IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 理研計器株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ガス検出装置 図1
  • 特許-ガス検出装置 図2
  • 特許-ガス検出装置 図3
  • 特許-ガス検出装置 図4
  • 特許-ガス検出装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ガス検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/16 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
G01N27/16 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018134721
(22)【出願日】2018-07-18
(65)【公開番号】P2019023632
(43)【公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2017141768
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250421
【氏名又は名称】理研計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100078754
【氏名又は名称】大井 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】朝田 隆二
(72)【発明者】
【氏名】芝▲崎▼ 克一
(72)【発明者】
【氏名】小野 圭
【審査官】赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-175969(JP,A)
【文献】特開2006-234415(JP,A)
【文献】特開2007-232406(JP,A)
【文献】特開2006-250569(JP,A)
【文献】特開2016-223925(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152645(WO,A1)
【文献】特開2015-184218(JP,A)
【文献】特開2015-194464(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0257289(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-G01N 27/24
G01N 25/00-G01N 25/72
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触燃焼式ガスセンサを備えたガス検出装置であって、
前記接触燃焼式ガスセンサは、各々測温抵抗体に固着させた金属酸化物焼結体の担体に触媒を担持させてなる2つのガス検出素子が、それぞれ、互いに区画された2つの検出室内の各々に配置されて構成されており、
前記接触燃焼式ガスセンサにおける一方の検出室のガス入口に、シリコーン除去フィルタが設けられており、
被検ガスについて一方のガス検出素子によって得られる出力データに基づいて当該被検ガス中の検出対象ガスの濃度データを取得すると共に当該被検ガスについて他方のガス検出素子によって得られる出力データに基づいて当該被検ガス中の当該検出対象ガスの濃度データを取得し、これら2つの濃度データのうち高い方の値を当該検出対象ガスの濃度指示値として出力する出力処理部を備えることを特徴とするガス検出装置。
【請求項2】
前記シリコーン除去フィルタが、通気性を有する支持体にシリカを担持させ更に塩化鉄(III)によりシリコーン化合物の吸着を促進処理したものであることを特徴とする請求項1に記載のガス検出装置。
【請求項3】
前記シリコーン除去フィルタが、通気性を有する支持体にフュームドシリカを担持させたものであることを特徴とする請求項1に記載のガス検出装置。
【請求項4】
接触燃焼式ガスセンサを駆動させるセンサ駆動部を備えており、
当該センサ駆動部は、前記2つのガス検出素子の各々を、当該2つのガス検出素子の各々に対する同一または連続する通電期間と休止期間とを繰り返すよう間欠駆動させることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のガス検出装置。
【請求項5】
前記センサ駆動部は、前記2つのガス検出素子に共通の電源回路を備えており、前記2つのガス検出素子の各々に対して交互に通電することを特徴とする請求項4に記載のガス検出装置。
【請求項6】
前記通電期間が0.5~2秒間であり、前記休止期間が1秒間以上であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のガス検出装置。
【請求項7】
