(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】リチウム電極
(51)【国際特許分類】
C25B 11/075 20210101AFI20220614BHJP
C25B 11/031 20210101ALI20220614BHJP
C25B 11/042 20210101ALI20220614BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220614BHJP
H01M 4/02 20060101ALI20220614BHJP
H01M 4/74 20060101ALI20220614BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
C25B11/075
C25B11/031
C25B11/042
C25B9/00 A
H01M4/02 Z
H01M4/74
H01M4/66 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021096130
(22)【出願日】2021-06-08
(62)【分割の表示】P 2019562427の分割
【原出願日】2018-05-09
【審査請求日】2021-06-14
(31)【優先権主張番号】102017110863.7
(32)【優先日】2017-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506064072
【氏名又は名称】ツェントゥルム フューア ゾンネンエネルギー-ウント ヴァッサーシュトッフ-フォルシュング バーデン-ヴァルテムベルク ゲマインニュッツィヒ シュティフトゥング
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】イェリッセン ルートヴィヒ
(72)【発明者】
【氏名】アサンテ ジェリー バムフォ
(72)【発明者】
【氏名】ベーゼ オラフ
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/191140(WO,A1)
【文献】特開平03-166393(JP,A)
【文献】特開平03-075392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/00-11/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルワイヤの電気伝導性ニッケルメッシュ又はウェブを含む格子状ニッケルエキスパンドメタルと、前記ニッケルメッシュの前記ワイヤのみ又は前記ニッケルエキスパンドメタルの前記ウェブにのみに設けられた相互接着性の球形ナノポーラスニッケル
粒子で、前記ナノポーラスニッケル粒子が100~500nmの細孔開口部を有する多孔質構造体であるニッケル層とを備え、前記ニッケルメッシュ又は前記ニッケルエキスパンドメタルが開口しているニッケル電極であって、
a)球形水酸化ニッケル粒子を準備する工程と、
b)部分的に還元された球形Ni/NiO粒子を得るために、前記球形水酸化ニッケル粒子を還元雰囲気中、270~330℃の温度で部分的に還元する工程と、
c)得られたNi/NiO粒子、有機結合剤及び/又は無機結合剤、界面活性剤、並びに任意に、付加的な補助剤からペーストを製造する工程と、
d)前記ペーストをコーティングとして、前記電気伝導性ニッケルメッシュ又はニッケルエキスパンドメタルに塗工する工程と、
e)コーティングされた前記ニッケルメッシュ又はニッケルエキスパンドメタルを、還元雰囲気中、500~800℃の温度でアニーリングする工程と
を備える方法によって得られるニッケル電極。
【請求項2】
工程a)で準備される前記球形水酸化ニッケル粒子が、
0.3~75μmの平均粒径を有する請求項1に記載のニッケル電極。
【請求項3】
工程b)の部分還元が290~310℃の温度で実施される請求項1又は請求項2に記載のニッケル電極。
【請求項4】
工程b)の前記部分還元及び工程e)の前記アニーリングの両方が、10~100%水素、及び任意に不活性ガスを含む還元雰囲気中で実施される請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のニッケル電極。
【請求項5】
工程c)において、天然ポリマー及び/若しくは合成ポリマー又はその誘導体が有機結合剤として使用され、アンモニウム塩又はヒドラジン塩が無機結合剤として使用される請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のニッケル電極。
【請求項6】
工程c)において、前記界面活性剤の量が、前記ペーストの総重量に対して0.1~20重量%である請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のニッケル電極。
