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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ターボ分子ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
F04D19/04 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021053172
(22)【出願日】2021-03-26
(62)【分割の表示】P 2017183291の分割
【原出願日】2017-09-25
(65)【公開番号】P2021095915
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100102037
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100149962
【弁理士】
【氏名又は名称】阿久津 好二
(74)【代理人】
【識別番号】100170988
【弁理士】
【氏名又は名称】妹尾 明展
(74)【代理人】
【識別番号】100189566
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 雅之
(72)【発明者】
【氏名】久野 智司
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-059459(JP,A)
【文献】特表2003-506630(JP,A)
【文献】特開2016-017454(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10354204(DE,A1)
【文献】特開2014-141964(JP,A)
【文献】国際公開第2009/153874(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口から気体を吸気し、排気口から気体を排気するターボ分子ポンプにおいて、
内周側リブと外周側リブと複数のブレードとを有する固定翼と、
ロータモータで回転駆動される複数の回転翼と、
前記固定翼の外周側リブを上下から挟むことにより、前記各回転翼の間に前記固定翼を位置決めし、固定する複数の環状スペーサとを備え、
前記吸気口に隣接する気体流路に面する第1環状スペーサの内径は、前記排気口に隣接する気体流路に面する第2環状スペーサの内径より大径であり、
前記複数の回転翼は、上流側の第1回転翼と下流側の第2回転翼とを含み、前記第2回転翼の外径は前記第1回転翼の外径より小径であり、
前記第2環状スペーサの内周面の上流側には、気体流路下流に向かって内径が小径になっていくように下り勾配を有する傾斜面が設けられ
前記傾斜面の傾斜の終点が前記第2環状スペーサの下面と一致する、ターボ分子ポンプ。
【請求項2】
吸気口から気体を吸気し、排気口から気体を排気するターボ分子ポンプにおいて、
内周側リブと外周側リブと複数のブレードとを有する固定翼と、
ロータモータで回転駆動される複数の回転翼と、
前記固定翼の外周側リブを上下から挟むことにより、前記各回転翼の間に前記固定翼を位置決めし、固定する複数の環状スペーサとを備え、
前記吸気口に隣接する気体流路に面する第1環状スペーサの内径は、前記排気口に隣接する気体流路に面する第2環状スペーサの内径より大径であり、
前記複数の回転翼は、上流側の第1回転翼と下流側の第2回転翼とを含み、前記第2回転翼の外径は前記第1回転翼の外径より小径であり、
前記第2環状スペーサの内周面の上流側には、気体流路下流に向かって内径が小径になっていくように下り勾配を有する傾斜面が設けられ、
前記傾斜面の傾斜の始点が前記第2環状スペーサの上面と一致し、前記傾斜面の傾斜の終点が前記第2環状スペーサの下面と一致する、ターボ分子ポンプ。
【請求項3】
吸気口から気体を吸気し、排気口から気体を排気するターボ分子ポンプにおいて、
内周側リブと外周側リブと複数のブレードとを有する固定翼と、
ロータモータで回転駆動される複数の回転翼と、
