(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】DABコンバータおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
H02M3/28 H
H02M3/28 D
H02M3/28 L
(21)【出願番号】P 2022011300
(22)【出願日】2022-01-27
【審査請求日】2022-01-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】前地 洋明
(72)【発明者】
【氏名】松原 克夫
【審査官】東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0365005(US,A1)
【文献】特開2017-73418(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167271(WO,A1)
【文献】特開2021-93849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/00-3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DAB(Dual Active Bridge)コンバータであって、
1次巻線と2次巻線とコアとを有するトランスと、
(i)1次側第1相上側スイッチング素子と1次側第1相下側スイッチング素子とによって構成された1次側第1相スイッチングレグ、および、(ii)1次側第2相上側スイッチング素子と1次側第2相下側スイッチング素子とによって構成された1次側第2相スイッチングレグ、を有する1次側ブリッジ回路と、
(i)2次側第1相上側スイッチング素子と2次側第1相下側スイッチング素子とによって構成された2次側第1相スイッチングレグ、および、(ii)2次側第2相上側スイッチング素子と2次側第2相下側スイッチング素子とによって構成された2次側第2相スイッチングレグ、を有する2次側ブリッジ回路と、
リアクトルと、
上記1次側ブリッジ回路と上記2次側ブリッジ回路とを制御する制御部と、を備えており、
上記リアクトルの一端が上記1次側ブリッジ回路の出力ノードである第1出力ノードに接続されている場合、上記リアクトルの他端は上記1次巻線に接続されており、
上記リアクトルの一端が上記2次側ブリッジ回路の出力ノードである第2出力ノードに接続されている場合、上記リアクトルの他端は上記2次巻線に接続されており、
上記制御部は、
上記トランスの偏磁量を取得するとともに、当該偏磁量を補正する偏磁補正部と、
上記リアクトルに流れる負荷電流の直流成分を取得するとともに、当該直流成分を補正する直流成分補正部と、を備えて
おり、
上記偏磁補正部は、上記偏磁量に応じて決定した偏磁量補正時間に応じて、スイッチング制御信号を生成するための搬送波信号を補正し、
上記直流成分補正部は、上記直流成分に応じて決定した直流成分補正時間に応じて、上記搬送波信号を補正する、DABコンバータ。
【請求項2】
上記コアは、ギャップ付コアであり、
上記第1出力ノードから出力される1次電流を測定する1次側電流センサと、
上記第2出力ノードから出力される2次電流を測定する2次側電流センサと、をさらに備えており、
上記偏磁補正部は、上記1次電流と上記2次電流とに基づいて励磁電流を算出し、かつ、当該励磁電流に基づいて上記偏磁量を補正する励磁電流ベース偏磁補正部である、請求項1に記載のDABコンバータ。
【請求項3】
上記1次側ブリッジ回路に接続された1次側直流電源の電圧である1次側直流電圧を測定する1次側電圧センサをさらに備えており、
上記励磁電流ベース偏磁補正部は、補正すべき上記偏磁量として、上記励磁電流に基づく励磁電流ベース偏磁補正量を取得し、
上記1次側直流電圧をVdc1として表し、
上記トランスの励磁インダクタンスをLcrとして表し、
上記励磁電流ベース偏磁補正量をΔI0dcとして表し、
ΔI0dcを補正するための
上記偏磁量補正時間をΔt1として表した場合、
上記励磁電流ベース偏磁補正部は、以下の式;
【数1】
に従ってΔt1を決定する、請求項2に記載のDABコンバータ。
【請求項4】
上記1次側ブリッジ回路に接続された1次側直流電源の電圧である1次側直流電圧を測定する1次側電圧センサをさらに備えるとともに
上記コアの磁束を検出する磁束検出用巻線を備えており、
上記偏磁補正部は、上記磁束に基づいて上記偏磁量を補正する磁束ベース偏磁補正部であり、
上記磁束ベース偏磁補正部は、補正すべき上記偏磁量として、上記磁束に基づく磁束ベース偏磁補正量を取得し、
上記磁束検出用巻線の巻数をNsとして表し、
上記磁束検出用巻線に生じる電圧をVsとして表し、
上記磁束ベース偏磁補正量をΔΦとして表し、
ΔΦを導出するための積分周期をTnとして表した場合、
上記磁束ベース偏磁補正部は、以下の式;
【数2】
に従ってΔΦを決定し、
上記1次側直流電圧をVdc1として表し、
上記1次巻線の巻数をN1として表し、
ΔΦを補正するための
上記偏磁量補正時間をΔt1として表した場合、
上記磁束ベース偏磁補正部は、以下の式;
【数3】
に従ってΔt1を決定する、請求項
1に記載のDABコンバータ。
【請求項5】
上記1次側ブリッジ回路に接続された1次側直流電源の電圧である1次側直流電圧を測定する1次側電圧センサと、
上記2次側ブリッジ回路に接続された2次側直流電源の電圧である2次側直流電圧を測定する2次側電圧センサと、をさらに備えており、
上記直流成分補正部は、補正すべき上記直流成分の量として、直流成分補正量を取得し、
上記1次側直流電圧をVdc1として表し、
上記2次側直流電圧をVdc2として表し、
上記トランスの巻数比をNとして表し、
上記リアクトルのインダクタンスと上記トランスの漏れインダクタンスとの合成インダクタンスをLとして表し、
上記直流成分補正量をΔIdcとして表し、
ΔIdcを補正するための
上記直流成分補正時間をΔt2として表した場合、
上記直流成分補正部は、以下の式;
【数4】
に従ってΔt2を決定する、請求項1から4のいずれか1項に記載のDABコンバータ。
【請求項6】
上記制御部は、(i)上記偏磁量補正時間および上記直流成分補正時間に応じて補正された上記搬送波信号に基づき上記スイッチング制御信号を生成し、かつ、(ii)当該スイッチング制御信号に従って、上記1次側ブリッジ回路と上記2次側ブリッジ回路とを制御する、請求項
1から5のいずれか1項に記載のDABコンバータ。
【請求項7】
上記リアクトルは、上記トランスの漏れインダクタンスによって具現化されている、請求項1から
6のいずれか1項に記載のDABコンバータ。
【請求項8】
上記トランスは、(i)上記コアに巻回された内側巻線と、(ii)上記内側巻線を囲むように上記コアに巻回された外側巻線と、を有しており、
上記内側巻線は、上記1次巻線または上記2次巻線のうちの一方であり、
上記外側巻線は、上記1次巻線または上記2次巻線のうちの他方であり、
上記内側巻線は、上記リアクトルを介することなく、上記2次側ブリッジ回路に接続された2次側直流電源に接続されており、
上記外側巻線は、上記リアクトルを介して、上記1次側ブリッジ回路に接続された1次側直流電源に接続されており、
上記直流成分補正部は、上記1次側ブリッジ回路における
上記搬送波信号を補正することにより、上記直流成分を補正する、請求項1から
7のいずれか1項に記載のDABコンバータ。
【請求項9】
上記偏磁補正部は、
(i)上記コアに印加される電圧であるコア電圧と、(i)上記トランスの励磁インダクタンスと、(iii)上記直流成分補正部によって予め決定された
上記直流成分補正時間と、に基づいて、上記直流成分の補正に起因する上記偏磁量の予測値である直流成分補正起因偏磁量予測値を決定し、
上記直流成分補正起因偏磁量予測値に応じて、上記直流成分の補正に起因する上記偏磁量を補正するための直流成分補正起因偏磁量補正時間を決定する、請求項1から
8のいずれか1項に記載のDABコンバータ。
【請求項10】
上記第1出力ノードに生じる1次側交流電圧が正であり、かつ、上記第2出力ノードに生じる2次側交流電圧が正である区間における上記コア電圧をVtr2として表し、
上記1次側交流電圧が正であり、かつ、上記2次側交流電圧が負である区間における上記コア電圧をVtr3として表し、
上記トランスの励磁インダクタンスをLcrとして表し、
上記直流成分補正時間をΔt2として表し、
上記直流成分補正起因偏磁量予測値をΔI0’dcとして表した場合、
上記偏磁補正部は、以下の式;
【数5】
に従ってΔI0’dcを決定する、請求項
9に記載のDABコンバータ。
【請求項11】
上記直流成分補正起因偏磁量補正時間をΔt3として表した場合、
上記偏磁補正部は、以下の式;
【数6】
に従ってΔt3を決定する、請求項
10に記載のDABコンバータ。
【請求項12】
上記偏磁補正部は
、上記直流成分補正起因偏磁量補正時間に応じて、上記搬送波信号を補正する、請求項
9から
11のいずれか1項に記載のDABコンバータ。
【請求項13】
上記制御部は、(i)上記直流成分補正時間と上記偏磁量補正時間と上記直流成分補正起因偏磁量補正時間とに応じて補正された上記搬送波信号に基づき上記スイッチング制御信号を生成し、かつ、(ii)当該スイッチング制御信号に従って、上記1次側ブリッジ回路と上記2次側ブリッジ回路とを制御する、請求項
12に記載のDABコンバータ。
【請求項14】
DAB(Dual Active Bridge)コンバータを制御する制御方法であって、
上記DABコンバータの1次側ブリッジ回路と2次側ブリッジ回路とを制御する制御工程を含んでおり、
上記DABコンバータは、
1次巻線と2次巻線とコアとを有するトランスと、
(i)1次側第1相上側スイッチング素子と1次側第1相下側スイッチング素子とによって構成された1次側第1相スイッチングレグ、および、(ii)1次側第2相上側スイッチング素子と1次側第2相下側スイッチング素子とによって構成された1次側第2相スイッチングレグ、を有する上記1次側ブリッジ回路と、
(i)2次側第1相上側スイッチング素子と2次側第1相下側スイッチング素子とによって構成された2次側第1相スイッチングレグ、および、(ii)2次側第2相上側スイッチング素子と2次側第2相下側スイッチング素子とによって構成された2次側第2相スイッチングレグ、を有する上記2次側ブリッジ回路と、
リアクトルと、を備えており、
上記リアクトルの一端が上記1次側ブリッジ回路の出力ノードである第1出力ノードに接続されている場合、上記リアクトルの他端は上記1次巻線に接続されており、
上記リアクトルの一端が上記2次側ブリッジ回路の出力ノードである第2出力ノードに接続されている場合、上記リアクトルの他端は上記2次巻線に接続されており、
上記制御工程は、
上記トランスの偏磁量を取得するとともに、当該偏磁量を補正する偏磁補正工程と、
上記リアクトルに流れる負荷電流の直流成分を取得するとともに、当該直流成分を補正する直流成分補正工程と、を含んで
おり、
上記偏磁補正工程は、上記偏磁量に応じて決定した偏磁量補正時間に応じて、スイッチング制御信号を生成するための搬送波信号を補正する工程を含んでおり、
上記直流成分補正工程は、上記直流成分に応じて決定した直流成分補正時間に応じて、上記搬送波信号を補正する工程を含んでいる、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、DAB(Dual Active Bridge)コンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
DC-DCコンバータの一種として、DAB方式を用いた絶縁型DC-DCコンバータ(DABコンバータ)が知られている。近年、DABコンバータに関する様々な技術が提案されている。一例として、特許文献1には、DABコンバータにおけるインダクタンス要素に生じる直流偏磁を抑制することを一目的とした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一態様の目的は、DABコンバータにおけるトランス(変圧器)の偏磁を従来よりも効果的に補正することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るDABコンバータは、1次巻線と2次巻線とコアとを有するトランスと、(i)1次側第1相上側スイッチング素子と1次側第1相下側スイッチング素子とによって構成された1次側第1相スイッチングレグ、および、(ii)1次側第2相上側スイッチング素子と1次側第2相下側スイッチング素子とによって構成された1次側第2相スイッチングレグ、を有する1次側ブリッジ回路と、(i)2次側第1相上側スイッチング素子と2次側第1相下側スイッチング素子とによって構成された2次側第1相スイッチングレグ、および、(ii)2次側第2相上側スイッチング素子と2次側第2相下側スイッチング素子とによって構成された2次側第2相スイッチングレグ、を有する2次側ブリッジ回路と、リアクトルと、上記1次側ブリッジ回路と上記2次側ブリッジ回路とを制御する制御部と、を備えており、上記リアクトルの一端が上記1次側ブリッジ回路の出力ノードである第1出力ノードに接続されている場合、上記リアクトルの他端は上記1次巻線に接続されており、上記リアクトルの一端が上記2次側ブリッジ回路の出力ノードである第2出力ノードに接続されている場合、上記リアクトルの他端は上記2次巻線に接続されており、上記制御部は、上記トランスの偏磁量を取得するとともに、当該偏磁量を補正する偏磁補正部と、上記リアクトルに流れる負荷電流の直流成分を取得するとともに、当該直流成分を補正する直流成分補正部と、を備えている。
【0006】