【請求項7】
工程c)において、前記ペーストを調製するために使用される界面活性剤が、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群から選択される請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のニッケル電極。
【請求項8】
前記ニッケル層が、
1~1,000μmの範囲の厚さを有する請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のニッケル電極。
【請求項9】
前記球形ナノポーラスニッケル粒子が、
0.1~25μmの平均粒径を有する請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のニッケル電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球形のナノポーラスニッケル粒子の高表面積ニッケル層を有するニッケル電極、このニッケル電極の製造方法、及び特に水電解用電極としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高温で接触圧を加えることなくニッケル表面にニッケル粒子の強接着層を作製することは困難である。形成される層は、通常、非常に簡単に基材から剥がれる。焼結プロセスは、高温で高い接触圧を必要とすることになり、それゆえ、複雑で費用がかかるプロセスを代表する。ニッケル焼結電極は、1928年以降、とりわけ、ニッケル-カドミウム蓄電池用に使用されてきており、800~1000℃の範囲の焼結温度を必要とする(AK Shukla,B.Hariprakash、SECONDARY BATTERIES - NICKEL SYSTEMS,Electrodes:Nickel. 407頁、Elsevier、2009)。
【0003】
米国特許第4,605,484号明細書は、クロム成分並びにニッケル及びコバルトのうちの少なくとも1つの金属の酸化物のコーティングを表面に有する電気伝導性基材を備える水素発生用電極を記載する。このコーティングは、複雑なプラズマ溶射プロセスによる溶射によって作製される。
【0004】
欧州特許出願公開第0226291A1号明細書は、電気伝導性基材及び金属酸化物のコーティングを備える水素発生用電極の耐用年数の延長方法を記載する。チタン又はニオブという金属成分が、例えば、水素発生の最中にアルカリ電解質に加えられる。電極上の金属酸化物コーティングは、例えばプラズマ溶射又はフレーム溶射によって作製することができる。
【0005】
独国特許出願公開第2002298号明細書は、多孔性ニッケル層を金属基材に設けることによる工業用の水電解用電極の製造方法を記載する。この多孔性ニッケル層は、アルカリ金属炭酸塩又はアルカリ炭酸水素塩の水溶液の中で陽極酸化され、得られた酸化生成物は、その後、微細に分散した金属ニッケルへと還元される。この多孔性ニッケル層は、金属粗面への金属ニッケルのフレーム溶射又はアーク溶射により作製される。
【0006】
種々のニッケル電極が市販されている。例えば、棒状ニッケル粒子を有するニッケル焼結電極(Morioka Y.,Narukawa S.,Itou T.,Journal of Power Sources 100(2001):107-116の
図1を参照)、ハニカム構造を有するニッケルフォーム電極(
図2参照)又は円筒形のニッケル繊維を有するニッケル繊維電極(Ohms D.,Kohlhase M.,Benczur-Urmossy G.,Schadlich G.,Journal of Power Sources 105(2002):127-133の
図3を参照)が公知である。
【0007】
上述の市販のニッケル電極は、バッテリ用電極として作用し、活物質を受けるために最適化されている。
【0008】
米国特許第4,300,993号明細書は、多孔表面を有するアルカリ電解用ニッケル電極の製造方法を記載する。この方法では、ニッケル粉末又はニッケル合金含有粉末と結合剤との懸濁液が鋼板支持体に塗工され、乾燥され、そのあとでこのコーティングは高温で焼結され、ニッケル/亜鉛合金が電解により焼結層上に堆積され、そしてこのニッケル/亜鉛合金由来の亜鉛は、電着された物質の中に多孔性を生成するために苛性溶液に浸漬することにより抽出される。ニッケル又は鉄のワイヤーメッシュを、この発明で金属基材として使用することができる。
【0009】
