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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ポリウレタンフォーム用薬液組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/48 20060101AFI20220614BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20220614BHJP
   C08G 18/50 20060101ALI20220614BHJP
   C08G 18/54 20060101ALI20220614BHJP
   C08G 18/40 20060101ALI20220614BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20220614BHJP
   C08G 18/22 20060101ALI20220614BHJP
   C08G 101/00 20060101ALN20220614BHJP
【FI】
C08G18/48
C08G18/08 038
C08G18/48 004
C08G18/50 021
C08G18/54
C08G18/40 027
C08G18/32 018
C08G18/22
C08G101:00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018162856
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020033502
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼ 智裕
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-025243(JP,A)
【文献】特開平06-107761(JP,A)
【文献】特開平04-059839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールを主成分とするA液と、ポリイソシアネートを主成分とするB液とからなるポリウレタンフォーム用薬液組成物において、
前記ポリオールが、i)水酸基価が30~700mgKOH/gであるポリエーテルポリオールを、90質量%以上の割合において含有しており、且つ、ii)開始剤に付加されたアルキレンオキサイドの95質量%以上がプロピレンオキサイドであるポリエーテルポリオールを、60質量%以上の割合において含有しており、
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、スチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t-ブチルジカーボネート及びジフェニルカーボネートからなる群より選ばれる1種又は2種以上のカーボネート化合物及びリン酸エステルが、それぞれ独立して、前記A液及びB液のうちの少なくとも何れか一方に含有せしめられており、
前記カーボネート化合物が、前記ポリオールの100質量部に対して、0.3~12質量部の割合において含有せしめられている
ことを特徴とするポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項2】
前記リン酸エステルが、前記ポリオールの100質量部に対して、20~70質量部の割合において含有せしめられている請求項1に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項3】
前記ポリエーテルポリオールが、プロピレングリコール、グリセリン又はビスフェノールAの何れかを開始剤として、これにプロピレンオキサイドを付加せしめてなるポリプロピレングリコールを含有する請求項1又は請求項2に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項4】
前記ポリエーテルポリオールが、エチレンジアミンを開始剤として、これにプロピレンオキサイドを付加せしめてなるポリプロピレングリコールを更に含有する請求項3に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項5】
前記ポリオールが、マンニッヒ系ポリエーテルポリオールを10~40質量%の割合において含有する請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項6】
前記カーボネート化合物がプロピレンカーボネートである請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項7】
前記A液に触媒が含有せしめられている請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項8】
前記触媒が酢酸金属塩を含むものである請求項7に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項9】
前記酢酸金属塩が酢酸カリウムである請求項8に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【請求項10】
発泡剤としての水が、前記ポリオールの100質量部に対して1~10質量部の割合において、前記A液に含有せしめられている請求項1乃至請求項9の何れか1項に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンフォーム用薬液組成物に係り、特に、トンネル工事における注入裏込め工法等において有利に用いられるポリウレタンフォーム用薬液組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンフォームは、断熱性や接着性に優れ、また比較的に軽量であることから、従来より、土木分野や建築分野等において広く使用されている。例えば、トンネル工事においては、トンネル覆工と背面の地山との間に生じた空隙や、施工時に取り残された空隙に、ポリオール、ポリイソシアネート及び触媒等を含む混合溶液を注入し、かかる空隙内にて発泡・硬化させることにより、覆工厚を確保したり、覆工にかかる土圧を均一化して、トンネルの崩壊を防ぐことを目的とする工法(注入裏込め工法)が知られている。
【0003】