また、本発明の一態様に係るDABコンバータを制御する制御方法は、上記DABコンバータの1次側ブリッジ回路と2次側ブリッジ回路とを制御する制御工程を含んでおり、上記DABコンバータは、1次巻線と2次巻線とコアとを有するトランスと、(i)1次側第1相上側スイッチング素子と1次側第1相下側スイッチング素子とによって構成された1次側第1相スイッチングレグ、および、(ii)1次側第2相上側スイッチング素子と1次側第2相下側スイッチング素子とによって構成された1次側第2相スイッチングレグ、を有する上記1次側ブリッジ回路と、(i)2次側第1相上側スイッチング素子と2次側第1相下側スイッチング素子とによって構成された2次側第1相スイッチングレグ、および、(ii)2次側第2相上側スイッチング素子と2次側第2相下側スイッチング素子とによって構成された2次側第2相スイッチングレグ、を有する上記2次側ブリッジ回路と、リアクトルと、を備えており、上記リアクトルの一端が上記1次側ブリッジ回路の出力ノードである第1出力ノードに接続されている場合、上記リアクトルの他端は上記1次巻線に接続されており、上記リアクトルの一端が上記2次側ブリッジ回路の出力ノードである第2出力ノードに接続されている場合、上記リアクトルの他端は上記2次巻線に接続されており、上記制御工程は、上記トランスの偏磁量を取得するとともに、当該偏磁量を補正する偏磁補正工程と、上記リアクトルに流れる負荷電流の直流成分を取得するとともに、当該直流成分を補正する直流成分補正工程と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、DABコンバータにおけるトランスの偏磁を従来よりも効果的に補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1におけるDABコンバータの要部の構成を示す図である。
【
図2】ギャップ付コアの磁気特性を例示する図である。
【
図3】実施形態1のDABコンバータにおけるトランスおよびその周囲の等価回路を示す図である。
【
図4】従来の制御手法に係るDABコンバータの動作の一例を示す図である。
【
図5】従来の制御手法において生じる負荷電流直流成分の一例を示す図である。
【
図6】従来の制御手法に係るDABコンバータの動作の別の例を示す図である。
【
図8】模擬駆動例において生じる負荷電流直流成分および偏磁の一例を示す図である。
【
図9】偏磁補正用フィードバック制御系の一例を示す図である。
【
図10】偏磁補正用フィードバック制御系の別の例を示す図である。
【
図11】直流成分補正用フィードバック制御系の一例を示す図である。
【
図12】直流成分補正用フィードバック制御系の別の例を示す図である。
【
図13】Δt1およびΔt2に応じた搬送波信号の補正の一例を示す図である。
【
図14】比較例におけるDABコンバータの各信号を示す図である。
【
図15】実施形態1のDABコンバータにおける偏磁補正および直流成分補正の実施例を示す図である。
【
図16】実施形態2におけるDABコンバータの要部の構成を示す図である。
【
図17】ギャップレスコアの磁気特性を例示する図である。
【
図18】トランスの漏れインダクタンスが変圧器電圧に与える影響について説明するための図である。
【
図19】実施形態1のDABコンバータにおける改善可能な点について説明するための図である。
【
図20】実施形態3におけるDABコンバータの要部の構成を示す図である。
【
図21】実施形態3におけるトランスの等価回路を示す図である。
【
図22】実施形態3におけるトランスの簡易等価回路を示す図である。
【
図23】実施形態3のトランスにおける内側巻線および外側巻線を模式的に示す図である。
【
図24】実施形態3のトランスにおける主磁束および漏れ磁束の流れを模式的に示す図である。
【
図25】実施形態3のDABコンバータにおける各信号を例示する図である。
【
図26】実施形態4におけるDABコンバータの要部の構成を示す図である。
【
図27】実施形態4のDABコンバータにおけるトランスおよびその周囲の等価回路を示す図である。
【
図28】実施形態4の回路構成において、直流成分補正に起因して生じる偏磁の一例について概略的に説明するための図である。
【
図29】実施形態4の回路構成において、直流成分補正に起因して生じる偏磁の一例についてより具体的に説明するための図である。
【
図30】実施形態4の回路構成において、直流成分補正に起因して生じる偏磁の別の例について説明するための図である。
【
図31】実施形態4のDABコンバータにおける各信号の一例を示す図である。
【
図32】
図31に示されている各グラフを、一部の区間において拡大した図である。
【
図33】実施形態4の回路構成において、直流成分補正に起因して生じる偏磁の別の例について概略的に説明するための図である。
【
図34】実施形態4のDABコンバータにおける各信号の別の例を示す図である。
【
図35】
図34に示されている各グラフを、一部の区間において拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
実施形態1のDABコンバータ1について、以下に説明する。説明の便宜上、実施形態1にて説明した構成要素(コンポーネント)と同じ構成要素を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。簡潔化のため、公知技術と同様の事項についても、説明を適宜省略する。
【0010】
本明細書において述べる各構成および各数値は、特に明示されない限り、単なる一例であることに留意されたい。従って、特に明示されない限り、各部材の位置関係は、各図の例に限定されない。本明細書では、2つの数AおよびBに関する「A~B」という記載は、特に明示されない限り、「A以上かつB以下」を意味する。
【0011】
なお、本明細書における「接続されている」という文言は、特に明示されない限り、「電気的に接続されている」ことを意味する。また、本明細書における「位相差」という文言は、特に明示されない限り、「スイッチング位相差」を意味する。また、本明細書における「トランスの偏磁」とは、より具体的には「トランスにおけるコア(鉄心)の偏磁」を意味する。なお、「トランスの偏磁」を、「偏磁」と適宜略記する。
【0012】
(DABコンバータ1の概要)
図1は、DABコンバータ1の要部の構成を示す図である。DABコンバータ1は、主回路10および制御部90を備える。制御部90は、DABコンバータ1の各部を統括的に制御する。特に、制御部90は、後述する1次側ブリッジ回路BRG1および2次側ブリッジ回路BRG2を制御する。より具体的には、制御部90は、後述する各スイッチング素子のON(導通)/OFF(非導通,開放)を制御する。例えば、制御部90は、各スイッチング素子のON/OFFを制御する信号(スイッチング制御信号)を生成し、当該スイッチング制御信号を各スイッチング素子に供給する。
【0013】
主回路10は、当該主回路10の1次側に、1次側ブリッジ回路BRG1、1次側電圧センサ181Vおよび1次側電流センサ181Aを備える。以下では、例えば、1次側ブリッジ回路BRG1を、単にBRG1と略記する。また、ある回路素子の回路パラメータを、当該回路素子と同じ符号を用いて適宜表記する。例えば、後述する外付けリアクトルLaのインダクタンスを、Laと表記する。BRG1は、1次側直流電源1810に接続されている。本明細書では、1次側直流電源1810の電圧(1次側直流電圧)をVdc1として表す。
【0014】
そして、主回路10は、当該主回路10の2次側に、2次側ブリッジ回路BRG2、2次側電流センサ182A、および2次側電圧センサ182Vを備える。BRG2は、2次側直流電源1820に接続されている。本明細書では、2次側直流電源1820の電圧(2次側直流電圧)をVdc2として表す。
【0015】
また、主回路10は、トランスTRを備える。TRによれば、1次側と2次側とが磁気的に結合されるとともに、1次側と2次側とが電気的に絶縁される。TRは、1次巻線PW、2次巻線SW、およびコアCRを備える。TRは、漏れインダクタンスLl(
図1では不図示)を有する。
【0016】
実施形態1におけるCRは、ギャップ付コアである。但し、後述する通り、本発明の一態様に係るコアは、必ずしもギャップ付コアに限定されないことに留意されたい。本発明の一態様に係るコアは、ギャップ(空隙)を有しないコア(ギャップレスコア)であってもよい。従って、本明細書におけるコアは、文脈上特に矛盾がない限り、ギャップ付コアおよびギャップレスコアを総称的に指す。
【0017】
図2は、ギャップ付コアの磁気特性を例示する図である。
図2のグラフにおいて、横軸は磁界(H)を示し、縦軸は磁束密度(B)を示す。HとBとの間には、B=μ×Hの関係が成立する。μは、透磁率(より具体的には、以下に述べる等価透磁率)である。
図2に示される通り、ギャップ付コアでは、Hの使用範囲(トランスの使用時にコアに生じることが想定されるHの範囲)の全体に亘り、BはHに対してほぼ線形関係にある。このように、ギャップ付コアでは、Hの使用範囲の全体に亘り、μはほぼ一定である。
【0018】
なお、トランスの励磁インダクタンスLcrは、
【数1】
…(1)
の通り表される。Sはギャップ部の断面積(≒コアの断面積)であり、lはコアの全磁路長であり、Nwはコアに巻回されている巻線の巻数である。Nwは、1次巻数または2次巻線の一方であってよい。Nwが1次巻数である場合、Lcrは1次側から見た励磁インダクタンスとして算出される。他方、Nwが2次巻数である場合、Lcrは2次側から見た励磁インダクタンスとして算出される。
【0019】
式(1)における等価透磁率は、
【数2】
…(2)
の通り表される。μ0はギャップ部の透磁率(真空の透磁率)であり、μcはコアの透磁率であり、lcはコアの磁路長であり、lgはギャップ長である。
【0020】
一般的には、μ0はμcよりも十分に小さい。このため、式(2)の分母における第1項は、無視することができる。それゆえ、μは、近似的に、
【数3】
…(2’)
と表すことができる。
【0021】
以上のことから、Lcrは、近似的に、
【数4】
…(3)
と表すことができる。
【0022】
上述の式(1)から明らかである通り、μが一定であれば、Lcrは一定である。そして、上述の式(2’)からも明らかである通り、ギャップ付コアを有するトランスの通常運転時には、μはほぼ一定である。このため、ギャップ付コアを用いることにより、後述する励磁電流ベース偏磁補正を精度良く行うことが可能とする。
【0023】
再び
図1を参照する。BRG1は、複数のスイッチング素子を備える。
図1の例におけるスイッチング素子は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor,絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)である。
図1の例におけるBRG1は、2相フルブリッジ回路である。
図1の例では、BRG1は、1次側U相上側スイッチング素子110UH(1次側第1相上側スイッチング素子)、1次側U相下側スイッチング素子110UL(1次側第1相下側スイッチング素子)、1次側V相上側スイッチング素子110VH(1次側第2相上側スイッチング素子)、および1次側V相下側スイッチング素子110VL(1次側第2相下側スイッチング素子)を備える。U相およびV相はそれぞれ、本発明の一態様における第1相および第2相の一例である。
【0024】
BRG1では、1次側U相上側スイッチング素子110UHと1次側U相下側スイッチング素子110ULとが直列に接続されることにより、1次側U相スイッチングレグLEG1U(1次側第1相スイッチングレグ)が構成されている。同様に、BRG1では、1次側V相上側スイッチング素子110VHと1次側V相下側スイッチング素子110VLとが直列に接続されることにより、1次側V相スイッチングレグLEG1V(1次側第2相スイッチングレグ)が構成されている。
【0025】
LEG1UとLEG1Vとは、互いに並列に接続されている。そして、LEG1UおよびLEG1Vはそれぞれ、1次側直流電源1810に接続されている。具体的には、1次側U相上側スイッチング素子110UHおよび1次側V相上側スイッチング素子110VHはそれぞれ、1次側直流電源1810の正極に接続されている。他方、1次側U相下側スイッチング素子110ULおよび1次側V相下側スイッチング素子110VLはそれぞれ、1次側直流電源1810の負極に接続されている。
図1の例では、1次側直流電源1810の負極は、接地されている。
【0026】
BRG1は、Vdc1(1次側直流電圧)を変換することにより、1次側交流電圧V1を出力する。具体的には、BRG1では、制御部90から供給されたスイッチング制御信号に従って、BRG1の各スイッチング素子がON/OFFされることにより、Vdc1がV1へと変換される。1次側電圧センサ181Vは、Vdc1を測定できるように配置されている。
【0027】
図1の例におけるノードNN1は、1次側U相上側スイッチング素子110UHと1次側U相下側スイッチング素子110ULとの接続点である。NN1は、BRG1の出力ノードの一例である。NN1は、第1出力ノードと称されてもよい。第1出力ノードは、V1が出力されるノードである。そして、BRG1は、NN1から1次電流I1を出力する。1次側電流センサ181Aは、I1を測定できるように配置されている。
【0028】
図1の例では、制御部90は、1次側U相上側スイッチング素子110UHおよび1次側V相下側スイッチング素子110VLのそれぞれに(より具体的には、1次側U相上側スイッチング素子110UHおよび1次側V相下側スイッチング素子110VLのそれぞれのゲート端子に)、第1スイッチング制御信号s1を供給する。そして、制御部90は、1次側V相上側スイッチング素子110VHおよび1次側U相下側スイッチング素子110ULのそれぞれに(より具体的には、1次側V相上側スイッチング素子110VHおよび1次側U相下側スイッチング素子110ULのそれぞれのゲート端子に)、第2スイッチング制御信号s2を供給する。
【0029】
続いて、主回路10の2次側について説明する。BRG2は、BRG1と対になるブリッジ回路である。
図1の例では、BRG2は、2次側U相上側スイッチング素子120UH(2次側第1相上側スイッチング素子)、2次側U相下側スイッチング素子120UL(2次側第1相下側スイッチング素子)、2次側V相上側スイッチング素子120VH(2次側第2相上側スイッチング素子)、および2次側V相下側スイッチング素子120VL(2次側第2相下側スイッチング素子)を備える。
