(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】細胞培養容器
(51)【国際特許分類】
C12M 1/24 20060101AFI20220614BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20220614BHJP
C12M 1/10 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
C12M1/24
C12M3/00 Z
C12M1/10
(21)【出願番号】P 2018059239
(22)【出願日】2018-03-27
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(72)【発明者】
【氏名】金村 進路
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-519557(JP,A)
【文献】特開平04-228063(JP,A)
【文献】特開2008-286519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-42
C12M 3/00-10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリノスタットに搭載され、細胞培養に用いる細胞培養容器であって、
培養液を入れる充填口と、
細胞を培養させる培養エリアと、
前記培養エリア内の気泡を隔離させる隔離エリアと、
前記培養エリア内の気泡を
前記クリノスタットの回転中に前記隔離エリアに誘導するとともに、隔離された気泡を隔離エリアに留まらせる誘導留め機構と、
を備え
、
前記誘導留め機構は、培養エリアから隔離エリアにいくにつれて開口部が小さくなるような漏斗形状の一対の間切り壁を備え、
前記間切り壁は、円弧状の誘導壁と直線状の留め壁とからなる
ことを特徴とする
、クリノスタットに用いる細胞培養容器。
【請求項2】
前記留め壁は、中心線と平行に、または、前記培養エリアから前記隔離エリアにいくにつれて、中心線に近づきながら傾斜するように設けられていることを特徴とする請求項
1に記載の細胞培養容器。
【請求項3】
前記留め壁は、該先端から培養エリアにいくにつれて、中心線から離れながら傾斜する返し部を一体に設けていることを特徴とする請求項
1または請求項
2に記載の細胞培養容器。
【請求項4】
前記隔離エリアと前記留め壁との当接部は、培養エリアから隔離エリアにいくにつれて、上り傾斜となる傾斜部が設けられていることを特徴とする請求項
1に記載の細胞培養容
器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリノスタットを用いた細胞培養における細胞培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
植物や細胞などの重力応答を研究する装置として、特許文献1の
図1に示すようなクリノスタットが用いられている。この装置によれば、直交する二軸が回転することで搭載した細胞の重力を均等に分散させ、模擬的に微小重力環境を生成することができる。
上述のクリノスタットには装置の特性上、一般的に、特許文献2の
図1に示すような培養容器が用いられている。この培養容器は、培養フラスコに密閉キャップを備えることで傾けても培養液がこぼれない構造となっている。
このような培養容器を用いて培養する場合、培養容器内にエアが残留していると、培養容器の回転や傾きによって容器内で培養液の対流が起こり、それが起因として細胞にストレスを与えてしまう。
したがって、培養容器内の培養液は、液密にすることが好ましい。
【0003】
換言すると、培養フラスコに培養液を充填する際、培養液の量が僅かでも少ない場合、エアが残留し液密にはならない。その状態でクリノスタットに搭載すると回転によって培養液の対流が生じ、細胞へのストレスが発生する恐れがある。
一方で、液密にするためにエアが残留しないように細心の注意を払って培養液を入れたとしても、キャップを閉める際に培養液が溢れ出す恐れがある。その場合、コンタミネーション(カビや細菌の繁殖など)の原因になる恐れもある。
したがって、エアを残留させずに培養液を液密になるように充填する作業は熟練を要している。
