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特許7088727反応性含フッ素スルホニルイミドとその重合体並びにそれを含有する帯電防止剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】反応性含フッ素スルホニルイミドとその重合体並びにそれを含有する帯電防止剤
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20220614BHJP
   C09K 3/16 20060101ALI20220614BHJP
   C08G 77/28 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
C07F7/18 Q CSP
C09K3/16 103Z
C09K3/16 108D
C09K3/16 109
C08G77/28
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018081811
(22)【出願日】2018-04-20
(65)【公開番号】P2019189545
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】松村 典明
(72)【発明者】
【氏名】神谷 武志
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-199509(JP,A)
【文献】特開2014-108993(JP,A)
【文献】特開2017-075237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C09K
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表される反応性含フッ素スルホニルイミド。
【化1】
ただし、上記の一般式(1)において、Rは水素原子、炭素数1~10の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基、アルカリ金属イオンまたはオニウムカチオンを表し、Rはメチル基またはエチル基を表し、Rfはフッ素原子または炭素数1~4の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキル基を表し、Rfは炭素数1~4の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基を表し、Xは酸素原子、イミノ基、エステル結合、アミド結合、スルホンアミド結合、ウレタン結合及びウレア結合のいずれかである2価の基と、前記2価の基の両端に結合した2価の飽和炭化水素基とを有する有機基である連結基を表し、Aはアルカリ金属イオンまたはオニウムカチオンを表す。
【請求項2】
前記Rfが、炭素数3の直鎖状パーフルオロアルキレン基であることを特徴とする請求項1に記載の反応性含フッ素スルホニルイミド。
【請求項3】
前記Xが、下記の一般式(2)で表される2価の有機基であることを特徴とする請求項1または2に記載の反応性含フッ素スルホニルイミド。
【化2】
ただし、上記の一般式(2)において、*は、Siとの接合手を表す。
【請求項4】
前記Aが、アルカリ金属イオンであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の反応性含フッ素スルホニルイミド。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の反応性含フッ素スルホニルイミドを含む帯電防止剤。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の反応性含フッ素スルホニルイミドに基づく繰り返し単位を有することを特徴とする重合体。
【請求項7】
請求項6に記載の重合体を含む帯電防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性含フッ素スルホニルイミドとその重合体並びにそれを含有する帯電防止剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂は、一般に表面抵抗率が高いため、摩擦などの物理的な作用によって静電気を帯電しやすいという性質を有している。樹脂に帯電した静電気は、電子機器に対して電気的な衝撃を与えて、誤作動やデータの破損などの障害を引き起こす原因となるおそれがある。また、静電気を帯電した樹脂は、ごみや埃を吸着しやすく、見栄えを損なうだけでなく、周囲の電子機器を汚染して、誤作動やデータの破損などの障害を引き起こす原因となるおそれがある。このため、樹脂に帯電防止剤を添加して、樹脂製品の表面抵抗率を低減することが行なわれている。
【0003】
特許文献1には、帯電防止剤として、ジメチルジメトキシシランと、メチルトリメトキシシランと、1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,1,1-トリブチルホスホニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとを共重合させて得たポリシロキサン共重合体が開示されている。この特許文献1の実施例12によると、上記のポリシロキサン共重合体を、過酸化物硬化型シリコーン粘着剤(固形分60%)4.0gに対して48mg添加して作製したシリコーン樹脂粘着剤層は、表面抵抗率が7.5×1011Ω/□であり、ポリシロキサン共重合体を添加しないで作製したシリコーン樹脂粘着剤層(表面抵抗率:>1015Ω/□)と比較して低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6179668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年の電子機器の精密化に伴って、静電気による電気的な衝撃、ごみや塵などによる汚染から電子機器を保護する必要性が増しており、電子機器のケースや保護フィルムなど種々の樹脂成形品について、さらなる帯電防止性能の向上が求められている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、樹脂からのブリードアウトを防止でき、優れた帯電防止作用を有する新規な化合物およびこれを含有する帯電防止剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、反応性官能基としてトリアルコキシシリル基を有し、カチオン成分としてアルカリ金属イオンまたはオニウムカチオンを含む反応性含フッ素スルホニルイミドおよびこれに基づく単位を含む重合体を樹脂に添加することによって、ブリードアウトが発生しにくく、かつ表面抵抗率が低く、静電気が帯電しにくい樹脂組成物を得ることが可能となることを見出して、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の構成を有する。
