(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤、ならびに、ニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 63/30 20200101AFI20220614BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20220614BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220614BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20220614BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
A01N63/30
A01P21/00
C12N1/00 P
C12P1/04 Z
A01G7/06 Z
(21)【出願番号】P 2018039926
(22)【出願日】2018-03-06
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野原 偏弘
(72)【発明者】
【氏名】大野 勝也
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第98/001042(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106305785(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101167480(CN,A)
【文献】国際公開第2018/168583(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/047918(WO,A1)
【文献】日本土壌肥料学会講演要旨集第63集 (2017.09.05), p.81(4-4-2)
【文献】植物の生長調節, (2017.10.06), Vol.52, Supplement, p.117
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/00-65/48
A01P 21/00
A01G 7/06
C12P 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リノール酸を0.1~8mg/lの溶存酸素濃度環境下でプロテオバクテリアに代謝させる脂肪酸代謝工程を含む、
リノール酸代謝物を含むニンジンの成長促進剤の製造方法。
【請求項2】
前記脂肪酸代謝工程を、Mg、P、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種以上のミネラルの存在下で実施する請求項
1記載のニンジンの成長促進剤の製造方法。
【請求項3】
前記プロテオバクテリアが、前培養されたプロテオバクテリアである請求項
1または2記載のニンジンの成長促進剤の製造方法。
【請求項4】
前記前培養されたプロテオバクテリアが、菌数1×10
8~9×10
10cells/mlに前培養されたプロテオバクテリアである請求項
3記載のニンジンの成長促進剤の製造方法。
【請求項5】
バイオサーファクタントを含むニンジンの成長促進剤の製造方法である請求項
1~4のいずれか1項に記載のニンジンの成長促進剤の製造方法。
【請求項6】
前記脂肪酸代謝工程を、20~30℃の条件下で実施する請求項
1~5のいずれか1項に記載のニンジンの成長促進剤の製造方法。
【請求項7】
ニンジンの茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として機能するニンジンの成長促進剤の製造方法である請求項
1~6のいずれか1項に記載のニンジンの成長促進剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤、ならびに、ニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニンジンには、ビタミン類、カロテノイド、ポリフェノール類などの様々な機能性成分が含まれている。近年、健康志向から農作物に含まれるこれら機能性成分に対する関心が高まっており、特に、細胞や組織に損傷を与え、ガンや生活習慣病、老化を促進させる一因になっていると考えられる活性酸素等のラジカルを除去する抗酸化活性がある機能性成分を多く含む農産物のニーズは高い。そこで、ニンジンに含まれる有用な機能性成分の産生を有意に高めるための試みが行われてきている。
【0003】
ニンジンに含まれる機能性成分の増収方法としては、特許文献1に、ジエチルアミノエチルフェニルアルキルエステルまたはジエチルアミノエチルアルキルエステルを含む植物成長促進剤を使用し、収量の増大および有効成分の増大を得たことが記載されている。また、特許文献2には、ショ糖脂肪酸エステルを用いて、カロテノイド含量が高く、外観のよいニンジンを得たことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-290606号公報
【文献】特開昭61-78703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ジエチルアミノエチルフェニルアルキルエステルやジエチルアミノエチルアルキルエステルは、機能性成分であるカロテンの上昇や成長促進効果はあるものの、製造過程で有機溶媒などを用いて製造される非天然の化学合成品であり、有機農法への利用が難しい。また、これらの化学物質は生分解性に乏しいことが知られており、土壌汚染・水質汚染など環境汚染の懸念もある。またこれら化学物質のニンジン中への残留も一般的に深刻な問題となっており、人類を含めた生態系への影響も大きい。
