(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】内燃機関のEGR装置
(51)【国際特許分類】
F02M 26/22 20160101AFI20220614BHJP
F02M 26/20 20160101ALI20220614BHJP
F02M 26/41 20160101ALI20220614BHJP
F02F 1/36 20060101ALI20220614BHJP
F01P 3/02 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
F02M26/22
F02M26/20
F02M26/41 311
F02F1/36 C
F01P3/02 G
(21)【出願番号】P 2021063693
(22)【出願日】2021-04-02
(62)【分割の表示】P 2017098613の分割
【原出願日】2017-05-18
【審査請求日】2021-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】特許業務法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩一
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-075535(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0027390(US,A1)
【文献】特開平07-259653(JP,A)
【文献】特開2018-003612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 3/02
F02B 47/08-47/10
F02F 1/36
F02M 26/00-26/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気ガスが排出される排気ポート部と、前記排気ポート部から排出される排気ガスの一部をEGRガスとしてエンジン吸気側に還流させるEGR通路と、前記EGR通路内を流れるEGRガスの流量を調整する制御バルブとを備え、
前記制御バルブはエンジンの外部で前記エンジン吸気側に配置され、
前記EGR通路は、前記排気ポート部からシリンダヘッド内を通り、前記エンジンの外部を経て前記エンジン吸気側に延びており、
前記シリンダヘッドには前記排気ポート部の周囲に冷却通路が設けられており、前記排気ポート部の上側を冷却するポート上側冷却通路は、前記排気ポート部とEGR通路の2つの通路の上方に位置し、
前記排気ポート部の側方にカムチェーン室が設けられ、
前記ポート上側冷却通路は前記EGR通路の側方でエンジン上下方向に延びる冷却通路を有し、エンジン上下方向に延びる冷却通路は前記EGR通路と前記カムチェーン室の間に配置され、
前記排気ポート部は二股に分岐されており、
前記ポート上側冷却通路は前記排気ポート部の二股の間でエンジン上下方向に延びる冷却通路を有し、
前記EGR通路は、2つのエンジン上下方向に延びる冷却通路に挟まれていることを特徴とする内燃機関のEGR装置。
【請求項2】
前記排気ポート部のエンジン後部に吸気ポート部が設けられ、
前記ポート上側冷却通路は、平面視で前記排気ポート部と前記吸気ポート部との間で前記排気ポート部と前記吸気ポート部とに重なるように配置され、
前記EGR通路は排気ポート部から斜め後ろに向いて前記エンジン吸気側に延びている請求項1に記載の内燃機関のEGR装置。
【請求項3】
シリンダブロックには燃焼室の周囲を囲む燃焼室周囲の冷却通路が設けられており、
前記燃焼室周囲の冷却通路は前記EGR通路の下方に配置され、平面視で前記EGR通路は前記燃焼室周囲の冷却通路と重なっている請求項1に記載の内燃機関のEGR装置。
【請求項4】
前記排気ポート部の周囲に設けられた冷却通路は、前記排気ポート部の下側を冷却する
ポート下側冷却通路を有し、
前記EGR通路は前記排気ポート部を挟んで前記ポート下側冷却通路とは反対側に設けられる請求項1または