上述した注入裏込め工法を始めとする土木分野における種々の工法において、或いは、建築分野やその他の分野において、様々な態様で使用されるポリウレタンフォームやその製造方法については、従来より、各種のものが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開平8-268151号公報)においては、ポリイソシアネート類とポリオール類とを密閉系型中で発泡反応させてポリウレタンフォームを製造する方法として、ポリオール類の重量に対して所定割合の量のアルキレン(炭素数2~4)カーボネートと、所定のギ酸塩含有組成物とを必須に用いることを特徴とする方法が開示されている。また、特許文献2(特開2010-53268号公報)には、硬質ポリウレタンフォーム用ポリオール組成物として、芳香族系ポリエステルポリオールを所定割合において含むポリオール化合物と、リン酸エステル系難燃剤を所定割合にて含有する組成物が、開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の方法に従い、厚肉のブロック状のポリウレタンフォームを製造すると、ポリオールとポリイソシアネートとが反応する際に生じる反応熱がポリウレタンフォームの内部に蓄積され、かかる熱によってポリウレタンフォームの内部が焼け、ポリウレタンフォーム全体が黄色に変色する現象(スコーチ)が発生したり、場合によってはポリウレタンフォームが自己発火する恐れがある。また、特許文献2に開示の硬質ポリウレタンフォーム用組成物を用いて、厚肉のブロック状のポリウレタンフォームを製造すると、熱収縮やひずみによって、ポリウレタンフォームの内部にクラックが発生する恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-268151号公報
【文献】特開2010-53268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、比較的厚肉のポリウレタンフォームを製造した場合でも、反応熱によるスコーチの発生が有利に抑制され、また、自己発火の危険性も著しく低減され、更には熱収縮やひずみによるフォーム内部におけるクラックの発生も有利に抑制され得るポリウレタンフォーム用薬液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明は、上記した課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組合せにおいて、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載から把握される発明思想に基づいて理解されるものであることが、考慮されるべきである。
【0009】
(1) ポリオールを主成分とするA液と、ポリイソシアネートを主成分とするB液とか らなるポリウレタンフォーム用薬液組成物において、前記ポリオールが、i)水酸 基価が30~700mgKOH/gであるポリエーテルポリオールを、90質量% 以上の割合において含有しており、且つ、ii)開始剤に付加されたアルキレンオキ サイドの95質量%以上がプロピレンオキサイドであるポリエーテルポリオールを 、60質量%以上の割合において含有しており、エチレンカーボネート、プロピレ ンカーボネート、ブチレンカーボネート、スチレンカーボネート、イソブチレンカ ーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t-ブチルジカ ーボネート及びジフェニルカーボネートからなる群より選ばれる1種又は2種以上 カーボネート化合物及びリン酸エステルが、それぞれ独立して、前記A液及び B液のうちの少なくとも何れか一方に含有せしめられており、前記カーボネート化 合物が、前記ポリオールの100質量部に対して、0.3~12質量部の割合にお いて含有せしめられている、ことを特徴とするポリウレタンフォーム用薬液組成物 。
(2) 前記リン酸エステルが、前記ポリオールの100質量部に対して、20~70質 量部の割合において含有せしめられている前記態様(1)に記載のポリウレタンフ ォーム用薬液組成物。
(3) 前記ポリエーテルポリオールが、プロピレングリコール、グリセリン又はビスフ ェノールAの何れかを開始剤として、これにプロピレンオキサイドを付加せしめて なるポリプロピレングリコールを含有する前記態様(1)又は前記態様(2)に記 載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
(4) 前記ポリエーテルポリオールが、エチレンジアミンを開始剤として、これにプロ ピレンオキサイドを付加せしめてなるポリプロピレングリコールを更に含有する前 記態様(3)に記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
(5) 前記ポリオールが、マンニッヒ系ポリエーテルポリオールを10~40質量%の 割合において含有する前記態様(1)乃至前記態様(4)の何れか1つに記載のポ リウレタンフォーム用薬液組成物。
(6) 前記カーボネート化合物がプロピレンカーボネートである前記態様(1)乃至前 記態様(5)の何れか1つに記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
(7) 前記A液に触媒が含有せしめられている前記態様(1)乃至前記態様(6)の何 れか1つに記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
(8) 前記触媒が酢酸金属塩を含むものである前記態様(7)に記載のポリウレタンフ ォーム用薬液組成物。
(9) 前記酢酸金属塩が酢酸カリウムである前記態様(8)に記載のポリウレタンフォ ーム用薬液組成物。
(10) 発泡剤としての水が、前記ポリオールの100質量部に対して1~10質量部 の割合において、前記A液に含有せしめられている前記態様(1)乃至前記態様 (9)の何れか1つに記載のポリウレタンフォーム用薬液組成物。
【発明の効果】
【0010】
そして、このような本発明に従うポリウレタンフォーム用薬液組成物の構成によれば、以下に列挙せる如き各種の効果が奏され得ることとなるのである。
(1) 本発明のポリウレタンフォーム用薬液組成物における必須成分たるカーボネー ト化合物が、a)ポリオールとポリイソシアネートとが反応する際に発泡助剤と して機能し、かかる反応において炭酸ガスがより早期に発生して、A液とB液と の混合液の泡化が向上し、混合液の硬化(発泡体の形成)が有利に早められ、ま た、b)混合液の混合性を向上させて、発泡体中のセルの均一化が向上せしめら れるところから、例えば、厚肉の成形体(発泡体)を形成する各種の用途におい て使用された場合でも、かかる成形体(発泡体)の内部におけるクラックの発生 が抑制される。
(2) カーボネート化合物によって、A液とB液との混合液における泡化から硬化ま での反応が迅速に進行するため、結果的に使用する触媒の量を少なくすることが 出来、また、本発明のポリウレタンフォーム用薬液組成物には難燃性のリン酸エ ステルも含有せしめられていることから、厚肉の成形体(発泡体)を作製した場 合にあっても、かかる成形体(発泡体)内部におけるスコーチの発生が効果的に 抑制される。
(3) 本発明のポリウレタンフォーム用薬液組成物においては、カーボネート化合物 及びリン酸エステルと共に、ポリオールとして、所定の特性を有するポリエーテ ルポリオールを含むポリオールが必須成分とされているのであり、そのような特 定のポリオールと、カーボネート化合物及びリン酸エステルとを併用することに より、上記した成形体(発泡体)内部におけるクラックやスコーチの発生が、よ り効果的に抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
