(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ホットメルト組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 153/02 20060101AFI20220614BHJP
C08K 5/01 20060101ALI20220614BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20220614BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20220614BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20220614BHJP
C08L 91/06 20060101ALI20220614BHJP
C09D 123/26 20060101ALI20220614BHJP
C09D 151/06 20060101ALI20220614BHJP
C09D 191/06 20060101ALI20220614BHJP
B60R 16/02 20060101ALN20220614BHJP
H02G 3/14 20060101ALN20220614BHJP
【FI】
C09D153/02
C08K5/01
C08L23/26
C08L51/06
C08L53/02
C08L91/06
C09D123/26
C09D151/06
C09D191/06
B60R16/02 610B
H02G3/14
(21)【出願番号】P 2017228106
(22)【出願日】2017-11-28
【審査請求日】2020-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】391047558
【氏名又は名称】ヘンケルジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】築野 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】土橋 正明
(72)【発明者】
【氏名】森下 岳栄
(72)【発明者】
【氏名】白井 幸児
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204588(JP,A)
【文献】特開2001-192527(JP,A)
【文献】特開2001-192642(JP,A)
【文献】特開2001-316561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 153/02
C08K 5/01
C08L 23/26
C08L 51/06
C08L 53/02
C08L 91/06
C09D 123/26
C09D 151/06
C09D 191/06
B60R 16/02
H02G 3/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体、
(B)炭化水素系液状軟化剤
、
(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で変性されたワック
ス、ならびに
(D)粘着付与樹脂
を含み
、
(A)熱可塑性ブロック共重合体が、(A1)スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)および(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)を含み、
(B)炭化水素系液状軟化剤が、(B1)アニリン点135℃以上の炭化水素系オイルを含む、ホットメル
ト接着剤組成物。
【請求項2】
(A)、(B)および(C)の総重量100重量部に対し、(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で変性されたワックスの含有量が、0.1~10重量部である、請求項1に記載のホットメル
ト接着剤組成物。
【請求項3】
(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で変性されたワックスは、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸で変性されたポリプロピレンワックスを含む、請求項1または2に記載のホットメル
ト接着剤組成物。
【請求項4】
(D)粘着付与樹脂が、(D1)軟化点が120℃以上の粘着付与樹脂を含む、請求項1~3のいずれかに記載のホットメル
ト接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のホットメル
ト接着剤組成物でシールされた電子制御ユニット。
【請求項6】
請求項5に記載の電子制御ユニットを有する車輌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホットメルト組成物に関するものであり、特に、車輌用の電子制御ユニットのシール材として好適なホットメルト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車には、エンジン、自動変速機、電動パワーステアリング等をそれぞれ駆動制御するECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)の他、エンジンや車体の運転情報を検出して各ECUに検出信号を出力する多数のセンサなどが搭載されている。ECUなどには、マイクロコンピュータおよびROM、RAMなどの電子部品を電子回路に実装した基板に対し、防水、耐油、防塵等のために外周部をシールするシール部が設けられることがある。インバータまたはコンバータから構成されるPCU(Power Control Unit)についても、防水、耐油、防塵等のために外周部をシールするシール部が設けられることがある。
【0003】
電子制御ユニットのシール部に用いられるシール材としてシリコーン樹脂が用いられることがあったが、電子制御ユニットを構成する電子回路基板に不具合があった場合、シリコーン樹脂を基板から剥がすことができず、電子制御ユニットごとの交換が必要であった。近年では、シール材の離形性を考慮し、熱可塑性樹脂を成分とするホットメルト組成物が検討されている。
【0004】
特許文献1,2には、熱可塑性樹脂であるスチレン系ブロック共重合体と、種々の添加剤を含むホットメルト組成物が電子制御ユニットのシール材に用いられる旨が開示されている。
【0005】
特許文献1のホットメルト組成物は、スチレン系ブロック共重合体と、特殊なフェニル化合物を有し、高温下に長期間曝されても劣化することなく、離形性に優れる旨が記載されている([請求項1][0001])。特許文献2には、高分子量スチレンブロックコポリマー、ポリフェニレン化合物、酸化防止剤等を有するホットメルト組成物は、加熱下で長期間使用されても離形性に優れる旨の開示がある([請求項1][0001])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-285612号公報
