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特許7088492レーザー除染装置、レーザー除染システム及びレーザー除染方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】レーザー除染装置、レーザー除染システム及びレーザー除染方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20220614BHJP
   G21F 9/00 20060101ALI20220614BHJP
   G21F 9/02 20060101ALI20220614BHJP
   B23K 26/36 20140101ALI20220614BHJP
   B23K 26/08 20140101ALI20220614BHJP
   B23K 26/142 20140101ALI20220614BHJP
【FI】
G21F9/28 511C
G21F9/00 C
G21F9/02 551A
G21F9/02 Z
G21F9/02 551E
G21F9/28 511B
B23K26/36
B23K26/08 Z
B23K26/142
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018139336
(22)【出願日】2018-07-25
(65)【公開番号】P2020016530
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】505466642
【氏名又は名称】株式会社東洋ユニオン
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100174377
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 健吾
(72)【発明者】
【氏名】中村 弘
(72)【発明者】
【氏名】前城 直輝
(72)【発明者】
【氏名】玉井 猛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠一
(72)【発明者】
【氏名】小川 智広
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 辰茂
(72)【発明者】
【氏名】長峰 春夫
(72)【発明者】
【氏名】若山 真則
(72)【発明者】
【氏名】竹内 良平
(72)【発明者】
【氏名】岡嶋 修一
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-174263(JP,A)
【文献】特開2014-079664(JP,A)
【文献】特開2009-058513(JP,A)
【文献】特開平08-110396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00-9/36
B23K 26/00-27/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基体の表面に塗布された塗膜と基体の表層部とを含みかつ放射能で汚染された、放射性汚染層をレーザービームによって基体の本体部から除去するレーザー除染装置であって、
レーザービームを発生するレーザー発振器と、
放射性汚染層に対し進退可能に配置された可動台座を有し、放射性汚染層の表面から所定の離間距離を保持しつつ前記可動台座をレーザー照射方向に向けて付勢することにより、前記可動台座を放射性汚染層の表面に追随移動させる追随移動機構と、
前記追随移動機構を搭載し、前記可動台座をレーザー照射方向と交差する除染方向に移動する除染移動機構と、
レーザー照射方向に追随移動可能かつ除染方向に移動可能となるように前記可動台座に搭載されるとともに、光ファイバーを介して前記レーザー発振器と接続され放射性汚染層に対してレーザービームを照射するレーザー照射機構と、
前記レーザー発振器で発生し前記レーザー照射機構から照射されるレーザービームについて少なくともその出力、焦点距離及び照射範囲を調整し得る制御部とを備え、
前記制御部は、放射性汚染層を除去して粗面化するためのCWレーザーを前記レーザー発振器で発生させ前記レーザー照射機構から照射する第一態様と、放射性汚染層の残部を除去するためのパルスレーザーを前記レーザー発振器で発生させ前記レーザー照射機構から粗面化された放射性汚染層に照射する第二態様とに切り換える切換手段を含むことを特徴とするレーザー除染装置。
【請求項2】
少なくとも筒状タンクを構成する鋼板の内周壁面に塗布された塗膜と鋼板の表層部とを含みかつ放射能で汚染された、放射性汚染層をレーザービームによって鋼板の本体部から除去するレーザー除染装置であって、
レーザービームを発生するレーザー発振器と、
放射性汚染層に対し進退可能に配置された可動台座を有し、放射性汚染層の表面から所定の離間距離を保持しつつ前記可動台座をレーザー照射方向に向けて付勢することにより、前記可動台座を放射性汚染層の表面に追随移動させる追随移動機構と、
前記追随移動機構を搭載し、前記可動台座をレーザー照射方向と交差する除染方向に移動する除染移動機構と、
レーザー照射方向に追随移動可能かつ除染方向に移動可能となるように前記可動台座に搭載されるとともに、光ファイバーを介して前記レーザー発振器と接続され放射性汚染層に対してレーザービームを照射するレーザー照射機構と、
前記レーザー発振器で発生し前記レーザー照射機構から照射されるレーザービームについて少なくともその出力、焦点距離及び照射範囲を調整し得る制御部とを備え、
前記制御部は、放射性汚染層を除去して粗面化するためのCWレーザーを前記レーザー発振器で発生させ前記レーザー照射機構から照射する第一態様と、放射性汚染層の残部を除去するためのパルスレーザーを前記レーザー発振器で発生させ前記レーザー照射機構から粗面化された放射性汚染層に照射する第二態様とに切り換える切換手段を含むことを特徴とするレーザー除染装置。
【請求項3】
前記レーザー照射機構は、前記第一態様及び第二態様を通じ放射性汚染層の表面から一定の離間距離を保つように前記可動台座に固定される請求項1又は請求項2に記載のレーザー除染装置。
【請求項4】
前記制御部の切換手段は、
前記第一態様において、前記レーザー照射機構が前記CWレーザーを照射しつつ前記除染移動機構が除染方向に沿って所定の経路を所定の向きに往移動する一方、
