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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】液体推進剤およびその添加剤
(51)【国際特許分類】
   C06D 5/00 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
C06D5/00 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018095303
(22)【出願日】2018-05-17
(65)【公開番号】P2019199380
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】513244753
【氏名又は名称】カーリットホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 拓也
(72)【発明者】
【氏名】戸丸 貴行
(72)【発明者】
【氏名】久保田 一浩
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-069228(JP,A)
【文献】特開2015-218096(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084344(WO,A1)
【文献】特表2002-537218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C06D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式(1)中、R~Rはそれぞれ同一でも異なってもよい水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。)で表されるジニトラミド誘導体と、
下記一般式(2)
【化2】
(式(2)中、Rは炭素数1~8のアルキル基を表し、R~Rは、それぞれ同一でも異なってもよい水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。)で表されるアミンナイトレートと、添加剤を少なくとも含有する液体推進剤であって、添加剤が水酸基及びアミノ基を同一分子内に含有する常温で固体の有機化合物を含むことを特徴とする液体推進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体推進剤、詳しくは、ジニトラミド誘導体とアミンナイトレートを用いた液体推進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
液体推進剤は固体推進薬と比較して、燃焼の中断や再点火により推力の制御が可能であるため、ロケットのメインエンジンの他、人工衛星の軌道変換や姿勢制御用スラスタに利用されている。
【0003】
液体推進剤は、一般に二液系推進剤と一液系推進剤の二種類がある。二液系推進剤は液体酸化剤と液体燃料をエンジン内で混合して燃焼させることで大きな推力を得ることができ、ロケット打ち上げのメインエンジンに使用される。一液系推進剤は、触媒への接触や外部エネルギーにより燃焼させることができる。また、液体推進剤の供給配管が一系統であるため、推進システムの小型化・簡略化が可能という特徴があり、人工衛星の軌道変換や姿勢制御用スラスタに使用されている。
【0004】
人工衛星の軌道変換や姿勢制御用スラスタには主に一液系推進剤として、ヒドラジンが利用される。
【0005】
しかしながら、ヒドラジンは毒性が高く蒸発しやすいため取扱い時には特殊スーツの着用や除害設備が必要となる。さらに特定作業要員と医療要員が必要となり、また充填作業時には安全確保のため並行作業が禁止される。
【0006】
このため、運用に際しては安全対策等にコストがかかり、また、作業効率の著しい低下が問題となっている。
【0007】
特許文献1には、上記に替わる推進剤として、ジニトラミドの塩を酸化剤として用いた推進剤が開示されている。燃料としては一価アルコール、二価アルコール、三価アルコール又は多価アルコール(具体的には、グリセロール(グリセリン)、グリシン)を用いた場合が有用とされ、特に好ましい配合物としてアンモニウムジニトラミド(ADN)、水、グリセロールが例示されている。ヒドラジンの替わりにジニトラミドの塩を酸化剤として用いることで毒性が低く取り扱い易くなるが、開示されている構成の推進剤では水等の溶剤を使用しており、着火性の低下、密度が小さくなるといった要因を含んでいる。推進剤の密度が低いということは、同等の推力を得ようとするとロケットの液剤タンクが嵩高くなるために、ロケット設計においてコスト増の要因となる。
【0008】
特許文献2には、ジニトラミドの塩を酸化剤として用いた推進剤が開示されている。特に好ましい配合物としてアンモニウムジニトラミド(ADN)、モノメチルアミンナイトレート(MMAN)、尿素(Urea)が例示されている。液体推進剤の原料として溶剤等の液体成分が必ずしも必須ではなく、毒性についても低減しているが、着火温度が450℃であり、着火が比較的容易でないという問題がある。
【0009】
以上より、毒性が低く、取り扱いが容易な着火性を向上させた液体推進剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2002-537218号公報
