(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ポリウレタンフォーム用薬液組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 18/32 20060101AFI20220614BHJP
C08G 18/22 20060101ALI20220614BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20220614BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20220614BHJP
C08G 101/00 20060101ALN20220614BHJP
【FI】
C08G18/32 018
C08G18/22
C08G18/48
C08G18/00 H
C08G101:00
(21)【出願番号】P 2018133448
(22)【出願日】2018-07-13
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼ 智裕
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-179042(JP,A)
【文献】特開2017-201041(JP,A)
【文献】特開2018-009103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールを主成分とするA液と、ポリイソシアネートを主成分とするB液とからなるポリウレタンフォーム用薬液組成物において、
前記A液にハロゲン化ハイドロオレフィン及び触媒が含有せしめられており、前記B液に
、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、スチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t-ブチルジカーボネート及びジフェニルカーボネートからなる群より選ばれる1種又は2種以上のカーボネート化合物が
、含有せしめられていることを特徴とするポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項2】
前記カーボネート化合物が、前記ポリイソシアネートの100質量部に対して0.3~12質量部の割合において含有せしめられている請求項1に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項3】
前記B液におけるカーボネート化合物の含有量が、前記A液におけるハロゲン化ハイドロオレフィンの含有量に対して、質量基準にて0.01~0.7倍量である請求項1又は請求項2に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項4】
前記カーボネート化合物がプロピレンカーボネートである請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項5】
前記触媒が酢酸金属塩を含むものである請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項6】
前記酢酸金属塩が酢酸カリウムである請求項5に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項7】
前記ポリオールが、開始剤に付加されたアルキレンオキサイドの95質量%以上がプロピレンオキサイドであるポリエーテルポリオールを、90質量%以上の割合で含有している請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項8】
前記ハロゲン化ハイドロオレフィンが、前記ポリオールの100質量部に対して5~50質量部の割合において含有せしめられている請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項9】
発泡剤としての水が、前記ポリオールの100質量部に対して1~10質量部の割合において、前記A液に更に含有せしめられている請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンフォーム用薬液組成物に係り、特に、注入裏込め工法、軽量盛土工法、スプレー工法等において有利に用いられるポリウレタンフォーム用薬液組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンフォームは、断熱性や接着性に優れ、また比較的に軽量であることから、従来より、土木分野や建築分野等において広く使用されている。
【0003】
例えば、トンネル工事においては、トンネル覆工と背面の地山との間に生じた空隙や、施工時に取り残された空隙に、ポリオール、ポリイソシアネート及び触媒等を含む混合溶液を注入し、かかる空隙内にて発泡・硬化させることにより、覆工厚を確保したり、覆工にかかる土圧を均一化して、トンネルの崩壊を防ぐことを目的とする工法(注入裏込め工法)が知られており、また、一般的な盛り土材料である土砂に代えて、ポリウレタンフォームを用いることにより、土圧の軽減や底面への荷重の軽減を図る軽量盛土工法が知られている。加えて、建築用内壁材やパネル等の断熱を目的として、ポリオール等を含む混合溶液を目的とする箇所にスプレーにて吹き付け、そこで発泡・硬化させてポリウレタンフォームを形成するスプレー工法も、建築分野では広く実施されている。
【0004】
そのようなポリウレタンフォームを製造する際に使用されるポリオール組成物やポリイソシアネート組成物、更には、ポリウレタンフォームの製造方法については、従来より、様々なものが提案されている(特許文献1乃至特許文献3を参照)。
【0005】