3に記載の内燃機関のEGR装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGR通路をシリンダヘッド内の冷却通路に隣接して配置し、EGR通路の冷却効率を向上させ、車両の小型・軽量化を図った内燃機関のEGR装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのノッキング限界向上やデトネーション防止を図るために、燃焼室外部から燃焼後の排気ガスの一部を取り込み、再度エンジン吸気側に供給し、燃焼温度を低下させる外部EGR(Exhaust Gas Recirculation:排気ガス再循環)装置という技術がある。
【0003】
外部EGR装置は、エンジン排気通路とその吸気通路とをEGR配管で繋げたり、EGRガス流量を調整する制御バルブが必要であったり、EGR装置として大きな配置スペースが必要になってくる。
【0004】
外部EGR装置を自動二輪車に採用すると、車両の大型化や重量増加を招き、組付性の低下を招く虞があった。EGR配管が複雑になると、流路抵抗が大きくなり、排気ガスの再循環性のスムーズさが失われてしまう。
【0005】
また、外部EGR装置では、EGRガスの充填効率低下を防ぐために、高温の排気ガスを冷却する必要があり、排気ガスを冷却する外部EGRクーラが備えられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の発明では、燃焼後の排気ガスの一部をEGRガスとして機関本体側に循環させるEGR循環系に、排気ガスを冷却する(外部)EGRクーラが設けられ、このEGRクーラで排気ガスを冷却して、EGRガスの充填効率低下を防止している。
【0008】
しかし、EGRクーラは大型部品であり、EGRクーラをEGR循環系に設けることで、車両の大型化を招いてしまう。
【0009】
また、外部EGRクーラがエンジン振動によって破損しないように、浮動支持構造で保持する必要があり、冷却のために配設場所上の制約が大きく、部品配置スペース上の制約が大きい自動二輪車では、外部EGRクーラを採用することが容易でなく、困難であった。
【0010】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、EGR通路とシリンダヘッド内の冷却通路との隣接範囲を拡大し、排気ガスを効率的に冷却することができる内燃機関のEGR装置を提供することを目的とする。
【0011】
本発明の他の目的は、EGR通路の冷却効率を向上させてEGRガスを効率的に冷却させ(クーラの小型化または廃止させ)ることが可能で、車両の小型・軽量化を図ることができる内燃機関のEGR装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述した課題を解決するために、エンジンの排気ガスが排出される排気ポート部と、前記排気ポート部から排出される排気ガスの一部をEGRガスとしてエンジン吸気側に還流させるEGR通路と、前記EGR通路内を流れるEGRガスの流量を調整する制御バルブとを備え、前記制御バルブはエンジンの外部で前記エンジン吸気側に配置され、前記EGR通路は、前記排気ポート部からシリンダヘッド内を通り、前記エンジンの外部を経て前記エンジン吸気側に延びており、前記シリンダヘッドには前記排気ポート部の周囲に冷却通路が設けられており、前記排気ポート部の上側を冷却するポート上側冷却通路は、前記排気ポート部とEGR通路の2つの通路の上方に位置し、前記排気ポート部の側方にカムチェーン室が設けられ、前記ポート上側冷却通路は前記EGR通路の側方でエンジン上下方向に延びる冷却通路を有し、エンジン上下方向に延びる冷却通路は前記EGR通路と前記カムチェーン室の間に配置され、前記排気ポート部は二股に分岐されており、前記ポート上側冷却通路は前記排気ポート部の二股の間でエンジン上下方向に延びる冷却通路を有し、前記EGR通路は、2つのエンジン上下方向に延びる冷却通路に挟まれていることを特徴とする内燃機関のEGR装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る内燃機関のEGR装置は、EGR通路とシリンダヘッド内の冷却通路内の冷却通路とが隣接する範囲が増え、排気ガスを効率的に冷却することができ(EGRクーラの小型化あるいは廃止することができ)るので、車両の小型・軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】EGR装置を備えた内燃機関(エンジン)をオイルクーラとともに示す正面図。
【
図3】エンジンのシリンダアッセンブリが備えられたオイルの冷却通路構造を排気ポート側から目視した斜視図。
