(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】繊維強化AlN複合材、放熱基板、繊維強化AlN複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/581 20060101AFI20220614BHJP
C04B 35/80 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
C04B35/581
C04B35/80 600
(21)【出願番号】P 2017200425
(22)【出願日】2017-10-16
【審査請求日】2020-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 俊
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】野呂 匡志
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-083852(JP,A)
【文献】特開平03-112857(JP,A)
【文献】特開平04-254477(JP,A)
【文献】特開平06-340475(JP,A)
【文献】特開2001-122671(JP,A)
【文献】特開2015-030632(JP,A)
【文献】特開昭63-233080(JP,A)
【文献】特開昭63-170269(JP,A)
【文献】特開2008-270295(JP,A)
【文献】特開平06-330412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムライト繊維と、
AlNからなるマトリックスと、からなる繊維強化AlN複合材。
【請求項2】
前記
ムライト繊維は、平均繊維長が0.1~2.0mmである請求項
1に記載の繊維強化AlN複合材。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の繊維強化AlN複合材からなる基材と、前記基材の表面に備えられたクッション層とを備える放熱基板。
【請求項4】
前記クッション層は、膨張黒鉛またはBNからなる請求項
3に記載の放熱基板。
【請求項5】
ムライト繊維と、AlN粉末とを混合する混合工程と、
前記
ムライト繊維と前記AlN粉末の混合体に、熱および直流パルス電圧を加えながら一軸加圧するパルス通電焼結工程と、
を含み、
前記パルス通電焼結工程における加熱温度は、1400~1500℃である繊維強化AlN複合材の製造方法。
【請求項6】
前記パルス通電焼結工程における加圧は、加圧初期だけ電流を流すプラズマ活性化焼結法である請求項
5に記載の繊維強化AlN複合材の製造方法。
【請求項7】
前記パルス通電焼結工程における加圧は、加圧中継続して電流を流す放電プラズマ焼結法である請求項
5に記載の繊維強化AlN複合材の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程は、さらに塩化アルミニウム系化合物の水溶液を混合し乾燥させる請求項
5から
7のいずれか1項に記載の繊維強化AlN複合材の製造方法。
【請求項9】
前記塩化アルミニウム系化合物は、塩基性塩化アルミニウムからなる請求項
8に記載の繊維強化AlN複合材の製造方法。
【請求項10】
前記混合工程の混合比率は、
ムライト繊維1~40質量%、AlN粉末60~99質量%、塩化アルミニウム系化合物0~5質量%である請求項
5から
9のいずれか1項に記載の繊維強化AlN複合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化AlN複合材、放熱基板、繊維強化AlN複合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AlNは、熱伝導率が高く、電気絶縁性を有するので半導体のヒートシンクなど、幅広く利用されている。
【0003】
特許文献1には、AlNを主成分とし、0.1~60重量%の繊維状セラミックスと、0.1~20重量%の酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、第IIIa族元素酸化物およびこれらの複合酸化物の少なくとも1種を含有することを特徴とする繊維強化窒化アルミニウム質焼結体が記載されている。また、繊維状セラミックスとして、炭化ケイ素、窒化ケイ素または炭素が挙げられている。
ここで、AlNはマトリックス、炭化ケイ素、窒化ケイ素または炭素は骨材、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、第IIIa族元素酸化物およびこれらの複合酸化物は焼結助剤として機能し、焼結によって焼結体が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記記載された発明は次の点で問題がある。窒化ケイ素繊維は、特殊な繊維であり、一般に広く流通していない。また、骨材として炭化ケイ素繊維、炭素繊維を使用した場合、これらの繊維は導電性であるので、焼結体が導電性となり、絶縁構造が別途必要となる。
【0006】