ここで、ポリウレタンフォームの製造の際に現在、使用されている発泡剤としては、地球温暖化係数において比較的優位とされるHFC-134a、HFC-245fa、HFC-365mfc等のハイドロフルオロカーボン(HFC)系発泡剤が知られている。このハイドロフルオロカーボン系発泡剤は、オゾン層破壊の少ない又は生じない代替フロンとして認識されているものではあるが、近い将来、環境破壊の問題に対する強い要請により、そのような代替フロンの使用も制限されるとの推測から、それに代わり、化学的に不安定であるために、地球温暖化係数が低くなるハイドロフルオロオレフィン(HFO)やハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)と呼ばれるハロゲン化ハイドロオレフィン系発泡剤が、開発されてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-25977号公報
【文献】特開平7-70279号公報
【文献】特表2013-506042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ハイドロフルオロオレフィン(HFO)やハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)等のハロゲン化ハイドロオレフィンは、ポリオールとの相溶性が良好であることから、ポリオールを主成分とする溶液(以下、ポリオール溶液という)とポリイソシアネートを主成分とする溶液(以下、ポリイソシアネート溶液)よりなる二液型のポリウレタンフォーム用組成物においては、ポリオール溶液にハロゲン化ハイドロオレフィンを含有せしめることが、一般的に考えられる。また、ポリオールとポリイソシアネートとの反応を促進させるために用いられる触媒も、ポリイソシアネート溶液に含有せしめるとポリイソシアネートが分解し、失活する恐れがあるところから、ポリオール溶液に含有せしめられることとなる。しかしながら、ハロゲン化ハイドロオレフィンは、比較的分解し易い発泡剤であるところ、同一の液中に(ポリオール溶液中に)多量の触媒と共に含有せしめると、かかる触媒によってハロゲン化ハイドロオレフィンの分解が進行してしまうため、溶液の貯蔵安定性が低いという問題が見出されたのである。
【0008】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、a)ポリオールを主成分とし、発泡剤としてハロゲン化ハイドロオレフィンを含むA液と、b)ポリイソシアネートを主成分とするB液、とからなるポリウレタンフォーム用薬液組成物であって、A液の貯蔵安定性に優れているものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明は、上記した課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組合せにおいて、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載から把握される発明思想に基づいて理解されるものであることが、考慮されるべきである。
【0010】
(1) ポリオールを主成分とするA液と、ポリイソシアネートを主成分とするB液とか らなるポリウレタンフォーム用薬液組成物において、前記A液にハロゲン化ハイド ロオレフィン及び触媒が含有せしめられており、前記B液に、エチレンカーボネー ト、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、スチレンカーボネート、イ ソブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t -ブチルジカーボネート及びジフェニルカーボネートからなる群より選ばれる1種 又は2種以上のカーボネート化合物が、含有せしめられていることを特徴とするポ リウレタンフォーム用薬液組成物。
(2) 前記カーボネート化合物が、前記ポリイソシアネートの100質量部に対して0 .3~12質量部の割合において含有せしめられている前記態様(1)に記載のポ リウレタンフォーム用薬液組成物。
(3) 前記B液におけるカーボネート化合物の含有量が、前記A液におけるハロゲン化 ハイドロオレフィンの含有量に対して、質量基準にて0.01~0.7倍量である 前記態様(1)又は前記態様(2)に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
(4) 前記カーボネート化合物がプロピレンカーボネートである前記態様(1)乃至前 記態様(3)の何れか1つに記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
(5) 前記触媒が酢酸金属塩を含むものである前記態様(1)乃至前記態様(4)の何 れか1つに記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
(6) 前記酢酸金属塩が酢酸カリウムである前記態様(5)に記載のポリウレタンフォ ーム用薬液組成物。
(7) 前記ポリオールが、開始剤に付加されたアルキレンオキサイドの95質量%以上 がプロピレンオキサイドであるポリエーテルポリオールを、90質量%以上の割合 で含有している前記態様(1)乃至前記態様(6)の何れか1つに記載のポリウレ タンフォーム用薬液組成物。
(8) 前記ハロゲン化ハイドロオレフィンが、前記ポリオールの100質量部に対して 5~50質量部の割合において含有せしめられている前記態様(1)乃至前記態様 (7)の何れか1つに記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
