(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】真空ポンプと真空ポンプの制御装置
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20220614BHJP
F04B 39/06 20060101ALI20220614BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
F04D19/04 G
F04B39/06 K
F04B39/00 106Z
(21)【出願番号】P 2018025854
(22)【出願日】2018-02-16
【審査請求日】2020-12-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【氏名又は名称】納口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】孫 彦斌
(72)【発明者】
【氏名】三枝 健吾
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-043827(JP,A)
【文献】特開2013-100760(JP,A)
【文献】特開2008-244062(JP,A)
【文献】特開2009-270750(JP,A)
【文献】特開2011-112254(JP,A)
【文献】特開2017-200314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04B 37/16
F04B 39/06
F04B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ本体と、前記ポンプ本体の外側に配置された制御装置とを備え、
前記制御装置は、
内部に冷却媒体流路が形成された冷却部と、
発熱部品を備え前記冷却部による冷却が可能な電装部品部と、を有し、
前記冷却部には前記電装部品部が熱移動可能に取り付けられ、
前記電装部品部には、前記発熱部品が実装され前記冷却部に固定された回路基板と、前記回路基板及び前記発熱部品を少なくとも部分的に覆うモールド部と、が設けられ、
前記モールド部を介した前記冷却部の側へ熱移動が可能であり、
前記冷却媒体流路は、前記冷却部に
鋳込まれた冷却管の内部に形成され、
前記冷却管は、前記冷却部から前記電装部品部の側に向かって部分的に
突出して露出
する露出部を有し、
前記冷却管の露出した部分の断面積は、前記冷却管の断面積の半分より小さ
く、
前記モールド部が前記露出部に接していることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記回路基板には、前記回路基板を貫通し前記モールド部が入り込む貫通部が形成され、
前記モールド部及び前記貫通部を介した前記冷却部の側へ熱移動が可能であることを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記冷却部が、前記回路基板の、前記発熱部品が実装された側に対して逆側の位置で、前記貫通部に入り込んだ前記モールド部に面していることを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
内部に冷却媒体流路が形成された冷却部と、
発熱部品を備え前記冷却部による冷却が可能な電装部品部と、を有し、
前記冷却部には前記電装部品部が熱移動可能に取り付けられ、
前記電装部品部には、前記発熱部品が実装され前記冷却部に固定された回路基板と、前記回路基板及び前記発熱部品を少なくとも部分的に覆うモールド部と、が設けられ、
前記モールド部を介した前記冷却部の側へ熱移動が可能であり、
前記冷却媒体流路は、前記冷却部に
鋳込まれた冷却管の内部に形成され、
前記冷却管は、前記冷却部から前記電装部品部の側に向かって部分的に
突出して露出
する露出部を有し、
前記冷却管の露出した部分の断面積は、前記冷却管の断面積の半分より小さ
く、
前記モールド部が前記露出部に接していることを特徴とする真空ポンプの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばターボ分子ポンプ等の真空ポンプと真空ポンプの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、後掲の特許文献1に開示されているようなターボ分子ポンプ装置が知られている。特許文献1のターボ分子ポンプ装置においては、段落0010、
