(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】インドール及びその誘導体吸着剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/785 20060101AFI20220614BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
A61K31/785
A61P13/12
(21)【出願番号】P 2019509405
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013871
(87)【国際公開番号】W WO2018181987
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2017073019
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】星野 友
(72)【発明者】
【氏名】小出 裕之
(72)【発明者】
【氏名】奥 直人
(72)【発明者】
【氏名】沖嶋 杏奈
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-161833(JP,A)
【文献】Biomacromolecules,2014年,Volume 15, Issue 9,p.3290-3295
【文献】American Chemical Society,2010年,Volume 132, Issue 19,p.6644-6645
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項6】
血液透析及び腹膜透析を含む透析治療において、尿毒素の除去用である、請求項1~3のいずれか1に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インドール及びその誘導体吸着剤に関する。
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願2017-073019号優先権を請求する。
【0002】
(生体内毒素)
生体内で毒性を生じる化合物やタンパク質及びその原材料の多くは腸内で産出、吸収されて血液中へ移行し、臓器障害を引き起こす原因となることが知られている。通常、生体内毒素は肝臓で解毒され、腎臓で排出される。
糖尿病をはじめとする生活習慣病の増加によって、腎機能障害や肝機能障害の患者数は年々増加しているため、これらの臓器機能を代償し生体内毒素を体外へ除去する治療薬の開発、腸内から生体内毒素が血液中に吸収されるのを抑制する治療薬又は食品の開発が重要な課題である。
【0003】
(インドール)
インドールは、腸内細菌によりトリプトファンから合成され、腸管から吸収される。その後、肝臓で酸化、硫酸抱合を受けインドキシル硫酸となり速やかに尿中排出される。しかし、腎不全患者では腎臓を含めて体内でインドキシル硫酸が蓄積し、尿毒症症状を引き起こすと共に、腎尿細管でフリーラジカルなどが産生され、腎不全を悪化させてしまう。その結果、末期の腎不全となり生涯人工透析が必要となる。尿毒症症状の改善及び透析導入の遅延のためには腸管からのインドール吸収阻害が重要な手段であり、患者のQOLの改善だけでなく、日本の医療費負担軽減へと繋がる。
現在臨床で用いられているインドール吸着剤である球形吸着炭のクレメジン(登録商標)は、インドールの吸着スピードが遅いため、1日に6 g摂取する必要がある。さらに、クレメジンは疎水性相互作用と毛細管現象により非特異的に低分子化合物を吸着するため、生体に必須な化合物だけでなく医薬品や必須栄養素も吸着してしまう。そのため、医薬品と同時服用ができず、QOLの低下に繋がっている。
【0004】
(先行技術)
インドールの吸着に係る先行技術として、以下が報告されている。
特許文献1では、「複数の化合物のそれぞれに由来する構造単位を主成分として含有する共重合体からなり、平均粒径が20nm以上500nm以下であるリガンド粒子と、有機系高分子粒子担体とからなるタンパク質用アフィニティ分離剤」を開示している。
特許文献2では、「少なくとも1種の尿毒症性物質に対する特異的認識部位を有する尿毒症性物質特異的認識ポリマーであって、前記特異的認識部位は、分子インプリンティング法により形成されたものであることを特徴とする尿毒症性物質特異的認識ポリマー」を開示している。
【0005】
上記先行文献では、本開示に係る共重合体を開示又は示唆をしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-161833号公報
【文献】特開2004-131406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、インドール及びその誘導体(特に、インドール)を選択的に吸着するインドール及びその誘導体吸着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以前、各単量体に基づく構成単位を最適な比で混合して合成した共重合体{プラスチックナノ粒子(NPs)}が、動物の血中において標的タンパク質と強固に結合し、標的タンパクの毒性を中和可能であることを明らかにしてきた。
そこで、本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、各単量体に基づく構成単位を最適な比で混合して合成した共重合体が選択的にインドール及びその誘導体を吸着できる効果を有することを見出して、完成した。
すなわち、本開示は以下の通りである。
【0009】
1.下記式(1)で表される単量体に基づく構成単位を含む共重合体を含有する、インドール及びその誘導体吸着剤。
【化1】
(式(1)中、R
8は水素原子、炭素数1~3の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基である。R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基(アントリル基)、tert-ブチル基、炭素数4以上の直鎖アルキル基、分岐アルキル基若しくは環状アルキル基、下記式(2)で示される単位、カルボキシメチル基、又は下記式(3)で示される単位、あるいは、それぞれ独立して、一方が水素原子、他方が式(1)中のN(窒素原子)と共に疎水性アミノ酸残基を形成する単位である。ただし、R
8、R
9及びR
10がすべて水素原子は除く)
【化2】
(式(2)中、R
3~R
7は各々独立して、水素原子、フッ素原子、電子吸引基、メチル基又はメトキシ基である。)
【化3】
2.前記共重合体が、さらに下記式(4)で表される単量体に基づく構成単位を含有する、前項1に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
【化4】
(式(4)中、R
1は水素原子、炭素数1~3の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基である。R
2は炭素数1~3の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基である。)
3.式(1)で表される単量体に基づく構成単位はN-tert-ブチルアクリルアミド、N-フェニルアクリルアミド、2,4,6-トリフルオロフェニルアクリルアミド、ペンタフルオロフェニルアクリルアミド、N-アクリロイルグリシン及び/又はN-アクリロイルL-バリンから選択され、式(4)で表される単量体に基づく構成単位はN-イソプロピルアクリルアミドである、前項2に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
4.前記共重合体が、さらに、架橋作用を有する単量体に基づく構成単位を含有する前項1~3のいずれか1に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
5.前記共重合体が、さらに、界面活性剤を含有する前項1~4のいずれか1に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
6.前記共重合体が、さらに、正電荷作用を有する単量体に基づく構成単位を含有する前項1~5のいずれか1に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
7.前記共重合体が、さらに、負電荷作用を有する単量体に基づく構成単位を含有する前項1~6のいずれか1に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
8.前記式(1)で表される単量体がtert-ブチルアクリルアミドであり、前記式(4)で表される単量体がN-イソプロピルアクリルアミドであり、前記架橋作用を有する単量体がN,N’-メチレンビスアクリルアミドである前項4~7のいずれか1に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