前記第二態様において、前記レーザー照射機構が前記パルスレーザーを照射しつつ前記除染移動機構が除染方向に沿って同じ経路を逆向きに復移動するように切換え制御する請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のレーザー除染装置。
【請求項5】
前記レーザー照射機構と隣接して前記可動台座に搭載され、レーザービームの照射により放射性汚染層から発生する放射性ダストを前記レーザー照射機構から遠ざけるように気体を噴射する気体噴射機構と、
前記レーザー照射機構を挟み前記気体噴射機構と対向して前記可動台座に搭載され、放射性汚染層から発生する放射性ダストを前記気体噴射機構から噴射される気体とともに負圧吸引するダスト吸引機構とを備え、
前記可動台座は放射性汚染層の表面に追随移動しつつ前記除染移動機構とともに除染方向に移動し、前記可動台座に搭載された前記レーザー照射機構、前記気体噴射機構及び前記ダスト吸引機構は、所定の位置関係を維持した状態でレーザービームの照射に伴う放射性汚染層の除去及び放射性ダストの吸引排出を行う請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のレーザー除染装置。
【請求項6】
前記気体噴射機構は、
放射性汚染層の表面付近に開口し、レーザービームの照射に伴って放射性汚染層から発生した放射性ダストの放射性汚染層への再付着を回避するための第一噴射口と、
前記レーザー照射機構の先端部近傍に開口し、放射性汚染層から発生した放射性ダストによる、前記レーザー照射機構の先端レンズ系への衝突を回避するための第二噴射口とを有する請求項5に記載のレーザー除染装置。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載のレーザー除染装置と、
フレキシブルホースを介して前記ダスト吸引機構と接続されレーザービームの照射に伴って発生する放射性ダストを負圧吸引するための吸引流路を内蔵するとともに、前記吸引流路を流れる放射性ダストを捕捉するためのエアフィルタが設けられる集塵装置とを備え、
前記エアフィルタは、前記吸引流路の末尾に配置された大気中への放出口よりも上流側に位置し高性能エアフィルタで構成されるメインフィルタと、前記メインフィルタよりもさらに前記吸引流路の上流側に位置し粗塵用エアフィルタで構成されるプレフィルタとを含むことを特徴とするレーザー除染システム。
【請求項8】
前記集塵装置は、放射性ダストを捕捉した使用済みのメインフィルタ及びプレフィルタに対して飛散抑制剤を塗布するための噴霧機構を有する請求項7に記載のレーザー除染システム。
【請求項9】
前記プレフィルタは矩形状の枠体に保持されるとともに、
前記集塵装置の内部には、前記吸引流路を横断するとともに、対向する二側壁に形成された一対の貫通孔と各々連通するように一直線状に形成されたプレフィルタ収容スペース部が配置され、
前記プレフィルタの交換時には、前記一対の貫通孔のうち一方の入口側貫通孔から挿入された新しいプレフィルタの枠体の側面で前記プレフィルタ収容スペース部に収容された使用済みプレフィルタの枠体の側面を押すことにより、使用済みプレフィルタが前記一対の貫通孔のうち他方の出口側貫通孔から押出し排出され、新しいプレフィルタが前記吸引流路を横断する形態で前記集塵装置の前記プレフィルタ収容スペース部にセットされる請求項7又は請求項8に記載のレーザー除染システム。
【請求項10】
少なくとも基体の表面に塗布された塗膜と基体の表層部とを含みかつ放射能で汚染された、放射性汚染層をレーザービームによって基体の本体部から除去するレーザー除染方法であって、
放射性汚染層を除去して粗面化するためのCWレーザーを塗膜の表面側から照射する第一工程と、放射性汚染層の残部を除去するためのパルスレーザーを粗面化された放射性汚染層に照射する第二工程とを実行することを特徴とするレーザー除染方法。
【請求項11】
少なくとも筒状タンクを構成する鋼板の内周壁面に塗布された塗膜と鋼板の表層部とを含みかつ放射能で汚染された、放射性汚染層をレーザービームによって鋼板の本体部から除去するレーザー除染方法であって、
放射性汚染層を除去して粗面化するためのCWレーザーを塗膜の内表面側から照射する第一工程と、放射性汚染層の残部を除去するためのパルスレーザーを粗面化された放射性汚染層に照射する第二工程とを実行することを特徴とするレーザー除染方法。
【請求項12】
前記第一工程において、前記CWレーザーを照射しつつレーザー照射方向と交差する除染方向に沿って所定の経路を所定の向きに往移動する一方、
前記第二工程において、前記パルスレーザーを照射しつつ除染方向に沿って同じ経路を逆向きに復移動する請求項10又は請求項11に記載のレーザー除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザービームの照射によって放射性汚染層を除去するためのレーザー除染装置、レーザー除染システム及びレーザー除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザーの利用分野として、放射能で汚染された放射性汚染層を本体部分から分離して除去するためのレーザー除染技術、つまりレーザービームの照射によって放射性汚染層を剥離し溶融・蒸散させる技術が知られている。例えば特許文献1において、測定用レーザー光L2によるスキャナ走査に基づきCW(Continuous Wave)レーザー光L1の焦点位置(焦点距離)を自動的に調整することにより、汚染物Tの内側に侵入した放射性物質RIを除去することができる。なお、特許文献2では、配管内周面等に付着堆積した放射性酸化物層に第1の汚染層除去用レーザー光LBを照射して除染した後、第2の改質層形成用レーザー光LAを照射して酸化膜等の表面改質層を形成することにより、配管等の再生利用を促すことができる。
【0003】
ところで、近年原子力発電所の再稼動・廃炉問題に関連して、例えば原子炉冷却水の貯蔵タンクのような放射性汚染施設の除染処理が注目されている。このようなタンクは直径が10mを超えるような大径の円筒型に形成され、ステンレス鋼板製の内周壁面には防錆・防食機能を強化するための塗料(例えばタールエポキシ樹脂塗料)が所定厚さ(例えば0.1~0.2mm)で塗布されている。そして、上記塗膜及び鋼板の表層部(例えば塗膜内側の表面厚さ0.1~0.2mm)は冷却水等の放射性物質の保管に伴って放射能で汚染された放射性汚染層となっているため、廃炉の際には、タンクの解体とともに放射性汚染層の除去が必要になる。また、再稼動の際には、防錆・防食機能を回復するために放射性汚染層の除去及び塗料の再塗布(特許文献2参照)を要する場合がある。
