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特許7088473ペルオキシソーム障害および白質ジストロフィーの処置のための組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ペルオキシソーム障害および白質ジストロフィーの処置のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20220614BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 31/166 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 31/201 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 31/223 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 31/4188 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 31/443 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 38/24 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 47/58 20170101ALI20220614BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
A61K31/192
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/107
A61K31/05
A61K31/122
A61K31/166
A61K31/201
A61K31/223
A61K31/355
A61K31/40
A61K31/4188
A61K31/443
A61K31/573
A61K38/22
A61K38/24
A61K38/43
A61K38/46
A61K47/58
A61P3/00
A61P25/28
A61P43/00 105
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018521617
(86)(22)【出願日】2016-10-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-01
(86)【国際出願番号】 US2016059697
(87)【国際公開番号】W WO2017075580
(87)【国際公開日】2017-05-04
【審査請求日】2019-10-30
(31)【優先権主張番号】62/248,163
(32)【優先日】2015-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】398076227
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティー
(73)【特許権者】
【識別番号】507395016
【氏名又は名称】ケネディー クリーガー インスティテュート, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】カナン, スハタ
(72)【発明者】
【氏名】ランガラマヌジャム, カナン
(72)【発明者】
【氏名】ザン, ファン
(72)【発明者】
【氏名】ファテミ, セイエド アリ
(72)【発明者】
【氏名】ターク, ベラ
(72)【発明者】
【氏名】ゴック, オズグル
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0003155(US,A1)
【文献】特表2010-540664(JP,A)
【文献】国際公開第2015/027068(WO,A1)
【文献】The Journal of Cell Biology,2005年,Vol. 169, No. 1,pp.93-104
【文献】Nature Medicine,1998年,Vol. 4, No. 11,pp. 1261-1268
【文献】Brain Pathology,2010年,Vol. 20,pp. 845-856
【文献】ACS Nano,2014年02月05日,Vol. 8, No. 3,pp. 2134-2147
【文献】Journal of Neuropathology and Experimental Neurology,2000年,Vol. 59, No. 2,pp. 89-102
【文献】メルクマニュアル 第18版 日本語版,初版第3刷,2007年,pp. 2626-2627,(最終査読2016年1月のMSDマニュアルプロフェッショナル版のウェブページも添付した。)
【文献】Journal of Controlled Release,2015年,Vol. 214,pp. 112-120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/192
A61K 9/08
A61K 9/10
A61K 9/107
A61K 31/05
A61K 31/122
A61K 31/166
A61K 31/201
A61K 31/223
A61K 31/355
A61K 31/40
A61K 31/4188
A61K 31/443
A61K 31/573
A61K 38/22
A61K 38/24
A61K 38/43
A61K 38/46
A61K 47/58
A61P 3/00
A61P 25/28
A61P 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるペルオキシソーム障害の処置における使用のための、デンドリマー複合体を含む組成物であって、前記複合体が、少なくとも1種の治療剤または予防剤と複合体化された、それにコンジュゲートされたまたはそれらを分子内に分散もしくは封入された第4~10世代ポリ(アミドアミン)(PAMAM)ヒドロキシル-末端デンドリマーを含み、
前記剤が、ペルオキシソーム障害の処置のためのものであり、前記複合体が、ミクログリアを標的化し、前記少なくとも1種の治療剤または予防剤が、4-フェニルブチレート(4-PBA)を含む、組成物。
【請求項2】
前記ペルオキシソーム障害がペルオキシソーム新生障害である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ペルオキシソーム障害が、神経細胞を遮断する髄鞘の成長または維持に影響を及ぼす、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ペルオキシソーム障害が、白質ジストロフィーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記白質ジストロフィーが、ミエリン塩基性タンパク質の欠損症を伴う18q症候群、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、急性散在性白質脳炎、急性出血性白質脳症、X連鎖副腎白質ジストロフィー(ALD)、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)、アイカルディ-グティエール症候群、アレキサンダー病、成人発症型常染色体優性白質ジストロフィー(ADLD)、神経軸索スフェロイドを伴う常染色体優性びまん性白質脳症(HDLS)、常染色体優性遅発性白質脳症、びまん性CNSミエリン形成不全を伴う小児期運動失調(CACHまたは消失性白質疾患)、カナバン病、皮質下梗塞および白質脳症を伴う大脳常染色体優性脳動脈症(CADASIL)、脳腱黄色腫症(CTX)、白質脳症を伴う頭蓋骨幹端異形成、RNASET2を伴う嚢胞性白質脳症、臨床症状を伴わない広範性大脳白質異常、小脳性運動失調および認知症として顕在化する家族性成人発症型白質ジストロフィー、成人発症型認知症および異常性糖脂質貯蔵を伴う家族性白質ジストロフィー、グロボイド細胞白質ジストロフィー(クラッベ病)、遺伝性成人発症型白質ジストロフィー疑似慢性進行性多発性硬化症、脳幹神経節および小脳の萎縮を伴うミエリン形成不全(HABC)、ミエリン形成不全、低ゴナドトロピン症、性腺機能低下症および歯数不足症(4H症候群)、白質ジストロフィーを伴う脂肪膜性骨異形成症(那須病)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、皮質下嚢胞を伴う巨脳白質ジストロフィー(MLC)、軸索スフェロイドを伴う神経軸索白質脳症(スフェロイドを伴う遺伝性びまん性白質脳症-HDLS))、新生児副腎白質ジストロフィー(NALD)、大脳白質異常を伴うオキュロデントデジタル異形成、色素グリアを伴う正染性白質ジストロフィー、卵巣白質ジストロフィー症候群、ペリツェウス・メルツバッハ病(X連鎖痙性対麻痺)、レフサム病、シェーグレン-ラルソン症候群、スダン好性白質ジストロフィー、Van der Knaap症候群(皮質下嚢胞またはMLCを伴う空胞化白質ジストロフィー)、消失性白質疾患(VWM)またはびまん性中枢神経系ミエリン形成不全を伴う小児期運動失調(CACH)、幼児レフサム病、ならびに脳幹および脊髄の関与ならびにラクテート上昇を伴う白質脳症(LBSL)、ならびにDARS2白質脳症からなる群から選択される、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
前記対象が出生時から約18歳の間の小児である、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記PAMAMデンドリマーが第6世代PAMAMデンドリマーである、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記デンドリマーが、2種の異なる治療剤にコンジュゲートされており
第1の治療剤が、4-PBAであり、
第2の治療剤が、N-アセチルシステインベンザフィブレート、甲状腺ホルモン(T3)、ソベチロム、ピオグリタゾン、レスベラトロール、VBP15、ビタミンE、エルカ酸、ビオチン、補酵素Q10、クレマスチン、ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)およびアリールスルファターゼA(ARSA)からなる群から選択される、請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記デンドリマー複合体が、懸濁液、エマルジョンまたは溶液中に製剤化される請求項1からのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、隔日、3日毎、4日毎、毎週、隔週、毎月、および隔月からなる群から選択される期間で前記対象に投与されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記デンドリマーが、第4~6世代ポリ(アミドアミン)(PAMAM)ヒドロキシル-末端デンドリマーである、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2015年10月29日に出願された米国仮出願番号第62/248,163号の利益を主張しており、この仮出願は、その全体が、参考として援用される。
【0002】
政府によって支援された研究または開発に関する陳述
本発明は、国立衛生研究所による認可1R01HD076901-01A1および1R01HD069562-01の下、政府支援でなされた。政府は、本発明において特定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明の分野は、一般に、中枢神経系炎症、特に副腎白質ジストロフィーおよび他の白質ジストロフィーならびにペルオキシソーム障害において見られる型の画像化、診断および処置のためのデンドリマーナノデバイスを含む標的化組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
白質ジストロフィーは、主に白質路に関与する神経変性障害であり、進行性および衰弱性である。これらのうち、極めて重症な型はX連鎖副腎白質ジストロフィー(ALD)であり、これは、ペルオキシソームABC輸送体ABCD1における突然変異により生じ、大脳白質、脊髄および末梢の神経に罹患し、一部の表現型は若い年齢で急速におよび末期的に進行する(Bergerら、Biochimie、98巻:135~42頁(2014年))。ALDは、ペルオキシソーム脂肪酸代謝の欠損による神経系白質、副腎および精巣における極長鎖脂肪酸の蓄積によって生化学的に特徴付けられる。ABCD1は、ALDの病原性の顕著な特徴である分解のためのペルオキシソームへの極長鎖脂肪酸(VLCFA)の移入に関与するタンパク質であるALDPをコード化し、極長鎖脂肪酸の蓄積がミトコンドリア機能不全および酸化ストレスに至ると考えられる。さらに、細胞膜における極長鎖脂肪酸の蓄積は、神経炎症をもたらすミクログリア活性化に至り得る。
【0005】
ALDは、主に、正常に産まれ、正常な初期発達を有する男児に罹患する。ALDの2つの最も優勢な表現型は、急速進行性の致死的な脱髄性大脳障害である小児大脳型ALD(ccALD)、ならびに脊髄および末梢神経における長索路の緩徐進行性「先端逆行性」軸索障害である成人発症型副腎脊髄ニューロパチー(AMN)である(Powersら、Journal of neuropathology and experimental neurology、60巻(5号):493~501頁(2001年))。AMNにおける長索路の死後研究は、ミトコンドリア機能不全を示唆するミトコンドリア中の脂質含有物を示している。
【0006】
この遺伝子欠陥を有する全ての男性の約35%は、大脳白質に関与する急速進行性の致死的な神経炎症性脱髄障害を4~6歳の間に示す。この表現型は小児大脳型ALD(ccALD)を定義し、症状の発症後2~3年以内に死亡に至る。残りの65%の男性は、小児期中では無症候性であるが、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)と称される成人発症型緩徐進行性脊髄症を発病し、これは変性長経路軸索障害であり、数十年かけて進行し、末梢性ニューロパチー構成成分も有する。追加として、AMNを有する成人男性は、より若い男児におけるのと同じ神経炎症性脱髄性大脳疾患を発病する可能性が20%あり、成人大脳型ALD(acALD)と称される。神経系関与に加えて、ほぼ全ての男性は、彼らの寿命中のある時点で副腎機能不全を発病し、これは未処置で放置されるならば生命を危うくする緊急事態に至り得る。全ての女性キャリアの約半分も、より軽度の型のAMNを発病するが、任意の神経炎症を発病しない。ALDの総発生率(男性と女性を合わせて)は、1:17,000であると推算され、ALDを民族的または地理的な変動がない最も共通の白質ジストロフィーにしている。この障害についての新生児スクリーニングが、ニューヨーク州で2014年1月1日に開始され、次の1~2年以内にいくつかの他の高出生率の州に拡大される可能性が高い。
【0007】
ccALDのための唯一利用可能な治療は同種造血幹細胞移植(HSCT)であるが、この手技は、早期疾患段階中に行われる場合に有効なだけであり、高い罹患率および死亡率を有する。作用機序はいまだ全てが明らかというわけではないが、外来造血幹細胞はCNSに遊走し、炎症性脱髄を停止させるミクログリアに分化すると推定される。これは、ミクログリアを標的にすることが有効な治療戦略であり得ることを暗示している。いくつかの神経調節薬が炎症プロセスを停止させるのに利用されてきたが(シクロホスファミド(cycophosphamide)、IVIG、サリドマイド、IFN-δ)、成功していない。(映像描写により)ロレンツォ油とよく称されるグリセリルトリオレート-トリエルケートの組合せは、血中極長鎖脂肪酸を有効に低減することが示されているが、ccALDにおける疾患進行を止められない。関連の骨髄適合を有さず、早期疾患段階中に同定されるccALDを有する男児における自家造血幹細胞のex vivoレンチウイルスベース遺伝子形質導入の多施設トライアルが開始された(研究HGB-205:レンチウイルスベータa-t87q-グロビンベクターを用いてex vivoで形質導入された自家造血幹細胞の移植を介する、ヘモグロビン異常症のための遺伝子治療(レンチグロビンBB305薬物製品、スポンサー:BlueBirdBio,Inc.))。
【0008】
利用可能な治療の欠如を考慮すると、これらの障害を処置するための改善された治療薬の必要が依然としてある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Bergerら、Biochimie、98巻:135~42頁(2014年)
【文献】Powersら、Journal of neuropathology and experimental neurology、60巻(5号):493~501頁(2001年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そのため、ペルオキシソーム障害および白質ジストロフィーの処置のための組成物およびその使用方法を提供することが本発明の目的である。
【0011】
ニューロンへの治療剤の標的送達のための組成物および方法を提供することも本発明の目的である。
【0012】
健康なニューロンまたはそうでなければ非傷害ニューロン、特に脊髄中に、より具体的には脊髄の灰白質中に位置しているものよりも、軸索変性を有するニューロンへ治療剤を優先的に送達するための組成物および方法を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の要旨
それを必要とする対象におけるペルオキシソーム障害および白質ジストロフィーを診断および処置するための医薬組成物および投与単位を含む組成物ならびにその使用方法は、代表的には、障害の処置または診断のための治療、予防または診断剤と、複合体化した、共有結合した、またはそれらが分子内に分散もしくは封入されたデンドリマーを含む。
【0014】
一部の実施形態では、組成物は、軸索変性に関連した1つまたは複数の症状を処置および/または防止するための有効量で治療、予防および/または診断剤と複合体化されたポリ(アミドアミン)デンドリマーG1~G10、好ましくはG4~G6を含む。例示的な治療剤は、ステロイド性抗炎症剤、非ステロイド性抗炎症剤および金化合物抗炎症剤を含む。一部の実施形態では、デンドリマーは、抗炎症剤または抗酸化剤、およびN-アセチルシステイン、4-フェニルブチレート、ベンザフィブレート、甲状腺ホルモン(T3)、ソベチロム、ピオグリタゾン、レスベラトロール、VBP15、ビタミンE、エルカ酸、ビオチン、補酵素Q10、クレマスチン、ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)またはアリールスルファターゼA(ARSA)などの薬剤と、複合体化しているか、共有結合しているか、またはそれらを分子内に分散もしくは封入させている。一部の実施形態では、デンドリマーにコンジュゲートされる治療剤は、ニューロン特異的クラスIIIベータチューブリン(TUJ-1)陽性脊髄ニューロンを局在化および標的化するための治療活性薬剤である。さらなる実施形態では、組成物は、2種またはそれよりも多い異なる治療剤とコンジュゲートするための2つもしくはそれよりも多い異なる末端リンカー、および/またはスペーサーを有するポリ(アミドアミン)デンドリマーG1~G10などのデンドリマーを含む。
【0015】
組成物を投与する方法は、それを必要とする個体、例えばペルオキシソーム障害および白質ジストロフィー、殊に、ペルオキシソームABC輸送体ABCD1における突然変異により生じ、大脳白質、脊髄および末梢の神経に罹患し、一部の表現型が若い年齢で急速におよび末期的に進行する極めて重症の型X連鎖副腎白質ジストロフィー(ALD)を有する個体における軸索変性と関連した1つまたは複数の症状を処置するために提供される。方法は、代表的には、デンドリマー組成物を含めた薬学的に許容される組成物の有効量を対象に全身投与することを含む。
【0016】
組成物は、神経細胞を遮断する、髄鞘の成長または維持に影響を及ぼすペルオキシソーム障害、ならびに白質ジストロフィー、例えば副腎白質ジストロフィー(ALD)(X連鎖ALDを含める)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、クラッベ病(グロボイド白質ジストロフィー)、ならびに脳幹および脊髄の関与およびラクテート上昇を伴う白質脳症(LBSL)/DARS2白質脳症の処置における使用に適切である。一部の実施形態では、治療剤にコンジュゲートされたデンドリマーは、酸化ストレス、神経炎症、長鎖脂肪酸産生、運動機能の喪失またはその組合せを低減、防止またはそれ以外の方式で軽減する;ペルオキシソーム増殖、極長鎖脂肪酸除去、運動機能、ABCD2発現、ペルオキシソーム障害もしくは白質ジストロフィーにおける突然変異酵素もしくは酵素欠損またはその組合せを促進、増加または改善するのに有効な量における単位投与量である。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
それを必要とする対象におけるペルオキシソーム障害を処置するための方法であって、前記障害の処置または診断のための治療、予防または診断剤と、複合体化した、共有結合した、またはそれらが分子内に分散もしくは封入されたデンドリマーを含む薬学的に許容される組成物を前記対象に全身的に投与することを含む方法。
(項目2)
前記ペルオキシソーム障害がペルオキシソーム新生障害である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記ペルオキシソーム障害が、神経細胞を遮断する、髄鞘の成長または維持への作用を含む、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記ペルオキシソーム障害が白質ジストロフィーである、項目1に記載の方法。
(項目5)
それを必要とする対象における白質ジストロフィーを処置する方法であって、前記障害の処置または診断のための治療、予防または診断剤にコンジュゲートされたまたはそれと複合体化されたデンドリマーを含む薬学的に許容される組成物を前記対象に全身的に投与することを含む方法。
(項目6)
