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  • 特許-積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20220614BHJP
   B32B 27/26 20060101ALI20220614BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20220614BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B32B27/00 D
B32B27/26
B32B7/12
B32B27/34
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021556738
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2021034297
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2020159802
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮下 正範
(72)【発明者】
【氏名】森 健太郎
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-163855(JP,A)
【文献】特開2019-127033(JP,A)
【文献】特開平05-338084(JP,A)
【文献】特開2006-262687(JP,A)
【文献】特表2014-529842(JP,A)
【文献】国際公開第2017/199703(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H02K 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムA、フィルムB、フィルムCが接着層を介してこの順に有する積層体であって(フィルムA、フィルムBの間に有する接着層を接着層AB、フィルムB、フィルムCの間に有する接着層を接着層BCとする)、
前記フィルムBの150℃30分における熱収縮率の最大値が0.1%以上3.0%以下であって、
前記接着層ABおよび接着層BCのマルテンス硬さが1.0N/mm以上4.0N/mm以下であって、
前記積層体をオートマチックトランスミッションフルードに浸漬して150℃、10時間の熱処理した際の、前記接着層ABを介したフィルムAとフィルムBの接着面積率、前記接着層BCを介したフィルムBとフィルムCの接着面積率がいずれも95%以上であり、
前記フィルムAおよびフィルムCのいずれかが芳香族ポリアミド繊維からなるシート、ポリフェニレンサルファイドフィルムから選ばれる少なくとも1種であり、他のフィルムがポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムから選ばれる少なくとも1種であり、
フィルムAの厚さは9μm以上125μm以下であり、
フィルムBの厚みは75μm以上300μm以下あり
フィルムCの厚さは9μm以上125μm以下である、積層体。
【請求項2】
前記接着層ABおよび接着層BCの表面自由エネルギーの分散成分が20mN/m以上40mN/m以下であって、極性成分と水素結合成分の和が5mN/m以上20mN/m以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記接着層ABおよび接着層BCが、活性水素基を有するポリエーテル樹脂とイソシアネート樹脂、および/または活性水素基を有するポリエステル樹脂とイソシアネート樹脂を主成分とする、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記イソシアネート樹脂が、イソホロンジイソシアネートのヌレート変性体を主成分とする、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記ポリエーテル樹脂および/またはポリエステル樹脂の活性水素基が水酸基であり、
水酸基の反応当量比(NCO/OH)が0.7以上0.95以下である、請求項3または4に記載の積層体。
【請求項6】
前記フィルムAおよびフィルムCが芳香族ポリアミド繊維からなるシートであり、フィルムBがポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムから選ばれる少なくとも1種である、請求項1からのいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記フィルムAおよびフィルムCがポリフェニレンサルファイドフィルムであり、フィルムBがポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項1からのいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
モータの電気絶縁フィルムに用いられる請求項1からのいずれかに記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関し、モータの電気絶縁として好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車の駆動モータや、コンプレッサー用モータ(業務用や家庭用、車載用エアコン用途)の絶縁材として、従来から電気絶縁性や機械強度に優れたポリエステルフィルムや、更に耐熱性、耐薬品性などの特性を高めた、アラミド不織布やポリフェニレンレンサルファイドフィルム、あるいはこれらを積層した積層体が用いられてきた。
【0003】
例えば比較的安価なポリエステルフィルムに、耐久性が優れたアラミド不織布、ポリフェニレンサルファイドフィルムを積層した積層体の検討がなされており、特許文献1にはポリエチレンテレフタレートフィルムの両面にポリフェニレンサルファイドフィルムが接着層を介して積層された積層体、特許文献2にはポリエチレンテレフタレートフィルムの両面にアラミド不織布が接着層を介して積層された積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-163948号公報
【文献】特開2006-262687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、モータの小型化、高出力化によって作動温度が上昇しており、モータに用いられる絶縁材に対しては、高温環境下における耐久性の向上が要求されている。また、作動温度上昇に伴いモータにオートマチックトランスミッションフルードと呼ばれるオイルをかけて冷却する油冷式のモータが増えており、絶縁材に対してオートマチックトランスミッションフルードに対する耐久性(耐油性)の向上も要求されている。加えて、オートマチックトランスミッションフルードには微量の水分が含まれており、耐湿熱性も要求されている。それと同時に製品の普及につれて製造コスト低減の要請も高く、安価でかつ耐久性に優れた絶縁体に対する要請があり、種々の検討がなされている。
【0006】
特許文献1、2の接着層を用いた積層体は、電気絶縁性や機械強度の点で有用であったが、最近では、高温環境下に曝された場合における、接着層の耐熱性が高く、接着層の溶け出しが少ない、さらに有用な積層体の開発が望まれてきている。また、接着層の凝集力を向上した積層体やフィルムの熱収縮によって接着層とフィルム界面にせん断応力が加わることで発生する剥離を抑制した積層体も要求されてきている。また、オートマチックトランスミッションフルードへ浸漬した際に、接着層の耐油性や、その中に含まれる微量な水分に対する耐湿熱性が高く、接着層の加水分解や油の膨潤によって剥離することが抑制された積層体も求められてきている。接着層の溶け出しや剥離が抑制されていることにより積層体、および積層体を用いたモータの電気絶縁性の低下が抑制されることが期待されてきている。
