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特許7088699真空ポンプとこれに用いられるブレード部品およびロータならびに固定のブレード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】真空ポンプとこれに用いられるブレード部品およびロータならびに固定のブレード
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
F04D19/04 D
F04D19/04 E
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018046156
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2019056364
(43)【公開日】2019-04-11
【審査請求日】2021-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2017056862
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017194834
(32)【優先日】2017-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069431
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 成則
(72)【発明者】
【氏名】野中 学
(72)【発明者】
【氏名】江野澤 秀樹
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-174779(JP,A)
【文献】特表2006-511758(JP,A)
【文献】特開2000-337290(JP,A)
【文献】特開2007-198205(JP,A)
【文献】特開昭63-061799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口から排気口までの間に、ガス分子を排気する手段として機能する複数の排気段を有し、前記複数の排気段は、排気段ごとに、放射状に所定間隔で配置された複数の回転ブレードと固定ブレードとにより前記ガス分子を排気する構造になっている真空ポンプであって、
前記複数の排気段のうち最上段の排気段から前記吸気口までの間に、前記ガス分子の排気方向に粒子を移送する粒子移送段として、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードと一緒に回転し、かつ、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードの枚数よりも少ない枚数のブレードを備え、
前記ブレードで、入射角と反射角が等しく反射する前記粒子が、前記ブレードに隣接する前記回転ブレードと、前記ブレードに隣接する前記回転ブレードの回転による進行方向前側の前記回転ブレードによって少なくとも一部が区画される流路に入り、
前記ブレードの高さは、以下の式(1)を満たすこと
を特徴とする真空ポンプ。

Zp2≧(πD・n/N)×Vp/Vr ・・・ 式(1)

Zp2:前記ブレードの高さ
D:直径D部の寸法
n:前記ブレードの間に位置する前記回転ブレードの枚数
N:前記最上段の排気段を構成する前記回転ブレードの枚数
Vp:前記粒子の落下速度
Vr:前記ブレードの回転速度
【請求項2】
前記粒子移送段を構成する前記ブレードは、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードに隣接して設けられていること
を特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードのうち、少なくともいずれか一枚の回転ブレードの全体又はその一部に対して、前記粒子移送段を構成する前記ブレードが一体に設けられること
を特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードのうち、前記粒子移送段を構成する前記ブレードに隣接している回転ブレードの高さが、前記粒子移送段を構成する前記ブレードによって延長されることにより、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードは、それら全体として上流端の高さが異なる段違い構造になっていること
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードのうち、前記段違い構造によって、上流端が高くなっている回転ブレードと、この回転ブレードの回転進行方向前側に位置する回転ブレードとの配置間隔は、他の前記複数の回転ブレードの配置間隔よりも広く設定されていること
を特徴とする請求項4に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードのうち、前記段違い構造によって上流端が高くなっている回転ブレードの回転進行方向前側に位置する前記回転ブレードの下流端は、他の前記複数の回転ブレードの下流端よりも前記吸気口方向に引っ込んでいること
を特徴とする請求項4に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードのうち、前記段違い構造によって上流端が高くなっている回転ブレードの下流端は、他の前記複数の回転ブレードの下流端よりも長くなるように延長されていること
を特徴とする請求項4に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記段違い構造による段差の高さが階段状に変化する構成になっていること
を特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記段違い構造による段差の高さがテーパ状に変化する構成になっていること
を特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項10】
前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードのうち、少なくともいずれか一枚の回転ブレードの全体又はその一部に対して、前記粒子移送段を構成する前記ブレードが別部品として取り付けられること
を特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項11】
前記粒子移送段を構成する前記ブレードの仰角が、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードの仰角よりも小さく設定されていること
を特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項12】
前記粒子移送段を構成する前記ブレードは、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードより離れた位置に設けられること
を特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の真空ポンプに用いられ、前記粒子移送段を構成する前記ブレードを備えたブレード部品。
【請求項14】
吸気口から排気口までの間に、ガス分子を排気する手段として機能する複数の排気段を有し、前記複数の排気段は、排気段ごとに、放射状に所定間隔で配置された複数の回転ブレードと固定ブレードとにより前記ガス分子を排気する構造になっている真空ポンプであって、
最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードのうち、少なくとも一部の上流端の高さを低くすることで、それら全体として上流端の高さが異なる段違い構造になり、前記ガス分子の排気方向に粒子を移送する粒子移送段になっており、
前記高さが異なる段違い構造の高さの高い回転ブレードで、入射角と反射角が等しく反射する前記粒子が、前記高さの高い回転ブレードと、前記高さの高い回転ブレードの回転による進行方向前側の前記回転ブレードによって少なくとも一部が区画される流路に入り、
前記高さの高い回転ブレードの枚数は、前記高さが異なる段違い構造の高さの低い回転ブレードの枚数より少なく、
前記高さの高い回転ブレードの突出部は、少なくとも一部が以下の式(2)を満たすこと
を特徴とする真空ポンプ。

Zp2≧(πD・n/N)×Vp/Vr ・・・ 式(2)

Zp2:前記高さの高いブレードの突出高さ
D:直径D部の寸法
n:前記高さの高いブレードの間に位置する前記回転ブレードの枚数
N:前記最上段の排気段を構成する前記回転ブレードの枚数
Vp:前記粒子の落下速度
Vr:前記ブレードの回転速度
【請求項15】
前記段違い構造による段差の高さが階段状に変化する構成になっていること
を特徴とする請求項14項に記載の真空ポンプ。
【請求項16】
前記段違い構造による段差の高さがテーパ状に変化する構成になっていること
を特徴とする請求項14項に記載の真空ポンプ。
【請求項17】
請求項1ないし請求項12または請求項14ないし請求項16のいずれか1項に記載の真空ポンプに用いられ、前記粒子移送段を構成する前記ブレードを備えたロータ。
