(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ガスバリア性積層体、包装材料、包装体及び包装物品
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20220614BHJP
B32B 27/06 20060101ALI20220614BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/06
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2021072413
(22)【出願日】2021-04-22
【審査請求日】2021-04-22
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】前田 正貴
(72)【発明者】
【氏名】星 沙耶佳
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/167181(WO,A1)
【文献】特開2020-114637(JP,A)
【文献】特開2016-193509(JP,A)
【文献】特開2017-087616(JP,A)
【文献】特許第5278802(JP,B2)
【文献】特開2014-188944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B65D65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも一方の面上に、無機酸化物を含む無機蒸着層と、カルボキシ基含有重合体(a)、多価金属含有粒子(b)及び界面活性剤(c)を含む被覆層とをこの順序で備えたガスバリア性積層体であって、前記被覆層の赤外吸収スペクトルにおける、1490~1659cm
-1の範囲内の-COO
-に帰属する最大ピーク高さ(α)と、1660~1750cm
-1の範囲内の-COOHに帰属する最大ピーク高さ(β)のα/α+βで表される比が0.3以上であ
り、前記多価金属含有粒子(b)として前記被覆層の形成用コーティング液中の平均粒子径が12nm乃至1μmの範囲内のものが使用されているガスバリア性積層体。
【請求項2】
前記被覆層がケイ素含有化合物(d)を更に含有し、前記ケイ素含有化合物(d)が下記一般式(1)及び(2)で表されるシランカップリング剤、これらの加水分解物、およびこれらの縮合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のガスバリア性積層体。
Si(OR
1)
3Z
1 …(1)
Si(R
2)(OR
3)
2Z
2 …(2)
一般式(1)において、R
1は、同一であっても異なっていてもよい、炭素数が1乃至6のアルキル基であり、Z
1はエポキシ基を含有する基であり、一般式(2)において、R
2はメチル基であり、R
3は、同一であっても異なっていてもよい、炭素数が1乃至6のアルキル基であり、Z
2はエポキシ基を含有する基である。
【請求項3】
前記カルボキシ基含有重合体(a)が、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸及びフマル酸からなる群から選択される少なくとも1種のα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸に由来する構成単位を含む、請求項1又は2に記載のガスバリア性積層体。
【請求項4】
前記多価金属含有粒子(b)を構成する多価金属が2価の金属である、請求項1~3の何れか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項5】
前記基材と前記無機蒸着層との間にアンカーコート層を更に備えた請求項1~4の何れか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項6】
前記界面活性剤(c)が燐酸エステル又はスチレン-アクリル酸共重合体である、請求項1~
5の何れか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項7】
120℃、30分、圧力0.2MPaでのレトルト処理後におけるα/α+βで表される前記比が0.4以上である、請求項1乃至
6の何れか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項8】
酢酸成分含有食品の包装材料として用いられる、請求項1~
7の何れか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項9】
請求項1~
8の何れか1項に記載のガスバリア性積層体を含んだ包装材料。
【請求項10】
請求項
9に記載の包装材料を含んだ包装体。
【請求項11】
請求項
10に記載の包装体と、前記包装体に収容された内容物とを含んだ包装物品。
【請求項12】
前記内容物が酢酸成分を含有している請求項
11に記載の包装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性積層体、包装材料、包装体及び包装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、化粧品、農薬、及び工業製品等の物品は、長期間保存すると、酸素によって品質が劣化することがある。そのため、これらの物品の包装材料として、酸素ガスバリア性のあるフィルムやシートが使用されている。
【0003】
そのような包装材料としては、従来、ガスバリア性被覆層としてアルミニウム箔を備えるものが多用されてきた。しかしながら、アルミニウム箔を含む包装材料を用いると、内容物が視認できず、その上、金属探知機が使用できない。そのため、特に食品分野や医薬品分野では、優れたガスバリア性を有し且つ透明な包装材料の開発が求められてきた。
【0004】
このような要求のもと、基材の上に、ポリ塩化ビニリデン(Polyvinylidene chloride;PVDC)を含むコーティング液を塗工することによってPVDCからなる層を設けたガスバリア性積層体が使用されてきた。PVDCからなる層は、透明でガスバリア性がある。
【0005】
しかしながら、PVDCは焼却時にダイオキシンの発生が懸念される。そのため、PVDCから非塩素系材料への移行が求められた。このような要求のもと、例えば、PVDCに代わりポリビニルアルコール(Polyvinil alcohol;PVA)系重合体を用いることが提案された。
【0006】
PVA系重合体からなる層は、水酸基の水素結合によって高密度化し、低湿度雰囲気下では高いガスバリア性を発揮する。しかし、PVA系重合体からなる層は、高湿度雰囲気下では吸湿によって水素結合が緩み、ガスバリア性が大きく低下するという問題がある。そのため、PVA系重合体からなる層をガスバリア性被覆層として用いたガスバリア性積層体は、水分を多く含む食品等の包装材料には用いることができない場合が多く、用途が乾燥物の包装材料などに限られていた。
【0007】
ガスバリア性を更に向上させることを目的として、PVA系重合体に無機層状化合物を添加することが提案された(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、無機層状化合物を添加しても、PVA系重合体自体の耐水性が向上した訳ではないため、依然として高湿度雰囲気下でガスバリア性が低下する問題が残る。
【0008】
高湿度雰囲気下でのガスバリア性を改善するため、PVA系重合体と、これと架橋構造を形成し得る重合体とを含有するコーティング液を基材に塗布し、熱処理することにより、ガスバリア性積層体を製造することが提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0009】
しかしながら、これら技術で充分なガスバリア性を得るためには、コーティング液の塗工後の熱処理を、高温、例えば150℃以上で行って、架橋構造を形成させる必要がある。そのような熱処理は、例えば、基材の材質が延伸ポリプロピレン(Oriented polypropylene;OPP)やポリエチレン(Polyethylene;PE)などのポリオレフィンである場合、基材の激しい劣化を引き起こす。そのため、基材の材質が制限されたり、より穏和な条件で製造し得るガスバリア性積層体が求められる。
【0010】
ガスバリア性被覆層を形成する他の方法として、ポリカルボン酸系重合体を多価金属イオンでイオン架橋することにより、ガスバリア性を発現させる方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0011】
この方法では、特許文献2及び3に記載の方法で行う高温の熱処理は不要である。そのため、基材にポリオレフィンを用いることができる。また、得られたガスバリア性被覆層は、高湿度雰囲気下でもガスバリア性に優れている。それ故、このガスバリア性被覆層を含んだガスバリア性積層体は、ボイルやレトルト等の湿熱処理を行う用途にも使用することができる。
【0012】
しかしながら、ポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物とをコーティング液中に共存させると、コーティング液中でポリカルボン酸系重合体と多価金属化合物とが反応して沈殿が生じ易い。液中に沈殿が生じると、均一な膜が形成できなくなる。そのためこの方法では、ガスバリア性被覆層を、ポリカルボン酸系樹脂を主成分とする第1水系層と、そのコーティング層として多価金属化合物の微粒子が分散した第2水系層とを含む多層構造体として製膜する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平6-093133号公報
