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特許7088513人工網膜の挿入キット及び人工網膜挿入具への人工網膜の装填方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】人工網膜の挿入キット及び人工網膜挿入具への人工網膜の装填方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
A61F9/007
A61F9/007 190A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019506045
(86)(22)【出願日】2018-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2018009737
(87)【国際公開番号】W WO2018168853
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2017047431
(32)【優先日】2017-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】594073554
【氏名又は名称】三乗工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松尾 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 功一郎
(72)【発明者】
【氏名】眞田 達也
【審査官】伊藤 孝佑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/095884(WO,A1)
【文献】特表2009-524486(JP,A)
【文献】国際公開第2016/077497(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61F 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状の人工網膜が装填される挿入ノズルを有する人工網膜挿入具の前記挿入ノズル内に前記人工網膜を装填する装填方法であって、
前記挿入ノズルと同一の径寸法を有する送りノズル内に前記人工網膜を挿入するステップと、
内部に前記送りノズルを挿入可能としたガイドチューブの一方端から前記送りノズルを挿入するとともに、他方端から前記挿入ノズルを挿入して、前記ガイドチューブ内で前記送りノズルと前記挿入ノズルとを突き合わせるステップと、
前記送りノズルに押し棒の補助芯棒を挿入して、前記送りノズル内の前記人工網膜を前記挿入ノズルに移動させることで前記挿入ノズル内に前記人工網膜を装填するステップと
を有し、前記送りノズルに前記人工網膜を挿入する際には、硝子体手術用の鉗子を用い、この鉗子の先端部分を前記送りノズルの基端側から挿入して前記送りノズルの先端側から突出させた状態として前記鉗子で前記人工網膜を掴み、その状態で前記送りノズルに対して前記鉗子をスライドさせることで前記人工網膜を前記送りノズル内に挿入している人工網膜挿入具への人工網膜の装填方法。
【請求項2】
前記送りノズルに前記人工網膜を挿入する際には、前記送りノズルをスタンドに装着して行い、
前記スタンドは、平板状の基台と、この基台に立設した支持壁とを有し、この支持壁に前記送りノズルを装着可能とし、
前記スタンドの基台の表面には凹形状の溝を設けるとともに、この溝の一方の側壁と、前記スタンドに装着した前記送りノズルの中心軸とを同一の仮想平面上に位置させている請求項1に記載の人工網膜挿入具への人工網膜の装填方法。
【請求項3】
フィルム状の人工網膜と、
この人工網膜が装填される挿入ノズルを備えた人工網膜挿入具と、
前記人工網膜が一的に挿入される送りノズルと、
この送りノズルと前記挿入ノズルとを連通させるガイドチューブと、
前記送りノズル内の前記人工網膜を前記挿入ノズル内に押送する補助芯棒を有する押し棒と、
前記人工網膜を摘んで前記送りノズル内に挿入する硝子体手術用の鉗子と、
前記送りノズルを支持するスタンドと
を具備する人工網膜の挿入キット。
【請求項4】
前記スタンドは、平板状の基台と、この基台に立設した支持壁とを有し、この支持壁に前記送りノズルを装着可能とするとともに、前記基台の表面には凹形状の溝を設け、この溝の一方の側壁と、前記支持壁装着した前記送りノズルの中心軸とを同一の仮想平面上に位置させている請求項3に記載の人工網膜の挿入キット。
