(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】冷却機能付き刻印機
(51)【国際特許分類】
B41K 3/36 20060101AFI20220614BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B41K3/36 D
B21C51/00 A
(21)【出願番号】P 2018196835
(22)【出願日】2018-10-18
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】502134292
【氏名又は名称】ベクトル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】宮木 將介
(72)【発明者】
【氏名】瀧井 理人
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-166488(JP,A)
【文献】特開2009-297776(JP,A)
【文献】特開2006-310266(JP,A)
【文献】特開昭57-022072(JP,A)
【文献】特開2018-047595(JP,A)
【文献】特開2007-229878(JP,A)
【文献】特開昭63-179784(JP,A)
【文献】特開平10-100595(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0193137(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41K 1/00-3/68
B21C 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダーと、該シリンダーの内部に収容された円筒状の電磁コイルと、この電磁コイルによって形成された磁界により電磁コイル内側の移動空間に沿って駆動される鉄心と、前記シリンダーの先端前方側に設けられた軸受部と、前記鉄心の先端部に取り付けられて前記軸受部を挿通したスタイラスを有し、
前記軸受部の周壁に該周壁を厚さ方向に貫通する通気孔が設けられたことを特徴とする冷却機能付き刻印機。
【請求項2】
前記シリンダーに隣接する前記周壁の一部分に前記通気孔が形成され、前記通気孔の開口部が前記シリンダー側に向けられたことを特徴とする請求項1に記載の冷却機能付き刻印機。
【請求項3】
前記シリンダーの基端側に他の通気孔が形成されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷却機能付き刻印機。
【請求項4】
前記シリンダーの基端側に空気供給孔が形成されたことを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の冷却機能付き刻印機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却機能付き刻印機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や建設機械などの自動化された工場において、ロット番号等の英数字や合いマークの刻印を行うためにマーキング装置が使用されている。例えば下記の特許文献1には、往復運動するピストンと、このピストンの往復運動に追従して先端部でワーク表面を打刻するスタイラスを備えた刻印機が開示されている。
【0003】
特許文献1には、シリンダーと、シリンダー内で往復運動するピストンと、ピストンを基端側に付勢する弾性部材と、このピストンの往復運動に追従して先端部でワークの表面を打刻するスタイラスを備えたマーキング装置が開示されている。
このマーキング装置を用いて金属やプラスチックからなるワークの表面に印字を行うには、ピストンおよびスタイラスを振動させてワーク表面の規定位置に点打刻を行い、このスタイラスを振動ペンごと移動させながら必要な位置毎に打刻を繰り返す。この操作により、ワークの表面の必要な位置に文字、数字、記号などをマーキングすることができる。 また、スタイラスを一ヵ所で振動させるとその部分にドットが形成されるので、そのドットを所定のパターンになるように複数形成することにより、いわゆる二次元コードを形成することができる。
