(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ボルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
B21C 37/04 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
B21C37/04 B
(21)【出願番号】P 2018125092
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000227467
【氏名又は名称】日東精工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 慎悟
(72)【発明者】
【氏名】宮田 啓一
(72)【発明者】
【氏名】大西 貴士
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-316235(JP,A)
【文献】特開2006-136915(JP,A)
【文献】特開平04-091843(JP,A)
【文献】特開2017-109235(JP,A)
【文献】特開平05-104191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 37/00-43/04
B21J 1/00-19/04
B21K 1/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
端面矯正工程では、棒状素材を挿入可能な挿入孔を有する受け駒が用いられ、この挿入孔の内周面は、深部にしたがって縮径するテーパ部を備え、このテーパ部の全角θは、0<θ≦32°に設定され、かつこのテーパ部に挿入されることによって縮径される棒状素材の両端面の断面減少率φは、60%≦φ≦80%に設定されていることを特徴とする請求項
1に記載のボルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のサスペンション等の締結において軸力を検知しながら締結されるボルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトの締結において、軸力を適正に管理することが重要であることはよく知られている。そこで、超音波を利用してボルトの軸力を測定する超音波ボルト軸力測定装置がある(例えば、特許文献1参照)。この装置は、超音波探触子からボルト内へ超音波を送波してボルト内で超音波を伝播させ、反射波を超音波探触子で受波するように構成されている。そして、反射波が取得されるタイミングに基づいて、超音波がボルト内部を伝播した時間が測定される。
【0003】
締め付け前と比べて締め付け後では、ボルトは締め付け軸力によって伸びた状態になっているため、超音波の伝播経路が長くなる。また、締め付けられてボルトに軸力が加えられて引っ張り応力が発生していると、超音波伝播速度も遅くなる。つまり、締め付けの前後においてボルト内を伝播する超音波の伝播時間が異なる。このため、超音波ボルト軸力測定装置を利用して締め付けの前後における伝播時間の相違を知ることによって、ボルトの軸力を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超音波の伝播時間からボルトの軸力を正確に測定するには、超音波の入射波と反射波を正確に検知する必要があり、ボルトの頭部側端面および軸部側端面が平滑でなければならない。しかしながら、一般的な方法で製造されたボルトは、線材を所定の長さに切断して棒状素材を準備する切断過程において、切断面にひずみが生じるため、このような棒状素材で製造されたボルトの両端面(頭部表面及び軸部端面)は平滑ではない。このため、両端面を平滑にするために研磨などによる追加工が必要になる問題を有していた。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みて創成されたものであり、ボルトの端面を平滑に仕上げることにより、超音波による軸力測定に好適なボルトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、線材を所定の長さに切断する切断工程と、切断した棒状素材の両端部を先端にしたがって縮径させることにより両端面を平滑にする端面矯正工程と、棒状素材を両端面から圧縮することにより両端面を平滑に仕上げる圧縮工程と、棒状素材の先端部を絞り加工して軸部を成形する絞り工程と、棒状素材の他端部を押圧して頭部を予備成形する予備成形工程と、予備成形された棒状素材の他端部を押圧して頭部を圧造成形する仕上げ工程とによって両端面が平滑なボルトを製造するボルトの製造方法によって解決できる。
