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特許7088608酸素を除去するためのナノ構造化した鉄/炭素
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】酸素を除去するためのナノ構造化した鉄/炭素
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/02 20060101AFI20220614BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20220614BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20220614BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220614BHJP
   B01J 20/32 20060101ALI20220614BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20220614BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20220614BHJP
【FI】
B01J20/02 A
B01J20/20 A
B01J20/28 A
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01J20/32 Z
B01D53/14 311
C01B32/05
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2017560586
(86)(22)【出願日】2016-05-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-08-30
(86)【国際出願番号】 SG2016050245
(87)【国際公開番号】W WO2016190815
(87)【国際公開日】2016-12-01
【審査請求日】2019-04-25
(31)【優先権主張番号】10201504050U
(32)【優先日】2015-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】504354117
【氏名又は名称】エイジェンシー・フォー・サイエンス,テクノロジー・アンド・リサーチ
(73)【特許権者】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】イ シュ
(72)【発明者】
【氏名】チェン ユ ユアン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン シエウ イー
(72)【発明者】
【氏名】ワン スシィ
(72)【発明者】
【氏名】フアン ジェン-イ
(72)【発明者】
【氏名】ツォウ ウェイビィアオ
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-234544(JP,A)
【文献】特表2010-501320(JP,A)
【文献】特開平02-006308(JP,A)
【文献】特許第5520414(JP,B2)
【文献】特開平07-254412(JP,A)
【文献】特開2013-173623(JP,A)
【文献】特表2016-515143(JP,A)
【文献】特開2007-000724(JP,A)
【文献】HOEKSTRA,J et al.,Chem Sus Chem,2015年,Vol.8, No.6,Pages 985-989
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/000-20/34
B01D 53/14-53/18
C01B 32/00-32/991
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの金属粒子と炭素材料とを含有し、
ここで、前記炭素材料は糖から選択されるバイオマス材料に由来し、
前記糖は、単糖、二糖、オリゴ糖または多糖から選択され、
前記単糖はグルコース、フルクトースおよびガラクトースからなる群から選択され、
前記オリゴ糖は砂糖またはアミノ糖からなる群から選択され、または、
前記多糖はシクロデキストリン、セルロース、デンプン、グリコーゲン、キチンおよびヘミセルロースからなる群から選択され、
前記炭素材料は、炭素粒子または10~700nmの範囲である細孔サイズを有した多孔質構造を有するシート状材料であり、
前記炭素材料は前記金属粒子の支持体として作用し、
前記少なくとも1つの金属粒子は、前記炭素材料の上又は内部に均一に分布し、
前記金属粒子は、ゼロ価の遷移金属粒子である、
酸素除去ナノ構造複合材料。
【請求項2】
前記糖は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、D-グルコサミン塩酸塩、L-グルコサミン塩酸塩、α-D-グルコース、β-D-グルコース、α-L-グルコース、およびβ-L-グルコースからなる群から選択される、請求項1に記載の酸素除去ナノ構造複合材料。
【請求項3】
前記炭素材料は、50m/g~000m/gの範囲である表面積を有する、請求項1又は2に記載の酸素除去ナノ構造複合材料。
【請求項4】
前記ゼロ価の遷移金属粒子の遷移金属は、鉄粒子、ルテニウム粒子、オスミウム粒子、コバルト粒子、ロジウム粒子、イリジウム粒子、マンガン粒子、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の酸素除去ナノ構造複合材料。
【請求項5】
前記金属粒子は500nm未満の粒径を有する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の酸素除去ナノ構造複合材料。
【請求項6】
前記複合材料中の前記金属粒子の濃度は、前記炭素材料の乾燥重量%に基づいて、1~80重量%の範囲であり得る、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の酸素除去ナノ構造複合材料。
【請求項7】
i.少なくとも1つの金属粒子と炭素材料とを含有する酸素除去ナノ構造複合材料と、
ii.無機塩類と、
iii.任意で水性媒体とを含み、
ここで、前記炭素材料は糖から選択されるバイオマス材料に由来し、
前記糖は、単糖、二糖、オリゴ糖または多糖から選択され、
前記単糖はグルコース、フルクトースおよびガラクトースからなる群から選択され、
前記オリゴ糖は砂糖またはアミノ糖からなる群から選択され、または、
前記多糖はシクロデキストリン、セルロース、デンプン、グリコーゲン、キチンおよびヘミセルロースからなる群から選択され、
前記炭素材料は、炭素粒子または10~700nmの範囲である細孔サイズを有した多孔質構造を有するシート状材料であり、