【0004】
図11は、従来の一般的な電磁式刻印機Dの一例を示すが、シリンダー100の内周部に駆動用の電磁コイル101が設けられ、この電磁コイル101によって円柱状の鉄心102が駆動される。電磁コイル101の内側に筒状の軸受け103が設置され、軸受け103の内側に摺動自在に鉄心102が支持されている。
シリンダー100の先端側に軸受け部材105が設けられ、鉄心102の先端側にロッド状のスタイラス106が取り付けられ、スタイラス106の先端部が軸受け部材105の先方に突出されている。このスタイラス106の先端部がワーク107に対向され、ワーク107の表面に打刻できるようになっている。
【0005】
鉄心102は駆動回路108に接続され、駆動回路108からの制御信号によって鉄心102への通電が制御される。
シリンダー100の先端側にはスタイラス106に戻り力を作用させるための圧縮ばね110が収容され、圧縮ばね110により鉄心102に対しスタイラス106を従属動作させることでスタイラス106を往復駆動することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図11に示す刻印機Dにあっては、円柱状の鉄心102の外周部に鉄心上端部から下端部に達する空気抜き孔112を形成しておき、シリンダー100の内部における鉄心102の上下運動に支障が出ないように空気圧の調整がなされている。
【0008】
図11に示す構成の刻印機Dにあっては、
図12に示すように鉄心102を上死点より下方に移動させると、空気抜き孔112を介し矢印に示す如くシリンダー内下部側の空気をシリンダー内上部側に移動できる。また、
図13に示すように鉄心102を上方に移動させると空気抜き孔112を介しシリンダー内上部側の空気をシリンダー内下部側に移動することができる。以上説明の空気流れの調整により、シリンダー100の内部において鉄心102をスムーズに上下往復移動させることができる。
【0009】
図11に示す刻印機Dを数値制御可能なXY軸移動機構上に構成し、スタイラス106による打刻位置を移動することにより、
図14に示すようにワーク107の表面に文字や図柄等を刻印することができる。
ところで、
図11に示す刻印機Dは連続的に多数の文字や図形などを刻印するので、長時間高速で連続運転できることが望ましい。しかし、刻印機Dを長時間、高速連続運転するとシリンダー内部に熱が篭もることとなり、電磁コイル101が過度に加熱されると刻印機Dの動作に支障を来すおそれがある。
このため、現状では電磁コイル101に送る駆動用矩形波の休止時間を長く取り、電磁コイル101の温度が過度に上昇しないように調整しているが、可能ならばスタイラス106の動作をより高速にして長時間連続運転できることが望ましい。
【0010】
本発明は前記事情に鑑みなされたものであり、冷却機能を備えることで長時間の高速連続運転を行うことができ、長時間高速連続運転しても装置の過熱を抑制できる冷却機能付き刻印機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明は、シリンダーと、該シリンダーの内部に収容された円筒状の電磁コイルと、この電磁コイルによって形成された磁界により電磁コイル内側の移動空間に沿って駆動される鉄心と、前記シリンダーの先端前方側に設けられた軸受部と、前記鉄心の先端部に取り付けられて前記軸受部を挿通したスタイラスを有し、前記軸受部の周壁に該周壁を厚さ方向に貫通する通気孔が設けられたことを特徴とする。
【0012】
軸受部の周壁に通気孔を設けることでシリンダー内部の空気を外部に排出できる。このため、シリンダーの内部に熱が篭もる現象を緩和できる。
従って、刻印機を従来よりも高速連続運転できるようになり、仮に高速連続運転を長時間行ったとして、従来構造よりも電磁コイルを低い温度に保持できるようになる。このため、従来の刻印機と比較し、高速連続運転が可能となる。
【0013】
