(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】弾性波装置
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
H03H9/25 C
(21)【出願番号】P 2020560064
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2019047903
(87)【国際公開番号】W WO2020121976
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2018233575
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】永友 翔
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/037145(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/061926(WO,A1)
【文献】特開2004-336503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に直接又は間接的に設けられている圧電体層と、
複数の電極指を含み、前記圧電体層の主面に設けられているIDT電極と、を備え、
前記圧電体層の厚さが、前記IDT電極の電極指周期で定まる弾性波の波長をλとした場合に1λ以下であり、
前記支持基板は、A面サファイア基板で
あり、
前記支持基板のオイラー角は(90°±5°,90°±5°,ψ)で定まる方位であってψが120°以上165°以下の範囲内である、又は前記支持基板のオイラー角が(90°±5°,90°±5°,ψ)であり、かつψが120°以上165°以下の範囲内で定まる方位に結晶学的に等価な方位である、
弾性波装置。
【請求項2】
支持基板と、
前記支持基板上に直接又は間接的に設けられている圧電体層と、
複数の電極指を含み、前記圧電体層の主面に設けられているIDT電極と、を備え、
前記圧電体層の厚さが、前記IDT電極の電極指周期で定まる弾性波の波長をλとした場合に1λ以下であり、
前記支持基板は、A面サファイア基板であり、
前記圧電体層は、タンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムで生成され、
前記圧電体層のオイラー角は、(90°±5°,90°±5°,40°±20°)の範囲で定まる方位、又は前記範囲内で定まるオイラー角と結晶学的に等価な方位である、
弾性波装置。
【請求項3】
前記圧電体層は、タンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムで生成され、
前記圧電体層のオイラー角は、(90°±5°,90°±5°,40°±20°)、(0°±5°,35°±20°,90°±20°)及び(0°±5°,85°±20°,90°±20°)のいずれかの範囲で定まる方位、又はいずれかの範囲内で定まるオイラー角と結晶学的に等価な方位である、
請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記支持基板のオイラー角は(90°±5°,90°±5°,ψ)で定まる方位であってψが120°以上165°以下の範囲内である、又は前記支持基板のオイラー角が(90°±5°,90°±5°,ψ)であり、かつψが120°以上165°以下の範囲内で定まる方位に結晶学的に等価な方位である、
請求項2に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記圧電体層を伝搬する弾性波は、縦波を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記支持基板と前記圧電体層との間に少なくとも1つの中間層を更に備える、
請求項1~5のいずれか一項に記載の弾性波装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つの中間層は、酸化ケイ素層を含む、
請求項6に記載の弾性波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に弾性波装置に関し、より詳細には弾性波を利用する弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、支持基板と、音速が相対的に高い高音速膜と、音速が相対的に低い低音速膜と、圧電膜と、IDT(Interdigital Transducer)電極と、を備える弾性波装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