前記接触燃焼式ガスセンサにおけるガス検出素子の各々は、前記担体としてZrO 2 またはAl 2 3 が用いられ、前記触媒としてPt、Pd、PtO、PtO 2 、PdOからなる群より選ばれた少なくとも1種のものが用いられてなるものであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のガス検出装置。
【請求項8】
担体に対する触媒の含有割合が10~30wt%であることを特徴とする請求項7に記載のガス検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触燃焼式ガスセンサを備えたガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば可燃性ガスを検出するために用いられる接触燃焼式ガスセンサのある種のものは、金属酸化物焼結体よりなる担体に酸化触媒を担持させてなるガス感応部が、通電により発熱する測温抵抗体の表面に固着されたガス検出素子を備えた構成とされている。
このような接触燃焼式ガスセンサにおいては、被毒物質である例えばヘキサメチルジシロキサンやシリコーンオイルといったシリコーン化合物が測定対象空間の雰囲気中に存在すると、当該シリコーン化合物が酸化触媒の表面に吸着、蓄積されること(被毒)によって、酸化触媒の性能(活性)が劣化して検出感度が徐々に低下する、という問題がある。
【0003】
このような問題に対して、例えば、シリコーン除去フィルタを配置することによってガス検出素子の被毒を防止することが考えられる。このようなシリコーン除去フィルタを備えたガスセンサは、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-250569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなガスセンサにおいては、目的とする検出対象ガスの一部のもの、例えば溶剤ガスなどについても、シリコーン除去フィルタによって除去されてしまうため、目的とする検出対象ガスの検出を適正に行うことができない、という問題がある。
また、ガス検出素子の検出感度が低下することを防止するために、ガス検出素子におけるガス感応部を構成する担体の量を多くして酸化触媒の量を多くすることも考えられる。しかしながら、このようなガス検出素子では、ガス検出素子に十分なガス感度が得られるよう必要な温度にまで加熱するために、より大きな電力が必要となり、特に、電池駆動の携帯型ガス検出装置では、使用可能時間(駆動時間)が短くなって不適である。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、シリコーン被毒耐久性が高く、省消費電力化が図られたガス検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガス検出装置は、接触燃焼式ガスセンサを備えたガス検出装置であって、
前記接触燃焼式ガスセンサは、各々測温抵抗体に固着させた金属酸化物焼結体の担体に触媒を担持させてなる2つのガス検出素子が、それぞれ、互いに区画された2つの検出室内の各々に配置されており、
前記接触燃焼式ガスセンサにおける一方の検出室のガス入口に、シリコーン除去フィル
タが設けられ
被検ガスについて一方のガス検出素子によって得られる出力データに基づいて当該被検ガス中の検出対象ガスの濃度データを取得すると共に当該被検ガスについて他方のガス検出素子によって得られる出力データに基づいて当該被検ガス中の当該検出対象ガスの濃度データを取得し、これら2 つの濃度データのうち高い方の値を当該検出対象ガスの濃度指示値として出力する出力処理部を備えた構成とされることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のガス検出装置においては、前記シリコーン除去フィルタが、通気性を有する支持体にシリカを担持させ更に塩化鉄(III)によりシリコーン化合物の吸着を促進処理したもの、あるいは、通気性を有する支持体にフュームドシリカを担持させたものであることが好ましい。
【0010】
さらにまた、本発明のガス検出装置においては、接触燃焼式ガスセンサを駆動させるセンサ駆動部を備えており、当該センサ駆動部は、前記2つのガス検出素子の各々を、当該2つのガス検出素子の各々に対する同一または連続する通電期間と休止期間とを繰り返すよう間欠駆動させることが好ましい。
さらにまた、前記センサ駆動部は、前記2つのガス検出素子に共通の電源回路を備えており、前記2つのガス検出素子の各々に対して交互に通電する構成とされていることが好ましい。
本発明のガス検出装置においては、前記通電期間が0.5~2秒間であり、前記休止期間が1秒間以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のガス検出装置においては、前記接触燃焼式ガスセンサにおけるガス検出素子の各々は、前記担体としてZrO2 またはAl2 3 が用いられ、前記触媒としてPt、Pd、PtO、PtO2 、PdOからなる群より選ばれた少なくとも1種のものが用いられてなるものであることが好ましい。