【文献】特開2000-289154号公報
【文献】特開2000-336195号公報
【文献】特許第5278802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ポリカルボン酸系重合体を多価金属イオンで架橋することによりガスバリア性を発現させる上記方法においては、上述のとおり、ガスバリア性被覆層を、ポリカルボン酸系樹脂を主成分とする第1水系層と、多価金属化合物の微粒子が分散した第2水系層とを含む多層構造として製膜する。この多層構造のガスバリア性被覆層は、製膜段階(レトルト処理及びボイル処理等の湿熱処理前を意味する。)においては、多価金属イオンによるポリカルボン酸系重合体の架橋反応はあまり進行していない。湿熱処理を施すことで、多層構造のガスバリア性被覆層において、第2水系層に生じた多価金属イオンが第1水系層に移行し、ポリカルボン酸系重合体をイオン架橋させることによりガスバリア性が発現する。
【0015】
本発明者らによる鋭意研究により、ガスバリア性被覆層が上記第1及び第2水系層からなる場合に、レトルト処理やボイル処理など、実際の内容物を充填した状態で湿熱処理を施したり、その後長期保存をした場合に、第2水系層中の多価金属イオンが内部に浸透し、例えば内容物に含まれる酢酸などと反応してポリカルボン酸系重合体の架橋反応が阻害される恐れのあることがわかった。この場合、ガスバリア性の低下やデラミネーション発生の問題を生じ得る。
【0016】
このように、食品等の内容物を包装体に充填してレトルト処理及びボイル処理等の湿熱処理が施されたり、その後長期保存されても、ガスバリア性被覆層中の多価金属イオンが内容物の成分と反応し、架橋反応が阻害されることによるガスバリア性の低下やデラミネーションの発生が抑制されたガスバリア性積層体の開発が所望される。
【0017】
本発明は、レトルト処理やボイル処理等の湿熱処理に対する耐内容物性に優れ、湿熱処理が施されてもガスバリア性の低下やデラミネーションの発生が抑制され、更に内容物の保存安定性に優れるガスバリア性積層体、並びに、これを用いた包装材料、包装体及び包装物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1側面によると、基材と、上記基材の少なくとも一方の面上に、無機酸化物を含む無機蒸着層と、カルボキシ基含有重合体(a)、多価金属含有粒子(b)及び界面活性剤(c)を含む被覆層とをこの順序で備えたガスバリア性積層体であって、上記被覆層の赤外吸収スペクトルにおける、1490~1659cm-1の範囲内の-COO-に帰属する最大ピーク高さ(α)と、1660~1750cm-1の範囲内の-COOHに帰属する最大ピーク高さ(β)のα/α+βで表される比が0.3以上であるガスバリア性積層体が提供される。
【0019】
本発明の実施形態において、上記ガスバリア性積層体を下記条件で湿熱処理した場合において、上記被覆層の赤外吸収スペクトルにおける上記ピーク高さ比α/α+βは、0.4以上であってよい。
湿熱処理条件:120℃、30分、圧力0.2MPaでのレトルト処理。
【0020】
また、本発明の実施形態において、上記被覆層は、ケイ素含有化合物(d)を更に含有してよい。このケイ素含有化合物(d)は、下記一般式(1)及び(2)で表されるシランカップリング剤、これらの加水分解物、およびこれらの縮合物からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0021】
Si(OR1)3Z1 …(1)
Si(R2)(OR3)2Z2 …(2)
一般式(1)において、R1は、同一であっても異なっていてもよい、炭素数が1乃至6のアルキル基であり、Z1はエポキシ基を含有する基であり、一般式(2)において、R2はメチル基であり、R3は、同一であっても異なっていてもよい、炭素数が1乃至6のアルキル基であり、Z2はエポキシ基を含有する基である。
【0022】
また、本発明の実施形態において、上記カルボキシ基含有重合体(a)は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸及びフマル酸からなる群から選択される少なくとも1種のα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸に由来する構成単位を含んでよい。
【0023】
また、本発明の実施形態において、上記多価金属含有粒子(b)を構成する多価金属は、2価の金属であってよい。
【0024】
また、本発明の実施形態において、上記ガスバリア性積層体は、上記基材と上記無機蒸着層との間にアンカーコート層を更に備えていてよい。
【0025】
本発明の第2側面によると、上記ガスバリア性積層体を含んだ包装材料が提供される。
【0026】
本発明の第3側面によると、上記包装材料を含んだ包装体が提供される。
【0027】
本発明の第4側面によると、上記包装体と、上記包装体に収容された内容物とを含んだ包装物品が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、レトルト処理やボイル処理等の湿熱処理に対する耐内容物性に優れ、湿熱処理が施されてもガスバリア性の低下やデラミネーションの発生が抑制され、更に内容物の保存安定性に優れるガスバリア性積層体、並びに、これを用いた包装材料、包装体及び包装物品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態に係るガスバリア性積層体を概略的に示す断面図。
【
図2】本発明の他の実施形態に係るガスバリア性積層体を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0031】
図1は、本発明の第1実施形態に係るガスバリア性積層体を概略的に示す断面図である。
図1に示すガスバリア性積層体10は、基材1と、無機酸化物を含む無機蒸着層2と、被覆層3とを具備している。
【0032】
<被覆層>
被覆層3は、以下に詳述するカルボキシ基含有重合体(a)、多価金属含有粒子(b)及び界面活性剤(c)を含有する。多価金属含有粒子(b)由来の多価金属イオンでカルボキシ基含有重合体(a)がイオン架橋されている。
【0033】
被覆層3は、赤外吸収スペクトルにおける1490~1659cm-1の範囲内の-COO-に帰属する最大ピーク高さ(極大吸光度)(α)と、1660~1750cm-1の範囲内の-COOHに帰属する最大ピーク高さ(極大吸光度)(β)のα/α+βで表される比が、0.3以上である。以下において、このα/α+β比を「ピーク高さ比α/α+β」、又は単に「α/α+β比」などという。
【0034】
被覆層3の吸光度は、被覆層3中に存在する赤外活性を持つ化学種の量と比例関係にある。したがって、ピーク高さ比α/α+βは、被覆層3中における多価金属含有粒子(b)由来の多価金属イオンによる、カルボキシ基含有重合体(a)に対するイオン架橋反応の進行の尺度となる。
【0035】
ガスバリア性積層体10は、湿熱処理前である製膜段階において、赤外吸収スペクトルのピーク高さ比α/α+βが0.3以上とイオン架橋反応が進行している。このためガスバリア性積層体10は、内容物を収容した状態でのレトルト処理やボイル処理等の湿熱処理に対する耐内容物性に優れ、湿熱処理が施された場合の内容物の成分によるガスバリア性の劣化やデラミネーションの発生が抑制され、更に保存安定性にも優れる。
【0036】
ここで湿熱処理とは、レトルト処理やボイル処理など、密閉容器内で適正な温度、時間、相対湿度、又は圧力などの条件下で、内容物を収容した包装体に対し加熱処理を施すことである。
【0037】
例えば、湿熱処理がレトルト処理である場合について説明する。レトルト処理は、一般には食品等を保存するために、カビ、酵母、及び細菌などの微生物を加圧加熱殺菌する処理である。レトルト処理では、通常は、食品を包装体に包装してなる包装物品を、0.15乃至0.3MPaの圧力下、105乃至140℃の温度で、10乃至120分間に亘って加圧殺菌加熱処理する。レトルト装置には、加熱蒸気を利用する蒸気式及び加圧過熱水を利用する熱水式等があり、それらは内容物となる食品等の殺菌条件に応じて適宜使い分ける。
【0038】
また、湿熱処理がボイル処理である場合について説明する。ボイル処理は、食品等を保存するため湿熱殺菌する処理である。ボイル処理では、内容物にもよるが、通常は、食品等の内容物を包装体に包装してなる包装物品を、大気圧下、60乃至100℃の温度で、10乃至120分間に亘って湿熱殺菌処理する。ボイル処理は、通常、熱水槽を用いて行う。ボイル処理には、包装物品を一定温度の熱水槽の中に浸漬させ、一定時間後に取り出すバッチ式と、熱水槽の中に包装物品をトンネル式に通して殺菌する連続式とがある。
【0039】
包装物品に対する湿熱処理条件が厳しかったり、包装体の耐内容物性が悪いと、湿熱処理後において内容物の成分に起因したガスバリア性の劣化や、デラミネーションが発生する。本発明の実施形態に係るガスバリア性積層体は、上記の通り、湿熱処理前である製膜段階において、赤外吸収スペクトルのピーク高さ比α/α+βが0.3以上とイオン架橋反応が進行し、耐内容物性に優れるため、例えば上述した湿熱処理条件の中から厳しい条件で湿熱処理が施されても、内容物の成分に起因したガスバリア性の劣化やデラミネーションの発生が抑制される。
【0040】
湿熱処理前のガスバリア性積層体10における被覆層3のピーク高さ比α/α+βは、上記の通り0.3以上であり、好ましくは0.4以上であり、より好ましくは0.5以上である。ピーク高さ比α/α+βの上限値は、特に制限されるものではなく、1以下である。
【0041】