図1、
図2等に記載されているように冷却装置(13)が設けられている。冷却装置(13)は、ポンプ本体(11)と電源装置(14)との間に、軸方向に並べて介装され、電源装置(14)内におけるモータ駆動回路の電子部品を主に冷却する。そして、この冷却装置(13)は、内部に冷却水通路が形成されたジャケット本体(13a)と、送水用のポンプにより冷却水通路に冷却水を循環させるための冷却水入口(13b)および冷却水出口(13c)とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプにおいては、接続される真空機器の周辺スペースの事情などによって、小型化が必要となる場合がある。そして、モータ駆動回路や制御回路等の電装機器の小型化も必要となる場合があり、このような場合には、電装機器の実装密度が高まり、電装機器が温度上昇し易くなる。また、真空ポンプの高性能化によっても電装機器の実装密度が高まり、電装機器が温度上昇し易くなる。このため、例えば特許文献1に開示されたような冷却装置を用いる場合であっても、できるだけ効率良く冷却することが求められる。そして、効率の良い冷却により、電装機器の寿命を延ばすことが可能となる。
【0005】
また、冷却効果を高めるため、特許文献1に示されているような水冷に代え、例えば冷却ファンを用いた空冷を行うことも考えられる。しかし、冷却ファンを備えることで、その分真空ポンプの外形寸法が大となり、小型化が困難になる。また、冷却ファンを使用すると、発生した気流がクリーンルーム内で塵埃を舞い上がらせてしまい、清浄な環境を保ち難くなる場合がある。さらに、冷却ファンを使用した場合に、舞い上がる塵埃の排除のためエアコン(空気調和機)による排気を強化すると、総合的なエネルギ消費量がその分増えてしまう。これらのことから、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプでは、効率の良い冷却のために空冷を採用することが難しく、水冷を採用することが望ましい。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、電装機器を効率よく冷却することが可能な真空ポンプと真空ポンプの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、ポンプ本体と、前記ポンプ本体の外側に配置された制御装置とを備え、
前記制御装置は、
内部に冷却媒体流路が形成された冷却部と、
発熱部品を備え前記冷却部による冷却が可能な電装部品部と、を有し、
前記冷却部には前記電装部品部が熱移動可能に取り付けられ、
前記電装部品部には、前記発熱部品が実装され前記冷却部に固定された回路基板と、前記回路基板及び前記発熱部品を少なくとも部分的に覆うモールド部と、が設けられ、
前記モールド部を介した前記冷却部の側へ熱移動が可能であり、
前記冷却媒体流路は、前記冷却部に鋳込まれた冷却管の内部に形成され、
前記冷却管は、前記冷却部から前記電装部品部の側に向かって部分的に突出して露出する露出部を有し、
前記冷却管の露出した部分の断面積は、前記冷却管の断面積の半分より小さく、
前記モールド部が前記露出部に接していることを特徴とする真空ポンプにある。
【0008】
また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記回路基板には、前記回路基板を貫通し前記モールド部が入り込む貫通部が形成され、
前記モールド部及び前記貫通部を介した前記冷却部の側へ熱移動が可能であることを特徴とする真空ポンプにある。
【0009】
また、上記目的を達成するために他の発明は、前記冷却部が、前記回路基板の、前記発熱部品が実装された側に対して逆側の位置で、前記貫通部に入り込んだ前記モールド部に面していることを特徴とする真空ポンプにある。
【0011】
また、上記目的を達成するために他の発明は、内部に冷却媒体流路が形成された冷却部と、
発熱部品を備え前記冷却部による冷却が可能な電装部品部と、を有し、