【文献】特開2004-189844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年では、シール材には、離形性及び密着性の双方が高いレベルで優れることが要求されている。しかしながら、特許文献1および2のホットメルト組成物は、離形性が未だ不十分であり、さらなる改善が求められていた。また、特許文献1または2のホットメルト組成物は、酸化防止剤や、種々の化合物を多量に含んでいるため、高温条件下に長期間曝されると、成分の一部が揮発することがあり、衛生上好ましくない。また、ECUの基板に特許文献1または2のホットメルト組成物を塗布すると、基板からタレが生じるおそれがあるという問題があった。
【0008】
従って、ECUとの密着性と離形性の両方に優れ、高温でも変形し難く、揮発し難くて人体に悪影響がなく、かつ、塗布作業が容易なホットメルト組成物の開発が望まれている。特に近年では、ECUの長期間の使用を考慮し、ホットメルト組成物にも、長期間使用しても密着性(接着強度)の経時的な上昇が小さく、ECUからの離形が容易であることが強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性ブロック共重合体に加え、特定のオイル及び特定のワックスを配合すると、成分の揮発がなくて衛生上好ましく、基材への密着性に優れ、基材から離形可能であり、かつ形態維持性に優れるホットメルト組成物を得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明および本発明の好ましい態様は下記のとおりである。
【0011】
1.(A)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体、
(B)炭化水素系液状軟化剤、ならびに
(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で変性されたワックスを含み、
(B)炭化水素系液状軟化剤が、(B1)アニリン点が135℃以上の炭化水素系オイルを含む、ホットメルト組成物。
【0012】
2.(A)熱可塑性ブロック共重合体が水素添加型ブロック共重合体である、上記1に記載のホットメルト組成物。
【0013】
3.(A)、(B)および(C)の総重量100重量部に対し、(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で変性されたワックスの含有量が0.1~10重量部である、上記1または2に記載のホットメルト組成物。
【0014】
4.(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で変性されたワックスは、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸で変性されたポリプロピレンワックスを含む、上記1~3のいずれかに記載のホットメルト組成物。
【0015】
5.さらに、(D1)軟化点が120℃以上の粘着付与樹脂を含む、上記1~4のいずれかに記載のホットメルト組成物。
【0016】
6.(A)熱可塑性ブロック共重合体が、(A1)スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)を含む、上記1~5のいずれかに記載のホットメルト組成物。
【0017】
7.(A)熱可塑性ブロック共重合体が、(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)を含む、上記1~6のいずれかに記載のホットメルト組成物。
【0018】
8.(A)、(B)および(C)の総重量100重量部に対し、
(A1)スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)の含有量が5~15重量部であり、
(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)の含有量が1~5重量部である、上記7に記載のホットメルト組成物。
【0019】
9.上記1~8のいずれかに記載のホットメルト組成物でシールされた電子制御ユニット。
【0020】
10.上記9に記載の電子制御ユニットを有する車輌。
【発明の効果】
【0021】
本発明のホットメルト組成物は、高温での変形が発生し難くて形態維持性が高く、基材への接着に優れ、これを用いたECU等から離形できてECU等の解体が可能である。さらには、本発明のホットメルト組成物は、揮発し難く、塗布作業のタレも生じ難いので、作業者が取扱い易い。
【0022】
本明細書において「形態維持性」とは、高温下でのホットメルト組成物の変形のしにくさと定義する。すなわち、高温での変形が少ないホットメルト組成物ほど、形態維持性に優れ、タレが生じ難い。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一態様は、(A)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体、(B)炭化水素系液状軟化剤、ならびに(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で変性されたワックスを含むホットメルト組成物に関する。本発明のホットメルト組成物の一態様において、(B)炭化水素系液状軟化剤は、(B1)アニリン点が135℃以上の炭化水素系オイルを含む。以下、各成分について説明する。
【0024】
<(A)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体(成分(A))>
(A)ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物との共重合体である熱可塑性ブロック共重合体(単に「(A)熱可塑性ブロック共重合体」または「成分(A)」とも記載する)とは、ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物とがブロック共重合した共重合体(その共重合体に基づく共重合体を含む)である。
【0025】
「(A)熱可塑性ブロック共重合体」は、ビニル系芳香族炭化水素ブロックと共役ジエン化合物ブロックとを有するブロック共重合体(未水素添加型ブロック共重合体)であっても、そのブロック共重合体が水素添加された水素添加型ブロック共重合体であってもよいが、ホットメルト組成物の離形性及び密着性のバランスを考慮すると、水素添加型ブロック共重合体を含んでいるのが好ましい。また、(A)熱可塑性ブロック共重合体は、一種を単独で含んでも2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0026】
ここで、「ビニル系芳香族炭化水素」とは、ビニル基を有する芳香族炭化水素化合物を意味し、具体的には、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、及びビニルアントラセン等を例示できる。特にスチレンが好ましい。これらのビニル系芳香族炭化水素は、単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