高音速膜は支持基板上に積層され、低音速膜は高音速膜上に積層されている。圧電膜は、低音速膜上に積層されている。高音速膜と圧電膜との間に、低音速膜を配置することで、弾性波エネルギーの損失を低減し、Q値を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された弾性波装置で伝搬する弾性波の主成分が縦波である場合、支持基板の材料及び方位によっては、横波を主成分とする弾性波を伝搬する場合と比較して、弾性波エネルギーの損失が大きくなることがある。そのため、Q値が低くなる、言い換えると良好なインピーダンス特性が得られないという問題がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされ、弾性波が圧電体層を伝搬する際に良好なインピーダンス特性を得ることができる弾性波装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る弾性波装置は、支持基板と、圧電体層と、IDT電極と、を備える。前記圧電体層は、前記支持基板上に直接又は間接的に設けられている。前記IDT電極は、複数の電極指を含み、前記圧電体層の主面に設けられている。前記圧電体層の厚さが、前記IDT電極の電極指周期で定まる弾性波の波長をλとした場合に1λ以下である。前記支持基板は、A面サファイア基板である。前記支持基板のオイラー角は(90°±5°,90°±5°,ψ)で定まる方位であってψが120°以上165°以下の範囲内である、又は前記支持基板のオイラー角が(90°±5°,90°±5°,ψ)であり、かつψが120°以上165°以下の範囲内で定まる方位に結晶学的に等価な方位である。
本発明の一態様に係る弾性波装置は、支持基板と、圧電体層と、IDT電極と、を備える。前記圧電体層は、前記支持基板上に直接又は間接的に設けられている。前記IDT電極は、複数の電極指を含み、前記圧電体層の主面に設けられている。前記圧電体層の厚さが、前記IDT電極の電極指周期で定まる弾性波の波長をλとした場合に1λ以下である。前記支持基板は、A面サファイア基板である。前記圧電体層は、タンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムで生成されている。前記圧電体層のオイラー角は、(90°±5°,90°±5°,40°±20°)の範囲で定まる方位、又は前記範囲内で定まるオイラー角と結晶学的に等価な方位である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、伝搬する弾性波の主成分が縦波であっても良好なインピーダンス特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る弾性波装置の断面図である。
【
図2】
図2は、同上の弾性波装置のインピーダンス比と、ψとの関係を説明するグラフ図である。
【
図3】
図3は、同上の弾性波装置が備えるA面サファイア基板である支持基板のψを変化させた場合のバルク波音速を説明するグラフ図である。
【
図4】
図4は、R面サファイア基板を用いた場合のインピーダンス特性を説明するグラフ図である。
【
図5】
図5は、R面サファイア基板のψを変化させた場合のバルク波音速を説明するグラフ図である。
【
図6】
図6は、C面サファイア基板のψを変化させた場合のバルク波音速を説明するグラフ図である。
【
図7】
図7は、m面サファイア基板のψを変化させた場合のバルク波音速を説明するグラフ図である。
【
図8】
図8は、変形例1に係る弾性波装置の断面図である。
【
図9】
図9は、同上の弾性波装置のインピーダンス特性を説明するグラフ図である。
【
図10】
図10は、変形例2に係る弾性波装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に説明する実施形態及び変形例は、本発明の一例に過ぎず、本発明は、実施形態及び変形例に限定されない。以下の実施形態及び変形例以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0011】
(実施形態)
以下、本実施形態に係る弾性波装置について、
図1~
図7を用いて説明する。
【0012】
以下の実施形態等において参照する
図1、
図8及び
図10は、いずれも模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさや厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0013】