前記冷却部には前記電装部品部が熱移動可能に取り付けられ、
前記電装部品部には、前記発熱部品が実装され前記冷却部に固定された回路基板と、前記回路基板及び前記発熱部品を少なくとも部分的に覆うモールド部と、が設けられ、
前記モールド部を介した前記冷却部の側へ熱移動が可能であり、
前記冷却媒体流路は、前記冷却部に鋳込まれた冷却管の内部に形成され、
前記冷却管は、前記冷却部から前記電装部品部の側に向かって部分的に突出して露出する露出部を有し、
前記冷却管の露出した部分の断面積は、前記冷却管の断面積の半分より小く、
前記モールド部が前記露出部に接していることを特徴とする真空ポンプの制御装置にある。
【発明の効果】
【0012】
上記発明によれば、電装機器を効率よく冷却することが可能な真空ポンプと真空ポンプの制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は本発明の一実施形態に係るターボ分子ポンプを概略的に示す断面図、(b)電装ボックスを拡大して示す断面図、(c)は冷却ジャケットの鉛直部と冷却管との位置関係を示す説明図である。
【
図2】(a)は冷却ジャケットや電源回路部を概略的に示す斜視図、(b)は電源回路部の回路基板を概略的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る真空ポンプについて、図面に基づき説明する。
図1(a)は真空ポンプとしてのターボ分子ポンプ10を縦断し、一部を省略して概略的に示している。このターボ分子ポンプ10は、例えば、半導体製造装置、電子顕微鏡、質量分析装置などといった対象機器の真空チャンバ(図示略)に接続されるようになっている。
【0015】
ターボ分子ポンプ10は、円筒状のポンプ本体11と、電装機器収容部(制御装置)としての箱状の電装ケース31とを一体に備えている。これらのうちのポンプ本体11は、図中の上側が対象機器の側に繋がる吸気部12となっており、下側が補助ポンプ等に繋がる排気部13となっている。そして、ターボ分子ポンプ10は、
図1(a)に示すような鉛直方向の垂直姿勢のほか、倒立姿勢や水平姿勢、傾斜姿勢でも用いることが可能となっている。
【0016】
電装ケース31は、ポンプ本体11の側部である外周面に、径方向に突出するよう取り付けられている。このため、本実施形態のターボ分子ポンプ10は、例えば前述の特許文献1に開示されたタイプのもののように、ポンプ本体と電装機器(電装部品)を軸方向(ガスの移送方向)に並べて配置した場合と比べて軸方向のコンパクト化が図られている。そして、本実施形態のターボ分子ポンプ10は、軸方向の空間が比較的狭隘であっても、設置が可能である。
【0017】
ポンプ本体11は、段付きな円筒状の本体ケーシング14を備えている。本実施形態においては、本体ケーシング14の直径は350mm程度であり、高さは400mm程度となっている。本体ケーシング14内には、排気機構部15と回転駆動部16とが設けられている。これらのうち排気機構部15は、ターボ分子ポンプ機構部17とネジ溝ポンプ機構部18とにより構成された複合型のものとなっている。
【0018】
ターボ分子ポンプ機構部17とネジ溝ポンプ機構部18は、ポンプ本体11の軸方向に連続するよう配置されており、
図1(a)においては、図中の上側にターボ分子ポンプ機構部17が配置され、図中の下側にネジ溝ポンプ機構部18が配置されている。ターボ分子ポンプ機構部17やネジ溝ポンプ機構部18の基本構造としては、一般的なものを採用可能であるが、以下に基本構造について概略的に説明する。
【0019】
図1(a)中の上側に配置されたターボ分子ポンプ機構部17は、多数のタービンブレードによりガスの移送を行うものであり、所定の傾斜や曲面を有し放射状に形成された固定翼部19と回転翼部20とを備えている。ここで、ターボ分子ポンプ機構部17において、固定翼(ステータ翼)と回転翼(ロータ翼)は十数段に亘って交互に並ぶよう配置されているが、図面が煩雑になるのを避けるため、固定翼と回転翼についての符号の記載は省略している。また、
図1(a)では、同様に図面が煩雑になるのを避けるため、ポンプ本体11における部品の断面を示すハッチングの記載も省略している。
【0020】
固定翼部19は、本体ケーシング14に一体的に設けられており、固定翼部19に備えられた上下の固定翼の間に、回転翼部20に設けられた回転翼が入り込んでいる。回転翼部20は、