【文献】特願2014-549911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、原料として溶剤等の液体成分が必ずしも必須ではない液体推進剤について、着火性を向上させた液体推進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討した結果、一般式(1)で表されるジニトラミド誘導体と、一般式(2)で表されるアミンナイトレートと、添加剤を少なくとも含有する液体推進剤であって、添加剤が水酸基を含有する常温で固体の有機化合物を含むことを特徴とする液体推推進剤を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0014】
第一の発明は、下記一般式(1)で表されるジニトラミド誘導体と、下記一般式(2)で表されるアミンナイトレートと、添加剤を少なくとも含有する液体推進剤であって、添加剤が水酸基を含有する常温で固体の有機化合物を含むことを特徴とする液体推進剤である。
【化1】
【0015】
式(1)中、R~Rはそれぞれ同一でも異なってもよい水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。
【0016】
【化2】
【0017】
式(2)中、Rは炭素数1~8のアルキル基を表し、R~Rは、それぞれ同一でも異なってもよい水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。
【0018】
第二の発明は、前記常温で固体の有機化合物が、水酸基及びアミノ基を同一分子内に含有する常温で固体の有機化合物であることを特徴とする第一の発明に記載の液体推進剤。
【0019】
第三の発明は、前記ジニトラミド誘導体が、下記化合物(A)で表されるアンモニウムジニトラミドを含むことを特徴とする第一又は第二の発明に記載の液体推進剤である。
【化3】
【0020】
第四の発明は、前記アミンナイトレートに対する前記ジニトラミド誘導体の質量比が3/7~8/2である第一から第三の発明のいずれか一項に記載の液体推進剤である。
【0021】
第五の発明は、前記添加剤の含有量が、液体推進剤に対して0.1~30質量%であることを特徴とする第一から第四の発明のいずれか一項に記載の液体推進剤である。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、従来と比べて着火性を向上させた液体推進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、上記一般式(1)で表されるジニトラミド誘導体と、上記一般式(2)で表されるアミンナイトレートと、添加剤を少なくとも含有する液体推進剤であって、添加剤が水酸基を含有する常温で固体の有機化合物を含むことを特徴とする液体推進剤である。
【0024】
ここで、液体推進剤とは、液体推進剤がロケットエンジンシステムの上で供給、噴出される際に、流動性を有している推進剤を指す。液体推進剤は流動性を損なわなければ固体物質を含有してもよい。
【0025】
上記一般式(1)中、R~Rは、それぞれ同一でも異なってもよい水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。
【0026】
該炭素数1~8のアルキル基としては、好ましくは炭素数1~6のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられるが、これらの中でも、溶解性に優れている点より、メチル基が特に好ましく挙げられる。
【0027】
一般式(1)で表されるアンモニウムジニトラミドのカチオン部としては、アンモニウムカチオン、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラプロピルアンモニウムカチオン、テトライソプロピルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、トリメチルエチルアンモニウムカチオン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン、ジメチルジエチルアンモニウムカチオン、ジメチルエチルメトキシエチルアンモニウムカチオン、ジメチルエチルメトキシメチルアンモニウムカチオン、ジメチルエチルエトキシエチルアンモニウムカチオン、トリメチルプロピルアンモニウムカチオン、ジメチルエチルプロピルアンモニウムカチオン、トリエチルプロピルアンモニウムカチオン等が挙げられる。
これらの中でも特に、比推力に優れる点より、アンモニウムカチオンが特に好ましく挙げられる。つまり上記式(A)で表されるアンモニウムジニトラミド、すなわち、式(1)におけるR~Rが全て水素原子である化合物、を用いることが好ましく挙げられる。
【0028】
アンモニウムジニトラミドの製造方法は、公知の製造方法(特表平05-500795号公報、WO91/19669号公報等)で製造することができる。前記製造方法に倣って、対応するカチオンを調製することにより、上記式(1)のアンモニウムジニトラミドを得ることもできる。
【0029】
上記一般式(2)中、Rは炭素数1~8のアルキル基を表し、R~Rは、それぞれ同一でも異なってもよい水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表す。RとRの少なくとも一方は、Rと同じアルキル基であってもよいし異なるアルキル基であってもよい。
【0030】
炭素数1~8のアルキル基としては、好ましくは炭素数1~6のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられるが、これらの中でも、溶解性に優れている点から、メチル基が特に好ましく挙げられる。
