(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】爆発防止用の膨張黒鉛シートが設けられた携帯用ガスコンロ
(51)【国際特許分類】
F24C 3/14 20210101AFI20220614BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20220614BHJP
【FI】
F24C3/14 Q
C01B32/205
(21)【出願番号】P 2017008958
(22)【出願日】2017-01-20
【審査請求日】2019-12-03
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】517023057
【氏名又は名称】金 仁求
(73)【特許権者】
【識別番号】390015679
【氏名又は名称】ジャパンマテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】金 仁求
(72)【発明者】
【氏名】塚本 勝朗
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】山崎 勝司
【審判官】松下 聡
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105121964(CN,A)
【文献】特開2008-143731(JP,A)
【文献】特開2013-52680(JP,A)
【文献】実開昭55-61205(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24C 3/14
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスコンロの本体側にガス容器収容部が形成されており、本体に着脱自在又は開閉自在に蓋が設けられている携帯用ガスコンロであって、
該蓋は、金属層の内側及び/又は外側に膨張黒鉛層が設けられ、或いは膨張黒鉛層の内側及び/又は外側に金属層が設けられ、
該膨張黒鉛層の大きさは該蓋の内側面積の大きさに合わせた大きさであり、かつ該膨張黒鉛層は前記本体の下部まで延び、
前記蓋を構成する前記膨張黒鉛層とガス容器の全周との間に空間が設けられ、
前記金属層と前記膨張黒鉛層との間に接合手段が設けられてなる
ことを特徴とする、爆発防止用の携帯用ガスコンロ。
【請求項2】
前記接合手段が、接着剤またはフックから選択される一種以上である請求項1に記載の携帯用ガスコンロ。
【請求項3】
前記膨張黒鉛層の外表面に、粘土層が形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の爆発防止用の携帯用ガスコンロ。
【請求項4】
粘土層の粒子は0.1乃至30μmの粒径を備え、
粘土層の厚さは3乃至100μmであることを特徴とする、
請求項3に記載の爆発防止用の携帯用ガスコンロ。
【請求項5】
前記金属層と前記膨張黒鉛層との間に接着剤層が介装され、該接着剤層は高い耐熱性を備えていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の爆発防止用の携帯用ガスコンロ。
【請求項6】
前記膨張黒鉛層は膨張黒鉛シートからなり、該膨張黒鉛シートの厚さが0.2乃至1.0mmであることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の爆発防止用の携帯用ガスコンロ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の携帯用ガスコンロのガス容器収納部を着脱自在に覆う蓋に、膨張黒鉛シートを物理的に接合させることで、前記蓋に爆発防止用の前記膨張黒鉛層を設ける方法であって、
前記蓋は、金属層及び膨張黒鉛層から構成され、
該膨張黒鉛層の大きさは該蓋の内側面積の大きさに合わせた大きさであり、かつ該膨張黒鉛層は本体の下部まで延び、
前記方法は、
金属層の内側及び/又は外側に膨張黒鉛層を設けるか、或いは膨張黒鉛層の内側及び/又は外側に金属層を設ける工程と、
前記金属層に接合手段を設ける工程と、
前記接合手段によって、前記金属層と前記膨張黒鉛層とを接合する工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