前記白質ジストロフィーが、ミエリン塩基性タンパク質の欠損症を伴う18q症候群、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、急性散在性白質脳炎、急性出血性白質脳症、X連鎖副腎白質ジストロフィー(ALD)、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)、アイカルディ-グティエール症候群、アレキサンダー病、成人発症型常染色体優性白質ジストロフィー(ADLD)、神経軸索スフェロイドを伴う常染色体優性びまん性白質脳症(HDLS)、常染色体優性遅発性白質脳症、びまん性CNSミエリン形成不全を伴う小児期運動失調(CACHまたは消失性白質疾患)、カナバン病、皮質下梗塞および白質脳症を伴う大脳常染色体優性脳動脈症(CADASIL)、脳腱黄色腫症(CTX)、白質脳症を伴う頭蓋骨幹端異形成、RNASET2を伴う嚢胞性白質脳症、臨床症状を伴わない広範性大脳白質異常、小脳性運動失調および認知症として顕在化する家族性成人発症型白質ジストロフィー、成人発症型認知症および異常性糖脂質貯蔵を伴う家族性白質ジストロフィー、グロボイド細胞白質ジストロフィー(クラッベ病)、遺伝性成人発症型白質ジストロフィー疑似慢性進行性多発性硬化症、脳幹神経節および小脳の萎縮を伴うミエリン形成不全(HABC)、ミエリン形成不全、低ゴナドトロピン症、性腺機能低下症および歯数不足症(4H症候群)、白質ジストロフィーを伴う脂肪膜性骨異形成症(那須病)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、皮質下嚢胞を伴う巨脳白質ジストロフィー(MLC)、軸索スフェロイドを伴う神経軸索白質脳症(スフェロイドを伴う遺伝性びまん性白質脳症-HDLS)、新生児副腎白質ジストロフィー(NALD)、大脳白質異常を伴うオキュロデントデジタル異形成、色素グリアを伴う正染性白質ジストロフィー、卵巣白質ジストロフィー症候群、ペリツェウス・メルツバッハ病(X連鎖痙性対麻痺)、レフサム病、シェーグレン-ラルソン症候群、スダン好性白質ジストロフィー、Van der Knaap症候群(皮質下嚢胞またはMLCを伴う空胞化白質ジストロフィー)、消失性白質疾患(VWM)またはびまん性中枢神経系ミエリン形成不全を伴う小児期運動失調(CACH)、X連鎖副腎白質ジストロフィー(X-ALD)、ならびにツェルウェーガー症候群、新生児副腎白質ジストロフィー、幼児レフサム病を含めたツェルウェーガースペクトラム障害、脳幹および脊髄の関与ならびにラクテート上昇を伴う白質脳症(LBSL)、ならびにDARS2白質脳症からなる群から選択される、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記白質ジストロフィーが、副腎白質ジストロフィー(ALD)(X連鎖性ALDを含める)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、クラッベ病(グロボイド白質ジストロフィー)、ならびに脳幹および脊髄の関与ならびにラクテート上昇を伴う白質脳症(LBSL)/DARS2白質脳症からなる群から選択される、項目5に記載の方法。
(項目8)
前記対象がおよそ出生時から約18歳の間の幼児または小児である、項目1から7のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記デンドリマーが、少なくとも1種の治療剤と、複合体化した、共有結合した、またはそれらが分子内に分散もしくは封入された第4~10世代ポリ(アミドアミン)(PAMAM)ヒドロキシル-末端デンドリマーである、項目1から8のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
前記PAMAMデンドリマーが第6世代PAMAMデンドリマーである、項目1から9のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
治療剤にコンジュゲートされたまたはそれと複合体化された前記デンドリマーが、前記対象における前記ペルオキシソーム障害または白質ジストロフィーの1つまたは複数の症状を軽減するのに有効な量における単位投与量である、項目1から10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
治療剤にコンジュゲートされた前記デンドリマーが、酸化ストレス、神経炎症、長鎖脂肪酸産生、運動機能の喪失またはその組合せを低減、防止またはそれ以外の方式で軽減する;ペルオキシソーム増殖、極長鎖脂肪酸除去、運動機能、ABCD2発現、ペルオキシソーム障害もしくは白質ジストロフィーにおいて突然変異したもしくは欠損の酵素、またはその組合せを促進、増加、または改善する;およびその組合せの有効な量における単位投与量である、項目1から11のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
前記治療剤が抗炎症剤または抗酸化剤である、項目1から12のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
前記治療剤が、ステロイド性抗炎症剤、非ステロイド性抗炎症剤および金化合物抗炎症剤からなる群から選択される、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記抗炎症剤がVBP15である、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記治療剤が、ペルオキシソーム障害もしくは白質ジストロフィーにおいて突然変異したもしくは欠損の酵素の野生型コピーまたは前記酵素をコード化する核酸である、項目1から12のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記酵素が、ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)、アスパルトアシラーゼ(ASPA)またはアリールスルファターゼA(ARSA)である、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記治療剤が、甲状腺ホルモンまたは甲状腺ホルモン類似体である、項目1から12のいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
前記甲状腺ホルモンが、天然もしくは合成トリヨードチロニン(T3)、そのプロホルモンのチロキシン(T4)、またはその混合物である、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記甲状腺ホルモン類似体が、ソベチロムである、項目18に記載の方法。
(項目21)
前記治療剤が、極長鎖脂肪酸産生を防止または低減する、ペルオキシソーム増殖を促進する、極長鎖脂肪酸除去を促進する、またはその組合せである薬剤である、項目1から12のいずれか一項に記載の方法。
(項目22)
前記薬剤が、4-フェニルブチレートである、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記治療剤が、ABCD2発現を増加させる薬剤である、項目1から12のいずれか一項に記載の方法。
(項目24)
前記薬剤が、ベンザフィブレートである、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記治療剤が、神経炎症を低減する、項目1から12のいずれか一項に記載の方法。
(項目26)
前記治療剤が、N-アセチルシステイン、ピオグリタゾンまたはビタミンEである、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記治療剤が、酸化還元恒常性および/またはミトコンドリア呼吸を改善し、生体エネルギー不全、軸索変性および/または関連した自発運動能力障害を低減または反転させる、またはその組合せである、項目1から12のいずれか一項に記載の方法。
(項目28)
前記治療剤が、レスベラトロールである、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記デンドリマーが、第1の治療剤、ならびに治療剤、予防剤および診断剤からなる群から選択される第2の薬剤にコンジュゲートされている、項目1から28のいずれか一項に記載の方法。
(項目30)
前記デンドリマーが、2種の治療剤にコンジュゲートされている、項目1から29のいずれか一項に記載の方法。
(項目31)
前記デンドリマーが、抗炎症剤または抗酸化剤ならびにN-アセチルシステイン、4-フェニルブチレート、ベンザフィブレート、甲状腺ホルモン(T3)、ソベチロム、ピオグリタゾン、レスベラトロール、VBP15、ビタミンE、エルカ酸、ビオチン、補酵素Q10、クレマスチン、ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)およびアリールスルファターゼA(ARSA)からなる群から選択される薬剤と、複合体化しているか、共有結合しているか、またはそれらを分子内に分散もしくは封入させている、項目11に記載の方法。
(項目32)
前記デンドリマーが、ニューロン特異的クラスIIIベータチューブリン(TUJ-1)陽性脊髄ニューロンを局在化および標的化するための治療活性薬剤と、複合体化しているか、共有結合しているか、またはそれらを分子内に分散もしくは封入させている、項目1から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目33)
デンドリマー治療剤が、ペルオキシソーム障害または白質ジストロフィーを有する個体に投与される、項目1から32のいずれか一項に記載の方法。
(項目34)
デンドリマーコンジュゲートまたは複合体が、懸濁液、エマルジョンまたは溶液中に製剤化される、項目1から32のいずれか一項に記載の方法。
(項目35)
前記組成物が、隔日、3日毎、4日毎、毎週、隔週、毎月、および隔月からなる群から選択される期間で前記対象に投与される、項目1から32のいずれか一項に記載の方法。
(項目36)
脊髄ニューロン損傷の存在、位置または程度を検出する方法であって、診断剤と、複合体化した、共有結合した、またはそれらが分子内に分散もしくは封入されたデンドリマーを、それを必要とする対象に投与すること、次いで脊髄における前記診断剤の位置を検出することを含む、方法。
(項目37)
前記検出が、ペルオキシソーム障害または白質ジストロフィーの診断を容易にする、項目36に記載の方法。
(項目38)
脊髄ニューロン損傷の進行または脊髄ニューロン損傷の処置のための治療剤の効力をモニタリングする方法であって、診断剤と、複合体化した、共有結合した、またはそれらが分子内に分散もしくは封入されたデンドリマーを、それを必要とする対象に投与すること、次いで、第1の時点で脊髄における前記診断剤の位置を検出すること、前記診断剤コンジュゲートと、複合体化した、共有結合した、またはそれらが分子内に分散もしくは封入された前記デンドリマーを前記対象に投与すること、次いで、第2の時点で脊髄における前記コンジュゲートの位置を検出すること、ならびに前記第1および第2の時点からの検出結果を比較することで、前記損傷が悪化したか、改善したか、または依然として同じであるかを決定することを含む方法。
(項目39)
項目1から38のいずれかに記載の方法における使用のためのデンドリマー組成物。
(項目40)
白質における脊髄ニューロンよりも灰白質における脊髄ニューロンにおいてより高い濃度を生成する、項目39に記載のデンドリマー組成物。
(項目41)
非損傷ニューロンにおけるよりも損傷ニューロンにおいてより高い濃度を生成する、項目39または40に記載のデンドリマー組成物。
(項目42)
酸化ストレス、神経炎症、長鎖脂肪酸産生、運動機能の喪失またはその組合せを低減、防止またはそれ以外の方式で軽減する;ペルオキシソーム増殖、極長鎖脂肪酸除去、運動機能、ABCD2の発現、ペルオキシソーム障害もしくは白質ジストロフィーにおいて突然変異したもしくは欠損の酵素の野生型コピーの発現、またはその任意の組合せを促進、増加または改善する治療剤と、複合体化した、共有結合した、またはそれらが分子内に分散もしくは封入されたデンドリマーを含むデンドリマー組成物。
(項目43)
前記治療剤が、抗炎症剤または抗酸化剤である、項目42に記載の組成物。
(項目44)
前記治療剤が、ステロイド性抗炎症剤、非ステロイド性抗炎症剤、および金化合物抗炎症剤からなる群から選択される、項目43に記載の組成物。
(項目45)
前記抗炎症剤が、VBP15である、項目44に記載の組成物。
(項目46)
前記治療剤が、ペルオキシソーム障害または白質ジストロフィーにおいて突然変異したもしくは欠損の酵素の野生型コピー、または前記酵素をコード化する核酸である、項目42に記載の組成物。
(項目47)
前記酵素が、ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)またはアリールスルファターゼA(ARSA)である、項目46に記載の組成物。
(項目48)
前記治療剤が、甲状腺ホルモンまたは甲状腺ホルモン類似体である、項目42に記載の組成物。
(項目49)
前記甲状腺ホルモンが、天然または合成トリヨードチロニン(T3)、そのプロホルモンのチロキシン(T4)、またはその混合物である、項目48に記載の組成物。
(項目50)
前記甲状腺ホルモン類似体が、ソベチロムである、項目49に記載の組成物。
(項目51)
前記治療剤が、長鎖脂肪酸産生を防止もしくは低減する、ペルオキシソーム増殖を促進する、極長鎖脂肪酸除去を促進する、またはその組合せである薬剤である、項目42に記載の組成物。
(項目52)
前記薬剤が、4-フェニルブチレートである、項目51に記載の組成物。
(項目53)
前記治療剤が、ABCD2発現を増加させる薬剤である、項目42に記載の組成物。
(項目54)
前記薬剤が、ベンザフィブレートである、項目53に記載の組成物。
(項目55)
前記治療剤が、神経炎症を低減する、項目42に記載の組成物。
(項目56)
前記治療剤が、ピオグリタゾンまたはビタミンEである、項目55に記載の組成物。
(項目57)
前記治療剤が、酸化還元恒常性および/もしくはミトコンドリア呼吸を改善する、生体エネルギー不全、軸索変性および/もしくは関連した自発運動能力障害を低減もしくは反転させる、またはその組合せである、項目42に記載の組成物。
(項目58)
前記治療剤が、レスベラトロールである、項目57に記載の組成物。
(項目59)
前記デンドリマーが、第4~6世代ポリ(アミドアミン)(PAMAM)ヒドロキシル末端デンドリマーである、項目42から58のいずれか一項に記載の組成物。
(項目60)
前記PAMAMデンドリマーが第6世代PAMAMデンドリマーである、項目59に記載の組成物。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1Aは、時間(時)の経過による脳におけるデンドリマーの量(μg/g)のグラフである。
【0018】
図1B図1Bは、対照、PVR、CP PVR、対照皮質およびCP皮質と対比したミクログリアの数のグラフである。
【0019】
図2A図2Aは、正常、軽度、中程度および重度について脳におけるG4-OH-Cys5の量(μg/ml)のグラフである。
【0020】
図2B図2Bは、コンポジット挙動スコアについて脳におけるCP中のG6-OH-Cy5の量(μg/ml)のグラフである。
【0021】
図3図3Aおよび3Bは、pH7.4のPBS、pH5.5のクエン酸緩衝液、またはエステラーゼの存在下pH5.5において、第4世代PAMAMデンドリマー(図3A)のまたは第6世代PAMAMデンドリマー(図3B)のデンドリマー-PBAコンジュゲートからの、45日の期間にわたる遊離PBAの放出を示すプロットである。
【0022】
図4図4は、D4PBAなし、10μMのD4PBA、30μMのD4PBA、100μMのD4PBA、300μMのD4PBA、または100μMのフリー4PBAの存在下で、極長鎖脂肪酸によって活性化された、健康な患者に由来する線維芽細胞または副腎脊髄ニューロパチー(AMN)もしくは副腎白質ジストロフィー(ALD)患者に由来する線維芽細胞のLysoPC C26/C22比を示す棒グラフである。
【0023】
図5A図5A~5Cは、30μMのD4PBA、100μMのD4PBA、300μMのD4PBA、または300μMのフリー4PBAの有無における、長鎖脂肪酸(C24)の存在または非存在下において、健康な対照(図5A)、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)患者(図5B)または副腎白質ジストロフィー(ALD)患者(図5C)からの患者由来の単核細胞(mononucleocyte)におけるTNFαレベルを示す棒グラフである。
図5B-C】図5A~5Cは、30μMのD4PBA、100μMのD4PBA、300μMのD4PBA、または300μMのフリー4PBAの有無における、長鎖脂肪酸(C24)の存在または非存在下において、健康な対照(図5A)、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)患者(図5B)または副腎白質ジストロフィー(ALD)患者(図5C)からの患者由来の単核細胞(mononucleocyte)におけるTNFαレベルを示す棒グラフである。
【0024】
図6A-B】図6A~6Dは、30μMのDNAC、100μMのDNAC、300μMのDNAC、300μMのフリーNAC、または300μMのデンドリマーの有無における、長鎖脂肪酸(C24)の存在または非存在下において、健康な対照(図6A)、ヘテロ接合体(heterozyogote)キャリア(図6B)、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)患者(図6C)または大脳型副腎白質ジストロフィー(cALD)患者(図6D)からの患者由来のマクロファージにおけるTNFαレベルを示す浮動棒チャートである。
図6C-D】図6A~6Dは、30μMのDNAC、100μMのDNAC、300μMのDNAC、300μMのフリーNAC、または300μMのデンドリマーの有無における、長鎖脂肪酸(C24)の存在または非存在下において、健康な対照(図6A)、ヘテロ接合体(heterozyogote)キャリア(図6B)、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)患者(図6C)または大脳型副腎白質ジストロフィー(cALD)患者(図6D)からの患者由来のマクロファージにおけるTNFαレベルを示す浮動棒チャートである。
【0025】
図7A-B】図7A~7Dは、30μMのDNAC、100μMのDNAC、300μMのDNAC、300μMのフリーNAC、または300μMのデンドリマーの有無における、長鎖脂肪酸(C24)の存在または非存在下において、健康な対照(図7A)、ヘテロ接合体キャリア(図7B)、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)患者(図7C)または大脳型副腎白質ジストロフィー(cALD)患者(図7D)からの患者由来のマクロファージにおけるグルタメートのレベルを示す浮動棒チャートである。
図7C-D】図7A~7Dは、30μMのDNAC、100μMのDNAC、300μMのDNAC、300μMのフリーNAC、または300μMのデンドリマーの有無における、長鎖脂肪酸(C24)の存在または非存在下において、健康な対照(図7A)、ヘテロ接合体キャリア(図7B)、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)患者(図7C)または大脳型副腎白質ジストロフィー(cALD)患者(図7D)からの患者由来のマクロファージにおけるグルタメートのレベルを示す浮動棒チャートである。
【0026】
図8A-B】図8A~8Dは、30μMのDNAC、100μMのDNAC、300μMのDNAC、300μMのフリーNAC、または300μMのデンドリマーの有無における、長鎖脂肪酸(C24)の存在または非存在下において、健康な対照(図8A)、ヘテロ接合体キャリア(図8B)、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)患者(図8C)または大脳型副腎白質ジストロフィー(cALD)患者(図8D)からの患者由来のマクロファージにおけるグルタチオンレベルの倍率変化を示す浮動棒チャートである。
図8C-D】図8A~8Dは、30μMのDNAC、100μMのDNAC、300μMのDNAC、300μMのフリーNAC、または300μMのデンドリマーの有無における、長鎖脂肪酸(C24)の存在または非存在下において、健康な対照(図8A)、ヘテロ接合体キャリア(図8B)、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)患者(図8C)または大脳型副腎白質ジストロフィー(cALD)患者(図8D)からの患者由来のマクロファージにおけるグルタチオンレベルの倍率変化を示す浮動棒チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
I.定義
「治療剤」という用語は、疾患または障害の1つまたは複数の症状を防止または処置するために投与することができる薬剤を指す。例は、以下に限定されないが、核酸、核酸類似体、小分子、ペプチド模倣物、タンパク質、ペプチド、炭水化物もしくは糖、脂質、または界面活性剤、あるいはその組合せを含む。
【0028】
「処置すること」という用語は、疾患、障害または状態の1つまたは複数の症状を防止または軽減することを指す。疾患または状態を処置することは、鎮痛剤の投与によって対象の疼痛を処置するがこのような薬剤が疼痛の原因を処置しないなど根底にある病態生理学が影響されなくても、特定の疾患または状態の少なくとも1つの症状を寛解させることを含む。
【0029】
「防止」または「防止すること」という用語は、疾患または障害の特定の症状の休止、疾患または障害の1つまたは複数の症状の低減または防止、疾患または障害の重症度の低減、疾患または障害の完全な消失、疾患または障害の発病または進行の安定化または遅延を引き起こすのに有効な量にて、疾患または障害によって引き起こされる1つまたは複数の症状のリスクがある、またはその素因を有する対象または系に組成物を投与することを意味する。
【0030】
「生体適合性」という用語は、任意の代謝物またはその分解生成物と一緒に、一般にレシピエントに非毒性であり、レシピエントに任意の重大な有害作用を引き起こすことがない材料を指す。一般的に言えば、生体適合性材料は、患者に投与される場合、重大な炎症または免疫応答を導出することがない材料である。
【0031】
「生分解性」という用語は、一般に、対象によって代謝、排出または排泄され得るより小さい単位または化学種に、生理学的条件下で分解または摩滅する材料を指す。分解時間は、組成物および形態の関数である。分解時間は数時間から数週であり得る。
【0032】
「薬学的に許容される」という成句は、妥当な利益/リスク比に相応する、過度の毒性、刺激、アレルギー応答または他の問題もしくは合併症なく、健全な医学的判断の範疇内でヒトおよび動物の組織との接触における使用に適切である組成物、ポリマーおよび他の材料ならびに/または剤形を指す。「薬学的に許容される担体」という成句は、薬学的に許容される材料、組成物またはビヒクル、例えば、1つの器官または身体の一部から別の器官または身体の一部に任意の対象組成物を運搬または輸送するのに関与する液体または固体の充填剤、希釈剤、溶媒または封入材料を指す。各担体は、対象組成物の他の成分と適合性があり、患者に害がないという意味で「許容され」なければならない。
【0033】
「治療有効量」という成句は、任意の医学的処置に適用可能な妥当な利益/リスク比で何らかの所望の効果を生成する治療剤の量を指す。有効量は、処置されている疾患もしくは状態、投与されている特定の標的化構築物、対象のサイズ、または疾患もしくは状態の重症度などの因子に依存して変動することができる。当業者は、過度の実験法を必要とすることなく、特定の化合物の有効量を経験的に決定することができる。
【0034】
「分子量」という用語は、一般に、材料の質量または平均質量を指す。ポリマーまたはオリゴマーならば、分子量は、バルクポリマーの相対的平均鎖長または相対的鎖質量を指すことができる。実際に、ポリマーおよびオリゴマーの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)または毛細管粘度測定を含めた様々なやり方で推算または特徴付けることができる。
II.組成物
A.デンドリマー
【0035】
