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特許7088536暗渠用疎水材およびその製造方法ならびに暗渠用疎水材を用いた暗渠
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  • 特許-暗渠用疎水材およびその製造方法ならびに暗渠用疎水材を用いた暗渠 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】暗渠用疎水材およびその製造方法ならびに暗渠用疎水材を用いた暗渠
(51)【国際特許分類】
   E02B 11/00 20060101AFI20220614BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
E02B11/00 B
A01G7/00 602B
E02B11/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018073912
(22)【出願日】2018-04-06
(65)【公開番号】P2019183465
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)公開者:株式会社ナラ工業、公開場所、公開内容:ウエブサイト(https://www.facebook.com/annkyohaisui/)、公開日:平成29年11月11日、(2)公開者:株式会社ナラ工業、公開場所、公開内容:北海道江別市篠津770-1、試験施工、公開日:平成29年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】595134157
【氏名又は名称】株式会社ナラ工業
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100133260
【氏名又は名称】小林 基子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】奈良 利幸
(72)【発明者】
【氏名】奈良 幸則
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-203718(JP,A)
【文献】実開昭57-026435(JP,U)
【文献】特開2007-100402(JP,A)
【文献】特開2005-194763(JP,A)
【文献】特開2002-136220(JP,A)
【文献】特開昭58-150614(JP,A)
【文献】特開2016-077261(JP,A)
【文献】特開2013-096097(JP,A)
【文献】米国特許第07207747(US,B1)
【文献】特開2016-216316(JP,A)
【文献】特開平03-257210(JP,A)
【文献】特開平07-041343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 9/00-13/02
A01G 2/00-2/38
A01G 5/00-7/06
A01G 9/28
A01G 17/00-17/02
A01G 17/18
A01G 20/00-22/67
A01G 24/00-24/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭鉱で生じた廃石である石炭ズリを水槽に投入し、前記水槽の底に沈んだ残りの鉱物からなり、5mm以上40mm以下の粒径を有する、暗渠用疎水材。
【請求項2】
可給態ケイ酸の含有量が13mg/100g以上である、請求項1に記載の暗渠用疎水材。
【請求項3】
水素イオン指数(pH)が7以上10以下である、請求項1または請求項2に記載の暗渠用疎水材。
【請求項4】
帯電電荷量が0.7nC/g以下である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の暗渠用疎水材。
【請求項5】
炭鉱で生じた廃石である石炭ズリを水槽に投入し、前記水槽の底に沈んだ残りの鉱物を取り出す石炭分除去工程と、
前記水槽から取り出した残りの鉱物の粒径を5mm以上40mm以下に調整する粒径調整工程と、
を有する、暗渠用疎水材製造方法。
【請求項6】
