(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】多孔体及び該多孔体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/30 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
C08J9/30 CEW
(21)【出願番号】P 2018087265
(22)【出願日】2018-04-27
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100111109
【氏名又は名称】城田 百合子
(72)【発明者】
【氏名】村山 和貴
(72)【発明者】
【氏名】神原 正彰
(72)【発明者】
【氏名】内藤 真史
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-144137(JP,A)
【文献】特開昭59-006231(JP,A)
【文献】特開平11-086828(JP,A)
【文献】特開平07-026050(JP,A)
【文献】特開昭64-011142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/00-9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気孔を有する多孔体
の製造方法であって、
ふっ素樹脂粉末を、水/水溶性のアルコールの混合溶媒に分散させてふっ素樹脂粉末の分散液を調製する分散液調製工程と、
調製したふっ素樹脂粉末の分散液を発泡させる発泡工程と、
発泡させて得られた発泡体を乾燥する乾燥工程と、
乾燥させた発泡体を焼成する焼成工程と、を行うことを特徴とする多孔体
の製造方法(ただし、界面活性剤を用いる方法を除く)。
【請求項2】
前記水溶性のアルコールは、エタノール、メタノール、n-プロパノール、イソプロパノールを含む群から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の多孔体の製造方法。
【請求項3】
前記水/水溶性のアルコールの混合溶媒は、水:水性アルコールの体積比が80:20~20:80であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔体の製造方法。
【請求項4】
前記水/水溶性のアルコールの混合溶媒は、水:水性アルコールの体積比が70:30~30:70であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記水/水溶性のアルコールの混合溶媒は、水:水性アルコールの体積比が60:40~40:60であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔体の製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程では、大気雰囲気化にて前記ふっ素樹脂の融点以上の温度で焼成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の多孔体の製造方法。
【請求項7】
前記焼成工程は、前記乾燥工程と同時に実施されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の多孔体の製造方法。
【請求項8】
前記ふっ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、並びにテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフルオライドの3種類のモノマーからなる熱可塑性フッ素樹脂(THV)、及びフロオロエラストマーを含む群から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の多孔体
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔体、特にポリテトラフルオロエチレン(ふっ素樹脂)を主成分として含有する多孔体及び該多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と呼ぶ)多孔体は、ふっ素樹脂多孔体であり、耐熱性、耐薬品性に優れ、比誘電率等の電気的特性にも優れるため、断熱材、吸音材、シール材、フィルタなどの分離膜、医療用途など幅広い用途に用いられている。
【0003】
PTFE多孔体は、PTFEを延伸する方法や、造孔剤を用いる方法によって製造されている。
【0004】
特許文献1には、円周方向に強度が向上した管状PTFE多孔体の製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、PTFE粉末と造孔剤の混合物をシート状に成形して積層し、積層した層と略垂直方向に加圧した後に、造孔剤を除去することにより気孔を形成するPTFE多孔体の製造方法が記載されている。
【0006】