また、本実施形態に係るガスバリア性積層体10は、下記条件で湿熱処理した場合において、被覆層3のピーク高さα/α+βが、0.4以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましい。上記湿熱処理後における赤外吸収スペクトルのピーク高さ比α/α+βの上限値は、特に制限されるものではなく、1以下である。
湿熱処理条件:120℃、30分、圧力0.2MPaでのレトルト処理。
【0042】
〔カルボキシ基含有重合体(a)〕
被覆層3に含有されるカルボキシ基含有重合体(a)は、分子内に2個以上のカルボキシ基を有する重合体であり、以下において「ポリカルボン酸系重合体」と呼ぶことがある。カルボキシ基含有重合体(a)は、上述したように、被覆層3において後述する多価金属含有粒子(b)に由来する金属イオンとイオン架橋を形成しており、優れたガスバリア性を発揮する。カルボキシ基含有重合体(a)としては、カルボキシ基含有不飽和単量体の単独重合体、2種以上のカルボキシ基含有不飽和単量体の共重合体、カルボキシ基含有不飽和単量体と他の重合性単量体との共重合体、及び分子内にカルボキシ基を含有する多糖類(「カルボキシ基含有多糖類」又は「酸性多糖類」ともいう)が代表的なものである。
【0043】
カルボキシ基には、遊離のカルボキシ基のみならず、酸無水物基(具体的には、ジカルボン酸無水物基)も含まれる。酸無水物基は、部分的に開環してカルボキシ基となっていてもよい。カルボキシ基の一部は、アルカリで中和されていてもよい。この場合、中和度は、20%以下であることが好ましい。
【0044】
ここで、「中和度」は、以下の方法によって得られる値である。即ち、カルボキシ基含有重合体(a)に対してアルカリ(ft)を添加することでカルボキシ基を部分中和できる。この時、カルボキシ基含有重合体(a)が含んでいるカルボキシ基のモル数(at)に対するアルカリ(f)のモル数(ft)の比が中和度である。
【0045】
また、ポリオレフィンなどのカルボキシ基を含有していない重合体にカルボキシ基含有不飽和単量体をグラフト重合してなるグラフト重合体も、カルボキシ基含有重合体(a)として使用することができる。アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基)のような加水分解性のエステル基を有する重合体を加水分解して、カルボキシ基に変換した重合体を使用することもできる。
【0046】
カルボキシ基含有不飽和単量体としては、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸が好ましい。従って、カルボキシ基含有重合体(a)には、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸の単独重合体、2種以上のα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体、及びα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸と他の重合性単量体との共重合体が含まれる。他の重合性単量体としては、エチレン性不飽和単量体が代表的なものである。
【0047】
α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸などの不飽和ジカルボン酸;無水マレイン酸及び無水イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸無水物;並びに、これらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸がより好ましい。
【0048】
α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸と共重合可能な他の重合性単量体、特にエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレン;プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテンなどのα-オレフィン;酢酸ビニルなどの飽和カルボン酸ビニルエステル類;アクリル酸メチル及びアクリル酸エチルなどのアクリル酸アルキルエステル類;メタクリル酸メチル及びメタクリル酸エチルなどのメタクリル酸アルキルエステル類;塩化ビニル及び塩化ビニリデンなどの塩素含有ビニル単量体;フッ化ビニル及びフッ化ビニリデンなどのフッ素含有ビニル単量体;アクリロニトリル及びメタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;スチレン及びα-メチルスチレンなどの芳香族ビニル単量体;並びに、イタコン酸アルキルエステル類を挙げることができる。これらのエチレン性不飽和単量体は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、カルボキシ基含有重合体がα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸と酢酸ビニルなどの飽和カルボン酸ビニルエステル類との共重合体である場合は、この共重合体をケン化して飽和カルボン酸ビニルエステル単位をビニルアルコール単位に変換してなる共重合体も使用することができる。
【0049】
カルボキシ基含有多糖類としては、例えば、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、及びペクチンなどの分子内にカルボキシ基を有する酸性多糖類を挙げることができる。これらの酸性多糖類は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、酸性多糖類を、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸の(共)重合体と組み合わせて使用することもできる。
【0050】
カルボキシ基含有重合体が、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸とその他のエチレン性不飽和単量体との共重合体である場合には、得られるフィルムのガスバリア性、耐熱水性、及び耐水蒸気性の観点から、その共重合体において、それら単量体の合計モル数に占めるα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸単量体のモル数の割合は、60モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
【0051】
カルボキシ基含有重合体(a)は、ガスバリア性、耐湿性、耐水性、耐熱水性、及び耐水蒸気性に優れ、高湿条件下でのガスバリア性にも優れたフィルムが得られやすい点で、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸のみの重合によって得られる単独重合体又は共重合体であることが好ましい。カルボキシ基含有重合体(a)がα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなる(共)重合体の場合、その好ましい具体例は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種のα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸の重合によって得られる単独重合体、共重合体、及びそれらの2種以上の混合物である。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸の単独重合体及び共重合体がより好ましい。
【0052】
カルボキシ基含有重合体(a)としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、及びこれらの2種以上の混合物が特に好ましい。酸性多糖類としては、アルギン酸が好ましい。これらの中でも、入手が比較的容易で、諸物性に優れたフィルムが得られやすい点で、ポリアクリル酸が特に好ましい。
【0053】
カルボキシ基含有重合体(a)の数平均分子量は、特に制限されないが、フィルム形成性及びフィルム物性の観点から、数平均分子量が2,000乃至10,000,000の範囲内にあることが好ましく、5,000乃至1,000,000の範囲内にあることがより好ましく、10,000~500,000の範囲内にあることが更に好ましい。
【0054】
ここで、「数平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(Gel permeation chromatography;GPC)による測定によって得られる値である。GPC測定では、一般に、標準ポリスチレン換算で重合体の数平均分子量を測定する。
【0055】
〔多価金属含有粒子(b)〕
被覆層3に含有される多価金属含有粒子(b)は、金属イオンの価数が2以上の多価金属を1種以上含んだ粒子であることが好ましい。多価金属含有粒子(b)は、金属イオンの価数が2以上の多価金属からなる粒子であってもよく、金属イオンの価数が2以上の多価金属の化合物からなる粒子であってもよく、それらの混合物であってもよい。
【0056】
多価金属の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、及びカルシウムなどの短周期型周期表2A族の金属;チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、及び亜鉛などの遷移金属;並びにアルミニウムを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0057】