「共役ジエン化合物」とは、少なくとも一対の共役二重結合を有するジオレフィン化合物を意味する。「共役ジエン化合物」として、具体的には、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(又はイソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンを例示することができる。1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエンが特に好ましい。これらの共役ジエン化合物は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0028】
「未水素添加型ブロック共重合体」として、具体的には、共役ジエン化合物に基づくブロックが水素添加されていないものが挙げられる。また、「水素添加型ブロック共重合体」としては、具体的には、共役ジエン化合物に基づくブロックの全部または一部が水素添加されたブロック共重合体が挙げられる。
【0029】
「水素添加型ブロック共重合体」の水素添加された割合を、「水素添加率」で示すことができる。「水素添加型ブロック共重合体」の「水素添加率」とは、共役ジエン化合物に基づくブロックに含まれる全脂肪族二重結合を基準とし、その中で、水素添加されて飽和炭化水素結合に転換された二重結合の割合をいう。この「水素添加率」は、赤外分光光度計及び核磁器共鳴装置等によって測定することができる。例えば、本発明に用いることができる、スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)の水素添加率は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、100%であってもよい。
【0030】
(A)熱可塑性ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、50000~500000であることが好ましく、150000~400000であることがより好ましい。(A)熱可塑性ブロック共重合体の重量平均分子量が上記範囲内にあることにより、形態維持性、剪断接着力、および離形性に優れたホットメルト組成物を得ることができる。なお、本明細書において、重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用して、標準物質としての単分散分子量のポリスチレンを使用した検量線を用いて分子量を換算して求められる。
【0031】
(A)熱可塑性ブロック共重合体はスチレンブロックを有するのが好ましく、スチレン含有率は、特に限定されないが、好ましくは5~50重量%であり、より好ましくは10~40重量%である。スチレン含有率とは、(A)熱可塑性ブロック共重合体に含まれるスチレンブロックの割合のことをいう。(A)熱可塑性ブロック共重合体のスチレン含有率が上記範囲内にあることにより、ホットメルト組成物が耐熱性に優れたものになる。
【0032】
本発明のホットメルト組成物において、(A)熱可塑性ブロック共重合体は、水素添加型ブロック共重合体である「(A1)スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)」(成分(A1)とも記載する)を含むのが好ましい。(A1)スチレン-エチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)は、スチレン-ブタジエン-イソプレン-スチレンで形成されるブロック共重合体の水素添加物である。
【0033】
(A1)SEEPSは、プロセスオイル等の液状軟化剤で膨潤され、ホットメルト組成物にゴム弾性の性質を付与し、高い耐熱性、密着性、およびシール剤としての強度を発現させることができる。ホットメルト組成物の塗布時、加温によって、SEEPSは熱可塑性樹脂としての流動性を発現する。SEEPSの市販品として、クラレ社製のセプトン4033、セプトン4044、セプトン4055、セプトン4077、セプトン4099が挙げられる。
【0034】
本発明の一態様において、ホットメルト組成物は、(A)熱可塑性ブロック共重合体として、「(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)」(成分(A2)とも記載する)を含むのが好ましく、(A1)SEEPSに加えて(A2)SEPを含むのがより好ましい。
【0035】
(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)は、スチレン-イソプレンで形成されるブロック共重合体の水素添加物である。SEPは、A-B型水添ブロック共重合体であるので、スチレンブロックが片末端にのみ存在し、共役ジエン化合物がもう一方の末端部に存在する。共役ジエン化合物が末端部に存在することで、パラフィン系プロセスオイル等との相溶性が向上し、ホットメルト組成物にタックを持たせることができる。
【0036】
(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)は、芳香族ビニル化合物であるスチレンブロックがPC(ポリカーボネート)等と密着することができ、共役ジエン化合物のブロック部であるエチレン/プロピレンブロックがPP(ポリプロピレン)等と密着することができる。よって、(A2)SEPは、極性の異なる2つのプラスチック被着体の密着力の安定化に特に寄与することができる。SEPの市販品としては、クレイトン社製のKRATON G1701、G1702HU、クラレ社製のセプトン1001、セプトン1020等が挙げられる。
【0037】
本発明において、(A)熱可塑性ブロック共重合体は、本発明に悪影響を与えない範囲で、(A3)その他のブロック共重合体を含んでもよい。(A3)その他のブロック共重合体としては、(A1)SEEPSおよび(A2)SEP以外の、水素添加型ブロック共重合体ならびに未水素添加型ブロック共重合体が挙げられる。熱可塑性ブロック共重合体の水素添加物としては、例えば、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体が水素添加されたスチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(「SEPS」ともいう)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体が水素添加されたスチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体(「SEBS」ともいう)が挙げられる。未水素添加型ブロック共重合体としては、例えばスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(「SIS」ともいう)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(「SBS」ともいう)を例示できる。