要するに、本発明は、ポリオールを主成分とするA液とポリイソシアネートを主成分とするB液とからなる、二液型のポリウレタンフォーム用薬液組成物(以下、単に薬液組成物ともいう)において、A液の主成分たるポリオールとして、所定の特性を有するポリエーテルポリオールの一種又は二種以上を、所定の割合にて用いると共に、A液及びB液のうちの少なくとも何れか一方に、カーボネート化合物及びリン酸エステルが含有せしめられて、構成されるものである。以下においては、先ず、本発明の薬液組成物における必須成分について、各々、詳述する。
【0012】
(ポリオール)
本発明に係るポリウレタンフォーム用薬液組成物において、A液の主成分たるポリオールは、i)水酸基価が30~700mgKOH/gであるポリエーテルポリオールを、90質量%以上の割合において含有しており、且つ、ii)開始剤に付加されたアルキレンオキサイドの95質量%以上がプロピレンオキサイドであるポリエーテルポリオールを、60質量%以上の割合において含有しているものである。このような所定の特性を有するポリエーテルポリオールを所定の割合において含むポリオールと、後述するカーボネート化合物及びリン酸エステルとを併用することにより、本発明の目的が効果的に達成されるのである。
【0013】
具体的に、本発明におけるポリオールとして、水酸基価が30~700mgKOH/gであるポリエーテルポリオールを、90質量%未満の割合において含有するポリオールを用いると、得られる発泡体において、クラック(亀裂)及びスコーチ(ポリウレタンフォームの内部が反応熱によって焼け、ポリウレタンフォーム全体が黄色に変色する現象)の発生を効果的に抑制することが出来ない恐れがある。また、ポリオールの90質量%以上の割合において含有せしめられるポリエーテルポリオールの水酸基価は、30~700mgKOH/g、好ましくは100~600mgKOH/g、より好ましくは200~550mgKOH/gである。水酸基価が30mgKOH/g未満のポリエーテルポリオールを使用すると、発泡体内部においてクラックが発生し易くなる等、本発明の目的が十分に達成されない恐れがあり、その一方、水酸基価が700mgKOH/gを超えるポリエーテルポリオールを用いると、発泡体内部においてクラック及びスコーチが発生し易くなる恐れがある。
【0014】
また、本発明におけるポリオールとして、開始剤に付加されたアルキレンオキサイドの95質量%以上がプロピレンオキサイドであるポリエーテルポリオールを、60質量%未満の割合において含有するポリオールを用いた場合にあっても、クラック及びスコーチの発生を効果的に抑制することが出来ない恐れがある。
【0015】
ところで、ポリエーテルポリオールは、一般に、少なくとも2個以上の活性水素基を有する化合物、例えば、多価アルコール類、脂肪族アミン類、芳香族アミン類やマンニッヒ縮合物等を開始剤として用い、これに、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加させることからなる付加反応又は付加重合反応により、製造されるものである。なお、その製造の際に使用される多価アルコール類等としては、具体的に、1)多価アルコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、10-デカンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼン、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、グルコース、マンノース、ソルビトール、マンニトール、ソルビタン、ジペンタエリスリトール、フルクトース、スクロース、メチルグルコシド等を、2)脂肪族アミン類としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ネオペンチルジアミン等のアルキレンジアミン類、ジエチレントリアミン等のアルキレントリアミン類、更には、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類等を、3)芳香族アミン類としては、2,4-トルエンジアミン、2,6-トルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、p-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、ナフタレンジアミン等を、4)マンニッヒ縮合物としては、フェノール、ノニルフェノール、クレゾール、ビスフェノールAやレゾルシノール等のフェノール類と、ホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒド等のアルデヒド類と、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、1-アミノ-2-プロパノールやアミノエチルエタノールアミン等のアルカノールアミン類とを反応させて得られる化合物等を、各々、例示することが出来る。
【0016】
上述したポリエーテルポリオールの中でも、本発明においては、プロピレングリコール、グリセリン又はビスフェノールAの何れかを開始剤として、これにプロピレンオキサイドを付加せしめてなるポリプロピレングリコール(以下、ポリエーテルポリオールαという。)が、有利に用いられる。2種以上のポリエーテルポリオールを使用する場合には、他のポリエーテルポリオールの使用量(使用割合)よりポリエーテルポリオールαの使用量(使用割合)が多くなるよう、調整されることが好ましい。
【0017】
また、上記ポリエーテルポリオールαを用いる場合には、かかるポリエーテルポリオールαと共に、エチレンジアミンを開始剤として、これにプロピレンオキサイドを付加せしめてなるポリプロピレングリコール(以下、ポリエーテルポリオールβという。)を併用することが好ましい。このポリエーテルポリオールβを用いることにより、発泡体内部におけるクラックの発生をより効果的に抑制し、また、得られる発泡体の強度を有利に向上せしめることが出来る。なお、ポリエーテルポリオールβを用いる場合、その使用割合は、ポリオール中の10~40質量%、好ましくは20~35質量%とされる。ポリエーテルポリオールβのポリオール中の使用割合が10質量%未満では、ポリエーテルポリオールβの使用効果は認められず、その一方で使用割合が40質量%を超えると、得られる発泡体の耐水性が低下する恐れがある。
【0018】
一方、本発明においては、マンニッヒ系ポリエーテルポリオール(マンニッヒ縮合物にアルキレンオキサイドを付加させて得られるポリエーテルポリオール)を、10~40質量%の割合において、好ましくは20~35質量%の割合において、含有するポリオールが、有利に用いられる。マンニッヒ系ポリエーテルポリオールを含むポリオールを使用すると、ポリオールとポリイソシアネートとの反応速度が速くなることから触媒の使用量を少量とすることが出来、触媒の使用量を少なくすることで発泡体内部におけるスコーチの発生をより効果的に抑制することが出来る。なお、マンニッヒ系ポリエーテルポリオールの使用割合が、ポリオール中の10質量%未満では、上記した効果を享受することは出来ず、その一方、使用割合が40質量%を超えると、得られる発泡体の耐水性が低下する恐れがある。