図1(a)中に上端部の輪郭のみを概略的に示す回転軸(ロータシャフト)21に一体化されている。
【0021】
この回転軸21は、下側のネジ溝ポンプ機構部18を通過して、同様に輪郭のみを概略的に示す前述の回転駆動部16に連結されている。ネジ溝ポンプ機構部18は、ロータ円筒部23とネジステータ24を備えており、ロータ円筒部23とネジステータ24の間に所定の隙間であるネジ溝部25を形成している。ロータ円筒部23は、回転軸21に連結されており、回転軸21と一体に回転できるようになっている。ネジ溝ポンプ機構部18の後段には排気パイプに接続する為の排気口26が配置されており、排気口26の内部とネジ溝部25が空間的に繋がっている。
【0022】
回転駆動部16はモータであり、図示は省略するが、回転軸21の外周に形成された回転子と、回転子を取り囲むように配置された固定子とを有している。この回転駆動部16を作動させるための電力の供給は、前述の電装ケース31に収容された電源機器や制御機器により行われるようになっている。
【0023】
回転軸21の支持には、図示は省略するが、磁気浮上による非接触式の軸受(磁気軸受)が用いられている。このため、ポンプ本体11においては、高速回転を行うにあたって摩耗がなく、寿命が長く、且つ、潤滑油を不要とした環境が実現されている。なお、磁気軸受として、ラジアル磁気軸受とスラスト軸受を組み合せたものを採用できる。さらに、磁気軸受に、万一の場合の損傷を防ぐタッチダウン軸受を組み合せて用いることも可能である。
【0024】
回転駆動部16が駆動されると、回転軸21と一体となったターボ分子ポンプ機構部17の回転翼部20およびロータ円筒部23が回転する。回転翼部20の回転に伴い、
図1(a)中の上側に示す吸気部12からガスが吸引され、固定翼部19の固定翼と回転翼部20の回転翼とに気体分子を衝突させながら、ネジ溝ポンプ機構部18の側へガスの移送が行われる。ネジ溝ポンプ機構部18では、ターボ分子ポンプ機構部17から移送されたガスを、ロータ円筒部23とネジステータ24との隙間に導入し、ネジ溝部25内で圧縮する。ネジ溝部25内で圧縮されたガスは、排気部13から排気口26へ進入し、排気口26を介してポンプ本体11から排出される。
【0025】
次に、前述の電装ケース31について説明する。電装ケース31は、
図1(b)に示すように、直方体状のボックスケーシング32内に電装機器部(電装部品部)としての電源回路部33と、同じく電装機器部としての制御回路部34を収納している。ボックスケーシング32は、断面がL字型の板金製のケーシングパネル35や、同じく断面がL字型の冷却部としての冷却ジャケット36などを組み合わせ、互いに結合することにより構成されている。なお、
図1(a)では、ケーシングパネル35の両端部(紙面を貫く方向の両端部)を閉じる端部閉塞パネルを取り外して、電装ケース31の内部が見えるようにしている。端部閉塞パネルとしては、例えば2つ(2枚)の矩形状のパネル部材を用いることなどが可能である。
【0026】
冷却ジャケット36は、ジャケット本体37と冷却管38を備えている。これらのうちジャケット本体37は、略水平に向けられた水平部39と、略鉛直に向けられた鉛直部40とを一体に有する鋳造物である。冷却ジャケット36の素材(鋳込み材)としては、アルミ等を採用することが可能である。水平部39は、鉛直部40と繋がった基端側をポンプ本体11の外側(ポンプ本体11から離れる側)に向け、先端側をポンプ本体11の側に向けている。
【0027】
さらに、水平部39の先端側は、
図2(a)に示すようにポンプ本体11の外径に合わせ円弧状に切り欠かれており、円弧状の先端部41に沿って、六角穴付きボルト42(
図1(a)に1つのみ図示する)を通過させるための複数の貫通孔43が設けられている。そして、水平部39の先端側は、
図1(a)に示すように、本体ケーシング14の下面44に重なる様に配置され、複数の六角穴付きボルト42により、ポンプ本体11の下部フランジ45に下方からボルト止めされている。
【0028】