【
図4】本発明の内燃機関のEGR装置を簡略化したもので、
図3に示すシリンダアッセンブリのオイルの冷却通路構造を示す平面図。
【
図5】本発明に係る内燃機関のEGR装置の一実施形態を示すシリンダアッセンブリの右側面図。
【
図6】
図5に示す内燃機関のEGR装置を、シリンダアッセンブリのエンジン吸気側から見た図。
【
図7】
図5に示す内燃機関のEGR装置を、シリンダアッセンブリのエンジン左後方から見た斜視図。
【
図8】
図5に示す内燃機関のEGR装置を、シリンダアッセンブリのエンジン右後方から見た斜視図。
【
図9】
図5のA-A線に沿う平断面で、EGR通路のEGR噴射通路側の一部を部分平断面で示す平断面図。
【
図10】
図6のB-B線に沿う縦断面を示すエンジン右後方から見たシリンダアッセンブリの縦断面を示す斜視図。
【
図11】
図6のC-C断面を示すもので、エンジン左後方から見たシリンダアッセンブリの縦断面を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1および
図2は、自動二輪車の車体フレーム(不図示)に搭載される内燃機関としてのエンジン10を示すものである。エンジン10は4サイクル単気筒エンジンであり、クランクケース11とクランクケース11の前部上面にやや前傾姿勢で結合されたシリンダアッセンブリ12とを有する。シリンダアッセンブリ12は、シリンダブロック13と、シリンダヘッド14と、ヘッドカバー15とが順次積層されて一体的に組み立てられる。シリンダヘッド14の後部にはエンジン吸気系(不図示)を構成するキャブレタ(またはスロットルボディ)およびエアクリーナ等が順次接続される。シリンダヘッド14の前部に、エンジン排気系(不図示)が接続される。
【0017】
クランクケース11は、左側半体11Aと右側半体11Bとが結合面11Cで結合されて一体化され、左側半体11Aにマグネットカバー17が、右側半体11Bにクラッチカバー18がそれぞれ設けられる。クランクケース11はクランク室内に
図2に示すクランクシャフト19が回転自在に収容される。
【0018】
また、クランクケース11内には、クランク室に隣接してミッション室20が設けられる。このミッション室20内にカウンタシャフトやドライブシャフト(共に不図示)を備え、トランスミッション21が収容される。クランクケース11の下部に、エンジンオイルを貯溜するオイルパン22が設けられる。
【0019】
クランクケース11内には、貯溜されたエンジンオイルを吐出させるオイルポンプ23が収容される。オイルポンプ23は、クランクシャフト19に回転一体の補機ドライブギア(不図示)により駆動される機械式オイルポンプである。オイルポンプ23の出力はクランクシャフト19の回転数に依存し、クランクシャフト19の回転数が高くなるほど多量のエンジンオイルが吐出される。
【0020】
オイルポンプ23の稼動により、オイルパン22内のエンジンオイルは直接またはオイルストレーナにより異物が除去された後、オイルポンプ23から吐き出され、オイルフィルタ24に流入して、エンジンオイル中の異物が除去される。
【0021】
オイルフィルタ24にて異物が除去されたエンジンオイルは、エンジン10の各潤滑部、例えばクランク室内のクランクシャフト19、シリンダブロック13のシリンダ室内を摺動するピストン25、ミッション室20のトランスミッション21等に供給され、これらクランクシャフト19、ピストン25、トランスミッション21等の各摺動部を潤滑している。
【0022】
ところで、エンジン10はエンジンオイルを用いてエンジン10の各潤滑部を潤滑し、かつ冷却するためのオイル通路構造30を有する。オイル通路構造30は、クランクケース側オイル通路31と、シリンダ側オイル通路32とシリンダヘッド側オイル通路33とを備えて構成される。
【0023】
クランクケース側オイル通路31は、クランクケース11に設けられたオイル通路であり、クランクケース11およびシリンダブロック13内の各潤滑部へエンジンオイルを供給して潤滑している。また、シリンダ側オイル通路32は、シリンダブロック13内にエンジンオイルを流動させるオイル通路であり、特に燃焼室35の周囲をエンジンオイルにより冷却している。
【0024】
