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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】サーチュインタンパク質活性化組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20220614BHJP
   A61K 36/8998 20060101ALI20220614BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20220614BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/8998
A61K31/05
A61P43/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018154199
(22)【出願日】2018-08-20
(65)【公開番号】P2020028227
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】豊原 清綱
(72)【発明者】
【氏名】今井 伸二郎
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-500022(JP,A)
【文献】特開2019-172579(JP,A)
【文献】特開2013-249260(JP,A)
【文献】Sci.Rep.,2017年,vol.7, article number:43679,pp.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00-33/29
A61K 31/00-31/80
A61K 36/00-36/9068
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦の穀粒又はその粉砕物もしくは抽出物を含み、前記穀粒又はその粉砕物もしくは抽出物が5-ペンタコシルレゾルシノールを含む、サーチュインタンパク質活性化組成物。
【請求項2】
以下の測定条件において、クロマトグラムにおけるピークトップのカラム保持時間が22.1~22.5分の間にあるフラクションであり、かつ、前記ピークトップのカラム保持時間に対して±0.4分の範囲のフラクションに含まれるアルキルレゾルシノールを含む、請求項1に記載のサーチュインタンパク質活性化組成物。
〈測定条件〉
測定方法:逆相高速液体クロマトグラフィー
カラム:GL science社製Inertsil ODS4(充填剤の粒子径5μm、内径4.6mm×高さ250mm)
移動相(A液):水
移動相(B液):メタノール
溶出グラジエント:0→5分(A液:11→8質量%、B液:89→92質量%)、5→30分(A液:8→0質量%、B液:92→100質量%)
流速:1.0mL/分
検出方法:UV(275nm)
注入量:10μL
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物を含む、サーチュインタンパク質活性化用飲食品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の組成物を含む、サーチュインタンパク質活性化用医薬品。
【請求項5】
請求項1は2に記載の組成物を含む、老化抑制剤。
【請求項6】
デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦からアルキルレゾルシノールを抽出する工程を含む、アルキルレゾルシノールを製造する方法。
【請求項7】
アルキルレゾルシノールのアルキル鎖長が、C19、C21、C23又はC25である、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
アルキルレゾルシノールのアルキル鎖長がC25である、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーチュインタンパク質活性化組成物及びそれを用いた飲食品又は医薬品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摂取カロリー制限により活性化されるサーチュイン遺伝子が寿命を延ばす働きを有することが解明されてきており、長寿遺伝子として注目されている。サーチュイン遺伝子を活性化させる方法についても研究が進められており、例えば、赤ワインに含まれる成分であるレスベラトロールを摂取することにより、サーチュイン遺伝子を活性化し、高カロリー食を摂取したマウスの寿命を延長させることができることが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
近年、化粧品やサプリメント等の分野において、美容又は健康促進を謳う商品が増えてきており、例えば「肌に対する作用」(ハリ・ツヤ・美肌等)や「ひざ等の関節に対する作用」(関節痛改善等)を訴求した商品が多く市販されている。このような分野において、サーチュイン遺伝子の活性化は新たな訴求ポイントとして期待されており、サーチュイン遺伝子を活性化する物質として知られるレスベラトロールを含むサプリメント等は売り上げを伸ばしてきている。そのため、サーチュイン遺伝子を活性化する素材開発に対する期待は高まってきている。
【0004】