【0006】
一方、ショ糖脂肪酸エステルは、それ自身の抗菌効果が報告されており、使用により圃場の菌叢をむやみに乱し、薬剤耐性菌を生み出す恐れがある。
【0007】
また、たとえ上記のように機能性成分の含有量が向上されても、ニンジン自体の成長が阻害されていれば、ニンジン中に含まれるトータルとしての機能性成分の絶対量は少なくなることがある。よって機能性成分の含有量の向上とともに、ニンジンの成長促進も促すような環境汚染の心配もなく、安全で効率的な品質向上剤が求められている。
【0008】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたもので、ニンジンの生体組織に悪影響を及ぼさない、ニンジンに適宜散布または灌注することで安全に、ニンジンの成長促進を図ることのできるニンジンの成長促進剤、および、ニンジン中の機能性成分の含有量の増加を図ることのできる機能性成分含有量向上剤、ならびに、それらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、炭素数4~30の脂肪酸を0.1~8mg/l(リットル)の溶存酸素濃度環境下でプロテオバクテリアに代謝させることで得られる脂肪酸代謝物を含む、ニンジンの成長促進剤に関する。
【0010】
前記脂肪酸が、20℃で液体の脂肪酸であるニンジンの成長促進剤が好ましい。
【0011】
前記代謝が、Mg、P、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種以上のミネラルの存在下での代謝であるニンジンの成長促進剤が好ましい。
【0012】
前記プロテオバクテリアが、前培養されたプロテオバクテリアであるニンジンの成長促進剤が好ましい。
【0013】
前記前培養されたプロテオバクテリアが、菌数1×108~9×1010cells/ml(ミリリットル)に前培養されたプロテオバクテリアであるニンジンの成長促進剤が好ましい。
【0014】
前記ニンジンの成長促進剤が、バイオサーファクタントを含むニンジンの成長促進剤であることが好ましい。
【0015】
前記代謝が、20~30℃の条件下での代謝であるニンジンの成長促進剤が好ましい。
【0016】
前記ニンジンの成長促進剤が、ニンジンの茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として用いられるニンジンの成長促進剤が好ましい。
【0017】
本発明は、また、炭素数4~30の脂肪酸を0.1~8mg/lの溶存酸素濃度環境下でプロテオバクテリアに代謝させる脂肪酸代謝工程を含む、脂肪酸代謝物を含むニンジンの成長促進剤の製造方法に関する。
【0018】
前記脂肪酸が、20℃で液体の脂肪酸であるニンジンの成長促進剤の製造方法が好ましい。
【0019】
前記脂肪酸代謝工程を、Mg、P、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種以上のミネラルの存在下で実施するニンジンの成長促進剤の製造方法が好ましい。
【0020】
前記プロテオバクテリアが、前培養されたプロテオバクテリアであるニンジンの成長促進剤の製造方法が好ましい。
【0021】
前記前培養されたプロテオバクテリアが、菌数1×108~9×1010cells/mlに前培養されたプロテオバクテリアであるニンジンの成長促進剤の製造方法が好ましい。
【0022】
バイオサーファクタントを含むニンジンの成長促進剤の製造方法であるニンジンの成長促進剤の製造方法が好ましい。
【0023】
前記脂肪酸代謝工程を、20~30℃の条件下で実施するニンジンの成長促進剤の製造方法が好ましい。
【0024】
ニンジンの茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として機能するニンジンの成長促進剤の製造方法であるニンジンの成長促進剤の製造方法が好ましい。
【0025】
本発明によれば、ニンジンの成長を顕著に促進させることができ、ニンジンの収量を増大することができる。
【0026】
また、本発明は、炭素数4~30の脂肪酸を0.1~8mg/l(リットル)の溶存酸素濃度環境下でプロテオバクテリアに代謝させることで得られる脂肪酸代謝物を含む、ニンジン中の機能性成分含有量向上剤に関する。
【0027】
前記脂肪酸が、20℃で液体の脂肪酸であるニンジン中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0028】
前記代謝が、Mg、P、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種以上のミネラルの存在下での代謝であるニンジン中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0029】
前記プロテオバクテリアが、前培養されたプロテオバクテリアであるニンジン中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0030】
前記前培養されたプロテオバクテリアが、菌数1×108~9×1010cells/ml(ミリリットル)に前培養されたプロテオバクテリアであるニンジン中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0031】
前記ニンジン中の機能性成分含有量向上剤が、バイオサーファクタントを含むニンジン中の機能性成分含有量向上剤であることが好ましい。
【0032】
前記代謝が、20~30℃の条件下での代謝であるニンジン中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0033】