多価金属は、2価の金属であることが好ましい。また、多価金属は、化合物を形成していることが好ましい。
【0058】
多価金属の化合物の具体例としては、多価金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、及び無機酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。有機酸塩としては、例えば、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、ステアリン酸塩、モノエチレン性不飽和カルボン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。無機酸塩としては、例えば、塩化物、硫酸塩、硝酸塩を挙げることができるが、これらに限定されない。多価金属のアルキルアルコキシドも多価金属化合物として使用することができる。これらの多価金属化合物は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
多価金属化合物の中でも、ガスバリア性積層体10のガスバリア性の観点から、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、及びジルコニウムの化合物が好ましく、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛、コバルト、及びニッケルなどの2価金属の化合物がより好ましい。
【0060】
好ましい2価金属化合物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化銅、酸化ニッケル、及び酸化コバルトなどの酸化物;炭酸カルシウムなどの炭酸塩;乳酸カルシウム、乳酸亜鉛、及びアクリル酸カルシウムなどの有機酸塩;並びにマグネシウムメトキシドなどのアルコキシドを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0061】
多価金属又は多価金属化合物は、粒子として用いられる。多価金属粒子(b)としては、被覆層3の形成に用いられる後述するコーティング液(以下において、「被覆層形成用コーティング液」又は単に「コーティング液」という。)の分散安定性、及び、ガスバリア性積層体10のガスバリア性の観点から、コーティング液中の平均粒子径として、10nm乃至10μm(又は10,000nm)の範囲内にあるものが好適に用いられる。多価金属粒子(b)は、コーティング液中の平均粒子径として、12nm乃至1μm(又は1,000nm)の範囲内にあることがより好ましく、15nm乃至500nmの範囲内にあることが更に好ましく、15nm乃至50nmの範囲内にあることが特に好ましい。
【0062】
多価金属含有粒子(b)の平均粒子径が大きすぎると、被覆層3の膜厚の均一性、表面の平坦性、カルボキシ基含有重合体(a)とのイオン架橋反応性などが不十分となり易い。多価金属含有粒子(b)の平均粒子径が小さすぎると、カルボキシ基含有重合体(a)とのイオン架橋反応が早期に進行するおそれがある。また、多価金属含有粒子(b)の平均粒子径が小さすぎると、コーティング液中に均一分散させることが困難となる場合がある。
【0063】
多価金属含有粒子(b)の平均粒子径は、試料が乾燥した固体である場合には、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて計測と計数とを行うことにより測定することができる。コーティング液中の多価金属含有粒子(b)の平均粒子径は、光散乱法により測定することができる〔参考文献:「微粒子工学体系」第I巻、第362~365頁、フジテクノシステム(2001)〕。
【0064】
コーティング液中における多価金属含有粒子は、一次粒子、二次粒子、又はこれらの混合物として存在するが、多くの場合、平均粒子径からみて二次粒子として存在するものと推定される。
【0065】
〔界面活性剤(c)〕
被覆層3は、多価金属含有粒子(b)の分散性を高めるため、界面活性剤(c)を含有する。界面活性剤とは、分子内に親水性基と親油性基の両方を持つ化合物である。界面活性剤には、アニオン性、カチオン性、及び両性のイオン性界面活性剤並びに非イオン性界面活性剤がある。被覆層3では、何れの界面活性剤を使用してもよい。
【0066】
アニオン系界面活性剤には、例えば、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、及びリン酸エステル型がある。カルボン酸型のアニオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N-アシルサルコシン酸塩、及びN-アシルグルタミン酸塩がある。スルホン酸型のアニオン系界面活性剤としては、例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル(分岐鎖)ベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩-ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、及びN-メチル-N-アシルタウリン酸塩が挙げられる。硫酸エステル型のアニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩及び油脂硫酸エステル塩が挙げられる。リン酸エステル型のアニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルリン酸塩型、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩が挙げられる。
【0067】
カチオン系界面活性剤(c)としては、例えば、アルキルアミン塩型及び第4級アンモニウム塩型がある。アルキルアミン塩型のカチオン系界面活性剤としては、例えば、モノアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、及びトリアルキルアミン塩が挙げられる。第四級アンモニウム塩型のカチオン系界面活性剤としては、例えば、ハロゲン化(塩化、臭化又はヨウ化)アルキルトリメチルアンモニウム塩及び塩化アルキルベンザルコニウムが挙げられる。
【0068】
両性界面活性剤としては、例えば、カルボキシベタイン型、2-アルキルイミダゾリンの誘導体型、グリシン型、及びアミンオキシド型がある。カルボキシベタイン型の両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン及び脂肪酸アミドプロピルベタインが挙げられる。2-アルキルイミダゾリンの誘導体型の両性界面活性剤としては、例えば、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインが挙げられる。グリシン型の両性界面活性剤としては、例えば、アルキル又はジアルキルジエチレントリアミノ酢酸が挙げられる。アミノオキシド型の両性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミンオキシドが挙げられる。
【0069】
非イオン性の界面活性剤としては、例えば、エステル型、エーテル型、エステルエーテル型、及びアルカノールアミド型がある。エステル型の非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びしょ糖脂肪酸エステルが挙げられる。エーテル型の非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが挙げられる。エステルエーテル型の非イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸ポリエチレングリコール及び脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタンが挙げられる。アルカノールアミド型の非イオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸アルカノールアミドが挙げられる。
【0070】
スチレン-アクリル酸共重合体などのポリマー骨格を有する界面活性剤も使用することができる。
【0071】
これらの界面活性剤の中でも、リン酸エステルなどのアニオン系界面活性剤、及びスチレン-アクリル酸共重合体などのポリマー骨格を有する界面活性剤などが好ましい。
【0072】
〔ケイ素含有化合物(d)〕
被覆層3は、剥離強度を高めるため、ケイ素含有化合物(d)を含有することが好ましい。ケイ素含有化合物(d)は、下記一般式(1)で表されるシランカップリング剤、下記一般式(2)で表されるシランカップリング剤、これらの加水分解物、及びこれらの縮合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。
Si(OR1)3Z1 …(1)
Si(R2)(OR3)2Z2 …(2)
一般式(1)において、R1は、同一であっても異なっていてもよい、炭素数が1乃至6のアルキル基であり、Z1はエポキシ基を含有する基である。そして、一般式(2)において、R2はメチル基であり、R3は、同一であっても異なっていてもよい、炭素数が1乃至6のアルキル基であり、Z2はエポキシ基を含有する基である。
【0073】
