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  • 特許-醸造酢の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】醸造酢の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12J 1/04 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
C12J1/04 103B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017251553
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019115302
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】392018056
【氏名又は名称】坂本香料株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597135194
【氏名又は名称】マルボシ酢株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】福田 なつみ
(72)【発明者】
【氏名】林 誠治
(72)【発明者】
【氏名】原田 勝
(72)【発明者】
【氏名】星野 宗広
【審査官】楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-089681(JP,A)
【文献】特開昭57-043679(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103740574(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102669780(CN,A)
【文献】特開2005-130704(JP,A)
【文献】特開2006-094817(JP,A)
【文献】特開2005-253380(JP,A)
【文献】特開2005-137208(JP,A)
【文献】新作のお料理ビネガー「瀬戸内レモンの酢」,酢ムリヱNO.0001 内堀光康 公式ブログ [オンライン],2016年02月25日,[検索日 2021年10月29日], インターネット<URL: https://lineblog.me/sumurie/archives/1605676.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 1/00-13/10
C12F 3/00-5/00
C12H 1/00-6/04
C12J 1/00-1/10
C12L 3/00-11/00
C12G 1/00-3/08
A23L 2/00-2/84
A23F 3/00-5/50
A23L 5/00-5/30
A23L 27/00-27/40
A23L 27/60
A23L 29/00-29/10
A23B 7/00-9/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘果皮エキスを含む基質を酢酸発酵させる工程を有し、
前記工程において、酢酸発酵の後半に、酢酸発酵液に香酸柑橘果汁を添加する、醸造酢の製造方法。
【請求項2】
原料が香酸柑橘果汁を含む、請求項1に記載の醸造酢の製造方法。
【請求項3】
柑橘果皮エキスを含む基質を酢酸発酵させる工程を有し、
前記柑橘果皮エキスは、柑橘果皮を親水性溶媒に浸漬した後、不溶物を除去することで得られるエキス分であり、
原料が香酸柑橘果汁を含む、醸造酢の製造方法。
【請求項4】
前記柑橘果皮エキスが、水、酢酸、及びエタノール、並びにこれら2種以上の混合溶媒からなる群より選択される溶媒を含む親水性溶媒に柑橘果皮を浸漬することで抽出されるエキス分である、請求項1~3のいずれか一項に記載の醸造酢の製造方法。
【請求項5】
前記柑橘果皮エキスがレモン由来である、請求項1~4のいずれか一項に記載の醸造酢の製造方法。