【0008】
[1]下記の一般式(1)で表される反応性含フッ素スルホニルイミド。
【0009】
【化1】
【0010】
ただし、上記の一般式(1)において、Rは水素原子、炭素数1~10の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基、アルカリ金属イオンまたはオニウムカチオンを表し、R2はメチル基またはエチル基を表し、Rfはフッ素原子または炭素数1~4の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキル基を表し、Rfは炭素数1~4の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基を表し、Xは酸素原子、イミノ基、エステル結合、アミド結合、スルホンアミド結合、ウレタン結合及びウレア結合のいずれかである2価の基と、前記2価の基の両端に結合した2価の飽和炭化水素基とを有する有機基である連結基を表し、Aはアルカリ金属イオンまたはオニウムカチオンを表す。
【0011】
[2]前記Rfが、炭素数3の直鎖状パーフルオロアルキレン基であることを特徴とする[1]に記載の反応性含フッ素スルホニルイミド。
【0012】
[3]前記Xが、下記の一般式(2)で表される2価の有機基であることを特徴とする[1]または[2]に記載の反応性含フッ素スルホニルイミド。
【0013】
【化2】
【0014】
ただし、上記の一般式(2)において、*は、Siとの接合手を表す。
【0015】
[4]前記Aが、アルカリ金属イオンであることを特徴とする[1]~[3]のいずれか1つに記載の反応性含フッ素スルホニルイミド。
【0016】
[5]前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の反応性含フッ素スルホニルイミドを含む帯電防止剤。
【0017】
[6]前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の反応性含フッ素スルホニルイミドに基づく繰り返し単位を有することを特徴とする重合体。
【0018】
[7]前記[6]に記載の重合体を含む帯電防止剤。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、樹脂からのブリードアウトを防止でき、優れた帯電防止作用を有する新規な化合物およびこれを含有する帯電防止剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明にかかる一実施形態である反応性含フッ素スルホニルイミドとその重合体並びにそれを含有する帯電防止剤を詳細に説明する。
【0021】
<反応性含フッ素スルホニルイミド>
本実施形態の反応性含フッ素スルホニルイミドは、下記の一般式(1)で表される。
【0022】
【化3】
【0023】
上記の一般式(1)において、Rは水素原子、炭素数1~10の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基、アルカリ金属イオンまたはオニウムカチオンを表す。アルカリ金属イオンの例としては、リチウム、ナトリウム、カリウムを挙げることができる。オニウムカチオンは、例えば、窒素、硫黄、酸素、リン、セレン、錫、ヨウ素、アンチモン等の孤立電子対を有する元素を含んだ化合物に陽イオン型の原子団が配位して生ずる少なくとも一つの有機基を有するカチオンであれば、特に制限されるものではない。オニウムカチオンとしては、アンモニウムカチオン類、ピロリジニウムカチオン類、イミダゾリウムカチオン類、ピリジニウムカチオン類、スルホニウムカチオン類、ホスホニウムカチオン類を用いることができる。アンモニウムカチオン類の例としては、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、エチルトリメチルアンモニウムカチオン、トリメチルプロピルアンモニウムカチオン、トリメチルイソプロピルアンモニウムカチオン、ブチルトリメチルアンモニウムカチオン、ヘキシルトリメチルアンモニウムカチオン、オクチルトリメチルアンモニウムカチオン、ドデシルトリメチルアンモニウムカチオン、ビニルトリメチルアンモニウムカチオン、アリルトリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン、トリエチルプロピルアンモニウムカチオン、トリエチルメトキシメチルアンモニウムカチオン、トリブチルエチルアンモニウムカチオン、ジエチルジメチルアンモニウムカチオン、ジメチルジプロピルアンモニウムカチオン、ヘキサメトニウムカチオン等を挙げることができる。ピロリジニウムカチオン類の例としては、N,N-ジメチルピロリジニウムカチオン、N,N-ジエチルピロリジニウムカチオン、N,N-ジプロピルピロリジニウムカチオン、N-エチル-N-メチルピロリジニウムカチオン、N-メチル-N-プロピルピロリジニウムカチオン、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムカチオン、N-ヘキシル-N-メチルピロリジニウムカチオン等を挙げることができる。イミダゾリウムカチオン類の例としては、1,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジエチルイミダゾリウムカチオン、1,3-ジプロピルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-イソプロピル-3-プロピルイミダゾリウムカチオン、1-tert-ブチル-3-イソプロピルイミダゾリウムカチオン等を挙げることができる。ピリジニウムカチオン類の例としては、N-エチルピリジニウムカチオン、N-ブチルピリジニウムカチオン等を挙げることができる。スルホニウムカチオン類の例としては、トリメチルスルホニウムカチオン、トリエチルスルホニウムカチオン、トリブチルスルホニウムカチオン、ジエチルメチルスルホニウムカチオン、ジメチルプロピルスルホニウムカチオン、ヘキシルジメチルスルホニウムカチオン等を挙げることができる。ホスホニウムカチオン類の例としては、テトラメチルホスホニウムカチオン、テトラエチルホスホニウムカチオン、テトラプロピルホスホニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオン、テトラオクチルホスホニウムカチオン、テトラフェニルホスホニウムカチオン、エチルトリメチルホスホニウムカチオン、トリエチルメチルホスホニウムカチオン、ヘキシルトリメチルホスホニウムカチオン、トリメチルオクチルホスホニウムカチオン等を挙げることができる。
は、水素原子または炭素数1~10の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~4の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基であることが特に好ましい。