(9) 発泡剤としての水が、前記ポリオールの100質量部に対して1~10質量部の 割合において、前記A液に更に含有せしめられている前記態様(1)乃至前記態様 (8)の何れか1つに記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【発明の効果】
【0011】
そして、このような本発明に従う薬液組成物の構成によれば、以下に列挙せる如き各種の効果が奏され得ることとなるのである。
(1) ポリイソシアネートを主成分とするB液に含まれるカーボネート化合物が、ポリ イソシアネートとポリオールとの反応において触媒の助剤として機能するため、ポ リオールを主成分とするA液に配合される触媒量を少量にすることが可能となる。 また、B液に含有せしめられているカーボネート化合物は、A液との混合により直 ちに炭酸ガスを発生し、この炭酸ガスにより、A液とB液との混合溶液中における 泡化から硬化までの反応が迅速に進行するため、この点を考慮することにより、A 液に配合される触媒の量を少量にすることも可能となる。従って、A液中の触媒量 が少量となり、A液内におけるハロゲン化ハイドロオレフィンと触媒との反応が効 果的に抑制されるところから、A液の貯蔵安定性が向上する。
(2) B液中のカーボネート化合物から発生する炭酸ガスにより、得られるポリウレタ ンフォームが、低密度であり、且つ寸法安定性に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
要するに、本発明は、ポリオールを主成分とするA液とポリイソシアネートを主成分とするB液とからなる、二液型のポリウレタンフォーム用薬液組成物において、A液に、ハロゲン化ハイドロオレフィンと触媒とを含有せしめる一方、B液にカーボネート化合物を含有せしめることにより、構成されたものであり、それら各成分をA液又はB液に含有せしめているところに大きな技術的特徴が存しているのである。かかるA液及びB液は、各々、具体的に以下のように構成されることとなる。
【0013】
-A液-
(ポリオール)
本発明に従うポリウレタンフォーム用薬液組成物を構成する二液のうちの一つであるA液において、それを構成する主成分であるポリオールは、従来よりポリウレタンフォームを形成する際に使用されているポリオールであれば、如何なるものであっても用いることが可能である。そのような従来より使用されているポリオールの中でも、本発明においては、所定の開始剤に対してアルキレンオキサイドが付加されてなる特定のポリエーテルポリオール、特に、開始剤に対して付加されたアルキレンオキサイドの95質量%以上がプロピレンオキサイドであるポリエーテルポリオールが、本発明の目的を有効に達成し得る観点より、有利に使用される。
【0014】
また、上記した特定のポリオールを使用する際、その含有割合が、A液中のポリオール全量に対して90質量%未満の場合には、本発明の目的を十分に達成し得ない恐れがあることから、本発明において、A液中のポリオールは、開始剤に対して付加されたアルキレンオキサイドの95質量%以上がプロピレンオキサイドであるポリエーテルポリオールを90質量%以上の割合で含有していることが好ましい。
【0015】
ところで、ポリエーテルポリオールは、一般に、少なくとも2個以上の活性水素基を有する化合物、例えば、多価アルコール類、脂肪族アミン類、芳香族アミン類やマンニッヒ縮合物等を開始剤として用い、これに、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加させることからなる付加反応又は付加重合反応により、製造されるものである。なお、その製造の際に使用される多価アルコール類等としては、具体的に、1)多価アルコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、10-デカンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、グルコース、マンノース、ソルビトール、マンニトール、ソルビタン、ジペンタエリスリトール、フルクトース、スクロース、メチルグルコシド等を、2)脂肪族アミン類としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ネオペンチルジアミン等のアルキレンジアミン類、ジエチレントリアミン等のアルキレントリアミン類、更には、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類等を、3)芳香族アミン類としては、2,4-トルエンジアミン、2,6-トルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、p-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、ナフタレンジアミン等を、4)マンニッヒ縮合物としては、フェノール、ノニルフェノール、クレゾール、ビスフェノールAやレゾルシノール等のフェノール類と、ホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒド等のアルデヒド類と、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノールやアミノエチルエタノールアミン等のアルカノールアミン類とを反応させて得られる化合物等を、各々、例示することが出来る。
【0016】
本発明において用いられる特定のポリエーテルポリオールとしては、プロピレングリコールを開始剤とするポリプロピレングリコール、グリセリンを開始剤とするポリプロピレングリコール、ビスフェノールAを開始剤とするポリプロピレングリコール、エチレンジアミンを開始剤とするポリプロピレングリコール、マンニッヒ縮合物を開始剤とするポリプロピレングリコール等が挙げられる。即ち、プロピレングリコール、グリセリン、ビスフェノールA等の多価アルコール、エチレンジアミン、エタノールアミン等のアミン類、マンニッヒ縮合物を開始剤として、これに、プロピレンオキサイドを付加せしめてなるポリプロピレングリコールが、望ましく用いられることとなるのである。