さらにまた、本発明のガス検出装置においては、担体に対する触媒の含有割合は10~30wt%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のガス検出装置によれば、被毒物質であるシリコーン化合物が存在する環境下において使用される場合であっても、目的とする検出対象ガスについての信頼性の高い出力を少なくとも一方のガス検出素子によって得ることができる。このため、ガス検出装置を高いシリコーン被毒耐久性を有するものとして構成することができて検出対象ガスの検出を正確に行うことができる。
また、高いシリコーン被毒耐久性が得られることから、ガス検出素子におけるガス感応部を構成する担体の量を可及的に低減してガス検出素子自体をサイズの小さいものとして構成することができるようになる。このため、ガス検出素子の熱容量を小さく低減することができて省消費電力化を図ることができる。
【0013】
また、2つのガス検出素子が間欠駆動される構成とされることにより、一層の省消費電力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のガス検出装置において用いられる接触燃焼式ガスセンサの一構成例を示す、(a)分解斜視図、(b)一部を省略した状態で示す平面図、(c)断面図である。
図2】ガス検出素子の一例における構成を概略的に示す断面図である。
図3】接触燃焼式ガスセンサの駆動方式の一例を示すタイミングチャートである。
図4】(a)パラフィン系炭化水素ガス、(b)溶剤ガスおよび(c)水素ガスの各々の基準ガスについて取得された各々のガス検出素子に係る出力データの傾向を示す観念図である。
図5】シリコーン化合物が存在する環境下に所定時間の間曝露させたときの、(a)パラフィン系炭化水素ガス、(b)溶剤ガスおよび(c)水素ガスの各々の基準ガスについて取得された各々のガス検出素子に係る出力データの傾向を示す観念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明のガス検出装置は、例えばパラフィン系炭化水素ガス、水素ガスおよびその他の可燃性ガス、並びに溶剤ガスなどを検出対象ガスとする接触燃焼式ガスセンサを備えたものである。
本発明のガス検出装置は、携帯型のものとして構成されていても、定置型のものとして構成されていても、いずれであってもよいが、後述するように、本発明のガス検出装置によれば、省消費電力化が図られたものとして構成することができるため、本発明のガス検出装置は、電池駆動による携帯型のものとして構成される場合に有用なものとなる。
【0017】
本発明のガス検出装置は、接触燃焼式ガスセンサと、当該接触燃焼式ガスセンサを駆動するセンサ駆動部と、当該接触燃焼式ガスセンサよりのガス検知信号を処理する出力処理部と、表示部とを備えている。
【0018】
図1は、本発明のガス検出装置において用いられる接触燃焼式ガスセンサの一構成例を示す、(a)分解斜視図、(b)一部を省略した状態で示す平面図、(c)断面図である。
この接触燃焼式ガスセンサ10は、熱遮蔽板としても機能する仕切り板18によって互いに区画された2つの検出室Sa,Sbが内部に形成されたケース11と、2つの検出室Sa,Sbの各々に、それぞれ配置された2つのガス検出素子20a,20bとを備えている。
【0019】
ケース11は、一端側開口が例えば金属焼結体よりなる消炎フィルタ12によって閉塞された例えば円筒状のものであって、ケース11の他端側開口には、ガス検出素子20a,20bを支持するベース部材15が当該他端側開口を気密に閉塞するよう設けられている。
ベース部材15の一面上には、ケース11の内部空間を2分する平板状の仕切り板18が設けられており、仕切り板18を挟んだ両側に、それぞれガス検出素子20a,20bが配置されている。各々のガス検出素子20a,20bは、仕切り板18に沿って例えば水平に延びる姿勢でその両端がリード16の先端部に固定されている。各々のリード16は、ベース部材15を気密に貫通して軸方向外方に突出して延びるよう設けられている。
【0020】
各々のガス検出素子20a,20bは、図2に示すように、通電により発熱する測温抵抗体21と、測温抵抗体21に固着されたガス感応部22とにより構成されている。
【0021】
測温抵抗体21は、耐熱性および耐食性を有する抵抗線がコイル状に巻回されてなるコイル部を有するヒータにより構成されている。
測温抵抗体21を構成する材料としては、例えば白金またはその合金を用いることができる。
【0022】
ガス感応部22は、金属酸化物焼結体からなる担体に酸化触媒が担持されて構成されている。
担体を構成する金属酸化物としては、例えば、ZrO2 (ジルコニア)、Al2 3 (アルミナ)、SiO2 (シリカ)、ゼオライトなどを用いることができる。
酸化触媒としては、例えば、Pt、Pd、PtO、PtO2 、PdOからなる群より選ばれた少なくとも1種のものを用いることができる。