(1)弾性波装置の全体構成
実施形態に係る弾性波装置1は、例えば、弾性波として板波を利用する弾性波装置である。弾性波装置1は、
図1に示すように、支持基板2と、圧電体層3と、櫛歯型の電極であるIDT(IDT:Interdigital Transducer)電極4と、を備える。圧電体層3は、支持基板2上に形成されている。IDT電極4は、圧電体層3上に形成されている。
【0014】
(2)弾性波装置の各構成要素
次に、弾性波装置1の各構成要素について、図面を参照して説明する。
【0015】
(2.1)支持基板
支持基板2は、
図1に示すように、圧電体層3とIDT電極4との積層体を支持している。支持基板2は、その厚さ方向D1(以下、第1方向D1ともいう)において互いに反対側にある第1主面21及び第2主面22を有する。第1主面21及び第2主面22は、互いに背向する。支持基板2の平面視形状(支持基板2を厚さ方向D1から見たときの外周形状)は、長方形状であるが、長方形状に限らず、例えば正方形状であってもよい。
【0016】
支持基板2は、A面サファイア基板である。ここでA面サファイア基板とは第1主面21をサファイアのA面にしたサファイア基板を示す。サファイアの結晶構造は菱面体晶系であるが、六方晶で近似可能である。また、サファイアは、異方性材料である。A面サファイア基板は、面指数では(11-20)と表現され、オイラー角では(90°,90°,ψ)と表現される。なお、サファイアのオイラー角は、(90°±5,90°±5,ψ)であってもよい。
【0017】
本実施形態では、ψが120°以上165°以下の範囲内である。
【0018】
(2.2)圧電体層
圧電体層3は、例えば、XカットY伝搬LiNbO3(ニオブ酸リチウム)圧電単結晶から形成されている。XカットY伝搬LiNbO3圧電単結晶は、LiNbO3圧電単結晶の3つの結晶軸をX軸、Y軸、Z軸とした場合に、Y軸を中心軸としてX軸からZ軸方向に回転した軸を法線とする面で切断したLiNbO3単結晶であって、Y軸方向に弾性表面波が伝搬する単結晶である。本実施形態では、圧電体層3のオイラー角を(φ,θ,ψ)とする。なお、圧電体層3のオイラー角は、結晶学的に等価なオイラー角を含むものとする。LiNbO3は三方晶系の3m点群に属する結晶であるため、以下の式が成り立つ。
【0019】
F(θ,φ,ψ)=F(60°+θ,-φ,ψ)
=F(60°-θ,-φ,180°-ψ)
=F(θ,180°+φ,180°-ψ)
=F(φ,θ,180°+ψ)
なお、圧電体層3は、XカットY伝搬LiNbO3圧電単結晶に限定されず、例えば、XカットY伝搬LiNbO3圧電セラミックスであってもよい。
【0020】
圧電体層3は、支持基板2の第1主面21上に形成される。圧電体層3の厚さ(第1方向D1における長さ)は、IDT電極4の電極指周期で定まる弾性波の波長をλとしたときに、1λ以下である。これにより、弾性波装置1では、IDT電極4によって板波が励振され、板波が伝搬する。本実施形態の弾性波装置1では、例えば、弾性波の波長が1μmであり、圧電体層3の厚さが0.2μmである。圧電体層3の厚さを、1λ以下とすることで、Q値が高くなる。さらに、弾性波の音速の調整を容易にすることができる。
【0021】
本実施形態における圧電体層3のオイラー角は、(90°,90°,40°)である。つまり、本実施形態の圧電体層3は、Xカット40°Y伝搬LiNbO3圧電単結晶から形成されている。
【0022】
なお、圧電体層3では、一例としてオイラー角表示で(90°,90°,40°)となる方位を結晶方位としている。しかしながら、圧電体層3の結晶方位は、この限りでない。オイラー角(90°,90°,ψ)はXカット基板であり、Xカット基板上には縦波が優勢な弾性表面波が励振され、ψによって電気機械結合係数が変化する。そこで、圧電体層3の結晶方位は、所望の電気機械結合係数に合わせて任意に選択することができる。例えば、ψが40°±20°の範囲で、比較的大きな電気機械結合係数を得ることができる。同様に、φが90°±5°又はθが90°±5°の範囲であっても比較的大きな電気機械結合係数を得ることができる。つまり、圧電体層3のオイラー角は、(90°±5°,90°±5°,40°±20°)の範囲で定めてもよい。また、本実施形態では、縦波とは、音速が6000m/s以上7000m/s以下である弾性波である。
【0023】
