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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】特定装置、特定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
A01K29/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018154904
(22)【出願日】2018-08-21
(65)【公開番号】P2019170360
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2018060563
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102717
【氏名又は名称】NTTテクノクロス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢
(72)【発明者】
【氏名】畠中 将徳
(72)【発明者】
【氏名】高畠 康行
(72)【発明者】
【氏名】赤野間 信行
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 克敏
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-051146(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140332(WO,A1)
【文献】特開2008-228573(JP,A)
【文献】特開2017-158509(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0338447(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 29/00
A01K 67/00
G16Y 10/00 - 10/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜の採食行動を特定する特定装置であって、
前記家畜に装着された加速度センサが測定した加速度データを記憶する記憶手段と、
所定の時間の間における複数の加速度データを前記記憶手段から取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された前記複数の加速度データそれぞれの特徴量を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された複数の特徴量と、予め設定されたパラメータとに基づいて、局所的に最大となる特徴量を示す極大ピークと、局所的に最小となる特徴量を示す極小ピークとのうちの少なくとも一方のピークを特定するピーク特定手段と、
前記ピーク特定手段により特定されたピークから、所定の条件を満たすピークを除外したピークの数が所定の閾値以上であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記ピークの数が前記所定の閾値以上であると判定された場合、前記所定の時間の間における前記家畜の行動を採食行動と特定する行動特定手段と、
を有し、
前記判定手段は、
極小ピークから極大ピークへの直線の傾きが所定の閾値以上、前記極大ピークと前記特徴量の上限値及び下限値の中央値との差分が所定の閾値以上、又は1つ前の極大ピークと前記極大ピークとの間隔が所定の閾値以上のいずれかを満たす極大ピークを除外し、
極大ピークから極小ピークへの直線の傾きの絶対値が所定の閾値以上、前記極小ピークと前記特徴量の上限値及び下限値の中央値との差分の絶対値が所定の閾値以上、又は1つ前の極小ピークと前記極小ピークとの間隔が所定の閾値以上のいずれかを満たす極小ピークを除外する、ことを特徴とする特定装置。
【請求項2】
前記ピーク特定手段は、
時系列データである前記複数の特徴量をy[i]、前記パラメータをδとして、
或るiについて、y[i]からy[i-1]を減じた値が前記δよりも大きく、かつ、y[i]からy[i+1]を減じた値が前記δよりも大きい場合、y[i]を極大ピークと特定し、
或るiについて、y[i-1]からy[i]を減じた値が前記δよりも大きく、かつ、y[i+1]からy[i]を減じた値が前記δよりも大きい場合、y[i]を極小ピークと特定する、ことを特徴とする請求項1に記載の特定装置。
【請求項3】
前記ピーク特定手段は、
時系列データである前記複数の特徴量をy[i]、前記パラメータをδ、Lとして、
或るiについて、y[i]からy[i+1]を減じた値が前記δよりも大きく、かつ、y[i]からy[i+L-1]までの最大値がy[i]以下である場合、y[i]を極大ピークと特定し、
或るiについて、y[i+1]からy[i]を減じた値が前記δよりも大きく、かつ、y[i]からy[i+L-1]までの最小値がy[i]以下である場合、y[i]を極小ピークと特定する、ことを特徴とする請求項1に記載の特定装置。
【請求項4】
前記判定手段により前記ピークの数が前記所定の閾値以上であると判定された場合、前記加速度センサの向きを特定する向き特定手段を有し、
前記行動特定手段は、
前記向き特定手段により特定された前記加速度センサの向きに応じて、前記所定の時間の間における前記加速度データの所定の成分の平均値から算出された第1の指標値が所定の値以上であるか又は以下であると判定された場合、前記所定の時間の間における前記家畜の行動を採食行動と特定する、ことを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の特定装置。
【請求項5】
前記向き特定手段は、
前記加速度データに含まれるX成分値とY成分値とZ成分値とのうち、所定の2つの成分値を用いて、所定の時間幅毎に、第2の指標値と第3の指標値とを計算し、
前記第2の指標値と前記第3の指標値とに基づいて、前記加速度センサの向きを特定する、ことを特徴とする請求項に記載の特定装置。
【請求項6】
前記第2の指標値は、前記時間幅における所定の第1の成分値の平均値と、前記時間幅における所定の第2の成分値の平均値の符号とを乗じた値であり、
前記第3の指標値は、前記時間幅における前記第1の成分値の標準偏差であり、
前記第1の指標値は、前記時間幅毎に算出された前記第2の指標値のうち、前記所定の時間の間に対応する時間幅における前記第1の成分値の平均値と、前記所定の時間の間に対応する時間幅における前記第2の成分値の平均値の符号とを乗じることで算出された第2の指標値である、ことを特徴とする請求項に記載の特定装置。
【請求項7】
前記判定手段は、
前記ピーク特定手段により特定された極大ピークの数、極小ピークの数、又は極大ピークと極小ピークとの合計数のいずれかが前記所定の閾値以上であるか否かを判定する、ことを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の特定装置。
【請求項8】
前記特徴量は、L2ノルムである、ことを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の特定装置。
【請求項9】