本発明において、前記シリンダーに隣接する前記周壁の一部分に前記通気孔が形成され、前記通気孔の開口部が前記シリンダー側に向けられたことが好ましい。
通気孔の開口部から排出された空気を直接シリンダー側に吹き出すことができると、シリンダーを外部から効率良く空冷できる。
【0014】
本発明において、前記シリンダーの基端側に他の通気孔が形成されたことが好ましい。
シリンダー先端側の通気孔に加えてシリンダーの基端側にも他の通気孔を設けることでシリンダー内部の空気をよりよりスムーズに外部に排出できるようになり、電磁コイルの過熱を抑制できる。このため、従来の刻印機と比較し、高速連続運転が可能となる。
【0015】
本発明において、前記シリンダーの基端側に空気供給孔が形成されたことが好ましい。
空気供給口をシリンダーの基端側に設けることで、圧縮空気をシリンダーの内部に流して強制冷却できるようになる。また、圧縮空気に潤滑油を含ませておくと、刻印機を分解しなくともシリンダーの内部に潤滑油を供給出来るようになり、より高頻度動作可能な刻印機を提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、軸受部の周壁に通気孔を設けることでシリンダー内部の空気を通気孔を介し外部に排出でき、シリンダーの内部に熱が篭もる現象を緩和できる。
従って、刻印機を従来よりも高速連続運転できるようになり、仮に高速連続運転を長時間行ったとして、従来構造よりも電磁コイルを低い温度に保持しつつ運転できるようになる。このため、従来の刻印機と比較し、高速連続運転が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る冷却機能付き刻印機を示す図であり、鉄心を上死点に位置させた状態を示す断面図。
【
図2】同刻印機の一例を示す図であり、鉄心を打刻位置まで下降させた状態を示す断面図。
【
図3】同刻印機の一例を示す図であり、鉄心を上死点位置まで上昇させた状態を示す断面図。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る冷却機能付き刻印機を示す図であり、鉄心を上死点に位置させた状態を示す断面図。
【
図5】同刻印機の一例を示す図であり、鉄心を打刻位置まで下降させた状態を示す断面図。
【
図6】同刻印機の一例を示す図であり、鉄心を上死点位置まで上昇させた状態を示す断面図。
【
図7】本発明の第3実施形態に係る冷却機能付き刻印機を示す断面図。
【
図10】従来の刻印機と本発明に係る刻印機を用いて連続刻印試験を行った場合のコイル温度変化を示すグラフ。
【
図11】従来の刻印機の一例を示す図であり、鉄心を上死点に位置させた状態を示す断面図。
【
図12】同従来の刻印機を示す図であり、鉄心を打刻位置まで下降させた状態を示す断面図。
【
図13】同従来の刻印機を示す図であり、鉄心を上死点位置まで上昇させた状態を示す断面図。
【
図14】同従来の刻印機により文字を刻印した状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る第1実施形態の刻印機について、図面を適宜参照しながら説明する。
図1~
図3は第1実施形態の冷却機能付き刻印機を示すもので、この実施形態の刻印機Aは、図示略の3軸ステージ機構などの駆動機構により全体を水平方向のX軸方向とY軸方向に移動自在に、かつ、鉛直方向のZ軸方向に沿って移動自在に支持されている。
3軸ステージ機構はX軸とY軸とZ軸のそれぞれの軸に沿って移動自在にステージが設けられ、それらの各軸のステージを支持する支柱や支持体、アクチュエーターなどを備えて構成される公知の駆動機構である。
各軸をスクリュウ軸としてスクリュウ軸に沿ってステージが移動される機構、各軸に取り付けられたリニアアクチュエーターによってステージが移動される機構など公知の種々の機構があるが、本実施形態では刻印機AをX軸方向とY軸方向とZ軸方向に3軸移動できる構造であれば、公知の範囲でいずれの構造の3軸ステージ機構を用いても良い。