【0017】
そして、上述の如き特定のポリエーテルポリオールは、一般に、200~4000程度の分子量を有していることが望ましく、中でも250~3200程度の分子量を有していることがより望ましく、特に300~2000程度の分子量を有していることが、更に望ましいのである。かかる分子量が200よりも小さくなると、水に希釈され易く、水の白濁を惹起する恐れがあり、また分子量が4000よりも大きくなると強度発現が困難となる恐れがある。
【0018】
(発泡剤)
本発明においては、発泡剤として、1種又は2種以上のハロゲン化ハイドロオレフィンが、少なくとも用いられることとなる。
【0019】
ここにおいて、上記のハロゲン化ハイドロオレフィンの1つであるハイドロフルオロオレフィン(HFO)としては、例えば、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO1225ye)等のペンタフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234ye)等のテトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO1243zf)等のトリフルオロプロペン、テトラフルオロブテン異性体(HFO1354)類、ペンタフルオロブテン異性体(HFO1345)類、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO1336mzz)等のヘキサフルオロブテン異性体(HFO1336)類、ヘプタフルオロブテン異性体(HFO1327)類、ヘプタフルオロペンテン異性体(HFO1447)類、オクタフルオロペンテン異性体(HFO1438)類、ノナフルオロペンテン異性体(HFO1429)類等を挙げることが出来る。また、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)としては、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)、ジクロロトリフルオロプロペン(HCFO1223)、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233yd)、1-クロロ-1,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zb)、2-クロロ-1,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xe)、2-クロロ-2,2,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xc)、3-クロロ-1,2,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233ye)、3-クロロ-1,1,2-トリフルオロプロペン(HCFO-1233yc)等を挙げることが出来る。
【0020】
特に、かかるハイドロフルオロオレフィン(HFO)やハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)は、化学的に不安定であるために、地球温暖化係数が低く、そのために、環境に優しい発泡剤として、注目を受けているのであるが、また、触媒(ポリオールとポリイソシアネートとの反応を促進するために使用される触媒)によって分解される恐れも内在している。しかしながら、本発明にあっては、B液に含まれるカーボネート化合物によって、A液に含有せしめられる触媒の量が可及的に低減され得ることとなるところから、そのような発泡剤(中でも、HCFO-1233zd)の分解の恐れなく、その発泡機能を有利に発揮させることが出来、A液の貯蔵安定性に優れているという利点を有しているのである。
【0021】
なお、上記したハロゲン化ハイドロオレフィンの使用量は、A液中のポリオールの100質量部に対して5~50質量部が好ましく、更には10~40質量部であることが好ましい。かかるハロゲン化ハイドロオレフィンの使用量が50質量部を超えるようになると、フォームのコア密度が低くなり、それによってフォームの強度の低下、ひいては寸法安定性の悪化が惹起される恐れがある。また、コストの面でも不利となる問題もある。一方、ハロゲン化ハイドロオレフィンの使用量が5質量部よりも少なくなると、発泡剤としての機能を充分に発揮することが出来ず、得られたフォームの密度が高くなってしまうことがあり、またA液の粘度が高くなり、B液との混合性が悪化することで、例えばスプレー工法において、良好なスプレーパターンを得ることが出来なくなる問題を惹起するようになる。
【0022】
さらに、本発明にあっては、発泡剤としての水が、上記したハロゲン化ハイドロオレフィンと共に、有利に用いられることとなる。このように、水がA液中に存在することによって、A液とB液とが混合せしめられて、反応させられるときに、かかる水とB液中のポリイソシアネートとが反応して、二酸化炭素を生じる際に、反応熱が発生することとなるため、その熱によって、ウレタン化反応やイソシアヌレート化反応が、効果的に進行せしめられ得て、得られるポリウレタンフォームの圧縮強度が、更に高められ得るようになるのである。そして、そのようなポリオール組成物中の水の存在によって、A液とB液とが混合せしめられて、反応させられると、かかる水とB液中のポリイソシアネートとの反応によって二酸化炭素が発生し、この二酸化炭素も、ポリウレタンの発泡に寄与することとなるのである。しかも、ハロゲン化ハイドロオレフィンと水との併用によって、ハロゲン化ハイドロオレフィンが揮発する際に、吸熱反応が生じることとなるが、水とポリイソシアネートとが反応して二酸化炭素を生じる際に反応熱が発生することにより、そのような反応熱で、ハロゲン化ハイドロオレフィンが揮発し易くなる利点があり、それによって、ハロゲン化ハイドロオレフィンの使用量を少なくして、そのコストを低減せしめ得る利点も生じることとなる。