シランカップリング剤は、加水分解を容易に生じ、また、酸又はアルカリ存在下では縮合反応を容易に生じる。そのため、被覆層3において、ケイ素含有化合物(d)は、一般式(1)又は(2)で表されるシランカップリング剤の形態でのみ、その加水分解物の形態でのみ、又はその縮合物の形態でのみで存在することは稀である。即ち、被覆層3において、ケイ素含有化合物(d)は、通常、一般式(1)で表されるシランカップリング剤及び一般式(2)で表されるシランカップリング剤の少なくとも一方と、その加水分解物と、その縮合物との混合物として混在している。
【0074】
一般式(1)及び(2)中のR1及びR3の各々は、炭素原子数が1乃至6のアルキル基であればよく、メチル基又はエチル基であることが好ましい。Z1及びZ2の各々は、エポキシ基を含有する基であればよく、例えば、グリシジルオキシ基を有する有機基であってよい。
【0075】
一般式(1)又は(2)で表されるシランカップリング剤の具体例としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランが挙げられ、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン及び3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。シランカップリング剤としては、一種を用いても、二種以上を用いてもよい。
【0076】
一般式(1)又は(2)で表されるシランカップリング剤の加水分解物は、部分加水分解物であってもよく、完全加水分解物であってもよく、それらの混合物であってもよい。
【0077】
被覆層3がケイ素含有化合物(d)の少なくとも一部として含み得る縮合物は、一般式(1)で表されるシランカップリング剤の加水分解縮合物、一般式(2)で表されるシランカップリング剤の加水分解縮合物、及び、一般式(1)で表されるシランカップリング剤の加水分解物と一般式(2)で表されるシランカップリング剤の加水分解物との縮合物の2以上である。これら加水分解縮合物は、以下の反応によって生じる。即ち、先ず、シランカップリング剤を加水分解させる。これにより、シランカップリング剤は、その分子が含んでいるアルコキシ基の1以上が水酸基によって置換されて、加水分解物となる。続いて、これら加水分解物を縮合させることによって、ケイ素原子(Si)が酸素を介して結合した化合物が形成される。この縮合が繰り返されることにより、加水分解縮合物が得られる。
【0078】
〔組成〕
被覆層3は、カルボキシ基含有重合体(a)と多価金属含有粒子(b)を、以下の配合比で含有することが好ましい。すなわち、カルボキシ基含有重合体(a)が含んでいるカルボキシ基のモル数(at)に対する、多価金属含有粒子(b)が含んでいる多価金属のモル数と価数との積(bt)の比((bt)/(at))(以下、当量比ともいう)は、0.4以上であることが好ましい。この比は、より好ましくは0.8以上、特に好ましくは1.0以上である。この比の上限は、通常は10.0以下、好ましくは2.0以下である。この比を小さくしすぎると、ガスバリア性積層体10のガスバリア性、耐熱水性、及び耐水蒸気性などの諸特性が低下する傾向がみられる。
【0079】
上記の当量比は、例えば、以下のようにして求めることができる。カルボキシ基含有重合体(a)がポリアクリル酸であり、多価金属化合物粒子(b)が酸化マグネシウムである場合を例に挙げて説明する。
【0080】
ポリアクリル酸は、単量体単位の分子量が72であり、単量体1分子当たり1個のカルボキシ基を有する。それ故、ポリアクリル酸100g中のカルボキシ基の量は、1.39モルである。ポリアクリル酸100gを含んだコーティング液における上記の当量比が1.0であるということは、この被覆層3には、1.39モルのカルボキシ基を中和する量の酸化マグネシウムが含まれていることを意味する。従って、ポリアクリル酸100gを含んだ被覆層3における上記の当量比を0.6とするには、この被覆層3に、0.834モルのカルボキシ基を中和する量の酸化マグネシウムを配合すればよい。ここで、マグネシウムの価数は2価であり、酸化マグネシウムの分子量は40である。従って、ポリアクリル酸100gを含んだ被覆層3における上記の当量比を0.6とするには、この被覆層3に、16.68g(0.417モル)の酸化マグネシウムを配合すればよい。
【0081】
界面活性剤(c)は、コーティング液中に多価金属含有粒子が安定して分散するに足る量で用いられる。したがって、その配合量を、被覆層形成用コーティング液中の濃度として説明すると、コーティング液中、通常は0.0001乃至70質量%、好ましくは0.001乃至60質量%、より好ましくは0.1乃至50質量%の範囲内とする。
【0082】
界面活性剤(c)を添加しないと、コーティング液中で多価金属含有粒子(b)をそれらの平均粒子径が十分に小さくなるように分散させることが困難になる。その結果、多価金属含有粒子(b)が均一に分散したコーティング液を得ることが難しくなる。その場合、無機蒸着層2上にコーティング液を塗布、乾燥して得られる被覆層3において、均一な膜厚を有する被覆層3を得ることが難しくなる。
【0083】
被覆層3は、ガスバリア性積層体10における高度のガスバリア性と透明性を両立させる観点から、ケイ素含有化合物(d)を、カルボキシ基含有重合体(a)に含まれるカルボキシ基のモル数(at)に対するケイ素含有化合物(d)のモル数(dt)のモル比(dt)/(at)が0.15%以上6.10%以下となる量において含有することが好ましい。ここで、モル比(dt)/(at)における(dt)は、ケイ素含有化合物(d)をシランカップリング剤に換算したモル数である。
【0084】
ケイ素含有化合物(d)の添加量が少なすぎ、上記モル比(dt)/(at)が0.15%より低くなると、ガスバリア性積層体10の剥離強度が低くなる傾向がみられる。そのため、層間剥離を防止するための慎重な取り扱いが必要となり、生産性の低下にもつながる。
【0085】
カルボキシ基含有重合体(a)に含まれるカルボキシ基のモル数(at)に対するケイ素含有化合物(d)のモル数(dt)のモル比(dt)/(at)は、上記観点から、0.3%以上であることが好ましく、0.46%以上であることがより好ましく、0.61%以上であることが特に好ましい。
【0086】
一方、ケイ素含有化合物(d)の添加量が多すぎ、上記モル比(dt)/(at)が6.10%より高くなると、ガスバリア性積層体10における透明性が低下する傾向がみられる。また、ケイ素含有化合物(d)はガスバリア性を持たない。そのため、上記モル比(dt)/(at)が6.10%より高くなると、積層体の透明性が低下するだけでなく、ガスバリア性も低下する傾向がみられる。
【0087】
カルボキシ基含有重合体(a)に含まれるカルボキシ基のモル数(at)に対するケイ素含有化合物(d)のモル数(dt)のモル比(dt)/(at)は、上記観点から、4.57%以下であることが好ましく、3.66%以下であることがより好ましく、2.13%以下であることが特に好ましい。
【0088】
被覆層3の膜厚は、透明性とガスバリア性の両立の観点から、230nm以上600nm以下である。ここで被覆層3の膜厚は、具体的には、後述する被覆層の膜厚の測定方法により測定される膜厚である。被覆層3の膜厚は、250nm以上500nm以下であることが好ましく、300nm以上450nm以下であることがより好ましい。
【0089】
<無機蒸着層>
本実施形態に係るガスバリア性積層体10は、基材1と被覆層3との間に無機蒸着層2を備える。これにより、被覆層3を備えるガスバリア性積層体10におけるガスバリア性を更に高めることができ、透明性と高度のガスバリア性の両立が可能となる。
【0090】
無機蒸着層2は、無機酸化物を含む。無機酸化物としては、例えば酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫等が挙げられる。これらの中でも、透明性とガスバリア性の両立の観点から、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム又はそれらのいずれか2種以上の混合物が好ましい。
【0091】
無機蒸着層2の厚さは、例えば、5~100nmの範囲であってよく、10~50nmの範囲であってよい。無機蒸着層2の厚さが5nm以上であることは、均一な薄膜形成の観点から好ましい。ガスバリア材としての薄膜が均一であると、ガスバリア材に求められる機能を充分に果たすことができる。無機蒸着層2の厚さが100nm以下であることは、薄膜のフレキシビリティの観点から好ましい。ガスバリア材においてフレキシビリティが悪いと、折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により亀裂を生じる恐れがある。
【0092】
<基材>
本実施形態に係るガスバリア性積層体10が備える基材1に特に制限はなく、様々な種類のものが使用できる。基材1を構成する材質は、特に限定されず、様々な種類のものが使用でき、例えばプラスチック又は紙が挙げられる。
【0093】
基材1は、単一の材料からなる単層であってもよく、複数の材料からなる多層であってもよい。多層の基材の例としては、プラスチックから構成されるフィルムが紙にラミネートされたものが挙げられる。
【0094】
基材1を構成する材質としては、上記の中でも、様々な形状に成形でき、ガスバリア性を付与することで更に用途が広がることから、プラスチックが好ましい。
【0095】
プラスチックとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12、メタキシリレンアジパミド、及びこれらの共重合体等のポリアミド系樹脂;ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体、及びスチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体等のスチレン系樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;エチレン-ビニルアルコール共重合体;ポリカーボネート;ポリアリレート;再生セルロース;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルケトン;並びにアイオノマー樹脂が挙げられる。