前記接合手段が、接着剤またはフックから選択される一種以上である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記膨張黒鉛層の外表面に、粘土を塗布して粘土層を形成する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記膨張黒鉛層は膨張黒鉛シートからなり、該膨張黒鉛シートの厚さが0.2乃至1.0mmであることを特徴とする、請求項7乃至9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は携帯用ガスコンロに係り、より詳しくは、携帯用ガスコンロに使用するガス容器を収容する蓋の内側に膨張黒鉛シート(Expanded Graphite Sheet)が設けられた、過熱によるガス容器の爆発を防止できる、爆発防止用の膨張黒鉛シートが設けられた携帯用ガスコンロに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯用ガスコンロやガスバーナは、円筒形のガス容器に充填されたブタンガスを燃料として使用する。携帯用ガスコンロは家庭、食堂、あるいは登山や釣り等の野外の活動等において主に使用されている。
しかしながら、従来の携帯用ガスコンロは、過熱によってブタンガス容器が爆発する虞がある。実際に、過熱によってブタンガス容器が爆発する事故が頻繁に発生している。特にガスコンロよりも大きな鉄板や焼板を使用する場合、鉄板や焼板の輻射熱によりブタンガス容器の爆発が起こりやすい。
【0003】
特許文献1には、ガスコンロを銀箔、石綿、ガラス繊維、ミネラルウール(mineral wool)繊維等で覆うことによって輻射熱が遮断される携帯用ガスコンロが開示されている。
【0004】
特許文献2には、輻射熱の伝導を防止するために、ガス容器を収容する蓋に遮蔽部材をスポット(spot)溶接によって融着させ、該遮蔽部材がステンレス(SUS)又はジルコニウムからなる金属性の断熱素材、あるいは雲母、石英、又はセラミックで構成された非金属性の断熱素材であるガスコンロが開示されている。
【0005】
本発明者らは、作業がより容易で輻射熱によるブタンガス容器の爆発を根本的に解決する方法を鋭意検討した結果、膨張黒鉛シートが熱をX軸とY軸の方向に拡散して発散し、Z軸には熱を発散しない点に着眼し、本発明の開発に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国実用新案公開第2009-3999号公報
【文献】韓国実用新案登録第263681号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、輻射熱によるブタンガス容器の爆発を根本的に防止することができる爆発防止用の膨張黒鉛シートが設けられた携帯用ガスコンロを提供することである。
本発明の他の目的は、既存の携帯用ガスコンロに容易且つ安価に適用する事が可能な携帯用ガスコンロに爆発防止用の膨張黒鉛シートを設ける方法を提供することである。
本発明の他の目的は、携帯用ガスコンロの寿命を迎えても半永久的に使用できる爆発防止用の膨張黒鉛シートが設けられた携帯用ガスコンロを提供することである。
本発明の叙上の課題は、以下に詳細に説明される本発明によって全て達成できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、ガス容器収納部を着脱自在に覆う蓋であって、
該蓋は、金属層の内側及び/又は外側に膨張黒鉛層が設けられ、或いは膨張黒鉛層の内側及び/又は外側に金属層が設けられ、
前記金属層に接合手段が設けられてなる
ことを特徴とする、爆発防止用の携帯用ガスコンロに関する。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記接合手段が、接着剤及びフックからなる群から選択される一種以上である、請求項1に記載の爆発防止用の携帯用ガスコンロに関する。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記膨張黒鉛層の外表面に、粘土層が形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の爆発防止用の携帯用ガスコンロに関する。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記粘土層は0.1乃至30μmの粒径を備え、