サーチュインの寿命延長効果は、サーチュイン発現の増加又はサーチュインタンパク質の活性化によってもたらされる、種々の作用によるものと考えられている。そのような作用としては、加齢による生理学的な機能低下を抑制する作用(非特許文献2)、自己免疫による障害を回復する作用(非特許文献3)、テロメア遺伝子の不具合に起因する細胞増殖の不具合を回復する作用、神経変性に起因する障害(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症)を回復する作用、脳における神経栄養因子遺伝子の機能低下を回復し、学習、記憶能力を改善する作用(非特許文献4)等が考えられる。
【0005】
アルキルレゾシノールは、小麦やライ麦等の多くの植物や菌類に含まれている化合物である。アルキルレゾシノールは、腸内炭水化物加水分解酵素の阻害剤(特許文献1)として知られ、またライ麦の栄養阻害効果への関与が示唆されている(非特許文献5)。さらに最近、アルキルレゾシノールがサーチュインタンパク質を直接活性化することや老化抑制に貢献することが明らかとなった(特許文献2、非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-170645号公報
【文献】特開2013-249260号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Baur et al, Nature, 444:337-342 (2006)
【文献】Colak Y et al, Med Sci Monit. May;17(5): HY5-9 (2011)
【文献】Kong S et al, Immunol Cell Biol. Jan;90(1):6-13 (2012)
【文献】Carafa V et al, Front Pharmacol. 3:4. Epub (2012)
【文献】Ross et al, Nutrition Review, 62:81-95 (2004)
【文献】Imai et al, Scientific Reports, 7:43679 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、アルキルレゾルシノールは鎖長や構造が異なる化合物が存在し、それらの構造と活性化機能との相関は未だ十分に明らかになっていない。また、小麦やライ麦にアルキルレゾルシノールが多く含まれることは報告されてきているが、大麦においては未だ十分に知られていない。
【0009】
そこで、本発明は、特定の大麦品種由来の穀粒又はその粉砕物もしくは抽出物を含む、サーチュインタンパク質活性能を有する新規の組成物、特定のアルキル鎖長のアルキルレゾルシノールを含むサーチュインタンパク質活性化組成物、及び特定の大麦品種を用いたアルキルレゾルシノールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、デンプン合成酵素IIを抑制した大麦が、アルキルレゾルシノールを豊富に含み、優れたサーチュインタンパク質活性能やヒストン脱アセチル化能を有することを見出した。また、特定のアルキル鎖長を有するアルキルレゾルシノールが、優れたサーチュインタンパク質活性能やヒストン脱アセチル化能を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下の発明を包含する。
【0011】
[1]デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦の穀粒又はその粉砕物もしくは抽出物を含み、前記穀粒又はその粉砕物もしくは抽出物がアルキルレゾルシノールを含む、サーチュインタンパク質活性化組成物。
[2]5-ペンタコシルレゾルシノールを含む、サーチュインタンパク質活性化組成物。
[3]以下の測定条件において、クロマトグラムにおけるピークトップのカラム保持時間が22.1~22.5分の間にあるフラクションであり、かつ、前記ピークトップのカラム保持時間に対して±0.4分の範囲のフラクションに含まれるアルキルレゾルシノールを含む、サーチュインタンパク質活性化組成物。
〈測定条件〉
測定方法:逆相高速液体クロマトグラフィー
カラム:GL science社製Inertsil ODS4(充填剤の粒子径5μm、内径4.6mm×高さ250mm)
移動相(A液):水
移動相(B液):メタノール
溶出グラジエント:0→5分(A液:11→8質量%、B液:89→92質量%)、5→30分(A液:8→0質量%、B液:92→100質量%)
流速:1.0mL/分
検出方法:UV(275nm)
注入量:10μL
【0012】
[4][1]~[3]のいずれかに記載の組成物を含む、飲食品。
[5][1]~[3]のいずれかに記載の組成物を含む、医薬品。
[6][2]又は[3]に記載の組成物を含む、老化抑制剤。
[7]デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦からアルキルレゾルシノールを抽出する工程を含む、アルキルレゾルシノールを製造する方法。
[8]アルキルレゾルシノールのアルキル鎖長が、C19、C21、C23又はC25である、[7]に記載の製造方法。
[9]アルキルレゾルシノールのアルキル鎖長がC25である、[8]に記載の製造方法。