前記炭素材料は前記金属粒子の支持体として作用し、
前記少なくとも1つの金属粒子は、前記炭素材料の上又は内部に均一に分布し、
前記金属粒子は、ゼロ価の遷移金属粒子である、
酸素除去組成物。
【請求項8】
前記無機塩類は電解質または酸性化剤である、請求項7に記載の酸素除去組成物。
【請求項9】
前記無機塩類が電解質であるときは、前記電解質は、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、およびハロゲン化金属からなる群から選択されたハロゲン化物化合物である、請求項8に記載の酸素除去組成物。
【請求項10】
前記無機塩類の濃度は、前記酸素除去ナノ構造複合材料の乾燥重量に基づいて、0.1~20wt%の範囲である、請求項7乃至9のいずれか1項に記載の酸素除去組成物。
【請求項11】
前記無機塩類が酸性化剤であるときは、前記酸性化剤は、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチルアクリル酸およびポリマレイン酸からなる群から選択されたポリ酸である、請求項8に記載の酸素除去組成物。
【請求項12】
酸素除去ナノ構造複合材料を合成する方法であって、
前記方法は、
i.ヒドロキシル基および/またはカルボン酸基を含む糖の層をその上に有する多孔質炭素粒子を形成するために溶解したバイオマス材料を一段階の水熱処理プロセスに供する工程と、
ii.前記(i)工程の前記多孔質炭素粒子を金属イオンの溶液に浸漬して、前記金属イオンを炭素粒子の細孔内に含浸させる、浸漬工程と、
iii.含侵された炭素粒子を乾燥させる工程と、
iv.前記含侵された炭素粒子を、前記複合材料を合成するための条件で、炭素熱還元過程に供する工程とを含み、
ここで、前記酸素除去ナノ構造複合材料は、少なくとも1つの金属粒子と炭素材料とを含有し、
前記炭素材料は糖から選択されるバイオマス材料に由来し、
前記糖は、単糖、二糖、オリゴ糖または多糖から選択され、
前記単糖はグルコース、フルクトースおよびガラクトースからなる群から選択され、
前記オリゴ糖は砂糖またはアミノ糖からなる群から選択され、または、
前記多糖はシクロデキストリン、セルロース、デンプン、グリコーゲン、キチンおよびヘミセルロースからなる群から選択され、
前記炭素材料は、炭素粒子または10~700nmの範囲である細孔サイズを有した多孔質構造を有するシート状材料であり、
前記炭素材料は前記金属粒子の支持体として作用し、
前記少なくとも1つの金属粒子は、前記炭素材料の上又は内部に均一に分布し、
前記金属粒子は、ゼロ価の遷移金属粒子である、
方法。
【請求項13】
前記金属イオンの溶液は、金属硝酸塩、金属塩化物、金属硫酸塩、金属グルコン酸塩、金属クエン酸塩および金属シュウ酸塩からなる群から選択された金属塩に由来する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記浸漬工程は、30分間~24時間の範囲の期間にわたって行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記供する工程は、700~1000℃の範囲の温度で行われる、または、不活性ガス環境において行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
酸素除去多層フィルムであって、
i.外的環境から前記多層フィルム内への酸素の透過を妨げる酸素バリア層と、
ii.少なくとも1つの金属粒子と炭素材料とを有する酸素除去ナノ構造複合材料を含む酸素除去層とを備え、
ここで、前記炭素材料は糖から選択されるバイオマス材料に由来し、
前記糖は、単糖、二糖、オリゴ糖または多糖から選択され、
前記単糖はグルコース、フルクトースおよびガラクトースからなる群から選択され、
前記オリゴ糖は砂糖またはアミノ糖からなる群から選択され、または、
前記多糖はシクロデキストリン、セルロース、デンプン、グリコーゲン、キチンおよびヘミセルロースからなる群から選択され、
前記炭素材料は、炭素粒子または10~700nmの範囲である細孔サイズを有した多孔質構造を有するシート状材料であり、
前記炭素材料は前記金属粒子の支持体として作用し、
前記少なくとも1つの金属粒子は、前記炭素材料の上又は内部に均一に分布し、
前記金属粒子は、ゼロ価の遷移金属粒子である、
酸素除去多層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して複合材料に関する。本発明はまた、前記複合材料を含有する組成物、前記複合材料を合成する方法およびそれらの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
包装中における酸素の存在は包装された製品の品質を制限する主な要因である。多くの食品、特に果物および野菜のような腐敗しやすい食品は、酸素に非常に敏感である。包装中に存在する酸素の結果としての食品劣化は、油脂の酸敗臭、ビタミンCの喪失、変色、および微生物の増殖を引き起こし得る。食品包装の主な目的の1つは、包装された食品を酸素に対して保護し、よって品質変化を低減し、かつ貯蔵寿命を延長することにある。酸素の透過に対する良好なバリア特性を備えた包装を提供するために多くの努力がなされてきた。調整雰囲気包装および真空包装は、包装の密閉前にパッケージ中の酸素を可能な限り取り除くための既知の方法である。しかしながら、これらの技術は、包装から酸素を完全に取り除くことができなかったり、または酸素が包装内に浸透するのを完全に妨げることができなかったりする。さらに、高いコストおよび複雑な操作は、調整雰囲気包装および真空包装に関連する問題である。この点で、有効な酸素吸収剤の開発は、包装内の残留酸素(食品中に溶解しているか、またはヘッドスペース(上部にできる空間)に存在する酸素)を排除するために強く望まれている。
【0003】
酸素吸収剤または脱酸素剤(oxygen scavengers)は、酸素曝露の有害な影響から製品を保護するために食品包装において益々魅力的なものとなっている。一般に、酸素吸収技術は、酸化過程に基づく。脱酸素剤は、鉄粉末、アスコルビン酸、酵素、不飽和炭化水素、感光性ポリマーなどのうちの1つ以上から選択され得る。有機系および不飽和炭化水素の除去剤は比較的不安定であり、酸化過程後の副生成物として不愉快な臭気を生じることがある。これらの脱酸素剤のなかで、鉄に基づく脱酸素剤は、高除去効率、低コストおよび安全性を含むいくつかの理由により、最もよく知られており、商業的に入手可能な製品である。鉄に基づく脱酸素剤の効率は、吸収能(吸収されるOのcm/鉄のグラム数)および吸収速度に依存する。担体または支持体上における鉄粒子の凝集のない良好な分散(均質性)により、その吸収能が増強されるであろうと仮定される。加えて、安定した鉄ナノサイズ粒子および支持体の高い表面積は、優れた吸収能性能を有する脱酸素剤を生成するための重要な因子である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現在の商業的に入手可能な脱酸素剤には、周囲条件での保管中における脱酸素剤の限られた寿命および安定性、選択材料に対する高いコスト、複雑な取扱い操作または調製、および潜在的な健康上の危険性を含むいくつかの制限がある。従って、上述したような1つ以上の不都合を克服するか、または少なくとも改善する別の脱酸素剤を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1態様によれば、少なくとも1つの金属粒子と炭素材料との混合物を含有する複合材料が提供される。