【0031】
一般式(2)で表されるアミンナイトレートのアミンとしては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミンが挙げられる。
【0032】
モノアルキルアミンとしては、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、モノペンチルアミン、モノヘキシルアミン等が挙げられる。
【0033】
ジアルキルアミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン等が挙げられる。
【0034】
トリアルキルアミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘプチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン等が挙げられる。
【0035】
これらの中でも、比推力に優れる点より、モノアルキルアミンが好ましく、特にモノメチルアミンが好ましく挙げられる。換言すると、上記一般式(2)におけるRとRは両方とも水素原子が好ましく、Rはメチル基が特に好ましい。一般式(2)で表されるアミンナイトレートは、市販のものを用いる、または、公知の製法により得られたものを用いることができる。前記製法としては、例えば、対応するアミンと硝酸とを反応させることなどが挙げられ、具体例は後述の実施例にて記載される。
【0036】
上記一般式(1)で表されるジニトラミド誘導体と上記一般式(2)で表されるアミンナイトレートを用いる液体推進剤は、ヒドラジンを用いる必要が無いため、ヒドラジンを用いる液体推進剤と比べ毒性が低く、防護服等により安全性を確保しなくても容易に取り扱え、かつ、これまでの液体推進剤よりも比推力に優れるものである。また、好ましくは、本発明の液体推進剤には、上記一般式(1)で表されるジニトラミド誘導体と上記一般式(2)で表されるアミンナイトレートとの総量が70wt%以上を占める。
【0037】
液体推進剤における一般式(1)で表されるジニトラミド誘導体と一般式(2)で表されるアミンナイトレートの比率に関して、ジニトラミド誘導体の質量/アミンナイトレートの質量は、好ましくは10/90~90/10であり、より好ましくは30/70~80/20である。該範囲にすることで、着火性及び/又は比推力が向上する。
【0038】
<添加剤>
本発明の液体推進剤は、液体推進剤の着火性を向上させる目的で、下記の水酸基を含有する常温で固体の有機化合物を添加剤として含有する。本発明の液体推進剤は水酸基を含有する常温で固体の有機化合物を好ましくは0.1~30wt%、より好ましくは5~20wt%含有する。添加剤の含有量を該範囲にすることで着火性が向上する。
【0039】
常温で固体の有機化合物とは、標準気圧下において常温で固体の有機化合物を意味する。
【0040】
水酸基を含有する常温で固体の有機化合物の具体例としては、常温で固体のアルコール類、常温で固体のフェノール類、常温で固体のヒドロキシ酸類、常温で固体の水酸基含有アミン類等が挙げられる。
【0041】
アルコール類としては、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、セタノール(セチルアルコール)、ミリスチルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ラノリンアルコール等が挙げられる。
【0042】
フェノール類としては、フェノール、サリチル酸、バニリン、カテコール、レゾンシノール、ヒドロキノン、ピロガノール、フロログルシノール、ヘキサヒドロキシベンゼン等が挙げられる。
【0043】
ヒドロキシ酸類としては、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシマロン酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、2-ヒドロキシ酪酸、キナ酸、シキミ酸、バニリン酸、シリング酸、プロトカテク酸、ゲンチジン酸、オルセリン酸、没食子酸、マンデル酸、ベンジル酸、フロレト酸、クマル酸、ウンベル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸等が挙げられる。
【0044】
水酸基含有アミン類としては、1,3-ジアミノ-2-プロパノール、ラクトアミド、2-アミノ-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、1-(2- ヒドロキシエチル)ピペラジン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン等が挙げられる。
【0045】
上記の水酸基を含有する常温で固体の有機化合物の中でも、水酸基とアミノ基を含有する常温で固体の有機化合物が着火性を向上させる効果に優れている点で、より好ましく、特にラクトアミド、2-アミノ-1,3-プロパンジオール、1,3-ジアミノ-2-プロパノールが、好ましく挙げられる。
【0046】
本願発明の液体推進剤には、溶媒として水を用いても用いなくても液体状態となるため水を用いなくてもよいが、液体推進剤の凝固点等を降下させる目的で、適宜水を加えて用いてもよい。
【0047】
本発明の液体推進剤には、諸性能を調節するために、燃料を用いてもよい。燃料としては、アルコール類、アミノ類、ケトン類等が挙げられる。
アルコール類としては、メタノール、エタノール、エタンジオール、プロパノール、イソプロパノール、プロパンジオール、ジエチレングリコール、プロパントリオール、ブタノール、ブタンジオール等が挙げられる。