「デンドリマー」という用語は、本明細書で使用される場合、以下に限定されないが、内部コアを有する分子構築物、この開始剤コアに規則的に付着されている反復単位の内部層(または「世代(generation)」)、および最外側世代に付着されている末端基の外部表面を含む。デンドリマーの例は、以下に限定されないが、PAMAM、ポリエステル、ポリリシンおよびPPIを含む。PAMAMデンドリマーは、カルボキシル、アミンおよびヒドロキシル末端を有することができ、以下に限定されないが、第1世代PAMAMデンドリマー、第2世代PAMAMデンドリマー、第3世代PAMAMデンドリマー、第4世代PAMAMデンドリマー、第5世代PAMAMデンドリマー、第6世代PAMAMデンドリマー、第7世代PAMAMデンドリマー、第8世代PAMAMデンドリマー、第9世代PAMAMデンドリマー、または第10世代PAMAMデンドリマーを含めて、デンドリマーの任意の世代であってよい。ともに使用するのに適切なデンドリマーは、以下に限定されないが、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリプロピルアミン(POPAM)、ポリエチレンイミン、ポリリシン、ポリエステル、イプチセン、脂肪族ポリ(エーテル)および/または芳香族ポリエーテルのデンドリマーを含む。デンドリマー複合体の各デンドリマーは、他のデンドリマーと同様または異なる化学的性質であってよい(例えば、第1のデンドリマーはPAMAMデンドリマーを含むことができ、一方で、第2のデンドリマーはPOPAMデンドリマーを含むことができる)。一部の実施形態では、第1または第2のデンドリマーは、追加の薬剤をさらに含むことができる。多腕PEGポリマーは、スルフヒドリルまたはチオピリジン末端基を保有する少なくとも2つの分枝を有するポリエチレングリコールを含むが;しかしながら、本明細書において開示されている実施形態は、このクラスに限定されず、スクシンイミジルまたはマレイミド末端など他の末端基を保有するPEGポリマーが使用され得る。分子量10kDaから80kDaのPEGポリマーを使用することができる。
【0036】
デンドリマー複合体は、複数のデンドリマーを含む。例えば、デンドリマー複合体は、第3のデンドリマーを含み;ここで第3の-デンドリマーは、少なくとも1つの他のデンドリマーと複合体化される。さらに、第3の薬剤は、第3のデンドリマーと複合体化することができる。別の実施形態では、第1および第2のデンドリマーは、第3のデンドリマーに各々複合体化され、ここで、第1および第2のデンドリマーはPAMAMデンドリマーであり、第3のデンドリマーはPOPAMデンドリマーである。追加のデンドリマーは、本発明の趣旨から逸脱することなく組み込むことができる。複数のデンドリマーが利用される場合、複数の薬剤も組み込むことができる。これは、互いに複合体化されるデンドリマーの数によって限定されない。
【0037】
本明細書で使用される場合、「PAMAMデンドリマー」という用語は、アミドアミンビルディングブロックとともに異なるコアを含有することができるポリ(アミドアミン)デンドリマーを意味する。それらを作製するための方法は当業者に公知であり、一般に、中心開始剤コアの周囲に樹状β-アラニン単位の同心シェル(世代)を生成する2ステップ繰り返し反応順序を伴う。このPAMAMコア-シェル構築物は、添加シェル(世代)の関数として直径が直線的に成長する。他方、表面基は、樹状分枝形成の数学に従って各世代で指数関数的に増幅する。それらは、5個の異なるコア型および10個の官能表面基を有する世代G0~10において利用可能である。デンドリマー-分岐ポリマーは、ポリアミドアミン(PAMAM)、ポリグリセロール、ポリエステル、ポリエーテル、ポリリシンまたはポリエチレングリコール(PEG)、ポリペプチドのデンドリマーからなっていてよい。
【0038】
一部の実施形態によると、使用されるPAMAMデンドリマーは、第4世代デンドリマーまたはそれ以上であってよく、ヒドロキシル基は、それらの官能表面基に付着されている。多腕PEGポリマーは、スルフヒドリルまたはチオピリジン末端基を保有する2個およびそれより多くの分枝を有するポリエチレングリコールを含むが;しかしながら、実施形態はこのクラスに限定されず、スクシンイミジルまたはマレイミド末端など他の末端基を保有するPEGポリマーが使用され得る。分子量10kDaから80kDaのPEGポリマーを使用することができる。
【0039】
一部の実施形態では、デンドリマーはナノ粒子形態であり、国際特許公開第WO2009/046446号、PCT/US2015/028386、PCT/US2015/045112、PCT/US2015/045104、および米国特許第8,889,101号に詳細に記載されている。
1.デンドリマー-NAC(D-NAC)の調製
【0040】
下記は、リンカーとしてN-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)を使用して、N-アセチルシステインをアミン末端第4世代PAMAMデンドリマー(PAMAM-NH)にコンジュゲートするための合成スキームである。
【0041】
N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)の合成は、2ステップ手技によって行われる、スキーム1。最初に、3-メルカプトプロピオン酸は、2,2’-ジピリジルジスルフィドとのチオール-ジスルフィド交換によって反応されることで、2-カルボキシエチル2-ピリジルジスルフィドを与える。アミン末端デンドリマーをSPDPに連結するのを容易にするため、スクシンイミド基は、2-カルボキシエチル2-ピリジルジスルフィドと反応されることで、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミドおよび4-ジメチルアミノピリジンを使用することによるN-ヒドロキシスクシンイミドとのエステル化によってN-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネートを得る。
【化1】
【0042】
スルフヒドリル-反応性基を導入するため、PAMAM-NHデンドリマーは、ヘテロ二官能性クロスリンカーSPDPと反応される、スキーム2。SPDPのN-スクシンイミジル活性化エステルは末端第1級アミンにカップリングすることで、アミド連結2-ピリジルジチオプロパノイル(PDP)基が得られる、スキーム2。SPDPとの反応後、PAMAM-NH-PDPは、RP-HPLCを使用して分析されることで、SPDPがデンドリマーと反応する程度を決定することができる。
【化2】
【0043】
別の実施形態では、下記のスキーム3に記載されている合成経路は、D-NACをピリジルジチオ(PDP)官能化デンドリマー(化合物3)にまで合成するために使用することができる。化合物3は次いで、DMSO中のNACと終夜室温で反応されることで、D-NAC(化合物5)を得る。
【化3】
2.デンドリマー-PEG-バルプロ酸コンジュゲート(D-VPA)の調製
【0044】
初期に、バルプロ酸はチオール-反応性基と官能化される。(CHO-の3つの反復単位を有する短いPEG-SHは、スキーム4に示されている通りのカップリング試薬としてDCCを使用して、バルプロ酸と反応される。得られた粗PEG-VPAは、カラムクロマトグラフィーによって精製され、プロトンNMRによって特徴付けられる。NMRスペクトルにおいて、PEG-VPAの形成が確認された3.65ppmから4.25ppmへの、PEGのOH基に隣接するCHプロトンのピークの下方シフトがあった。チオール基は酸官能性と反応することに感受性であり得るが、NMRスペクトルは、PEGのチオール基に隣接するCHプロトンに属するピークの任意の下向きシフトを示さなかった。これは、チオール基がチオール反応性官能化デンドリマーと自由に反応することを示唆する。
【化4】
【0045】
PEG-VPAをPAMAM-OHにコンジュゲートするため、ジスルフィド結合はデンドリマーとバルプロ酸との間に導入される、スキーム5。最初に、デンドリマーは、デンドリマーをフルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)保護γ-アミノ酪酸(GABA)と反応させることによって、二官能性デンドリマー(化合物1)に変換される。二官能性デンドリマーへのPEG-VPAのコンジュゲーションは2ステッププロセスを伴い:第1のステップは、アミン官能化二官能性デンドリマー(化合物1)とN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオネート(SPDP)との反応であり、第2のステップは、チオール官能化バルプロ酸をコンジュゲートさせることを伴う。SPDPは、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)の存在下で中間体(化合物2)と反応されることで、ピリジルジチオ(PDP)官能化デンドリマー(化合物3)を得る。
【化5】
【0046】
これはその場反応プロセスであるが、構造はH NMRによって確立された。スペクトルにおいて、ピリジル基の芳香族プロトンについて6.7から7.6ppmの間の新たなピークは、生成物の形成を確認した。ピリジル基の数およびGABAリンカーの数は同じであると検証されており、このことは、アミン基の大部分がSPDPと反応したことを示す。これは、デンドリマーへの薬物のコンジュゲーションについて鍵となるステップであるので、アミン基当たりのSPDPのモル当量の使用および反応に必要とされる時間は立証された。最終的に、PEG-VPAは、その場でPDP官能化デンドリマーと反応されることで、デンドリマー-PEG-バルプロ酸(D-VPA)を得る。最終コンジュゲートの形成およびVPAの負荷はH NMRによって確認され、コンジュゲートの純度は逆相HPLCによって評価された。NMRスペクトルにおいて、VPAの脂肪族プロトンについて0.85から1.67ppmの間のマルチプレット、PEGのCHプロトンについて3.53から3.66ppmの間のマルチプレット、およびピリジル芳香族プロトンの非存在は、コンジュゲート形成を確認した。VPAの負荷は、プロトン積分方法を使用して推算された約21分子であり、これは、1~2個のアミン基が未反応のままであることを示唆する。HPLCチャートにおいて、D-VPAの溶出時間(17.2分)は、G4-OHについてのもの(9.5分)と異なり、コンジュゲートは、VPA(23.4分)およびPEG-VPA(39.2分)の測定可能な痕跡量がなく純粋であることを確認している。デンドリマーへのVPA負荷の百分率は約12%w/wであり、3つの異なるバッチにおいてグラム量を作製するための方法を立証している。
3.デンドリマー-4フェニルブチレート(D-PBA)の調製
【0047】
4-フェニル酪酸(PBA)を、ヒドロキシル官能化PAMAMデンドリマーに、pH不安定性エステル連結を介してコンジュゲートした。プロピオニルリンカーをスペーサーとして利用することで、デンドリマー表面上に薬物分子のための十分な空間を提供し、かつそれらの放出を容易にした。リンカーの付着は、エステル化反応にも基づいているので、BOC基保護/脱保護戦略に従ってPBA分子を修飾し、次いで、デンドリマー表面へのコンジュゲーションを第4および第6世代のPAMAMデンドリマーの両方について行った(スキーム6)。
【0048】
PBAは、その中和形態において、高度に疎水性および水不溶性であるので、薬物コンジュゲーション反応についての原料比を低く保持することで、改善された薬効性を得るという狙いのために、水溶性であり、かつ同じデンドリマー分子に付着されている複数の薬物分子に関して十分な多価性を有するコンジュゲートを得た。
【化6】
4.2種の薬物:NAC-デンドリマー-PBAを含有するハイブリッドデンドリマー薬物コンジュゲートの調製((G4)-NAC&PBA)
【0049】
一部の実施形態では、2つまたはそれよりも多い異なるリンカーを介して2種またはそれよりも多い異なる薬物とコンジュゲートされたデンドリマーが使用される。例として、2つの異なるリンカーとともに2種の異なる薬物を有するデンドリマーコンジュゲートを、第4世代PAMAMデンドリマーへのPBAおよびNAC薬物分子の逐次付着によって首尾よく合成した。スキーム7は、D-NAC&PBAコンジュゲートを得るための反応ステップを表している。
【0050】
両方の薬物分子およびリンカーに対する官能基の性質に基づき、プロピオニルリンカーを含有する第1のピリジルジスルフィド(PDS)をデンドリマーに、エステル化反応を介して付着させた。次いで、第2のステップとして、すでにPBAコンジュゲートされたPBA-リンカー(脱保護されている)をデンドリマー上のヒドロキシルと、エステル結合を介する反応の同じ型を用いて反応させることで、その後にNAC分子上のカルボン酸基に干渉しなかった。最後に、デンドリマー上のPDS単位をNAC分子と置き換えることで、ジスルフィド交換反応を介してジスルフィド結合を形成した。全ての中間体を、全合成経路の各ステップにて、DMF上での透析およびジエチルエーテル中の沈殿の両方を介して精製することで、最終コンジュゲートをその純粋な形態で与えた。
【化7】
5.デンドリマー-ベンザフィブレート(D-BEZA)の調製
【0051】
ベンザフィブレート(BEZA)をヒドロキシル官能化PAMAMデンドリマーに、pH不安定性エステル連結を介してコンジュゲートした。D-PBAコンジュゲートの合成におけるのと同じ戦略を、ベンザフィブレートPAMAMコンジュゲートの合成に適用させた。このコンジュゲーションは、逐次エステル化反応のために同じBOC基保護/脱保護戦略に依存することで、最初にリンカーをベンザフィブレートに付着させ、次いで薬物-リンカー化合物をデンドリマー表面にコンジュゲートする。同じプロピオニルリンカーをスペーサーとして利用することで、デンドリマー表面上に薬物分子のための十分な空間を提供し、それらの放出を容易にした。コンジュゲートとベンザフィブレートとの合成を、第4および第6世代のPAMAMデンドリマーの両方に行った(スキーム8)。
【化8】
B.カップリング剤およびスペーサー
【0052】
デンドリマー複合体は、デンドリマーまたは多腕PEGにコンジュゲートまたは付着されている治療活性薬剤または化合物(以下「薬剤」)で形成することができる。付着は、薬剤とデンドリマーとの間にジスルフィド架橋を提供する適切なスペーサーを介して生じることができる。デンドリマー複合体は、身体に見出される還元条件下で、チオール交換反応によってin vivoで薬剤を急速に放出できる。
【0053】
「スペーサー」という用語は、本明細書で使用される場合、治療活性薬剤をデンドリマーに連結するために使用される組成物を含むと意図される。スペーサーは、ポリマーおよび治療剤または画像化剤をブリッジするための、単一の化学実体または一緒に連結された2種もしくはそれより多い化学実体のいずれかであってよい。スペーサーは、スルフヒドリル、チオピリジン、スクシンイミジル、マレイミド、ビニルスルホンおよびカーボネート末端を有する任意の小さい化学実体、ペプチドまたはポリマーを含むことができる。
【0054】
スペーサーは、スルフヒドリル、チオピリジン、スクシンイミジル、マレイミド、ビニルスルホンおよびカーボネート基を末端とする化合物のクラスの中から選択することができる。スペーサーは、チオピリジン末端化合物、例えばジチオジピリジン、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエートLC-SPDPまたはスルホ-LC-SPDPを含むことができる。スペーサーはペプチドを含むこともでき、ここでペプチドは、スルフヒドリル基を本質的に有する線状または環状であり、例えばグルタチオン、ホモシステイン、システインおよびその誘導体、arg-gly-asp-cys(RGDC)、シクロ(Arg-Gly-Asp-d-Phe-Cys)(c(RGDfC))、シクロ(Arg-Gly-Asp-D-Tyr-Cys)、シクロ(Arg-Ala-Asp-d-Tyr-Cys)である。スペーサーは、メルカプト酸誘導体、例えば3メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、4メルカプト酪酸、チオラン-2-オン、6メルカプトヘキサン酸、5メルカプト吉草酸、ならびに他のメルカプト誘導体、例えば2メルカプトエタノールおよび2メルカプトエチルアミンであってよい。スペーサーは、チオサリチル酸およびその誘導体、(4-スクシンイミジルオキシカルボニル-メチル-α-2-ピリジルチオ)トルエン、(3-[2-ピリジチオ]プロピオニルヒドラジドであってよい。スペーサーはマレイミド末端を有することができ、ここでスペーサーは、ポリマーまたは小さい化学実体、例えばビス-マレイミドジエチレングリコールおよびビス-マレイミドトリエチレングリコール、ビス-マレイミドエタン、ビスマレイミドへキサンを含む。スペーサーは、1,6-ヘキサン-ビス-ビニルスルホンなどのビニルスルホンを含むことができる。スペーサーは、チオグルコースなどのチオグリコシドを含むことができる。スペーサーは還元タンパク質、例えばウシ血清アルブミンおよびヒト血清アルブミン、ジスルフィド結合を形成できる任意のチオール末端化合物であってよい。スペーサーは、マレイミド、スクシンイミジルおよびチオール末端を有するポリエチレングリコールを含むことができる。
【0055】
一部の実施形態では、2つまたはそれよりも多い異なるスペーサーは、同じデンドリマー分子上で使用されることで、2つまたはそれよりも多い異なる薬物とコンジュゲートする。
C.治療、予防および診断剤
【0056】
「デンドリマー複合体」という用語は、デンドリマーと治療的に、予防的におよび/または診断的に活性な薬剤との組合せを指す。デンドリマーは標的化剤を含むこともできるが、実施例によって実証されている通り、これらは損傷組織への送達に必要とされない。これらのデンドリマー複合体は、in vivoで見出される還元条件下で細胞内に薬物を優先的に放出できるPAMAMデンドリマーまたは多腕PEGに付着またはコンジュゲートされる1種または複数の薬剤を含む。デンドリマー複合体は、i.v.注射によって投与される場合、特に脊髄の灰白質において、正常細胞よりも傷害または疾患ニューロンに優先的に局在化することができる。デンドリマー複合体は、炎症性障害における、特にペルオキシソーム疾患および白質ジストロフィーにおける治療薬の標的化送達にも有用である。
【0057】
薬剤は、共有結合しているか、または分子内に分散もしくは封入されているかのいずれであってよい。デンドリマーは、好ましくは、カルボキシル、ヒドロキシル、またはアミン末端を有するPAMAMデンドリマー世代4から6である。PEGポリマーは、2個またはそれよりも多い腕および10kDaから80kDaの分子量を有する星形状化ポリマーである。PEGポリマーは、スルフヒドリル、チオピリジン、スクシンイミジル、またはマレイミド末端を有する。デンドリマーは、ジスルフィド、エステルまたはアミド結合で終端するスペーサーを介して薬剤に連結される。
【0058】
一部の実施形態では、デンドリマーと共に投与される場合、活性薬剤の投与量をより低くでき、投与の数を低減することができ、またはそれらを組み合わせることができ、それにより、デンドリマーの非存在下で活性薬剤を投与することと比較して、同じまたはそれよりも大きい治療効果を達成できると考えられる。そのようにすることによって、一部の実施形態では、それ以外の方法でそれを必要とする対象に投与することが実施不可能である薬剤の送達が可能になり、その理由は、(1)薬剤が、デンドリマーなしで投与される場合、治療効果を達成するのに必要とされる用量が極端に多いため、(2)薬剤が、単独で投与され標的化されていない場合、正常または健康な細胞にとって極端に有害であるため、(3)活性薬剤が、単独であり標的化されていない場合に治療的に効力のある有効量では、患部組織を標的化しないため、または(4)それらの組合せである。
【0059】
一部の実施形態では、2種またはそれよりも多い活性薬剤が、それを必要とする対象に投与される。2種またはそれよりも多い活性薬剤が、同じまたは異なるデンドリマーに共有結合していてもよいし、または分子内に分散もしくは封入されていてもよい。2種またはそれよりも多いデンドリマー組成物が利用される場合、デンドリマーは同じまたは異なる組成物であってよい。さらに、一部の実施形態では、1種または複数の活性薬剤が、デンドリマーに共有結合しているか、または分子内に分散もしくは封入されており、一方で1種または複数の他の活性薬剤が、デンドリマーに共有結合したりまたは分子内に分散もしくは封入されたりすることなく、別の適切な手段によって送達される。
【0060】
ペルオキシソーム疾患または白質ジストロフィー、例えばALDを処置するためのデンドリマーおよび活性薬剤の有効量を含めた組成物および製剤が提供される。好ましい実施形態では、治療剤は、酸化ストレス、神経炎症、長鎖脂肪酸産生、運動機能の喪失またはその組合せを低減、防止またはそれ以外の方式で軽減する;ペルオキシソーム増殖、極長鎖脂肪酸除去、運動機能、ABCD2発現、ペルオキシソーム障害もしくは白質ジストロフィーにおける突然変異酵素もしくは欠損酵素の野生型コピーの発現、またはその任意の組合せを促進、増加または改善するものである。好ましい活性薬剤は、以下に限定されないが、N-アセチルシステイン、4-フェニルブチレート、ベンザフィブレート、甲状腺ホルモン(T3)、ソベチロム、ピオグリタゾン、レスベラトロール、VBP15、ビタミンE、ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)およびアリールスルファターゼA(ARSA)を含む。以下に限定されないが、抗炎症剤および画像化剤を含めた他の適切な活性薬剤も、より詳細に下記で考察されている。
1.ペルオキシソーム疾患および白質ジストロフィーの処置のための好ましい薬剤
【0061】
好ましい活性薬剤は、以下に限定されないが、極長鎖脂肪酸産生を防止または低減する薬剤、ペルオキシソーム増殖を促進する薬剤、極長鎖脂肪酸除去を促進する薬剤(例えば、4-フェニルブチレート)、ABCD2発現を増加させる薬剤(例えば、ベンザフィブレート(benzafibrate))、甲状腺ホルモン類似体(例えば、ソベチロム)、酵素(例えばガラクトシルセラミダーゼおよびアリールスルファターゼA、アスパルトアシラーゼ)、神経炎症を低減する薬剤(例えば、N-アセチルシステイン、ピオグリタゾン、ビタミンE)、および遺伝子転写または翻訳に干渉するRNAオリゴヌクレオチドを含む。特に好ましい実施形態では、薬剤は、N-アセチルシステイン、4-フェニルブチレート、ベンザフィブレート、甲状腺ホルモン(T3)、ソベチロム、ピオグリタゾン、レスベラトロール、VBP15、ビタミンE、ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)、アスパルトアシラーゼ(ASPA)またはアリールスルファターゼA(ARSA)である。
a.N-アセチルシステイン
【0062】
N-アセチルシステインまたはN-アセチル-L-システイン(NAC)としても知られているアセチルシステインは、パラセタモール(アセトアミノフェン)過量を処置するために使用される薬物療法であり、疾患は、嚢胞性線維症および慢性閉塞性肺疾患を含む。多数の製剤が当技術分野において公知であり、静脈内を含めた多数の経路によって、口によって投与されてきたか、またはミストとして吸入されてきた。多数の市販の製剤も利用可能であり、例えば、米国特許第8,148,356号、第8,399,445号、第8,653,061号、第8,722,738号において考察されているACETADOTE(登録商標)を含む。
【0063】
N-アセチルシステイン(NAC)を受けていた進行型ccALDを有する3人の男児のパイロット研究は、MRI進行の減速およびMRIに対するガドリニウム造影増強の反転、疾患進行の高度に予測的なマーカーを示した(Tolarら、Bone Marrow Transplant、39巻(4号)、211~215頁(2007年))。著者は、NACの抗酸化効果がccALDにおいて有益であり得ると結論付けた。ミクログリア活性化および病態がALDにおいて鍵となるプレーヤーであることを考慮すると、かつ酸化ストレスおよびミトコンドリア機能不全の証拠もあるので、ミクログリアへのNACの標的化送達の利用は、ccALDおよびacALDにおける後の疾患段階中でさえ、疾患進行を阻止する有効なやり方である。acALDは、現存の治療がない致死的な成人疾患であるので、それは、デンドリマー-N-アセチルシステインのヒトトライアルに特に適切であり得る。また、もはやHSCTにふさわしくないccALDの進行した段階を有する小児は、治療的介入の必要性が高い。