【0024】
は、メチル基またはエチル基を表す。
Rfは、フッ素原子または炭素数1~4の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキル基を表す。
Rfは、炭素数1~4の直鎖状あるいは分岐状のパーフルオロアルキレン基を表す。Rfは、直鎖状パーフルオロアルキレン基であることが好ましく、炭素数3の直鎖状パーフルオロアルキレン基であることが特に好ましい。
【0025】
Xは、2価の有機基である連結基を表す。2価の有機基としては、2価の炭化水素基、酸素原子(エーテル結合)、硫黄原子(スルフィド結合)、カルボニル基、イミノ基、スルホン基及びこれらを組合せた基を挙げることができる。2価の炭化水素基は、炭素数が1~10の範囲内にあることが好ましい。2価の炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。また、2価の炭化水素基は、直鎖状あるいは分岐状の鎖状炭化水素基であってもよいし、環状炭化水素基であってもよいし、さらにこれらを組合せた基であってもよい。鎖状炭化水素基の例としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基を挙げることができる。環状炭化水素基の例としては、シクロアルキレン基、フェニレン基を挙げることができる。2価の炭化水素基は、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基を挙げることができる。イミノ基は、水素原子が、炭素数1~10の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基で置換されていてもよい。
【0026】
2価の有機基を組合せた基の例としては、オキシアルキレン基(-O-アルキレン基-)、イミノアルキレン基(-NH-アルキレン基-)、エステル結合(-O-C(=O)-)、アミド結合(-C(=O)-NH-)、スルホンアミド結合(-S(=O)-NH-)、ウレタン結合(-O-C(=O)-NH-)、ウレア結合(-NH-C(=O)-NH-)及びこれらを組合せた基を挙げることができる。
【0027】
Xは、下記の一般式(2)で表される2価の有機基であることが好ましい。
【0028】
【化4】
【0029】
ただし、上記の一般式(2)において、*は、Siとの接合手を表す。
【0030】
は、アルカリ金属イオンまたはオニウムカチオンを表す。アルカリ金属イオン及びオニウムカチオンの例は上記と同じである。Aは、アルカリ金属イオンであることが好ましく、リチウムイオンであることが特に好ましい。
【0031】
次に、本実施形態の反応性含フッ素スルホニルイミドの製造方法について、Rがメチル基であり、Xが上記一般式(2)で表される2価の有機基であって、Aがリチウムイオンである反応性含フッ素スルホニルイミドを例にとって説明する。この反応性含フッ素スルホニルイミドは、下記の反応式1ie~4ie、1eに示す反応により製造することができる。なお、下記の反応式1ie~4ie、1eにおいて、R、Rf、Rf、は、上記の一般式(1)と同じである。
【0032】
先ず、下記の反応式1ieに示すように、パーフルオロアルカンジスルホニルジフロライド(F-S(=O)-Rf-S(=O)-F)と、パーフルオロアルカンスルホンアミドカリウム塩(Rf-S(=O)-NHK)とを反応させて、中間体1ieを合成する。この反応は、例えば、脱水アセトニトリル(dry-CHCN)中、フッ化カリウムの存在下で行うことができる。
【0033】
【化5】
【0034】
次に、下記の反応式2ieに示すように、中間体1ieとメチルアミンとをフッ化カリウムの存在下で反応させて、中間体1ieの末端のフッ素原子を、メチルアミノカリウム塩基(-NCH+)で置換して、中間体2ieを合成する。この反応は、例えば、脱水テトラヒドロフラン(dry-THF)中で行うことができる。
【0035】
【化6】
【0036】
次に、下記の反応式3ieに示すように、中間体2ieと2-クロロエタノールとを反応させて、中間体2ieのメチルアミノカリウム塩基のカリウムをヒドロキシエチル基(-CHCHOH)で置換して、中間体3ieを生成させる。この反応は、例えば、脱水アセトニトリル(dry-CHCN)中、炭酸カリウムの存在下で行うことができる。
【0037】
【化7】
【0038】
次に、下記の反応式4ieに示すように、上記中間体3ieと硫酸とを反応させて、イミドカリウムをイミド酸にした後、水酸化リチウムと反応させて、中間体4ieを得る。この反応は、例えば、中間体3ieの酢酸エチル溶液を硫酸水溶液で洗浄した後、水酸化リチウムを加えることによって行うことができる。
【0039】
【化8】
【0040】
そして、最後に、下記の反応式1eに示すように、中間体4ieのヒドロキシエチル基のヒドロキシ基と、イソシアン酸3-(トリアルコキシシリル)プロピルのイソシアネート基とを反応させて、ウレタン結合を形成させる。これによって、反応性含フッ素スルホニルイミド1eが生成する。この反応は、例えば、脱水アセトニトリル(dry-CHCN)を含む混合溶媒中、ジラウリン酸ジブチルすず(DBTL)存在下で行うことができる。
【0041】
【化9】
【0042】
が、オニウムカチオンである反応性含フッ素スルホニルイミドは、例えば、上記の中間体3ieとオニウムカチオン溶液とを混合して、中間体3ieのカリウムイオンとオニウムカチオンとを置換させてオニウム塩を得る。次いで、オニウム塩のヒドロキシ基と、イソシアン酸3-(トリアルコキシシリル)プロピルのイソシアネート基とを反応させて、ウレタン結合を形成させることによって、合成することができる。
【0043】
さらに、Xが、イミノアルキレン基を含む反応性含フッ素スルホニルイミドは、例えば、中間体1ieとアルキレンジアミンとを反応させ、末端にアミノ基を有する中間体を生成させ、次いで、その中間体と塩化リチウムを反応させて、リチウム塩を得る。その後、アミノ基と3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等を反応させることによって合成することができる。アルキレンジアミンの例としては、エチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタンを挙げることができる。
【0044】
本実施形態の反応性含フッ素スルホニルイミドは、アニオン成分である含フッ素スルホニルイミド塩が反応性官能基であるトリアルコキシシリル基を有するので、樹脂に固定化したり、重合体として樹脂に混合することが可能になるため、ブリードアウトを防止できる。また、含フッ素スルホニルイミド塩はフルオロアルキル基を有するため、反応性含フッ素スルホニルイミドを樹脂に添加すると、含フッ素スルホニルイミド塩が樹脂組成物の表面に移行しやすい。さらに、樹脂に添加された含フッ素スルホニルイミドのカチオン成分(アルカリ金属イオン、オニウムカチオン)は、アニオン成分から離脱して樹脂内を移動するので、含フッ素スルホニルイミド塩が添加された樹脂は、導電性が向上し、帯電しにくくなる。これらの効果によって、本実施形態の反応性含フッ素スルホニルイミドは帯電防止剤として有利に利用することができる。