ガス感応部22における酸化触媒の含有割合は、例えば10~30wt%である。
【0023】
ガス検出素子20a,20bの構成例を示すと、測温抵抗体21を構成する抵抗線の素線径がφ0.005~φ0.020mm、コイル部の外径が0.08~0.30mm、巻回数が6~15ターン、コイル部の長さが0.10~0.40mmである。
ガス感応部22の最大外径Dが0.10~0.50mm、ガス感応部22の長さLが0.10~0.50mmである。また、ガス感応部22とリード16との最接近距離(ピッチ)pが0.10~0.50mmである。
【0024】
而して、この接触燃焼式ガスセンサ10においては、一方の検出室Saのガス入口に、シリコーン化合物を吸着除去するシリコーン除去フィルタ25が設けられている。
シリコーン除去フィルタ25は、例えばパルプシートなどの通気性を有する支持体にシリカを担持させ更に塩化鉄(III)によりシリコーン化合物の吸着を促進処理したものや、支持体にフュームドシリカを担持させたものなどが用いられることが好ましい。これにより、一方のガス検出素子20aがシリコーン化合物によって被毒することを確実に回避することができると共に、例えばパラフィン系炭化水素ガスや水素ガスといった検出対象ガスを透過させることができる。なお、目的とする検出対象ガスの一部のもの例えば溶剤ガスは、シリコーン化合物と類似した吸着特性を有することから、シリコーン除去フィルタ25によって除去されることとなる。
このようなシリコーン除去フィルタ25は、例えば、パルプシートを支持体として、液材を含浸・乾燥することにより作製することができる。液材としては、例えば水を溶媒とするシリカを主体とした分散液であって、塩化鉄(III)水和物を含むものが用いられる。塩化鉄(III)水和物の含有割合は、例えば0.3~3wt%である。シリカとしてフュームドシリカが用いられる場合には、液材は塩化鉄(III)水和物を含むものである必要はない。
【0025】
センサ駆動部は、2つのガス検出素子20a,20bの各々を、当該2つのガス検出素子20a,20bの各々に対する通電期間と休止期間とを繰り返すよう、間欠駆動する機能を有する。センサ駆動部は、例えば図3に示されるように、2つのガス検出素子20a,20bの各々に交互に通電して、2つのガス検出素子20a,20bの各々に対する連続した通電期間Te1,Te2と休止期間Tdとからなるガス検出サイクルを繰り返すよう、各々のガス検出素子20a,20bが間欠駆動される構成とされていることが好ましい。なお、センサ駆動部は、2つのガス検出素子20a,20bの各々に対して同時に通電するよう構成されていてもよい。また、各々のガス検出素子20a,20bに対する通電の順序は、特に限定されない。
【0026】
接触燃焼式ガスセンサ10の動作条件を示すと、各々のガス検出素子20a,20bに対する印加電圧は、例えば0.50~1.20Vの範囲内の大きさ、例えば1.0Vである。また、各々のガス検出素子20a,20bに対する通電期間(通電時間)Te1,Te2は、例えば0.5~2秒間、例えば1秒間であることが好ましく、休止期間(通電休止時間)Tdは、例えば1秒間以上、例えば3秒間であることが好ましい。
このような接触燃焼式ガスセンサ10の駆動方式によれば、省消費電力化を図ることができると共に、ガス検出素子20a,20bに対する無通電時間が短いため、ガス検出素子20a,20bに対する長時間の暖機処理を行うことなしに、安定した出力を得ることができる。特に、2つのガス検出素子20a,20bの各々に対して交互に通電される場合には、共通の電源回路(図示せず)によってガス検出素子20aおよびガス検出素子20bの両方を駆動することができるため、ガス検出装置の消費電力の低減化を図ることができる。
【0027】
出力処理部は、被検ガスについて一方のガス検出素子20aによって得られる出力データに基づいて当該被検ガス中の検出対象ガスの濃度データを取得すると共に当該被検ガスについて他方のガス検出素子20bによって得られる出力データに基づいて当該被検ガス中の当該検出対象ガスの濃度データを取得し、これら2つの濃度データのうち高い値を示すものを当該検出対象ガスの濃度指示値として表示部に出力する機能を有する。
【0028】
具体的には、出力処理部は、一のガス検出素子に対する通電期間内において当該ガス検出素子より得られるガス検知信号を例えば所定時間間隔毎にサンプリングして当該ガス検出素子に係る出力データを順次に取得し、例えば時間的に最後に取得された出力データに基づいて被検ガス中の検出対象ガスの濃度データを取得する。ここに、ガス検出素子に係る出力データは、例えば0.5秒間の時間間隔毎に取得される。
各々のガス検出素子20a,20bに係る出力データの傾向を示す観念図を図4に示す。図4(a)は、炭素数1~6のパラフィン系炭化水素ガスについての出力データの傾向を示す図、(b)は溶剤ガスについての出力データの傾向を示す図、(c)は水素ガスについての出力データの傾向を示す図である。
【0029】