圃場の内部に設けられた通水路の上に、請求項1から請求項4のいずれかに記載の前記暗渠用疎水材を被覆してなる、暗渠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暗渠に用いられる暗渠用疎水材およびその製造方法ならびに暗渠用疎水材を用いた暗渠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場においては、作物の収量や品質を向上したり、圃場の乾土効果を向上する目的で、暗渠による排水が行われている。この暗渠は、圃場の内部に埋設された土管等の上に疎水材を被覆してなるものであり、当該疎水材が土壌の排水性、保水性および通気性等を高めるという重要な役割を果たしている。
【0003】
なお、暗渠に関する技術として、例えば、特開2015-148050号公報には、パイプ敷設溝の長い距離にわたって所定高さで疎水材チップを投入することができる暗渠管敷設装置が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-148050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した疎水材としては、従来、火山礫、籾殻、木材チップ等が使用されている。しかしながら、火山礫は酸性度が高く、酸性土壌の多い日本では作物の生育に不向きな上、近年では、その供給量が不足しているという問題がある。また、籾殻や木材チップは、バイオマス燃料としての需要が高まっており、価格が高騰しているという問題がある。したがって、従来の疎水材に代替しうる、新規で安価な疎水材の開発が期待されている。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、新規で安価な疎水材として代替することができ、圃場における土壌の排水性、保水性および通気性等を高めることができる、暗渠用疎水材およびその製造方法ならびに暗渠用疎水材を用いた暗渠を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る暗渠用疎水材は、新規で安価な疎水材として代替し、圃場における土壌の排水性、保水性および通気性等を高めるという課題を解決するために、炭鉱で生じた廃石である石炭ズリから石炭分を除去してなり、5mm以上40mm以下の粒径を有する。
【0008】
また、本発明の一態様として、作物を丈夫にして倒伏を抑制するとともに、耐病性や耐虫性を向上し、作物の収量や品質を向上するという課題を解決するために、可給態ケイ酸の含有量が13mg/100g以上であってもよい。
【0009】
さらに、本発明の一態様として、土壌を作物に適した水素イオン指数(pH)にコントロールするとともに、土壌内における酸化鉄の発生を抑制し、暗渠排水の水質を向上するという課題を解決するために、水素イオン指数(pH)が7以上10以下であってもよい。
【0010】
また、本発明の一態様として、暗渠用疎水材の間隙に微細な夾雑物が付着するのを抑制し、高い通水性を維持するという課題を解決するために、帯電電荷量が0.7nC/g以下であってもよい。
【0011】
また、本発明に係る暗渠用疎水材用製造方法は、新規で安価な疎水材として代替し、圃場における土壌の排水性、保水性および通気性等を高めることが可能な暗渠用疎水材を提供するという課題を解決するために、炭鉱で生じた廃石である石炭ズリから石炭分を除去する石炭分除去工程と、前記石炭分を除去した前記石炭ズリの粒径を5mm以上40mm以下に調整する粒径調整工程と、を有する。
【0012】
さらに、本発明に係る暗渠は、圃場における土壌の排水性、保水性および通気性等を高めるという課題を解決するために、圃場の内部に設けられた通水路の上に、上述したいずれかの態様を有する前記暗渠用疎水材を被覆してなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新規で安価な疎水材として代替することができ、圃場における土壌の排水性、保水性および通気性等を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る暗渠用疎水材およびこれを用いた暗渠の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明者は、上述した課題に鑑み、従来の疎水材に代替しうる新規で安価な疎水材について鋭意研究を行った。その結果、炭鉱で生じた廃石である石炭ズリに着目し、当該石炭ズリから石炭分を除去した残りの鉱物が、新規で安価な疎水材として利用できることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