前記ニンジン中の機能性成分含有量向上剤が、ニンジンの茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として用いられるニンジン中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0034】
前記機能性成分が、カロテノイド、ポリフェノール類、イリドイド、アミノ酸、モノテルペン、およびそれらの配糖体からなる群より選択される少なくとも1種であるニンジン中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0035】
前記機能性成分が、スコポレチン、チロシン、チオアデノシン、βカロテン、ゲニポシド、メチルシナメート、パラシメン、マルトール、およびそれらの配糖体からなる群より選択される少なくとも1種であるニンジン中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0036】
前記機能性成分が、αカロテンまたはシス型βカロテンであるニンジン中の機能性成分含有量向上剤が好ましい。
【0037】
本発明は、また、炭素数4~30の脂肪酸を0.1~8mg/lの溶存酸素濃度環境下でプロテオバクテリアに代謝させる脂肪酸代謝工程を含む、脂肪酸代謝物を含むニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法に関する。
【0038】
前記脂肪酸が、20℃で液体の脂肪酸であるニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0039】
前記脂肪酸代謝工程を、Mg、P、NaおよびKから選ばれる少なくとも1種以上のミネラルの存在下で実施するニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0040】
前記プロテオバクテリアが、前培養されたプロテオバクテリアであるニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0041】
前記前培養されたプロテオバクテリアが、菌数1×108~9×1010cells/mlに前培養されたプロテオバクテリアであるニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0042】
バイオサーファクタントを含むニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法であるニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0043】
前記脂肪酸代謝工程を、20~30℃の条件下で実施するニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0044】
ニンジンの茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として機能するニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法であるニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0045】
カロテノイド、ポリフェノール類、イリドイド、アミノ酸、モノテルペン、およびそれらの配糖体からなる群より選択される少なくとも1種である機能性成分の含有量を向上させる薬剤として機能するニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法であるニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0046】
スコポレチン、チロシン、チオアデノシン、βカロテン、ゲニポシド、メチルシナメート、パラシメン、マルトール、およびそれらの配糖体からなる群より選択される少なくとも1種である機能性成分の含有量を向上させる薬剤として機能するニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法であるニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0047】
αカロテンまたはシス型βカロテンである機能性成分の含有量を向上させる薬剤として機能するニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法であるニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法が好ましい。
【0048】
本発明によれば、ストレス栽培や高含有品種を使用しなくとも、ニンジン中の機能性成分の増大を図ることができる。
【0049】
なお、本発明でいうニンジン中の機能性成分含有量向上剤は、ニンジン内で機能性成分の生成促進および/または分解の抑制を起こさせ、ニンジン中の機能性成分含有量を増加させるものである。
【発明の効果】
【0050】
本発明のニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤は、ストレス栽培や高含有品種を使用しなくともニンジンに適宜散布または灌注することで、ニンジンの成長を促進し、ニンジン中の機能性成分の含有量を向上させることができる。また、本発明のニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法によれば、ストレス栽培や高含有品種を使用しなくともニンジンに適宜散布または灌注することで、ニンジンの成長を促進し、ニンジン中の機能性成分の含有量を向上させることができるニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
ニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤
本発明のニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤は、炭素数4~30の脂肪酸を0.1~8mg/lの溶存酸素濃度環境下でプロテオバクテリアに代謝させることで得られる脂肪酸代謝物を含むことを特徴とする。
【0052】
脂肪酸代謝物をニンジンの茎葉または根の一部に接触させることで、ニンジンの成長を促進したり、ニンジン中の機能性成分の含有量を向上させたりすることができる。脂肪酸代謝物をニンジンの茎葉または根の一部に接触させることで、一般的に行われるストレス栽培において増加する成分と同じ成分のニンジン内での増大が確認できることから、本発明の脂肪酸代謝物は、ニンジンに吸収されることによって、本来ニンジン内で環境ストレスによりシグナルとして産生され作用する分子と同様の作用をニンジン内で行う物質および/またはその前駆体を含んでいると考えられる。すなわち、本発明の脂肪酸代謝物により、ニンジンが本来有しているストレス耐性機能を強化することができる。その結果、ニンジン内での機能性成分の生成促進および/または分解の抑制が起き、ニンジン中の機能性成分含有量が増加される。また、ニンジンの成長促進効果も確認できることから、本発明の脂肪酸代謝物には、ニンジンの成長を活性化する物質も含まれていると考えられる。
【0053】
本発明における代謝とは、所定の溶存酸素濃度環境下においてプロテオバクテリアが外分泌または内分泌する酵素等により炭素数4~30の脂肪酸の分解が行われることをいう。例えば、所定の溶存酸素濃度環境下、脂肪酸を含有する培地でプロテオバクテリアを培養する方法が挙げられる。
【0054】
プロテオバクテリアは、脂肪酸の代謝に関わる酵素であるリポキシゲナーゼ(lipoxygenase:LOX)を産生する遺伝子を持っており、脂肪酸代謝物を生成できる。
【0055】
本発明において用いられる脂肪酸の炭素数は4~30であり、10~20が好ましい。炭素数が4未満の場合は、融点・沸点が低いため、培養時の温度で揮発性が高まり培地中に残存しにくくなる傾向がある。また、炭素数が30を超える場合は、融点・沸点が高くなるため、培養時の温度で固体となり培地と混合できず分離してしまう傾向がある。ただし、融点は水素結合の数によって炭素数のみに依存しない場合もある。
【0056】
本発明において用いられる脂肪酸は、代謝効率の観点や培地中で固化することを抑制する観点から、20~30℃で液体であることが好ましく、20℃で液体であることがより好ましい。
【0057】
本発明の脂肪酸は、飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸のいずれか、または両方を含む混合物とすることができる。また、植物油やグリセリドの形態や遊離脂肪酸を用いることができるが、分解速度に優れるという理由から遊離脂肪酸(モノカルボン酸)が好ましい。
【0058】
炭素数4~30の遊離脂肪酸としては、酪酸(ブチル酸)、吉草酸(バレリアン酸)、カプロン酸、エナント酸(ヘプチル酸)、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキジン酸、ミード酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸などが挙げられ、なかでも炭素数が10~20のカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキジン酸、ミード酸、アラキドン酸が好ましく、炭素数が18のオレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸がより好ましい。
【0059】
脂肪酸を含有する培地を使用する場合の脂肪酸の含有量は、120g/l以下が好ましく、100g/l以下がより好ましく、60g/l以下がさらに好ましい。120g/lを超える場合は、培地の水分との乳化が困難となり、代謝効率が悪化する恐れやプロテオバクテリアの生育を阻害する恐れがある。また、脂肪酸の含有量の下限は特に限定されないが、1.0g/l以上が好ましい。
【0060】
脂肪酸を含有する培地は、他にミネラル成分を含有することが好ましい。ミネラル成分としては、特に限定されず微生物培養に通常用いられるミネラル成分を挙げることができる。例えば、マグネシウム(Mg)、リン(P)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)を有する成分が挙げられる。これらの成分は単独で使用することも、複数を併用することもできる。好ましくはこれらの成分のうちの2種類、さらに好ましくは3種類以上が使用され得る。培地中のミネラル成分の含有量は特に限定されず、従来の好気性細菌の培養方法で使用される量とすることができるが、ニンジンへの施用時に塩害が発生する恐れがあるため、好ましくは15g/l以下、より好ましくは10g/l以下で使用され得る。
【0061】
本発明にて用いられるプロテオバクテリアは、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。好ましくは脂肪酸の代謝効率や生育効率の観点から、増殖に適した温度(至適温度)が10~40℃のプロテオバクテリアが好ましく、20~30℃のプロテオバクテリアがより好ましい。
【0062】
プロテオバクテリアは、脂肪酸の代謝効率に優れるという理由から、前培養されたプロテオバクテリアであることが好ましく、菌数が1×108~9×1010cells/mlまで前培養されていることがより好ましい。