家畜の採食行動を特定する特定装置であって、前記家畜に装着された加速度センサが測定した加速度データを記憶する記憶手段を有する特定装置が、
所定の時間の間における複数の加速度データを前記記憶手段から取得する取得手順と、
前記取得手順により取得された前記複数の加速度データそれぞれの特徴量を算出する算出手順と、
前記算出手順により算出された複数の特徴量と、予め設定されたパラメータとに基づいて、局所的に最大となる特徴量を示す極大ピークと、局所的に最小となる特徴量を示す極小ピークとのうちの少なくとも一方のピークを特定するピーク特定手順と、
前記ピーク特定手順により特定されたピークから、所定の条件を満たすピークを除外したピークの数が所定の閾値以上であるか否かを判定する判定手順と、
前記判定手順により前記ピークの数が前記所定の閾値以上であると判定された場合、前記所定の時間の間における前記家畜の行動を採食行動と特定する行動特定手順と、
を実行し、
前記判定手順は、
極小ピークから極大ピークへの直線の傾きが所定の閾値以上、前記極大ピークと前記特徴量の上限値及び下限値の中央値との差分が所定の閾値以上、又は1つ前の極大ピークと前記極大ピークとの間隔が所定の閾値以上のいずれかを満たす極大ピークを除外し、
極大ピークから極小ピークへの直線の傾きの絶対値が所定の閾値以上、前記極小ピークと前記特徴量の上限値及び下限値の中央値との差分の絶対値が所定の閾値以上、又は1つ前の極小ピークと前記極小ピークとの間隔が所定の閾値以上のいずれかを満たす極小ピークを除外する、ことを特徴とする特定方法。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1乃至の何れか一項に記載の特定装置における各手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定装置、特定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
乳用牛や肥育牛を飼育する畜産農家にとって、牛の健康管理も含めた個体管理を行うことは重要な作業の一つである。このような個体管理の一環として、牛の採食行動を管理することも重要である。これは、例えば、牛の採食する飼料の量が通常よりも少なかったりする場合には、飼料の種類を変えたり、餌場のレイアウトを変えたりする等の対応を行う必要があるためである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】阿部 亮著、「農学基礎セミナー 家畜飼育の基礎」、新版、社団法人 農産漁村文化協会、2008 年 4 月, p.109, p.122-124.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、飼育する頭数が数百頭から数千頭にも及ぶ大規模な牧場等では、目視等によって1頭1頭の牛の採食行動を個別に確認することは困難である。
【0005】
本発明の一実施形態は、上記の点に鑑みてなされたもので、家畜の採食行動の管理を支援することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態は、家畜の採食行動を特定する特定装置であって、前記家畜に装着された加速度センサが測定した加速度データを記憶する記憶手段と、所定の時間の間における複数の加速度データを前記記憶手段から取得する取得手段と、前記取得手段により取得された前記複数の加速度データそれぞれの特徴量を算出する算出手段と、前記算出手段により算出された複数の特徴量と、予め設定されたパラメータとに基づいて、局所的に最大となる特徴量を示す極大ピークと、局所的に最小となる特徴量を示す極小ピークとのうちの少なくとも一方のピークを特定するピーク特定手段と、前記ピーク特定手段により特定されたピークの数が所定の閾値以上であるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段により前記ピークの数が前記所定の閾値以上であると判定された場合、前記所定の時間の間における前記家畜の行動を採食行動と特定する行動特定手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、家畜の採食行動の管理を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第一の実施形態に係る特定システムの全体構成の一例を示す図である。
図2】測定データ記憶部に記憶されている測定データの一例を示す図である。
図3】第一の実施形態に係る特定処理部の機能構成の一例を示す図である。
図4】第一の実施形態に係る採食行動の特定処理の一例を示すフローチャートである。
図5】ピーク特定の一例を説明するための図(その1)である。
図6】第一の実施形態に係るピーク特定処理の一例を示すフローチャートである。
図7】ピーク特定の一例を説明するための図(その2)である。
図8】第二の実施形態に係る採食行動の特定処理の一例を示すフローチャートである。
図9】第二の実施形態に係るピーク特定処理の一例を示すフローチャートである。
図10】第三の実施形態に係る特定処理部の機能構成の一例を示す図である。
図11】第三の実施形態に係る採食行動の特定処理の一例を示すフローチャートである。
図12】第三の実施形態に係るタグ向き特定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。以降の各実施形態では、家畜の一例として牛の採食行動を特定する特定システム1について説明する。なお、家畜は、牛に限られない。
【0010】
ここで、採食行動とは、牛が食物(例えば、牧草や飼料等)を食べている動作を行っている状態のことである。
【0011】
[第一の実施形態]
<全体構成>
まず、本実施形態に係る特定システム1の全体構成について、図1を参照しながら説明する。図1は、第一の実施形態に係る特定システム1の全体構成の一例を示す図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る特定システム1には、牛の採食行動を特定する特定装置10と、牛に装着された1以上のタグ20とが含まれる。なお、タグ20は、牛の首部分に固定して装着されることが好ましい。
【0013】
タグ20は、牛に装着される機器である。1頭の牛に対して1つのタグ20が装着されている。タグ20には、当該タグ20を装着した牛の加速度(X軸、Y軸、及びZ軸の3軸の加速度)を測定する加速度センサが含まれる。
【0014】
タグ20は、所定の時間毎(例えば2秒毎)に、加速度センサにより測定した加速度センサ値を含む測定データを特定装置10に送信する。特定装置10に送信された測定データは、後述する測定データ記憶部200に蓄積(記憶)される。
【0015】
特定装置10は、牛の採食行動を特定するコンピュータである。特定装置10は、特定処理部100と、測定データ記憶部200とを有する。
【0016】
特定処理部100は、測定データ記憶部200に記憶されている測定データに基づいて、牛の採食行動を特定する。特定処理部100は、特定装置10にインストールされた1以上のプログラムが、CPU(Central Processing Unit)等に実行させる処理により実現される。
【0017】