以下、本発明に係る暗渠用疎水材およびその製造方法ならびに暗渠用疎水材を用いた暗渠の一実施形態について、図面を用いて説明する。
【0017】
本実施形態の暗渠用疎水材1を用いた暗渠10は、図1に示すように、主として、圃場の内部に設けられた通水路2と、この通水路2の上に被覆された暗渠用疎水材1とから構成されている。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0018】
通水路2は、圃場の土壌内における余分な水を排水したり、土壌内の水分を調整するための給水を行うものである。本実施形態において、通水路2は、図1に示すように、トレンチャー等の掘削機によって掘削された縦溝3の底部に、複数の素焼土管を接合して埋設することにより構成されている。また、各素焼土管同士は、本願発明者らによる特許第5885200号に係る土管接合用ソケットのように、排水孔を有するソケット(図示せず)によって接合されている。
【0019】
なお、通水路2は、上記構成に限定されるものではなく、複数の通水孔を有する合成樹脂管等によって構成されていてもよい。また、本発明に係る暗渠用疎水材1およびこれを用いた暗渠10は、素焼土管や合成樹脂管等の暗渠排水管を用いた暗渠10に限定されるものではなく、暗渠排水管を埋設することなく構成される無材暗渠にも適用可能である。
【0020】
暗渠用疎水材1は、通水路2の上に被覆され、土壌の排水性、保水性および通気性等を高めるものである。本実施形態において、暗渠用疎水材1は、炭鉱で生じた廃石である石炭ズリから石炭分を除去してなり、5mm以上40mm以下の粒径を有するものである。石炭ズリから石炭分を除去した鉱物は多孔質(ポーラス)構造を有しているため、土壌の保水性や通気性を向上しやすい。また、多孔質構造は土壌内のバクテリアを生息させやすく多様性を保つため、作物の耐病性を向上するとともに土壌を肥沃にする。
【0021】
暗渠用疎水材1を製造する際には、まず、石炭ズリから石炭分を除去する(石炭分除去工程)。具体的には、石炭ズリを水槽に投入し、比重が小さい石炭分を浮き上がらせることにより選別除去する。そして、比重が大きく水槽の底に沈んだ残りの鉱物を暗渠用疎水材1の原料として取り出す。
【0022】
つまり、本発明に係る暗渠用疎水材1は、石炭ズリから石炭を選別する過程で得られる副産物である。従来、石炭ズリは炭鉱における廃棄物であったため、石炭を選別除去した後の残留物には、経済的価値がないばかりか、有効的な処理方法も存在しない。したがって、原料コストがほとんどかからない上に、長年、廃棄物として放置されたきた石炭ズリを有効利用することが可能になる。
【0023】
なお、本実施形態では、上述したとおり、比重差を利用した水洗式の選炭システムを利用しているが、これに限定されるものではなく、石炭ズリから石炭分を除去できればよい。また、本実施形態において、石炭ズリは、暗渠10を施工しようとする圃場からできるだけ近いズリ山のものを使用することが好ましい。これにより、輸送コストが抑えられるため、暗渠用疎水材1が低コスト化する。
【0024】
つぎに、水槽から取り出した残りの鉱物(石炭分を除去した石炭ズリ)の粒径を5mm以上40mm以下に調整し(粒径調整工程)、これを暗渠用疎水材1とする。本実施形態では、複数種の篩を用いることにより、粒径が5mm未満の鉱物と、粒径が40mmを超える鉱物とを選別除去するようになっている。
【0025】
粒径が5mm未満の微細鉱物を除去することにより、上述したソケットの排水孔や暗渠排水管の通水孔に微細鉱物が付着しにくく目詰まりを抑制する。また、暗渠用疎水材1同士が適度な空隙を形成するため、通水路2における排水性や給水性が確保されるとともに、疎水材層における給排水性や通気性が向上する。
【0026】
一方、粒径が40mmを超える粗大鉱物を除去することにより、疎水材層を通過する排水の流速が適度に抑制される。このため、排水の流れによって縦溝3の側壁が吸い出される現象(いわゆる吸い出し現象)が抑制され、暗渠10の寿命が長くなる。
【0027】
また、本実施形態において、暗渠用疎水材1は、可給態ケイ酸の含有量が13mg/100g以上である。可給態ケイ酸は、作物の根が吸収可能なケイ酸分であり、作物に対する肥料としての役割を果たすものである。具体的には、暗渠用疎水材1から溶出された可給態ケイ酸は、作物を丈夫にして倒伏を抑制するとともに、耐病性や耐虫性を向上し、作物の収量や品質を向上する。このため、可給態ケイ酸を13mg/100g以上含有する暗渠用疎水材1を使用した場合、別途、施肥する必要がほとんどなくなる。