【0063】
本発明においては、代謝は、0.1~8mg/lの溶存酸素濃度環境下で行われる。溶存酸素濃度が0.1mg/l未満の場合は、プロテオバクテリアの活動が低下し脂肪酸の代謝効率が極めて低くなる傾向がある。また、溶存酸素濃度が8mg/lを超える場合は、プロテオバクテリアによる代謝工程と並行して、基質である脂肪酸の培地中の酸素による分解が進行してしまい、代謝効率が低下し、ひいては有効成分である代謝産物の産生量が低下してしまう恐れがある。より好ましくは、溶存酸素濃度は0.1~5mg/lであり、さらに好ましくは0.1~4mg/lである。なお、溶存酸素濃度は株式会社堀場製作所製の溶存酸素計でPO電極に隔膜ガルバニ電極法または隔膜ポーラログラフ法により測定される値とする。
【0064】
代謝における温度は使用するプロテオバクテリアに応じて適宜調整することができ、脂肪酸の代謝効率の観点から、20~30℃がより好ましい。
【0065】
本発明において、ニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤は、脂肪酸代謝物に加えバイオサーファクタントを含有し得る。脂肪酸代謝物が水に分散されやすくなり、ニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤の取扱性の観点から好ましいと考えられる。本発明に係るバイオサーファクタントとは、微生物が疎水性の高い物質を取り込むために産生し、細胞外へと分泌する界面活性剤様の物質を意味する。本発明において、プロテオバクテリアによって分泌されたバイオサーファクタントは、脂肪酸代謝物の水への分散も容易にするため、脂肪酸代謝物を含むニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤の散布や灌注などが効率よく簡単に行えるようになる。しかしながら、バイオサーファクタントとしては、脂肪酸の分解時に本発明のプロテオバクテリアによって産生されたバイオサーファクタントだけではなく、他の微生物が産生したバイオサーファクタントが使用されてもよく、すなわち、本発明のニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤には他の微生物によって産生されたバイオサーファクタントがさらに添加されてもよい。人工的に合成された界面活性剤と比較して、バイオサーファクタントは生物に関する毒性が低く、また、生分解性も高いため、より環境に優しい成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤が得られると考えられる。また、プロテオバクテリアによる脂肪酸分解を促進させるために、他の微生物が産生したバイオサーファクタントが、プロテオバクテリアによる脂肪酸分解において添加されてもよい。プロテオバクテリアによる脂肪酸の取り込みが促進される可能性がある。
【0066】
本発明のニンジンの成長促進剤は、微生物由来の脂肪酸代謝物を含むことを特徴とするため、土壌汚染や毒性に関わる問題を引き起こすことなく、ニンジンの成長を顕著に促進することができる。すなわち、本発明のニンジンの成長促進剤を用いることによって、安全かつ簡便に、ニンジンの収量を増大させることができる。
【0067】
また、本発明のニンジン中の機能性成分含有量向上剤を用いることによって、機能性成分含有量を増加させるために一般的に行われるストレス栽培を用いずとも、ニンジン中の機能性成分を増加させることができる。したがって、ストレス栽培や高含有品種を使用した場合に発生する収量の低下や病害虫に対する抵抗性の低下といった問題が生じることがない。
【0068】
したがって、本発明のニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤を用いることによって、ストレス栽培や高含有品種を使用することなく、すなわち従来の栽培方法を変えることなく、簡便な処理によって、ニンジンの成長を促進させると共に機能性成分含有量を増加させることができる。ニンジン中の機能性成分の含有量の向上とともに、ニンジンの成長促進も促すことのできる効率的で優れた品質向上作用が得られると考えられる。
【0069】
ニンジンに含まれる機能性成分量、例えばβカロテンの含有量は、季節により顕著に変化することが知られている。例えば、春夏ニンジンと呼ばれる夏季に収穫を迎えるニンジンのβカロテン量は、秋や冬に栽培されるニンジンのβカロテン量の半分程度になることが報告されている(田中、外3名、「北海道食品加工研究センター報告」、2000年、第4号、pp.31-34)。本発明のニンジン中の機能性成分含有量向上剤を用いれば、ニンジンに適宜散布または灌注することで、春夏栽培のニンジンであっても、例えば秋冬栽培のニンジンと同等またはそれ以上に、ニンジン中の機能性成分の含有量を向上させることができる。したがって、季節などに関係なく、機能性成分の含有量の多い高品質なニンジンを得ることができる。
【0070】
一般的なニンジンに含まれるβカロテン量は、品種や、前述のように栽培期間にもよるが、およそ3000~9500μg/100g(生鮮重量)とされている。
【0071】