図2(a)に示すように、鉛直部40は、ポンプ本体11の側を向いた冷却面としての内側面46と、外側を向いた同じく冷却面としての外側面47を有している。これらのうちの内側面46には、前述の電源回路部33と制御回路部34が、電源回路部33を下にして上下に配置されている。電源回路部33と制御回路部34は、鉛直部40に対して熱の移動が可能な状態で、ボルト締め等の手段により固定されている。
しかし、電源回路部33と制御回路部34の配置はこれに限定されず、制御回路部34を下にして上下に配置してもよい。
【0029】
ここで、
図1(a)、(b)では、電源回路部33と制御回路部34は、概略的に二点鎖線により囲って示されている。また、電源回路部33は、
図1(b)や
図2(a)に示すようにモールド部としてのモールド樹脂74により封止されている。そして、
図1(b)では、モールド樹脂74の範囲が明確になるよう、二点鎖線のハッチングを付してモールド樹脂74を記載しているが、電源回路部33やモールド樹脂74の具体的構成については後述する。
【0030】
図2(a)に示すように、冷却ジャケット36の鉛直部40には、前述の冷却管38が挿入(インサート鋳造)されている。冷却管38は、電装ケース31の内部を冷却するためのものであり、外部から供給された冷却水(冷却媒体、冷媒)が内部の冷却媒体流路38aを通って循環するようになっている。冷却管38の直径は例えば数mm程度であり、この冷却管38材質としては、ステンレス鋼(SUS)や銅などを採用することが可能である。
【0031】
冷却管38は、鉛直部40の内部において、破線で示すようにコの字型に曲がっており、互いに略水平且つ平行に伸びる平行部50と、平行部50を接続する鉛直な接続部51を有している。そして、冷却管38の両端部52、53は、鉛直部40の端面54から僅かに数mm程度突出している。
【0032】
ここで、本実施形態においては、冷却管38の両端部52、53のうち、
図2(a)中の下側(水平部39の側)の端部53が冷却水(冷却媒体、冷媒)の入口となっており、上側の端部52が冷却水の出口となっている。しかし、冷却水の流通方向はこれに限定されず、上側の端部52を入口とし、下側の端部53を出口としてもよい。また、図示は省略するが、冷却管38の両端部52、53に管用の継手を接続し、この継手を介して冷却水の循環経路に接続することが可能である。
【0033】
さらに、冷却管38は、鉛直部40の内側面46から一部を露出させており、冷却管38の周方向の一部は、内側面46から突出した露出部55となっている。そして、露出部55は、内側面46に固定された電源回路部33の背後に位置し、モールド樹脂74に接して、電源回路部33に対して離間している。ここで、本実施形態においては、
図2(a)中の上側の平行部50や接続部51のみが露出部55を構成するようになっている。しかし、これに限らず、冷却管38の長さ方向の略全長で露出部55を構成することも可能である。
冷却部は、一般的には冷却管38に流す冷却水により冷却されるが、冷却媒体(冷媒)は冷却水に限定されず、水以外の流体や冷却ガス等の他の冷媒であっても構わない。
【0034】
また、本実施形態では、露出部55や、鉛直部40の内側面46がモールド樹脂74に接触するようにしているが、これに限定されず、例えば、鉛直部40の内側面46とモールド樹脂74との間に、部分的に或いは全体的に、所定の間隔の隙間(空間)を介在させることも可能である。
【0035】
図1(c)は、冷却管38と鉛直部40の位置関係を示している。図中において、冷却管38の軸心C1と、鉛直部40の厚み方向の中心線C2は互いに水平方向に離れており、冷却管38は鉛直部40に対して偏心している。そして、冷却管38の大部分は、インサート鋳造により鉛直部40の素材(ここでは鋳込み材であるアルミ)に隙間なく密に接しながら、鉛直部40により覆われている。ここで、露出部55を形成するために、ジャケット本体37の鋳造時に冷却管38を、上述のように軸心C1が鉛直部40の厚み方向の中心線C2に対して偏心するよう配置した後に鋳込みを行うことが可能である。
【0036】
また、これに限定されず、ジャケット本体37の鋳造時に、冷却管38を全周に亘り鉛直部40内に収まるよう配置して鋳込みを行った後に、露出部55が現れるよう、内側面46を切削加工してもよい。ただし、鉛直部40の厚みが相対的に薄く、冷却管38と外側面47の側の肉厚が十分でない場合には、切削加工時に鉛直部40に作用する負荷により、冷却管38が鉛直部40から分離し易くなることも考えられる。そして、このような場合には、切削加工の際における負荷のかけ具合の調整が難しくなることが想定される。このため、鋳造時に、