さらに、シリンダヘッド側オイル通路33は、シリンダ側オイル通路32に連通してシリンダヘッド14内にエンジンオイルを流動させるオイル通路である。このエンジンオイルにより動弁機構(不図示)を潤滑し、冷却するとともに、排気ポート36の周囲や燃焼室35の上方部位、点火プラグ差込周辺部、吸気ポート37の下方部位を主に冷却している。
【0025】
エンジン10のオイル通路構造30では、オイルポンプ23から吐出され、オイルフィルタ24からクランクケース側オイル通路31およびシリンダ側オイル通路32を経たエンジンオイルは、外部の流入側オイルホース38を通ってオイルクーラ39に送られて冷却される。オイルクーラ39は、自動二輪車の走行風に晒され易い位置、例えばエンジン10の左側斜め前上方に配置される。オイルクーラ39は、流入したエンジンオイルが冷却ファン(不図示)による冷却風や自動二輪車の走行風と熱交換して積極的に冷却される。
【0026】
自動二輪車のオイル通路構造30では、オイルクーラ39で冷却されたエンジンオイルは、流出側オイルホース40を経てシリンダヘッド側オイル通路33やシリンダ側オイル通路32に案内され、シリンダヘッド14およびシリンダブロック13内の各冷却通路を冷却している。
【0027】
具体的には、オイルクーラ39で冷却されたエンジンオイルは、
図3および
図4に示すように、シリンダヘッド側オイル通路33に導かれる。シリンダヘッド14内では、排気ポート部周囲の冷却通路43(例えば、ポート上側冷却通路44およびポート下側冷却通路45)、シリンダプロック13内の燃焼室35周囲の冷却通路46、さらにシリンダヘッド14に戻って吸気ポート37下部の冷却通路47および点火プラグ差込部41の冷却通路48に順次案内され、各冷却通路をそれぞれ冷却している。排気ポート部周囲の冷却通路43や燃焼室35周囲の冷却通路46等を通って冷却したエンジンオイルは、シリンダブロック13側のオイル還流通路50からクランクケース11側オイル還流通路(不図示)を通って下降し、クランクケース11底部のオイルパン22内に戻されて貯溜される。
【0028】
また、自動二輪車に搭載されるエンジン10は、例えば、
図1および
図2に示すように単気筒の4バルブエンジンであり、車両前方側がエンジン排気側で車両後方側がエンジン吸気側に構成される。エンジン10には、
図2ないし
図4に示すように、シリンダアッセンブリ12のエンジン吸気側に外部EGR装置55が備えられる。外部EGR装置55は、
図2および
図5ないし
図8に示すように、シリンダアッセンブリ12のシリンダヘッド14後方のエンジン外部に、浮動支持装置56により制御バルブ57が浮動支持される。
【0029】
浮動支持装置56は、
図5ないし
図8に示すように、シリンダヘッド14の後部右側に設けられた取付ブラケット58にサポートロッド59が溶接等で固定される。サポートロッド59は取付ブラケット58から斜め後上方に延設され、例えば左右一対のサポートロッド59に制御バルブ57が、ゴムクッション等の弾性体60を介して安定的に弾性保持される。制御バルブ57は、シリンダアッセンブリ12より後方右側直後に離間して浮動支持状態で安定的に保持される。
【0030】
また、外部EGR装置55は、
図4および
図9に示すように、シリンダヘッド14内の排気ポート部である右側排気通路部36aから排気ガスの一部をシリンダヘッド14斜め後方の制御バルブ57の流入側に案内するEGR(Exhaust Gas Recirculation)通路63を有する。EGR通路63は、シリンダヘッド14内をその後方あるいは斜め後方側に延びるEGR排気通路64と、シリンダヘッド14後方の制御バルブ57に連通する排気側連結通路65とを備える。
【0031】
シリンダヘッド14内のEGR排気通路64は、
図3および
図4に示すように、(排気ポート36に至る左右の排気通路のうち)右側排気通路部(排気ポート部)36aの後部または側部に連通している。EGR排気通路64は、
図4および
図9に示すように、右側排気通路部(排気ポート部)36aから排気ポート36の方向に延びるのではなく、シリンダヘッド14内を後方あるいは斜め後方側に延び、さらに、シリンダヘッド14内の(左右の吸気通路の一方の)右側吸気通路部(吸気ポート部)37aと右端側のカムチェーン室71との間を通って後方に延び、シリンダヘッド14の右側後方から突出している。なお、エンジン吸気系の左右の吸気通路部(吸気ポート部)37aは
図4に示すように、吸気ポート37からシリンダヘッド14内で二又に分岐されて燃焼室35に連通している。