弾性波装置1では、圧電体層3を伝搬する弾性波のモードとして、縦波、SH波、若しくはSV波、又はこれらが複合したモードが存在する。弾性波装置1では、縦波を主成分とするモードをメインモードとして使用している。圧電体層3を伝搬する弾性波のモードが「縦波を主成分とするモードをメインモード」であるか否かについては、例えば、圧電体層3のパラメータ(材料、オイラー角及び厚さ等)、IDT電極4のパラメータ(材料、厚さ及び電極指周期等)のパラメータを用いて、有限要素法により変位分布を解析し、ひずみを解析することにより、確認することができる。圧電体層3のオイラー角は、分析により求めることができる。
【0024】
なお、ここでいうメインモードとは、弾性波装置1が共振子である場合には、フィルタの通過帯域内に共振周波数及び反共振周波数の少なくとも一方が存在しており、かつ、共振周波数でのインピーダンスと反共振周波数でのインピーダンスとの差が一番大きい波のモードである。また、弾性波装置1がフィルタである場合には、フィルタの通過帯域を形成するために使用される波のモードである。
【0025】
(2.3)IDT電極
IDT電極4は、複数の電極指41と、2つのバスバー(図示せず)とを含み、圧電体層3の主面31に設けられている。複数の電極指41は、第1方向D1に直交する第2方向D2において互いに離隔して並んで設けられている。図示しない2つのバスバーは、第2方向D2を長手方向とする長尺状に形成されており、複数の電極指41と電気的に接続されている。より詳細には、複数の電極指41は、複数の第1電極指と、複数の第2電極指とを有する。複数の第1電極指は、2つのバスバーのうちの第1バスバーと電気的に接続されている。複数の第2電極指は、2つのバスバーのうちの第2バスバーと電気的に接続されている。
【0026】
第1電極指及び第2電極指の幅をW
A(
図1参照)とし、隣り合う第1電極指と第2電極指とのスペース幅をS
Aとした場合、IDT電極4において、デューティ比は、W
A/(W
A+S
A)で定義される。IDT電極4のデューティ比は、例えば、0.5である。IDT電極4の電極指周期で定まる弾性波の波長をλとしたとき、波長λは、電極指周期と等しい。IDT電極4の電極指周期は、複数の第1電極指及び複数の第2電極指の繰り返し周期で定義される。したがって、繰り返し周期と波長λとは等しい。IDT電極4のデューティ比は、電極指周期の2分の1の値(W
A+S
A)に対する第1電極指及び第2電極指の幅W
Aの比である。
【0027】
IDT電極4の材料は、例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、若しくはタングステン(W)、又はこれらの金属のいずれかを主体とする合金など適宜の金属材料である。また、IDT電極4は、これらの金属又は合金からなる複数の金属膜を積層した構造を有してもよい。本実施形態では、IDT電極4の材料は、銅である。また、IDT電極4の厚さ(第1方向D1における長さ)は、例えば50nmである。
【0028】
また、IDT電極4の少なくとも一部を覆うように保護膜や周波数調整膜が設けられてもよい。
【0029】
(3)弾性波装置の特性
図2は、弾性波装置1を1ポート共振子として用いた場合において、支持基板2のオイラー角の一要素であるψの角度を変化させたときのψとインピーダンス比との関係を示すグラフである。
【0030】
インピーダンス[dB]は、弾性波装置1のインピーダンスをZとした場合、20×log10|Z|で求められる値である。また、インピーダンス比は、数式“インピーダンス比=(20×log10|Z1|)-(20×log10|Z2|)”で求められる値である。ここにおいて、Z2は、弾性波装置1の共振周波数でのインピーダンスである。また、Z1は、弾性波装置1の反共振周波数でのインピーダンスである。
【0031】
インピーダンス比は、共振レスポンスの大きさの指標を表し、その値が大きいほど共振周波数でのインピーダンスが良好であるといえる。
図2で示すように、ψが120°以上165°以下である範囲内である場合はインピーダンス比が60[dB]を超える。そのため、ψが120°以上165°以下である範囲内では、共振周波数でのインピーダンスが良好である。
【0032】
図3は、A面サファイア基板(支持基板2)のψを変化させた場合のバルク波音速を示す。具体的には、位相速度とψとの関係を示す。縦波と横波のバルク波音速とは異なり、サファイアは異方性材料であるため、横波には速度の速いモード(速い横波)と速度が遅いモード(遅い横波)とが伝搬する。すなわち、A面サファイア基板を伝搬する弾性バルク波は、縦波、速い横波及び遅い横波を含む。これらの波の速度は、ψによって異なる。
【0033】