【請求項6】
酢酸発酵後の発酵液に柑橘果皮又は柑橘果皮エキス溶液を添加する工程を有しない、請求項1~のいずれか一項に記載の醸造酢の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醸造酢の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
醸造酢は、穀類、果実、野菜、その他の農産物若しくははちみつを原料としたもろみ、若しくはこれにアルコール若しくは砂糖類を加えたもの、又はアルコール等を酢酸発酵させた液体調味料である。醸造酢は、独特の風味を持つ調味料として広く使われている。
【0003】
醸造酢は、原料に応じて、穀物酢及び果実酢に分類される。特許文献1には、果汁中に含まれるクエン酸含量が少ない香酸柑橘果汁又はその希釈液のいずれかを、アルコール(エタノール)の存在下、酢酸菌によって酢酸発酵させることを特徴とする果実酢の製法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-146781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、人々の健康意識が高まってきており、それに伴い、食酢を希釈したりして飲用するという新たなニーズが生まれている。しかし、従来調味料として利用されている食酢には、ツンとしたお酢の刺激臭があり、必ずしも飲用に適したものとはいえない。また特許文献1に開示される果実酢は、酢酸の刺激臭が和らげられてはいるものの、飲用した場合にツンとしたお酢の刺激臭があるなど、未だ改善の余地がある。
【0006】
そこで本発明は、飲用したときのツンとしたお酢の刺激臭が抑制された醸造酢、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、醸造酢の製造に際し、柑橘果皮エキスを含ませた基質を酢酸菌に酢酸発酵させることにより、得られた醸造酢は、飲用したときのツンとしたお酢の刺激臭が抑制されていることを見出した。本発明はこの新規知見に基づくものである。
【0008】
すなわち、本発明は、柑橘果皮エキスを含む基質を酢酸発酵させる工程を有する、醸造酢の製造方法を提供する。
【0009】
本発明の製造方法は、柑橘果皮エキスを含む基質を酢酸発酵させるという手段を採用しているため、飲用したときのツンとしたお酢の刺激臭が抑制された醸造酢を得ることができる。
【0010】
本発明の製造方法において、柑橘果皮エキスは、水、酢酸、及びエタノール、並びにこれら2種以上の混合溶媒からなる群より選択される溶媒を含む親水性溶媒に柑橘果皮を浸漬することで抽出されるエキス分であってもよい。
【0011】
本発明の製造方法において、柑橘果皮エキスは、レモン果皮エキスであってもよい。
【0012】
本発明の製造方法において、原料が香酸柑橘果汁を含むものであってもよい。これにより、香酸柑橘果汁として使用した香酸柑橘類の特徴をより強く付与した醸造酢を得ることができる。
【0013】
本発明の製造方法は、酢酸発酵工程中に柑橘果皮エキスを存在させることに技術的意義があり、これにより飲用したときのツンとしたお酢の刺激臭が抑制された醸造酢を得ることができる。したがって、酢酸発酵後の発酵液に更に柑橘果皮又は柑橘果皮エキス溶液を添加する工程を有していても、有していなくてもよい。一方、飲用したときのツンとしたお酢の刺激臭が抑制されることに加え、柑橘果皮エキスとして使用した柑橘類の特徴的な香り及び風味をより強く感じられる醸造酢が得られるため、本発明の製造方法は、酢酸発酵後の発酵液に柑橘果皮又は柑橘果皮エキス溶液を添加する工程を有しないことが好ましい。特に柑橘果皮としてレモン果皮を使用した場合、飲用したときのツンとしたお酢の刺激臭が抑制されることに加え、爽やかなレモンの香り、及び爽やかなレモンの風味がより強く感じられる醸造酢を得ることができる。このため、得られる醸造酢は、より飲用に適した醸造酢となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、飲用したときのツンとしたお酢の刺激臭が抑制された醸造酢、及びその製造方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】各実施例及び比較例で製造した醸造酢(レモン酢)の官能評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本実施形態に係る醸造酢の製造方法は、柑橘果皮エキスを含む基質を酢酸発酵させる工程(以下、「酢酸発酵工程」ともいう。)を有するものである。