【0007】
本発明はかかる要求に対し、接着性、加工性、耐熱性、耐湿熱性、耐油性に優れた積層体を提供することを課題とする。さらに詳しくは、高温の過酷な環境下でも、モータの電気絶縁として好適に用いられるものを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の好ましい一態様は、下記の構成からなる。
(1) フィルムA、フィルムB、フィルムCが接着層を介してこの順に有する積層体であって(フィルムA、フィルムBの間に有する接着層を接着層AB、フィルムB、フィルムCの間に有する接着層を接着層BCとする)、
前記フィルムBの150℃30分における熱収縮率の最大値が0.1%以上3.0%以下であって、
前記接着層ABおよび接着層BCのマルテンス硬さが1.0N/mm以上4.0N/mm以下であって、
前記積層体をオートマチックトランスミッションフルードに浸漬して150℃、10時間の熱処理した際の、前記接着層ABを介したフィルムAとフィルムBの接着面積率、前記接着層BCを介したフィルムBとフィルムCの接着面積率がいずれも95%以上である、積層体。
(2) 前記接着層ABおよび接着層BCの表面自由エネルギーの分散成分が20mN/m以上40mN/m以下であって、極性成分と水素結合成分の和が5mN/m以上20mN/m以下である、(1)に記載の積層体。
(3) 前記接着層ABおよび接着層BCが、活性水素基を有するポリエーテル樹脂とイソシアネート樹脂、および/または活性水素基を有するポリエステル樹脂とイソシアネート樹脂を主成分とする、(1)または(2)に記載の積層体。
(4) 前記イソシアネート樹脂が、イソホロンジイソシアネートのヌレート変性体を主成分とする、(3)に記載の積層体。
(5) 前記ポリエーテル樹脂および/またはポリエステル樹脂の活性水素基が水酸基であり、
水酸基の反応当量比(NCO/OH)が0.7以上0.95以下である、(3)または(4)に記載の積層体。
(6) 前記フィルムAおよびフィルムCのいずれかが芳香族ポリアミド繊維からなるシート、ポリフェニレンサルファイドフィルムから選ばれる少なくとも1種であり、他のフィルムがポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムから選ばれる少なくとも1種である、(1)から(5)のいずれかに記載の積層体。
(7) 前記フィルムAおよびフィルムCが芳香族ポリアミド繊維からなるシートであり、フィルムBがポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムから選ばれる少なくとも1種である、(1)から(6)のいずれかに記載の積層体。
(8) 前記フィルムAおよびフィルムCがポリフェニレンサルファイドフィルムであり、フィルムBがポリエチレンテレフタレートフィルムである、(1)から(6)のいずれかに記載の積層体。
(9) モータの電気絶縁フィルムに用いられる(1)から(8)のいずれかに記載の積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接着性、加工性、耐油性、耐熱性、耐湿熱性を満足する積層体を得ることができ、高温環境下でもモータの電気絶縁として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施態様に係る積層体の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明の積層体について説明する。
【0012】
本発明の積層体の好ましい一態様は、フィルムA、フィルムB、フィルムCが接着層を介してこの順に有する積層体(フィルムA、フィルムBの間に有する接着層を接着層AB、フィルムB、フィルムCの間に有する接着層を接着層BCとする)である。本発明の積層体はモータの電気絶縁フィルムとして好適に用いることができる。モータの電気絶縁フィルムとして用いる場合、フィルムAおよびフィルムCは、モータの発熱部分であるコイルと接するため耐熱性が要求される。フィルムBは、同様に耐熱性が要求され、また、コイルとモータ外殻材料との電気絶縁に加え、後述する成型加工に必要な機械強度、並びに製造コストとのバランスが要求される。また、接着層は、各フィルム同士の接着性、特に耐久性試験で剥離が無いことが要求される。
【0013】
本発明の積層体は、前記フィルムBの150℃30分における熱収縮率の最大値が0.1%以上3.0%以下であることが重要である。150℃で30分間の熱処理を行った後の熱収縮率の最大値は、以下の方法により測定することができる。先ず、任意の方向を長辺とする20mm×150mmのサンプルを採取し、150℃で30分間の熱処理を行った後、JIS C 2151(2006)に記載の方法により長辺方向の寸法変化を測定する。次いで、先のサンプルの長辺方向より右に5°回転させて得られる直線を長辺とする20mm×150mmのサンプルを採取して同様の測定を行い、これを最初のサンプルの長辺方向との角度が175°となるまで繰り返す。得られた全ての値より最も大きな値を熱収縮率の最大値とする。なお、熱収縮率が0.0%であることは、熱処理の前後で寸法の変化がないことを意味する。また、加熱によりフィルムBが膨張する場合は、その熱収縮率はマイナス表記で表すものとする。150℃で30分間の熱処理を行った後の熱収縮率の最大値が3.0%より大きい場合、収縮が大きいために接着剤と各フィルムの界面でせん断応力が強くかかり、接着層と各フィルム界面で剥離が発生することがある。熱収縮率の最大値を0.1%未満とする場合、主にアニール処理(熱処理)を長時間行うことが必要になるため、熱負荷が大きくなりすぎてフィルムBの平滑性が低下し、接着層を介してフィルムA、およびフィルムCと貼り合せる際に、接着剤との接触面積が低下して密着強度が低下することがあることから、熱収縮率の最大値の下限は0.1%である。上記同様の観点から、前記フィルムBの150℃30分における熱収縮率の最大値が0.1%以上2.3%以下であることがより好ましく、当該最大値が0.1%以上1.5%以下であることがさらに好ましい。
【0014】
フィルムBの熱収縮率の最大値を調整する方法としてはアニール処理が挙げられる。アニール処理は、例えばフィルムBをオーブンで加熱することにより行うことができる。アニール処理における温度は150~180℃が好ましく、また、アニール処理を行う時間は10~60秒が好ましい。フィルムBは、取扱が容易な大きさに切断してからアニール処理をしても、ロールから巻き出してオーブンを通過させてアニール処理をしてもよいが、連続処理が可能で生産性に優れることから、ロールから巻き出してオーブンを通過させる方法が好ましい。
【0015】
本発明の積層体は、接着層AB、および接着層BCのマルテンス硬さが1.0N/mm以上4.0N/mm以下であることが重要である。マルテンス硬さとは、ISO 14577準拠のインデンテーション試験法にて測定および算出を行い、測定の際、超微小硬さ試験システム(商品名:“ピコデンター”(登録商標)HM500、株式会社フィッシャー・インストルメンツ社製)を用いて測定することができる。この測定方法において、圧子は、ビッカース圧子であって、ダイヤモンド正四角錘形状で、かつ最大径400μmのものを用いることができる。なお、接着層の厚みによる依存をなくすため、押し込み荷重を0.1mNと小さく設定し、押し込み深さをおおよそ1μmとなるように設定する。
【0016】