前記固定翼の外周側リブを上下から挟むことにより、前記各回転翼の間に前記固定翼を位置決めし、固定する複数の環状スペーサとを備え、
前記吸気口に隣接する気体流路に面する第1環状スペーサの内径は、前記排気口に隣接する気体流路に面する第2環状スペーサの内径より大径であり、
前記複数の回転翼は、上流側の第1回転翼と下流側の第2回転翼とを含み、前記第2回転翼の外径は前記第1回転翼の外径より小径であり、
前記第2環状スペーサの内周面の上流側には、気体流路下流に向かって内径が小径になっていくように下り勾配を有する傾斜面が設けられ、
前記傾斜面の直線状の傾斜の傾斜角度が多段階に変化している、ターボ分子ポンプ。
【請求項4】
吸気口から気体を吸気し、排気口から気体を排気するターボ分子ポンプにおいて、
内周側リブと外周側リブと複数のブレードとを有する固定翼と、
ロータモータで回転駆動される複数の回転翼と、
前記固定翼の外周側リブを上下から挟むことにより、前記各回転翼の間に前記固定翼を位置決めし、固定する複数の環状スペーサとを備え、
前記吸気口に隣接する気体流路に面する第1環状スペーサの内径は、前記排気口に隣接する気体流路に面する第2環状スペーサの内径より大径であり、
前記複数の回転翼は、上流側の第1回転翼と下流側の第2回転翼とを含み、前記第2回転翼の外径は前記第1回転翼の外径より小径であり、
前記第2環状スペーサの内周面の上流側には、気体流路下流に向かって内径が小径になっていくように下り勾配を有する傾斜面が設けられ、
前記傾斜面が凹曲線によって構成されている、ターボ分子ポンプ。
【請求項5】
吸気口から気体を吸気し、排気口から気体を排気するターボ分子ポンプにおいて、
内周側リブと外周側リブと複数のブレードとを有する固定翼と、
ロータモータで回転駆動される複数の回転翼と、
前記固定翼の外周側リブを上下から挟むことにより、前記各回転翼の間に前記固定翼を位置決めし、固定する複数の環状スペーサとを備え、
前記吸気口に隣接する気体流路に面する第1環状スペーサの内径は、前記排気口に隣接する気体流路に面する第2環状スペーサの内径より大径であり、
前記複数の回転翼は、上流側の第1回転翼と下流側の第2回転翼とを含み、前記第2回転翼の外径は前記第1回転翼の外径より小径であり、
前記第2環状スペーサの内周面の上流側には、気体流路下流に向かって内径が小径になっていくように下り勾配を有する傾斜面が設けられ、
前記傾斜面が多段の階段状によって構成されている、ターボ分子ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ分子ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボポンプ部とネジ溝ポンプ部とを備えるターボ分子ポンプが知られている(特許文献1参照)。ターボ分子ポンプは、吸気口から流入した気体分子をタービン翼段から成るターボポンプ部によってネジ溝ポンプ部へ送り、より低真空側で排気機能を発揮するネジ溝ポンプ部によって気体分子を圧縮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-95315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、ネジ溝ポンプ部の吸気側開口領域は、ターボポンプ部の排気側開口領域に比べて小さく構成されている場合が多い。このような構造においては、ターボポンプ部によって排気された気体分子を、ネジ溝ポンプ部へスムーズに流入させることが要請される。気体分子の流入がスムーズに行われないと、例えば、反応生成物が堆積しやすいガスを排気する場合において、ターボポンプ部に反応生成物が堆積しやすくなるからである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の好ましい態様によるターボ分子ポンプは、複数の環状スペーサによって支持される複数の固定翼およびロータモータで回転駆動される複数の回転翼を有し、吸気口から気体を吸気し、排気口から気体を排気するターボ分子ポンプにおいて、前記吸気口に隣接する気体流路に面する第1環状スペーサの内径は、前記排気口に隣接する気体流路に面する第2環状スペーサの内径より大径であり、前記第2環状スペーサの内周面の上流側には、気体流路下流に向かって下り勾配を有する傾斜面が設けられる。