【0030】
BRG2では、2次側U相上側スイッチング素子120UHと2次側U相下側スイッチング素子120ULとが直列に接続されることにより、2次側U相スイッチングレグLEG2U(2次側第1相スイッチングレグ)が構成されている。同様に、BRG2では、2次側V相上側スイッチング素子120VHと2次側V相下側スイッチング素子120VLとが直列に接続されることにより、2次側V相スイッチングレグLEG2V(2次側第2相スイッチングレグ)が構成されている。
【0031】
LEG2UとLEG2Vとは、互いに並列に接続されている。そして、LEG2UおよびLEG2Vはそれぞれ、2次側直流電源1820に接続されている。具体的には、2次側U相上側スイッチング素子120UHおよび2次側V相上側スイッチング素子120VHはそれぞれ、2次側直流電源1820の正極に接続されている。他方、2次側U相下側スイッチング素子120ULおよび2次側V相下側スイッチング素子120VLはそれぞれ、2次側直流電源1820の負極に接続されている。
【0032】
BRG2は、Vdc2(2次側直流電圧)を変換することにより、2次側交流電圧V2を出力する。具体的には、BRG2では、制御部90から供給されたスイッチング制御信号に従って、BRG2の各スイッチング素子がON/OFFされることにより、Vdc2がV2へと変換される。2次側電圧センサ182Vは、Vdc2を測定できるように配置されている。
【0033】
図1の例におけるノードNN2は、2次側V相上側スイッチング素子120VHと2次側V相下側スイッチング素子120VLとの接続点である。NN2は、BRG2の出力ノードの一例である。NN2は、第2出力ノードと称されてもよい。第2出力ノードは、V2が出力されるノードである。そして、BRG2は、NN2から2次電流I2を出力する。2次側電流センサ182Aは、I2を測定できるように配置されている。なお、本明細書では、TRの巻数比を、Nと表記する。Nは、変圧比と称されてもよい。以下では、Vdc1=N×Vdc2という関係が成り立つ前提のもとに、各説明を行う。
【0034】
図1の例では、制御部90は、2次側U相上側スイッチング素子120UHおよび2次側V相下側スイッチング素子120VLのそれぞれに(より具体的には、2次側U相上側スイッチング素子120UHおよび2次側V相下側スイッチング素子120VLのそれぞれのゲート端子に)、第3スイッチング制御信号s3を供給する。制御部90は、2次側V相上側スイッチング素子120VHおよび2次側U相下側スイッチング素子120ULのそれぞれに(より具体的には、2次側V相上側スイッチング素子120VHおよび2次側U相下側スイッチング素子120ULのそれぞれのゲート端子に)、第4スイッチング制御信号s4を供給する。
【0035】
一例として、制御部90は、PWM(Pulse Width Modulation)制御によって、s1~s4を生成する。例えば、制御部90は、(i)1次側電圧センサ181VからVdc1を、(ii)2次側電圧センサ182VからVdc2を、(iii)1次側電流センサ181AからI1を、(iv)2次側電流センサ182AからI2を、それぞれ取得してよい。そして、制御部90は、Vdc1、Vdc2、I1、およびI2に基づいて、PWM制御によって、s1~s4を生成してよい。但し、当然ながら、制御部90におけるs1~s4の生成手法は、上記例に限定されない。
【0036】
図1に示される通り、主回路10は、外付けリアクトルLaをさらに備える。Laは、本発明の一態様に係るリアクトルの一例である。Laは、主回路10の1次側または2次側に設けられてよい。
図1では、Laが1次側に設けられている場合が例示されている。Laが1次側に設けられる場合、Laの一端はNN1に接続され、かつ、Laの他端はPWに接続される。なお、Laが2次側に設けられる場合、Laの一端はNN2に接続され、かつ、Laの他端はSWに接続される。
【0037】
本明細書では、NN1およびPWに接続されているリアクトルを、1次側リアクトルと称する。これに対し、NN2およびSWに接続されているリアクトルを、2次側リアクトルと称する。実施形態1におけるLaは、1次側リアクトルの一例である。なお、実施形態1におけるLaは、1次側外付けリアクトルと称されてもよい。
【0038】
図3は、DABコンバータ1におけるTRおよびその周囲の等価回路を示す図である。
図3のLlは、TRの漏れインダクタンスである。以下、LaとLlとの合成インダクタンスをLと表記する。
図3から明らかである通り、Lは、L=La+Lとして表される。以下の説明では、Lに印加される電圧VLを、リアクトル電圧と称する。
図3の例では、VLを測定するための電圧センサ185Vが示されている。但し、DABコンバータ1は、必ずしも電圧センサ185Vを有していなくともよい。なお、
図3に示されている電圧Vtrは、CRに印加される電圧である。より具体的には、Vtrは、上述のLcrに印加される電圧である。Vtrは、コア電圧とも称される。
【0039】
実施形態1において、制御部90は、偏磁補正部91および直流成分補正部92を備える。偏磁補正部91は、TRの偏磁量(TRの偏磁状態を示す量)を取得するとともに、当該偏磁量を補正する。直流成分補正部92は、Laに流れる電流(負荷電流)の直流成分を取得するとともに、当該直流成分を補正する。上述のLaの接続関係から理解される通り、負荷電流はI1またはI2から、励磁電流I0を除いた値に等しい。なお、I1=I2/Nである。以下の説明におけるI1は、文脈上特に矛盾がない限り、負荷電流と読み替えられてよい。偏磁補正部91および直流成分補正部92の動作の具体的については、後述する。
【0040】
(従来の制御手法における動作の一例)
図4は、従来の制御手法に係るDABコンバータ1の動作の一例を示す図である。
図4において、符号4000AはV1およびV2のタイムチャートの一例であり、符号4000BはVLのタイムチャートの一例であり、符号4000CはI1のタイムチャートの一例である。なお、
図4では、N=1の場合が例示されている。このことは、
図4に対応する以降の各図面においても同様である。
【0041】
DABコンバータ1は、1次側と2次側との間において電力を双方向的に出力(伝送)できる。周知の通り、DABコンバータ1における出力電力Pは、BRG1とBRG2との位相差φに応じて変化する。このため、φを変化させることにより、Pを変化させることができる。Pとφとの関係式については、例えば、“Dual Active Bridgeを用いた絶縁形DC-DCコンバータの過渡特性の改善”,高木 一斗、藤田 英明,電気学会論文誌D(産業応用部門誌) Vol.136 No.9 pp.622-628 (2016)を参照されたい。なお、実施形態1では、Pの正方向は、1次側から2次側に電力が伝送される方向であるものとする。
【0042】
本明細書では、φは、1次2次間位相差と称されてもよい。より具体的には、φは、1次側スイッチング制御信号と2次側スイッチング制御信号との間の位相差である。1次側スイッチング制御信号は、BRG1の各スイッチング素子に供給される各スイッチング制御信号を総称的に指す。2次側スイッチング制御信号は、BRG2の各スイッチング素子に供給される各スイッチング制御信号を総称的に指す。一例として、φは、s1とs3との間の位相差である。また、φは、s2とs4との間の位相差でもある。φは、1次側スイッチング制御信号の位相が2次側スイッチング制御信号の位相に対して進んでいる場合に、正の値をとるものとする。
【0043】
DABコンバータ1の1次側および2次側のそれぞれでは、互いに対角位置に存在する2つのスイッチング素子のスイッチング状態が、同時に切り替えられる。そして、s1およびs2は、互いに逆位相の信号として、制御部90によって生成される。同様に、s3およびs24は、互いに逆位相の信号として、制御部90によって生成される。
【0044】
従って、例えば、1次側U相上側スイッチング素子110UHおよび1次側V相下側スイッチング素子110VLのそれぞれがs1によってONされる区間では、1次側U相下側スイッチング素子110ULおよび1次側V相上側スイッチング素子110VHのそれぞれがs2によってOFFされる。そして、1次側U相下側スイッチング素子110ULおよび1次側V相上側スイッチング素子110VHのそれぞれがs2によってONされる区間では、1次側U相上側スイッチング素子110UHおよび1次側V相下側スイッチング素子110VLのそれぞれがs1によってOFFされる。1次側におけるこのようなスイッチングにより、
図4に示す矩形状の電圧波形がV1として得られる。
【0045】
同様に、2次側U相上側スイッチング素子120UHおよび2次側V相下側スイッチング素子120VLのそれぞれがs3によってONされる区間では、2次側U相下側スイッチング素子120ULおよび2次側V相上側スイッチング素子120VHのそれぞれがs4によってOFFされる。そして、2次側U相下側スイッチング素子120ULおよび2次側V相上側スイッチング素子120VHのそれぞれがs4によってONされる区間では、2次側U相上側スイッチング素子120UHおよび2次側V相下側スイッチング素子120VLのそれぞれがs3によってOFFされる。2次側におけるこのようなスイッチングにより、
図4に示す矩形状の電圧波形がV2として得られる。
【0046】
図3に示されている等価回路から明らかである通り、Lには、V1およびV2に応じた電圧が印加される。言い換えれば、VLは、V1およびV2に応じた電圧として設定される。具体的には、
VL=V1-N×V2 …(4)
として表される。
図4の例では、N=1であるので、VL=V1-V2である。すなわち、
図4の例では、Lには、V1とV2との差電圧が印加される。
【0047】
従って、
図4の例では、V1=V2の区間において、VL=0となる。他方、V1≠V2の区間において、VL=0となる。
図4の例では、φは一定に維持されている。このため、正負対称の電圧波形がVLとして得られる。
図4に示される通り、VLが正負対称である場合、VLに起因する負荷電流の直流成分は生じない。以下、負荷電流の直流成分を、負荷電流直流成分とも称する。
【0048】
以上の説明から理解される通り、DABコンバータ1におけるLaは、負荷電流の値および給電方向を制御するためのコンポーネントである。具体的には、VLを制御することにより、負荷電流の値および給電方向を制御できる。
【0049】
(従来の制御手法において生じる負荷電流の直流成分の一例)
図5は、従来の制御手法において生じる負荷電流直流成分の一例を示す図である。
図5は、
図4と対になる図である。
図5において、符号5000AはV1およびV2のタイムチャートの一例であり、符号5000BはVLのタイムチャートの一例であり、符号5000CはI1のタイムチャートの一例である。
【0050】
図5では、
図4の例とは異なり、DABコンバータ1の動作中のある時点(便宜上、電力伝送方向反転時点と称する)において、電力伝送方向(Pの向き)が反転している。言い換えれば、電力伝送方向反転時点の前後において、φの符号(正負)が反転している。
図5の例では、電力伝送方向反転時点の前後において、φの値がφ1(正)から-φ1(負)に変更されている。
図5に示される通り、電力伝送方向反転時点の前後におけるφの符号の反転に伴い、VLの波形は正負非対称となる。この場合、VLの正負非対称性に起因して、負荷電流直流成分が生じてしまう。その結果、負荷電流の波形は、正負対称の交流成分に直流成分が重畳された波形となる。
【0051】
但し、負荷電流直流成分が生じる原因(言い換えれば、VLが正負非対称となる原因)は、上述した電力伝送方向の反転(φの符号の反転)に限定されない。一例として、DABコンバータ1内の各スイッチング素子に印加されるON電圧にばらつきが生じる場合にも、VLは正負非対称となりうる。別の例として、DABコンバータ1内の各スイッチング素子のON時間およびOFF時間にばらつきが生じる場合にも、VLは正負非対称となりうる。こうした場合にも、負荷電流直流成分が生じうる。
【0052】
以上の通り、DABコンバータ1の動作時には、負荷電流直流成分が生じうる。負荷電流直流成分は、DABコンバータ1の各部(例:スイッチング素子、リアクトル、およびトランス)における損失の増加を招く。従って、負荷電流直流成分を低減するように、同成分を補正することが好ましい。DABコンバータ1では、負荷電流直流成分を補正するために、後に詳述する直流成分補正部92が設けられている。
【0053】
(従来の制御手法において生じる偏磁の一例)
図6は、従来の制御手法に係るDABコンバータ1の動作の別の例を示す図である。
図6において、符号6000AはV1およびV2のタイムチャートの一例であり、符号6000BはI0のタイムチャートの一例であり、符号6000CはI1のタイムチャートの一例である。
【0054】
I0は、コアの磁束Φと正の相関を有する。従って、I0は、偏磁状態を示す指標値の1つであると言える。特に、実施形態1では、CRはギャップ付コアであるので、上述の通り、μは一定であると見なすことができる。その結果、Φは、I0に比例すると見なすことができる。このため、ギャップ付コアを用いた場合には、I0が偏磁状態を示す有効な指標値として用いられうる。
【0055】
制御部90(より具体的には、偏磁補正部91)は、I1とI2とに基づいてI0を算出してよい。例えば、
図1の回路構成によれば、I0は、
I0=I1-I2/N …(5)
として表される。従って、制御部90は、式(5)に基づいてI0を算出してよい。
図6の例では、N=1であるので、I0=I1-I2である。
【0056】
図1の回路構成では、PWは、Laを介して、1次側直流電源1810に接続されている。これに対し、SWは、Laを介することなく、2次側直流電源1820に接続されている。言い換えれば、SWは、2次側直流電源1820に直接的に接続されている。なお、実施形態1では、SWが内側巻線であるものとする(後述の実施形態3を参照)。また、LaがLlよりも十分に大きいものとする。