【0018】
本明細書において「醸造酢」とは、醸造酢の日本農林規格(昭和五十四年六月八日農林水産省告第八百一号)で定義されるものと同義である。
【0019】
本明細書において「柑橘果皮エキス」とは、柑橘類の果皮を親水性溶媒に浸漬することで抽出されるエキス分を意味する。なお、「柑橘果皮エキスを含む基質」は、後述するとおり、柑橘果皮エキスを添加した基質であってもよく、柑橘類の果皮を基質(通常、親水性溶媒である。)に浸漬することで柑橘果皮のエキス分を基質中に抽出したものであってもよい。
【0020】
親水性溶媒は、例えば、水、酢酸及びエタノール、並びにこれら2種以上の混合溶媒等を含む溶媒であってよい。
【0021】
柑橘類としては、例えば、レモン、ライム、シークワサー、スダチ、ユズ、ダイダイ、カボスなどの香酸柑橘類、グレープフルーツ、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、サワーオレンジ、ハッサク、温州ミカン、イヨカン、ポンカン、あま夏、ブンタン等が挙げられる。柑橘果皮エキスは、これら柑橘類のうち、1種単独に由来するものであってもよく、2種以上に由来するものであってもよい。柑橘類としては、本発明による効果をより顕著に発揮できることから、香酸柑橘類が好ましく、レモンがより好ましい。
【0022】
本実施形態に係る醸造酢の製造方法は、酢酸発酵工程の前に、アルコールを含む酢酸発酵用基質を調製する工程(以下、「調整工程」ともいう。)を更に有するものであってもよい。なお、本明細書においてアルコールとは、特に言及しない限り、エタノールを意味する。
【0023】
調整工程は、アルコールを含む原料を混合して酢酸発酵用基質を調製する工程(以下、「混合工程」ともいう。)であってもよく、原料を混合し、必要に応じて麹菌により糖化した後、酵母によりアルコール発酵してもろみを得る工程(以下、「アルコール発酵工程」ともいう。)であってもよい。アルコール発酵工程で得られたもろみは、そのまま酢酸発酵用基質としてもよいし、濾過等により固形物を除いたものを酢酸発酵用基質としてもよい。
【0024】
混合工程では、アルコール以外の原料として、穀類の糖化液、果実及び野菜等、並びに酢酸、水等を用いることができる。
【0025】
アルコール発酵工程では、原料として、穀類、果実及び野菜等、並びに水等を用いることができる。
【0026】
酢酸発酵工程において、柑橘果皮エキスを含む基質を酢酸発酵させる方法としては、例えば、予め柑橘果皮エキス溶液を調製し、当該柑橘果皮エキス溶液を酢酸発酵前の基質に添加する、及び/又は酢酸発酵中の基質に添加する方法(エキスを添加する方法)、並びに柑橘果皮を酢酸発酵前の基質に添加する、及び/又は酢酸発酵中の基質に添加する方法(果皮を添加する方法)が挙げられる。
【0027】
柑橘果皮エキス溶液の調製は、例えば、柑橘果皮を親水性溶媒に浸漬し、柑橘果皮エキス溶液を得るステップを含むものであってよい。また、柑橘果皮を親水性溶媒に浸漬した後、不溶物を濾過等により除去した柑橘果皮エキス溶液を得るステップを含むものであってもよい。親水性溶媒に浸漬する柑橘果皮は、柑橘果皮を含んでいればよく、例えば、柑橘果皮に加えて果汁を含むものであってもよい。すなわち、親水性溶媒に浸漬する柑橘果皮としては、例えば、果汁搾汁後に残る柑橘果皮であってもよく、柑橘果実(果汁及び果皮を含む。)であってもよい。
【0028】
