(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 65/18 20060101AFI20220614BHJP
F16D 55/2255 20060101ALI20220614BHJP
F16D 65/56 20060101ALI20220614BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20220614BHJP
B61H 5/00 20060101ALI20220614BHJP
F16D 121/16 20120101ALN20220614BHJP
F16D 123/00 20120101ALN20220614BHJP
F16D 125/40 20120101ALN20220614BHJP
F16D 125/66 20120101ALN20220614BHJP
F16D 125/68 20120101ALN20220614BHJP
F16D 127/02 20120101ALN20220614BHJP
F16D 129/06 20120101ALN20220614BHJP
【FI】
F16D65/18
F16D55/2255 103F
F16D65/56 B
B60T13/74 G
B61H5/00
F16D121:16
F16D123:00
F16D125:40
F16D125:66
F16D125:68
F16D127:02
F16D129:06
(21)【出願番号】P 2018118049
(22)【出願日】2018-06-21
【審査請求日】2021-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和宏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀明
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-169802(JP,A)
【文献】特開2009-115313(JP,A)
【文献】特開2017-36827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/18
F16D 55/2255
F16D 65/56
B60T 13/74
B61H 5/00
F16D 121/16
F16D 123/00
F16D 125/40
F16D 125/66
F16D 125/68
F16D 127/02
F16D 129/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータにより回転駆動されるボールナットと、
前記ボールナットの回転駆動力により軸方向に沿って移動されるボールスクリューと、
前記ボールスクリューの軸方向の移動力を一対のブレーキアームの基端部を拡開揺動する方向の駆動力に変換する駆動方向変換機構と、
前記一対のブレーキアームの開放端部に設けられた一対のパッドアッセンブリと、
前記一対のパッドアッセンブリにより両側から挟圧されるブレーキロータと、
を備えてブレーキ動作を行うことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
前記駆動方向変換機構が、
前記ボールスクリューの一端における同軸上に固定されたロッドと、
前記ロッドに固定された伝達部材と、
前記伝達部材に設けられたウェッジカムのカム作用により前記伝達部材の作用力を前記一対のブレーキアームの基端部が拡開揺動される方向に変換するリンク式倍力装置と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記駆動方向変換機構が、
前記ボールスクリューの一端における同軸上に固定されたロッドと、
前記ロッドに固定された伝達部材と、
前記伝達部材に連結されたリンクアームを介して前記伝達部材の作用力を前記一対のブレーキアームの基端部が拡開揺動される方向に変換するリンク式倍力装置と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記一対のブレーキアームの基端部を拡開させるために制動位置に向けて前記伝達部材を押圧するための弾性部材と、
前記伝達部材を非制動位置から制動位置へ押圧付勢できるように前記弾性部材を蓄勢状態に保持するばね保持機構と、
を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載のブレーキ装置。
【請求項5】
前記ボールスクリューが、前記電動モータのモータ軸を軸方向に貫通して配設された連結ボルトによって前記ロッドに対して着脱可能に締結固定される