【請求項18】
前記最上段の排気段の上流に、反射手段として、その最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードとは逆向きの角度で傾いた固定のブレードを設けたこと
を特徴とする請求項1ないし請求項12または請求項14ないし請求項16のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項19】
請求項18に記載の真空ポンプに用いられる固定のブレードであって、前記最上段の排気段の上流に、前記反射手段として、その最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードとは逆向きの角度で傾いたことを特徴とする固定のブレード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置、フラット・パネル・ディスプレイ製造装置、ソーラー・パネル製造装置におけるプロセスチャンバ、その他の真空チャンバのガス排気手段として利用される真空ポンプに関し、特に、真空ポンプのガス分子排気性能を損なうことなく、真空ポンプからチャンバへの粒子(パーティクル)の逆流を効果的に防止することができ、逆流の粒子によるチャンバ内の汚染を防止するのに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプやねじ溝式ポンプなどの真空ポンプは、高真空を必要とする真空チャンバの排気に多用されている。図18は、真空チャンバのガス排気手段として従来の真空ポンプを採用した排気システムの概要図、図19(a)は、図18に示した従来の真空ポンプにおける最上段の排気段を図18の矢印D方向から回転ブレードを見た状態の模式図、(b)は図19(a)に示した回転ブレードの上端面側(吸気口側)に位置するブレードエッジ部の拡大図である。
【0003】
図18の排気システムを構成する従来の真空ポンプZは、吸気口2から排気口3までの間に、ガス分子を排気する手段として機能する複数の排気段PTを有している。
【0004】
従来の真空ポンプZにおける各排気段PTは、排気段PTごとに、放射状に所定間隔で配置された複数の回転ブレード7と固定ブレード8とによりガス分子を排気する構造になっている。
【0005】
前記のようなガス分子の排気構造において、回転ブレード7は、磁気軸受などの軸受手段によって回転可能に支持されたロータ6の外周面に一体に形成され、かつ、ロータ6と一緒に高速で回転する。この一方、固定ブレード8は、外装ケース1の内面に固定されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
ところで、図18の排気システムでは、真空チャンバCH内においてCVDなどのケミカルプロセスが行われ、それにより副次的に生成される微粒子状のプロセス副生成物は、真空チャンバCH内を浮遊・拡散し、自重やガス分子による移送効果により真空ポンプZの吸気口2に向って落下すると想定される。また、真空チャンバCHの内壁面に付着・堆積した堆積物や、圧力調整バルブBLに付着・堆積した堆積物なども、振動などによって剥がれ落ち、自重により真空ポンプZの吸気口2に向って落下することが想定される。
【0007】
そして、前記のような落下によって吸気口2に到来した粒子は、吸気口2から更に落下し、図19(a)に示したように最上段の排気段PT(PT1)に入射する。このように入射した粒子Paが高速で回転している該排気段PT(PT1)の回転ブレード7に衝突すると、衝突した粒子は、図19(b)に示したように、回転ブレード7の上端面側に位置するブレードエッジ部EGとの衝突で弾かれ、吸気口2方向に跳ね返り逆流し、このような逆流粒子によって真空チャンバCH内は汚染される恐れがある。
【0008】
前記のような逆流粒子による真空チャンバCH内の汚染を防止する手段として、従来の真空ポンプZでは、最上段の排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7の具体的な構成として、例えば、図19(b)に示した回転ブレード7を採用している。
【0009】
図19(b)に示した回転ブレード7では、前記のように逆流する粒子の比率を減らす手段として、ブレードエッジ部EGに対して機械加工による面取り部MSを設けている(例えば、特許文献1を参照)。
【0010】
ところで、特許文献1の段落0026から段落0027の記載を参照すると、回転ブレード7のブレードエッジ部EG付近における粒子の衝突可能領域は極小さい(0.3mm以下)。その衝突可能領域は、最大でも実用(量産)的に機械加工で製作可能なエッジの面取りと同レベルのサイズである。
【0011】
特許文献1に記載された従来の真空ポンプにおいては、前記のように極小さい衝突可能領域のみに面取りの削り範囲を限定し、かつ、吸気口側へ粒子が反射される確率を低減するために、その面取り面を回転体(4)の軸方向に対して平行(本出願の図19(b)を参照)若しくはガス分子排気方向である下向き(本出願の図20を参照)となるように形成している。
【0012】
しかしながら、面取り部MSの機械加工時に生じる加工エッジ部の鈍りや、回転ブレード7表面の耐食性を高めるためのメッキによって、面取り部MSの上部MCが凸円弧面の形状になることは避けられない。そのような凸円弧面に落下した粒子は、凸円弧面との衝突で弾かれ、吸気口2側に跳ね返り、真空チャンバCH方向に逆流するから、特許文献1に記載された従来の真空ポンプのようにブレードエッジ部EGに面取り部MSを設ける構成によると、真空ポンプZから真空チャンバCHへの粒子の逆流を効果的に防止できず、逆流する粒子による真空チャンバCH内の汚染を防止するには不十分である。
【0013】
特に、特許文献1の図1ないし図3を参照すると、面取り部の面取り面(28a)は前述のように回転体(4)の軸方向に対して平行もしくは下向き(分子排気方向)に形成してあるので、粒子はこの面取り面(28a)に入射した後、水平方向、又はやや下流向きに反射される。この場合、粒子の下流向きの速度が小さいため、反射後は回転方向前方の回転ブレード(同文献1の図3上、左側の回転ブレード28)の背面(回転方向裏側の吸気口方向を向いた斜面。以下も同様とする)に再衝突し、吸気口側に再反射されるおそれがあった。
【0014】
ところで、前記のように逆流する粒子の比率を減らすための構成として、最上段の排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7の配置間隔を全体的に広げる構成や、回転ブレード7の周速を下げるといった構成が考えられるが、これらの構成によると、いずれも真空ポンプZとしてのガス分子排気性能が損なわれるという問題が生じる。
【0015】
また、前記のように逆流する粒子の比率を減らすための具体的な構成として、図20に示したように、前述の面取り部MSを分子排気方向に向けて下向きに機械加工で傾斜させるという構成も考えられる。しかしながら、このような構成によると、回転ブレード7の上端7A面と面取り部MSの面(面取り面)との成す角度が鋭角になるため、機械加工によるバリが生じやすく、加工コストがアップするし、また、機械加工時に生じる加工エッジ部の鈍りや、前述のメッキによる凸円弧面の曲率が大となるため、逆流する粒子の比率が逆に増大してしまうという逆効果をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特許第5463037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたもので、その目的は、真空ポンプのガス分子排気性能を損なうことなく、真空ポンプから真空チャンバへの粒子の逆流を効果的に防止することができ、逆流の粒子による真空チャンバ内の汚染を防止するのに好適な、真空ポンプとこれに用いられるブレードを備える部品およびロータならびに固定のブレードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するために、本発明(1)は、吸気口から排気口までの間に、ガス分子を排気する手段として機能する複数の排気段を有し、前記複数の排気段は、排気段ごとに、放射状に所定間隔で配置された複数の回転ブレードと固定ブレードとにより前記ガス分子を排気する構造になっている真空ポンプであって、前記複数の排気段のうち最上段の排気段から前記吸気口までの間に、前記ガス分子の排気方向に粒子を移送する粒子移送段として、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードと一緒に回転し、かつ、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードの枚数よりも少ない枚数のブレードを備え、前記ブレードで、入射角と反射角が等しく反射する前記粒子が、前記ブレードに隣接する前記回転ブレードと、前記ブレードに隣接する前記回転ブレードの回転による進行方向前側の前記回転ブレードによって少なくとも一部が区画される流路に入り、前記ブレードの高さは、以下の式(1)を満たすことを特徴とする。

Zp2≧(πD・n/N)×Vp/Vr ・・・ 式(1)

Zp2:前記ブレードの高さ