【0004】
一般に広い表面積を有する放射性汚染層を除去するには、高いレーザー出力(例えば最大出力2kW)と広い照射範囲(照射面積;例えば最大ビーム径50mm)及び一定の焦点距離(離隔距離;例えば300mm)さらに速い移動速度(例えば3m/min)を確保して高能率化を図る必要がある。しかし、これらの高能率化手段の採用により、比較的出力の安定したCWレーザー(特許文献1参照)であっても、ビーム内のエネルギー密度にバラツキを生じやすく放射性汚染層がまだら模様に除去され、未除染部分が発生(すなわち除染精度の低下)するおそれがある。また、特許文献1において、スキャナ走査に基づく焦点調整機能はレーザービームの高速移動に伴って制御遅れを生じやすくなり、塗膜表面の錆や腐食による焦点距離の変動がビーム内のエネルギー密度のバラツキを助長し、除染精度がさらに低下するおそれもある。
【0005】
このように、冷却水貯蔵タンクのような広い表面積を有する放射性汚染層の除去に際し、特許文献1,2に開示された技術を適用しても高能率かつ高精度での除染は困難である。したがって、例えばタンクの解体・切断後の小片に対して特許文献1に記載された除染処理を逐一施す場合には、除染処理に長期間を要し(再生処理は不可)、環境への悪影響や処理コストの増大を招来するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5610356号公報
【文献】特開平8-110396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、放射性汚染された基体(例えば原子炉冷却水のための大径筒状貯蔵タンク)を解体・切断することなく、基体の表層部及び塗膜を含む放射性汚染層を高能率かつ高精度で除染することができるレーザー除染装置、レーザー除染システム及びレーザー除染方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のレーザー除染装置は、
少なくとも基体の表面に塗布された塗膜と基体の表層部とを含みかつ放射能で汚染された、放射性汚染層をレーザービームによって基体の本体部から除去(すなわち剥離し溶融又は蒸散)するレーザー除染装置であって、
レーザービームを発生するレーザー発振器と、
放射性汚染層に対し進退可能に配置された可動台座を有し、放射性汚染層の表面から所定の離間距離を保持しつつ前記可動台座をレーザー照射方向に向けて付勢することにより、前記可動台座を放射性汚染層の表面に追随移動させる追随移動機構と、
前記追随移動機構を搭載し、前記可動台座をレーザー照射方向と交差する除染方向に移動する除染移動機構と、
レーザー照射方向に追随移動可能かつ除染方向に移動可能となるように前記可動台座に搭載されるとともに、光ファイバーを介して前記レーザー発振器と接続され放射性汚染層に対してレーザービームを照射するレーザー照射機構と、
前記レーザー発振器で発生し前記レーザー照射機構から照射されるレーザービームについて少なくともその出力(すなわち強度)、焦点距離及び照射範囲を調整し得る制御部とを備え、
前記制御部は、放射性汚染層を除去して粗面化するためのCWレーザーを前記レーザー発振器で発生させ前記レーザー照射機構から照射する第一態様と、放射性汚染層の残部を除去するためのパルスレーザーを前記レーザー発振器で発生させ前記レーザー照射機構から粗面化された放射性汚染層に照射する第二態様とに切り換える切換手段を含むことを特徴とする。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明のレーザー除染装置は、
少なくとも(直立した)筒状タンクを構成する鋼板の内周壁面に塗布された塗膜と鋼板の表層部とを含みかつ放射能で汚染された、放射性汚染層をレーザービームによって鋼板の本体部から除去(すなわち剥離し溶融又は蒸散)するレーザー除染装置であって、
レーザービームを発生するレーザー発振器と、
放射性汚染層に対し進退可能に配置された可動台座を有し、放射性汚染層の表面から所定の離間距離を保持しつつ前記可動台座をレーザー照射方向に向けて付勢することにより、前記可動台座を放射性汚染層の表面に追随移動させる追随移動機構と、
前記追随移動機構を搭載し、前記可動台座をレーザー照射方向と交差する除染方向に移動する除染移動機構と、
レーザー照射方向に追随移動可能かつ除染方向に移動可能となるように前記可動台座に搭載されるとともに、光ファイバーを介して前記レーザー発振器と接続され放射性汚染層に対してレーザービームを照射するレーザー照射機構と、
前記レーザー発振器で発生し前記レーザー照射機構から照射されるレーザービームについて少なくともその出力(すなわち強度)、焦点距離及び照射範囲を調整し得る制御部とを備え、
前記制御部は、放射性汚染層を除去して粗面化するためのCWレーザーを前記レーザー発振器で発生させ前記レーザー照射機構から照射する第一態様と、放射性汚染層の残部を除去するためのパルスレーザーを前記レーザー発振器で発生させ前記レーザー照射機構から粗面化された放射性汚染層に照射する第二態様とに切り換える切換手段を含むことを特徴とする。
【0010】
これらの発明により、可動台座が放射性汚染層の表面の凹凸に感度よく追従し、制御部の切換手段は焦点距離(離隔距離)や照射範囲(照射面積)を正確に維持しながらCWレーザーの第一態様とパルスレーザーの第二態様を切換える。その際、第一態様において高出力CWレーザー(例えば最大出力2kW)を照射することにより放射性汚染層が粗面化して除去された場合、すなわちまだら模様に剥離し溶融又は蒸散した場合(図14(B)参照)であっても、第二態様において高出力パルスレーザー(例えば最大出力2kW、振動数10Hz)を照射することにより放射性汚染層の残余部分である粗面化部分が除去されて平坦化される(図14(C)参照)。したがって、放射性汚染された基体(例えば原子炉冷却水のための大径筒状貯蔵タンク)を解体・切断することなく、放射性汚染層を高能率かつ高精度で除染することができる。
【0011】
本発明において「CWレーザー」は連続的に照射されるレーザーであり、「パルスレーザー」は断続的に照射されるレーザーである。「切換手段」は人為的に操作される切換スイッチ、切換操作を指令する制御信号のいずれであってもよい。
【0012】
上記レーザー照射機構は、第一態様及び第二態様を通じ放射性汚染層の表面から一定の離間距離を保つように可動台座に固定される。
【0013】
