】
図2に示す例では、糸状の第1集電体14の外周面に第1電極11が配置され、第1電極11の外周面に固体電解質13が配置され、固体電解質13の外周面に第2電極12が配置され、第2電極12の外周面に第2集電体15が配置され、第2集電体15の外周面に絶縁膜20が配置されている。
【0014】
第1電極11及び第2電極12のうちの一方が正極を構成し、他方が負極を構成する。すなわち、第1電極11が正極を構成し、第2電極12が負極を構成するか、又は、第1電極11が負極を構成し、第2電極12が正極を構成する。
【0015】
図3は、本発明の糸電池を構成する第1電極の一例を模式的に示す拡大断面図である。
図3に示すように、第1電極11は、セラミック粒子31と導電性フィラー32とが樹脂33中に分散されたコンポジット材料からなり、かつ、第1電極11に占める樹脂33の体積比率が25%以上である。セラミック粒子31は導電性フィラー32と接しており、導電性フィラー32が連通することにより、第1電極11の導電経路が形成されている。セラミック粒子31同士は、連通していることが好ましいが、連通していなくてもよい。
【0016】
図示はしないが、同様に、第2電極12は、セラミック粒子31と導電性フィラー32とが樹脂33中に分散されたコンポジット材料からなり、かつ、第2電極12に占める樹脂33の体積比率が25%以上である。セラミック粒子31は導電性フィラー32と接しており、導電性フィラー32が連通することにより、第2電極12の導電経路が形成されている。セラミック粒子31同士は、連通していることが好ましいが、連通していなくてもよい。
【0017】
このように、本発明の糸電池においては、電極に樹脂を含有させ、かつ、該電極に占める樹脂の体積比率を25%以上とすることにより、糸電池の可撓性を高くすることができる。一方、電極に占める樹脂の体積比率が増加するほどセラミック粒子の体積比率が減少するため、糸電池の蓄電容量は低下する。しかし、糸電池を長手方向に延ばして電池全体の体積を増やすことによって、電池全体での蓄電容量を確保することができる。
【0018】
以上より、本発明の糸電池は、可撓性を有している。
具体的には、本発明の糸電池は、曲率半径が50mmとなるまで変形させても破壊されない。すなわち、本発明の糸電池を内径100mmの環の内周面に沿って配置した際、糸電池は破壊されない。
【0019】
本発明の糸電池において、電池本体の直径に対する長さの比率(長さ/直径)は、5以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の糸電池において、電池本体の直径は、糸電池の可撓性を高くする観点から、1mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましく、0.3mm以下であることがさらに好ましい。一方、電池本体の直径は、0.005mm以上であることが好ましい。
なお、電池本体の直径は、無作為に選択した10箇所における糸電池の長手方向に垂直な断面から電池本体の直径を測定し、平均値をとることにより求めることができる。ただし、電池本体の断面形状が円形でない場合には、断面積から求められる面積相当円の直径を断面の直径とする。
【0021】
本発明の糸電池において、電池本体の長手方向の長さは、1mm以上であることが好ましい。
【0022】
本発明の糸電池において、電池本体は、長手方向に延びる糸状である限り、その形状は特に限定されない。電池本体の長手方向に垂直な断面形状は円形に限定されず、例えば、長円形、楕円形、矩形、多角形、角部が丸められた矩形等であってもよい。
【0023】
本発明の糸電池において、電池本体の構造は、
図1及び
図2に示したような、第1電極の外周面に固体電解質が配置され、固体電解質の外周面に第2電極が配置されている構造に限定されるものではなく、第1電極及び第2電極の間に固体電解質が介在する構造であればよい。
なお、第1電極及び第2電極の間に固体電解質が介在する構造とは、第1電極及び第2電極の間に固体電解質が挟まれている構造、すなわち、固体電解質を介して第1電極及び第2電極が対向している構造に限定されず、第1電極及び第2電極が互いに接することなく、それぞれが固体電解質と接触している構造を意味する。
【0024】
(電極)
本発明の糸電池においては、第1電極及び第2電極の少なくとも一方の電極が上記コンポジット材料からなり、かつ、該電極に占める樹脂の体積比率が25%以上である。好ましくは、第1電極及び第2電極の両方の電極が上記コンポジット材料からなり、かつ、該電極に占める樹脂の体積比率が25%以上である。この場合、第1電極に占める樹脂の体積比率は、第2電極に占める樹脂の体積比率と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0025】
なお、電極に占める樹脂の体積比率は、以下の方法により求められる。
糸電池の長手方向の略中央における断面を3か所で露出させ、断面の全形が入る範囲に視野と倍率を定めて電極を、夫々一点ずつ、計3点撮像する。得られた画像から、セラミック粒子が占める領域、導電性フィラーが占める領域、及び、樹脂が占める領域をSEMやEDX等の組成マッピング分析装置を用いて同定する。同定した各領域について、画像解析ソフト等を用い、2値化処理で面積を算出し、各領域の合計面積に対する樹脂が占める領域の面積の比率の平均を求め、各比率の3/2乗をとり、体積比率としたものを、電極に占める樹脂の体積比率とする。
ここでいう2値化処理は、SEMの電子撮像の信号強度比やEDXの同定元素の信号強度比を持って実行される。2値化の閾値については、信号強度比を横軸、信号強度比の頻度を縦軸にとった分布をとり、2項分布が得られた場合には2項分布のピーク間の信号強度比を、単一分布の場合には単一分布のピーク値の半分の値を、閾値とすることが望ましい。