【請求項5】
前記人工網膜挿入具の前記挿入ノズルの表面を親水性としている請求項3または請求項4に記載の人工網膜の挿入キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状とした人工網膜を神経網膜(以下、網膜)と網膜色素上皮との間に挿入するために用いる人工網膜の挿入キット及び人工網膜挿入具への人工網膜の装填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、ポリエチレン製のフィルムの表面に色素分子を結合させた人工網膜を開発した(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この人工網膜は、加齢黄斑変性等により機能が消失した網膜の視細胞の代替物である。人工網膜は、網膜と網膜色素上皮との間に挿入して、視細胞の替わりに光起電力を生じさせることで、視力を回復させることが期待されている。
【0004】
人工網膜を網膜と網膜色素上皮との間に挿入するためには、まず、人工的に網膜剥離の状態を生じさせることで網膜を網膜色素上皮から剥離させ、人工網膜が挿入される空間を形成している。次いで、網膜に人工網膜を通す裂孔を形成して、この裂孔から人工網膜を網膜と網膜色素上皮との間に挿入している。その後、網膜を元の状態に復元させることで、人工網膜が網膜と網膜色素上皮とで挟まれた状態としている。
【0005】
網膜に形成した裂孔から人工網膜を網膜と網膜色素上皮との間に挿入する際には、フィルム状となっている人工網膜を丸めることで円筒形状とし、挿入作業を行いやすくしている。円筒形状とした人工網膜は、互いに重なり合った部分を鉗子で摘むことで円筒形状の状態を維持可能としている。この円筒形状とした人工網膜は、裂孔から網膜と網膜色素上皮との間に挿入した後に鉗子による摘みが解除されることで網膜色素上皮に沿って展開され、網膜の裏側と面接触することとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際特開第2015/152233号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
円筒形状とした人工網膜を網膜に形成した裂孔から網膜と網膜色素上皮との間に挿入する作業では、裂孔への挿入が完了するまでは、鉗子で人工網膜を摘んだ状態を維持し続ける必要があった。すなわち、鉗子で人工網膜を摘んだ状態を解除すると、人工網膜自体の弾性力で人工網膜が展開してしまい、一本の鉗子だけで再び人工網膜を円筒形状とすることが不可能であるからである。
【0008】
そこで、円筒形状とした人工網膜に、その状態を維持させるための固定具等を用いることも考えられるが、この場合には、円筒形状とした状態が比較的長時間維持されやすくなることで人工網膜が反り返りやすくなり、網膜色素上皮に沿って展開させにくくなるおそれがあった。
【0009】
そのため、挿入作業の直前に人工網膜を円筒形状として、直ちに挿入作業をする必要があり、施術者の負担が大きいものとなっていた。しかも、人工網膜を円筒形状とする際には、人工網膜に触りすぎると人工網膜の表面の有機色素が脱落するおそれもあり、慎重かつ手早い作業が求められていた。
【0010】
そこで、これらの作業をより簡便かつ確実に実行できるように検討する中で本発明者らは本発明を成すに至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、フィルム状の人工網膜が装填される挿入ノズルを有する人工網膜挿入具の挿入ノズル内に人工網膜を装填する装填方法であって、次の1)~3)のステップを有するものである。
1)挿入ノズルと同一の径寸法を有する送りノズル内に人工網膜を挿入するステップ。
2)内部に送りノズルを挿入可能としたガイドチューブの一方端から送りノズルを挿入するとともに、他方端から挿入ノズルを挿入して、ガイドチューブ内で送りノズルと挿入ノズルとを突き合わせるステップ。
3)送りノズルに押し棒の補助芯棒を挿入して、送りノズル内の人工網膜を挿入ノズルに移動させることで挿入ノズル内に前記人工網膜を装填するステップ。
【0012】
しかも、送りノズルに人工網膜を挿入する際には、硝子体手術用の鉗子を用い、この鉗子の先端部分を送りノズルの基端側から挿入して送りノズルの先端側から突出させた状態として鉗子で人工網膜を掴み、その状態で送りノズルに対して鉗子をスライドさせることで人工網膜を送りノズル内に挿入しているものである。