本発明では、工業的に入手しやすいセラミック繊維を用いた絶縁性を有する繊維強化AlN複合材、放熱基板、繊維強化AlN複合材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための、本発明の繊維強化AlN複合材は、
(1)アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlNからなるマトリックスと、からなる。
【0008】
本発明の繊維強化AlN複合材に用いているアルミナとシリカとからなるセラミック繊維は、広く工業的に利用されているセラミック繊維である。また、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlNからなるマトリックスはともに絶縁性の高いセラミックスであるので、繊維強化AlN複合材となっても高い絶縁性を確保することができ、靭性、熱伝導性に優れた繊維強化AlN複合材を提供できる。
【0009】
一般にアルミナ、シリカなどの酸化物はAlNの焼結において焼結助材として使用される成分である。本発明では、これらの成分を骨材として使用している。
AlNの焼結温度は1800℃以上であり、セラミック繊維の耐熱温度は1700℃である。このため、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlNからなるマトリックスとの複合材は、通常の焼結では製造できない組合せである。本発明では、直流パルス電圧を加えながら加熱下で一軸加圧するパルス通電焼結法を用いているので、セラミック繊維の劣化しない低温での焼結が可能となり、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlNからなるマトリックスと、からなる繊維強化AlN複合材を得ることができる。
【0010】
上述の「AlNの焼結温度は1800℃以上であり、セラミック繊維の耐熱温度は1700℃」の記載の根拠は以下の非特許文献による。
【0011】
独立行政法人産業技術研究所の渡利広司上席イノベーションコーディネータが投稿したセラミックス1997年6月号の抜粋によれば、「Y2O3及びCaOの添加はAlN焼結体の高熱伝導化に有効であるが、Y2O3を単独で添加した場合AlN-Al2O3-Y2O3系における最低液相生成温度は約1686℃、一方粒内の酸素除去反応は1800℃以上の温度で開始するので、通常1800℃以上の高い焼成温度が必要となる」との記載がある。
サイト:https://staff.aist.go.jp/koji-watari/low-tmpr.html
【0012】
また、1999年4月10日出版の技報堂出版株式会社、セラミック工学ハンドブック(第2版)、890頁の表6.9によれば、「アルミナシリカ繊維の溶融温度は1760~1800℃」との記載がある。
【0013】
本発明の繊維強化AlN複合材は以下の態様であることが好ましい。
(2)前記セラミック繊維は、ムライト繊維である。
【0014】
セラミック繊維が、ムライト繊維であると、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維の中でも高い耐熱性を有しているので、焼結温度を高くすることができ、より緻密な繊維強化AlN複合材を得ることができる。ムライト繊維はAl2O3/SiO2の比率が60/40~67/33mol%の組成比であるセラミック繊維を示している。
【0015】
(3)前記セラミック繊維は、平均繊維長が0.1~2.0mmである。
【0016】
セラミック繊維の繊維長が0.1~2.0mmであると、繊維による強化作用を維持しつつ、セラミック繊維に隙間ができにくいので高強度の繊維強化AlN複合材を得ることができる。
【0017】
前記課題を解決するための本発明の放熱基板は、
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の繊維強化AlN複合材からなる基材と、前記基材の表面に備えられたクッション層とを備える。
【0018】
クッション層を備えていると、半導体あるいはヒートシンクとの隙間をクッション層が充填し、界面の熱抵抗を小さくすることができる。
【0019】
(5)前記クッション層は、膨張黒鉛またはBNからなる。
【0020】
膨張黒鉛、BNはともに熱伝導率が高いうえに、六方晶系であり劈開性があり、変形しやすく、流動性があり、半導体あるいはヒートシンクとの隙間を効率よく充填することができる。
【0021】
前記課題を解決するための本発明の繊維強化AlN複合材の製造方法は、
(6)アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlN粉末とを混合する混合工程と、前記セラミック繊維と前記AlN粉末の混合体に、熱および直流パルス電圧を加えながら一軸加圧するパルス通電焼結工程と、を含み前記パルス通電焼結工程における加熱温度は、1400~1500℃である。
【0022】
