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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】偏心揺動型減速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20220614BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20220614BHJP
   F16C 19/26 20060101ALI20220614BHJP
   F16C 33/62 20060101ALI20220614BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20220614BHJP
   F16H 55/06 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16C19/06
F16C19/26
F16C33/62
F16C33/32
F16H55/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018137994
(22)【出願日】2018-07-23
(65)【公開番号】P2020016262
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
(72)【発明者】
【氏名】山本 章
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196238(JP,A)
【文献】特開平07-243486(JP,A)
【文献】特開2017-019389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16C 19/06
F16C 19/26
F16C 33/62
F16C 33/32
F16H 55/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、前記内歯歯車と噛合う外歯歯車と、前記外歯歯車を揺動させる偏心体と、を有する偏心揺動型減速装置であって、
前記外歯歯車は、樹脂により構成され、
前記内歯歯車は、樹脂により構成された内歯歯車本体と、前記内歯歯車本体に設けられたピン溝に回転自在に配置され、前記内歯歯車本体の樹脂よりも熱伝導率の高い素材により構成された外ピンと、を有することを特徴とする偏心揺動型減速装置。
【請求項2】
前記内歯歯車と一体的に回転するケーシングと、前記ケーシングと相対回転するキャリヤと、前記ケーシングと前記キャリヤとの間に配置された主軸受と、を有し、
前記主軸受の外輪が前記内歯歯車本体の樹脂よりも熱伝導率の高い素材により構成され、
前記主軸受の前記外輪と前記外ピンが軸方向に当接するか、もしくは前記内歯歯車本体の樹脂よりも熱伝導率の高い素材のスペーサを介して当接することを特徴とする請求項1に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項3】
前記外歯歯車に設けられた内ピン孔に挿通される内ピンを有し、
前記内ピンは、前記内ピン孔との間に隙間が設けられるとともに、前記内ピン孔の内壁面の一部と接触し、かつ金属により構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の偏心揺動型減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ロボットに用いる減速機について、対衝撃性能を付与するために、弾性体からなる緩衝手段を有する偏心揺動型の減速装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-150609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
減速装置の軽量化などのために、減速装置の構成部材を樹脂で形成することが考えられる。例えば、特許文献1に記載の減速装置では、内歯車および外歯歯車が樹脂により形成されている。しかし、内部が高温になる減速装置に樹脂部材を用いると、内部温度上昇により樹脂部材の強度が低下し、それに応じて減速機の寿命が低下する可能性がある。本発明者らが検討したところ、減速装置の寿命低下を抑制する観点から、従来技術には改良の余地があることを認識した。
