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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】熱伝導材用組成物、及び熱伝導材
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/00 20060101AFI20220614BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20220614BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
C08F299/00
H01L23/36 D
C09K5/14 101E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018103841
(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公開番号】P2018204003
(43)【公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2017109732
(32)【優先日】2017-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉野 仁人
(72)【発明者】
【氏名】祐岡 輝明
【審査官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-278476(JP,A)
【文献】特開2009-067950(JP,A)
【文献】特開2009-179743(JP,A)
【文献】国際公開第2012/043426(WO,A1)
【文献】特開2012-229338(JP,A)
【文献】特開2014-229338(JP,A)
【文献】特表2014-526585(JP,A)
【文献】特開2015-071719(JP,A)
【文献】特開2015-089911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 283/01
C08F 290/00 - 290/14
C08F 299/00 - 299/08
C08L 33/00 - 33/26
C08L 27/00 - 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素-炭素不飽和結合を含む架橋性官能基を少なくとも2個有するアクリル系ポリマー(A)と、
前記架橋性官能基を個有するアクリル系ポリマー(B)と、
滴下防止剤と、
熱伝導フィラーとを有し、
ディスペンスコントローラを用いて、所定の吐出圧の条件下で測定される吐出量が、1.50g/min以上4.25g/min以下であり、
前記アクリル系ポリマー(A)の前記架橋性官能基は、両末端にあり、
前記アクリル系ポリマー(B)の前記架橋性官能基は、片末端にあり、
前記アクリル系ポリマー(A)の前記架橋性官能基は、アクリロイル基又はメタクリロイル基であり、
前記アクリル系ポリマー(B)の前記架橋性官能基は、アクリロイル基又はメタクリロイル基であり、
前記アクリル系ポリマー(A)の配合量aに対する、前記アクリル系ポリマー(B)の配合量bの割合(質量比:b/a)が、4~20であり、
前記滴下防止剤の配合量は、前記アクリル系ポリマー(A)及び前記アクリル系ポリマー(B)の合計100質量部に対して、0.25質量部以上0.8質量部以下である熱伝導材用組成物。
【請求項2】
前記滴下防止剤は、四フッ化エチレン樹脂の粉末からなる請求項1に記載の熱伝導材用組成物
【請求項3】
前記熱伝導材用組成物は、さらに分散性改善剤を含んでいる、請求項1又は請求項2に記載の熱伝導材用組成物。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか一項に記載の熱伝導材用組成物が加熱されて架橋反応したものからなるグリース状の熱伝導材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導材用組成物、及び熱伝導材に関する。
【背景技術】
【0002】
発熱体と放熱体との間に形成される小さな隙間等に充填して使用されるグリース状の熱伝導材が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。グリース状の熱伝導材は、密着性に優れ、しかも充填可能な隙間の大きさ、形状等の自由度が高いため、近年、広く用いられている。
【0003】
この種の熱伝導材は、主として、母材となる樹脂成分と、その中に分散される熱伝導フィラーとからなる。なお、熱伝導材には、耐熱性(例えば、100℃以上)が要求されるため、樹脂成分として、シリコーン樹脂が使用されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-140395号公報
【文献】特開2010-242022号公報