測定データ記憶部200は、タグ20から受信した測定データを記憶する。測定データ記憶部200は、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の補助記憶装置等を用いて実現可能である。なお、測定データ記憶部200は、特定装置10とネットワークを介して接続される記憶装置等を用いて実現されていても良い。
【0018】
測定データ記憶部200には、所定の時間毎(例えば2秒毎)に、複数の測定データが蓄積(記憶)されている。
【0019】
なお、図1に示す特定システム1の構成は一例であって、他の構成であっても良い。例えば、特定装置10は、複数台のコンピュータで構成されていても良い。また、例えば、特定処理部100が有する機能の一部を、特定装置10とネットワークを介して接続される装置(例えばクラウドサーバ等)が有していても良い。
【0020】
また、タグ20から特定装置10への測定データの送信方法は限定されない。例えば、タグ20は、インターネット等のネットワークを介して特定装置10に測定データを送信しても良いし、ローカルなネットワーク内で特定装置10に測定データを送信しても良いし、近距離無線通信等により特定装置10に測定データを送信しても良い。
【0021】
<測定データ記憶部200に記憶されている測定データ>
ここで、本実施形態に係る測定データ記憶部200に記憶されている測定データについて、図2を参照しながら説明する。図2は、測定データ記憶部200に記憶されている測定データの一例を示す図である。なお、特定装置10は、タグ20から測定データを受信した場合、特定処理部100により、当該測定データを測定データ記憶部200に記憶(蓄積)させれば良い。
【0022】
図2に示すように、測定データ記憶部200には、タグ20を識別する識別情報の一例であるタグID毎に、1以上の測定データが記憶されている。なお、1頭の牛に対して1つのタグ20が装着されていることから、タグIDは、牛を識別する識別情報(例えば、牛の個体識別情報等)であっても良い。
【0023】
各測定データには、日時と、加速度センサ値とが含まれる。日時は、例えば、タグ20が測定データを送信した日時である。なお、日時は、特定装置10が測定データを受信した日時であっても良い。
【0024】
加速度センサ値は、タグ20に含まれる加速度センサにより測定された加速度の値である。加速度センサ値には、X軸方向の加速度成分を示すX成分と、Y軸方向の加速度成分を示すY成分と、Z軸方向の加速度成分を示すZ成分とが含まれる。例えば、日時「t」の測定データには、加速度センサ値のX成分「ax0」と、Y成分「ay0」と、Z成分「az0」とが含まれる。同様に、例えば、日時「t」の測定データには、加速度センサ値のX成分「ax1」と、Y成分「ay1」と、Z成分「az1」とが含まれる。
【0025】
このように、本実施形態に係る測定データ記憶部200に記憶されている測定データには、タグID毎に、日時と、加速度センサ値とが含まれる測定データが蓄積(記憶)されている。
【0026】
<特定処理部100の機能構成>
次に、本実施形態に係る特定処理部100の機能構成について、図3を参照しながら説明する。図3は、第一の実施形態に係る特定処理部100の機能構成の一例を示す図である。
【0027】
図3に示すように、本実施形態に係る特定処理部100は、取得部101と、前処理部102と、ノルム算出部103と、ピーク特定部104と、採食特定部105とを有する。
【0028】
取得部101は、測定データ記憶部200から測定データを取得する。このとき、取得部101は、例えば、タグID毎に、所定の時間幅(例えば、10分間)の測定データを測定データ記憶部200から取得する。
【0029】
前処理部102は、取得部101により取得された測定データに対して前処理を行う。前処理としては、例えば、測定データの欠損補間(リサンプリング)処理が挙げられる。前処理には、例えば、ノイズ除去処理等が含まれていても良い。
【0030】
ノルム算出部103は、前処理部102による前処理後の測定データに含まれる加速度センサ値のL2ノルムを算出する。これにより、L2ノルムの時系列データが得られる。なお、ノルム算出部103は、L2ノルムに限られず、一般に、Lpノルム(p=1,2,・・・,∞)を算出しても良い。これらのLpノルム(p=1,2,・・・,∞)は特徴量の一例である。
【0031】
ピーク特定部104は、予め設定されたパラメータを用いて、ノルム算出部103によって得られたL2ノルムの時系列データのピークを特定する。ピークとは、局所的に最大値となるL2ノルム(又は局所的に最小値となるL2ノルム)のことである。
【0032】
採食特定部105は、ピーク特定部104により特定されたピークの数(ピーク数)が所定の閾値Th以上であるか否かを判定することで、取得部101により取得された測定データの時間幅(例えば、10分間)の間における牛の行動が採食行動であるか否かを特定する。このとき、ピーク数が閾値Th以上であると判定された場合、当該時間幅の間における牛の行動は採食行動であると特定される。一方で、ピーク数が閾値Th以上でないと判定された場合、当該時間幅の間における牛の行動は採食行動でないと特定される。
【0033】
なお、採食特定部105により特定された牛の行動(採食行動である又は採食行動でない)を示す情報は、例えば、特定装置10のディスプレイ等に表示しても良いし、特定装置10の補助記憶装置等に保存しても良いし、特定装置10に接続される他の装置(例えば、PCやスマートフォン、タブレット端末等)に送信しても良い。また、特定装置10の補助記憶装置等に保存された場合、例えば、特定装置10に接続される他の装置(例えば、PCやスマートフォン、タブレット端末等)を用いて、補助記憶装置等に保存された情報(牛の行動を示す情報)を閲覧することができても良い。
【0034】
<採食行動の特定>
以降では、牛の採食行動を特定する処理について、図4を参照しながら説明する。図4は、第一の実施形態に係る採食行動の特定処理の一例を示すフローチャートである。なお、図4に示す処理は、例えば、10分毎に繰り返し実行される。ただし、10分は一例であって、任意の時間毎に繰り返し実行されても良い。
【0035】
まず、取得部101は、タグID毎に、所定の時間幅(例えば、10分間)の測定データを測定データ記憶部200から取得する(ステップS101)。このように、取得部101は、牛(タグID)毎に、所定の時間幅(例えば、10分間)の測定データを測定データ記憶部200から取得する。なお、このような所定の時間幅は、10分に限られず、例えば、特定装置10のユーザが任意の時間幅を設定することができる。
【0036】
以降では、タグID「Tag1」の10分間の測定データ0,測定データ1,・・・,測定データ(N-1)が取得部101により取得されたものとして説明を続ける。
【0037】
次に、前処理部102は、取得部101により取得された測定データに対して前処理を行う(ステップS102)。すなわち、前処理部102は、測定データの欠損補間(リサンプリング)処理を行う。なお、欠損補間処理は、収集された測定データの精度を上げるため、測定データが取得できなかった場合の欠損を補間する処理である。これにより、前処理後の測定データをリナンバリングして、測定データ0,測定データ1,・・・,測定データ(M-1)が得られる。10分間の測定データ0,測定データ1,・・・,測定データ(N-1)に対して2秒間隔の欠損補間(リサンプリング)処理を行った場合、M=300であり、測定データ0,測定データ1,・・・,測定データ299が得られる。