【0006】
前記炭素材料はバイオマス材料に由来し得る。有利には、前記炭素材料の供給源としてバイオマスを使用することにより、結果として生じた炭素材料は前記金属粒子を吸収することができる糖の層を有するであろう。これは、前記金属粒子に対して高い親和性を有する炭素材料を生じ得る。これはまた、前記炭素材料上または前記炭素材料内における前記金属粒子の均一な分散をもたらし得る。
【0007】
有利には、前記複合材料は酸素除去材料として用いられ得る。前記複合材料は、酸素除去材料として用いられる場合、安全(すなわち、包装材料に対して非毒性)であり得、従来の脱酸素剤と比較して、より長い寿命を有し得、周囲条件における保管中に良好な安定性を有し得、低コストであり、かつ調製または操作がより容易であり得る。
【0008】
別の態様によれば、少なくとも1つの金属粒子と炭素材料との混合物を含有する複合材料と、無機塩類と、任意で水性媒体とを含む組成物が提供される。
【0009】
別の態様によれば、少なくとも1つの金属粒子と炭素材料との混合物を含有する複合材料を合成する方法が提供され、前記方法は、
i.多孔質構造を有する少なくとも1つの炭素粒子を金属イオンの溶液中に浸漬して、前記金属イオンを前記炭素粒子の細孔内に含浸させる工程と、
ii.含侵された炭素粒子を乾燥させる工程と、
iii.前記含侵された炭素粒子を、前記複合材料を合成するための条件で、炭素熱還元過程に供する工程とを含む。
【0010】
別の態様によれば、多層フィルムが提供され、前記多層フィルムは、外的環境から前記多層フィルム内への酸素の透過を妨げる酸素バリア層と、少なくとも1つの金属粒子と炭素材料との混合物を有する複合材料を含む酸素除去層とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)実施例1のC1粒子および(b)実施例4のFe/C1粒子の一連の透過型電子顕微鏡(TEM)画像、並びに(c)Fe/C1粒子のエネルギー分散型X線(EDX)マッピング分析である。
図2】(a)実施例2のC2粒子および(b)実施例5のFe/C2粒子の一連のTEM画像、並びに(c)Fe/C2粒子のEDXマッピング分析である。
図3】(a)実施例3のC3粒子および(b)実施例6のFe/C3粒子の一連のTEM画像、並びに(c)Fe/C3粒子のEDXマッピング分析である。
図4】100%の室内湿度(RH)の空気に24時間にわたって曝露する(a)前および(b)後のFe/C1粒子のX線回折(XRD)パターンを示す。
図5】100%のRHの空気に24時間にわたって曝露した後に、(a)Fe/C1粒子および(b)NaClの追加を有するFe/C1のXRDパターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
本願に用いられる以下の単語および用語は以下に示す意味を有するものとする。
【0013】
「バイオマス材料」という用語は、生きているもの(living)、すなわち生物(living organisms)に由来する生体物質を含むように広く解釈されるべきである。これは、しばしば植物に基づく材料を意味するために用いられるが、バイオマスがエネルギーに用いられる場合には、動物由来材料および植物由来材料の双方に等しく適用され得る。本願では、バイオマスは、炭素に基づいており、水素を含有する有機分子の混合物から構成され、前記有機分子は、通常は酸素原子と、多くの場合窒素原子と、またアルカリ金属、アルカリ土類金属および重金属を含む少量の他の原子とを含む。
【0014】
本願に用いられる「複合材料」という用語は、組み合わせられた場合にその材料を生成する有意に異なる物理的性質または化学的性質を有する2つ以上の構成材料から製造された材料を表す。個々の構成要素は完成した材料内において独立して別個のままである。
【0015】
本願で用いられる「酸素バリア」という用語は、酸素が周囲環境または外的環境から内部に進入することから保護するか、または前記進入を防止し、それにより酸化過程が起こるのを防ぐ何らかの形態の障害物を指す。
【0016】
本願に用いられる「酸素除去(oxygen scavenging)」という用語は、包囲された領域または混合物から酸素を収集するか、または取り除く作用を指す。
【0017】
本願に用いられる「多層フィルム」という用語は、各々が同一材料または異なる材料から形成された幾つかの層または多数の層からなるコーティングまたは堆積物を指す。
【0018】
「実質的に」という語は「完全に」を除外しない。例えばYを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まなくてもよい。必要な場合には、「実質的に」という語は、本発明の定義から省略されてもよい。
【0019】
他に特に規定されていない限り、「備えている(comprising)」および「備える(comprise)」という用語、並びにそれらの文法上の変化形は、それらが列挙された要素を含むだけでなく、付加的な列挙されていない要素の包含も許容するような「オープン」または「インクルーシブ」ランゲージを表すことが意図される。
【0020】
本願で用いられる場合、「約」という用語は、調合物の成分の濃度の文脈では、典型的には表示された値の+/-5%、より典型的には表示された値の+/-4%、より典型的には表示された値の+/-3%、より典型的には表示された値の+/-2%、さらにより典型的には表示された値の+/-1%、さらにより典型的には表示された値の+/-0.5%を意味する。
【0021】
この開示の全体にわたって、特定の実施形態は範囲形式で開示されてもよい。当然のことながら、範囲形式における記載は単に利便性および簡潔さのためであり、開示範囲の範囲に対する確固たる限定として解釈されるべきでない。従って、範囲の記載は、その範囲内の個々の数値に加えて、可能な部分的範囲もすべて具体的に開示したと見なされるべきである。例えば、1~6のような範囲の記載は、例えば、1、2、3、4、5および6のようなその範囲内の個々の数字に加えて、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等の部分的範囲も具体的に開示したと見なされるべきである。これは範囲の広さにかかわらず適用される。
【0022】