前記粘土層の厚さは3乃至100μmであることを特徴とする、請求項3に記載の爆発防止用の携帯用ガスコンロに関する。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記金属層と前記膨張黒鉛層との間に接着剤層が介装され、該接着剤層は高い耐熱性を備えていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の爆発防止用の携帯用ガスコンロに関する。
【0013】
請求項6に係る発明は、前記膨張黒鉛層は膨張黒鉛シートからなり、該膨張黒鉛シートの厚さが0.2乃至1.0mmであることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の爆発防止用の携帯用ガスコンロに関する。
【0014】
請求項7に係る発明は、携帯用ガスコンロのガス容器収納部を着脱自在に覆う蓋に爆発防止用の膨張黒鉛層を設ける方法であって、
該方法は、
金属層の内側及び/又は外側に膨張黒鉛層を設けるか、或いは膨張黒鉛層の内側及び/又は外側に金属層を設ける工程と、
前記金属層に接合手段を設ける工程と、
前記接合手段によって、前記金属層と前記膨張黒鉛層とを接合する層とを接合する工程と
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0015】
請求項8に係る発明は、前記接合手段が、接着剤及びフックからなる群から選択される一種以上である請求項7に記載の方法に関する。
【0016】
請求項9に係る発明は、前記膨張黒鉛層の外表面に、粘土を塗布して粘土層を形成する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項6又は7に記載の方法に関する。
【0017】
請求項10に係る発明は、前記膨張黒鉛層は膨張黒鉛シートからなり、該膨張黒鉛シートの厚さが0.2乃至1.0mmであることを特徴とする、請求項6乃至8のいずれか1項に記載の方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、輻射熱によるブタンガス容器の爆発を根本的に防止することが出来る。
また、本発明によれば、携帯用ガスコンロに爆発防止用の膨張黒鉛シートを設ける方法を既存の携帯用ガスコンロに容易且つ安価に適用できる。
さらに、本発明によれば、携帯用ガスコンロの寿命を迎えても半永久的に使用できる爆発防止用の膨張黒鉛シートが設けられた携帯用ガスコンロを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ブタンガス容器を装着して使用する従来の携帯用ガスコンロにおいて、ブタンガス容器を収容する蓋が開放された状態を示す概略斜視図である。
【
図2】ブタンガス容器が装着された従来のガスコンロにおける加熱時の熱量の流れを示した概略図である。
【
図3】ブタンガス容器が装着された本発明に係る携帯用ガスコンロにおける加熱時の熱量の流れを示した概略図である。
【
図4】
図2及び
図3におけるブタンガス容器が装着された内部の温度、即ちガス容器の上部と下部の温度変化を示すグラフである。
【
図5】(a)-(d)及び(f)は本発明の実施形態に係る携帯用ガスコンロに用いる蓋の構成を示す概略断面図であり、(e)は(a)の平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る爆発防止用の膨張黒鉛シートが設けられた携帯用ガスコンロの好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明は携帯用ガスコンロに係り、より詳しくは、携帯用ガスコンロに使用するガス容器を収容する蓋の内側に膨張黒鉛シート(Expanded Graphite Sheet)が設けられた、過熱によるガス容器の爆発を防止できる爆発防止用の膨張黒鉛シートが設けられた携帯用ガスコンロに関するものである。
【0021】
図1はブタンガス容器を装着して使用する従来の携帯用ガスコンロにおいて、ブタンガス容器を収容する蓋(20)が開放された状態を示す概略斜視図である。
図1に示すように、携帯用ガスコンロには、本体(10)側にガス容器(30)を装着するための空間(ガス容器収容部)(15)が形成されており、本体(10)に着脱自在又は開閉自在に蓋(20)が設けられている。