【0038】
なお、前処理部102は、例えば、ノイズ除去処理を行った後に、欠損補間処理を行っても良い。ノイズ除去処理を行うことによって、例えば、ノイズとなり得る牛の動作(例えば、瞬間的に身体を震わせる動作や瞬間的に大きく身体をびくつかせる動作等)を示す測定データを除去することができる。
【0039】
次に、ノルム算出部103は、前処理部102による前処理後の測定データに含まれる加速度センサ値のL2ノルムを算出する(ステップS103)。すなわち、ノルム算出部103は、各測定データi(i=0,・・・,M-1)に含まれる加速度センサ値のL2ノルムをそれぞれ算出する。
【0040】
ここで、以降では、測定データiに含まれる加速度センサ値のL2ノルムをy[i]、当該測定データiに含まれる日時をx[i]と表す。これにより、L2ノルムの時系列データ{(x[i],y[i])} (i=0,・・・,M-1)が得られる。
【0041】
次に、ピーク特定部104は、予め設定されたパラメータを用いて、ノルム算出部103によって得られたL2ノルムの時系列データ{(x[i],y[i])} (i=0,・・・,M-1)のピークを特定する(ステップS104)。ピークとは、上述したように、局所的に最大値となるL2ノルム又は局所的に最小値となるL2ノルムのことである。以降では、局所的に最大値となるL2ノルムを「極大ピーク」、局所的に最小値となるL2ノルムを「極小ピーク」と表す。なお、ピーク(極大ピーク及び極小ピーク)を特定する処理の詳細については後述する。
【0042】
次に、採食特定部105は、ピーク特定部104により特定されたピークの数(ピーク数)が所定の閾値Th以上であるか否かを判定する(ステップS105)。ここで、採食特定部105は、極大ピークのピーク数が閾値Th以上であるか否かを判定しても良いし、極小ピークのピーク数が閾値Th以上であるか否かを判定しても良い。又は、採食特定部105は、極大ピークのピーク数と極小ピークのピーク数との合計が閾値Th以上であるか否かを判定しても良い。本実施形態では、一例として、極大ピークのピーク数が閾値Th以上であるか否かを判定したものとする。
【0043】
ステップS105において、極大ピークのピーク数が閾値Th以上であると判定した場合、採食特定部105は、当該時間幅の間(すなわち、10分間)における牛の行動を採食行動と特定する(ステップS106)。
【0044】
一方で、ステップS105において、極大ピークのピーク数が閾値Th以上であると判定しなかった場合(すなわち、極大ピークのピーク数が閾値Th未満であると判定した場合)、採食特定部105は、当該時間幅の間(すなわち、10分間)における牛の行動を採食行動でないと特定する(ステップS107)。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る特定システム1は、所定の時間幅における加速度センサ値のL2ノルムのピーク数が所定の閾値Th以上であるか否かを判定することで、当該時間幅の間における牛の行動が採食行動であるか又は採食行動でないかを特定する。これにより、本実施形態に係る特定装置10のユーザ(例えば、畜産農家等)は、牛が採食行動を行ったか否かを管理することができる。このため、例えば、採食行動が行われていない牛が存在する場合には、その原因等を調査し、例えば、飼料を変える、餌場のレイアウトを変える等の種々の対策を行うことができるようになる。
【0046】
<ピークの特定>
次に、L2ノルムの時系列データ{(x[i],y[i])} (i=0,・・・,M-1)のピークを特定する処理(上記のステップS104の処理)の詳細について説明する。以降の実施例1では先読み長Lを考慮しないでピークを特定する場合について説明し、実施例2では先読み長Lを考慮してピークを特定する場合について説明する。
【0047】
(実施例1)
まず、先読み長Lを考慮しないでピークを特定する場合について説明する。この場合、連続するL2ノルムy[i]同士の差分を判定するためのパラメータであるδを用いる。
【0048】
このとき、ピーク特定部104は、i=1,・・・,M-2に対して、以下の式1を満たすy[i]を極大ピークと特定する。
【0049】
y[i]-y[i-1]>δ,かつ,y[i]-y[i+1]>δ ・・・(式1)
また、ピーク特定部104は、i=1,・・・,M-2に対して、以下の式2を満たすy[i]を極小ピークと特定する。
【0050】
y[i-1]-y[i]>δ,かつ,y[i+1]-y[i]>δ ・・・(式2)
すなわち、y[i]から1つ前のL2ノルムy[i-1]を減じた値がδよりも大きく、かつ、y[i]から次のL2ノルムy[i+1]を減じた値がδよりも大きい場合、y[i]を極大ピークと特定する。一方で、y[i]から1つ前のL2ノルムy[i-1]を減じた値が-δよりも小さく、かつ、y[i]から次のL2ノルムy[i+1]を減じた値が-δよりも小さい場合、y[i]を極小ピークと特定する。
【0051】
ここで、一例として、M=20及びδ=55として、或るL2ノルムの時系列データ{(x[i],y[i])} (i=0,・・・,19)のピークを実施例1により特定した場合を図5に示す。
【0052】
図5に示すように、y[2]-y[1]>55、かつ、y[2]-y[3]>55であるため、y[2]は極大ピークと特定される。また、y[2]-y[3]>55、かつ、y[4]-y[3]>55であるため、y[3]は極小ピークと特定される。以降も同様に、y[8]、y[12]及びy[18]はそれぞれ極大ピークと特定され、y[13]は極小ピークと特定される。したがって、この場合、極大ピークのピーク数は4、極小ピークのピーク数は2となる。
【0053】
なお、上記では、式1と式2とで共通のパラメータδを用いたが、例えば、式1と式2とで異なる値のパラメータδを用いても良い。
【0054】
(実施例2)
次に、先読み長Lを考慮してピークを特定する場合について説明する。先読み長Lを考慮することで、先読み長Lを考慮した時間幅x[i+L]-x[i]内で振れ幅が小さいピーク(すなわち、y[i]とy[i-1]との差やy[i]とy[i+1]との差が小さいピーク)を極大ピーク又は極小ピークと扱わないようにすることができる。これにより、実施例1よりも高い精度で採食行動が特定することができるようになる。
【0055】
実施例2の場合、連続するL2ノルムy[i]同士の差分を判定するためのパラメータであるδと、先読み長を示すパラメータであるLとを用いる。以降では、実施例2におけるピーク特定処理について、図6を参照しながら説明する。図6は、第一の実施形態に係るピーク特定処理の一例を示すフローチャートである。
【0056】
まず、ピーク特定部104は、各種変数を初期化する(ステップS201)。すなわち、ピーク特定部104は、L2ノルムの各時系列データのインデックスである変数iと、暫定的な極大ピークを示す変数maxと、暫定的な極小ピークを示す変数minとをそれぞれ0に初期化する。なお、各変数が初期化された後、i=0,・・・,M-Lに対して、次のステップS202以降の処理が繰り返し実行される。
【0057】
ピーク特定部104は、y[i]>maxであるか否かを判定する(ステップS202)。