[10]デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦の穀粒又はその粉砕物もしくは抽出物を含み、前記穀粒又はその粉砕物もしくは抽出物がアルキルレゾルシノールを含む、ヒストン脱アセチル化促進組成物。
[11]5-ペンタコシルレゾルシノールを含む、ヒストン脱アセチル化促進組成物。
【0013】
[12]以下の測定条件において、クロマトグラムにおけるピークトップのカラム保持時間が22.1~22.5分の間にあるフラクションであり、かつ、前記ピークトップのカラム保持時間に対して±0.4分の範囲のフラクションに含まれるアルキルレゾルシノールを含む、ヒストン脱アセチル化促進組成物。
〈測定条件〉
測定方法:逆相高速液体クロマトグラフィー
カラム:GL science社製Inertsil ODS4(充填剤の粒子径5μm、内径4.6mm×高さ250mm)
移動相(A液):水
移動相(B液):メタノール
溶出グラジエント:0→5分(A液:11→8質量%、B液:89→92質量%)、5→30分(A液:8→0質量%、B液:92→100質量%)
流速:1.0mL/分
検出方法:UV(275nm)
注入量:10μL
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、サーチュインタンパク質活性能やヒストン脱アセチル化能を有する大麦に関する組成物や、斯かる組成物を用いた飲食品や医薬品が得られる。また、サーチュインタンパク質活性能を有することが知られているアルキルレゾルシノールのうち、本発明の特定のアルキル鎖長のアルキルレゾルシノールを含む組成物によって、優れたサーチュインタンパク質活性能やヒストン脱アセチル化能が提供される。また、本発明の特定の大麦を用いた製造方法によって、化学合成に依らずしてアルキルレゾルシノールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】SSII抑制大麦が含有する各鎖長のアルキルレゾルシノールのピークを示すクロマトグラムである。
図2】SSII抑制大麦及びシュンライの各鎖長のアルキルレゾルシノール含有量を示すグラフである。
図3】SSII抑制大麦及びコントロールのヒストン脱アセチル化量を示すグラフである。
図4】各鎖長のアルキルレゾルシノールのヒストン脱アセチル化量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のサーチュインタンパク質活性化組成物(以下「本発明の組成物」とも称す)は、デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦の穀粒又はその粉砕物もしくは抽出物を含み、前記穀粒又はその粉砕物もしくは抽出物がアルキルレゾルシノールを含むことを特徴とする。
【0017】
本発明において「サーチュインタンパク質」とは、サーチュイン(Sirtuin)ファミリーを構成するSIRT1からSIRT7までの7種類のタンパク質のいずれかを意味し、特に限定されないが、ヒストン脱アセチル化活性の点からは、特にSIRT1が好ましい。
【0018】
本発明における「デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦」は、特表2004-512427号公報及び特表2013-500022号公報に開示されている大麦である(本明細書では「SSII抑制大麦」とも称す)。具体的には、SSII抑制大麦は、デンプン合成酵素II遺伝子の発現を下方制御する、内在性デンプン合成酵素II遺伝子中の変異又は外来性核酸分子を導入することにより、野生型SSII遺伝子と比較してSSII遺伝子の発現を低下させる変異を導入する手法や、大麦において野生型デンプン合成酵素IIポリペプチドに比較して、合成活性が低いデンプン合成酵素IIポリペプチドの発現を生じさせる変異を導入する手法を用いて得ることができる。市販品としては、品種改良大麦バーリーマックス(登録商標)として入手できる。デンプン合成酵素IIは、そのアイソフォームとして、デンプン合成酵素IIa、デンプン合成酵素IIb及びデンプン合成酵素IIcが知られているが、大麦穀粒の表現型等の点からは、デンプン合成酵素IIaが抑制されることが好ましい。
【0019】
本発明において、上記大麦のデンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が「抑制された」とは、デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は酵素活性が、未改変(野生型)の大麦穀粒でのタンパク質の発現量及び/又は酵素活性と比較すると、少なくとも40%、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも90%又は少なくとも95%に低下している状態を意味する。
【0020】
本発明において「大麦の穀粒」とは、栽培・収穫後の外皮の付いた裸麦、又は精麦後の外皮を除去した状態の大麦の粒を意味する。本発明では、加工性の点から、精麦後の外皮を取り除いた状態の大麦の粒が好ましい。
【0021】
本発明において、大麦の「穀粒の粉砕物」とは、上記大麦の穀粒が砕かれた固形物を指し、好ましくは、精麦後の外皮を取り除き、ふすまの付いた状態の大麦穀粒を粉砕した全粒粉である。粉砕は、乳鉢、包丁、カッターナイフ、ハサミ等を用いて手作業で行ってもよいが、大量の植物体を短時間で処理しようとする場合には装置を使用する。そのような装置としては、例えば、ミル、ハンマー式粉砕機、ミキサー、ブレンダーが挙げられる。