D:直径D部の寸法
n:前記ブレードの間に位置する前記回転ブレードの枚数
N:前記最上段の排気段を構成する前記回転ブレードの枚数
Vp:前記粒子の落下速度
Vr:前記ブレードの回転速度
【0019】
前記本発明(1)において、前記粒子移送段を構成する前記ブレードは、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードに隣接して設けられていることを特徴としてもよい。
【0020】
前記本発明(1)において、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードのうち、少なくともいずれか一枚の回転ブレードの全体又はその一部に対して、前記粒子移送段を構成する前記ブレードが一体に設けられることを特徴としてもよい。
【0021】
前記本発明(1)において、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードのうち、前記粒子移送段を構成する前記ブレードに隣接している回転ブレードの高さが、前記粒子移送段を構成する前記ブレードによって延長されることにより、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードは、それら全体として上流端の高さが異なる段違い構造になっていることを特徴としてもよい。
【0022】
前記本発明(1)において、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードのうち、前記段違い構造によって上流端が高くなっている回転ブレードと、この回転ブレードの回転進行方向前側に位置する回転ブレードとの配置間隔は、他の前記複数の回転ブレードの配置間隔よりも広く設定されていることを特徴としてもよい。
【0023】
前記本発明(1)において、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードのうち、前記段違い構造によって上流端が高くなっている回転ブレードの回転進行方向前側に位置する前記回転ブレードの下流端は、他の前記複数の回転ブレードの下流端よりも前記吸気口方向に引っ込んでいることを特徴としてもよい。
【0024】
前記本発明(1)において、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードのうち、前記段違い構造によって上流端が高くなっている前記回転ブレードの下流端は、他の前記複数の回転ブレードの下流端よりも長くなるように延長されていることを特徴としてもよい。
【0025】
前記本発明(1)において、前記段違い構造による段差の高さが階段状に変化する構成になっていることを特徴としてもよい。
【0026】
前記本発明(1)において、前記段違い構造による段差の高さがテーパ状に変化する構成になっていることを特徴としてもよい。
【0027】
前記本発明(1)において、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードのうち、少なくともいずれか一枚の回転ブレードの全体又はその一部に対して、前記粒子移送段を構成する前記ブレードが別部品として取り付けられることを特徴としてもよい。
【0028】
前記本発明(1)において、前記粒子移送段を構成する前記ブレードの仰角が、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードの仰角よりも小さく設定されていることを特徴としてもよい。
【0029】
前記本発明(1)において、前記粒子移送段を構成する前記ブレードは、前記最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードより離れた位置に設けられることを特徴としてもよい。
【0030】
本発明(2)は、前記本発明(1)の真空ポンプに用いられ、前記粒子移送段を構成する前記ブレードを備えたブレード部品である。
【0031】
本発明(3)は、吸気口から排気口までの間に、ガス分子を排気する手段として機能する複数の排気段を有し、前記複数の排気段は、排気段ごとに、放射状に所定間隔で配置された複数の回転ブレードと固定ブレードとにより前記ガス分子を排気する構造になっている真空ポンプであって、最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードのうち、少なくとも一部の上流端の高さを低くすることで、それら全体として上流端の高さが異なる段違い構造になり、前記ガス分子の排気方向に粒子を移送する粒子移送段になっており、前記高さが異なる段違い構造の高さの高い回転ブレードで、入射角と反射角が等しく反射する前記粒子が、前記高さの高い回転ブレードと、前記高さの高い回転ブレードの回転による進行方向前側の前記回転ブレードによって少なくとも一部が区画される流路に入り、前記高さの高い回転ブレードの枚数は、前記高さが異なる段違い構造の高さの低い回転ブレードの枚数より少なく、前記高さの高い回転ブレードの突出部は、少なくとも一部が以下の式(2)を満たすことを特徴とする。

Zp2≧(πD・n/N)×Vp/Vr ・・・ 式(2)

Zp2:前記高さの高いブレードの突出高さ
D:直径D部の寸法
n:前記高さの高いブレードの間に位置する前記回転ブレードの枚数
N:前記最上段の排気段を構成する前記回転ブレードの枚数
Vp:前記粒子の落下速度
Vr:前記ブレードの回転速度
【0032】
前記本発明(3)において、前記段違い構造による段差の高さが階段状に変化する構成になっていることを特徴としてもよい。
【0033】
前記本発明(3)において、前記段違い構造による段差の高さがテーパ
状に変化する構成になっていることを特徴としてもよい。
【0034】
本発明(4)は、前記本発明(1)または前記本発明(3)の真空ポンプに用いられ、前記粒子移送段を構成する前記ブレードを備えたロータである。
【0035】
前記本発明(1)または前記本発明(3)において、前記最上段の排気段の上流に、反射手段として、その最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードとは逆向きの角度で傾いた固定のブレードを設けたことを特徴としてもよい。
【0036】
本発明(5)は、前記本発明(1)または前記本発明(3)の真空ポンプに用いられる固定のブレードであって、前記最上段の排気段の上流に、前記反射手段として、その最上段の排気段を構成する前記複数の回転ブレードとは逆向きの角度で傾いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明にあっては、前記の通り、ガス分子の排気方向に粒子を移送する粒子移送段として、最上段の排気段を構成する回転ブレードと一緒に回転し、かつ、最上段の排気段を構成する回転ブレードの枚数よりも少ない枚数のブレードを備える構成、又は、最上段の排気段を構成する回転ブレードに一体に設けられたブレードを備える構成を採用したため、真空ポンプのガス分子排気性能を損なうことなく、真空ポンプから真空チャンバへの粒子の逆流を効果的に防止することができ、逆流の粒子による真空チャンバ内の汚染を防止するのに好適な、真空ポンプとこれに用いられるブレード部品およびロータを提供し得る。 そして、粒子移送段は、排気段とは別に設けた構造と排気段と一体となった構造のどちらでも、元の排気段構造よりも排気性能を向上させることも可能である。 その理由は、下記《理由1》および《理由2》の通りである。《理由1》 本発明では、粒子移送段は、吸気口から落下する粒子を効率よく排気できるようにする手段として、例えば、最上段の排気段を構成する回転ブレードの配置間隔を広げる等、排気段の分子排気性能を低下させるような設計変更を行なう必要がなく、ガス分子の排気に好適な条件となるように設計された複数の排気段によって効率よくガス分子を排気することができる。
【0038】
《理由2》 本発明では、粒子移送段を構成するブレードの枚数の方が最上段の排気段を構成する回転ブレードの枚数よりも少ないことで、粒子移送段を構成するブレードの配置間隔の方が最上段の排気段を構成する回転ブレードの配置間隔よりも広く設定される。このため、粒子移送段における粒子の衝突可能領域(=ブレードの配置間隔×粒子の落下速度/ブレードの回転速度)と、最上段の排気段における粒子の衝突可能領域(=回転ブレードの配置間隔×粒子の落下速度/回転ブレードの回転速度)とを比較した場合に、粒子の衝突可能領域は、前者、すなわち粒子移送段における粒子の衝突可能領域の方が大となるので、粒子移送段と排気段の比較において、粒子移送段は、ブレードとの衝突によって排気方向(具体的には排気段の方向)に反射される粒子、すなわち排気方向反射粒子の比率が高く、ブレードとの衝突によって吸気口の方向に跳ね返される粒子、すなわち逆流粒子の比率は低くなる。その理由は要するに、粒子の衝突可能領域が広がると、回転ブレードやブレードにおいて分子排気方向を向いて傾斜している斜面に衝突してガス分子排気方向に反射される確率が、吸気口方向に逆流する確率の高い面(具体的には、前述の面取り面および面取り部の上部に位置する凸円弧面)に衝突する確率よりも、優位になるためである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明を適用した真空ポンプの断面図。