【0032】
また、EGR排気通路64は、シリンダヘッド14の右側後方でシリンダヘッド14外に突出し、シリンダヘッド14に圧入されたユニオン69により排気側連結通路65に連通される。排気側連結通路65は途中から
図5に示すように後方斜め上方に立ち上がり、制御バルブ57の流入側に接続される。
【0033】
さらに、EGR通路63は、制御バルブ57下部の流出側から延びる吸気側連結通路66と、この吸気側連結通路66から二又に分岐されて、シリンダヘッド14内の左右の吸気通路部37aに連通されるEGR噴射通路67とを有する。EGR噴射通路67は、制御バルブ57で流量調整されたEGRガスが、エンジン吸気側の二又分岐の吸気ポート部(吸気通路部)37aに還流されるようになっている。その際、制御バルブ57はEGR通路63の最も高い位置に設けられ、制御バルブ57内に水が滞留するのを有効的にかつ確実に防止することができる。水による制御バルブ57の故障を防ぐことができる。
【0034】
EGR装置63のEGR噴射通路67は、シリンダヘッド14内に構成される。EGR噴射通路67は二又に分岐された吸気側連結通路66に
図7および
図9に示すように、プレート68を介して接続される。EGR噴射通路67は、シリンダヘッド14内を略平行な直線状に前方に延びて、シリンダヘッド14内の左右の吸気通路部(吸気ポート部)37aにそれぞれ連通される。シリンダヘッド14内のEGR噴射通路67は、略平行な直線状に形成されるので、噴射孔の孔成形を容易に行なうことができる。
【0035】
このように外部EGR装置55は、シリンダヘッド14内のEGR排気通路64と、シリンダヘッド14外右側後方の排気側連結通路65と、制御バルブ57と、シリンダヘッド14外後方の吸気側連結通路66と、シリンダヘッド14内のEGR噴射通路67とからEGR通路63が構成される。EGR通路63を構成するEGR排気通路64とEGR噴射通路67とはシリンダヘッド14内にショートカットして配置される。残りのEGR通路63を構成する排気側連結通路65、制御バルブ57および吸気側連結通路66は、外部EGR配管で形成され、シリンダヘッド14の外部後方側(エンジン吸気側下方)に集約して浮動支持状態に配置される。制御バルブ57を接続する排気側連結通路65や吸気側連結通路66は、ホースやパイプ、ゴム配管で構成される。
【0036】
吸気側連結通路66は、制御バルブ57の流出側にゴムホース、ゴム配管等の弾力性コネクタ70が備えられる。吸気側連結通路66の下流側は、分岐された吸気通路部37aに合せて二又に分岐されており、プレート68を介してEGR噴射通路67に連通される。制御バルブ57の流入側はその流出側より上方に位置するように配置されるが、シリンダヘッド14に圧入されるユニオン69とプレート68との取付高さは略同じ高さに設定することができる。
【0037】
シリンダアッセンブリ12のシリンダヘッド14内に、一方の右側排気通路部(排気ポート部)36aの後部または側部から排気ガスの一部をEGR排気通路64に案内している。EGR排気通路64は、オイル通路構造30の排気ポート周囲の冷却通路43(ポート上側冷却通路44およびポート下側冷却通路45)に隣接して、あるいは近傍を通ってシリンダヘッド右側斜め後方に延び、シリンダヘッド14の外部後方の排気側連結通路65を経て制御バルブ57に連通され、接続される。
【0038】
EGR通路63は、
図9に平断面で示されている。EGR通路63を構成するシリンダヘッド14内のEGR排気通路64は、排気ポート周囲の冷却通路43に隣接し、あるいはその近傍をショートカットして通るように、斜め後ろのカムチェーン室71側に向って延びている。EGR排気通路64は、カムチェーン室71内でシリンダヘッド14後部側が突出(露出)しており、カムチェーン室71の突出部分に、放熱フィン72が設けられる。放熱フィン72は、シリンダヘッド14内で排気ポート部周囲の冷却通路43近くあるいは隣に位置して冷却作用を受け、EGR排気通路64内を通る高温の排気ガス(EGRガス)を放熱し、冷却している。シリンダヘッド14内のカムチェーン室71で放熱フィン72を備えたEGR排気通路64は、シリンダアッセンブリ12と一体の内部EGRクーラを構成している。
【0039】