【0028】
さらに、本実施形態において、暗渠用疎水材1は、水素イオン指数(pH)が7以上10以下である。これにより、土壌を作物に適した水素イオン指数(pH)にコントロールすることが容易になる。具体的には、水素イオン指数(pH)が7以上であれば、酸性に傾きやすい土壌を中和し、作物に適した弱酸性に保持しやすい。また、土壌内における酸化鉄の発生が抑制されるため、暗渠排水の水質が向上する。
【0029】
一方、水素イオン指数(pH)が10以下であれば、土壌がアルカリ性に傾き過ぎることが抑制される。このため、作物は、マグネシウムや鉄などのミネラルの吸収が妨げられることがなく、良好に生育するとともに耐病性が向上する。
【0030】
また、本実施形態において、暗渠用疎水材1は、帯電電荷量が0.7nC/g以下である。これにより、土壌は静電気を帯びにくく、暗渠用疎水材1の間隙に微細な夾雑物が付着するのを抑制するため、高い通水性を維持する。
【0031】
以上のような本実施形態の暗渠用疎水材1を用いて構成された暗渠10においては、暗渠用疎水材1が多孔質構造を有するため、土壌の保水性や通気性が向上する。また、多孔質構造は土壌内のバクテリアにとって生息しやすく、バクテリアの多様性が保たれるため、作物の耐病性が向上するとともに土壌が肥沃になる。さらに、暗渠用疎水材1は、降雨後や水田の落水後における圃場の地耐力を確保する。なお、石炭ズリ自体は植物由来の鉱物であるため、環境に対する安全性が高く、土壌を汚染する心配がない。
【0032】
また、5mm以上の粒径を有する暗渠用疎水材1が、上述したソケットの排水孔や暗渠排水管の通水孔の目詰まりを抑制するとともに、適度な空隙を形成する。このため、通水路2や疎水材層における給排水性や通気性を確保する。一方、40mm以下の粒径を有する暗渠用疎水材1が、疎水材層内の排水の流れを抑制し、縦溝3の側壁が吸い出されることを防止するため、暗渠10の寿命が長くなる。
【0033】
さらに、本実施形態では、13mg/100g以上の可給態ケイ酸を含有する暗渠用疎水材1が、作物を丈夫にして倒伏を抑制するとともに、耐病性や耐虫性を向上し、作物の収量や品質を向上する。
【0034】
さらに、本実施形態では、水素イオン指数(pH)が7以上の暗渠用疎水材1が、酸性土壌を中和し、作物に適した弱酸性に保持する。また、土壌内における酸化鉄の発生を抑制し、暗渠排水の水質を改善する。一方、水素イオン指数(pH)が10以下の暗渠用疎水材1は、土壌を過度にアルカリ性に傾けることがなく、作物にミネラルを適度に吸収させて生育状況や耐病性を向上する。
【0035】
また、本実施形態では、0.7nC/g以下の帯電電荷量を有する暗渠用疎水材1が、土壌に静電気を帯びさせにくく、暗渠用疎水材1の間隙に微細な夾雑物が付着するのを抑制するため、高い通水性を維持する。
【0036】
以上のような本実施形態の暗渠用疎水材1およびその製造方法ならびに暗渠用疎水材1を用いた暗渠10によれば、以下のような効果を奏する。
1.新規で安価な疎水材として代替することができ、圃場における土壌の排水性、保水性および通気性等を高めることができる。
2.作物を丈夫にして倒伏を抑制するとともに、耐病性や耐虫性を向上し、作物の収量や品質を向上することができる。
3.土壌を作物に適した水素イオン指数(pH)にコントロールできるともに、土壌内における酸化鉄の発生を抑制し、暗渠排水の水質を向上することができる。
4.暗渠用疎水材1の間隙に微細な夾雑物が付着するのを抑制し、高い通水性を維持することができる。
5.炭鉱の閉山後、負の遺産として長年放置されてきた石炭ズリを有効活用することができる。
6.炭鉱で生じた廃石を主原料とするため、従来の疎水材と比較して、低コストに抑えることができる。
【0037】
なお、本発明に係る暗渠用疎水材1、暗渠用疎水材製造方法、および暗渠10は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0038】
例えば、上述した本実施形態では、石炭ズリから石炭分を除去した鉱物のうち、5mm以上40mm以下の粒径を有するものを暗渠用疎水材1としている。しかしながら、5mm以下の粒径を有する微細鉱物については、圃場の出入り口近傍における土壌が柔らかい部分に散布してもよい。これにより、当該微細鉱物が水分を吸収して地耐力を向上するとともに、暗渠排水を浄化する作用を奏する。
【符号の説明】
【0039】
1 暗渠用疎水材
2 通水路
3 縦溝
10 暗渠
図1