ことを特徴とする請求項2~4の何れか1項に記載のブレーキ装置。
【請求項6】
前記伝達部材が、前記ロッドの軸方向に対する固定位置を調整するためのアジャスタ機構を介して前記ロッドに固定される
ことを特徴とする請求項2~4の何れか1項に記載のブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特に強力な制動力が要求される鉄道車両用のブレーキ装置(ディスクブレーキ)では、ウェッジカムのカム作用により一対のブレーキアームの基端部を拡開してそれらの開放端部に設けられたパッドアッセンブリをブレーキロータの両側から挟圧してブレーキ動作を行う梃子式のウェッジカム式ブレーキ装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のウェッジカム式ブレーキ装置は、ボールスクリューの回転駆動によりウェッジカムをカム作用させるためのボールナットが、ウェッジカム自体に配置される駆動方向変換機構とされていた。このような駆動方向変換機構では、駆動力を伝達するための対応軸力を増加変更する(即ち、制動力をより強力にする)場合、最初に応力集中の生じ易いボールスクリューの大径化が必要になる。ところが、上記の駆動方向変換機構は、ウェッジカム自体にボールナットが設けられているため、ボールスクリューを大径化するには、ボールスクリューに螺合するボールナットは元より、ボールナットが設けられるウェッジカムや、ウェッジカムに関連するその他の部品構成までも変更する必要があった。
【0005】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、ボールスクリューの大径化に対応が容易なブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 電動モータにより回転駆動されるボールナットと、前記ボールナットの回転駆動力により軸方向に沿って移動されるボールスクリューと、前記ボールスクリューの軸方向の移動力を一対のブレーキアームの基端部を拡開揺動する方向の駆動力に変換する駆動方向変換機構と、前記一対のブレーキアームの開放端部に設けられた一対のパッドアッセンブリと、前記一対のパッドアッセンブリにより両側から挟圧されるブレーキロータと、を備えてブレーキ動作を行うことを特徴とするブレーキ装置。
【0007】
上記(1)の構成のブレーキ装置によれば、電動モータの駆動により、ボールナットが回転される。ボールナットは、回転が規制される一方、軸方向への移動が可能なボールスクリューに螺合している。そこで、ボールスクリューは、ボールナットの回転駆動力により軸方向に沿って移動される。このボールスクリューの移動は、駆動方向変換機構を介して一対のブレーキアームの基端部を拡開する。一対のブレーキアームは、基端部が拡開することにより、一対のパッドアッセンブリをブレーキロータの両側に挟圧する。即ち、本構成のブレーキ装置では、ボールスクリューが非回転とされることにより、ボールスクリューの端に駆動方向変換機構を接続できる。つまり、ボールスクリューは、非回転の単純な牽引杆となるため、駆動方向変換機構との接続や分離が容易な構造にできる。ブレーキ装置は、電動モータの駆動力を伝達するための対応軸力を増加変更する(即ち、制動力をより強力にする)場合、最初に応力集中の生じ易いボールスクリューの大径化が必要になる。本構成のブレーキ装置では、駆動方向変換機構とボールスクリューとの接続を解除して、ボールスクリュー及びボールナットを変更するだけで、ボールスクリューの大径化に対応が可能となる。
【0008】
(2) 前記駆動方向変換機構が、前記ボールスクリューの一端における同軸上に固定されたロッドと、前記ロッドに固定された伝達部材と、前記伝達部材に設けられたウェッジカムのカム作用により前記伝達部材の作用力を前記一対のブレーキアームの基端部が拡開揺動される方向に変換するリンク式倍力装置と、を備えることを特徴とする上記(1)に記載のブレーキ装置。
【0009】
上記(2)の構成のブレーキ装置によれば、駆動方向変換機構の伝達部材に設けられたウェッジカムが、リンク式倍力装置を駆動する。即ち、ウェッジカムは、ボールスクリューの一端に固定されたロッドの他端に固定された伝達部材に設けられている。ウェッジカムは、ロッドによる引っ張り力で駆動されるため、従来のボールナットと一体となるブレーキ装置と異なり、ボールスクリューの大径化に伴う変更が生じない。また、ボールスクリューの大径化に伴う変更が生じても、ウェッジカムはそのまま使用できるので、ウェッジカムに関連するその他の部品構成も変更する必要がない。