【文献】米国特許第7208192号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリコーン樹脂を使用した熱伝導材からは、シロキサンガス(例えば、環状シロキサンガス)が発生してしまうため、問題となっていた。シロキサンガスは、電子機器の接点不良等を引き起こす原因となるため、シロキサンガスを発生しない非シリコーン樹脂を使用した熱伝導材が望まれている。
【0006】
しかしながら、非シリコーン樹脂を使用した従来の熱伝導材は、耐熱性等が不十分であり、改善の余地があった。
【0007】
本発明の目的は、非シリコーン樹脂を使用した耐熱性に優れるグリース状の熱伝導材等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 炭素-炭素不飽和結合を含む架橋性官能基を少なくとも2個有するアクリル系ポリマー(A)と、前記架橋性官能基を少なくとも1個有するアクリル系ポリマー(B)と、滴下防止剤と、熱伝導フィラーとを有し、ディスペンスコントローラを用いて、所定の吐出圧の条件下で測定される吐出量が、1.50g/min以上4.25g/min以下である熱伝導材用組成物。
【0009】
<2> 前記アクリル系ポリマー(A)の配合量aに対する、前記アクリル系ポリマー(B)の配合量bの割合(質量比:b/a)が、3~20である前記<1>に記載の熱伝導材用組成物。
【0010】
<3> 前記アクリル系ポリマー(A)の前記架橋性官能基は、両末端にあり、前記アクリル系ポリマー(B)の前記架橋性官能基は、片末端にある前記<1>又は<2>に記載の熱伝導材用組成物。
【0011】
<4> 前記架橋性官能基は、下記化学式(1)で示される前記<1>~<3>の何れか1つに記載の熱伝導材用組成物。
-OC(O)C(R)=CH2 (1)
(式中、Rは水素原子又は炭素数1~20の有機基を表す)
【0012】
<5> 前記滴下防止剤は、四フッ化エチレン樹脂の粉末からなる前記<1>~<4>の何れか1つに記載の熱伝導材用組成物。
【0013】
<6> 前記熱伝導材用組成物は、さらに分散性改善剤を含んでいる、<1>~<5>の何れか1つに記載の熱伝導材用組成物。
【0014】
<7> 前記<1>~<6>の何れか1つに記載の熱伝導材用組成物が加熱されて架橋反応したものからなるグリース状の熱伝導材。
【発明の効果】
【0015】
本願発明によれば、非シリコーン樹脂を使用した耐熱性に優れるグリース状の熱伝導材等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】耐ズレ性の評価に使用する試験片の説明図
図2】実施例2の熱伝導材が、評価2(ヒートサイクル試験)において、垂落ちしなかった状態を撮影した写真を示す図
図3】実施例3の熱伝導材が、評価2(ヒートサイクル試験)において、やや垂落ちした状態を撮影した写真を示す図
図4】比較例1の熱伝導材が、評価2(ヒートサイクル試験)において、垂落ちした状態を撮影した写真を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔熱伝導材〕
本実施形態の熱伝導材は、2つの物体(例えば、発熱体と放熱体)の間に介在させる形で使用される。熱伝導材は、グリース状であり、後述する熱伝導用組成物が架橋反応したものからなる。
【0018】
〔熱伝導材用組成物〕
熱伝導材用組成物は、熱伝導材を形成するために利用される組成物であり、熱伝導材よりも柔らかく、粘度が低い。熱伝導材用組成物は、主として、アクリル系ポリマー(A)、アクリル系ポリマー(B)、滴下防止剤、及び熱伝導フィラーを含むものからなる。
【0019】
(アクリル系ポリマー(A))
アクリル系ポリマー(A)は、熱伝導材用組成物の母材(ベース樹脂)として利用され、炭素-炭素不飽和結合を含む架橋性官能基を少なくとも2個有するアクリル系ポリマーである。アクリル系ポリマー(A)は、前記架橋性官能基を両末端に有することが好ましい。
【0020】
アクリル系ポリマー(A)の主鎖は、例えば、以下に示される(メタ)アクリル酸系モノマーの重合体、又は(メタ)アクリル酸系モノマーと他のビニル系モノマーとの重合体からなる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリルとメタクリルの双方を含むことを意味する。
【0021】