図1(c)に示すように、冷却管38を鉛直部40に対して偏心させた状態でインサート鋳造を行うのが望ましい。
【0037】
続いて、前述の電源回路部33について、
図2(a)、(b)に基づき説明する。
図2(a)は、前述のモールド樹脂74が形成された状態を示しており、
図2(b)は、モールド樹脂74が形成される前の状態を示している。
図2(b)に示すように、電源回路部33は回路基板61を備えており、回路基板61にはポンプ本体11を駆動するための回路部品(電気部品や電子部品)62が実装されている。回路基板61としては、一般的なエポキシ基板等を採用することが可能である。回路基板61の鉛直部40への固定は、例えば回路基板61の4隅におけるボルト止めにより行われている。
【0038】
また、回路部品62としては、例えば、トランス、コイル、コンデンサ、フィルタ、ダイオード、FET(電界効果トランジスタ)等のようなものを挙げることができる。
図2(a)、(b)は、
図1(a)、(b)に比べて回路部品62の(図示略)を詳細に行っているものである。これらの回路部品62は、その特性に応じて発熱部品となる。回路部品62が発した熱は、回路基板61やその周囲に移動し、周囲の温度を上昇させる。そして、回路基板61に生じた熱の一部は、鉛直部40との結合に用いられたボルト(図示略)や、後述するモールド樹脂74を介して、冷却ジャケット36の側へ移動する。
【0039】
ここで、回路基板61における各種の回路部品62の実装にあたっては、その高さも考慮して回路部品62の向き(「姿勢」ともいえる)が決められている。つまり、前述のように回路基板61の背面側(ここでは非実装側)に冷却ジャケット36が位置しているが、回路基板61の実装側において回路部品62の高さが高くなるほど、冷却ジャケット36からの距離が遠くなる。そして、高さが大きい(所謂背の高い)回路部品62を起立状態で実装すると、熱伝導や熱伝達による冷却ジャケット36への熱の移動が生じ難く、電源回路部33の冷却がされ難くなる。
【0040】
このため、本実施形態では、必要な面積が確保できる部位については、回路部品62を回路基板61に寝かせた状態で搭載している。このように回路部品62を寝かせた状態は、回路基板61からの高さを低くできる状態であり、「倒伏状態」などと称することもできる。そして、回路部品62を寝かせて、回路部品62のより多くの部分が冷却ジャケット36に近付くようにすることで、回路部品62の冷却を効率よく行うことが可能である。
【0041】
さらに、回路基板61には、金属製の板金部材71が複数実装されている。板金部材71の固定は、板金部材71を支持するための部材を回路基板61上に設けたり、板金部材71にビス留め用のリブを設けたりすることにより行うことが可能である。板金部材71の材質としては、例えばアルミなどが用いられている。
【0042】
板金部材71には平板状のものやL字状のものなどがあり、回路基板61から略垂直に立ち上がるように(起立姿勢となるように)、回路基板61に固定されている。そして、板金部材71は、その厚み方向を、回路基板61の実装面が伸びる方向(回路基板61の厚さ方向と直交する方向)に向けている。このような向きで板金部材71を実装することで、回路基板61の実装面において板金部材71が占有する面積を最小化することができる。
【0043】
さらに、板金部材71は、回路部品62の実装に利用可能なものとなっている。そして、板金部材71の板面には、各種の回路部品62のうち、ダイオードやその他の半導体素子のように温度上昇し易いものが固定されている。ここで、板金部材71に固定された半導体素子のリード部(図示略)を、回路基板61の配線に接続することで、半導体素子の導通を確保することが可能である。このように板金部材71の板面上に回路部品62を備えることで、回路基板61において回路部品62の実装が可能な面積を拡大することができる。
【0044】
また、回路基板61には、