【0010】
(3) 前記駆動方向変換機構が、前記ボールスクリューの一端における同軸上に固定されたロッドと、前記ロッドに固定された伝達部材と、前記伝達部材に連結されたリンクアームを介して前記伝達部材の作用力を前記一対のブレーキアームの基端部が拡開揺動される方向に変換するリンク式倍力装置と、を備えることを特徴とする上記(1)に記載のブレーキ装置。
【0011】
上記(3)の構成のブレーキ装置によれば、駆動方向変換機構の伝達部材に連結されたリンクアームが、リンク式倍力装置を駆動する。即ち、リンクアームは、ボールスクリューの一端に固定されたロッドの他端に固定された伝達部材に連結されている。伝達部材に連結されたリンクアームは、ロッドによる引っ張り力で駆動されるため、従来のボールナットと一体となるブレーキ装置と異なり、ボールスクリューの大径化に伴う変更が生じない。また、ボールスクリューの大径化に伴う変更が生じても、伝達部材に連結されたリンクアームはそのまま使用できるので、伝達部材及びリンクアームに関連するその他の部品構成も変更する必要がない。また、本構成のブレーキ装置では、伝達部材が非制動位置へ戻る際、リンク式倍力装置がリンクアームを介して駆動される。このため、制動位置から非制動位置への応答性を向上させることができる。
【0012】
(4) 前記一対のブレーキアームの基端部を拡開させるために制動位置に向けて前記伝達部材を押圧するための弾性部材と、前記伝達部材を非制動位置から制動位置へ押圧付勢できるように前記弾性部材を蓄勢状態に保持するばね保持機構と、を備えることを特徴とする上記(2)又は(3)に記載のブレーキ装置。
【0013】
上記(4)の構成のブレーキ装置によれば、伝達部材が、弾性部材により制動位置に向けて押圧付勢される。弾性部材の押圧付勢力は、ばね保持機構により蓄勢状態に保持される。ばね保持機構は、蓄勢状態の保持が解除されることにより、弾性部材の押圧付勢力で、伝達部材を非制動位置から制動位置へ動作させる。
ばね保持機構は、例えば電磁ブレーキを有する。電磁ブレーキは、非制動位置が通電状態となる。つまり、電磁ブレーキは、通電状態において、弾性部材を蓄勢状態に保持する。従って、電磁ブレーキは、通電が遮断されると、蓄勢状態の弾性部材の保持を解除し、弾性部材により伝達部材を制動位置に向けて押圧させる。これにより、ばね保持機構は、電気が遮断されたときの失陥保障(フェイルセーフ;fail safe)を可能とすることができる。
【0014】
(5) 前記ボールスクリューが、前記電動モータのモータ軸を軸方向に貫通して配設された連結ボルトによって前記ロッドに対して着脱可能に締結固定されることを特徴とする上記(2)~(4)の何れか1つに記載のブレーキ装置。
【0015】
上記(5)の構成のブレーキ装置によれば、ロッドとボールスクリューとが、連結ボルトにより同軸で一体に連結される。連結ボルトは、ボールスクリューの中心を貫通するので、ボルト頭部をボールナットのモータ軸側に露出させることができる。このため、連結ボルトのボルト頭部が、モータ軸側から露出する。ボールスクリューは、露出した連結ボルトの締結・解除をすれば、ロッドとの連結及び分離を容易にできる。これにより、ボールスクリュー、ボールナット及びモータ軸を一体のまま、ロッドから分離することができる。
【0016】
(6) 前記伝達部材が、前記ロッドの軸方向に対する固定位置を調整するためのアジャスタ機構を介して前記ロッドに固定されることを特徴とする(2)~(4)の何れか1つに記載のブレーキ装置。
【0017】
上記(6)の構成のブレーキ装置によれば、パッド等の摩耗により、ブレーキアームが過剰ストロークとなると、ブレーキアームの揺動隙間が増大する。アジャスタ機構は、伝達部材のロッドの軸方向に対する固定位置(初期位置)を自動調整する。これにより、アジャスタ機構は、ブレーキロータとパッドアッセンブリとの隙間を常に一定に保持できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るブレーキ装置によれば、ボールスクリューの大径化に容易に対応することができる。
【0019】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るブレーキ装置の側面図である。
【
図2】
図1に示したブレーキ装置のA-A矢視図である。
【
図3】
図2に示したブレーキ装置のB-B断面図である。
【
図4】
図3に示したブレーキ装置のC-C断面図である。
【
図5】ロッドで接続されたモータユニットと弾性部材及びアジャスタ機構の斜視図である。
【
図6】
図5に示したモータユニットと弾性部材及びアジャスタ機構の縦断面図である。