前記(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸-tert-ブチル、(メタ)アクリル酸-n-ペンチル、(メタ)アクリル酸-n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸-n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸-n-オクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-3-メトキシブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2-アミノエチル、γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチルパーフルオロブチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロエチル-2-パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2,2-ジパーフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチルパーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロメチル-2-パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルメチル、(メタ)アクリル酸2-パーフルオロヘキサデシルエチル等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
また、前記他のビニル系モノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩等の芳香族ビニル系モノマー;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニル系モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアクリロニトリル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
アクリル系ポリマー(A)の主鎖を合成する方法としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限はなく、例えば、フリーラジカル重合法でもよいが、分子量分布(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn))を小さくし易い等の理由により、リビングラジカル重合法が好ましい。リビングラジカル重合法(特に、原子移動ラジカル重合法)は、分子量分布が狭く、粘度が低い重合体を得ることができ、しかも特定の官能基を有するモノマーを重合体のほぼ任意の位置に導入することができるため好ましい。
【0024】
前記架橋性官能基は、少なくとも炭素-炭素不飽和結合を含む構造を備えており、例えば、下記化学式(1)で示される構造(官能基)からなる。
-OC(O)C(R)=CH2 (1)
(式中、Rは水素原子又は炭素数1~20の有機基を表す)
【0025】
前記化学式(1)で示される構造(官能基)としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基が好ましく、特に、アクリロイル基が好ましい。
【0026】
(アクリル系ポリマー(B))
アクリル系ポリマー(B)は、熱伝導材用組成物の母材(ベース樹脂)として、前記アクリル系ポリマー(A)と共に利用(併用)され、炭素-炭素不飽和結合を含む架橋性官能基を少なくとも1個有するアクリル系ポリマーである。アクリル系ポリマー(B)は、前記架橋性官能基を片末端に有することが好ましい。なお、アクリル系ポリマー(B)は、アクリル系ポリマー(A)よりも粘度が低く、分子量(重量平均分子量、数平均分子量)が小さいことが好ましい。
【0027】
アクリル系ポリマー(B)は、アクリル系ポリマー(A)よりも熱伝導材用組成物の母材(ベース樹脂)として、多く使用される。例えば、熱伝導材用組成物において、アクリル系ポリマー(A)の配合量aに対する、前記アクリル系ポリマー(B)の配合量bの割合(質量比:b/a)は、例えば、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは15以下に設定される。
【0028】
アクリル系ポリマー(B)の主鎖は、基本的には、上記アクリル系ポリマー(A)と同様、上記(メタ)アクリル酸系モノマーの重合体、又は上記(メタ)アクリル酸系モノマーと上記他のビニル系モノマーとの重合体からなる。また、アクリル系ポリマー(B)の主鎖の合成方法も、基本的には、上記アクリル系ポリマー(A)の主鎖の場合と同様である。ただし、アクリル系ポリマー(B)の主鎖は、前記アクリル系ポリマー(A)よりも短い(分子量が小さい)ことが好ましい。
【0029】
アクリル系ポリマー(B)が有する架橋性官能基の内容は、アクリル系ポリマー(A)と同様である。アクリル系ポリマー(B)の架橋性官能基は、少なくとも炭素-炭素不飽和結合を含む構造を備えており、例えば、上記化学式(1)で示される構造(官能基)からなる。アクリル系ポリマー(B)の架橋性官能基においても、前記化学式(1)で示される構造(官能基)としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基が好ましく、特に、アクリロイル基が好ましい。
【0030】
(滴下防止剤)