図3に示すように、縦波の音速は、ψの値に関わらず速度10000m/sを超える音速である。一方、速い横波及び遅い横波の各々の音速は、速度6000m/s付近の音速である。ここで、共振周波数でのインピーダンスが良好となるψの範囲(120°以上165°以下である範囲)では、速い横波及び遅い横波の双方とも6600m/s以上となり、A面サファイア基板でも特異的に音速が速くなる領域である。
【0034】
本実施形態では、縦波型の弾性波モードの共振周波数点の音速が約6000m/sで、反共新周波数点の音速は6600m/sよりも小さいので、A面サファイア基板の音速が、共振周波数点及び反共振点における音速よりも速い場合は、共振周波数と反共振周波数との間において、A面サファイア基板(支持基板2)側に弾性波エネルギーが漏洩せずに、圧電体層3近傍にエネルギーが集中した状態で弾性波が伝搬される。そのため良好なインピーダンス特性(インピーダンス比)が得られている。つまり、良好な弾性表面波の特性が得られる。
【0035】
なお、インピーダンスが良好となるψの範囲(120°以上165°以下である範囲)と結晶学的に等価である範囲(300°以上345°以下の範囲)においても速い横波及び遅い横波の双方とも6600m/s以上となる。そのため、ψが300°以上345°以下の範囲においても、良好なインピーダンス特性が得られる。その結果、圧電体層3近傍にエネルギーが集中した状態で弾性波が伝搬されるので、良好な弾性表面波の特性が得られる。
【0036】
ψが120°より小さい場合、165°より大きく300°より小さい場合、又は345°より大きい場合には、速い横波及び遅い横波のうち少なくとも一方の音速が6600[m/s]よりも小さい。そのため、反共振周波数近傍でA面サファイア基板(支持基板2)へのエネルギー漏洩が生じるために、良好なインピーダンス特性が得られない。
【0037】
(4)利点
以上説明したように、本実施形態では、弾性波装置1は、オイラー角が(90°,90°,40°)である圧電体層3と、オイラー角が(90°,90°、ψ)であるA面サファイア基板である支持基板2とを備える。ここで、ψは、120°以上165°以下である。ψが120°以上165°以下の範囲内の値である場合、
図2及び
図3で示すように、共振周波数での良好なインピーダンス特性が得られる。そのため、本実施形態の弾性波装置1は、支持基板2側に弾性波エネルギーが漏洩せずに、圧電体層3近傍にエネルギーが集中した状態で弾性波を伝搬することができる。その結果、良好な弾性表面波の特性が得られる。つまり、Q値を高めることができる。
【0038】
ところで、支持基板としてR面サファイア基板又はC面サファイア基板を利用することが考えられる。
【0039】
例えば、実施形態1で示す支持基板2の代わりに、オイラー角が(0°,122.23°,0°)であるR面サファイア基板(比較例の支持基板)を用いた場合でのインピーダンス特性を、
図4に示す。
図4に示すように、例えば周波数が5500MHz以上6500MHz以下において、インピーダンスの最大値と最小値との差分は大きくない。つまり、インピーダンス比は小さい。そのため、比較例の支持基板(R面サファイア基板)では、良好なインピーダンス特性を得ることができない。
【0040】
さらに、
図5に、R面サファイア基板(比較例の支持基板)のψを変化させた場合のバルク波音速、すなわち位相速度とψとの関係を示す。R面サファイア基板を用いた場合、オイラー角(0°,122.23°,ψ)においてψの値に関わらず、遅い横波の音速は6000m/s付近である。すなわち、遅い横波の音速は共振周波数点の音速に近いため、バルク放射によって良好なインピーダンス特性が得られない。
【0041】
また、
図6に、C面サファイア基板のψを変化させた場合のバルク波音速、すなわち位相速度とψとの関係を示す。C面サファイア基板を用いた場合、ψの値に関わらず、R面サファイア基板と同様に、遅い横波の音速は6000m/s付近である。すなわち、遅い横波の音速は共振周波数点の音速に近いため、C面サファイア基板を用いた場合においても、バルク放射によって良好なインピーダンス特性が得られない。
【0042】
さらに、支持基板としてm面サファイア基板を用いることも考えられる。
図7に、m面サファイア基板のψを変化させた場合のバルク波音速、すなわち位相速度とψとの関係を示す。m面サファイア基板を支持基板とした場合、ψの値に関わらず、R面サファイア基板及びC面サファイア基板と同様に、遅い横波の音速は6000m/s付近である。すなわち、遅い横波の音速は共振周波数点の音速に近いため、m面サファイア基板を用いた場合においても、バルク放射によって良好なインピーダンス特性が得られない。
【0043】
