(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】バリ取り工具およびバリ取り方法
(51)【国際特許分類】
B23C 3/12 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
B23C3/12 B
(21)【出願番号】P 2018202366
(22)【出願日】2018-10-26
【審査請求日】2020-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】武藤 充
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-112553(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第01052044(EP,A1)
【文献】特開2016-007691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状を呈するハウジングと、
前記ハウジングの軸に対して傾動自在で、前記ハウジング内に遊嵌支持され、先端に刃具を着脱自在に取り付ける回転可能な取付部を有するスピンドルと、
前記スピンドルを支持するスピンドル装置と、
前記ハウジングの内側に摺動自在に配置され、前記スピンドル装置に固定されたセンタディスクにおける前記スピンドル装置の径方向外側に位置する外周縁に当接して該外周縁を先端方向に押圧するピストンと、
前記ピストンは、円筒状の胴部および、前記胴部の外周面よりも外径方向に一段高い環状のシールフランジ部と、を有し、
前記胴部の外周面に対して、前記ハウジングの軸の方向に摺動自在となるように配置されるセパレートリングと、
前記シールフランジ部に向けて前記セパレートリングを近接させる先端方向へ付勢する弾性部材と、
前記セパレートリングと前記ピストン
の前記シールフランジ部との間の圧力を圧縮性流体の供給または供給の停止により増減させる流路と、を備えるバリ取り工具。
【請求項2】
前記ハウジングの先端部の内側に配置され、先端側に向けて縮径する方向に傾斜するテーパ面を有するテーパリングを更に備え、
前記センタディスクは、前記ピストンと前記テーパリングとの間に配置され、前記ピストンからの押圧力により、前記テーパ面に前記外周縁を摺接させて、前記軸に中心軸を一致させる請求項1に記載のバリ取り工具。
【請求項3】
前記ピストンの先端部は、先端側に向けて拡径する方向に傾斜して、前記センタディスクの前記外周縁に摺接するピストン側テーパ面を有する請求項2に記載のバリ取り工具。
【請求項4】
前記外周縁の表面には、前記ピストン側テーパ面または、前記テーパ面のうち、少なくとも何れか一方に摺接するR面が形成されている請求項3に記載のバリ取り工具。
【請求項5】
前記セパレートリングの外周面には、前記ハウジング内周面と摺接するウェアリングが設けられている請求項1~4のうち何れか一項に記載のバリ取り工具。
【請求項6】
前記ピストンの外周面には、前記ハウジング内周面と摺接するウェアリングが設けられている請求項1~5のうち何れか一項に記載のバリ取り工具。
【請求項7】
前記ピストンの後端側の外周面に摺接する複数のガイドピンをさらに含む請求項1~6のうち何れか一項に記載のバリ取り工具。
【請求項8】
前記セパレートリングを先端方向へ弾性部材により付勢し、
前記セパレートリングと
前記ピストンの前記シールフランジ部との間に圧縮性流体を供給または供給を停止し、
前記セパレートリングが前記圧縮性流体の流体圧力により前記弾性部材の付勢力に抗して前記ピストン
の前記シールフランジ部と離間し、
前記ピストンがセンタディスクの外周縁をテーパリングに向けて付勢し、
スピンドルが刃具を回転し、
回転した前記刃具がワークのエッジと接触し、
前記刃具が横向きの力を受けたときに、前記センタディスクが傾斜して前記ピストンを押し上げ、
前記セパレートリングからの前記弾性部材の付勢力あるいは、前記流体圧力により前記ピストンが前記外周縁を押し下げて前記センタディスクの傾斜を復元する、請求項2に記載のバリ取り工具を用いるバリ取り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリ取り工具およびバリ取り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボット等に取り付けられて、アルミダイキャスト製品などのバリを除去するために用いられるバリ取り工具が知られている(特許文献1等参照)。
このようなものでは、刃具が装着される工具保持部を、軸に対して傾動自在に遊嵌支持している。そして、刃具を傾動させながらワークの輪郭に沿って追従させる。これにより、除去するバリに対応して均一となるように加工面が仕上げられる。
【0003】
工具保持部の軸の方向の加圧押圧力は、工具保持部材を軸の方向に沿って付勢するスプリングによって調整される。
そして、加工前にバリ取り加工の場所をロボットに教えるティーチング作業を行うため、エア圧を止める(エアOFF状態)と、スプリングによる姿勢戻し力が単独で働いて、傾動した工具保持部を元の位置に復帰させる。