さらに好ましい態様では、前記複数の回転翼は、上流側の第1回転翼と下流側の第2回転翼とを含み、前記第2回転翼の外径は前記第1回転翼の外径より小径であり、前記傾斜面は、前記第2回転翼の先端に対向する。
さらに好ましい態様では、前記第2環状スペーサの前記傾斜面と前記第2回転翼は、気流方向において、前記第2回転翼の最上位位置が前記傾斜面に対向する相対位置関係となるように配置される。
さらに好ましい態様では、前記第2回転翼と前記第2環状スペーサとは、前記第2回転翼の気流方向における領域が前記第2環状スペーサの前記傾斜面の全ての領内に収まるように対向して配置される。
さらに好ましい態様では、前記複数の回転翼と複数の固定翼とで構成されるターボポンプ部の下流側にはネジ溝ポンプ部が設けられ、前記第2環状スペーサは、前記ターボポンプ部から前記ネジ溝ポンプ部へ気体が導入される導入流路の入口部に設けられる。
さらに好ましい態様では、前記ネジ溝ポンプ部は、前記ロータモータで駆動力が伝達されるロータシャフトの下流側に設けられるロータ円筒部と、前記ロータ円筒部と径方向に隙間を介して対向するとともに取り付け用のフランジを有するステータとを有し、前記ロータ円筒部および前記ステータのいずれか一方にネジ溝が形成され、前記導入流路に面する前記フランジの吸気口側の面には、気流下流側に下がり勾配の傾斜面が設けられる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によるターボ分子ポンプでは、気体分子をスムーズに排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施の形態によるターボ分子ポンプの概略構成を説明する断面図である。
図2】固定翼段を構成する一つの固定翼を説明する斜視図である。
図3図1の破線で囲む領域の近傍を拡大した図である。
図4図3のスペーサの形状を説明する図である。
図5図3のスペーサの形状を説明する図である。
図6図6(a)はスペーサの面をロータシャフトに対して垂直にした場合を説明する図であり、図6(b)はスペーサの面をロータシャフトに対して傾斜させた場合を説明する図である。
図7図7(a)は上流に位置するスペーサの断面を例示する図である。図7(b)はスペーサの面をロータシャフトに対して垂直にしたスペーサの断面を例示する図であり、図6(a)に対応する。図7(c)はスペーサの面を下流に向かって傾斜させたスペーサの断面を例示する図であり、図6(b)に対応する。
図8】変形例1を説明する図である。
図9】変形例2を説明する図である。
図10】変形例3を説明する図である。
図11】変形例4を説明する図である。
図12】変形例5を説明する図である。
図13図13(a)および図13(b)は、変形例6を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態によるターボ分子ポンプの概略構成を説明する断面図である。ターボ分子ポンプは、図1に示すポンプ本体1と、ポンプ本体1を駆動する不図示の制御装置とにより構成される。
なお、図1には磁気浮上式のターボ分子ポンプを例示するが、本発明は、磁気浮上式のターボ分子ポンプに限定されない。例えば、油潤滑式の軸受装置を備えるものであってもよい。
【0009】
ターボ分子ポンプは、ポンプケーシング23内の上流側にターボポンプ部TPを、下流側にネジ溝ポンプ部SPを備えている。図2図3も参照して上流側のターボポンプ部TPから説明する。
(ターボポンプ部TP)