9.前記式(1)で表される単量体がN-フェニルアクリルアミドであり、前記式(4)で表される単量体がN-イソプロピルアクリルアミドであり、前記架橋作用を有する単量体がN,N’-メチレンビスアクリルアミドである前項4~7のいずれか1に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
10.前記式(1)で表される単量体がペンタフルオロフェニルアクリルアミドであり、前記式(4)で表される単量体がN-イソプロピルアクリルアミドであり、前記架橋作用を有する単量体がN,N’-メチレンビスアクリルアミドである前項4~7のいずれか1に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
11.前記式(1)で表される単量体がtert-ブチルアクリルアミド及びペンタフルオロフェニルアクリルアミドであり、前記式(4)で表される単量体がN-イソプロピルアクリルアミドであり、前記架橋作用を有する単量体がN,N’-メチレンビスアクリルアミドである前項4~7のいずれか1に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
12.前記式(1)で表される単量体がtert-ブチルアクリルアミドであり、前記式(4)で表される単量体がN-イソプロピルアクリルアミドであり、前記架橋作用を有する単量体がN,N’-メチレンビスアクリルアミドであり、前記正電荷作用を有する単量体がN-(3-アミノプロピル)メタクリルアミドである前項6に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
13.前記式(1)で表される単量体がtert-ブチルアクリルアミドであり、前記式(4)で表される単量体がN-イソプロピルアクリルアミドであり、前記架橋作用を有する単量体がN,N’-メチレンビスアクリルアミドであり、前記負電荷作用を有する単量体がアクリル酸である前項7に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
14.前記式(1)で表される単量体がtert-ブチルアクリルアミド及びペンタフルオロフェニルアクリルアミドであり、前記式(4)で表される単量体がN-イソプロピルアクリルアミドであり、前記架橋作用を有する単量体がN,N’-メチレンビスアクリルアミドであり、前記負電荷作用を有する単量体がアクリル酸である前項7に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
15.尿毒症の予防・治療用である、前項1~14のいずれか1に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
16.腎不全の予防・治療用である、前項1~14のいずれか1に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
17.血液透析及び腹膜透析を含む透析治療において、インドール及びその誘導体を含む尿毒素の除去用である、前項1~14のいずれか1に記載のインドール及びその誘導体吸着剤。
18.下記式(1)で表される単量体に基づく構成単位を含む共重合体を哺乳類に投与する、インドール及びその誘導体吸着方法。
【化5】
(式(1)中、R
8は水素原子、炭素数1~3の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基である。R
9及びR
10は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基(アントリル基)、tert-ブチル基、炭素数4以上の直鎖アルキル基、分岐アルキル基若しくは環状アルキル基、下記式(2)で示される単位、カルボキシメチル基、又は下記式(3)で示される単位、あるいは、それぞれ独立して、一方が水素原子、他方が式(1)中のN(窒素原子)と共に疎水性アミノ酸残基を形成する単位である。ただし、R
8、R
9及びR
10がすべて水素原子は除く)
【化6】
(式(2)中、R
3~R
7は各々独立して、水素原子、フッ素原子、電子吸引基、メチル基又はメトキシ基である。)
【化7】
19.前記共重合体が、さらに下記式(4)で表される単量体に基づく構成単位を含有する、前項18に記載の方法。
【化8】
(式(4)中、R
1は水素原子、炭素数1~3の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基である。R
2は炭素数1~3の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基である。)
20.式(1)で表される単量体に基づく構成単位はN-tert-ブチルアクリルアミド、N-フェニルアクリルアミド、2,4,6-トリフルオロフェニルアクリルアミド、ペンタフルオロフェニルアクリルアミド、N-アクリロイルグリシン及び/又はN-アクリロイルL-バリンから選択され、式(4)で表される単量体に基づく構成単位はN-イソプロピルアクリルアミドである、前項19に記載の方法。
21.前記共重合体が、さらに、架橋作用を有する単量体に基づく構成単位を含有する前項18~20のいずれか1に記載の方法。
22.前記共重合体が、さらに、界面活性剤を含有する前項18~21のいずれか1に記載の方法。
23.前記共重合体が、さらに、正電荷作用を有する単量体に基づく構成単位を含有する前項18~22のいずれか1に記載の方法。
24.前記共重合体が、さらに、負電荷作用を有する単量体に基づく構成単位を含有する前項18~23のいずれか1に記載の方法。
25.前記式(1)で表される単量体がtert-ブチルアクリルアミドであり、前記式(4)で表される単量体がN-イソプロピルアクリルアミドであり、前記架橋作用を有する単量体がN,N’-メチレンビスアクリルアミドである前項21~24のいずれか1に記載の方法。
26.前記式(1)で表される単量体がN-フェニルアクリルアミドであり、前記式(4)で表される単量体がN-イソプロピルアクリルアミドであり、前記架橋作用を有する単量体がN,N’-メチレンビスアクリルアミドである前項21~24のいずれか1に記載の方法。
27.前記式(1)で表される単量体がペンタフルオロフェニルアクリルアミドであり、前記式(4)で表される単量体がN-イソプロピルアクリルアミドであり、前記架橋作用を有する単量体がN,N’-メチレンビスアクリルアミドである前項21~24のいずれか1に記載の方法。
28.前記式(1)で表される単量体がtert-ブチルアクリルアミド及びペンタフルオロフェニルアクリルアミドであり、前記式(4)で表される単量体がN-イソプロピルアクリルアミドであり、前記架橋作用を有する単量体がN,N’-メチレンビスアクリルアミドである前項21~24のいずれか1に記載の方法。
29.前記式(1)で表される単量体がtert-ブチルアクリルアミドであり、前記式(4)で表される単量体がN-イソプロピルアクリルアミドであり、前記架橋作用を有する単量体がN,N’-メチレンビスアクリルアミドであり、前記正電荷作用を有する単量体がN-(3-アミノプロピル)メタクリルアミドである前項23に記載の方法。
30.前記式(1)で表される単量体がtert-ブチルアクリルアミドであり、前記式(4)で表される単量体がN-イソプロピルアクリルアミドであり、前記架橋作用を有する単量体がN,N’-メチレンビスアクリルアミドであり、前記負電荷作用を有する単量体がアクリル酸である前項24に記載の方法。
31.前記式(1)で表される単量体がtert-ブチルアクリルアミド及びペンタフルオロフェニルアクリルアミドであり、前記式(4)で表される単量体がN-イソプロピルアクリルアミドであり、前記架橋作用を有する単量体がN,N’-メチレンビスアクリルアミドであり、前記負電荷作用を有する単量体がアクリル酸である前項24に記載の方法。
32.尿毒症の予防・治療用である、前項18~31のいずれか1に記載の方法。
33.腎不全の予防・治療用である、前項18~31のいずれか1に記載の方法。
34.血液透析及び腹膜透析を含む透析治療において、インドール及びその誘導体を含む尿毒素の除去用である、前項18~31のいずれか1に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤は、少なくとも以下のいずれか1以上の効果を有することを確認した。
(1)インドールを選択的に吸着できる。
(2)インドールを迅速に吸着できる。
(3)迅速に体外に排出されて、安全性が高い。
(4)細胞毒性が低い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】N-アクリロイルL-バリンの調製の概略図。
【
図3】表1、表2及び表3の本開示のポリマーナノ粒子の性質評価結果。
【
図4】表4の本開示のポリマーナノ粒子の性質評価結果。
【
図5】表5(Bis10%)の本開示のポリマーナノ粒子の性質評価結果。
【
図6】表5(Bis20%、Bis40%)の本開示のポリマーナノ粒子の性質評価結果。
【
図7】表6の本開示のポリマーナノ粒子の性質評価結果。
【
図8】表7の本開示のポリマーナノ粒子の性質評価結果。
【