エンジン10は、シリンダヘッド14内において、シリンダヘッド14一側(右側)のカムチェーン室71内に放熱フィン72が一体あるいは一体的に設けられる。放熱フィン72は突出したEGR排気通路64の軸方向に沿って複数設けられ、EGRガスである排気ガスを冷却している。また、放熱フィン72は、シリンダアッセンブリ12のカムチェーン室71内に設けることで、容積のあるカムチェーン室71により、別体の外部EGRクーラの設置が不要となり、車両の小型・軽量化を図ることができる。
【0040】
さらに、シリンダヘッド14内にEGR通路63の一部(EGR排気通路64とEGR噴射通路67)を設けることにより、EGR通路63の外部EGR配管(排気側連結通路65と吸気側連結通路66)を短縮して簡素化することができる。EGR装置55は、EGR通路63の一部をシリンダヘッド14内に通して外部EGR配管をシリンダアッセンブリ12の後部側、エンジン外部の吸気側に集約して配置することができる。EGR装置55はシリンダアッセンブリ12の後部側に外部EGR配管をコンパクトにレイアウトすることができる。
【0041】
加えて、EGR装置55の制御バルブ57は、
図5ないし
図9に示すように、シリンダヘッド14の右側後方近くで、カムチェーン室71後方と吸気ポート37との間に配置される。したがって、制御バルブ57を備えたEGR通路63の通路長を短くでき、EGRガス量制御の応答速度を向上させることができる。制御バルブ57のEGRガス吸気側はシリンダアッセンブリ12のシリンダヘッド14直後に位置し、制御バルブ57はEGR通路63の上方に位置するので、制御バルブ57内に水が溜ることがなく、故障を未然に防ぐことができる。
【0042】
具体的には、制御バルブ57は、
図2に示すように前傾姿勢のシリンダアッセンブリ12のエンジン吸気側に設置される。制御バルブ57は、前傾しているシリンダヘッド14に傾けて配置されるので、制御バルブ57とシリンダヘッド14を接続するEGR通路63(排気側連結通路65および吸気側連結通路66)は傾斜状態で配設される。このため、制御バルブ57内に水が貯まり難くなる。
【0043】
また、排気側連結通路65および吸気側連結通路66に接続される制御バルブ57の流入ニップルおよび流出ニップル(図示せず)がシリンダヘッド14内のEGR通路63(EGR排気通路64およびEGR噴射通路67)より高い位置に位置される。したがって、制御バルブ57内の水は抜け易くなり、残留するのを確実に防止することができる。
【0044】
また、EGR装置55は、シリンダヘッド12の後側外部に露出する排気側連結通路65と吸気側連結通路66とは通路形状が滑らかで曲げ点が少なく、略同じ取付高さに位置され、かつ制御バルブ57はエンジン10側に近付けて配置することができ、EGRガスのガス流れをスムーズに円滑に流すことができる。
【0045】
さらに、EGR装置55の吸気側連結通路66は、
図9に示すように、二又に分岐されて、シリンダヘッド14内でEGR噴射通路67にプレート68を介して接続され、吸気通路部(吸気ポート部)37aにシリンダヘッド14内を略並列にかつ直線状に延びてそれぞれ連通される。したがって、シリンダヘッド14内のEGR噴射通路67の孔加工が容易になる。また、
図11に示すように、EGR噴射通路67から吸気通路部37aへの噴射孔の向きの設定も容易で、噴射孔は吸気通路と鋭角に交差している。したがって、シリンダブロック13の燃焼室35内へのEGRガスのスムーズな流れを確保することができる。加えて、EGR通路63を通るEGRガスは放熱フィン72で冷却される。EGRガスは、シリンダヘッド14内の冷却通路を通るエンジンオイルによっても冷却される。冷却されたEGRガスがEGR通路63を通ってエンジン吸気側の吸気通路部37aに噴射され、供給(還流)されるので、EGRガスの充填効率を向上させることができる。
【0046】
また、本実施形態に係る内燃機関のEGR装置55は、エンジン10のシリンダアッセンブリ12の直ぐ後方に、制御バルブ57および外部EGR配管(排気側連結通路65および吸気側連結通路66)を集約して配置することができる。EGR通路63は、EGR排気通路64とEGR噴射通路67とがシリンダヘッド14内に設けられるので、外部EGR配管を短縮化することができ、レイアウト配置を簡素化することができる。加えて、排気ポート部36aからの排気ガスの一部は、シリンダヘッド14内の冷却通路(排気ポート周囲の冷却通路43および燃焼室周囲の冷却通路46)近くあるいは隣を通ってシリンダヘッド14後方に案内されるので、EGRガスを冷却することができる。しかも、EGR通路63の一部は、カムチェーン室71内に突出して設けられるので、放熱用表面積を増加させることができる。動弁部品を潤滑し、冷却してカムチェーン室71からオイルパン22に戻るエンジンオイルが突出部で接触し易くなり、EGRガスを冷却することができ、冷却性能を向上させることができる。その上、EGR排気通路64は、カムチェーン室71内に放熱フィン72を設けて案内され、排気ガスのEGRガスは放熱フィン72での放熱によっても冷却される。