【0058】
ステップS202においてy[i]>maxであると判定された場合、ピーク特定部104は、maxにy[i]を代入すると共に、max_posにx[i]を代入する(ステップS203)。なお、max_posは、maxに代入されているy[i](暫定的な極大ピーク)の日時であるx[i]が代入された変数である。
【0059】
一方、ステップS202においてy[i]>maxであると判定されなかった場合又はステップS203に続いて、ピーク特定部104は、y[i]<minであるか否かを判定する(ステップS204)。
【0060】
ステップS204においてy[i]<minであると判定された場合、ピーク特定部104は、minにy[i]を代入すると共に、min_posにx[i]を代入する(ステップS205)。なお、min_posは、minに代入されているy[i](暫定的な極小ピーク)の日時であるx[i]が代入された変数である。
【0061】
一方、ステップS204においてy[i]<minであると判定されなかった場合又はステップS205に続いて、ピーク特定部104は、y[i]<max-δ、かつ、y[i:i+L]の最大値<maxであるか否かを判定する(ステップS206)。ここで、y[i:i+L]は、y[i],・・・,y[i+L-1]を表す。したがって、y[i:i+L]の最大値とは、y[i],・・・,y[i+L-1]のうちの最大のyのことである。
【0062】
ステップS206においてy[i]<max-δ、かつ、y[i:i+L]の最大値<maxであると判定された場合、ピーク特定部104は、max及びmax_posの組を極大ピークリストに追加する(ステップS207)。極大ピークリストに追加されたmax(すなわち、このmaxに代入されたy[i])が極大ピークである。また、このmaxに対応するmax_pos(すなわち、このmax_posに代入されたx[i])が当該極大ピークの日時である。
【0063】
次に、ピーク特定部104は、max及びminにそれぞれ∞を代入する(ステップS208)。
【0064】
ステップS206においてy[i]<max-δ、かつ、y[i:i+L]の最大値<maxであると判定されなかった場合、ピーク特定部104は、y[i]>min+δ、かつ、y[i:i+L]の最小値>minであるか否かを判定する(ステップS209)。ここで、y[i:i+L]の最小値とは、y[i],・・・,y[i+L-1]のうちの最小のyのことである。
【0065】
ステップS209においてy[i]>min+δ、かつ、y[i:i+L]の最小値>minであると判定された場合、ピーク特定部104は、min及びmin_posの組を極小ピークリストに追加する(ステップS210)。極小ピークリストに追加されたmin(すなわち、このminに代入されたy[i])が極小ピークである。また、このminに対応するmin_pos(すなわち、このmin_posに代入されたx[i])が当該極小ピークの日時である。
【0066】
次に、ピーク特定部104は、max及びminにそれぞれ-∞を代入する(ステップS211)。
【0067】
ステップS209においてy[i]>min+δ、かつ、y[i:i+L]の最小値>minであると判定されなかった場合又はステップS209若しくはステップS211に続いて、ピーク特定部104は、i+L≧Mであるか否かを判定する(ステップS212)。なお、Mは、L2ノルムの時系列データ{(x[i],y[i])}に含まれるデータの件数である。
【0068】
ステップS212においてi+L≧Mであると判定されなかった場合、ピーク特定部104は、iにi+1を代入する(ステップS213)。すなわち、ピーク特定部104は、iの値をインクリメントする。そして、ピーク特定部104は、インクリメント後のiを用いて、ステップS202以降の処理を実行する。
【0069】
一方で、ステップS212においてi+L≧Mであると判定された場合(すなわち、i+L=Mである場合)、ピーク特定部104は、ピーク特定処理を終了する。このとき極大ピークリストに含まれるy[i]が極大ピークである。また、このとき極小ピークリストに含まれるy[i]が極小ピークである。
【0070】
ここで、一例として、M=20、先読み長L=5及びδ=55として、或るL2ノルムの時系列データ{(x[i],y[i])} (i=0,・・・,19)のピークを実施例2により特定した場合を図7に示す。
【0071】
図7に示すように、y[2]は、上記のステップS206の条件(y[i]<max-δ、かつ、y[i:i+L]の最大値<max)を満たさないため、極大ピークとならない。これは、このときのmaxはy[2]である一方、y[2:7]の最大値はy[7]であり、y[2]<y[7]であるためである。同様に、y[12]も上記のステップS206の条件を満たさないため、極大ピークとならない。
【0072】
一方で、図7に示すように、y[8]は、上記のステップS206の条件を満たすため、極大ピークと特定される。同様に、y[3]及びy[13]は極小ピークと特定される。
【0073】
また、M=20、先読み長L=5である場合、ピーク特定部104によりピークか否かが判定されるのはy[0]~y[15]である。このため、y[18]は極大ピークと特定されない。
【0074】
なお、図6では、ステップS206とステップS209とで共通のパラメータδを用いたが、例えば、ステップS206とステップS209とで異なる値のパラメータδを用いても良い。
【0075】
<第一の実施形態のまとめ>
以上のように、本実施形態に係る特定システム1は、所定の時間幅における加速度センサ値のL2ノルムのピーク数が所定の閾値Th以上であるか否かを判定することで、当該時間幅の間における牛の行動が採食行動であるか又は採食行動でないかを特定する。これにより、上述したように、本実施形態に係る特定装置10のユーザ(例えば、畜産農家等)は、牛が採食行動を行ったか否かを管理することができ、例えば、採食行動が行われていない牛が存在する場合には、その原因等を調査し、例えば、飼料を変える、餌場のレイアウトを変える等の種々の対策を行うことができるようになる。
【0076】
なお、上述した実施例1及び実施例2では、パラメータδを用いてピークを特定したが、このパラメータδの値は実施例1と実施例2とで異なっていても良い。また、図4のステップS105で用いられる閾値Thは、実施例1を用いる場合と実施例2を用いる場合とで異なる値が設定されることが好ましい。更に、実施例1及び実施例2では、極大ピークと極小ピークとの両方を特定したが、これに限られず、極大ピーク又は極小ピークのいずれか一方のみを特定しても良い。
【0077】
例えば、10分間における2秒毎のL2ノルムの時系列データ{(x[i],y[i])} (i=0,・・・,299)のピークをL=5、δ=55として特定した場合、閾値Thとしては、例えば、Th=3~10程度が好ましい。特に、Th=5とした場合に牛の採食行動を良好に特定できることが実験によって検証された。
【0078】
なお、牛の採食行動を良好に特定できるパラメータの値(すなわち、L、δ及びThの値)を決定する方法としては種々の方法が考えられるが、例えば、グリッドサーチ等によって決定することができる。
【0079】
[第二の実施形態]