したがって、C面サファイア基板、R面サファイア基板及びm面サファイア基板では弾性波を伝搬する際には基板側に弾性波エネルギーが漏洩してしまうが、A面サファイア基板を支持基板2として用いることで、支持基板2側に弾性波エネルギーを漏洩することなく弾性波を伝搬することができる。
【0044】
また、実施形態に係る弾性波装置1では、IDT電極4の電極指周期で定まる弾性波の波長をλとしたときに、圧電体層3の厚さが、1λ以下である。これにより、実施形態に係る弾性波装置1では、板波を励振することができる。
【0045】
また、実施形態に係る弾性波装置1では、弾性波が板波である。これにより、実施形態に係る弾性波装置1では、板波を利用する弾性波装置として使用することが可能となる。
【0046】
上記の実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。上記の実施形態は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0047】
(5)変形例
以下に、変形例について列記する。なお、以下に説明する変形例は、上記実施形態と適宜組み合わせて適用可能である。
【0048】
(5.1)変形例1
本実施形態の変形例1として、
図8に示すように、弾性波装置1Aは、実施形態の弾性波装置1と比較して、中間層5を更に備える構成であってもよい。
【0049】
中間層5は、例えば、酸化ケイ素層であり、支持基板2と圧電体層3との間に設けられる。言い換えると、中間層5は支持基板2の第1主面21上に積層され、中間層5上に圧電体層3が積層される。中間層5の厚さは、例えば50nmである。中間層5を設けることで、弾性波装置1Aにおける周波数温度特性を改善することができる。なお、中間層5を生成する材料は、酸化ケイ素の他、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等であってもよい。
【0050】
図9は、弾性波装置1Aを1ポート共振子として用いた場合において、支持基板2のオイラー角の一要素であるψの角度を変化させたときのインピーダンス特性を示す。本変形例では、ψとして、105°、120°、140°、165°、及び180°を適用した場合のインピーダンス特性を、
図9に示す。
【0051】
上述したように、インピーダンス比は、数式“インピーダンス比=(20×log10|Z1|)-(20×log10|Z2|)”で求められる値である。Z2は、弾性波装置1の共振周波数でのインピーダンスであり、インピーダンス特性の極大値に相当する。また、Z1は、弾性波装置1の反共振周波数でのインピーダンスであり、インピーダンス特性の極大値に相当する。
【0052】
図9では、ψが105°及び180°である場合には、インピーダンス比は約53dBである。ψが120°である場合にはインピーダンス比は約80dBであり、ψが140°である場合にはインピーダンス比は約83dBであり、ψが165°である場合にはインピーダンス比は約85dBである。つまり、ψが120°以上165°以下の範囲内である場合には、インピーダンス比として80dB付近の値が得られる。したがって、ψが120°以上165°以下である範囲内では、良好なインピーダンス特性が得られる。つまり、良好な弾性表面波の特性が得られる。
【0053】
ここで、支持基板2はA面サファイアからなるため、高音速基板として機能する。中間層5は、酸化ケイ素層であるため、低音速膜として機能する。高音速基板では、圧電体層3を伝搬する弾性波の音速よりも、高音速基板を伝搬するバルク波の音速が高速である。低音速膜では、圧電体層3を伝搬するバルク波の音速よりも、低音速膜を伝搬するバルク波の音速が低速である。
【0054】
したがって、弾性波装置1Aの支持基板2は、弾性表面波を圧電体層3及び中間層5(低音速膜)が積層されている部分に閉じ込め、弾性表面波が支持基板2より下の構造に漏れないように機能する。
【0055】
なお、中間層5としての低音速膜を構成する材料としては圧電体層3を伝搬するバルク波よりも低音速膜のバルク波音速を有する適宜の材料を用いることができる。例えば、酸化ケイ素、ガラス、酸窒化ケイ素、酸化タンタル、又は酸化ケイ素にフッ素や炭素やホウ素を加えた化合物等、これらの材料を主成分とした媒質を用いてもよい。
【0056】
また、圧電体層3と支持基板2との間に設けられる中間層5は、1つの層に限定されない。圧電体層3と支持基板2との間には、複数の中間層5が設けられてもよい。要は、圧電体層3と支持基板2との間に少なくとも1つの中間層5が設けられてもよいし、上記実施形態のように中間層5は設けられなくてもよい。つまり、圧電体層3は、支持基板2上に直接又は間接的に設けられていればよい。