【0038】
本発明のホットメルト組成物において、成分(A)、成分(B)および成分(C)の総重量100重量部に対する成分(A)の含有量は、好ましくは5重量部以上、より好ましくは6重量部以上であり、上限は、好ましくは25重量部以下、より好ましくは20重量部以下、さらに好ましくは15重量部以下である。
【0039】
ホットメルト組成物の総量100重量%に対する成分(A)の含有量は、好ましくは5重量%以上、より好ましくは6重量%以上であり、上限は、好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下である。(A)熱可塑性ブロック共重合体の含有量が5重量%以上であることにより、ホットメルト組成物が、耐熱性、密着性および強度に優れたものになる。また、20重量%以下であることにより、ホットメルト組成物の剪断接着力が高くなり過ぎず、解体しやすくなる。
【0040】
本発明のホットメルト組成物が(A1)SEEPSを含む場合、成分(A)、成分(B)および成分(C)の総重量100重量部に対する成分(A1)の含有量は、5~15重量部が好ましく、5~10重量部がより好ましく、6~10重量部がさらに好ましい。成分(A1)の含有量が上記範囲内であると、ホットメルト組成物の離形性及び密着性のバランスがより高いレベルで向上する。
【0041】
また、本発明のホットメルト組成物の総量に対する成分(A1)の含有量は、好ましくは1~14重量%、より好ましくは2~10重量%、さらに好ましくは3~8重量%である。
【0042】
(A)熱可塑性ブロック共重合体が、(A2)スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)を含む場合、成分(A)、成分(B)および成分(C)の総重量100重量部に対し、(A2)SEPの含有量は、1~5重量部が好ましく、1~3重量部がより好ましい。成分(A2)の含有量が該範囲内にあると、ホットメルト組成物は、高温で変形し難く、ECUに対して接着に優れ、かつ、離形が容易になる。
【0043】
本発明の一態様として、ホットメルト組成物が、成分(A)として、成分(A1)および成分(A2)の両方を含み、成分(A)、成分(B)および成分(C)の総重量100重量部に対し、成分(A1)の含有量が5~15重量部であり、かつ成分(A2)の含有量が1~5重量部であるのが好ましい。
【0044】
<(B)炭化水素系液状軟化剤>
(B)炭化水素系液状軟化剤(単に「成分(B)」とも記載する)は、ホットメルト組成物の溶融粘度調整、柔軟性の付与、被着体への濡れ向上を目的として配合される。炭化水素系液状軟化剤は、炭素と水素を主体とし、室温(約23℃)で液状である。ここで、「室温で液状」とは、約23℃、1気圧下で、流動性を有することをいい、好ましくは、23℃におけるE型粘度計(コーン角3°、回転数100回/分)で測定される粘度が1000Pa・s以下である状態を意味する。また、「軟化剤」とは、組成物の硬度を下げ、粘度を低下させる働きを有するもののことをいう。炭化水素系液状軟化剤は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子のようなヘテロ原子を有してもよい。炭化水素系液状軟化剤としては、例えば、パラフィン系、ナフテン系または芳香族系のプロセスオイル、流動パラフィン、オレフィンプロセスオイル等の炭化水素系オイル;ならびに液状ポリブテン、液状ポリブタジエン及び液状ポリイソプレン等の液状ゴム等の液状樹脂が挙げられる。これらのうち、炭化水素系オイルが好ましく、プロセスオイルがより好ましい。市販品のプロセスオイルとして、例えば、出光興産社製のダイアナプロセスオイルが挙げられる。
【0045】
本発明において、(B)炭化水素系液状軟化剤は、「(B1)アニリン点が135℃以上の炭化水素系オイル」(単に「成分(B1)」とも記載する)を含む。成分(B1)は、通常のホットメルト組成物に汎用されているオイルに比べてアニリン点が高いため、ホットメルト組成物の溶融粘度を高くする。これにより、本発明のホットメルト組成物は、高温での形態維持が可能となり、変形が抑制され、優れた形態維持性を実現できる。成分(B1)の炭化水素系オイルのアニリン点の上限は、特に限定されないが、170℃以下が好ましい。
【0046】
本明細書において、アニリン点とは、JIS2256、K2520に記されるように、試験管法、U字管法、薄膜法といった試験方法により、等容量のアニリンと試料とが均一な溶液として存在する最低温度である。アニリンと試料の混合物を攪拌しつつ温度を上げ、完全に溶け合って透明になっている状態から温度を下げて濁りはじめた温度を測定する。アニリン点は潤滑油、プロセスオイルのゴム膨潤性に関係しており、アニリン点が低い程、溶解性が高いオイルであるといえる。
【0047】
本発明の成分(B1)の炭化水素系オイルは、アニリン点が135℃以上と高く、分子量が高いため、揮発性が小さく、また(A)熱可塑性ブロック共重合体の共役ジエン化合物に基づくブロック部分とも親和性が高い。成分(B1)として、アニリン点が135℃以上のプロセスオイルが好ましく、アニリン点が135℃以上のパラフィン系プロセスオイルがより好ましい。
【0048】
従来のホットメルト組成物でシールされたECUを長期間使用すると、組成物中のオイルの揮発等によって、ホットメルト組成物は接着強度が高くなり、解体性が悪化するという問題があった。一方、本発明のホットメルト組成物は、成分(B1)が(A)熱可塑性ブロック共重合体の共役ジエン化合物に基づくブロック部分に浸透し続けるため、ホットメルト組成物の接着強度が経時的に増加し続けることがなく、長期間の使用においても安定した解体性を保つことができる。
【0049】
また、本発明のホットメルト組成物は、(A)熱可塑性ブロック共重合体と、(B1)アニリン点が135℃以上のオイルとを含み、成分(B1)が高分子量であるためホットメルト組成物の粘度を高めることができ、形態維持性および耐熱性を高めることができる。
【0050】
このように、本発明のホットメルト組成物は、(B1)アニリン点が135℃以上の炭化水素系オイルを含むことにより、特に自動車等の電子制御ユニット(ECU)のシール材に適しており、ECUの修理時の解体性に優れ、かつ、耐熱性にも優れているので、長期での安定した物性(密着性、離形性)に優れる。さらに、本発明のホットメルト組成物は、良好な塗布性および高い形態維持性を両立させることができる。高い耐熱性と形態維持性が得られることにより、揮発性の高い酸化防止剤等の添加剤の配合を低くすることができるため、本発明のホットメルト組成物を生成する際に各成分を高温で長時間加熱して溶融させても、添加剤成分の揮発が殆ど発生せず、衛生的に好ましい。
【0051】