【0022】
本発明において、大麦の「穀粒の抽出物」とは、大麦の穀粒からアルキルレゾルシノール成分を含むよう抽出濃縮した物質を意味し、搾油や溶剤抽出等の方法によって得ることができる。たとえば化学的分離操作法の一つで、液体又は固体の原料を溶剤と接触させ、原料中に含まれている溶剤に可溶な成分を、溶剤に不溶又は難溶性の成分から選択的に分離された物質を指す。好ましくは、ふすまの付いた状態の大麦穀粒を粉砕して得た全粒粉から抽出された抽出物である。本発明における抽出操作は、上記一般的な抽出操作であり、原料が植物の固体であり、溶剤として脂溶性溶媒を用いるものである。
【0023】
本発明では、上記の粉砕や抽出により得られた粉砕物や抽出物を、必要に応じてさらに、圧搾、濃縮、固液分離、加熱滅菌、ろ過滅菌等の公知の技術を単独又は2つ以上組み合わせて処理することもできる。
【0024】
上記SSII抑制大麦は、公知の方法により精麦して外皮を除去した状態の大麦穀粒1gに対して、鎖長の異なるアルキルレゾルシノールを、それらの総含有量として、通常120μg/g以上含有する。上限は限定されないが通常500μg/g、場合によっては450μg/g程度含有する。また、アルキル鎖長がC17、C19、C21、C23及びC25のアルキルレゾルシノールを合わせた含有量としては、通常120~350μg/gであり、好ましくは150~320μg/gであり、より好ましくは200~300μg/gを含む。
【0025】
本発明におけるSSII抑制大麦は、上記の通りアルキルレゾルシノールを豊富に含むことから、化学合成に依らないアルキルレゾルシノールの製造方法においても有利である。従って、本発明は、デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦からアルキルレゾルシノールを抽出する工程を含む、アルキルレゾルシノールを製造する方法を提供する。特に、アルキル鎖長がC19、C21、C23又はC25であるアルキルレゾルシノールを製造するのに適している。さらに、C25のアルキルレゾルシノールが特に適している。
【0026】
本発明において「アルキルレゾルシノール」とは、以下の式I:
【化1】
【0027】
において、式(I)中、Rが、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖アルキル基を表す化合物である。Rで表されるアルキル基の炭素数は、制限されるものではないが、好ましくは1~27、より好ましくは3~27、さらに好ましくは5~27、特に好ましくは5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25及び27である。好ましくは、Rは、飽和又は不飽和の直鎖アルキル基であり、より好ましくは飽和直鎖アルキル基である。Rで表される飽和直鎖アルキル基の例としては、メチル、n-プロピル、n-ペンチル、n-ヘプチル、n-ノニル、n-ウンデシル、n-トリデシル、n-ペンタデシル、n-ヘプタデシル、n-ノナデシル、n-ヘンイコシル、n-トリコシル、n-ペンタコシル、n-ヘプタコシル等が挙げられる。
【0028】
Rで表される不飽和直鎖アルキル基の不飽和結合の位置や数は、特に制限されるものではない。当該不飽和直鎖アルキル基の例としては、上述した飽和直鎖アルキル基の炭素鎖上の任意の位置に不飽和結合を有するアルキル基が挙げられる。また、Rで表される飽和又は不飽和の分岐鎖アルキル基の分岐の位置や数、及び不飽和結合の位置や数も、特に制限されるものではない。
【0029】
上記式(I)のアルキルレゾルシノールの好ましい例としては、以下が挙げられる(Cの後の数字はアルキル基中の炭素鎖の数で、コロンの後の数字は不飽和結合数を表す。本明細書において、各化合物は「CX(Xは整数)のアルキルレゾルシノール」とも称す)。
5-ペンチルレゾルシノール[オリベトール又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンチルベンゼン(C5:0)]
5-ヘプチルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプチルベンゼン(C7:0)]
5-ノニルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ノニルベンゼン(C9:0)]
5-ウンデシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ウンデシルベンゼン(C11:0)]
5-トリデシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-トリデシルベンゼン(C13:0)]
5-ペンタデシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタデシルベンゼン(C15:0)]
5-ヘプタデシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプタデシルベンゼン(C17:0)]
5-ノナデシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ノナデシルベンゼン(C19:0)]