次に、第二の実施形態について説明する。第一の実施形態では、特定されたピークが閾値Th以上であるか否かにより、牛の行動が採食行動であるか又は採食行動でないかを特定した。しかしながら、第一の実施形態では、例えば、牛が首を振る行動や他の牛とじゃれあっている等の行動を行っている場合に、当該行動を採食行動と誤って特定してしまうことがあった。そこで、第二の実施形態では、採食行動と誤って特定されてしまう場合を減少させることが可能な特定システム1について説明する。
【0080】
なお、第二の実施形態では、主に、第一の実施形態との相違点を説明し、第一の実施形態と同様の構成要素については、同一の符号を付与し、その説明を省略する。
【0081】
<採食行動の特定>
以降では、牛の採食行動を特定する処理について、図8を参照しながら説明する。図8は、第二の実施形態に係る採食行動の特定処理の一例を示すフローチャートである。なお、図8のステップS101~ステップS103は、図4と同様であるため、その説明を省略する。
【0082】
ステップS103に続いて、ピーク特定部104は、予め設定されたパラメータを用いて、ノルム算出部103によって得られたL2ノルムの時系列データ{(x[i],y[i])} (i=0,・・・,M-1)のピークを特定する(ステップS301)。ここで、第二の実施形態では、各極大ピークには、第1の傾きと、第1の差分と、第1の間隔とが対応付けられている。同様に、各極小ピークには、第2の傾きと、第2の差分と、第2の間隔とが対応付けられている。
【0083】
第1の傾きとは、当該極大ピークの直前の極小ピークと、当該極大ピークとを結ぶ直線の傾きのことである。第1の差分とは、当該極大ピークと、L2ノルムの中央値との差分のことである。ただし、第1の差分の算出にあたって、L2ノルムの中央値の代わりに、例えば、所定の時間幅(例えば10分間)の間における全ての極大ピークと極小ピークとの中央値が用いられても良い。第1の間隔とは、当該極大ピークと、当該極大ピークの1つ前の極大ピークとの間隔(x方向の間隔)のことである。
【0084】
同様に、第2の傾きとは、当該極小ピークの直前の極大ピークと、当該極小ピークとを結ぶ直線の傾きのことである。第2の差分とは、当該極小ピークと、L2ノルムの中央値との差分のことである。ただし、第2の差分の算出にあたっても同様に、L2ノルムの中央値の代わりに、例えば、所定の時間幅(例えば10分間)の間における全ての極大ピークと極小ピークとの中央値が用いられても良い。第2の間隔とは、当該極小ピークと、当該極小ピークの1つ前の極小ピークとの間隔(x方向の間隔)のことである。
【0085】
これらの第1の傾き、第1の差分及び第1の間隔(又は、第2の傾き、第2の差分及び第2の間隔)が対応付けられたピーク(極大ピーク及び極小ピーク)を特定する処理の詳細については後述する。また、この処理の詳細において、第1の傾き、第1の差分、第1の間隔、第2の傾き、第2の差分及び第2の間隔の算出方法についても説明する。
【0086】
次に、採食特定部105は、ピーク特定部104により特定されたピークのうち、所定の条件を満たすピークを除外する(ステップS302)。ここで、所定の条件とは、以下の(1-1)~(1-3)及び(2-1)~(2-3)が挙げられる。すなわち、採食特定部105は、(1-1)~(1-3)のいずれかの条件を満たす極大ピークを除外する。同様に、採食特定部105は、(2-1)~(2-3)のいずれかの条件を満たす極小ピークを除外する。
【0087】
(1-1)極大ピークに対応付けられている第1の傾きが所定の閾値Tha,1以上
(1-2)極大ピークに対応付けられている第1の差分が所定の閾値Thd,1以上
(1-3)極大ピークに対応付けられている第1の間隔が所定の閾値Ths,1以上
(2-1)極小ピークに対応付けられている第2の傾きの絶対値が所定の閾値Tha,2以上
(2-2)極小ピークに対応付けられている第2の差分の絶対値が所定の閾値Thd,2以上
(2-3)極小ピークに対応付けられている第2の間隔が所定の閾値Ths,2以上
ここで、閾値Tha,1としては、例えば、Tha,1=70とすることが挙げられる。また、閾値Ths,1としては、例えば、Ths,1=300とすることが挙げられる。また、閾値Ths,1としては、例えば、Ths,1=80(秒)とすることが挙げられる。なお、閾値Tha,2としては、例えば、Tha,2=Tha,1等とすれば良い。同様に、閾値Thd,2としては、例えば、Thd,2=Thd,1等とすれば良い。同様に、閾値Ths,2としては、例えば、Ths,2=Ths,1とすれば良い。
【0088】
なお、上記の条件(1-1)、(1-2)、(2-1)及び(2-2)は、採食行動時に現れる可能性が低い、急激が動きを示すピークを除外することを意味する。他方で、通常、採食時には首や頭がほぼ一定のリズムで動くため、特定されるピークの間隔もほぼ一定になる傾向がある。これに対して、例えば、首を振る、他の牛に舐められる等の行動ではピークの間隔が一定でない場合が多く、採食時と比べてピークの間隔も大きくなる傾向がある。上記の条件(1-3)及び(2-3)は、このような、採食時と比べて間隔が大きくなるピークを除外することを意味する。
【0089】
次に、採食特定部105は、上記のステップS104の除外後のピーク数が所定の閾値Th以上であるか否かを判定する(ステップS303)。ここで、採食特定部105は、上記のステップS104の除外後の極大ピークのピーク数が閾値Th以上であるか否かを判定しても良いし、上記のステップS104の除外後の極小ピークのピーク数が閾値Th以上であるか否かを判定しても良い。本実施形態では、一例として、除外後の極大ピークのピーク数が閾値Th以上であるか否かを判定したものとする。
【0090】
ステップS303において、除外後の極大ピークのピーク数が閾値Th以上であると判定した場合、採食特定部105は、当該時間幅の間(すなわち、10分間)における牛の行動を採食行動と特定する(ステップS304)。
【0091】
一方で、ステップS303において、除外後の極大ピークのピーク数が閾値Th以上であると判定しなかった場合(すなわち、除外後の極大ピークのピーク数が閾値Th未満であると判定した場合)、採食特定部105は、当該時間幅の間(すなわち、10分間)における牛の行動を採食行動でないと特定する(ステップS305)。
【0092】
以上のように、本実施形態に係る特定システム1は、所定の時間幅における加速度センサ値のL2ノルムのピークのうち、所定の条件を満たすピークを除いたピークの数が所定の閾値Th以上であるか否かを判定することで、当該時間幅の間における牛の行動が採食行動であるか又は採食行動でないかを特定する。これにより、例えば、牛が首を振る行動や他の牛とじゃれあっている等の行動を行っている場合に、当該行動を採食行動と誤って特定してしまう事態を減少させることができる。
【0093】
<ピークの特定>
以降では、上記のステップS301の処理(ピーク特定処理)の詳細について、図9を参照しながら説明する。図9は、第二の実施形態に係るピーク特定処理の一例を示すフローチャートである。なお、図9のステップS201~ステップS206、ステップS208~ステップS209及びステップS211~ステップS213は、図6と同様であるため、その説明を省略する。以降では、第1の傾きを示す変数、第1の差分を示す変数及び第1の間隔を示す変数を、それぞれmax_a,max_d及びmax_sとする。同様に、第2の傾きを示す変数、第2の差分を示す変数及び第2の間隔を示す変数を、それぞれmin_a,min_d及びmin_sとする。