柑橘果皮エキス溶液の調製において、親水性溶媒に対して浸漬する柑橘果皮の量は、使用する柑橘果皮の種類等に応じて適宜すればよいが、例えば、親水性溶媒1Lあたり柑橘果皮の量が0.5kg~4.0kgであってよく、1.0kg~3.0kgであるのが好ましい。
【0029】
エキスを添加する方法において、柑橘果皮エキス溶液は、任意のタイミングで基質に添加してよく、また2回以上の複数回に分けて基質に添加してもよい。また、醸造酢の製造方法が、アルコール発酵工程を有する場合は、アルコール発酵工程における原料、発酵中のもろみ、及び/又は発酵後のもろみに対して柑橘果皮エキス溶液を添加することにより、酢酸発酵用基質に柑橘果皮エキスを含ませてもよい。柑橘果皮エキス溶液は、少なくとも1回、酢酸発酵中の基質に添加するのが好ましい。
【0030】
エキスを添加する方法において、柑橘果皮エキス溶液の基質への添加量は、使用する柑橘果皮の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、柑橘果皮エキス溶液以外の基質の全量を100重量部としたとき、柑橘果皮エキス溶液が3~18重量部であってよく、6~12重量部であることが好ましい。柑橘果皮エキス溶液を2回以上に分けて基質に添加する場合は、添加する全量が上述の範囲内にあればよい。
【0031】
果皮を添加する方法において、柑橘果皮は、任意のタイミングで基質に添加してよく、また2回以上の複数回に分けて基質に添加してもよい。酢酸発酵前及び酢酸発酵中の基質は、水、酢酸及びエタノール等の親水性溶媒を含むため、柑橘果皮を基質に添加することにより、柑橘果皮のエキス分を基質中に抽出することができる。基質に添加する柑橘果皮は、柑橘果皮を含んでいればよく、例えば、柑橘果皮に加えて果汁を含むものであってもよい。すなわち、基質に添加する柑橘果皮としては、例えば、果汁搾汁後に残る柑橘果皮であってもよく、柑橘果実(果汁及び果皮を含む。)であってもよい。また、醸造酢の製造方法が、アルコール発酵工程を有する場合は、アルコール発酵工程における原料、発酵中のもろみ、及び/又は発酵後のもろみに対して柑橘果皮を添加することにより、酢酸発酵用基質に柑橘果皮エキスを含ませてもよい。柑橘果皮は、少なくとも1回、酢酸発酵前の基質に添加するのが好ましい。
【0032】
果皮を添加する方法において、柑橘果皮の基質への添加量は、使用する柑橘果皮の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、柑橘果皮以外の基質の全量を100重量部としたとき、柑橘果皮が50~400重量部であってよく、100~200重量部であることが好ましい。柑橘果皮を2回以上に分けて基質に添加する場合は、添加する全量が上述の範囲内にあればよい。
【0033】
酢酸発酵に使用する酢酸菌は、醸造酢の製造に用いられる酢酸菌であれば特に制限されない。酢酸菌としては、例えば、米酢発酵菌、他のビネガー発酵菌等の酢酸を生成する菌が挙げられる。酢酸菌のより具体的な例としては、Acetobacter aceti IFO 3281、Acetobacter aceti IFO 3283、Acetobacter aceti IFO 14818、Acetobacter pasteurianus IFO 14814等が挙げられる。
【0034】
酢酸発酵は、例えば、アセテーターで25~35℃程度で、通気しながら1週間~10日間程度で速醸法による酢酸発酵を行ってもよい。酢酸発酵開始よりアルコール又はアルコール水溶液を添加する、又は酢酸発酵中に随時若しくは適時アルコール又はアルコール水溶液を添加することにより、酢酸濃度を高めてもよい。
【0035】
酢酸発酵工程は、例えば、酢酸発酵液の波長600nmにおける透過率が90%以上に到達した時点で終了してもよい。酢酸発酵液の波長600nmにおける透過率は、酢酸発酵中の酢酸発酵液を少量分取し、分光光度計(例えば、紫外可視分光光度計UVmini-1240(島津製作所社製))を用いて測定することができる。
【0036】