特許文献3には、樹脂やセラミックなどの各種固体微粒子が分散媒の液液界面に吸着することによって形成された、メレンゲのような均一で安定な泡(ピッカリングエマルション)を経由して多孔体を作製する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-246142号公報
【文献】特開2009-197147号公報
【文献】国際公開第2007/068127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のように、延伸による管状PTFE多孔体では、延伸時に発生する内部応力によりPTFEがフィブリル化し、このフィブリル化の際に発生する内部応力の残留により、熱収縮が大きいものとなってしまうという課題があった。また、前記延伸による管状PTFE多孔体は気孔の形状が横長なものとなり、フィブリル化したPTFEが互いに連結された結節からなる多孔質構造を有することから、延伸方向である長軸方向の配向が非常に高いものとなる。
【0009】
また、特許文献2のように、造孔剤を用いて得られるPTFE多孔体では、気孔率を高くすることが難しく、一般的に柔軟性および復元性が十分ではないという課題があった。
【0010】
また、特許文献3のように、ピッカリングエマルションを経由して形成される多孔体では、脱水時に微粒子が凝集し緻密化することにより、得られる多孔体の気孔率を高くすることが難しく、柔軟性および復元性が十分ではないという課題があった。
【0011】
したがって、特定の方向に配向していない独立した気孔を有し、気孔の形状が円形又は楕円形であり、熱収縮が発生せず、気孔率が高く、柔軟性および復元性に優れるPTFE多孔体などのふっ素樹脂多孔体が望まれている。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、特定の方向に配向していない独立した気孔を有し、気孔の形状が円形又は楕円形であり、熱収縮が小さく、気孔率が高く、柔軟性および復元性に優れるふっ素樹脂多孔体及び該多孔体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ふっ素樹脂粉末の分散液を発泡させることによって、従来の方法では得ることのできないふっ素樹脂多孔体、すなわち、特定の方向に配向していない独立した気孔を有し、気孔の形状が円形又は楕円形であり、熱収縮が小さく、気孔率が高く、柔軟性および復元性に優れるふっ素樹脂多孔体を得られることを見出し、本発明をするに至った。
【0014】
したがって、前記課題は、本発明によれば、気孔を有する多孔体の製造方法であって、ふっ素樹脂粉末を、水/水溶性のアルコールの混合溶媒に分散させてふっ素樹脂粉末の分散液を調製する分散液調製工程と、調製したふっ素樹脂粉末の分散液を発泡させる発泡工程と、発泡させて得られた発泡体を乾燥する乾燥工程と、乾燥させた発泡体を焼成する焼成工程と、を行うことを特徴とする多孔体の製造方法(ただし、界面活性剤を用いる方法を除く)により解決される。
【0015】
このとき、前記水溶性のアルコールは、エタノール、メタノール、n-プロパノール、イソプロパノールを含む群から選択される少なくとも1種以上であるとよい。
このとき、前記水/水溶性のアルコールの混合溶媒は、水:水性アルコールの体積比が80:20~20:80であるとよい。
このとき、前記水/水溶性のアルコールの混合溶媒は、水:水性アルコールの体積比が70:30~30:70であるとよい。
このとき、前記水/水溶性のアルコールの混合溶媒は、水:水性アルコールの体積比が60:40~40:60であるとよい。
このとき、前記焼成工程では、大気雰囲気化にて前記ふっ素樹脂の融点以上の温度で焼成するとよい。
このとき、前記焼成工程は、前記乾燥工程と同時に実施されるとよい。
このとき、前記ふっ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、並びにテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフルオライドの3種類のモノマーからなる熱可塑性フッ素樹脂(THV)、及びフロオロエラストマーを含む群から選択される少なくとも1種以上である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来の方法では得ることのできない、独立した気孔を有し、気孔の形状が円形又は楕円形であり、熱収縮が発生せず、気孔率が高く、柔軟性および復元性に優れるふっ素樹脂多孔体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1で得られた多孔体の断面の写真である。
【
図2】比較例1で得られた多孔体の断面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態(以下、本実施形態という)について、
図1及び2を参照しながら説明する。本実施形態の多孔体は、気孔を有する多孔体であって、該多孔体は、ふっ素樹脂を含有し、前記気孔が円形又は楕円形の断面を示し、気孔率が75体積%以上99体積%以下であることを特徴とする多孔体である。なお、以下に記載する特性は、特記されていない限り常温(JIS Z 8703による5~35℃)における特性である。