AlNの焼結温度は1800℃以上であり、セラミック繊維の耐熱温度は1700℃である。このため、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlNからなるマトリックスとの複合材は、通常の焼結では製造できない組合せである。本発明では、直流パルス電圧を加えながら加熱下で一軸加圧するパルス通電焼結法を用いているので、セラミック繊維の劣化しない低温での焼結が可能となり、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlNからなるマトリックスと、からなる繊維強化AlN複合材を得ることができる。
【0023】
加熱温度が、1400℃以上であるので、パルス通電焼結工程で十分に焼結を進行させることができる。また、加熱温度が1500℃以下であるのでセラミック繊維を劣化させることなく繊維強化AlN複合材を得ることができる。
【0024】
(7)前記パルス通電焼結工程における加圧は、加圧初期だけ電流を流すプラズマ活性化焼結法である(PAS:Plasma Activated Sintering)。
【0025】
加圧初期に電流を流し、原材料であるセラミック繊維と、AlN粉末との界面に放電させ活性化させているので、低い温度でも焼結を進行させることができ、AlNのマトリックスと、セラミック繊維の骨材の組合せの繊維強化AlN複合材を得ることができる。
【0026】
(8)前記パルス通電焼結工程における加圧は、加圧中継続して電流を流す放電プラズマ焼結法である(SPS:Spark Plasma Sintering)。
【0027】
加圧中に継続して電流を流し、原材料であるセラミック繊維と、AlN粉末との界面に放電させ活性化させているので、低い温度でも焼結を進行させることができ、AlNのマトリックスと、セラミック繊維の骨材の組合せの繊維強化AlN複合材を得ることができる。
【0028】
(9)前記混合工程は、さらに塩化アルミニウム系化合物の水溶液を混合し乾燥させる。
【0029】
混合工程では、塩化アルミ系化合物の水溶液を混合するので、焼結前にバインダーとして機能し、加圧する前にあらかじめ気孔を少なくすることができる。このため、焼結後の繊維強化AlN複合材の密度を高めるように作用する。
【0030】
(10)前記アルミニウム系化合物は、塩基性塩化アルミニウムからなる。
【0031】
塩基性塩化アルミニウムは、塩化アルミニウム水和物の配位水から、水が脱水縮合した構造をしているため、粘度の高い液体となっている。このため、バインダーとしての作用が強く、焼結後の繊維強化AlN複合材の密度をより高めるように作用する。
【0032】
(11)前記混合工程の混合比率は、セラミック繊維1~40重量%、AlN粉末60~99重量%、塩化アルミニウム系化合物0~5重量%である。
【0033】
混合範囲が、上記範囲にあると、セラミック繊維が十分な強度を発揮し、AlN粉末が十分な熱伝導を発揮することができる。さらに塩化アルミニウム系化合物が、セラミック繊維およびAlN粉末を強固に接合するので、強度、熱伝導ともにさらに大きくすることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の繊維強化AlN複合材に用いているアルミナとシリカとからなるセラミック繊維は、広く工業的に利用されているセラミック繊維である。また、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlNからなるマトリックスはともに絶縁性の高いセラミックスであるので、繊維強化AlN複合材となっても高い絶縁性を確保することができる。また、熱伝導も良いため放熱基板としても利用可能である。さらに、直流パルス電圧を加えながら加熱下で一軸加圧するパルス通電焼結法を用いた製造法であるため、セラミック繊維の劣化しない低温での焼結が可能となり、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlNからなるマトリックスと、からなる繊維強化AlN複合材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の繊維強化AlN複合材を製造するための工程を説明した模式図で、(a)混合工程、(b)パルス通電焼結工程、(c)繊維強化AlN複合材、(d)放熱基板。
【0036】
(発明の詳細な説明)
本発明の繊維強化AlN複合材は、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlNからなるマトリックスと、を含む。
【0037】
本発明の繊維強化AlN複合材に用いているアルミナとシリカとからなるセラミック繊維は、広く工業的に利用されているセラミック繊維であり、アルミナシリカ繊維ともいう。また、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlNからなるマトリックスはともに絶縁性の高いセラミックスであるので、繊維強化AlN複合材となっても高い絶縁性を確保することができ、靭性、熱伝導性に優れた繊維強化AlN複合材を提供できる。
【0038】
一般にアルミナ、シリカなどの酸化物はAlNの焼結において焼結助材として使用される成分である。本発明では、これらの成分を骨材として使用している。