【0026】
上記コンポジット材料からなる電極に占める樹脂の体積比率は、糸電池の可撓性を高くする観点から、30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。一方、糸電池の蓄電容量を確保する観点から、上記コンポジット材料からなる電極に占める樹脂の体積比率は、80%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。
【0027】
本発明の糸電池においては、第1電極及び第2電極のいずれか一方の電極が上記コンポジット材料からなり、かつ、該電極に占める樹脂の体積比率が25%以上であってもよい。この場合、他方の電極は、例えば、セラミック粒子と導電性フィラーとが樹脂中に分散されたコンポジット材料からなり、かつ、該電極に占める樹脂の体積比率が25%未満であってもよい。また、他方の電極は、上記コンポジット材料から構成されず、例えば、セラミック粒子の焼結体から構成されてもよい。他方の電極がセラミック粒子の焼結体から構成される場合、セラミック粒子は、電極活物質粒子を含み、さらに、固体電解質粒子及び導電性フィラーを含んでもよい。
【0028】
コンポジット材料を構成する樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよい。また、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を組み合わせてもよい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、液晶ポリマー樹脂、ポリフェニルサルファイド樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。熱硬化性樹脂には、必要に応じて、硬化剤が添加される。硬化剤の種類は任意であるが、例えば、ポリアミン、イミダゾール等が添加される。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ナイロン、ポリエステル等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0029】
上記コンポジット材料からなる電極に占めるセラミック粒子の体積比率は、糸電池の蓄電容量を確保する観点から、2%以上、75%以下であることが好ましい。
【0030】
コンポジット材料を構成するセラミック粒子は、電極活物質粒子を含む。電極活物質粒子は、正極を構成する場合には正極活物質粒子であり、負極を構成する場合には負極活物質粒子である。コンポジット材料を構成するセラミック粒子は、電極活物質粒子(すなわち、正極活物質粒子又は負極活物質粒子)に加えて、さらに、固体電解質粒子を含んでもよい。
【0031】
正極活物質粒子を構成する材料としては、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、リチウム含有層状酸化物、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等の酸化物が挙げられる。
好ましく用いられるナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の具体例としては、Li3V2(PO4)3等が挙げられる。好ましく用いられるオリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の具体例としては、LiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4等が挙げられる。好ましく用いられるリチウム含有層状酸化物の具体例としては、LiCoO2、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2等が挙げられる。好ましく用いられるスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の具体例としては、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
これらのなかでは、Li3V2(PO4)3が特に好ましい。
【0032】
負極活物質粒子を構成する材料としては、例えば、MOX(Mは、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、Nb、V及びMoからなる群より選ばれた少なくとも一種である。0.9≦X≦3.0)で表される化合物、LiYMOX(Mは、Ti、Si、Sn、Cr、Fe、Nb、V及びMoからなる群より選ばれた少なくとも一種である。0.9≦X≦3.0、2.0≦Y≦4.0)で表される化合物、黒鉛-リチウム化合物、リチウム合金、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等が挙げられる。MOXで表される化合物は、酸素の一部がPやSiで置換されていてもよいし、Liを含んでもよい。
好ましく用いられるリチウム合金の具体例としては、Li-Al等が挙げられる。好ましく用いられるナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の具体例としては、Li3V2(PO4)3、Li3Fe2(PO4)3等が挙げられる。好ましく用いられるスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の具体例としては、Li4Ti5O12等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