蓋(20)を開放してガス容器の装着空間(15)にガス容器(30)を装着した後、蓋(20)を閉める。蓋(20)を閉めた状態で携帯用ガスコンロのスイッチをオンにし、ガスを燃焼させる。この時、ガスコンロの上部に置かれた鉄板や焼板(図示していない)による輻射熱が蓋(20)及びその下部に装着されてあるガス容器(30)に伝達する。ガス容器(30)が一定の温度以上に加熱されると、ガス容器が爆発する。
【0022】
本発明は、携帯用ガスコンロの過熱によるブタンガスの爆発を防止するために必要な装置として、ガスコンロで発生しフィードバックされる熱が、ブタンガス容器を過熱させてブタンガス容器が臨界点を越え破裂すると同時に、ブタンガス容器に残留したブタンガスが一気に放出されると同時に大気中の空気と混合されて爆発範囲の内で点火されて爆発現象を起こす沸騰液膨張蒸気爆発(BLEVE:Boiling Liquid Expanded Vapor Explosion)を防止するものである。
【0023】
本発明は、小型の液化ブタンガス容器を使用する携帯用あるいは卓上用ガスコンロの爆発安全装置に関するものであり、より具体的には、ガスコンロ本体の燃焼部の火炎がガス容器の受用部に伝達されないようにする熱放射の手段を具備する携帯用ガスコンロに関する安全装置である。
【0024】
本発明は、ガスコンロの本体、火炎が形成されるバーナが具備される燃焼部、ガス容器が受用部の上部に蓋が具備されるガスコンロにおいて、火炎が受用部に伝達される熱を拡散放熱してガス容器が加熱されないようにしてガス容器が爆発するのを防止する安全装置を特徴とする。
【0025】
本発明に係る爆発防止用の携帯用ガスコンロは、ガスコンロの蓋(20)の内側に膨張黒鉛シート(40)を設け、該膨張黒鉛シート(40)は、500℃以上の耐熱性を備えるセラミック接着剤が塗布された蓋(20)の内側に、厚さ0.2~1.0mmで接着されることを特徴とする。よい効果を得るために、0.5mmの膨張黒鉛シートを設けることが望ましい。
また、セラミック接着剤層を、蓋の内側及び/又は膨張黒鉛層の一方の面に設け、セラミック接着剤層を介するように、蓋(20)の内側と膨張黒鉛シート(40)の一方の面とを接着させ、ガスコンロの蓋(20)の内側に膨張黒鉛シート(40)を設けてもよい。
尚、本発明において、膨張黒鉛シートを用いる代わりに、膨張黒鉛を蓋(20)の内側に塗布して、蓋(20)の内側に膨張黒鉛層を設けてもよい。
【0026】
本発明は、膨張黒鉛シートが熱をX軸とY軸の方向に拡散して発散し、Z軸には熱を発散しない点に着眼して開発されたものである。
【0027】
ガスコンロに装着されたガス容器(30)は、ガスコンロよりも大きな鉄板や焼板を使用する場合、燃焼熱が起因して加熱されてガス容器(30)が爆発する虞がある。一方、ガスコンロよりも大きな鉄板や焼板を使用しない通常の場合、ガス容器に相当量のガスが残る。
ブタンガスの沸点は0.2℃であり、他の液化ガスに比べて沸点が高いため、ある程度加熱しなければ大部分のガスを燃焼することはできない。即ち、爆発の危険を除去するためにはガス容器が過熱されるのを防止しなければならない。しかし、ガス残量を最小化するためにはガス容器をある程度加熱する必要がある。これはお互いに相反する現象であり、従来のガスコンロにおいて、この二つの目的を同時に達成するものはなかった。
本発明に係るガスコンロを用いた実験の結果、ガスコンロの蓋(20)の内側に膨張黒鉛シートを設けた場合、燃焼熱に伴う蓋(20)の上部を加熱する熱量が膨張黒鉛シートを沿って遮断され、蓋(20)に沿って下部側に移動してガス容器の下部を加熱することがわかった。
【0028】
図2はブタンガス容器が装着された従来のガスコンロにおける加熱時の熱量の流れを示した概略図である。
既存のガスコンロは本体(10)の内部で燃焼熱の一部をガス容器(30)の下部に伝導してガス容器(30)をある程度、加熱することが出来るように設計されている。
図2において、燃焼熱の一部をガス容器(30)の下部に伝導してガス容器(30)を加熱する熱量をHcで表す。また、蓋(20)の上部から伝導される熱量をHfで表し、気化したガスが気化することによって失う熱量を△Hで表す。
【0029】
図3はブタンガス容器が装着された本発明に係る携帯用ガスコンロにおける加熱時の熱量の流れを示した概略図である。