【0045】
<反応性含フッ素スルホニルイミドの重合体>
本実施形態の反応性含フッ素スルホニルイミド重合体は、上述の反応性含フッ素スルホニルイミドに基づく繰り返し単位を有する。反応性含フッ素スルホニルイミド重合体は、反応性含フッ素スルホニルイミドの単独重合体であってもよいし、反応性含フッ素スルホニルイミド重合体と、反応性含フッ素スルホニルイミド以外の他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0046】
他のモノマーは、反応性含フッ素スルホニルイミドの反応性官能基(アルコキシシリル基)と反応可能な反応性官能基を有するものであることが好ましい。アルコキシシリル基と反応可能な反応性官能基の例としては、アルコキシシリル基、シラノール基、クロロシリル基などを挙げることができる。
【0047】
反応性含フッ素スルホニルイミドの重合体の合成方法には、特に制限なく、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法などの公知の重合法を用いることができる。
【0048】
本実施形態の反応性含フッ素スルホニルイミド重合体は、上述の反応性含フッ素スルホニルイミドと同様に樹脂に添加すると、含フッ素スルホニルイミドに基づく繰り返し単位から離脱したカチオン成分(アルカリ金属イオン、オニウムカチオン)が樹脂内を移動する。このため、本実施形態の反応性含フッ素スルホニルイミド重合体が添加された樹脂は、導電性が向上し、帯電しにくくなる。また、本実施形態の反応性含フッ素スルホニルイミド重合体は、上述の反応性含フッ素スルホニルイミドと比較して分子量が大きいので、樹脂に添加した場合に、よりブリードアウトを防止できる。このため、反応性含フッ素スルホニルイミド共重合体を帯電防止剤として樹脂に添加することによって、長期間にわたって安定して優れた帯電防止効果を発揮することができる。
【0049】
[帯電防止剤]
本実施形態の帯電防止剤は、上述の反応性含フッ素スルホニルイミドあるいは反応性含フッ素スルホニルイミドに基づく繰り返し単位を有する重合体を含む。本実施形態の帯電防止剤は、例えば、電子機器のケースや保護フィルムなどの樹脂成形品の帯電防止剤として有利に用いることができる。帯電防止剤は、樹脂成形品に含有させてもよいし、樹脂成形品の表面に塗布してもよい。
【0050】
帯電防止剤を含有する樹脂成形品は、樹脂成形品の母材となるマトリックス樹脂と帯電防止剤とを混合して、得られた混合物を成形する方法により製造することができる。マトリックス樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂を用いることができる。樹脂成形品に含まれる反応性含フッ素スルホニルイミドもしくは反応性含フッ素スルホニルイミドに基づく繰り返し単位の量は、好ましくは0.01質量%以上30質量%以下の範囲内、特に好ましくは0.1質量%以上10質量%以下の範囲内である。
【0051】
また、帯電防止剤として反応性含フッ素スルホニルイミドを用いる場合は、反応性含フッ素スルホニルイミドとマトリックス樹脂の原料モノマーとを混合し、得られた混合物中の原料モノマーを重合させてマトリックス樹脂を生成させた後、混合物を成形する方法を用いて、樹脂成形品を製造してもよい。原料モノマーは、反応性含フッ素スルホニルイミドが有する反応性官能基(アルコキシシリル基)と反応可能な反応性官能基を有していてもよい。原料モノマーがアルコキシシリル基と反応可能な反応性官能基を有する場合は、反応性含フッ素スルホニルイミドとマトリックス樹脂とが結合した樹脂成形品を得ることができる。一方、原料モノマーがアルコキシシリル基と反応可能な反応性官能基を有しない場合は、マトリックス樹脂中に反応性含フッ素スルホニルイミドが分散した樹脂成形品を得ることができる。
【0052】
帯電防止剤を樹脂成形品の表面に塗布する場合は、帯電防止剤を溶媒に溶解させた帯電防止剤溶液を、樹脂成形品の表面に塗布する。帯電防止剤溶液の溶媒は、反応性含フッ素スルホニルイミドあるいは反応性含フッ素スルホニルイミドに基づく繰り返し単位を有する重合体を溶解するものであれば、特に制限なく使用することができる。反応性含フッ素スルホニルイミドの溶媒としては、例えば、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ニトリル系溶媒、ケトン系溶媒を用いることができる。エステル系溶媒の例としては、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等を挙げることができる。エーテル系溶媒は、鎖状であってもよいし、環状であってもよい。鎖状エーテル系溶媒の例としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシメタン、1,2-ジメトキシエタンを挙げることができる。環状エーテル系溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、4-メチル-1,3-ジオキソランを挙げることができる。ニトリル系溶媒の例としては、アセトニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリルを挙げることができる。ケトン系溶媒の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトンを挙げることができる。反応性含フッ素スルホニルイミドあるいは反応性含フッ素スルホニルイミドに基づく繰り返し単位を有する重合体の溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ニトリル系溶媒、ケトン系溶媒を用いることができる。炭化水素系溶媒は、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等を挙げることができる。ハロゲン化炭化水素系溶媒は、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロペンタフルオロプロパン等を挙げることができる。エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ニトリル系溶媒およびケトン系溶媒の例は、上述の反応性含フッ素スルホニルイミドの場合と同じである。
【0053】