【
図7】
図5に示したモータユニットと弾性部材及びアジャスタ機構の分解斜視図である。
【
図8】
図7に示した弾性部材及びアジャスタ機構の分解斜視図である。
【
図9】
図8に示したモータユニットの分解斜視図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係るブレーキ装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係るブレーキ装置11の側面図、
図2は
図1に示したブレーキ装置11のA-A矢視図、
図3は
図2に示したブレーキ装置11のB-B断面図、
図4は
図3に示したブレーキ装置11のC-C断面図である。
本第1実施形態に係るブレーキ装置11は、例えば鉄道車両用ディスクブレーキに好適に用いることができる。
【0022】
図1及び
図2に示すように、ブレーキ装置11は、略筒状のボディ13がサポート15を介して車体側に固定される。ボディ13は、サポート15の反対側に、ブレーキアーム軸17によって、一対のブレーキアーム19のそれぞれの中間部を軸支している。ボディ13は、サポート側の下端に、モータユニット21を備える。
【0023】
ブレーキアーム19の各開放端(サポート15の反対側)には、パッドホルダ23を介してパッドアッセンブリ25が装着されている。
ボディ13は、
図3及び
図4に示すように、モータユニット21の上方に、モータ軸27と同軸のロッド29を有する。ロッド29の上端の周囲には、円周方向等間隔に複数(本実施形態では3つ)の弾性部材である圧縮コイルスプリング31が設けられている。圧縮コイルスプリング31は、復元力が制動力の一部として作用する。ブレーキ装置11では、パーキング力と応答性向上のための圧縮コイルスプリング31及び後述のアジャスタ機構33が、ロッド29の上端に配置されている。
【0024】
図3に示すように、本第1実施形態に係るブレーキ装置11は、ボールナット35と、ボールスクリュー37と、駆動方向変換機構39と、パッドアッセンブリ25と、ブレーキロータ41と、を主要な構成として備える。
ボールナット35は、モータ軸27に固定されており、モータユニット21の電動モータ43により回転駆動される。ボールスクリュー37は、モータユニット21に対して回転が規制される一方、軸方向への移動が可能とされており、ボールナット35の回転駆動力により軸方向に沿って移動される。ブレーキ装置11は、ボールナット35及びボールスクリュー37が、モータ軸27側に配置されている。
【0025】
駆動方向変換機構39は、ボールスクリュー37の軸方向の移動力を、一対のブレーキアーム19の基端部45を拡開揺動する方向の駆動力に変換する。
本第1実施形態に係る駆動方向変換機構39は、ボールスクリュー37の一端側(上端側)に同軸上で固定されるロッド29と、ロッド29の他端側(上端側)に設けられる伝達部材47と、伝達部材47の作用力を一対のブレーキアーム19の基端部45が拡開揺動される方向に変換するリンク式倍力装置49と、を有する。
【0026】
伝達部材47は、後述のアジャスタ機構33を介してロッド29の他端である上端に固定される。この伝達部材47には、ウェッジカム51が設けられている。
【0027】
リンク式倍力装置49は、
図4に示すように、伝達部材47のウェッジカム51のカム作用により、一対のブレーキアーム19の基端部45を拡開揺動する。ブレーキアーム19の各基端部45には、出力軸となるリンクロッド53の外側端が球面ブッシュ55により支持される。リンクロッド53の内側端は、球面ブッシュ57により、ローラアーム59に連結、支持される。ローラアーム59の下端は、ベアリング61を介してストラット63の両端部に軸支される。リンク式倍力装置49は、これらリンクロッド53、ローラアーム59、ストラット63により構成されている。
【0028】
出力部材である伝達部材47及びロッド29は、ボールスクリュー37と同軸に配置される。ロッド29は、ボディ13に固定されたガイドレール65のブッシュ67(
図7参照)に対して軸方向に移動可能に支持されている。
【0029】
ローラアーム59のそれぞれの上端には、カムローラ69が設けられる。一対のカムローラ69の間には、ウェッジカム51が対向するように伝達部材47が挿入される。カムローラ69は、ロッド29の軸方向下側(
図4の矢印a側)への移動に伴い、ロッド29に取り付けられた伝達部材47におけるウェッジカム51の傾斜面に乗り上げることになる。
【0030】
ローラアーム59は、カムローラ69がウェッジカム51の傾斜面へ乗上げることによって、拡開方向(