図3において、燃焼熱の一部をガス容器(30)の下部に伝導してガス容器(30)を加熱する熱量をHcで表す。また、蓋(20)の上部から伝導される熱量をHfで表すが、この熱量は蓋(20)の内側に設けられた膨張黒鉛シート(40)によって下部側に移動するGrxで表す。この熱量Grxがガス容器(30)の下部を加熱する。気化するガスが気化されることによって失う熱量を△Hで表す。
【0030】
図4は
図2及び
図3におけるブタンガス容器が装着された内部の温度、即ちガス容器の上部と下部の温度変化を示すグラフである。
図2におけるガス容器(30)の上部(1a)と下部(1b)の温度を経時的に測定して
図4のグラフに示した。
図4に示すように、上部(1a)の温度は常に下部(1b)の温度より高く測定された。
図2の従来のガスコンロにおける上部(1a)の温度は0分、10分、20分、40分、60分、70分の経過後において、夫々20.5℃、28.1℃、49.0℃、53.8℃、58.0℃、56.7℃と測定された。下部(1b)の温度は、夫々20.7℃、29.5℃、29.5℃、31.8℃、33.6℃、36.0℃と測定された。
【0031】
図3におけるガス容器(30)の上部(2a)と下部(2b)の温度を経時的に測定して
図4のグラフに示した。上部(2a)の温度は下部(2b)の温度より低く測定され、
図2の従来のガスコンロとは正反対の結果であることがわかった。
図3の本発明に係るガスコンロにおける上部(2a)の温度は0分、10分、20分、40分、60分、70分の経過後において、夫々19.6℃、21.2℃、27.7℃、36.2℃、37.0℃、40.0℃と測定された。下部(2b)の温度は、夫々19.2℃、42.7℃、46.9℃、47.0℃、47.0℃、47.0℃と測定された。
これは加熱された板からフィードバックされた輻射熱Hfが下部側に移動していることを示す。
また、ガス容器(30)の上部と下部の温度偏差が
図2の従来のガスコンロよりも
図3の本発明に係るガスコンロの方がより小さくなっていることがわかる。本発明に係るガスコンロにおいて、ガス容器の上部と下部がある程度均一に気化するため、ガスの残量を最小化する事が可能である。
【0032】
本発明において使用される膨張黒鉛シート(40)は市販の物を購入して使用できる。膨張黒鉛シート(40)の厚さは0.2mm、0.5mm、1.0mmのものが主流である。厚さが0.2mm及び0.5mmの膨張黒鉛シートの物性は、下記表1の範囲を充足するものが望ましい。
【0033】
【0034】
本発明において、膨張黒鉛シート(40)の外表面に粘土を塗布して粘土層を形成してもよい。
粘土としては、例えば、天然粘土、合成粘土、あるいは変成粘土の1種以上を使用する。塗布される粘土層はその厚さが3~100μmであることが効果的であり、より好ましくは3~30μmである。粘土層の粒子は0.1~30μmの粒径を有していることが望ましく、より望ましくは0.5~20μmの粒径である。粘土層は例えば粘土をLPG等の液化ガスを溶媒にする粘土溶液をスプレー方式で塗布する。これは当業者によって容易に実施される。粘土層の作製方法はこれに限定されない。
【0035】
膨張黒鉛シート(40)の外表面に粘土層を形成することにより、Z軸(厚さ方向)の熱伝導率及び電気抵抗率が小さくなる。膨張黒鉛シートから飛散される黒鉛微粒子を遮断できる。
【0036】
本発明に使用可能な粘土としては、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、マガディアイト(magadiite)、アイラライト(AIRA light)、カネマイト(kanemite)、イライト、セリサイト、ノントロナイト等があり、これらの一種以上が適切に使用されるが、これに限定されない。粘土層の厚さは、例えば3~100μmが望ましく、3~30μmがより望ましい。
【0037】
次に、
図5の(a)乃至(d)を参照して、本発明の一実施形態に係る爆発防止用の携帯用ガスコンロに適用され得る蓋(20)の構成を詳述する。
(1)
図5の(a)に示されるものは、中芯材(20a)を構成する膨張黒鉛シート(40)層(厚さ0.5mm、密度1.0乃至1.5g/cm