帯電防止剤溶液は、さらに、必要に応じて、他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤の例としては、架橋剤、粘度調整剤、消泡剤、酸化防止剤、可塑剤、難燃剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、キレート化剤、着色剤を挙げることができる。また、帯電防止剤として反応性含フッ素スルホニルイミド溶液を用いる場合は、反応性含フッ素スルホニルイミドが有する反応性官能基(アルコキシシリル基)と反応可能な反応性官能基を有するモノマーを含んでいてもよく、さらに、重合触媒を含んでいてもよい。
【0054】
本実施形態の帯電防止剤は、上述の反応性含フッ素スルホニルイミドあるいは反応性含フッ素スルホニルイミドに基づく繰り返し単位を有する重合体を含むので、これを樹脂組成物に含有させる、もしくは樹脂成形品の表面に塗布することによって、樹脂組成物の表面抵抗率を低減させることができ、静電気を帯電しにくくすることができる。また、本実施形態の帯電防止剤は、ブリードアウトしにくいため、長期間にわたって安定して優れた帯電防止効果を発揮することができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例
【0056】
次に、本発明の作用効果を実施例により説明する。なお、本実施例で得られた化合物の構造は、プロトン核磁気共鳴スペクトル(H-NMR)とフッ素の核磁気共鳴スペクトル(19F-NMR)により確認した。
【0057】
[合成例1]反応性含フッ素スルホニルイミド1の合成
(中間体1iの合成)
温度計と還流管を備えたフラスコに、1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジスルホニルジフロライドを152g(0.48mol)、フッ化カリウムを36g(0.63mol)、脱水アセトニトリルを480gの割合で仕込み、窒素雰囲気下で60℃に加熱した。次いで、トリフルオロメタンスルホンアミドカリウム84gを数回に分けて添加した後、さらに60℃で2時間加熱して、下記の反応式1iの反応により中間体1iを生成させた。反応終了後、不溶物を吸引濾過により濾別し、濾液を濃縮乾固して、粗生成物213gを得た。得られた粗生成物にエタノール109gを加えて60℃で加熱溶解した後、不溶物を3μmのメンブレンフィルターで濾別し、濾液をクロロホルム2004gに加え、生成物を晶析させた。晶析した生成物を吸引濾過により回収し、乾燥して、白色固体の中間体1iを得た。得られた中間体1iの量は、192g(収率:89%)であった。
【0058】
【化10】
【0059】
(中間体1iの19F-NMR測定結果)
19F-NMR(376MHz,CDCN):δ45.0(m,1F),-80.2(s,3F),-107.4(m,2F),-113.6(t,2F),-119.0(t,2F)
【0060】
(中間体2iの合成)
温度計と還流管を備えたフラスコに、中間体1iを180g(0.37mol)、フッ化カリウムを69g(3.2mol)、脱水テトラヒドロフランを360gの割合で仕込み、窒素雰囲気下で60℃に加熱した。そこに、濃度2mol/Lのメチルアミン・テトラヒドロフラン溶液201g(CHNH14g、0.45mol)を滴下した後、60℃で2.5時間加熱して、下記の反応式2iの反応により中間体2iを生成させた。反応終了後、濃縮乾固し、残渣に酢酸エチル1498gとイオン交換水220gとを加えて混合した後、分液して酢酸エチル相を回収した。回収した酢酸エチル相を、さらに濃度20質量%の水酸化カリウム水溶液100gで3回、濃度20質量%の塩化カリウム水溶液100gで3回洗浄した後、再度、濃縮乾固した。得られた残渣に同質量のアセトニトリルを加えて溶解させ、淡黄色透明で、濃度50質量%の中間体2iのアセトニトリル溶液199g(固形分99g、収率:100%)を得た。
【0061】
【化11】
【0062】
(中間体2iのH-NMR測定結果と19F-NMR測定結果)
H-NMR(400MHz,DO):δ2.8(s,3H)
19F-NMR(376MHz,DO):δ-79.1(s,3F),-112.1(t,2F),-112.4(t,2F),-119.1(t,2F)
【0063】
(中間体3iの合成)
温度計と還流管を備えたフラスコに、濃度50質量%の中間体2iのアセトニトリル溶液を180g(固形分90g、0.17mol)、2-クロロエタノールを34g(0.42mol)、炭酸カリウムを21g(0.15mol)、脱水アセトニトリルを180gの割合で仕込み、窒素雰囲気下、80℃で43時間加熱して、下記の反応式3iの反応により中間体3iを生成させた。反応終了後、不溶物を吸引濾過により濾別し、濾液を濃縮乾固して、残渣に酢酸エチル705gと濃度10質量%の塩化カリウム水溶液125gとを加えて混合した後、分液して酢酸エチル相を回収した。回収した酢酸エチル相を、さらにイオン交換水100gで2回洗浄した後、濃縮乾固し、粗生成物を得た。得られた粗生成物にエタノール97gを加えて溶解させ、得られた溶液をクロロホルム1013gに加え、生成物を晶析させた。晶析した生成物を吸引濾過により回収し、乾燥して、白色固体の中間体3iを得た。得られた中間体3iの量は、75g(収率:79%)であった。
【0064】
【化12】
【0065】
(中間体3iのH-NMR測定結果と19F-NMR測定結果)
H-NMR(400MHz,DO):δ3.8-3.3(m,4H),3.1(s,3H)
19F-NMR(376MHz,DO):δ-79.2(s,3F),-111.3(m,2F),-112.5(t,2F),-119.1(t,2F)
【0066】
(中間体4iの合成)
分液ロートに、中間体3iを20g(38mmol)量り取り、これに濃度40質量%の硫酸水溶液60gと酢酸エチル206gとを加えて混合した後、分液して上相を回収した。回収した上相を、濃度40質量%の硫酸水溶液60gで2回洗浄した。洗浄後、濃度10質量%の水酸化リチウム水溶液30gを加えて混合して、下記の反応式4iの反応により中間体4iを生成させた後、分液して上相を回収した。回収した上相をイオン交換水20gで2回洗浄した後、濃縮し、アセトニトリルを加えて、濃度50質量%の中間体4iのアセトニトリル溶液36g(収率:96%)を得た。
【0067】
【化13】
【0068】
(中間体4iのH-NMR測定結果と19F-NMR測定結果)
H-NMR(400MHz,DO):δ4.0-3.3(m,4H),3.2(s,3H)
19F-NMR(376MHz,DO):δ-79.3(s,3F),-111.4(m,2F),-112.6(t,2F),-119.1(t,2F)
【0069】
(反応性含フッ素スルホニルイミド1の合成)