電極の製造のための金属メッシュに対する従来の金属コーティングプロセスは、メッシュの目の望ましくない詰まり又は閉塞につながることが多く、とりわけワイヤ間隔が小さい場合にはこれが当てはまり、これはガス輸送を大きく妨げる。他方、加水分解装置で使用されるときの生産性を高めるために、ニッケル電極におけるできるだけ大きい表面積及び良好なガス輸送を達成することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第4,605,484号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0226291A1号明細書
【文献】独国特許出願公開第2002298号明細書
【文献】米国特許第4,300,993号明細書
【非特許文献】
【0011】
【文献】AK Shukla,B.Hariprakash、SECONDARY BATTERIES - NICKEL SYSTEMS,Electrodes:Nickel. 407頁、Elsevier、2009
【文献】Morioka Y.,Narukawa S.,Itou T.,Journal of Power Sources 100(2001):107-116
【文献】Ohms D.,Kohlhase M.,Benczur-Urmossy G.,Schadlich G.,Journal of Power Sources 105(2002):127-133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
電気伝導性ニッケル基材上に強接着性ニッケル層を有するニッケル電極であって、先行技術の不都合を回避しつつ、良好な機械的安定性を保有し、できるだけ大きい表面積を有するニッケル電極を提供することが本発明の目的である。さらには、このニッケル電極は、特に水電解の最中に酸素及び水素の発生の増加及び良好なガス輸送を可能にする有利な電気化学特性を有するべきである。
【0013】
さらに、簡単で費用効率が高い上述のニッケル電極の製造方法が提供されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的は、請求項1に記載のニッケル電極、請求項10に記載のニッケル電極の製造方法、及び請求項1に記載のニッケル電極の使用によって本発明に従って成し遂げられる。
【0015】
本願の主題の好ましい又はとりわけ有益な実施形態は従属項で特定される。
【0016】
このように本発明は、ニッケルワイヤの電気伝導性ニッケルメッシュ又はウェブを含む格子状ニッケルエキスパンドメタルと、上記ニッケルメッシュのワイヤのみ又は上記ニッケルエキスパンドメタルのウェブにのみに設けられた相互接着性の球形ナノポーラスニッケル粒子のニッケル層とを備えるニッケル電極であって、
a)球形水酸化ニッケル粒子を準備する工程と、
b)部分的に還元された球形Ni/NiO粒子を得るために、上記球形水酸化ニッケル粒子を還元雰囲気中、270~330℃の温度で部分的に還元する工程と、
c)得られたNi/NiO粒子、有機結合剤及び/又は無機結合剤、界面活性剤、並びに任意に、付加的な補助剤からペーストを製造する工程と、
d)上記ペーストをコーティングとして、上記電気伝導性ニッケルメッシュ又はニッケルエキスパンドメタルに塗工する工程と、
e)コーティングされた上記ニッケルメッシュ又はニッケルエキスパンドメタルを、還元雰囲気中、500~800℃の温度でアニーリングする工程と
を備える方法によって得られるニッケル電極に関する。
【0017】
本発明は、このようなニッケル電極の製造方法であって、
a)球形水酸化ニッケル粒子を準備する工程と、
b)部分的に還元された球形Ni/NiO粒子を得るために、上記球形水酸化ニッケル粒子を還元雰囲気中、270~330℃の温度で部分的に還元する工程と、
c)得られたNi/NiO粒子、有機結合剤及び/又は無機結合剤、界面活性剤、並びに任意に、付加的な補助剤からペーストを製造する工程と、
d)上記ペーストをコーティングとして、上記電気伝導性ニッケルメッシュ又はニッケルエキスパンドメタルに塗工する工程と、
e)コーティングされた上記ニッケルメッシュ又はニッケルエキスパンドメタルを、還元雰囲気中、500~800℃の温度でアニーリングする工程と
を備える方法にも関する。
【0018】
最後に、本発明は、特にアルカリ媒質中での水電解又は他の電気化学反応のための電極としての当該ニッケル電極の使用にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、市販のニッケル焼結電極の表面の1000倍拡大での走査型電子顕微鏡(SEM)写真(Morioka Y.,Narukawa S.,Itou T.,Journal of Power Sources 100(2001):107-116より)を示す。
【
図2】
図2は、ハニカム様構造を有する市販のニッケルフォーム電極の表面の150倍拡大でのSEM写真を示す。
【
図3】