滴下防止剤は、熱伝導材用組成物(ベース樹脂)中に分散され、熱伝導材用組成物の粘度を調節等する機能を有する。滴下防止剤としては、例えば、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)の粉末が利用される。滴下防止剤は、熱伝導材用組成物(ベース樹脂)中に溶融混錬されて分散されると、容易に繊維化して熱伝導材用組成物(及びそれより得られる熱伝導材)中でネットワーク構造を形成する機能を有する。上市されている具体的な滴下防止剤としては、例えば、商品名「ポリフロン(登録商標)MPA FA-500H」(ダイキン工業株式会社製)等が挙げられる。
【0031】
熱伝導材用組成物における滴下防止剤の配合量は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、アクリル系ポリマー(A)及びアクリル系ポリマー(B)の合計100質量部に対して、0.25質量部以上が好ましく、0.45質量部以上がより好ましく、0.8質量部以下が好ましく、0.55質量部以下がより好ましい。滴下防止剤の配合量が、このような範囲であると、熱伝導材用組成物より得られる熱伝導材の耐熱性(耐ズレ性)を確保し易い。
【0032】
(分散性改善剤)
熱伝導材用組成物は、さらに分散性改善剤を含んでも良い。分散性改善剤は、熱伝導材用組成物(ベース樹脂)中に熱伝導フィラーを、均一に分散させる機能を有する。分散性改善剤としては、例えば、シランカップリング剤、界面活性剤等が挙げられ、シランカップリング剤が好ましい。
【0033】
熱伝導材用組成物における分散性改善剤の配合量は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、アクリル系ポリマー(A)及びアクリル系ポリマー(B)の合計100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、2質量部以下が好ましい。分散性改善剤の配合量が、このような範囲であると、熱伝導材用組成物(ベース樹脂)と熱伝導フィラーとを混合する時に、熱伝導材用組成物(ベース樹脂)に対する熱伝導フィラーの凝集を抑えて、これらを混じり易くすることができる。これにより、熱伝導材用組成物より得られる熱伝導材の、形状安定性が向上するため、耐ズレ性を確保し易い。
【0034】
(熱伝導フィラー)
熱伝導フィラーとしては、炭化ケイ素、アルミナ、シリカ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等が挙げられる。また、中空状の粒子(例えば、ガラスバルーン)や樹脂製の粒子等からなる核(コア)の表面に金属を被覆した表面金属被覆粒子も、利用することができる。熱伝導フィラーは、複数種のものを併用してもよいし、1種のものを使用してもよい。
【0035】
熱伝導フィラーの平均粒径は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はなく、例えば、0.5μm~100μmのものが利用される。熱伝導フィラーとしては、粒径が互いに異なる複数のものを使用してもよい。
【0036】
熱伝導材用組成物における熱伝導フィラーの配合量は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、アクリル系ポリマー(A)及びアクリル系ポリマー(B)の合計100質量部に対して、200質量部以上5000質量部以下の範囲で使用される。
【0037】
(その他の成分)
熱伝導材用組成物は、更に、架橋開始剤を含んでもよい。架橋開始剤は、熱又は光を受けてラジカルを発生し、主として、アクリル系ポリマー(A)の架橋性官能基、及びアクリル系ポリマー(B)の架橋性官能基を反応させる機能を備えている。架橋開始剤よりラジカルが発生すると、架橋性官能基同士が結合(重合)して、アクリル系ポリマー(A)とアクリル系ポリマー(B)との間や、アクリル系ポリマー(B)同士の間等が架橋される。
【0038】
架橋開始剤としては、例えば、ケトンパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類 、パーカーボネート類等の有機過酸化物が使用され、特に、パーカーボネート類が好ましい。
【0039】
架橋開始剤としては、光(例えば、紫外光)を受けてラジカルを生成する光反応性であてもよい、熱を受けてラジカルを生成する熱反応性であってもよい。なお、熱伝導材用組成物中には、熱伝導フィラーが含まれているため、架橋開始剤を活性化させるための光が遮られる可能性があるため、熱反応性の架橋開始剤を使用することが好ましい。
【0040】
なお、熱反応性の架橋開始剤を使用する場合、その反応温度は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、熱伝導材用組成物の保存安定性を確保する等の観点より、反応温度(加熱温度)が100℃以上のものを使用することが好ましい。
【0041】