温度計と還流管を備えたフラスコに、濃度50質量%の中間体4iのアセトニトリル溶液を10.0g(固形分5.0g、9.9mmol)、ジラウリン酸ジブチルすずを0.09g、脱水アセトニトリルを15gの割合で仕込み、窒素雰囲気下で50℃に加熱した。そこに、イソシアン酸3-(トリエトキシシリル)プロピル4g(0.017mol)を滴下した後、60℃で1時間加熱して、下記の反応式1の反応により反応性含フッ素スルホニルイミド1を生成させた。反応終了後、アセトニトリルを留去し、残渣に脱水エタノール3gとトルエン42gとを加えて混合した後、分液して下相を回収した。回収した下相を、さらにトルエン32gで洗浄し、次いで濃縮した後、脱水酢酸エチルを加えて、反応性官能基としてトリエトキシシリル基を有し、カチオン成分としてリチウムを含む反応性含フッ素スルホニルイミド1が50質量%の濃度で溶解している酢酸エチル溶液9.4g(収率:68%)を得た。
【0070】
【化14】
【0071】
(反応性含フッ素スルホニルイミド1のH-NMR測定結果と19F-NMR測定結果)
H-NMR(400MHz,CDCN):δ4.4-3.2(m,4H),3.8(q,6H),3.1(s,3H),3.1(q,2H),1.6(m,2H),1.2(t,9H),0.6(m,2H)
19F-NMR(376MHz,CDCN):δ-80.2(s,3F),-111.8(m,2F),-113.4(t,2F),-119.5(q,2F)
【0072】
[合成例2]反応性含フッ素スルホニルイミド2の合成
(中間体5iの合成)
温度計と還流管を備えたフラスコに、1,1-ジフルオロメタン-1,1-ジスルホニルジフロライドを343g(1.59mol)、フッ化カリウムを115g(1.97mol)、脱水アセトニトリルを1627gの割合で仕込み、窒素雰囲気下で60℃に加熱した。次いで、ノナフルオロブタンスルホンアミドカリウム509g(1.51mol)を数回に分けて添加した後、さらに60℃で2時間加熱して、下記の反応式5iの反応により中間体5iを生成させた。反応終了後、不溶物を吸引濾過により濾別し、濾液を濃縮乾固して、粗生成物789gを得た。得られた粗生成物にエタノール397gを加えて60℃で加熱溶解した後、不溶物を3μmのメンブレンフィルターで濾別し、濾液をクロロホルム4032gに加え、生成物を晶析させた。晶析した生成物を吸引濾過により回収し、乾燥して、白色固体の中間体5iを得た。得られた中間体5iの量は、700g(収率:87%)であった。
【0073】
【化15】
【0074】
(中間体5iの19F-NMR測定結果)
19F-NMR(376MHz,CDCN):δ45.0(m.1F),-80.9(t,3F),-101.8(s,2F),-112.6(t,2F),-120.5(m,2F),-125.4(m,2F)
【0075】
(中間体6iの合成)
温度計と還流管を備えたフラスコに、中間体5iを443g(0.83mol)、フッ化カリウムを147g(2.53mol)、脱水テトラヒドロフランを802gの割合で仕込み、窒素雰囲気下で60℃に加熱した。そこに、プロピルアミン59.1g(1.00mol)を滴下した後、60℃で2.5時間加熱して、下記の反応式6iの反応により中間体6iを生成させた。反応終了後、濃縮乾固し、残渣に酢酸エチル2417gとイオン交換水360gとを加えて混合した後、分液して酢酸エチル相を回収した。回収した酢酸エチル相を、さらに濃度20質量%の水酸化カリウム水溶液200gで2回、濃度20質量%の塩化カリウム水溶液220gで2回洗浄した後、再度、濃縮乾固した。得られた残渣に同質量のアセトニトリルを加え溶解させ、淡黄色透明で、濃度50質量%の中間体6iのアセトニトリル溶液982g(固形分491g、収率:97%)を得た。
【0076】
【化16】
【0077】
(中間体6iのH-NMR測定結果と19F-NMR測定結果)
H-NMR(400MHz,DO):δ3.3(t,2H),1.5(m,2H),0.9(t,3H)
19F-NMR(376MHz,DO):δ-80.7(t,3F),-106.5(s,2F),-111.4(t,2F),-120.3(m,2F),-125.0(m,2F)
【0078】
(中間体7iの合成)
温度計と還流管を備えたフラスコに、濃度50質量%の中間体6iのアセトニトリル溶液を684g(固形分342g、0.56mol)、6-クロロ-1-ヘキサノールを212g(1.55mol)、炭酸カリウムを80g(0.58mol)、脱水アセトニトリルを433gの割合で仕込み、窒素雰囲気下、80℃で48時間加熱して、下記の反応式7iの反応により中間体7iを生成させた。反応終了後、不溶物を吸引濾過により濾別し、濾液を濃縮乾固した。得られた残渣に酢酸エチル1840gを加えて溶解させ、得られた溶液を濃度10質量%の塩化カリウム水溶液300gで2回洗浄した後、分液して酢酸エチル相を回収した。回収した酢酸エチル相を、さらにイオン交換水300gで2回洗浄した後、濃縮乾固し、粗生成物を得た。得られた粗生成物にエタノール203gを加えて溶解させ、得られた容液をクロロホルム2032gに加え、生成物を晶析させた。晶析した生成物を吸引濾過により回収し、乾燥して、白色固体の中間体7iを得た。得られた中間体7iの量は、327g(収率:87%)であった。
【0079】
【化17】
【0080】
(中間体7iのH-NMR測定結果と19F-NMR測定結果)
H-NMR(400MHz,CDCN):δ3.8-3.3(m,6H),1.8-1.3(m,10H),1.0(t,3H)
19F-NMR(376MHz,CDCN):δ-80.7(t,3F),-107.3(s,2F),-111.5(t,2F),-120.4(m,2F),-125.0(m,2F)
【0081】
(中間体8iの合成)
分液ロートに、中間体7iを250g(371mmol)量り取り、これに濃度40質量%の硫酸水溶液504gと酢酸エチル2513gとを加えて混合した後、分液して上相を回収した。回収した上相を、濃度40質量%の硫酸水溶液60gで2回洗浄した。洗浄後、濃度10質量%の水酸化リチウム水溶液30gを加えて混合して、下記の反応式8iの反応により中間体8iを生成させた後、分液して上相を回収した。回収した上相をイオン交換水750gで2回洗浄した後、濃縮し、アセトニトリルを加えて、濃度50質量%の中間体8iのアセトニトリル溶液36g(収率:96%)を得た。
【0082】
【化18】
【0083】
(中間体8iのH-NMR測定結果と19F-NMR測定結果)
H-NMR(400MHz,CDCN):δ4.0-3.3(m,6H),1.8-1.3(m,10H),1.0(t,3H)
19F-NMR(376MHz,CDCN):δ-80.5(t,3F),-107.7(s,2F),-111.9(t,2F),-120.7(m,2F),-125.2(m,2F)
【0084】
(反応性含フッ素スルホニルイミド2の合成)