【0005】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたもので、寿命の低下を抑制できる偏心揺動型減速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の偏心揺動型減速装置は、内歯歯車と、内歯歯車と噛合う外歯歯車と、外歯歯車を揺動させる偏心体と、を有する偏心揺動型減速装置であって、外歯歯車は、樹脂により構成され、内歯歯車は、樹脂により構成された内歯歯車本体と、内歯歯車本体に設けられたピン溝に回転自在に配置され、内歯歯車本体の樹脂よりも熱伝導率の高い素材により構成された外ピンと、を有する。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、寿命の低下を抑制できる偏心揺動型減速装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態の偏心揺動型減速装置を示す側面断面図である。
図2図1の偏心揺動型減速装置のA-A線断面図である。
図3】第2実施形態の偏心揺動型減速装置を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態、比較例および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0011】
[第1実施形態]
以下、図1図2を参照して、第1実施形態に係る偏心揺動型減速装置10の構成について説明する。図1は、第1実施形態の偏心揺動型減速装置10を示す側面断面図である。図2は、図1のA-A線に沿った偏心揺動型減速装置10の断面図である。この図では、理解を容易にするため、2枚の外歯歯車14の一方を表示し、他方は表示していない。他方の外歯歯車14は、一方の外歯歯車14と180度の位相差を有する点で相違し、その他の構成は同様である。本実施形態の偏心揺動型減速装置10は、内歯歯車と噛み合う外歯歯車を揺動させることで、内歯歯車および外歯歯車の一方の自転を生じさせ、その生じた自転成分を出力部材から被駆動装置に出力する偏心揺動型減速装置である。
【0012】
偏心揺動型減速装置10は、主に、入力軸12と、外歯歯車14と、内歯歯車16と、キャリヤ18、20と、ケーシング22と、主軸受24、26と、内ピン40と、キャリヤピン38と、を主に備える。以下、内歯歯車16の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。
【0013】
(入力軸)
入力軸12は、駆動装置(不図示)から入力される回転動力によって回転中心線周りに回転させられる。本実施形態の偏心揺動型減速装置10は、入力軸12の回転中心線が内歯歯車16の中心軸線Laと同軸線上に設けられるセンタークランクタイプである。駆動装置は、たとえば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。
【0014】
本実施形態の入力軸12は、外歯歯車14を揺動させるための複数の偏心部12aを有する偏心体軸である。このような構成の入力軸12は、クランク軸と称されることがある。偏心部12aの軸芯は、入力軸12の回転中心線に対して偏心している。本実施形態では2個の偏心部12aが設けられ、隣り合う偏心部12aの偏心位相は180°ずれている。
【0015】
入力軸12は、その入力側が入力軸軸受34を介して第2カバー23に支持され、その反入力側が入力軸軸受34を介して第1キャリヤ18に支持されている。つまり、入力軸12は、第1キャリヤ18および第2カバー23に対して回転自在に支持されている。入力軸軸受34は、その構成に特別の制限はないが、この例では、球状の転動体を有する玉軸受けである。入力軸軸受34には、与圧を与えてもよいが、この例では与圧を与えていない。
【0016】
(内歯歯車)
内歯歯車16は、外歯歯車14と噛み合う。本実施形態の内歯歯車16は、ケーシング22に一体化された内歯歯車本体16aと、当該内歯歯車本体16aに周方向に間隔を空けて複数形成された各ピン溝に配置された外ピン17と、を有している。外ピン17は、内歯歯車本体16aに回転自在に支持される円筒状のピン部材である。外ピン17は、内歯歯車16の内歯を構成している。内歯歯車16の外ピン17の数(内歯の数)は、外歯歯車14の外歯数よりもわずかだけ(この例では1だけ)多い。
【0017】
内歯歯車本体16aは、樹脂により構成される。内歯歯車本体16aには、種々の樹脂を用いることができるが、この例では、内歯歯車本体16aは、POM(polyacetal:ポリアセタール)により構成されている。内歯歯車本体16aは、PEEK(polyetheretherketone:ポリエーテルケトンケトン)などPOMとは異なる樹脂により構成されてもよい。
【0018】