第一態様と第二態様とでレーザー種別が変更されてもレーザー照射機構の離間距離(焦点距離)は一定に保持されるので、レーザー出力、照射範囲、移動速度等の調整を最小限にとどめて効率よく放射性汚染層を除染することができる。
【0014】
上記制御部の切換手段は、
第一態様において、レーザー照射機構がCWレーザーを照射しつつ除染移動機構が除染方向に沿って所定の経路を所定の向きに往移動する一方、
第二態様において、レーザー照射機構がパルスレーザーを照射しつつ除染移動機構が除染方向に沿って同じ経路を逆向きに復移動するように切換え制御する。
【0015】
第一態様ではCWレーザーを照射しながら所定の向きに往移動(例えば正転)し、第二態様ではパルスレーザーを照射しながら逆向きに復移動(例えば逆転)する。このように、レーザー種別と移動方向とをリンクさせて切換え制御することにより、一層効率的に短時間で放射性汚染層を除染することができる。
【0016】
上記レーザー照射機構と隣接して可動台座に搭載され、レーザービームの照射により放射性汚染層から発生するヒューム、粉塵等の放射性ダストをレーザー照射機構から遠ざけるように気体を噴射する気体噴射機構と、
レーザー照射機構を挟み気体噴射機構と対向して可動台座に搭載され、放射性汚染層から発生する放射性ダストを気体噴射機構から噴射される気体とともに負圧吸引するダスト吸引機構とを備え、
可動台座は放射性汚染層の表面に追随移動しつつ除染移動機構とともに除染方向に移動し、可動台座に搭載されたレーザー照射機構、気体噴射機構及びダスト吸引機構は、所定の位置関係を維持した状態でレーザービームの照射に伴う放射性汚染層の除去及び放射性ダストの吸引排出を行う。
【0017】
気体噴射機構及びダスト吸引機構はレーザー照射機構と一体となって移動できるので、レーザービームの照射に伴って発生する放射性ダストを安定して吸引排出することができる。なお、気体噴射機構から噴射される気体として一般的には空気が用いられるが、空気の代わりにあるいは空気に加えて不活性ガス(すなわち、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン)、窒素ガス、炭酸ガス等)を用いることもできる。
【0018】
上記気体噴射機構は、
放射性汚染層の表面付近に開口し、レーザービームの照射に伴って放射性汚染層から発生した放射性ダストの放射性汚染層への再付着を回避するための第一噴射口と、
レーザー照射機構の先端部近傍に開口し、放射性汚染層から発生した放射性ダストによる、レーザー照射機構の先端レンズ系への衝突を回避するための第二噴射口とを有する。
【0019】
第一及び第二噴射口を設けることによって、放射性ダストに対して放射性汚染層への再付着を抑制すると同時に、レーザー照射機構の先端レンズ系との衝突を抑制できるので、レーザー照射機構の長寿命化に貢献できる。
【0020】
ところで、上記課題を解決するために、本発明のレーザー除染システムは、
上記したレーザー除染装置と、
フレキシブルホースを介して前記ダスト吸引機構と接続されレーザービームの照射に伴って発生する放射性ダストを負圧吸引するための吸引流路を内蔵するとともに、前記吸引流路を流れる放射性ダストを捕捉するためのエアフィルタが設けられる集塵装置とを備え、
前記エアフィルタは、前記吸引流路の末尾に配置された大気中への放出口よりも上流側に位置しHEPAフィルタ、ULPAフィルタ等の高性能エアフィルタで構成されるメインフィルタと、前記メインフィルタよりもさらに前記吸引流路の上流側に位置し粗塵用エアフィルタで構成されるプレフィルタとを含むことを特徴とする。
【0021】
ダスト吸引機構で吸引排出された放射性ダストは少なくとも2段階のフィルタ(プレフィルタとメインフィルタ)で吸着(すなわち捕捉)されるので、ダスト処理作業を安全に行えるとともに、放出口から大気中へ放出される排気によって大気汚染等の環境破壊を招かない。
【0022】
HEPAフィルタ(high efficiency particulate air filter)は定格流量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、ULPAフィルタ(ultra low penetration air filter)は定格流量で粒径が0.15μmの粒子に対して99.9995%以上の粒子捕集率をもつ。特に、粒子捕集率が99.9999%以上のものを超ULPAフィルタと呼ぶこともある。また、粗塵用エアフィルタ(coarse particle air filter)は主として粒径が5μmより大きい粒子の除去に用いられる。さらに、メインフィルタとプレフィルタとの間に、例えば中性能エアフィルタ(medium efficiency particulate air filter;すなわち主として粒径が5μmより小さい粒子に対して中程度の粒子捕集率をもつエアフィルタ)で構成される中間フィルタを追加してもよい。なお、これらのエアフィルタはJIS Z8122「コンタミネーションコントロール用語」に準拠する。
【0023】
上記集塵装置は、放射性ダストを捕捉した使用済みのメインフィルタ及びプレフィルタに対して飛散抑制剤を塗布するための噴霧機構を有する。
【0024】
噴霧機構による飛散抑制剤の塗布(噴霧)によって、使用済みフィルタを回収・廃棄する際に放射性ダストの外部拡散を防止でき、環境及び人体に対して悪影響を及ぼさない。
【0025】
上記プレフィルタは矩形状の枠体に保持されるとともに、
集塵装置の内部には、吸引流路を横断するとともに、対向する二側壁に形成された一対の貫通孔と各々連通するように一直線状に形成されたプレフィルタ収容スペース部が配置され、
プレフィルタの交換時には、一対の貫通孔のうち一方の入口側貫通孔から挿入された新しいプレフィルタの枠体の側面でプレフィルタ収容スペース部に収容された使用済みプレフィルタの枠体の側面を押すことにより、使用済みプレフィルタが一対の貫通孔のうち他方の出口側貫通孔から押出し排出され、新しいプレフィルタが吸引流路を横断する形態で集塵装置のプレフィルタ収容スペース部にセットされる。
【0026】
これによって、作業者は使用済みプレフィルタに触れることなく交換・廃棄作業を遂行できるから、吸引流路の上流側に配置されとりわけ人体に有害な粗大粒子の捕集率が高いプレフィルタに対し、作業上の安全性が確保される。なお、作業者が使用済みプレフィルタの押出し操作を行っても安全性に問題はないが、ロボットアーム等のマニピュレータに押出し操作を実行させることにより安全性はさらに向上する。
【0027】
そして、上記課題を解決するために、本発明のレーザー除染方法は、