XYZ軸に沿う方向に刻印機Aを移動するステージ機構は、XYZ軸に沿う方向それぞれ設けられた案内レールに加工ヘッドを支持するステージ(架台)を備え、各ステージを案内レールに沿って移動自在に支持した一般的な3軸ステージ機構を広く採用することができる。
【0019】
図1に示す第1実施形態の構成において、刻印機Aは下向きに円筒状のシリンダー2を有し、その下端部にピン型のスタイラス3が着脱自在に取り付けられている。
シリンダー2の上端部にケース部材5が装着され、シリンダー2の上部側が閉じられるとともに、下端部には小径部からなる軸受部6が形成されている。軸受部6の内部に厚肉筒型の軸受け部材7が設けられ、この軸受け部材7の貫通孔7aを通過して下方に突出するようにスタイラス3が設けられている。
【0020】
シリンダー2の内周部に筒型の電磁コイル8が設置され、この電磁コイル8の内周面に軸受筒9が装着されている。シリンダー2の上端部には天井壁10が形成されているが、天井壁10には電磁コイル8の内径と同一径の透孔10aが形成されていて、この透孔10aの位置まで軸受筒9の上端部が延在されている。
【0021】
天井壁10の上方に矩形ブロック状のケース部材5が装着されている。このケース部材5の底部側に電磁コイル8の内径と同一程度の内径を有する凹部12が形成され、軸受筒9に挿通された円柱状の鉄心13がこの凹部12に達するように収容されている。凹部12の内上部にはOリングなどの弾性を有するクッション部材15が収容されている。
ケース部材5には、凹部12の内側面に開口部16を有し、ケース部材15の周縁部下面に開口部17を有する上部通気孔18が形成されている。この上部通気孔18は凹部12の周囲を囲むようにケース部材15の底部側に複数、例えば4つ形成されている。上部通気孔18の開口部17は、ケース部材5の周縁部下面に開口されているが、この開口位置はシリンダー2の周壁より外側に位置されている。
【0022】
鉄心13の下端部には取付部20を介しスタイラス3が取り付けられ、スタイラス3の周囲にコイル型のばね部材21が巻装されている。このばね部材21は、圧縮コイルばねからなり、鉄心13が下降してスタイラス3を下方に所定長さ押し出した場合に軸受部6に当接して縮小し、鉄心13に反力を与える。電磁コイル8からの電磁力により鉄心13が下降し、次いで電磁コイル8からの電磁力が解消された場合、ばね部材21の反発力により鉄心13は上方に押し戻され元の位置に復帰する。
スタイラス3の先端部3aは円錐形状に加工されている。スタイラス3は鉄心13に対し取付部20を介し着脱自在に取り付けられ、スタイラス3の先端部が摩耗した場合にスタイラス3を単独で交換できるように構成されている。スタイラス3は取付部20を介しばね部材21により取付部20を鉄心13に押し当てられ、必要に応じて交換できるようになっている。
【0023】
前記軸受部6の周壁においてその周回りの複数位置に下部通気孔22が形成されている。本実施形態において、下部通気孔22は周壁の周回りに等間隔で4つ設けられている。軸受部6において下部通気孔22はシリンダー2に近い部分に形成されている。
下部通気孔22において、軸受部6の内部側の開口部22aの形成位置が低く、軸受部6の外部側の開口部22bの形成位置が高く形成されている。即ち、下部通気孔22は斜め上向きに、換言すると、外側開口部22bはその上方のシリンダー2に向くように形成されている。
【0024】
刻印機Aにおいて電磁コイル8に対し配線24を介し駆動用の制御回路25が接続されている。駆動回路25から電磁コイル8に通電することで磁界を発生させることができ、この磁界発生により鉄心13を軸受筒9に沿って所定距離下降させることができる。
鉄心13が下降することでスタイラス3も下降する。鉄心13が下降するとばね部材21を圧縮するので鉄心13に反力が作用する。ここで制御回路25から電磁コイル8への通電を停止すると、ばね部材21の反力により鉄心13は元の位置に戻り、スタイラス3も元の位置に戻る。制御回路25から、例えば矩形波を印加するとスタイラス3は上下に所定距離間欠的に移動するので、スタイラス3を上下方向に振動させることができる。
【0025】
なお、