図2】(a)は図1の真空ポンプにおける粒子移送段をロータの外周面側から見た状態の説明図、(b)は図2(a)のA矢視図、(c)は図2(a)のB矢視図。
図3】粒子移送段を備えない真空ポンプ(従来の真空ポンプに相当)において落下する粒子の衝突可能領域の説明図
図4】粒子移送段を備える図1の真空ポンプ(本発明の真空ポンプに相当)において落下する粒子の衝突可能領域の説明図。
図5】(a)(b)(c)(d)および(e)は粒子移送段の他の実施形態(その1)の説明図。
図6】粒子移送段の他の実施形態(その2)の説明図。
図7】粒子移送段の他の実施形態(その3)の説明図。
図8】粒子移送段の他の実施形態(その4)の説明図。
図9】(a)(b)および(c)は粒子移送段の他の実施形態(その5)の説明図。
図10】粒子移送段の他の実施形態(その6)の説明図。
図11】粒子移送段の他の実施形態(その7)の説明図。
図12図11のC矢視図。
図13】粒子移送段の他の実施形態(その8)の説明図。
図14】粒子移送段の他の実施形態(その10)の説明図。
図15】粒子移送段の他の実施形態(その11-1)の説明図。
図16】粒子移送段の他の実施形態(その11-2)の説明図。
図17】粒子移送段付近における本発明の他の実施形態の説明図。
図18】真空チャンバのガス排気手段として従来の真空ポンプを採用した排気システムの概要図。
図19】(a)は、図18に示した従来の真空ポンプにおける最上段の排気段を図18の矢印D方向から排気段の回転ブレードを見た状態の模式図、(b)は図19(a)に示した回転ブレードの上端面側に位置するブレードエッジ部の拡大図。
図20】面取り部を分子排気方向に向けて下向きに機械加工で傾斜させた状態の説明図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態では真空ポンプの一例として、排気機構として複数の排気段からなるターボ分子ポンプ部とねじ溝排気段とを備えている、いわゆる複合翼タイプのターボ分子ポンプを用いて説明する。なお、本実施形態は、ターボ分子ポンプ部のみを有するポンプに適用しても良い。
【0041】
図1は、本発明を適用した真空ポンプの断面図である。
【0042】
図1を参照すると、同図の真空ポンプP1は、断面筒状の外装ケース1と、外装ケース1内に配置されたロータ6と、ロータ6を回転可能に支持する支持手段と、ロータ6を回転駆動する駆動手段を備えている。
【0043】
外装ケース1は、筒状のポンプケース1Aと有底筒状のポンプベース1Bとをその筒軸方向に締結ボルトで一体に連結した有底円筒形になっており、ポンプケース1Aの上端部側は、ガスを吸気するための吸気口2として開口し、また、ポンプベース1Bの下端部側面には、外装ケース1外へガスを排気するための排気口3を設けてある。
【0044】
吸気口2は、圧力調整バルブBL(図18を参照)を介して、半導体製造装置のプロセスチャンバなどのように高真空となる真空チャンバCH(図18を参照)に接続される。排気口3は、図示しない補助ポンプに連通接続される。
【0045】
ポンプケース1A内の中央部には各種電装品を内蔵する円筒状のステータコラム4が設けられている。図1の真空ポンプP1では、ポンプベース1Bとは別部品としてステータコラム4を形成してポンプベース1Bの内底にネジ止め固定することで、ステータコラム4をポンプベース1B上に立設しているが、これとは別の実施形態として、このステータコラム4をポンプベース1Bの内底に一体に立設してもよい。
【0046】
ステータコラム4の外側には前述のロータ6が設けられている。ロータ6は、ポンプケース1A及びポンプベース1Bに内包され、かつ、ステータコラム4の外周を囲む円筒形状になっている。
【0047】
ステータコラム4の内側にはロータ軸5が設けられている。ロータ軸5は、その上端部が吸気口2の方向を向き、その下端部がポンプベース1Bの方向を向くように配置してある。また、ロータ軸5は、磁気軸受(具体的には、公知の2組のラジアル磁気軸受MB1と1組のアキシャル磁気軸受MB2)により回転可能に支持されている。さらに、ステータコラム4の内側には駆動モータMOが設けられており、この駆動モータMOによりロータ軸5はその軸心周りに回転駆動される。
【0048】
ロータ軸5の上端部はステータコラム4の円筒上端面から上方に突出し、その突出したロータ軸5の上端部に対してロータ6の上端側がボルト等の締結手段で一体に固定されている。したがって、ロータ6は、ロータ軸5を介して、磁気軸受(ラジアル磁気軸受MB1、アキシャル磁気軸受MB2)で回転可能に支持されており、また、この支持状態において、駆動モータMOを起動すると、ロータ6は、ロータ軸5と一体にそのロータ軸心周りに回転することができる。要するに、図1の真空ポンプP1では、ロータ軸5と磁気軸受がロータ6を回転可能に支持する支持手段として機能し、また、駆動モータMOがロータ6を回転駆動する駆動手段として機能する。
【0049】
そして、図1の真空ポンプP1は、吸気口2から排気口3までの間に、ガス分子を排気する手段として機能する複数の排気段PTを備えている。
【0050】
また、図1の真空ポンプP1において、複数の排気段PTの下流部、具体的には複数の排気段PTのうち最下段の排気段PT(PTn)から排気口3までの間には、ネジ溝ポンプ段PSが設けられている。
【0051】
更に、図1の真空ポンプP1において、複数の排気段PTの上流部、具体的には複数の排気段PTのうち最上段の排気段PT(PT1)から吸気口2までの間には、ガス分子の排気方向に粒子を移送する粒子移送段PNが設けられている。最上段の排気段PT(PT1)と粒子移送段PNは、一体に設けられた構造であっても良い。
【0052】
《排気段の詳細》 図1の真空ポンプP1は、ロータ6の略中間より上流が複数の排気段PTとして機能する。以下、複数の排気段PTを詳細に説明する。
【0053】
ロータ6の略中間より上流のロータ6外周面には、ロータ6と一体に回転する複数の回転ブレード7が設けられており、これらの回転ブレード7は、排気段PT(PT1、PT2、…PTn)ごとに、ロータ6の回転中心軸(具体的にはロータ軸5の軸心)若しくは外装ケース1の軸心(以下「真空ポンプ軸心」という)を中心として放射状に所定間隔で配置されている。
【0054】
一方、ポンプケース1Aの内周側には複数の固定ブレード8が設けられており、これらの固定ブレード8もまた、回転ブレード7と同じく、排気段PT(PT1、PT2、…PTn)ごとに、真空ポンプ軸心を中心として放射状に所定間隔で配置されている。
【0055】
つまり、図1の真空ポンプP1における各排気段PT(PT1、PT2、…PTn)は吸気口2から排気口3までの間に多段に設けられるとともに、排気段PT(PT1、PT2、…PTn)ごとに、放射状に所定間隔で配置された複数の回転ブレード7と固定ブレード8とを備え、これらによりガス分子を排気する構造になっている。
【0056】
いずれの回転ブレード7も、ロータ6の外径加工部と一体的に切削加工で切り出し形成したブレード状の切削加工品であって、ガス分子の排気に最適な角度で傾斜している。いずれの固定ブレード8もまた、ガス分子の排気に最適な角度で傾斜している。
【0057】
《複数の排気段による排気動作説明》 以上の構成からなる複数の排気段PTにおいて、最上段の排気段PT(PT1)では駆動モータMOの起動により、ロータ軸5およびロータ6と一体に複数の回転ブレード7が高速で回転し、回転ブレード7の回転方向前面かつ下向き(吸気口2から排気口3に向かう方向、以降下向きと略する)の傾斜面により吸気口2から入射したガス分子に下向き方向かつ接線方向の運動量を付与する。この下向き方向の運動量を有するガス分子が固定ブレード8に設けられた回転ブレード7と回転方向に逆向きの下向きの傾斜面によって次の排気段PT(PT2)へ送り込まれる。また、次の排気段PT(PT2)およびそれ以降の排気段PTでも、最上段の排気段PT(PT1)と同じく、回転ブレード7が回転し、前記のような回転ブレード7によるガス分子への運動量の付与と固定ブレード
8によるガス分子の送り込み動作とが行われることで、吸気口2付近のガス分子は、ロータ6の下流に向かって順次移行するように排気される。
【0058】
《ネジ溝ポンプ段の詳細》 図1の真空ポンプP1においては、ロータ6の略中間より下流がネジ溝ポンプ段PSとして機能するように構成してある。以下、ネジ溝ポンプ段PSを詳細に説明する。
【0059】
ネジ溝ポンプ段PSは、ロータ6の外周側(具体的には、ロータ6の略中間より下流のロータ6部分の外周側)にネジ溝排気流路Rを形成する手段として、ネジ溝排気部ステータ9を有しており、このネジ溝排気部ステータ9は、固定部材として、外装ケース1の内周側に取付けてある。
【0060】
ネジ溝排気部ステータ9は、その内周面がロータ6の外周面に対向するように配置された円筒形の固定部材であって、ロータ6の略中間より下流のロータ6部分を囲むように配置してある。
【0061】
そして、ロータ6の略中間より下流のロータ6部分は、ネジ溝排気部PSの回転部材として回転する部分であって、ネジ溝排気部ステータ9の内側に、所定のギャップを介して挿入・収容されている。
【0062】