【0096】
ガスバリア性積層体が食品用包装材料に用いられる場合、基材1としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン-6又はナイロン-66からなるものが好ましい。
【0097】
基材1を構成するプラスチックとして、1種を単独で使用してもよく、2種以上をブレンドして使用してもよい。
【0098】
プラスチックには、添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、用途に応じて、顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、及び滑剤等の公知の添加剤から適宜選択できる。添加剤としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0099】
基材1の形態は、特に限定されず、例えば、フィルム、シート、カップ、トレー、チューブ、及びボトルが挙げられる。これらの中でも、フィルムが好ましい。
【0100】
基材1がフィルムである場合、このフィルムは、延伸フィルムであってもよいし、未延伸フィルムであってもよい。
【0101】
フィルムの厚さに特に制限はないが、得られるガスバリア性積層体の機械的強度や加工適性の観点で、1乃至200μmの範囲内にあることが好ましく、5乃至100μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0102】
基材1の表面には、コーティング液を、基材によって弾かれることなく塗布できるようにするために、プラズマ処理、コロナ処理、オゾン処理、火炎処理、又は紫外線(UV)若しくは電子線によるラジカル活性化処理等が施されていてもよい。処理方法は、基材の種類によって適宜選択される。
【0103】
〔他の層〕
本実施形態に係るガスバリア性積層体は、必要に応じて、基材1、無機蒸着層2及び被覆層3以外の他の1以上の層を更に備えていてもよい。
【0104】
例えば、本実施形態に係るガスバリア性積層体は、ガスバリア性コート層として、上述した被覆層3のみを具備するものであってもよいが、被覆層3に加えて他の1以上の層を更に含んでいてもよい。例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、及びアルミニウム等の無機化合物からなる層が、基材の表面に、スパッタリング法又はイオンプレーディング法等により形成されていてもよい。
【0105】
また、本実施形態に係るガスバリア性積層体は、層間の密着性を高めること、あるいは、被覆層形成用コーティング液を無機蒸着層に弾かれずに塗れるようにすることを目的として、基材1と無機蒸着層2との間、あるいは、無機蒸着層2と被覆層3との間に、アンカーコート層を更に備えていてもよい。
【0106】
図2は、本発明の第2実施形態に係るガスバリア性積層体を概略的に示す断面図である。
図2に示すガスバリア性積層体20は、上述した第1実施形態に係るガスバリア性積層体10に対し、基材1と、無機蒸着層2との間にアンカーコート層4を更に備えている。
【0107】
アンカーコート層4は、公知のアンカーコート液を用いて常法により形成することができる。アンカーコート液としては、例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、及びフッ素樹脂等の樹脂を含むものが挙げられる。
【0108】
アンカーコート液は、樹脂に加えて、密着性や耐熱水性を高める目的で、イソシアネート化合物を更に含んでもよい。イソシアネート化合物は、分子中に1以上のイソシアネート基を有するものであればよく、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びトリレンジイソシアネートが挙げられる。
アンカーコート液は、樹脂やイソシアネート化合物を溶解又は分散させるための液体媒体を更に含有してもよい。
【0109】
アンカーコート層4の厚さは特に限定されない。アンカーコート層4の厚さは、例えば、0.01~2μmの範囲内であってよく、0.05~1μmの範囲内であってよい。膜厚が0.01μm未満になると非常に薄いため、アンカーコート層としての性能が充分に発揮されないおそれがある。一方、膜厚が2μm以下であることは、フレキシビリティの観点から好ましい。フレキシビリティが低下すると、外的要因によりアンカーコート層に亀裂を生じるおそれがある。
【0110】
本実施形態に係るガスバリア性積層体は、必要に応じて、被覆層3上に、又は基材1もしくは無機蒸着層2の表面上に、接着剤を介してラミネートされた他の層を更に備えていてもよく、接着性樹脂を押し出しラミネートしてなる他の層を更に備えていてもよい。
【0111】
ラミネートされる他の層は、強度付与、シール性付与、シール時の易開封性付与、意匠性付与、光遮断性付与、及び防湿性付与等の目的に合わせて適宜選択することができ、特に限定されないが、例えば、基材について上述したプラスチックと同様の材質のものを挙げることができる。それ以外にも、紙やアルミ箔等を用いてもよい。
【0112】
ラミネートされる他の層の厚みは、1乃至1000μmの範囲内にあることが好ましく、5乃至500μmの範囲内にあることがより好ましく、5乃至200μmの範囲内にあることが更に好ましく、5乃至150μmの範囲内にあることが特に好ましい。
ラミネートされる他の層は1種でも2種以上でもよい。
【0113】
本実施形態に係るガスバリア性積層体は、必要に応じて、印刷層を更に備えていてもよい。印刷層は、基材上に設けられたコート層上に形成されてもよく、コート層が設けられていない基材の表面上に形成されてもよい。また、他の層がラミネートされる場合は、ラミネートされる他の層の上に形成されてもよい。
【0114】
〔ガスバリア性積層体の製造方法〕
本実施形態に係るガスバリア性積層体は、無機蒸着層を形成する工程、下記に示す被覆層形成用コーティング液を用いて被覆層を形成する工程を含む製造方法により製造することができる。この製造方法は、必要に応じて、アンカーコート層などの他の層を形成する工程および/または印刷層を形成する工程等を更に含むことができる。
【0115】
本実施形態に係るガスバリア性積層体の製造方法の一例として、
図2に示すガスバリア性積層体20の製造方法を以下に説明する。
【0116】
ガスバリア性積層体20の製造方法において、アンカーコート層4は、基材1上に形成される。アンカーコート層4は、上述したアンカーコート液を基材1上に塗工し、形成された塗膜を乾燥することにより形成することができる。アンカーコート液の塗工方法は特に限定されず、オフセット印刷法、グラビア印刷法、シルクスクリーン印刷法等の周知の印刷方式や、ロールコート、ナイフエッジコート、グラビアコートなどの周知の塗布方式を用いて実施できる。形成された塗膜を乾燥することで、溶媒の除去と硬化が進み、アンカーコート層4が形成される。
【0117】
ガスバリア性積層体20の製造方法において、無機蒸着層2は、アンカーコート層4上に形成される。無機蒸着層2の形成方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長法(Chemical vapor deposition;CVD)など種々の方法が知られており、いずれの方法を用いてもよいが、真空蒸着法により形成することが一般的である。
真空蒸着法による真空蒸着装置の加熱手段としては、電子線加熱方式、抵抗加熱方式、誘導加熱方式等が挙げられ、いずれを用いてもよい。
また、無機蒸着層2のアンカーコート層4への密着性及び無機蒸着層2の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を用いることも可能である。
また、無機蒸着層2の透明性を上げるために蒸着の際、酸素ガスなどを吹き込んだりする反応蒸着を行ってもよい。
【0118】
ガスバリア性積層体20の製造方法において、被覆層3は、無機蒸着層2上に形成される。被覆層3は、以下に説明する方法により調製される被覆層形成用コーティング液を無機蒸着層2上に塗工し、形成された塗膜を乾燥することにより形成することができる。
【0119】
・被覆層形成用コーティング液の調製方法
被覆層形成用コーティング液では、溶媒又は分散媒として有機溶媒(e)を使用する。すなわち、このコーティング液は、カルボキシ基含有重合体(a)、多価金属含有粒子(b)、界面活性剤(c)及び有機溶媒を含有し、多価金属含有粒子(b)が分散している分散液である。被覆層形成用コーティング液は、一形態において、更にケイ素含有化合物(d)を含有していることが好ましい。以下、被覆層形成用コーティングが任意成分であるケイ素含有化合物(d)を含有する場合の調製方法について説明する。
【0120】
有機溶媒(e)は、カルボキシ基含有重合体(a)が均一に溶解し且つ多価金属含有粒子が均一に分散するに足る量で用いられる。従って、有機溶媒としては、カルボキシ基含有重合体は溶解するが、多価金属化合物を実質的に溶解せず、それを粒子の形状で分散させることができるものが用いられる。
【0121】
また、有機溶媒(e)としては、一般に、カルボキシ基含有重合体(a)を溶解する極性有機溶媒が用いられるが、極性有機溶媒とともに、極性基(ヘテロ原子又はヘテロ原子を有する原子団)をもたない有機溶媒を併用してもよい。