5-ヘンイコシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘンイコシルベンゼン(C21:0)]
5-トリコシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-トリコシルベンゼン(C23:0)]
5-ペンタコシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタコシルベンゼン(C25:0)]
5-ヘプタコシルレゾルシノール[又は1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプタコシルベンゼン(C27:0)]
【0030】
本発明では、上記式(I)のアルキルレゾルシノールのうち、5-ペンタコシルレゾルシノール(C25)を含むサーチュインタンパク質活性組成物もまた提供される。5-ペンタコシルレゾルシノールは、以下の実施例において示されるように、非常に強いヒストン脱アセチル化活性を有する。なお、各鎖長のアルキルレゾルシノールによって引き起こされるヒストン脱アセチル化活性は、特開2013-249260号公報及びImai et al, Scientific Reports, 7:43679 (2017)によって証明されているように、サーチュインタンパク質SIRT1が活性化されることによって生じていることが知られている。
【0031】
さらに本発明では、以下の測定条件において、クロマトグラムにおけるピークトップのカラム保持時間が22.1~22.5分の間にあるフラクションであり、かつ、前記ピークトップのカラム保持時間に対して、±0.4分の範囲のフラクションに含まれるアルキルレゾルシノールを含む、サーチュインタンパク質活性化組成物もまた提供される:
〈測定条件〉
測定方法:逆相高速液体クロマトグラフィー
カラム:GL science社製Inertsil ODS4(充填剤の粒子径5μm、内径4.6mm×高さ250mm)
移動相(A液):水
移動相(B液):メタノール
溶出グラジエント:0→5分(A液:11→8質量%、B液:89→92質量%)、5→30分(A液:8→0質量%、B液:92→100質量%)
流速:1.0mL/分
検出方法:UV(275nm)
注入量:10μL
注入試料:以下の工程を経て得られる抽出液
(1)外皮を除去した大麦穀粒を粉砕機にかけて得られた粉体20gに対して、400mlのエタノールを加え室温で24時間撹拌する工程、
(2)得られた分散液をろ紙でろ過して抽出液を得る工程、
(3)抽出液を減圧濃縮して、残った残渣にヘキサン50mlを加え、ろ過してろ液を得る工程、
(4)得られたろ液を再度減圧濃縮し、残渣をメタノール20mlに溶解して抽出液を得る工程。
【0032】
上記式(I)のアルキルレゾルシノールは、植物から常法により抽出することができる。また、上記式(I)のアルキルレゾルシノールは、国際公開WO2007/77770号パンフレット等を参考にして、化学合成法により製造することもできる。
【0033】
大麦からの式(I)のアルキルレゾルシノールの抽出方法としては、大麦又はその発酵物を常圧又は加圧下で室温又は加温した抽出溶媒中に必要に応じて攪拌しながら浸漬させる方法、還流抽出法等が挙げられる。上記植物は、抽出溶媒に添加される前に、必要に応じて切断、粉砕、圧搾、乾燥、又はそれらの組み合わせにかけられてもよい。
【0034】
上記抽出溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール及びn-ブタノール等の低級アルコール、及び1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の室温で液体であるアルコール類;ジエチルエーテル及びプロピルエーテル等のエーテル類;酢酸ブチル及び酢酸エチル等のエステル類;アセトン及びエチルメチルケトン等のケトン類;ヘキサン;ならびにクロロホルム、等の有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の溶媒のうち、操作性や環境に対する影響等の点から、室温で液体であるアルコール類、例えば、炭素原子数1~4の低級アルコールを用いるのが好ましく、残留溶媒による安全性の観点からはエタノールを用いるのがより好ましい。
【0035】
上記有機溶媒には、さらに水性成分が含まれている含水有機溶媒も包含され得る。抽出効率を高く保持する観点からは、上記含水有機溶媒中の水性成分の含有量は、通常50体積%以下、好ましくは30体積%以下、より好ましくは20体積%以下であるのが望ましい。含水有機溶媒としては、好ましくは上記のような室温で液体であるアルコール類にさらに水性成分が含まれている含水アルコール、より好ましくは含水エタノールが挙げられる。
【0036】
抽出のための温度及び時間は、使用する抽出溶媒の種類や抽出条件等によって適宜設定することができるが、抽出温度は2~100℃、抽出時間は30分~60時間程度とするのが好ましい。抽出溶媒の量は、上記大麦又はその発酵物100質量部に対し、好ましくは200~2000質量部程度にすればよい。
【0037】
抽出液及び残渣を含む混合物は、必要に応じてろ過又は遠心分離等に供し、固形成分を除去して、式(I)のアルキルレゾルシノールを含む抽出物を得る。なお、除去した固形成分を再度、抽出溶媒を用いた抽出操作に供することもでき、さらにこの操作を何回か繰り返してもよい。また得られた抽出物を、さらに液体クロマトグラフィー等により精製してもよい。このようにして得られた式(I)のアルキルレゾルシノールを含む抽出物は、そのまま、又は必要に応じて、さらに濃縮、凍結乾燥、熱風乾燥、粉砕、粉末化、分級、希釈、加水混合等の処理を施した後、本発明に使用することができる。