図4の矢印b方向)に揺動する。ローラアーム59は、略中間部に球面ブッシュ57により連結・支持されたリンクロッド53を梃子の原理によって倍力して外方(
図4の矢印c方向)へ軸動させる。これによって、ブレーキアーム19の各基端部45がブレーキアーム軸17を揺動中心として拡開方向に移動され、ブレーキアーム19の開放端部に配設されたパッドアッセンブリ25がディスクロータ(
図3参照)を挟圧してブレーキ動作が行われる。
【0031】
図5~
図7はロッド29で接続されたモータユニット21と圧縮コイルスプリング31及びアジャスタ機構33の斜視図、縦断面図及び分解斜視図である。
ロッド29の上端側には、圧縮コイルスプリング31とアジャスタ機構33とが接続される。また、ロッド29の下端側には、モータユニット21が接続される。伝達部材47は、アジャスタ機構33を介してロッド29の上端に接続されている。
【0032】
ブレーキ装置11は、一対のブレーキアーム19の基端部45を拡開させるために制動位置に向けて伝達部材47を押圧するための弾性部材である圧縮コイルスプリング31を備える。圧縮コイルスプリング31のばね付勢力は、パッドアッセンブリ25に対してパーキング制動力(例えば、通常制動力の約半分の制動力)が得られる程度に伝達部材47を非制動位置から制動位置へ押圧付勢できるように設定されている。
【0033】
ロッド29は、上端のロッド頭部71に円形のばね座板73が載置される。ばね座板73の外周上面には、上記した3つの圧縮コイルスプリング31が円周方向に等間隔で載置される。ばね座板73の下方には、略同一外径のボルト受け板75が配置される。ボルト受け板75には、圧縮コイルスプリング31と同一ピッチで配置され、ブッシュ77(
図8参照)が装着された保持ボルト79が立設される。保持ボルト79は、ばね座板73を下方より貫通して圧縮コイルスプリング31に挿通される。圧縮コイルスプリング31に挿通されて押さえ蓋85を貫通した保持ボルト79の先端には、止めボルト81が螺合される。
【0034】
ばね座板73は、上面82の中央部に凸部83を有する。凸部83の下面には、ロッド頭部71が当接する。凸部83は、ボディ13に固定された
図4に示す押さえ蓋85の凹部87に収容される。圧縮コイルスプリング31は、ばね座板73の上面82が押さえ蓋85の内面に当接した状態で、ばね座板73と押さえ蓋85との間で圧縮された状態となる。即ち、圧縮コイルスプリング31は、蓄勢状態となる。
【0035】
モータユニット21には、ばね保持機構である電磁ブレーキ89を備える。電磁ブレーキ89は、伝達部材47を非制動位置から制動位置へ押圧付勢できるように圧縮コイルスプリング31を蓄勢状態に保持する。即ち、電磁ブレーキ89は、通電時に、モータ軸27及びボールナット35の回転を制止し、ボールスクリュー37及びロッド29が軸方向下側(
図4の矢印a側)へ移動するのを阻止することにより、圧縮コイルスプリング31を蓄勢状態に保持する。
【0036】
ブレーキ装置11は、電磁ブレーキ89の電源供給が遮断されることで、電磁ブレーキ89によるモータ軸27及びボールナット35の回転制止が解除される。これにより、圧縮コイルスプリング31の復元力が、ばね座板73及びロッド29を介して伝達部材47を制動位置へ押圧付勢し、制動、停車できるので、失陥保障でき、安全性の向上が図れる。
【0037】
ブレーキ装置11では、ボールスクリュー37が、電動モータ43のモータ軸27を軸方向に挿通して配設された連結ボルト91によって、ロッド29に対して着脱可能に締結固定される。従って、連結ボルト91とロッド29との締結を解除すれば、モータユニット21とロッド29とが容易に分離できる。
【0038】
なお、連結ボルト91は、モータ軸27を貫通することが望ましいが、モータ軸27の大径化を回避する場合には、必ずしもモータ軸27を貫通する必要はない。即ち、
図6に示したように、モータ軸27には、連結ボルト91の締結・解除のために、ボルト頭部に係合する治具が挿入可能な小径の連結ボルト解除穴93(
図6参照)を設ければよい。
【0039】
このように、モータユニット21とロッド29とを容易に分離可能としたブレーキ装置11では、ロッド29よりも上端側に配置される伝達部材47及びアジャスタ機構33を変更せずに、モータユニット21内のボールスクリュー37やボールナット35のみを変更することができる。
【0040】
図8は
図7に示した圧縮コイルスプリング31及びアジャスタ機構33の分解斜視図である。