マルテンス硬さが1.0N/mmより小さい場合、接着層の凝集力および耐熱性が不十分であり、モータの電気絶縁フィルムとして用いる場合、モータの温度が上昇した際に接着剤部分の発泡、溶出が起こり、モータの電気絶縁性が低下する可能性がある。4.0N/mmより大きい場合、接着層の凝集力が高すぎ、基材フィルムへの追従性が劣るため、フィルムAとフィルムB、およびフィルムBとフィルムCの十分な密着強度が得られない可能性がある。上記同様の観点から、接着層AB、および接着層BCのマルテンス硬さが1.5N/mm以上4.0N/mm以下であることがより好ましい。マルテンス硬さは、後述する活性水素基を有するポリエーテル樹脂やポリエステル樹脂の種類、およびイソシアネート樹脂の種類や配合量を変えることで調整することができる。
【0017】
本発明の積層体は、オートマチックトランスミッションフルードに浸漬して150℃、10時間の熱処理した際の、前記接着層ABを介したフィルムAとフィルムBの接着面積率、前記接着層BCを介したフィルムBとフィルムCの接着面積率がいずれもが95%以上であることが重要である。接着面積率は以下の方法で測定する。先ず、100mm×100mmの積層体サンプルを採取し、オートマチックトランスミッションフルードに浸漬して150℃、10時間の熱処理を行う。次いで、熱処理後のサンプルの質量を測定した後、フィルム間で剥離している箇所、フィルム間で気泡が発生している箇所を、フィルムA、フィルムB、フィルムCを含むように厚み方向に切り取る。切り取った後のサンプルの質量を測定して切り取り前後の比率を接着面積率とする。ここで、オートマチックトランスミッションフルード(以下、オートフルードと略すことがある)とは、自動車用トランスミッションの潤滑、冷却、洗浄に使われるオイルのことを指す。オートフルードは、一般的に使用されているものであれば特に限定されるものではなく、基油に各種添加剤が配合されたものが一般的である。基油は、鉱油系基油、合成油系基油、またはこれらの混合物が一般的である。添加剤成分としては、粘度調整剤、摩擦調整剤等が挙げられる。オートフルードとしては例えば、マチックフルードS(日産自動車社製)、オートフルードWS(トヨタ自動車社製)、ATF DW-1(本田技研工業社製)などを用いることができる。
【0018】
積層体をオートマチックトランスミッションフルード中に浸漬した状態で150℃、10時間の熱処理後の、前記接着層を介した各フィルムの接着面積率が95%未満の場合、接着層部分の発泡、溶出によって、各フィルムとの間で剥離が発生することで積層体の電気絶縁性が低下し、モータの電気絶縁性が低下する可能性がある。
【0019】
本発明の積層体は、フィルムBの150℃30分における熱収縮率の最大値が0.1%以上3.0%以下であって、接着層のマルテンス硬さが1.0N/mm以上4.0N/mm以下であって、積層体をオートマチックトランスミッションフルードに浸漬して150℃、10時間の熱処理した際の、前記接着層ABを介したフィルムAとフィルムBの接着面積率、前記接着層BCを介したフィルムBとフィルムCの接着面積率がいずれも95%以上であることが重要である。これらを全て満たすことによって、各フィルム間の密着性を確保しながら接着層に十分な凝集力と耐熱性、耐油性を付与できるため、高温環境下のオートフルード中に曝されても各フィルム、接着層間で剥離が発生せず、電気絶縁性を確保できる。
【0020】
接着面積率の観点から、フィルムBの150℃30分における熱収縮率の最大値と接着層のマルテンス硬さの好ましい範囲としては、熱収縮率の最大値をY、接着層のマルテンス硬さをXとして、以下の式を満たすことが好ましい。
Y≦6.3X-6.9。
【0021】
本発明の積層体は、前記接着層ABおよび接着層BCの表面自由エネルギーの分散成分が20mN/m以上40mN/m以下であって、極性成分と水素結合成分の和が5mN/m以上20mN/m以下であることが好ましい。言い換えると、前記接着層ABの表面自由エネルギーの分散成分が20mN/m以上40mN/m以下であり、前記接着層BCの表面自由エネルギーの分散成分が20mN/m以上40mN/m以下であり、前記接着層ABの極性成分と水素結合成分の和が5mN/m以上20mN/m以下であり、前記接着層BCの極性成分と水素結合成分の和が5mN/m以上20mN/m以下であることが好ましい。ここで表面自由エネルギーの値は表面自由エネルギーおよびその各成分である分散成分、極性成分、水素結合成分の値が既知の4種の液体として、水、エチレングリコール、ホルムアミド、ヨウ化メチレンを用い、接触角計CA-D型(協和界面科学(株)製)にて、各液体のフィルム上での接触角(θ)から得られる。接触角の値と各液体の分散成分、極性成分、水素結合成分についての固有値(Panzerによる方法IV(日本接着協会誌vol.15、No.3、p96に記載)による)から、拡張Fowkes式とYoungの式より導かれる下記式を用いて該接着層ABおよび接着層BCの表面についての分散成分、極性成分、水素結合成分の値を求める。
(γSd・γLd)1/2+(γSp・γLp)1/2+(γSh・γLh)1/2=(1+cosθ)/2
ここで、γLd、γLp、γLhは、それぞれ測定液の分散成分、極性成分、水素結合成分の各成分の固有値(Panzerによる方法IV(日本接着協会誌vol.15、No.3、p96に記載)による)を表し、θは測定面上での測定液の接触角の平均値を表し、また、γSd、γSp、γShは、それぞれ接着層ABおよび接着層BCの表面の分散成分、極性成分、水素結合成分の各成分の値を表す。固有値およびθを上記の式に代入して得られた連立方程式を解くことにより、測定面の3成分の値を求める。求められた分散成分、極性成分、水素結合成分の各成分の値の和が表面自由エネルギーの値となる。
【0022】
前記接着層ABおよび接着層BCの表面自由エネルギーの分散成分が20mN/m未満、および極性成分と水素結合成分の和が20mN/mより大きい場合、接着層の疎水性が十分に得られず、オートフルードに微量に含まれる水分によって接着層の加水分解や膨潤によって十分な耐久性が得られないことがある。分散成分が40mN/mより大きく、極性成分と水素結合成分の和が5mN/m未満の場合、接着層の疎水性が高く、オートフルードの主成分である鉱油との親和性が高くなり、接着層がオートフルードによって膨潤してフィルムの剥離が起きる可能性がある。また、接着面積率の観点から、前記接着層ABおよび接着層BCの表面自由エネルギーの分散成分が39.8mN/m以下、かつ極性成分と水素結合成分の和が5.0mN/m以上であることがより好ましい。
接着層ABおよび接着層BCの分散成分、極性成分、水素結合成分は、後述する活性水素基を有するポリエーテル樹脂やポリエステル樹脂の種類、およびイソシアネート樹脂の種類や配合量を変えることで調整することができる。
【0023】
本発明の積層体は、接着層ABおよび接着層BCが、活性水素基を有する樹脂とイソシアネート樹脂を有することが好ましい。活性水素基を有する樹脂としては、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等があげられるが、高温高湿環境下において、ポリマー主鎖の加水分解を抑制でき、加水分解に対する耐久性が高いという観点からポリエーテル樹脂、および/または、耐熱性を有するという観点からポリエステル樹脂であることが好ましく、ポリエーテル樹脂またはポリエーテル樹脂であることがより好ましい。接着層の凝集力、および耐熱性向上の観点から接着層に架橋構造を付与するため、活性水素基と反応性が高いイソシアネート樹脂を含むことが好ましい。ここで活性水素基とは、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基及び1級若しくは2級のアミノ基などの活性水素を有する基を指し、イソシアネート樹脂との反応性が高い水酸基が好ましい。また、前記接着層ABおよび接着層BCが、活性水素基を有するポリエーテル樹脂とイソシアネート樹脂、および/または活性水素基を有するポリエステル樹脂とイソシアネート樹脂を主成分とすることがより好ましく、前記接着層ABおよび接着層BCが、活性水素基として水酸基を有するポリエーテル樹脂とイソシアネート樹脂、および/または活性水素基として水酸基を有するポリエステル樹脂とイソシアネート樹脂を主成分とすることがさらに好ましく、前記接着層ABおよび接着層BCが、活性水素基として水酸基を有するポリエーテル樹脂とイソシアネート樹脂、または活性水素基として水酸基を有するポリエステル樹脂とイソシアネート樹脂を主成分とすることが特に好ましい。