【0023】
発泡剤としての水は、A液中のポリオールの100質量部に対して、1~10質量部、好ましくは2~5質量部の割合となるように、水が含有せしめられる。この水の使用量が、ポリオールの100質量部に対して、10質量部よりも多くなると、かえって強度の低下を招くようになる。それは、水とポリイソシアネートとの反応によって生じる尿素結合が樹脂中に多くなること、またイソシアヌレート化反応に用いられるポリイソシアネートが水との反応で消費されてしまい、反応系のポリイソシアネートが少なくなるためである。また、かかる水の使用量が1質量部よりも少なくなると、水を含有したことによる発泡剤としての効果が、充分に得られなくなる恐れがある。
【0024】
また、上述の如く、ハロゲン化ハイドロオレフィンと水とを併用する場合において、ハロゲン化ハイドロオレフィンと水とは、質量比で60:40~99:1、好ましくは70:30~95:5となる割合において、使用することが望ましい。この範囲を外れて、水の割合が40を超えるようになると、反応の進行につれて脆性が発現し、躯体面との接着性が低下し、剥離等の問題を惹起する恐れがある。また、イソシアネートとの反応によって発生する二酸化炭素が熱伝導率を低下させ、充分でない熱伝導率の発泡層を形成する恐れがある。
【0025】
(触媒)
本発明におけるA液(ポリオールを主成分とする溶液)には、A液中のポリオールとB液中のポリイソシアネートとの反応に寄与する触媒が、含有せしめられる。
【0026】
本発明においては、ポリオールとポリイソシアネートとの反応に寄与する触媒であれば、如何なるものであっても使用することが可能であり、そのような触媒としては、3級アミン触媒や金属触媒等を例示することが出来る。
【0027】
3級アミン触媒としては、水との接触により発泡が意図される場合にあっては、ポリイソシアネートと水との反応を促進する作用を有する泡化触媒、ポリイソシアネートとポリオールとの反応を促進する作用を有する樹脂化触媒、ポリイソシアネートの3量化を促進する作用を有するイソシアヌレート化触媒等がある。
【0028】
具体的には、泡化触媒としては、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’-トリエチルアミノエチルエタノールアミン、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N’,N’-トリメチルアミノエチルピペラジン、N,N-ジメチルアミノエトキシエタノール、トリエチルアミン等が挙げられる。また、樹脂化触媒としては、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルプロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサンジアミン、トリエチレンジアミン、33%トリエチレンジアミン・67%ジプロピレングリコール、N,N-ジメチルアミノヘキサノール、N,N-ジメチルアミノエタノール、N-メチル-N-ヒドロキシエチルピペラジン、N-メチルモルフォリン、1-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール等が挙げられる。更に、イソシアヌレート化触媒としては、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N’,N”-トリス(3-ジメチルアミノプロピル)-ヘキサヒドロ-s-トリアジン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用しても、何等差し支えない。また、それらの中でも、樹脂化触媒や三量化触媒が、好適に用いられることとなる。
【0029】
一方、金属触媒としては、公知のものを特に制限なく用いることが出来、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、錫、鉛、ビスマス、亜鉛、鉄、ニッケル、ジルコニウム、コバルト等の有機酸金属塩や有機金属錯体を用いることが出来る。その中で、有機酸金属塩としては、酢酸、オクチル酸、ネオデカン酸、ナフテン酸、ロジン酸等と上記金属との塩が挙げられ、また有機金属錯体としては、アセチルアセトン等と上記金属との錯体が挙げられる。具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、オクチル酸カリウム、オクチル酸ビスマス、オクチル酸鉛、オクチル酸鉄、オクチル酸錫、オクチル酸カルシウム、オクチル酸亜鉛、オクチル酸ジルコニウム、ネオデカン酸ビスマス、ネオデカン酸亜鉛、ネオデカン酸鉛、ネオデカン酸コバルト、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジラウリレート;アセチルアセトン鉄、アセチルアセトン亜鉛、アセチルアセトンジルコニウム、アセチルアセトンニッケル、アセチルアセトン錫等を挙げることが出来る。これらの金属塩や金属錯体は、その取扱い性の向上のため、ミネラルスピリット、有機酸、グリコール類、エステル類等の希釈剤に溶解させたものとして、用いてもよい。また、これらの金属触媒は、単体で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、錫、鉛、ビスマス又は亜鉛の酢酸金属塩が好ましく、より好ましくは酢酸アルカリ金属塩、特に好ましくは酢酸カリウムが用いられる。
【0030】