図3は、市販のニッケル繊維電極の表面の500倍拡大でのSEM写真(Ohms D.,Kohlhase M.,Benczur-Urmossy G.,Schadlich G.,Journal of Power Sources 105(2002):127-133より)を示す。
【
図4】
図4は、厚さ約60μm(粒径3~4μm)のナノ構造ニッケル粒子の均一コーティングを有するニッケルメッシュ(ワイヤ間隔1.2mm、ワイヤ厚さ150μm)の形態の、以下の製造例に記載された本発明に係るニッケル電極の表面の15倍拡大での光学顕微鏡概観写真を示す。
【
図5】
図5は、
図4に示される本発明のニッケル電極の表面の細部の55倍拡大での顕微鏡写真を示す。
【
図6】
図6は、以下の比較例に記載されるニッケル電極の表面の40倍拡大での光学顕微鏡概観写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るニッケル電極は、フォーム電極、焼結電極又は繊維電極等のこれまでの市販のバッテリ用ニッケル電極よりも大きい内面を有する相互接着性の、球形ナノポーラスニッケル粒子のニッケル層を特徴とする。
【0021】
これらの表面的にナノ構造のニッケルメッシュ又はニッケルエキスパンドメタルは、アルカリ媒質中での水電解のために使用することができる。高表面積に起因して、従来の加水分解装置よりもより高い生産性を成し遂げることができる。しかしながら、この効果は、水電解から一定の(同等の)生産性を達成しつつ、設置スペースを減らすためにも使用することができる。
【0022】
用語「ナノポーラス」又は「ナノ構造(の)」は、約500nmの最大直径、例えば100~500nmの直径の細孔開口部を有する多孔性構造体を指すために本明細書中で使用される。
【0023】
球形ナノポーラスニッケル粒子のニッケル層を有するニッケルメッシュ又はニッケルエキスパンドメタルに基づくニッケル電極は、工業的実施ではこれまでのところ知られていない。驚くべきことに、本発明に係るニッケル電極は、アルカリ媒質中での水電解のために特に有利に使用することができ、酸素及び特に水素の製造においてガス発生を実質的に増加させることができるということが見出された。ガス発生を増大させるというこの驚くべき効果は、明らかに、ニッケル層の内部表面積が大きいことに起因している。内部表面積が大きいことで、周囲の媒体に対するこの電極の接触抵抗は非常に低く、これにより、例えばコーティングされていないニッケル表面と比較して水の加水分解の間に成し遂げられうる電流密度は高まる。
【0024】
本発明に係る方法により、室温での無圧(無加圧)コーティング及びコーティングされたニッケルメッシュ又はニッケルエキスパンドメタルのその後のアニーリング等の簡単なプロセス工程によって、上記ニッケルワイヤ上又はニッケルエキスパンドメタルのウェブ(網)上にニッケル粒子の強接着層を得ることが可能になる。このようにして製造されるニッケル電極は高い機械的安定性を有し、球形ニッケル粒子の層は、ニッケル基材の機械的変形の最中及び機械的変形の後であっても接着したまま留まる。剥離試験では、最大350Nの保持力を検出することができ、この値は、プロセスパラメータを変更することによりさらに高めることができる。
【0025】
さらには、使用される結合剤及び界面活性剤は残渣を残さず揮発させることができるため、この結合剤及び界面活性剤はニッケル層の表面上に厄介な炭素堆積物を残さない。
【0026】
ニッケルエキスパンドメタルを含む本発明に従って使用されるウェブを含む格子状ニッケルエキスパンドメタルは、ニッケルエキスパンドメタルメッシュと呼ぶこともできる。ニッケルエキスパンドメタルは、通常、千鳥状に切れ目を入れると同時に金属を材料の減量なしに引張変形させることにより製造される。展板(シート)又は帯板から作製される格子状材料のメッシュは、編まれてもいないし溶接されてもいない。典型的なメッシュ形状は、菱形メッシュ(菱目)、ヨロイ型メッシュ(Langstegmaschen)、六角形メッシュ、円形メッシュ及び正方形メッシュ(角目網)である。
【0027】
本発明に従って使用されるニッケルメッシュは、同様に、様々なメッシュ形状を有することができる。丸線(ラウンドワイヤ)から作製されるニッケルメッシュでは、そのニッケルメッシュをコーティング前に圧延することも可能である。
【0028】
使用される三次元ニッケル構造体(メッシュ又はエキスパンドメタル)のメッシュサイズは、好ましくは100~3000μmの範囲、より好ましくは100~1000μmの範囲にある。
【0029】
本発明に従って使用される球形水酸化ニッケル粒子は、電池材料として市販されており(例えば、ベルギーの会社Umicore(ユミコア)、及び日本の会社Tanaka(タナカ)の製品)、好ましくは0.3~75μm、より好ましくは3~30μm、とりわけ好ましくは9~12μmの平均粒径を有する。最も好ましいのは、約10μmの平均粒径を有するものである。