本発明によって含有量が増加する機能性成分としては、例えば、αカロテン、βカロテンに代表されるカロテノイド、フラボノイドなどのポリフェノール類、機能性成分の配糖体、アミノ酸、ゲニポシドなどのイリドリド、モノテルペンなどのテルペン、テルペノイド、ビタミン類等を挙げることができるがこれらに限定される訳ではない。ポリフェノール類としては、例えば、クロロゲン酸、スコポレチン、シナピン酸、シナピルアルデヒドなどが挙げられる。機能性成分の配糖体としては、例えば、グルコシノレート類などが挙げられる。アミノ酸としては、例えば、プロリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、γ-アミノ酪酸、アルギニン、リジン、ヒスチジン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、などが挙げられる。その他、グアニンやチオアデノシン、アデノシンなどの核酸物質、また、メチルシナメート、マルトールなどが挙げられる。本発明のニンジン中の機能性成分含有量向上剤によって、上記に例示されるようなニンジン中の機能性成分のうちの少なくとも1つが増加され得る。
【0072】
本発明によって含有量が増加する機能性成分であるカロテノイドのうち、特に、シス型βカロテンの含有量を増加させることができることが好ましい。シス型βカロテンは、網膜疾患、特に網膜変性疾患の治療薬など眼科の医療治療薬として有効だからである。また、カロテンのうち、αカロテンは、βカロテンと比較して、より抗酸化性に優れている。本発明のニンジンの成長促進剤は、βカロテンのみならず、αカロテンの含有量も増加させることができるため、単にβカロテンのみを増加させることが可能な従来のニンジン中の機能性成分の増収方法と比べて顕著に有利である。さらに、本発明によれば、βカロテン中のシス型βカロテンの割合を増やすことができ、顕著な効果を有していると言える。
【0073】
本発明を適用することのできるニンジンとしては、特に限定されないが、セリ科ニンジン属のニンジンが好ましい。また、本発明のニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤は、例えば、沖縄系、三寸系、ロングオレンジ系、インペレータ系、ダンバース系、チャンテネー系などのニンジンに好適に適用され得る。
【0074】
ニンジンはどのように栽培されていてもよく、すなわち土壌に植え付けられていても、また水耕液に浸して栽培されていてもよい。本発明のニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤は、任意の方法で施用することができ、例えば、ニンジンの茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として使用され得る。特殊な設備等を用意せずとも、本発明のニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤を散布等するだけで安全に、ニンジンの成長を促進させ、機能性成分を増加させることができるため、本発明は非常に有利である。
【0075】
本発明はまた、前述した栽培方法により栽培した機能性成分が増加したニンジンに関する。そのようなニンジンは、食用として或いは化粧品や医薬品、サプリメントなどの原料として有用であると考えられる。
【0076】
製造方法
本発明の脂肪酸代謝物を含むニンジンの成長促進剤の製造方法およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤の製造方法は、炭素数4~30の脂肪酸を0.1~8mg/lの溶存酸素濃度環境下でプロテオバクテリアに代謝させる脂肪酸代謝工程を含むことを特徴とする。
【0077】
本発明における脂肪酸代謝工程は、所定の溶存酸素濃度環境下においてプロテオバクテリアが外分泌または内分泌する酵素等により炭素数4~30の脂肪酸の分解が行われる工程である。例えば、所定の溶存酸素濃度環境下、脂肪酸を含有する培地でプロテオバクテリアを培養する方法が挙げられる。
【0078】
脂肪酸代謝工程における溶存酸素濃度は、0.1~8mg/lである。溶存酸素濃度が0.1mg/l未満の場合は、プロテオバクテリアの活動が低下し脂肪酸の代謝効率が極めて低くなる傾向がある。また、溶存酸素濃度が8mg/lを超える場合は、プロテオバクテリアによる代謝工程と並行して、基質である脂肪酸の培地中の酸素による分解が進行してしまい、代謝効率が低下し、ひいては有効成分である代謝産物の産生量が低下してしまう恐れがある。より好ましくは、溶存酸素濃度は0.1~5mg/lであり、さらに好ましくは0.1~4mg/lである。なお、溶存酸素濃度は株式会社堀場製作所製の溶存酸素計でPO電極に隔膜ガルバニ電極法または隔膜ポーラログラフ法により測定される値とする。
【0079】
溶存酸素濃度は、培養容器、振とう数、通気量などによって、調整することができる。
【0080】
脂肪酸代謝工程における培養条件は、溶存酸素濃度を所定の範囲とすること以外は、従来の好気性細菌を培養する条件と同様の条件とすることができる。例えば、フラスコによる振とうや、スピナーフラスコまたはジャーファメンターによる通気培養により3~7日間培養する方法が挙げられる。
【0081】
培養日数は、脂肪酸の乳化、分解等が充分に行われる日数とすることが好ましいが、撹拌や菌量によって培養日数は変化する。なお、脂肪酸代謝工程の終了は、脂肪酸の分解状態を、波長230nmにおける吸光度の測定、薄層クロマトグラフィー(TLC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)、液体クロマトグラフ質量分析(LC/MS)等で確認することが好ましい。
【0082】
脂肪酸代謝工程における温度は、使用するプロテオバクテリアに応じて適宜調整することができ、脂肪酸の代謝効率の観点から、20~30℃の条件下で実施することが好ましい。
【0083】
脂肪酸代謝工程における脂肪酸およびプロテオバクテリアは、本発明のニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤の説明で前述したものを使用することができる。
【0084】