【0038】
式(I)のアルキルレゾルシノールは、特開2013-249260号公報及びImai et al, Scientific Reports, 7:43679 (2017)に示されるように、サーチュインタンパク質SIRT1を活性化する作用を有し、さらに動物個体の寿命を延長する作用を有する。従って、式(I)のアルキルレゾルシノールは、サーチュイン活性化、寿命の延長、老化抑制、加齢とともに生じ得る疾患や状態の予防もしくは改善、等のために使用することができる。
【0039】
本発明では、式(I)のアルキルレゾルシノール、特に5-ペンタコシルレゾルシノールを含むサーチュインタンパク質活性化組成物を含む老化抑制剤も提供される。また本発明は、式(I)のアルキルレゾルシノール、特に5-ペンタコシルレゾルシノールを有効成分とする寿命延長剤を提供する。また本発明は、式(I)のアルキルレゾルシノール、特に5-ペンタコシルレゾルシノールを有効成分とする、加齢とともに生じ得る疾患や状態の予防もしくは改善剤を提供する。
【0040】
本発明において「老化」とは、加齢とともに生じる動物個体の生理機能低下、例えば、視力又は聴力の低下、運動能力の低下、恒常性維持機能の低下、免疫機能の低下、記憶障害等の脳機能の低下、生体内の各臓器の機能低下等が挙げられる。
【0041】
本発明において「老化抑制」とは、上記加齢とともに生じる動物個体の生理機能低下の抑制、当該生理機能低下に起因する疾患や障害の抑制、及び老化の進行による個体の死の抑制(すなわち、寿命の延長)を含む概念である。
【0042】
また本発明において「加齢とともに生じ得る疾患や状態」としては、上述の加齢とともに生じる動物個体の生理機能低下に起因する種々の疾患や状態、例えば、自己免疫による障害、テロメア遺伝子の不具合に起因する細胞増殖の不具合、神経変性に起因する障害(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症)、脳における神経栄養因子遺伝子の機能低下、学習、記憶能力の低下等が挙げられる。
【0043】
本発明の組成物は、食経験が豊富な大麦由来であることから、長期間継続的摂取しても生体に有害な作用をもたらす懸念が少なく、安全性を有している。従って、本発明の組成物は、健常者や成人だけでなく、本発明を特に必要とする高齢者又は病弱者にも、安全かつ継続的に接種され得る。
【0044】
本発明の組成物は、ヒト又は動物用の医薬品、飲食品又は飼料として利用することもできる。当該医薬品、飲食品又は飼料は、サーチュイン活性化、寿命の延長、老化抑制、加齢とともに生じ得る疾患や状態の予防もしくは改善、等のために使用することができる。
【0045】
上記医薬品は、本発明の組成物を含有するサーチュイン活性化薬、寿命延長薬、老化抑制薬、加齢とともに生じ得る疾患や状態の予防もしくは改善薬、等であり得る。上記医薬品の剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤等の経口剤、及び吸入剤、経皮製剤、坐剤等の経腸製剤、点滴剤、注射剤等の非経口剤が挙げられる。上記液剤、懸濁剤等の液体製剤は、服用直前に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよく、上記錠剤及び顆粒剤は周知の方法でその表面をコーティングされていてもよい。また上記注射剤は、必要に応じて溶解補助剤を含む滅菌蒸留水又は滅菌生理食塩水の溶液であり得る。
【0046】
上記医薬品は、本発明の組成物に加えて、必要に応じて薬学的に許容される種々の担体、例えば賦形剤、安定化剤、その他の添加剤等を含有していてもよく、あるいは、さらに他の薬効成分、例えば各種ビタミン類、ミネラル類、生薬等を含有していてもよい。当該医薬品は、本発明の組成物に、上述の担体及び他の薬効成分を配合し、常法に従って製造することができる。
【0047】
上記飲食品又は飼料は、本発明の組成物を含み、場合によって、サーチュイン活性化、寿命の延長、老化抑制、加齢とともに生じ得る疾患や状態の予防もしくは改善、等の効果を企図して、その旨を表示した健康食品、機能性飲食品、特定保健用飲食品、病者用飲食品、家畜、競走馬、鑑賞動物等のための飼料、ペットフード等としてもあり得る。
【0048】
上記飲食品及び飼料の形態は特に制限されず、本発明の組成物を配合できる全ての形態が含まれる。例えば当該形態としては、固形、半固形又は液状であり得、あるいは、錠剤、チュアブル錠、粉剤、カプセル、顆粒、ドリンク、ゲル、シロップ、経管経腸栄養用流動食等の各種形態が挙げられる。
【0049】