【0019】
(ふっ素樹脂)
ふっ素樹脂とは、高分子鎖の繰り返し単位を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つが、ふっ素原子又はふっ素原子を有する有機基(以下「ふっ素原子含有基」ともいう)で置換されたものをいう。ふっ素原子含有基は、直鎖状又は分岐状の有機基中の水素原子の少なくとも1つがふっ素原子で置換されたものであり、例えばフルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、フルオロポリエーテル基等が挙げられる。
【0020】
ここで、フルオロアルキル基とは、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基であり、フルオロアルコキシ基とは、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されたアルコキシ基である。また、フルオロポリエーテル基とは、繰り返し単位としてオキシアルキレン単位を有し、末端にアルキル基又は水素原子を有する1価の基であって、このアルキレンオキシド鎖又は末端のアルキル基の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された1価の基である。
【0021】
ふっ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、並びにテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフルオライドの3種類のモノマーからなる熱可塑性フッ素樹脂(THV)、及びフロオロエラストマーが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、これらのふっ素樹脂を含む混合物やコポリマーも使用することができる。
【0022】
(1)気孔の断面形状
本実施形態の多孔体は、気孔が円形又は楕円形の断面を示す。
ここで、円形とは、本発明においては、気孔の短軸の長さ(a)と長軸の長さ(b)の比(a/b)が、0.7以上1.5以下であることであると定義される。
ここで、楕円形とは、本発明においては、気孔の短軸の長さ(a)と長軸の長さ(b)の比(a/b)が、0.3以上0.7未満、又は、1.5より大きく3.8未満であることであると定義される。
【0023】
本実施形態の多孔体は、気孔径(平均円相当径)が、0.1μm以上5mm以下である。例えば、180μm~800μm、200μm~700μm、250μm~600μmとできる。
【0024】
(2)気孔率・かさ密度
本実施形態の多孔体は、気孔率が75体積%以上99体積%以下であり、例えば、76体積%以上、77体積%以上、78体積%以上、79体積%以上、80体積%以上とできる。上限は、99体積%以下である。
【0025】
また、本実施形態の多孔体では、かさ密度(常温、圧縮率0%)が好ましくは0.4~0.6g/cm3である。かさ密度が上記の範囲であると、柔軟性を高くでき変形特性を向上できる。
【0026】
(3)圧縮応力
本実施形態の多孔体は、常温における圧縮率0~50%における各圧縮率で圧縮した際の圧縮応力が全て好ましくは2.0MPa以下である。例えば、1.5MPa以下、1.3MPa以下、1.0MPa以下、0.8MPa以下、0.6MPa以下、0.4MPa以下、0.2MPa以下、0.05MPa以下、又は0.02MPa以下とできる。下限は0MPaである。さらに好ましくは、本実施形態の多孔体では、高温下(250℃)における圧縮率0~50%の各圧縮率で圧縮した際の圧縮応力が全て好ましくは2.0MPa以下である。例えば、2.0MPa以下、1.7MPa以下、1.5MPa以下、1.3MPa以下、1.0MPa以下、0.8MPa以下、0.6MPa以下、0.4MPa以下、0.2MPa以下又は0.04MPa以下とできる。下限は0MPaである。
【0027】
また、本実施形態の多孔体は、常温における圧縮率50%における圧縮した際の圧縮応力(又は圧縮率0~50%における各圧縮率で圧縮した際の圧縮応力が全て)が好ましくは0.5MPa以下である。例えば、0.3MPa以下、0.1MPa以下、0.08MPa以下、0.06MPa以下、0.04MPa以下、0.02MPa以下、0.01MPa以下、0.008MPa以下、又は0.005MPa以下とできる。下限は限定されないが、通常0.0001MPa以上又は0.00001MPa以上である。
【0028】
(4)復元率
本実施形態の多孔体は、好ましくは、常温で、圧縮率50%で圧縮した際の復元率が75%以上である。例えば、85%以上、90%以上、又は95%以上とできる。上限は限定されないが、通常99%以下である。より好ましくは高温下(250℃)における圧縮率50%で圧縮した際の復元率が75%以上である。例えば、80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上とできる。上限は限定されないが、通常99%以下である。