AlNの焼結温度は約1800℃以上であり、セラミック繊維の耐熱温度は約1700℃である。このため、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlNからなるマトリックスとの複合材は、通常の焼結では製造できない組合せである。本発明では、直流パルス電圧を加えながら加熱下で一軸加圧するパルス通電焼結法を用いているので、セラミック繊維の劣化しない低温での焼結が可能となり、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlNからなるマトリックスと、からなる繊維強化AlN複合材を得ることができる。
【0039】
上述の「AlNの焼結温度は約1800℃以上であり、セラミック繊維の耐熱温度は約1700℃」の記載の根拠は以下の非特許文献による。
【0040】
独立行政法人産業技術研究所の渡利広司上席イノベーションコーディネータが投稿したセラミックス1997年6月号の抜粋によれば、「Y2O3及びCaOの添加はAlN焼結体の高熱伝導化に有効であるが、Y2O3を単独で添加した場合AlN-Al2O3-Y2O3系における最低液相生成温度は約1686℃、一方粒内の酸素除去反応は1800℃以上の温度で開始するので、通常1800℃以上の高い焼成温度が必要となる」との記載がある。
サイト:https://staff.aist.go.jp/koji-watari/low-tmpr.html
【0041】
また、1999年4月10日出版の技報堂出版株式会社、セラミック工学ハンドブック(第2版)、890頁の表6.9によれば、「アルミナシリカ繊維の溶融温度は1760~1800℃」との記載がある。
【0042】
前記セラミック繊維は、ムライト繊維である。
【0043】
セラミック繊維が、ムライト繊維であると、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維の中でも高い耐熱性を有しているので、焼結温度を高くすることができ、より緻密な繊維強化AlN複合材を得ることができる。ムライト繊維はAl2O3/SiO2の比率が60/40~67/33mol%の組成比であるセラミック繊維を示している。
【0044】
前記セラミック繊維は、平均繊維長が0.1~2.0mmである。
【0045】
セラミック繊維の繊維長が0.1~2.0mmであると、繊維による強化作用を維持しつつ、セラミック繊維に隙間ができにくいので高強度の繊維強化AlN複合材を得ることができる。
【0046】
本発明の放熱基板は、前記繊維強化AlN複合材からなる基材と、前記基材の表面に備えられたクッション層とを備える。
【0047】
クッション層を備えていると、半導体あるいはヒートシンクとの隙間をクッション層が充填し、界面の熱抵抗を小さくすることができる。
【0048】
前記クッション層は、膨張黒鉛またはBNからなる。
【0049】
膨張黒鉛、BNはともに熱伝導率が高いうえに、六方晶系であり劈開性があり、変形しやすく、流動性があり、半導体あるいはヒートシンクとの隙間を効率よく充填することができる。
【0050】
本発明の繊維強化AlN複合材の製造方法は、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlN粉末とを混合する混合工程と、前記セラミック繊維と前記AlN粉末の混合体に、熱および直流パルス電圧を加えながら一軸加圧するパルス通電焼結工程と、を含み、前記パルス通電焼結工程における加熱温度は、1400~1500℃である。
【0051】
AlNの焼結温度は1800℃以上であり、セラミック繊維の耐熱温度は1700℃である。このため、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlNからなるマトリックスとの複合材は、通常の焼結では製造できない組合せである。本発明では、直流パルス電圧を加えながら加熱下で一軸加圧するパルス通電焼結法を用いているので、セラミック繊維の劣化しない低温での焼結が可能となり、アルミナとシリカとからなるセラミック繊維と、AlNからなるマトリックスと、からなる繊維強化AlN複合材を得ることができる。
【0052】
加熱温度が、1400℃以上であるので、パルス通電焼結工程で十分に焼結を進行させることができる。また、加熱温度が1500℃以下であるのでセラミック繊維を劣化させることなく繊維強化AlN複合材を得ることができる。
【0053】
前記パルス通電焼結工程における加圧は、加圧初期だけ電流を流すプラズマ活性化焼結法である(PAS:Plasma Activated Sintering)。
【0054】
加圧初期に電流を流し、原材料であるセラミック繊維と、AlN粉末との界面に放電させ活性化させているので、低い温度でも焼結を進行させることができ、AlNのマトリックスと、セラミック繊維の骨材の組合せの繊維強化AlN複合材を得ることができる。
【0055】
前記パルス通電焼結工程における加圧は、加圧中継続して電流を流す放電プラズマ焼結法である(SPS:Spark Plasma Sintering)。
【0056】
加圧中に継続して電流を流し、原材料であるセラミック繊維と、AlN粉末との界面に放電させ活性化させているので、低い温度でも焼結を進行させることができ、AlNのマトリックスと、セラミック繊維の骨材の組合せの繊維強化AlN複合材を得ることができる。
【0057】
前記混合工程は、さらに塩化アルミニウム系化合物の水溶液を混合し乾燥させる。
【0058】