【0064】
Tolarらにおける研究対象の男児は、140mg/kg/日で静脈内に(i.v.)、続いて70mg/kgで1日4回経口的に、NACで処置された。デンドリマーと共に投与される場合、NACの投与量をより低くでき、投与の数を低減することができ、またはそれらを組み合わせることができ、それにより、デンドリマーの非存在下でNACを投与することと比較して同じまたはより大きな治療効果を達成することができる。
b.4-フェニルブチレート
【0065】
活性薬剤は、4-フェニルブチレートまたは4-フェニル酪酸であってよい。尿素サイクル障害の処置に適応されているフェニル酪酸ナトリウム(4-フェニルブチレートナトリウム塩)の市販の製剤は、BUPHENYL(登録商標)(フェニル酪酸ナトリウム)(Horizon Pharma)、AMMONAPS(登録商標)(Swedish Orphan Biovitrum International AB)、およびTRIBUTYRATE(登録商標)(Fyrlklovern Scandinavia AB)を含む。他の製剤は、例えば、RAVICTI(登録商標)(米国特許第5,968,979号、第8,404,215号、第8,642,012号、第9,095,559号に記載されている)を含む。臨床試験において、フェニル酪酸ナトリウムの1日用量は、20kg未満の体重の小児で450~600mg/kg/日、ならびに20kgを超える体重の小児、青年および成人で9.9~13.0g/m/日であった。
【0066】
X-ALD患者およびX-ALDノックアウトマウスの両方からの細胞の4-フェニルブチレート処置は、超長鎖脂肪酸のレベルの減少およびベータ酸化の増加;ペルオキシソームタンパク質ALDRPの発現の増加;ならびにペルオキシソーム増殖の誘発をもたらすことが示されている(Gondcailleら、The Journal of cell biology、169巻(1号):93~104頁(2005年))。ALDの処置のための臨床試験は、ヒトにおける非常に高い用量の必要性により追跡されていない。デンドリマーと共に投与される場合、4-フェニルブチレートの投与量をより低くでき、投与の数を低減することができ、またはそれらを組み合わせることができ、それにより、デンドリマーの非存在下で4-フェニルブチレートを投与することと比較して同じまたはより大きな治療効果を達成することができる。
c.ベンザフィブレート
【0067】
活性薬剤はベンザフィブレートであってよい。ベンザフィブレートは、高脂血症の処置のために使用されるフィブレート薬物であり、C型肝炎、タウオパチー(Dumontら、Human Molecular Genetics、21巻(23号):5091~5105頁(2012年))、およびがん(University of Birmingham.「Contraceptive, cholesterol-lowering drugs used to treat cancer.」 ScienceDaily、2015年5月14日;およびSouthamら、Cancer Research、2015年;DOI: 10.1158/0008~5472.CAN-15-0202)の処置における使用のために調査されてきた。高脂血症の処置のための市販のベンザフィブレート製剤は、とりわけ、BEZALIP(登録商標)(Actavis Group PTC ehf)を含む。
【0068】
ベンザフィブレートは、VLCFA合成に関与する酵素であるELOVL1を阻害することによってX-ALD線維芽細胞におけるVLCFAレベルを低減する(Engelenら、Journal of inherited metabolic disease、35巻(6号):1137~45頁(2012年))。しかしながら、臨床試験は、ALD患者における血漿VLCFAレベルを低減するのに失敗し、一方、低い血漿レベルだけが達成された(Engelenら、PloS one、7巻(7号):e41013(2012年))。デンドリマーを使用する患部組織への標的化送達は、ALDおよび他の白質ジストロフィーを有する対象においてベンザフィブレートの治療的有効性を増加させる。
d.甲状腺ホルモンおよび甲状腺ホルモン類似体
【0069】
活性薬剤は甲状腺ホルモンであってよい。好ましい実施形態では、ホルモンは、甲状腺ホルモントリヨードチロニン(T3)またはそのプロホルモンである。甲状腺ホルモントリヨードチロニン(T3)およびそのプロホルモンのチロキシン(T4)は、主に代謝の調節に関与する、甲状腺によって産生されるチロシン系ホルモンである。
【0070】
天然または合成のT3およびT4、ならびにその混合物は、当技術分野において公知であり、甲状腺機能低下を処置するために使用される。人気の市販の製剤は、レボチロキシン、チロキシン(T4)と化学的に同一である合成甲状腺ホルモン、および甲状腺ホルモン(T3)の合成形態であるリオチロニンを含む。
【0071】
T3は、その受容体TRβを介して、げっ歯類における肝臓ABCD2発現を誘発し、ABCD1ヌルマウスの線維芽細胞におけるVLCFAレベルを一時的に正常化することができる(Fourcadeら、Molecular pharmacology、63巻(6号):1296~303頁(2003年))。それでもなお、甲状腺ホルモンを用いる臨床試験は、それが発揮する全身性副作用により見込みが低い。甲状腺ホルモン類似体は現在調査中である。デンドリマーを用いる甲状腺ホルモンの投与は、全身的毒性が低減された標的化治療への道を提供する。
【0072】
一部の実施形態では、薬剤は甲状腺ホルモン類似体である。甲状腺ホルモン類似体は、甲状腺ホルモンまたは甲状腺の効果と同様の効果を生成する薬剤である。例示的な甲状腺ホルモン類似体は、以下に限定されないが、エプロチロームおよびソベチロムを含む。肝臓CYP7A1の発現を増加させる甲状腺ホルモン類似体は、MB07811、KB-141、T-0681、およびソベチロムを含む(Pedrelliら、World J Gastroenterol.、16巻(47号):5958~5964頁(2010年))。
【0073】
一部の実施形態では、活性薬剤はソベチロムである。ソベチロムは、抗高脂血症および抗アテローム硬化活性を有する甲状腺ホルモン受容体アイソフォームベータ-1肝臓選択的類似体である。動物モデルにおいて、ソベチロムは、血清脂質を低減し、コレステロールレベルを減少させ、排泄のために肝臓に戻るアテローム産生マクロファージからのコレステロールの逆輸送を促進するコレステロール逆輸送のステップを刺激した。ヒトにおいて、ソベチロムは、血漿LDLコレステロールを低下させ、血漿トリグリセリドを低減するが、その肝臓選択的活性は、多くの他の甲状腺模倣剤で見られる副作用を回避する助けになった。
e.ピオグリタゾン
【0074】
活性薬剤はピオグリタゾンであってよい。ピオグリタゾンは、糖尿病を処置するために使用されるチアゾリジンジオン(TZD)である。ピオグリタゾンは、核内受容体ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(PPAR-γ)、およびより少ない程度にPPAR-αを選択的に刺激する。(Gilliesら「Pioglitazone」、Drugs、60巻(2号):333~43頁(2000年);考察344~5頁doi:10.2165/00003495~200060020-00009. PMID 10983737.、Smithら、J Clin Pract Suppl、(121巻):13~8頁(2001年))。市販の製剤は、1日当たり15mg、30mgおよび45mgの用量で2型真性糖尿病を有する成人における血糖コントロールに適応されるActos(登録商標)(Takeda Pharmaceuticals U.S.A.,Inc.)を含む。
【0075】
ピオグリタゾンは、生物発生の主要調節因子のミトコンドリア含有量および発現を回復させること、タンパク質およびDNAへの酸化傷害をなくすこと、ならびにABCD1 KOマウスにおいてATPレベル、NAD+/NADH比、ピルビン酸キナーゼおよびグルタチオンレダクターゼ活性の点から生体エネルギー不全を反転させることが示された(Moratoら、Brain: a journal of neurology、136巻(8部):2432~43頁(2013年))。最も重要には、処置は、ABCD1 KOマウスにおける自発運動能力障害および軸索傷害を停止させた。
f.レスベラトロール
【0076】
活性薬剤は、レスベラトロール、例えばトランス-レスベラトロール、シス-レスベラトロール、トランス-レスベラトロール-3-O-β-グルコシド、またはシス-レスベラトロール-3-O-β-グルコシドであってよい。レスベラトロールは、天然フェノールの一種であるスチルベノイドであり、損傷に応答して、または細菌もしくは真菌に感染した場合に、いくつかの植物によって産生されるフィトアレキシンである(Fremount、Life Sciences、66巻(8号):663~673頁(2000年))。レスベラトロールは、抗加齢用途において、ならびに心疾患、がん、アルツハイマー病および糖尿病を処置するために調査されてきた。レスベラトロールはSirt1誘発剤であり、X-ALDマウスにおける酸化還元恒常性、ミトコンドリア呼吸、生体エネルギー不全、軸索変性および関連した自発運動能力障害を正常化することも示された(Moratoら、Cell Death and Differentiation、22巻:1742~1753頁(2015年))。一部のマウス研究において、レスベラトロール(RSV)(Orchid Chemicals&Pharmaceuticals Ltd、Chennai、India)(0.04%w/w)は、400mg/kg/日の用量を提供するためにDyets(Bethlehem、PA、USA)からのAIN-93G固形飼料中に混合された(Moratoら、Cell Death and Differentiation、22巻:1742~1753頁(2015年))。
【0077】
化合物は、栄養サプリメントの形態でヒト消費のために市販されている。U.S.において販売されている一部のレスベラトロールカプセルは、日本および中国のタデ植物Polygonum cuspidatumからの抽出物を含有するか、または赤ワインまたは赤ブドウ抽出物から作製される。多数のヒト用量が報告されてきており、25mgから5,000mgを範囲とする(Higdonら、「Resveratrol」、Linus Pauling Institute Micronutrient Information Center、2015年10月にアクセス)。
g.VBP15
【0078】
活性薬剤は、VBP15であってよい。VBP15は、ステロイド類似体の改変グルココルチコイドである。マウスにおける研究は、それが、副作用なく筋ジストロフィーを改善する抗炎症および膜安定剤であることを示し(Heierら、EMBO Mol Med.、5巻(10号):1569~1585頁(2013年)、Nagarajuら、「Delta 9-11 Compound, VBP15: Potential Therapy for DMD」2015年10月にアクセス)、2015年に、それは、筋ジストロフィーを処置することに関するフェーズIファースト・イン・ヒューマン臨床試験の対象であることが公表された(Olivas、「ReveraGen BioPharma Announces Start of Phase 1 Clinical Trial of VBP15 Dissociative Steroid Drug」、プレスリリース、2015年2月18日)。一部のマウス研究における投与量は、1日当たり5mg/kg、15mg/kg、30mg/kgおよび45mg/kgを含む。化合物は、白質ジストロフィーを処置するのにも有効であり得る。
h.エルカ酸
【0079】
活性薬剤はエルカ酸であってよい。エルカ酸は、シス立体配置において二重結合とともに、22炭素骨格、およびメチル末端から第9位を起点とする単一の二重結合を有する一価不飽和超長鎖脂肪酸である。それは、ニオイアラセイトウ種子中に多く、高エルカ酸ナタネ油中に20から54%、およびカラシナ油中に42%の含有量が報告されている。
【0080】
デンドリマーと共に投与される場合、エルカ酸の投与量をより低くでき、投与の数を低減することができ、またはそれらを組み合わせることができ、それにより、デンドリマーの非存在下でエルカ酸を投与することと比較して同じまたはより大きな治療効果を達成することができる。
i.ビタミンE
【0081】
活性薬剤はビタミンEであってよい。ビタミンEは、トコフェロールおよびトコトリエノールの両方を含む化合物群を指す。ビタミンEの多くの異なる形態のうち、γ-トコフェロールは、北アメリカの食餌中に見出される最も共通の形態である。γ-トコフェロールは、コーン油、大豆油、マーガリンおよびドレッシング中に見出すことができる。ビタミンEの最も生物学的に活性な形態であるα-トコフェロールは、食餌においてビタミンEの第2の最も共通の形態である。この変異型は、小麦胚芽油、ヒマワリ油およびベニバナ油中に最も豊富に見出すことができる。脂肪可溶性抗酸化剤として、それは、生物学的膜を介して、またはその脂質含有物がより反応性の脂質ラジカルと反応することによって酸化を受けることでより安定な生成物を形成する場合には脂肪を介して広がる反応性酸素種の増殖を中断する。
【0082】
デンドリマーと共に投与される場合、ビタミンEの投与量をより低くでき、投与の数を低減することができ、またはそれらを組み合わせることができ、それにより、デンドリマーの非存在下でビタミンEを投与することと比較して同じまたはより大きな治療効果を達成することができる。
j.補酵素Q10
【0083】
活性薬剤は補酵素Q10であってよい。それは、ユビキノン、ユビデカレノン、補酵素Qとしても知られており、時々CoQ10と省略される。それは1,4-ベンゾキノンであり、ここで、Qはキノン化学基を指し、10は、それの末尾におけるイソプレニル化学サブユニットの数を指す。この脂肪可溶性物質は、ビタミンに似ており、大部分の真核細胞中、主にミトコンドリア中に存在する。それは電子輸送鎖の構成成分であり、ATPの形態でエネルギーを発生させる好気性細胞呼吸に関与する。デンドリマーと共に投与される場合、補酵素Q10の投与量をより低くでき、投与の数を低減することができ、またはそれらを組み合わせることができ、それにより、デンドリマーの非存在下で補酵素Q10を投与することと比較して同じまたはより大きな治療効果を達成することができる。
k.ビオチン
【0084】
活性薬剤はビオチンであってよい。ビオチンは、ビタミンB7とも呼ばれ、以前にはビタミンHまたは補酵素Rとして知られている水溶性Bビタミンである。それは、テトラヒドロチオフェン環と縮合されたウレイド環で構成されている。吉草酸置換基が、テトラヒドロチオフェン環の炭素原子の1個に付着されている。ビオチンは、脂肪酸、イソロイシンおよびバリンの合成ならびに糖新生に関与するカルボキシラーゼ酵素のための補酵素である。デンドリマーと共に投与される場合、ビオチンの投与量をより低くでき、投与の数を低減することができ、またはそれらを組み合わせることができ、それにより、デンドリマーの非存在下でビオチンを投与することと比較して同じまたはより大きな治療効果を達成することができる。
l.クレマスチン
【0085】
活性薬剤はクレマスチンであってよい。メクラスチンとしても知られているクレマスチンは、抗ヒスタミン薬および抗コリン薬である。フマル酸クレマスチンは、抗ヒスタミン化合物のベンズヒドリルエーテル基に属する。化学名は、(+)-2-[-2-[(p-クロロ-α-メチル-α-フェニルベンジル)オキシ]エチル]-1-メチルピロリジン水素フマレートである。デンドリマーと共に投与される場合、クレマスチンの投与量をより低くでき、投与の数を低減することができ、またはそれらを組み合わせることができ、それにより、デンドリマーの非存在下でクレマスチンを投与することと比較して同じまたはより大きな治療効果を達成することができる。
m.酵素
【0086】
一部の実施形態では、活性薬剤は、酵素、特に、その突然変異、欠損症、または他の調節不全がペルオキシソーム疾患または白質ジストロフィーと関連している酵素である。好ましい実施形態では、酵素は、ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)、アスパルトアシラーゼ(ASPA)またはアリールスルファターゼA(ARSA)である。GALCは、ガラクトシルセラミドおよびサイコシンを含めたガラクトリピドを加水分解する。ガラクトシルセラミドは、ミエリンの重要な構成成分である。サイコシンはミエリンの産生中に形成し、次いで、それはガラクトシルセラミダーゼの助けで分解する。クラッベ病は、GALC遺伝子における突然変異(70種を超えて同定されている)に関連する。ARSAは、スルファチド、特にセレブロシド3-サルフェートをセレブロシドおよびサルフェートに分解する酵素である。ARSAの欠損症は、異染性白質ジストロフィーに関連する。アスパルトアシラーゼ(ASPA)は、N-アセチルアスパラギン酸(NAA)の脱アセチル化を触媒することでアセテートおよびL-アスパルテートを生成する。NAAは脳中に高濃度で生じ、その加水分解NAAは、無傷の白質の維持において重大な役割を果たす。カナバン病は、NAAの蓄積および大脳白質の海綿状変性症をもたらすASPAにおける突然変異に関連する。薬剤は、タンパク質、またはタンパク質をコード化する核酸、例えばDNA発現ベクターまたはin vitro転写mRNAであってよい。
2.他の代表的な薬剤
【0087】
他の代表的な治療剤(プロドラッグを含める)、予防剤または診断剤も提供される。薬剤は、ペプチド、タンパク質、炭水化物、ヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチド、小分子またはその組合せであってよい。核酸は、タンパク質をコード化するオリゴヌクレオチド、例えば、DNA発現カセットまたはmRNAであってよい。
【0088】
例示的な治療剤は、抗炎症薬、抗増殖薬、化学療法薬、血管拡張薬および抗感染剤を含む。抗生物質は、ペニシリンおよびアンピシリンなどのβ-ラクタム、セフロキシム、セファクロル、セファレキシン、セファドロキシル(cephydroxil)、セフポドキシム(cepfodoxime)およびプロキセチルなどのセファロスポリン、ドキシサイクリンおよびミノサイクリンなどのテトラサイクリン抗生物質、アジスロマイシン、エリスロマイシン、ラパマイシンおよびクラリスロマイシンなどのマクロライド(microlide)抗生物質、シプロフロキサシン、エンロフロキサシン、オフロキサシン、ガチフロキサシン、レボフロキサシンおよびノルフロキサシンなどのフルオロキノロン、トブラマイシン、コリスチン、またはアズトレオナム、ならびにエリスロマイシン、アジスロマイシンまたはクラリスロマイシンなど、消炎活性を有することが知られている抗生物質を含む。好ましい抗炎症薬は、N-アセチルシステインを含めた抗酸化薬である。好ましいNSAIDSは、メフェナム酸、アスピリン、ジフルニサル、サルサレート、イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、ケトプロフェン、デクスケトプロフェン(Deacketoprofen)、フルルビプロフェン、オキサプロジン、ロキソプロフェン、インドメタシン、スリンダク、エトドラク、ケトロラク、ジクロフェナク、ナブメトン、ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカム、イソキシカム、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、トルフェナム酸、セレコキシブ(elecoxib)、ロフェコキシブ、バルデコキシブ、パレコキシブ、ルミラコキシブ、エトリコキシブ、フィロコキシブ、スルホンアニリド、ニメスリド、ニフルム酸およびリコフェロンを含む。
【0089】
代表的な小分子は、ステロイド、例えばメチルプレドニゾン、デキサメタゾン、COX-2阻害剤を含めた非ステロイド性抗炎症剤、副腎皮質ステロイド抗炎症剤、金化合物抗炎症剤、免疫抑制剤、抗炎症剤および血管新生抑制剤、抗興奮毒性剤、例えばバルプロ酸、D-アミノホスホノバレレート、D-アミノホスホノヘプタノエート、グルタメート形成/放出阻害剤、バクロフェン、NMDA受容体アンタゴニスト、サリチレート抗炎症剤、ラニビズマブ、アフリベルセプトを含めた抗VEGF剤、ならびにラパマイシンを含む。他の抗炎症薬は、非ステロイド薬、例えばインドメタシン、アスピリン、アセトアミノフェン、ジクロフェナクナトリウムおよびイブプロフェンを含む。副腎皮質ステロイドは、フルオシノロンアセトニドおよびメチルプレドニゾロンであってよい。ペプチド薬はストレプチドキナーゼ(streptidokinase)であってよい。
【0090】
一部の実施形態では、分子は、例えば、ダクリズマブ、ベバシズマブ(Avastin(登録商標))、ラニビズマブ(Lucentis(登録商標))、バシリキシマブ、ラニビズマブを含めた抗体、およびペガプタニブナトリウム、またはSN50のようなペプチド、ならびにNFのアンタゴニストを含み得る。
【0091】
代表的なオリゴヌクレオチドは、siRNA、microRNA、DNA、およびRNAを含む。治療剤は、アミンまたはヒドロキシル末端を有するPAMAMデンドリマーであってよい。
【0092】
例示的な診断剤は、常磁性分子、蛍光性化合物、磁性分子、および放射性核種、X線画像化剤、および造影媒体を含む。これらは、前述のもので標識されているリガンドもしくは抗体あってもよいか、または当業者に公知の方法によって検出可能である標識リガンドもしくは抗体に結合してもよい。
【0093】
例示的な診断剤は、染料、蛍光染料、近赤外染料、SPECT画像化剤、PET画像化剤および放射性同位体を含む。代表的な染料は、カルボシアニン、インドカルボシアニン、オキサカルボシアニン、ツイカルボシアニン(thuicarbocyanine)およびメロシアニン、ポリメチン、クマリン、ローダミン、キサンテン、フルオレセイン、ホウ素ジピロメタン(BODIPY)、Cy5、Cy5.5、Cy7、VivoTag-680、VivoTag-S680、VivoTag-S750、AlexaFluor660、AlexaFluor680、AlexaFluor700、AlexaFluor750、AlexaFluor790、Dy677、Dy676、Dy682、Dy752、Dy780、DyLight547、Dylight647、HiLyte Fluor 647、HiLyte Fluor 680、HiLyte Fluor 750、IRDye 800CW、IRDye 800RS、IRDye 700DX、ADS780WS、ADS830WS、ならびにADS832WSを含む。
【0094】
代表的なSPECTまたはPET画像化剤は、キレーター、例えばジ-エチレントリ-アミンペンタ-酢酸(DTPA)、1,4,7,10-テトラ-アザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、ジ-アミンジチオール、活性化メルカプトアセチル-グリシル-グリシル-グリシン(gylcine)(MAG3)、およびヒドラジドニコチンアミド(HYNIC)を含む。
【0095】
代表的な同位体は、Tc-94m、Tc-99m、In-111、Ga-67、Ga-68、Gd3+、Y-86、Y-90、Lu-177、Re-186、Re-188、Cu-64、Cu-67、Co-55、Co-57、F-18、Sc-47、Ac-225、Bi-213、Bi-212、Pb-212、Sm-153、Ho-166およびDy-i66を含む。