アミノ類としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン等が挙げられる。
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルケトン、ジエチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等が挙げられる。
【0048】
<その他の添加剤>
また、本発明の液体推進剤としては、その他の添加剤を含有させて用いてもよい。その他の添加剤としては、燃焼触媒、燃焼助剤等が挙げられる。
【0049】
燃焼触媒とは、燃焼を促進させる触媒のことであり、詳細には、反応活性を上昇させ、低温でも着火が可能となり、幅広い範囲で用いることができる。燃焼触媒としては、ロジウム、ルテニウム、白金、パラジウム、イリジウム等が挙げられる。
【0050】
燃焼助剤とは、液体推進剤の比推力を向上させる添加剤であり、アルミニウム、マグネシウム、ホウ素、チタン、グラファイト等の粉末が挙げられる。
【0051】
<比推力>
比推力とは、ロケットエンジンの燃料効率を示す尺度であり、推進剤流量に対する推力の大きさを表す。計算式としては「比推力=推力/(推進剤流量・重力加速度)」で、単位は秒である。比推力を言い換えると、「単位重量の推進剤で単位推力を発生させ続けられる秒数」となる。比推力は、エンジン内部の圧力及び温度、燃焼生成物の組成、熱力学的特性、大気圧及び膨張速度に関連する。
【0052】
液体推進剤の比推力は、NASA CEA2化学平衡計算プログラム(Chemical Equilibrium with Application ,NASA-Glenn chemical equilibrium program CEA2 ,May 21 2004 ,by Bonnie McBride and Sanford Gordon)を用いて計算することができる。
【0053】
上記化学平衡計算プログラムを用いて、チャンバ圧力:10bar、開口比:100として計算したときの比推力は、240sec以上あれば、ヒドラジンの比推力を上回るため、好ましく挙げられる。
【0054】
上記計算のために必要な各成分の生成熱(cal/mol)は以下のとおりである。
アンモニウムジニトラミド(N) :-35,500
モノメチルアミンナイトレート(CH) :-80,981
トリメチルアミンナイトレート(C3103) :-68,387
尿素(CHO) :-79,679
ラクトアミド(CNO) :-124,173
グリコール酸(C) :-158,700
1,3-ジアミノ-2-プロパノール(C10O) :-99,979
2-アミノ-1,3-プロパンジオール(CNO) :-56,174
ヒドラジン(N) :+12,103
【0055】
本発明の液体推進剤は、240sec以上の比推力が得られる。そのため、本発明の液体推進剤は、スラスタ用途の液体推進剤として最適に用いることができる。
【実施例
【0056】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、本実施例により何ら限定されるものではない。実施例中の「部」は「質量部」である。
【0057】
<実施例1~11、参考例1~4、比較例1~
実施例1~11、参考例1~4、比較例1~は、表1に対応する成分1、成分2、添加剤を用いた。アンモニウムジニトラミド、トリメチルアミンナイトレート、尿素、グリコール酸、ラクトアミド、1,3-ジアミノ-2-プロパノール、2-アミノ-1,3-プロパンジオールは、市販の試薬を用いた。モノメチルアミンナイトレートは以下のようにして製造したものを用いた。
【0058】
<モノメチルアミンナイトレートの合成>
モノメチルアミン40%水溶液146.5部に、70%硝酸187.6部を滴下して10℃以下で攪拌して反応させた。反応後、得られた水溶液を60℃、30mmHgの条件で水を留去させ、モノメチルアミンナイトレートの飽和水溶液を得た。モノメチルアミンナイトレートの飽和水溶液をイソプロピルアルコール280部に入れ攪拌させて、モノメチルアミンナイトレートの結晶を析出させた。得られた結晶を濾別し、イソプロピルアルコールで洗浄し、乾燥させて、モノメチルアミンナイトレート186.4部を得た。
【0059】
【表1】
【0060】
表1の略語は以下の通りである。
ADN:アンモニウムジニトラミド
MMAN:モノメチルアミンナイトレート
TMAN:トリメチルアミンナイトレート
【0061】
<着火温度の測定>
所定の温度まで加熱したホットプレート上に液体推進剤を一滴滴下し、火炎が発生したときのホットプレートの温度を着火温度とし、測定した。ホットプレートの温度は100℃から50℃ずつ昇温した。
【0062】
<常温における液体推進剤の状態>
各実施例および各比較例に係る液体推進剤を常温にて60分間静置し目視確認した。常温で固体状のものが全く含まれない液体をA、均一な濁りがある液体をB、常温で固体状のものが少なくとも含まれている場合をXとラベリングした。結果を表2にまとめた。
【0063】
【表2】
【0064】
表2によれば、比較例1より実施例1~1の方が、着火温度が低く、着火性に優れていることがわかる。比較例2~4では常温では液体とならず、流動性が無いため、液体推進剤として成立しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の液体推進剤は、着火性に優れるため、ロケットの液体推進剤だけではなく、各種用途に用いることができる。