【0057】
(5.2)変形例2
圧電体層3と支持基板2との間に、少なくとも1つの高音響インピーダンス層と、少なくとも1つの低音響インピーダンス層とをそれぞれ中間層として設けてもよい。ここで、高音響インピーダンス層は、低音響インピーダンス層よりも音響インピーダンスが高い層である。例えば、
図10に示すように、圧電体層3と支持基板2との間に、3つの高音響インピーダンス層51と、3つの低音響インピーダンス層52とを設けてもよい。
【0058】
以下では、説明の便宜上、3つの高音響インピーダンス層51を、支持基板2の第1主面21に近い順に、第1高音響インピーダンス層511、第2高音響インピーダンス層512,第3高音響インピーダンス層513と称することもある。また、3つの低音響インピーダンス層52を、支持基板2の第1主面21に近い順に、第1低音響インピーダンス層521、第2低音響インピーダンス層522、第3低音響インピーダンス層523と称することもある。
【0059】
弾性波装置1Bでは、支持基板2側から、第1高音響インピーダンス層511、第1低音響インピーダンス層521、第2高音響インピーダンス層512、第2低音響インピーダンス層522、第3高音響インピーダンス層513及び第3低音響インピーダンス層523が、この順に並んでいる。したがって、弾性波装置1Bでは、第3低音響インピーダンス層523と第3高音響インピーダンス層513との界面、第2低音響インピーダンス層522と第2高音響インピーダンス層512との界面、第1低音響インピーダンス層521と第1高音響インピーダンス層511との界面のそれぞれにおいて、圧電体層3からの弾性波(板波)を反射することが可能である。
【0060】
複数の高音響インピーダンス層51の材料は、例えば、Pt(白金)である。また、複数の低音響インピーダンス層52の材料は、例えば、酸化ケイ素である。弾性波装置1Bは、3つの高音響インピーダンス層51の各々がPtにより形成されているので、3つの導電層を含んでいる。
【0061】
複数の高音響インピーダンス層51の材料は、Pt(白金)に限らず、例えば、W(タングステン)、Ta(タンタル)等の金属でもよい。また、弾性波装置1Bは、高音響インピーダンス層51が導電層である例に限らず、低音響インピーダンス層52が導電層であってもよい。
【0062】
また、複数の高音響インピーダンス層51は、互いに同じ材料である場合に限らず、例えば、互いに異なる材料であってもよい。また、複数の低音響インピーダンス層52は、互いに同じ材料である場合に限らず、例えば、互いに異なる材料であってもよい。
【0063】
また、高音響インピーダンス層51及び低音響インピーダンス層52それぞれの数は、2つ又は4つ以上であってもよい。また、高音響インピーダンス層51の数と低音響インピーダンス層52の数とは異なってもよい。また、弾性波装置1Bは、少なくとも1つの高音響インピーダンス層51と少なくとも1つの低音響インピーダンス層52とが支持基板2の厚さ方向D1において重複していればよい。
【0064】
圧電体層3と支持基板2との間に、少なくとも1つの高音響インピーダンス層51と、少なくとも1つの低音響インピーダンス層52とを設けた場合であっても、支持基板2のオイラー角の一要素であるψが120°以上165°以下である範囲内では、良好なインピーダンス特性が得られる。つまり、良好な弾性表面波の特性が得られる。
【0065】
(5.3)変形例3
上記実施形態では、圧電体層3のオイラー角は、(90°±5°,90°±5°,40°±20°)の範囲内で定まる方位であるとしたが、これに限定されない。圧電体層3のオイラー角は、縦波が優勢な弾性表面波として励振される方位であればよい。例えば、圧電体層3において縦波が優勢な弾性表面波として励振される方位として、(90°±5°,90°±5°,40°±20°)の範囲内で定まる方位の他、(0°±5°,35°±20°,90°±20°)の範囲内で定まる方位及び(0°±5°,85°±20°,90°±20°)の範囲内で定まる方位がある。
【0066】
または、圧電体層3のオイラー角は、(90°±5°,90°±5°,40°±20°)、(0°±5°,35°±20°,90°±20°)のいずれかの範囲内で定まるオイラー角と結晶学的に等価な方位としてもよい。
【0067】
(5.4)変形例4