なお、プロテオバクテリアの前培養工程としては、特に限定されず通常の好気性細菌の培養方法とすることができる。前培養液から遠心分離等により菌体のみを回収し、脂肪酸代謝工程に用いることが好ましい。
【0085】
本発明の製造方法により得られるニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤は、脂肪酸代謝物に加えバイオサーファクタントを含有し得る。本発明に係るバイオサーファクタントとは、微生物が疎水性の高い物質を取り込むために産生し、細胞外へと分泌する界面活性剤様の物質を意味する。本発明において、プロテオバクテリアによって分泌されたバイオサーファクタントは、脂肪酸代謝物の水への分散も容易にする。ニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤の取扱性が向上すると考えられる。
【0086】
本発明のニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤は、培地、バイオサーファクタントを含むプロテオバクテリアの外分泌物、菌体などとの混合物である培養液として得られる。当該培養液をそのまま本発明のニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤としてもよく、培養液から遠心分離などにより菌体を除去した上澄み液をニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤としてもよい。本発明の製造方法により得られるニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤は、ニンジンに施用される。培養液は原液のままでも使用することができるが、原液の場合は高温時にニンジンへの処理部分が、ミネラル分が蒸発濃縮され浸透圧の影響で縮む恐れがあるため、原液を希釈して使用することが望ましい場合がある。希釈倍率としては本発明の効果を発揮する限り特に限定されないが、10~1000倍希釈が好ましい。なお、除去した菌体を再度、脂肪酸を含有する培地で培養することにより本発明の脂肪酸代謝工程を繰り返し行うことが可能である。
【実施例】
【0087】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0088】
試験用ニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤の調製
<前培養工程>
ガラス製三角フラスコ内の1l(リットル)の水にペプトン(Difco製のタンパク質酵素加水分解物)10g、イーストエキストラクト5gおよび塩化ナトリウム10gを溶解させ、121℃、20分間オートクレーブ滅菌を行い、室温まで冷却後、プロテオバクテリアの菌液を植菌した。なお、培養容器の口はシリコン栓で密栓した。植菌後の容器をバイオシェーカー(タイテック株式会社製のBR-23UM)を用い、25±5℃、120rpmの条件下で、24時間培養を行った。培養液中の菌数は5×108cells/mlであった。培養後、培養液を15,000×G、20℃の条件で遠心分離することで培養液から菌体を回収した。
【0089】
<脂肪酸代謝工程>
ガラス製三角フラスコ内の1l(リットル)の滅菌水に、リノール酸(和光純薬工業株式会社製の一級リノール酸)12g、硫酸マグネシウム七水和物1.5gおよびリン酸水素二カリウム1.5g、および前培養工程から得られた菌体の全量を加えた。これを、バイオシェーカー(タイテック株式会社製のBR-23UM)を用い、20℃、120rpm、溶存酸素濃度4mg/lの条件下で、4日間培養を行った。なお、リノール酸の分解は、リノール酸中間生成物の1つである酸化脂質の培養液中の濃度を株式会社島津製作所製の分光光度計BioSpec-miniを用いて波長230nmにおける吸光度を測定することにより、確認した。培養後、菌体を含む培養液を試験用ニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤とし、下記の評価を行った。
【0090】
ニンジンの成長促進効果
・実施例1
一般補場にて、春蒔きニンジンの幼苗50株を12~15本/m2植栽密度で植え付け、1週間ごとに、試験用ニンジンの成長促進剤を水で100倍希釈した希釈液を土壌灌注(200ml/株程度)で接種した。試験を開始してから4か月後に、成長したニンジン根部を20個体採取して、ニンジンの成長状態を評価した。
・実施例2
試験用ニンジンの成長促進剤を水で500倍希釈した希釈液を用いた以外は、実施例1と同様に試験を行い、ニンジンの成長状態を評価した。
・比較例1
試験用ニンジンの成長促進剤を用いずにニンジンの育成を行った以外は、実施例1および2と同様に試験を行ってニンジンの成長状態を評価した。
【0091】
ニンジンの成長状態の評価は、実施例1および2ならびに比較例1でそれぞれ得られたニンジン根部20個体の、重さ(根重量)、根部最大直径(根直径)および長さ(根長さ)を測定し、重さ(根重量)、根部最大直径(根直径)および長さ(根長さ)の20個体の平均値を計算して、比較することにより行った。結果を表1に示した。
【0092】
【0093】
表1に示されるように、試験用ニンジンの成長促進剤で処理したニンジンは、比較例1で育成され、採取されたニンジンと比べて、根部最大直径および長さともに大きかった。また、その結果、根部の重量も顕著に増大しており、最大で75%のニンジンの成長の促進が見られた。
【0094】
したがって、本発明のニンジンの成長促進剤は、ニンジンの成長を活性化する物質を含み、ニンジンの成長を顕著に促進することのできるニンジンの成長促進剤として機能していることがわかる。
【0095】