【0024】
なお、活性水素基を有するポリエーテル樹脂とイソシアネート樹脂を主成分とすること、とは当該層の原料固形分100質量%において活性水素基を有するポリエーテル樹脂とイソシアネート樹脂の含有量の合算値が50質量%超過である場合をいう。
【0025】
活性水素基を有するポリエステル樹脂とイソシアネート樹脂を主成分とすること、とは当該層の原料固形分100質量%において活性水素基を有するポリエステル樹脂とイソシアネート樹脂の含有量の合算値が50質量%超過である場合をいう。
【0026】
なお、活性水素基を有するポリエーテル樹脂とイソシアネート樹脂、および活性水素基を有するポリエステル樹脂とイソシアネート樹脂を主成分とすること、とは当該層の原料固形分100質量%において、活性水素基を有するポリエーテル樹脂、活性水素基を有するポリエステル樹脂およびイソシアネート樹脂の含有量の合算値が50質量%超過である場合をいう。
【0027】
活性水素基を有するポリエーテル樹脂としては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン等のオキシラン化合物を、例えば、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の低分子量ポリオールを開始剤として重合して得られるポリエーテルポリオール等が挙げられる。また、2官能の他、3官能以上のものを用いることができる。また、官能基数の異なるものを複数組み合わせて用いることもできる。中でも、炭素数が3または4の繰り返し単位を有するポリアルキレングリコールおよびアルカンジオールモノマーと、有機ジイソシアネートとの反応を、所定の比率で行って合成したもの、すなわちポリエーテルポリウレタンポリオールであることが好ましい。炭素数が1または2の繰り返し単位を有するポリエーテルポリウレタンポリオールの場合、親水性が高く、水分を吸収して膨潤し易い傾向にあり、結果として耐湿熱性に劣ることがある。炭素数が5以上の繰り返し単位を有するポリエーテルポリウレタンポリオールは、結晶性が高いため、かかるポリエーテルポリウレタンポリオールを作製するのは困難である場合がある。
【0028】
ポリエーテルポリウレタンポリオールの合成に用いるポリアルキレングリコールとしては、例えば、いずれも繰り返し単位中の炭素数が3であるポリトリメチレングリコールおよびポリプロピレングリコールや、いずれも繰り返し単位中の炭素数が4であるポリテトラメチレングリコールおよびポリブチレングリコール等が挙げられる。これらの中でも、ポリテトラメチレングリコールおよびポリプロピレングリコールのうちの少なくとも一方を含むポリアルキレングリコールが好適に用いられ、ポリテトラメチレングリコールを含むポリアルキレングリコールより好適に用いられる。ポリテトラメチレングリコールは、特に、耐水性が高く、適度な結晶性を有していることに加えて、高い耐湿熱性を発揮するためである。
【0029】
また、ポリエーテルポリウレタンポリオールの合成に用いる有機ジイソシアネートとしては、イソシアネート基が芳香環に直接結合していない脂肪族ジイソシアネートもしくは脂環族ジイソシアネートを用いることが好ましい。脂肪族ジイソシアネートもしくは脂環族ジイソシアネートは、熱による劣化が起きても、多量体化(例えば、二量体化)し難いため、経時的な変色(黄色に変色)を防止することができる。
【0030】
活性水素基を有するポリエーテル樹脂は、重量平均分子量が35,000~70,000の範囲であることが好ましい。重量平均分子量が35,000未満である場合、接着層組成物は、その初期凝集力が不十分となり、ポリエチレンテレフタレートフィルムとポリフェニレンサルファイドフィルムを接着する際にフィルムの間で浮きを生じる場合がある。一方、重量平均分子量が70,000を上回った場合、接着層組成物の初期凝集力は十分であるが、粘度が高くなり過ぎ、塗工方法が制限される場合がある。
【0031】
活性水素基を有するポリエステル樹脂としては、脂肪族系ジカルボン酸(例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、アゼライン酸など)および/または芳香族系ジカルボン酸(例えば、イソフタル酸、テレフタル酸など)と、低分子量グリコール(例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール,1,4-ビスヒドロキシメチルシクロヘキサンなど)と、を縮重合したポリエステルポリオールが例示される。
【0032】
このようなポリエステルポリオールの具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリエチレン/ブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペートジオール、ポリ-3-メチルペンタンアジペートジオール、ポリブチレンイソフタレートジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリ-3-メチルバレロラクトンジオールなどを挙げることができる。
【0033】
イソシアネート樹脂としては、イソシアネート基を分子内に複数有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。イソシアネート樹脂の例としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネートなどのポリイソシアネート化合物等が挙げられる。また、これらイソシアネート樹脂は単独で用いても二種以上の混合物として用いてもよい。また、アロファネート変性体、ビューレット変性体、ヌレート変性体などの変性体として用いることも可能である。中でも、適度な柔軟性で密着性に優れながら、疎水性並びに凝集力に優れて耐湿熱性、耐熱性が向上できるイソホロンジイソシアネートのヌレート変性体が好ましく、前記イソシアネート樹脂が、イソホロンジイソシアネートのヌレート変性体を主成分とすることがより好ましい。前記イソシアネート樹脂が、イソホロンジイソシアネートのヌレート変性体を主成分とすること、とは接着層原料におけるイソシアネート成分100質量%のうち、イソホロンジイソシアネートのヌレート変性体を50質量%超過有することをいう。
【0034】
イソシアネート樹脂の配合比としては、イソシアネート樹脂のイソシアネート基と活性水素基である水酸基との反応当量比(NCO/OH)が、0.7以上0.95以下であることが好ましい。0.7未満の場合、イソシアネート樹脂での架橋が不十分となり、耐熱性が低下することがある。0.95より多い場合、接着剤の凝集力が高くなりすぎ、接着剤が硬くなりすぎるため、フィルム同士の密着強度が低下することがある。
【0035】
本発明の接着層は、活性水素基を有するポリエーテル樹脂、および/またはポリエステル樹脂の活性水素基が水酸基であり、ヌレート変性体のイソホロンジイソシアネート樹脂を含み、水酸基の反応当量比(NCO/OH)が0.7以上0.95以下であることが好ましい。これらを全て満たすことによって、接着層に十分な凝集力と耐熱性を付与しながら、樹脂骨格として耐湿熱性に優れるため、高温高湿環境下に曝されても各フィルム、接着剤間で剥離が発生せず、電気絶縁性を確保できる。また、オートマチックトランスミッションフルードに微量に含まれる水分に対しても耐久性を向上でき、耐湿熱性と耐油性の双方を付与することができる。なお、上記態様のなかでも活性水素基を有するポリエーテル樹脂、またはポリエステル樹脂の活性水素基が水酸基であり、ヌレート変性体のイソホロンジイソシアネート樹脂を含み、水酸基の反応当量比(NCO/OH)が0.7以上0.95以下であることがより好ましい。