特定の実施形態もまた、広く、かつ包括的に本願に記載され得る。包括的開示(generic disclosure)内にあるより狭義の種(narrower species)および下位概念の群(subgeneric groupings)の各々もまた本発明の一部を形成する。これは、削除されたものが本願に具体的に列挙されているか否かにかかわらず、その属から任意の主題を除去する但し書きまたは否定的限定を有する実施形態の包括的記載を含む。
【0023】
任意実施形態の詳細な開示
ここで複合材料の例示的かつ非限定的な実施形態を開示する。
【0024】
前記複合材料は、少なくとも1つの金属粒子と炭素材料との混合物を含有する。
【0025】
前記複合材料において、前記炭素材料はバイオマス材料に由来する炭素粒子であってもよい。前記バイオマス材料は、リグニン、糖、脂肪酸、タンパク質およびそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。バイオマス材料の種類は、それが炭素熱反応を受けて炭素粒子を形成し得る限り、特に限定されないことに留意すべきである。上述したように、前記炭素材料の供給源としてバイオマスを使用することにより、結果として生じた炭素材料は、前記金属粒子を吸収することができる糖(例えば、単糖、二糖、多糖またはオリゴ糖など)の層を有するであろう。これは前記金属粒子に対して高い親和性を有する炭素材料を生じ得る。次にバイオマス材料の例を以下でさらに詳細に提供する。
【0026】
前記バイオマス材料が糖である場合、前記糖は、単糖(例えばグルコース、フルクトース、またはガラクトースなど)、二糖(例えばスクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、またはセロビオースなど)、オリゴ糖(例えば砂糖(sugar)またはアミノ糖など)、または多糖(例えばシクロデキストリン、セルロース、デンプン、グリコーゲン、キチンおよびヘミセルロースなど)から選択されてもよい。例示的な種類の糖としては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、D-グルコサミン塩酸塩、L-グルコサミン塩酸塩、α-D-グルコース、β-D-グルコース、α-L-グルコースまたはβ-L-グルコースが挙げられ得るが、これらに限定されるものではない。
【0027】
前記バイオマス材料が脂肪酸である場合には、前記脂肪酸は、飽和していてもよいし、単不飽和であってもよいし、またはポリ不飽和であってもよい。前記脂肪酸は、約4~約28個の炭素原子を含んでいてもよい。例示的な脂肪酸としては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノライド酸(linolaidic acid)、α-リノレン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸、エルカ酸、ドコサヘキサエン酸(docasahexaenoic acid)、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸または酪酸が挙げられ得るが、これらに限定されるものではない。適当な場合には、前記脂肪酸は関連する脂肪酸のトランス-配置またはシス-配置を含み得る。
【0028】
前記バイオマスがタンパク質である場合には、タンパク質の種類は特に限定されず、アミノ酸残基の1つ以上の長鎖を有する任意の生体分子を含み得る。
【0029】
前記炭素材料が炭素粒子である場合には、前記炭素粒子は、約100nm~1μm、約100nm~約200nm、約100nm~約300nm、約100nm~約400nm、約100nm~約500nm、約100nm~約600nm、約100nm~約700nm、約100nm~約800nm、約100nm~約900nm、約200nm~約1μm、約300nm~約1μm、約400nm~約1μm、約500nm~約1μm、約600nm~約1μm、約700nm~約1μm、約800nm~約1μm、または約900nm~約1μmの範囲である直径を有する球状粒子であり得る。前記炭素粒子が不規則形状の粒子である場合には、上記の直径は、不規則形状の炭素粒子の相当直径を指し得る。次に、前記炭素粒子は、粒子の大きさによって、炭素微粒子または炭素ナノ粒子と名付けられ得る。
【0030】
これに代わって、前記炭素材料はシート状材料であってもよい。前記シート材料の長さ/直径比は、1より高いか、2より高いか、3より高いか、または5より高くてよい。
【0031】
前記炭素材料は多孔質構造を有し得る。その多孔質炭素材料の細孔サイズは、約10nm~約700nm、約10nm~約100nm、約10nm~約200nm、約10nm~約300nm、約10nm~約400nm、約10nm~約500nm、約10nm~約600nm、約100nm~約700nm、約200nm~約700nm、約300nm~約700nm、約400nm~約700nm、約500nm~約700nm、または約600nm~約700nmの範囲であり得る。
【0032】
前記炭素材料は、約50m/g~約1000m/g、約50m/g~約100m/g、約50m/g~約200m/g、約50m/g~約300m/g、約50m/g~約400m/g、約50m/g~約500m/g、約50m/g~約600m/g、約50m/g~約700m/g、約50m/g~約800m/g、約50m/g~約900m/g、約100m/g~約1000m/g、約200m/g~約1000m/g、約300m/g~約1000m/g、約400m/g~約1000m/g、約500m/g~約1000m/g、約600m/g~約1000m/g、約700m/g~約1000m/g、約800m/g~約1000m/g、または約900m/g~約1000m/gの範囲である表面積を有し得る。
【0033】
前記炭素材料は前記金属粒子の支持体として作用し得る。前記金属粒子の大きさが、前記炭素材料の細孔サイズと比較して、より小さい場合には、前記金属粒子は前記炭素材料の細孔内に含浸され得る。
【0034】
前記炭素材料は金属粒子の保護体として作用してもよい。前記金属粒子が前記炭素材料より小さい場合には、前記金属粒子が前記金属粒子のまわりに炭素コーティングの層を有すると考えることができるように、前記金属粒子は前記炭素材料内に埋め込まれ得る。これは、ひいては金属粒子を酸化から保護し得る。
【0035】
前記金属粒子の大きさが炭素材料と比較してより大きい場合には、前記金属粒子および炭素材料は一緒に塊になって、クラスターを形成し得る。また、複数のより小さな炭素材料がともに集まって、より大きな金属粒子を部分的に取り囲むか、または完全に取り囲み得ることも可能である。
【0036】
前記複合材料の金属粒子は遷移金属粒子であってもよい。前記遷移金属は、元素周期表の第7~9族から選択されてもよい。前記遷移金属粒子は、鉄粒子、ルテニウム粒子、オスミウム粒子、コバルト粒子、ロジウム粒子、イリジウム粒子、マンガン粒子、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されてもよい。前記金属粒子は、前記炭素材料上に堆積される場合には、ゼロ価の金属粒子であってもよい。前記ゼロ価の金属粒子は、前記炭素材料の表面上であろうと、または前記炭素材料の細孔内であろうと、前記炭素材料上において均一にまたは無作為に分散され得る。