図1ではワークWの被刻印面が単純な平面形状として描かれているが、ワークは機械部品であれば種々の形状の立体形であるので、平面に限らず、円周面や凹凸を有する立体面であるが、説明の簡略化のために図では平面状に描いている。例えば、ワークがコンロッドやピストンなどの機械部品であれば被刻印面は円周面や曲面となる場合がある。
【0026】
従って、刻印機Aはスタイラス3の先端部3aをその下方に設置されたワークWの被刻印面に打ち付けることによりドット形状をワークWに打刻することができ、3軸ステージ機構によってワークの被刻印面に対するドット形状の打刻位置を順次変更することで文字やバーコードなどの刻印ができるようになっている。一例として
図14などに示すように打刻したドットの集合体としてアルファベット文字を刻印することができる。
【0027】
刻印機Aを用いて連続運転し、打刻を行うと、電磁コイル8の温度が上昇する。
図1に示す構成の刻印機Aでは、鉄心13が
図1に示す上死点に位置している状態から、
図2に示すように下降して下死点まで鉄心13が下降する。すると、鉄心13の下方であってシリンダー2の底部側に存在している空気は下部通気孔22から外部に排出される。また、鉄心13の上方であってシリンダー2の内上部側には上部通気孔18から外気が吸引される。
また、
図2に示す下死点の位置から鉄心13が上昇して
図3に示す上死点まで戻る場合、下部通気孔22から矢印に示すようにシリンダー2の底部側に外気が吸引され、シリンダー2の内上部側の空気が上部通気孔18から外部に放出される。
【0028】
鉄心13はシリンダー2の内部で上述の動作を行うため、鉄心13はスムーズに上下往復移動することができる。
上述の動作を連続的に繰り返すことにより、シリンダー2の内部空気を逐次間欠的に排出し、シリンダー2の内部に外気を逐次間欠的に取り込むことができる。このため、従来の刻印機Dよりシリンダー2の内部に熱が篭もり難く、電磁コイル8の温度を従来よりも低い温度に維持できる刻印機Aを提供できる。
【0029】
刻印機Aは、下部通気孔22から排出される空気を
図2に示すように斜め上方に向けてシリンダー2の底部側に送風できるため、シリンダー2の底部を強制冷却できる。また、上部通気孔18の開口部17からシリンダー2の周壁に沿って下向きに空気を流すことによりシリンダー2の周壁を強制冷却できる。これらが相俟って、シリンダー2の内部に設けられている電磁コイル8の温度上昇を抑制することができる。
【0030】
例えば、従来の刻印機Dを用い、130msの条件でOFF、4.3msの条件でONする条件の矩形波を電磁コイル101に駆動回路108から印加して駆動制御すると、後述する試験例で明らかなように1時間程度の連続運転により電磁コイル101の温度が70℃程度まで上昇する。
電磁コイル101を構成する通常の電線の耐熱温度は120℃程度であるため、この駆動条件で動作に問題は無いが、電磁コイル101の温度をより低い温度に維持できるなら望ましい。また、より高速な運転条件として、45ms程度の休止時間とするならば、電磁コイル101の温度は更に高温に上昇する。
【0031】
これに対し、本発明に係る刻印機Aでは、シリンダー2内の空気を逐次入れ替えできるので上述の130msの休止条件を駆動条件とした場合であっても、後述する試験例で示すように電磁コイル8の温度を67℃程度に維持することができる。
このため、本実施形態の刻印機Aは、従来の刻印機Dより電磁コイル8の温度を7℃程度低く保つことができる。また、このため、駆動する場合の休止時間を130msより短い時間、例えば、45ms程度として駆動しても、電磁コイル8の温度上昇をできるだけ低く保つことができる。
従って、本実施形態の刻印機Aであるならば、従来構造よりも電磁コイル8を低い温度に保持しつつ運転できるようになる。また、刻印機Aであるならば、従来構造よりも休止時間を短くして高速運転したとしても電磁コイル8の過熱を抑制できる。
【0032】
図4~
図6は、本発明に係る刻印機の第2実施形態を示すもので、第2実施形態の刻印機Bは、第1実施形態の刻印機Aの構成を全て備えた上に、ケース部材5の中央部に圧縮空気などの空気供給孔30を設けた点に特徴を有する。