具体的な飲食品の例としては、緑茶、ウーロン茶や紅茶等の茶飲料、コーヒー飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、スポーツ飲料、乳飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料、発酵乳飲料、粉末飲料、ココア飲料、アルコール飲料、精製水等の飲料、バター、ジャム、ふりかけ、マーガリン等のスプレッド類、マヨネーズ、ショートニング、クリーム、ドレッシング類、パン類、米飯類、麺類、パスタ、味噌汁、豆腐、牛乳、ヨーグルト、スープ又はソース類、ベーカリー類(パン、パイ、ケーキ、クッキー、ビスケット、クラッカー等)、菓子(ビスケットやクッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム、タブレット等)、栄養補助食品(丸剤、錠剤、ゼリー剤又はカプセル剤等の形態を有するサプリメント、グラノーラ様シリアル、グラノーラ様スネークバー、シリアルバー)等が挙げられる。
【0050】
上記飼料は、上記飲食品とほぼ同様の組成や形態で利用できることから、本明細書における飲食品に関する記載は、飼料についても同様に当てはめることができる。
【0051】
上記飲食品及び飼料は、本発明の組成物に、飲食品や飼料の製造に用いられる他の飲食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、各種油脂、種々の添加剤(呈味成分、甘味料、有機酸等の酸味料、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、フレーバー等)等を配合して、常法に従って製造することができる。あるいは、通常食されている飲食品又は飼料に、本発明の組成物を配合することにより、本発明に係る飲食品又は飼料を製造することもできる。
【0052】
上記医薬品、飲食品又は飼料における本発明の組成物の含有量は、所望のサーチュイン活性化効果、寿命延長効果、老化抑制効果等の効果が得られる量であればよく、医薬の剤型や飲食品の形態、投与又は摂取する個体の種、症状、年齢、性別等に応じて適宜変更され得る。
【実施例
【0053】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。
【0054】
[試験例1]大麦からのアルキルレゾルシノールの抽出方法及び分析方法
大麦穀粒100gを、粉砕機にかけ粉状にした。得られた粉体20gに対して400mlのエタノールを加え室温で24時間撹拌した。得られた分散液をろ紙でろ過して抽出液を得た。続いて、抽出液を減圧濃縮して、残った残渣にヘキサン50mlを加え、ろ過してろ液を得た。これを再度減圧濃縮し、残渣をメタノール20mlに溶解して、抽出液を得た。これを以下の条件で逆相高速液体クロマトグラフィーにより分析した。
測定方法:逆相高速液体クロマトグラフィー
試料:大麦抽出液
アプライ量:10μL
流速:1mL/分
移動相(A液):水
移動相(B液):メタノール
溶出グラジエント:0→5分(A液:11→8質量%、B液:89→92質量%)、5→30分(A液:8→0質量%、B液:92→100質量%)
検出波長:275nm
カラム:GL science社 Inertsil ODS4(充填剤の粒子径5μm、内径4.6mm×高さ250mm)
シリカゲル:3シリーズ高純度球状シリカゲル(表面積:450m/g、細孔径:100オングストローム、細孔容積:1.05mL/g、化学結合基:オクタデシル基、エンドキャップ処理:有、炭素量:11%)
定量は、275nmの波長におけるクロマトグラムのピーク面積によって、予め作成したオリベトール(C5)のピーク面積と濃度との検量線を基に算出した。ピークの同定はカラム保持時間とUVスペクトルによって行い、併せて、マススペクトルにより構造を同定した。
【0055】
(実施例1)
オーストラリア産の裸麦(Healthy Grain社製、大麦品種バーリーマックス(登録商標)。本明細書における「SSII抑制大麦」に相当する)を精麦して外皮を除去したふすま付きの大麦穀粒を用いて、試験例1に従い抽出液を得て、クロマトグラフィー分析したクロマトグラムを図1に、各含有量の結果を図2に示す。
【0056】
図1のクロマトグラムから、アルキル鎖に不飽和結合を有さないC17、C19、C21、C23及びC25のアルキルレゾルシノールが検出され、特にC25の割合が多いことが明らかとなった。また、アルキルレゾルシノールと同じUVスペクトルをもつ詳細構造不明のピークを、カラム保持時間22.3分付近(22.1~22.5分の間)に同時に検出した(本明細書においてこのピークフラクションのアルキルレゾルシノールを「RT:22.3」と称す)。これら各アルキルレゾルシノール成分量は、C17が5.2μg/大麦1g、C19が48.7μg/大麦1g、C21が40.2μg/大麦1g、C23が33.8μg/大麦1g、C25が121.6μg/大麦1gであり、詳細構造不明のアルキルレゾルシノール(RT:22.3)が165.6μg/大麦1gであった。RT:22.3以外のC17、C19、C21、C23及びC25のアルキルレゾルシノールの総量は249.4μg/大麦1gであり、RT:22.3を含んだアルキルレゾルシノールの総量は415.0μg/大麦1gであった。
【0057】
(比較例1)
一般大麦品種シュンライを精麦して外皮を除去したふすま付きの大麦穀粒を用いて、試験例1に従い抽出した抽出液を、クロマトグラフィー分析により各アルキルレゾルシノール成分を定量した結果を図2に示す。C17が3.9μg/大麦1g、C19が11.0μg/大麦1g、C21が12.4μg/大麦1g、C23が13.0μg/大麦1g、C25が58.2μg/大麦1gであった。これらのC17、C19、C21、C23及びC25のアルキルレゾルシノールの総量は98.5μg/大麦1gであり、実施例1のSSII抑制大麦と比較して、アルキルレゾルシノールの総量及び各鎖長の含有量はいずれも少なかった。