【0013】
さらに、本発明の人工網膜挿入具への人工網膜の装填方法では、送りノズルに人工網膜を挿入する際には、送りノズルをスタンドに装着して行い、このスタンドは、平板状の基台と、この基台に立設した支持壁とを有し、この支持壁に送りノズルを装着可能とし、さらに、スタンドの基台の表面には凹形状の溝を設けるとともに、この溝の一方の側壁と、スタンドに装着した送りノズルの中心軸とを同一の仮想平面上に位置させていることにも特徴を有するものである。
【0014】
また、本発明の人工網膜の挿入キットは、フィルム状の人工網膜と、この人工網膜が装填される挿入ノズルを備えた人工網膜挿入具と、人工網膜が一的に挿入される送りノズルと、この送りノズルと挿入ノズルとを連通させるガイドチューブと、送りノズル内の人工網膜を挿入ノズル内に押送する補助芯棒を有する押し棒と、人工網膜を摘んで送りノズル内に挿入する硝子体手術用の鉗子と、送りノズルを支持するスタンドとを具備するものである。
【0015】
さらに、本発明の人工網膜の挿入キットは、以下の点にも特徴を有するものである。
(1)スタンドは、平板状の基台と、この基台に立設した支持壁とを有し、この支持壁に送りノズルを装着可能とするとともに、基台の表面には凹形状の溝を設け、この溝の一方の側壁と、支持壁装着した送りノズルの中心軸とを同一の仮想平面上に位置させていること。
(2)人工網膜挿入具の挿入ノズルの表面を親水性としていること。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、人工網膜を速やかに人工網膜挿入具の挿入ノズル内に挿入することができ、この人工網膜挿入具を介して網膜と網膜色素上皮との間に人工網膜を挿入することで、手早く、確実な挿入作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る人工網膜の挿入キットの説明図である。
図2】本発明に係る人工網膜挿入具の説明図である。
図3】本発明に係る人工網膜挿入具の縦断面図である。
図4】人工網膜挿入具の挿入ノズル内への人工網膜の装填方法の説明図である。
図5】人工網膜挿入具の挿入ノズル内への人工網膜の装填方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において、図面に基づいて本発明の人工網膜の挿入キット、この挿入キットの人工網膜挿入具の挿入ノズル内への人工網膜の装填方法、及び人工網膜の挿入方法を説明する。
【0019】
本発明の人工網膜の挿入キットは、図1に示すように、フィルム状の人工網膜11と、人工網膜11が装填される挿入ノズル12aを備えた人工網膜挿入具12と、人工網膜11が一時的に挿入される送りノズル13と、送りノズル13と挿入ノズル12aとを連通させるために用いるガイドチューブ14と、送りノズル13内の人工網膜11を挿入ノズル12a内に押送する押し棒15と、人工網膜11を摘んで送りノズル13内に挿入する硝子体手術用の鉗子16と、送りノズル13を支持するスタンド17とを具備するものである。
【0020】
人工網膜11は、厚みを約30μm程度としたポリエチレン製のフィルムの表面に色素分子を結合させて形成している。人工網膜11は、直径7mm程度の円形としているが、必要に応じて大きさや形状を適宜調整してもよい。
【0021】
人工網膜挿入具12は、先端に挿入ノズル12aを有し、この挿入ノズル12aの内側には進退自在とした芯棒12b-1を挿入して、後述するように挿入ノズル12a内に配置した人工網膜11を芯棒12b-1で押出可能としている。
【0022】
図2に人工網膜挿入具12の部品構成の説明図、図3に人工網膜挿入具12の縦断面図を示す。図2に示すように、人工網膜挿入具12は、挿入ノズル12aと、この挿入ノズル12a内に挿通させる芯棒12b-1を先端に備えたプランジャー12bと、このプランジャー12bを進退自在に挿通させた円筒状の外筒12cと、この外筒12c内に設けてプランジャー12bを後退方向に付勢するスプリング12dと、挿入ノズル12aを外筒12cに連結するために用いるノズルガイド12eとで構成している。
【0023】