【0057】
これらの前提条件によれば、TRは、直流電源に直接的に接続された側の巻線であるSWに生じる電圧(すなわちV2)によって励磁される。このため、上述のVtrは、V2の時間変化の態様に従ったものとなる。それゆえ、I0は、V2の時間変化の態様に従って決定される。具体的には、I0は、V2の時間積分値に対応する値(すなわち、磁束に対応する値)として表される。
【0058】
図6においても、
図5の例と同様に、電力伝送方向反転時点において、電力伝送方向が反転している。すなわち、電力伝送方向反転時点の前後において、φの符号が反転している。
図6に示される通り、φの符号の反転に伴い、V2の波形は正負非対称となる。この場合、V2の正負非対称性に起因して、V2の時間積分値に直流成分が生じてしまう。その結果、I0の波形は、正負対称の交流成分に直流成分(偏磁成分)が重畳された波形となる。I0の直流成分は、磁束の直流成分に対応する。このように、電力伝送方向の変更が生じた場合には、偏磁が生じる。以上の説明から理解される通り、I0の直流成分および磁束の直流成分はそれぞれ、偏磁量の一例であると言える。また、上述の通り、電力伝送方向の変更が生じた場合には、負荷電流直流成分も生じる。
【0059】
なお、上述の説明から理解される通り、偏磁が生じる原因も、電力伝送方向の反転(φの符号の反転)に限定されない。上述の通り、(i)DABコンバータ1内の各スイッチング素子に印加されるON電圧にばらつきが生じる場合、および、(ii)当該各スイッチング素子のON時間およびOFF時間にばらつきが生じる場合にも、V2は正負非対称となりうる。こうした場合にも、偏磁が生じうる。
【0060】
以上の通り、DABコンバータ1の動作時には、負荷電流直流成分の発生のみならず、偏磁が生じうる。偏磁は、TRの磁気飽和を生じさせる。その結果、DABコンバータ1の各スイッチング素子に過大な電流が流れる。このように、偏磁も、DABコンバータ1における損失の増加を招く。従って、DABコンバータ1では、偏磁量を低減するように、当該偏磁量を補正することが好ましい。そこで、DABコンバータ1では、当該偏磁量を補正するために、後に詳述する偏磁補正部91がさらに設けられている。
【0061】
(模擬駆動例)
上述の通り、各スイッチング素子にばらつきが生じる場合には、負荷電流直流成分の発生と偏磁とが生じうる。以下、模擬駆動例(各スイッチング素子のばらつきを模擬する駆動例)を通じて、負荷電流直流成分の発生および偏磁の発生の具体的を説明する。
【0062】
図7は、模擬駆動例について説明する図である。
図7において、符号7000Aは搬送波信号(CAR)および比較信号(CMP)のタイムチャートの一例であり、符号7000Bはスイッチング制御信号(s)のタイムチャートの一例である。
【0063】
本明細書における搬送波信号は、1次側搬送波信号および2次側搬送波信号を総称的に指す。1次側搬送波信号とは、1次側スイッチング制御信号を生成するための搬送波信号を意味する。同様に、2次側搬送波信号とは、2次側スイッチング制御信号を生成するための搬送波信号を意味する。また、スイッチング制御信号は、上述の1次側スイッチング制御信号および2次側スイッチング制御信号を総称的に指す。比較信号は、デューティ比信号とも称される。
【0064】
なお、
図7では、搬送波信号がのこぎり波である場合が例示されているが、当業者であれば明らかである通り、搬送波信号の波形は図示の例に限定されないことに留意されたい。本発明の一態様に係る搬送波信号は、所望のデューティ比を有するスイッチング制御信号を生成するための信号であればよい。従って、搬送波信号に基づいてスイッチング制御信号を生成できる限り、任意の波形の搬送波信号が使用されてよい。
【0065】
図7の例では、制御部90は、CARとCMPとを比較することにより、sの信号値を決定する。具体的には、制御部90は、CAR≧CMPである場合には、sの信号値をHigh値に設定する。他方、制御部90は、CAR<CMPである場合には、sの信号値をLow値に設定する。なお、
図7の例において、sのHigh値およびLow値はそれぞれ、OFF信号値およびON信号値に対応する。
【0066】
図7の例では、CMPは通常時には0に設定されている。模擬駆動例では、ある時点においてCMPが非ゼロにシフトされている。以下、CMPが非ゼロにシフトされた時点を、シフト時点と称する。
図7の例では、CMPは正にシフトされている。
図7に示される通り、シフト時点の前後において、sのデューティ比は異なる。このように、CMPをシフトすることにより、各スイッチング素子のばらつきを模擬することができる。
【0067】
図8は、模擬駆動例において生じる負荷電流直流成分および偏磁の一例を示す図である。
図8では、DABコンバータの1次側に対し、
図7において述べたCMPのシフトがなされた場合が例示されている。
図8において、符号8000AはI1およびI2のタイムチャートの一例であり、符号8000BはI0のタイムチャートの一例である。
図8の例では、上述の通り、I0=I1-I2の関係が成立する。
【0068】
図8に示される通り、CMPのシフトを契機として、I1およびI2のそれぞれに直流成分が生じることが確認された。
図8の例では、I1に比べて、I2により大きい直流成分が生じている。I1およびI2のそれぞれに上述の直流成分が生じたことに伴い、I0にも直流成分が生じる。そして、時間の経過に伴い、I0の直流成分が大きくなることが確認された。すなわち、CMPのシフトを契機として、偏磁が進行することが確認された。以上の通り、各スイッチング素子のばらつきに起因して、負荷電流直流成分(
図8の例では、I1の直流成分)および偏磁が生じることが、模擬駆動例を通じて示された。
【0069】
(偏磁補正部91)
本明細書では、偏磁(より具体的には、偏磁量)を補正する手法を、偏磁補正と称する。そして、励磁電流に基づいて偏磁を補正する手法を、励磁電流ベース偏磁補正と称する。実施形態1では、励磁電流ベース偏磁補正を実行する機能部としての偏磁補正部91を例示する。このことから、偏磁補正部91は、励磁電流ベース偏磁補正部と称されてもよい。
【0070】
一例として、偏磁補正部91は、上述の通り、I1およびI2に基づいてI0を算出する。そして、偏磁補正部91は、I0に基づいて偏磁量を補正する。具体的には、偏磁補正部91は、補正すべき偏磁量として、I0に基づく偏磁補正量(励磁電流ベース偏磁補正量ΔI0dc)を取得する。そして、偏磁補正部91は、ΔI0dcを補正するための時間(偏磁量補正時間Δt1)を決定する。
【0071】
一例として、偏磁補正部91は、フィードバック制御によってΔI0の導出および補正を行ってよい。そこで、偏磁補正部91は、
図9に示す偏磁補正用フィードバック制御系910を有していてもよい。偏磁補正用フィードバック制御系910は、第1入力値取得部911、第2入力値取得部912、第1ローパスフィルタ911V、第2ローパスフィルタ912V、P(Proportional)制御器913、第1演算器914、目標値取得部915、第2演算器916、PI(Proportional-Integral)制御器917、リミタ918、および出力部919を有する。なお、
図9の例では、各ローパスフィルタは、LPFと表記されている。
【0072】
第1入力値取得部911は、1次側電流センサ181AからI1を取得し、当該I1を第1ローパスフィルタ911Vに供給する。第2入力値取得部912は、2次側電流センサ182AからI2を取得し、当該I2を第2ローパスフィルタ912Vに供給する。
第1ローパスフィルタ911Vおよびは、I1から直流成分(Idc1)を抽出できるように設定された周波数フィルタである。第1ローパスフィルタ911Vは、抽出したIdc1を第1演算器914に供給する。第2ローパスフィルタ912Vは、I2から直流成分(Idc2)を抽出できるように設定された周波数フィルタである。第2ローパスフィルタ912Vは、抽出したIdc2をP制御器913に供給する。
【0073】
P制御器913は、ゲイン1/Nを有する。P制御器913は、出力値「Idc2/N」を、第1演算器914に供給する。なお、N=1の場合、P制御器913を省略できる。この場合、第2入力値取得部912は、I2を第1演算器914に供給する。
【0074】
上述の式(5)から理解される通り、励磁電流直流成分(励磁電流の直流成分)I0dcは、
I0dc=Idc1-Idc2/N …(6)
として表すことができる。
図9から理解される通り、第1演算器914は、式(6)に従ってI0dcを算出する。そして、第1演算器914は、算出したI0dcを、第2演算器916に供給する。目標値取得部915は、ΔI0dcの目標値を取得し、当該目標値を第2演算器916に供給する。偏磁補正部91は、偏磁状態がなるべく改善されるように(理想的には、偏磁状態が完全に解消されるように)、偏磁を補正することが好ましい。このことから、
図9の例では、ΔI0dcの目標値は0に設定されている。
【0075】
第2演算器916は、現在のI0dc(第1演算器914の出力値)と、ΔI0dcの目標値との偏差(励磁電流偏差)を算出する。第2演算器916は、励磁電流偏差を、PI制御器917に供給する。PI制御器917は、第2演算器916から供給された励磁電流偏差に対し、PI制御を施す。PI制御器917は、時間経過に伴い、励磁電流偏差を上述の目標値(例:0)まで減少させるように設定されている。このため、PI制御器917のゲインは、1未満に設定されている。
【0076】
PI制御器917は、PI制御を施した後の励磁電流偏差(PI後励磁電流偏差)を、リミタ918に供給する。リミタ918は、入力値(PI後励磁電流偏差)に比例した出力値を、所定の下限値から上限値までの範囲内に制限する。出力部919は、リミタ918の出力値を、ΔI0dcとして取得する。出力部919は、ΔI0dcを出力する。このように、偏磁補正部91は、出力部919からΔI0dcを取得できる。
【0077】
ところで、上述の通り、実施形態1では、CRはギャップ付コアであるので、Φは、I0に比例すると見なすことができる。このため、ΔI0とΔt1との間には、
【数5】
…(7)
の関係が成立する。式(7)は、電磁誘導に関するファラデーの法則から導出することができる(後述の実施形態2における説明も参照)。
【0078】
そして、式(7)を変形することにより、
【数6】
…(7’)
が得られる。
【0079】
それゆえ、偏磁補正部91は、偏磁補正用フィードバック制御系910を用いて取得したΔI0dcを用いて、式(7’)に従ってΔt1を決定してよい。このように決定したΔt1を用いて搬送波信号を補正することにより、時間経過に伴い、ΔI0dcを低減することができる。理想的には、当該Δt1を用いて搬送波信号を補正することにより、時間経過に伴い、ΔI0dcを0まで低減することができる。
【0080】
(偏磁補正用フィードバック制御系の別の例)
偏磁補正部91は、上述の偏磁補正用フィードバック制御系910に替えて、
図10に示す偏磁補正用フィードバック制御系910Vを有していてもよい。偏磁補正用フィードバック制御系910Vは、偏磁補正用フィードバック制御系910の一変形例である。
【0081】
偏磁補正用フィードバック制御系910Vは、第1入力値取得部911および第2入力値取得部912に替えて、第1入力値取得部911Uおよび第2入力値取得部912Uを有する。
図10に示される通り、偏磁補正用フィードバック制御系910Vは、第1ローパスフィルタ911Vおよび第2ローパスフィルタ912Vを有していない。その替わり、偏磁補正用フィードバック制御系910Vは、P制御器914Vをさらに有する。P制御器914Vは、ゲイン1/2を有する。
【0082】
上述の通り、制御部90は、式(5)に従ってI0を算出できる。そこで、第1入力値取得部911Uは、制御部90から励磁電流最大値(励磁電流の最大値)I0maxを取得し、当該I0maxを第1演算器914に供給する。第2入力値取得部912Uは、制御部90から励磁電流最小値(励磁電流の最小値)I0minを取得し、当該IminをP制御器913に供給する。
【0083】
当業者であれば明らかである通り、I0maxおよびI0minが生じるタイミングは、交流成分の周波数に応じて定まる。加えて、交流成分の周波数は、搬送波信号の周波数に応じて定まる。従って、例えば、I0maxは、搬送波信号のあるタイミングにおいて生じる。この場合、I0minは、搬送波信号の次の対応するタイミングにおいて生じる。
【0084】
そこで、例えば、第1入力値取得部911Uおよび第2入力値取得部912Uはそれぞれ、制御部90からI0を取得してよい。そして、第1入力値取得部911Uは、搬送波信号(例:2次側搬送波信号)と比較信号とが交差したあるタイミングにおけるI0の値を、I0maxとして取得してよい。また、第2入力値取得部912Uは、当該搬送波信号が比較信号と次に交差したタイミングにおけるI0の値を、I0minとして取得してよい。
【0085】
但し、当然ながら、I0maxおよびI0minの取得手法は、上記の例に限定されない。第1入力値取得部911Uおよび第2入力値取得部912Uはそれぞれ、任意の手法によってI0maxおよびI0minを取得してよい。例えば、第1入力値取得部911Uおよび第2入力値取得部912Uはそれぞれ、制御部90から取得したI0の波形を解析することによって、I0maxおよびI0minを決定してもよい。
【0086】
当業者であれば理解できる通り、I0dcは、
I0dc=(I0max-I0min/N)/2 …(8)
として表すこともできる。そこで、
図10に示されている通り、直流成分補正用フィードバック制御系920では、式(8)の演算を実行できるように、P制御器913・914Vが配置されている。
【0087】
図10の構成によれば、P制御器914Vの出力値は、式(8)の右辺と等しくなる。すなわち、式(8)に従って算出されたI0dcを、P制御器914Vから第2演算器916へと供給することができる。以降の処理は、
図9の例と同様である。