図1において、ポンプ本体1は、ロータ10と、ロータ10を回転駆動するロータモータ34とを備える。ロータ10は、ポンプケーシング23内の上流側から下流側に延在するロータシャフト11と、ロータシャフト11の方向(回転軸の方向)に並設される複数の回転翼120と、ロータシャフト11の下流側に形成されたロータ円筒部13とを有する。また、ロータシャフト11の方向に並設されている複数の回転翼120に対応して積層されるように、複数の固定翼210が配置されている。複数の固定翼210は、それぞれスペーサ29を介してロータシャフト11の方向に積層されている。図2から図4を参照して後で詳細に説明するが、固定翼210はそれぞれ一対の半割れ環状部材で構成され、スペーサ29は環状に形成されている。ベース20の上に環状のスペーサ29を1段積層し、その上面に一対の固定翼210を回転翼120の間にそれぞれ挿し込んで位置決めする。1段目の固定翼210の上面に2段目のスペーサ29を積層し、その上面に固定翼210を積層する。このような積層工程を繰り返し行うことにより、複数の回転翼120の段と、複数の固定翼210の段との翼段構造を有するタービン翼部が構成される。これらの複数の回転翼120と複数の固定翼210よるタービン翼部によりターボポンプ部TPが構成される。
【0010】
上述したように、ターボポンプ部TPの下流側にはネジ溝ポンプ部SP(ドラッグポンプ部とも称される)が設けられている。以下、ネジ溝ポンプ部SPを説明する。
(ネジ溝ポンプ部SP)
ロータ円筒部13の外周側には、円筒形状のステータ22が微少隙間を介して配置される。ステータ22は、そのフランジ部220(図3)がベース20にボルト(不図示)で固定されている。ロータ円筒部13の外周面またはステータ22の内周面のいずれか一方にはネジ溝が形成されている。これらのロータ円筒部13およびステータ22によりネジ溝ポンプ部SPが構成される。図1に示す例では、ステータ22の内周面にネジ溝22gが形成されている。
ターボポンプ部TPにより排気された気体分子は、ネジ溝ポンプ部SPによりさらに圧縮され、ベース20の排気管26に接続された不図示のバックポンプにより排気される。
【0011】
ロータ10は、ロータシャフト11に固定されている。ロータシャフト11は、ラジアル磁気軸受32およびアキシャル磁気軸受33により支持され、ロータモータ34によって回転駆動される。非動作時などにラジアル磁気軸受32およびアキシャル磁気軸受33が機能しない場合、ロータシャフト11はメカニカルベアリング35a、35bによって支持される。ラジアル磁気軸受32、アキシャル磁気軸受33、ロータモータ34およびメカニカルベアリング35bは、ベース20に固定されるハウジング30に収納される。
【0012】
図2は、上述した一対の半割れ部材からなる固定翼210を説明する斜視図である。固定翼210は、例えば、複数のブレード213を有する円環形状の部材を半割りして形成される。すなわち、半割状の一対の固定翼210a、210bを用いて、一段の固定翼210が構成される。
【0013】
固定翼210(210a、210b)には、内周側リブ211と外周側リブ212とが設けられている。複数のブレード213は、内周側リブ211と外周側リブ212との間に形成される。各ブレード213には、所定の翼角度が付されている。
固定翼210は、外周側リブ212を環状スペーサ29(図1)によって上下から挟むことにより、ベース20上において各回転翼120の間に位置決めされ、固定される。なお、図示を省略するが、回転翼120(図1)にも、それぞれ所定の翼角度でタービン翼が形成されている。
【0014】
図3および図4を参照して、固定翼210の支持構造を説明する。図3は、図1の破線Aで囲む領域の近傍を拡大した図である。図4は、図3の環状スペーサ29の形状を説明する図であり、環状スペーサ29を半割りして示す図である。図4に示すように、環状スペーサ29の上側に凸部291が、環状スペーサ29の下側に凹部292が、それぞれ形成されている。凸部291および凹部292は、複数の環状スペーサ29を上下に重ねたときに上側の環状スペーサ29の凹部292に下側の環状スペーサ29aの凸部291aが嵌合するように形成されている。また、複数の環状スペーサ29を上下に重ねた場合に上側の環状スペーサ29と下側の環状スペーサ29aとの間に形成される空隙Gに、固定翼210(図2)の外周側リブ212が挟持されるように構成される。このような構成により、複数の固定翼210が、環状スペーサ29によって上下から挟持されて積層される。