なお、内歯歯車本体16aおよび本実施形態の他の構成部材に用いられる樹脂は、ガラス繊維、炭素繊維などの強化用繊維を含む樹脂であってもよいし、強化用繊維を含まない樹脂であってもよいし、紙や布などの基材に樹脂を含浸して積層したものであってもよい。特に、本実施形態の各構成部材に用いられる樹脂は、熱伝導性フィラーを配合させた樹脂であってもよく、この熱伝導性フィラーとしては、ナノオーダーフィラー、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどのセラミック粉末、アルミニウム、銅、グラファイトなどの金属粉末などが挙げられる。
【0019】
偏心揺動型減速装置10では、その内部、特に相対的に高速で回転する入力軸12の周囲で発熱量が大きい場合が多い。このように、内部で発生した熱の外部への放熱性が低いと減速装置の温度上昇が高くなる。樹脂部材は、温度が高くなると強度が急激に低下し、そのまま使用し続けると破損する可能性が高い。このため、互いに噛合う歯車対について、歯車対の一方を樹脂部材としたときに、歯車対の他方をその樹脂部材より熱伝導率[W/(m・K)]が高い素材で構成することが望ましい。そこで、偏心揺動型減速装置10では、外ピン17を、内歯歯車本体16aの樹脂よりも熱伝導率の高い素材により構成している。この場合、外ピン17の熱伝導率が低い場合に比べて、内部で発生した熱の外部への放熱性が改善される。
【0020】
外ピン17を構成する素材は、内歯歯車本体16aの樹脂よりも熱伝導率の高い素材であればよく、金属材料、高熱伝導性の樹脂、非金属材料などであってもよい。高熱伝導性の樹脂としては、熱伝導性フィラーを配合させた樹脂が挙げられる。外ピン17は、カーボンナノチューブ(CNT)、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)を配合させた樹脂であってもよい。本実施形態の外ピン17は、軸受鋼等の鉄系金属で構成されている。
【0021】
外ピン17は、中実の部材であってもよいし、中空の部材であってもよい。外ピン17は、芯材を表面材で包んだ多層構造の部材であってもよい。一例として、外ピン17は、芯材と表面材の一方が鉄系金属で、他方が銅系またはアルミニウム系の金属であってもよい。この場合、機械的特性と熱的特性との両立を図ることができる。また、別の一例として、外ピン17は、芯材と表面材の一方が金属で構成され、他方が樹脂で構成されてもよい。また、外ピン17は、焼結金属で構成されてもよい。
【0022】
(外歯歯車)
外歯歯車14は、複数の偏心部12aのそれぞれに対応して個別に設けられる。外歯歯車14は、偏心軸受30を介して対応する偏心部12aに回転自在に支持される。図2に示すように、外歯歯車14には、その軸心からオフセットされた位置に12個の貫通孔が等間隔に形成されている。そのうち、120度の等間隔で配置された3つの孔にはキャリヤピン38が挿通され、残りの9つの孔には内ピン40が挿通される。そのため、前者をキャリヤピン孔39と呼び、後者を内ピン孔41と表記する。これらの孔は同径であってもよいが、この例では、キャリヤピン孔39の直径は内ピン孔41の直径より大きい。
【0023】
外歯歯車14は、樹脂により構成される。外歯歯車14には、種々の樹脂を用いることができる。特に、外歯歯車14は、温度上昇の大きい入力軸12の近傍に配置されているため、外歯歯車14は、内歯歯車本体16aよりも耐熱温度が高い樹脂により構成されてもよい。この観点から、外歯歯車14は、PEEKにより構成されている。外歯歯車14は、POMなどPEEKとは異なる樹脂により構成されてもよい。
【0024】
キャリヤピン孔39および内ピン孔41は、同じ半径方向位置に設けられた円形の孔である。外歯歯車14の外周には波形の歯が形成されており、この歯が内歯歯車16と接触しつつ移動することで、中心軸を法線とする面内で外歯歯車14が揺動できるようになっている。外歯歯車14には、内ピン40が貫通する内ピン孔41が形成される。内ピン40と内ピン孔41の間には外歯歯車14の揺動成分を吸収するための遊びとなる隙間が設けられる。内ピン40と内ピン孔41の内壁面とは一部で接触する。
【0025】
(キャリヤ)
キャリヤ18、20は、外歯歯車14の軸方向側部に配置される。キャリヤ18、20には、外歯歯車14の反入力側の側部に配置される第1キャリヤ18と、外歯歯車14の入力側の側部に配置される第2キャリヤ20と、が含まれる。第1キャリヤ18および第2キャリヤ20は、第1主軸受24、第2主軸受26を介してケーシング22に回転自在に支持されている。キャリヤ18、20は全体として円盤状をなしている。第1キャリヤ18は、入力軸軸受34を介して入力軸12を回転自在に支持する。第2キャリヤ20は、入力軸軸受を介して入力軸を支持するように構成してもよいが、この例では、入力軸軸受34および入力軸12を支持していない。
【0026】