熱伝導材用組成物における架橋開始剤の配合量は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、アクリル系ポリマー(A)及びアクリル系ポリマー(B)の合計100質量部に対して、0.035質量部以上であることが好ましい。なお、架橋開始剤の配合量の上限は、例えば、前記合計100質量部に対して、0.1質量部以下が好ましく、0.08質量部以下がより好ましく、0.065質量部以下が更に好ましい。架橋開始剤の配合量が、このような範囲であると、熱伝導材用組成物より得られる熱伝導材の耐熱性(耐ズレ性)を確保し易い。
【0042】
熱伝導材用組成物は、また更に、酸化防止剤を含んでもよい。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系加工熱安定剤、ラクトン系加工熱安定剤、イオウ系耐熱安定剤、フェノール・リン系酸化防止剤等が挙げられ、フェノール系酸化防止剤が好ましく、特にヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0043】
熱伝導材用組成物における酸化防止剤の配合量は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、アクリル系ポリマー(A)及びアクリル系ポリマー(B)の合計100質量部に対して、0.5質量部以上2質量部以下の範囲で使用される。
【0044】
また、熱伝導材用組成物は、本発明の目的を損なわない限り、必要に応じて、可塑剤、着色剤、フィラー、充填材等が添加されてもよい。
【0045】
熱伝導材用組成物は、有機溶剤等の溶剤を含んでいなくても、粘度が低く、グリース状を維持できる。そのため、有機溶剤は、必須成分ではなく、積極的に熱伝導材用組成物に添加する必要はない。ただし、本発明の目的を損なわない限り、熱伝導材用組成物に有機溶剤を使用してもよい。
【0046】
(熱伝導材用組成物の粘性)
熱伝導材用組成物の粘性は、例えば、ディスペンスコントローラを用いて、所定の吐出圧の条件下で測定される吐出量によって特定することができる。熱伝導材用組成物の前記吐出量は、1.50g/m以上4.25g/m以下である。熱伝導材用組成物の前記吐出量がこのような範囲であると、熱伝導材用組成物より得られる熱伝導材の耐熱性(耐ズレ性)が確保される。なお、前記吐出圧については、作業者が人力で操作するような状態から、ディスペンスコントローラの如き機械的設備での操作による圧力に対応し、一般的には0.1MPa~1.0MPaの範囲である。
【0047】
〔熱伝導材〕
本実施形態の熱伝導材は、上記熱伝導材用組成物を架橋反応させたものからなる。熱伝導材用組成物で架橋反応が起こると、熱伝導材用組成物中のアクリル系ポリマー(A)とアクリル系ポリマー(B)、及びアクリル系ポリマー(B)同士等が結合(重合)し、最終的に、熱伝導材中において、アクリル系ポリマー同士が緩やかに架橋された構造が形成される。熱伝導材中では、アクリル系ポリマー全体(アクリル系ポリマー(A),(B))の架橋密度は適度に低く、また、主にアクリル系ポリマー(B)に由来する自由鎖が多く存在していると推測される。そのため、熱伝導材となっても、グリース状は維持される。
【0048】
熱伝導材用組成物が、熱反応性の架橋開始剤を含む場合、熱伝導材用組成物に対して、所定の温度で加熱処理すると、熱伝導材が得られる。熱伝導材は、例えば、発熱体と放熱体)の間に介在させる形で使用される。なお、場合によっては、熱伝導材用組成物の状態で、目的とする2つの物体の間に介在させ、その場所で、例えば、自然に熱反応等させて熱伝導材用組成物から熱伝導材を形成してもよい。
【0049】
熱伝導材の熱伝導率は、例えば、2W/m・K~3W/m・Kとなるように設定される。
【0050】
本実施形態の熱伝導材は、ベース樹脂としてアクリル系樹脂を使用するため、例えば、シロキサンガスの発生が問題とならない。また、熱伝導材は、高温条件下(例えば、125℃以上)で、軟化等により設置個所(例えば、物体同士の隙間)から垂れ落ちること(位置ズレすること)が抑制され、耐ズレ性に優れる。
【0051】
また、熱伝導材は、対象物に塗布した直後における粘性と、塗布後、4時間経過後における粘性との間の変化率が、10%以内である。なお、前記変化率は、下記式(2)より求められる。
熱伝導材の粘性の変化率(%)
={(塗布後の粘性)-(塗布前の粘性)}/(塗布前の粘性)×100 ・・・・・(2)
【実施例
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0053】
〔実施例1~13及び比較例1~3〕
(熱伝導材用組成物の作製)
アクリル系ポリマー(A)、アクリル系ポリマー(B)、架橋開始剤、滴下防止剤、酸化防止剤、分散性改善剤、熱伝導フィラー1、熱伝導フィラー2、熱伝導フィラー3、熱伝導フィラー4及び熱伝導フィラー5を、表1~表3に示される配合量(質量部)でそれぞれ配合し、それらを混練機等を利用して混合することで、実施例1~13及び比較例1~3の熱伝導材用組成物を作製した。
【0054】