なお、図4では、下側の環状スペーサ29aについて、その断面形状をハッチングで示している。
【0015】
図3において、矢印を付した曲線Rは、排気される気体の流れをイメージしたものである。ターボポンプ部TPにより排気された気体分子は、ターボポンプ部TPとネジ溝ポンプ部SPとの間に形成された流路200に入り、さらに、その流路200からネジ溝部22gに流入する。
【0016】
図3の例では、ネジ溝ポンプ部SPの吸気側開口領域は、ターボポンプ部TPの排気側開口領域に比べて小さく構成される。そこで、ターボポンプ部TPにより排気された気体分子をネジ溝ポンプ部SPへスムーズに流入させるため、ターボポンプ部TPの上流(図1の上側)に比べてターボポンプ部TPの下流(図1の下側)の排気側開口を狭く構成する。具体的には、ターボポンプ部TPの下流の固定翼210Xおよび回転翼120Xにおけるタービン翼部の領域を狭くする。
なお、図3ではタービン翼部の領域を斜線で示す。
【0017】
例えば、ターボポンプ部TPの下流の固定翼210Xにおいて、図2の内周側リブ211の径を変えずに外周側リブ212の径を短くする。これによって、ターボポンプ部TPの上流の固定翼210に比べて固定翼210Xのブレード213の径方向の長さが短くなるので、タービン翼部の領域を狭くすることができる。また、ターボポンプ部TPの下流の回転翼120Xにおいて、ターボポンプ部TPの上流の回転翼120に比べてタービン翼の径方向の長さ(翼部径)を短くする。これによって、タービン翼部の領域を狭くすることができる。以上のように固定翼210Xおよび回転翼120Xにおけるタービン翼部を径方向に狭くすると、図1のターボポンプ部TPの下流側の開口を上流側の開口よりも狭くすることができる。これにより、ネジ溝ポンプ部SPへ気体分子をスムーズに流入させ得る。
【0018】
本実施の形態ではさらに、図3に示すように、タービン翼部を径方向に狭くした固定翼210Xおよび回転翼120Xに対応する位置の環状スペーサ29Xの気体分子に接する面29Yを、ロータシャフト11の方向(すなわち排気方向)に向かって下り勾配となるように構成する。図5は、図3の環状スペーサ29Xの形状を説明する図であり、環状スペーサ29Xを半割りして示す図である。図5に示すように、環状スペーサ29Xの上側に凸部291が、環状スペーサ29Xの下側に凹部292Xが、それぞれ形成されている。凸部291は、環状スペーサ29Xの上に環状スペーサ29を重ねたときにその環状スペーサ29の凹部292に嵌合するように形成されている。また、凹部292Xは、ベース20と嵌合させるために形成されている。本例の凹部292Xは、環状スペーサ29の凹部292よりも大きい。
なお、図5では、上側の環状スペーサ29について、その断面形状をハッチングで示している。
【0019】
図3によれば、環状スペーサ29Xは下流側に固定翼210Xを支持し、環状スペーサ29Xの面29Yは回転翼120Xの先端(図3において左端)に対向する。
【0020】
ところで、ターボポンプ部TPから排気される気体の圧力は、排気する気体の流量にも依存するが、分子流、粘性流、それらの中間、いずれにも成り得る。分子流領域においては、気体分子同士の衝突よりも気体分子と壁面との衝突が支配的になり、壁面と衝突した気体分子の散乱方向の分布は余弦則(cosine law)に従うものと考えられている。そのため、ターボポンプ部TPから下流のネジ溝ポンプ部SPへ向かう気体分子は、単純に図3の曲線Rのように流れる訳ではない。
【0021】
図6は、下流に向かう気体分子に接する環状スペーサ29Xの面29Yの形状と気体分子の散乱方向との関係を説明する図である。図6(a)は、環状スペーサ29Xの面29Yをロータシャフト11に対して垂直にした場合を説明する図である。面29Yに接するように記載した直径1の円(三次元的には球)は、気体分子が散乱角θ方向に散乱される確率を示す。すなわち、面29Yの点Pに入射した気体分子が散乱角θ方向に散乱される確率は、点Pから散乱角θ方向に延ばした弦の長さcosθに比例する。図6(b)は、環状スペーサ29Xの面29Yをロータシャフト11に対して傾斜させた場合を説明する図であり、本実施の形態に対応する。図6(b)に示すように、傾斜した面29Yの法線nに関して、図6(a)の場合と同様に散乱が生じる。