図9】表8の本開示のポリマーナノ粒子の性質評価結果。
【
図10】表1、表2及び表3の本開示のポリマーナノ粒子のインドール吸着能測定結果。
【
図11】表4並びに表1及び表3のポリマーナノ粒子のインドール吸着能測定結果。
【
図12】表5の本開示の(架橋度の異なる)ポリマーナノ粒子のインドール吸着能測定結果。
【
図13】表6(TBAm80%)の本開示のポリマーナノ粒子のインドール吸着能測定結果。
【
図14】表6(5FPAA80%)の本開示のポリマーナノ粒子のインドール吸着能測定結果。
【
図15】表7の本開示のポリマーナノ粒子のインドール吸着能測定結果。
【
図16】表8の本開示のポリマーナノ粒子のインドール吸着能測定結果。
【
図17】表1の本開示のポリマーナノ粒子のインドール類似物質吸着能測定結果。
【
図18】表3の本開示のポリマーナノ粒子のインドール類似物質吸着能測定結果。
【
図19】表4の本開示のポリマーナノ粒子のインドール類似物質吸着能測定結果。
【
図20】表1のTBAm 80%+Bis 2%、表3の5FPAA 80% +Bis 2%、並びに表4のTBAm 40% +5FPAA 40% +Bis 2%及びTBAm 60%+5FPAA 20% +Bis 2%のポリマーナノ粒子のインドール類似物質吸着能測定結果。
【
図21】表6のポリマーナノ粒子のインドール類似物質吸着能測定結果。
【
図22】表7のポリマーナノ粒子のインドール類似物質吸着能測定結果。
【
図23】本開示のポリマーナノ粒子のPBS中における安定性評価。
【
図24】インドール類似物質との相互作用解析結果。
【
図26】膜透過性試験結果。A:TBAm80%、PAA80%、5FPAA80%、Comb.2、Comb.3、Comb.4、Comb.5、Comb.6の結果。対照としてPBSを用いた。B:TBAm80%、TBAm80%+APM5%、TBAm80%+AAc5%、5FPAA80%+APM5%、5FPAA80%+AAc5%の結果。対照としてPBSを用いた。
【
図29】In vivoにおけるインドール吸着能評価結果。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、インドール及びその誘導体吸着剤並びにインドール及びその誘導体吸着方法に関する。以下、本開示をさらに詳細に説明する。
【0013】
(インドール及びその誘導体吸着剤)
本開示において、「インドール及びその誘導体」とは、インドール及びインドール誘導体を意味する。インドール誘導体としては、例えば、スカトール、インドキシル硫酸、インドールアセトニトリル及びイサチンを意味する。
すなわち、本開示のインドール及びその誘導体吸着剤は、インドール、スカトール、インドキシル硫酸、インドールアセトニトリル及びイサチンを吸着、より好ましくは選択的に吸着できる。
インドール誘導体には、尿毒素として作用するものがある。尿毒素としては、例えば、インドキシル硫酸等が挙げられる。
【0014】
(インドール及びその誘導体吸着剤に含有する共重合体)
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤に含有する共重合体(以下、本開示の共重合体と称する場合がある。)は、少なくとも、下記式(1)で表される単量体に基づく構成単位(疎水性単量体)を含む。
【0015】
【0016】
式(1)中、R8は水素原子、炭素数1~3の直鎖アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、ブチル基等)又は分岐アルキル基(例えば、イソプロピル基等)であり、好ましくは水素原子、メチル基である。R9及びR10は、それぞれ独立して、水素原子、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基(アントリル基)、tert-ブチル基、炭素数4以上の直鎖アルキル基(例えば、ブチル基、ペンチル基、ドデシル基、テトラデシル基等)、分岐アルキル基(例えば、tert-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソデシル基等)、環状アルキル基(例えば、シクロブチル基、ナフチル基、アントラセニル基等)、下記式(2)で示される単位、カルボキシメチル基、又は下記式(3)で示される単位であり、好ましくはR9、R10の一方が水素原子、メチル基であり、他方がtert-ブチル基、下記式(2)で示される構成単位、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基、カルボキシメチル基、又は下記式(3)で示される構成単位である。
さらに、R9及びR10は、上記の他、それぞれ独立して、一方が水素原子、他方が式(1)中のN(窒素原子)と共に疎水性アミノ酸残基を形成してもよい。疎水性アミノ酸残基としては、例えば、グリシン、トリプトファン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、アラニン、バリン、L-バリン、ロイシン、イソロイシン又はそれらの誘導体(例えば、N-エチルグリシン、N-メチルバリン、アロ-イソロイシン等)が挙げられるが、好ましくはグリシン、L-バリン、ロイシンである。ただし、必要に応じて、R8、R9及びR10がすべて水素原子は除く。
式(1)で表される構成単位を導く単量体(モノマー)としては、例えば、TBAm(N-tert-ブチルアクリルアミド)、PAA(N-フェニルアクリルアミド)、3FPAA(2,4,6-トリフルオロフェニルアクリルアミド)、5FPAA(ペンタフルオロフェニルアクリルアミド)、N-アクリロイルグリシン、N-アクリロイルL-バリン、N-アクリロイルL-ロイシン等が挙げられる。
【0017】
【0018】
式(2)中、R3~R7は各々独立して、水素原子、フッ素原子、電子吸引基(例えば、ニトロ基、ハロゲン基等)、ヒドロキシル基、硫酸基、メチル基又はメトキシ基であり、好ましくは水素原子、フッ素原子、電子吸引基、ヒドロキシル基、硫酸基である。
式(2)で表される構成単位としては、例えば、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基等が挙げられる。
また、その他の疎水性単量体としては、スチレン、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、等を例示することができる。
【0019】
【0020】
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤に用いる式(1)で表される単量体の使用量は、本開示の共重合体を合成するための単量体組成物全体を100mol%とすると、1~90mol%であればよく、例えば、2~85mol%、10~80mol%、55~85mol%、60~80mol%又は15~65mol%でもよく、好ましくは15~70mol%である。
【0021】
本開示の共重合体は、下記式(4)で表される単量体に基づく構成単位(基盤となる単量体)を含んでもよい。
【0022】
【0023】
式(4)中、R1は水素原子、炭素数1~3の直鎖アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、ブチル基等)又は分岐アルキル基(例えば、イソプロピル基等)であり、好ましくは水素原子、メチル基である。R2は炭素数1~3の直鎖アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、ブチル基等)又は分岐アルキル基(例えば、イソプロピル基等)であり、好ましくはイソプロピル基である。
式(4)で表される構成単位(基盤となる単量体)を導く単量体としては、例えば、NIPAm(N-イソプロピルアクリルアミド)等が挙げられる。
式(4)で表される単量体(例えば、N-イソプロピルアクリルアミド)の使用量は、本開示の共重合体を合成するための単量体組成物全体を100mol%とすると、5~90mol%であればよく、例えば、10~60mol%、15~60mol%、10~40mol%、13~38mol%又は15~40mol%でもよく、好ましくは15~80mol%である。
【0024】
(架橋作用を有する単量体)
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤に含有する共重合体は、架橋作用を有する単量体に基づく構成単位を含んでもよい。