少なくとも基体の表面に塗布された塗膜と基体の表層部とを含みかつ放射能で汚染された、放射性汚染層をレーザービームによって基体の本体部から除去(すなわち剥離し溶融又は蒸散)するレーザー除染方法であって、
放射性汚染層を除去して粗面化するためのCWレーザーを塗膜の表面側から照射する第一工程と、放射性汚染層の残部を除去するためのパルスレーザーを粗面化された放射性汚染層に照射する第二工程とを実行することを特徴とする。
【0028】
また、上記課題を解決するために、本発明のレーザー除染方法は、
少なくとも(直立した)筒状タンクを構成する鋼板の内周壁面に塗布された塗膜と鋼板の表層部とを含みかつ放射能で汚染された、放射性汚染層をレーザービームによって鋼板の本体部から除去(すなわち剥離し溶融又は蒸散)するレーザー除染方法であって、
放射性汚染層を除去して粗面化するためのCWレーザーを塗膜の内表面側から照射する第一工程と、放射性汚染層の残部を除去するためのパルスレーザーを粗面化された放射性汚染層に照射する第二工程とを実行することを特徴とする。
【0029】
これらの発明によれば、第一工程において高出力CWレーザー(例えば最大出力2kW)を照射することにより放射性汚染層が粗面化して除去された場合、すなわちまだら模様に剥離し溶融又は蒸散した場合(図14(B)参照)であっても、第二工程において高出力パルスレーザー(例えば最大出力2kW、振動数10Hz)を照射することにより放射性汚染層の残余部分である粗面化部分が除去されて平坦化される(図14(C)参照)。したがって、放射性汚染された基体(例えば原子炉冷却水のための大径筒状貯蔵タンク)を解体・切断することなく、放射性汚染層を高能率かつ高精度で除染することができる。
【0030】
第一工程において、CWレーザーを照射しつつレーザー照射方向と交差する除染方向に沿って所定の経路を所定の向きに往移動する一方、
第二工程において、パルスレーザーを照射しつつ除染方向に沿って同じ経路を逆向きに復移動する。
【0031】
第一工程ではCWレーザーを照射しながら所定の向きに往移動(例えば正転)し、第二工程ではパルスレーザーを照射しながら逆向きに復移動(例えば逆転)する。このように、レーザー種別と移動方向とをリンクさせて切換え制御することにより、一層効率的に短時間で放射性汚染層を除染することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に係るレーザー除染システムの一例を一部破断して示す斜視説明図。
図2図1の回転軸とボスの嵌合状態を示す斜視説明図。
図3図1のレーザー除染装置の主要部を拡大して示す斜視説明図。
図4図3の一部をさらに拡大して模式的に示す正面図。
図5図1の集塵装置を模式的に示す平面断面図。
図6】同じく正面断面図。
図7】同じく側面断面図。
図8】プレフィルタ交換作業の説明図。
図9図8に続くプレフィルタ交換作業の説明図。
図10図9に続くプレフィルタ交換作業の説明図。
図11】メインフィルタ交換作業の説明図。
図12図11に続くメインフィルタ交換作業の説明図。
図13】本発明に係るレーザー除染方法の工程説明図。
図14】レーザー除染後の断面を段階的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態につき図面に示す実施例を参照して説明する。図1は本発明に係るレーザー除染システムの一例を一部破断して示す斜視説明図である。図1に示すレーザー除染システム400は、例えば原子力発電所に立地して直立する円筒状タンク1の内外に配置され、後述する放射性汚染層をレーザービームによって除去するためのレーザー除染装置200と、レーザービームの照射に伴って発生する放射性ダストを負圧吸引し捕捉するための集塵機300(集塵装置)と、円筒状タンク1内の放射性ダストを含む粉塵を負圧吸引し捕捉するための1又は複数(ここでは2台)のサブ集塵機300S(補助集塵装置)とを備える。
【0034】
図3はレーザー除染装置200の主要部を拡大して示す斜視説明図、図4はその一部をさらに拡大して模式的に示す正面図である。円筒状タンク1の周壁2(基体)はステンレス鋼板製(例えば厚さ12mm)であり、その内周壁面には防錆・防食機能を強化するために塗膜P(例えば厚さ0.1~0.2mmのタールエポキシ樹脂)が塗布形成されている。図14(A)に示すように、原子炉冷却水の貯蔵タンクとして使用された結果、塗膜Pと周壁2の表層部SUR(例えば厚さ0.1~0.2mm)とは放射能で汚染された放射性汚染層RCLとなっている。冷却水が抜かれた円筒状タンク1の天蓋3に形成された機材挿入口3a(図1参照)からレーザー除染装置200の主要部が搬入され、図14(B),(C)に示すように、レーザービームによって放射性汚染層RCLを周壁2の本体部SUBから除去する。
【0035】
図3図4に戻り、レーザー除染装置200は、タンク外でレーザービームを発生するレーザー発振器10(図1参照)と、周壁2(塗膜P)に対し進退可能に配置されたスライダ31(可動台座)を有する追従移動機構30と、追従移動機構30を搭載する除染移動機構40と、スライダ31に搭載されるレーザーガン20(レーザー照射機構)と、レーザーガン20,追従移動機構30,除染移動機構40を一体的に昇降可能な昇降機構50と、レーザーガン20と隣接してスライダ31に搭載される気体噴射機構60と、レーザーガン20を挟み気体噴射機構60と対向してスライダ31に搭載されるダスト吸引機構70と、円筒状タンク1内の粉塵を負圧吸引するためのサブ吸引機構70S(図1参照)と、タンク外でレーザーの出力、焦点距離及び照射範囲を調整し得るコントローラ80(制御部;図1参照)とを備える。
【0036】
追従移動機構30は、周壁2(塗膜P)の表面から所定の離間距離を保持しつつスライダ31をレーザー照射方向であるタンクの半径方向に向けて付勢することにより、スライダ31を周壁2(塗膜P)の表面に追随移動させる。具体的には、スライダ31が押圧スプリング32(付勢部材)によって半径方向外側に押圧付勢されるとともに、回転ローラ33(接触子)がスライダ31から半径方向外側に突出形成されている。回転ローラ33は押圧スプリング32によって常時一定の力で周壁2(塗膜P)の表面に接触するから、スライダ31は周壁2(塗膜P)の表面から一定の離間距離に保持される。一方、除染移動機構40は、スライダ31をレーザー照射方向(タンクの半径方向)と交差する除染方向(ここではタンクの周方向)に移動する。
【0037】