【0022】
本実施の形態では、図6に示すような散乱確率を考慮し、気体分子に接する環状スペーサ29Xの面29Yを、下流に向かって下り勾配となるように構成した。これにより、図6(b)のように、環状スペーサ29Xの面29Yの法線(矢印nで示す)の向きがロータシャフト11側に傾く。
【0023】
図7を参照して気体分子に接する環状スペーサ29Xの面29Yを下流に向かって下り勾配にしたことによるメリットを説明する。
図7(a)は、図3において環状スペーサ29Xより上流に位置する環状スペーサ29の断面を示す図である。図7(b)は、面29Yをロータシャフト11に対して垂直にした場合の環状スペーサ29Xの断面を例示する図であり、図6(a)に対応する。図7(c)は、面29Yを下流に向かって下り勾配にした本実施の形態による環状スペーサ29Xの断面を例示する図であり、図6(b)に対応する。
【0024】
ターボポンプ部TPの上流側に位置する、図7(a)の環状スペーサ29を通り抜けた気体は、上流側よりも開口が狭い下流側へ進む。このとき、図7(b)のように環状スペーサ29Xの面29Yがロータシャフト11に対して垂直であると、上流から流入した気体分子の大半は下流側へ進むが、気体分子の一部は、気体分子の流れに対向する環状スペーサ29Xの面29Yに入射する。そして、面29Yに入射した気体分子は、上述した余弦則に基づいて散乱される。例えば、図7(b)に示すように、面29Yで散乱された気体分子が上流へ逆流する確率が高くなる。この場合には、逆流する気体分子の多くはターボポンプ部TPに滞留する時間が長くなるものと推測される。一般に、気体分子の滞留時間が長くなるほどターボポンプ部TP内の圧力が高くなるので、反応生成物が堆積し易くなる。
【0025】
一方、図7(c)に示す本実施の形態では、環状スペーサ29Xの面29Yの法線nが図6(b)と同様にロータシャフト11方向に傾くように対して傾いている。すなわち、面29Yを下流方向に下り勾配としたので、下流に向かって散乱される気体分子の割合が図7(b)に示す場合と比べて大きくなる。そのため、面29Yで散乱された気体分子が上流へ逆流する確率が低くなり、ターボポンプ部TPに滞留する気体分子の滞留時間が短くなる。これにより、ターボポンプ部TP内の圧力上昇が抑制されて環状スペーサ29X等に反応生成物が堆積するのを抑制することができる。
【0026】
上述した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)実施形態によるターボ分子ポンプは、複数の環状スペーサ29によって支持される複数の固定翼210およびロータモータ34で回転駆動される複数の回転翼120を有し、吸気口から気体を吸気し、排気口から気体を排気する。このターボ分子ポンプは、吸気口に隣接する気体流路に面する箇所に設けられる環状スペーサ(第1環状スペーサと呼ぶ)29の内径は、排気口側の気体流路に面する箇所に設けられた環状スペーサ(第2環状スペーサと呼ぶ)29Xの内径より大径である。第2環状スペーサ29Xの内周面の上流側には、気体流路の下流に向かって下り勾配を有する傾斜面29Yが設けられている。
実施形態によるターボ分子ポンプのターボポンプ部TPの気体流路の径は吸気口に比べて排気口側が小径とされ、気体分子が第2環状スペーサ29Xに衝突してターボポンプTPに逆流するとも考えられる。しかしながら、実施形態の第2環状スペーサ29Xの内周面には傾斜面29Yが形成されているので、傾斜面29Yに衝突して散乱された気体分子が上流へ逆流する確率が低くなり、ターボポンプ部TPに滞留する気体分子の滞留時間が短くなる。これにより、環状スペーサ29X等に反応生成物が堆積するのを抑制することができる。
【0027】