【0019】
そして、上述の如きポリエーテルポリオールは、一般に、200~4000程度の分子量を有していることが望ましく、中でも250~3200程度の分子量を有していることがより望ましく、特に300~2000程度の分子量を有していることが、更に望ましいのである。かかる分子量が200よりも小さくなると、水に希釈され易く、水の白濁を惹起する恐れがあり、また分子量が4000よりも大きくなると、発泡体において十分な強度の発現が困難となる恐れがある。
【0020】
(ポリイソシアネート)
B液の主成分たるポリイソシアネートは、A液中のポリオールと反応して、ポリウレタン(樹脂)を生成するものであって、分子中に2つ以上のイソシアネート基(NCO基)を有する有機イソシアネート化合物である。具体的には、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ポリトリレントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートの他、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー、ポリイソシアネートのイソシアヌレート変性体、カルボジイミド変性体等を例示することが出来る。これらのポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。一般的には、反応性や経済性、取り扱い性等の観点から、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(クルードMDI)が、好適に用いられることとなる。
【0021】
なお、かかるポリイソシアネートを含むB液と前記したA液との配合割合は、形成されるフォームの種類(例えば、ポリウレタン、ポリイソシアヌレート)によって、適宜に決定されることとなるが、一般に、容積比で、A液:B液=1:1~3の範囲となるように、適宜に決定されることとなる。
【0022】
(カーボネート化合物)
本発明に従うポリウレタンフォーム用薬液組成物において、カーボネート化合物を含有せしめることにより、A液とB液とを混合せしめた際の泡化が向上し、混合液の硬化(発泡体の形成)が有利に早められ、また、混合液の混合性を向上させて、発泡体中のセルの均一化が有利に向上せしめられる。従って、例えば、厚肉の成形体(発泡体)を形成する各種の用途において本発明の薬液組成物が使用された場合でも、かかる成形体(発泡体)の内部において、クラック(亀裂)の発生が有利に抑制されることとなる。
【0023】
本発明において使用されるカーボネート化合物としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、スチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t-ブチルジカーボネート、ジフェニルカーボネート等を例示することが出来、これらの中から1種又は2種以上のものが適宜に選択されて使用される。それらカーボネート化合物の中でも、本発明においては、特にプロピレンカーボネートが有利に用いられ、プロピレンカーボネートを使用することにより、本発明の効果をより有利に享受することが可能となる。
【0024】
上記の如きカーボネート化合物は、本発明において、ポリオールの100質量部に対して、0.3~12質量部の割合にて、好ましくは0.5~10質量部の割合にて、より好ましくは1~5質量部の割合にて、B液に配合される。ポリオールの100質量部に対して0.3質量部未満の割合においてカーボネート化合物を配合しても、本発明において目的とするカーボネート化合物の配合効果(発泡体におけるクラックの発生防止)が十分に発揮されない恐れがあり、その一方、12質量部を超える割合においてカーボネート化合物を配合しても、配合量の増加に見合った効果が認められず、得策ではない。尚、本発明において、カーボネート化合物は、ポリオールを主成分とするA液又はポリイソシアネートを主成分とするB液の何れに含有せしめても良く、また、A液及びB液の両者に配合することも可能である。
【0025】
(リン酸エステル)
本発明のポリウレタンフォーム用薬液組成物において、リン酸エステルを含有せしめることにより、かかる薬液組成物を用いて厚肉の成形体(発泡体)を作製した場合にあっても、成形体(発泡体)内部におけるスコーチ(ポリウレタンフォームの内部が反応熱によって焼け、ポリウレタンフォーム全体が黄色に変色する現象)の発生が、効果的に抑制される。本発明において用いられるリン酸エステルとしては、特に限定されるものではなく、モノリン酸エステル、縮合リン酸エステル等の公知のものを、単独で又は組み合わせて、用いることが出来る。
【0026】
具体的には、それらリン酸エステルの中で、モノリン酸エステルとしては、特に限定はないが、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル-2-アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル-2-メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチル、レジルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、ホスファフェナントレン、トリス(1-クロロ-2-プロピル)ホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、テトラキス(2-クロロエチル)ジクロロイソペンチルジホスフェート、2,2-ビス(クロロメチル)-1,3-プロパンビス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、2,2-ビス(クロロメチル)トリメチレンビス(ビス(2-クロロエチル)ホスフェート)、ポリオキシアルキレンビスジクロロアルキルホスフェート等を、挙げることが出来る。
【0027】
また、縮合リン酸エステルとしては、特に限定はないが、例えば、トリアルキルポリホスフェート、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ-2,6-キシリル)ホスフェート(大八化学工業株式会社製PX-200)、ハイドロキノンポリ(2,6-キシリル)ホスフェート、並びにこれらの縮合物等の縮合リン酸エステルが挙げられる。
【0028】