【0036】
接着層は、ロールコート法、グラビアロールコート法、及びキスコート法等のコート法、あるいは印刷法等によって、各フィルム上に接着層を含む塗材を塗布して乾燥させることにより形成させることができる。接着層の塗布量は、乾燥状態の固形成分換算で1g/m~30g/mが好ましく、3g/m~20g/mがより好ましい。1g/m未満の場合、接着層の凝集力が不十分になり、密着性が劣ることがある。30g/mを超える場合、接着層の収縮応力が高すぎることで、ロール状に積層体を巻き取った際のロール内部の応力が大きくなりすぎ、シワが発生することがある。また、スリットや打ち抜き断裁加工で露出した断面の接着層部分に、断裁加工時の屑が付着することで、生産性が低下することがある。また、経済性に劣ることがある。フィルムAおよびフィルムBおよびフィルムCを接着層で貼り合せることによって本発明の積層体を得ることができる。
【0037】
各種接着層は、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて、耐熱安定剤、耐酸化安定剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、有機系/無機系の易滑剤、有機系/無機系の微粒子、充填剤、核剤、染料、カップリング剤、密着付与剤等の添加剤を一種類以上含有してもよい。
【0038】
本発明の積層体の製造方法として、例えば次の方法を好ましく取ることができる。フィルムAに、接着剤を塗布・乾燥して接着層ABを形成し、次に、フィルムBを接着層ABと接するように積層し、中間積層体を作製する。した。次いで、フィルムCに接着剤を塗布・乾燥して接着層BCを形成する。中間積層体のフィルムBの面を、フィルムCの接着層BCと接するように積層し、積層体を得る。
【0039】
ここで、接着層AB用接着剤および接着層BC用接着剤は、その固形分において活性水素基を有するポリエーテル樹脂とイソシアネート樹脂、および/または活性水素基を有するポリエステル樹脂とイソシアネート樹脂を主成分とすることが好ましい。また前記イソシアネート樹脂が、イソホロンジイソシアネートのヌレート変性体を主成分とすることがより好ましく、接着層AB用接着剤および接着層BC用接着剤における活性水素基が水酸基であり、水酸基の反応当量比(NCO/OH)が0.7以上0.95以下であることがより好ましい。各主成分の定義は接着層の説明における定義に準ずるものとする。
【0040】
本発明の積層体は、前記フィルムAおよびフィルムCのいずれかが芳香族ポリアミド繊維からなるシート、ポリフェニレンサルファイドフィルムから選ばれる少なくとも1種であり、他のフィルムがポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムから選ばれる少なくとも1種である、ことが好ましい。
【0041】
つまり、フィルムBがポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムから選ばれる少なくとも1種であるうえで、フィルムAおよびフィルムCが芳香族ポリアミド繊維からなるシートである態様や、フィルムAおよびフィルムCがポリフェニレンサルファイドフィルムである態様、フィルムAが芳香族ポリアミド繊維からなるシートであり、フィルムCがポリフェニレンサルファイドフィルムである態様、フィルムCが芳香族ポリアミド繊維からなるシートであり、フィルムAがポリフェニレンサルファイドフィルムである態様が含まれる。
【0042】
前記芳香族ポリアミド繊維からなるシートとは、芳香族ポリアミド繊維からなる紙状のシートのことを指し、フェニレンジアミンとフタル酸との縮合重合物によって、アミド基以外がベンゼン環で構成された樹脂材料からなる繊維(全芳香族ポリアミド繊維)からなるシートである、いわゆる、“アラミド紙”などと呼ばれる紙状シートであることがより好ましい。このアラミド紙としては、例えば、デュポン帝人アドバンスドペーパー(株)より商品名「ノーメックスペーパー」で市販されているもの等を用いることができる。
【0043】
耐熱性に優れる芳香族ポリアミド繊維からなるシートまたはポリフェニレンサルファイドフィルムをフィルムAおよび/またはフィルムCに使うことで、モータ絶縁フィルムとして使用した際にコイルの発熱に対して耐久性を得ることができる。フィルムBにポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることで、耐熱性、耐油性、電気絶縁性を付与することができる。芳香族ポリアミド繊維からなるシート、ならびにポリフェニレンサルファイドフィルムは耐熱性、耐湿熱性、耐油性に優れるため、高温環境下で長期耐久性が要求される用途で好適に用いることができる。また、上記のなかでも、耐熱性の観点から、前記フィルムAおよびフィルムCの少なくともいずれかが芳香族ポリアミド繊維からなるシートであることが好ましい。
【0044】
そのなかでも、本発明の積層体は、フィルムAおよびフィルムCが芳香族ポリアミド繊維からなるシートであり、フィルムBがポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。なかでもフィルムBがポリフェニレンサルファイドフィルムであることがさらに好ましい。芳香族ポリアミド繊維からなるシートはフェニレンジアミンとフタル酸との縮合重合物によって、アミド基以外がベンゼン環で構成された樹脂材料からなる繊維(全芳香族ポリアミド繊維)である、いわゆる、“アラミド紙”などと呼ばれる紙状シートであることがさらに好ましい。耐熱性に優れる芳香族ポリアミド繊維からなるシートをフィルムAおよびフィルムCに使うことで、モータ絶縁フィルムとして使用した際にコイルの発熱に対して耐久性をさらに得ることができる。芳香族ポリアミド繊維からなるシートは耐熱性に優れるものの、紙状のシートのため電気絶縁性には乏しい場合があるが、フィルムBにポリフェニレンサルファイドフィルムフィルムを用いることで、耐熱性、耐油性、電気絶縁性を付与することができる。芳香族ポリアミド繊維からなるシート、ならびにポリフェニレンサルファイドフィルムは耐熱性、耐湿熱性、耐油性に優れるため、高温環境下で長期耐久性が要求される用途で好適に用いることができる。
【0045】
本発明の積層体の別の一態様は、フィルムAおよびフィルムCがポリフェニレンサルファイドフィルムであり、フィルムBがポリエチレンテレフタレートフィルムであることが好ましい。ポリフェニレンサルファイドフィルムによって耐熱性、耐油性、耐湿熱性を付与しながら、ポリエチレンテレフタレートフィルムによって、電気絶縁性、機械強度、とりわけ後述するモータ用電気絶縁フィルムとしての成型加工に必要な機械強度を付与することができる。ポリエチレンテレフタレートフィルムは電気絶縁性、機械強度と製造コストのバランスに優れているが、耐熱性、耐湿熱性に難があり、使用環境が制限される場合があるが、耐熱性、耐湿熱性が優れるポリフェニレンサルファイドフィルムを有することにより、耐熱性を確保しつつ製造コストに優れる積層体とすることができる。
【0046】
本発明の積層体に使用されるポリフェニレンサルファイドフィルムは、例えば下記化学式(1)で示されるパラフェニレンサルファイド単位を、85モル%以上含有する樹脂を主成分として成るフィルムのことであり、パラフェニレンサルファイド単位の含有量は好ましくは90モル%以上、更には97モル%以上であることが、耐熱性の観点で好ましい。パラフェニレンサルファイド以外の構成成分としては、フェニレンサルファイド成分を含有する構成が好ましく、例えば、メタフェニレンサルファイド単位、ビフェニレンサルファイド単位、ビフェニレンエーテルサルファイド単位、フェニレンスルホンサルファイド単位、フェニレンカルボニルサルファイド単位や3官能化したフェニレンサルファイド成分などが挙げられる。なお、3官能化したフェニレンサルファイド成分は、分子中に分岐鎖を導入するために用いることができ、合成時に1,2,4-トリクロロベンゼンを用いること得られる、3官能化したフェニレンサルファイド成分を例として挙げることができる。