(2)上記(1)のターボ分子ポンプの複数の回転翼120は、上流側の回転翼(第1回転翼と呼ぶ)120と下流側の回転翼120X(第2回転翼と呼ぶ)とを含み、第2回転翼120Xの外径は第1回転翼120の外径より小径であり、第2環状スペーサ29Xの内周面である傾斜面29Yは、第2回転翼120Xの先端に対向する。このように構成したことにより、吸気口に比べて小径である排気口側に気体分子をスムーズに流入させることができる。よって、環状スペーサ29X等に反応生成物が堆積するのを抑制することができる。
【0028】
(3)上記(2)のターボ分子ポンプの第2環状スペーサ29Xの傾斜面29Yと第2回転翼120Xは、気流方向において、第2回転翼120Xの最上位位置が傾斜面29Yに対向する相対位置関係となるように配置される。このように構成したことにより、吸気口に比べて小径である排気口側に気体分子をスムーズに流入させることができる。よって、環状スペーサ29X等に反応生成物が堆積するのを抑制することができる。
【0029】
(4)上記(2)、(3)のターボ分子ポンプの第2回転翼120Xと第2環状スペーサ29Xとは、第2回転翼120Xの気流方向における領域が第2環状スペーサ29Xの傾斜面29Yの全ての領内に収まるように対向して配置される。このように構成したことにより、吸気口に比べて小径である排気口側に気体分子をスムーズに流入させることができる。よって、環状スペーサ29X等に反応生成物が堆積するのを抑制することができる。
【0030】
(5)上記ターボ分子ポンプの複数の回転翼120と複数の固定翼210とで構成されるターボポンプ部TPの下流側にはネジ溝ポンプ部SPが設けられ、第2環状スペーサ29Xは、ターボポンプ部TPからネジ溝ポンプ部SPへ気体が導入される導入流路の入口部に設けられる。このように構成したことにより、ターボポンプ部TPの排気側開口領域に比べて小さく構成されるネジ溝ポンプ部SPの吸気側開口領域に対し、気体分子をスムーズに流入させることができる。よって、ネジ溝ポンプ部SPの吸気側開口領域に反応生成物が堆積するのを抑制することができる。
【0031】
(6)上記(5)のターボ分子ポンプのネジ溝ポンプ部SPは、ロータモータ34で駆動力が伝達されるロータシャフト11の下流側に設けられるロータ円筒部13と、ロータ円筒部13と径方向に隙間を介して対向するとともに取り付け用のフランジ部220を有するステータ22とを有し、ステータ22の内周面にネジ溝22gが形成され、導入流路に面するフランジ部220の吸気口側の面には、気流下流側に下がり勾配の傾斜面22Yが設けられている。このように構成したことにより、ネジ溝ポンプ部SPの吸気側開口領域に対し、気体分子をスムーズに流入させることができる。よって、フランジ部220の吸気口側の傾斜面22Yに反応生成物が堆積するのを抑制することができる。
【0032】
次のような変形も本発明の範囲内であり、変形例の一つ、もしくは複数を上述の実施形態と組み合わせることも可能である。
【0033】
(変形例1)
上述した説明では、環状スペーサ29Xの面29Yが下流に向かって下り勾配を有する例として、環状スペーサ29Xの断面における面29Yの傾斜が直線で表される形状としたが、面29Yの傾斜形状は、図5図7に例示した形状に限られるものではない。
例えば、図7(c)において、面29Yの直線状の傾斜の始点Qから終点Rまでのロータシャフト11の方向の距離d1は、環状スペーサ29Xの上面293と下面294との間の距離d2よりも短い。上述した実施の形態の変形例1として、d2>d1の関係を保ちつつ、面29Yの傾斜の始点Qを環状スペーサ29Xの上面293に近づけたり、面29Yの傾斜の終点Rを環状スペーサ29Xの下面294に近づけたりしてもよい。
【0034】
図8は、上述した実施の形態の環状スペーサ29Xを変形例1による環状スペーサ29X1に置換した上で、図3の破線Bで囲む領域の近傍を拡大した図である。図8の例では、面29Yの傾斜の終点Rが環状スペーサ29X1の下面294と一致する。
【0035】
変形例1によれば、上記実施形態と同様に、環状スペーサ29X1等に反応生成物が堆積するのを抑制することができる。
【0036】
(変形例2)