【0030】
本発明に係る方法の工程b)の部分還元は、270~330℃、好ましくは290~310℃の温度で実施される。
【0031】
この部分還元は、好適には、上述の条件下で3~5時間にわたって実施される。
【0032】
本発明に係る方法の工程b)の部分還元及び工程e)のアニーリングの両方は、例えば10~100%、好ましくは10~50%の水素、及び、還元雰囲気が100%の水素から構成されない場合には、任意に窒素等の不活性ガスを含む還元雰囲気中で行われる。
【0033】
部分還元により得られるNi/NiO粒子を有するペースト又は懸濁液を製造するため好適な有機結合剤としては、特に、天然ポリマー及び/若しくは合成ポリマー又はそれらの誘導体が挙げられる。好適な例は、アルキド樹脂、セルロース及びその誘導体、エポキシ樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)及びポリアクリル酸(PAA)等のポリアクリレート、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリイミド(PI)及びその誘導体、ポリウレタン(PU)及びその誘導体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリトリフルオロエチレン(PTrFE)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、シリコーン、デンプン及びその誘導体、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、並びに上記の材料の混合物(ブレンド)である。ポリビニルアルコールはとりわけ好ましい有機結合剤である。
【0034】
工程c)の上記ペースト又は懸濁液の調製において使用される界面活性剤の量は、上記ペースト又は懸濁液の総重量に基づき、好ましくは0.1~20重量%、より好ましくは2~10重量%である。この界面活性剤は、好適には非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群から選択される。
【0035】
以下の物質種類の界面活性剤は、特に、上記ペースト又は懸濁液の調製のための界面活性剤として使用することができる。
アルキルカルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、第二級アルキルスルホン酸塩、脂肪アルコールスルフェート、アルキルエーテルスルフェート、タウリン塩及びタウリンエステル(Tauride)、オレフィン/パラフィンスルホン酸塩、スルホスクシネート、並びにリン酸又はホスホン酸のエステル及びその塩等のアニオン性界面活性剤、
物質種類アルキルトリメチルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム、アルキルベンジル、及びエトキシル化アルキルアンモニウムの塩化物並びに臭化物由来の第四級アンモニウム化合物等のカチオン性界面活性剤、
アルコールエトキシレート、オレイルセチルアルコールエトキシレート、ノニル/ウンデカノール(C9/C11)エトキシレート、イソデシルアルコール(C10)エトキシレート、ラウリルミリスチル(C12-C14)エトキシレート、イソトリデシル(C13)エトキシレート、ノニルフェノールエトキシレート、ヒマシ油エトキシレート及び他のアルコールエトキシレート等の非イオン性界面活性剤、
物質種類カルボキシグリシネート、イミノプロピオネート、イミノグリシネート、脂肪酸アミドプロピルベタイン、及び脂肪酸アミドプロピルヒドロキシサルテイン由来のベタイン及びサルテイン(Sultaine)等の両性界面活性剤、
脂肪アルコールエトキシレートEO/PO付加体、アルキルポリグルコシド、ポリソルベート、脂肪酸ジエタノールアミド及びアミンオキシド等の非イオン性の、両性界面活性剤。
【0036】
親水性ポリエチレンオキシド鎖と、例えば、親油性又は疎水性であってもよい芳香族炭化水素基とを有する非イオン性界面活性剤、例えばポリエチレングリコールtert-オクチルフェニルエーテルは、とりわけ好適であることが判明している。
【0037】
後ほど電気伝導性ニッケルメッシュ又はニッケルエキスパンドメタルへコーティングとしての上記ペーストを塗工する間に、ニッケルメッシュのワイヤに沿って、又はニッケルエキスパンドメタルのウェブに沿ってペースト又はスラリーは収縮するように見えるが、驚くべきことに、界面活性剤を上記ペースト又は懸濁液に添加することは、ニッケルメッシュ又はニッケルエキスパンドメタルの開口の閉鎖を防止する。
【0038】