追従移動機構30、除染移動機構40及び昇降機構50について具体的に説明する。除染移動機構40は、円筒状タンク1の中心に沿って全高さにわたり立設され、下端部が円筒状タンク1の底面に設けられたマグネットベアリング42(磁石軸受)に支持される回転軸41(主軸)を有する。回転軸41はタンク外に配置された回転用モータ140(回転駆動源;図1参照)の駆動力がマグネットベアリング42の磁力に打ち勝つことで正逆揺動回転し、回転用モータ140が停止するとマグネットベアリング42の磁力により停止状態を維持する。なお、回転用モータ140は、円筒状タンク1の天蓋3の上面に組み立てられた櫓4に固定されている(図1参照)。
【0038】
昇降機構50は、回転軸41に対し中心軸線方向に摺動可能、周方向に一体回転可能に嵌合するボス51(昇降部材)と、ボス51の上部に固定されたフック51bと、タンク外に配置されたウィンチ53(巻上器;図1参照)と、フック51b及びウィンチ53の間に掛け渡されたチェン52(吊下げ部材)とを有する。図2に具体的に示すように、筒状のボス51の内周面には中心軸線方向に突起51a(凸部)が形成され、回転軸41の外周面において中心軸線方向に形成された溝41a(凹部)と係合している。図1に示すように、ウィンチ53はタンク外に配置された昇降用モータ150(昇降駆動源)で駆動される。なお、昇降用モータ150は、天蓋3の機材挿入口3aを回転可能に閉鎖するための閉鎖回転蓋3bの上面に固定されている。したがって、ボス51は回転用モータ140により回転軸41と一体回転し、昇降用モータ150及びウィンチ53により回転軸41に沿って昇降する。
【0039】
図3図4に戻り、ボス51には水平な半径方向に長く伸びる複数(ここでは180°間隔で2本)の回動アーム43が突出形成されている。各々の回動アーム43にはスライダ31が半径方向に追随移動可能に載置されている。
【0040】
レーザーガン20はスライダ31に固定されているので、半径方向(レーザー照射方向)に追随移動可能であり、さらに周方向(除染方向)に回動可能である。レーザーガン20は光ファイバー21を介してタンク外のレーザー発振器10(図1参照)と接続され、放射性汚染層RCL(図14(A)参照)に対してレーザービームを照射する。
【0041】
気体噴射機構60はレーザービームの照射により放射性汚染層RCL(図14(A)参照)から発生するヒューム、粉塵等の放射性ダストをレーザーガン20から遠ざけるように空気(気体)を噴射する。気体噴射機構60は、周壁2(塗膜P)の表面付近に開口する第一エア噴射ノズル61(第一噴射口)と、レーザーガン20の先端部近傍に開口する第二エア噴射ノズル62(第二噴射口)とを有する。第一及び第二エア噴射ノズル61,62はエアホース161を介してエアコンプレッサ160(気体供給源)に接続される(図1参照)。
【0042】
第一エア噴射ノズル61は、レーザービームの照射に伴って放射性汚染層RCLから発生した放射性ダストが放射性汚染層RCLへ再付着するのを回避する。他方、第二エア噴射ノズル62は、放射性汚染層RCLから発生した放射性ダストがレーザーガン20の先端レンズ系に衝突するのを回避する。特に第二エア噴射ノズル62によってレーザーガン20の先端レンズ系に対する放射性ダストの衝突が抑制されるので、レーザーガン20の耐久性が向上する。なお、レーザーガン20のレーザー照射方向は水平線に対して下向きの傾斜角θ(例えばθ=20°)を有することにより、周壁2(塗膜P)での反射光がレーザーガン20の先端レンズ系に到達しにくくなり、この点においてもレーザーガン20の耐久性が向上する。
【0043】
ダスト吸引機構70は、放射性汚染層RCLから発生する放射性ダストを気体噴射機構60から噴射される空気とともに負圧吸引する。具体的には、スライダ31にフード72が固定され、フード72に開口する吸引口71から放射性ダストが負圧吸引される。スライダ31にはレーザーガン20、第一及び第二エア噴射ノズル61,62、ダスト吸引機構70が固定配置され、これらは相互の位置関係が不変状態でレーザービームの照射に伴う放射性汚染層RCLの除去及び放射性ダストの吸引排出を行う。気体噴射機構60及びダスト吸引機構70はレーザーガン20と一体となって移動できるので、レーザービームの照射に伴って発生する放射性ダストを安定して吸引排出することができる。
【0044】
図1に示すように、サブ吸引機構70Sは円筒状タンク1の周壁2に設けられる。具体的には、サブ吸引口71Sが周壁2の下部に開口し、円筒状タンク1内の粉塵を負圧吸引する。なお、サブ吸引口71Sは既存の点検口(マンホール等)と兼用される。
【0045】
コントローラ80は発電機5、レーザー発振器10、回転用モータ140、昇降用モータ150、エアコンプレッサ160、集塵機300、サブ集塵機300S等を制御するための信号を送信する。また、コントローラ80には、レーザー発振器10で発生するレーザービームをCWレーザー又はパルスレーザーに切り換えるレーザー切換スイッチ81(切換手段)、昇降用モータ150(ウィンチ53)の回転方向を切り換える昇降切換スイッチ82等が設けられる。なお、発電機5はレーザー発振器10、コントローラ80、回転用モータ140、昇降用モータ150、エアコンプレッサ160、集塵機300、サブ集塵機300S等に電力を供給する。
【0046】
制御部80のレーザー切換スイッチ81は、レーザー発振器10がCWレーザーを発生する第一態様(第一工程)と、パルスレーザーを発生する第二態様(第二工程)とを切り換える。第一態様では、放射性汚染層RCLを除去して粗面化するためのCWレーザーをレーザー発振器10で発生させレーザーガン20から照射する。第二態様では、放射性汚染層RCLの残部を除去するためのパルスレーザーをレーザー発振器10で発生させレーザーガン20から照射する。
【0047】
さらに具体的には、レーザー切換スイッチ81は、第一態様においてレーザーガン20がCWレーザーを照射しつつ除染移動機構40(回動アーム43)が反時計回りに往回動する一方、第二態様においてレーザーガン20がパルスレーザーを照射しつつ除染移動機構40(回動アーム43)が時計回りに復回動するように切換え制御する。
【0048】
第一態様ではCWレーザーを照射しながら反時計回りに往回動(例えば正転)し、第二態様ではパルスレーザーを照射しながら逆向きに復回動(例えば逆転)する。このように、レーザー種別と移動方向とをリンクさせて切換え制御することにより、一層効率的に短時間で放射性汚染層RCLを除染することができる。なお、第一態様と第二態様とでレーザー種別が変更されても、レーザーガン20の離間距離(焦点距離)は放射性汚染層RCLから一定(例えば300mm)に保持されるので、レーザー出力(例えば最大2kW)、照射範囲(照射面積;例えば最大ビーム径50mm)、移動速度(例えば最大3m/min)等の調整を最小限にとどめて効率よく放射性汚染層RCLを除染することができる。