図7(c)において、面29Yの直線状の傾斜の始点Qから終点Rまでのロータシャフト11の方向の距離d1と、環状スペーサ29Xの上面293と下面294との間の距離d2とを等しくしてもよい。図9は、上述した実施の形態の環状スペーサ29Xを変形例2による環状スペーサ29X2に置換した上で、図3の破線Bで囲む領域の近傍を拡大した図である。図9の例では、面29Yの傾斜の始点Qが環状スペーサ29X2の上面293と一致し、終点Rが環状スペーサ29X2の下面294と一致する。
【0037】
変形例2によれば、上記実施形態と同様に、環状スペーサ29X2等に反応生成物が堆積するのを抑制することができる。
【0038】
(変形例3)
面29Yの直線状の傾斜の傾斜角度を、多段階に変化させてもよい。図10は、上述した実施の形態の環状スペーサ29Xを変形例3による環状スペーサ29X3に置換した上で、図3の破線Bで囲む領域の近傍を拡大した図である。図10の例では、面29Yの傾斜の始点Qから終点Rまでの間で、傾斜角度を2段階に変化させる。
なお、傾斜角度を変化させる場合の変化点は、始点Qと終点Rの中央でなくてもよい。また、傾斜角度を2段階に限らず、3段階や5段階に変化させてもよい。
【0039】
変形例3によれば、上記実施形態と同様に、環状スペーサ29X3等に反応生成物が堆積するのを抑制することができる。
【0040】
(変形例4)
面29Yの傾斜を、直線状から曲線状に変更してもよい。図11は、上述した実施の形態の環状スペーサ29Xを変形例4による環状スペーサ29X4に置換した上で、図3の破線Bで囲む領域の近傍を拡大した図である。図11の例では、面29Yの傾斜の始点Qから終点Rまでの間を、凹曲線によって構成する。
【0041】
変形例4によれば、上記実施形態と同様に、環状スペーサ29X4等に反応生成物が堆積するのを抑制することができる。
【0042】
(変形例5)
面29Yの傾斜を、平面でなく微小な多段構造によって構成してもよい。図12は、上述した実施の形態の環状スペーサ29Xを変形例5による環状スペーサ29X5に置換した上で、図3の破線Bで囲む領域の近傍を拡大した図である。図12の例では、面29Yの傾斜の始点Qから終点Rまでの間を、微小な階段状に構成する。
【0043】
変形例5によれば、上記実施形態と同様に、環状スペーサ29X5等に反応生成物が堆積するのを抑制することができる。
【0044】
(変形例6)
上記実施の形態(図3)および各変形例において、面29Yの傾斜の始点Qから終点Rまでのロータシャフト11の方向の距離d1は、回転翼120Xのタービン翼部のロータシャフト11方向の厚さTrよりも長くした。
しかしながら、面29Yの傾斜の始点Qから終点Rまでのロータシャフト11の方向の距離d1を、回転翼120Xのタービン翼部のロータシャフト11方向の厚さTrよりも短くしてもよい。この場合には、少なくとも、面29Yの傾斜の始点Qのロータシャフト11の方向の位置を、回転翼120Xの上面の位置F1と等しい、または上流側にする。図13(a)、図13(b)は、上述した実施の形態の環状スペーサ29Xを変形例6による環状スペーサ29X6に置換した上で、図3の破線Bで囲む領域の近傍を拡大した図である。
【0045】
変形例6によれば、上記実施形態と同様に、環状スペーサ29X6等に反応生成物が堆積するのを抑制することができる。
【0046】
以上の説明では、ターボ分子ポンプ部TPとネジ溝ポンプ部SPとを備えるターボ分子ポンプを例に説明したが、本発明は、ターボ分子ポンプ部TPのみでネジ溝ポンプ部SPを有していないターボ分子ポンプに適用してもよい。
【0047】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1…ポンプ本体
10…ロータ
11…ロータシャフト
13…ロータ円筒部
20…ベース
22…ステータ
22g…ネジ溝部
22Y…傾斜面
29、29X、29X1~29X6…環状スペーサ
29Y…傾斜面
34…ロータモータ
120、120X…回転翼
210、210X…固定翼
220…フランジ部
SP…ネジ溝ポンプ部
TP…ターボポンプ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図13