第1キャリヤ18と第2キャリヤ20は、キャリヤピン38および内ピン40を介して連結される。キャリヤピン38および内ピン40は、外歯歯車14の軸芯から径方向にオフセットした位置において、複数の外歯歯車14を軸方向に貫通する。この例では、キャリヤピン38および内ピン40は、キャリヤ18、20と別体に設けられているが、これらの一部のピンがキャリヤ18、20の一部として一体に形成されてもよい。キャリヤピン38および内ピン40については後述する。
【0027】
第1キャリヤ18とケーシング22の一方は、被駆動装置に回転動力を出力する出力部材として機能し、他方は偏心揺動型減速装置10を支持するための外部部材に固定される被固定部材として機能する。出力部材は、被固定部材に主軸受24、26を介して回転自在に支持される。本実施形態において、出力部材は第1キャリヤ18であり、被固定部材はケーシング22である。第1キャリヤ18の反入力側の端面には、偏心揺動型減速装置10によって回転駆動される被駆動部材50が、ボルト50bによって連結される。本実施形態のボルト50bは、鉄系金属により構成されている。
【0028】
(ケーシング)
ケーシング22は、全体として中空の筒状をなし、その内周部には内歯歯車16が設けられる。ケーシング22の外周部には、フランジなどが設けられてもよいが、この例ではフランジは設けられていない。ケーシング22には、ケーシング22の反入力側をカバーする第1カバー21と、ケーシング22の入力側をカバーする第2カバー23と、が設けられる。第1カバー21および第2カバー23は、周方向に配列された複数のボルトによってケーシング22に固定される。
【0029】
ケーシング22には、第1主軸受24の外輪の入力側を収容する凹部が設けられる。第1カバー21には、第1主軸受24の外輪の反入力側の一部を収容する凹部が設けられる。第1主軸受24の外輪は、ケーシング22と第1カバー21とに軸方向に挟まれて支持される。ケーシング22には、第2主軸受26の外輪の反入力側を収容する凹部が設けられる。第2カバー23には、第2主軸受26の外輪の入力側の一部を収容する凹部が設けられる。第2主軸受26の外輪は、ケーシング22と第2カバー23とに軸方向に挟まれて支持される。第2カバー23には、入力側の入力軸軸受34の外輪を収容する凹部が設けられる。つまり、第2カバー23は、入力軸軸受34を介して入力軸12の入力側を回転自在に支持している。
【0030】
(主軸受)
主軸受24、26には、第1キャリヤ18とケーシング22の間に配置される第1主軸受24と、第2キャリヤ20とケーシング22の間に配置される第2主軸受26と、が含まれる。本実施形態の主軸受24、26は、複数の転動体42と、リテーナ(不図示)を備える。複数の転動体42は、周方向に間を置いて設けられる。本実施形態の転動体42は球体である。リテーナは、複数の転動体42の相対位置を保持するとともに複数の転動体42を回転自在に支持する。
【0031】
本実施形態の主軸受24、26は、転動体42の転動面を有する外輪48と内輪49とを備える。内輪転動面は、内輪の代わりに、キャリヤ18、20の外周面に設けられてもよい。外輪48は、隙間嵌め、締まり嵌めあるいは中間嵌め等の嵌め合いにより、ケーシング22に固定される。嵌め合い隙間は熱膨張率の差に対応して設定されてもよい。主軸受24、26には、予圧が付与されてもよいが、この例では、予圧は付与されていない。
【0032】
本実施形態では、主軸受24、26の外輪48は、内歯歯車本体16aの樹脂よりも熱伝導率の高い素材により構成され、主軸受24、26の外輪48と外ピン17とが軸方向に当接している。図1に示すように、外輪48の端部48bと外ピン17の端部17bとは、直接当接するように構成されてもよい。また、端部48bと端部17bとは、内歯歯車本体16aの樹脂よりも熱伝導率の高い素材のスペーサを介して軸方向に当接するように構成されてもよい。このように構成されることにより、外ピン17に伝わった熱が外輪48を介してキャリヤなどに放熱され、放熱性が改善される。
【0033】
本実施形態では、主軸受24、26の内輪47および転動体42は、内歯歯車本体16aの樹脂よりも熱伝導率の高い素材により構成され、第1キャリヤ18も内歯歯車本体16aの樹脂よりも熱伝導率の高い素材により構成されている。このように構成されることにより、外輪48に伝わった熱が転動体42および内輪47を介して第1キャリヤ18に放熱され、第1キャリヤ18に伝わった熱が被駆動部材50を介して外部に放熱され、放熱性が改善される。
【0034】
外輪48、内輪47および転動体42を構成する素材は、内歯歯車本体16aの樹脂よりも熱伝導率の高い素材であればよく、金属材料、高熱伝導性の樹脂、非金属材料であってもよい。本実施形態の外輪48、内輪47および転動体42は軸受鋼などの鉄系金属で構成されている。