(B1)アニリン点が135℃以上の炭化水素系オイルとしては、パラフィン系原油由来のパラフィン系オイル、アロマ系オイル、ナフテン系原油由来の、ナフテン系オイル、アロマ系オイルなどのプロセスオイルであって、アニリン点が135℃以上のものを用いることができる。市販品としては、例えば、ダイアナプロセスオイルPW-380、ダイアナプロセスオイルPS-430が挙げられる。成分(B1)として、一種を単独で含んでも二種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0052】
(B)炭化水素系液状軟化剤は、(B1)アニリン点が135℃以上の炭化水素系オイルに加えて、(B2)その他の炭化水素系液状軟化剤(「成分(B2)」とも記載する)を含んでもよい。
【0053】
(B2)その他の炭化水素系液状軟化剤のアニリン点は、135℃未満であるのが好ましく、130℃以下であるのがより好ましく、下限は、特に限定されないが100℃以上であるのが好ましい。成分(B2)は、アニリン点が135℃未満の炭化水素系オイルであるのが好ましい。
【0054】
本発明のホットメルト組成物において、成分(B)100重量部に対する成分(B1)の含有量は30重量部以上が好ましく、50重量部以上がより好ましく、60重量部以上がさらに好ましく、100重量部であってもよい。また、ホットメルト組成物の総量中の成分(B1)の含有量は10重量%~70重量%程度が好ましい。
【0055】
本発明の一態様において、ホットメルト組成物は、成分(B1)と成分(B2)の両方を含むと、比較的低粘度な組成物が得られ、より高い塗布性が得られるので好ましい場合がある。
【0056】
成分(A)、成分(B)および成分(C)の総量100重量部に対し、(B)炭化水素系液状軟化剤の含有量は、好ましくは40重量部以上、より好ましくは50重量部以上、さらに好ましくは60重量部以上であり、上限は、好ましくは95重量部以下、より好ましくは92重量部以下である。また、成分(A)、成分(B)および成分(C)の総量100重量部に対し、(B1)アニリン点が135℃以上の炭化水素系オイルの含有量は、好ましくは35重量部以上、より好ましくは40重量部以上であり、上限は、好ましくは95重量部以下、より好ましくは92重量部以下である。
【0057】
ホットメルト組成物の総量に対する成分(B)の含有量は、30重量%以上が好ましく、40~80重量%がより好ましく、40~70重量%であることがさらに好ましい。成分(B)の含有量が30重量%以上であることにより、ホットメルト組成物が、高温での形態維持性に優れ、かつ長時間の使用後でも解体性に優れたものになる。また、80重量%以下であることによって、ホットメルト組成物の適切な形態維持性を得ることが出来る。
【0058】
<(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で変性されたワックス(成分(C))>
本明細書において「ワックス」とは室温(約23℃)で固体であり、加熱すると液体となる重量平均分子量が10000未満の有機物であり、一般的に「ワックス」とされているものをいい、ワックス状の性質を有するものであれば、本発明に係るホットメルト組成物を得ることができる限り、特に制限されるものではない。なお、本発明において「室温で固体である」とは、約23℃、1気圧下で、流動性を全く有しない状態を意味する。
【0059】
本発明において、「(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で変性されたワックス」とは、カルボン酸及びカルボン酸無水物からなる群から選ばれた少なくとも1種によって、化学的又は物理的に加工されたワックスをいい、本発明が目的とするホットメルト組成物を得ることができる限り、特に限定されるものではない。化学的、物理的加工として、例えば、酸化、重合、配合、合成等を例示できる。
【0060】
成分(C)は、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で変性されたポリオレフィンワックスを含むのが好ましい。「ポリオレフィンワックス」は、一種類のオレフィンが重合したオレフィン単独重合体ワックスであってもよいし、二種以上のオレフィンが共重合したオレフィン共重合体ワックスであってもよい。オレフィン単独重合体ワックスとしては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスを例示することができ、特にポリプロピレンワックスが好ましい。オレフィン共重合体ワックスとして、例えば、ポリエチレン/ポリプロピレンワックス、ポリエチレン/ポリブチレンワックス、ポリエチレン/ポリブテンワックス等を例示することができ、ポリエチレン/ポリプロピレンワックスが好ましい。
【0061】
成分(C)として、例えば、カルボン酸および/またはカルボン酸無水物がポリオレフィンワックスにグラフト重合することで得られるワックス;ならびにポリオレフィンワックスを重合により合成する際に、カルボン酸および/またはカルボン酸無水物を重合することで得られるワックスを例示することができる。従って、成分(C)は、カルボン酸および/またはカルボン酸無水物が種々の反応によって「ポリオレフィンワックス」に導入されて、結果的に変性されたオレフィン重合体ワックスであればよい。カルボン酸および/またはカルボン酸無水物が導入される位置は特に限定されない。
【0062】
ポリオレフィンワックスを変性するための「カルボン酸」および「カルボン酸無水物」は、本発明のホットメルト組成物を得ることができるものであれば、特に限定されるものではない。カルボン酸およびカルボン酸無水物として、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、無水フマル酸、イタコン酸、アクリル酸及びメタクリル酸等が挙げられる。これらのカルボン酸及びカルボン酸無水物は、単独で又は組み合わせて使用してよい。これらのうち、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0063】
成分(C)の酸価は、特に限定されないが、5~200mgKOH/gであることが好ましく、20~160mgKOH/gであることがより好ましい。酸価は、ASTM D1386に準拠する方法で測定することができる。
【0064】
成分(C)の滴点は、特に限定されないが、100~180℃が好ましい。滴点はASTM D3954に基づいて測定することができる。
【0065】
本発明において、成分(C)としては、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸で変性されたポリオレフィンワックスが好ましく、特に、マレイン酸及び/又は無水マレイン酸で変性されたポリプロピレンワックスが好ましい。
【0066】
本発明のホットメルト組成物は、成分(C)を含むことにより、離形性と密着性のバランスを高いレベルで良好に維持することを可能にする。特に、密着性の経時的な上昇が少なく、揮発分も少ない安定した組成物を得ることができる。よって、本発明のホットメルト組成物は、ECUのシールに用いた場合、ECU基板から剥がれ易くなり、ECUの解体が容易であり、かつ衛生上も好ましい。
【0067】