懸濁液又はペーストの調製については、有機又は無機の溶媒若しくは分散剤等の付加的な従来の補助剤を添加することが、必要に応じて可能である。
【0039】
水系媒体中のアンモニウム塩又はヒドラジン塩は、無機結合剤としてとりわけ好適である。
【0040】
コーティングされたニッケルメッシュ又はニッケルエキスパンドメタルの最終アニーリングは、500~800℃、好ましくは600~700℃の範囲の温度で実施される。この最終アニーリングは、典型的には3~5時間にわたって実施される。この最終アニーリングは、強接着性の球形ナノポーラスニッケル粒子のニッケル層を得るために上記Ni/NiO粒子を完全に還元するために使用される。さらには、使用される結合剤、界面活性剤及び、必要に応じて、補助剤は何らの残渣も残さず完全に除去されるか又は蒸発することは確保される必要がある。
【0041】
本発明に係るニッケル電極のニッケル層は、好ましくは1~1,000μm、より好ましくは10~900μm、とりわけ好ましくは20~200μmの範囲の厚さを有する。
【0042】
上記球形ナノポーラスニッケル粒子は、好ましくは0.1~25μm、より好ましくは1~10μm、さらにより好ましくは2~6μm、とりわけ好ましくは3~4μmの平均粒径を有する。
【0043】
多孔性ニッケル粒子のニッケル層のドーピングも本発明によれば可能である。外来イオンを用いた上記粒子のドーピングは、アニーリングの前、アニーリングの最中又はーリングの後に実施することができる。
【0044】
本発明に係るニッケル電極は、特に、標準的な電池、蓄電池、対称型及び非対称型の二重層キャパシタ、センサにおける作用電極として、触媒担体として、電気化学合成、又は特にアルカリ媒質中での水電解用の光電素子及び光触媒装置における電極として使用される。
【0045】
特に、塩素アルカリ電解等の電解、触媒反応、光起電性コーティング、及び光起電力による水素製造における応用が含まれる。
【0046】
表面ナノ構造化の結果として、本発明に従って使用されるニッケルメッシュ又はニッケルエキスパンドメタルは、増大した表面積を有し、従ってニッケルメッシュ/電解質界面又はニッケルエキスパンドメタル/電解質界面でのより簡単な電荷移動及び物質移動を促す。上記メッシュ又はエキスパンドメタルのナノ構造化は、ナノ構造ニッケル粒子をニッケルメッシュのワイヤにのみ又はニッケルエキスパンドメタルのウェブにのみ付着させる(塗工する)ことにより成し遂げられる。メッシュ又はエキスパンドメタルの開口を開いたままに保つためにワイヤ又はウェブだけがニッケル粒子の層でコーティングされることが必須である。
【実施例】
【0047】
本発明に係るニッケル電極の製造
50gの球形β-Ni(OH)2粒子を、アニーリング炉中、300℃の温度で4時間、窒素中50%水素の雰囲気中で部分的に還元する。約10μmの平均粒径は維持される。これらの部分的に還元された、球形のNi/NiO粒子はすでに内部ナノポーラス構造を有している。
【0048】
7.5%ポリビニルアルコール及び10% Triton X-100(非イオン性界面活性剤)の水溶液6mlを用いて、上記部分的に還元された、球形のNi/NiO粒子10gからペーストを調製する。このペーストを、浸漬によりニッケルメッシュに塗工する。使用する正方形ニッケルメッシュは、150μmのワイヤ直径及び1200μmのメッシュサイズを有する。表面張力の低下に起因して、このペーストはニッケルワイヤの表面上で収縮し、ニッケルメッシュの網の目を解放する。
【0049】
アニーリング炉中、620℃の温度での窒素中50体積%水素の還元雰囲気中での最終アニーリングの後、形成される電極を使用することができる。このニッケルメッシュに堆積する球形ニッケル粒子は、3.4μmの平均直径を有し、内部ナノポーラス構造を有する。
【0050】
下記表1は、上記水酸化ニッケル粒子、部分的に還元されたNi/NiO粒子、及び使用するニッケル層の球形の多孔性ニッケル粒子の平均粒径をまとめる。
【0051】
【0052】
このようにして製造されるニッケル電極の表面の光学顕微鏡概観写真を
図4に示し、このニッケル電極の表面の細部の光学顕微鏡写真を
図5に示す。これらの顕微鏡写真からわかるように、ニッケルメッシュのメッシュ開口は開いたままであり、ナノポーラスニッケル粒子から構成されるコーティングは、ニッケルメッシュのワイヤ上にのみ存在する。
【0053】
比較例のニッケル電極の製造
ペーストの調製の際に界面活性剤を加えなかったこと以外は上記の本発明に係る製造例と同様にして、ニッケル電極を製造した。
【0054】
このようにして製造した電極の光学顕微鏡概観写真を
図6に示す。これから、ニッケルメッシュのメッシュ開口が程度の差はあるがニッケル粒子のコーティングにより完全に閉じていることは明らかであり、このニッケルメッシュにはガス輸送の顕著な障害を伴う。