混合工程では、塩化アルミ系化合物の水溶液を混合するので、焼結前にバインダーとして機能し、加圧する前にあらかじめ気孔を少なくすることができる。このため、焼結後の繊維強化AlN複合材の密度を高めるように作用する。
【0059】
前記アルミニウム系化合物は、塩基性塩化アルミニウムからなる。
【0060】
塩基性塩化アルミニウムは、塩化アルミニウム水和物の配位水から、水が脱水縮合した構造をしているため、粘度の高い液体となっている。このため、バインダーとしての作用が強く、焼結後の繊維強化AlN複合材の密度をより高めるように作用する。
【0061】
前記混合工程の混合比率は、セラミック繊維1~40重量%、AlN粉末60~99重量%、塩化アルミニウム系化合物0~5重量%である。
【0062】
混合範囲が、上記範囲にあると、セラミック繊維が十分な強度を発揮し、AlN粉末が十分な熱伝導を発揮することができる。さらに塩化アルミニウム系化合物が、セラミック繊維およびAlN粉末を強固に接合するので、強度、熱伝導ともにさらに大きくすることができる。
【0063】
(発明を実施するための形態)
図1は、本発明の繊維強化AlN複合材を製造するための工程を説明した模式図である。
図1に基づいて、繊維強化AlN複合材の製造方法を説明する。
【0064】
(1)混合工程(
図1(a)参照):アルミナとシリカとからなるセラミック繊維10と、AlN粉末20とを混合する。混合工程に塩化アルミニウム系化合物30の水溶液を混合して乾燥させてもよい。当該塩化アルミニウム系化合物30は、例えば塩基性塩化アルミニウムからなる。塩化アルミニウム系化合物30を含めた混合率は、例えばセラミック繊維10が1~40重量%、AlN粉末20が60~99重量%、塩化アルミニウム系化合物30が0~5重量%である。なお、塩化アルミニウム系化合物は、溶媒を含まない溶質のみの比率である。
【0065】
(2)パルス通電焼結工程(
図1(b)参照):セラミック繊維10とAlN粉末20の混合体90に、熱および直流パルス電圧を加えながら一軸加圧する。一軸とは、
図1(b)の矢印方向を指し、加圧方向と同じである。パルス通電焼結工程において、加圧初期だけ電流を流すプラズマ活性化焼結法でもよく、加圧中継続して電流を流す放電プラズマ焼結法でもよい。また、パルス通電焼結工程における加熱温度は、1400~1500℃であることが望ましい。
【0066】
混合工程において、混合体90と金型の間に離型材である膨張黒鉛シートを貼りつけてもよい。これにより、パルス通電焼結工程の後、焼き上がった繊維強化AlN複合材60を型から容易に離すことができる。更に繊維強化AlN複合材の表面に膨張黒鉛を残しておくと、繊維強化AlN複合材と半導体あるいはヒートシンクとの間にできる隙間を充填し、熱抵抗を小さくすることができる。また、膨張黒鉛に代えてBNを用いてもよい。BNを用いることによって繊維強化AlN複合材の表面の絶縁性を確保することができる。
【0067】
混合工程およびパルス通電焼結工程により、
図1(c)に示される窒化アルミ40にアルミナファイバー50が混合した絶縁性、靭性、熱伝導性に優れた繊維強化A
lN複合材60を製造することができる。
【0068】
繊維強化AlN複合材60の表面にクッション層70を設けることにより放熱基板80を製造することができる。
【実施例】
【0069】
(混合工程)
原料として、トクヤマ株式会社製AlN(Hグレード)、セラミック繊維、バインダーを9:1:1(重量比)となるように混合したのち、プラズマ活性化焼結法(PAS:Plasma Activated Sintering)で焼成した。それぞれの混合比を表1に示す。
【0070】
【0071】
(パルス通電加圧工程)
成形後の厚さが3mm程度となるように、混合工程で混合した原材料を黒鉛製の型に充填しパルス通電加圧装置を用いて焼成を行った。
【0072】
なお、通電方法は、加圧初期だけ電流を流すプラズマ活性化焼結法(PAS)及び、加圧中継続して電流を流す放電プラズマ焼結法(SPS)の両方で行った。加圧圧力は、昇温中は20MPa、温度保持中は40MPaである。それぞれの通電条件を表2に示す。
【0073】
【0074】
それぞれ得られた実施例、比較例の製造条件、分析値の値を表3に示す。
【0075】
【0076】
処理温度が1400~1500℃である実施例1~7においては、セラミック繊維が残り複合材化が確認できた。処理温度が1600~1700℃である比較例1~4においては、セラミック繊維とマトリックスとが反応し、セラミック繊維の消滅が確認された。また、処理温度が1000~1200℃である比較例5、6では、マトリックスの焼結が確認されず、複合材化していなかった。
【0077】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のセラミック繊維強化AlN複合材、放熱基板、繊維強化AlN複合材の製造方法は、高温下で絶縁性が高いため、半導体製造装置、エンジン用部品などに好適であるほか、高温下でのヒートシンクなどの放熱基板としても有用である。
【符号の説明】
【0079】
10 セラミック繊維
20 AlN粉末
30 塩化アルミニウム系化合物
40 窒化アルミ
50 アルミナファイバー
60 繊維強化AlN複合材
70 クッション層
80 放熱基板
90 混合体