前記アクリル系ポリマー(A)として、商品名「KANEKA XMAP(登録商標) RC100C」(株式会社カネカ製、両末端にアクリロイル基を有するアクリル系ポリマー、粘度:160Pa・s、比重:1.05、ガラス転移温度:-50℃)を使用した。
【0055】
前記アクリル系ポリマー(B)として、商品名「KANEKA XMAP(登録商標) MM110C」(株式会社カネカ製、片末端にアクリロイル基を有する反応性アクリル系マクロモノマー、粘度:44Pa・s、比重:1.05、ガラス転移温度:-50℃)を使用し
【0056】
前記架橋開始剤として、商品名「PERKADOX(登録商標)16」(化薬アクゾ株式会社製、ジ-(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(混合物))を使用した。
【0057】
前記滴下防止剤として、商品名「ポリフロン(登録商標)MPA FA-500H」(ダイキン工業株式会社製、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)粉末、見掛密度:0.45g/ml、比重:2.17、融点:325℃)を使用した。
【0058】
前記酸化防止剤として、商品名「AO-60」(株式会社ADEKA製、フェノール系酸化防止剤、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート])を使用した。
【0059】
前記分散性改善剤として、商品名「KBE-502」(信越化学工業株式会社製、シランカップリング剤、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を使用した。
【0060】
前記熱伝導フィラー1として、商品名「AC2000-SML」(株式会社アドマテックス製、アルミナ粒子、平均粒径:0.6μm、密度:3.6g/cm3)を使用した。なお、当該熱伝導フィラー1の平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA-750」)を用いて測定した。
【0061】
前記熱伝導フィラー2として、商品名「A5-C1-SM」(株式会社アドマテックス製、アルミナ粒子、平均粒径:5.5μm、密度:3.6g/cm3)を使用した。
【0062】
前記熱伝導フィラー3として、商品名「AX75-125」(新日鉄住金マテリアルズ株式会社製、アルミナ粒子、平均粒径:75μm、密度:3.87g/cm3)を使用した。
【0063】
前記熱伝導フィラー4として、商品名「AO-509」(株式会社アドマテックス、アルミナ粒子、平均粒径:10μm、密度:3.8g/cm3)を使用した。
【0064】
前記熱伝導フィラー5として、商品名「AX3-75」(新日鉄住金マテリアルズ株式会社製、アルミナ粒子、平均粒径:3μm、密度:3.87g/cm3)を使用した。
【0065】
(吐出量の測定)
25℃の環境下で4時間保管した各実施例及び各比較例の組成物を、吐出圧力0.48MPa、吐出時間1分として、所定時間内に吐出される質量(g)を測定することで、各組成物の吐出量(g/min)を求めた。結果は、表1~表3に示した。なお、使用した装置は、以下の通りである。
ディスペンスコントローラ:製品名「1500XL」(株式会社サンエイテック製)
シリンジ:製品名「SB-30」(ユニコントロールズ株式会社製、筒先の内径:2mm、組成物を収容する部分(いわゆる、薬液部)の内径:22.5mm)
【0066】
(耐ズレ性評価1:高温試験)
実施例1~11及び比較例1~3の組成物を加熱処理(100℃、10分)して得られた熱伝導材について、以下に示す方法で、耐ズレ性を評価した。図1は、耐ズレ性の評価に使用する試験片Tの説明図である。図1に示されるように、2枚のガラス板(スライドガラス)21を用意し、それらの間にスペーサ(厚み1.0mmのワッシャー)22を介在させつつ1gの熱伝導材(試験前の状態の熱伝導材)Sを入れ、熱伝導材Sが円形となるように、2枚のガラス板21の間で挟み込んだ。ガラス板21同士は、クリップ23を利用して固定した。なお、熱伝導材Sの初期位置を示すために、熱伝導材Sの輪郭をガラス板21の表面に油性ペンで示した。図2において、熱伝導材Sの初期位置を表す輪郭24は、破線で示されている。このようにして得られた試験片Tを、扁平な円形状の熱伝導材Sが鉛直方向に沿って起立するように、熱衝撃試験機(製品名「TSE-11-A」、エスペック株式会社製)の中に設置し、125℃の温度条件で1日(24時間)放置した。その後、熱伝導材Sの位置が、元の位置(初期位置)からどのぐらい垂落ち(位置ズレ)したかを、以下に示される評価基準に基づいて判定した。結果は、表1及び表2に示した。
【0067】
<評価基準>
「〇」・・・垂落ちなし(ズレ量が5%以内の場合)
「△」・・・やや垂落ちあり(ズレ量が50%未満の場合)
「×」・・・垂落ちあり(ズレ量が50%以上の場合)
【0068】
(耐ズレ性評価2:ヒートサイクル試験)