さらに、市販の縮合リン酸エステルとしては、例えば、レゾルシノールポリフェニルホスフェート(大八化学工業株式会社製CR-733S)、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート(大八化学工業株式会社製CR-741)、芳香族縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製CR-747)、レゾルシノールポリフェニルホスフェート(株式会社ADEKA製アデカスタブPFR)、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート(株式会社ADEKA製アデカスタブFP-600、同FP-700)、非ハロゲン縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製DAIGURD-580、同DAIGURD-610)、含ハロゲン縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製CR-504L、同CR-570、同DAIGURD-540)等を、挙げることが出来る。
【0029】
上記の中でも、A液(ポリオール)とB液(ポリイソシアネート)との反応初期の発熱量を低減させる効果が高いモノリン酸エステルを使用することが好ましく、特にトリス(1-クロロ-2-プロピル)ホスフェートを使用することが好ましい。
【0030】
上述したリン酸エステルは、本発明のポリウレタンフォーム用薬液組成物において、ポリオールの100質量部に対して、20~70質量部の割合において、好ましくは30~60質量部の割合において、使用される。ポリオールの100質量部に対して、リン酸エステルの使用割合が20質量部未満では、得られる発泡体中にスコーチが発生したり、また十分な耐燃性が発泡体に付与されない恐れがあり、その一方で、使用割合が70質量部を超えると、発泡体の強度が低下し、クラック発生の原因となる恐れがある。尚、本発明において、リン酸エステルは、上述したカーボネート化合物と同様に、ポリオールを主成分とするA液又はポリイソシアネートを主成分とするB液の何れに含有せしめても良く、また、A液及びB液の両者に配合することも可能である。
【0031】
本発明に従うポリウレタンフォーム用薬液組成物は、上述した4つの成分を必須とするものであるが、本発明の薬液組成物には、上述した必須成分以外にも、従来より薬液組成物に配合されている発泡剤や触媒、更にはその他の各種添加剤も、配合することが可能である。
【0032】
(発泡剤)
本発明においては、従来より公知の各種の発泡剤の中から、本発明の目的を阻害しないものを適宜に選択して、使用することが出来る。特に、本発明のポリウレタンフォーム用薬液組成物においては、非フロン系発泡剤(及び/又はその発生源)が有利に用いられ、具体的には、ハイドロカーボン(HC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)やハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)と称されるハロゲン化アルケン(ハロゲン化オレフィン)等の有機発泡剤が好適である。それら有機発泡剤としては、例えば、ハイドロカーボン(HC)としては、プロパン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ブタン、イソブタン、ヘキサン、イソヘキサン、ネオヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン等を挙げることが出来、また、ハイドロフルオロカーボン(HFC)としては、ジフルオロメタン(HFC32)、1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(HFC125)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC143a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC134a)、1,1-ジフルオロエタン(HFC152a)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC227ea)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC245fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(HFC365mfc)、及び1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン(HFC4310mee)、ジクロロエタン、プロピルクロリド、イソプロピルクロリド、ブチルクロリド、イソブチルクロリド、ペンチルクロリド、イソペンチルクロリド等を挙げることが出来る。
【0033】
ハロゲン化アルケン(ハロゲン化オレフィン)は、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)やハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)と称されるものをも含み、一般的に、ハロゲンとして塩素やフッ素を結合、含有してなる、炭素数が2~6個程度の不飽和炭化水素誘導体である。例えば、テトラフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペンやヘキサフルオロブテンを始めとする、3~6個のフッ素置換基を有するプロペン、ブテン、ペンテン及びヘキセン、並びに、フルオロクロロプロペン、トリフルオロモノクロロプロペン、フルオロクロロブテン等のフッ素置換基及び塩素置換基を有する不飽和炭化水素、更にはそれらの2種以上の混合物を、挙げることが出来る。ハイドロフルオロオレフィン(HFO)としては、例えば、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO1225ye)等のペンタフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234yf)、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO1234ye)等のテトラフルオロプロペン、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO1243zf)等のトリフルオロプロペン、テトラフルオロブテン異性体(HFO1354)類、ペンタフルオロブテン異性体(HFO1345)類、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO1336mzz)等のヘキサフルオロブテン異性体(HFO1336)類、ヘプタフルオロブテン異性体(HFO1327)類、ヘプタフルオロペンテン異性体(HFO1447)類、オクタフルオロペンテン異性体(HFO1438)類、ノナフルオロペンテン異性体(HFO1429)類等を挙げることが出来る。また、ハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)としては、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)、ジクロロトリフルオロプロペン(HCFO1223)、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233yd)、1-クロロ-1,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zb)、2-クロロ-1,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xe)、2-クロロ-2,2,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xc)、3-クロロ-1,2,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233ye)、3-クロロ-1,1,2-トリフルオロプロペン(HCFO-1233yc)等を挙げることが出来る。