【0035】
第1キャリヤ18を構成する素材は、内歯歯車本体16aの樹脂よりも熱伝導率の高い素材であればよく、金属材料、高熱伝導性の樹脂、非金属材料であってもよい。軽量化と機械的強度とを両立する観点から、第1キャリヤ18は、アルミニウム、マグネシウム、ベリリウム、チタンなどの軽金属(比重が4ないし5以下の金属)や、これらの複合材料により構成されてもよい。本実施形態の第1キャリヤ18は、アルミニウム系金属により構成されている。この場合、第1キャリヤ18を、入力軸12より比重の小さな金属材料で構成することができる。
【0036】
第2キャリヤ20は、金属や種々の樹脂で構成することができる。本実施形態の第2キャリヤ20は、POMにより構成されている。この場合、第2キャリヤ20を軽量化することができる。第2キャリヤ20は、入力軸軸受34からの熱伝導を減らす観点から、入力軸軸受34とは直接接触せず、空間を介して配置されている。なお、第2キャリヤ20も、内歯歯車本体16aの樹脂よりも熱伝導率の高い素材により構成されてもよい。この場合、一層放熱性が改善される。
【0037】
(内ピン)
図1に示すように、内ピン40は、外歯歯車14に貫通形成された内ピン孔41に隙間を有した状態で挿通される。内ピン40は、その一端が第1キャリヤ18の凹部18bに嵌入され、他端が第2キャリヤ20の凹部20bに嵌入されている。内ピン40は、凹部18b、20bに圧入され、ボルト等による固定はなされていない。内ピン40は、外歯歯車14に形成された内ピン孔41の一部と当接しており、外歯歯車14の自転を拘束しその揺動のみを許容している。内ピン40は、第1キャリヤ18および第2キャリヤ20と外歯歯車14との間の動力の伝達に寄与する連結部材として機能する。
【0038】
(キャリヤピン)
キャリヤピン38は、外歯歯車14に貫通形成されたキャリヤピン孔39に隙間を有した状態で挿通される。キャリヤピン38は、その一端が第1キャリヤ18の凹部18cに嵌入され、他端が第2キャリヤ20の凹部20cに嵌入されている。キャリヤピン38は、凹部18c、20cに圧入され、ボルト等による固定はなされていない。キャリヤピン38は、管状のスペーサ37に環囲されている。スペーサ37は、一端が第1キャリヤ18に当接し、他端が第2キャリヤ20に当接する。スペーサ37は、第1キャリヤ18と第2キャリヤ20の間の軸方向の間隔を適正な距離に保つスペーサとして機能を有する。キャリヤピン38およびスペーサ37は、外歯歯車14のキャリヤピン孔39とは接しておらず、外歯歯車14の自転の拘束には寄与していない。キャリヤピン38は、第1キャリヤ18と第2キャリヤ20の間の連結のみに寄与している連結部材として機能する。
【0039】
次に、本実施形態の各構成部材を構成する材料について説明する。近年、減速装置は、人の近くで稼働する協働ロボットなどにその用途が拡大している。用途を拡大するために、減速装置の軽量化と低騒音化が望まれている。従来の減速装置は鉄系金属からなる構成部材で構成されており、軽量化のためには、構成部材を低比重の素材により形成することが考えられる。このような材料としては、樹脂などが好適である。一方、構成部材を樹脂化すると、放熱性の低下により温度上昇し、寿命が短くなることが考えられる。このため、各構成部材を構成する素材は、軽量化と放熱性とを考慮して選択されることが望ましい。
【0040】
入力軸12と、第1キャリヤ18と入力軸12の間に配置される入力軸軸受34には減速前の高速回転が入力される。このため、これらの温度上昇は比較的大きく、これらの耐熱性が低いと、許容入力回転数が低くなる。このため、入力軸軸受34と入力軸12と偏心軸受30とは鉄系金属などの金属により構成されてもよい。この場合、許容入力回転数の低下を抑制することができる。なお、入力軸12には大きなねじれ応力が加わるため、第1キャリヤ18より剛性の高い材料により構成されることが望ましい。入力軸12は、アルミニウムよりねじり強度の高い鉄系金属により構成されている。
【0041】
なお、本実施形態の各構成部材に用いる鉄系金属としては、所望の特性に応じて炭素鋼、軸受鋼、ステンレス鋼などを用いることができる。
【0042】
第1キャリヤ18と第2キャリヤ20との連結強度を確保するため、キャリヤピン38の剛性は高いことが望ましい。この観点から、キャリヤピン38は金属により構成され、スペーサ37は、軽量化のため、樹脂により構成されてもよい。この例では、キャリヤピン38は、鉄系金属により構成され、スペーサ37は、POMにより構成されている。
【0043】
本実施形態のケーシング22は、内歯歯車本体16aに一体化されており、内歯歯車本体16aと同じ材料で構成されてもよい。
【0044】