【0004】
また、バリ取り加工時には、スプリングの弾性反力に、さらに、エアコンプレッサから供給されるエア圧が加えられる(エアON状態)。バリ取り工具には、工具保持部材を押圧する駆動力(スプリング圧+エア圧)が与えられて、刃具の刃先が一定量ワークに押込まれながらバリ取り加工が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら従来のものでは、断続加工であるバリ取り加工で、しかも、ワーク側の加工面も均一でないため、加工中に微振動が発生する。
その際、反応速度が速く、また、伸縮運動を繰返すメカニカルなスプリングは、振動をさらに増幅させる傾向にある。
その結果、ワーク側の加工面が粗くなるばかりか、刃具の寿命が短くなるといった問題があった。
【0007】
また、バリ取り工具には、工具保持部を押圧する駆動力(スプリング圧+エア圧)が与えられている。この戻し力(加工圧)は、スプリングとエア圧との合力である。このため、エア圧の変化量に対して加工圧の変化度合いが低く、調整幅が大きく取れないことも、多様なバリに対応できない要因の一つとなっていた。
そこで、本発明は、安定した加工が可能となるバリ取り工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の側面は、バリ取り工具であって、円筒状を呈するハウジングと、ハウジングの軸に対して傾動自在で、ハウジング内に遊嵌支持され、先端に刃具を着脱自在に取り付ける回転可能な取付部を有するスピンドルと、スピンドルを支持するスピンドル装置と、ハウジングの内側に摺動自在に配置され、スピンドル装置に固定されたセンタディスクの外周縁に当接して外周縁を先端方向に押圧するピストンと、ピストンは、円筒状の胴部および、胴部の外周面よりも外径方向に一段高い環状のシールフランジ部と、を有し、胴部の外周面に対して、ハウジングの軸の方向に摺動自在となるように配置されるセパレートリングと、シールフランジ部に向けてセパレートリングを近接させる先端方向へ付勢する弾性部材と、セパレートリングとピストンのシールフランジ部との間の圧力を圧縮性流体の供給または供給の停止により増減させる流路と、を備える。本発明の第二の側面は、バリ取り方法であって、セパレートリングを先端方向へ弾性部材により付勢し、セパレートリングとピストンのシールフランジ部との間に圧縮性流体を供給または供給を停止し、セパレートリングが圧縮性流体の流体圧力により弾性部材の付勢力に抗してピストンのシールフランジ部と離間し、ピストンがセンタディスクの外周縁をテーパリングに向けて付勢し、スピンドルが刃具を回転し、回転した刃具がワークのエッジと接触し、刃具が横向きの力を受けたときに、センタディスクが傾斜してピストンを押し上げ、セパレートリングからの弾性部材の付勢力あるいは、流体圧力によりピストンが外周縁を押し下げてセンタディスクの傾斜を復元する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安定した加工が可能となるバリ取り工具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施形態のセパレートリングの一部を切り欠いた斜視図
【
図3】実施形態のバリ取り工具の使用状況を示す縦断面図
【
図4】実施形態のバリ取り工具で、リヤカバーの内周面にガイドピンが設けられている様子を説明する斜視図である。
【
図5】実施形態の変形例1のセンタディスクの端部を示す拡大断面図
【
図6】実施形態の変形例2のセンタディスクの端部を示す拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1に示すように、バリ取り工具1は、ハウジング5、ピストン7、テーパリング20、スピンドル装置3、センタディスク30、セパレートリング10、弾性体であるスプリング13及び流路15を含む。
ハウジング5は中空円筒状をなす。ハウジング5は工作機械やロボット(不図示)に支持部材40を介して固定される。
ハウジング5内には、モータ2、スピンドル装置3、ピストン7、セパレートリング10、スプリング13および流路15が配置される。ハウジング5の両端には、フロントカバー6a,リヤカバー6bがそれぞれ装着される。モータ2は円柱状をなし、センタディスク30に固定される。
【0012】
スピンドル装置3は、センタディスク30に固定される。スピンドル装置3はモータ2と同軸に配置される。スピンドル装置3はスピンドル4を回転可能に支持する。スピンドル4は、取付部4aにバリ取りに用いる刃具8を着脱自在に取付ける。
モータ2、スピンドル装置3及びセンタディスク30は、ハウジング5の中心線を通る軸Lに対して傾動自在となるように遊嵌支持されている。
【0013】
ピストン7は、円筒状の胴部7aと、胴部7aの一側端側で外周面よりも外径方向に一段高い環状のシールフランジ部7bとを軸L方向に連設させて一体に形成している。ピストン7は、ハウジング5の内側に摺動自在に配置される。