【0047】
【化1】
【0048】
本発明の積層体に使用されるポリフェニレンサルファイドフィルムは、例えば以下に示した工程によって製造することが好ましい。ポリフェニレンサルファイド原料を290~360℃で溶融させ、スリット状のダイを用いてフィルム状に成形した後、表面温度20~70℃のキャスティングドラムに巻き付けて冷却固化させ、未延伸フィルムとする。続いて90~120℃で長手方向に3.0倍~5.0倍延伸して、一軸延伸フィルムを得る。その後一軸延伸フィルムをテンター内に導入し、90~120℃で予熱した後、幅方向に2.0~4.0倍延伸し、200~280℃で熱処理し、二軸配向ポリフェニレンサルファイドフィルムを得る。なお、必ずしもここに示した製造方法に限定されるものではない。
【0049】
本発明に用いられるポリエチレンテレフタレートフィルムは、エチレンテレフタレート構成からなるエステル結合を主鎖の主要な結合鎖とするポリエチレンテレフタレート樹脂を主成分として成る層のことである。前記ポリエチレンテレフタレートを構成する樹脂はエチレンテレフタレート構成成分が80モル%以上含まれていることが品質、経済性などを総合的に判断すると好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、例えばエチレン-2,6-ナフタレート、ブチレンテレフタレート、エチレン-α,β-ビス(2-クロロフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレート等の構成成分が20モル%以下の範囲で共重合されていてもよい。
【0050】
本発明に用いられるポリエチレンテレフタレートフィルムは、例えば以下に示した工程によって製造することが好ましい。ポリエステル原料を270~320℃で溶融させ、スリット状のダイを用いてフィルム状に成形した後、表面温度20~70℃のキャスティングドラムに巻き付けて冷却固化させ、未延伸フィルムとする。続いて60~120℃で長手方向に2.5~3.5倍延伸して、一軸延伸フィルムを得る。その後一軸延伸フィルムをテンター内に導入し、100~140℃で予熱した後、幅方向に2.5~4.0倍延伸し、215~235℃で熱処理し、二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを得る。前述の熱処理前にさらに縦ないし横方向、または縦横両方向に再度延伸させて強度を高めることも可能である。なお、必ずしもここで示した製造方法に限定されるものではない。上記のような二段階延伸方式を採らず、例えば同時二軸延伸方式により製造することも可能である。さらに、高温環境下に曝された場合の熱収縮を低減するため、ポリエチレンテレフタレートフィルムへアニール処理を行ってもよい。アニール処理は、例えばポリエチレンテレフタレートフィルムをオーブンで加熱することにより行うことができる。アニール処理における温度は150~180℃が好ましく、また、アニール処理を行う時間は10~60秒が好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、取扱が容易な大きさに切断してからアニール処理をしても、ロールから巻き出してオーブンを通過させてアニール処理をしてもよいが、連続処理が可能で生産性に優れることから、ロールから巻き出してオーブンを通過させる方法が好ましい。
【0051】
本発明の積層体に用いられるポリエチレンテレフタレートフィルムやポリフェニレンサルファイドフィルムを構成する樹脂中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤、架橋剤などがその特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。
【0052】
フィルムA、フィルムCの厚さとしてはそれぞれ9μm以上125μm以下であることが好ましい。9μm未満の場合、耐熱性の高いフィルムAおよびフィルムCの厚みが減り、フィルムBの厚みの割合が大きくなるので、積層体の耐熱性が低下する可能性がある。フィルムA、フィルムCの厚さが125μmより大きい場合、フィルムA、フィルムCの厚みの割合が大きくなり、積層体の端裂抵抗が低下してモータ用電気絶縁フィルムとしての成型加工を実施した場合に破れる可能性がある。また、耐熱性に優れるフィルムAおよびフィルムCの芳香族ポリアミド繊維からなるシートやポリフェニレンスルフィドフィルムはフィルムBの材料と比較してコストが高く、経済性の観点から不利になる可能性がある。ここで、モータ用電気絶縁フィルムとしての成型加工とは、モータステータのスロットと呼ばれるコイルを充填する箇所に積層体を挿入する工程を指し、スロットの形状に合わせて、積層体をコの字型(いわゆる、2つの角をもつU字型)に折り曲げて、スロットに挿入する一連の工程を指す。
【0053】
フィルムBの厚みは75μm以上300μm以下あることが好ましい。フィルムBの厚みが75μm未満の場合、積層体の機械強度・端裂抵抗が低下して、モータ用電気絶縁フィルムとしての成型加工を実施した場合に積層体の破れや、屈曲が発生し、加工性に劣ることがある。特にフィルムAおよびフィルムCが芳香族ポリアミド繊維からなるシートの場合は、電気絶縁性が低い厚みの割合が高くなるため、電気絶縁性に劣ることがある。フィルムBの厚みが300μm以上の場合、積層体の機械強度が高くなりすぎることで、コの字型に折り曲げづらく、加工性が低下する可能性がある。
【0054】
なお、これまで記載した観点から、本発明の一態様として、上記した積層体を有するモータの電気絶縁フィルムを好ましく挙げることができる。
【実施例
【0055】
[物性の測定法]
以下、実施例により本発明の構成、効果をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。各実施例の記述に先立ち、各種物性の測定方法を記載する。
【0056】
(1)密着強度
本発明のフィルムA、フィルムB、フィルムCを実施例に記載の方法で貼り合わせた後、40℃に温度調整した恒温槽で72時間エージングを行った。貼り合わせたサンプルから10mm幅の短冊状に測定用試験片を3本切り出し、本発明のフィルムBを含む側を水平に固定して、フィルムA、またはフィルムC側を剥離角度180°、引っ張り速度200mm/minの状態で剥がすことで密着強度測定を行った。測定は3本の短冊状試験片それぞれについて1回行い、得られた強度の平均値を密着強度の値とした。評価は以下の基準で行い、A、Bを合格とした。
A:密着強度が3N/10mm以上
B:密着強度が2N/10mm以上、3N/10mm未満
C:密着強度が2N/10mm未満。
【0057】
(2)熱収縮率
先ず、積層体から任意の直線を長辺とする20mm×150mmの積層体サンプルを採取した。次いで、フィルムAとフィルムCと接着層を取り除いてフィルムBのみを単離した。単離したフィルムBを、エスペック社製オーブン(GPHH-202)により150℃で30分間の熱処理を行った後、JIS C 2151(2006)に基づいて長辺方向の寸法変化率を測定した。次いで、先のサンプルの長辺方向より右に5°回転させて得られる直線を長辺とする20mm×150mmのサンプルを採取して同様の測定を行い、これを最初のサンプルの長辺方向との角度が175°となるまで繰り返した。得られた全ての値の最大値を熱収縮率の最大値とした。
【0058】
(3)マルテンス硬さ