温度計と還流管を備えたフラスコに、濃度50質量%の中間体8iのアセトニトリル溶液を400g(固形分200g、0.31mol)、ジラウリン酸ジブチルすずを0.1g、脱水アセトニトリルを398gの割合で仕込み、窒素雰囲気下で50℃に加熱した。そこに、イソシアン酸3-(トリエトキシシリル)プロピル100g(0.41mol)を滴下した後、60℃で1時間加熱して、下記の反応式2の反応により反応性含フッ素スルホニルイミド2を生成させた。反応終了後、アセトニトリルを留去し、残渣に脱水エタノール143gとトルエン1834gとを加えた混合した後、分液して下相を回収した。回収した下相を、さらにトルエン1368gで洗浄し、次いで濃縮した後、脱水酢酸エチルを加えて、反応性官能基としてトリエトキシシリル基を有し、カチオン成分としてリチウムを含む反応性含フッ素スルホニルイミド2が50質量%の濃度で溶解している酢酸エチル溶液432g(収率:78%)を得た。
【0085】
【化19】
【0086】
(反応性含フッ素スルホニルイミド2のH-NMR測定結果と19F-NMR測定結果)
H-NMR(400MHz,CDCN):δ4.3-3.3(m,12H),3.1(q,2H),1.8-1.3(m,12H),1.2(t,9H),1.0(t,3H),0.6(m,2H)
19F-NMR(376MHz,CDCN):δ-79.8(t,3F),-106.9(s,2F),-111.0(t,2F),-119.8(m,2F),-124.4(m,2F)
【0087】
[合成例3]反応性含フッ素スルホニルイミド3の合成
(中間体9iの合成)
温度計と還流管を備えたフラスコに、エチレンジアミンを37g(0.62mol)、脱水アセトニトリルを203gの割合で仕込み、窒素雰囲気下で60℃に加熱した。そこに、合成例1で合成した中間体1iを同量の脱水アセトニトリルに溶解して調製した溶液200g(中間体1iの量:100g、0.21mol)を滴下した後、60℃で2.5時間加熱することにより、スルホンアミドを生成させた。加熱終了後、濃縮乾固し、残渣に酢酸エチル854gとイオン交換水87gとを加えて混合した後、分液して酢酸エチル相を回収した。回収した酢酸エチル相を、濃度20質量%の水酸化カリウム水溶液100gで3回洗浄することにより、スルホンアミドをカリウム塩化して、下記の反応式9iに示すように中間体9iを生成させた。次いで、中間体9iが生成した酢酸エチル相を濃度20質量%の塩化カリウム水溶液100gで2回、濃度40質量%の硫酸水溶液30gで1回洗浄した後、濃縮乾固した。得られた残渣にテトラヒドロフラン300gと炭酸カリウム88gとを加え60℃で2時間撹拌した後、不溶物を吸引濾過により濾別した。濾液を濃度50質量%の中間体9iのテトラヒドロフラン溶液になるまで濃縮し、淡黄色透明の溶液224g(固形分112g、収率:96%)を得た。
【0088】
【化20】
【0089】
(中間体9iのH-NMR測定結果と19F-NMR測定結果)
H-NMR(400MHz,CDCN):δ3.0(m,2H),2.6(t,2H)
19F-NMR(376MHz,CDCN):δ-80.2(s,3F),-111.3(t,2F),-113.4(t,2F),-119.1(t,2F)
【0090】
(中間体10iの合成)
温度計と還流管を備えたフラスコに、濃度50質量%の中間体9iのテトラヒドロフラン溶液を200g(固形分100g、0.35mol)、塩化リチウム45g(1.07mol)、脱水テトラヒドロフランを203gの割合で仕込み、窒素雰囲気下、60℃で15時間加熱して、下記の反応式10iの反応により中間体10iを生成させた。反応終了後、不溶物を吸引濾過により濾別し、濾液を濃縮して、中間体10iの濃度が50質量%のテトラヒドロフラン溶液377g(固形分189g、収率:100%)を得た。
【0091】
【化21】
【0092】
(中間体10iのH-NMR測定結果と19F-NMR測定結果)
H-NMR(400MHz,CDCN):δ3.0(m,2H),2.6(t,2H)
19F-NMR(376MHz,CDCN):δ-80.3(s,3F),-111.4(t,2F),-113.6(t,2F),-119.3(t,2F)
【0093】
(反応性含フッ素スルホニルイミド3の合成)
温度計と還流管を備えたフラスコに、濃度50質量%の中間体10iのテトラヒドロフラン溶液を122g(固形分61g、0.119mmol)、脱水テトラヒドロフランを120gの割合で仕込み、窒素雰囲気下で60℃に加熱した。そこに、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン29g(0.12mol)を滴下した後、60℃で2時間加熱して、下記の反応式3の反応により反応性含フッ素スルホニルイミド3を生成させた。反応終了後、濃縮乾固し、残渣に脱水エタノール78gとトルエン1230gとを加えて混合した後、分液して下相を回収した。回収した下相を、さらにトルエン935gで洗浄し、次いで濃縮した後、脱水酢酸エチルを加えて、反応性官能基としてトリメトキシシリル基を有し、カチオン成分としてリチウムを含む反応性含フッ素スルホニルイミド3が50質量%の濃度で溶解している酢酸エチル溶液144g(収率:81%)を得た。
【0094】
【化22】
【0095】
(反応性含フッ素スルホニルイミド3のH-NMR測定結果と19F-NMR測定結果)
H-NMR(400MHz,CDCN):δ4.4-3.2(m,4H),3.9(m,1H),3.6(s,9H),3.6(m,2H),3.6(t,2H),2.7(m,2H),1.7(m,2H),0.6(m,2H)
19F-NMR(376MHz,CDCN):δ-80.3(s,3F),-111.9(t,2F),-113.6(t,2F),-119.6(q,2F)
【0096】
[合成例4]反応性含フッ素スルホニルイミド4の合成
(中間体11iの合成)
イオン交換水10.5gに、合成例1で合成した中間体3iを10.1g(0.0188mol)加えて、中間体3iを溶解させて、中間体3i水溶液を調製した。分液ロートに、調製した中間体3水溶液を投入し、これに濃度50質量%のN-エチル-N-メチルピロリジニウムブロミド水溶液8.7g(固形分4.4g、0.0244mol)とクロロホルム17.8gとを加えて混合して、下記の反応式11iの反応により中間体10iを生成させた後、分液して下相を回収した。回収した下相をイオン交換水10gで4回洗浄した後、不溶物を吸引濾過により濾別した。ろ液を濃縮して、中間体11iを得た。得られた中間体11iの量は、6.7g(収率:58%)であった。
【0097】
【化23】
【0098】
(中間体11iのH-NMR測定結果と19F-NMR測定結果)
H-NMR(400MHz,CDCN):δ3.8-3.2(m,4H),3.4(m,4H),3.3(q,2H),3.1(s,3H),2.9(s,3H),2.1(m,4H),1.3(t-t,3H)
19F-NMR(376MHz,CDCN):δ-80.2(s,3F),-111.8(m,2F),-113.4(t,2F),-119.5(t,2F)
【0099】
(反応性含フッ素スルホニルイミド4の合成)