空気供給孔30の上部はケース部材5の上面中央部に開口され、下部は凹部12の頂面中央に開口されている。また、鉄心13の上面に空気流動用の溝部13aを設け、シリンダー内上部における空気の流れをスムーズにすることができる。
空気供給孔30を空気供給源31にエア配管を介し接続して第2実施形態の刻印機Bが構成されている。その他の構成は第1実施形態の刻印機Aと同等であるため、その他の構成について説明を略する。
【0033】
刻印機Bの動作は、刻印機Aと同様である。鉄心13を上下方向に振動させてスタイラス3によりワークWに対し打刻を行うことができる。
刻印機Bは、空気供給源31から空気供給孔30を介し圧縮空気をシリンダー2の内部に強制的に送り込むことができる。このため、シリンダー2の内部に設置されている電磁コイル8を強制冷却することができる。凹部12の頂面中央に形成されている空気供給孔30の開口部から、シリンダー内に空気を供給する際、鉄心13の上面中央に溝部13aを形成しておくことで空気供給孔30の開口部からシリンダー側に流動しようとする空気の流れを振動中の鉄心13が阻止することがない。
【0034】
また、空気供給源31からシリンダー2に送る圧縮空気に必要に応じ潤滑油を混入しておくことができる。圧縮空気とともに潤滑油をシリンダー内に供給することで潤滑油の一部を鉄心13と軸受筒9の間に供給することができる。また、潤滑油の一部をスタイラス3の周囲と軸受け部材7の貫通孔7aまで到達させることができる。このため、装置を分解することなく潤滑油の供給が可能となり、鉄心13の上下振動とスタイラス3の上下移動を円滑に行うことができる。これにより、スタイラス3を従来よりも高頻度で動作可能な刻印機Bを提供できる。
【0035】
図7~
図9は、本発明に係る第3実施形態の刻印機を示すもので、この第3実施形態は先の第2実施形態の刻印機Bの一部構造を変更し、製品実機に近い構造を採用した刻印機Cを示す。
この実施形態の刻印機Cは、シリンダー2、スタイラス3、ケース部材5、軸受け部材7、電磁コイル8、軸受筒9、鉄心13、クッション部材15、下部通気孔36(第1、第2実施形態では下部通気孔22に相当)、空気供給孔30等が設けられている点については第2実施形態の刻印機Bと同等構造である。
【0036】
スタイラス3は取付部33を介し鉄心13の底部に対峙され、ばね部材21により鉄1心の底部に押し付けられている。
シリンダー2の下部に小径部2Aが形成され、この小径部2Aの外周部に形成されたねじ部を介し筒型のスタイラスホルダ(軸受部)35が螺合されている。このスタイラスホルダ35の基端側に下部通気孔36が形成されている。下部通気孔36において、スタイラスホルダ35の内部側の開口部36aよりスタイラスホルダ35の外周側の開口部36bの方が上方に形成されている。ただし、この形態では、下部通気孔36は開口部36a側が水平に形成され、開口部36b側が上向きに傾斜されている。
スタイラスホルダ35の基端側に鍔部35aが形成され、この鍔部35aの下面側に先の開口部36bの傾斜方向に沿う傾斜面35bが形成されている。
【0037】
第3実施形態において、ケース部材5は、
図8、
図9に示すように直方体ブロック型に形成されているが、シリンダー2の上部を嵌合する凹部34を有し、凹部34の中央に鉄心13を挿入可能な大きさの凹部型の収容部37が形成され、収容部37の奥側にOリングからなるクッション部材15が設けられている。
凹部34の内部側には、収容部37の内周面から凹部34の頂面を経由して凹部34の開口部に至る通気溝38が凹部34の周回りに4つ形成されている。また、凹部34にシリンダー2の上部を嵌合することでシリンダー2の上部周りに通気溝38に沿う4つの上部通気孔39が形成される。
なお、
図9に示す符号40は凹部34の頂面に形成されたシリンダー2の周り止めピンである。
【0038】
図7~
図9に示す第3実施形態の刻印機Cも先の第2実施形態の刻印機Bと同様に、スタイラス3の先端部3aをその下方に設置されたワークWの被刻印面に打ち付けることによりドット形状をワークWに打刻することができ、3軸ステージ機構によってワークの被刻印面に対するドット形状の打刻位置を順次変更することで文字やバーコードなどの刻印ができる。