架橋作用を有する単量体としては、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(Bis)、ジビニルベンゼン、Poly (ethylene glycol) diacrylate(PEG, 分子量250、575、700、1000、2000、6000、10000)、ヒドロキシエチルジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリラート(PEGDMA)、ポリエチレングリコールジアクリラート(PEGDA)、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(Bis-GMA)、N,N'-エチレンビスアクリルアミド(EBA)、ジメタクリロキシエチル2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジウレタン(UDMA)、1,6-ビス-[2-メタクリロキシエトキシカルボニルアミノ]-2,2,4-トリメチルへキサン(UEDMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、グリセロールジメタクリレート(GDM)、メタクリロイルオキシエチルマレエート(MEMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)、ヘキサンジオールジメタクリレート(HDMA)、ヘキサンジオールジアクリレート(DHHA)、アルコキシル化シクロヘキサンジメタノールジアクリラート、ジペンタエリトリトールペンタアクリラート、エトキシ化(9)トリメチロールプロパントリアクリラート、エトキシ化(15)トリメチロールプロパントリアクリラート、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン樹脂、トリメチロールプロパントリアクリラート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(EOTMPTA)、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(EBPADMA)、ピペラジンジアクリルアミド等が挙げられる。
架橋作用を有する単量体の使用量は、本開示の共重合体を合成するための単量体組成物全体を100mol%とすると、1~50mol%であればよく、例えば、1~45mol%、1~40mol%又は1~30mol%でもよく、好ましくは2~30mol%である。
【0025】
(正電荷作用を有する単量体)
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤に含有する共重合体は、正電荷作用を有する単量体に基づく構成単位を含んでもよい。
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤に用いる正電荷作用を有する単量体としては、分子中に正電荷を有する単量体であれば特に限定されないが、N-(3-アミノプロピル)メタクリルアミド、N-[3-(dimethylamino)propyl]methacrylamide (DMAPM)、N-(2-aminoethyl)methacrylamide(エチレンジアミン)、N-[2-[(2-aminoethyl)amino]ethyl]-2-methyl(ジエチレントリアミン)等が挙げられる。
正電荷作用を有する単量体の使用量は、本開示の共重合体を合成するための単量体組成物全体を100mol%とすると、0.5~15mol%であればよく、例えば、0.5~12.5mol%、0.5~10mol%又は0.5~7.5mol%でもよく、好ましくは1~10mol%である。
【0026】
(負電荷作用を有する単量体)
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤に含有する共重合体は、負電荷作用を有する単量体に基づく構成単位を含んでもよい。
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤に用いる負電荷作用を有する単量体としては、分子中に負電荷を有する単量体であれば特に限定されないが、アクリル酸、スルホ基を有する単量体、硫酸モノマー、2-acrylamido-2-methylpropane sulfonic acid等が挙げられる。
負電荷作用を有する単量体の使用量は、本開示の共重合体を合成するための単量体組成物全体を100mol%とすると、0.5~15mol%であればよく、例えば、0.5~12.5mol%、0.5~10mol%又は0.5~7.5mol%でもよく、好ましくは1~10mol%である。
【0027】
(共重合体の調製に用いる界面活性剤)
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤に含有する共重合体は、各単量体を混合した重合反応開始前の単量体組成物等に界面活性剤を添加して調製することができる。
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤に含有する共重合体の調製に用いる界面活性剤としては、特に限定されないが、SDS、CTAB、両親倍性の界面活性剤等が挙げられる。
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤に含有する共重合体の調製に用いる界面活性剤の使用量は、本開示の共重合体を合成するための単量体組成物に対し、終濃度で、0.1~10mg/mLであればよく、例えば、0.1~8mg/mL、0.2~5mg/mL又は1~5mg/mLでもよく、好ましくは0.1~5mg/mLである。
【0028】
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤に含有する共重合体の好ましい例示は、以下の通りである。
0%~98%NIPAm+1%~80%TBAm+1%~40%Bis、18%~78%NIPAm+20%~80%PAA+2%~10%Bis、18%~78%NIPAm+20%~80%3FPAA+2%~10%Bis、18%~78%NIPAm+20%~80%5FPAA+2%~10%Bis、18%~58%NIPAm+20%~60%TBAm+20%~60%5FPAA+2%~10%Bis、8%~17%NIPAm+70%~90%TBAm+1%~10%Bis+1%~10%APM、8%~17%NIPAm+70%~90%TBAm+1%~10%Bis+1%~10%Aac、8%~17%NIPAm+70%~90%5FPAA+1%~10%Bis+1%~10%APM、8%~17%NIPAm+70%~90%5FPAA+1%~10%Bis+1%~10%Aac、8%~17%NIPAm+40%~60%TBAm+20%~40%5FPAA+2%~10%Bis+1%~10%Aac、1%~98%NIPAm+0%~80%TBAm+0%~80%5FPAA+1%~40%Bis、1%~98%NIPAm+0%~80%TBAm+0%~80%5FPAA+1%~40%Bis+1%~10%AAc、1%~98%NIPAm+0%~80%TBAm+0%~80%5FPAA+1%~40%Bis+1%~10%APM、1%~98%NIPAm+1%~80%PAA+1%~40%Bis、1%~98%NIPAm+20%~80%PAA+1%~40%Bis。
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤に含有する共重合体のより好ましい例示は、以下の通りである。
8%~28%NIPAm+70%~90%5FPAA+2%~10%Bis、8%~28%NIPAm+70%~90%TBAm+2%~10%Bis、8%~28%NIPAm+20%~60%TBAm+20%~60%5FPAA+2%~10%Bis、8%~17%NIPAm+70%~90%TBAm+1%~10%Bis+1%~10%Aac、8%~17%NIPAm+70%~90%5FPAA+1%~10%Bis+1%~10%Aac、8%~28%NIPAm+1%~80%TBAm+1%~80%5FPAA+2%~10%Bis+1%~10%AAc、8%~28%NIPAm+1%~80%TBAm+1%~80%5FPAA+2%~10%Bis+1%~10%APM、1%~48%NIPAm+0%~80%TBAm+0%~80%5FPAA+1%~10%Bis、1%~48%NIPAm+0%~80%TBAm+0%~80%5FPAA+1%~10%Bis+1%~10%AAc、1%~48%NIPAm+0%~80%TBAm+0%~80%5FPAA+1%~10%Bis+1%~10%APM。
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤に含有する共重合体の特に好ましい例示は、以下の通りである。
8%~28%NIPAm+1%~80%TBAm+1%~80%5FPAA+2%~10%Bis。
8%~28%NIPAm+10%~80%TBAm+10%~80%5FPAA+2%~10%Bis+1%~10%AAc。
8%~28%NIPAm+10%~80%TBAm+10%~80%5FPAA+2%~10%Bis+1%~10%APM。
【0029】
(インドール及びその誘導体吸着剤の効果)
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤を服用することにより、肝臓におけるインドールからのインドキシル硫酸への変換が抑制され、インドキシル硫酸が血中に蓄積して慢性腎不全の進行が促進されることを防止することができる。これにより、本開示のインドール及びその誘導体吸着剤は、尿毒症の予防・治療、腎不全の予防・治療に効果を有する。
特に、本開示のインドール及びその誘導体吸着剤は、消化管でインドールを吸着し、さらに迅速に体外に排出されて、安全性が高い。