ネジ溝排気部ステータ9の内周部には、深さが下方に向けて小径化したテーパコーン形状に変化するネジ溝91を形成してある。このネジ溝91はネジ溝排気部ステータ9の上端から下端にかけて螺旋状に刻設してある。
【0063】
前記のようなネジ溝91を備えたネジ溝排気部ステータ9により、ロータ6の外周側には、ガス排気のためのネジ溝排気流路Rが形成される。なお、図示は省略するが、先に説明したネジ溝91をロータ6の外周面に形成することで、前記のようなネジ溝排気流路Rが設けられるように構成してもよい。
【0064】
ネジ溝排気部PSでは、ネジ溝91とロータ6の外周面でのドラック効果により、気体を圧縮しながら移送するため、ネジ溝91の深さは、ネジ溝排気流路Rの上流入口側(吸気口2に近い方の流路開口端)で最も深く、その下流出口側(排気口3に近い方の流路開口端)で最も浅くなるように設定してある。
【0065】
ネジ溝排気流路Rの入口(上流開口端)は、最下段の排気段PTnを構成する固定ブレード8Eとネジ溝排気部ステータ9との間の隙間(以下「最終隙間GE」という)に向って開口し、また、同ネジ溝排気流路Rの出口(下流開口端)は、ポンプ内排気口側流路Sを通じて排気口3に連通している。
【0066】
ポンプ内排気口側流路Sは、ロータ6やネジ溝排気部ステータ9の下端部とポンプベース1Bの内底部との間に所定の隙間(図1の真空ポンプP1では、ステータコラム4の下部外周を一周する形態の隙間)を設けることによって、ネジ溝排気流路Rの出口から排気口3に至るように形成してある。
【0067】
《ネジ溝排気部における排気動作説明》 先に説明した複数の排気段PTの排気動作による移送によって前述の最終隙間GEに到達したガス分子は、ネジ溝排気流路Rに移行する。移行したガス分子は、ロータ6の回転によって生じるドラッグ効果によって、遷移流から粘性流に圧縮されながらポンプ内排気口側流路Sに向かって移行する。そして、ポンプ内排気口側流路Sに到達したガス分子は排気口3に流入し、図示しない補助ポンプを通じて外装ケース1の外へ排気される。
【0068】
《粒子移送段の詳細》 図2(a)は、図1の真空ポンプにおける粒子移送段をロータの外周面側から見た状態の説明図、図2(b)は、同図(a)のA矢視図、図2(c)は、同図(a)のB矢視図である。
【0069】
図2(a)を参照すると、図1の真空ポンプP1における粒子移送段PNは、最上段の排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7と一緒に回転し、かつ、最上段の排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7の枚数よりも少ない枚数のブレードNBを備えた構造になっている。
【0070】
粒子移送段PNを構成する回転ブレード7の枚数は、前記の通り、最上段の排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7の枚数よりも少ないから、粒子移送段PNを構成する回転ブレード7の配置間隔L2は、最上段の排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7の配置間隔L1よりも広くなるように設定される(L1<L2)。
【0071】
図1の真空ポンプP1では、粒子移送段PNを構成するブレードNBの具体的な構成として、当該ブレードNBは、図2(a)のように最上段の排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7に隣接して設けている。
【0072】
前記のような隣接の構造を採用したことにより、図1の真空ポンプP1において、最上段の排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7のうち、粒子移送段PNを構成するブレードNBに隣接している回転ブレード7(71、74)の高さは、粒子移送段PNを構成するブレードNBによって延長され、これにより、最上段の排気段PT(PT1)を構成する複数の回転ブレード7は、それら全体として上流端7Aの高さが異なる段違い構造になっている。
【0073】
前記のような隣接の具体的な構成例として、図1の真空ポンプP1では、図2(a)のように前述のブレードNBと回転ブレード7が一部品として一体に設けられる構造を採用している。
【0074】
すなわち、図1の真空ポンプP1では、図2(a)に示したように、最上段の排気段PT(PT1)を構成する複数の回転ブレード7、7…のうち、少なくともいずれか1枚の回転ブレード7(71、74)の全体(具体的には、回転ブレード7の直径D方向および厚みT方向全体)に対して、粒子移送段PNを構成するブレードNBが一体に設けられる構造(以下「ブレード一体構造」という)を採用している。
【0075】
図2(a)の例では、前記のようなブレード一体構造の採用により、2枚の回転ブレード72、73の両側に位置する2枚の回転ブレード71、74の上流端7Aが、他の回転ブレード72、73、75の上流端7Aより高くなる構成を開示しているが、これに限定されることはない。上流端7Aの高い回転ブレード71、74間に位置する回転ブレード72、73の枚数は、必要に応じて適宜増減することが可能である。
【0076】
《粒子移送段の動作説明》 図18を参照すると、真空チャンバCH内でのケミカルプロセスにより副次的に生成される微粒子状のプロセス副生成物は、真空チャンバCH内を浮遊・拡散し、自重やガス分子による移送効果により真空ポンプP1の吸気口2に向って落下すると想定される。また、真空チャンバCHの内壁面に付着堆積した堆積物や圧力調整バルブBLに付着堆積した堆積物等も、振動などによって剥がれ落ち、自重により真空ポンプP1の吸気口2に向って落下することが想定される。
【0077】
図2(a)を参照すると、前記のような落下によって吸気口2に到来した粒子Paは吸気口2から更に落下し、最初に粒子移送段PNに入射する。そして、入射した粒子Paは粒子移送段PNを構成するブレードNBに衝突する。
【0078】
その際、粒子移送段PNでは、ブレードNBに対して衝突する複数の粒子のうち、ブレードNBの回転による進行方向前側に位置する該ブレードNBの斜面FS(以下「ブレードNBの前斜面FS」という)との衝突によってガス分子排気方向に反射される粒子(以下「排気方向反射粒子」という)の比率は、増加し、吸気口2方向に跳ね返される粒子(以下「逆流粒子」という)の比率は、減少する。その理由は下記《考察1》と《考察2》の通りである。
【0079】
《考察1》 この考察1では、粒子移送段PNを構成するブレードNBが最上段の排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7に隣接して設けられる構造例について検討する。
【0080】
図1の真空ポンプP1において粒子移送段PNを省略した場合(従来の真空ポンプに相当)、最上段の排気段PT(PT1)における粒子の衝突可能領域Z1(図2(a)参照)は、次式(1)に基づいて特定される。
【0081】
一方、図1の真空ポンプP1のように、粒子移送段PNを備える場合(本発明の真空ポンプに相当)、その粒子移送段PNにおける粒子の衝突可能領域Z2(図2(a)参照)は次式(2)に基づいて特定される。
【0082】
Z1=L1×Vp/Vr …式(1) Z2=L2×Vp/Vr …式(2) L1:回転ブレード7の配置間隔 L2:ブレードNBの配置間隔 Vp:粒子Paの落下速度 Vr:回転ブレード7、ブレードNBの回転速度(周速)
【0083】
図1の真空ポンプP1においては、前述の通り、粒子移送段PNを構成するブレードNBの枚数の方が最上段の排気段PT1を構成する回転ブレード7の枚数よりも少ないことで、粒子移送段PNを構成するブレードNBの配置間隔L2の方が最上段の排気段PT1を構成する回転ブレード7の配置間隔L1よりも広く設定されている。
【0084】
この点を考慮して上式(1)と上式(2)を比較検討すると、Z1よりもZ2の方が大となるので(Z2>Z1)、前述のように、粒子移送段PNでは、排気方向反射粒子の比率が増加し、逆流粒子の比率は減少する。その理由は要するに、粒子の衝突可能領域が広がると、回転ブレード7やブレードNBにおいてガス分子排気方向を向いて傾斜している斜面に衝突してガス分子排気方向に反射される確率が、吸気口2方向に逆流する確率の高い面(具体的には、前述の面取り面および面取り部の上部に位置する凸円弧面)に衝突する確率よりも、優位になるためである。
【0085】
《考察2》 図3は、粒子移送段を備えない真空ポンプ(従来の真空ポンプに相当)において、落下する粒子の衝突可能領域の説明図、図4は、粒子移送段を備える図1の真空ポンプ(本発明の真空ポンプに相当)において、落下する粒子の衝突可能領域の説明図である。
【0086】
考察2では、前述の段違い構造について検討する。
【0087】
図3を参照すると、前述の段違い構造を備えない、すなわち粒子移送段PNを省略した真空ポンプ(従来の真空ポンプに相当)において、最上段の排気段P(PT1)の直径D部(図2(c)参照)における粒子の衝突可能領域Zp1については、次式(3)で求まる。
【0088】