【0096】
標的化する部分は、葉酸、線状または環状のいずれかのRGDペプチド、TATペプチド、LHRHおよびBH3を含む。
【0097】
生理活性化合物または治療活性薬剤に連結されたデンドリマー複合体は、標的化すること、患部での局在化、薬物を放出すること、および画像化目的を含めて、いくつかの機能を行うために使用することができる。デンドリマー複合体は、標的化する部分の有無にかかわらずタグ化することができることで、デンドリマーと薬剤または画像化剤との間のジスルフィド結合はスペーサーまたはリンカー分子を介して形成される。
D.デバイスおよび製剤
【0098】
デンドリマーは、硬膜下、静脈内、くも膜下腔内、脳室内、動脈内、羊水内、腹腔内または皮下経路によって非経口的に投与することができる。
【0099】
本発明において使用されている担体または希釈剤は、固体製剤のための固体担体もしくは希釈剤、液体製剤のための液体担体もしくは希釈剤、またはその混合物であってよい。
【0100】
液体製剤について、薬学的に許容される担体は、例えば、水性もしくは非水性溶液、懸濁液、エマルジョンまたは油であってよい。非経口ビヒクル(皮下、静脈内、動脈内または筋肉内の注射用)は、例えば、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲルおよび固定油を含む。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性担体は、例えば、水、アルコール溶液/水溶液、シクロデキストリン、エマルジョンまたは懸濁液を含み、生理食塩水および緩衝化媒体も含まれる。デンドリマーは、エマルジョン、例えば、油中水中で投与することもできる。油の例は、石油、動物、植物または合成起源のもの、例えば、落花生油、大豆油、鉱物油、オリーブ油、ヒマワリ油、魚肝油、ゴマ油、綿実油、コーン油、オリーブ、ワセリンおよびミネラルである。非経口製剤における使用のための適切な脂肪酸は、例えば、オレイン酸、ステアリン酸およびイソステアリン酸を含む。オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルは、適切な脂肪酸エステルの例である。
【0101】
非経口投与に適切な製剤は、抗酸化剤、緩衝液、静菌薬、ならびに意図されるレシピエントの血液と等張の製剤にする溶質、ならびに懸濁化剤、可溶化剤、増粘化剤、安定剤および保存料を含むことができる水性および非水性滅菌懸濁液を含むことができる。静脈内ビヒクルは、流体および栄養補充液、電解質補充液、例えばリンゲルデキストロースに基づくものを含むことができる。一般に、水、生理食塩水、水性デキストロースおよび関連糖溶液、ならびにグリコール、例えばプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールは、特に注射可能な溶液のために好ましい液体担体である。
【0102】
注射可能な組成物のための注射可能な医薬担体は、当業者に周知である(例えば、Pharmaceutics and Pharmacy Practice、J.B. Lippincott Company、Philadelphia、PA、BankerおよびChalmers編、238~250頁(1982年)、およびASHP Handbook on Injectable Drugs、Trissel、第15版、622~630頁(2009年)を参照されたい)。
【0103】
対流増強送達(「CED」)のための製剤は、低分子量の塩(sales)および糖、例えばマンニトールの溶液を含む。
III.使用の方法
【0104】
PCT/US2015/045112およびKannanら、Sci Transl Med.、4巻(130号):130ra46頁(2012年)doi:10.1126/scitranslmed.3003162は、ポリ(アミドアミン)デンドリマーが、中枢神経系(CNS)における炎症を標的化し、脳性麻痺のウサギモデルにおいて機能改善を生成するための薬物を送達することを実証している。下記の実施例は、デンドリマーの全身投与が、炎症細胞におけるさらなる選択的局在化とともに、ALDを有するマウスにおいて脊髄の損傷部域中のデンドリマーの著しい蓄積にも至ることを示す。これらのマウスにおける損傷脳脊髄中のデンドリマーのこの選択的局在化は、以下に限定されないが、ALDを含めたペルオキシソーム障害および白質ジストロフィーの処置についての暗示を有する。
A.処置の方法
【0105】
それを必要とする対象を処置する方法が提供される。代表的には、方法は、デンドリマーと1種または複数の治療的もしくは予防的および/または診断的活性薬剤との組合せを含めたデンドリマー複合体の有効量で、それを必要とする対象に投与することを含む。デンドリマーは標的化剤を含むこともできるが、実施例によって実証されている通り、これらは、脊髄における損傷組織への送達に必要とされない。上記で考察されている通り、デンドリマー複合体は、in vivoに見出される還元条件下で細胞内に薬物を優先的に放出できるPAMAMデンドリマーまたは多腕PEGに付着またはコンジュゲートされる薬剤を含む。薬剤は、共有結合されるか、または分子内に分散もしくは封入されることのいずれであってもよい。対象に投与されるデンドリマー複合体の量は、対照、例えば処置がない対象またはデンドリマーがなく活性薬剤単独で処置された対象と比較して、処置されるべき疾患または障害の1つまたは複数の臨床的または分子的症状を低減、防止またはそれ以外の方式で軽減するための有効量であってよい。一部の実施形態では、デンドリマー複合体の量は、対照、例えば処置がない対象またはデンドリマーがなく活性薬剤単独で処置された対象と比較して、1つまたは複数の所望の薬理学的および/または生理学的効果を低減、防止またはそれ以外の方式で軽減するのに有効である。特定の実施形態では、デンドリマー複合体は、酸化ストレス、神経炎症、長鎖脂肪酸産生、運動機能の喪失またはその組合せを低減、防止またはそれ以外の方式で軽減する;ペルオキシソーム増殖、長鎖脂肪酸除去、運動機能、ABCD2発現、ペルオキシソーム障害もしくは白質ジストロフィーにおいて突然変異したもしくは欠損の酵素の野生型コピーの発現、またはその任意の組合せを促進、増加または改善するための有効量で、それを必要とする対象に投与される。
【0106】
上記で具体的に引用されたものに加えて、他の適切な生理学的および分子的な効果および症状は、一般に、ペルオキシソーム障害もしくは白質ジストロフィーに関連したもの、またはより詳細に下記で考察されているもしくはそうでなければ当技術分野において公知であるものを含めて特定の疾患または状態に関連したものであってよい。一部の実施形態では、対象は、1つもしくは複数の分子的もしくは臨床的症状を有するが、ペルオキシソーム障害もしくは白質ジストロフィーを診断されていないか、または肯定的診断に対する臨床的要件に合わない。したがって、活性薬剤を含めたデンドリマー複合体の有効量を対象に投与することによって、それを必要とする対象における本明細書において開示されている開示の分子的および臨床的症状の各々を改善する方法も、各々具体的に開示されている。
【0107】
より詳細に下記で考察されている疾患および障害の一部は、幼児期または小児期に顕在化し、小児期死亡にさえ至り得る。そのため、一部の実施形態では、対象は、幼児または小児である。一部の実施形態では、幼児はおよそ出生時から約2歳の間である。一部の実施形態では、幼児はおよそ出生時から約1歳の間である。一部の実施形態では、対象は、少なくとも1カ月齢である(例えば、新生児ではない)。小児は、約1歳または2歳から約18歳の間であってよい。一部の実施形態では、小児は、約1歳または2歳から約3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16または17歳の間である。代表的には、主治医は、さまざまな因子、例えば年齢、体重、全般的な健康、食餌、性別、投与されるべき化合物、投与の経路、および処置されている状態の重症度を考慮に入れて、各個々の対象を処置する組成物の投与量を決定する。組成物の用量は、処置されている対象の約0.0001から約1000mg/kg体重、約0.01から約100mg/kg体重、約0.1mg/kgから約10mg/kg、および約0.5mgから約5mg/kg体重であってよい。
【0108】
一般に、投与のタイミングおよび頻度は、所与の処置または診断のスケジュールの効力と所与の送達系の副作用とのバランスをとるために調整される。例示的な投薬頻度は、持続注入、単回および複数の投与、例えば毎時、毎日、毎週、毎月または毎年に投薬することを含む。
【0109】
方法において使用される投薬レジメンは、対象における開示の疾患および障害を処置するのに十分な時間の任意の長さであってよい。「慢性的」という用語は、本明細書で使用される場合、投与レジメンの時間の長さが数時間、数日、数週、数カ月またはおそらく数年であってよいことを意味する。
【0110】
一部の実施形態では、デンドリマー複合体は、標的化する部分の有無にかかわらず、脳における神経炎症性細胞、脊髄におけるニューロンまたはその組合せを標的化する。一部の実施形態では、デンドリマー複合体は、ニューロン特異的クラスIIIベータチューブリン(TUJ-1)陽性ニューロン、特に脊髄におけるものを標的化する。一部の実施形態では、デンドリマー複合体は、非損傷、非罹患または非障害ニューロンと比較して、損傷、罹患または障害ニューロンを優先的にまたは選択的に標的化する。下記の実施例に例示されている通り、デンドリマーは、同じ対象の脊髄の白質と比較して、灰白質において優先的にまたは選択的に蓄積することもある。
1.処置されるべき疾患および障害
【0111】
一部の実施形態では、ペルオキシソーム障害はペルオキシソーム新生障害である。好ましい実施形態では、障害は、神経細胞を遮断する、髄鞘の成長または維持への有害な作用によって特徴付けられるペルオキシソーム障害または白質ジストロフィーである。白質ジストロフィーは、例えば、ミエリン塩基性タンパク質の欠損症を伴う18q症候群、急性散在性脳脊髄炎(Encephalomyeolitis)(ADEM)、急性散在性白質脳炎、急性出血性白質脳症、X連鎖副腎白質ジストロフィー(ALD)、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)、アイカルディ-グティエール症候群、アレキサンダー病、成人発症型常染色体優性白質ジストロフィー(ADLD)、神経軸索スフェロイドを伴う常染色体優性びまん性白質脳症(HDLS)、常染色体優性遅発性白質脳症、びまん性CNSミエリン形成不全を伴う小児期運動失調(CACHまたは消失性白質疾患)、カナバン病、皮質下梗塞および白質脳症を伴う大脳常染色体優性脳動脈症(Arteropathy)(CADASIL)、脳腱黄色腫症(CTX)、白質脳症を伴う頭蓋骨幹端(Craniometaphysical)異形成、RNASET2を伴う嚢胞性白質脳症、臨床症状を伴わない広範性大脳白質異常、小脳性運動失調および認知症として顕在化する家族性成人発症型白質ジストロフィー、成人発症型認知症および異常性糖脂質貯蔵を伴う家族性白質ジストロフィー、グロボイド細胞白質ジストロフィー(クラッベ病)、遺伝性成人発症型白質ジストロフィー疑似性慢性進行性多発性硬化症、脳幹神経節および小脳の萎縮を伴うミエリン形成不全(HABC)、ミエリン形成不全、低ゴナドトロピン症、性腺機能低下症および歯数不足症(4H症候群)、白質ジストロフィーを伴う脂肪膜性骨異形成症(那須病)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、皮質下嚢胞を伴う巨脳白質ジストロフィー(MLC)、軸索スフェロイドを伴う神経軸索白質脳症(スフェロイドを伴う遺伝性びまん性白質脳症-HDLS)、新生児副腎白質ジストロフィー(NALD)、大脳白質異常を伴うオキュロデントデジタル(Oculodetatoldigital)異形成、色素性グリアを伴う正染性白質ジストロフィー、卵巣白質ジストロフィー症候群、ペリツェウス・メルツバッハ病(X連鎖痙性対麻痺)、レフサム病、シェーグレン-ラルソン(Larssen)症候群、スダン好性白質ジストロフィー、Van der Knaap症候群(皮質下嚢胞またはMLCを伴う空胞化白質ジストロフィー)、消失性白質疾患(VWM)またはびまん性中枢神経系ミエリン形成不全を伴う小児期運動失調(CACH)、X連鎖副腎白質ジストロフィー(X-ALD)、ならびにツェルウェーガー症候群、新生児副腎白質ジストロフィー、幼児レフサム病を含めたツェルウェーガースペクトラム障害、脳幹および脊髄の関与ならびにラクテートの上昇を伴う白質脳症(LBSL)、またはDARS2白質脳症であってよい。
【0112】
好ましい実施形態では、白質ジストロフィーは、副腎白質ジストロフィー(ALD)(X連鎖ALDを含める)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、クラッベ病(グロボイド白質ジストロフィー)またはDARS2白質脳症である。
【0113】
デンドリマー組成物は、代表的には、少なくとも1種の治療剤、診断剤または画像化剤と、複合体化した、共有結合した、またはそれらが分子内に分散もしくは封入した第4~6世代ポリ(アミドアミン)(PAMAM)ヒドロキシル末端デンドリマーを含む。好ましい実施形態では、PAMAMデンドリマーは第6世代PAMAMデンドリマーである。処置の方法について、デンドリマーは、治療剤とコンジュゲートまたは複合体化し、対象におけるペルオキシソーム障害または白質ジストロフィーの1つまたは複数の臨床的または分子的症状を軽減するのに有効な量で対象に投与することができる。
【0114】
治療剤は、酸化ストレス、神経炎症、長鎖脂肪酸産生、運動機能の喪失を低減、防止もしくはそれ以外の方式で軽減する;ペルオキシソーム増殖、長鎖脂肪酸除去、運動機能、ABCD2発現、ペルオキシソーム障害もしくは白質ジストロフィーにおいて突然変異したもしくは欠損の酵素の発現を促進、増加もしくは改善する;またはその任意の組合せのものであってよい。
【0115】
治療剤は、抗炎症剤または抗酸化剤であってよい。抗炎症剤は、ステロイド性抗炎症剤、非ステロイド性抗炎症剤、または金化合物抗炎症剤であってよい。特定の実施形態では、抗炎症剤はVBP15である。
【0116】
治療剤は、ペルオキシソーム障害もしくは白質ジストロフィーにおいて突然変異したもしくは欠損の酵素の野生型コピー、または酵素をコード化する核酸であってよい。例示的な酵素は、ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)およびアリールスルファターゼA(ARSA)である。
【0117】
治療剤は、甲状腺ホルモンまたは甲状腺ホルモン類似体であってよい。特定の実施形態では、甲状腺ホルモンは、天然もしくは合成トリヨードチロニン(T3)、そのプロホルモンのチロキシン(T4)、またはその混合物である。甲状腺ホルモン類似体はソベチロムであってよい。
【0118】
治療剤は、長鎖脂肪酸産生を防止もしくは低減する、ペルオキシソーム増殖を促進する、長鎖脂肪酸除去を促進する薬剤、またはその組合せ、例えば4-フェニルブチレートであってよい。治療剤は、ABCD2発現を増加させるもの、例えばベンザフィブレートであってよい。治療剤は、N-アセチルシステイン、ピオグリタゾンまたはビタミンEなど、神経炎症を低減することができる。
【0119】
一部の実施形態では、治療剤は、酸化還元恒常性および/またはミトコンドリア呼吸を改善し、生体エネルギー不全、軸索変性、および/もしくは関連した自発運動能力障害、またはその組合せを低減または反転させる。例示的な薬剤はレスベラトロールである。
【0120】
デンドリマーは、少なくとも2種の治療剤、例えば抗炎症剤または抗酸化剤、ならびにN-アセチルシステイン、4-フェニルブチレート、ベンザフィブレート、甲状腺ホルモン(T3)、ソベチロム、ピオグリタゾン、レスベラトロール、VBP15、ビタミンE、ガラクトシルセラミダーゼ(GALC)およびアリールスルファターゼA(ARSA)からなる群から選択される薬剤と、複合体化しているか、共有結合しているか、またはそれらを分子内に分散もしくは封入させている。好ましくは、デンドリマー複合体は、ニューロン特異的クラスIIIベータチューブリン(TUJ-1)陽性脊髄ニューロンを局在化および標的化するための治療活性薬剤を含む。デンドリマーのコンジュゲートまたは複合体は、懸濁液、エマルジョンまたは溶液中で製剤化することができる。
【0121】
デンドリマー治療剤は、ペルオキシソーム障害または白質ジストロフィーを有する個体に、例えば障害を処置または診断するために投与される。組成物は、隔日、3日毎、4日毎、毎週、隔週、毎月、および隔月からなる群から選択される期間で対象に投与することができる。一部の実施形態では、対象は、例えばおよそ出生時から18歳の間の小児である。一部の実施形態では、対象は、約1歳または2歳から約1、2、3、4、5、6、7、8、9または10歳の間である。
【0122】
脊髄ニューロン損傷の存在、位置または程度を検出し、ペルオキシソーム障害および白質ジストロフィーを検出または診断する方法は、代表的には、デンドリマー-診断剤または画像化剤を、それを必要とする対象に投与すること、次いで、脊髄における複合体またはコンジュゲートの位置を検出することを含む。脊髄ニューロン損傷の進行またはペルオキシソーム障害もしくは白質ジストロフィーの症状をモニタリングする、あるいは脊髄ニューロン損傷またはペルオキシソーム障害もしくは白質ジストロフィーの症状の処置ための治療剤の効力をモニタリングするための方法も開示されている。方法は、代表的には、デンドリマー-診断剤の複合体またはコンジュゲートを、それを必要とする対象に投与すること、次いで、第1の時点で脊髄における複合体またはコンジュゲートの位置を検出すること、デンドリマー-診断剤の複合体またはコンジュゲートを対象に投与すること、次いで、第2の時点で脊髄における複合体またはコンジュゲートの位置を検出すること、ならびに第1および第2の時点からの検出結果を比較して、損傷または症状が悪化しているか、改善しているか、または同じままであるかを決定することを含む。
a.ペルオキシソーム障害
【0123】
ペルオキシソーム障害は、ペルオキシソームの機能不全によって連鎖される遺伝的に異質の代謝性疾患の群である。ミトコンドリアが、食餌脂肪酸(パルミテート、オレエートおよびリノレート)の酸化を容易にする一方で、ペルオキシソームは、超長鎖脂肪酸VLCFA(C24:0およびC26:0)、プリスタン酸(食餌由来のフィタン酸から)、およびジヒドロキシコレスタン酸(DHCA)またはトリヒドロキシコレスタン酸(THCA)のベータ酸化に関与する。2種の化合物は、肝臓におけるコレステロールから胆汁酸、コール酸およびケノデオキシコール酸の形成に至る。追加として、ペルオキシソーム系のベータ酸化系は、ポリ不飽和脂肪酸の生合成を可能にし、(C22:6w3)、脂肪酸鎖の短鎖化を補助し、これらは順じてミトコンドリアにおいて分解され、エネルギー(アデノシン三リン酸[ATP])を生成するためにクレブスサイクルに利用されるアセチル補酵素A(アセチル-CoA)単位の形成に至る(Wanders RJ.「Peroxisomes, lipid metabolism, and human disease.」 Cell Biochem Biophys. 2000年。32巻春:89~106頁)。ペルオキシソームは、酸化還元、脂質、炎症および自然免疫のシグナリングにおける細胞内シグナリングプラットフォームとしても作用する(SchonenbergerおよびKovacs、Front Cell Dev Biol.、3巻:42号、19頁(2015年)、doi: 10.3389/fcell.2015.00042)。
【0124】
一部の実施形態では、ペルオキシソーム障害は、単独酵素欠損症、ペルオキシソーム分解障害、または最も好ましくはペルオキシソーム新生障害(PBD)である。ペルオキシソーム恒常性は、ペルオキシソームの会合および新生と分解とのバランスをとることによって保たれる。ペルオキシソーム分解に関して、3つの機序:選択的オートファジー(ペキソファジー)、ペルオキシソームLonプロテアーゼ2(LONP2)によるタンパク質分解、および15-リポキシゲナーゼ-1(ALOX15)媒介自己分解が報告されている(Tillら、Int. J. Cell Biol. 2012年:512721. 10.1155/2012/512721)。VLCFAの異常蓄積(C24、C26)は、ペルオキシソーム新生障害の顕著な特徴である。VLCFAは、RBC膜の微小粘度を増加させ、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)に応答するための副腎細胞の能力を傷害する膜構造および機能に対する有害作用を有する。中枢神経系において、VLCFA蓄積は、白質における炎症応答およびベータ酸化欠損症によるロイコトリエンのレベルの増加と関連した脱髄を引き起こし得る(JedlitschkyおよびKeppler、Adv Enzyme Regul.、33巻:181~94頁(1993年))。この応答に関連するのは、自己免疫応答を示すパターンにおけるT細胞、B細胞およびマクロファージによる血管周囲浸潤である。TNF-αのレベルは、サイトカイン媒介機序を示す脱髄病変の最外端でアストロサイトおよびマクロファージにおいて上昇される。VLCFAは、成長する軸索および放射状グリアにおけるガングリオシドおよび細胞接着分子の構成成分であり、そのため、CNSにおける移動欠陥に寄与すると考えられる。
【0125】
さらに、エーテルリン脂質(プラスマロゲンおよび血小板活性化因子(PAF)を含める)の生合成は、殊にCNSにおける細胞膜完全性にとって重要であり、PAF欠損症は、グルタミン作動性シグナリングを欠損しており、ヒト滑脳症およびニューロン移動障害に関係付けられてきた。移動異常は、多くの型のペルオキシソーム障害と関連した重度痙攣および精神運動遅滞の最も可能性が高い原因である。移動欠陥の重症度は、VLCFAの上昇と、エーテル連結リン脂質のレベルの抑制と、および胆汁-酸中間体のレベルの上昇と相関する(Wandersら、Biochim Biophys Acta.、1801巻(3号):272~80頁(2010年))。ペルオキシソーム新生障害、およびそれに寄与する遺伝子突然変異は、例えば(PowersおよびMoser、Brain Pathol.、8巻(1号):101~20頁(1998年);Steinbergら、Biochim Biophys Acta.、1763巻(12号):1733~48頁(2006年);Khanら、J Lipid Res.、51巻(7号):1685~1695頁(2010年);Fujikiら、Front Physiol.、5巻:307頁(2014年)、doi:10.3389/fphys.2014.00307;およびWiesingerら、Appl Clin Genet.、8巻:109~121頁(2015年))を含めた多数の概説において考察されている。
【0126】
神経機能不全は、大部分のペルオキシソーム障害の顕著な特色である(PowersおよびMoser、Brain Pathol.、8巻(1号):101~20頁(1998年))。Powersらによると、神経病理学的病変は、3つの主要なクラス:(i)ニューロンの移動または分化における異常、(ii)中枢白質の形成または維持における欠陥、および(iii)発病後のニューロン変性症に分割することができる。中枢白質病変は、(i)炎症性脱髄、(ii)非炎症性の髄鞘形成不全、および(iii)ミエリン体積における非特定低減、または反応性アストロサイト増加の有無にかかわらない染色としてカテゴリー化することができる。ニューロン変性症は、2つの主要な型:(i)脊髄の上行路および下行路に関与する副腎脊髄ニューロパチー(AMN)の軸索障害、ならびに(ii)肢根型点状軟骨異形成症およびおそらく幼児レフサム病(IRD)における小脳萎縮である。