【0034】
特に、上記したハイドロフルオロオレフィン(HFO)やハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)は、化学的に不安定であるために、地球温暖化係数が低く、そのために、環境に優しい発泡剤として、注目を受けているのであるが、また、触媒(ポリオールとポリイソシアネートとの反応を促進するために使用される触媒)によって分解される恐れも内在している。しかしながら、本発明においては、カーボネート化合物によって、薬液組成物中に含有せしめられる触媒の量が可及的に低減され得ることとなるところから、そのような発泡剤(中でも、HCFO-1233zd)の分解の恐れなく、その発泡機能を有利に発揮させることが出来るという利点を有しているのである。
【0035】
なお、上記した有機発泡剤(HFC、HC、HFO、HCFO)の使用量は、A液中のポリオールの100質量部に対して5~50質量部が好ましく、更には10~40質量部であることが好ましい。かかる有機発泡剤の使用量が50質量部を超えるようになると、フォームのコア密度が低くなり、それによってフォームの強度の低下、ひいては寸法安定性の悪化が惹起される恐れがある。また、コストの面でも不利となる問題もある。一方、有機発泡剤の使用量が5質量部よりも少なくなると、発泡剤としての機能を充分に発揮することが出来ず、得られたフォームの密度が高くなってしまうことがあり、またA液の粘度が高くなり、B液との混合性が悪化することで、例えばスプレー工法において、良好なスプレーパターンを得ることが出来なくなる問題を惹起するようになる。
【0036】
さらに、本発明においては、発泡剤としての水を、上記した有機発泡剤(HFC、HC、HFO、HCFO)と共に、或いは、かかる有機発泡剤に代えて、用いることが出来る。発泡剤として水を使用する場合、水とポリイソシアネートとの反応性を考慮して、ポリオールを主成分とするA液に配合されることが一般的であるところ、水がA液中に存在することによって、A液とB液とが混合せしめられて、反応させられるときに、かかる水とB液中のポリイソシアネートとが反応して、二酸化炭素を生じる際に、反応熱が発生することとなるため、その熱によって、ウレタン化反応やイソシアヌレート化反応が、効果的に進行せしめられ得て、得られるポリウレタンフォームの圧縮強度が、更に高められ得るようになるのである。そして、そのようなポリオール組成物中の水の存在によって、A液とB液とが混合せしめられて、反応させられると、かかる水とB液中のポリイソシアネートとの反応によって二酸化炭素が発生し、この二酸化炭素も、ポリウレタンの発泡に寄与することとなるのである。しかも、有機発泡剤(HFC、HC、HFO、HCFO)と水との併用によって、有機発泡剤が揮発する際に、吸熱反応が生じることとなるが、水とポリイソシアネートとが反応して二酸化炭素を生じる際に反応熱が発生することにより、そのような反応熱で、有機発泡剤が揮発し易くなる利点があり、それによって、有機発泡剤の使用量を少なくして、そのコストを低減せしめ得る利点も生じることとなる。
【0037】
発泡剤としての水は、A液中のポリオールの100質量部に対して、1~10質量部、好ましくは2~5質量部の割合となるように、水が含有せしめられる。この水の使用量が、ポリオールの100質量部に対して、10質量部よりも多くなると、かえって強度の低下を招くようになる。それは、水とポリイソシアネートとの反応によって生じる尿素結合が樹脂中に多くなること、またイソシアヌレート化反応に用いられるポリイソシアネートが水との反応で消費されてしまい、反応系のポリイソシアネートが少なくなるためである。また、かかる水の使用量が1質量部よりも少なくなると、水を含有したことによる発泡剤としての効果が、充分に得られなくなる恐れがある。
【0038】
また、上述の如く、有機発泡剤(HFC、HC、HFO、HCFO)と水とを併用する場合において、有機発泡剤と水とは、質量比で60:40~99:1、好ましくは70:30~95:5となる割合において、使用することが望ましい。この範囲を外れて、水の割合が40を超えるようになると、反応の進行につれて脆性が発現し、躯体面との接着性が低下し、剥離等の問題を惹起する恐れがある。また、イソシアネートとの反応によって発生する二酸化炭素が熱伝導率を低下させ、充分でない熱伝導率の発泡層を形成する恐れがある。
【0039】
(触媒)
本発明に従うポリウレタンフォーム用薬液組成物においては、従来と同様に、ポリオールを主成分とするA液に触媒を含有せしめることが可能である。
【0040】
本発明においては、ポリオールとポリイソシアネートとの反応に寄与する触媒であれば、如何なるものであっても使用することが可能であり、そのような触媒としては、3級アミン触媒や金属触媒等を例示することが出来る。
【0041】
3級アミン触媒としては、水との接触により発泡が意図される場合にあっては、ポリイソシアネートと水との反応を促進する作用を有する泡化触媒、ポリイソシアネートとポリオールとの反応を促進する作用を有する樹脂化触媒、ポリイソシアネートの三量化を促進する作用を有するイソシアヌレート化触媒(三量化触媒)等がある。
【0042】
具体的には、泡化触媒としては、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’-トリエチルアミノエチルエタノールアミン、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N’,N’-トリメチルアミノエチルピペラジン、N,N-ジメチルアミノエトキシエタノール、トリエチルアミン等が挙げられる。また、樹脂化触媒としては、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルプロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサンジアミン、トリエチレンジアミン、33%トリエチレンジアミン・67%ジプロピレングリコール、N,N-ジメチルアミノヘキサノール、N,N-ジメチルアミノエタノール、N-メチル-N-ヒドロキシエチルピペラジン、N-メチルモルフォリン、1-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール等が挙げられる。更に、イソシアヌレート化触媒としては、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N’,N”-トリス(3-ジメチルアミノプロピル)-ヘキサヒドロ-s-トリアジン等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用しても、何等差し支えない。また、それらの中でも、樹脂化触媒やイソシアヌレート化触媒(三量化触媒)が好適に用いられ、特にイソシアヌレート化触媒(三量化触媒)を用いることにより、ヌレート化によって発泡体の難燃性がより向上すると共に、発泡体内部におけるクラックの発生をより効果的に抑制することが出来る。