挿入ノズル12aは、本実施形態では、外径3mmのポリプロピレン製のチューブで構成している。挿入ノズル12aの先端側は、袈裟懸け状に切断することで先鋭化させている。なお、挿入ノズル12aは、後述するように眼球に挿し入れるため、できるだけ細い方が望ましい。ただし、細くし過ぎた場合には、ニードル12の内側に挿入した人工網膜11をスムーズに移動させにくくなるおそれがあるため、外径2~3mm程度が望ましい。挿入ノズル12aの外周面は親水性とすることが望ましく、添加剤あるいはコーティング剤を用いて挿入ノズル12a表面を親水性としておくことが望ましい。
【0024】
また、挿入ノズル12aは、内側に装填した人工網膜11が視認できることが望ましく、透明あるいは半透明であることが望ましい。
【0025】
挿入ノズル12aの基端には、漏斗状としたフランジ12a-1を形成している。このフランジ12a-1は、後述するようにノズルガイド12eを介して外筒12cに挿入ノズル12aを装着した際に、挿入ノズル12aが脱落することを防止するストッパーである。
【0026】
プランジャー12bは、先端側から細い円柱状とした芯棒12b-1と、この芯棒12b-1よりも太径とした第1太径軸12b-2と、この第1太径軸12b-2よりも太径とした第2太径軸12b-3と、押子12b-4とで構成している。
【0027】
芯棒12b-1は、挿入ノズル12a内に挿通可能としており、所定の長さとしている。第1太径軸12b-2と第2太径軸12b-3は、それぞれ所定の外径寸法を有する円柱体としている。特に、第2太径軸12b-3の先端側の周面には突起状の係止片12b-5を設けている。押子12b-4はフランジ状として、後述するように芯棒12b-1を前進させる際に、親指による押込操作を行いやすくしている。
【0028】
外筒12cは、プランジャー12bを挿通可能とした筒状体としている。外筒12cの先端側には、ノズルガイド12eを螺着するための雌ネジ12c-1を形成している。また、外筒12cの内側には、プランジャー12bの第1太径軸12b-2が挿入される第1太径軸用空間12c-2と、プランジャー12bの第2太径軸12b-3が挿入される第2太径軸用空間12c-3をそれぞれ形成している。
【0029】
第1太径軸用空間12c-2の内部には、プランジャー12bの進退方向と平行にスプリング12dを配設可能としている。この第1太径軸用空間12c-2に配設したスプリング12dが、第1太径軸12b-2の前端面をプランジャー12bの後退方向に押すことで、プランジャー12bを後退方向に付勢している。
【0030】
第2太径軸用空間12c-3の内周面には、内側に向けて突出させた第1突出壁12c-4と第2突出壁12c-5を形成している。第1突出壁12c-4は、第2突出壁12c-5よりも基端側に設けている。この第2突出壁12c-5及び第1突出壁12c-4は、プランジャー12bに設けた係止片12b-5とを係合させることで、スプリング12dによって後退方向に付勢されたプランジャー12bが外筒12cから抜け出ることを防止するために設けている。
【0031】
特に、第1突出壁12c-4と第2突出壁12c-5には、プランジャー12bの係止片12b-5を通過可能とする切欠部(図示せず)を設けている。さらに、、第1突出壁12c-4に設けた切欠部の位置と、第2突出壁12c-5に設けた切欠部の位置とを180°ずらしている。
【0032】
すなわち、まず、第1突出壁12c-4に設けた切欠部の位置にプランジャー12bの係止片12b-5を合わせて第1突出壁12c-4を通過させ、次いで、プランジャー12bを180°回転させることで第2突出壁12c-5に設けた切欠部の位置にプランジャー12bの係止片12b-5を合わせて第2突出壁12c-5を通過させて、さらにプランジャー12bを180°回転させることで、第2突出壁12c-5とプランジャー12bの係止片12b-5とを係合させることとしている。
【0033】
外筒12cの外周面には、図1に示すように、長手方向に所定の間隔でリング状に突出させた突出片12c-6を複数形成している。この突出片12c-6は、スプリング12dの付勢に抗してプランジャー12bを押込操作する際の滑り止めである。さらに、外筒12cの外周面には、図1に示すように、長手方向に延伸させて直線状に突出させた転動防止片12c-7を設けている。
【0034】
ノズルガイド12eは、図2に示すように、プランジャー12bの挿入ノズル12aを挿通可能とした筒状体としており、基端側には、外筒12cに設けた雌ネジ12c-1に螺着するための雄ネジ12e-1を形成している。
【0035】
さらに、ノズルガイド12eの基端には、挿入ノズル12aの基端に設けたフランジ12a-1を嵌合する嵌合凹部12e-2を設けている。
【0036】