【0058】
[試験例2]細胞でのヒストン脱アセチル化量の分析
上記試験例1により得られた抽出物を用いて、以下の方法によって、ヒト単球様細胞株THP-1における、ヒストン脱アセチル化の程度を測定することでサーチュイン活性の評価を行った。
【0059】
〈アルキルレゾルシノールを含有する抽出液の調製〉
試験例1に従い大麦抽出物及び各鎖長のアルキルレゾルシノールを調製し、乾固物を20mlのエタノールで溶解したものを同様に抽出液とした。C5のアルキルレゾルシノールであるオリベトールは、SIGMA-ALDRICH社製の試薬を用いた。
【0060】
〈トータルのヒストンの抽出〉
10%FBS、penicillin、streptomycin、mercaptoethanolを含むRPMI1640培地を用い、ヒト単球様細胞株THP-1を培養した。細胞を5×10/wellの濃度で24wellプレートに分注し、大麦抽出物ではアルキルレゾルシノール総成分が3μg/ml相当になるよう抽出物のエタノール溶液を調製し、各鎖長のアルキルレゾルシノールでは10μg/ml相当になるように抽出物のエタノール溶液を調製した。この抽出液をプレートに添加後、37℃22時間培養した。コントロールには、抽出物を一切加えない水準を用いた。ヒストンの抽出は、EpiQuikTMTotal Histone Extraction Kitを使用し、Epigentek社推奨の以下の方法を基に行った。
(1)細胞を1000rpm、4℃、5分間遠心分離し、上清を除去した。
(2)1×Pre-Lysis Buffer 1mLで懸濁し、氷上で10分間振揺した。
(3)3000rpm、4℃、5分間遠心後、上清を除去した。
(4)沈殿物の3倍量のLysis Bufferで懸濁し、氷上で30分間静置した。
(5)12000rpm、4℃、5分間遠心後、上清をプラスチックチューブに移した。
(6)上清の0.3倍量のBalance-DTT Bufferを加え、-30℃で保存した。
【0061】
〈ヒストンの定量〉
ヒストンの定量は、TaKaRa BCA Protein Assay Kitを使用し、タカラバイオ株式会社推奨の以下の方法を基に行った。
(1)BSA標準溶液(50、40、30、20、10、5μg/ml)を作成した。
(2)各ウェルにそれぞれBSA標準溶液100μL又はヒストン抽出物15μLと脱イオン水85μLを加えた。
(3)100μLのWorking Solutionを加え混合して60℃で60分間反応させた。
(4)分光光度計を用いて、570nmの吸光度を測定した。
(5)BSA標準溶液の測定結果から検量線を作成し、各サンプルに含まれるタンパク質量を算出した。
(6)サンプルの結果に希釈倍率(100/15)をかけることによりサンプル原液のタンパク質量を求めた。
【0062】
〈ヒストンのアセチル化量の定量〉
アセチル化量の定量にはEpiQuikTM Total Histone H3 Acetylation Detection Fast Kit(Colorimetric)を使用し、Epigentek社推奨の以下の方法を基に行った。
(1)各ウェルに50μLのAntibody Bufferを加えた。
(2)スタンダード(100、50、25、12、6、3、1.5ng/μl)を作成した。
(3)各ウェルに50~200ngのヒストン抽出サンプル又はスタンダードを添加し、室温で2時間反応させた。
(4)150μLのWash Bufferで各ウェルを3回洗浄した。
(5)Antibody bufferで希釈したDetection Antibodyを50μL添加し、オービタルシェイカーで室温100rpm、60分間反応させた。
(6)150μLのWash Bufferで各ウェルを6回洗浄した。
(7)100μLのColor Developerを加え室温で2分間発色させた。
(8)中程度の青色に変化後、50μLのStop Solutionを加え、反応を停止した。
(9)分光光度計を用いて、450nmの吸光度を測定し、スタンダードの検量線からアセチル化量を算出した。
【0063】
上記の手順に従い得た、アルキルレゾルシノールを含む、SSII抑制大麦の抽出液を上記試験例2に従い分析したところ、図3に示すように、SSII抑制大麦の抽出液を添加した細胞では、ヒストン中のアセチル化ヒストン量が減少し、脱アセチル化が進行していることが確認された。また、図4に示すように、アルキル鎖長C25及びカラム保持時間22.3分付近のアルキルレゾルシノールを含む抽出液を添加した細胞においても、ヒストン中のアセチル化ヒストン量が減少し、アルキル鎖長C5のオリベトールと比較して、C25のアルキルレゾルシノールでは1.8倍、RT:22.3のアルキルレゾルシノールでは1.7倍、脱アセチル化が進行していることが確認されたことから、優れたヒストン脱アセチル化能を有することがわかった。
【0064】
アルキル鎖長C5のオリベトールを用いて、上記試験例2に従い抽出液を得て、ヒストン脱アセチル化量を分析した。図4に示すように、アルキル鎖長C5のオリベトールは、コントロールよりアセチル化されているヒストン量が少なかったことから、脱アセチル化が進行しているものの、アルキル鎖長C25及びカラム保持時間22.3分付近のアルキルレゾルシノールを含む抽出液と比較した場合は、脱アセチル化は進行していなかった。
図1
図2
図3
図4