【0043】
一方、金属触媒としては、公知のものを特に制限なく用いることが出来、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、錫、鉛、ビスマス、亜鉛、鉄、ニッケル、ジルコニウム、コバルト等の有機酸金属塩や有機金属錯体を用いることが出来る。その中で、有機酸金属塩としては、酢酸、オクチル酸、ネオデカン酸、ナフテン酸、ロジン酸等と上記金属との塩が挙げられ、また有機金属錯体としては、アセチルアセトン等と上記金属との錯体が挙げられる。具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、オクチル酸カリウム、オクチル酸ビスマス、オクチル酸鉛、オクチル酸鉄、オクチル酸錫、オクチル酸カルシウム、オクチル酸亜鉛、オクチル酸ジルコニウム、ネオデカン酸ビスマス、ネオデカン酸亜鉛、ネオデカン酸鉛、ネオデカン酸コバルト、ジブチル錫ジオクテート、ジブチル錫ジラウリレート;アセチルアセトン鉄、アセチルアセトン亜鉛、アセチルアセトンジルコニウム、アセチルアセトンニッケル、アセチルアセトン錫等を挙げることが出来る。これらの金属塩や金属錯体は、その取扱い性の向上のため、ミネラルスピリット、有機酸、グリコール類、エステル類等の希釈剤に溶解させたものとして、用いてもよい。また、これらの金属触媒は、単体で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、錫、鉛、ビスマス又は亜鉛の酢酸金属塩が好ましく、より好ましくは酢酸アルカリ金属塩、特に好ましくは酢酸カリウムが用いられる。
【0044】
そのような各種の触媒の中でも、本発明においては、酢酸金属塩を含むもの、換言すれば、酢酸金属塩と他の触媒とを併せて、触媒として使用することが好ましい。このように、酢酸金属塩と他の触媒とを併用することにより、本発明の効果をより有利に享受することが可能となる。
【0045】
また、本発明において、A液に含有せしめられる触媒の量は、A液中のポリオールの100質量部に対して、一般に、0.2~10質量部、好ましくは0.4~8質量部、より好ましくは1~6質量部の割合において、含有せしめられることとなる。A液中における触媒の含有量が0.2質量部よりも少ないと、反応に対する寄与が少なく、強度発現が遅くなる問題があり、その一方、10質量部よりも多いと、反応が速くなり過ぎて、反応速度の制御が困難となる。
【0046】
上述した発泡剤及び触媒に加えて、本発明に係るポリウレタンフォーム用薬液組成物を構成するA液及びB液には、その使用目的に応じて、従来と同様な各種の添加剤を添加せしめることが可能である。そのような添加剤としては、例えば、整泡剤、減粘剤等を挙げることが出来る。これらの添加剤は、A液を構成するポリオールの100質量部に対して0.1~20質量部、好ましくは0.1~15質量部の割合において用いられることとなる。
【0047】
具体的に、整泡剤は、A液とB液との反応によって形成されるフォームのセル構造を均一に整えるために用いられるものである。この整泡剤としては、例えば、シリコーン、非イオン系界面活性剤、ポリオキシアルキレン変性ジメチルポリシロキサン、ポリシロキサンオキシアルキレン共重合体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ヒマシ油エチレンオキシド付加物、ラウリル脂肪酸エチレンオキシド付加物等が挙げられ、これらの中でも、シリコーン及び非イオン系界面活性剤が好ましく用いられる。これらは、単独で用いられてもよく、2種以上を併用して用いられてもよい。また、整泡剤の中では、シリコーン系整泡剤がより好ましく、中でも、ポリオキシアルキレン変性ジメチルポリシロキサン、ポリシロキサンオキシアルキレン共重合体等が好ましく用いられることとなる。
【0048】
また、減粘剤は溶剤として用いられ、A液又はB液に溶解されて、それらの液を減粘する働きを有するものである。そのため、そのような機能を有するものである限りにおいて、特に限定されるものではなく、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等のエーテル類、γ-ブチロラクトン等の環状エステル類、ジカルボン酸メチルエステル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、石油系炭化水素類等が挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、2種以上を併用して用いられてもよい。
【0049】
さらに、本発明においては、リン酸エステル以外の難燃剤にあっても使用することが出来る。リン酸エステル以外の難燃剤としては、例えば、赤リン、臭素含有難燃剤、塩素含有難燃剤、リン酸塩含有難燃剤、ホウ素含有難燃剤、アンチモン含有難燃剤、無機系難燃剤、金属水酸化物等を挙げることが出来る。これらは、単独で用いられ得ることは勿論のこと、2種以上のものを併用することも可能である。
【0050】
上述の如き成分を含む、ポリオールを主成分とするA液とポリイソシアネートを主成分とするB液とからなるポリウレタンフォーム用薬液組成物は、A液とB液とが現場において混合され、その混合物が、例えば、注入裏込め工法においてはトンネル覆工と背面の地山との間に生じた空隙等に注入され、そこにおいて発泡・硬化せしめられることとなる。そして、本発明の薬液組成物を用いることにより、例えば比較的厚肉に成形した場合でも、スコーチの発生が有利に抑制され、また、自己発火の危険性も著しく低く、更には、フォーム内部におけるクラックの発生も有利に抑制されたポリウレタンフォームが得られることとなるのである。
【実施例
【0051】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0052】
なお、以下の実施例及び比較例に係るA液及びB液について、それらを用いて得られた発泡体についての燃焼性の評価、並びに、内部クラック及びスコーチの発生状況の評価については、各々、以下の手法に従って行なった。また、以下に示す「%」及び「部」は、何れも、質量基準である。
【0053】
-燃焼性の評価-
得られた発泡体より、厚さ:13mm×長さ:150mm×幅:50mmの大きさの試験片を5個、切り出し、かかる試験片を用いて、JIS-A-9511の試験方法Bに準じて燃焼性試験を行い、測定される燃焼時間及び燃焼距離を以下の基準に従って評価する。なお、○以上の評価を合格とする。
(1)燃焼時間
◎:5個の試験片全ての消炎時間が1分30秒以内である。