このように、挿入ノズル12aと、プランジャー12bと、外筒12cと、スプリング12dと、ノズルガイド12eとで構成される人工網膜挿入具12は、以下のようにして組み立てている。
【0037】
まず、図3に示すように、ノズルガイド12eに挿入ノズル12aを挿入して、ノズルガイド12eを外筒12cの先端に螺着している。次いで、外筒12c内にスプリング12dに挿入する。次いで、プランジャー12bを外筒12cに装着している。このとき、上述したように、外筒12cの第1突出壁12c-4に設けた切欠部の位置にプランジャー12bの係止片12b-5を合わせて第1突出壁12c-4を通過させ、次いで、プランジャー12bを180°回転させることで外筒12cの第2突出壁12c-5に設けた切欠部の位置にプランジャー12bの係止片12b-5を合わせて第2突出壁12c-5を通過させて、さらにプランジャー12bを180°回転させることで、第2突出壁12c-5とプランジャー12bの係止片12b-5とを係合させている。
【0038】
送りノズル13は、挿入ノズル12aと同一の外径寸法を有するチューブで構成し、本実施形態では、挿入ノズル12aと同じくポリプロピレン製のチューブで構成している。送りノズル13も、内側に挿入した人工網膜11が視認できることが望ましく、透明あるいは半透明であることが望ましい。また、送りノズル13内側に人工網膜11を挿入する際の目印として、所定の位置にガイド線を設けてもよい。
【0039】
本実施形態では、送りノズル13の基端に漏斗状としたガイドフランジ13-1を形成している。このガイドフランジ13-1は、後述するようにスタンド17に送りノズル13を安定的に装着するためのものである。
【0040】
ガイドチューブ14は、内部に送りノズル13を挿入可能としたチューブで構成し、本実施形態では、挿入ノズル12aと同じくポリプロピレン製のチューブで構成している。ガイドチューブ14も、内側が視認できることが望ましく、透明あるいは半透明であることが望ましい。
【0041】
ガイドチューブ14は、送りノズル13を内部に挿入可能としていることによって、送りノズル13と同一の径寸法としている挿入ノズル12aも内部に挿入可能となっている。
【0042】
押し棒15は、所定長さの棒状体で構成される補助芯棒15aと、この補助芯棒15aの後端部に設けた太径のグリップ15bとで構成している。補助芯棒15aは、挿入ノズル12a及び送りノズル13の内側に挿入可能な太さとしている。補助芯棒15aは、後述するように、送りノズル13内に挿入した人工網膜11を挿入ノズル12a内に芯棒部15aの先端で押送することで移動させることとしている。
【0043】
鉗子16は、硝子体手術用の鉗子であって、本実施形態では、日本アルコン株式会社が販売しているグリスハーバー(登録商標)レボリューション(登録商標)DSPを用いている。鉗子16は、後述するように、人工網膜11を送りノズル13の内側に挿入するためだけに用いており、グリスハーバー(登録商標)レボリューション(登録商標)DSPが好適であった。
【0044】
鉗子16は、所定長さのシース16aの先端部分に開閉操作されるジョウ16bを有しており、このジョウ16bで人工網膜11を摘むこととしている。鉗子16は、シース16aの長さが送りノズル13の長さよりも長く、かつ送りノズル13に挿通可能となっていればよく、必ずしもグリスハーバー(登録商標)レボリューション(登録商標)DSPを用いる必要はない。一方、送りノズル13の長さは、鉗子16のシース16aの長さよりも短くしている。
【0045】
スタンド17は、後述するように送りノズル13に人工網膜11を挿入する際に使用するものであって、平板状の基台17aと、この基台17aに立設した第1支持壁17b及び第2支持壁17cとで構成している。第1支持壁17bと第2支持壁17cは、後述するように送りノズル13のガイドフランジ13-1を挟持可能な間隔を隔てて平行に配設している。
【0046】
第1支持壁17bと第2支持壁17cには、鉛直方向に沿って、それぞれU字状の切欠溝17b-1,17c-1を設けている。特に、第1支持壁17bに設けた切欠溝17b-1の幅寸法は、送りノズル13の外形寸法と一致させており、この切欠溝17b-1で送りノズル13を支持することとしている。したがって、第1支持壁17bは、第2支持壁17cよりも厚肉として、送りノズル13を安定的に支持可能としている。
【0047】