Zp1={(πD/N-T)Vp}/(Vr) …式(3) N:最上段の排気段を構成する回転ブレード7の枚数 D:直径D部の寸法(図2(c)参照) T:最上段の排気段を構成する回転ブレード7の直径D部における軸直角厚み(図2(c)参照) Vp:粒子の落下速度 Vr:回転ブレード7の直径D部における回転速度(周速)
【0089】
図4を参照すると、前述の段違い構造における段差の高さ(突出高さ)Zp2については、次式(4)に基づいて特定される。
【0090】
次式(4)は、図2(a)における2枚の回転ブレード72、73を図3のようにn枚の回転ブレード7、7…として考え、n枚の回転ブレード7、7の両側に位置する回転ブレード71、74の上流端7Aが他の回転ブレード(71、74以外)の上流端より高くなっている段違い構造について適用したものである。
【0091】
Zp2={(πD・n/N)Vp}/(Vr) …式(4) n:上流端が高い回転ブレード71、74間に位置する回転ブレードの枚数 D:直径D部の寸法(図2(c)参照) N:最上段の排気段を構成する回転ブレード7の枚数 Vp:粒子Paの落下速度 Vr:回転ブレード7の直径D部における回転速度(周速)
【0092】
図2(c)の直径D部において、n枚の回転ブレード7と、その両側に位置する回転ブレード7(71、74)との段差を図4のようにZp2以上にすれば、符号71と74の回転ブレード間の空間(図2ではL2に相当)に落下した粒子は、n枚の回転ブレード7に衝突することなく、符号74の回転ブレードの前面に衝突する。そして、符号74の回転ブレードの前面への粒子の衝突可能領域は、次式(5)による後述のZp3で特定される。
【0093】
前述の段違い構造を備える、すなわち
粒子移送段PNを備える図1の真空ポンプ(本発明の真空ポンプに相当)では、最上段の排気段PT(PT1)を構成する複数の回転ブレード7は、それら全体として上流端7Aの高さが異なる段違い構造になっている。この段違い構造は、前記の通り、粒子移送段PNを構成するブレードNBに隣接している回転ブレード7の高さが前記ブレードNBによって延長されたことによるものであるから、この考察2では“ブレードNBの高さZp2分だけ上流端が高い回転ブレードが存在する”と考える。
【0094】
このように考えた場合において、最上段の排気段PT(PT1)における直径D部(図2(c)参照)での粒子の衝突可能領域Zp3(図4参照)は、次式(5)に基づいて特定される。
【0095】
Zp3=[{πD(n+1)/N-T)}Vp]/(Vr) …式(5) N:最上段の排気段を構成する回転ブレード7の枚数 D:直径D部の寸法(図2(c)参照) T:最上段の排気段を構成する回転ブレード7の直径D部における軸直角厚み(図2(c)参照) Vp:粒子の落下速度 Vr:回転ブレード7の直径D部における回転速度(周速) n:上流端が高い回転ブレード71、74間に位置する回転ブレードの枚数
【0096】
図4を参照すると、回転ブレード7から見た粒子の相対速度Vcは、直径D部(図2参照)における回転ブレード7の回転速度Vrと粒子の落下速度Vpから求められる。図4において、上流端が高い回転ブレード7(71、74)の間隔ないしは区間をブレード間隔L′とすると、図4のA地点から入射した粒子(ブレード間隔L′内で最も下流側まで入射(落下)できる粒子)は、ブレード間隔L′の範囲内で回転ブレード7(74)先端の延長線上に位置するB′地点まで落下する。回転ブレード7(74)の上端面7AからB′地点までの落下距離は、前式(5)で求まるZp3となる。粒子移送段PNを備える図1の真空ポンプ(本発明の真空ポンプに相当)では、このZp3の範囲内に面取りなどのブレード面が無いので、B′地点まで落下した粒子は、更に落下することができ、最終的には回転ブレード7(74)の前面、具体的にはその回転ブレード7(74)の下向き斜面におけるC′地点に衝突する。
【0097】
以上の説明から分かるように、粒子移送段PNを備える図1の真空ポンプ(本発明の真空ポンプに相当)においては、回転ブレード7(74)の上端面7AからC′地点までの粒子の落下距離Zp4が当該粒子の衝突可能領域となり、この衝突可能領域(落下距離Zp4)は前式(5)から得られる衝突可能領域Zp3よりも大きい。
【0098】
要するに、前述の段違い構造による段差の高さをZp2にすると、図4のA点から入射した粒子はB点に衝突するが、そのような段差をZp2以上にすれば、当該粒子はn枚の回転ブレード7に衝突せず、回転ブレード7(74)の前面(例えば、回転ブレード7(74)の下向き斜面におけるC′地点)に衝突する。
【0099】
ここで、上式(3)と上式(5)を比較検討する。その際、簡単のために上式(3)と上式(5)中の回転ブレード7の厚みTを無視して考えると、前記のように段差の高さがZp2以上の段違い構造を採用した場合、すなわち、上式(5)の場合は、上式(3)の場合に比べて、粒子Paの衝突可能領域が(n+1)倍に拡大されるので、排気方向反射粒子の比率は増加し、逆流粒子の比率は減少する。その理由は要するに、粒子の衝突可能領域が広がると、回転ブレード7やブレードNBにおいてガス分子排気方向を向いて傾斜している斜面に衝突してガス分子排気方向に反射される確率が、吸気口2方向に逆流する確率の高い面(具体的には、従来例で説明した面取り面および面取り部の上部に位置する凸円弧面)に衝突する確率よりも、優位になるためである。 なお、ブレードNBが回転ブレード7とは別に設けられている構造でも、上記の動作は同じである。
【0100】
《粒子移送段PNの他の実施形態(その1)》 図1の真空ポンプP1においては、粒子移送段PNの具体的な構成として、回転ブレード7の全体に対してブレードNBが設けられる構成を採用したが、これに限定されることはない。例えば、図5(a)(b)(c)に示したように、回転ブレード7の長さL方向の一部にブレードNBが設けられる構成や、同図(d)(e)に示したように、回転ブレード7の厚みT方向の一部にブレードNBが設けられる構成を採用してもよく、そのような構成によっても前述の作用効果(排気方向反射粒子の比率増加、逆流粒子の比率減少)は得られる。
【0101】
《粒子移送段PNの他の実施形態(その2)》 図1の真空ポンプでは、図2(a)に示したように、最上段の排気段PT(PT1)を構成する複数の回転ブレード7の具体的な構成として、複数の回転ブレード7の間隔は同じ間隔となるように構成したが、これに限定されることはない。例えば、図6に示したように、前述の段違い構造によって上流端が高くなっている回転ブレード7(74)と、この回転ブレード7(74)の回転進行方向前側に位置する回転ブレード73(以下「先行ブレード7(73)」という)との配置間隔は、他の回転ブレード7の配置間隔よりも広く設定することができる。
【0102】
図6を参照すると、前記のような配置間隔の設定を採用した場合は、前述のようにブレードNBの前斜面FSとの衝突で反射した排気方向反射粒子が先行ブレード7(73)に衝突し難くなり、先行ブレード7(73)の背面(回転方向裏側の吸気口2方向を向いた斜面。以下も同様とする)との衝突による反射で吸気口2方向に跳ね返される粒子(これも逆流粒子の一種)が減り、粒子の排気効率がより一層高まる。
【0103】
《粒子移送段PNの他の実施形態(その3)》 図1の真空ポンプでは、図2(a)に示したように、最上段の排気段PT(PT1)を構成する複数の回転ブレード7の具体的な構成として、複数の回転ブレード7の下流端7Bは、同じ高さとなるように構成したが、これに限定されることはない。例えば、図7(a)に示したように、先行ブレード7(73)の下流端7Bは、他の回転ブレード7の下流端7Bよりも吸気口2方向に引っ込んでいる構成(以下「底上げ構造」という)を採用してもよいし、図7(b)に示したように、先行ブレード7(73)の下流端7Bの一部を削って底上げ構造としてもよい。
【0104】
図7(a)(b)を参照すると、前記のような底上げ構造を採用した場合も、前述のようにブレードNBの前斜面FSとの衝突で反射した排気方向反射粒子が先行ブレード7(73)の背面に衝突し難くなり、先行ブレード7(73)の背面との衝突による反射で吸気口2方向に跳ね返される粒子(これも逆流粒子の一種)が減り、粒子の排気効率がより一層高まる。
【0105】
《粒子移送段PNの他の実施形態(その4)》 図1の真空ポンプP1では、複数の回転ブレード7は全体としてその上流端7Aが段違い構造となる構成、つまり、回転ブレード7の上流端7AがブレードNBによって延長されて高くなっている構造(以下「片側延長ブレード構造」という)を採用したが、これに限定されることはない。
【0106】
例えば、前記のような片側延長ブレード構造に加えて更に、図8に示したように、前述の段違い構造によって上流端7Aが高くなっている回転ブレード7(71、74)の下流端7Bは、他の回転ブレード7(72、73、75)の下流端7Bよりも長くなるように延長されている構造(以下「両側延長ブレード構造」という)を採用することも可能である。そのような両側延長ブレード構造の具体的な構成例として、なお、図8では、前述の段違い構造を得るのに用いられているブレードNBと同等のブレードNBによって回転ブレード7(71、74)の下流端7Bを延長しているが、このような延長の形態に限定されることはない。
【0107】