本実施形態に係る製造方法は、酢酸発酵後の発酵液に柑橘果皮エキス溶液及び/又は柑橘果皮を添加する工程(以下、「後添加工程」ともいう。)を更に有していてもよい。本実施形態に係る製造方法は、後添加工程を有している場合でも、飲用したときのツンとしたお酢の刺激臭が抑制された醸造酢を得ることができる。一方、本実施形態に係る製造方法は、後添加工程を有しないことが好ましい。後添加工程を有しないことにより、酢酸発酵工程で柑橘果皮エキスとして使用した柑橘類の特徴的な香り及び風味をより強く感じられる醸造酢を得ることができる。このため、得られる醸造酢は、より飲用に適した醸造酢となる。
【0037】
本実施形態に係る製造方法は、原料が香酸柑橘果汁を含むものであってもよい。香酸柑橘果汁は、減酸処理を施したものであってもよい。減酸処理は、香酸柑橘果汁からクエン酸又はその塩を除去する処理である。減酸処理は、例えば、香酸柑橘果汁に炭酸カルシウム(CaCO)を添加し、クエン酸カルシウム塩を形成させ、これを不溶物として除去することにより実施することができる。また、イオン交換樹脂により、減酸処理をすることも可能である。減酸処理では、香酸柑橘果汁からクエン酸又はその塩を完全に除去する必要はなく、例えば、香酸柑橘果汁中のクエン酸濃度が全量を基準として3質量%以下となるように実施してもよく、2質量%以下となるように実施してもよい。
【0038】
原料が香酸柑橘果汁を含むものである場合、香酸柑橘果汁は任意のタイミングで添加してよいが、例えば、酢酸発酵工程において、酢酸発酵の後半に、酢酸発酵の基質全量を基準として、香酸柑橘果汁を0.001~60w/v%添加するのが好ましい。これにより、香酸柑橘の特徴をより強く付与した醸造酢を得ることができる。香酸柑橘果汁の添加量は、0.01~30w/v%であることがより好ましく、0.01~20w/v%であることが更に好ましい。
【0039】
本実施形態に係る製造方法は、酢酸発酵工程の後に、発酵液に水を添加する工程(和水工程)、発酵液をオリ下げする工程(オリ下げ工程)、発酵液を濾過する工程(濾過工程)、発酵液を容器に充填する工程(充填工程)等の醸造酢の通常の製造方法で採用される工程を更に有していてもよい。
【0040】
本発明の製造方法により得られる醸造酢は、「ツンとしたお酢の刺激臭」及び「ツンとしたお酢の刺激的な風味」が抑えられ、飲用適性が向上している。したがって、本発明の製造方法により得られる醸造酢は、飲用として好適に使用される。
【実施例
【0041】
以下、実施例等に基づいて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
〔比較例1:従来法による醸造酢(レモン酢)の製造〕
変性アルコール(アルコール47w/v%、酢酸6~7w/v%。以下同じ。)0.6L、ホワイトビネガー(酢酸15w/v%。以下同じ。)3.5L、及び水2.9Lを容器に添加して混合することにより、酢酸発酵基質を得た。酢酸発酵基質に酢酸菌を加え、酢酸発酵を開始した。酢酸発酵液中のアルコール濃度が1~2w/v%に到達した後、濃縮レモン果汁液(濃縮減酸レモン果汁0.9kg、変性アルコール0.2L及び水0.4Lの混合液)を酢酸発酵液に加え、引き続き酢酸発酵を行った。アルコール濃度が0.3w/v%以下に到達した時点で、レモンの特徴をより強く付与するためストレートレモン果汁1kgを加え、引き続き酢酸発酵を行った。酢酸発酵液の波長600nmにおける透過率が90%以上に到達した時点で酢酸発酵を終了した。得られた発酵液を濾過して、比較例1の醸造酢(レモン酢)を得た。なお、透過率は、酢酸発酵液を少量分取し、紫外可視分光光度計UVmini-1240(島津製作所社製)を用いて測定した。
【0043】
〔実施例1:醸造酢(レモン酢)の製造〕
(レモン果皮エキスの製造)
変性アルコール0.6L及び水0.4Lを混合し、これにレモン果皮(インライン搾汁残渣)2kgを加え、24時間浸漬した。レモン果皮を濾過除去し、レモン果皮エキスを得た(表1)。
【0044】
【表1】
【0045】
(醸造酢(レモン酢)の製造)