さらに、本開示のインドール及びその誘導体吸着剤は、投与されてから24時間後において体外に約50%以上、約60%以上、約70%以上、約75%以上、約80%以上、又は約83%以上排出される。
【0030】
(インドール及びその誘導体吸着剤の剤型)
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤は、自体公知の添加剤を含有してもよい。
本開示のインドール及びその誘導体吸着剤の剤型は、特に限定されず、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤等である。
【0031】
(インドール及びその誘導体吸着方法)
本開示のインドール及びその誘導体吸着方法は、哺乳類(特に、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ)に経口投与により投与できる。経口投与方法は、例えば、成人1日あたり、本開示のインドール及びその誘導体吸着剤に含有する共重合体に換算して、100 mg/日~10000 mg/日、500 mg/日~8000 mg/日、又は1000 mg/日~8000 mg/日で投与することができる。また、1日あたりの投与量を1回又は数回に分けて摂取することもできる。
また、非経口投与の方法は、静脈注射、筋肉注射、皮下注射などが挙げられる。
【0032】
以下に具体例を挙げて本開示を詳細に説明するが、本開示はこれらの例に限定されない。
【実施例1】
【0033】
(本開示の共重体の調製)
本開示の共重合体の調製方法は以下の通りである。
【0034】
(5FPAAの調製)
Na2CO3(和光純薬工業)1.157g (2等量, 10.92 mmol) をスターラーバーの入った三ツ口ナス型フラスコに秤量した後、AcryloylChloride(東京化成)0.998 g(2等量,10.92 mmol)と共に、DDW 1 mLに溶解した。
三ツ口フラスコの中央の口に滴下ロートを取り付け、残り二つの口はゴム栓をした後、氷塩浴につけ冷却した。滴下ロートにはアセトン1.5 mL、Pentafluoroaniline(東京化成工業) 573 μL (5.46mmol) を加え、ゴム栓をした後、15分間窒素ガスを流し、窒素雰囲気下とした。ゆっくりと滴下した後、氷塩浴を外し24時間反応させた。濃縮後、Dichloromethane 20mLで3回抽出を行い、Na2SO4(和光純薬工業)を適当量入れ1時間攪拌することで脱水した。濃縮後、カラムクロマトグラフィー (Silica gel 60N 球状・中性 40~50 μm, 関東化学) による分離を行った。
【0035】
(N-アクリロイルグリシンの調製)
N-アクリロイルグリシンを合成するため、以下の通り、塩化アクリル及びグリシンt-ブチルエステル塩酸塩の縮合反応によりN-アクリロイルグリシンt-ブチルエステルを合成し、続いてt-ブチル基を脱保護した(
図1)。
【0036】
〇N-アクリロイルグリシンt-ブチルエステルの合成
t-ブチル塩化グリシン(3.4 g、20 mmol)を、磁性のスターラーバーを入れて氷上冷却した200mL丸底フラスコにおいて、80 mLの1,4-ジオキサン及び9.2 mL(66 mmol)のトリエチルアミン(TEA)中に懸濁した。塩化アクリル(4.8 mL、60 mmol)を、氷上で5分を超えて、懸濁液に滴下した。室温まで温めた後、混合物を1時間撹拌した。N-アクリロイルグリシンt-ブチルエステルを、酢酸エチルで1回抽出し、水で2回洗浄した。有機相中の水をMgSO4で除去し、溶液を減圧乾燥した。N-アクリロイルグリシンt-ブチルエステルを、シリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:1)により精製した。溶媒を蒸発させ、精製物を一晩減圧乾燥した(収率:39%、1.4 g)。1H-NMR(400 MHz、DMSO-d6)δ:8.43(d、1H)、6.27(dd、1H)、6.10(dd、1H)、5.62(dd、1H)、3.81(d、2H)、1.41(m、9H)。
【0037】
〇N-アクリロイルグリシンt-ブチルエステルの脱保護
460 mg(2.5 mmol)のN-アクリロイルグリシンt-ブチルエステルを5.0 mLのTFAに添加した。混合物を室温で15分間撹拌した。TFAを減圧下で蒸発させ、得られた油(oil)をトルエンと混合し、2回蒸発させて、残留TFAを除去した。生成物を一晩減圧乾燥した(収率:~100%)。1H-NMR(400 MHz、DMSO-d6)δ:8.43(d、1H)、6.29(dd、1H)、6.10(dd、1H)、5.64(dd、1H)、3.83(d、2H)。
【0038】
(N-アクリロイルL-バリンの調製)
N-アクリロイルL-バリンを合成するため、以下の通り、塩化アクリル及びL-バリンt-ブチルエステル塩酸塩の縮合反応によりN-アクリロイルL-バリンt-ブチルエステルを合成し、続いてt-ブチル基を脱保護した(
図2)。
【0039】
〇N-アクリロイルL-バリンt-ブチルエステルの合成
t-ブチル塩化L-バリン(4.2 g、20 mmol)を、磁性のスターラーバーを入れて氷上冷却した200mL丸底フラスコにおいて、80 mLの1,4-ジオキサン及び9.2 mL(66 mmol)のトリエチルアミン(TEA)中に懸濁した。塩化アクリル(3.2 mL、40 mmol)を、氷上で5分を超えて、懸濁液に滴下した。室温まで温めた後、混合物を1時間撹拌した。N-アクリロイルL-バリンt-ブチルエステルを、酢酸エチルで1回抽出し、水で2回洗浄した。有機相中の水をMgSO4で除去し、溶液を減圧乾燥した。N-アクリロイルL-バリンt-ブチルエステルを、シリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:5~1:2)により精製した。溶媒を蒸発させ、精製物を一晩減圧乾燥した(収率:33%、1.5 g)。1H-NMR(400 MHz、DMSO-d6)δ:8.24(d、1H)、6.43(dd、1H)、6.10(dd、1H)、5.62(dd、1H)、4.18(dd、1H)、2.05(ddd、1H)、1.41(s、9H)、0.88(m、6H)。
【0040】
〇N-アクリロイルL-バリンt-ブチルエステルの脱保護
150 mg(0.63 mmol)のN-アクリロイルL-バリンt-ブチルエステルを5.0 mLのTFAに添加した。混合物を室温で15分間撹拌した。TFAを減圧下で蒸発させ、得られた油(oil)をトルエンと混合し、2回蒸発させて、残留TFAを除去した。生成物を一晩減圧乾燥した(収率:~100%)。1H-NMR(400 MHz、DMSO-d6)δ:8.22(d、1H)、6.43(dd、1H)、6.10(dd、1H)、5.62(dd、1H)、4.25(dd、1H)、2.08(ddd、1H)、0.88(m、6H)。
【0041】
(本開示の共重合体の調製)
本開示の共重合体を、下記の表1~8に示す組成で調製した。より詳しくは、以下の手順で調製した。
(1)NIPAm(N-isopropylacrylamide、Sigma-Aldrich)、Bis{N,N’-methylenebis(acrylamide)、和光純薬工業}、AAc(Acrylic acid)及びAPM{N-(3-aminopropyl)methacrylamide}を、下記の(2)における最終濃度が下記の表1~8に示すmol%となるように秤量し、超純水に溶解した。溶解時の総モノマー濃度(mM)は、表3の5FPAA 20% +Bis 2%、5FPAA 40% +Bis 2%、5FPAA 60% +Bis 2%、表4及び表7の各各組成物が65 mM、表3の5FPAA 80% +Bis 2%が30 mM、それ以外は全て100 mMである。
また、TBAm(N-tert-butylacrylamide、和光純薬工業)、PAA(N-phenyacrylamide、東京化成工業)及び5FPAAを、下記の(2)における最終濃度が下記の表1~8のmol%となるように秤量し、TBAmはエタノールに、PAA及び5FPAAはアセトンに、それぞれ500μLを超えない容量で溶解した。
(2)上記の(1)の各溶液{表8に記載の共重合体のうち、SDSなしの粒子を除く}に、SDS(Sodium dodecylsulfate、Sigma-Aldrich)を0.2 mg/mL となるように加えた。なお、APM を含む場合は、SDSではなくCTAB (0.2 mg/mL) を使用した。
この際、5FPAAが析出した場合に限り、アセトンを5FPAAが溶けるまで加えた。
(3)この溶液をスターラーバーの入ったナス型フラスコに移し、ゴム栓をした。ゴム栓に針{テルモ注射針23G (TERUMO)}、スター針 (星盛堂医療器工業) を刺し、65℃のオイルバス中で、水溶液を15分間窒素置換した。
この際、5FPAA が析出した場合に限り、アセトンを5FPAAが溶けるまで加え、更に10分間窒素置換した。