【0008】
なお、端面矯正工程では、棒状素材を挿入可能な挿入孔を有する受け駒が用いられ、この挿入孔の内周面は、深部にしたがって縮径するテーパ部を備え、このテーパ部の全角θは、0<θ≦32°に設定され、かつこのテーパ部に挿入されることによって縮径される棒状素材の両端面の断面減少率φは、60%≦φ≦80%に設定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のボルトの製造方法によれば、端面矯正工程によって棒状素材の両端面をある程度平滑にしてから、圧縮工程によって棒状素材の両端面が平滑に仕上げられる。このように、棒状素材の両端面を平滑に仕上げてから、ボルトの頭部および軸部を圧造成形するので、両端面(ボルトの頭部表面および軸部端面)の平滑性に優れたボルトを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のボルトの製造方法における切断工程を示す工程図である。
【
図2】本発明のボルトの製造方法における端面矯正工程を示す工程図である。
【
図3】本発明のボルトの製造方法における圧縮工程を示す工程図である。
【
図4】本発明のボルトの製造方法における絞り工程を示す工程図である。
【
図5】本発明のボルトの製造方法における予備成形工程を示す工程図である。
【
図6】本発明のボルトの製造方法における仕上げ工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、本発明であるボルトの製造方法の実施形態を説明する。当該ボルトの製造方法は、
図1ないし
図6に示すように、線材20を所定の長さに切断する切断工程と、前記切断工程により切断した棒状素材23の先端部23aおよび他端部23bの両端部を縮径する端面矯正工程と、縮径した棒状素材23を両端部から圧縮する圧縮
工程と、棒状素材23の先端部23aを絞り加工してボルトの軸部を成形する絞り工程と、棒状素材23の他端部23bを押圧して頭部を予備成形する予備成形工程と、予備成形された棒状素材23の他端部23bを押圧してボルトの頭部を圧造成形する仕上げ工程とによる。
【0012】
図1に示すように、切断工程は、金属製の線材20を切り駒21の貫通孔21aへ挿通するとともに、線材20の先端がストッパ22に当接するまで繰出し、切り駒21の貫通孔21aの開口部分から突出した線材20を所定の長さに切断し、金属片の一例である棒状素材23を製作する工程である。また、線材20の切断は、線材20の軸線と直交する方向(矢印Aで示す方向)へ移動するカッター24により行われる。
【0013】
図2(a)に示すように、端面矯正工程は、前記切断工程によって切断した棒状素材23の他端部23bを受け駒31を用いて小径に絞り込む工程である。この受け駒31は、棒状素材23を挿入可能な挿入孔31aを有しており、この挿入孔31aの内周面は、深部にしたがって縮径するテーパ部31bを備える。
【0014】
そこで、端面矯正工程では、まず、受け駒31の挿入孔31aに棒状素材23を挿入する。続いて、ピン32で棒状素材23の先端部23aを押圧し、矢印Bで示す方向へ押し込む。すると、棒状素材23の他端部23bは、塑性変形によりテーパ部31bに流入し、縮径される。最後に、受け駒31側から挿入されたノックアウトピン33で棒状素材23の他端部23bを押圧し、矢印Cで示す方向に移動させることによって、棒状素材23は受け駒31から排出される。
【0015】
さらに、端面矯正工程では、
図2(b)に示すように、棒状素材23の先後を入れ替えて、
図2(a)に示したように、棒状素材23の他端部23bを縮径した方法と同様の方法で、棒状素材23の先端部23aを縮径する。一方で、棒状素材23の他端部23bは、ピン32によって圧縮されるため、挿入孔31aの内径にまで拡径される。最後に、棒状素材23は受け駒31から排出され、圧縮
工程に移行する。
【0016】
図3に示すように、圧縮