そのような各種の触媒の中でも、本発明においては、酢酸金属塩を含むもの、換言すれば、酢酸金属塩と他の触媒とを併せて、触媒として使用することが好ましい。このように、酢酸金属塩と他の触媒とを併用することにより、本発明の効果をより有利に享受することが可能となる。
【0031】
また、本発明において、A液に含有せしめられる触媒の量は、A液中のポリオールの100質量部に対して、一般に、0.2~10質量部、好ましくは0.4~8質量部、より好ましくは1~6質量部の割合において、含有せしめられることとなる。A液中における触媒の含有量が0.2質量部よりも少ないと、反応に対する寄与が少なく、強度発現が遅くなる問題があり、その一方、10質量部よりも多いと、反応が速くなり過ぎて、反応速度の制御が困難となる。
【0032】
-B液-
(ポリイソシアネート)
B液の主成分たるポリイソシアネートは、A液中のポリオールと反応して、ポリウレタン(樹脂)を生成するものであって、分子中に2つ以上のイソシアネート基(NCO基)を有する有機イソシアネート化合物である。具体的には、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ポリトリレントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートの他、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー、ポリイソシアネートのイソシアヌレート変性体、カルボジイミド変性体等を例示することが出来る。これらのポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。一般的には、反応性や経済性、取り扱い性等の観点から、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(クルードMDI)が、好適に用いられることとなる。
【0033】
なお、かかるポリイソシアネートを含むB液と前記したA液との配合割合は、形成されるフォームの種類(例えば、ポリウレタン、ポリイソシアヌレート)によって、適宜に決定されることとなるが、一般に、容積比で、A液:B液=1:1~3の範囲となるように、適宜に決定されることとなる。
【0034】
(カーボネート化合物)
そして、B液には、カーボネート化合物が含有せしめられているのであり、かかるカーボネート化合物をB液に含有せしめていることにより、本発明における種々の効果が有利に奏されるのである。なお、カーボネート化合物をA液に含有せしめると、そこに含まれる触媒の失活を促進させてしまうため、本発明において、B液にカーボネート化合物を含有せしめることは必須である。また、カーボネート化合物が添加されることで、A液とB液とを混合した際の混合性が向上し、セル形状が均一になることから、最終的に得られるポリウレタンフォームの寸法安定性が良好となる。
【0035】
本発明において使用されるカーボネート化合物としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、スチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t-ブチルジカーボネート、ジフェニルカーボネート等を例示することが出来、これらの中から1種又は2種以上のものが適宜に選択されて、B液に配合される。それらカーボネート化合物の中でも、本発明においては、特にプロピレンカーボネートが有利に用いられ、プロピレンカーボネートを使用することにより、本発明の効果をより有利に享受することが可能となる。
【0036】
上記の如きカーボネート化合物は、本発明において、ポリイソシアネートの100質量部に対して、0.3~12質量部の割合にて、好ましくは0.5~10質量部の割合にて、より好ましくは1~5質量部の割合にて、B液に配合される。ポリイソシアネートの100質量部に対して0.3質量部未満の割合においてカーボネート化合物を配合しても、A液中の触媒量を減少させ、また得られるポリウレタンフォームの低密度化が図られる等の、カーボネート化合物の配合効果が効果的に発揮されない恐れがあり、その一方、12質量部を超える割合においてカーボネート化合物を配合しても、配合量の増加に見合った効果は認められず、また、得られるポリウレタンフォームの寸法安定性が悪化する恐れがあることから、得策ではない。
【0037】
また、B液中のカーボネート化合物の含有量は、A液中のハロゲン化ハイドロオレフィンの含有量に対して、質量基準にて、0.01~0.7倍量であることが好ましく、0.03~0.6倍量であることがより好ましく、0.05~0.5倍量であることが最も好ましい。B液中のカーボネート化合物の含有量が、A液中のハロゲン化ハイドロオレフィンの含有量の0.01倍量未満では、上記したカーボネート化合物の配合効果を有利に享受することが出来ない恐れがあり、また0.7倍量を超える量のカーボネート化合物を使用しても、その量に見合った上記効果は認められず、また、得られるポリウレタンフォームの寸法安定性が悪化する恐れがあることから、得策ではない。
【0038】
ところで、本発明に従うポリウレタンフォーム用薬液組成物を構成する、上述の如きA液及びB液の少なくとも何れか一方には、難燃剤が含有せしめられていることが好ましい。この難燃剤は、A液に添加される場合において、ポリオールの100質量部に対して5~50質量部程度、好ましくは10~40質量部の割合で含有せしめられることが望ましい。また、B液に添加される場合にあっては、ポリイソシアネートの100質量部に対して5~40質量部程度、好ましくは10~30質量部の割合で含有せしめられることが望ましい。
【0039】