軽量化の観点から、第1カバー21および第2カバー23は樹脂により構成されてもよい。これらは、同じ樹脂により構成されてもよいし、異なる樹脂により構成されてもよい。本実施形態の第1カバー21および第2カバー23はPOMにより構成されている。
【0045】
以上のように構成された偏心揺動型減速装置10の動作を説明する。駆動装置から入力軸12に回転動力が伝達されると、入力軸12の偏心部12aが入力軸12を通る回転中心線周りに回転し、その偏心部12aにより外歯歯車14が揺動する。このとき、外歯歯車14は、自らの軸芯が入力軸12の回転中心線周りを回転するように揺動する。外歯歯車14が揺動すると、外歯歯車14と内歯歯車16の外ピン17の噛合位置が順次ずれる。この結果、入力軸12が一回転する毎に、外歯歯車14の歯数と内歯歯車16の外ピン17の数との差に相当する分、外歯歯車14および内歯歯車16の一方の自転が発生する。本実施形態においては、外歯歯車14が自転し、第1キャリヤ18から減速回転が出力される。
【0046】
本実施形態の偏心揺動型減速装置10では、内歯歯車本体16aや外歯歯車14を樹脂とすることにより軽量化が図られる。また、内歯歯車16は、樹脂により構成された内歯歯車本体16aと、内歯歯車本体16aに設けられたピン溝に回転自在に配置され、内歯歯車本体16aの樹脂よりも熱伝導率の高い素材により構成された外ピン17と、を有する。この場合、外ピン17が相対的に熱伝導率の低い素材で構成される場合と比べて、外歯歯車14と内歯歯車16との間の熱伝導性を改善し、内部で発生した熱を外ピン17を介して効率的に放熱することができる。特に、樹脂で構成された外歯歯車14の熱を効率的に放熱することができるので、高温で強度低下して外歯歯車14が破損する可能性を小さくすることができる。また、内部温度の過度な上昇を抑えることができるから、他の樹脂部材についても温度上昇による変形や破損の可能性を低くすることができる。
【0047】
また、本実施形態の偏心揺動型減速装置10では、主軸受24の外輪48が内歯歯車本体16aの樹脂よりも熱伝導率の高い素材により構成され、主軸受24の外輪48と外ピン17が軸方向に当接するか、もしくは内歯歯車本体16aの樹脂よりも熱伝導率の高い素材のスペーサを介して当接する。この場合、外ピン17が外輪48と当接しない場合と比べて、外ピン17と外輪48との間の熱抵抗を小さくし、内部の熱を外ピン17と外輪48とを介して一層効率的に放熱することができる。この結果、内部温度の上昇を一層抑制することができる。相対的に熱伝導率の高い素材のスペーサを介する場合も同様の効果を奏する。
【0048】
また、本実施形態の偏心揺動型減速装置10では、主軸受24の転動体42および内輪47が内歯歯車本体16aの樹脂よりも熱伝導率の高い素材により構成され、キャリヤ18も内歯歯車本体16aの樹脂よりも熱伝導率の高い素材により構成される。この場合、転動体42、内輪47およびキャリヤ18が相対的に熱伝導率の低い素材で構成される場合と比べて、内部の熱を転動体42、内輪47およびキャリヤ18を介して一層効率的に放熱することができる。特に、キャリヤ18が被駆動部材50と接する場合、キャリヤ18からの放熱性が一層向上する。この結果、内部温度の上昇を一層抑制することができる。
【0049】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る偏心揺動型減速装置10の構成について説明する。第2実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。図3は、第2実施形態の偏心揺動型減速装置10を示す側面断面図であり、図1に対応する。
【0050】
第1実施形態の説明では、センタークランクタイプの偏心揺動型減速装置を例に示したが、本実施形態の偏心揺動型減速装置は、いわゆる振り分けタイプの偏心揺動型減速装置である。本実施形態の偏心揺動型減速装置10は、第1実施形態と比べ、主に、複数の入力歯車70を備え、入力軸12の構成が異なる点で相違する。
【0051】
複数の入力歯車70は、内歯歯車16の中心軸線La周りに配置される。本図では一つの入力歯車70のみを示す。入力歯車70は、その中央部に挿通される入力軸12により支持され、入力軸12と一体的に回転可能に設けられる。入力歯車70は、内歯歯車16の中心軸線La上に設けられる回転軸(不図示)の外歯部と噛み合う。回転軸には、不図示の駆動装置から回転動力が伝達され、その回転軸の回転により入力歯車70が入力軸12と一体的に回転する。
【0052】
本実施形態の入力軸12は、内歯歯車16の中心軸線Laからオフセットした位置に周方向に間を置いて複数(例えば、3本)配置される。本図では一つの入力軸12のみを示す。
【0053】