熱衝撃試験機において、-40℃と125℃(各30分)を交互に繰り返すヒートサイクル試験(サイクル数:100回)を行ったこと以外は、上記耐ズレ性評価1と同様の方法及び評価基準により、実施例1~11及び比較例1~3における組成物(熱伝導材)の耐ズレ性を評価した。結果は、表1及び表2に示した。
【0069】
(耐ズレ性評価3:高温試験)
図1に示された、スペーサ22の厚さを3.0mmに変更した以外は、上記耐ズレ性評価1と同様の方法及び評価基準により、実施例12及び13における組成物(熱伝導材)の耐ズレ性を評価した。結果は、表3に示した。
【0070】
(耐ズレ性評価4:ヒートサイクル試験)
熱衝撃試験機において、0℃と80℃(各30分)を交互に繰り返す条件のヒートサイクル試験(サイクル数:100回)に、変更すると共に、図1に示された、スペーサ22の厚さを3.0mmに変更した。これ以外は、上記耐ズレ性評価1と同様の方法及び評価基準により、実施例12及び13における組成物(熱伝導材)の耐ズレ性を評価した。結果は、表3に示した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
表1に示されるように、実施例1~4の組成物より得られた熱伝導材は、評価1(高温試験)において垂落ちがなく、耐ズレ性に優れることが確かめられた。実施例1,2は、評価2(ヒートサイクル試験)においても垂落ちがなく、特に耐ズレ性に優れることが確かめられた。
【0075】
図2は、実施例2の熱伝導材M2(試験後の熱伝導材M2)が、評価2(ヒートサイクル試験)において、垂落ちしなかった状態を撮影した写真を示す図であり、図3は、実施例3の熱伝導材M3(試験後の熱伝導材M3)が、評価2(ヒートサイクル試験)において、やや垂落ちした状態を撮影した写真を示す図である。
【0076】
これに対し、比較例1の組成物より得られる熱伝導材は、評価1(高温試験)において、やや垂落ちが発生した。また、比較例1では、評価2(ヒートサイクル試験)において、垂落ちが発生した。図4は、比較例1の熱伝導材C1(試験後の熱伝導材C1)が、評価2(ヒートサイクル試験)において、垂落ちした状態を撮影した写真を示す図である。
【0077】
また、比較例2,3の組成物より得られる熱伝導材は、評価1及び評価2の何れにおいても、垂落ちが発生する結果となった。
【0078】
また、表2に示されるように、実施例5~11の組成物より得られた熱伝導材は、評価1において実施例5~9,11では垂れ落ちが発生せず、実施例10ではやや垂れ落ちが発生した。また評価2において実施例5,6,11では垂れ落ちが発生しなかったが、実施例7~10ではやや垂れ落ちが発生することになった。
【0079】
また、表3に示されるように、実施例12,13の組成物より得られた熱伝導材は、評価3において垂落ちが発生しなかった。また評価4において、実施例12ではやや垂落ちが発生したが、実施例13においては垂落ちが発生しなかった。
【0080】
なお、耐ズレ性評価にあたって、ガラス板の間隔を1.0mmにしたものと3.0mmにしたものとを用いたが、ガラス板の間隔を3.0mmにしたものの方が、垂落ちが生じやすかった。従って、ガラス板の間隔以外を同じ条件として、両者を比較した場合、ガラス板の間隔を3.0mmにしたものの方が、耐ズレ性に劣ることを確認した。
一方、ガラス板の間隔を3.0mmから1.0mmに狭くすると、垂落ちが小さくなり、耐ズレ性に優れることを確認した。
【0081】
(塗布作業性)
発熱体と放熱体との間に熱伝導材用組成物を塗布する際に、前記組成物を収容しているシリンジからの吐出量が少ないと、塗布作業性が低下する。前記組成物の吐出量が3g以上であると塗布作業性は良好であるが、前記組成物の吐出量が3g未満であると熱伝導に必要な量を吐出するのに時間がかかるので作業性が低下する。そこで、各実施例及び各比較例の組成物を、所定のシリンジを使用して、各組成物の塗布作業性を評価した。表1及び表2において、前記組成物の吐出量が3g以上の場合(つまり、作業性良好の場合)、「〇」と表し、前記組成物の吐出量が3g未満の場合(つまり、作業性がやや良好の場合)、「△」と表した。なお、前記シリンジは、上述の「吐出量の測定」で使用したものと同じである。
【0082】
(組成物の吐出量と、耐ズレ性との関係)
組成物の吐出量が、3.03g/min未満であると、ヒートサイクル試験(評価2)において、垂落ちは発生しないものの、熱伝導材の塗布作業性が悪い。また、組成物の吐出量が、3.03g/min以上3.33g/min以下であると、ヒートサイクル試験(評価2)において、垂落ちが発生しない。また、組成物の吐出量が、3.33g/minを超え4.14g/min以下であると、ヒートサイクル試験(評価2)において、やや垂落ちが発生する。また、組成物の吐出量が4.35g/minを超えると、ヒートサイクル試験(評価2)において、垂落ちが発生する。
【符号の説明】
【0083】
S…熱伝導材(試験前)、M3,M4…熱伝導材(試験後)、21…ガラス板、22…スペーサ、23…クリップ、24…熱伝導材の初期位置を表す輪郭
図1
図2
図3
図4