【0037】
前記金属粒子は、約500nm未満、約200nm未満、約100nm未満、または約50nm未満の粒径を有し得る。
【0038】
前記複合材料中における前記金属粒子の濃度は、前記炭素材料の乾燥重量%に基づいて、約1wt%~約80wt%、約1wt%~約10wt%、約10wt%~約80wt%、約20wt%~約80wt%、約30wt%~約80wt%、約40wt%~約80wt%、約50wt%~約80wt%、約60wt%~約80wt%、約70wt%~約80wt%、約10wt%~約70wt%、約10wt%~約60wt%、約10wt%~約50wt%、約10wt%~約40wt%、約10wt%~約30wt%、約10wt%~約20wt%の範囲であり得る。
【0039】
前記複合材料は、該材料中における金属粒子の存在により、酸素除去材料として作用し、包装内の酸素を吸収することができ得る。前記金属粒子は、前記複合材料中に存在する場合には、長期間にわたって周囲条件に晒された場合でさえ、酸化を受けないことがある。前記炭素材料の存在により、前記複合材料は安定し得、また従来の酸素除去材料よりも長持ちし得る。従って、前記炭素材料は、1)前記金属粒子(例えばナノサイズの鉄など)の酸化速度を、過度に速く制御不能に酸化することから制御すること、および2)酸素が酸化されるべき金属粒子の表面の中に拡散するのを可能にすることを支援する。これは、炭素熱還元過程の間に前記金属粒子の表面上に形成すると考えられる多孔質炭素材料の薄層の形成によるものであり得、前記薄層は前記金属粒子への酸素の拡散を遅延させる。
【0040】
前記複合材料は食品包装に用いられ得る。前記金属粒子が鉄粒子である場合、前記複合材料は、鉄1グラム当たり210cmまでの吸収能を有する良好な酸素除去能を示し得る。
【0041】
前記複合材料は、1つ以上の金属粒子を有する炭素材料から構成され得る。
【0042】
今度は組成物の例示的かつ非限定的な実施形態を開示する。前記組成物は、少なくとも1つの金属粒子と炭素材料との混合物を含有する複合材料と、無機塩類と、任意で水性媒体とを含む。
【0043】
前記複合材料は上記で定義したものであり得る。
【0044】
前記無機塩類は電解質または酸性化剤であり得る。前記無機塩類は、前記複合材料の酸素除去能力を活性化するか、または増進するために用いられてもよい。前記無機塩類は、除去系中における酸素の吸収速度を制御する促進剤として用いられてもよい。
【0045】
前記電解質はハロゲン化物化合物であってもよい。前記ハロゲン化物化合物は、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属またはハロゲン化金属であってもよい。前記ハロゲン化物化合物は、塩化物化合物、ヨウ化物化合物、フッ化物化合物または臭化物化合物であってもよい。前記ハロゲン化物化合物は、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化鉄(III)、塩化鉄(II)、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化鉄(II)、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、臭化ナトリウム、臭化リチウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、臭化鉄(III)、または臭化鉄(II)からなる群から選択されてもよい。
【0046】
前記無機塩の濃度は、前記複合材料の乾燥重量に基づいて、約0.1wt%~約20wt%、約0.1wt%~約20wt%、約0.1wt%~約20wt%、約0.1wt%~約20wt%、約0.1wt%~約20wt%、約0.1wt%~約20wt%、約0.1wt%~約20wt%、約0.1wt%~約20wt%、約0.1wt%~約20wt%、約0.1wt%~約20wt%、約0.1wt%~約20wt%であり得る。
【0047】
前記酸性化剤はポリ酸であってもよい。ポリカルボン酸は、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリエチルアクリル酸またはポリマレイン酸であってもよい。
【0048】
前記組成物中における無機塩類の使用は、パッケージまたは容器内における酸素の濃度を4日後に少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%低下させ得る。
【0049】
水のような微量の水性媒体の存在により、前記組成物の酸素除去能力が増進され得る。微量の水性媒体が用いられる場合、パッケージまたは容器内における酸素の濃度は、4日後に、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%低減され得る。
【0050】
ここで少なくとも1つの金属粒子と炭素材料との混合物を含有する複合材料を合成する方法の例示的かつ非限定的な実施形態を開示する。前記方法は、
i.多孔質構造を有する少なくとも1つの炭素粒子を金属イオンの溶液中に浸漬して、前記金属イオンを前記炭素粒子の細孔内に含浸させる工程と、
ii.含侵された炭素粒子を乾燥させる工程と、
iii.前記含侵された炭素粒子を、複合材料を合成するための条件で、炭素熱還元過程に供する工程とを含む。
【0051】
前記方法は、前記浸漬工程の前に、前記炭素粒子を形成する工程を含んでもよい。前記炭素粒子はバイオマス材料に由来してもよい。前記バイオマス材料は、一段階水熱処理過程(one-step hydrothermal treatment process)によって炭素粒子に変換されてもよい。ここで、前記バイオマス材料は、適当な溶媒(例えば水溶液など)中に溶解されて、前記バイオマス材料の溶液を形成してもよい。前記バイオマス材料の溶液は、別のポリマー材料の溶液と混合されてもよい。前記ポリマー材料は水溶性ポリマー材料であってもよい。前記ポリマー材料は両親媒性ブロックコポリマーであってもよい。前記ポリマー材料は、プルロニック(登録商標) F-127(シグマ オールドリッチ(Sigma-Aldrich)より)、ポリエチレンオキシド-ポリ-L-乳酸(PEO-PLLA)、ポリエチレンオキシド-ポリカプロラクトン(PEO-PCL)、およびポリエチレンオキシド-ポリスチレン(PEO-PS)からなる群から選択されてもよい。前記ポリマー材料は、前記炭素粒子の大きさを制御するために用いられてもよいし、かつ/または前記炭素粒子内に細孔を生成するために用いられてもよい。
【0052】