このように、偏磁補正用フィードバック制御系910VによってもΔI0dcを導出できる。従って、偏磁補正部91は、偏磁補正用フィードバック制御系910Vを用いて取得したΔIdcを用いて、上述の式(7’)に従ってΔt1を決定してもよい。
【0088】
(直流成分補正部92)
本明細書では、負荷電流直流成分を補正する手法を、直流成分補正と称する。直流成分補正部92は、直流成分補正を実行する機能部である。例えば、直流成分補正部92は、補正すべき直流成分の量(直流成分補正量ΔIdc)を取得する。そして、直流成分補正部92は、ΔIdcを補正するための時間(直流成分補正時間Δt2)を決定する。
【0089】
一例として、直流成分補正部92は、フィードバック制御によってΔIdcの導出および補正を行ってよい。そこで、直流成分補正部92は、
図11に示す直流成分補正用フィードバック制御系920を有していてもよい。直流成分補正用フィードバック制御系920は、第1入力値取得部921、第2入力値取得部922、第1演算器923、P制御器924、目標値取得部925、第2演算器926、PI制御器927、リミタ928、および出力部929を有する。
【0090】
以下では、負荷電流をIとして表す。以下の説明では、負荷電流がI1に等しい場合を主に例示する。但し、当業者であれば明らかである通り、負荷電流に係るI1についての説明は、I2についての説明に適宜読み替えられてよい。
【0091】
第1入力値取得部921は、主回路10から負荷電流最大値(負荷電流の最大値)Imaxを取得し、当該Imaxを第1演算器923に供給する。第2入力値取得部922は、主回路10から負荷電流最小値(負荷電流の最小値)Iminを取得し、当該Iminを第1演算器923に供給する。
【0092】
ところで、上述の通り、負荷電流には、交流成分と直流成分とが重畳している。このため、ImaxおよびIminが生じるタイミングは、交流成分の周波数に応じて定まる。加えて、交流成分の周波数は、搬送波信号の周波数に応じて定まる。従って、例えば、Imaxは、搬送波信号のある立ち上がりタイミングにおいて生じる。この場合、Iminは、搬送波信号の次の立ち上がりタイミングにおいて生じる。
【0093】
そこで、例えば、第1入力値取得部921および第2入力値取得部922はそれぞれ、1次側電流センサ181AからI1を取得してよい。そして、第1入力値取得部921は、搬送波信号のある立ち上がりタイミングにおけるI1の値を、Imaxとして取得してよい。また、第1入力値取得部921は、搬送波信号の次の立ち上がりタイミングにおけるI1の値を、Iminとして取得してよい。
【0094】
但し、偏磁補正用フィードバック制御系についての上述の説明からも明らかである通り、ImaxおよびIminの取得手法は、上記の例に限定されない。第1入力値取得部921および第2入力値取得部922はそれぞれ、任意の手法によってImaxおよびIminを取得してよい。例えば、第1入力値取得部921および第2入力値取得部922はそれぞれ、1次側電流センサ181Aから取得したI1の波形を解析することによって、ImaxおよびIminを決定してもよい。
【0095】
当業者であれば理解できる通り、負荷電流直流成分(Idc)は、
Idc=(Imax+Imin)/2 …(9)
として表すことができる。そこで、直流成分補正用フィードバック制御系920では、第1演算器923は、ImaxとIminとの和を出力する。そして、P制御器924は、ゲイン1/2を有する。
図11から理解される通り、当該構成によれば、P制御器924の出力値は、式(9)の右辺と等しくなる。すなわち、式(9)に従って算出されたIDCを、P制御器924から第2演算器926へと供給することができる。
【0096】
目標値取得部925は、ΔIdcの目標値を取得し、当該目標値を第2演算器926に供給する。上述の
図9の例と同様の趣旨により、
図11の例においても、ΔIdcの目標値の目標値は0に設定されている。
【0097】
第2演算器926は、現在のIdc(P制御器924の出力値)と、ΔIdcの目標値との偏差(直流成分偏差)を算出する。第2演算器926は、直流成分偏差を、PI制御器927に供給する。PI制御器927は、第2演算器926から供給された直流成分偏差に対し、PI制御を施す。上述のPI制御器917と同様に、PI制御器927のゲインも、1未満に設定されている。
【0098】
PI制御器927は、PI制御を施した後の直流成分偏差(PI後直流成分偏差)を、リミタ928に供給する。リミタ928は、入力値(PI後直流成分偏差)に比例した出力値を、所定の下限値から上限値までの範囲内に制限する。出力部929は、リミタ928の出力値を、ΔIdcとして取得する。出力部929は、ΔIdcを出力する。このように、直流成分補正部92は、出力部929からΔIdcを取得できる。
【0099】
上述の通り、負荷電流は、VLによって制御される。そして、VLは、上述の式(4)の通り表される。加えて、実施形態1の回路構成によれば、期間Δt2では、V1≒Vdc1、かつ、V2≒-Vdc2であると見なすことができる。それゆえ、期間Δt2におけるVLは、
VL=Vdc1+N×Vdc2 …(10)
の通り表すことができる。
【0100】
そこで、Lについて、式(10)のVLを用いて、電磁誘導に関するファラデーの法則を適用することにより、ΔIdcとΔt2との間の関係式、
【数7】
…(11)
を導出することができる。
【0101】
そして、式(11)を変形することにより、
【数8】
…(11’)
が得られる。
【0102】
それゆえ、直流成分補正部92は、直流成分補正用フィードバック制御系920を用いて取得したΔIdcを用いて、式(11’)に従ってΔt2を決定してよい。このように決定したΔt2を用いて搬送波信号を補正することにより、時間経過に伴い、ΔIdcを低減することができる。理想的には、当該Δt2を用いて搬送波信号を補正することにより、時間経過に伴い、ΔIdcを0まで低減することができる。
【0103】
(直流成分補正用フィードバック制御系の別の例)
直流成分補正部92は、上述の直流成分補正用フィードバック制御系920に替えて、
図12に示す直流成分補正用フィードバック制御系920Vを有していてもよい。直流成分補正用フィードバック制御系920Vは、直流成分補正用フィードバック制御系920の一変形例である。
【0104】
直流成分補正用フィードバック制御系920Vは、第1入力値取得部921に替えて、入力値取得部921Vを有する。また、直流成分補正用フィードバック制御系920Vは、第2演算器926に替えて、演算器926Vを有する。
図12に示される通り、直流成分補正用フィードバック制御系920Vは、第2入力値取得部922、第1演算器923、およびP制御器924に対応するコンポーネントを有していない。その替わり、直流成分補正用フィードバック制御系920Vは、ローパスフィルタ922Vを有する。
【0105】
入力値取得部921Vは、負荷電流を取得する。例えば、入力値取得部921Vは、負荷電流として、1次側電流センサ181AからI1を取得する。入力値取得部921Vは、取得した負荷電流をローパスフィルタ922Vに供給する。
【0106】
ローパスフィルタ922Vは、I1からIdcを抽出できるように設定された周波数フィルタである。ローパスフィルタ922Vは、抽出したIdcを演算器926Vに供給する。演算器926Vは、現在のIdc(ローパスフィルタ922Vの出力値)と、ΔIdcの目標値との偏差(直流成分偏差)を算出する。以降の処理は、
図11の例と同様である。このように、直流成分補正用フィードバック制御系920VによってもΔIdcを導出できる。従って、直流成分補正部92は、直流成分補正用フィードバック制御系920Vを用いて取得したΔIdcを用いて、式(11’)に従ってΔt2を決定してもよい。
【0107】
以上の通り、直流成分補正用フィードバック制御系920Vでは、ローパスフィルタ922VによってIdcを取得できる。このように、直流成分補正用フィードバック制御系920Vによれば、直流成分補正用フィードバック制御系920に比べて簡素な構成によってIdcを取得できる。
【0108】
(Δt1およびΔt2に応じた搬送波信号の補正の一例)
図13は、Δt1およびΔt2に応じた搬送波信号の補正の一例を示す図である。
図13では、搬送波信号(のこぎり波)の振幅が1(任意単位)であり、当該搬送波信号の周期(スイッチング周期)がTである場合が例示されている。
図13の例における搬送波信号は正負対称であるため、当該搬送波信号の最大値および最小値はそれぞれ、1および-1である。
【0109】
上述の通り、偏磁補正部91は、Δt1に応じて搬送波信号を補正することによって、偏磁量を補正してよい。具体的には、偏磁補正部91は、Δt1に応じて搬送波信号の補正量を決定してよい。
図13の例では、偏磁補正部91は、
Δs1=(Δt1/T)×2 …(12)
の通り、搬送波信号の補正量Δs1を決定してよい。Δs1は、偏磁補正用搬送波信号補正量と称されてもよい。
【0110】
そして、直流成分補正部92は、Δt2に応じて搬送波信号を補正することによって、直流成分を補正してよい。具体的には、直流成分補正部92は、Δt2に応じて搬送波信号の補正量を決定してよい。
図13の例では、直流成分補正部92は、
Δs2=(Δt2/T)×2 …(13)
の通り、搬送波信号の補正量Δs2を決定してよい。Δs2は、直流成分補正用搬送波信号補正量と称されてもよい。
【0111】
偏磁補正部91は、1次側搬送波信号および2次側搬送波信号(
図13のCAR1およびCAR2)の両方に、Δs1または-Δs1を加算してよい。Δs1または-Δs1の加算タイミングは、任意であってよい。搬送波信号にΔs1を加算することは、プラス側補正と称されてよい。他方、搬送波信号に-Δs1を加算することは、マイナス側補正と称されてよい。
図13では、プラス側補正が例示されている。
【0112】
直流成分補正部92は、CAR1またはCAR2の一方に、Δs2または-Δs2を加算してよい。Δs2または-Δs2の加算タイミングは、任意であってよい。
図13では、CAR2に-Δs2が加算されている場合(マイナス側補正)が例示されている。
【0113】
(偏磁補正および直流成分補正の実施例)
続いて、DABコンバータ1における偏磁補正および直流成分補正の実施例について説明する。まず、当該実施例の説明に先立ち、比較例について述べる。
図14は、比較例におけるDABコンバータ1の各信号を示す図である。比較例では、無負荷状態(出力電力0の状態)において、従来の制御手法に従ってDABコンバータ1が動作している。このため、比較例では、CAR1およびCAR2は全ての期間において等しい。それゆえ、比較例では、例えば、s1およびs3も全ての期間において等しい。なお、比較例では、上述の模擬駆動例の通り、各スイッチング素子のばらつきが模擬されている。
【0114】
図14において、符号14000AはI1およびI2のタイムチャートの一例であり、符号14000BはI0のタイムチャートの一例であり、符号14000CはCAR1およびCAR2のタイムチャートの一例であり、符号14000DはV1およびV2のタイムチャートの一例であり、符号14000Eはs1およびs3のタイムチャートの一例である。
図14に示される通り、比較例では、V1とV2との位相ずれに起因して、時間の経過に伴い、I1およびI2に重畳される直流成分が大きくなることが確認された。また、V1とV2との位相ずれに起因して、時間の経過に伴い、I0に重畳される直流成分が大きくなることも確認された。このように、比較例では、上述の
図8と同様に、負荷電流直流成分の発生および偏磁の発生が生じることが確認された。
【0115】
図15は、DABコンバータ1における偏磁補正および直流成分補正の実施例を示す図である。
図15は、
図14と対になる図である。
図15において、符号15000AはI1およびI2のタイムチャートの一例であり、符号15000BはI0のタイムチャートの一例であり、符号15000CはCAR1およびCAR2のタイムチャートの一例であり、符号15000DはV1およびV2のタイムチャートの一例であり、符号15000Eはs1およびs3のタイムチャートの一例である。
【0116】
実施例では、無負荷状態において、制御部90によって主回路10が制御されている。すなわち、当該実施例では、制御部90は、Δt1およびΔt2に応じた補正された搬送波信号(補正後搬送波信号)に基づき、スイッチング制御信号を生成する。例えば、制御部90は、補正後搬送波信号をCMPと比較することにより、スイッチング制御信号を生成する。そして、制御部90は、このように生成したスイッチング制御信号に従って、BRG1とBRG2とを制御する。具体的には、制御部90は、当該スイッチング制御信号を各スイッチング素子に供給することにより、当該各スイッチング素子を制御する。
【0117】
図15に示される通り、実施例では、上述の通りスイッチング制御信号を生成することにより、比較例において生じていたV1とV2との位相ずれを抑制できる。その結果、実施例では、観測時間の全体に亘り、I1およびI2に重畳される直流成分がほぼ0であることが確認された。また、観測時間の全体に亘り、I0に重畳される直流成分もほぼ0であることも確認された。このように、実施例では、比較例において生じていた負荷電流直流成分および偏磁を抑制できることが確認された。以上の通り、制御部90によれば、負荷電流直流成分を補正し、かつ、偏磁量を補正するように、DABコンバータ1を動作させることができる。
【0118】
(効果)
以上の通り、DABコンバータ1(特に、制御部90)によれば、偏磁量および負荷電流直流成分をともに補正できる。特に、DABコンバータ1によれば、偏磁量を取得し、当該偏磁量に基づく偏磁補正を行うことにより、トランスの偏磁を従来よりも効果的に補正することが可能となる。
【0119】
なお、特許文献1では、偏磁量を取得するための具体的構成について何ら言及されていない。すなわち、特許文献1では、「偏磁量に基づく偏磁補正を行う」という着想について何ら考慮されていない。このように、上記着想は、本願の発明者らによって新たに見出された技術的思想であると言える。