【0029】
本実施形態の多孔体では、多孔質構造が均一で、気孔率が高いため、復元性を高くでき変形特性を向上できる。より具体的には、多孔体が取り付けられる被取付部に対して馴染み易く多孔体と被取付部との間の隙間を抑制して常温から高温下におけるシール性を確保及び向上できる。
【0030】
また、本実施形態の多孔体は、非延伸であるため、熱収縮が発生せず、被取付部において高温(例えば200℃以上250℃以下)にさらされても、多孔体と被取付部との間および多孔体と多孔体の接触部において隙間が発生しないため、多孔体を被取付部に対して強固に固定する必要がない。
【0031】
(5)見かけヤング率
本実施形態の多孔体では、好ましくは常温での圧縮率25%における見かけヤング率が2.0MPa以下である。例えば、1.0MPa以下、0.3MPa以下、0.1MPa以下、0.05MPa以下、又は0.01MPa以下とできる。下限は限定されないが、通常0.0001MPa以上である。より好ましくは、本実施形態の多孔体では、好ましくは高温下(250℃)における圧縮率25%における見かけヤング率が2.0MPa以下である。例えば、1.0MPa以下、0.1MPa以下、0.08MPa以下、又は0.05MPa以下とできる。下限は限定されないが、通常0.0001MPa以上である。さらに好ましくは、本実施形態の多孔体では、常温及び高温下(250℃)における圧縮率0~90%の各圧縮率で圧縮した際の見かけヤング率が上記の低い値である。このように本実施形態の多孔体では、見かけヤング率が低いため、柔軟性を高くでき変形特性を向上できる。
【0032】
ここで、本発明における見かけヤング率とは、圧縮率を歪量とみなして、所定の圧縮率で圧縮したときの圧縮応力を前記所定の圧縮率で除した値である。
【0033】
本実施形態の多孔体では、好ましくは常温での圧縮率25%における見かけヤング率が2.0MPa以下である。例えば、1.0MPa以下、0.3MPa以下、0.1MPa以下、0.05MPa以下、又は0.01MPa以下とできる。下限は限定されないが、通常0.0001MPa以上である。
【0034】
(6)熱収縮量
本実施形態の多孔体では、好ましくは250℃における熱収縮が発生しない。ここで、熱収縮が発生しないとは、多孔体を常温から250℃の高温にした際の熱収縮率(%)が0またはマイナスとなることを意味する。熱収縮率は、例えば、多孔体の常温及び250℃における厚みを測定し、熱収縮率(%)=(常温の厚さ-250℃における厚さ)÷常温の厚さ×100で算出すればよい。250℃における厚さよりも、常温の厚さの方が小さい場合、熱収縮率は0であるとする。
【0035】
本実施形態の多孔体は、非延伸であるため、熱収縮が発生せず、被取付部において高温(例えば200℃以上250℃以下)にさらされても、多孔体と被取付部との間および多孔体と多孔体の接触部において隙間が発生しないため、多孔体を被取付部に対して強固に固定する必要がない。
【0036】
本実施形態の多孔体は上記の特性を任意に組み合わせて有することができる。なお、上記の気孔の断面形状、気孔率、かさ密度、圧縮応力、復元率、見かけヤング率、熱収縮量は、例えばふっ素樹脂粉末の濃度(含有割合)、発泡倍率、気泡量、気泡径等により調整(制御)できる。
【0037】
本実施形態の多孔体は、ふっ素樹脂を含有しており、多孔体の重量を100重量%としたときに、ふっ素樹脂の重量を30重量%以上100重量%以下とすることが可能である。
【0038】
<多孔体の製造方法>
次に、本実施形態の多孔体の製造方法について説明する。本実施形態の多孔体の製造方法は、ふっ素樹脂粉末を、水/水溶性のアルコールの混合溶媒に分散させてふっ素樹脂粉末の分散液を調製する分散液調製工程と、調製したふっ素樹脂粉末分散液を発泡させる発泡工程と、発泡させて得られた発泡体を乾燥する乾燥工程(分散媒の除去工程)と、乾燥させた発泡体を焼成する焼成工程と、を行うことを特徴とする。
【0039】
(分散液調製工程)
分散液調製工程では、ふっ素樹脂粉末を、水/水溶性のアルコールの混合溶媒に分散させてふっ素樹脂粉末の分散液を調製する。
ここで、水溶性のアルコールとしては、水溶性アルコールとしては、例えば、エチルアルコール(エタノール)、メタノール(メチルアルコール)、n-プロパノール、イソプロパノール等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。水溶性アルコールは、1種類のみを用いても良く、任意の2種または3種以上を混合して用いてもよい。
水と水溶性アルコールの混合率は、用いる水溶性アルコールの種類に応じて適宜設定すればよく、水:水性アルコールの体積比が80:20~20:80、好ましくは70:30~30:70、より好ましくは60:40~40:60である。
【0040】
(発泡工程)