ブレーキ装置11では、伝達部材47が、ロッド29の軸方向に対する固定位置(初期位置)を自動調整するためのアジャスタ機構33を介してロッド29の上部に固定される。このアジャスタ機構33は、パッド摩耗に対して自動的に隙間調整を行う。
図8に示すように、アジャスタ機構33は、アジャスタスクリュー95と、アジャスタギア99と、アジャスタホルダ101と、アジャスタプレート105と、アジャスタレバー109と、アジャスタスプリング111とを有する。
円筒状のアジャスタスクリュー95は、ロッド29に嵌装され、外周面の雄ねじ部96が伝達部材47の雌ねじ穴52に螺合される。アジャスタスクリュー95の軸方向上側にはロッド受け97が設けられ、ロッド頭部71との間に介装される。アジャスタスクリュー95のフランジ部下側には、アジャスタギア99が相対回転不能に嵌装される。アジャスタギア99は、アジャスタスクリュー95と一体に回転することにより、伝達部材47をロッド29に沿って移動させ、伝達部材47のロッド29に対するロッド保持位置を調整することができる。
【0041】
略円筒状のアジャスタホルダ101は、伝達部材47の上方に配置して設けられる。アジャスタホルダ101には、レバーピン107によりアジャスタレバー109が回動自在に取り付けられる。アジャスタレバー109の回動端は、アジャスタホルダ101に固定される固定ピン108との間に張架されるアジャスタスプリング111により回転付勢される。アジャスタプレート105は、上端がアジャスタレバー109と係合するように、プレートボルト103によりボルト受け板75の上面に固定される。
【0042】
パッドアッセンブリ25のパッド等が摩耗すると、ブレーキアーム19の揺動ストロークが増大し、ロッド29と伴に伝達部材47のストロークが通常の範囲を逸脱して過剰ストロークとなり、伝達部材47が軸方向下方側に移動する。
これによって、ばね座板73が押さえ蓋85から所定以上離れてボルト受け板75に近付くと、アジャスタプレート105によりアジャスタレバー109がアジャスタスプリング111の付勢力に抗して回動され、アジャスタレバー109とアジャスタギア99との係合位置が変わる。
そして、ブレーキ解放時に伝達部材47がロッド29と伴に初期位置に戻る際、アジャスタレバー109がアジャスタスプリング111のばね付勢力により回動されることにより、アジャスタギア99を介してアジャスタスクリュー95が回転され、ロッド29に対する伝達部材47の軸方向位置が下方に調整される。そこで、初期位置における伝達部材47のばね座板73に対する軸方向位置が調整され、ブレーキロータ41とパッドアッセンブリ25との隙間が大きくなりすぎないように調整される。
【0043】
図9は
図8に示したモータユニット21の分解斜視図である。
モータユニット21は、モータケース113の下面側に、モータ軸27に外挿される環状プレート115を収容する。環状プレート115は、モータケース113の下面に固定ボルト119で固定される下面カバー121により覆われる。環状プレート115には、モータ軸27の下端が貫通する。モータ軸27の下端面には、連結ボルト解除穴93が設けられる。連結ボルト解除穴93は、取り外し自在なモータ軸キャップ123により塞がれる。モータ軸27は、連結ボルト解除穴93に治具を挿入することにより、連結ボルト91の締結・解除を可能としている。
【0044】
モータケース113の上面側には、電磁ブレーキ89が収容される。電磁ブレーキ89の上面には、電動モータ43が配置される。電動モータ43のモータ軸27の上面には、ボールナット35が挿入される。ボールナット35の上端には、四角形の回転規制板125が形成される。ボールナット35は、回転規制板125がモータ軸27のカップ部127に係合されて、モータ軸27との相対回転が規制される。ボールナット35は、ナット固定ボルト129によりモータ軸27に対する軸方向の移動が規制される。ボールナット35の上面は、スラストベアリング131を介してモータカバー133の天壁(
図6参照)に当接支持される。
【0045】
ボールナット35には、ボールスクリュー37が螺合する。ボールスクリュー37は、モータカバー133の軸穴135から突出する。ボールスクリュー37は、回転規制プレート137により回転が規制される。回転規制プレート137は、一対の回り止めボルト139によりモータカバー133に固定される。ボールナット35に螺合するボールスクリュー37は、回転が規制されることにより、ボールナット35が回転されると、軸方向に移動する。このボールスクリュー37の移動は、ボールスクリュー37に連結ボルト91により固定されたロッド29を軸方向に駆動する。モータカバー133は、複数のカバー固定ボルト141によりモータケース113に固定される。
【0046】