これらのなかでは、MOXで表される化合物、LiYMOXで表される化合物、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物等の酸化物であることが好ましく、Li3V2(PO4)3が特に好ましい。
【0033】
固体電解質粒子を構成する材料としては、例えば、後述する無機固体電解質粒子を構成する酸化物が挙げられる。
固体電解質粒子は、後述する無機固体電解質粒子と同じ酸化物からなることが好ましい。
電極が無機固体電解質粒子と同じ酸化物を含んでいると、該電極と固体電解質との接合が強固となる。
【0034】
上記コンポジット材料からなる電極に占める導電性フィラーの体積比率は、糸電池の蓄電容量を確保する観点から、2%以上、75%以下であることが好ましい。
【0035】
コンポジット材料を構成する導電性フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、銅粉、チタン粉、鉄粉、金粉、ニッケル粉、銀粉、コバルト粉、モリブデン粉、タングステン粉、白金粉、パラジウム粉、マンガン粉、バナジウム粉、亜鉛粉、クロム粉等が挙げられる。また、これらの材料から得られる導電性の合金粉でもよい。
これらのなかでは、カーボンブラックが特に好ましい。
【0036】
(固体電解質)
本発明の糸電池において、固体電解質は、高分子ゲル電解質であることが好ましい。
高分子ゲル電解質を用いて固体電解質を構成することにより、糸電池の可撓性をさらに高くすることができる。
【0037】
高分子ゲル電解質としては、例えば、担体としてホストポリマーを用い、無機固体電解質粒子を含有させたものが挙げられる。高分子ゲル電解質は、担体としてホストポリマーを用い、非水電解液を含有させたものであってもよい。
【0038】
ホストポリマーとしては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、ポリスチレンあるいはポリカーボネート等を挙げることができる。
【0039】
無機固体電解質粒子は、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物等の酸化物からなる。これらの酸化物は、1種のみでもよいし、複数種類でもよい。
好ましく用いられるナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物としては、LixMy(PO4)3(0.9≦x≦1.9、1.9≦y≦2.1、Mは、Ti、Ge、Al、Ga及びZrからなる群より選ばれた少なくとも一種)が挙げられる。なかでも、Li1.2Al0.2Ti1.8(PO4)3が好ましい。
【0040】
ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の好ましい組成としては、例えば、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3で示されるガラス化可能な組成[例えば、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3、Li1.2Al0.2Ge1.8(PO4)3等]、Li1+xAlxGe2-x-yTiy(PO4)3で示されるガラス化可能な組成[例えば、Li1.5Al0.5Ge1.0Ti0.5(PO4)3、Li1.2Al0.2Ge1.3Ti0.5(PO4)3等]、AlPO4、SiO2及びB2O3とからなる群より選択される少なくとも1種とLi1+xAlxGe2-x(PO4)3又はLi1+xAlxGe2-x-yTiy(PO4)3との混合物、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3とLi1+xAlxGe2-x-yTiy(PO4)3の混合物(固溶体ではない)、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3又はLi1+xAlxGe2-x-yTiy(PO4)3のLiの一部をNa、Co、Mn又はNiで置き換えたもの[例えば、Liの一部をNaで置き換えたLi1.1Na0.1Al0.2Ge1.3Ti0.5(PO4)3やLi1.4Na0.1Al0.5Ge1.0Ti0.5(PO4)3等]、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3又はLi1+xAlxGe2-x-yTiy(PO4)3のGeの一部をZr、Fe又はVで置き換えたもの[例えば、Geの一部をZrで置き換えたLi1.2Al0.2Ge1.7Zr0.1(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.0Ti0.4Zr0.1(PO4)3等]等が挙げられる。
【0041】
無機固体電解質粒子は、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物に加えて、さらに、ペロブスカイト型構造を有する酸化物、ガーネット型若しくはガーネット型類似構造を有する酸化物を含んでいてもよい。これらは1種のみでもよいし、複数種類でもよい。ペロブスカイト型構造を有する酸化物としては、例えばLa0.55Li0.35TiO3等が挙げられる。ガーネット型若しくはガーネット型類似構造を有する酸化物としては、例えばLi7La3Zr2O12等が挙げられる。
【0042】
本発明の糸電池において、固体電解質は、高分子ゲル電解質に限定されず、例えば、無機固体電解質であってもよい。すなわち、固体電解質は、上述した無機固体電解質粒子の焼結体により構成されていてもよい。
【0043】
本発明の糸電池においては、上記コンポジット材料からなる電極及び固体電解質が、いずれも酸化物を含むことが好ましく、第1電極、第2電極及び固体電解質が、いずれも酸化物を含むことがより好ましい。