(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で変性されたワックスとして、市販品を用いることができる。市販品として、例えば、クラリアント社製のLicosene PP MA6252(商品名)、三井化学社製のハイワックス2203A、東洋ペトロライト社製のセラマー1608(商品名)、ハネウェル社製のAC-596A、AC-596P(商品名)を例示することができる。
【0068】
「(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で変性されたワックス」の含有量は、成分(A)、成分(B)および成分(C)の総重量100重量部に対し、好ましくは0.1重量部~10重量部であり、より好ましくは0.2重量部~8.0重量部である。
【0069】
ホットメルト組成物の総重量に対し、成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計含有量は、60重量%以上が好ましく、70重量%以上が好ましい。上限は100重量%であってもよいが、90重量%以下が好ましく、85重量%以下がより好ましい。
【0070】
<(D)粘着付与樹脂(成分(D))>
本発明のホットメルト組成物の一態様は、さらに(D)粘着付与樹脂(「成分(D)」とも記載する)を含むのが好ましい。成分(D)は、「(D1)軟化点が120℃以上の粘着付与樹脂」を含むのが好ましい。ここで、本明細書において、軟化点は、JIS K 2207に基づき、石油アスファルト試験に準拠した自動軟化点装置(環球式)で測定された値とする。粘着付与樹脂の軟化点が上記範囲にあることによって、本発明のポリマー組成物の流動性が安定化する。
【0071】
成分(D)100重量部に対する(D1)軟化点が120℃以上の粘着付与樹脂の含有量は、好ましくは30重量部以上であり、より好ましくは50重量部以上であり、100重量部であってもよい。本発明のホットメルト組成物は、(D1)軟化点が120℃以上の粘着付与樹脂を含むと、より高い形態維持性を保つことができる。
【0072】
粘着付与樹脂としては、特に限定されないが、ロジン系樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族炭化水素変性テルペン樹脂、石油樹脂、フェノール系樹脂、アクリル樹脂、スチレン系樹脂(スチレンまたはα―メチルスチレンを構成単位として含む単独重合体または共重合体。市販品として、例えばイーストマンケミカル社製のクリスタレックス、Plastrin等が挙げられる)、スチレン-アクリル共重合体樹脂等が挙げられる。具体的には、例えば、天然ロジン、変性ロジン、天然ロジンのグリセロールエステル、変性ロジンのグリセロールエステル、天然ロジンのペンタエリスリトールエステル、変性ロジンのペンタエリスリトールエステル、水素添加ロジン、水素添加ロジンのペンタエリスリトールエステルなどのロジン系化合物;天然テルペンのコポリマー、天然テルペンの3次元ポリマー、芳香族変性テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂の水素添加誘導体、テルペンフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂の水素添加誘導体、テルペン樹脂(モノテルペン、ジテルペン、トリテルペン、ポリペルテン等)、水素添加テルペン樹脂、などのテルペン系化合物;脂肪族石油炭化水素樹脂(C5系樹脂)、脂肪族石油炭化水素樹脂の水素添加誘導体、芳香族石油炭化水素樹脂(C9系樹脂)、芳香族石油炭化水素樹脂の水素添加誘導体、ジシクロペンタジエン系樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂の水素添加誘導体、C5/C9共重合系樹脂、C5/C9共重合系樹脂の水素添加誘導体、環状脂肪族石油炭化水素樹脂、環状脂肪族石油炭化水素樹脂の水素添加誘導体などの石油炭化水素系化合物を例示することができる。これらの粘着付与樹脂は、単独で、又は組み合わせて使用することができる。粘着付与樹脂は、色調が無色~淡黄色であって、臭気が実質的に無く熱安定性が良好なものであれば、液状タイプの粘着付与樹脂も使用できる。これらの特性を総合的に考慮すると、粘着付与樹脂として、樹脂等の水素化誘導体が好ましい。本発明の一態様として、密着性の観点から、スチレン系の粘着付与樹脂を用いるのが好ましい。
【0073】
粘着付与樹脂として市販品を用いてもよく、例えば、イーストマン社製のイーストタックシリーズ、エンデックスシリーズが挙げられる。
【0074】
(D)粘着付与樹脂は、一種を単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0075】
ホットメルト組成物の総量に対する(D)粘着付与樹脂の含有量は、0重量%であってもよいが、15重量%以上が好ましく、20~50重量%がより好ましく、20~40重量%であることがさらに好ましい。(D)粘着付与樹脂の含有量が15重量%以上であることにより、ホットメルト組成物の接着力が高くなる。また、50重量%以下であることにより、ホットメルト組成物の離形性が向上する。
【0076】
本発明のホットメルト組成物は、ホットメルト組成物に通常使用される添加剤を含んでもよい。添加剤は、本発明が目的とするホットメルト組成物を得ることができる限り、特に制限されることはない。そのような添加剤として、例えば、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料、およびレオロジー調整剤、上記成分(C)以外のその他のワックス等を添加することができる。
【0077】
「酸化防止剤」として、例えば、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤を例示できる。
【0078】
「可塑剤」として、例えば、フタル酸エステル系可塑剤、アルキルスルフォン酸系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、アセテート系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤等を例示できる。
【0079】
「紫外線吸収剤」として、例えば、ベンゾトリアゾール、ヒンダートアミン、ベンゾエート、ベンゾトリアゾール等を例示できる。
【0080】
「顔料」として、カーボンブラック、酸化チタン等を例示できる。
【0081】
「レオロジー調整剤」として、脂肪酸アミド、ヒュームドシリカ等を例示できる。脂肪酸アミドの市販品としては伊藤製油社製のA-S-A T-1700,A-S-A T-1800等が挙げられる。
【0082】
本発明のホットメルト組成物は、上述の(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で変性されたワックス以外の「その他のワックス」を含んでもよい。
【0083】
「その他のワックス」として、具体的には、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリオレフィンワックス(例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリエチレン/ポリプロピレンワックス)等の合成ワックス;
パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックス;
カスターワックスなどの天然ワックス
等を例示することができる。
【0084】
上述の「その他のワックス」は、変性されていてもよい。変性する物質として、極性基を導入してもよく、各種カルボン酸誘導体であっても差し支えない。そのような「カルボン酸誘導体」として、下記のものを例示することができる:
酢酸エチル、酢酸ビニル等のカルボン酸エステル;
臭化ベンゾイル等の酸ハロゲン化物;
ベンズアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド;
スクシンイミド等のイミド;
アジ化アセチル等のアジ化アシル;
プロパノイルヒドラジド等のヒドラジド;
クロロアセチルヒドロキサム酸等のヒドロキサム酸;
γ-ブチロラクトン等のラクトン;
δ-カプロラクタム等のラクタム。
尚、「その他のワックス」は、(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で変性されたワックスを含まないものとする。
【0085】
本発明のホットメルト組成物は、金属、ガラス等の被着体への密着性を高めるため、シランカップリング剤、エポキシ樹脂、ガラスバルーン等を含んでもよい。
【0086】
本発明のホットメルト組成物は、上述の成分を所定の割合で配合し、必要に応じて更に種々の添加剤を配合し、加熱して溶融し混合することで製造される。具体的には、上記成分を撹拌機付きの溶融混合釜に投入し、加熱混合することによって製造される。
【0087】
本発明のホットメルト組成物の使用方法は、特に限定されることはない。例えば、本発明のホットメルト組成物を、好ましくは180~225℃、より好ましくは180~215℃に加熱して溶融させ被着体(例えば第1の部材および/または第2の部材)に塗布する。第2の部材の材質は第1の部材と同じでも異なってもよい。ホットメルト組成物が溶融状態の時に第1の部材と第2の部材とを接合させ接合体とし、室温(約23℃)の条件下において固化させる方法が挙げられる。本発明のホットメルト組成物を被着体に塗布する際は、種々のアプリケーターを用いることができる。
【0088】
本発明の組成物を適用することができる被着体としては、例えば、プラスチック(例えば、ポリプロピレンのようなポリオレフィン;ポリカーボネート;ポリブチレンテレフタレート樹脂;アクリル樹脂;PET樹脂)、木材、ゴム、ガラス、金属が挙げられる。ポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂の接着;ポリカーボネート樹脂又はアクリル樹脂とポリプロピレンとの接着に使用することが好ましい形態として挙げられる。
【0089】
本発明のホットメルト組成物は、上記に挙げた被着体同士、異なる材質の接合にも好適である。
【0090】
本発明に係るホットメルト組成物は、工業用シール剤、例えば、電子電気部品、自動車部品、車輌部品等のシールに利用でき、電子制御ユニットの接合に用いるのが好ましい。
【0091】
本発明のホットメルト組成物は、自動車部品の電子制御ユニットに用いられる場合、カバーと本体とのシールに使用される。カバーと本体の材質については、特に制限されない。カバーの材料としては、例えば、ガラス、ポリカーボネート、アクリル樹脂、PET等の透明な樹脂が挙げられる。本体の材料としては、例えば、金属、ポリプロピレン等のポリオレフィンが挙げられる。本発明の電子制御ユニットは、上記ホットメルト組成物との密着性が高く、かつ、修理等の解体時には、容易にホットメルト接着剤と離形可能である。
【0092】
また、本発明のホットメルト組成物は、洗濯機、乾燥機及び冷蔵庫等の家電の防水パッキン部の接合等にも用いることが可能である。
【0093】
本発明の車両は、上記ホットメルト組成物を用いて製造された電子制御ユニットを有する。電子制御ユニットのカバーが熱や衝撃で剥がれたりすることがなく、電子制御ユニットを良い状態で保護できるため、車輌の走行がより安全なものとなる。
【0094】
本発明に係る車輌は、上記電子制御ユニットを有するものであれば特に限定されることはない。具体的には、電車、汽車、列車等の鉄道車輌、戦車、装甲車等の軍用車輌、自動車、原動機付自転車(オートバイ)、バス、路面電車等に道路交通法上の車が車輌として挙げられる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて説明するが、これらの例は、本発明を説明するためものであり、何ら本発明を制限するものではない。
【0096】
実施例および比較例のホットメルト組成物に用いた各成分を以下に示す。
【0097】
(A)熱可塑性ブロック共重合体
(A1-1)SEEPS(クラレ製 商品名:セプトン4055,スチレン含有量30重量%)
(A1-2)SEEPS(クラレ製 商品名:セプトン4077,スチレン含有量30重量%)
(A1-3)SEEPS(クラレ製 商品名:セプトン4099,スチレン含有量30重量%)
(A2)SEP(クレイトンポリマー製 商品名 KRATON G1702HU スチレン含有量28重量%、ジブロック含有量100重量%)
【0098】
(B)炭化水素系液状軟化剤
(B1-1)パラフィン系プロセスオイル(出光興産製 商品名 ダイアナプロセスオイルPW380,アニリン点142.7℃)
(B1-2)パラフィン系プロセスオイル(出光興産製 商品名 ダイアナプロセスオイルPS430,アニリン点138℃)
(B2)パラフィン系プロセスオイル(出光興産製 商品名 ダイアナプロセスオイルPW90,アニリン点124.8℃)
【0099】
(C)カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物で変性されたワックス
(C1)マレイン酸変性ポリプロピレンワックス(ハネウェル社製 商品名 AC-596P、滴点147℃、酸価43)
(C2)無水マレイン酸変性ポリプロピレンワックス(クラリアントジャパン社製 商品名 Ricosen PP MA6252、滴点140℃、酸価42)
【0100】
(D)粘着付与樹脂
(D1)水添C5系樹脂(イーストマンケミカル製 商品名 イーストタックレジンH142R、重量平均分子量1030、軟化点142℃)
(D2)水添DCPD系樹脂(エクソンモービル製 商品名 エスコレッツ5320、軟化点125℃)
(D3)純C9モノマー樹脂(イーストマンケミカル製 商品名 エンデックス155、軟化点152℃)
【0101】
(E)酸化防止剤
(E1)ヒンダードフェノール酸化防止剤(BASF製 商品名 イルガノックス1010)
(E2)リン系酸化防止剤(チバガイギー製 商品名 イルガフォス168)
(E3)ヒンダードアミン系酸化防止剤(BASF製 商品名 チヌビン765)
【0102】
(F)その他のワックス
(F1)低分子量ポリオレフィンワックス(三井化学社製 商品名 HiWAX2203、融点100℃)