3)は、例えば厚さ0.1mmのステンレス鋼(20a)(SUS304)と、厚さ0.2mmの鋼材(20b)(アルミニウムメッキ材)とから構成された金属材(20m)によってサンドイッチ状に挟まれた三層構造であるが、金属材(20m)と膨張黒鉛シート層(40)との間には接着剤が介在されている(
図5の(a)参照)。接着剤としては例えば、堺化学株式会社製のベタック(商品名)などのセラミック接着剤を採用することができるが、これに限定されない。
(2)
図5の(b)に示されるものは、例えば厚さ0.1mmのステンレス鋼(20a)(SUS304)と、厚さ0.2mmの鋼材(20b)(アルミニウムメッキ材)とから構成された金属材(20m)の内側に膨張黒鉛シート層(40)が配された二層構造であるが、金属材と膨張黒鉛シートとの間には接着剤が介在されている(
図5の(b)参照)。接着剤としては例えば、堺化学株式会社のベタック(商品名)などのセラミック接着剤を採用することができるが、これに限定されない。
(3)
図5の(c)、(d)及び(e)に示されるものは、金属材(20m)として例えば厚さ0.1mmのステンレス鋼(SUS304)と、厚さ0.2mmの鋼材(アルミニウムメッキ材)とから構成された所謂穴あきフック鋼板(20p)と、該穴あきフック鋼板(20p)の内側に配された膨張黒鉛シート層(40)とからなる2層構造を有している(
図5の(c)参照)。
図5の(c)に示されるものは、金属材(20m)として穴あきフック鋼板(20p)を採用しているため、穴あきフック鋼板(20p)の一方の面(本実施形態では膨張黒鉛シート層(40)と対向する側の面)にはフック(f)と呼ばれる突起が形成されている。したがって、穴あきフック鋼板(20p)と膨張黒鉛シート層(40)とを対向させた後に、ロール加工又はプレス加工によって圧延すると、フック(f)が係留効果を奏するため、穴あきフック鋼板(20p)と膨張黒鉛シート層(40)とが物理的に接合される。
図5の(e)は穴あきフック鋼板(20p)の平面説明図であり、多数の穴Pが形成されている。
図5の(e)では穴Pは5角形が示されているが、6角形のものであってもよく、特定の形状に限定されない。
(4)
図5の(f)に示されるものは、膨張黒鉛シート層(40)を中心材として膨張黒鉛シート層(40)を外側及び内側から金属層(20m)によって挟持されたサンドイッチ構造を有している。該金属材(20m)は、例えば厚さ0.1mmのステンレス鋼(SUS304)と、厚さ0.2mmの鋼材(アルミニウムメッキ材)とから構成された所謂穴あきフック鋼板(20p)とから構成されている(
図5の(d)参照)。
この
図5の(d)に示されるものは、膨張黒鉛シート層(40)の内側と外側の両方に配される金属材(20m)として穴あきフック鋼板(20p)を採用しているため、穴あき内側及び外側のフック鋼板(20p)それぞれの一方の面(本実施形態では膨張黒鉛シート層(40)と対向する側の面)にはフック(f)と呼ばれる突起が形成されている。したがって、穴あきフック鋼板(20p)と膨張黒鉛シート層(40)とを対向させた後に、ロール加工又はプレス加工によって圧延すると、フック(f)が係留効果を奏するため、穴あきフック鋼板(20p)と膨張黒鉛シート層(40)とが物理的に接合される。
【0038】
本発明は以下の実施例で最も理解される。以下の実施例は本発明の一例を示すものであり、特許請求の範囲の権利範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0039】
既製品の携帯用ガスコンロ及びブタン液化ガス容器、厚さ0.5mmの膨張黒鉛シートを準備した。膨張黒鉛シートを、ガス容器を収容するための蓋(20)の内側面積の大きさに合わせて切断した。切断した膨張黒鉛シートの片面に500℃以上の耐熱性を備えるセラミック接着剤を用いて塗布し、溶剤が揮発した後、ガス容器を収容するための蓋(20)の内側に完全に接着させた。約8時間静置した後、膨張黒鉛シートが蓋(20)の内側に固着されているか否かを肉眼検査及び剥離検査によって確認した。液化ブタンガス容器をガスコンロに装着した後、燃焼部に点火して5分後及び10分後における液化ブタンガス容器の上部及び下部の表面温度を測定した。
【0040】
〈比較例〉
上記の実施例と比較するために、膨張黒鉛シートが設けられていない従来のガスコンロを用いて、上記の実施例と同様に、時間経過によるガス容器の表面温度を測定した。
【0041】