次に、上述したブレーキ装置11の動作を説明する。
図4は非制動位置を示す。この状態では、ばね保持機構である電磁ブレーキ89が作動しており、電磁ブレーキ89によりモータ軸27及びボールナット35の回転が制止されている。そこで、ボールスクリュー37及びロッド29は、軸方向下側への移動が阻止されており、圧縮コイルスプリング31は蓄勢状態に保持されている。
【0047】
制動時、電磁ブレーキ89の通電が遮断され、モータ軸27及びボールナット35の回転制止状態が解除されると、圧縮コイルスプリング31の付勢力によりロッド29が下方へ押圧され、押下されたボールスクリュー37がボールナット35を回転させながら下方へ移動する。そして、ロッド29に固定された伝達部材47は、下方の制動位置へ移動する。略同時或いは若干後に、電動モータ43によりボールナット35がブレーキ作動方向に回転駆動されることにより、ボールナット35に螺合するボールスクリュー37が
図4の下方へ引かれる。そこで、ボールスクリュー37に一体に固定されたロッド29に設けられた伝達部材47が更に下方の通常制動位置へ移動し、ウェッジカム51のカム作用により伝達部材47の作用力を一対のブレーキアーム19の基端部45が拡開揺動される方向に変換し、一対のパッドアッセンブリ25がブレーキロータ41の両側を通常制動力で挟圧する。
【0048】
ブレーキ解放時には、電動モータ43によりボールナット35がブレーキ解放方向に回転駆動されることにより、ボールナット35に螺合するボールスクリュー37が上方の非制動位置へ移動し、一対のパッドアッセンブリ25がブレーキロータ41の両側から離れる。
【0049】
これと同時に、圧縮コイルスプリング31の付勢力に抗してばね座板73がロッド29により押し上げられ、圧縮コイルスプリング31は初期位置である蓄勢状態に戻される(
図4の位置)。そして、圧縮コイルスプリング31は、電磁ブレーキ89が通電状態となることにより、モータ軸27及びボールナット35の回転が制止されて蓄勢状態に保持される。
【0050】
次に、上記した構成の作用を説明する。
本第1実施形態に係るブレーキ装置11では、電動モータ43の駆動により、ボールナット35が回転される。ボールナット35は、回転が規制される一方、軸方向への移動が可能なボールスクリュー37に螺合している。そこで、ボールスクリュー37は、ボールナット35の回転駆動力により軸方向に沿って移動される。このボールスクリュー37の移動は、駆動方向変換機構39を介して一対のブレーキアーム19の基端部45を拡開する。一対のブレーキアーム19は、基端部45が拡開することにより、一対のパッドアッセンブリ25をブレーキロータ41の両側に挟圧する。
【0051】
即ち、本第1実施形態に係るブレーキ装置11では、ボールスクリュー37が非回転とされることにより、ボールスクリュー37の端に、ロッド29を介して駆動方向変換機構39を接続できる。つまり、ロッド29を介して駆動方向変換機構39に接続されたボールスクリュー37は、非回転の単純な牽引杆となるため、駆動方向変換機構39との接続や分離が容易な構造にできる。
【0052】
本第1実施形態に係るブレーキ装置11では、ボールスクリュー37と駆動方向変換機構39とが着脱自在とされ、モータユニット21が個別に分離できることにより、品質確認や組み立て時、メンテナンス時のユニット管理が容易になる。また、駆動方向変換機構39側は、ロッド29を構成するだけ(従来のエアキャリパと同様構成)のため、軸力に伴う部材レイアウトの見直しの必要がなくなる。
【0053】
また、ブレーキ装置11は、電動モータ43の駆動力を伝達するための対応軸力を増加変更する(即ち、制動力をより強力にする)場合、最初に応力集中の生じ易いボールスクリュー37の大径化が必要になる。本第1実施形態に係るブレーキ装置11では、駆動方向変換機構39とボールスクリュー37との接続を解除して、ボールスクリュー37及びボールナット35を変更するだけで、ボールスクリュー37の大径化に対応が可能となる。
【0054】
また、本第1実施形態に係るブレーキ装置11では、駆動方向変換機構39の伝達部材47に設けられたウェッジカム51が、リンク式倍力装置49を駆動する。即ち、ウェッジカム51は、ボールスクリュー37の一端に固定されたロッド29の他端に固定された伝達部材47に設けられている。ウェッジカム51は、ロッド29による引っ張り力で駆動されるため、従来のボールナットと一体となるブレーキ装置と異なり、ボールスクリュー37の大径化に伴う変更が生じない。また、ボールスクリュー37の大径化に伴う変更が生じても、伝達部材47はそのまま使用できるので、伝達部材47に関連するその他の部品構成も変更する必要がない。