特に、固体電解質が無機固体電解質粒子を含む場合、上記コンポジット材料からなる電極が、無機固体電解質粒子と同じ酸化物を含むことが好ましく、第1電極及び第2電極が、いずれも無機固体電解質粒子と同じ酸化物を含むことがより好ましい。具体的には、上記コンポジット材料からなる電極が、Li1.2Al0.2Ti1.8(PO4)3等のリチウム含有リン酸化合物を含むことが好ましく、第1電極及び第2電極が、いずれも上記リチウム含有リン酸化合物を含むことがより好ましい。
【0044】
本発明の糸電池において、第1電極、第2電極及び固体電解質は、硫化物及び硫化酸化物を実質的に含まないことが好ましい。
なお、硫化酸化物は、酸化物に含まれないものとする。
【0045】
(集電体)
本発明の糸電池において、第1集電体及び第2集電体は、電子伝導性があるものであれば、特に限定されない。第1集電体及び第2集電体は、例えば、炭素や電子伝導性の高い酸化物や複合酸化物、金属等により構成することができる。例えば、Pt、Au、Ag、Al、Cu、ステンレス、ITO(酸化インジウムスズ)等により構成することができる。
【0046】
例えば、第1電極が正極である場合、第1集電体は正極集電体となり、第2電極が負極である場合、第2集電体は負極集電体となる。
正極集電体を構成する材料としては、Ni又はAlが好ましい。一方、負極集電体を構成する材料としては、Cuが好ましい。
【0047】
(絶縁膜)
本発明の糸電池においては、電池本体の外周面の少なくとも一部が、絶縁性材料からなる絶縁膜により覆われていてもよい。
電池本体の外周面が絶縁膜により覆われていると、外部からの衝撃や振動等による電池本体の破損や短絡を防止することができる。
【0048】
絶縁膜を構成する絶縁性材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、絶縁性樹脂等が挙げられる。
ガラスとしては、例えば、石英ガラス(SiO2)や、SiO2、PbO、B2O3、MgO、ZnO、Bi2O3、Na2O及びAl2O3からなる群から選ばれる少なくとも2種以上を組み合わせた複合酸化物系ガラス等が挙げられる。
セラミックスとしては、例えば、アルミナ、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト等が挙げられる。
絶縁性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、熱可塑性ポリウレタン、テフロン(登録商標)等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等の熱硬化性樹脂、及び、光硬化性樹脂等が挙げられる。
【0049】
絶縁膜の厚さは特に限定されないが、0.0001mm以上、1mm以下であることが好ましい。
【0050】
[糸電池の製造方法]
以下、本発明の糸電池を製造する方法の一例として、
図1に示す糸電池1を製造する方法の一例について説明する。
【0051】
まず、糸状の第1集電体14を準備する。
例えば、第1集電体を構成する材料及び樹脂を分散混練した混練物を、乾式紡糸法、湿式紡糸法等の方法により紡糸し、糸状に加工する。得られた樹脂混練糸を脱脂、焼結してもよい。あるいは、糸状の第1集電体として、金属線を用いてもよい。
【0052】
第1集電体14の外周面を第1電極11により被覆する。
例えば、第1電極を構成するセラミック粒子及び樹脂を分散混練した混練物を、ディッピング法、コーティング法等の方法により第1集電体の外周面に塗布した後、乾燥させる。この際、糸コーティング装置を用いることができる。上述したコンポジット材料からなる第1電極により被覆する場合には、第1電極を構成するセラミック粒子及び樹脂に加えて、導電性フィラーを分散混練した混練物であって、該混練物に占める樹脂の体積比率が25%以上であるものを使用すればよい。
【0053】
第1電極11の外周面を固体電解質13により被覆する。
例えば、固体電解質として高分子ゲル電解質を用いる場合、ホストポリマーに無機固体電解質粒子を含有させたものを、ディッピング法、コーティング法等の方法により第1電極の外周面に塗布した後、乾燥させる。
【0054】
固体電解質13の外周面を第2電極12により被覆する。
例えば、第2電極を構成するセラミック粒子及び樹脂を分散混練した混練物を、ディッピング法、コーティング法等の方法により固体電解質の外周面に塗布した後、乾燥させる。上述したコンポジット材料からなる第2電極により被覆する場合には、第2電極を構成するセラミック粒子及び樹脂に加えて、導電性フィラーを分散混練した混練物であって、該混練物に占める樹脂の体積比率が25%以上であるものを使用すればよい。
【0055】
第2電極12の外周面を第2集電体15により被覆する。
例えば、第2集電体を構成する材料及び樹脂を分散混練した混練物を、ディッピング法、コーティング法等の方法により第2電極の外周面に塗布した後、乾燥させる。
【0056】
以上により、糸状の電池本体10が得られる。
【0057】
糸状の電池本体10の外周面には、必要に応じて、絶縁膜20を形成してもよい。
絶縁膜は、例えば、上述した絶縁性材料を用いて、ディッピング法、コーティング法等の方法により形成することができる。
【0058】
以上により、
図1に示す糸電池1を製造することができる。
【0059】
糸電池の構成、製造条件等に関し、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることにより、
図1に示す糸電池1と異なる構造を有する糸電池を製造することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 糸電池
10 電池本体
11 第1電極
12 第2電極
13 固体電解質
14 第1集電体
15 第2集電体
20 絶縁膜
31 セラミック粒子
32 導電性フィラー
33 樹脂