【0120】
なお、上述の通り、実施形態1では、トランスのコアとしてギャップ付コアが用いられている。ギャップ付コアを用いることにより、トランス使用時に想定される磁束密度の範囲において、励磁電流と磁束との間に線形関係を成立させることができる。このため、励磁電流ベース偏磁補正を行うことができる。励磁電流ベース偏磁補正によれば、後述の磁束ベース補正制御に比べて単純なハードウェア構成によって、トランスの偏磁を補正できる。
【0121】
また、励磁電流ベース偏磁補正では、磁束ベース補正制御とは異なり、時間積分を行うことなく偏磁量を取得できる。すなわち、励磁電流ベース偏磁補正では、磁束ベース補正制御に比べ、偏磁量をより直接的に取得できる。それゆえ、励磁電流ベース偏磁補正によれば、磁束ベース補正制御に比べてさらに信頼性の高い偏磁補正を実現できる。
【0122】
〔実施形態2〕
図16は、実施形態2におけるDABコンバータ2の要部の構成を示す図である。DABコンバータ2の主回路および制御部をそれぞれ、主回路20および制御部90Aと称する。主回路20は、主回路10のTRに替えて、トランスTR2を有する。TR2は、CRに替えて、コアCR2を有する。制御部90Aは、偏磁補正部91に替えて、偏磁補正部91Aを有する。そして、DABコンバータ2は、サーチコイル290をさらに備えている。
【0123】
実施形態2におけるCR2は、ギャップレスコアである。
図17は、ギャップレスコアの磁気特性を例示する図である。
図17は、上述の
図2と対になる図である。ギャップレスコアでは、ギャップ付コアとは異なり、BはHに対して非線形関係にある。このため、ギャップレスコアでは、Hの使用範囲において、μは大きく変化する(
図17のμ1およびμ2を参照)。
【0124】
このように、実施形態2では、実施形態1とは異なり、μは一定であると見なすことができない。言い換えれば、実施形態2では、Φは、I0に比例すると見なすことができない。このため、トランスのコアとしてギャップレスコアを用いた場合には、偏磁状態を示す有効な指標値としてI0を用いることはできない。
【0125】
そこで、実施形態2では、Φを検出するためのコンポーネントとして、サーチコイル290(磁束検出用巻線)が設けられている。サーチコイル290は、Φを検出できるように配置されていればよい。例えば、サーチコイル290は、CR2に巻回されていればよい。サーチコイル290の巻数がNsである場合、サーチコイル290に生じる電圧Vsは、
【数9】
…(14)
の通り表される。このため、実施形態2では、偏磁状態を示す指標値として、Vsを用いることができる。
【0126】
本明細書では、磁束(Φ)に基づいて偏磁を補正する手法を、磁束ベース偏磁補正と称する。偏磁補正部91Aは、磁束ベース偏磁補正を実行する機能部である。このことから、偏磁補正部91Aは、磁束ベース偏磁補正部と称されてもよい。
【0127】
偏磁補正部91Aは、補正すべき偏磁量として、磁束に基づく偏磁補正量(磁束ベース偏磁補正量ΔΦ)を取得する。そして、偏磁補正部91Aは、ΔΦを補正するための時間(偏磁量補正時間Δt1)を決定する。偏磁量が同一の場合、当然ながら、実施形態2におけるΔt1は、実施形態1におけるΔt1と同一の値に設定されうる。
【0128】
偏磁補正部91Aは、Vsを時間積分することによって、ΔΦを算出してよい。一例として、偏磁補正部91Aは、
【数10】
…(14’)
に従って、ΔΦを算出してよい。
【0129】
当業者であれば明らかである通り、式(14’)は、上述の式(14)に基づいて導出される。式(14’)におけるTnは、積分周期である。Tnは、スイッチング周期の自然数倍であればよい。式(14’)による積分を行うことにより、Vsの正負対称成分は相殺される。その結果、Vsの正負非対称成分に対応する量のみが、ΔΦとして算出される。
【0130】
そして、偏磁補正部91Aは、
【数11】
…(15)
に従って、ΔΦに応じたΔt1を算出してよい。
【0131】
式(15)は、実施形態1における式(7’)に対応する式である。当業者であれば明らかである通り、ギャップ付コアの場合には、ΔI0dc×Lm=N1×ΔΦという関係が成立するためである。従って、トランスのコアとしてギャップ付コアを用いた場合(実施形態1の場合)において、ΔI0dcを導出することは、実施形態2におけるΔΦを導出することと技術的に等価であると言える。
【0132】
次いで、実施形態2においても、Vdc1=N×Vdc2という関係が成立する場合を考える。ここで、PWの巻数(1次巻数)をN1として表し、SWの巻数(2次巻数)をN2として表すと、N=N1/N2である。このことから、実施形態2では、
Vdc1/N1=Vdc2/N2 …(16)
という関係が成立する。
【0133】
従って、偏磁補正部91Aは、
【数12】
…(17)
に従って、ΔΦに応じたΔt1を算出してもよい。式(17)は、上述の式(15)および式(16)から導かれる。
【0134】
実施形態1と同様に、偏磁補正部91Aは、Δt1に応じて搬送波信号を補正することによって、偏磁量を補正してよい。具体的には、偏磁補正部91は、実施形態1と同様に、Δt1に応じて搬送波信号の補正量を決定してよい。実施形態2では、上述の通り決定したΔt1を用いて搬送波信号を補正することにより、時間経過に伴い、ΔΦを低減することができる。理想的には、当該Δt1を用いて搬送波信号を補正することにより、時間経過に伴い、ΔΦを0まで低減することができる。
【0135】
(効果)
以上の通り、DABコンバータ2によれば、偏磁補正として磁束ベース偏磁補正を行うことができる。磁束ベース偏磁補正によれば、トランスのコアとしてギャップレスコアが用いられる場合においても、トランスの偏磁を精度良く補正できる。すなわち、励磁電流ベース偏磁補正の適用な困難である場合においても、トランスの偏磁を精度良く補正できる。
【0136】
但し、当然ながら、磁束ベース偏磁補正は、ギャップ付コアが用いられる場合においても適用可能である。このことから、磁束ベース偏磁補正は、励磁電流ベース偏磁補正に比べて適用範囲の広い偏磁補正手法であると言える。
【0137】
〔変形例〕
DABコンバータ2において、サーチコイル290は必ずしも設けられなくともよい。例えば、磁束検出用巻線として、トランスの内側巻線(後述のWin)を用いてもよい。後述する通り、内側巻線は、PWまたはSWの一方である。
【0138】
内側巻線の巻数をNiとして表した場合、当該内側巻線に生じる電圧Viは、
【数13】
…(18)
の通り表される。Niは、N1またはN2の一方である。Viは、V1またはV2の一方である。
【0139】
従って、偏磁補正部91Aは、Viを時間積分することによって、ΔΦを算出してもよい。一例として、偏磁補正部91Aは、
【数14】
…(18’)
に従って、ΔΦを算出してよい。式(18’)は、上述の式(18)に基づいて導出される。以降の処理は、上述の実施形態2と同様である。
【0140】
以上の説明から理解される通り、Φとの関係において、本変形例におけるNiおよびViはそれぞれ、実施形態2におけるNsおよびVsに読み替えることができる。このため、内側巻線を用いてΦを検出することは、サーチコイル290を用いてΦを検出することと技術的に等価であると言える。それゆえ、内側巻線を磁束検出用コイルとして用いることにより、サーチコイル290を省略できる。このように、内側巻線を用いてΦを検出することにより、DABコンバータ2のハードウェア構成を単純化できる。
【0141】
〔実施形態3〕
上述の通り、実施形態1のDABコンバータ1によれば、偏磁補正および直流成分補正をともに行うことができる。但し、DABコンバータ1には改善可能な点がある。以下、実施形態3のDABコンバータ3の説明に先立ち、DABコンバータ1における改善可能な点について述べる。
【0142】
(DABコンバータ1における改善可能な点)
図18は、DABコンバータ1におけるLl(TRの漏れインダクタンス)がVtrに与える影響について説明するための図である。
図18において、符号18000Aは、上述の
図3に示されている等価回路におけるV1およびV2のタイムチャートの一例であり、符号18000Bは同等価回路におけるVtrのタイムチャートの一例である。なお、
図18の例においても、N=1であり、VL=V1-V2の関係が成立するものとする。
【0143】
実施形態1において述べた通り、直流成分補正では、負荷電流直流成分を相殺するように、スイッチング制御信号が補正される。言い換えれば、直流成分補正では、負荷電流直流成分を相殺するように、L(LaとLlとの合成インダクタンス)にVLが印加される。具体的には、VLが正負対称となるように、VLが設定される。しかしながら、直流成分補正に伴って、Llにも電圧が印加される。
【0144】
Lに印加される上記電圧は、負荷電流直流成分の低減に寄与する。しかしながら、Lに上記電圧が印加されることにより、φ≠0の区間において、LaとLlとの分圧比に起因する電圧変動がVtrに生じる(
図18のVtrを参照)。このようなVtrの変動は、Φに影響を及ぼし、偏磁を誘発しうる。
【0145】
図19は、DABコンバータ1における改善可能な点について説明するための図である。
図19において、符号19000AはI1およびI2のタイムチャートの一例であり、符号19000BはI0のタイムチャートの一例であり、符号19000CはCAR1およびCAR2のタイムチャートの一例である。
図19の例では、直流成分補正の影響により、I0の波形に歪み(不均衡)が生じている。この歪みは、TRに偏磁が生じていることを示している。
【0146】
(DABコンバータ3)
図20は、DABコンバータ3の要部の構成を示す図である。DABコンバータ3の主回路を、主回路30と称する。主回路30は、TR3を有する。TR3は、TRと同様にCRを有する。そして、TR3は、内側巻線Winおよび外側巻線Woutを有する。
図20では、以下に述べる
図21との対応関係を踏まえ、Ll(漏れインダクタンス)が図示されている。Llは、後述する漏れ磁束を等価的に表現したインダクタンスである。
図20の例では、Llは1次側に配置されている。
【0147】
図21は、TR3の等価回路(より具体的には、π型等価回路)を示す図である。なお、
図21における理想変圧器は、巻数換算済である。
図21におけるLcr_legは、以下に述べるコア脚部の励磁インダクタンス(脚部励磁インダクタンス)である。また、Lcr_yokeは、以下に述べるコアヨーク部の励磁インダクタンス(ヨーク部励磁インダクタンス)である。
【0148】
一般的に、コアヨーク部のインピーダンスは、コア脚部のインピーダンスに比べて高い。このため、
図21の回路構成において、Lcr_yokeを無視してもよい。このことから、
図21の等価回路は、
図22に示す通り書き換えることができる。
図22は、TR3の簡易等価回路を示す図である。
図22から明らかである通り、Lcr≒Lcr_legである。
【0149】
加えて、
図22から明らかである通り、Laは、Llによって代用されてもよい。言い換えれば、Laは、Llによって具現化されてよい。このように、本発明の一態様に係るリアクトルは、Llによって具現化されてもよい。従って、本開示の一態様では、La=0であってもよい。
【0150】
図23は、TR3におけるWinおよびWoutを模式的に示す図である。
図23に示す通り、CRは、コア脚部CRlegおよびコアヨーク部CRyokeを有する。なお、
図23は模式図であるので、コアギャップ(CRのギャップ)の図示は割愛されている。このことは、後述する
図24においても同様である。
図23に示される通り、Winは、Woutよりも内側に位置するように、CRに巻回されている。そして、Woutは、Winよりも外側に位置するように、CRに巻回されている。言い換えれば、Woutは、Winを囲むように、CRに巻回されている。WinとWoutとの間のギャップは、巻線間ギャップと称される。なお、
図23における左側のWinは、不図示の結線によって、右側のWinと接続されている。同様に、
図23における左側のWoutは、不図示の結線によって、右側のWoutと接続されている。
【0151】
Winは、1次側直流電源1810または2次側直流電源1820の一方に接続されてよい。Winが1次側直流電源1810に接続された場合、Winは1次巻線(PW)としての役割を果たす。他方、Winが2次側直流電源1820に接続された場合、Winは2次巻線(SW)としての役割を果たす。Winについての上記説明は、Woutについても同様に当てはまる。以上の通り、PWはWinまたはWoutのうちの一方であり、かつ、SWはWinまたはWoutのうちの他方であってよい。実施形態3では、WoutがPWであり、かつ、WinがSWである場合を例示する(
図20を参照)。
【0152】
本明細書では、Winに接続されているリアクトルを、内側巻線対応リアクトルと称する。これに対し、Woutに接続されているリアクトルを、外側巻線対応リアクトルと称する。実施形態3におけるLaは、外側巻線対応リアクトルの一例である。なお、実施形態3におけるLaは、外側巻線対応外付けリアクトルと称されてもよい。
【0153】
一般的に、トランスにおける磁束(Φ)は、主磁束と漏れ磁束とに分解することができる。本明細書において、主磁束とは、CRlegに流れ、変圧作用に寄与する磁束を意味する。主磁束は、PWおよびSWの両方と鎖交する。これに対し、漏れ磁束とは、WinとWoutとの間の空間に流れる磁束を意味する。
【0154】
図24は、TR3における主磁束および漏れ磁束の流れを模式的に示す図である。
図24に示す通り、主磁束はCRlegに流れ、Win(実施形態3ではSW)およびWout(実施形態3ではPW)の両方と鎖交する。他方、漏れ磁束は、上述の通りWinとWoutとの間の空間に流れる。すなわち、CRlegに流れる磁束の一部が、漏れ磁束となる。それゆえ、Woutは、漏れ磁束による電圧降下の影響を受ける。
【0155】
以上の点を踏まえ、DABコンバータ3では、上述の