そこで本出願人は、特許文献3に示すような容器の封止構造を発明した。この発明の培養容器によれば、培養容器内にエアを残留させずに培養液を充填する作業を誰でも容易に行うことができる。したがって、クリノスタットを用いた培養においても残留エアによる培養液の対流を無くし、細胞へのストレスを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、細胞培養においては培養液を充填する際の残留エアによって発生する気泡だけでなく、培養中の細胞の代謝物や培養液の温度変化によって発生する気泡がある。また、培養液の蒸発などの起因によって培養容器内に発生する気泡がある。したがって、特許文献3に示す容器の封止構造では、培養液を充填する際の残留エアによって発生する気泡を抑制することはできるが、培養中に発生した気泡に対しては考慮されておらず、顕著な効果は薄い。
そのため、クリノスタットを用いた培養において、上述の気泡による培養液の対流による細胞へのストレスを完全には抑制することができない。
【0006】
そこで本発明の目的は、クリノスタットを用いた細胞培養において、充填が簡単に行えるとともに、培養容器内に気泡によって生じる培養液の対流やそれによる細胞へのストレスを抑制することができる細胞培養容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の細胞培養容器は、培養液を入れる充填口と、細胞を培養させる培養エリアと、培養エリア内の気泡を隔離させる隔離エリアと、培養エリア内の気泡を隔離エリアに誘導するとともに、隔離された気泡を隔離エリアに留まらせる誘導留め機構と、を備えていることを特徴とする。
この構成によると、培養エリア内に気泡が発生したとしても、その気泡を隔離エリアに誘導させながら移動させるとともに、隔離エリアに移動した気泡を隔離エリア内に留まらせておくことができる。
また、培養液を入れる際に残留したエアによる気泡も同様に隔離エリアに誘導させながら移動させるとともに、隔離エリアに移動した気泡を隔離エリア内に留まらせておくことができる。
よって、培養液の充填が簡単に行え、気泡を隔離エリアに移動させるとともに留まらせておくことができるため、培養エリア内には気泡による対流を抑制することができ、結果、細胞へのストレスを緩和することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、クリノスタットを用いた細胞培養において、充填が簡単に行えるとともに、培養容器内に気泡によって生じる培養液の対流やそれによる細胞へのストレスを抑制することができる細胞培養容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態における細胞培養容器の構成を模式的に示した斜視図である。
【
図2】
図1の細胞培養容器の構成を示した図であり、(a)は上面図、(b)は正面図を夫々示した図である。
【
図3】
図2に示した細胞培養容器の断面図であり、(a)はA-A線断面、(b)はB-B線断面、(c)はC-C線断面、(d)はD-D線断面を夫々示した図である。
【
図4】
図2の細胞培養容器における培養エリア内の気泡が隔離エリアに移動する様を示した図である。
【
図5】
図2の細胞培養容器における隔離エリア内の回転時における気泡の動作を示した一例の部分拡大図である。
【
図6】本発明の変形例1における細胞培養容器の構成を模式的に示した断面図である。
【
図7】本発明の変形例2における細胞培養容器の構成を模式的に示した断面図である。
【
図8】本発明の変形例3における細胞培養容器の構成を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態における細胞培養容器の構成を模式的に示した斜視図である。
図1では、一例として一方に蓋10を設け、他方に蓋を設けていない構成としているが、実際の使用では両方に蓋10を取り付けて行うものである。
図1に示すように、細胞培養容器100は、模擬的に微小重力環境を生成することができるクリノスタット(図示せず)などに搭載される。その場合、クリノスタットによって回転するようになっている。また、クリノスタットに搭載する際は、容器内面に細胞を接着させての培養や培養液内に細胞を浮遊させながらの培養が可能である。
【0012】
図2は、
図1の細胞培養容器の構造を示した図であり、(a)は上面図、(b)は正面図を夫々示している。
【0013】
また、
図3は、
図2に示した細胞培養容器の断面図であり、(a)はA-A線断面図、(b)はB-B線断面図、(c)はC-C線断面図、(d)はD-D線断面図を夫々示している。
【0014】
なお、本実施形態では、細胞培養容器の起立状態(例えば、
図2(b))で天井を「上」、底を「下」とし、一対の蓋を結ぶ方向を左右方向とし、図面の右側を「右」、反対側を「左」と定義する。
また、以下では、残留エアによって発生するもの、培養中の細胞の代謝物や培養液の温度変化によって発生するもの、および、培養液の蒸発などの起因によって発生するもの、を総じて「気泡」として呼んでいる。
図2及び