(4)APS(Ammonium persulfate、Sigma-Aldrich)を超純水に溶解し、2.63 mMとなるよう水溶液に添加することで反応を開始した。3時間後にゴム栓を外し、反応を停止させた後、透析膜 (Spectra/Por 4、 MWCO 12-14kD、 Spectrum Laboratories)に反応液を入れた。12 時間ごとに8 回超純水を変えることで、未反応のモノマーを透析した。
透析後の溶液は、ポリプロピレンコニカルチューブ (FALCON) に回収した。また、透析後の溶液1 mLをエッペンドルフチューブに回収し、2日間凍結乾燥機 (FDU-2200、 EYELA) を用いて凍結乾燥した後に質量を測定することで濃度を求めた。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【実施例2】
【0050】
(本開示の共重合体の性質評価)
実施例1で調製した共重合体の性質を評価した。
共重合体のサイズ(nm)及びPdI(polydispersityindex:PDI)は、動的光散乱法により測定した。共重合体の表面電荷(mV、ゼータ電位I)は、レーザードップラー法により測定した。共重合体の収率(%)は、凍結乾燥重量法により測定した。
【0051】
表1、表2及び表3の共重合体の測定結果を
図3に示す。
表4の共重合体の測定結果を
図4に示す。
表2及び表5の共重合体の測定結果を
図5及び
図6に示す。
表6の共重合体の測定結果を
図7に示す。
表7の共重合体の測定結果を
図8に示す。
表8のうち、SDSなしの共重合体(比較例)の測定結果を
図9に示す。
図3~
図8より、本開示の共重合体のPdI(polydispersity index)の数値は、十分に小さいことから、粒子の均一性が高い(同じサイズの粒子が存在している割合が高い)ことが確認できた。
粒子のサイズは、1000nm未満であった。粒子のサイズは、組成が同じであれば小さい方が吸着率が高い。例えば、同じ組成で粒子のサイズが数百ナノメートルのものと数千ナノメートルのモノを比べると、数百ナノメートルの方が吸着率は高い。粒子の大きさが異なるとインドールの吸着率が異なるため、PdIが大きいほど、吸着が良いものと悪い物が混在していることを意味する。
よって、本開示の共重合体は、粒子が小さく、かつ、均一性が高いため、吸着率が安定して優れていることを意味する。
表面電荷は、表6のTBAm 80%+Bis 2%+APM5%、TBAm 80% +Bis2%+APM 10%、5FPAA 80%+Bis 2%+APM1%、5FPAA80%+Bis2%+APM5%、5FPAA 80%+Bis 2%+APM 10%は、正電荷であった(
図7)。それ以外は負電荷であった。
また、
図9から明らかなように、SDSなしで共重合体を合成すると、粒子のサイズ及びPdIが大きくなることを確認した。
以上より、表1~表8の本開示の共重合体は、いずれも、インドール吸着に適した性質を示した。
【実施例3】
【0052】
(インドール吸着能の評価)
以下の通り、実施例1で調製した共重合体のインドール吸着能を評価した。
【0053】
(インドール検量線の作成)
インドール(Indole、東京化成工業)を、0, 0.49,0.98, 1.95, 3.91, 7.81, 15.63, 31.25 μg/mL の濃度となるように、12.5mM Phosphate buffer (pH 7.4) に45℃、20分間超音波処理で溶解した。紫外可視吸光度計 (SmartSpecTM3000, BIO-RAD) を用いて279 nmの吸光度を測定することでインドール検量線を作成した。
その結果、以下の検量線を得た(検量線の式中のxの単位はμg/mLである。以下同じ)。
y=0.0348x-0.0081、R2=0.9996
【0054】
(本開示の共重合体のインドール吸着能の測定)
以下の手順でインドール吸着能を測定した。
(1)インドールを、20 μg/mLの濃度となるように、25mM Phosphate buffer (pH 7.4) に45℃、20分間超音波処理で溶解し、インドール溶液を調製した。
(2)実施例1で調製した共重合体を、超純水に懸濁し、5.0 mg/mL懸濁液(本開示の共重合体懸濁液)とした。
(3)インドール溶液500 μLを、本開示の共重合体懸濁液500 μLと混合した。この混合液を10秒室温でインキュベート(10秒間相互作用)した。
(4)超遠心機 (GS120GXL,HITACHI) を用いて実施例1で調製した共重合体を沈降 (368,000 x g, 15 min, 37 °C) させた。その後、上清について、紫外可視吸光度計 (SmartSpecTM3000, BIO-RAD) を用いて279 nmの吸光度を測定した。上清に残った結合していないインドール濃度を、上記のインドール検量線を用いて吸光度から求めた。
(5)本開示の共重合体のインドール吸着率(%)を下記の式を用いて算出した。下記の式中、Ccontrolは、上記(3)の相互作用開始前の混合液中のインドール濃度(10 μg/mL)であり、Cfreeindoleは、上記の(4)で求めた上清に残った結合していないインドール濃度である。
インドール吸着率(%)=(Ccontrol-Cfree indole)/Ccontrol×100
【0055】
(クレメジンのインドール吸着能の測定)
以下の手順でクレメジンのインドール吸着能を測定した。
(1)上記の(本開示の共重合体のインドール吸着能の測定)に準じて、20 μg/mLインドール溶液を調製した。
(2)インドール溶液500 μLに超純水500 μLとクレメジン2.5 mgを加え、10 秒間室温でインキュベート(10秒間相互作用)した。
(3)クレメジンを除き、超遠心機(GS120GXL, HITACHI) を用いて超遠心処理(368,000 x g, 15 min, 37 °C) した。その後、上清について、紫外可視吸光度計 (SmartSpecTM3000, BIO-RAD) を用いて279 nmの吸光度を測定した。上清に残った結合していないインドール濃度を、上記のインドール検量線を用いて吸光度から求めた。
(4)本開示の共重合体のインドール吸着率(%)を下記の式を用いて算出した。下記の式中、Ccontrolは、上記(2)の相互作用開始前の混合液中のインドール濃度(10 μg/mL)であり、Cfreeindoleは、上記の(3)で求めた上清に残った結合していないインドール濃度である。
インドール吸着率(%)=(Ccontrol-Cfree indole)/Ccontrol×100
【0056】
クレジメン、並びに、表1、表2及び表3の共重合体のインドール吸着能の測定結果を
図10に示す。
表4、並びに、表1及び表3の共重合体の測定結果を
図11に示す。
表1及び表5の共重合体の測定結果を
図12に示す。
表6の共重合体の測定結果を
図13及び
図14に示す。
表7の共重合体の測定結果を
図15に示す。
表8の共重合体の測定結果を
図16に示す。
図10から明らかなように、疎水性モノマーとしてTBAm、PAA、又は5FPAAを使用した、いずれの場合も、合成に用いた疎水性モノマー濃度依存的(疎水性モノマーの組み込み率依存的)にインドール吸着率が上昇した。
図11から明らかなように、疎水性モノマーとしてのTBAm及び5FPAAの組合せは、それぞれTBAmおよび5FPAA単独の場合と比較して、インドール吸着率が上昇した。
図12から明らかなように、本開示の共重合体は、架橋剤であるBisの濃度が2%の場合に、最も吸着率が高かった。
図13及び
図14から明らかなように、疎水性モノマーとしてTBAm又は5FPAAを使用した、いずれの場合も、正電荷を付与するAPM、又は負電荷を付与するAAcによる濃度依存的な影響はみられなかった。よって、本開示の共重合体とインドールの相互作用は、少量の荷電モノマーを含んだとしても影響を受けにくいことが示唆された。
図16から明らかなように、SDSありの粒子(本開示の共重合体)は、SDSなしの粒子と比較して、吸着率が高かった。すなわち、インドール吸着のみを考慮するとSDSなしよりSDSありの方が、より好ましい。
SDSを入れて粒子を合成すると数百ナノサイズの粒子ができ、SDSをいれないで粒子を合成すると数千ナノサイズ(マイクロサイズ)の粒子ができる。マイクロサイズの粒子と比較すると、数百ナノサイズの粒子の方が吸着率が高いと考えられる。
【実施例4】
【0057】
(本開示の共重合体の吸着選択性試験)
以下の手順で吸着選択性試験を行った。
【0058】
(検量線の作成)
実施例3の(インドール検量線の作成)に準じて以下の各化合物(インドール類似物質)の検量線を作成した。
その結果、以下の検量線を得た。
トリプトファン(L-tryptophan、東京化成工業):y=0.0236x+0.0172、R2=0.9995
インドール酢酸(Indoleacetic acid、関東化学):y=0.0270x+0.0216、R2=0.9986
トリプタミン(Tryptamine、Sigma-Aldrich):y=0.0275x+0.0128、R2=0.9995
シアノコバラミン(Cyanocobalamin:ビタミン12、東京化成工業):y=0.0162x-0.0021、R2=0.9998
【0059】
(本開示の共重合体のインドール類似物質吸着率の測定)