図4に示す例において、2つのガス検出素子20a,20bの各々の出力データは、例えば図3に示す駆動方式によって接触燃焼式ガスセンサを駆動したときに、2つのガス検出素子20a,20bの各々について、1通電期間Te1,Te2、例えば1秒間の時間内において、ガス検出素子より得られるガス検知信号を例えば0.5秒間の時間間隔毎(図3におけるt1~t4の時点)にサンプリングすることによって取得されたものである。
図4(a)~(c)における縦軸は、被検ガスについてサンプリングされた出力値から、エアを導入したときに同様にしてサンプリングされた出力値を減算して得られるスパン出力値である。また、a1,a2はシリコーン除去フィルタ25が設けられた一方の検出室Sa内に配置された一方のガス検出素子20aに係る出力データ、b1,b2は、シリコーン除去フィルタ25が設けられていない他方の検出室Sb内に配置された他方のガス検出素子20bに係る出力データである。そして、a2およびb2の出力データが通電期間Te1,Te2内において時間的に最後に取得されたもの(便宜上、斜線が付してある。)であって、濃度データを取得するために用いられるものである。
【0030】
図4(a)に示されるように、例えばメタンなどのパラフィン系炭化水素ガスは、シリコーン除去フィルタ25を透過するため、一方のガス検出素子20aおよび他方のガス検出素子20bの各々について、スパン出力値のレベルが十分に高い出力データa1,a2,b1,b2が取得される。すなわち、パラフィン系炭化水素ガスは、一方のガス検出素子20aおよび他方のガス検出素子20bの両方によって検出される。
また、図4(b)に示されるように、例えばトルエンなどの芳香族炭化水素類、アルコール類、ケトン類などの溶剤ガスは、シリコーン除去フィルタ25によって除去されるため、一方のガス検出素子20aに係る出力データa1,a2のスパン出力値は実質的に「0」となり、他方のガス検出素子20bについて、スパン出力値のレベルが十分に高い出力データb1,b2が取得される。すなわち、溶剤ガスは、一方のガス検出素子20aによっては実質的に検出されず、他方のガス検出素子20bのみによって検出される。
さらにまた、図4(c)に示されるように、水素ガスは、シリコーン除去フィルタ25を透過するため、一方のガス検出素子20aおよび他方のガス検出素子20bの各々について、スパン出力値のレベルが十分に高い出力データa1,a2,b1,b2が取得される。すなわち、水素ガスは、一方のガス検出素子20aおよび他方のガス検出素子20bの両方によって検出される。
【0031】
そして、図示した例においては、パラフィン系炭化水素ガスについては、他方のガス検出素子20bに係る出力データ(b2)に基づいて取得される濃度データより高い値を示す一方のガス検出素子20aに係る出力データ(a2)に基づいて取得される濃度データが表示部に出力される。
溶剤ガスおよび水素ガスについても同様に、一方のガス検出素子20aの出力データ(a2)に基づいて取得される濃度データおよび他方のガス検出素子20bの出力データ(b2)に基づいて取得される濃度データのうち高い値を示す濃度データが濃度指示値として表示部に出力される。
【0032】
上述したように、接触燃焼式ガスセンサにおいては、被毒物質であるシリコーン化合物が雰囲気中に存在すると、当該シリコーン化合物が酸化触媒の表面に吸着、蓄積されること(被毒)によって、酸化触媒の性能(活性)が劣化して検出感度が低下する。
然るに、上記のガス検出装置においては、一方の検出室Saのガス入口に、シリコーン除去フィルタ25が設けられた構成とされていることにより、シリコーン化合物が存在する環境下において使用される場合であっても、目的とする検出対象ガスについて信頼性の高い出力を得ることができる。
【0033】
すなわち、図5(a)に示されるように、ガス検出素子の被毒により出力低下の程度が大きいパラフィン系炭化水素ガスについては、シリコーン除去フィルタ25が設けられていない他方の検出室Sbに配置された他方のガス検出素子20bのスパン出力値b1,b2は大きく低下するものの、シリコーン除去フィルタ25が設けられた一方の検出室Saに配置された一方のガス検出素子20aについては、シリコーン除去フィルタ25によってシリコーン化合物が吸着除去されるため、出力低下の程度が極めて小さい。従って、一方のガス検出素子20aによって被検ガス中のパラフィン系炭化水素ガスの存在を検出することができる。
また、図5(b)に示されるように、溶剤ガスについては、ガス検出素子が被毒しても出力低下の程度が小さい(被毒による影響を受けにくい)ため、シリコーン除去フィルタ25が設けられていない他方の検出室Sbに配置された他方のガス検出素子20bの出力低下の程度が小さい。従って、溶剤ガスがシリコーン除去フィルタ25によって除去されるため、一方のガス検出素子20aによっては溶剤ガスを検出することはできないものの、他方のガス検出素子20bによって被検ガス中の溶剤ガスの存在を検出することができる。