積層体に対して、ミクロトームを用いてフィルム面と垂直な面で切断した。次いで、ダイプラ・ウィンテス製切削装置SAICAS(DN-20S型)を用いて、フィルムA、またはフィルムCの部分だけを切削除去して、接着層を5mm×5mm以上となるように露出させた。ISO 14577準拠のインデンテーション試験法に基づいて、超微小硬さ試験システム(商品名:“ピコデンター”(登録商標)HM500、株式会社フィッシャー・インストルメンツ社製)を用いて、露出した接着層面に圧子を押し込むことで測定した。なお、接着層の厚みによる依存をなくすため、押し込み荷重を0.1mNと小さく設定し、押し込み深さをおおよそ1μmとなるようにした。
【0059】
(4)分散成分、極性成分、水素結合成分の測定
50mm×50mmの積層体サンプルを採取して、ダイプラ・ウィンテス製切削装置SAICAS(DN-20S型)を用いて、フィルムA、またはフィルムCの部分だけを切削除去して、接着剤層を5mm×5mm以上となるように露出させた。次いで、水、エチレングリコール、ホルムアミド、ジヨードメタンを用い、各溶液について、接着層面との接触角を5回測定し、それぞれの液体についての接触角の平均値を求めた。接触角の平均値を用いて、拡張Fowkes式とYoungの式より導入される下記式を用いて各成分の値を計算した。
(γSd・γLd)1/2+(γSp・γLp)1/2+(γSh・γLh)1/2=(1+cosθ)/2
ここで、γLd、γLp、γLhは、それぞれ測定液の分散成分、極性成分、水素結合成分の各成分の固有値(Panzerによる方法IV(日本接着協会誌vol.15、No.3、p96に記載)による)を表し、θは測定面上での測定液の接触角の平均値を表し、また、γSd、γSp、γShは、それぞれ接着層表面の分散成分、極性成分、水素結合成分の各成分の値を表す。固有値およびθを上記の式に代入して得られた連立方程式を解くことにより、測定面の3成分の値を求めた。
【0060】
(5)引張り伸び
積層体から幅10mm、長さ250mmの測定用サンプルを積層体の長手方向が長さ方向になるように採取した。JIS C 2151(2006)に基づいて長辺方向にサンプルを引張り、積層体が破断したときの伸びを求めた。測定は各サンプル5回ずつ行い、5回の平均値を引張り伸びとした。
なお、長手方向が特定できない場合は、前述の熱収縮率の測定を実施し、熱収縮率が最大となる方向を長手方向とみなした。
【0061】
(6)伸度保持率
積層体から幅10mm、長さ250mmの測定用サンプルを積層体の長手方向が長さ方向になるように採取した。切り出した試料をエスペック社製オーブン(GPHH-202)にて、温度180℃の環境下にて200時間処理を実施した。上記処理前および処理後の積層体の引張り伸びをJIS C 2151(2006)に基づいて測定した。測定は各サンプル5回ずつ行い、5回の平均値を引張り伸びとした。得られた引張り伸びについて処理後の引張り伸びを処理前の引張り伸びで除した値を耐熱評価における伸度保持率として、以下基準で評価した。
A:70%以上
B:50%以上70%未満
C:50%未満。
【0062】
(7)端裂抵抗
積層体から幅20mm、長さ300mmのサンプルを積層体の長手方向が長さ方向になるように採取し、JIS C 2151(2006)に基づいて試験金具B(V字切り込みタイプ)を用いて測定した。得られた端裂抵抗として、以下基準で評価した。
A:750N/20mm以上
B:300N/20mm以上750N/20mm未満
C:300N/20mm未満。
なお、長手方向が特定できない場合は、前述の熱収縮率の測定を実施し、熱収縮率が最大となる方向を長手方向とみなした。
【0063】
(8)オートフルード浸漬後の接着面積率
積層体から100mm×100mmの測定用サンプルを採取した。次いで、日産純正オートフルード(マチックフルードS)が入ったステンレス製容器にサンプル全体がオートフルードに浸かるように浸漬し、さらにオートフルードの量に対して0.5質量%の水を加えて密封し、この密封した容器をエスペック社製オーブン(GPHH-202)の中に入れて、150℃、10時間の熱処理を行った。次いで、熱処理後のサンプルの質量を測定し、フィルム間で剥離している箇所、フィルム間で気泡が発生している箇所を、フィルムA、フィルムB、フィルムCを含むように厚み方向に切り取った。切り取った後のサンプルの質量を測定して切り取る前後の比率を接着面積率とし、以下の基準で接着面積率を評価した。
A:接着面積率が98%以上
B:接着面積率が95%以上98%未満
C:接着面積率が95%未満。
【0064】
[各層として用いたフィルム]
1.ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記載)フィルムA(PET-A)
テレフタル酸ジメチル100質量部とエチレングリコール60質量部を窒素雰囲気下、温度260℃にて混合した。その後温度を225℃へ降下させ、酢酸カルシウム0.08質量部、三酸化アンチモン0.029質量部を添加後攪拌しながら、更にエチレングリコール16.9質量部を2時間かけて徐々に添加しメタノールを留出させ、エステル交換反応を終了した。次いで、酢酸リチウム0.16質量部、リン酸トリメチル0.11質量部を添加し、重合反応槽へ移行した。次に、重合反応を最終到達温度285℃、圧力13Paの減圧下で行い、固有粘度(IV)0.54、末端カルボキシル基数18当量/tのポリエステルを得た。該ポリエステルは各辺2mm×4mm×4mmの直方体に切断し、さらに、160℃で6時間乾燥、結晶化させたのち、圧力65Paの減圧条件下にて220℃、20時間の固相重合を行い、固有粘度(IV)0.80、カルボキシル基末端基量10当量/t、融点260℃のポリエステル樹脂ペレット1を得た。
【0065】
次いで、ポリエステル樹脂ペレット1を真空中160℃で6時間乾燥した後、押出機に供給し295℃で溶融押出を行った。ステンレス鋼繊維を焼結圧縮した平均目開き60μmのフィルターで濾過した後、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度20℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた。なお、この時、押出機先端から口金までの樹脂の溶融時間は2分であり、さらにキャスティングドラムの反対面から温度10℃の冷風を長手方向に12段設置した間隙2mmのスリットノズルから風速20m/sでフィルムに吹き付け、両面から冷却を実施した。この未延伸フィルムを予熱ロールにて80℃に予熱後、ラジエーションヒーターを用いて90℃まで加熱しつつロール間の周速差を利用して長手方向に3.3倍延伸し、引き続き冷却ロールにて25℃まで冷却し、一軸配向フィルムとした。一軸配向フィルムの幅方向両端部をクリップで把持してオーブン中にて雰囲気温度110℃で予熱し、引き続き連続的に120℃の延伸ゾーンで幅方向に3.7倍延伸した。得られた二軸配向フィルムを引き続き215℃の熱固定温度で10秒間熱処理を実施後、215℃から160℃まで冷却しながら幅方向に向かい合うクリップの間隔を縮めることで5.0%の弛緩処理を施した。その後オーブンにて100℃まで冷却後フィルム幅方向両端部を把持しているクリップを離間することでオーブンからフィルムを取り出し、幅方向両端部を切断除去し、巻き取り、厚み125μmのPETフィルムAを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0066】
2.PETフィルムB~K(PET-B~J)
PETフィルムAと、厚みと熱固定温度、アニール時間が表1に示すとおりである以外は同様にして、PETフィルムB~Jを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
3.ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと記載)フィルム K(PPS-K)