以上の本実施形態の偏心揺動型減速装置10の動作を説明する。駆動装置から回転軸に回転動力が伝達されると、回転軸から複数の入力歯車70に回転動力が振り分けられ、各入力歯車70が同じ位相で回転する。各入力歯車70が回転すると、入力軸12の偏心部12aが入力軸12を通る回転中心線周りに回転し、その偏心部12aにより外歯歯車14が揺動する。外歯歯車14が揺動すると、第1実施形態と同様に、外歯歯車14と内歯歯車16の外ピン17の噛合位置が順次ずれ、外歯歯車14および内歯歯車16の一方の自転が発生する。入力軸12の回転は、外歯歯車14の歯数と内歯歯車16の外ピン17の数との差に応じた減速比で減速されて、出力部材から被駆動装置に出力される。本実施形態の出力部材も第1キャリヤ18である。
【0054】
本実施形態では、外ピン17、主軸受24、26の外輪48、転動体42および内輪27、第1キャリヤ18は、内歯歯車本体16aの樹脂よりも熱伝導率の高い素材により構成されている。特に、内歯歯車本体16a、外歯歯車14、第2キャリヤ20、ケーシング22、第1カバー21、第2カバー23およびスペーサ37は、樹脂により構成されている。また、外ピン17、主軸受24、26、偏心軸受30、入力軸軸受34、キャリヤピン38、入力軸12およびボルト50bは、鉄系金属により構成されている。また、第1キャリヤ18はアルミニウムなどの軽金属により構成されている。本実施形態のこれらの構成部材の一部または全部は、別の材料により構成されてもよい。特に、第2キャリヤ20は、アルミニウムなどの軽金属やPEEKなどで構成されてもよい。
以上の構成を有する第2実施形態においても、第1実施形態と同様の作用・効果を奏することができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0056】
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0057】
[変形例]
実施形態の説明では、第2キャリヤ20、ケーシング22、第1カバー21、第2カバー23およびスペーサ37は、樹脂により構成される例を示したが、これらの一部または全部は、樹脂とは別の材料により構成されてもよい。
【0058】
実施形態の説明では、外ピン17、主軸受24、26、偏心軸受30、入力軸軸受34、キャリヤピン38、内ピン40、入力軸12およびボルト50bは、鉄系金属により構成される例を示したが、これらの一部または全部は、鉄系金属とは別の材料により構成されてもよい。
【0059】
実施形態の説明では、第1キャリヤ18はアルミニウムなどの軽金属により構成される例を示したが、第1キャリヤ18は軽金属とは別の材料により構成されてもよい。
【0060】
実施形態の説明では、外歯歯車14を2枚備える例をしましたが、本発明はこれに限定されない。3枚以上の外歯歯車14を備えてもよい。例えば、入力軸には、それぞれ120°ずつ位相がずれた3つの偏心部12aを設け、この3つの偏心部12aに揺動される3枚の外歯歯車14を備えてもよい。また、外歯歯車14は1枚であってもよい。
【0061】
実施形態の説明では、第2主軸受26および第1主軸受24が内輪を有する例を示したが、本発明はこれに限定されない。第2主軸受26と第1主軸受24との少なくとも一方は、内輪を有しない軸受であってもよい。
【0062】
実施形態の説明では、各軸受が球状の転動体を備えるボールベアリングである例を示したが、本発明はこれに限定されない。これらの軸受の一部または全部は、円筒状の転動体を備えるころ軸受であってもよい。
【0063】
実施形態の説明では、出力部材はキャリヤ18であり、被固定部材はケーシング22である例を示したが、本発明はこれに限定されない。被固定部材はキャリヤ18であり、出力部材はケーシング22であってもよい。
【0064】
実施形態の説明では、第1キャリヤ18および第2キャリヤ20が設けられる例を示したが、本発明はこれに限定されない。外歯歯車の軸方向の一側に第1キャリヤのみが設けられてもよい。
【0065】
上述の各変形例は上述の実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0066】
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0067】
10・・偏心揺動型減速装置、 12・・入力軸、 14・・外歯歯車、 16・・内歯歯車、16a・・内歯歯車本体、17・・外ピン、 18・・第1キャリヤ、 20・・第2キャリヤ、 21・・第1カバー、 22・・ケーシング、 23・・第2カバー、 24・・第1主軸受、 26・・第2主軸受、 30・・偏心軸受、 34・・入力軸軸受、 37・・スペーサ、 38・・キャリヤピン、 40・・内ピン、 50・・被駆動部材、 70・・入力歯車。
図1
図2
図3