温度計と還流管を備えたフラスコに、中間体11iを5.1g(9.1mmol)、ジラウリン酸ジブチルすずを0.08g、脱水アセトニトリルを15.1gの割合で仕込み、窒素雰囲気下で50℃に加熱した。そこに、イソシアン酸3-(トリエトキシシリル)プロピル3.9g(15.8mmol)を滴下した後、60℃で1時間加熱して、下記の反応式4の反応により反応性含フッ素スルホニルイミド4を生成させた。反応終了後、アセトニトリルを留去し、残渣に脱水エタノール3gとトルエン54gとを加えて混合した後、分液して下相を回収した。回収した下相を、さらにトルエン38gで洗浄し、次いで濃縮して、反応性官能基としてトリエトキシシリル基を有し、カチオン成分としてN-エチル-N-メチルピロリジニウムを含む反応性含フッ素スルホニルイミド4を得た。得られた反応性含フッ素スルホニルイミド4の量は6.2g(収率:84%)であった。
【0100】
【化24】
【0101】
(反応性含フッ素スルホニルイミド4のH-NMR測定結果と19F-NMR測定結果)
H-NMR(400MHz,CDCN):δ4.4-3.3(m,16H),3.1(s,3H),3.1(q,2H),2.9(s,3H),2.1(m,4H),1.6(m,2H),1.3(t-t,3H),1.2(t,9H)0.6(m,2H)
19F-NMR(376MHz,CDCN):δ-80.2(s,3F),-111.9(t,2F),-113.5(t,2F),-119.5(q,2F)
【0102】
[合成例5]共重合体1の合成
温度計と還流管を備えたフラスコに、合成例1で得た濃度50質量%の反応性含フッ素スルホニルイミド1の酢酸エチル溶液40g(固形分20g、27mmol)を投入し、窒素雰囲気下で濃縮した。残渣を1-プロパノール27gに溶解させ、得られた溶液にジエトキシジメチルシラン29g(195mmol)とトリエトキシメチルシラン10g(55mmol)とを加えて混合した。得られた混合液を60℃に昇温した後、その混合液に、濃度0.1mol/Lの塩酸6gを滴下した。その後、さらに60℃で18時間加熱して混合液を反応させた。得られた反応混合液を濃縮し、残渣をn-ヘキサン60gで2回洗浄した後、濃縮して、反応性含フッ素スルホニルイミド1の含有率が34質量%の共重合体1を21g得た。
【0103】
[合成例6]共重合体2の合成
温度計と還流管を備えたフラスコに、合成例2で得た濃度50質量%の反応性含フッ素スルホニルイミド2の酢酸エチル溶液200g(固形分100g、113mmol)を投入し、窒素雰囲気下で濃縮した。残渣を1-プロパノール136gに溶解させ、得られた溶液にジエトキシジメチルシラン122g(826mmol)とトリエトキシメチルシラン42g(233mmol)とを加えて混合した。得られた混合液を60℃に昇温した後、その混合液に濃度0.1mol/Lの塩酸30gを滴下した。その後、さらに60℃で15時間加熱して混合液を反応させた。得られた反応混合液を濃縮し、残渣をn-ヘキサン273gで2回洗浄した後、濃縮して、反応性含フッ素スルホニルイミド2の含有率が38質量%の共重合体2を95g得た。
【0104】
[合成例7]共重合体3の合成
温度計と還流管を備えたフラスコに、合成例3で得た濃度50質量%の反応性含フッ素スルホニルイミド3の酢酸エチル溶液100g(固形分50g、65mmol)を投入し、窒素雰囲気下で濃縮した。残渣を1-プロパノール68gに溶解させ、得られた溶液にジメチルジメトキシシラン58g(479mmol)とメチルトリメトキシシラン18g(135mmol)とを混合した。得られた混合液を40℃に昇温した後、その混合液に濃度0.1mol/Lの塩酸15gを滴下した。その後、さらに40℃で15時間加熱して混合液を反応させた。得られた反応混合液を濃縮し、残渣をn-ヘキサン136gで2回洗浄した後、濃縮して、反応性含フッ素スルホニルイミド3の含有率が40質量%の共重合3を57g得た。
【0105】
[合成例8]共重合体4の合成
温度計と還流管を備えたフラスコに、合成例4で得た反応性含フッ素スルホニルイミド4を5g(6mmol)投入し、窒素雰囲気下、1-プロパノール7gを加えて、反応性含フッ素スルホニルイミド4を溶解させた。次いで、得られた溶液に、ジエトキシジメチルシラン7g(45mmol)とトリエトキシメチルシラン2g(13mmol)とを加えて混合した。得られた混合液を60℃に昇温した後、その混合液に濃度0.1moml/Lの塩酸2gを滴下した、その後、さらに60℃で18時間加熱して混合液を反応させた。得られた反応混合液を濃縮し、残渣をn-ヘキサン15gで2回洗浄後、濃縮し、反応性含フッ素スルホニルイミド4の含有率が36質量%の共重合体4を5g得た。
【0106】
[本発明例1]
合成例5で合成した共重合体1を0.003g、シリコーン樹脂(KE-4897-T、信越化学工業株式会社製)を1gの配合量で、酢酸エチル99gに添加して溶解した。得られた溶液を、PETフィルム(ルミラー 100T60、パナック株式会社製)の表面に、バーコーター(No.16)を用いて塗布した。得られた塗布膜付のPETフィルムを、60℃の環境下で一晩静置して、塗布膜を硬化させて、共重合体1の含有率が0.3質量%(反応性含フッ素スルホニルイミド1の含有率が0.1質量%)のシリコーン樹脂組成物膜を得た。得られたシリコーン樹脂組成物膜の表面抵抗率を、ハイレスター(株式会社三菱ケミカルアナリテック社製)を用いて測定した。その結果を表1に示す。
【0107】
[本発明例2]
共重合体1の添加量を0.029gとしたこと以外は本発明例1と同様にして、共重合体1の含有率が3質量%(反応性含フッ素スルホニルイミド1の含有率が1質量%)のシリコーン樹脂組成物膜を作製し、得られたシリコーン樹脂組成物膜の表面抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0108】
[本発明例3]
共重合体1の添加量を0.147gとしたこと以外は本発明例1と同様にして、共重合体1の含有率が15質量%(反応性含フッ素スルホニルイミド1の含有率が5質量%)のシリコーン樹脂組成物膜を作製し、得られたシリコーン樹脂組成物膜の表面抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0109】
[本発明例4~12]
共重合体1の代わりに、共重合体2~4を、下記の表1に示す配合量で加えたこと以外は本発明例1と同様にして、シリコーン樹脂組成物膜を作製し、得られたシリコーン樹脂組成物膜の表面抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0110】
[比較例1]
共重合体1を添加しなかったこと以外は本発明例1と同様にして、シリコーン樹脂膜を作製し、得られたシリコーン樹脂膜の表面抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
表1の結果から、反応性含フッ素スルホニルイミドを含む本発明例1~12シリコーン樹脂組成物膜は、反応性含フッ素スルホニルイミドを含まない比較例1のシリコーン樹脂膜と比較して表面抵抗率が顕著に低減することが確認された。