シールフランジ部7bには、外周面に環状のシール溝7cが凹設されている。このシール溝7cには、円環状のシールリング7dが装着されている。
【0014】
シールフランジ部7bの外周面には、シール溝7cと並んで環状のウェアリング溝7gが凹設されている。
ウェアリング溝7gには、ウェアリング70が装着されている。ウェアリング70は、柔軟性を有して、滑り性の高い樹脂材料にて構成されている。
そして、シールフランジ部7bの先端側には、先端側に向けて拡径する方向に一定の傾きで傾斜するピストン側テーパ面7fが形成されている。
ピストン7は、この先端側に形成されたピストン側テーパ面7fをセンタディスク30に当接させて押圧する。
シールフランジ部7bでは、外周面のシールリング7dに並んでウェアリング70が装着されている。このため、シールフランジ部7bは、傾きが抑制され、ピストン7が摺動する際にも、軸Lに沿って調芯されるため、円滑に直動させることが出来る。
【0015】
ハウジング5内側で、ピストン7の胴部7a外側に位置するハウジング空間100内には、セパレートリング10と、ピストン7を先端側に向けて付勢するスプリング13とが設けられている。
セパレートリング10は、スピンドル装置3を移動させるピストン7の受圧面7eと、スプリング13との間に配置される。セパレートリング10は円環状である。セパレートリング10は例えば金属で構成される。
セパレートリング10の内周面および外周面には、環状のシール溝10f,10gが設けられる。シールリング10a,10bがシール溝10f,10gに挿入される。セパレートリング10は、それぞれ軸Lの方向の端面に、当接面10dと背面10eとをもつ。
【0016】
図4に示すように、リヤカバー6bの内周面6cには、ガイドピン6dを挿入する溝部6eが複数箇所に配設されている。ガイドピン6dはテフロン樹脂にて構成されている。ガイドピン6dが、ピストン7の後端側の外周面7mと線接触することにより、ピストン7の傾きを抑制する。ガイドピン6dを用いることにより、ハウジング5内のピストン7の摺動性を向上させる。
【0017】
セパレートリング10の内周面には、ウェアリング50を挿入する溝部10jが環状に凹設されている。セパレートリング10の外周面には、ウェアリング60を装着させる溝部10kが環状に凹設されている。ウェアリング50,60は、柔軟性を有して、滑り性の高い樹脂材料にて構成されている。
ウェアリング50,60がセパレートリング10の内,外周面に装着されることにより、セパレートリング10は円滑に摺動する。シールリング10a,10bの当接ムラが生じてもセパレートリング10の傾きを抑制できる。ウェアリング50,60を用いることにより、セパレートリング10およびハウジング5間の接触によるカジリを抑制できる。
【0018】
当接面10dおよび背面10eの間には、圧縮性流体供給溝10hが環状に凹設されている。圧縮性流体供給溝10hは、流路15の隔壁に開口形成された供給孔16(
図1参照)に対向する。圧縮性流体供給溝10hは、溝状の複数の連通溝10cを介して、第1室11内の空間と、流路15内の空間とを連通させている。連通溝10cは、周上に等間隔を置いて複数、設けられている。
なお、ハウジング5の内壁とセパレートリング10の外壁との間に存在する隙間から圧縮性流体が第1室11内に流入するように通気出来ればよく、連通溝10cを省いても良い。
【0019】
図1に示すように、セパレートリング10は、ハウジング空間100内で、ピストン7の胴部7aの外周面に対して、軸Lの方向に摺動自在となるように配置されている。
セパレートリング10は、シール溝10f,10gに嵌合された環状のシールリング10a,10bをハウジング内側に摺接させて、シール性を保持している。
セパレートリング10が、ハウジング空間100内を前方に位置する第1室11と、後方に位置する第2室12とに、区画し、第1室11と第2室12との間を遮断する。
圧縮性流体供給手段500(
図3参照)から流路15内に圧縮性流体が送り込まれると、圧縮性流体は、流路15から、供給孔16、圧縮性流体供給溝10h、連通溝10cを介して、セパレートリング10とピストン7の受圧面7eとの間の第1室11内に供給される。圧縮性流体は、空気や窒素などが利用できる。
【0020】
第1室11は、ピストン7のシールフランジ部7bに形成された受圧面7eと、セパレートリング10との間に形成されている。そして、流路15と連通することにより、圧縮性流体供給手段500から圧縮性流体の供給を受けるように構成されている。
なお、供給孔16から直接、第1室11に圧縮性流体としてエアを供給するように、供給孔16を第1室11に臨ませた構成としてもよい。
また、第2室12には、スプリング13が配置されている。スプリング13は、一端をハウジング5の座面5aに当接させるとともに、他端をセパレートリング10の背面10eに当接させている。そして、スプリング13は、ピストン7の受圧面7eに向けて当接面10dを近接させる方向(先端方向)にセパレートリング10を付勢している。
【0021】