工程は、棒状素材23を両端部から圧縮する工程である。まず、受け駒41の中心線上に穿設された貫通孔41aに棒状素材23を挿入する。この貫通孔41aの内径は、全長にわたって前記受け駒31の挿入孔31aの内径のうち最大径と同じ寸法に設定されており、つまり棒状素材23の最大径と同じ寸法に設定されている。また、貫通孔41aには、棒状素材23を挿入した開口とは反対側の開口からノックアウトピン42が挿入されており、貫通孔41aに挿入された棒状素材23は、このノックアウトピン42の先端で支持されている。続いて,貫通孔41aに挿入された棒状素材23の他端部23bをピン41で矢印Bで示す方向に押圧することにより、棒状素材23を両端部からピン41及びノックアウトピン42によって圧縮する。最後に、ノックアウトピン42を矢印Cで示す方向へ移動させることによって、棒状素材23は受け駒41から排出される。
【0017】
図4に示すように、絞り工程では、まず、絞り駒51の挿通孔51bに棒状素材23を先端部23aから挿入する。続いて、この棒状素材23を絞りピン52で絞り孔51aの位置する方向(矢印Bで示す方向)へ押圧する。すると、棒状素材23の先端部23aは、塑性変形により挿通孔51bより小径の内径を成す絞り孔51aへ流入し、ボルトの軸部が成形される。最後に、絞り駒51の絞り孔51a側から挿入されたノックアウトピン53を挿通孔51bの位置する方向(矢印Cで示す方向)へ移動させることによって、棒状素材23は絞り駒51から排出される。
【0018】
図5に示すように、予備成形工程は、受け駒61および予備成形パンチ62を用いて、前記絞り工程によって成形された棒状素材23の他端部23bをボルトの頭部の完成形状に近づけるための工程である。この受け駒61は、棒状素材23の先端部23aであって、つまりボルトの軸部となる部分を挿入可能で、かつ他端部23bを挿入不可能な内径に設定された挿入孔61aを有しており、棒状素材23の他端部23bは、受け駒61から突出した状態となる。
【0019】
また、予備成形パンチ62は、端面に予備成形凹部62aを有する。予備成形パンチ62の予備成形凹部62aを棒状素材23の他端部23bに向かって(矢印Bで示す方向)押圧する。これにより、棒状素材23の他端部23bは予備成形凹部62aの内周面に沿って胴部膨れするように変形してボルトの頭部が予備成形される。最後に、ノックアウトピン63を矢印Cで示す方向へ移動させることによって、棒状素材23は受け駒61から排出される。
【0020】
図6に示すように、前記仕上げ工程は、受け駒71を用いて予備成形された棒状素材23の他端部23bをボルトの頭部に完成させるための工程であり、受け駒71は、その中心軸線上に穿設された挿入孔71aを有し、挿入孔71aの開口部分には、段付き部72bが形成されている。この挿入孔71aに棒状素材23を先端部23aから挿入し、他端部23bは、段付き部72bに引っかかる。この状態で、パンチ72で棒状素材の他端部23bを押圧することによって、棒状素材23の他端部23bが段付き部72bを充填するように塑性変形することによって、頭部11が完成する。最後に、ノックアウトピン73を矢印Cで示す方向へ移動させることによって、頭部(棒状素材の他端部23b)と軸部(棒状素材23の先端部23a)が成形されたボルトが受け駒71から排出される。
【0021】
ここで、端面矯正工程において、挿入孔31aのテーパ部31bの全角θは、20°に設定されている。また、
図2(a)に示すように、棒状素材23の他端部23bは、棒状素材23の他端面の断面減少率φが57%になる位置までテーパ部31bに押し込まれる一方、
図2(b)に示すように、棒状素材23の先端部23aは、その先端面の断面減少率φが66%になる位置までテーパ部31bに押し込まれる。
【0022】
また、上記全角θおよび断面減少率φは、前述の数値に限定されるものではなく、テーパ部31bの全角θは、0<θ≦32°に設定され、かつこのテーパ部31bに挿入されることによって縮径される棒状素材23の両端面の断面減少率φは、60%≦φ≦80%に設定されてる。この数値範囲であれば、棒状素材23の両端部23a,23bの端面は、平滑になる一方、この数値範囲で縮径させると、塑性変形の過程で端面の中央部分が凹んでしまい平滑にならない現象が生じる。このように、本発明のボルトの製造方法によれば、端面矯正工程によって棒状素材23の両端面をある程度平滑にしてから、圧縮工程によって棒状素材の両端面が平滑に仕上げられる。このように、ボルトの頭部および軸部を成形する前に、棒状素材23の両端面を平滑に仕上げてから、ボルトの頭部および軸部を圧造成形するので、両端面(ボルトの頭部表面および軸部端面)の平滑性に優れたボルトを製造することができる。
【0023】
23 棒状素材
31 受け駒
31a 挿入孔
31b テーパ部