また、そのような難燃剤としては、具体的には、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン系難燃剤、ハロゲン化リン酸エステル、無機系難燃剤等が挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、また2種以上が併用して用いられてもよい。これらの中でも、環境への負荷が少なく、発泡性組成物の減粘剤としても機能する点で、リン酸エステル及びハロゲン化リン酸エステルが好ましく用いられることとなる。なお、リン酸エステルとしては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等が挙げられる。また、ハロゲン化リン酸エステルとしては、例えば、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(1-クロロ-2-プロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、テトラキス(2-クロロエチル)ジクロロイソペンチルジホスフェート、ポリオキシアルキレンビス(ジクロロアルキル)ホスフェート等が挙げられる。
【0040】
なお、本発明に従う薬液組成物を構成する上述の如きA液及びB液には、その使用目的に応じて、従来と同様な各種の添加剤を添加せしめることが可能である。例えば、A液又はB液に対する添加剤としては、整泡剤、減粘剤等を挙げることが出来る。これらの添加剤は、A液を構成するポリオールの100質量部に対して0.1~20質量部、好ましくは0.1~15質量部の割合において用いられることとなる。また、B液を構成するポリイソシアネートの100質量部に対して0.1~15質量部、好ましくは0.1~10質量部の割合となるように、用いられることとなる。
【0041】
それら添加剤の中で、整泡剤は、A液とB液との反応によって形成されるフォームのセル構造を均一に整えるために用いられるものである。この整泡剤としては、例えば、シリコーン、非イオン系界面活性剤、ポリオキシアルキレン変性ジメチルポリシロキサン、ポリシロキサンオキシアルキレン共重合体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ヒマシ油エチレンオキシド付加物、ラウリル脂肪酸エチレンオキシド付加物等が挙げられ、これらの中でも、シリコーン及び非イオン系界面活性剤が好ましく用いられる。これらは、単独で用いられてもよく、2種以上を併用して用いられてもよい。また、整泡剤の中では、シリコーン系整泡剤がより好ましく、中でも、ポリオキシアルキレン変性ジメチルポリシロキサン、ポリシロキサンオキシアルキレン共重合体等が好ましく用いられることとなる。
【0042】
加えて、減粘剤は溶剤として用いられ、A液又はB液に溶解されて、それらの液を減粘する働きを有するものである。そのため、そのような機能を有するものである限りにおいて、特に限定されるものではなく、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のエーテル類、γ-ブチロラクトン等の環状エステル類、ジカルボン酸メチルエステル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、石油系炭化水素類等が挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、2種以上を併用して用いられてもよい。
【0043】
そして、上述の如くして得られた、ポリオールを主成分とするA液とポリイソシアネートを主成分とするB液とからなる薬液組成物は、A液とB液とが現場において混合され、その混合物が、例えば、注入裏込め工法においてはトンネル覆工と背面の地山との間に生じた空隙等に注入され、そこにおいて発泡・硬化せしめられることにより、目的とするポリウレタンフォームが形成されることとなるのである。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0045】
なお、以下の実施例及び比較例において得られたA液とB液について、その反応性の評価(クリームタイム、ゲルタイム及びライズタイムの測定)、原液貯蔵安定性の評価、得られたポリウレタンフォームの密度の測定及び寸法変化率の測定は、各々、以下の手法に従って行なった。また、以下に示す「%」及び「部」は、何れも、質量基準である。
【0046】
(1)反応性
実施例及び比較例で得られたA液及びB液を、容積比でA液:B液=1:2の割合において均一に混合する反応性試験を行ない、混合開始から発泡が終了するまでの各段階の反応時間を測定した。具体的には、A液とB液との混合開始から発泡が始まるまでの時間をクリームタイムとし、混合開始からフォーム(発泡体)の表面が糸引き可能な粘着性を示すまでの時間をゲルタイムとし、混合開始から発泡が終了するまでの時間をライズタイムとして、各々、測定した。
【0047】
(2)寸法変化率の測定
上記反応性試験で得られた発泡体より、100mm×100mm×25mmのサイズで試験片を切り出し、その切り出した試験片を50℃の雰囲気下で24時間、静置した。かかる静置後、試験片の厚み(静置後の寸法)を測定して、静置前の試験片の厚み(切出後の寸法:25mm)より、以下の式に従って寸法変化率(%)を算出した。
寸法変化率(%)=[(切出後の寸法-静置後の寸法)/切出後の寸法]×100
【0048】
(3)原液貯蔵安定性(反応性の評価)
下記表3に示すA液及びB液を、それぞれ耐圧容器に入れ、温度50℃に保持された恒温槽内にて48時間、静置した。その後、A液及びB液を、容積比でA液:B液=1:2の割合において均一に混合する原液貯蔵安定性試験を行ない、混合開始から発泡が終了するまでの各段階の反応時間(クリームタイム、ゲルタイム及びライズタイム)を測定した。測定されたクリームタイム(ゲルタイム、ライズタイム)と、恒温槽内での静置を経ることなく混合され、測定されたクリームタイム(ゲルタイム、ライズタイム)とを比較して、静置後のA液及びB液を混合した場合のクリームタイム、ゲルタイム及びライズタイムにおける時間の変化量(時間の延長)が全て2秒以内の場合には○と評価し、1つでも2秒を超えたものがある場合には×と評価した。