実施例3の(本開示の共重合体のインドール吸着能の測定)に準じて、インドール類似物質に対する吸着能を測定した。但し、Cyanocobalaminに関しては361 nmの吸光度を測定することで濃度を算出した。
【0060】
表1の共重合体のインドール類似物質に対する吸着能の測定結果を
図17に示す。
表3の共重合体のインドール類似物質に対する吸着能の測定結果を
図18に示す。
表4の共重合体のインドール類似物質に対する吸着能の測定結果を
図19に示す。
表1のTBAm 80% +Bis 2%、表3の5FPAA 80% +Bis 2%、並びに表4のTBAm 40%+5FPAA 40% +Bis 2%及びTBAm 60% +5FPAA20% +Bis 2%の共重合体のインドール類似物質に対する吸着能の測定結果を
図20に示す。
表6の共重合体のインドール類似物質に対する吸着能の測定結果の一部を
図21に示す。
表7の共重合体のインドール類似物質に対する吸着能の測定結果の一部を
図22に示す。
図17から明らかなように、疎水性モノマーとしてTBAmを使用した本開示の共重合体において、インドール類似物質に対する吸着率は、
図10に示したインドール吸着率と比較して顕著に低かった。例えば、表1のTBAm 20% +Bis 2%の共重合体において、トリプトファン吸着能は、インドール吸着能の20分の1未満であった。
図18から明らかなように、疎水性モノマーとして5FPAAを使用した本開示の共重合体において、インドール類似物質に対する吸着率は、
図10に示したインドール吸着率と比較して顕著に低かった。例えば、表3の5FPAA 60% +Bis 2%の共重合体において、トリプトファン吸着能は、インドール吸着能の6分の1未満であった。
図19から明らかなように、疎水性モノマーとしてのTBAm及び5FPAAの組合せは、それぞれTBAm及び5FPAA単独の場合(
図18及び
図19)と比較して、インドール類似物質に対する吸着率がさらに低下した。その中でも、表4のTBAm 20% +5FPAA 60% +Bis 2%の共重合体が最もインドール類似物質に対する吸着率が低かった。
図20から明らかなように、疎水性モノマーとしてTBAm、5FPAA又はTBAm及び5FPAAの組合せを使用した本開示の共重合体において、
図20に記載の化合物の吸着能がインドール吸着能と比較して顕著に低かった。これは、インドールが疎水性であるのに対しトリプトファンが親水性であること、インドールが中性であるのに対しトリプタミンが塩基性であること、並びに、インドールが低分子であるのに対しビタミンB12が高分子であることに起因して、トリプタミン及びビタミンB12に対する吸着能が低下したと考えられる。
図21及び
図22から明らかなように、本開示の共重合体は、正電荷作用を有する単量体としてAPM又は負電荷作用を有する単量体としてAAcを使用した場合、それぞれ、インドール類似物質に対する吸着率は、
図13及び
図14に示したインドール吸着率と比較して顕著に低かった。
以上より、本開示の共重合体は、インドール類似物質に対する吸着能がインドール吸着能と比較して顕著に低いことから、インドール選択性が高いことが確認できた。さらに、疎水性モノマーとしてのTBAm及び5FPAAの組合せは、インドール選択性をさらに向上できることを確認した。その中でも、表4のTBAm 20% +5FPAA 60% +Bis 2%の共重合体のインドール選択性が特に高かった。本開示の共重合体は、上記の通り、高い選択性(特異性)を有するため、食前・食中・食後において、安全に服用することが可能である。
【実施例5】
【0061】
(本開示の共重合体のPBS中における安定性評価)
10 x PBS(NaCl:80 g、KCl:2 g、Na2PO4・12H2O:36.3 g、KH2PO4:2.4 gを超純水に溶解し、5N HClでpH 7.4に調整)を調製し、10倍希釈した1 xPBSを以下の試験に用いた。
以下の手順で、本開示の共重合体のPBS中の凝集性を評価した。
(1)表1のTBAm 80% +Bis2%の共重合体、表3の5FPAA 80% +Bis 2%の共重合体、及び表6の共重合体を、それぞれ最終濃度100 μg/mLとなるように、水(超純水、非凝集状態を示すコントロール)又は1x PBS中に溶解し、37 °Cで24時間静置した。
(2)粒子径(size)と多分散指数(PDI)を、Zeta-Sizer Nano-ZS(Malvern Instruments) を用いて測定した。
【0062】
結果を
図23に示す。
図23から明らかなように、表3の5FPAA80% +Bis 2%の共重合体、表4のTBAm 20% +5FPAA60%+Bis2%及び表6のTBAm 80% +Bis 2%+AAc 5%、5FPAA 80%+Bis 2%+AAc 1%、5FPAA 80%+Bis 2%+AAc 5%、及び5FPAA 80%+Bis 2%+AAc 10%は、1 x PBS中に溶解したとき、水に溶解したとき(非凝集状態)と同等の粒子径であり、凝集しなかったことを示した。
よって、本開示の共重合体は、PBS中で優れた安定性を有する(凝集しない)ことを確認できた。上記の表6のTBAm 80% +Bis 2%+AAc 5%、5FPAA 80%+Bis 2%+AAc 1%、5FPAA 80% +Bis 2%+AAc 5%、及び5FPAA 80%+Bis 2%+AAc 10%の結果においては、電荷モノマーであるAAcが本開示の共重合体に負電荷を供与することにより、コロイドの安定性が高まったと考えられる。さらに、負電荷にすると、粒子の血管や腸壁等への吸着を防ぐことができるため、安全性が高まる。粒子が凝集すると、体内の腸管壁に粒子が引っ掛かり、排泄が遅くなる等の悪影響が生じ得る。PBSには大量の塩が含まれており、溶液に塩が存在する点で生理的条件に近い。塩が存在すると電荷のある粒子は凝集しやすくなる。すなわち、PBS中で凝集しないということは、腸内でも凝集しにくいと考えられる。よって、PBSの厳しい条件下で凝集しない本開示の共重合体は、安全性が極めて高いことが確認できた。
【実施例6】
【0063】
実施例1と同様の方法により本開示の共重合体を調製した。組成を下記の表9に示す。
【0064】
【実施例7】
【0065】
(本開示の共重合体のインドール類似物質との相互作用解析)
以下の手順により実施例6で調製した共重合体の吸着選択性試験を行った。対照としてクレジメンを用いた。
【0066】
(検量線の作成)
実施例3の(インドール検量線の作成)に準じて以下の各化合物(インドール類似物質)の検量線を作成した。
その結果、以下の検量線を得た。
トリプトファン(L-tryptophan、東京化成工業):y=0.0236x+0.0172、R2=0.9995
インドール酢酸(Indoleacetic acid、関東化学):y=0.0270x+0.0216、R2=0.9986
トリプタミン(Tryptamine、Sigma-Aldrich):y=0.0275x+0.0128、R2=0.9995
シアノコバラミン(Cyanocobalamin:ビタミン12、東京化成工業):y=0.0162x-0.0021、R2=0.9998
【0067】
(本開示の共重合体のインドール類似物質吸着率の測定)
実施例3の(本開示の共重合体のインドール吸着能の測定)に準じて、インドール類似物質に対する吸着能を測定した。
より詳しくは以下の通りである。
(1)トリプトファン、インドール酢酸、トリプタミン及びシアノコバラミンを、それぞれ10 μg/mLの濃度となるように、25mM Phosphate buffer (pH 7.4) に45℃、20分間超音波処理で溶解し、インドール類似物質溶液を調製した。
(2)実施例6で調製した共重合体Comb.5、Comb.5+AAc及びComb.5+APMを、超純水に懸濁し、2.5 mg/mL懸濁液(本開示の共重合体懸濁液)とした。
(3)インドール類似物質溶液500 μLを、本開示の共重合体懸濁液500 μLと混合した。この混合液を3時間37℃でインキュベート(3時間相互作用)した。
(4)超遠心機 (GS120GXL、HITACHI) を用いて実施例6で調製した共重合体を沈降 (368,000 x g、15 min、37℃) させた。その後、上清について、紫外可視吸光度計 (SmartSpecTM3000, BIO-RAD) を用いて279 nmの吸光度を測定した。但し、シアノコバラミンに関しては361 nmの吸光度を測定した。上清に残った、吸着剤に結合していないインドール類似物質濃度を、上記のインドール類似物質検量線を用いて吸光度から求めた。
(5)本開示の共重合体のインドール類似物質吸着率(%)を下記の式を用いて算出した。下記の式中、Ccontrolは、上記(3)の相互作用開始前の混合液中のインドール濃度(10 μg/mL)であり、Cfreeindoleは、上記の(4)で求めた上清に残った結合していないインドール濃度である。
インドール吸着率(%)=(Ccontrol-Cfree indole)/Ccontrol×100
【0068】
共重合体Comb.5、Comb.5+AAc及びComb.5+APMのインドール類似物質に対する吸着能の測定結果を