レモン果皮エキス0.6L、ホワイトビネガー3.5L、及び水2.9Lを容器に添加して混合することにより、酢酸発酵基質を得た。酢酸発酵基質に酢酸菌を加え、酢酸発酵を開始した。酢酸発酵液中のアルコール濃度が1~2w/v%に到達した後、濃縮レモン果汁液(濃縮減酸レモン果汁0.9kg、変性アルコール0.2L及び水0.4Lの混合液)を酢酸発酵液に加え、引き続き酢酸発酵を行った。アルコール濃度が0.3w/v%以下に到達した時点で、レモンの特徴をより強く付与するためストレートレモン果汁1kgを加え、引き続き酢酸発酵を行った。酢酸発酵液の波長600nmにおける透過率が90%以上に到達した時点で酢酸発酵を終了した。得られた発酵液を濾過して、実施例1の醸造酢(レモン酢)を得た。透過率は、比較例1と同じ方法で測定した。
【0046】
〔実施例2:醸造酢(レモン酢)の製造〕
実施例1と同様に製造したレモン果皮エキス0.6L、ホワイビネガー3.5L、及び水2.9Lを容器に添加して混合することにより、酢酸発酵基質を得た。酢酸発酵基質に酢酸菌を加え、酢酸発酵を開始した。酢酸発酵液中のアルコール濃度が1~2w/v%に到達した後、濃縮レモン果汁液(濃縮減酸レモン果汁0.9kg、変性アルコール0.2L及び水0.4Lの混合液)を酢酸発酵液に加え、引き続き酢酸発酵を行った。アルコール濃度が0.3w/v%以下に到達した時点で、レモンの特徴をより強く付与するためストレートレモン果汁1kgを加え、引き続き酢酸発酵を行った。酢酸発酵液の波長600nmにおける透過率が90%以上に到達した時点で酢酸発酵を終了した。得られた発酵液にレモン果皮1kgを加え、24時間浸漬した後、濾過除去し、実施例2の醸造酢(レモン酢)を得た。透過率は、比較例1と同じ方法で測定した。
【0047】
〔比較例2:醸造酢(レモン酢)の製造〕
変性アルコール0.6L、ホワイビネガー3.5L、及び水2.9Lを容器に添加して混合することにより、酢酸発酵基質を得た。酢酸発酵基質に酢酸菌を加え、酢酸発酵を開始した。酢酸発酵液中のアルコール濃度が1~2w/v%に到達した後、濃縮レモン果汁液(濃縮減酸レモン果汁0.9kg、変性アルコール0.2L及び水0.4Lの混合液)を酢酸発酵液に加え、引き続き酢酸発酵を行った。アルコール濃度が0.3w/v%以下に到達した時点で、レモンの特徴をより強く付与するためストレートレモン果汁1kgを加え、引き続き酢酸発酵を行った。酢酸発酵液の波長600nmにおける透過率が90%以上に到達した時点で酢酸発酵を終了した。得られた発酵液にレモン果皮2kgを加え、24時間浸漬した後、濾過除去し、比較例2の醸造酢(レモン酢)を得た。透過率は、比較例1と同じ方法で測定した。
【0048】
各実施例及び比較例の配合を表2にまとめた。
【表2】
【0049】
〔醸造酢(レモン酢)の官能評価〕
各実施例及び比較例で得られた醸造酢(レモン酢)を官能評価により評価した。官能評価には、各実施例及び比較例で得られた醸造酢(レモン酢)を酢酸濃度0.2w/v%となるように水で調整したものを使用した。
【0050】
訓練されたパネル10名により、「甘い香り」、「爽やかなレモンの香り」、「ツンとしたお酢の刺激臭」、「甘味」、「酸味」、「コク」、「甘い風味」、「爽やかなレモンの風味」、「ツンとしたお酢の刺激的な風味」、「後引く酸味」、「後引く苦味」、「まろやかさ」、「総合評価(香り)」、「総合評価(風味)」の14項目について、官能評価を実施した。レモン果皮を全く添加していない比較例1の醸造酢(レモン酢)をコントロールサンプルに設定し、他の実施例及び比較例の醸造酢(レモン酢)は、各評価項目毎にコントロールサンプルと比較して、その強弱を採点法を用いて評価した。具体的には、コントロールサンプルと同程度の強度であれば4点、強く感じられれば最大7点、弱く感じられれば最小1点と設定した(1点~7点の7段階)。そして、各パネルが付けた点数の平均値を評点とした。
【0051】
結果を図1に示す。実施例1及び2の醸造酢(レモン酢)は、「ツンとしたお酢の刺激臭」及び「ツンとしたお酢の刺激的な風味」が抑えられ、飲用適性が向上していることが分かった。特に実施例1の醸造酢(レモン酢)は、「爽やかなレモンの香り」及び「爽やかなレモンの風味」が強く感じられ、特に飲用適性が向上していることが分かった。
図1