基台17aの上面には、スタンド17に装着される送りノズル13の延伸方向と平行として凹形状の溝17dを設けている。特に、この溝17dの一方の側壁17eは、この側壁17eの壁面と同一の仮想平面上に、後述するように第1支持壁17bの切欠溝17b-1に装着した送りノズル13の中心軸を位置させて配置している。
【0048】
基台17aの上面に設けた溝17dは、後述するように、送りノズル13内に挿入される人工網膜11を仮置きするために用いるものであり、溝17dの側壁17eに沿わせて人工網膜11を仮置きすることで、送りノズル13内に人工網膜11を挿入しやすくすることができる。
【0049】
なお、第1支持壁17b及び第2支持壁17cに設ける切欠溝17b-1,17c-1は、後述するように第1支持壁17bの切欠溝17b-1に装着した送りノズル13の先端が、溝17dに仮置きした人工網膜11と対向する高さとしておくことが望ましい。また、溝17dは、スタンド17に装着された送りノズル13の先端よりも前方側に設けることで、人工網膜11を適正な位置に配置可能としている。
【0050】
以下において、人工網膜挿入具12の挿入ノズル12a内への人工網膜11の装填方法を説明する。
【0051】
まず、図4(a)に示すように、スタンド17を平坦な台の上に載置し、スタンド17の第1支持壁17bと第2支持壁17cの間に送りノズル13のガイドフランジ13-1を挿し入れながら、第1支持壁17bの切欠溝17b-1に送りノズル13を差し入れている。
【0052】
次いで、生理食塩水等の適宜の洗浄水で洗浄した人工網膜11をスタンド17の溝17dに仮置きする。このとき、人工網膜11は、溝17dの側壁17eに沿わせて立て掛けることで、起立した状態としている。しかも、人工網膜11は、洗浄水で濡れていることで、溝17dの側壁17eに引っ付いた状態となり、起立姿勢となりやすくなっている。
【0053】
説明の便宜上、送りノズル13をスタンド17に装着した状態において、送りノズル13の人工網膜11に近い方の端部側を「先端側」と呼び、その反対の端部側を「基端側」と呼ぶこととする。
【0054】
次いで、図4(b)に示すように、鉗子16のジョウ16bを送りノズル13の基端側から挿入して、先端側からのジョウ16bを突出させた状態とする。そして、ジョウ16bで人工網膜11を掴む。このとき、人工網膜11は溝17dの側壁17eに沿って起立しているので、送りノズル13に挿通させた鉗子16は、送りノズル13に挿通させるだけジョウ16bを人工網膜11に近接させることができ、極めて容易に人工網膜11を掴むことができる。
【0055】
次いで、ジョウ16bで人工網膜11を掴んだ状態のまま、送りノズル13に対して鉗子16を送りノズル13から引き抜く方向にスライドさせることで、図4(c)に示すように、人工網膜11を送りノズル13内に挿入する。
【0056】
人工網膜11が送りノズル13内に挿入されたところで、ジョウ16bを人工網膜11から離し、送りノズル13内に人工網膜11を留置する。
【0057】
なお、送りノズル13内に挿入された人工網膜11は、送りノズル13内への挿入にともなって自然と円筒状に丸まっている。特に、送りノズル13の先端側を袈裟懸け状に切断して先鋭化させておくことで、人工網膜11の形状にかかわらず円筒状に丸めることができる。
【0058】
次いで、図5(a)に示すように、人工網膜11が挿入された状態でスタンド17に装着されている送りノズル13と、ガイドチューブ14と、押し棒15を用いて、人工網膜挿入具12への人工網膜11の挿入を行う。
【0059】
ここで、人工網膜挿入具12の挿入ノズル12a内には、眼内灌流液を充填しておくことが望ましい。
【0060】
まず、図5(b)に示すように、スタンド17に装着されている送りノズル13の先端側にガイドチューブ14を装着する。すなわち、ガイドチューブ14の一方端から送りノズル13を挿入する。次いで、ガイドチューブ14の他端側から人工網膜挿入具12の挿入ノズル12aを挿入する。ここで、送りノズル13の先端側を袈裟懸け状に切断して先鋭化している場合には、送りノズル13の先端面と、挿入ノズル12aの先鋭化している先端面とが重なり合うように人工網膜挿入具12を挿入することが望ましい。
【0061】
ガイドチューブ14内で送りノズル13と人工網膜挿入具12の挿入ノズル12aとを突き合わせた状態とした後に、送りノズル13の基端側から押し棒15の補助芯棒15aを送りノズル13に挿入して、送りノズル13内の人工網膜11を人工網膜挿入具12の挿入ノズル12aまで押送して移動させて、図5(c)に示すように、挿入ノズル12a内に人工網膜を装填する。