図20に示す通り、Winは、Laを介することなく、2次側直流電源1820に接続されている。言い換えれば、2次側直流電源1820は、Lcrに直接的に接続されている。これに対し、1次側直流電源1810は、LaとLlとを介して(すなわち、Lを介して)、Lcrに間接的に接続されている。
【0156】
実施形態1において述べた通り、トランスは、直流電源(例:2次側直流電源1820)に直接的に接続された巻線(例:SW)に生じる電圧(
図1の例では、V2に等しい)によって励磁される。DABコンバータ3によれば、上記直流電源に間接的に接続された巻線であるWoutを用いて直流電流成分補正を行うことができる。具体的には、直流成分補正部92は、BRG1における搬送波信号(CAR1)を補正することにより、直流成分補正を行うことができる。これにより、直流成分補正に起因する偏磁の発生を抑制することができる。
【0157】
図25は、DABコンバータ3における各信号を例示する図である。
図25は、
図19と対になる図である。
図25において、符号25000AはI1およびI2のタイムチャートの一例であり、符号25000BはI0のタイムチャートの一例であり、符号25000CはCAR1およびCAR2のタイムチャートの一例である。
図25に示される通り、DABコンバータ3によれば、CAR1を補正することにより、直流成分補正に起因するI0の波形の歪を低減(望ましくは、消失)させることができる。
【0158】
(効果)
以上の通り、DABコンバータ3によれば、直流成分補正の影響により生じる偏磁を低減することができる。その結果、DABコンバータ1に比べて、DABコンバータの制御性をさらに向上させることができる。
【0159】
〔偏磁補正および直流成分補正についての補足〕
上述の各実施形態では、フィードバック制御によって偏磁補正および直流成分補正を行う場合を例示した。但し、当業者であれば明らかである通り、本発明の一態様に係るDABコンバータでは、その他の制御手法を用いて偏磁補正および直流成分補正が行われてもよい。例えば、本発明の一態様に係るDABコンバータは、閾値ベース制御(所定の閾値に基づく制御)によって偏磁補正および直流成分補正を行ってもよい。
【0160】
一例として、偏磁補正部は、偏磁量を所定の閾値(偏磁閾値)と比較することによって、偏磁補正を行ってもよい。例えば、偏磁補正部は、偏磁量が偏磁閾値を越えた場合、偏磁量を低減させるように、スイッチング信号を補正してよい。一例として、偏磁補正部は、偏磁量と偏磁閾値との差の絶対値に基づき、偏磁量補正時間(例:上述のΔt1)を決定してよい。そして、上述の各実施形態の例と同様に、偏磁補正部は、偏磁量補正時間に応じてスイッチング信号を補正してよい。
【0161】
同様に、直流成分補正部は、負荷電流直流成分を所定の閾値(直流成分閾値)と比較することによって、偏磁補正を行ってもよい。例えば、直流成分補正部は、直流成分補正部が直流成分閾値を越えた場合、直流成分を低減させるように、スイッチング信号を補正してもよい。一例として、直流成分補正部は、負荷電流直流成分と直流成分閾値との差の絶対値に基づき、直流成分補正時間(例:上述のΔt2)を決定してよい。そして、上述の各実施形態の例と同様に、直流成分補正部は、上述の通り、直流成分補正時間に応じてスイッチング信号を補正してよい。
【0162】
以上の説明から明らかである通り、本発明の一態様に係るDABコンバータにおいて、偏磁補正および直流成分補正を行うための制御手法は、特に限定されない。偏磁補正および直流成分補正を実現できる限り、当業者が想到可能な任意の制御手法が採用されうる。
【0163】
〔実施形態4〕
図26は、実施形態4のDABコンバータ4の要部の構成を示す図である。DABコンバータ4の主回路を、主回路40と称する。DABコンバータ4の主回路および制御部をそれぞれ、主回路40および制御部90Bと称する。主回路40は、主回路30のTR3に替えて、トランスTR4を有する。制御部90Bは、制御部90の偏磁補正部91に替えて、偏磁補正部91Bを有する。
【0164】
TR4は、TR3と同様に、WinおよびWoutを有する。但し、実施形態4では、実施形態3とは異なり、Winが1次側直流電源1810に接続されており、かつ、Woutが2次側直流電源1820に接続されている場合を例示する。すなわち、実施形態4では、WinがPWであり、かつ、WoutがSWである場合を例示する。
【0165】
実施形態4では、実施形態3と同様に、Laが外側巻線対応リアクトルである場合を例示する。このため、
図26の例では、Laは2次側に設けられている。それゆえ、実施形態4におけるLaは、2次側リアクトルの一例でもある。なお、
図26の例では、Llも2次側に配置されている。
【0166】
図26の例では、主回路40は、外付けリアクトルLbをさらに備える。実施形態4におけるLbは、内側巻線対応リアクトルの一例である。それゆえ、実施形態4におけるLbは、1次側リアクトルの一例でもある。実施形態4におけるLbは、本発明の一態様に係るリアクトルのさらに別の例である。
【0167】
後述する通り、実施形態4における偏磁補正部91Bによれば、直流成分補正に起因する偏磁を避けつつ、トランスの各巻線の接続関係の自由度を高めることができる。このため、
図26における主回路40の構成は、単なる一例であることに留意されたい。例えば、主回路40は、必ずしも外付けリアクトルLaを有していなくともよい。同様に、主回路40は、必ずしも外付けリアクトルLbを有していなくともよい。
【0168】
図27は、DABコンバータ4におけるTR4およびその周囲の等価回路を示す図である。
図27における等価回路によれば、Vtrは、
【数15】
…(19)
として表される。当然ながら、式(19)は、V1≠N×V2の場合にも成り立つ。
【0169】
なお、式(19)において、La、Lb、およびLlのうちの1つまたは2つは、0であってもよい。すなわち、式(19)では、La=Lb=Ll=0でなければよい。従って、例えば、主回路40は、外付けリアクトルLaおよび外付けリアクトルLbを有していなくともよい。この場合、本発明の一態様に係るリアクトルは、Llによって具現化されていればよい。
【0170】
なお、上述の実施形態3における主回路30では、Lb=0である。このため、実施形態3の回路構成では、LaおよびLlの値によらず、Vtr=V1となる。その結果、実施形態3の回路構成によれば、LaおよびLlの値によらず、後述するΔI0’dcが常に0となる。言い換えれば、実施形態3の回路構成によれば、偏磁補正部91Bを用いることなく、直流成分補正に起因する偏磁を低減できる。
【0171】
実施形態4の回路構成によれば、V1が負の区間では、V1の値は-Vdc1にほぼ等しいと見なすことができる。そして、V2が正の区間では、V2の値はVdc2にほぼ等しいと見なすことができる(例えば、後述の
図29を参照)。それゆえ、V1が負であり、かつ、V2が正である区間(便宜上、第1条件区間と称する)におけるVtrは、
【数16】
…(20)
として表すことができる。Vtr1は、第1条件区間コア電圧と称されてよい。
【0172】
また、実施形態4の回路構成によれば、V1が正の区間では、V1の値はVdc1にほぼ等しいと見なすことができる。それゆえ、V1が正であり、かつ、V2が正である区間(便宜上、第2条件区間と称する)におけるVtrは、
【数17】
…(20’)
として表すことができる。Vtr2は、第2条件区間コア電圧と称されてよい。
【0173】
また、実施形態4の回路構成によれば、V2が負の区間では、V2の値は-Vdc2にほぼ等しいと見なすことができる。それゆえ、V1が正であり、かつ、V2が負である区間(便宜上、第3条件区間と称する)におけるVtrは、
【数18】
…(20’’)
として表すことができる。Vtr3は、第3条件区間コア電圧と称されてよい。上述の式(20)との対応性から明らかである通り、Vtr3=-Vtr1である。
【0174】
また、上述の各説明から明らかである通り、V1が負であり、かつ、V2が負である区間(便宜上、第4条件区間と称する)におけるVtrは、
【数19】
…(20’’’)
として表すことができる。Vtr4は、第4条件区間コア電圧と称されてよい。上述の式(20’)との対応性から明らかである通り、Vtr4=-Vtr2である。
【0175】
図28は、実施形態4の回路構成において、直流成分補正に起因して生じる偏磁の一例について概略的に説明するための図である。
図28において、符号28000AはVtrのタイムチャートの一例であり、符号28000BはV1およびV2のタイムチャートの一例であり、符号28000CはI0のタイムチャートの一例であり、符号28000DはI1およびI2のタイムチャートの一例であり、符号28000EはCAR1およびCAR2のタイムチャートの一例である。符号28000Cに示されている通り、
図28では、直流成分補正に起因して、正方向の偏磁(ΔI0’dcが正である偏磁)が生じている場合が示されている。
【0176】
図29は、実施形態4の回路構成において、直流成分補正に起因して生じる偏磁の一例についてより具体的に説明するための図である。
図29では、
図28に示されている各グラフが、一部の区間において拡大されている。
図29において、符号29000AはVtrのタイムチャートの一例であり、符号29000BはV1およびV2のタイムチャートの一例であり、符号29000CはI0のタイムチャートの一例であり、符号29000DはCAR1およびCAR2のタイムチャートの一例である。
【0177】
符号29000Aに示されている通り、
図29では、上述の第1条件区間~第4条件区間が図示されている。上述の式(20)~(20’’’)から理解できる通り、各区間におけるVtrの符号は、LbとN
2×(La+Ll)との大小関係に応じて相違しうる。
図29では、Lb<N
2×(La+Ll)の場合が例示されている。なお、
図29の例では、N=1である。
【0178】
図29の例では、直流成分補正時間Δt2に亘り、直流成分補正が行われている。この場合、直流成分補正に起因して生じる偏磁量(直流成分補正起因偏磁量)は、
【数20】
…(21)
として表すことができる。符号29000Cでは、
図29の例におけるΔI0’dcが示されている。
【0179】
一般的に、あるリアクタンスLについて、ファラデーの電磁誘導の法則によれば、
V=L×ΔI/Δt …(22)
の関係が成立する。Vは、Lに印加される電圧であり、ΔIは、ある微小時間Δtに亘り、Lに流れる電流の変化量である。そして、式(22)を変形することにより、
ΔI=V×Δt/L …(22’)
が得られる。また、式(22)を変形することにより、
Δt=L×ΔI/V …(22’’)
が得られる。式(22’’)については後述する。
【0180】
ここで、符号29000Aに示されている通り、直流成分補正が行われた場合には、第3条件区間がΔt2だけ短くなり、その替わりに、第2条件区間がΔt2だけ長くなる。すなわち、直流成分補正が行われた場合には、Vtr3が生じる時間がΔt2だけ短くなり、その替わりに、Vtr2が生じる時間がΔt2だけ長くなる。このように、直流成分補正が行われた場合には、Δt2に亘り、Vtr2-Vtr3という電圧不均衡が、Lcrに発生する。
【0181】
このことから、式(22’)の右辺に、V=Vtr2-Vtr3、Δt=Δt2、L=Lcrを代入することにより、ΔI0’dc(直流成分補正に起因して生じる偏磁量)を導出できる。すなわち、上述の式(21)が得られる。なお、所定の演算式(例:式(21))によって算出されるΔI0’dcは、直流成分補正起因偏磁量の予測値とも表現できる。このため、当該演算式によって算出されるΔI0’dcは、直流成分補正起因偏磁量予測値と称されてもよい。
【0182】
図30は、実施形態4の回路構成において、直流成分補正に起因して生じる偏磁の別の例について説明するための図である。
図30は、
図29と対になる図である。
図30において、符号30000AはVtrのタイムチャートの別の例であり、符号29000BはV1およびV2のタイムチャートの別の例であり、符号29000CはI0のタイムチャートの別の例であり、符号29000DはCAR1およびCAR2のタイムチャートの別の例である。
【0183】
図30では、
図29とは異なり、Lb>N
2×(La+Ll)の場合が例示されている。なお、
図30の例においても、N=1である。符号30000Aに示されている通り、
図30では、
図29とは異なり、Vtr1<0である。符号30000Cでは、
図30の例におけるΔI0’dcが示されている。
【0184】
以上の通り、本発明の一態様に係るDABコンバータでは、Lb=0である場合(実施形態3を参照)を除いては、直流成分補正に起因する偏磁が発生しうる。そこで、実施形態4におけるDABコンバータ4は、直流成分補正に起因する偏磁を低減するように構成されている。
【0185】
具体的には、DABコンバータ4において、偏磁補正部91Bは、(i)Vtr(コア電圧)と、(ii)Lcr(トランスの励磁インダクタンス)と、(iii)Δt2(直流成分補正部92によって予め決定された直流成分補正時間)とに基づいて、直流成分補正に起因する偏磁量の予測値である直流成分補正起因偏磁量予測値を決定する。そして、偏磁補正部91Bは、当該直流成分補正起因偏磁量予測値に応じて、直流成分補正に起因する当該偏磁量を補正するための直流成分補正起因偏磁量補正時間(以下、Δt3と表記する)を決定する。
【0186】
例えば、偏磁補正部91Bは、上述の式(21)によって示されるΔI0’dcを、直流成分補正起因偏磁量予測値として決定してよい。この場合、偏磁補正部91Bは、1次側電圧センサ181VからVdc1を、2次側電圧センサ182VからVdc2を、それぞれ取得してよい。そして、偏磁補正部91Bは、上述の(20’)および(20’’)に従って、Vtr2(第2条件区間コア電圧)およびVtr3(第3条件区間コア電圧)をそれぞれ決定してよい。次いで、偏磁補正部91Bは、Vtr2とVtr3とLcrとΔt2とを用いて、上述の式(21)に従って、ΔI0’dcを決定してよい。
【0187】