○:5個の試験片全ての消炎時間が2分以内である。
△:試験片のうちの少なくとも一つの消炎時間が2分を超えるものの、5個の試 験片の平均消炎時間は2分以内である。
×:5個の試験片の平均消炎時間が2分を超える。
(2)燃焼距離
◎:5個の試験片全ての燃焼距離が30mm以下である。
○:5個の試験片全ての燃焼距離が60mm以下である。
△:試験片のうちの少なくとも一つの燃焼距離が60mmを超えるものの、5個 の試験片の平均燃焼距離は60mm以下である。
×:5個の試験片の平均燃焼距離が60mmを超える。
【0054】
-内部クラックの発生状況の評価-
直径:1000mm×高さ:1000mmのフレコンバッグ(フレキシブルコンテナバッグ)を用意する。実施例及び比較例に係るA液及びB液を、A液:B液=1:2(容積比)の割合で混合し、その混合液をフレコンバッグ内に注入して、1m3 の発泡体を作製する。かかる発泡体を、25℃の環境下において24時間、放置した後、発泡体の縦方向において半分に切断し、その切断面におけるクラックの有無を、5名のパネラーが目視により観察する。その後、各パネラーが以下の基準に従って点数を付け、各パネラーが付けた点数の平均値を算出する。なお、平均値が3点以上の場合を合格とする。
4点:クラックは認められない。
3点:物性に影響しない程度の微細なクラックが認められる。
2点:小さなクラックが認められる。
1点:多数のクラックが認められる。
【0055】
-スコーチの発生状況の評価-
直径:1000mm×高さ:1000mmのフレコンバッグ(フレキシブルコンテナバッグ)を用意する。実施例及び比較例に係るA液及びB液を、A液:B液=1:2(容積比)の割合で混合し、その混合液をフレコンバッグ内に注入して、1m3 の発泡体を作製する。かかる発泡体を、25℃の環境下において24時間、放置した後、発泡体の縦方向において半分に切断し、その切断面におけるスコーチのの有無を、5名のパネラーが目視により観察する。その後、各パネラーが以下の基準に従って点数を付け、各パネラーが付けた点数の平均値を算出する。なお、平均値が3点以上の場合を合格とする。
4点:スコーチは認められない。
3点:僅かな変色が認められる。
2点:変色が認められる。
1点:著しく変色し、焦げた状態が認められる。
【0056】
下記表1乃至表5に示す割合において各成分を含有するポリウレタンフォーム用薬液組成物(A液、B液)を調製した。なお、一部の実施例においては発泡剤の含有量を変化させているが、これは、内部クラックの発生状況を評価するためには、最終的に得られる発泡体(ポリウレタンフォーム)の密度を略同一とすることが必要であり、得られる発泡体の密度を27.5~32.5kg/m3 とするために、発泡剤の含有量を変化させたものである。また、A液及びB液の調製に際して使用した原料は、以下の通りである。
・ポリオール:ポリオキシプロピレングリコール
(旭硝子株式会社製、製品名:EXCENOL 420、開始剤:プロ ピレングリコール、アルキレンオキサイド:プロピレンオキサイド1 00質量%、水酸基価:280mgKOH/g)
・ポリオール:グリセリン系ポリエーテルポリオール
(旭硝子株式会社製、製品名:EXCENOL 430、開始剤:グリ セリン、アルキレンオキサイド:プロピレンオキサイド100質量% 、水酸基価:400mgKOH/g)
・ポリオール:エチレンジアミン系ポリエーテルポリオール
(旭硝子株式会社製、製品名:EXCENOL 500ED、開始剤: エチレンジアミン、アルキレンオキサイド:プロピレンオキサイド1 00質量%、水酸基価:500mgKOH/g)
・ポリオール:マンニッヒ系ポリエーテルポリオール
(第一工業製薬株式会社製、製品名:DKポリオール3776、開始剤 :マンニッヒ縮合物、アルキレンオキサイド:エチレンオキサイド及 びプロピレンオキサイド付加体、水酸基価:350mgKOH/g)
・ポリオール:エチレンジアミン系ポリエーテルポリオール
(旭硝子株式会社製、製品名:EXCENOL 750ED、開始剤: エチレンジアミン、アルキレンオキサイド:プロピレンオキサイド1 00質量%、水酸基価:750mgKOH/g)
・ポリオール:ビスフェノールA系ポリエーテルポリオール
(青木油脂工業株式会社製、製品名:ブラウノンBEO-10AE、開 始剤:ビスフェノールA、アルキレンオキサイド:エチレンオキサイ ド100質量%、水酸基価:171mgKOH/g)
・ポリイソシアネート:万華化学ジャパン株式会社製、製品名:Wannate PM -200
・整泡剤:シリコーン系整泡剤
(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、製 品名:NIAX Silicone L-6970)
・難燃剤:リン酸エステル
(大八化学工業株式会社製、TMCPP:トリス(1-クロロ-2-プロピ ル)ホスフェート)
・難燃剤:リン酸エステル
(大八化学工業株式会社製、TEP:トリエチルホスフェート)
・触媒:3級アミン触媒
(花王株式会社製、製品名:カオーライザー No.120)
・触媒:第四級アンモニウム塩
(花王株式会社製、製品名:カオーライザー No.420)
・触媒:酢酸カリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)
・触媒:酢酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)
・発泡剤:HFC245fa
(セントラル硝子株式会社製、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパ ン)
・発泡剤:HFO-1336mzz
(Chemours社製、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2- ブテン)
・発泡剤:HCFO-1233zd
(Honeywell社製、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペ ン)
【0057】
実施例及び比較例の各々に係るA液及びB液を、容積比でA液:B液=1:2の割合において均一に混合し、発泡・硬化せしめて、目的とする発泡体を得た。得られる発泡体について、その密度が27.5~32.5kg/m3 の範囲内であることを確認した後、上述した方法に従い、発泡体の燃焼性、並びに、内部クラック及びスコーチの発生状況について、評価した。その評価結果を、下記表一乃至表5に併せて示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
上記表1乃至表5の結果からも明らかなように、本発明に従うポリウレタンフォーム用薬液組成物(実施例1~実施例27)にあっては、それを用いて得られる発泡体が、内部クラック及びスコーチの発生が有利に抑制されたものであり、難燃性にも優れていることが、確認される。また、実施例4と実施例26との対比により、並びに、実施例5と実施例27との対比により、本発明においては、カーボネート化合物(プロピレンカーボネート)をA液及びB液の何れに含有せしめても優れた効果を発揮することが、認められるのである。