図2(b)に示すように、長孔状に形成された複数の貫通部としてのスリット72が形成されている。これらのスリット72は、回路基板61の所定位置に形成され、回路基板61を貫通している。本実施形態においてスリット72は、一部の板金部材71や所定の回路部品62から所定程度(例えば1mm~数mm程度)しか離れていない部位に形成されている。
【0045】
そして、スリット72を介して回路基板61の実装面側と、非実装側である背面側とが空間的に繋がっており、回路基板61の実装面側と背面側とで、スリット72を通過する熱の移動が可能となっている。なお、スリット72の開口面積が大きいほど熱が移動し易くなる。また、本実施形態では、回路基板61を貫通する孔を長孔状のスリット72としているが、これに限られるものではなく、例えば長方形、正方形、円形、三角形、菱形、台形などのように種々の形状とすることが可能である。さらに、回路基板61を貫通する孔の配置も、回路部品62(ここでは板金部材71を含む)の近傍に限らず、例えば真下の位置や、交差する位置などとすることが可能である。
【0046】
また、回路基板61は、前述したようにモールド樹脂74により封止されている。このモールド樹脂74は、
図2(a)に示すように直方体状に成形されており、回路基板61の回路部品62(ここでは板金部材71を含む)に密に隙間が生じないように接触している。さらに、モールド樹脂74は、回路基板61の実装面を基準として所定の高さまで領域を覆っており、モールド樹脂74からは、相対的に高さの高い電子部品の上端部分のみが突出している状態となる。本実施形態では、モールド樹脂74としてエポキシ樹脂が用いられているが、これに限らず、例えばシリコンなどのような樹脂を用いてもよい。
【0047】
モールド樹脂74は、回路基板61に係る絶縁性を高める機能、防滴の機能、防水の機能などを発揮するようになっている。また、モールド樹脂74は、各種の回路部品62や回路基板61に接するとともに、前述のスリット72に入り込むことで、電源回路部33を冷却する機能を有している。つまり、モールド樹脂74は、各種の回路部品62や回路基板61の熱を奪うとともに、奪った熱の一部を、スリット72を介して回路基板61の背面側へ移動させる。
【0048】
また、本実施形態では、回路基板61と、冷却ジャケット36の鉛直部40や、冷却管38の露出部55との間に隙間が生じないよう充填されている。このため、回路基板61の背面側に達した熱を、更にモールド樹脂74を介して冷却ジャケット36の側へ移動することが可能である。ここで、十分な冷却を行えれば、回路基板61と冷却ジャケット36との間に、モールド樹脂74が満たされていない空間を形成し、冷却ジャケット36に面した空間を介して熱を移動させるようにすることも可能である。
【0049】
続いて、前述の制御回路部34について説明する。制御回路部34は、ポンプ本体11内に設けられたモータ等の機構の制御を行うためのものである。この制御回路部34は、
図1(b)や
図2(a)に示すように、冷却ジャケット36における鉛直部40の内側面46において、電源回路部33の上方の部位に配置されている。ここで、
図2(a)では、制御回路部34は、二点鎖線の直方体によって概略的に示されている。
【0050】
さらに、本実施形態の制御回路部34は、二段の積層構造を有しており、冷却ジャケット36にボルト止めされる金属基板(ここでアルミ基板)86と、金属基板86上に導通可能に接続された樹脂基板(ガラスエポキシ基板など)87とを備えている。そして、図示は省略するが、例えば樹脂基板87には、回路部品62のほかに、各種の標準規格に従ったコネクタなども実装されている。
【0051】
本実施形態では、制御回路部34の発熱が電源回路部33に比べて少ないため、制御回路部34については電源回路部33のような樹脂封止は行われていない。しかし、必要に応じ、制御回路部34を、コネクの接続端を除いて樹脂封止するようにしてもよい。
【0052】
制御回路部34で発生した熱は、鉛直部40の外側面47に結合された金属基板86からの移動のほか、鉛直部40に直接接触していない部分(樹脂基板87など)からも、金属基板86を経て鉛直部40へ移動する。
【0053】
以上説明したような本実施形態のターボ分子ポンプ10によれば、冷却ジャケット36における冷却管38を、露出部55が鉛直部40から露出するよう設けている。このため、露出部55の外側の空間や、露出部55に接した部位を直接的に冷却することが可能である。また、鉛直部40に係る内側面46の側の冷却を効率良く行うことができる。