ところで、回転ブレード7はロータ6と一体に回転するので、この回転による遠心力は回転ブレード7の固定端から自由端の方向、若しくは、回転ブレード7の回転中心(具体的にはロータ軸5の軸心)から放射方向に作用する。一般的な回転ブレード7は、その形状が回転軸(具体的にはロータ軸5)に直角かつ放射方向となる直線(以下、ブレードの形状中心)まわりに対称になるように設置されている。これは、前記のような回転による遠心力に起因して、回転ブレード7に発生する力のモーメントが回転ブレードの形状中心周りにアンバランスになり、それによって回転ブレード7の根元部(固定端)にねじりモーメントが発生して疲労破損するなどのリスクを低減するための措置である。
【0108】
先に説明した片側延長ブレード構造では、回転ブレード7の上流端7Aのみが延長されているので、回転ブレード7の形状中心周りのねじりモーメントのアンバランスが発生し易く、そのようなねじりモーメントによって回転ブレード7の固定端付近、すなわちロータ6の外周面側に位置する部分が疲労破壊するなど、回転ブレード7の損傷があり得ると考えられる。
【0109】
それに対し、先に説明した両側延長ブレード構造では、回転ブレード7(71、74)の上流端7Aと下流端7Bの双方に同等のブレードNBが設けられているので、前記のようなねじり力は生じ難く、ねじり力による疲労破壊など、回転ブレード7の損傷も生じ難い。
【0110】
《粒子移送段PNの他の実施形態(その5)》 図1の真空ポンプP1においては、粒子移送段PNを構成するブレードNBの具体的な構成として、当該ブレードNBは、最上段の排気段PT1を構成する回転ブレード7に隣接して設けられる構成、および、その隣接の具体的な構成例として、ブレードNBと回転ブレード7が一部品として一体に設けられる構造(図2(a)参照)を採用したが、これに限定されることはない。
【0111】
前記のような隣接の具体的な他の構成例として、例えは図9(a)に示したように、最上段の排気段PT(PT1)を構成する複数の回転ブレード7のうち、少なくともいずれか一枚の回転ブレード7(71、74)の全体又はその一部に対して、粒子移送段PNを構成するブレードNBが別部品として取り付けられる構成を採用することもできる。このような別部品の構成において、前記“回転ブレードの全体又はその一部”の解釈は、前述の《粒子移送段PNの他の実施形態(その1)》での説明に準ずるので、その詳細説明は省略する。
【0112】
前記別部品として構成した前記ブレードNBを採用した場合もまた、その別部品としてのブレードNBによって、最上段の排気段PT(PT1)を構成する複数の回転ブレード7は、その上流端7Aの高さが異なる段違い構造になるため、前述の作用効果(排気方向反射粒子の比率増加、逆流粒子の比率減少)が得られる。
【0113】
前記のように別部品として構成したブレードNBを採用した場合には、粒子移送段PNを構成するブレードNBと最上段の排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7(71)との間で、例えば、図9(b)のように隙間が生じたり、図9(c)のように相対的なズレが生じたりする場合もあり得る。かかる隙間やズレが生じる構成も前記“隣接”に含まれ、前述の作用効果(排気方向反射粒子の比率増加、逆流粒子の比率減少)は得られる。前記のような隙間やズレは、設計上必要に応じて積極的に設けられる場合と、加工精度との関係で必然的に設けられる場合とがある。
【0114】
前記のように粒子移送段PNを構成するブレードNBを別部品とする構成でも、先に説明した《粒子移送段PNの他の実施形態(その1)》から《粒子移送段PNの他の実施形態(その4)》までの構成を適用してもよい。
【0115】
前記のように別部品として構成したブレードNBを採用した構成において、そのブレードNB、すなわち、粒子移送段PNを構成するブレードNBと、最上段の排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7(71)とは、それぞれのブレード面が直接対向する構造になっており、そのように直接対向するブレード面間に例えば固定ブレード8のような固定部品は介在
しない。この点は先に説明したブレード一体構造(図2(a)参照)でも同様である。
【0116】
《粒子移送段PNの他の実施形態(その6)》 図1の真空ポンプでは、粒子移送段PNの具体的な構成として、粒子移送段PNを構成するブレードNBは、最上段の排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7に隣接して設けられている構成を採用したが、これに限定されることはない。
【0117】
例えば、図10に示したように、粒子移送段PNを構成するブレードNBは、最上段の排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7より所定距離だけ離れた位置に設けられる構成を採用してもよく、このような構成によっても、前述の作用効果(排気方向反射粒子の比率増加、逆流粒子の比率減少)は得られる。
【0118】
《粒子移送段PNの他の実施形態(その7)》 先に説明した図9(a)のように粒子移送段PNを構成するブレードNBが別部品として取り付けられる構成において、そのブレードNBの具体的な取付け構造は、例えば、図11に示したように、ロータ6上端面の凹部61に嵌め込み可能な第1の取付け部材62を用意し、第1の取付け部材62の外周面(具体的には、第1の取付け部材62の外周に設けたフランジ62Aの外周面)で前記ブレードNBを支持するとともに、第1の取付け部材62を前記凹部61に嵌め込んだ状態で第1の取付け部材62とロータ軸5の先端とをボルトBTでネジ止め固定する方式を採用してもよい。
【0119】
前記のような第1の取付け部材62を用いるブレードNBの取付け方式では、ロータ6上端面の凹部61内にガスが溜まる可能性があるので、第1の取付け部材62にガス抜き孔63を設ける、あるいは、第1の取付け部材62のフランジ62Aとロータ6上端面との間にガス抜き溝64を設ける等、ガス抜き手段を備えることが好ましい。
【0120】
ロータ6や回転ブレード7などを含む回転体全体の回転バランスをとるために、図11に示したブレードNBは、その回転体の回転中心から見て図12のように回転対称となるように配置している。このような配置構成については、先に説明した図1から図10図3を除く)のブレードNBや後述の図13図4のブレードNBにも適用できる。
【0121】
《粒子移送段PNの他の実施形態(その8)》 前記のように別部品として構成したブレードNBの具体的な取付け構造については、例えば、図13に示した取付け構造を採用してもよい。この図13の取付け構造では、ロータ軸5の先端に対して取り付け可能な第2の取付け部材65を用意し、この第2の取付け部材65の外周面で前記ブレードNBを支持するとともに、第2の取付け部材65とロータ軸5の先端とをボルトBTでネジ止め固定している。
【0122】
《粒子移送段PNの他の実施形態(その9)》
【0123】
さらに、別部品として構成した前記ブレードの具体的な取付け構造として、図示は省略するが、ロータ6の吸気口側の上端部に対してボルトで前記ブレードをネジ止め固定する方式も採用し得る。
【0124】
《粒子移送段PNの他の実施形態(その10)》 図1の真空ポンプP1では、図2(a)に示したように、粒子移送段PNを構成するブレードNBの仰角θ1と、最上段の排気段PT(PT1)を構成する複数の回転ブレード7の仰角θ2とが同等の角度となるように設定される構成(θ1=θ2)を採用したが、これに限定されることはない。
【0125】
例えば、図14に示したような仰角の設定、すなわち、粒子移送段PNを構成するブレードNBの仰角θ1は、最上段の排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7の仰角θ2よりも小さく設定されように構成(θ1<θ2)してもよい。
【0126】
前記のような仰角の構成を採用した場合は、粒子移送段PNを構成するブレードNBが最上段の排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7(71、74)に対してオーバーハングした形態になり、先行ブレードの方向よりも、ブレード下端間の空間の方向、すなわち、より回転体(具体的には、ロータ6や回転ブレード7などを含む回転体)の軸方向下向きに近い方向の角度に向かって反射するため、ブレードNBの前斜面FSとの衝突で反射した排気方向反射粒子が先行ブレード7(73)の背面に衝突し難くなり、先行ブレード7(73)との衝突による反射で吸気口2方向に跳ね返される粒子(これも逆流粒子の一種)が減り、粒子の排気効率がより一層高まる。
【0127】
また、前記のような仰角の設定は、図14のようにブレードNBが別部品として設けられる構成のみならず、図6のようにブレードNBと回転ブレード7が一体に設けられる構成にも適用できる。
【0128】