【0122】
好ましく使用できる有機溶媒(e)としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、及びn-ブタノールなどのアルコール類;ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルリン酸トリアミド、並びにγ-ブチロラクトンなどの極性有機溶媒を挙げることができる。
【0123】
有機溶媒(e)として、上記の極性有機溶媒の他に、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、及びオクタンなどの炭化水素類;アセトン及びメチルエチルケトンなどのケトン類;ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素類;酢酸メチルなどのエステル類;並びにジエチルエーテルなどのエーテル類を適宜用いることができる。極性基を持たないベンゼンなどの炭化水素類は、一般に、極性有機溶媒と併用する。
【0124】
上記のコーティング液は、溶媒又は分散媒として、有機溶媒(e)のみを含んでいてもよいが、水を更に含んでもよい。水を含有させることにより、カルボキシ基含有重合体(a)の溶解性を向上させ、コーティング液の塗工性や作業性を改善することができる。このコーティング液の含水率は、質量分率で、100ppm以上であってもよく、1,000ppm以上であってもよく、1,500ppm以上であってもよく、2,000ppm以上であってもよい。
【0125】
このコーティング液の含水率は、質量分率で、好ましくは50,000ppm以下、より好ましくは10,000ppm以下、更に好ましくは5,000ppm以下である。
【0126】
被覆層形成用コーティング液を調製するには、一方で、カルボキシ基含有重合体(a)を有機溶媒(e)に均一に溶解させた後に、これにケイ素含有化合物(d)を添加し、カルボキシ基含有重合体溶液を調製する。
【0127】
そして、他方で、多価金属含有粒子(b)、界面活性剤(c)、有機溶媒(e)を混合し、必要に応じて分散処理を施すことで分散液を調製する。分散処理は、多価金属含有粒子(b)の平均粒子径が所定の値となるように行われる。分散処理前の混合液中の多価金属含有粒子(b)の平均粒子径が10μm以下である場合は、分散処理は行わなくてもよいが、その場合でも、分散処理を行うことが好ましい。分散処理を行うことで多価金属含有粒子(b)の凝集が解け、コーティング液が安定化すると共に、コーティング液を塗工して得られるガスバリア性積層体の透明性が高まる。更には、コーティング液を塗工し、塗膜を乾燥させたときに、カルボキシ基含有重合体(a)と多価金属含有粒子(b)に由来する多価金属イオンとの架橋形成が進み易くなり、良好なガスバリア性を有するガスバリア性積層体が得られ易い。
【0128】
分散処理の方法としては、高速撹拌機、ホモジナイザー、ボールミル、又はビーズミルを用いる方法が挙げられる。特に、ボールミル又はビーズミルを用いて分散を行うと、高い効率で分散させることができ、それ故、分散状態が安定なコーティング液を比較的短時間で得ることができる。この場合、ボール又はビーズの径は小さいものがよく、0.1乃至1mmであることが好ましい。
【0129】
以上のようにして調製したカルボキシ基含有重合体溶液と多価金属含有粒子(b)の分散液とを混合することにより、コーティング液を作製することができる。なお、上述した調製方法では、ケイ素含有化合物(d)を予めカルボキシル基含有重合体溶液に添加したが、カルボキシル基含有重合体用得液にケイ素含有化合物(d)を添加せず、例えば、カルボキシ基含有重合体溶液と多価金属含有粒子(b)の分散液とを混合する際にケイ素含有化合物(d)を混合してもよい。
【0130】
上記のコーティング液は、上記有機溶媒(e)以外の成分の合計濃度が、好ましくは0.1乃至60質量%、より好ましくは0.5乃至25質量%、特に好ましくは1乃至20質量%の範囲内にあることが、所望の膜厚の塗膜及び被覆層を高い作業性で得る上で好ましい。
【0131】
上記のコーティング液には、必要に応じて、他の重合体、増粘剤、安定剤、紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤、柔軟剤、無機層状化合物(例えば、モンモリロナイト)、及び着色剤(染料、顔料)などの各種添加剤を含有させることができる。
【0132】
コーティング液の塗工方法としては、特に限定されないが、例えば、エアーナイフコーター、ダイレクトグラビアコーター、グラビアオフセット、アークグラビアコーター、トップフィードリバースコーター、ボトムフィードリバースコーター及びノズルフィードリバースコーター等のリバースロールコーター、5本ロールコーター、リップコーター、バーコーター、バーリバースコーター、ダイコーターを用いて塗工する方法が挙げられる。
【0133】
塗膜の乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、自然乾燥による方法や、所定の温度に設定したオーブン中で乾燥させる方法、及び、コーター付属の乾燥機、例えばアーチドライヤー、フローティングドライヤー、ドラムドライヤー、又は赤外線ドライヤー等を用いる方法を挙げることができる。
【0134】
乾燥条件は、乾燥方法等により適宜選択することできる。例えば、オーブン中で乾燥させる方法においては、乾燥温度は、40乃至150℃の範囲内にあることが好ましく、45乃至150℃の範囲内にあることがより好ましく、50乃至140℃の範囲内にあることが特に好ましい。乾燥時間は、乾燥温度によっても異なるが、0.5秒乃至~10分の範囲内にあることが好ましく、1秒乃至5分の範囲内にあることがより好ましく、1秒乃至1分の範囲内にあることが特に好ましい。
【0135】
乾燥中又は乾燥後に、塗膜中に含まれるカルボキシ基含有重合体(a)と多価金属含有粒子(b)とが反応して、イオン架橋構造が導入されると推定される。イオン架橋反応を十分に進行させるには、乾燥後のフィルムを、好ましくは20%以上、より好ましくは40乃至100%の範囲内の相対湿度の雰囲気中、好ましくは5乃至200℃、より好ましくは20乃至150℃の範囲内の温度条件下で、1秒乃至10日程度熟成させることが好ましい。
【0136】
このようにして得られるガスバリア性積層体は、イオン架橋しているため、耐湿性、耐水性、耐熱水性、及び耐水蒸気性に優れている。そして、このガスバリア性積層体は、低湿条件下はもとより、高湿条件下でのガスバリア性にも優れている。このガスバリア性積層体は、JIS K-7126 B法(等圧法)及びASTM D3985に記載された方法に準拠して、温度30℃及び相対湿度70%の条件下で測定した酸素透過度が、好ましくは10cm3/(m2・day・MPa)以下である。
【0137】
<包装材料、包装体及び包装物品>
本実施形態に係る包装材料は、上記のガスバリア性積層体を含むものである。この包装材料は、例えば、物品を包装する包装体の製造に使用する。
【0138】
本実施形態に係る包装体は、上記の包装材料を含むものである。
この包装体は、上記の包装材料からなるものであってもよく、上記の包装材料と他の部材とを含むものであってもよい。前者の場合、包装体は、例えば、上記の包装材料を袋状に成形したものである。後者の場合、包装体は、例えば、蓋体としての上記包装材料と、有底筒状の容器本体とを含んだ容器である。
【0139】
この包装体において、上記の包装材料は、成形品であってもよい。この成形品は、上記の通り、袋などの容器であってもよく、蓋体などの容器の一部であってもよい。包装体又はその一部の具体例としては、製袋品、スパウト付きパウチ、ラミネートチューブ、輸液バッグ、容器用蓋材、及び紙容器が挙げられる。
【0140】
この包装体には、適用される用途に特に制限はない。この包装体は、様々な物品の包装に使用することができる。
【0141】
本実施形態に係る包装物品は、上記の包装体と、これに収容された内容物とを含むものである。
【0142】
上述した通り、上記のガスバリア性積層体は、優れたガスバリア性と透明性を有する。そのため、このガスバリア性積層体を含んだ包装材料及び包装体は、それぞれ、酸素及び水蒸気等の影響により劣化し易い物品のための包装材料及び包装体として、特には食品用包装材料及び食品用包装体として好ましく用いられる。これら包装材料及び包装体は、それぞれ、農薬や医薬などの薬品、医療用具、機械部品、及び精密材料などの産業資材を包装するための包装材料及び包装体としても好ましく用いることができる。
【0143】
上記のガスバリア性積層体は、ボイル処理及びレトルト処理等の加熱殺菌処理を施したときに、ガスバリア性や層間密着性が劣化せず、逆に高まる傾向にある。そのため、これら包装材料及び包装体は、それぞれ、加熱殺菌用包装材料及び加熱殺菌用包装体であってもよい。
【0144】
加熱殺菌用包装材料及び加熱殺菌用包装体は、包装後に加熱殺菌処理が行われる物品の包装に用いられる。
包装後に加熱殺菌処理が行われる物品としては、例えば、カレー、シチュー、スープ、ソース、及び畜肉加工品等の食品が挙げられる。
【0145】
加熱殺菌処理としては、例えば、ボイル処理及びレトルト処理が挙げられる。ボイル処理及びレトルト処理については上掲で説明した通りである。
【実施例】
【0146】
以下に、本発明の具体例を記載する。
<被覆層形成用コーティング液の調製>
各実施例及び各比較例で用いる被覆層用コーティング液を以下の方法で調製した。
(例1:コーティング液1)