そして、偏磁補正部91Bは、上記の通り決定したΔI0’dcに応じて、Δt3を決定してよい。例えば、偏磁補正部91Bは、以下の式、
【数21】
…(23)
に従って、Δt3を決定してよい。このように、偏磁補正部91Bは、Vtr2とLcrとΔI0’dcとを用いて、Δt3を決定してよい。
【0188】
なお、式(23)は、上述の式(22’’)の右辺に、V=Vtr2、L=Lcr、ΔI=ΔI0’dcを代入することにより、導出されている。また、上述の式(21)を用いて、式(23)を変形することにより、
(Vtr2-Vtr3)×Δt2=Vtr2×Δt3 …(24)
が得られる。
【0189】
式(24)の左辺は、Δt2に亘る直流成分補正に伴って生じる電圧不均衡(Vtr2-Vtr3)の時間積分値に対応している。式(24)の左辺は、電圧不均衡に対応する電圧時間積と称されてもよい。式(24)の右辺は、当該電圧時間積に応じた補正量である。式(23)に従って決定されたΔt3に応じて搬送波信号を補正することにより、式(24)の関係が成立するようにDABコンバータ4を駆動できる。言い換えれば、上記電圧時間積が一定値に維持されるようにDABコンバータ4を駆動できる。
【0190】
式(23)に従って決定されたΔt3を用いて搬送波信号を補正することにより、時間経過に伴い、ΔI0’dcを低減することができる。理想的には、当該Δt3を用いて搬送波信号を補正することにより、時間経過に伴い、ΔI0’dcを0まで低減することができる。
【0191】
(DABコンバータ4における搬送波信号の補正の例)
直流成分補正部92は、実施形態1と同様に、Δt2に応じて搬送波信号を補正することによって、直流成分を補正してよい。また、偏磁補正部91Bは、実施形態1の偏磁補正部91と同様に、Δt1に応じて搬送波信号を補正することによって、偏磁量を補正してよい。
【0192】
加えて、偏磁補正部91Bは、Δt3に応じて搬送波信号を補正することによって、直流成分補正起因偏磁量を補正してよい。具体的には、偏磁補正部91Bは、Δt3に応じて搬送波信号の補正量を決定してよい。上述の式(12)との対応性から理解できる通り、偏磁補正部91Bは、
Δs3=(Δt3/T)×2 …(25)
の通り、搬送波信号の補正量Δs3を決定してよい。Δs3は、直流成分補正起因偏磁量補正用搬送波信号補正量と称されてもよい。偏磁補正部91Bは、CAR1およびCAR2の両方に、Δs3または-Δs3を加算してよい。Δs3または-Δs3の加算タイミングは、任意であってよい。
【0193】
例えば、偏磁補正部91Bは、I0が最大値を取らないように、搬送波信号を補正してよい。一例として、ΔI0’dc>0である場合には、偏磁補正部91Bは、CAR1およびCAR2に、-Δs3を加算してよい(マイナス側補正)。マイナス側補正によれば、電圧不均衡に対応する電圧時間積を小さくすることができる。これに対し、ΔI0’dc<0である場合には、偏磁補正部91Bは、CAR1およびCAR2に、Δs3を加算してよい(プラス側補正)。プラス側補正によれば、電圧不均衡に対応する電圧時間積を大きくすることができる。
【0194】
以上の通り、実施形態4では、制御部90Bは、Δt1とΔt2とΔt3とに応じて搬送波信号を補正する。そして、制御部90Bは、Δt1とΔt2とΔt3とに応じて補正された搬送波信号(補正後搬送波信号)に基づき、スイッチング制御信号を生成する。続いて、制御部90Bは、このように生成したスイッチング制御信号に従って、BRG1とBRG2とを制御する。これにより、直流成分補正に起因する偏磁を低減するように、DABコンバータ4を駆動できる。
【0195】
図31は、DABコンバータ4における各信号の一例を示す図である。
図31は、
図28と対になる図である。
図31において、符号31000AはVtrのタイムチャートの一例であり、符号31000BはV1およびV2のタイムチャートの一例であり、符号31000CはI0のタイムチャートの一例であり、符号31000DはI1およびI2のタイムチャートの一例であり、符号31000EはCAR1およびCAR2のタイムチャートの一例である。
【0196】
符号31000Eに示されている通り、
図31の例では、
図28とは異なり、直流成分補正部92による直流成分補正に加えて、偏磁補正部91Bによる直流成分補正起因偏磁量の補正がさらに行われている。上述の通り、
図28の例では、ΔI0’dc>0であった。この点を踏まえ、
図31の例では、偏磁補正部91Bによって、マイナス側補正が行われている。その結果、符号32000Cに示されている通り、直流成分補正に起因する偏磁を消失させることができる。
【0197】
図32は、
図31に示されている各グラフを、一部の区間において拡大した図である。
図32において、符号32000Aは、符号31000AのVtrのタイムチャートを拡大した図であり、符号32000Bは、符号32000AのV1およびV2のタイムチャートを拡大した図であり、符号32000Cは、符号31000CのI0のタイムチャートを拡大した図であり、符号32000Dは、符号31000DのI1およびI2のタイムチャートを拡大した図であり、符号32000Eは、符号31000EのCAR1およびCAR2のタイムチャートを拡大した図である。
図32の例では、
図28および
図29と比較して、直流成分補正後における第2条件区間が、Δt3だけ短くなっている。
【0198】
図33は、実施形態4の回路構成において、直流成分補正に起因して生じる偏磁の別の例について概略的に説明するための図である。
図33は、
図28と対になる図である。
図33において、符号33000AはVtrのタイムチャートの一例であり、符号33000BはV1およびV2のタイムチャートの一例であり、符号33000CはI0のタイムチャートの一例であり、符号33000DはI1およびI2のタイムチャートの一例であり、符号33000EはCAR1およびCAR2のタイムチャートの一例である。符号33000Cに示されている通り、
図33では、直流成分補正に起因して、負方向の偏磁(ΔI0’dcが負である偏磁)が生じている場合が示されている。
【0199】
図34は、DABコンバータ4における各信号の別の例を示す図である。
図34は、
図33と対になる図である。
図34において、符号34000AはVtrのタイムチャートの一例であり、符号34000BはV1およびV2のタイムチャートの一例であり、符号34000CはI0のタイムチャートの一例であり、符号34000DはI1およびI2のタイムチャートの一例であり、符号34000EはCAR1およびCAR2のタイムチャートの一例である。
【0200】
符号34000Eに示されている通り、
図34の例では、
図33とは異なり、直流成分補正部92による直流成分補正に加えて、偏磁補正部91Bによる直流成分補正起因偏磁量の補正がさらに行われている。上述の通り、
図33の例では、ΔI0’dc<0であった。この点を踏まえ、
図34の例では、偏磁補正部91Bによって、プラス側補正が行われている。その結果、符号34000Cに示されている通り、直流成分補正に起因する偏磁を消失させることができる。
【0201】
図35は、
図34に示されている各グラフを、一部の区間において拡大した図である。
図35において、符号35000Aは、符号34000AのVtrのタイムチャートを拡大した図であり、符号35000Bは、符号34000AのV1およびV2のタイムチャートを拡大した図であり、符号35000Cは、符号34000CのI0のタイムチャートを拡大した図であり、符号35000Dは、符号34000DのI1およびI2のタイムチャートを拡大した図であり、符号35000Eは、符号34000EのCAR1およびCAR2のタイムチャートを拡大した図である。
図35の例では、
図33と比較して、直流成分補正後における第2条件区間が、Δt3だけ長くなっている。
【0202】
(効果)
以上の通り、DABコンバータ4(特に、偏磁補正部91B)によれば、実施形態3に示されている各巻線の接続関係が採用されない場合であっても、直流成分補正に起因する偏磁を効果的に低減することが可能となる。それゆえ、DABコンバータ4によれば、直流成分補正に起因する偏磁を避けつつ、各巻線の接続関係の自由度を高めることができる。すなわち、DABコンバータ4によれば、各巻線の接続関係の自由度を高めつつ、DABコンバータ1に比べて、DABコンバータの制御性をさらに向上させることができる。
【0203】
なお、実施形態4における各説明から明らかである通り、偏磁補正部91Bによる、直流成分補正起因偏磁量の補正は、直流成分補正部92による直流成分補正と独立して実行されうる。また、偏磁補正部91Bによる、直流成分補正起因偏磁量の補正は、実施形態1において述べた偏磁補正と独立して実行されうる。
【0204】
〔変形例〕
実施形態4では、Vtr2とVtr3との関係に着目して導出されたΔI0’dcの算出式として、上述の式(21)が示されている。但し、上述の通り、実施形態4では、Vtr2=-Vtr4であり、かつ、Vtr3=-Vtr1である。
【0205】
それゆえ、式(21)から理解される通り、例えば、偏磁補正部91Bは、Vtr1とVtr4とLcrとΔt2とを用いて、ΔI0’dcを決定することもできる。加えて、上述の式(23)から理解される通り、偏磁補正部91Bは、Vtr4とLcrとΔI0’dcとを用いて、Δt3を決定することもできる。
【0206】
この場合、偏磁補正部91Bは、直流成分補正後における第4条件区間を、Δt3だけ増加または減少させるように搬送波信号を補正してよい。このように搬送波信号を補正した場合にも、直流成分補正に起因する偏磁を低減するように、DABコンバータ4を駆動できる。
【0207】
〔ソフトウェアによる実現例〕
DABコンバータ1~4(以下では、便宜上「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部90~90Bに含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0208】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0209】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0210】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の一態様の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0211】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0212】
〔付記事項〕
本発明の一態様は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の一態様の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0213】
1,2,3,4 DABコンバータ
10,20,30,40 主回路
90,90A,90B 制御部
91 偏磁補正部(励磁電流ベース偏磁補正部)
91A 偏磁補正部(磁束ベース偏磁補正部)
91B 偏磁補正部(直流成分補正起因偏磁量を補正可能な偏磁補正部)
92 直流成分補正部
110UH 1次側U相上側スイッチング素子(1次側第1相上側スイッチング素子)
110UL 1次側U相下側スイッチング素子(1次側第1相下側スイッチング素子)
110VH 1次側V相上側スイッチング素子(1次側第2相上側スイッチング素子)
110VL 1次側V相下側スイッチング素子(1次側第2相下側スイッチング素子)
120UH 2次側U相上側スイッチング素子(2次側第1相上側スイッチング素子)
120UL 2次側U相下側スイッチング素子(2次側第1相下側スイッチング素子)
120VL 2次側V相下側スイッチング素子(2次側第2相下側スイッチング素子)
120VH 2次側V相上側スイッチング素子(2次側第2相上側スイッチング素子)
BRG1 1次側ブリッジ回路
BRG2 2次側ブリッジ回路
LEG1U 1次側U相スイッチングレグ(1次側第1相スイッチングレグ)
LEG1V 1次側V相スイッチングレグ(1次側第2相スイッチングレグ)
LEG2U 2次側U相スイッチングレグ(2次側第1相スイッチングレグ)
LEG2V 2次側V相スイッチングレグ(2次側第2相スイッチングレグ)
NN1 ノード(第1出力ノード)
NN2 ノード(第2出力ノード)
TR,TR2,TR3,TR4 トランス
CR コア(ギャップ付コア)
CR2 コア(ギャップレスコア)
PW 1次巻線
SW 2次巻線
Win 内側巻線(磁束検出用巻線)
Wout 外側巻線
La 外付けリアクトル(リアクトル)
Ll トランスの漏れインダクタンス(リアクトル)
Lb 外付けリアクトル(リアクトル)
181A 1次側電流センサ
182A 2次側電流センサ
181V 1次側電圧センサ
182V 2次側電圧センサ
290 サーチコイル(磁束検出用巻線)
1810 1次側直流電源
1820 2次側直流電源
s スイッチング制御信号
CAR 搬送波信号
CAR1 1次側搬送波信号(搬送波信号)
CAR2 2次側搬送波信号(搬送波信号)
I1 1次電流(負荷電流)
I2 2次電流
I0 励磁電流
Vdc1 1次側直流電圧
Vdc2 2次側直流電圧
【要約】
【課題】DABコンバータにおけるトランスの偏磁を従来よりも効果的に補正する。
【解決手段】DABコンバータ(1)において、例えば、リアクトル(La)の一端は1次側ブリッジ回路(BRG1)の出力ノードである第1出力ノード(NN1)に接続されており、かつ、リアクトル(La)の他端はトランス(TR)の1次巻線(PW)に接続されている。1次側ブリッジ回路(BRG1)および2次側ブリッジ回路(BRG2)を制御する制御部(90)は、トランス(TR)の偏磁量を取得するとともに、当該偏磁量を補正する偏磁補正部(91)と、リアクトル(La)に流れる負荷電流の直流成分を取得するとともに、当該直流成分を補正する直流成分補正部(92)と、を備えている。
【選択図】
図1