オートクレーブに100モル部の硫化ナトリウム9水塩、45モル部の酢酸ナトリウムおよび259モル部のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を仕込み、撹拌しながら徐々に220℃の温度まで昇温して、含有されている水分を蒸留により除去した。脱水の終了した系内に、主成分モノマとして101モル部のp-ジクロロベンゼン、副成分として0.2モル部の1,2,4-トリクロロベンゼンを52モル部のNMPとともに添加し、170℃の温度で窒素を3kg/cmで加圧封入後、昇温し260℃の温度にて4時間重合した。重合終了後冷却し、蒸留水中にポリマーを沈殿させ、150メッシュ目開きを有する金網によって、小塊状ポリマーを採取した。このようにして得られた小塊状ポリマーを90℃の蒸留水により5回洗浄した後、減圧下120℃の温度にて乾燥して、融点が280℃のPPS原末を得た。得られたPPS原末を320℃の温度にて30mmφ2軸押出機によりガット状に押出した後切断し、PPS樹脂ペレット1を得た。
【0069】
次いで、PPS樹脂1に、平均粒径1.0μmの炭酸カルシウム粉末7重量%を添加し均一に分散配合して、320℃の温度にて30mmφの2軸押出機によりガット状に押出した後切断し、炭酸カルシウム粒子含有PPS樹脂ペレット2を得た。
【0070】
PPS樹脂ペレット1とPPS樹脂ペレット2を重量比90:10で混合し、回転式真空乾燥機を用いて3mmHgの減圧下にて180℃の温度で4時間乾燥後に、押出機に供給し310℃で溶融押出を行った。ステンレス鋼繊維を焼結圧縮した平均目開き14μmのフィルターで濾過した後、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた。この未延伸フィルムを予熱ロールにて92℃に予熱後、ラジエーションヒーターを用いて105℃まで加熱しつつロール間の周速差を利用して長手方向に3.7倍延伸し、引き続き冷却ロールにて25℃まで冷却し、一軸配向フィルムとした。次いで、一軸配向フィルムの幅方向両端部をクリップで把持してオーブン中にて雰囲気温度100℃で予熱し、引き続き連続的に100℃の延伸ゾーンで幅方向に3.4倍延伸した。得られた二軸配向フィルムを引き続き260℃の加熱ゾーンで6秒間熱処理を実施後、260℃から200℃まで冷却しながら幅方向に向かい合うクリップの間隔を縮めることで5.0%の弛緩処理を施した。その後オーブンにて115℃まで冷却後、フィルム幅方向両端部を把持しているクリップを離間することでオーブンからフィルムを取り出し、幅方向両端部を切断除去し、搬送ロールにて搬送後に巻き取り、厚さ16μmの二軸配向フィルムを得た。次いで得られたフィルムを空気雰囲気下で片面のみ処理強度E値30W・min/mでコロナ放電処理し、PPSフィルムKを得た。得られたPPSフィルムの特性を表2に示す。ここで、E値とは下記式で定義づけられるフィルム表面への放電処理の処理強度のことを指す。
E値=[(印加電圧:V)×(印加電流:A)]/[(処理速度:m/min)×(電極幅:m)]
4.PPSフィルムL~P(PPS-L~P)
PPSフィルムKと、厚みが表2に示す通りである以外は同様にして、PPSフィルムL~Pを得た。得られたフィルムの物性を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
5.芳香族ポリアミド繊維(以下、PAと記載)からなるシートQ、R(PA-Q、R)
芳香族ポリアミド繊維からなるシートとしてデュポン帝人アドバンスドペーパー(株)製アラミド紙“ノーメックス”(登録商標)の紙状シートを用いた。紙状シートの種類を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
6.接着剤a~g
活性水素基に水酸基を有するポリエーテル樹脂として東洋モートン(株)製ドライラミネート剤“DYNAGRAND”(登録商標)LIS-7100を100質量部、硬化剤にヌレート変性体のイソホロンジイソシアネート系樹脂を主成分とする住化コベストロウレタン(株)製Z4470BAを、および酢酸エチルを表3に示す通りの配合で量りとり、15分間攪拌することにより固形分濃度33.5質量%の接着剤である接着剤a~gを得た。それぞれの接着剤のイソシアネートと活性水素基を有するポリエーテル樹脂の反応当量比はNCO/OHとして表4に示す通りである。
【0075】
【表4】
【0076】
7.接着剤h、i
活性水素基に水酸基を有するポリエステル樹脂として東洋モートン(株)製ドライラミネート剤“DYNAGRAND”(登録商標)TKS-9761を、硬化剤にヌレート変性体のトリレンジイソシアネート系樹脂を主成分とする東洋モートン(株)製CAT-10を、および酢酸エチルを表5に示す通りの配合で量りとり、15分間攪拌することにより固形分濃度33.5質量%の接着剤である接着剤h、iを得た。
【0077】
【表5】
【0078】
8.接着剤j
接着層に、活性水素基に水酸基を有するポリアクリル樹脂として東レコーテックス(株)製“レオコート”(登録商標)S-8000Eを、硬化剤にヘキサメチレンジイソシアネート系樹脂を主成分とする東ソー(株)製“コロネート”(登録商標)HLを、および酢酸エチルを表6に示す通りの配合で量りとり、15分間攪拌することにより固形分濃度13.5質量%の接着剤である接着剤jを得た。
【0079】
【表6】
【0080】
(実施例1~17、比較例1~5)
フィルムAに、ワイヤーバーを用いて接着剤を塗布し、80℃で60秒間乾燥して接着層ABを形成した。次に、フィルムBを接着層ABと接するように積層し、中間積層体を作製した。次いで、フィルムCに、ワイヤーバーを用いて接着剤を塗布し、80℃で60秒間乾燥して接着層BCを形成した。中間積層体のフィルムBの面を、フィルムCの接着層BCと接するように積層し、積層体を得た。フィルムA、フィルムB、フィルムC、接着層AB、接着層BCの種類は表7に示す通りである。その特性評価結果を表8に示す。
【0081】
(実施例18~21、比較例6~9)
フィルムBに、ワイヤーバーを用いて接着層ABを塗布し、80℃で60秒間乾燥して接着層を形成した。次に、フィルムAを接着層ABと接するように積層し、中間積層体を作製した。次いで、中間積層体のフィルムBの面に、ワイヤーバーを用いて接着剤を塗布し、80℃で60秒間乾燥して接着層BCを形成した。フィルムCを、接着層BCと接するように積層し、積層体を得た。フィルムA、フィルムB、フィルムC、接着層AB、接着層BCの種類は表7に示す通りである。その特性評価結果を表8に示す。
【0082】
【表7】
【0083】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、接着性、加工性、耐油性、耐熱性、耐湿熱性に優れた積層体を提供することが可能である。本発明の積層体は、モータの電気絶縁として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0085】
1:フィルムA
2:接着層AB
3:フィルムB
4:接着層BC
5:フィルムC
【要約】
本発明は、接着性、加工性、耐油性、耐熱性、耐湿熱性に優れた積層体を提供することを目的とする。解決手段は、フィルムA、フィルムB、フィルムCが接着層を介してこの順に有する積層体であって(フィルムA、フィルムBの間に有する接着層を接着層AB、フィルムB、フィルムCの間に有する接着層を接着層BCとする)、前記フィルムBの150℃30分における熱収縮率の最大値が0.1%以上3.0%以下であって、前記接着層ABおよび接着層BCのマルテンス硬さが1.0N/mm以上4.0N/mm以下であって、前記積層体をオートマチックトランスミッションフルードに浸漬して150℃、10時間の熱処理した際の、前記接着層ABを介したフィルムAとフィルムBの接着面積率、前記接着層BCを介したフィルムBとフィルムCの接着面積率がいずれも95%以上である、積層体、である。
【選択図】なし
図1