次に、前記バイオマス材料の溶液は、約180℃~約200℃、約180℃~約190℃、または約190℃~約200℃の範囲の温度に、約3~約12時間、約3~約5時間、約3~約7時間、約3~約9時間、約3~約11時間、約5~約12時間、約7~約12時間、約9~約12時間、または約11~約12時間に及ぶ期間にわたって晒されて、前記炭素粒子を形成し得る。前記バイオマス材料の溶液は、オートクレーブ内に配置され、上述したような温度および期間に設定されてもよい。
【0053】
結果として生じた炭素粒子は、次に濾過または遠心分離によって前記溶液から分離され、次いで水で洗浄され得る。洗浄された炭素粒子は、次に空気中または真空中において適温で乾燥され得る。結果として生じた炭素粒子は、水溶液中または適当な溶媒中に容易に分散され得る。
【0054】
前記金属イオンの溶液は特に限定されず、前記金属粒子を形成する金属の種類に依存する。溶液中で各金属カチオンおよびアニオンにイオン化することができる金属塩の種類は当業者には分かっているであろうことが理解されるべきである。従って、前記金属イオンの溶液は金属塩に由来してもよい。例示的な種類の金属塩としては、金属硝酸塩、金属塩化物、金属硫酸塩、金属グルコン酸塩、金属クエン酸塩または金属シュウ酸塩が挙げられ得るが、これらに限定されるものではない。
【0055】
前記浸漬工程は、30分間~24時間の範囲の期間にわたって行われ得る。このように、前記金属イオンは、前記炭素粒子上または前記炭素粒子中において均一に分散され得る。上述したように、前記炭素材料はバイオマス材料に由来するので、結果として生じた炭素材料は、前記金属カチオンと相互作用して、前記金属カチオンを前記炭素粒子に向けて引っ張ることができる糖(一般的にはヒドロキシル基および/またはカルボン酸基を含む)の層を有する。
【0056】
前記炭素粒子が前記金属イオンで含浸されたならば、その含侵された炭素粒子は次に乾燥工程を受ける。前記乾燥工程は、次の工程の前に、前記炭素粒子から液体を取り除くように作用する。前記乾燥工程は、ロータリーエバポレーション、凍結乾燥、風乾または真空乾燥によるものであってもよい。前記乾燥工程は、室温(約25℃~約30℃)で行われてもよいし、または適当な乾燥温度で行われてもよい。前記炭素粒子が十分に乾燥されることを保証するために、前記炭素粒子は前記炭素粒子が約50℃~約80℃、または約60℃~約70℃の温度に晒されるさらなる乾燥工程を受けてもよい。
【0057】
前記含侵された炭素材料は、次に、それにより前記複合材料を合成するための条件で炭素熱還元過程に供され得る。ここで、前記含侵された炭素粒子上の前記金属イオンは、前記炭素熱還元過程後に、形成された炭素材料の表面上に固定されて堆積されるか、または前記炭素材料内に埋め込まれ得る。前記金属粒子は、(ゼロ価の)金属粒子を周囲条件において酸化から保護することを支援する薄い炭素コーティングで被覆されていると考えられ得る。
【0058】
前記供する工程は、約700℃~約1000℃、約700℃~約750℃、約700℃~約800℃、約700℃~約850℃、約700℃~約900℃、約700℃~約9500℃、約750℃~約1000℃、約800℃~約1000℃、約850℃~約1000℃、約900℃~約1000℃、または約950℃~約1000℃の範囲の温度で行われ得る。
【0059】
前記供する工程は、ヘリウム中、窒素中、またはアルゴン中のような不活性ガス環境において行われてもよい。
【0060】
前記炭素熱還元過程において、前記炭素粒子は、金属イオンが(ゼロ価の)金属粒子を形成するための還元剤として作用し得る。
【0061】
前記炭素熱還元過程はまた、前記炭素材料上の前記金属粒子を冷却する工程を含んでもよい。前記炭素熱還元過程の後、前記金属粒子は前記炭素材料上に固定され堆積され得る。
【0062】
今度は多層フィルムの例示的かつ非限定的な実施形態を開示する。前記多層フィルムは、(i)外的環境から前記多層フィルム内への酸素の透過を妨げる酸素バリア層と、(ii)少なくとも1つの金属粒子と炭素材料との混合物を有する複合材料を含む酸素除去層とを備え得る。
【0063】
前記酸素バリア層は、外的環境から前記多層フィルム内への酸素の透過を妨げるクレイ/ポリマー複合材であってもよい。
【0064】
前記複合材料の他の用途については以下でさらに検討する。
【0065】
添付図面は、開示される実施形態を示し、その開示される実施形態の原理について説明するのに役立つ。しかしながら、前記図面は、本発明の範囲の定義としてではなく、例証のみを目的として設計されたものであることが理解されるべきである。
【実施例
【0066】
本発明の非限定的な例について、特定の実施例を参照することにより、さらにより詳細に説明する。前記実施例は本発明の範囲をいかなる形においても限定するようには解釈されるべきでない。
【0067】
実施例1
F-127ブロックコポリマーによってテンプレートされたα-シクロデキストリンに由来する炭素粒子(C1)の調製
シグマ オールドリッチ(Sigma Aldrich)(アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイス)から入手した22.5mgのF-127ブロックコポリマーを15mLの脱イオン水中に溶解して、室温で一晩撹拌した。合計で45mgのα-シクロデキストリン(日本の東京化成工業株式会社から入手したTCI-GR)を15mLの脱イオン水中に溶解して、室温で一晩撹拌した。次に、調製したα-シクロデキストリン溶液をF-127の溶液中に700rpmで撹拌しながら注入した。前記F-127ブロックコポリマーは、炭素粒子の大きさを制御し、かつ2)炭素粒子内に細孔を生成するように機能する。
【0068】
前記混合溶液を一晩撹拌し、次にテフロン(登録商標)加工のステンレス鋼オートクレーブ(容量125mL)に移した。前記オートクレーブを200℃で6時間にわたって加熱し、次いで室温に冷ました。9000rpmで30分間にわたって遠心分離することによりC1粒子を得た。次に、前記粒子を脱イオン水で、それぞれ9000rpmで15分間にわたる遠心分離によって、3回洗浄した。得られたC1粒子を風乾し、次いでさらなる使用のために室温で真空乾燥した。
【0069】
実施例2
D-(+)-グルコサミン塩酸塩に由来する炭素粒子(C2)の調製
160mgのD-(+)-グルコサミン塩酸塩(≧99%、シグマ オールドリッチ)を30mLの脱イオン水中に溶解して、清澄溶液を形成した。次に前記溶液をテフロン(登録商標)加工のステンレス鋼オートクレーブ(容量125mL)に移した。前記オートクレーブを200℃で12時間にわたって加熱し、次いで室温に冷ました。9000rpmで30分間にわたって遠心分離することによりC2粒子を得た。次に、前記粒子を脱イオン水で、それぞれ9000rpmで15分間にわたる遠心分離によって、3回洗浄した。得られたC2粒子を風乾し、次いでさらなる使用のために室温で真空乾燥した。
【0070】
実施例3
D-(+)-グルコースに由来する炭素粒子(C3)の調製