【0127】
顕著なペルオキシソーム障害は、以下に限定されないが、ツェルウェーガー症候群(ZWS)、ツェルウェーガー様症候群、肢根型点状軟骨異形成症1型(RCDP1)、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)、幼児レフサム病(IRD)、およびX連鎖副腎白質ジストロフィー(X-ALD)を含む。ペルオキシソーム障害は、ある範囲の重症度にわたるある範囲の症状を含み得る。共通の症状は、以下に限定されないが、顔異形症、CNS形成異常、脱髄、新生児痙攣、低圧、肝腫大、嚢胞腎、骨頭すべり症を伴う短肢(点状軟骨異形成症)、白内障、網膜症、聴覚欠損、精神運動遅延、および末梢性ニューロパチーを含む。診断は、VLCFA、フィタン酸、胆汁酸中間体、およびピペコリン酸の血中レベルの上昇を検出することによる。ドコサヘキサエン酸(このDHAレベルは、ペルオキシソーム形成の障害を有する患者において低減される)を用いる実験処置は、ある見込みを示してきた(Fong、「Peroxisomal Disorders」、Merck Manuals Profession Edition(2010年))。
b.白質ジストロフィー
【0128】
一部の実施形態では、障害は白質ジストロフィーである。神経細胞を遮断する、髄鞘の成長または維持に対する影響を含むペルオキシソーム障害は、白質ジストロフィーと称される。白質ジストロフィーは、まれな代表的には進行性の遺伝子障害である。
【0129】
United Leukodystrophy Foundationは、ミエリン塩基性タンパク質の欠損症を伴う18q症候群、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、急性散在性白質脳炎、急性出血性白質脳症、X連鎖副腎白質ジストロフィー(ALD)、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)、アイカルディ-グティエール症候群、アレキサンダー病、成人発症型常染色体優性白質ジストロフィー(ADLD)、神経軸索スフェロイド(HDLS)を伴う常染色体優性びまん性白質脳症、常染色体優性遅発性白質脳症、びまん性CNSミエリン形成不全を伴う小児期運動失調(CACHまたは消失性白質疾患)、カナバン病、皮質下梗塞および白質脳症を伴う大脳常染色体優性脳動脈症(CADASIL)、脳腱黄色腫症(CTX)、白質脳症を伴う頭蓋骨幹端異形成、RNASET2を伴う嚢胞性白質脳症、臨床症状を伴わない広範性大脳白質異常、小脳性運動失調および認知症として顕在化する家族性成人発症型白質ジストロフィー、成人発症型認知症および異常性糖脂質貯蔵を伴う家族性白質ジストロフィー、グロボイド細胞白質ジストロフィー(クラッベ病)、遺伝性成人発症型白質ジストロフィー疑似慢性進行性多発性硬化症、脳幹神経節および小脳の萎縮を伴うミエリン形成不全(HABC)、ミエリン形成不全、低ゴナドトロピン症、性腺機能低下症および歯数不足症(4H症候群)、白質ジストロフィーを伴う脂肪膜性骨異形成症(那須病)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、皮質下嚢胞を伴う巨脳白質ジストロフィー(MLC)、軸索スフェロイドを伴う神経軸索白質脳症(スフェロイドを伴う遺伝性びまん性白質脳症-HDLS)、新生児副腎白質ジストロフィー(NALD)、大脳白質異常を伴うオキュロデントデジタル異形成、色素グリアを伴う正染性白質ジストロフィー、卵巣白質ジストロフィー症候群、ペリツェウス・メルツバッハ病(X連鎖痙性対麻痺)、レフサム病、シェーグレン-ラルソン症候群、スダン好性白質ジストロフィー、Van der Knaap症候群(皮質下嚢胞またはMLCを伴う空胞化白質ジストロフィー)、消失性白質疾患(VWM)またはびまん性中枢神経系ミエリン形成不全を伴う小児期運動失調(CACH)、X連鎖副腎白質ジストロフィー(X-ALD)、ならびにツェルウェーガー症候群、新生児副腎白質ジストロフィーおよび幼児レフサム病を含めたツェルウェーガースペクトラム障害を含めて、最大40の白質ジストロフィーが同定されていることを報告している。
【0130】
特定の実施形態では、障害は、副腎白質ジストロフィー(ALD)(X連鎖ALDを含める)、異染性白質ジストロフィー(MLD)またはクラッベ病(グロボイド白質ジストロフィー)である。障害は、脳幹および脊髄の関与(病変)を伴う遺伝性白質脳症、ならびにミトコンドリアのアスパルチルtRNAシンテターゼコード化遺伝子における突然変異によって引き起こされるDARS2白質脳症などの下肢痙性であってよい(Wolfら、Neurology、84巻(3号):226~30頁(2015年))。
【0131】
特に好ましい実施形態では、障害は、Xq28.1上に位置するABCD1遺伝子における突然変異によって引き起こされる一遺伝子性疾患であるX連鎖副腎白質ジストロフィー(X連鎖ALD)である(Wiesingerら、Appl Clin Genet.、8巻:109~121頁(2015年)に概説されている)。ABCD1遺伝子は、ペルオキシソーム膜の向こう側への超長鎖脂肪酸(VLCFA)CoAエステルの移入を媒介するペルオキシソーム輸送体ATP結合カセットサブファミリーDメンバー1(ABCD1、以前はALDP)をコードする。
【0132】
臨床的に、X-ALDは、広範囲の表現型で存在することができる(Engelenら、Orphanet J Rare Dis. 2012年;7巻:51号、およびMoserら、In: Scriver Rら編。The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease. 第8版 New York、NY、USA:McGraw-Hill Book Co;2001年)。2つの主要な表現型は、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)およびX-ALDの大脳型(CALD)である。男性におけるX連鎖ALDの65パーセントは、緩徐進行性軸索障害によって特徴付けられるAMNとして存在する。男性における第1の症状は通常20歳から30歳の間に出現し、一方、罹患女性は、40歳から50歳の間の平均発症で、AMNの一部の症状を発病し得る。これらの対象の20パーセントは、大脳型および急速進行性成人大脳型ALD(acALD)を発病する。acALDの症状は統合失調症のものと同様であり、例えば認知症を含むことができる。障害の進行は急速であり、初期症状から植物状態または死亡の平均時間はおよそ3~4年である。
【0133】
CALDは、通常、男性だけに罹患し、脳における急速進行性炎症性脱髄を示し、急速な認知および神経の減退に至る(Moserら、In: Scriver Rら編。The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease. 第8版、New York、NY、USA:McGraw-Hill Book Co;2001年;Semmlerら、Expert Rev. Neurother、8巻:1367~1379頁(2008年))。ABCD1における突然変異は必要とされるがCALDが生じるのに十分でなく、なぜならば、脳炎の引き金を引くには追加の遺伝子因子または環境因子が必要とされるからである。男性におけるX連鎖ALDの35パーセントは、診断後2~3年以内に代表的には致死的である小児大脳型ALDとして4~6歳で現れる。
【0134】
ALDを有するほとんど全ての成人男性、ならびに一部の女性キャリアは、副腎機能不全を発病する。ALDは、1:17,000の発生頻度(男性+女性)を超えるまれな障害である。ABCD1の機能不全は、ペルオキシソームにおけるVLCFAの分解障害をもたらし、組織および体液における様々な脂質種でのそれらの蓄積に至る(Di Biaseら、Neurochem. Int. 44巻:215~221頁(2004年))。VLCFAの蓄積は、AMNにおける脱髄病態に直接寄与すると考えられる一方で、VLCFAがCALDにおける炎症の発症または進行に関与する分子機序は、まだ完全には明らかではない。診断の方法は、以下に限定されないが、表現型から独立して生じ得るX-ALD患者からの血漿、白血球および線維芽細胞中に蓄積されたVLCFAを含めたバイオマーカーの分析を含む。したがって、VLCFAのレベルの上昇は、X-ALDの診断のための標準バイオマーカーを表すが、疾患の表現型または進行を予測しない。他の診断マーカーは、ミクログリア活性化、血液脳関門欠損、および神経炎症を含む(Eichlerら、Ann Neurol.、63巻(6号):729~42頁(2008年)doi: 10.1002/ana.21391)。
【0135】
一部の特定の実施形態では、ccALDまたはcaALDなどのALDを有する対象は、N-アセチルシステイン(NAC)を含めたデンドリマー複合体の有効量を投与される。酸化ストレスは、損傷が原因の軸索変性の主要な機序であり(Galeaら、Biochim Biophys Acta.、1822巻(9号):1475~88頁(2012年)doi: 10.1016/j.bbadis.2012.02.005)、デンドリマー-NAC複合体は、抗酸化剤および/または抗炎症剤の両方として、1つもしくは複数の分子症状、1つもしくは複数の臨床症状、または好ましくはその組合せを低減するのに役立ちながら、血液脳関門の欠損を克服し、ミクログリアを標的化することができると考えられる。
【0136】
一部の実施形態では、対象は、約2歳から17歳の間であり、約9から16の間のMRI LOESスコア(Loesら、AJNR Am J Neuroradiol、15巻:1761~1766頁(1994年))を有し、認知機能の喪失および/もしくは神経症状の増加、またはその組合せの進行を呈する。
【0137】
一部の実施形態では、デンドリマー複合体は、ペルオキシソーム障害、白質ジストロフィーまたはその任意の組合せの病変形成に関与する1つまたは複数の細胞型において、ペルオキシソームベータ酸化、グルタメート分泌、1種もしくは複数の炎症促進性サイトカイン、またはその任意の組合せを低減または阻害するための有効量で、それを必要とする対象に投与される。
【0138】
一部の実施形態では、デンドリマー複合体は、ペルオキシソーム障害、白質ジストロフィーまたはその任意の組合せの病変形成に関与する1つまたは複数の細胞型において、1種または複数の炎症促進性サイトカインのタンパク質発現および/または分泌を低減または阻害するための有効量で、それを必要とする対象に投与される。例示的な炎症促進性サイトカインは、IL1α、IL1β、IL2、IL6、IL8およびTNFαを含む。代表的には、組成物は、1つまたは複数の細胞型において、例えばミクログリア/マクロファージにおいて、1種または複数の炎症促進性サイトカインの活性および/または量を低減することに有効である。一部の実施形態では、組成物は、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または90%より多い、TNFαなど1種または複数の炎症促進性サイトカインの直接的および/または間接的低減に至る。一部の実施形態では、組成物は、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または90%より多くグルタメート分泌および/または発現の直接的および/または間接的低減に至る。
【0139】
一部の実施形態では、デンドリマー複合体は、ペルオキシソーム障害、白質ジストロフィーまたはその任意の組合せの病変形成に関与する1つまたは複数の細胞型において、グルタチオン発現を増加させるための有効量で、それを必要とする対象に投与される。一部の実施形態では、組成物は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%、300%、400%または400%より多くグルタチオンレベルの直接的および/または間接的増加に至る。
2.組合せ治療
【0140】
デンドリマー複合体は、1種もしくは複数の追加の治療活性薬剤、特に、上記に考察されている状態もしくは疾患を処置できることが知られているものと、および/または骨髄移植などの他の治療との組合せで投与することができる。他の例示的な組合せは、副腎または性腺の機能不全、ニューロパチー性疼痛、および痙直の対症治療との同時処置を含む(Singh、Methods Enzymol、352巻:361~372頁(2002年))。
【0141】
組合せ治療は、同じ添加混合物中または別々の添加混合物中で一緒に、活性薬剤、デンドリマー複合体またはその組合せの投与を含むことができる。そのため、一部の実施形態では、医薬組成物は、2種、3種またはそれより多い活性薬剤を含む。異なる活性薬剤は、同じ作用機序または異なる作用機序を有することができる。一部の実施形態では、組合せは、疾患または障害の処置に対して相加効果をもたらす。一部の実施形態では、組合せは、疾患または障害の処置に対して相加効果より大きい効果をもたらす。医薬組成物は、単位剤形とも称される医薬投与単位として製剤化することができる。
【0142】
一部の実施形態では、デンドリマー複合体は、特にALDまたは別のジストロフィーを有する対象における骨髄移植の補助として投与される。酸化ストレスおよび炎症は、幹細胞の生存および成長に有害であると一般に認識されている。デンドリマー複合体を用いる治療は、脳における炎症および酸化ストレスを処置し、幹細胞の生存を促進することができる。骨髄移植は、脳炎が早期に検出された場合、特に実現性のある処置である(Fourcadeら、Hum. Mol. Genet. 17巻:1762~1773頁(2008年))。しかしながら、造血幹細胞治療(HSCT)は、炎症性脱髄を停止させるだけであり、非炎症性軸索障害に影響しないと考えられ(Wheelerら、Brain、131巻:3092~3102頁(2008年))、そのため、それ自体では、それは炎症性の関与なくAMN患者のための治療選択肢であると一般には考えられない。
B.診断法
【0143】
炎症細胞の画像化剤でタグ化されたデンドリマーの選択的局在化は、感受性患者における神経炎症の早期検出のための診断用ツールとして使用することもできる。一部の実施形態では、画像化剤でタグ化されたデンドリマーは、標的化する部分の有無にかかわらず、脳における神経炎症性細胞、脊髄におけるニューロン、またはその組合せを標的化することができる。一部の実施形態では、デンドリマー系の画像化剤は、TUJ-1陽性ニューロン、特に脊髄におけるものを標的化する。一部の実施形態では、デンドリマー系の画像化剤は、非損傷、非罹患または非障害ニューロンと比較して、損傷、罹患または障害ニューロンを優先的にまたは選択的に標的化する。
【0144】
適切な画像化剤は、より詳細に上記で考察されており、画像化および造影剤を使用して神経炎症を検出する方法は、当技術分野において周知である。例えば、一部の実施形態では、それを必要とする対象は、標的細胞または組織に局在化するための画像化剤を含めたデンドリマー複合体の有効量を投与される。対象は、デンドリマー複合体を検出するために走査または画像化することができる。画像化手技は、以下に限定されないが、X線放射線撮影法、磁気共鳴画像法、医療超音波検査法または超音波、内視鏡検査、エラストグラフィー、触覚画像化、サーモグラフィー、医療写真撮影およびポジトロン放出断層撮影法として核医学機能的画像化技法を含む。画像化または造影剤は、利用される所望の画像化もしくは走査技法に基づいて選択することができ、または逆もまた同じである。
【0145】
一部の実施形態では、一連の走査または画像は、異なる時点で(例えば、数時間、数日、数週、数カ月または数年離れて)撮られ、ある期間にわたって疾患または障害の進行をモニタリングするために比較される。一部の実施形態では、対象は、期間にわたって疾患または障害のための処置を投与され、走査または画像は、処置の影響または効力を概説、分析またはそうでなければ決定するために比較される。処置は、ここで開示されているもの、ならびに疾患または障害の処置について当技術分野において従来のまたはそうでなければ公知の他のものを含む。疾患および障害は、以下に限定されないが、脳および/または脊髄における神経炎症(neuorinflammation)および損傷、ならびにペルオキシソーム障害および白質ジストロフィー、例えば上記で考察されているものを含む。
【0146】
一部の実施形態では、対象はMRIによって画像化され、LOESスケールを使用して評価される(例えば、Loesら、AJNR Am J Neuroradiol、15巻:1761~1766頁(1994年)を参照されたい)。デンドリマー複合体を利用する検出方法は、早期検出および診断のためのCNS炎症の非侵襲的なリアルタイム検出、ならびに症状が発病する前およびそれらが標準的なMRI技法によって検出され得る前のALDならびに他のペルオキシソーム障害および白質ジストロフィーの処置モニタリングのために用いることができる。
IV.キット
【0147】
以下に限定されないが、デンドリマー、デンドリマー複合体、または他の開示された薬剤を含めた組成物の1種または複数を保持する容器を含めた医療用キットも提供される。キットは、任意選択で、その希釈用の医薬担体および投与のための指示を含むことができる。加えて、組成物の2種またはそれよりも多くが、同時投与のために、薬学的に許容される担体中に、単一の容器中の構成成分として存在することができる。組成物またはその医薬組成物は、投与単位で提供することもできる。
【実施例
【0148】
(実施例1)
マウスモデルにおけるALDの処置
材料および方法
副腎白質ジストロフィー(ALD)のマウスモデル
副腎白質ジストロフィー(Adenoleukodystrophy)(ALD)は、大脳白質および脊髄に罹患するX連鎖疾患であり、一部の表現型は若い年齢で急速におよび末期的に進行する。使用される共通のマウスモデルは、ABCD1ノックアウトマウスである。ABCD1は、分解のためにペルオキシソームに極長鎖脂肪酸(VLCFA)を移入するというALDの病原性の顕著な特徴に関与するタンパク質であるALDPをコード化する。マウスモデルにおいて、これは、酸化ストレスのより高いマーカーである血清VLCFAの増加に至り、3.5カ月で脊髄において軸索傷害を示した(Galinoら、Antioxidants & redox signaling、15巻(8号):2095~2107頁(2011年))。加齢ABCD1 KOマウスは、15カ月頃に始まる異常な神経学的および挙動表現型も呈する(Pujolら、Human molecular genetics、11巻(5号):499~505頁(2002年))。これは、より緩徐な神経伝導と、および電子顕微鏡法で見られる通り脊髄および坐骨神経において検出可能な軸索異常と相関しており、ヒトAMN表現型に似ている。いくつかの酸化防止剤がABCD1 KOマウスにおける軸索変性を止めると示されたが、ALDを有する患者に同等の治療的用量を送達するのは難しい(Lopez-Erauskinら、Annals of neurology、70巻(1号):84~92頁(2011年))。
デンドリマー投与
【0149】
6カ月齢のABCD1 KOマウスに、20mg/kgの用量で腹腔内投与を介してCy5標識デンドリマー(D-Cy5)を注射し、D-Cy5投与後24時間で安楽死させ、その後、動物全体の灌流固定を続けた。第1のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、次いで4%パラホルムアルデヒド溶液を使用して循環系に灌流を行う。背部皮膚および脊椎傍筋を除去すること、椎骨椎弓根の椎弓切除術、および脊髄の全長に沿った脊髄神経節への接続切断によって、全脊椎除去を行う。
免疫組織化学研究
【0150】
免疫組織化学研究のための回収脊椎をさらに加工するため、げっ歯類脊椎を4℃で4%ホルマリン溶液中に24時間の間固定化し、スクロース勾配を用いる加工で続ける。脊椎を、最適切断温度(OCT)溶液中に凍結し、頸椎切片(約10個の薄片)、胸部切片(約10個の薄片)および腰部切片(約5個の薄片)に凍結切片化し、各薄片は、10~15μmの厚さを有する。D-Cy5分布およびニューロン取込み局在化を研究するため、マウス脊髄薄片を抗ベータIIIチューブリン抗体(Alexa Fluor(登録商標)488で標識されたTUJ-1)(Abcam、USA)で染色し、ミクログリア/マクロファージにおけるD-Cy5局在化を研究するため、マウス脊髄薄片をウサギ抗Iba1抗体(Wako、日本)で染色し、ロバ抗ウサギAlexa flour488二次抗体(Lifetechnology、USA)で続けた。4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を使用することで、全ての薄片における細胞核を染色した。共焦点研究のため、各画像を同じ画像化設定下で撮った。
結果
【0151】
頸椎、胸部および腰部切片中のALDおよび野生型(WT)マウスにおけるD-Cy5蓄積を画像化した。D-Cy5は、ALDマウスの脊髄において、野生型よりも有意に高い蓄積を有していた。ALDマウスの脊髄切片について、灰白質は、白質に対して、より高いD-Cy5蓄積を示した。共焦点顕微鏡を使用するタイル走査を用いて10X下で、画像を撮った。DAPIを利用することで、核を可視化した。
【0152】
より高い倍率は、D-Cy5が、ALDマウスの灰白質脊髄切片においてニューロン(TUJ 1によって染色する)によって大部分取り込まれたことを示した。分析は、WTマウスにおいて、ニューロン(TUJ 1によって染色する)によって取り込まれた一部のD-Cy5が脊髄の灰白質にあるが、ALDマウスと比較して著しくないことも示した。共焦点顕微鏡を使用するタイル走査を用いて40X下で、画像を撮った。DAPIを利用することで、核を可視化した。TUJ 1検出を利用することで、ニューロン細胞を同定した。
要約すると、これらの結果は以下を示す:
【0153】
1.デンドリマーは、ALDマウスにおける脊髄の灰白質で大部分蓄積することが見出された。
【0154】
2.デンドリマーは、ALDマウスの脊髄におけるニューロンによって大部分取り込まれた。脊髄におけるニューロン中のデンドリマーの局在化は、ALDおよび他の障害における重大な暗示を有する新たな所見である。
【0155】
3.デンドリマーのニューロン取込みは、野生型(WT)マウスの脊髄において著しく少ない。
【0156】
研究は、デンドリマー-Cy5(D-Cy5)とABCD1ノックアウト(「KO」)マウスの脊髄におけるTuj1陽性ニューロンとの共局在化を明らかにしたが、明らかなD-Cy5共染色は、健康な対照マウスにおいて見られなかった。病理学的研究は、ACBD1 KOマウスにおける軸索変性を示してきた。研究は、デンドリマーが、ペルオキシソーム障害および白質ジストロフィー、ならびにそれらの分子的および臨床的症状の処置および診断における適用とともに、罹患脊髄ニューロンへの治療および/または診断剤の標的化送達のためのビヒクルとして使用することができることを例示している。
(実施例2)
PAMAMデンドリマーのin vivo薬物動態に対するサイズおよび表面特性の効果
【0157】
生物学的障壁を克服し、オフサイト毒性を低減し、効力を達成するための治療的送達を最適化する強い医学的必要を考慮すると、これらのPAMAMデンドリマーが、標的リガンドなしでどのように神経炎症を媒介する細胞に選択的に局在化するかというin vivo機序を探索することは重要である。ヒトにおけるCPと同様の特色を有するCPのin vivoウサギモデル(Saadani-Makkiら、American Journal of Obstetrics and Gynecology 2008年、199巻(651号)、e651~657頁)を、(1)欠損BBBを横切る通過に対するナノ粒子サイズの影響を特徴付けるため、(2)デンドリマー表面機能性が、どのように脳実質における動きおよび活性化ミクログリアによる取込みを指示するかを理解するため、ならびに(3)損傷された新生児脳におけるデンドリマー取込みおよび局在化を疾患重症度の関数として定量化するために使用した。