【0094】
ステップS206においてy[i]<max-δ、かつ、y[i:i+L]の最大値<maxであると判定された場合、ピーク特定部104は、組(max,max_pos,max_a,max_d,max_s)を極大ピークリストに追加する(ステップS401)。第一の実施形態と同様に、max(すなわち、このmaxに代入されたy[i])が極大ピークである。max_pos(すなわち、このmax_posに代入されたx[i])が当該極大ピークの日時である。
【0095】
ここで、max_aには、当該y[i]及びx[i]と、極小ピークリストに含まれる極小ピークのうちの最も日時が新しい極小ピーク(すなわち、現時点で、極小ピークリストに最後に追加された極小ピーク)及び当該日時とにより算出された第1の傾きが代入される。すなわち、当該極小ピークをy[i´]、当該極小ピークの日時をx[i´]とすれば、第1の傾きは、(y[i]-y[i´])/(x[i]-x[i´])で算出される。
【0096】
また、max_dには、当該y[i]と、全てのy[i](i=0,・・・,M-1)の上限値及び下限値の中央値とにより算出された第1の差分が代入される。すなわち、y[i](i=0,・・・,M-1)の上限値及び下限値の中央値(中間値)をμとすれば、第1の差分は、y[i]-μで算出される。なお、上述したように、例えば、μは、所定の時間幅(例えば10分間)の間における全ての極大ピークy[i]と極小ピークy[i´]との中央値であっても良い。この場合、所定の時間幅の間における全ての極大ピークy[i]と極小ピークy[i´]とがそれぞれ極大ピークリストと極小ピークリストとに追加された後に、μを算出すると共にmax_dを算出すれば良い。
【0097】
更に、max_sには、当該x[i]と、1つ前の極大ピークの日時とにより算出された第1の間隔が代入される。すなわち、1つ前の極大ピークの日時をx[i´´]とすれば、第1の間隔は、x[i]-x[i´´]で算出される。
【0098】
これにより、極大ピークリストには、極大ピークと、日時と、第1の傾きと、第1の差分と、第1の間隔とが対応付けて格納される。
【0099】
ステップS209においてy[i]>min+δ、かつ、y[i:i+L]の最小値>minであると判定された場合、ピーク特定部104は、組(min,min_pos,min_a,min_d,min_s)を極小ピークリストに追加する(ステップS402)。第一の実施形態と同様に、min(すなわち、このminに代入されたy[i])が極小ピークである。min_pos(すなわち、このmin_posに代入されたx[i])が当該極小ピークの日時である。
【0100】
ここで、min_aには、当該y[i]及びx[i]と、極大ピークリストに含まれる極大ピークのうちの最も日時が新しい極大ピーク(すなわち、現時点で、極大ピークリストに最後に追加された極大ピーク)及び当該日時とにより算出された第2の傾きが代入される。すなわち、当該極大ピークをy[i´]、当該極大ピークの日時をx[i´]とすれば、第2の傾きは、(y[i]-y[i´])/(x[i]-x[i´])で算出される。
【0101】
また、min_dには、当該y[i]と、全てのy[i](i=0,・・・,M-1)の上限値及び下限値の中央値とにより算出された第2の差分が代入される。すなわち、y[i](i=0,・・・,M-1)の上限値及び下限値の中央値(中間値)をμとすれば、第2の差分は、y[i]-μで算出される。なお、上述したように、例えば、μは、所定の時間幅(例えば10分間)の間における全ての極大ピークy[i]と極小ピークy[i´]との中央値であっても良い。この場合、所定の時間幅の間における全ての極大ピークy[i]と極小ピークy[i´]とがそれぞれ極大ピークリストと極小ピークリストとに追加された後に、μを算出すると共にmin_dを算出すれば良い。
【0102】
更に、min_sには、当該x[i]と、1つ前の極小ピークの日時とにより算出された第2の間隔が代入される。すなわち、1つ前の極小ピークの日時をx[i´´]とすれば、第2の間隔は、x[i]-x[i´´]で算出される。
【0103】
これにより、極小ピークリストには、極小ピークと、日時と、第2の傾きと、第2の差分と、第2の間隔とが対応付けて格納される。
【0104】
<第二の実施形態のまとめ>
以上のように、本実施形態に係る特定システム1は、所定の時間幅における加速度センサ値のL2ノルムのピークのうち、所定の条件を満たすピークを除いたピークの数が所定の閾値Th以上であるか否かを判定することで、当該時間幅の間における牛の行動が採食行動であるか又は採食行動でないかを特定する。これにより、上述したように、例えば、牛が首を振る行動や他の牛とじゃれあっている等の行動を行っている場合に、当該行動を採食行動と誤って特定してしまう事態を減少させることができる。したがって、本実施形態に係る特定システム1によれば、第一の実施形態よりも高い精度で採食行動を特定することができるようになる。
【0105】
[第三の実施形態]
次に、第三の実施形態について説明する。第一の実施形態では、特定されたピークが閾値Th以上であるか否かにより、牛の行動が採食行動であるか又は採食行動でないかを特定した。しかしながら、第一の実施形態では、例えば、牛の発情時等に発生する継続的な動きを採食行動と誤って特定してしまうことがあった。そこで、第三の実施形態では、採食行動と誤って特定されてしまう場合を減少させることが可能な特定システム1について説明する。
【0106】
なお、第三の実施形態では、主に、第一の実施形態との相違点を説明し、第一の実施形態と同様の構成要素については、同一の符号を付与し、その説明を省略する。
【0107】
<特定処理部100の機能構成>
まず、本実施形態に係る特定処理部100の機能構成について、図10を参照しながら説明する。図10は、第三の実施形態に係る特定処理部100の機能構成の一例を示す図である。
【0108】
図10に示すように、本実施形態に係る特定処理部100は、更に、タグ向き特定部106を有する。タグ向き特定部106は、牛に装着されているタグ20の向きが正方向又は負方向のいずれであるかを特定する。ここで、タグ20の向きが正方向であるとは、タグ20が牛の首部分にねじれなく装着されている場合に、当該タグ20に固定されている所定の直交座標系の或る特定の軸の正の方向と、牛の前方方向とが同じ側であるときのことである。一方で、タグ20の向きが負方向であるとは、タグ20が牛の首部分にねじれなく装着されている場合に、当該直交座標系の或る特定の軸の負の方向と、牛の前方方向とが同じ側であるときのことである。
【0109】
本実施形態では、タグ20は牛の首部分下方に装着されているものとし、タグ20の特定の軸はY軸であるものとして説明する。また、タグ20が牛の首部分下方にねじれなく装着されている状態で、Y軸が水平方向と平行であり、かつ、Y軸の正の方向が牛の前方方向であるとした場合に、Z軸は、鉛直面内でY軸に直交する軸であり、正の方向は重力方向であるものとする。なお、X軸は、例えば、Y軸及びZ軸と直交し、Y軸及びZ軸と左手系座標を構成する座標軸とすれば良い。