【0062】
このように、送りノズル13と、ガイドチューブ14と、押し棒15と、硝子体手術用の鉗子16とを用い、さらにはスタンド17を用いて人工網膜11を人工網膜挿入具12の挿入ノズル12aに装填することで、極めて容易に、かつ極めて短時間で人工網膜挿入具12の挿入ノズル12aに人工網膜11を装填することができる。
【0063】
したがって、眼球の所定位置に人工網膜11を埋植する直前になって人工網膜挿入具12の挿入ノズル12aに人工網膜11を装填することができ、人工網膜11に反りが生じることを抑制できる。
【0064】
しかも、人工網膜挿入具12を用いて人工網膜11の埋植作業ができることから、施術者への負担を大きくて低減することができる。
【0065】
以下において、人工網膜挿入具12を用いた人工網膜11の眼球への挿入方法について説明する。人工網膜11を網膜と網膜色素上皮との間に挿入するにあたり、まず、人工網膜11を挿入する空間を以下のようにして形成している。
【0066】
はじめに、キシロカイン(登録商標)点眼液を用いて麻酔し、イシジン(登録商標)原液を用いて眼周囲の皮膚を消毒している。
【0067】
次いで、40倍希釈のイソジン(登録商標)を用いて眼表面を消毒し、目穴をあけたドレープをかけ、睫毛除け開瞼器またはクラッツ開瞼器を装着している。
【0068】
次いで、ヒアレイン(登録商標)を点眼し、角膜輪部にスリットナイフで切開創を形成して、白内障手術を行っている。
【0069】
次いで、白内障手術による硝子体切除後、38Gのテーパードポリイミド針を装着した粘性流体注入 (viscous fluid injection)用の注射筒を用い、網膜下にビーエスエスプラス(登録商標)液(眼内灌流液)を注入することで人工的に網膜剥離を形成している。この人工的な網膜剥離を形成することで、網膜と網膜色素上皮との間に人工網膜11が挿入される空間が形成される。
【0070】
さらに、人工的な網膜剥離を生じさせている網膜の端に、25Gの眼内ジアテルミーを用いて裂孔を形成している。この裂孔は、人工網膜挿入具12の挿入ノズル12aを挿通させるためのものである。
【0071】
さらに、結膜の輪部を切開し、ストレート22.5度眼科手術ナイフを用いて輪部から2.5mm程度離れた部位において輪部と平行に約3mm幅の強膜切開創を形成している。
【0072】
この強膜切開創から、人工網膜挿入具12の挿入ノズル12aを硝子体内に挿し入れ、さらに、網膜に形成している裂孔から網膜下に挿入ノズル12aの先端を挿し入れている。挿入ノズル12aの外周面を親水性としておくことで、挿入ノズル12aをスムーズに挿し入れることができる。
【0073】
挿入ノズル12aの先端を裂孔から網膜下に挿し入れたところで、人工網膜挿入具12の押子12cを押し込み、人工網膜挿入具12の芯体12bを前進させて、挿入ノズル12a内の眼内灌流液とともに人工網膜11を挿入ノズル12aから押し出し、網膜と網膜色素上皮との間に人工網膜11を挿入している。
【0074】
網膜と網膜色素上皮との間に挿入された人工網膜11は、網膜色素上皮に沿って展開され、網膜色素上皮と重なり合った状態となっている。
【0075】
人工網膜11の挿入後、ニードル12を抜き取り、強膜切開創を縫合し、網膜下に注入していたビーエスエスプラス(登録商標)液を吸引除去することで網膜を復位させている。さらに、網膜に網膜凝固用のレーザー光を照射して人工的に形成した網膜剥離を元の状態に戻している。これにより、人工網膜11は網膜と網膜色素上皮とに挟まれた状態となる。復位させた網膜を安定させるために硝子体内にシリコンオイルを注入してもよいし、六フッ化硫黄ガスを停留させてもよい。
【0076】
その後、強膜と結膜を縫合し、4%キシロカイン(登録商標)点眼を用いて麻酔し、40倍希釈のイソジン(登録商標)で眼表面を洗浄し、終了となる。
【0077】
このように、細心の注意が必要な施術において、人工網膜挿入具12を用いることで作業負荷を大きく低減することができる。
【符号の説明】
【0078】
11 人工網膜
12 人工網膜挿入具
12a 挿入ノズル
12b プランジャー
12c 外筒
13 送りノズル
14 ガイドチューブ
15 押し棒
15a 補助芯棒
15b グリップ
16 鉗子
16a シース
16b ジョウ
17 スタンド
17a 基台
17b 第1支持壁
17c 第2支持壁
17d 溝
17e 側壁
図1
図2
図3
図4
図5