図3に示すように、細胞培養容器100の基本構成は、充填口1、培養エリア2、隔離エリア3、および誘導留め機構4などを備えている。
【0015】
充填口1は、円筒形状を有しており、培養液を培養エリア2に入れるための入口として培養エリア2の上面に設けられている。円筒状の先端側は、雄ネジ山を有する外周面が設けられており、その雄ネジ山には蓋10が螺合するようになっている。
【0016】
培養エリア2は、細胞を培養させるエリアであり、略断面円形状の第1の培養エリア2aと、その一部(左側)の外縁から外方に矩形状に突出した第2の培養エリア2bとからなっている。
【0017】
隔離エリア3は、気泡を前記培養エリア2と隔離させるためのエリアであり、第1の培養エリア2aに対して、第2の培養エリア2bと対向した位置に第2の培養エリア2bと同形状のエリアが設けられている。
また、この隔離エリア3には、充填口1と同等の培養液を入れるための充填口6が設けられており、上端部は蓋11が螺合可能となっている。
【0018】
誘導留め機構4は、隔離エリア3と、培養エリア2内の気泡を隔離エリア3に誘導するとともに、隔離された気泡を隔離エリア3に留まらせるための機構であり、培養エリア2から隔離エリア3への開口部を狭めるような漏斗形状の間切り壁5を設けている。
【0019】
詳細に説明すると、
図3(c)及び
図3(d)に示すように、間切り壁5は、第1の培養エリア2aと隔離エリア3との境目から中心線Jに向けて両エリアの上下方向を遮断しながら一対の円弧状の誘導壁5aが設けられている。そして、一対の誘導壁5aが所定の間隔を有した状態の中心付近から隔離エリア3に向けて上下方向を遮断しながら右方向に中心線Jと平行な直線状の一対の留め壁5bが一体に設けられている。
この構成によって、詳細は後述するが、クリノスタットに搭載中されている際、細胞培養容器100は回転することとなるが、その容器内にの気泡を誘導壁5aで隔離エリア3の方に誘導し、例え、回転したとしても隔離エリア3に隔離された気泡を留め壁5bによって、培養エリア2に戻らないように留めておくことが可能となっている。
【0020】
次に、本発明の一実施形態における細胞培養容器の作用を説明する。
図4は、
図2の細胞培養容器における培養エリア内の気泡が隔離エリアに移動する様を示した図である。(a)は重力方向に対して、反対方向側に隔離エリアが位置した状態、(b)は重力方向に対して、同じ方向側に隔離エリアが位置した状態を夫々示している。
図4(a)に示すように、クリノスタットにおける細胞培養中に発生した気泡Kは、浮力の影響により常に重力と反対の方向に移動する。よって、気泡Kは細胞培養容器100が回転するにつれて、円弧状の誘導壁5aにならって徐々に隔離エリア3に移動(侵入)していく。その際、隔離エリア3からは、侵入した気泡Kと同量の培養液が培養エリア2に流れ込むことで、培養エリア2は常に液密の状態が保たれることとなる。一方、
図4(b)に示すように、
図4(a)の状態からクリノスタットの回転により細胞培養容器100が180度回転した場合、気泡Kは浮力の影響により重力と反対の方向に移動するが誘導壁5aおよび留め壁5bによって、培養エリア2に戻らないように隔離エリア3に留められている。
【0021】
図5は、
図1の細胞培養容器における隔離エリア内の気泡の回転時の動作を示した部分拡大図であり、(a)は隔離エリアの位置が、培養エリアの位置に対して重力方向側にある状態、(b)~(h)は前の符号の状態から中心軸Lを中心に45°毎反時計周りに回転した状態を夫々示した図である。
図5に示すように、
図5(a)~
図5(h)の回転による細胞培養容器100がどの状態においても、隔離エリア3内の気泡Kは、間切り壁5と隔離エリア3の内壁とによって隔離エリア3内に留まり、培養エリア2には移動しない構造となっているのがわかる。なお、
図5(a)~
図5(h)は45度毎の動きを示した図であるが、それ以外の角度においても同様のことがいえる。
なお、一対の留め壁5bの長さm及び間隔nは、気泡Kの量及び大きさなどに応じて適宜決めることができ、長くするほど、または、狭めるほど気泡Kを隔離エリア3内に留めることができる。
【0022】
本発明の一実施形態における細胞培養容器100によれば、培養エリア2内の気泡を回転中に徐々に誘導壁5aによって、誘導させ隔離エリア3内に移動させることができる。また、隔離エリア3内に隔離された気泡を細胞培養容器100が回転しても留め壁5bによって隔離エリア3内に留めておくことができる。それによって、培養エリア2内には気泡がなくなるため、培養エリア2内の培養液が対流しなくなる。したがって、培養エリア2内の細胞にストレスを与えることなく培養することができる。
【0023】
(変形例1)