【0049】
(4)原液貯蔵安定性(寸法変化率の測定)
上記原液貯蔵安定性試験で得られた発泡体より、100mm×100mm×25mmのサイズで試験片を切り出し、その切り出した試験片を50℃の雰囲気下で24時間、静置した。かかる静置後、試験片の厚み(静置後の寸法)を測定して、静置前の試験片の厚み(切出後の寸法:25mm)より、以下の式に従って寸法変化率(%)を算出した。
寸法変化率(%)=[(切出後の寸法-静置後の寸法)/切出後の寸法]×100
【0050】
先ず、下記表1乃至表2に示す割合において各成分を含有するポリウレタンフォーム用薬液組成物(A液、B液)を調製した。なお、一部の実施例及び比較例においては発泡剤の含有量を変化させているが、これは、寸法変化率の良し悪しを評価するためには最終的に得られる発泡体(ポリウレタンフォーム)の密度を略同一とすることが必要であり、発泡体の密度を30~35kg/m3 とするために、発泡剤の含有量を変化させたものである。また、A液及びB液の調製に際して使用した原料は、以下の通りである。
・ポリオール:ポリオキシプロピレングリコール
(旭硝子株式会社製、製品名:EXCENOL 420、開始剤:プロ ピレングリコール、アルキレンオキサイド:プロピレンオキサイド1 00質量%、分子量:400)
・ポリオール:エチレンジアミン系ポリエーテルポリオール
(旭硝子株式会社製、製品名:EXCENOL 500ED、開始剤: エチレンジアミン、アルキレンオキサイド:プロピレンオキサイド1 00質量%、分子量:450)
・ポリイソシアネート:万華化学ジャパン株式会社製、製品名:Wannate PM -200
・整泡剤:シリコーン系整泡剤
(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、製 品名:NIAX Silicone L-6970)
・難燃剤:リン酸エステル
(大八化学工業株式会社製、TMCPP:トリス(1-クロロ-2-プロピ ル)ホスフェート)
・触媒:3級アミン触媒(花王株式会社製、製品名:カオーライザーNo.120)
・発泡剤:ハイドロクロロフルオロオレフィン
(HCFO-1233zd:1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペ ン、Honeywell社製)
・発泡剤:ハイドロフルオロオレフィン
(HFO-1336mzz:1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2 -ブテン、Chemours社製)
【0051】
A液及びB液を、容積比でA液:B液=1:2の割合において均一に混合する反応性試験を行ない、混合開始から発泡が終了するまでの各段階の反応時間(クリームタイム、ゲルタイム及びライズタイム)を測定した。また、得られたポリウレタンフォームについて、密度を測定して30~35kg/m3 の範囲内であることを確認した後、寸法変化率を測定した。それら測定結果を、下記表1及び表2に示す。
【0052】
【0053】
【0054】
かかる表1及び表2の結果からも明らかなように、本発明に従うポリウレタンフォーム用薬液組成物(実施例1~実施例13)にあっては、クリームタイムが短いことから発泡開始に至るまでの時間が短く、またライズタイムも短いことから、発泡終了に至るまでの時間も短いことが認められる。また、比較例1は、B液にカーボネート化合物を配合していないこと以外は実施例1と同様の組成であるところ、比較例1の薬液組成物は、実施例1の薬液組成物と比較して、クリームタイム、ゲルタイム及びライズタイムの何れも長く、加えて、得られる発泡体(ポリウレタンフォーム)の寸法安定性も劣っていることが認められる。これらの結果より、カーボネート化合物によって、A液とB液との混合溶液中における泡化から硬化までの反応が迅速に進行し、また、本発明の薬液組成物より寸法安定性に優れた発泡体(ポリウレタンフォーム)が得られることが、確認されたのである。
【0055】
次いで、薬液組成物の貯蔵安定性(原液貯蔵安定性)を確認すべく、以下の実験を行なった。具体的には、下記表3に示す各成分を含有するポリウレタンフォーム用薬液組成物(A液、B液)を調製した。なお、下記表3から明らかなように、比較例3の薬液組成物は、実施例1ではB液に配合されているプロピレンカーボネートをA液に配合したこと以外は、実施例1と同様の組成に係るものである。同様に、比較例4の薬液組成物は、実施例2でB液に配合されているジエチルカーボネートをA液に配合したこと以外は、実施例2と同様の組成であり、比較例5の薬液組成物は、実施例3ではB液に配合されているジメチルカーボネートをA液に配合したこと以外は、実施例3と同様の組成であり、比較例6の薬液組成物は、実施例4ではB液に配合されているエチレンカーボネートをA液に配合したこと以外は、実施例4と同様の組成である。
【0056】
それら8種類の薬液組成物を用いて、上記した原液貯蔵安定性試験を行ない、反応性を評価し、更には寸法変化率を測定した。それらの結果を、下記表3に併せて示す。
【0057】
【0058】
かかる表3の結果からも明らかなように、比較例3~比較例6の如く、ポリオールを主成分とするA液中にカーボネート化合物を配合すると、原液貯蔵安定性試験後の薬液組成物の反応性が低下することが認められる。また、比較例3~比較例6の薬液組成物より得られる発泡体(ポリウレタンフォーム)は、寸法変化率が大きいことも認められる。これら結果より、本発明の如く、ポリイソシアネートを主成分とするB液にカーボネート化合物を配合することにより、A液の貯蔵安定性が向上し、また、そのような薬液組成物より得られる発泡体(ポリウレタンフォーム)は寸法安定性に優れたものであることが、確認されたのである。