材料および方法
デンドリマー-Cy5コンジュゲートの調製
【0158】
ヒドロキシル(G4-OH)、アミン(G4-NH)、およびカルボキシレート(G3.5-COOH)末端基を有する第4世代PAMAMデンドリマーを、近赤外(IR)画像化剤(補足材料に詳細)であるCy5と共有結合でコンジュゲートした。各デンドリマー-Cy5コンジュゲートは、デンドリマー(5wt%)の表面上にCy5の1~2個の分子を有していた。Cy5コンジュゲートは、水、PBS緩衝液中で高度に可溶性であり、生理学的条件で安定であった。
結果
CPキットにおける欠損BBBを横切る通過は、デンドリマーの物理化学的特性に依存性である
【0159】
神経炎症プロセスは、周囲のオリゴデンドロサイトおよびニューロンに対する損傷、ならびに損傷の部位でBBBの破壊をもたらし(Liら、Proc. Natl. Acad. Sci. 2005年、102巻、9936~9941頁;Stolpら、Cardiovascular Psychiatry and Neurology 2011、2011年、記事番号469046)、これは慢性であり得る(de Vriesら、Pharmacological Reviews 1997年、49巻、143~155頁、Pettyら、Progress in Neurobiology 2002年、68巻、311~323頁)。全身投与に続いて、デンドリマーは、脳微小環境にアクセスするために欠損BBBを横切る必要がある。3nmから14nmを範囲とするPAMAMデンドリマーを使用することで、虚血性脳卒中における欠損BBB孔サイズを特徴付け、11nm未満のサイズが、そのモデルにおける欠損BBBを横切るために望ましいことを示した(Zhengら、Advanced Healthcare Materials 2014年)。したがって、デンドリマーのサイズおよび分子量が、BBB破損の領域においてCPモデル中のBBBを横切る能力にどのように影響するかを決定するため、実験を実施した。
【0160】
CPを有する生後1日目(PND1)のウサギキットの脳における損傷の部域中への、全身投与に続く血管外遊出の程度を、70kDaの線状ポリマーデキストラン-FITC、および硬い球状の20nmポリスチレン(PS)ナノ粒子について、ならびにG4-OHのそれと比較して評価した。これらの化合物の物理化学的特性は、サイズおよび表面電荷を含めて、表1に提供されている。
【表1】
【0161】
BBB欠損の領域において、デキストラン-FITCおよび20nmのPSナノ粒子は、全身投与に続く24時間後に、血管から脱出しなかったか、または組織中へ血管外遊出しなかった。他方で、G4-OHは血管から脱出し、脳室周囲領域(PVR)における細胞中で局在化した。灌流固定された健康な動物の脳において、どの材料も、最大24時間まで測定可能な取込みまたは細胞局在化を示さなかったが、というのはBBB欠損がなかったからである。
デンドリマーは、新生児脳における損傷の部位で選択的に局在化する
【0162】
発達中の脳において、新たな細胞形成が起こり、これは正常の発達および成熟が生じるために必須である。デンドリマーを取り込む細胞および取り込まない細胞の両方を同定することが重要である。CPキットにおけるPVRにBBB欠損および炎症促進性ミクログリア発現の増加がある。(Developmental Neuroscience 2011年、33巻、231~240頁;Saadani-Makkiら、J. Child Neurol. 2009年、24巻、1179~1189頁)。
【0163】
投与後4時間で、G4-OHは、CPを有する動物のPVRの活性化グリア薄帯および脈絡叢だけに存在し、ここで、著しい血管供給および脳脊髄液(CSF)-血液交換があった。このモデルにおいて、G4-OHは、損傷のこの領域だけに局在化し、ニューロン前駆細胞が存在する脳室下帯(SVZ)、または脳梁および皮質には局在化しなかったことが示された。局在化のこのパターンは、その後の時点でも観察された。
脳実質内での動きは、ナノ粒子サイズおよび表面機能性によって支配される
【0164】
無傷または欠損BBBを横切った後、脳細胞外空間(ECS)が、薬物送達プラットフォームが拡散しなければならない中継区間である。活性化ミクログリア/アストロサイトは、ECSにおける脳の全体にわたって拡散的に分布することが多く、最も近い血管から数ミクロンであり得る(Bickelら、Advanced Drug Delivery Reviews 2001年、46巻、247~279頁;PawlikおよびBing、Brain Res. 1981年、2008、35~58頁;Schlageterら、Microvasc. Res. 1999年、58巻、312~328頁)。BBB欠損の領域においてさえ、サイズおよび表面電荷の両方は、BBBを横切り(MayhanおよびHeistad、The American Journal of Physiology 1985年、248巻、H712~718頁;Pardridge、Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism: Official Journal of the International Society of Cerebral Blood Flow and Metabolism 2012年、32巻、1959~1972頁)、脳実質内に貫入し(Nanceら、Science Translational Medicine 2012年、4巻、149ra119頁)、CNS障害としばしば関連した拡散細胞に達することで最大治療効果を有するという、薬物送達プラットフォームの能力に決定的である。
【0165】
G4-OHと異なり、PND1 CPキットにおける実質内に注射された20nmのPSナノ粒子は、注射の部位から離れた脳実質内に貫入することができないことが見出された。この結果は、40nmから200nmを範囲とするサイズの非修飾(負の電荷を持つ)PSナノ粒子で前に実証されていることと一致した(Nanceら、Science Translational Medicine 2012年、4巻、149ra119頁)。
【0166】
CPを有する新生児キットにおける実質内にG4-OHおよびG4-NHを注射し、G4-OHは4時間内に注射点から数ミリメートル離れて急速に拡散し、損傷の領域においてだけ細胞中に局在化することができたが、G4-NHは注射の部位で閉じ込められたままであった。共焦点画像化を使用する脳のスクリーニングに基づくと、PSナノ粒子およびG4-NHだけが注射跡に沿ってクモ膜下腔中または脈絡叢中に戻るCSF流の経路を追うことができ、ここでそれらは、PVRにおけるBBB欠損の存在にもかかわらず残った。
損傷された新生児脳におけるデンドリマー取込みおよび細胞局在化は、時間およびデンドリマー表面機能性の関数である
【0167】
血管外遊出し、活性化グリア細胞中に局在化するというデンドリマーの能力に対するデンドリマー表面機能性の効果を理解することは重要である。PND1上への全身投与に続いて、脳におけるG4-NH、G3.5-COOHおよびG4-OHの取込みの時間依存を研究した。これらの3種のデンドリマーは、生理的pHでの異なる表面機能性およびゼータ電位以外、およそ同じサイズおよび分子量を有する(表1)。
【0168】
全ての動物を1×PBSで屠殺時に灌流した。G4-OHは、BBB欠損の領域において4時間以内に活性化ミクログリア中で血管外遊出し、急速に局在化することができた。この研究において調査された全ての時点で、G4-NHは血管内に閉じ込められたままであったが、負の電荷を持つ内皮細胞膜との電荷相互作用による可能性が高い(Jallouliら、International Journal of Pharmaceutics 2007年、344巻、103~109頁)。G3.5-COOHは、注射後0.5時間で脳の細胞または血管に存在せず、4時間および24時間で血管中に、ならびに24時間でミクログリア細胞中に存在した。G4-OH取込みと比較して、ミクログリア細胞中のG3.5-COOH取込みの遅延は、デンドリマー上の中性表面機能性が、血管からの急速な脱出のために望ましくあり得ることを示唆している。
【0169】
共焦点画像において、G4-OHとG3.5-COOHとの間の細胞内分布の変動パターンは、G4-OHが後期リソソームに通行することおよびG3.5-COOHがエンドソームに閉じこもることを示した前の細胞内輸送研究によって裏付けされた。G3.5-COOHは神経炎症における適用に有用であり得るが、それは、遅延方法ではあるがミクログリア中に共局在化し、内部移行の異なる方法がG4-OHと比較して、特定の細胞内経路の標的化に至ることもできるからである。注射後24時間でのG4-OHおよびG3.5-COOHの局在化は、CPキットのPVRにおけるアストロサイトにも存在した。
【0170】
健康なPND1キットの脳において、デンドリマーは、無傷BBBを横切らず、デンドリマー表面機能性に非依存性の血管構造内に局在化されたままであった。CPキットにおいて、心臓、肝臓および肺における体内分布、ならびに腎臓を介する身体からの排出は、研究された全てのG4デンドリマーについて同様であった。G4-OHの前の体内分布分析に基づくと、G4-OHが循環から排出されながら、腎臓における蓄積は最大24時間まで生じた(Lesniakら、Molecular Pharmaceutics 2013年、10巻、4560~4571頁)。この年齢で対照対CPキットにおける心臓、肝臓、肺および腎臓中の体内分布に著しい差異はなかった。
【0171】
デンドリマープラットフォームの取込みおよび特定の細胞局在化は、標的化送達において、殊に毒性が懸念されるならば、重大な役割を果たすことができる。カチオン性PAMAMデンドリマーは、実質内または脳室内に投与された場合に脳において取り込まれることが示されているが(Albertazziら、Molecular Pharmaceutics)、全身的および鼻腔内投与経路を介して、より高い世代およびより高い濃度でも毒性である。これは、細胞内反応性酸素種発生の増加により、遺伝子発現およびオートファジーの誘発に対する負の効果に至ることがある(Win-Shweら、Toxicol. Lett 2014年、228巻、207~218頁;Wangら、Biomaterials 2014年、35巻、7588~7597頁)。
【0172】
G4または低い濃度でのより低いカチオン性デンドリマーに対する毒性がin vivoで報告されていないとしても、カチオン性デンドリマーが脳実質内で拡散できないことも制限している(Shcharbinら、Journal of Controlled Release 2014年、181巻、40~42頁)。最小のまたは全く無いG4-OHデンドリマー取込みが、健常組織の領域において、または正常な脳の発達および機能に決定的な新たな細胞形成を有する領域において見られたことを強調することは重要であり、このことはオフサイト毒性を低減し、長期の負の影響を最小化する。中性G4-OHが、関連した毒性なく活性化グリアに薬物を送達する能力は、標的化送達のための新たな道を提供する。
デンドリマー取込みおよび細胞局在化の半定量分析
【0173】
脳のPVRにおけるデンドリマーの量を灌流後に定量化した。各デンドリマーのパーセント注射用量(%ID)を、分析された脳組織の総量(g組織)に対する脳におけるデンドリマーの総量(μg)として算出した。全てのG4デンドリマーのピーク取込みは、24時間までの脳における総量の減少とともに、PND1 CPキットにおける投与後4時間で観察された(図1A)。G4-NHは、全ての時点で脳において最も豊富であったが、実質内の細胞に決して存在しなかった。G3.5-COOHおよびG4-OHは、全ての時点で脳において同様の量を有していたが;しかしながら、各時点でのG3.5-COOHおよびG4-OHの細胞局在化は変動した。CPを有するキットの脳におけるG4-OHの最大%IDは、健康な対照キットの脳におけるG4-OHの0.003%IDと比較して0.04%であった(CPキットの>10倍の脳における全体的取込み)。重要なことに、脳におけるG4-OHの量は、遊離薬物(NAC)のそれよりも100倍高く、G4-OHは標的細胞に主に局在化される。この研究におけるデンドリマーの用量は、CPにおける運動機能改善を生成したD-NACの用量に匹敵し、脳の損傷領域および特定の細胞を標的化することは甚大な効果に至り得ることを示す(Kannanら、Science Translational Medicine 2012年、4巻(130号)、130ra46頁;Mishraら、ACS Nano 2014年、8巻、2134~2147頁)。
【0174】
共焦点画像の半定量分析を使用して、デンドリマーの細胞局在化を評価した。近年において、いくつかのin vitroおよびin vivo研究は、ミクログリア細胞をCPの発病に関係付けてきた(Kannanら、Science Translational Medicine 2012年、4巻(130号)、130ra46頁;Mallardら、Pediatric Research 2014年、75巻、234~240頁)。健康な脳において、ミクログリアは、ニューロンの健全性をモニタリングする監視機能に関与する(Billiardsら、The Journal of Comparative Neurology 2006年、497巻、199~208頁)。損傷後の活性化で、ミクログリアは形態において分枝型からアメーバ様構造に際立った変化を受け、増殖し、数が増加する(Perryら、Nature Reviews. Neurology 2010年、6巻、193~201頁;Blockら、Nature Reviews. Neuroscience 2007年、8巻、57~69頁)。ミクログリアの総数は、健康な対照と比較して、CPキットのPVRにおいて3.5倍の増加を示した。しかしながら、CPキットの皮質におけるミクログリアの数は、健康な対照のそれと同等のままであった(図1B)。PND1 CPキットのPVRにおいて、ミクログリアのアメーバ様集団は、健康な対照のPVRにおける総ミクログリアのわずか11%と比較して、総ミクログリアの83%であった。CPのウサギモデルにおいて、ミクログリアの数は炎症の存在下で増加し、分枝型「静止」ミクログリアの関連した減少、およびアメーバ様「活性化」ミクログリアの増加がある。健康キットおよびCPキットの両方の皮質におけるミクログリア形態は、主に分枝型であり、ミクログリアの4%未満がアメーバ様として分類された。
【0175】
CPにおける効力の研究におけるG4-OH-薬物コンジュゲートの急速取込みおよび前の使用を考慮して(Kannanら、Science Translational Medicine 2012年、4巻(130号)、130ra46頁)、時間の経過によるG4-OHの局在化における細胞特異的変化を、健康な新生児キットおよびCPキットの両方のPVRおよび皮質において分析した。時間の経過によるG4-OHの共局在化における差異は、0.5時間での血管からミクログリア内の細胞内局在化までの4時間のG4-OHの動きに対応する。PVRにおける代表的な領域の分析は、Iba-1染色ミクログリアだけとG4-OHとの共局在化を示し、共局在化は実質において見られなかった。PVR内の30μm厚の切片のサブセットを分析することによって、各時点でG4-OHおよびIba-1の両方について陽性であったミクログリアの数を決定した。Iba-1+G4-Cy5を有するミクログリアの数は、0.5時間から4時間でCPを有するキットのPVRにおいて増加し、G4-OHを含有する細胞の最大90%に達する。CPキットの皮質において、またはBBB欠損の欠如により健康な対照キットのPVRもしくは皮質において、ミクログリア中の取込みはなかった。CPを有するキットの脳における前のサイトカインデータ分析に基づき、デンドリマーが「活性化」ミクログリア中に局在化していることを推定することができる。
デンドリマーは、損傷された新生児脳において保持される
【0176】
デンドリマー-薬物コンジュゲートの取込み、長期滞留および放出動態は、投与のタイミングならびにデンドリマー治療の初期設計の両方を指示する。デンドリマーが、投与後何日もミクログリア中にまだ存在するかを決定するため、CPキットにおける活性化ミクログリア中のG4-OHの滞留を測定した。治療を用いないCPキットの最も長い平均余命は9日である。PND9で(全身投与の8日後)、G4-OHはPVRにおけるミクログリア中に局在化されたままであった。PND1キットにおけるのと異なり、G4-OHはPND9 CPキットにおける血管に存在せず、脳組織の外側の細胞によって内部移行されないG4-OHを示唆した。PND9キットの脳におけるG4-OHの定性量も、全身投与の4時間後と比較して低減された。
デンドリマー取込みは、CPを有する新生児キットにおける疾患重症度に相関する
【0177】
G4-OHの毒性は、高用量でさえもカチオン性デンドリマーと比較して最小であり、G4-OHデンドリマーは、血液循環から時間のオーダーで、および腎臓から24~48時間かけて無傷で排出される(Lesniakら、Molecular Pharmaceutics 2013年、10巻、4560~4571頁;Jonesら、ACS Nano 2012年、6巻、9900~9910頁;Jonesら、Molecular Pharmaceutics 2012年、9巻、1599~1611頁)。G4-OHは、BBB欠損および細胞活性化がある損傷の領域だけにおいて蓄積し、正常な健常組織または非活性化細胞においては蓄積しない。そのため、デンドリマー取込みの程度は、脳における疾患の程度に相関し得る。
【0178】
PND1へのデンドリマー注射より前に、神経挙動尺度について盲検方式で、動物を評価した。この研究において使用される対照キットとCPキットとの間のPND1で有意に異なった挙動試験に基づいて、複合挙動スコアを発生させた。CPを有する新生児キット(n=合計18)を以下のカテゴリーに分類した:重度(n=6キット、複合スコア3~9)、中程度(n=7キット、複合スコア10~14)、および軽度(n=5キット、複合スコア15~20)。正常な健康キット(n=8)は、23よりも大きい複合挙動スコアを有していた。CPを有するいずれのキットも、20よりも大きい複合挙動スコアを有していなかった。
【0179】
G4-OHを使用することで、疾患重症度の関数としてデンドリマー取込みを検査した。正常の健康な対照キットにおいて、最小のデンドリマー蓄積(0.004%ID)が脳において観察された。CPキットにおいて、複合挙動スコアによって判定された場合に重度表現型を有するキットにおける最大13倍高い蓄積が観察された(図2A)。新生児CP脳におけるG4-OH取込みの量は、正常キット(p<0.001)および軽度キット(p<0.05)と比較して、重症群のほうが統計的に大きかった。中程度および軽度のCPキットにおけるG4-OH取込みは、健康キット(p<0.005)よりも有意に高かった。しかしながら、中程度キットと比較して重度キットにおけるG4-OH取込み量または軽度キットと比較して中程度キットにおけるG4-OH取込み量に有意な差異はなかった。
【0180】
そのため、CP脳におけるデンドリマー取込みに基づく軽度から中程度の範囲における表現型をよりよく詳述することができるかどうかを決定した。Cy5標識された第6世代デンドリマー(G6-OH-Cy5)を使用することで、上に記載されている通りの同じ複合挙動スコア範囲を有する軽度表現型(n=8)および中程度表現型(n=9)に入るCPキット(n=合計17キット)における疾患重症度の関数として取込みを評価した。G6-OHは、G4-OHと比較してより長い循環時間を有し(Kannanら、Journal of Internal Medicine 2014年、276巻(6号)、579~617頁)、したがって、CP脳においてより大きな取込みを有する。しかしながら、G6-OHはまだサイズが十分小さく、中性表面機能性を有していることで(表1)、欠損BBBを通過し、CPキットのPVRにおけるミクログリア細胞内に局在化する。脳におけるG6-OHデンドリマーの量(μg/g)と軽度から中程度の疾患重症度の増加との間の相関関係(R2=0.51)が観察された(図2B)。より重要なことに、中程度キットにおけるG6-OH取込みの平均量(1.33μg/g)は、軽度キットにおけるG6-OH取込みの平均量(0.79μg/g)よりも有意に大きかった(p<0.05)。この傾向は、軽度CPキットよりも統計的に悪い中程度CPキットにおける個々の挙動スコア(R2<0.50)を判定する場合、より低かった。これは、臨床的に行われた場合の包括的な挙動分析が、単一の挙動試験よりも正確な疾患重症度判定であることを示している。
(実施例3)
デンドリマー-4-フェニル酪酸(D-PBA)の調製および特徴付け
材料および方法
材料および試薬
【0181】
ヒドロキシ官能化エンチレンジアミンコア第4.0および6.0世代ポリアミドアミン(PAMAM)デンドリマー(G4-OH;64個のヒドロキシル末端基およびG6-OH;256個のヒドロキシル末端基)を、Dendritech Inc.(Midland、MI、USA)から購入した。N-アセチルシスチン(NAC)、ベンゾトリアゾル-1-イル-オキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyBOP)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)、3-メルカプトプロパン酸、tert-ブチル3-ヒドロキシプロパノエートおよびN,N’-ジメチルホルムアミド(dimethylformaimide)(DMF)を、Sigma-Aldrich(St Louis、MO、USA)から購入した。4-フェニルブチレートをCayman Chemicals(Michigan、MI、USA)から購入した。透析膜(MWCO:2kD)をSpectrum Laboratories Inc.(Ranco Dominguez、CA、USA)から購入した。
結果
デンドリマー-4-フェニル酪酸(D-PBA)の調製
【0182】
4-フェニル酪酸(PBA)をヒドロキシル官能化PAMAMデンドリマーに、pH不安定性エステル連結を介してコンジュゲートした。プロピオニルリンカーをスペーサーとして利用することで、デンドリマー表面上に薬物分子のための十分な空間を提供し、かつそれらの放出を容易にした。リンカーの付着はエステル化反応にも基づいているので、PBA分子を修飾するためにBOC基保護/脱保護戦略を続け、次いで、デンドリマー表面へのコンジュゲーションを第4および第6世代のPAMAMデンドリマーの両方について行った(スキーム1)。
【0183】
PBAは、その中和形態において、高度に疎水性および水不溶性であるので、薬物コンジュゲーション反応の原料比を低く保持することで、in vitroおよびin vivo研究の両方で薬効性の改善を得る狙いで、水溶性であり、かつ同じデンドリマー分子に付着されている複数の薬物分子に関して十分な多価性を有するコンジュゲートを得た。
4-フェニル酪酸(PBA)(化合物6)へのフェニル酪酸ナトリウムの中和
【0184】
薬物分子を、それらの構造におけるカルボン酸基がアニオン形態であるナトリウム塩の形態で受けた。中性形態を得るために、1MのHCl溶液による抽出を介して、これらのカルボン酸基をプロトン化した。PBAのナトリウム塩は極めて水溶性であるので、それ(1g、5.34mmol)を最小量の蒸留水中に溶解し、次いで、1MのHCl(50mL)およびCH2Cl2(50mL)で洗浄することで、有機相における薬物の中和形態を回収した。NaSO4により過剰水を除去した後、有機相を減圧下で蒸発させ、4-フェニル酪酸(PBA)(化合物6)を白色の固体として定量的に得た(0.87g)。