図24に示す。
図24から明らかなように、疎水性モノマーとしてTBAm及び5FPAAを使用した本開示の共重合体Comb.5、Comb.5+AAc及びComb.5+APMにおいて、インドール類似物質のトリプトファン、インドール酢酸、トリプタミン及びシアノコバラミンに対する吸着率は、クレジメンのインドール類似物質吸着率と比較して顕著に低かった。
以上により、本開示のインドール及びその誘導体吸着剤は、インドールを選択的に吸着できることを確認した。
【実施例8】
【0069】
(膜透過性試験)
以下の手順により実施例6で調製した共重合体の膜透過性試験を行い、インドール吸収阻害能を評価した。
【0070】
(1)コラーゲンをコートしたTranswell™にヒト結腸癌由来細胞株であるCaco-2細胞を2.0 × 10
5cells/insertとなる様に播種した。
(2)MITO+™ Serum Extender含有Basal Seeding Mediumで24時間インキュベートした。
(3)MITO+™ Serum Extender を含むEntero-STIM DifferentiationMediumに培地を変え、48時間インキュベートすることでCaco-2細胞の単層膜を形成させた。単層膜は電気抵抗値が600 ohm cm
2以上となっていることで確認した。
(4)
14C標識インドール(5.0 μg/mL、370 Bq) と実施例6で調製した共重合体TBAm80%、PAA80%、5FPAA80%、Comb.2、Comb.3、Comb.4、Comb.5、Comb.6、TBAm80%+APM5%、TBAm80%+AAc5%、5FPAA80%+APM5%及び5FPAA80%+AAc5%を、PBSに懸濁し、5.0 mg/mL懸濁液(本開示の共重合体懸濁液)とした。
(5)本開示の共重合体懸濁液をそれぞれ300 μLのHBSSを含むインサート{細胞を播種した容器。該容器内に上側(apical)コンパートメントを形成する。}に添加した。ウェル{該ウェル内かつインサートの外側に下側(basolateral)コンパートメントを形成する。}にHBSSを1 ml添加した(参照:
図25)。対照としてPBS(溶媒のみ)を用いた。
(6)6時間後にapical側からbasolateral側に移行したインドール量を液体シンチレーションカウンタ (LSC-3100、Aloka) にて測定した。
【0071】
結果を
図26に示す。
TBAm80%、PAA80%、5FPAA80%、Comb.2、Comb.3、Comb.4、Comb.5、Comb.6は、いずれも、basolateral側の放射活性がapical側の放射活性よりも低くなったことから、これらの共重合体がインドールを吸着することによりCaco-2細胞の単層膜のインドール吸収を阻害できたことを確認した(
図26A)。
TBAm80%、TBAm80%+APM5%、TBAm80%+AAc5%、5FPAA80%+APM5%、5FPAA80%+AAc5%の結果は、いずれも、basolateral側の放射活性がapical側の放射活性よりも低くなったことから、これらの共重合体がインドールを吸着することによりCaco-2細胞の単層膜のインドール吸収を阻害できたことを確認した(
図26B)。
本実施例は、Caco-2細胞の単層膜は小腸の円柱上皮細胞のモデルであり、apical側からbasolateral側への透過は消化管吸収を再現したものである。よって、本開示の共重合体は生体内毒素であるインドールの消化管吸収を阻害できることを確認した。
【実施例9】
【0072】
(細胞毒性試験)
以下の手順により実施例6で調製した共重合体の細胞毒性試験を行い、共重合体の細胞毒性を評価した。本試験は、Dojindo Cytotoxicity LDH assayKit-WSTを用いて行なった。
【0073】
(1)マウス内皮細胞様細胞(2H-11)を96well plate(3x103 calls/well)に播種した。
(2)24時間後に培地(DME-M high glucose、和光純薬工業)を新しく変え、実施例6で調製した共重合体TBAm80%、TBAm80%+APM5%、TBAm80%+AAc5%、5FPAA80%、5FPAA80%+APM5%、5FPAA80%+AAc5%、Comb.5、Comb.5+APM、Comb.5+AAc、Comb.6、Comb.6+APM及びComb.6+AAcをそれぞれ300 μg/mlとなるように添加した。コントロールとしては何も添加しない群を用意した。
(3)添加から24時間後に何も添加していない群にlysis buffer(lysis buffer群)を添加して、15分後に全ての群から上清100 μlを採取し、Dye Mixtureを添加して、室温で30分インキュベートした。
(4)stop solutionを50 μl加えて、490 nmの吸光度を測定し、乳酸脱水素酵素(LDH)活性を求めた。
【0074】
結果を
図27に示す。
TBAm80%、TBAm80%+APM5%、TBAm80%+AAc5%、5FPAA80%、5FPAA80%+APM5%、5FPAA80%+AAc5%、Comb.5、Comb.5+APM、Comb.5+AAc、Comb.6、Comb.6+APM及びComb.6+AAcは、いずれもlysis buffer群と比較して、LDH活性が極めて低くなったことから、細胞を損傷しないことを確認した。
LDHは生細胞では細胞質に留まっており、細胞が損傷することにより放出されるため細胞毒性の指標となる。よって、本開示の共重合体は細胞毒性が極めて低いことを確認した。
【実施例10】
【0075】
(体内動態評価)
以下の手順により実施例6で調製した共重合体の体内動態を評価した。
【0076】
(1)BALB/cマウス(5週齢、雄)に実施例6で調製した3H-標識共重合体{NIPAmの代わりに下記式(5)に示す3H-NIPAmを用いて合成した共重合体}を超純水に懸濁し、経口投与(50 kBq/mouse)した。
(2)24時間後、イソフルラン麻酔下にて血液を採取し、それぞれの臓器を採取した。
(3)血液は1000 g、15分4度にて遠心分離を行い、血漿サンプルを得た。血漿、それぞれの臓器、糞中の放射活性を液体シンチレーションカウンター(LSC-3100、Aloka)を用いて測定した。
【0077】
【0078】
結果を
図28に示す。
図28中の表記は、経口投与した
3H-標識共重合体の懸濁液の放射活性を100%とし、それぞれに何%移行したかを示しており、血漿(plasma)、心臓(heart)、肺(lung)、肝臓(liver)、脾臓(spleen)及び腎臓(kidney)は数値(%)が小さかったため、別窓で示した。
測定した放射活性より、本開示の共重合体の大部分が糞中に移行しており、血漿、心臓、肺、肝臓、脾臓及び腎臓中の存在量は極めて微量であった。
よって、本開示の共重合体は、高効率(少なくとも83.6%以上)かつ迅速に体外に排出され、安全性が高いことを確認した。
【実施例11】
【0079】
(In vivoにおけるインドール吸着能評価)
以下の手順により実施例6で調製した共重合体のin vivoにおけるインドール吸着能を評価した。
【0080】
(1)14C標識インドール(5 μg/mouse)と実施例6で調製した共重合体5FPAA80%、5FPAA80%+APM5%及び5FPAA80%+AAc5%(5 mg/mouse)を、超純水に懸濁し、30分間プレインキュベートした後、BALB/cマウス(5週齢、雄)に経口投与した。コントロールとしては14C標識インドール(5 μg/mouse)のみを添加した超純水を経口投与した。
(2)6時間後、イソフルラン麻酔下にて血液を採取し、それぞれの臓器を採取した。
(3)血液は1000 g、15分、4℃にて遠心分離を行い、血漿サンプルを得た。血漿、または各臓器中の放射活性を液体シンチレーションカウンター(LSC-3100、Aloka)を用いて測定した。
【0081】
結果を
図29に示す。
図29中の表記は、表記は、経口投与した
14C標識インドールの放射活性を100%とし、それぞれの臓器に何%移行したかを示している。
測定した放射活性より、
14C標識インドールは本開示の共重合体と経口投与することで体内への集積量が減少することを確認した。これは、共重合体が吸着材として機能し、消化管でインドールを吸着し、体外へ排泄していることを示している。
以上により、本開示の共重合体は、本実施例及び他の実施例により、選択的にインドールを吸着し、迅速に体外に排出されて、さらに安全性が高い。
【0082】
(結論)
以上の実施例から、本開示の新規なインドール及びその誘導体吸着剤は、以下のいずれか1以上の効果を有することを確認した。
(1)インドールを選択的に吸着できる。
(2)インドールを迅速に吸着できる。
(3)吸着率が安定している。
(4)毒性が低く、食前・食中・食後において、安全に服用することができる。
(5)高塩濃度でも凝集しない。
(6)迅速に体外に排出されて、安全性が高い。
(7)細胞毒性が低い。
【0083】
本開示は、新規なインドール及びその誘導体吸着剤を提供することができる。