加熱後の温度測定:ガス容器の表面温度の測定の結果、比較例では0分、5分経過後、10分経過後の温度が夫々27.0℃,48.3℃,67.5℃と測定された。
実施例では0分、5分経過後、10分経過後の温度が夫々25.1℃,34.6℃,46.1℃と測定された。
即ち、本発明の実施例は、液化ブタンガス容器の上部表面温度が5分経過後には従来のガスコンロと比べて13.7℃低く、10分経過後には21.4℃低くいものであった。これは蓋(20)の内側の膨張黒鉛シートが、熱をX、Y軸方向、即ち面方向に熱を拡散し、Z軸、即ち厚さの方向に熱放射が殆ど進行せず、ガス容器に熱が伝達されずに外部に放出されていることを示す。
【0042】
携帯用ガスコンロの爆発試験:大きさが313mm(L)×270mm(W)×99mm(H)である圧電自動点火方式の液化ブタンガスを使用する炊事用ガスコンロを用いて爆発試験を行った。ガスコンロは本発明の爆発防止用の膨張黒鉛シートが設けられていないものと設けられている物の両方を用意した。
爆発防止用の膨張黒鉛シート(40)は、粘土をコーティング処理した膨張黒鉛シートであり縦×横235mm(L)×150mm(W)、厚さ0.5mmのものを使用した。
本試験で、2種類のガスコンロよりも大きい焼板(過大焼板)を使用した。一つは大きさが560mm(L)×410mm(W)の亜鉛メッキの鉄網にアルミニウムホイルを3回巻いた物(‘過大焼板1’)、他方は大きさ410mm(L)×280mm(W)の亜鉛メッキの鉄網にアルミニウムホイルを3回巻いた物(‘過大焼板2’)である。以下の爆発試験は、韓国防災試験研究院にて2015年11月9日~11日に実施した(韓国防災試験研究院の試験成績書番号G2015-1523、2015年12月31日発行)。
【0043】
(ア.ガス制御バルブを除去した従来のガスコンロの爆発試験(1A、1B))
ガスコンロのガス圧力調整機(governor)内部にあるガス制御バルブを除去した後、ガスコンロにガス容器を装着した。過大焼板1をガスコンロの上段にガス容器カバーに充分に被さるようにして設置した。ガスコンロの火力を最大に調節して燃焼させた。燃焼時、ガス容器の爆発の有無を確認した。下記表2に示すようにガス容器の爆発を確認した。
【0044】
【0045】
(イ.安全レバーが具備された従来のガスコンロの爆発試験(2))
ガスコンロにガス容器を装着した。過大焼板2をガスコンロの上段にガス容器のカバーに充分に被さるように設置した。ガスコンロの火力を最大に調節して燃焼させた。ガスコンロの正常な燃焼を確認して燃焼時、液化ガス容器の爆発の有無を確認した。下記表3に示すように、安全レバーの作動で燃焼が中断されたため、ガス容器が爆発しなかったことを確認した。
【0046】
【0047】
(ウ.上記実施例における本発明に係るガスコンロの爆発試験(3A、3B))
爆発防止用の放熱板(膨張黒鉛シート(40))が設けられたガスコンロにガス容器を装着した。過大焼板2をガスコンロの上部にガス容器のカバーに充分に被さるように設置した。ガスコンロの火力を最大に調節して燃焼させた。ガスコンロの正常な燃焼を確認し、燃焼時における液化ガス容器の爆発の有無を確認した。下記表4に示すように、ガスが全て燃焼するまでガス容器が爆発しなかったことを確認した。
【0048】
【0049】
上記の実施例及び爆発試験で示したように、爆発防止用の放熱板(膨張黒鉛シート(40))が設けられた本発明のガスコンロは、過大焼板によって過熱されなかった。その結果、ガス容器(30)が爆発しないことが分かった。表4に示したように、ガス容器(30)内のガス残量がそれぞれ0.4g及び0.6gと極めて少量のガスのみが残留していたため、ガス容器の爆発の危険性はない。
【0050】
本発明の単純な変形ないし変更は当業者によって容易に実施され得る。このような変形乃至変更は全て本発明の範囲に含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の爆発防止用の膨張黒鉛シートが設けられた携帯用ガスコンロは、過熱によるガス容器の爆発を防止できるため、例えば、家庭、食堂、あるいは登山や釣り等の野外の活動等において好適に使用される。
【符号の説明】
【0052】
10:本体
15:ガス容器の装着空間
20:蓋
20a:ステンレス鋼
20b:鋼材
20m:金属層
20p:穴あきフック鋼板
30:ガス容器
40:膨張黒鉛シート
50:金属板
60:セラミック接着剤層
f:フック
P:穴