さらにまた、図5(c)に示されるように、水素ガスは、ガス検出素子が被毒しても出力低下の程度が小さい(被毒による影響を受けにくい)ものであり、また、シリコーン除去フィルタ25を透過するため、一方のガス検出素子20aおよび他方のガス検出素子20bの両方によって被検ガス中の水素ガスの存在を検出することができる。
【0034】
以上のように、上記のガス検出装置によれば、被毒物質であるシリコーン化合物が存在する環境下において使用される場合であっても、検出対象ガスの種類に拘わらず、一方のガス検出素子20aおよび他方のガス検出素子20bの少なくとも一方によって十分に信頼性の高い出力データが得られるので、ガス検出装置を高いシリコーン被毒耐久性を有するものとして構成することができる。そして、取得された出力データに基づいて検出対象ガスの濃度を正確に検出することができる。
また、高いシリコーン被毒耐久性が得られることから、ガス検出素子におけるガス感応部を構成する担体の量を可及的に低減してガス検出素子自体をサイズの小さいものとして構成することができるようになる。従って、ガス検出素子の熱容量を低減させることができるため、省消費電力化を図ることができる。
さらにまた、2つのガス検出素子20a,20bの各々に対して交互に通電されることにより、2つのガス検出素子20a,20bを駆動させる電源回路は一つでよいため、このような構成とされることによっても、ガス検出装置の消費電力の低減化を図ることができる。
【0035】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
【0036】
〔実験例1〕
図1および図2に示す構成に従って、接触燃焼式ガスセンサ(A)を作製した。この接触燃焼式ガスセンサ(A)の仕様を以下に示す。
【0037】
<ガス検出素子>
測温抵抗体:材質;10%Rh-90%Pt、素線径;φ0.012mm、コイル部の外径;0.18mm、巻回数;8ターン、コイル部の長さ;0.20mm
担体:材質;ジルコニア(75wt%)とアルミナ(10wt%)との焼結体
酸化触媒:材質;パラジウム、含有割合;14wt%
ガス感応部の最大外径D:0.35mm
ガス感応部の長さL:0.35mm
ガス感応部とリードとの最接近距離(ピッチ)p:0.3mm
<シリコーン除去フィルタ>
材質:パルプシートにシリカを担持させ、塩化鉄(III)によりシリコーン化合物の吸着を促進処理したもの
厚み:約1mm
【0038】
また、シリコーン除去フィルタとして、パルプシートに親水性フュームドシリカ(日本アエロジル社製の「アエロジル380」)を担持させたものを用いたことの他は接触燃焼式ガスセンサ(A)と同一の仕様を有する接触燃焼式ガスセンサ(B)を作製した。
【0039】
接触燃焼式ガスセンサ(A),(B)の各々について、2つのガス検出素子の各々に対する連続する通電期間と休止期間とからなるガス検出サイクルを繰り返すよう各々のガス検出素子を間欠駆動して試験ガスを作用させ、各々のガス検出素子に対する1通電期間内において、ガス検出素子より得られるガス検知信号を例えば0.5秒間の時間間隔毎にサンプリングすることによって2つのガス検出素子の各々についての出力データを取得した。そして、一通電期間内において時間的に最後に取得された各々のガス検出素子に係る出力データに基づいて濃度データを取得した。試験ガスの濃度指示値として出力される、値が高い方の濃度データを下記表1に示す。
ここに、ガス検出素子に対する印加電圧を1.0V、ガス検出素子に対する通電期間を1秒間、休止期間を3秒間とした。また、試験用ガスとしては、濃度50%LELのメタンガスを用いた。
【0040】
次いで、上記の接触燃焼式ガスセンサ(A),(B)の各々に、濃度20ppmのオクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)を20分間作用させることにより接触燃焼式ガスセンサ(A),(B)の被毒処理を行った後、上記と同様にして、試験ガスの濃度指示値を取得した。結果を下記表1に示す。
【0041】
〔実験例2〕
試験用ガスとして濃度50%LELのイソプロピルアルコール(IPA)を用いたことの他は、実験例1と同様にして、被毒処理前の濃度指示値および被毒処理後の濃度指示値を取得した。結果を下記表1に示す。
【0042】
〔実験例3〕
試験用ガスとして濃度50%LELの水素ガスを用いたことの他は、実験例1と同様にして、被毒処理前の濃度指示値および被毒処理後の濃度指示値を取得した。結果を下記表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
以上の結果から明らかなように、被毒処理後においても、目的とする検出対象ガスをガス種に拘わらず一定の確度で検出することができることが確認された。
【符号の説明】
【0045】
10 接触燃焼式ガスセンサ
11 ケース
12 消炎フィルタ
15 ベース部材
16 リード
18 仕切り板
20a 一方のガス検出素子
20b 他方のガス検出素子
21 測温抵抗体
22 ガス感応部
25 シリコーン除去フィルタ
Sa 一方の検出室
Sb 他方の検出室
図1
図2
図3
図4
図5