【0055】
また、本第1実施形態に係るブレーキ装置11では、伝達部材47が、圧縮コイルスプリング31により制動位置に向けて押圧付勢される。圧縮コイルスプリング31の押圧付勢力は、ばね保持機構である電磁ブレーキ89により蓄勢状態に保持される。圧縮コイルスプリング31は、電磁ブレーキ89による蓄勢状態の保持が解除されることにより、圧縮コイルスプリング31の押圧付勢力で、伝達部材47を非制動位置から制動位置へ動作させる。
【0056】
本第1実施形態のばね保持機構は、電磁ブレーキ89を有する。電磁ブレーキ89は、非制動位置が通電状態となる。つまり、電磁ブレーキ89は、通電状態において、圧縮コイルスプリング31を蓄勢状態に保持する。従って、電磁ブレーキ89は、通電が遮断されると、蓄勢状態の圧縮コイルスプリング31の保持を解除し、圧縮コイルスプリング31により伝達部材47を制動位置に向けて押圧させる。これにより、ばね保持機構を構成する電磁ブレーキ89は、電気が遮断されたときの失陥保障(フェイルセーフ;fail safe)を可能とすることができる。
【0057】
そして、本第1実施形態に係るブレーキ装置11では、ロッド29とボールスクリュー37とが、連結ボルト91により同軸で一体に連結される。連結ボルト91は、ボールスクリュー37の中心を貫通するので、ボルト頭部をボールナット35のモータ軸27側に露出させることができる。このため、モータ軸キャップ123を外せば、連結ボルト91のボルト頭部がモータユニット21のモータ軸27側から露出する。ボールスクリュー37は、露出した連結ボルト91の締結・解除をすれば、ロッド29との連結及び分離を容易にできる。これにより、モータユニット21は、ボールスクリュー37、ボールナット35及びモータ軸27が一体のまま、ロッド29から分離することができる。
【0058】
また、本第1実施形態に係るブレーキ装置11では、パッド等の摩耗により、ブレーキアーム19が過剰ストロークとなると、ブレーキアーム19の揺動隙間が増大する。アジャスタ機構33は、伝達部材47のロッド29の軸方向に対する固定位置(初期位置)を自動調整する。これにより、アジャスタ機構33は、ブレーキロータ41とパッドアッセンブリ25との隙間を常に一定に保持できる。
【0059】
次に、本発明の第2実施形態に係るブレーキ装置143を説明する。
図10は本発明の第2実施形態に係るブレーキ装置143の縦断面図である。
本発明の第2実施形態に係るブレーキ装置143は、駆動方向変換機構145が、一対のリンクアーム147を有する。それぞれのリンクアーム147は、伝達部材151の両側に一端がまわり対偶で連結される。それぞれのリンクアーム147の他端は、まわり対偶で両側のローラアーム159に連結される。これら一対のリンクアーム147は、伝達部材151の作用力をリンク式倍力装置149へ伝達する。他の構成は、上記第1実施形態のブレーキ装置11と同様である。
【0060】
本第2実施形態のブレーキ装置143では、駆動方向変換機構145の伝達部材151に連結された一対のリンクアーム147が、リンク式倍力装置149を駆動する。伝達部材151は、ボールスクリュー37の一端側(上端側)に同軸上で固定されたロッド29の他端側(上端側)に設けられている。伝達部材151は、ロッド29による引っ張り力で駆動されるため、従来のボールナットと一体となるブレーキ装置と異なり、ボールスクリュー37の大径化に伴う変更が生じない。また、ボールスクリュー37の大径化に伴う変更が生じても、伝達部材151に連結されたリンクアーム147はそのまま使用できるので、伝達部材151及びリンクアーム147に関連するその他の部品構成も変更する必要がない。
【0061】
また、本第2実施形態に係るブレーキ装置143では、伝達部材151が非制動位置へ戻る際、リンク式倍力装置149がリンクアーム147を介して駆動される。このため、制動位置から非制動位置への応答性を向上させることができる。
【0062】
従って、上記各実施形態に係るブレーキ装置11,143によれば、ボールスクリュー37の大径化に容易に対応することができる。
【符号の説明】
【0063】
11…ブレーキ装置
19…ブレーキアーム
25…パッドアッセンブリ
27…モータ軸
29…ロッド
31…圧縮コイルスプリング(弾性部材)
33…アジャスタ機構
35…ボールナット
37…ボールスクリュー
39…駆動方向変換機構
41…ブレーキロータ
43…電動モータ
45…基端部
47…伝達部材
49…リンク式倍力装置
51…ウェッジカム
89…電磁ブレーキ(ばね保持機構)
91…連結ボルト