PBA-リンカー(保護されているBoc)(化合物8)の合成
【0185】
化合物6(800.0mg、4.87mmol)を10.0mLの無水CHCl中に溶解し、次いで、DMAP(238.0mg、1.95mmol)およびDCC(1.106g、5.36mmol)を15.0mLの無水CHCl中に溶解し、丸底フラスコ中に添加した。反応混合物を0℃で30分間撹拌することによる化合物6のカルボン酸の活性化後、15.0mLの無水CHCl中に希釈されたtert-ブチル3-ヒドロキシプロパノエート(化合物7)(1.08mL、7.31mmol)を添加し、反応混合物を24時間の間室温(25℃)で続けた。次いで、全ての揮発分を蒸発させ、反応粗製混合物を、静止相としてシリカゲルおよび溶離液として酢酸エチル/ヘキサン(30:70)の混合物を使用するカラムクロマトグラフによって精製した。生成物を減圧下で乾燥させ、白色の固体として得た(化合物8)(1.075g、76%の収率)。
PBA-リンカー(脱保護されている)(化合物9)の合成
【0186】
化合物8(1.0g、3.42mmol)を3.5mLの無水CHCl中に溶解し、0℃に冷却した。次いで、10.0mLのTFAを清澄な溶液中に添加し、出発材料の消費まで0℃で撹拌された反応混合物がTLC上で観察された。粗製混合物を、静止相としてシリカゲルおよび溶離液として酢酸エチル/ヘキサン(40:60)の混合物を使用するカラムクロマトグラフィーによって精製した。生成物を減圧下で乾燥させ、白色の固体として得た(化合物9)(0.7g、87%の収率)。高分解能ESI-MSは、PBA-リンカーの分子量を確認した:算出:236.264(C1316);実測:259.094{M+Na+}。
D-PBAの合成
【0187】
D-PBAコンジュゲートを、PBA-リンカー分子の、第4および第6世代(G4およびG6)の両方のPAMAMデンドリマーの表面への付着によって合成した。コンジュゲーションは、PBA-リンカー(脱保護されている)のカルボン酸基とデンドリマーのヒドロキシル基との間のエステル化反応に基づく。表3は、D-PBAとして合成された全てのコンジュゲーの特徴詳細を要約している。
D(G4)-PBAコンジュゲート(コンジュゲート2)の大規模合成のための代表的な手技
【0188】
化合物8(330.8mg、1.40mmol)を10.0mLの無水(anydrous)DMF中に溶解し、この清澄な溶液中にDMAP(85.5mg、0.70mmol)および15.0mLの無水DMF中に溶解させたpyBOP(1.09g、2.10mmol)を添加した。反応混合物を0℃で30分間撹拌した後、5.0mLの無水DMF中に溶解させたG4-PAMAMデンドリマー(1g、0.07mmol)を添加し、反応を2日間室温(25℃)で続けさせておいた。次いで、粗生成物をDMFで希釈し、DMFに対して透析することで副生物および過剰の反応物を除去し、続いてHOに対して透析することで任意の有機溶媒を取り除いた。最終的に精製された生成物を凍結乾燥し、白黄色の固体として得た(コンジュゲート2)(1.24g)。純度を引き続いてHPLC上で検証した。
【表3】
特徴付け
【0189】
デンドリマーにコンジュゲートされた薬物の百分率負荷は、コンジュゲーションでのデンドリマーおよび薬物-リンカー分子の両方ならびに薬物上のエステルプロトンである8.3~8.0ppm辺りで現れるデンドリマーのアミンプロトンに属するプロトン共鳴の積算値から算出することができる。PBAおよびプロピオニルリンカー上のエステルプロトンは、4.40および4.20ppm辺りでトリプリケートとして出現し、4.02ppmでのブロードシングレットは、デンドリマー上のヒドロキシル基と薬物-リンカー分子との反応で形成されたエステルプロトンを表す。D(G4)-OH、PBA-脱保護リンカー、およびD(G4)-PBA(500MHz)のH NMRスペクトルは、未反応PAMAMデンドリマーと比較して、薬物-リンカー分子の構造に由来する余分なピークを明らかに示した。PBAの内部メチレンブリッジ(CH)プロトンは1.8ppm辺りで重複して出現すると見られたが、これはデンドリマー上の薬物分子の数を決定するために使用することもできる。
in vitro放出研究
【0190】
第4および第6世代の両方のPAMAMデンドリマーにコンジュゲートされたPBAの放出特性を、3つの異なる環境条件下で調査した。リンカーはエステル結合との間にあるので、コンジュゲート上の薬物分子は、酸性条件においてより少ないおよび比較的により速い水性媒体中の加水分解によって放出されると予想される。そういうわけで、コンジュゲートをpH7.4のPBSおよびpH5.5のクエン酸緩衝液中の2mg/mL溶液として調製した。さらに、両方のコンジュゲートについて別々の溶液を酸性媒体中で調製し、ブタ肝臓エステラーゼをコンジュゲート中のエステル1μmol当たり1単位として添加した。放出プロセス中隔日でそれを補充することで、エステラーゼの触媒活性を確実にした。全ての溶液を37℃でインキュベートし、ある特定の時点でそれらの溶液から試料を採取した。HPLCを使用するこれらの試料の分析は、遊離薬物のピークのAUC値に基づいて試料において定量的に遊離薬物の量を算出することによって、コンジュゲートから放出された薬物の量を明らかにした。
【0191】
得られた放出特性によると(図3A~3B)、最初の数日に両方のコンジュゲートについての初期30~40%薬物放出があり、これは次いで時間の経過によって徐々に増加したことが明らかに見られた。最大40日まで、G4デンドリマー上のほとんど全てのPBAが放出されたが、G6-PBAコンジュゲートについて、この値は約65%であった。
(実施例4)
ALD/AMN患者由来の線維芽細胞およびマクロファージにおけるデンドリマー-4PBAの効力
材料および方法
細胞培養
【0192】
大脳型副腎白質ジストロフィー(ALD)または副腎脊髄ニューロパチー(AMN)表現型のいずれかを有する男性患者からの初代線維芽細胞を解凍し、ウェル中で平板培養することで4日間成長させた。4日目に、細胞を様々な用量のデンドリマー-4フェニルブチレート(D4PBA)またはフリー4PBAで処置し、培養において維持し、処置を7日目に新たにした。細胞を分析のために11日目に収集した。リソホスファチジルコリン(LysoPC)のC26:0、C22:0、およびC20:0極長鎖脂肪酸画分を収集された細胞において測定し、LysoPC C26/C22画分を次いで、欠損ペルオキシソームベータ酸化の尺度として算出した。
結果
【0193】
図4に示されている通り、AMN細胞におけるLysoPC C26/C22比の用量依存性低減があり、一方、有意な低減が、大脳型ALD細胞における300マイクロモルのD4PBAだけで見られた。フリー4PBAは、LysoPC C26/C22比に対する効果を有していなかった。
【0194】
さらなる実験において、末梢血単核細胞を、大脳型ALD患者、2人のAMNおよび1人の対照対象から誘導し、D-NAC治療について上記と同じプロトコールを使用する培養において分化した。3日目に、次いで再び5日目および7日目に、細胞を様々な用量のD4-PBAで処置した。7日目に、上に記述されているD-NACマクロファージ研究における通りに、マクロファージを再び極長鎖脂肪酸(VLCFA)で刺激した。細胞を次いで刺激後6時間で収集した。
【0195】
図5A~5Cに示されている通り、全ての用量のD4PBA(30、100、300マイクロモル)ならびに300マイクロモルでの遊離PBAは、対照においてならびに大脳型ALDおよびAMN患者においての両方で、VLCFA-誘発TNF-アルファ応答を低減した。結果は、D-PBAがペルオキシソームベータ酸化を改善すること、ならびにALDおよびAMNにおけるマクロファージの炎症促進性状態を軽減することを示している。
(実施例5)
2種の薬物を含有するハイブリッドデンドリマー薬物コンジュゲートの調製:NAC-デンドリマー-4PBA((G4)-NAC&PBA)
結果
【0196】
2つの異なるリンカーとともに2種の異なる薬物を有するデンドリマーコンジュゲートを、PBAおよびNAC分子を第4世代PAMAMデンドリマーに逐次付着させることによって首尾よく合成した。スキーム7は、D-NAC&PBAコンジュゲートを得るための全ての反応ステップを表す。
【0197】
両方の薬物分子およびリンカーに対する官能基の性質に基づき、プロピオニルリンカーを含有する第1のピリジルジスルフィド(PDS)をデンドリマーに、エステル化反応を介して付着させた。次いで、第2のステップとして、PBAコンジュゲーションのために使用されたPBA-リンカー(脱保護されている)をデンドリマー上のヒドロキシルと、NAC分子上のカルボン酸基にその後干渉しないエステル結合を介する反応の同じ型を用いて反応させた。最後に、デンドリマー上のPDS単位をNAC分子と置き換えることで、ジスルフィド交換反応を介してジスルフィド結合を形成した。全ての中間体を、全合成経路の各ステップで、DMF上での透析法およびジエチルエーテル中での沈殿の両方を介して精製することで、最終コンジュゲートがその純粋な形態で得られた。
【0198】
このコンジュゲートは、上に記述されている方法論によって調製されたD-PDAコンジュゲートにPDS-リンカーを付着させることによって合成されたが、デンドリマーにコンジュゲートされたPDS-リンカーの数が非常に少なく、これはデンドリマー表面上のPBA分子の疎水性性質に起因し得る。しかしながら、この合成経路を用いて、2種の異なる薬物を有するデンドリマーコンジュゲートを首尾よく合成し、薄黄色のふわふわした化合物として得た。さらに、これらの2種の異なる薬物は、異なる環境条件にておよび異なる速度で放出することができる。
D(G4)-PDSの合成
【0199】
リンカー分子(化合物10)を含有する2-ピリジルジスルフィド(PDP)基を合成し、次いで、カラムクロマトグラフィーによって精製した。簡潔には、アルドリチオール(2.07g、9.42mmol)を20.0mLのMeOH中に溶解し、次いで、3-メルカプトプロピオン酸(410.5μL、4.71mmol)を丸底フラスコ中に添加した。反応混合物を24時間の間室温(25℃)で撹拌した。次いで、全ての揮発分を蒸発させ、静止相としてシリカゲルおよび溶離液として酢酸エチル/ヘキサン(30:70)の混合物を使用するカラムクロマトグラフィーによって、反応粗製物を精製した。生成物を減圧下で乾燥させ、黄色の固体として得た(化合物10)(868.0mg、80%の収率)。
【0200】
次に、化合物10(290.4mg、1.27mmol)を1.0mLの無水DMF中に溶解し、この清澄な溶液中にDMAP(77.3mg、0.63mmol)および3.0mLの無水DMF中に溶解させたpyBOP(988.2mg、1.90mmol)を添加した。反応混合物を0℃で30分間撹拌した後、2.0mLの無水DMF中に溶解させたG4-PAMAMデンドリマー(300.0mg、21.1μmol)を添加し、反応を2日間室温(25℃)で続けさせておいた。次いで、粗生成物をDMFに対して透析することで副生物および過剰の反応物を除去し、次いで、ジエチルエーテル中に沈殿させることでDMFを除去した。最終的に精製された生成物をH2O中に再溶解し、凍結乾燥させ、黄色のふわふわした化合物として得た(355.0mg)。生成物の理論MWは、18440gmol-1であり、PDS/PAMAMの数は20であった。
D(G4)-PDS&PBAの合成
【0201】
化合物9(77.0mg、0.326mmol)を2.0mLの無水DMF中に溶解し、この清澄な溶液中にDMAP(19.9mg、0.163mmol)および2.0mLの無水DMF中に溶解させたpyBOP(254.5mg、0.489mmol)を添加した。反応混合物を0℃で30分間撹拌した後、1.0mLの無水DMF中に溶解させたD-PDSコンジュゲート(300.0mg、16.3μmol)を添加し、反応を2日間室温(25℃)で続けさせておいた。次いで、粗生成物をDMFに対して透析することで副生物および過剰の反応物を除去し、次いで、ジエチルエーテル中に沈殿することでDMFを取り除いた。最終的に精製された生成物をHO中に再溶解し、凍結乾燥させ、薄黄色のふわふわした化合物として得た(312.0mg)。生成物の理論MWは21060g/molであり、PBA/PAMAMの数は12であった。
D(G4)-NAC&PBAの合成
【0202】
D-PDSおよびPBAコンジュゲート(300.0mg、14.2μmol)を3.0mLの無水DMF中に溶解し、次いで、2.0mLの無水DMF中に溶解させたNAC(58.1mg、0.356mmol)を丸底フラスコ中に添加した。反応混合物を24時間の間室温(25℃)で撹拌した。次いで、全ての揮発分を蒸発させ、反応粗製物をDMFに対する透析によって精製することで副生物および過剰の反応物を除去し、次いでその後、水に対する透析によって精製することで全ての有機溶媒を取り除いた。最後に、それを凍結乾燥させ、薄黄色のふわふわした化合物として得た(285.0mg)。生成物の理論MWは22100g/molであり、重量によるPBAの%:8.9、NAC/PAMAMの#:20、重量によるNACの%:14.8であった。
特徴付け
【0203】
任意のコンジュゲーションがないPAMAMデンドリマーの1H NMRスペクトル、合成経路中の中間体、およびD-NAC&PBAとしての最終コンジュゲートを分析した。PDS-プロピオニルリンカーの付着で、PDS環の芳香族プロトンは7~8ppm辺りで現れ、この一部は、8ppm辺りでPAMAMデンドリマーの内部アミンプロトンと重複していた。リンカー付着を介してデンドリマー上に形成されたエステルプロトンは4.02ppmで明らかに検出することができ、この積算値を、デンドリマー表面にコンジュゲートされたPDS基数の算出のために利用した。
【0204】
次に、PBA薬物を、それがすでに付着されているプロピオニルリンカーを介するエステル化反応を介してコンジュゲート構造に挿入した。いくつかの精製ステップ後、7.0~7.5ppm辺りでの芳香族領域でのプロトンシグナルの増加、およびデンドリマーのエステルプロトンの上部領域におけるトリプレート(triplates)として出現する追加のエステルプロトンは、PBA-リンカー分子のコンジュゲーションを明らかに証明している。これらのシグナルの積算値は別として、1.8ppm辺りでのPBAの内部CHの積算値は、デンドリマー当たりのPBAペイロードを算出するのに使用することもできる。
【0205】
最後に、D-PDS&PBAコンジュゲート上のPDS環を置き換えることによって、NAC分子をデンドリマーにコンジュゲートした。ジスルフィド交換反応で、芳香族領域周囲の積算値の驚くべき減少は、この置き換え反応が行われたことを示している。さらに、1.86ppmでのブロードシングレットの出現は、NACのメチルプロトンを指し、この積分は前のコンジュゲート上のPDS基の数と一致する。
【0206】
構造における反応領域での新たなピークの出現およびプロトンのシフトは、デンドリマーおよび個々の薬物分子の両方に属する特徴的なピークの積算値と一緒に、D-NAC&PBAコンジュゲートと2つの異なるリンカーとの成功合成を明らかに証明している。
(実施例6)
ALD患者由来マクロファージに対するデンドリマー(Dedrimer)-NACコンジュゲートの効果
材料および方法
細胞培養
【0207】
二重勾配遠心分離を使用して、静脈採血に続いて直ちに、末梢血単球を患者および対照血液から誘導した。M1様付着性マクロファージを、DMEM(ThermoFisher、Waltham、MA)、10%FBS(Thermo Fisher、Waltham、MA)、10.000U/mLのPenStrep(Corning、Pittsburgh、PA)、1%グルタミン(Thermo Fisher、PA)、1%NEAA(Thermofischer、Waltham、MA)、GM-CSF(Thermofischer、Waltham、MA)およびIL-4(Thermo Fisher、Waltham、MA)中で7日間分化させ、媒体を3日目、5日目および7日目に交換した。
【0208】
マクロファージを30μMの極長鎖脂肪酸(VLCFA)(10%熱不活性化FBS(Thermo Fisher、Waltham、MA)中に懸濁させたC24:0およびC26:0)で刺激し、同時に、様々な用量のデンドリマー-NACで処置した。細胞および上澄みを刺激および処置の6時間後に収集した。
アッセイ
【0209】
市販されているアッセイを行うことで、TNFα(Cayman、Ann Arbor、MA)、グルタメート(Cayman、Ann Arbor、MA)およびグルタチオン(Abcam、Cambridge、MA)のレベルを決定した。Molecular Devices(Sunnyvale、CA)からのSpectramax(登録商標)M5を使用して、分光光度計測定を行った。
結果
【0210】
デンドリマー-NACコンジュゲートは、健康な患者またはAMN患者からの細胞に影響を与えることなくcALD患者由来のマクロファージにおけるTNFα発現(炎症)およびグルタメート分泌(興奮毒性)を減弱する際の用量依存性効力を示す。図6A~6Dおよび図7A~7Dにおいて下記に示されている通り、VLCFA刺激は、AMNおよび大脳型ALD患者のマクロファージにおけるTNF-アルファおよびグルタメートのレベルの有意な増加をもたらしたが、対照またはALDヘテロ接合体においてはもたらさなかった。併用のデンドリマー-NAC(D-NAC)治療は、30および100マイクロモルでTNF-アルファ応答を低減したが、AMN患者細胞において300マイクロモル濃度で低減せず、一方、大脳型ALD(cALD)マクロファージにおいて明らかな用量応答はなかった。グルタメート放出は、AMNマクロファージおよび大脳型ALDマクロファージの両方において用量依存性方式で低減された。大脳型ALDマクロファージは、D-NACを用いる用量依存性方式で増加されたVLCFA刺激後、劇的に低減された総グルタチオンレベルを示した(図8A~8D)。
(実施例7)
デンドリマー-ベンザフィブレート(D-BEZA)の合成
材料および方法
【0211】
ベンザフィブレート(BEZA)をヒドロキシル官能化PAMAMデンドリマーに、pH不安定性エステル連結を介してコンジュゲートした。上に記述されているD-PBAコンジュゲートの合成におけるのと同じ戦略を、ベンザフィブレートPAMAMコンジュゲートの合成に適用した。このコンジュゲーションは、逐次エステル化反応が最初にリンカーをベンザフィブレートに付着させ、次いで薬物-リンカー化合物をデンドリマー表面にコンジュゲートするという同じBOC基保護/脱保護戦略に依存する。同じプロピオニルリンカーをここで同様にスペーサーとして利用することで、デンドリマー表面上に薬物分子のために十分な空間を提供し、かつそれらの放出を容易にした。ベンザフィブレートを用いるコンジュゲートの合成を、第4および第6世代PAMAMデンドリマーの両方について行った(スキーム8)。
【0212】
ベンザフィブレートは、PBA薬物のように非常に疎水性および水不溶性であるので、ベンザフィブレートコンジュゲーション反応のための原料比を同様に低く保持することで、in vitroおよびin vivo研究の両方のためにより良好な薬効性を得る狙いで、水溶性であり、かつ薬物ペイロードに関して十分な多価度を有するコンジュゲートを得た。
BEZA-リンカー(保護されているBoc)(化合物11)の合成
【0213】
ベンザフィブレート(800.0mg、2.21mmol)を10.0mLの無水CH2Cl2中に溶解し、次いで、DMAP(108.0mg、0.88mmol)およびDCC(501.8mg、2.43mmol)を15.0mLの無水CH2Cl2中に溶解し、丸底フラスコ中に添加した。反応混合物を0℃で30分間撹拌することによる薬物のカルボン酸の活性化後、15.0mLの無水CH2Cl2中に希釈されたtert-ブチル3-ヒドロキシプロパノエート(2)(0.49mL、3.32mmol)を添加し、反応混合物を24時間の間室温(25℃)で続けた。次いで、全ての揮発分を蒸発させ、静止相としてシリカゲルおよび溶離液として酢酸エチル/ヘキサン(30:70)の混合物を使用するカラムクロマトグラフによって、反応粗製物を精製した。生成物を減圧下で乾燥させ、白色の固体として得た(化合物11)(1.04g、96%の収率)。
BEZA-リンカー(脱保護されている)(化合物12)の合成
【0214】
化合物11(1.0g、2.04mmol)を3.5mLの無水CH2Cl2中に溶解し、0℃に冷却した。次いで、6.10mLのTFAを清澄な溶液中に添加し、出発材料の消費がTLC上で観察されるまで、反応混合物を0℃で撹拌させた。静止相としてシリカゲルおよび溶離液として酢酸エチル/ヘキサン(40:60)の混合物を使用するカラムクロマトグラフによって、粗製物を精製した。生成物を減圧下で乾燥させ、白色の固体として得た(化合物12)(0.88g、88%の収率)。高分解能ESI-MSはBEZA-リンカーの分子量を確認した:算出:434.137(C22H25ClNO6);実測:434.138{M+1}、456.121{M+Na+1}
D-BEZAの合成
【0215】
D-BEZAコンジュゲートを、第4および第6世代の両方のPAMAMデンドリマーの表面へのBEZA-リンカー分子の付着によって合成した。コンジュゲーションは、BEZA-リンカー(脱保護されている)のカルボン酸基とデンドリマーのヒドロキシル基との間のエステル化反応に基づく。表4は、D-BEZAとして合成された全てのコンジュゲートの特徴詳細を要約している。
【表4】
D(G4)-BEZAコンジュゲート(コンジュゲート8)の大規模合成のための代表的な手技
【0216】
化合物12(610.0mg、1.40mmol)を10.0mLの無水DMF中に溶解し、この清澄な溶液中にDMAP(85.5mg、0.70mmol)および15.0mLの無水DMF中に溶解させたpyBOP(1.09g、2.10mmol)を添加した。反応混合物を0℃で30分間撹拌した後、5.0mLの無水DMF中に溶解させたG4-PAMAMデンドリマー(1g、0.07mmol)を添加し、反応を2日間室温(25℃)で続けさせておいた。次いで、粗生成物をDMFで希釈し、DMFに対して透析することで副生物および過剰の反応物を除去し、続いて、H2Oに対して透析することで任意の有機溶媒を取り除いた。最終的に精製された生成物を凍結乾燥させ、白黄色の固体として得た(コンジュゲート8)(0.95g)。生成物の理論MWは17542gmol-1であり、BEZA/PAMAMの数は8であり、重量によるBEZAの%:16.5であった。
特徴付け
【0217】
デンドリマーにコンジュゲートされた薬物の百分率負荷は、コンジュゲーションでのデンドリマーおよび薬物-リンカー分子の両方上のエステルプロトンならびに薬物上のエステルプロトンである8.3~8.0ppm辺りで現れるデンドリマーのアミドプロトンに属するプロトン共鳴の積算値から算出することができる。プロピオニルリンカーのエステルプロトンは4.40ppm辺りで重複して出現し、4.00ppm辺りでの別の重複は、デンドリマー上のヒドロキシル基と薬物-リンカー分子との反応で形成されたエステルプロトンを表していた。ベンザフィブレートのH NMRスペクトル、BEZA-リンカー-保護Boc、およびBEZA-脱保護リンカー(CDCl3、500MHz)は、未反応のPAMAMデンドリマーと比較して、薬物-リンカー分子の構造に由来する余分なピークを示した。BEZAのメチル(CH)プロトンは、1.4ppm辺りでブロードシングレットとして出現すると見られたが、これは、デンドリマー上の薬物分子の数を決定するために使用することもできる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B-C】
図6A-B】
図6C-D】
図7A-B】
図7C-D】
図8A-B】
図8C-D】