【0054】
したがって、冷却ファンを用いることなく、効率の良い冷却を行うことが可能である。また、冷却ファンを用いていないことから、ターボ分子ポンプ10を小型化することができる。さらに、電装ケース31の温度上昇を抑制でき、ターボ分子ポンプ10の製品寿命を長期化することができる。また、効率良く冷却できることから、ターボ分子ポンプ10の前段で、冷却水の温度をあまり下げておかなくてよい。
【0055】
また、突出する露出部55を形成しているので、冷却管38を全周に亘り鉛直部40の素材(鋳込み材)により覆った場合と比べて、より直接的な冷却を行うことが可能である。さらに、鉛直部40の内側面46を冷却管38の軸心C1に近付けることができるため、内側面46の温度を低下させ易い。また、鉛直部40の厚みを小さくすることができ、冷却ジャケット36の省スペース化や軽量化が可能である。さらに、冷却ジャケット36の製造の際に、鋳込み材の使用量を減らすことができ、その分の製造コストを下げることが可能となる。
【0056】
また、鋳造により冷却管38を冷却ジャケット36に組み込んでいるので、低コストで冷却管38の外周面とジャケット本体37とを密着させることができる。つまり、例えばジャケット本体37をアルミ素材の削り出し加工により作製し、作製したジャケット本体37に冷却管38を後から固定するような場合には、ジャケット本体37と冷却管38の間に隙間が生じ易く、熱抵抗が高くなる。そして、効率の良い冷却を行うには、ジャケット本体37と冷却管38の間の隙間を埋めるために、熱伝導率の高い材質からなるシート等を介在させなければならず、その分コストが上昇する。しかし、本実施形態のように鋳造により冷却管38の組み込みを行うことにより、低コストで、冷却管38の外周面とジャケット本体37とを密着させることができる。
【0057】
また、本実施形態のターボ分子ポンプ10によれば、モールド樹脂74により電源回路部33の封止を行っているので、モールド樹脂74を介した熱の移動が可能である。さらに、回路基板61に貫通するスリット72が設けられ、回路基板61の実装面側と背面側(ここでは非実装側)とがスリット72を介して繋がっていることから、スリット72を介して、回路基板61の背面側への放熱を行うことができる。そして、回路基板61の背面側は、冷却ジャケット36の鉛直部40に面していることから、回路基板61の実装面側で発生した熱を、モールド樹脂74やスリット72を介して冷却ジャケット36の側へ移動させることができる。
【0058】
また、本実施形態では、回路基板61と冷却ジャケット36の間にモールド樹脂74を充填しているので、回路基板61と冷却ジャケット36の間の熱の移動を、モールド樹脂74を介して行うことができる。このため、回路基板61から冷却ジャケット36までの間に空間を介在させた場合に比べて、熱を移動させ易い。
【0059】
なお、このようなモールド樹脂74やスリット72等を用いた冷却は、冷却ジャケット36による水冷の効果をより高めるものであるということができる。また、本実施形態のような冷却は、モールド樹脂74やスリット72による熱の移動と、冷却ジャケット36による冷却とを複合させた冷却手法であるということもできる。さらに、本実施形態のような冷却は、電装ケース31内の空間も冷却ジャケット36により冷却されることから、空冷と水冷を複合させた冷却手法であるということもできる。
【0060】
また、本発明は、これまでに説明した態様以外にも種々に変形することが可能なものである。例えば、上述の実施形態ではスリット72を回路基板61に設けたが、スリット72などの貫通部を板金部材71に設け、モールド樹脂74を入り込ませ、板金部材71の表裏で貫通部を介した熱の移動を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
11 ポンプ本体
31 電装ケース(制御装置)
33 電源回路部(電装部品部)
34 制御回路部(電装部品部)
36 冷却ジャケット(冷却部)
38 冷却管
38a 冷却媒体流路
40 鉛直部
46 鉛直部の内側面(冷却面)
51 回路基板
55 露出部
62 回路部品(発熱部品)
72 スリット(貫通部)
74 モールド樹脂(モールド部)