圧電体層3の材料は、LiNbO3に限定されない。例えば、圧電体層3の材料は、LiTaO3(タンタル酸リチウム)であってもよい。つまり、圧電体層3がYカットX伝搬LiNbO3圧電単結晶又は圧電セラミックスであってもよい。例えば、オイラー角が(0°,130°,0°)であるLiNbO3で生成された圧電体層では、SH波が優勢な弾性波が励振される結晶方位であるが、SH波は縦波よりも音速が遅い。そのため、A面サファイア(支持基板2)のオイラー角の一要素であるψを120°以上165°以下の範囲内とすることで、良好なインピーダンス特性が得られる。つまり、良好な弾性表面波の特性が得られる。
【0068】
圧電体層3の単結晶材料、カット角については、例えば、フィルタの要求仕様(通過特性、減衰特性、温度特性及び帯域幅等のフィルタ特性)等に応じて、適宜、決定すればよい。
【0069】
(5.5)変形例5
上記実施形態では、弾性波装置1を1ポート共振子とした場合について説明した。しかしながら、弾性波装置1の適用は1ポート共振子に限定されない。
【0070】
弾性波装置1は、複数ポートの共振子としてもよい。また、弾性波装置1は、複数の共振子を組み合わせて、フィルタ、デュプレクサ及びマルチプレクサとしてもよい。
【0071】
(まとめ)
以上説明したように、第1の態様の弾性波装置(1;1A;1B)は、支持基板(2)と、圧電体層(3)と、IDT電極(4)と、を備える。圧電体層(3)は、支持基板(2)上に直接又は間接的に設けられている。IDT電極(4)は、複数の電極指(41)を含み、圧電体層(3)の主面(31)に設けられている。圧電体層(3)の厚さが、IDT電極(4)の電極指周期で定まる弾性波の波長をλとした場合に1λ以下である。支持基板(2)は、A面サファイア基板である。
【0072】
この構成によると、支持基板(2)としてA面サファイア基板を用いるので、伝搬する弾性波の主成分が縦波であっても良好なインピーダンス特性をえることができる。そのため、縦波が圧電体層(3)を伝搬する際のエネルギー損失を低減することができる。
【0073】
第2の態様の弾性波装置(1;1A;1B)では、第1の態様において、圧電体層(3)は、タンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムで生成される。圧電体層(3)のオイラー角は、(90°±5°,90°±5°,40°±20°)、(0°±5°,35°±20°,90°±20°)及び(0°±5°,85°±20°,90°±20°)のいずれかの範囲で定まる方位、又はいずれかの範囲内で定まるオイラー角と結晶学的に等価な方位である。
【0074】
この構成によると、伝搬する弾性波の主成分を縦波とすることができる。
【0075】
第3の態様の弾性波装置(1;1A;1B)では、第1又は第2の態様において、圧電体層(3)を伝搬する弾性波は、縦波を含む。
【0076】
この構成によると、伝搬する縦波のエネルギー損失を低減することができる。
【0077】
第4の態様の弾性波装置(1;1A;1B)では、第1~第3のいずれかの態様において、支持基板(2)のオイラー角は(90°±5°,90°±5°,ψ)で定まる方位であってψが120°以上165°以下の範囲内である。または、支持基板(2)のオイラー角は(90°±5°,90°±5°,ψ)であり、かつψが120°以上165°以下の範囲内で定まる方位に結晶学的に等価な方位である。
【0078】
この構成によると、伝搬する弾性波の主成分が縦波であっても良好なインピーダンス特性をえることができる。
【0079】
第5の態様の弾性波装置(1A;1B)では、第1~第4のいずれかの態様において、支持基板(2)と圧電体層(3)との間に少なくとも1つの中間層(5;51;52)を更に備える。
【0080】
この構成によると、中間層(5;51;52)を更に備えた場合であっても良好なインピーダンス特性をえることができる。
【0081】
第6の態様の弾性波装置(1A;1B)では、第5の態様において、上記少なくとも1つの中間層(5;51;52)は、酸化ケイ素層(5;52)を含む。
【0082】
この構成によると、温度特性を改善しつつ、伝搬する弾性波の主成分が縦波であっても良好なインピーダンス特性をえることができる。
【符号の説明】
【0083】
1 弾性波装置
2 支持基板
3 圧電体層
4 IDT電極
5 中間層
21 第1主面
22 第2主面
31 主面
41 電極指
51 高音響インピーダンス層(中間層)
52 低音響インピーダンス層(中間層)
511 第1高音響インピーダンス層(中間層)
512 第2高音響インピーダンス層(中間層)
513 第3高音響インピーダンス層(中間層)
521 第1低音響インピーダンス層(中間層)
522 第2低音響インピーダンス層(中間層)
523 第3低音響インピーダンス層(中間層)
D1 第1方向(厚さ方向)
D2 第2方向