【0049】
次に、図5は集塵機300を模式的に示す平面断面図、図6は同じく正面断面図、図7は同じく側面断面図である。集塵機300は、フレキシブルホース271を介してダスト吸引機構70(図3図4参照)と接続される。集塵機300は、レーザービームの照射に伴って発生する放射性ダストを負圧吸引するための吸引流路272を内蔵する。集塵機300には吸引流路272を流れる放射性ダストを捕捉するためのエアフィルタ273,274が設けられる。吸引流路272にはターボファン等の吸引ファン270(負圧発生源)が配置され、ファン用モータ270a(負圧駆動源)で駆動される。
【0050】
サブ集塵機300Sは、フレキシブルホース271Sを介してサブ吸引機構70S(図1参照)と接続される。サブ集塵機300Sは、円筒状タンク1内の粉塵(放射性ダストを含む)を負圧吸引するための吸引流路272を内蔵する。サブ集塵機300Sにも吸引流路272を流れる粉塵を捕捉するためのエアフィルタ273,274が設けられる。サブ集塵機300Sの吸引流路272にもターボファン等の吸引ファン270(負圧発生源)が配置され、ファン用モータ270a(負圧駆動源)で駆動される。このようにサブ集塵機300Sは集塵機300と同じ構造のものが用いられるので、以下の説明は集塵機300のみを対象とする。
【0051】
吸引流路272は途中で左右に枝分かれし、各々の末尾に大気中への放出口272aが配置される。放出口272aよりも上流側の吸引流路272にはHEPAフィルタで構成されるメインフィルタ273(エアフィルタ)が各々配置され、メインフィルタ273よりもさらに吸引流路272の上流側であって枝分かれ前の位置に粗塵用エアフィルタで構成されるプレフィルタ274(エアフィルタ)が配置される。ダスト吸引機構70(図3図4参照)で吸引排出された放射性ダストはプレフィルタ274とメインフィルタ273で二段階に吸着(捕捉)されるので、ダスト処理作業を安全に行えるとともに、放出口272aから大気中へ放出される排気によって大気汚染等の環境破壊を招かない。
【0052】
メインフィルタ273は放出口272aから挿入され、その取付枠273aが放出口272aを取り囲むようにして止め具273bで集塵機300の左右の側壁に固定される。メインフィルタ273の交換時には、止め具273bを緩め、取付枠273aとメインフィルタ273を一体に側方へ取り外し、メインフィルタ廃棄ボックスBMで回収する(図12参照)。
【0053】
プレフィルタ274は矩形状(ここでは正方形状)の枠体274aに保持される。集塵機300の内部には、吸引流路272を横断するとともに、前方の側壁に形成された入口側貫通孔276(貫通孔)及び後方の側壁に形成された出口側貫通孔277(貫通孔)と各々連通するように一直線状に形成されたプレフィルタ収容スペース部275が配置される。入口側貫通孔276は外側で開閉する入口側開閉扉276aと止め具276bで閉鎖され、出口側貫通孔277は外側で開閉する出口側開閉扉277aと止め具277bで閉鎖される。
【0054】
プレフィルタ274の交換時には、入口側貫通孔276から挿入された新しいプレフィルタ274の枠体274aの側面及び押し棒Bでプレフィルタ収容スペース部275に収容された使用済みプレフィルタ274の枠体274aの側面を押す(図8図10参照)。これにより、使用済みプレフィルタ274が出口側貫通孔277から押出し排出され、プレフィルタ廃棄ボックスBPで回収される(図10参照)。新しいプレフィルタ274が吸引流路272を横断する形態で集塵機300のプレフィルタ収容スペース部275にセットされる。作業者は使用済みプレフィルタ274に触れることなく交換・廃棄作業を遂行できるから、吸引流路272の上流側に配置されとりわけ人体に有害な粗大粒子の捕集率が高いプレフィルタ274に対し、作業上の安全性が確保される。
【0055】
集塵機300は、放射性ダストを捕捉した使用済みのプレフィルタ274及びメインフィルタ273に対して飛散抑制剤を塗布するため、上下一対のプレフィルタ用噴霧ノズル280(噴霧機構)及び左右一対のメインフィルタ用噴霧ノズル290(噴霧機構)を有する。プレフィルタ用噴霧ノズル280はプレフィルタ用噴霧ポンプ281(噴霧供給源)に接続され、プレフィルタ用噴霧ポンプ281はプレフィルタ用ポンプモータ281a(噴霧駆動源)で駆動される。メインフィルタ用噴霧ノズル290はメインフィルタ用噴霧ポンプ291(噴霧供給源)に接続され、メインフィルタ用噴霧ポンプ291はメインフィルタ用ポンプモータ291a(噴霧駆動源)で駆動される。噴霧機構280,290による飛散抑制剤の塗布(噴霧)によって、使用済みフィルタ274,273を回収・廃棄する際に放射性ダストの外部拡散を防止でき、環境及び人体に対して悪影響を及ぼさない。
【0056】
次に、図13に示す工程説明図を用いて本発明に係るレーザー除染方法を説明する。
【0057】
<準備工程(図1参照)>
S0において、レーザー除染装置200と集塵機300、サブ集塵機300Sとをセッティングする。具体的には、レーザー除染装置200の回動アーム43,43を回転軸41に沿うように折り畳み、天蓋3の機材挿入口3aから搬入した後回動アーム43,43を半径方向に開く。集塵機300のフレキシブルホース271、レーザー発振器10の光ファイバー21、エアコンプレッサ160のエアホース161、ウィンチ53のチェン52等を閉鎖回転蓋3bに通してセットする。サブ集塵機300Sのサブフレキシブルホース271Sをサブ吸引機構70Sのサブ吸引口71Sと接続する。なお、フレキシブルホース271、エアホース161、光ファイバー21等の配管・配線時にはユニバーサルジョイント、フレキシブルジョイント等の接続具も用いられる。
【0058】
<第一工程(図1図3図4図14(B)参照)>
S1において、レーザー切換スイッチ81により回転用モータ140(回動アーム43)が180°(半周分)正転し、その間にレーザーガン20がCWレーザー(例えば出力2kW)を照射し、気体噴射機構60、ダスト吸引機構70、サブ吸引機構70Sが作動する。放射性汚染層RCLはCWレーザーの照射により剥離と溶融及び/又は蒸散の各作用を受け、第一工程後の断面を見ると、図14(B)のように放射性汚染層RCLが粗面化すなわちまだら模様に除去されている。