3.0~4.5gのD-(+)-グルコース(≧99.5%、東京化成工業株式会社、日本)を30mLの脱イオン水中に溶解して、清澄溶液を形成した。次に前記溶液をテフロン(登録商標)加工のステンレス鋼オートクレーブ(容量125mL)に移した。前記オートクレーブを180℃で3時間にわたって加熱し、次いで室温に冷ました。9000rpmで30分間にわたって遠心分離することによりC3粒子を得た。次に、前記粒子を脱イオン水で、それぞれ9000rpmで15分間にわたる遠心分離によって、3回洗浄した。得られたC3粒子を風乾し、次いでさらなる使用のために室温で真空乾燥した。
【0071】
実施例4
ナノ構造化したFe/C1粒子(nanostructured Fe/C1 particles)(Fe/C1)の調製
0.15gの実施例1から得たC1粒子を脱イオン水中に分散させた。適当な量の硝酸鉄(III)九水和物(≧98%、シグマ オールドリッチ(Sigma Aldrich))(炭素に対して~50wt%のFe)を脱イオン水中に溶解した。次に、硝酸鉄(III)九水和物溶液をC1溶液に添加し、10分間にわたって超音波処理し、数時間にわたって間欠的に振動させた。前記C1粒子を鉄(III)溶液中に一晩浸漬した。室温の真空炉中において水を蒸発させて乾燥させた。集めたC1粒子粉末を次に管状炉の内部の石英管内に配置し、200 sccmのアルゴン流量下において、5℃/分のランプレートで800℃に加熱した。前記試料を800℃で3時間にわたって維持した。その後、前記試料を管状炉から取り出す前にアルゴン下で周囲温度まで冷ました。その合成したままのナノ構造化したFe/C1粒子は特性評価を行える状態であった。
【0072】
実施例5
ナノ構造化したFe/C2粒子(Fe/C2)の調製
0.15gの実施例2から得たC2粒子を脱イオン水中に分散させた。適当な量の硝酸鉄(III)九水和物(≧98%、シグマ オールドリッチ)(炭素に対して~50wt%のFe)を脱イオン水中に溶解した。次に、硝酸鉄(III)九水和物溶液をC2溶液に添加し、10分間にわたって超音波処理し、数時間にわたって間欠的に振動させた。前記C2粒子を鉄(III)溶液中に一晩浸漬した。室温の真空炉中において水を蒸発させて乾燥させた。集めたC2粒子粉末を次に管状炉の内部の石英管内に配置し、200 sccmのアルゴン流量下において、5℃/分のランプレートで800℃に加熱した。前記試料を800℃で3時間にわたって維持した。その後、前記試料を管状炉から取り出す前にアルゴン下で周囲温度まで冷ました。その合成したままのナノ構造化したFe/C2粒子は特性評価を行える状態であった。
【0073】
実施例6
ナノ構造化したFe/C3粒子(Fe/C3)の調製
0.15gの実施例3から得たC3粒子を脱イオン水中に分散させた。適当な量の硝酸鉄(III)九水和物(≧98%、シグマ オールドリッチ)(炭素に対して~50wt%のFe)を脱イオン水中に溶解した。次に、硝酸鉄(III)九水和物溶液をC3溶液に添加し、10分間にわたって超音波処理し、数時間にわたって間欠的に振動させた。前記C3粒子を鉄(III)溶液中に一晩浸漬した。室温の真空炉中において水を蒸発させて乾燥させた。集めたC3粒子粉末を次に管状炉の内部の石英管内に配置し、200 sccmのアルゴン流量下において、5℃/分のランプレートで800℃に加熱した。前記試料を800℃で3時間にわたって維持した。その後、前記試料を管状炉から取り出す前にアルゴン下で周囲温度まで冷ました。その合成したままのナノ構造化したFe/C3粒子は特性評価を行える状態であった。
【0074】
試験方法
透過型電子顕微鏡(TEM)およびエネルギー分散型X線(EDX)
TEMおよびEDX分析は、透過型電子顕微鏡(JEOL 2100 TEM)によって200kVの加速電圧下で実施した。すべての試料を最初にエタノールで分散させて希釈し、次いで観察の前に200メッシュの炭素被覆銅グリッド(200-mesh carbon coated copper grid)上に滴下して室温で乾燥させた。
【0075】
図1(a)および図1(b)は、C1粒子およびFe/C1粒子のTEM画像をそれぞれ示しており、一方、図1(c)はFe/C1粒子のEDXマッピング分析を示している。図2(a)および図2(b)は、C2粒子およびFe/C2粒子のTEM画像をそれぞれ示しており、一方、図2(c)はFe/C2粒子のEDXマッピング分析を示している。図3(a)および図3(b)は、C3粒子およびFe/C3粒子のTEM画像をそれぞれ示しており、一方、図3(c)はFe/C3粒子のEDXマッピング分析を示している。
【0076】
図1(a)、図2(a)および図3(a)から、バイオマスに由来する合成された炭素粒子は、炭素源の種類およびその濃度によって、150nm~800nmに及ぶ粒径を有すると思われ得る。前記炭素粒子の大きさは、炭素源の濃度を変更することによって容易に微調整することができる。C1炭素粒子について、前記炭素粒子は、水熱処理過程後には約700nmの大きさを有する中空である。その球状中空炭素粒子は、鉄の含浸および炭素熱還元過程の後に破裂した(図1(b))。前記炭素粒子は、この時点で多孔質シート状炭素構造物として存在する。本発明者らは、親水性を有するC1複合構造が前記含浸工程中に鉄イオンと強く結合したと仮定する。そのような強い相互作用は、F127の分解により、炭素熱還元過程中にC1の収縮または破壊を引き起こし得る。
【0077】
C2およびC3の炭素粒子に関して、約600nmおよび約250nmの大きさを有する球状炭素粒子がそれぞれ得られた。前記球状炭素構造(図2(b)および図3(b)をそれぞれ参照)は、表面機能化過程後において、安定して不変のままであった。炭素担体上において成長したゼロ価鉄粒子は500nm未満の平均粒径を有した。
【0078】
TEM画像およびEDXマッピング分析によって確認されたように(加えて図1(c)、図2(c)および図3(c)を参照)、前記鉄粒子は支持された炭素上において均一に分散されていた。これらの鉄粒子は、C1、C2およびC3炭素粒子の表面と強く相互作用し、それらの表面に付着していた。
【0079】
X線回折(XRD)
試料の構造特性および結晶相をXRD分析によって評価した。XRD分析は、20~86°に及ぶ走査角度でCukα放射線(k=0.154nm)を使用したブルカー D8-ジェネラル エリア ディテクター ディフラクション システム(Bruker D8-General Area Detector Diffraction System)(GADDS) XRDを用いることによって実施した。ここで試料Fe/C1粒子を分析し、異なる条件において試験したFe/C1粒子のXRDパターンを図4および図5に示す。
【0080】