《粒子移送段PNの他の実施形態(その11-1および11-2)》 先に説明した段違い構造による段差の高さ(深さ)は1種類に限定されず、複数の段差の高さ(深さ)の組合せとなる構造でも良い。例えば、階段状に形成しても良いし(図15参照)、テーパ状に高さが変化するような形状にしてもよい(図16参照)。さらに、図示は省略するが、複数の段差の高さ(深さ)の組合せ例として、そのような段差の高さ(深さ)がバラバラとなるように設定される構成(段差高さ又は深さ不均一構成)を採用することも可能である。要するに、複数の段差の高さ(深さ)の組合せは必要に応じて適宜変更することができる。また、回転ブレードの半径方向位置によって、段差の高さを変えても良い。
【0129】
図15は、粒子移送段PNの他の実施形態(その11-1)、具体的には、複数の段差の高さの組合せ例として、段差の高さが階段状に変化した構成の説明図である。また、図16は、粒子移送段PNの他の実施形態(その11-2)、具体的には、複数の段差の高さの組合せ例として、段差の高さがテーパ状に変化した構成の説明図である。
【0130】
ここで、例えば図4を参照すると、この図4の例では、前述の段違い構造によって上流端7Aが高くなっている回転ブレード7(71、74)とその間に位置する回転ブレード7、7とにおける段差の高さ(深さ)は、一律に同じZp2またはZp2以上のZp3となるように構成している。
【0131】
それに対し、図15を参照すると、この図15の例では、n枚目の回転ブレード7(80)において前述の段違い構造による段差の高さ(深さ)がZp2以上になるように階段状に変化(h1<h2<h3)した構成(以下「階段形状タイプ構成」という)を採用している。
【0132】
したがって、この階段形状タイプ構成では、段違い構造によって上流端7Aが高くなっている回転ブレード7(76、80)とその間に位置する回転ブレード7(77、78、79)とにおける段差の高さ(深さ)h1、h2、h3は、一律に同じでなく、回転ブレード7の回転方向に向かって順に一段ずつ低くなる(深くなる)ように設定される。このように設定される階段形状タイプ構成を採用した場合でも、図15に示した微粒子Paの飛跡から分かるように微粒子Paが回転ブレード7(77、78、79)に衝突することはなく、前述の作用効果(排気方向反射粒子の比率増加、逆流粒子の比率減少)は得られる。
【0133】
前記階段形状タイプ構成を採用した場合、上流端7Aが高くなっている回転ブレード7(76、80)間に位置する回転ブレード7(77、78、79)の上流端7Aは、いずれも、傾斜のない平面で構成される。
【0134】
図16を参照すると、この図16の例では、n枚目の回転ブレード7(80)において段違い構造による段差の高さ(深さ)がZp2以上になるようにテーパ状に変化(h4<h5<h6)した構成(以下「テーパ形状タイプ構成」という)を採用している。
【0135】
したがって、このテーパ形状タイプ構成でも、前述の段違い構造によって上流端7Aが高くなっている回転ブレード7(76、80)とその間に位置する回転ブレード7(77、78、79)とにおける段差の高さ(深さ)h4、h5、h6は、一律に同じでなく、回転ブレード7の回転方向に向かって連続的に低くなる(深くなる)ように設定される。このように設定されるテーパ形状タイプ構成を採用した場合でも、図16に示した微粒子Paの飛跡から分かるように微粒子Paが回転ブレード7(77、78、79)に衝突することはなく、前述の作用効果(排気方向反射粒子の比率増加、逆流粒子の比率減少)は得られる。
【0136】
前記テーパ形状タイプ構成を採用した場合、上流端7Aが高くなっている回転ブレード7(76、80)間に位置する回転ブレード7(77、78、79)の上流端7Aは、いずれも、所定角度で傾いた傾斜面で構成される。
【0137】
ところで、回転ブレード7の配置間隔と高さの比率は、ガス分子を下流側に効果的に移送できる最適な値に設定されているので、回転ブレード7の高さが異なると、一部の回転ブレード7がその最適な設定値から外れてしまい、真空ポンプ全体としての排気性能の低下をもたらすおそれがある。よって、排気性能を確保する上では、回転ブレード7の高さの差は小さい方が好ましい。
【0138】
この点、先に説明した図15の階段形状タイプ構成や、図16のテーパ形状タイプ構成では、n枚目の回転ブレード7(80)において段違い構造による段差の高さがZp2以上になるように階段状あるいはテーパ状に変化した構成を採用したので、例えば、後述の減高式段違い構造を採用した場合でも、回転ブレード7の高さの差は小さくなり、排気性能の低下は生じ難い。なお、図15の階段形状タイプ構成や図16のテーパ形状タイプ構成は、後述の減高式段違い構造だけでなく、前述の段違い構造で採用してもよいことは勿論である。
【0139】
《粒子移送段PN付近における本発明の他の実施形態》 図17は、粒子移送段PN付近における本発明の他の実施形態の説明図である。この図17の実施形態では、最上段の排気段PT(PT1)の上流(具体的には、粒子移送段PNより上流)に、反射手段RFとして、最上段の排気段PT(PT1)を構成する複数の回転ブレード7とは逆向きの角度で傾いた固定のブレードRF1(以下「固定反射ブレードRF1」という)を設けている。
【0140】
図17を参照すると、微粒子Paは、排気段PT(PT1)を構成する回転ブレード7(以下「最上段の回転ブレード7」という)で下流方向に反射され、同排気段PT(PT1)を構成する固定ブレード8(以下「最上段の固定ブレード8」という)の方向に移行する。このとき、移行する一部の微粒子Paは、図17に示したように、最上段の固定ブレード8の背面あるいは上端面で再反射されることにより、最上段の回転ブレード7の前面には入射せず、最上段の回転ブレード7間を所定速度で抜けて吸気口2やその先の真空チャンバCHの方向へ逆流する確立が高い。
【0141】
前記のような最上段の固定ブレード8での再反射による微粒子Pa(以下「再反射微粒子Pa」という)の逆流を防止する手段として、反射手段RFは機能する。つまり、再反射微粒子Paは、図17に示したように、固定反射ブレードRF1で反射され、再び最上段の排気段PT(PT1)の方向に移行するようになる。
【0142】
ところで、前記のように逆流する再反射微粒子Paは、前述の通り最上段の回転ブレード7間を所定速度で通り抜けるので、その通り抜けに必要な速度成分として、最上段の回転ブレードの傾斜と並行(回転方向)の速度成分を持っている。このことから、図17の実施形態では、上述の通り、固定反射ブレードRF1は最上段の回転ブレード7とは逆向きの角度で傾いた形状とすることにより、逆流する再反射微粒子Paを固定反射ブレードRF1で効果的に捕らえることができるように構成している。
【0143】
固定反射ブレードRF1の枚数や傾き角度などは、固定反射ブレードRF1による微粒子Paの反射や真空ポンプ全体としての排気効率などを考慮しつつ、必要に応じて適宜変更することができる。
【0144】
図17の実施形態では、真空ポンプP1の吸気口2より下流に反射手段RFを設けることで、真空ポンプPI内に反射手段RFが配置される構成を採用しているが、こ
れに限定されることはない。図示は省略するが、反射手段RFは例えば真空ポンプP1と真空チャンバCHとを接続する経路の途中に設けてもよい。
【0145】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により多くの変形が可能である。
【0146】
例えば、先に説明した《粒子移送段PNの他の実施形態(その1)》から《粒子移送段PNの他の実施形態(その11-2)》までの構成、並びに《粒子移送段PN付近における本発明の他の実施形態》の構成は、必要に応じて適宜組み合わせて用いることができる。
【0147】
以上説明した実施形態の真空ポンプは、吸気口2から排気口3までの間に、ガス分子を排気する手段として機能する複数の排気段PTを有し、この複数の排気段PTは、排気段PTごとに、放射状に所定間隔で配置された複数の回転ブレード7と固定ブレード8とによりガス分子を排気する構造になっている。このような構造からなる複数の排気段PTにおいて、減高式段違い構造、すなわち、最上段の排気段PT1を構成する複数の回転ブレード7のうち、少なくとも一部の上流端7Aの高さを低くすることで(減高)、それら全体として上流端7Aの高さが異なる段違い構造になり、ガス分子の排気方向に粒子を移送する粒子移送段になってもよい。このような粒子移送段も前述の粒子移送段PNと同等に機能する。
【符号の説明】
【0148】
1 外装ケース2 吸気口3 排気口4 ステータコラム5 ロータ軸6 ロータ61 ロータ上端面の凹部62 第1の取付け部材62A フランジ63 ガス抜き孔64 ガス抜き溝65 第2の取付け部材7 回転ブレード8 固定ブレード9 ネジ溝排気部ステータ91 ネジ溝BL 圧力調整バルブBT ボルトCH 真空チャンバD 回転ブレードの直径EG ブレードエッジ部FS 粒子移送段を構成するブレードの前斜面GE 最終隙間L1 最上段の排気段を構成する回転ブレードの配置間隔L2 粒子移送段を構成する回転ブレードの配置間隔MB1 ラジアル磁気軸受MB2 アキシャル磁気軸受MO 駆動モータMS 面取り部MC 面取り部の上部P1 真空ポンプPa 微粒子PN 粒子移送段PS ネジ溝ポンプ段PT 排気段PT1 最上段の排気段PTn 最下段の排気段R ネジ溝排気流路RF 反射手段RF1 固定反射ブレードS ポンプ内排気口側流路Z 従来の真空ポンプ
図1
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