【0047】
冷却されたEGRガスは、制御バルブ57で流量制御されてEGR噴射通路67に送られ、シリンダヘッド14内でエンジン吸気系の吸気通路部37aに噴射される。吸気通路部37aから噴射されるEGRガスは、冷却されて温度降下した排気ガスである。しかも、EGR噴射通路67は吸気ポート37からの二又の吸気通路に鋭角に交差しているので、吸気通路部37aに噴射されるEGRガスは吸気の流れ方向に向けて、あるいは流れ方向にスムーズに噴射される。EGRガスの充填効率を向上させることができる。
【0048】
このEGR装置55は、EGRガスをシリンダヘッド14内の排気ポート周囲の冷却通路43近くや、シリンダブロック13内の燃焼室周囲の冷却通路46付近を通すことで冷却し、かつ、カムチェーン室71内の放熱フィン72で放熱することで積極的に冷却され、EGRガス温度を低下させることができる。したがって、EGR装置55に独立した外部EGRクーラを設置することが不要となる。
【0049】
さらに、本実施形態の内燃機関のEGR装置55は、EGRガスを冷却してエンジン吸気系の吸気通路部37aに効率よくスムーズに噴射させることができ、EGRガスの充填効率が向上し、エンジン10の燃焼ガス温度を低下させることができる。したがって、ノッキング限界向上やNOx排出量を低減させてデトネーション防止を図ることができる。このEGR装置55は、今後自動二輪車の排気ガス規制が厳しくなる方向にある中で、エンジン効率を維持しながら、排ガス規制値を有効に充足させることが可能となる。
【0050】
[実施形態の効果]
本実施形態に係る内燃機関のEGR装置55では、シリンダヘッド14の直ぐ後方(エンジン吸気側)に制御バルブ57を配置し、外部EGR配管をシリンダアッセンブリ12のエンジン吸気側に集約して配置することで、全体のEGR通路63を短縮し、簡素化することができる。EGR通路63を短縮することでEGRガスを高い圧力のまま吸気ポート部37aに流すことができ、EGRガスの充填効率を向上させることができる。さらに、EGR通路63の一部をシリンダヘッド14内に設けることで、外部EGR配管を削減することができ、EGR装置55をコンパクトにレイアウトすることができる。
【0051】
また、内燃機関のEGR装置55は、独立した大型の外部EGRクーラの設置が不要となる。外部EGRクーラが不要で、そのクーラ耐振動支持構造を必要としないので、車体の小型・軽量化を図ることができる。
【0052】
さらに、エンジンの排気ガスであるEGRガスは、シリンダヘッド14内の冷却通路やシリンダ内の燃焼室周囲の冷却通路46上方近くを通すことによりエンジンオイルで冷却され、さらにカムチェーン室71の放熱フィン72からの放熱により冷却されるので、EGRガスを有効的に効率よく冷却することができる。シリンダヘッド14内の冷却通路で排気ポート36とEGR通路63とを同時に冷却することができ、排気ガスを効率的に冷却することができる。シリンダアッセンブリ12内のカムチェーン室71側は比較的スペースに余裕があるため、EGR通路63の設定は、設定の自由度が大きい。
また、EGR通路63とシリンダヘッド14内の冷却通路が隣接する範囲が増え、排気ガスを効率的に冷却することができる。さらに、ポート上側冷却通路44は、
図3および
図4に示すように、EGR通路63の側方でエンジン上下方向に延びる冷却通路を有し、エンジン上下方向に延びる冷却通路はカムチェーン室71と隣接することで冷却通路の温度上昇を抑制することができ、排気ガスを効率的に冷却することができる。エンジン上下方向に延びる冷却通路は排気ポート36に隣接しないので、冷却通路の温度上昇を抑制することができ、排気ガスを効率的に冷却することができる。
一方、排気ポート36とEGR通路63とは
図3および