【0059】
<第二工程(図1図3図4図14(C)参照)>
S2において、レーザー切換スイッチ81により回転用モータ140(回動アーム43)が180°(半周分)逆転し、その間にレーザーガン20がパルスレーザー(例えば出力2kW、振動数10Hz)を照射し、気体噴射機構60、ダスト吸引機構70、サブ吸引機構70Sが作動する。第二工程後の断面を見ると、図14(C)のように放射性汚染層RCLの残余部分である粗面化部分が除去されて平坦化されている。なお、第二工程S2では、レーザービームの焦点距離(離隔距離)は第一工程S1と同等に維持される。また、レーザービームの出力、照射範囲(照射面積)及び移動速度は第一工程S1と同じ又は最小限の調整でよい。
【0060】
S3において、積算稼動時間(例えば10時間)が経過していれば(S3でYESの場合)、プレフィルタ交換工程及びメインフィルタ交換工程(S4,S5)を実行した後上昇工程(S6)に移行する。積算稼動時間が経過していなければ(S3でNOの場合)、直ちに上昇工程(S6)に移行する。なお、プレフィルタ274を交換するときの積算稼動時間とメインフィルタ273を交換するときの積算稼動時間とを別々に設定してもよい。
【0061】
<プレフィルタ交換工程(図8図10参照)>
S4において、入口側開閉扉276aを開放し、出口側開閉扉277aを閉鎖する。入口側貫通孔276から新しいプレフィルタ274を挿入し、使用済みプレフィルタ274の枠体274aが出口側開閉扉277aに当たるまで押し込む(図8)。上下のプレフィルタ用噴霧ノズル280から使用済みプレフィルタ274に飛散抑制剤を噴霧する(図9)。飛散抑制剤の乾燥定着後に出口側開閉扉277aを開放し、入口側貫通孔276から押し棒Bを挿入する。新しいプレフィルタ274を介して使用済みプレフィルタ274を出口側貫通孔277から押出し排出し、プレフィルタ廃棄ボックスBPで回収する(図10)。押し棒Bで新しいプレフィルタ274を引っ掛けて入口側貫通孔276側に引き戻し、吸引流路272の定位置にセットする(図7参照)。
【0062】
<メインフィルタ交換工程(図11図12参照)>
S5において、左右のメインフィルタ用噴霧ノズル290から使用済みメインフィルタ273に飛散抑制剤を噴霧する(図11)。飛散抑制剤の乾燥定着後に取付枠273aと使用済みメインフィルタ273を一体に側方へ取り外し、メインフィルタ廃棄ボックスBMで回収する(図12)。放出口272aから新しいメインフィルタ273を取付枠273aと一体に挿入して定位置に取り付ける(図6参照)。
【0063】
<上昇工程(図1図3参照)>
S6において、昇降切換スイッチ82により昇降用モータ150(ウィンチ53)が駆動してボス51(回動アーム43)を上昇させる。
【0064】
S7において、上限位置に到達していれば(S7でYESの場合)作動を停止し、上限位置に到達していなければ(S7でNOの場合)S1に移行する。
【0065】
<後処理工程(図示省略)>
廃炉処理の場合には、円筒状タンク1の解体・切断を行う。再稼動処理の場合には、レーザーガン20に代え防錆・防食塗料用塗布ノズルをスライダ31に保持し、防錆・防食塗料(例えばタールエポキシ樹脂塗料)を周壁2の内周壁面に塗布する。
【0066】
本発明は以上で述べた実施例に限定されない。例えば、次のような変更が可能である。
(1)図2において、回転軸41に突起を形成し、ボス51に溝を形成してもよい。
(2)図3において、チェン52はワイヤ、ロープ等の他の吊下げ部材に変更してもよい。
(3)図1図3において、回動アーム43(レーザーガン20)を3以上設けてもよい。回動アーム43の数がnの場合、各回動アーム43の揺動角は360°/nである。
【0067】
(4)図13のS1,S2において、正逆転の角度範囲は180°(半周分)より小又は大の任意の角度に設定してもよい。
(5)図13のS4,S5について、工程を逆にしたり同時に進行したりしてもよい。
(6)さらに、S4を噴霧工程、S5を交換行程に変更してもよい。例えば、S4においてプレフィルタに対する噴霧作業とメインフィルタに対する噴霧作業とを実行し、S5においてプレフィルタに対する交換作業とメインフィルタに対する交換作業とを実行することも可能である。
【0068】
実施例では溝41a及び突起51aによるボス51の回転機構(除染移動機構)40と、ウィンチ53等によるボス51の昇降機構50とを設けているが、回転軸41、ボス51間にボールねじスプライン機構を設けることにより、ボス51の正逆回動・昇降を個別に又は同時に行うことができる。なお、ボールねじスプライン機構の具体的構造は、例えば特公平5-70744号公報、特公平7-9260号公報、特開昭62-49070号公報等に記載されているので詳細説明を省略する。
【0069】
さらに、本発明の適用範囲すなわち除染対象物はステンレス鋼板製円筒状タンクに限定されることなく、非金属製(例えばコンクリート製)かつ非円筒状(例えば角筒状)の容器(例えば放射性物質収容ボックス)はもちろん、塗膜を有する平坦状、湾曲状又は屈曲状の構造体(例えば放射性物質保管施設の隔壁等)にも適用できる。
【符号の説明】
【0070】
1 円筒状タンク
2 周壁(基体)
3 天蓋
3a 機材挿入口
10 レーザー発振器
20 レーザーガン(レーザー照射機構)
21 光ファイバー
30 追従移動機構
31 スライダ(可動台座)
32 押圧スプリング(付勢部材)
33 回転ローラ(接触子)
40 除染移動機構
41 回転軸(主軸)
41a 溝(凹部)
43 回動アーム
50 昇降機構
51 ボス(昇降部材)
51a 突起(凸部)
53 ウィンチ(巻上器)
60 気体噴射機構
61 第一エア噴射ノズル(第一噴射口)
62 第二エア噴射ノズル(第二噴射口)
70 ダスト吸引機構
80 コントローラ(制御部)
81 レーザー切換スイッチ(切換手段)
200 レーザー除染装置
271 フレキシブルホース
272 吸引流路
273 メインフィルタ(エアフィルタ)
274 プレフィルタ(エアフィルタ)
274a 枠体
275 プレフィルタ収容スペース部
276 入口側貫通孔(貫通孔)
277 出口側貫通孔(貫通孔)
280 プレフィルタ用噴霧ノズル(噴霧機構)
290 メインフィルタ用噴霧ノズル(噴霧機構)
300 集塵機(集塵装置)
400 レーザー除染システム
P 塗膜
SUR 基体の表層部
SUB 基体の本体部
RCL 放射性汚染層
図1
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