【0039】
刻印機Cは、第1実施形態の刻印機Aと第2実施形態の刻印機Bと同様、シリンダー内部の空気を開口部36bから排出することができ、下部通気孔36の開口部36aから外気をシリンダー内に吸引することができる。シリンダー内部の空気を開口部36bから排出する場合、開口部36bの先方に鍔部35aの斜面35bが形成されているので、排気された空気をシリンダー2の底部に沿って吹き出すことができ、効率良く電磁コイル8を強制冷却できる。
刻印機Cは、空気供給源31から空気供給孔30を介し圧縮空気をシリンダー2の内部に強制的に送り込むことができる。このため、シリンダー2の内部に設置されている電磁コイル8を強制冷却することができる。また、シリンダー2に送る圧縮空気に必要に応じ潤滑油を混入しておくことで、シリンダー2の内部の必要箇所を分解せずに潤滑油を供給出来る点についても刻印機Bと同等の作用効果を奏する。
【0040】
刻印機Cはケース部材5の凹部34においてシリンダー2の上部を嵌合した部分周りであって、凹部34の開口部に上部通気孔39の開口部が存在するので、ここから吹き出す空気の流れによってシリンダー2の外周を強制冷却できる。
その他の作用効果について、先の刻印機Bと同等の作用効果を得ることができる。
【実施例】
【0041】
図10は、JIS規定SUM23からなる円柱状の鉄心(直径16mm、長さ37mm、外周面の一部に幅14mmの空気移動用の平面部を設けた構造)を用い、シリンダーの内部で上下方向に5mm振動させた従来の刻印機による電磁コイルの温度測定結果を示す。
この刻印機には、シリンダーの内壁部に274回巻きコイルを有する電磁コイルを適用した。
図10に電磁コイルの温度変化を経過時間とともに計測した結果を示す。駆動条件は、24.5A/4.3ms通電ON、130ms通電OFFの条件とした。
【0042】
また、JIS規定SUM23からなる円柱状の鉄心(直径16mm、長さ37mm)を用い、シリンダーの内部で上下方向に5mm上下方向に振動させた本発明に係る刻印機による試験結果を
図10に併記した。
本発明に係る刻印機は、
図7~
図9に示す構成であり、従来の刻印機と電磁コイルは共通、駆動条件も共通である。
本発明の刻印機は、シリンダー下部の軸受部の周壁に直径1.2mmの下部通気孔を6個形成した。また、シリンダー上部のケース部材に直径2mmの上部通気孔を2個形成した。
駆動回路による電磁コイルの駆動条件は、24.5A/4.3ms通電ON、130ms通電OFFを繰り返す矩形波を電磁コイルに印加し、駆動した。駆動部の電圧:80V(コンデンサ充放電回路)、ペン部=鉄心(スタイラス振幅):10mm、コイル巻き数:274、コイル線径:0.8mm、スタイラス軸径:5mmに設定している。
【0043】
図10に示す結果が示すように、従来の刻印機は1時間経過後、70~74℃で安定駆動できたが、本発明に係る通気孔を設けた刻印機は、1時間経過後、65~67.3℃で安定駆動できた。本発明に係る刻印機は、従来の刻印機に対し約6.7℃低い温度で安定駆動することができた。
このため、本発明に係る構造を採用することで、電磁コイルの過熱を抑制することができることが分かった。
【0044】
また、従来構造の刻印機より電磁コイルを低温に保持できることは、駆動条件として、24.5A/4.3ms通電ON、130ms通電OFFを繰り返す矩形波に代えて、24.5A/4.3ms通電ON、45ms通電OFFを繰り返す矩形波などにより駆動が可能となる。
このため、高速駆動に耐える刻印機を提供できることがわかる。
【符号の説明】
【0045】
A…刻印機、2…シリンダー、3…スタイラス、5…ケース部材、
6…軸受部、7…軸受部材、8…電磁コイル、9…軸受筒、12…凹部、
13…鉄心、15…クッション部材、16、17…開口部、18…上部通気孔、
21…ばね部材、22…下部通気孔、25…駆動回路、30…空気供給孔、
31…空気供給源、34…凹部、35…スタイラスホルダ、36…下部通気孔、
36a、36b…開口部、38…通気溝、39…上部通気孔、W…ワーク。