ニンジン中の機能性成分含有量向上効果
・実施例3
一般補場にて、春蒔きニンジンの幼苗50株を12~15本/m2植栽密度で植え付け、1週間ごとに、試験用ニンジン中の機能性成分含有量向上剤を水で100倍希釈した希釈液を土壌灌注(200ml/株程度)で接種した。試験を開始してから4か月後に、成長したニンジン根部を20個体採取して、ニンジン中の機能性成分の含有量を評価した。
・実施例4
試験用ニンジン中の機能性成分含有量向上剤を水で500倍希釈した希釈液を用いた以外は、実施例3と同様に試験を行い、ニンジン中の機能性成分の含有量を評価した。
・比較例2
試験用ニンジン中の機能性成分含有量向上剤を用いずにニンジンの育成を行った以外は、実施例3および4と同様に試験を行ってニンジン中の機能性成分の含有量を評価した。
【0096】
ニンジン中の機能性成分の評価は、実施例3および4ならびに比較例2でそれぞれ得られたニンジン根部20個体を破砕して得られたペーストを凍結乾燥により乾燥させ、得られた各乾燥物のうちそれぞれ30mgをアセトニトリル:水=1:1の溶液にて抽出した成分の、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のMS-Exactive-Focusとサーモフィッシャーサイエンティフィック社製HPLCのUltimate3000とを用いたLCMS多変量解析により行った。LCMSは、C18カラムを用いて、溶出液としてアセトニトリルおよび0.1%酢酸水溶液を用いたグラデュエント条件下で分離を行い、MSはESI方式で測定した。結果を表2に示す。表2で、各成分の変化量は、試験用ニンジン中の機能性成分含有量向上剤での処理を行っていない比較例2における機能性成分の成分量を100として、試験用ニンジン中の機能性成分含有量向上剤で処理した場合(実施例3および実施例4)の各機能性成分の成分量の変化割合を%で計算して、結果を表した。
【0097】
また、凍結乾燥により得られた前述のニンジン根部のペーストの乾燥物の残りからそれぞれ30mgを用いてαカロテン、βカロテン(トランス型、シス型)の定量に用いた。定量は、ニンジン根部のペーストの乾燥物のそれぞれに生鮮含水率92%分の蒸留水を加えた後、水酸化カリウムを加え、ピロガロールエタノール中にてケン化した成分のヘキサン/酢酸エチル混合液抽出物を、アルミナカラムを用いてHPLCにて測定し、標準物質と比較することで行った。結果を表3に示す。
【0098】
【0099】
【0100】
試験用ニンジン中の機能性成分含有量向上剤で処理したニンジンは、表2に示されるように、試験用ニンジン中の機能性成分含有量向上剤を用いずに比較例2で育成されて採取されたニンジンと比べて、スコポレチン、チロシン、チオアデノシン、メチルシナメート、ゲニポシド、パラシメン、マルトールの含有量が増加していることが判明した。それぞれの増加量は、質量分析におけるピーク強度において、スコポレチンで最大3倍、チロシンで2.5~2.7倍であった。なお、実施例1(表1)の結果より、ニンジンの成長割合は比較例に比べ最大75%増加していたことから、実施例のニンジン中の機能性成分の総量としては最大で表2の1.75倍であることがわかる。スコポレチンには抗炎症および抗酸化作用、チオアデノシンには抗炎症作用、チロシンにはうつ症状やストレス緩和効果、マルトールには抗酸化作用、パラシメンには殺菌作用や抗ウイルス作用、ゲニポシドには坑肥満作用、メチルシナメートにはリラックス作用があることが報告されている。
【0101】
また、表3に示されるように、試験用ニンジン中の機能性成分含有量向上剤で処理したニンジンは、αカロテン、βカロテン含有量が顕著に増加していた。その増加率は、試験用ニンジン中の機能性成分含有量向上剤を用いずに比較例2で育成されて採取されたニンジンと比べて、αカロテンで1.1倍~1.2倍、βカロテンで1.5~1.7倍であった。特に、シス型βカロテンは、2~3倍増加していた。αカロテン、βカロテンはビタミンA用作用を示すカロテノイドであって、抗酸化、美肌効果があることなどが報告されている機能性成分である。また、シス型βカロテンには、網膜色素変性症などの眼の医学的症状において視覚機能改善のための効果がある。また、表3から理解されるように、本発明の機能性成分含有量向上剤によれば、βカロテン中のシス型の存在割合を増やすことができる。
【0102】
この結果より、本発明のニンジン中の機能性成分含有量向上剤は、ニンジン中の機能性成分の含有量を顕著に増大させることのできるニンジン中の機能性成分含有量向上剤として機能していることがわかる。また、本発明のニンジン中の機能性成分含有量向上剤を使用することによって含有量の増加が観察された成分は、一般的に行われるストレス栽培において生成の促進および/または分解の抑制により含有量の増加が見られる成分であるため、本発明のニンジン中の機能性成分含有量向上剤の機能性成分含有量向上効果は、本発明のニンジン中の機能性成分含有量向上剤の抵抗性誘導効果を引き起こしたストレス効果によってもたらされたと考えられる。すなわち、本発明におけるニンジン中の機能性成分含有量向上効果は、ニンジン中での機能性成分の生成促進、ニンジン中で生成された機能性成分の分解抑制、またはそれらの組合せの結果によるものであると考えられる。
【0103】
上記の結果より、本発明のニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤、ならびに、本発明の製造方法により製造されるニンジンの成長促進剤および本発明の製造方法により製造されるニンジン中の機能性成分含有量向上剤が、ニンジンの成長促進効果およびニンジンにおける機能性成分含有量向上効果に優れたニンジンの成長促進剤およびニンジン中の機能性成分含有量向上剤であることがわかる。