発泡工程では、ふっ素樹脂粉末が混合溶媒に分散した分散液を発泡させる。なお、発泡方法は、気泡供給装置を用いたり、攪拌によって発泡させたりして行うことができるが、これらの方法に限定されない。このような気泡供給装置や攪拌などの条件によって、気泡倍率、気泡量、気泡径を調整できる。
【0041】
(乾燥工程)
前記脱水工程では、発泡体を所定時間(例えば4時間)、常温又は常温外の所定温度下で分散液に含まれていた分散媒を乾燥(自然乾燥を含む)することによって脱水する。
【0042】
(焼成工程)
前記焼成工程では、発泡体を大気雰囲気化にてふっ素樹脂の融点以上の高温度(例えばPTFEであれば、340~370℃)で所定時間(例えば1時間)焼成する。なお、焼成工程は、前記脱水工程と同時に実施することが可能である。
【0043】
本実施形態の多孔体の製造方法は、ふっ素樹脂以外の樹脂にも適用可能である。具体的には、樹脂粉末を、水/水溶性のアルコールの混合溶媒などの所定の溶媒に分散させることで樹脂粉末の分散液を調製可能であり、樹脂粉末の分散液を発泡させた際に適切に発泡する樹脂であれば本実施形態の多孔体の製造方法により、ふっ素樹脂を用いた場合と同様に、特定の方向に配向していない独立した気孔を有し、気孔の形状が円形又は楕円形であり、熱収縮が発生せず、気孔率が高く、柔軟性および復元性に優れた多孔体を製造することが可能である。
【0044】
ふっ素樹脂以外の樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、非晶ポリアリレート(PAR)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などが挙げられるが、これらの樹脂に限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
PTFE粉末(旭硝子株式会社製G-163)を、水とエチルアルコールを体積比60:40の混合溶媒に分散させてPTFE粉末の濃度が2.5体積%のPTFE粉末の分散液を調製した。調製した分散液を、気体供給装置を用いて発泡させた。発泡させて得られた発泡体を回収して、100℃で4時間乾燥させた後に、360℃で1時間、大気雰囲気下にて焼成した。
【0047】
得られた多孔体の断面の写真を
図1に示す。実施例1の多孔体について以下の評価をした。結果を表1に示す。
【0048】
(1)気孔率
作成した多孔体からサンプルを切断し、寸法計測装置(例えばノギス)を用いて、前記サンプルの縦、横、高さの寸法を計測した。次に、前記サンプルの重量を計測し、以下の式によりかさ密度を測定した。
かさ密度(g/cm3)=重量÷縦寸法÷横寸法÷高さ
得られたかさ密度とPTFEの真比重(2.25g/cm3)から以下の式により気孔率を算出した。
気孔率(%)=(1-かさ密度)÷真比重×100
【0049】
(2)気孔の断面形状
作成した多孔体からサンプルを切断し、断面をマイクロスコープ(ハイロックス社製MODEL RH-2000)を用いて35倍にて撮影した。細孔と認められる部分が円形状または楕円形状となっていることから、細孔の長径と短径を計測した。
【0050】
(3)圧縮応力
以下の式に示すように、試験時のサンプル圧縮時の荷重値を上記サンプル寸法計測により求めた面積(縦寸法と横寸法)で除算して算出した。圧縮時の荷重は、上記のかさ密度と同じようにサンプルの寸法を計測し、このサンプルの厚さを100%として圧縮率を設定(0~50%)して、材料試験機(オートグラフ、島津製作所)を用いて所定厚さまで圧縮(5mm/min)した際の加重値とした。
圧縮応力(MPa)=測定荷重(N)÷サンプル面積(mm2)
【0051】
(4)圧縮復元率
上記のかさ密度と同じようにサンプルの寸法を計測した。このサンプルの厚さを100%として、材料試験機(オートグラフ、島津製作所)を用いて60秒間50%圧縮(5mm/min)し、圧縮を解放して60秒後の厚さを計測し、以下の式から復元率を算出した。
復元率(%)=圧縮試験後の厚さ÷試験前の厚さ×100
【0052】
(5)見かけヤング率
前記圧縮応力と、サンプルの寸法計測によって計測した歪量とに基づき見かけヤング率を算出した。
【0053】
(6)熱収縮率
上記のかさ密度と同じようにサンプルの寸法を計測した。このサンプルの厚さを100%として、熱機械分析装置(TAInstruments製TMAQ400)を用いて260℃におけるサンプルの厚さを計測し、以下の式から熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)=(常温の厚さ-260℃における厚さ)÷常温の厚さ×100
260℃における厚さよりも、常温の厚さの方が小さい場合、熱収縮率は0である。
【0054】
<比較例1>
実施例1とは異なり管状PTFEを315℃で長手方向に600%延伸し、355℃で焼成することにより多孔体を得た。
得られた多孔体の断面の写真を
図2に示す。さらに比較例1の多孔体について実施例1と同様に評価をした。結果を表1に示す。
【0055】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の多孔体は、例えば、断熱材、シール材、吸音材、遮音材として利用可能である。