カルボキシ基含有重合体を、イソプロパノールに加熱溶解させた。カルボキシ基含有重合体としては、ポリアクリル酸(PAA)(東亜合成(株)製ジュリマー(登録商標)AC-10LP、数平均分子量50,000)を使用した。以上のようにして、ポリアクリル酸を10質量%の濃度で含んだポリアクリル酸溶液を調製した。
【0147】
ポリエーテル燐酸エステル(楠本化成(株)製ディスパロン(登録商標)DA-375、固形分100質量%)1.8gを、イソプロパノール26.2gに溶解させた。次いで、これに、一次粒子の平均径が35nmの酸化亜鉛(堺化学工業(株)製FINEX(登録商標)-30)12gを加えて攪拌した。得られた液を、遊星ボールミル(フリッチュ社製P-7)で1時間分散処理した。この分散処理には、直径0.2mmのジルコニアビーズを使用した。その後、この液からビーズを篩分けて、酸化亜鉛を30質量%の濃度で含んだ分散液(ZnO分散液)を得た。
【0148】
次に、ポリアクリル酸(PAA)溶液50.00gと、酸化亜鉛分散液4.71gと、イソプロパノール9.29gとを混合して、コーティング液1を調製した。このコーティング液1では、ポリアクリル酸(PAA)に含まれるカルボキシル基のモル数(at)対する、酸化亜鉛に含まれる亜鉛のモル数と価数の積(bt)の当量比bt/atは0.5であった。
【0149】
(例2:コーティング液2)
上述したコーティング液1の調製方法に対し、上記酸化亜鉛分散液(ZnO分散液)及びイソプロパノールの添加量を表1に記載の添加量に変更した以外は、コーティング液1と同様の方法により、コーティング液2を調製した。
【0150】
(例3:コーティング液3)
上述したコーティング液1の調製方法に対し、ポリアクリル酸溶液と酸化亜鉛分散液とイソプロパノールの混合工程において、ケイ素含有化合物としてシランカップリング剤(SC剤)(信越化学工業(株)製KBM-403、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)0.10gを添加したこと以外は、コーティング液1と同様の方法により、コーティング液3を調製した。
【0151】
(例4:コーティング液4)
上述したコーティング液2の調製方法に対し、ポリアクリル酸溶液と酸化亜鉛分散液とイソプロパノールの混合工程において、ケイ素含有化合物としてシランカップリング剤(SC剤)(信越化学工業(株)製KBM-403、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)0.1gを添加したこと以外は、コーティング液2と同様の方法により、コーティング液4を調製した。
【0152】
(例C1:コーティング液C1)
上述したコーティング液3の調製方法に対し、上記酸化亜鉛分散液及びイソプロパノールの添加量を表1に記載の添加量に変更した以外は、コーティング液3と同様の方法により、コーティング液C1を調製した。
【0153】
(例C2:コーティング液C2)
上記酸化亜鉛分散液をイソプロパノールで表1に記載の配合により希釈し、コーティング液C2を調整した。
【0154】
【0155】
<ガスバリア性積層体の製造>
(アンカーコート液の調製)
希釈溶媒(酢酸エチル)中、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン1質量部に対し、アクリルポリオール5質量部を混合し、攪拌した。ついで、イソシアネート化合物としてトリレンジイソシアネート(TDI)を、アクリルポリオールのOH基に対しNCO基が等量となるように加えた。得られた混合溶液を2質量%の濃度に上記希釈溶媒で希釈することによりアンカーコート液1を得た。
アクリルポリオールとしては、三菱レイヨン(株)製、GS-5756を使用した。
【0156】
[実施例1]
2軸延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ株式会社製、商品名:ME-1、厚さ20μm)の一方の面に、アンカーコート液1を、乾燥後の厚さが0.2μmになるようにバーコーターを用いて塗工し、60℃で1分間乾燥させることによってアンカーコート層を形成した。
【0157】
このアンカーコート層上に、アルミナを蒸着して厚さ20nmの無機蒸着層を形成した。
【0158】
この無機蒸着層上にコーティング液1を、バーコーター(ワイヤーバー)を用いて塗布した。この塗膜を50℃のオーブンで1分間乾燥させて、膜厚400nmの被覆層を形成した。以上のようにして積層体1を得た。
【0159】
なお、得られた積層体1から被覆層を分離し、後掲の方法で赤外吸収スペクトルのピーク高さ比α/α+βを測定した。また、製膜後の積層体1を、下記条件で湿熱処理した後の被覆層についても、同様に赤外吸収スペクトルのピーク強度を測定した。
湿熱処理条件:120℃、30分、圧力0.2MPaでのレトルト処理。
【0160】
[実施例2~4、比較例1]
実施例1に対し、被覆層の形成に使用するコーティング液1を表2に記載のコーティング液に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、積層体2~4及びC1を製造した。積層体1と同様、これら積層体についても、上記湿熱処理前と湿熱処理後について被覆層の赤外吸収スペクトルのピーク強度を測定した。
【0161】
[比較例2]
実施例1に対して、被覆層の形成にコーティング液C1とC2を使用し2層の被覆層を形成した以外は、実施例1と同様の方法により、積層体C2を製造した。すなわち、無機蒸着層上にコーティング液C1を、バーコーター(ワイヤーバー)を用いて塗布し、得られた塗膜を50℃のオーブンで1分間乾燥させて第1の被覆層を形成した。次に、第1の被覆層上にコーティング液C2を同様に塗布し、同様の条件で乾燥して第2の被覆層を形成した。積層体1と同様、積層体C2についても、上記湿熱処理前と湿熱処理後について第1の被覆層及び第2の被覆層の赤外吸収スペクトルのピーク強度を測定した。
【0162】
<赤外吸収スペクトルの測定>
上記湿熱処理前と湿熱処理後の各積層体から被覆層を分離し、被覆層の固形物を得た。この被覆層の固形物をフーリエ変換赤外分光装置(FT-IR:日本分光製(FT/IR-4600))による全反射測定法(ATR)によって測定して赤外吸収スペクトルを得た。得られた赤外吸収スペクトルから、1490~1659cm-1の範囲内の-COO-に帰属する最大ピーク高さ(極大吸光度)(α)と、1660~1750cm-1の範囲内の-COOHに帰属する最大ピーク高さ(極大吸光度)(β)についての比α/α+βを求めた。
【0163】
<耐内容物性>
各積層体を折りたたみ、三辺を熱接着して袋を作製した。この袋内に、内容物として水、4質量%酢酸、又は6質量%酢酸を150g充填し、残る一辺を熱接着により封止することにより、内容物が充填された4方シール袋を作製した。得られた4方シール袋を、120℃、30分、0.2MPaの条件で湿熱処理した。この湿熱処理後の各試料について、以下に説明する方法で酸素透過度、ラミネート強度、及び保存安定性を測定/評価した。結果を表2に示す。
【0164】
<酸素透過度(Oxygen Transmission Rate:OTR)>
各試料の酸素透過度(OTR)を、Modern Control社製の酸素透過試験器OX-TRAN(登録商標)2/20を用いて、温度30℃、相対湿度70%の条件下で測定した。測定方法は、JIS K-7126 B法(等圧法)、及びASTM D3985に準拠し、測定値は、単位cc/m2/day/atmで表記した。
【0165】
<ラミネート強度>
各試料の被覆層側の表面に、ドライラミネーション加工により、ポリエステルウレタン系接着剤(商品名:タケラックA-969、タケネートA-5;三井化学社製)を介して、厚さ30μmの未延伸ポリプロピレンフィルムCPP(casted polypropylene)(商品名:CPP GLC、三井化学東セロ社製)をラミネートした。これを50℃にて48時間養生し、積層体フィルムを得た。この積層体フィルムを15mm幅の短冊状にカットし、テンシロン引張試験機(商品名:テンシロンRTC-1250、オリエンテック社製)により、CCPから積層体フィルムを300mm/分の速度で90°剥離(T型剥離)させて、ラミネート強度(N/15mm)を測定した。
【0166】
<保存安定性>
各試料を、温度40℃、湿度90%の環境下にて1か月保存した後、上記方法にて酸素透過度(OTR)及びラミネート強度を測定した。
【0167】
【0168】
表2から分かるように、実施例1~4のガスバリア性積層体は、湿熱処理による内容物の成分に起因する劣化がなく、耐内容物性、ガスバリア性、耐層間剥離性及び保存安定性のすべてに優れていることがわかる。
【0169】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0170】
1・・・基材2・・・無機蒸着層3・・・被覆層4・・・アンカーコート層10、20・・・ガスバリア性積層体
【要約】
【課題】 レトルト処理やボイル処理等の湿熱処理に対する耐内容物性に優れ、湿熱処理が施されてもガスバリア性の低下やデラミネーションの発生が抑制され、更に内容物の保存安定性に優れるガスバリア性積層体、並びに、これを用いた包装材料、包装体及び包装物品を提供すること。
【解決手段】 基材と、上記基材の少なくとも一方の面上に、無機酸化物を含む無機蒸着層と、カルボキシ基含有重合体(a)、多価金属含有粒子(b)及び界面活性剤(c)を含む被覆層とをこの順序で備えたガスバリア性積層体が提供される。このガスバリア性積層体において、上記被覆層の赤外吸収スペクトルにおける、1490~1659cm
-1の範囲内の-COO
-に帰属する最大ピーク高さ(α)と、1660~1750cm
-1の範囲内の-COOHに帰属する最大ピーク高さ(β)のα/α+βで表される比は0.3以上である。
【選択図】
図1