図4に示すように、C1炭素上に支持された鉄粒子は、44°、65°および85°の2θにおいて、体心立方(bode centered cubic)α-Feを主に示し、これはゼロ価鉄粒子(図4(a))の形成を示した。Fe/C2およびFe/C3についても同様のXRDパターンが得られた(結果は図示せず)。前記炭素材料は、長時間の周囲条件への曝露後でさえ、ゼロ価鉄をさらなる酸化から安定させたことに留意すべきである。炭素に支援された鉄粒子の安定性は、試料を100%の相対湿度の空気への24時間にわたって曝露した後に確認した(図4(b)を参照)。これは、酸素除去の結果によってさらに支持される(下記の節および表1~3を参照されたい)。FeまたはFeピークのいずれもXRDパターンから検出されなかったように、無視できる酸化過程が観察された。この基準は、保管の間における脱酸素剤の高い安定および寿命を保証するために重要である。周囲条件において空気によるFe/Cの有意な還元がないので、本明細書のFe/C生成物は空気中で容易に取り扱われ得る。対照的に、水素化ホウ素ナトリウムのような還元剤を過剰に用いる化学的還元過程によって調製された鉄粒子は、容易に酸化し、空気と反応するであろう。これは保護炭素が欠如しているためであり、酸素が水中に溶解している場合でさえ、このように形成された鉄粒子の迅速な酸化をもたらす。鉄粒子が酸化すると、鉄粒子は黒色から褐色に変化する。
【0081】
図5にXRDパターンによって示すように、10重量%の塩化ナトリウムのFe/C粉末との添加は、100%の相対湿度条件下で酸素と有意に反応し、酸化過程が起こって、Fe構造を形成したことを示す。FeのXRDピークは減少して、30°、35.5°、43°、53.6°、57.2°および62.8°の2θにおけるFeピークと置き替わった。31.7°および45.5°の2θにおけるXRDパターンから、塩化ナトリウム結晶相も検出された。このように、無機塩類は、除去系における酸素の吸収速度を制御する促進剤として用いられた。
【0082】
酸素除去分析試験
25mLのガラス三角フラスコを試料容器(モデル包装)として用いて、前記試料のO除去特性を特徴付けた。フラスコの全容量を最初に周囲条件において空気(20.90%のO)で充填した。1mLの水を収容した1つの2mLのバイアルを前記フラスコの内側に配置して、室内湿度(RH)を100%に調節した。約0.03~0.05gの試料(Fe/C1、Fe/C2およびFe/C3)を塩化ナトリウム(乾燥物または50μL溶液)とともに、または塩化ナトリウムなしで、前記フラスコの内部に配置した。次に、前記フラスコを気密性ゴムセプタムストッパー(シュバシール(Suba-Seal)、ダブリュ.フリーマン アンド カンパニー リミテッド(W. Freeman & Co. Ltd)、英国)によって密閉し、酸素除去実験の期間中、室温に配置した。前記フラスコのヘッドスペース中の酸素含有量(% O)をヘッドスペース酸素/二酸化炭素アナライザ(モデル GS3、システック イリノイ(Systec Illinois)、米国、0.005% Oまでの精度)によって、ヘッドスペースガスのアリコートを採取してジルコニウムに基づくセンサーを用いて分析する手順にて分析した。0.45μmのPTFEフィルタを備えた試料採取針を前記ストッパーを介して挿入して、~0.875mLのヘッドスペースガスを試料採取した。ヘッドスペースアナライザの較正は、各試料測定の後に周囲空気を用いて行われた。酸素吸収量(Oxygen uptake)(消費された酸素の質量/試料の質量)は、前記フラスコのヘッドスペース内における酸素含有量の(約96時間の)経時的な減少から間接的に計算した。
【0083】
Fe/C1、Fe/C2およびFe/C3の酸素除去能力を下記の表1、表2および表3にそれぞれ示す。試料はすべて100%の相対湿度において試験した。予想通りに、Fe/C試料は、100%の相対湿度において、非常に遅い吸収速度(rate of uptake)、および低い酸素吸収能を有し、極めて安定していた。固体として添加されたか、または最低量の水(約30~50μL)中に溶解されたかのいずれかである微量の塩化ナトリウム(Fe/Cの乾燥重量に基づいて約10wt%)の存在は、酸素吸収速度を急激に増大した。前記生成物は、4日後に前記モデル包装から大部分の酸素を取り除き、また最も高い除去速度は第1目に生じた。
【0084】
この点に関して、パッケージ(既知容積)内における酸素除去速度および酸素除去能をFe/C、塩化ナトリウムおよび水分の状態を監視することによって制御することが実現可能である。さらに、異なる種類のバイオマスに由来する炭素粒子は異なる酸素除去能を示した。ここでは、147~208cm/g Feの範囲である酸素除去能が得られ、208cm/g Feで最高の酸素吸収性能を有した。様々な鉄/炭素粒子の酸素除去能力は、前記炭素材料/粒子の表面積、および前記炭素材料/粒子を取り囲む糖鎖の種類に依存し得、それらは前記炭素支持体上における鉄粒子の分散を制御する。従って、前記表面積が高いほど、かつ/または糖鎖の量が多いほど、これは酸素除去特性の増大をもたらし得る。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
産業上の利用可能性
前記複合材料は、酸素除去ナノ構造複合物として用いられ得る。酸素除去ナノ構造複合物は、食品包装に用いられてもよく、小袋(sachets)、透過性バッグ、シート状マットおよび積層シートのような様々な容器内に配置されて、そのような容器の内容物を酸素による劣化または酸素との反応から保護する。
【0089】
前記複合材料は、ポリマーと混合され、プラスチックフィルム上に適用されて、コーティング層を形成してもよい。前記コーティング層は、様々な被包装物および用途に従って外形をなす(contour)ように可撓性であり得る。このポリマーは、制御された水放出能力(controlled release water ability)を有するヒドロゲルまたは高酸素透過性ポリマーのようなマトリックス材料であってもよい。前記ポリマーマトリックスは酸素分子に対して高度に透過性であり、そのためヘッドスペースの酸素分子は、前記ポリマーを通って、前記ナノ構造複合物との反応のために、自由に透過することができることが認識されるべきである。
【0090】
前記複合材料は、外側酸素バリア層と共に適用されて、包装剤(packaging agent)として、(1)酸素バリア層と、(2)酸素除去層としての前記複合材料とを有する多層フィルムを形成してもよい。前記酸素バリア層は、パッケージ内に透過する外的環境からの酸素の透過を妨げるクレイ/ポリマー複合材料であってもよい。一方で、ヘッドスペースの酸素は前記パッケージから前記複合材料によって取り除かれ得る。
【0091】
前記複合材料をバイオマス由来ポリマーと混合して、電界紡糸法によってシート状マットを形成してもよい。そのようなシート状マット脱酸素剤は、様々な形状のパッケージに容易に固定または適用可能であり得る。
【0092】
前述の開示を読んだ後、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本発明の様々な他の変更および改造が当業者には明らかになることは明らかであろう。また、すべてのそのような変更および改造は添付された請求項の範囲内に入ることが意図される。

図1
図2
図3
図4
図5