図6は、本発明の変形例1における細胞培養容器の構成を模式的に示した断面図である。充填口1、培養エリア2、および隔離エリア3等、基本的構造は、本発明の一実施形態と同じであるため、符号の説明は省略する。
【0024】
図6に示すように、細胞培養容器200における隔離エリア3の下側の底部と留め壁5bとの当接部は、培養エリア2から隔離エリア3にいくにつれて、上り傾斜となる傾斜部5cを設けている。
【0025】
このように、本発明の変形例1における細胞培養容器200によれば、傾斜部5cによって、培養エリア2内の気泡は、傾斜部5cにならって、より隔離エリア3内に誘導されやすくなる。逆に隔離エリア3内に一旦入った気泡は、戻り口が狭くなるため、培養エリア2内には逆戻りしにくくなっており、隔離エリア3内により留めておくことができる。
また、投入時においては、細胞が隔離エリア3内に移動しにくくなり、その結果、培養エリア内に留めることができる。
【0026】
(変形例2)
図7は、本発明の変形例2における細胞培養容器の構成を模式的に示した断面図である。なお、変形例1と同様に、基本的構造は、本発明の一実施形態と同じであるため、符号の説明は省略する。また、本発明の一実施形態との相違点は、留め壁の構成である。以下、詳細に説明する。
【0027】
図7に示すように、細胞培養容器300における一対の留め壁5dは、培養エリア2から隔離エリア3にいくにつれて、中心線Jに近づきながら傾斜するように構成されている。
【0028】
このように、本発明の変形例2における細胞培養容器300によれば、一対の留め壁5dによって、培養エリア2内の気泡は、留め壁5dにならって、より隔離エリア3内に誘導されやすくなる。逆に隔離エリア3内に一旦入った気泡は、戻り口が狭くなるため、培養エリア2内には逆戻りしにくくなっており、隔離エリア3内により留めておくことができる。
【0029】
(変形例3)
図8は、本発明の変形例3における細胞培養容器の構成を模式的に示した断面図である。なお、変形例1と同様に、基本的構造は、本発明の一実施形態と同じであるため、符号の説明は省略する。また、本発明の一実施形態と変形例2との相違点は、隔離エリア3内の気泡をより留めさせる構造である。以下、詳細に説明する。
【0030】
図8(a)は、本発明の一実施形態の一対の留め壁5bに構成を追加した図を示している。
図8(a)に示すように、細胞培養容器400における一対の留め壁5bは、この先端から培養エリア2にいくにつれて、中心線Jから離れながら傾斜する返し部5eを一体に設けている。
【0031】
また、
図8(b)は、本発明の変形例2の一対の留め壁5dに構成を追加した図を示している。
図8(b)に示すように、細胞培養容器500における一対の留め壁5dは、この先端から培養エリア2にいくにつれて、中心線Jから離れながら傾斜する返し部5fを一体に設けている。
【0032】
このように、本発明の変形例3における細胞培養容器400によれば、一対の返し部5eによって、隔離エリア3内に留められている気泡を、より隔離エリア3内に留めておくことができる。
同様に、本発明の変形例3における細胞培養容器500によれば、一対の返し部5fによって、隔離エリア3内に留められている気泡を、より隔離エリア3内に留めておくことができる。
【0033】
以上、本発明を好適な実施形態および変形例により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちらん、種々の改変が可能である。例えば、充填口1,6および蓋10,11は少なくとも一方が設けられていれば良い。
また、充填口及び蓋の代わりに、本出願人の発明の特許文献3に開示する封止構造を採用しても良い。
また、充填口及び蓋の代わりに、第2の培養エリア2bと隔離エリア3との夫々の側面に樹脂製のゴム栓、シリコン栓などのインジェクション(アクセス)ポートを埋め込ませて、そこにシリンジ針を直接差し込み、外部からポンプを作動させて培養液を注入、若しくは、気泡を吸引しても良い。
また、培養エリア2は、略断面円形状の第1の培養エリア2aと、略矩形状の第2の培養エリア2bとからなっているが、第2の培養エリア2bとそれに付随する充填口1及び蓋10を構成から外した、第1の培養エリア2aのみの構成であっても良い。
また、培養エリア2の第1の培養エリア2aと第2の培養エリア2bの外観形状は、これに限るものではない。
さらに、誘導留め機構4は、漏斗形状の間切り壁5で説明したが、培養エリア2から隔離エリア3に気泡が隔離されれば良く、これに限定するものではない。
【符号の説明】
【0034】
1、6 充填口
2 培養エリア
3 隔離エリア
4 誘導留め機構
5 間切り壁
5a 誘導壁
5b、5d 留め壁
5c 傾斜部
5e、5f 返し部
J 中心線
K 気泡
100、200、300、400、500 細胞培養容器