(F2)フィッシャー・トロプシュワックス(サゾールワックス社製 サゾールワックス C80、凝固点80℃、融点88℃以上)
【0103】
(G)その他の添加剤
(G1)シランカップリング剤(信越シリコーン社製 商品名 KBM-403、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
(G2)ビスA型エポキシ樹脂(DIC社製 商品名 Epicron860、エポキシ等量245)
(G3)ガラスバルーン(3M社製 商品名 グラスバブルズ VS5500)
【0104】
(H)その他の樹脂
(H1)変性ポリフェニレンエーテル(旭化成工業製 商品名 ザイロン500H、軟化点120℃)
(H2)ポリフェニレンエーテル(SABIC社製 商品名 Noryl Resin SA-120、Tg 165℃,軟化点 210℃、分子量2400)
【0105】
これらの成分を表1に示す配合割合にて配合し、200℃設定のトーシン製加温ニーダー(TKV0.5-1型)により減圧下で4時間溶融混練し、実施例1~9、比較例1~7のホットメルト組成物を得た。なお、表1のホットメルト組成物の組成(配合)に関する数値の単位は、すべて重量部である。
【0106】
【0107】
各ホットメルト組成物について、粘度、形態維持性(タレ難さ)、剪断試験(密着性及び解体性の指標)、および蒸発残分(揮発性)を評価した。各評価方法について以下記載する。各ホットメルト組成物の評価結果は表4および表5に示す。
【0108】
<粘度測定>
ブルックフィールド社製の回転粘度計を用いて測定を実施した。実施例および比較例の各接着剤を所定温度(220℃、215℃、210℃、205℃)にてそれぞれ30分間事前溶融し、溶融したホットメルト接着剤を規定量(11g以上)粘度管に流し入れ、スピンドルを粘度計に取付け、15分溶融後、スピンドルを1分間回転させて得られた値を初期値とした。粘度測定には28番ローターを使用した。初期値として得られた結果を粘度として表4に示す。
【0109】
<形態維持性(タレ難さ)>
各ホットメルト組成物の形態維持性を評価するために、深さ12mm、幅7mm、長さ14mmのポリプロピレン製の溝にホットメルト組成物を流し込み、角度70°で、所定温度(140℃または150℃)の乾燥機に24時間静置して、ホットメルト組成物の下部先端の移動距離(塗布直後の状態から流れ出た距離)を測定した。該移動距離に基づく評価基準を表2に示す。
【0110】
【0111】
表4に結果を示す。表4中、「直後形態維持性」は、各ホットメルト組成物を上記ポリプロピレン製の溝に流し込み、角度70°に溝を傾斜させた直後のホットメルト組成物の下部先端の移動距離を表す。
【0112】
<蒸発残分測定(揮発性)>
作業時の健康被害や、揮発分の悪影響による内部部品の性能低下への指標として蒸発残分を測定した。各ホットメルト組成物を約1.0gアルミ皿に計り取り、乾燥する前と、150℃で24時間乾燥した後の重量測定をそれぞれ行い、以下の式により、蒸発残分を算出した。
【0113】
【0114】
蒸発残分測定の判定基準を以下に示す。
【0115】
【0116】
<剪断試験(密着性および解体性の指標)>
(初期の剪断試験)
各ホットメルト組成物の各種基材への密着性と解体性を評価するために、幅25mm、長さ100mm、厚さ3mmの基材2枚を用い、200℃に溶融したホットメルト組成物を塗布し、接着剤層の幅25mm、長さ25mmの剪断試験片を作成した。2枚の試験片のギャップは2mm程度とした。
【0117】
剪断試験の基材としては、それぞれ、PBT(ポリブチレンテレフタレート樹脂)、PC(ポリカーボネート)、SPC(冷却圧延鋼板/SPCC-SD)、PP(ポリプロピレン)を用いた。各剪断試験に用いる基材は、2枚とも同じ材料のものを用いた。
【0118】
剪断試験片を引張試験機(テンシロンRTM250型)にセットし、温度23℃(室温)下で50mm/分の引張速度で引張試験を実施し最大荷重を測定した。この最大荷重(N)と接着面積(mm2)より剪断接着力(剪断強度)を算出した。
【0119】
剪断試験において、基材への密着性の必要値を50kPaとし、また接着剤の凝集破壊が起こらずに解体性が得られる最大値を200kPaとした。すなわち、剪断強度が50~200kPa(破壊モードは界面剥離AF(adhesion failure))のホットメルト接着剤を合格(○)とし、上記範囲から外れるホットメルト接着剤を不合格(×)とした。表5中、「CF」は、破壊モードが、凝集破壊(cohesive failure)であり、剪断試験において基材上に組成物が残ったことを示す。「AF/CF」は、破壊モードが、凝集破壊の部分と凝集破壊のない部分とが混在していたことを示す。
【0120】
(125℃、1000時間後の剪断試験)
初期の剪断試験と同様の剪断試験片を作成し、室温冷却後、125℃1000時間の加熱を循環乾燥式オーブンにて行った。加熱実施後、室温まで冷却し24時間室温下で保管後、剪断試験片を引張試験機(テンシロンRTM250型)にセットし、温度23℃(室温)下で50mm/分の引張速度で引張試験を実施し最大荷重を測定した。この最大荷重(N)と接着面積(mm2)より剪断接着力(剪断強度)を算出した。
【0121】
実施例及び比較例のホットメルト組成物の評価結果を表4および表5に示す。
【0122】
【0123】
【0124】
表4および表5に示されるように、実施例1~9のホットメルト組成物は、形態維持性が非常に優れているのでタレが生じ難く、かつ各被着体に対して剪断接着強度が適切な強度範囲を示すので解体性(離形性)と密着性のバランスに優れている。さらに、実施例1~9のホットメルト組成物は、蒸発残分が高く、揮発分が少ないので、衛生上好ましいことが実証された。
また、125℃、1000時間後の剪断強度の測定でも、実施例1~9のホットメルト組成物は、各被着体に対し、長期使用後の安定した解体性(離形性)及び密着性を維持できることが確認された。
【0125】
一方、比較例1~7のホットメルト組成物は、実施例のホットメルト組成物と比べると、125℃、1000時間後の剪断強度または初期の剪断強度が、大きすぎたり小さすぎたりする結果であった。すなわち、比較例のホットメルト組成物でシールされた部材(例えば、ECU)は、初期段階または高温処理後に、密着性が不十分であるか、あるいは解体し難いことが示された。
【0126】
また、比較例1,2,4のホットメルト組成物は、実施例1~9に比べて蒸発残分試験で残分が少なかったことから、揮発分が多くて衛生的に好ましくないことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明は、車輌用電子制御ユニットの接着に好適なホットメルト組成物を提供する。本発明のホットメルト組成物は、電子制御ユニット内の電装部品の交換やメンテナンスの際、シール部分の解体を容易にできる。また、本発明のホットメルト組成物は、高温で長期間処理後であっても、密着性と離形性のバランスを高いレベルで維持できるので、長期使用する電子制御ユニットのシール及び解体を容易にすることが可能である。