【0110】
このとき、本実施形態に係る採食特定部105は、タグ20の向き(以降、「タグ向き」とも表す。)が正方向又は負方向のいずれであるかに応じて、所定の時間幅(例えば、10分間)における加速度センサ値のY成分の平均値(以降、「Y成分平均」とも表す。)から算出される所定の指標値と、所定の閾値との大小関係から採食行動であるか否かを特定する。
【0111】
<採食行動の特定>
以降では、牛の採食行動を特定する処理について、図11を参照しながら説明する。図11は、第三の実施形態に係る採食行動の特定処理の一例を示すフローチャートである。なお、図8のステップS101~ステップS107は、図4と同様であるため、その説明を省略する。
【0112】
ステップS105において、ピーク特定部104により特定されたピーク数が閾値Th以上であると判定した場合、特定処理部100は、牛に装着されているタグ20の向きが正方向又は負方向のいずれであるかを特定する(ステップS501)。ここで、後述するように、タグ20の向きを特定する処理では、指標値の一例であるYZ値が所定の時間幅におけるY成分平均から算出される。なお、タグ20の向きを特定する処理の詳細については後述する。
【0113】
次に、採食特定部105は、上記のステップS501で特定したタグ向きが正方向又は負方向のいずれであるかを判定する(ステップS502)。
【0114】
ステップS502において、タグ向きが正方向であると判定された場合、採食特定部105は、ステップS101で取得された測定データの時間幅(例えば、10分間)の間におけるYZ値が所定の閾値L以上であるか否かを判定する(ステップS503)。ここで、この閾値Lは、例えば、後述するY及びYと、0<C<1なる定数Cを用いて、L=(Y-Y)×Cで表される。Cとしては、例えば、0.4等とすれば良い。
【0115】
これにより、YZ値が閾値L以上であると判定された場合、当該時間幅の間における牛の行動が採食行動であると特定される。一方で、YZ値が閾値L以上でないと判定された場合、当該時間幅の間における牛の行動は採食行動でないと判定される。
【0116】
ステップS502において、タグ向きが負方向であると判定された場合、採食特定部105は、ステップS101で取得された測定データの時間幅(例えば、10分間)の間におけるYZ値が所定の閾値L以下であるか否かを判定する(ステップS504)。ここで、この閾値Lは、閾値Lと同様に、例えば、後述するY及びYと、0<C<1なる定数Cを用いて、L=(Y-Y)×Cで表される。Cとしては、例えば、0.4等とすれば良い。
【0117】
これにより、YZ値が閾値L以下であると判定された場合、当該時間幅の間における牛の行動が採食行動であると特定される。一方で、YZ値が閾値L以下でないと判定された場合、当該時間幅の間における牛の行動は採食行動でないと判定される。
【0118】
以上のように、本実施形態に係る特定システム1は、タグ20の向きに応じて、所定の時間幅における指標値(YZ値)が所定の閾値以上又は以下であるかを判定することで、当該時間幅の間における牛の行動が採食行動であるか又は採食行動でないかを特定する。これにより、例えば、牛の発情時等に発生する継続的な動き(すなわち、牛が首を上げている状態での継続的な動き)を採食行動と誤って特定してしまう事態を減少させることができる。
【0119】
<タグ向きの特定>
以降では、上記のステップS501の処理(タグ20の向きを特定する処理)の詳細について、図12を参照しながら説明する。図12は、第三の実施形態に係るタグ向き特定処理の一例を示すフローチャートである。
【0120】
まず、取得部101は、該当のタグID(例えば、タグID「Tag1」)の過去24時間の間のY成分の加速度センサ値とZ成分の加速度センサ値とを測定データ記憶部200から取得する(ステップS601)。なお、過去24時間の間は一例であって、任意の時間の間のY成分の加速度センサ値とZ成分の加速度センサ値とが取得されても良い。
【0121】
次に、タグ向き特定部106は、10分毎に、以下の指標値を計算する(ステップS602)。
【0122】
・YZ値=Y成分平均×sign(Z成分平均)
・Y成分標準偏差
ここで、Y成分平均は、上述したように、10分の間における加速度センサ値のY成分の平均である。また、Z成分平均は、10分の間における加速度センサ値のZ成分の平均である。また、Y成分標準偏差は、10分の間における加速度センサ値のY成分の標準偏差である。signは符号関数である。ただし、sign(0)は正を返すものとする。
【0123】
上記に定義したYZ値を指標値として用いることで、例えば、牛に装着されているタグ20にねじれが発生した場合であっても、ねじれの発生に伴うY成分の符号反転の影響が無い指標値を用いることができるようになる。すなわち、タグ20にねじれが発生した場合、Y成分とZ成分との符号が共に反転するため、Y成分平均に対してZ成分平均の符号の乗ずることで、ねじれの発生に伴うY成分の符号反転の影響を無くすことができる。
【0124】
なお、上記の10分毎に上記の指標値を計算することは一例であって、任意の時間幅毎に上記の指標値を計算しても良い。
【0125】
次に、タグ向き特定部106は、上記のステップS602で計算したYZ値のうち、Y成分標準偏差が所定の閾値Sを超えているYZ値の中央値Yを算出する(ステップS603)。ここで、閾値Sは任意の値に設定することができるが、例えば、S=150等とすれば良い。
【0126】
次に、タグ向き特定部106は、上記のステップS602で計算したYZ値のうち、Y成分標準偏差が所定の閾値Sを下回っているYZ値の中央値Yを算出する(ステップS604)。ここで、閾値Sは任意の値に設定することができるが、例えば、S=40等とすれば良い。
【0127】
最後に、タグ向き特定部106は、タグ向き=sign(Y-Y)によりタグ向きを特定する(ステップS605)。これにより、sign(Y-Y)が正の場合はタグ向きが「正方向」、sign(Y-Y)が負の場合はタグ向きが「負方向」と特定される。
【0128】
なお、上記のステップS604は実行されなくても良い。この場合、上記のステップS605では、タグ向き=sign(Y)によりタグ向きを特定すれば良い。
【0129】
<第三の実施形態のまとめ>
以上のように、本実施形態に係る特定システム1は、タグ20の向きも考慮して、所定の時間幅におけるY成分平均から算出される指標値(YZ値)により、当該時間幅の間における牛の行動が採食行動であるか又は採食行動でないかを特定する。これにより、上述したように、例えば、牛の発情時等に発生する継続的な動き(すなわち、牛が首を上げている状態での継続的な動き)を採食行動と誤って特定してしまう事態を減少させることができる。
【0130】
本発明は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更、各実施形態の組み合わせ等が可能である。
【符号の説明】
【0131】
1 特定システム
10 特定装置
20 タグ
100 特定処理部
101 取得部
102 前処理部
103 ノルム算出部
104 ピーク特定部
105 採食特定部
200 測定データ記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12