図4に示すように、シリンダヘッド14内の冷却通路や吸気ポート37で、両側から冷却することができ、また、EGR通路63を下方からも冷却することができ、排気ガスを効率的に冷却することができる。
【0053】
加えて、制御バルブ57は、シリンダヘッド14右側後方近くで、吸気ポート37とカムチェーン室71後方との間に配置されるので、EGR通路63の外部EGR配管65,66を短くでき、EGRガスの流量制御の応答速度が向上する。
【0054】
また、シリンダヘッド14の右側後方近くに配置される制御バルブ57は、シリンダヘッド14直後でEGR通路63の上方に配置されるので、制御バルブ57内に水が溜ることなく、水による故障を防ぐことができる。
【0055】
さらに、制御バルブ57の流入側の排気側連結通路65とバルブ流出側の吸気側連結通路66はほぼ同じ高さ位置に設置されるので、各連結通路65,66は通路形状に曲げ点が少なく、かつ制御バルブ57はエンジン10側に近付けて配置でき、排気ガスであるEGRガスの流れをスムーズに安定化させることができる。
【0056】
さらにまた、シリンダヘッド14内に形成されるEGR噴射通路67の孔加工が容易となる。加えて、吸気通路の吸気通路部37aに開口するEGRガス噴出孔の向きの設定も容易で、シリンダブロック13内に形成される燃焼室の流れを改善することができる。
【0057】
[その他の実施例]
本実施形態に係る内燃機関のEGR装置55では、シリンダアッセンブリ12のシリンダヘッド14やシリンダブロック13内に各オイル冷却通路を設け、オイルクーラ39で冷却されたオイルをオイル冷却通路内に案内することで、シリンダヘッド14やシリンダブロック13内を冷却する例を示したが、オイルクーラ39に代えてラジエータを設け、このラジエータで冷却される冷却水でシリンダヘッド14やシリンダブロック13内を冷却するようにしてもよい。
【0058】
また、本実施形態に係る内燃機関のEGR装置55では、単気筒の4バルブエンジンにEGR装置55を適用した例を示したが、このEGR装置55は自動二輪車の多気筒エンジンに適用するようにしても、さらに自動三輪車に適用するようにしてもよい。
【0059】
さらに、本実施形態に係る内燃機関のEGR装置55では、シリンダヘッド14のカムチェーン室71内に突出するEGR排気通路64の突出部に、冷却フィンとしての放熱フィン72を設けた例を示したが、別体の独立した外部EGRクーラを設けることなく、EGRクーラをシリンダヘッド14あるいはシリンダブロック13、ヘッドカバー15と一体化させ、エンジン10と一体構造のEGRクーラを備えてもよい。エンジン10と一体構造のEGRクーラは、耐振動支持構造が不要となり、車体の小型・軽量化を図ることができる。
【0060】
加えて、シリンダヘッド14やシリンダブロック13内に設けられたEGR通路を、シリンダヘッド14やシリンダブロック13のカムチェーン室71内で突出(露出)させ、その突出(露出)部に放熱フィン72を一体あるいは別体で設け、エンジン10内にEGRクーラを設けてもよい。
【0061】
また、本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
10…エンジン(内燃機関)、11…クランクケース、12…シリンダアッセンブリ、13…シリンダブロック、14…シリンダヘッド、15…ヘッドカバー、18…クラッチカバー、19…クランクシャフト、20…ミッション室、21…トランスミッション、22…オイルパン、23…オイルポンプ、24…オイルフィルタ、25…ピストン、30…オイル通路構造、31…クランクケース側オイル通路、32…シリンダ側オイル通路、33…シリンダヘッド側オイル通路、35…燃焼室、36…排気ポート、37…吸気ポート、38…流入側オイルホース、39…オイルクーラ、40…流出側オイルホース、41…点火プラグ差込部、43…排気ポート部周囲の冷却通路、44…ポート上側冷却通路、45…ポート下側冷却通路、46…燃焼室周囲の冷却通路、47…吸気ポート下部の冷却通路、48…点火プラグ差込部の冷却通路、50…シリンダ側オイル還流通路、55…(外部)EGR装置、56…浮動支持装置、57…制御バルブ、58…取付ブラケット、59…サポートロッド、60…弾性体、63…EGR通路、64…EGR排気通路、65…排気側連結通路、66…吸気側連結通路、67…EGR噴射通路、68…プレート、70…弾力性コネクタ、71…カムチェーン室、72…放熱フィン、74…気筒。