第1室11に圧縮性流体供給手段500から圧縮性流体が供給される(エアON状態:
図3参照)と、スプリング13の付勢力に抗して、圧縮性流体の圧力がセパレートリング10を座面5a方向へ押圧する。
圧縮性流体供給手段500から供給される圧縮性流体圧は、ピストン7の受圧面7eにも付加されるため、ピストン7を先端方向へ押圧する。
圧縮性流体供給手段500から第1室11への圧縮性流体の供給が停止する(エアOFF状態:
図1参照)と、スプリング13の付勢力によって、セパレートリング10がピストン7方向に移動して、当接面10dを受圧面7eに当接させる。
【0022】
このように、圧縮性流体供給手段500から圧縮性流体の供給のON,OFFを切替えることによって、セパレートリング10をスプリング13の弾性反力に抗して座面5aの方向に押圧して、ピストン7の受圧面7eからの当接面10dを離間させる状態と、当接面10dを受圧面7eに当接させる状態とを選択できる。
【0023】
受圧面7eから当接面10dを離間させた状態では、受圧面7eとセパレートリング10との間には、圧縮性流体のみが介在する。よって、セパレートリング10から受圧面7eに加わるスプリング13の弾性反力の影響を無くし、または、減少させて、圧縮性流体供給手段500からの圧縮性流体の圧力により、ピストン7が押圧される寄与率を増大させることができる。このため、圧縮性流体の圧力の変化量に対して加工圧の変化度合いを向上させて、調整幅を大きく設定することにより、多様なバリに対応できる。
【0024】
テーパリング20は、ハウジング5の先端部の内側に配置される。テーパリング20は、円環状を成し、ピストン7側の端面に、先端側に向けて縮径するように一定の傾きで傾斜するテーパ面21が形成される。
テーパリング20は、ピストン7側とは反対側に先端面22(
図1参照)を形成している。先端面22は、フロントカバー6aに軸Lの方向で当接されている。これにより、先端側への加工圧がピストン7から加わっても、テーパリング20は、軸Lの方向へ移動しないように構成される。
【0025】
テーパリング20は、刃具8に径方向の力が加わった際に、傾斜したセンタディスク30の最も先端側の部位とテーパ面21とが接触する。テーパ面21が設けられているため、スピンドル装置3が径方向に移動することを抑制する。テーパリング20にテーパ面21が設けられていることから、センタディスク30とハウジング5の内面に強く接触し、ハウジング5やセンタディスク30の摩耗を抑制する。
【0026】
センタディスク30は、薄板の円盤形状を呈する基面部31と、比較的肉厚な外周縁32とを有している。外周縁32は、基面部31の外周に沿って一体に設けられて、径方向断面をほぼ円形としている。
外周縁32は、ピストン7のピストン側テーパ面7fと、テーパリング20のテーパ面21との間に配置される。ピストン側テーパ面7fは、先端側に向けて拡径する方向に一定の角度で傾斜している。
センタディスク30を挟んで軸Lの方向で対称にピストン側テーパ面7fとテーパリング20のテーパ面21が配置される。
センタディスク30の外周縁32の表面には、R面が形成されている。R面は、ピストン側テーパ面7fとテーパ面21とに、軸Lの方向で両側から挟込まれている状態で、それぞれ摺接されている。
【0027】
センタディスク30は、ピストン7からの押圧力により、ピストン側テーパ面7fとテーパ面21とにそれぞれ外周縁32を摺接させて、径方向の移動を抑えつつ、ハウジング5の軸Lにスピンドル装置3の中心軸を一致させる調芯方向に刃具8の姿勢を復元させる。
【0028】
次に、この実施形態のバリ取り工具1の作用効果について説明する。
この実施形態のバリ取り工具1では、圧縮性流体供給手段500から供給された圧縮性流体が流路15、供給孔16、セパレートリング10の連通溝10cを通り、セパレートリング10とスピンドル装置3との間にある第1室11に供給される(エアON状態)。
第1室内に均等に空圧がかかることにより、ピストン7の周囲で、ハウジング5の軸Lに対するセパレートリング10の傾きが発生しにくくなり、セパレートリング10が円滑に摺動する。
【0029】
図3に示すように、エアON状態では、ハウジング5内に導入された圧縮性流体によって、ピストン7が先端方向に押圧される。これとともに、ハウジング5内に導入された圧縮性流体によって、セパレートリング10は、スプリング13の付勢力に抗して、座面5a方向に押圧され、ピストン7の受圧面7eからセパレートリング10の当接面10dが離間する。
【0030】
加圧中には、スプリング13のスプリング圧が直接、スピンドル装置3に伝わらず、加工時の振動は圧縮性流体によって吸収される。したがって、刃具8の振動は増幅されることなく、安定した加工が可能となる。ワーク側の加工面の加工精度が向上する。刃具8に加わる振動を減少させて、刃具8の寿命を延長できる。
また、ハウジング5内に導入された圧縮性流体によって、ピストン7が先端方向に押圧されると、センタディスク30は、圧縮性流体圧で付勢される。このため、ハウジング5の軸Lにスピンドル装置3の中心軸が一致して調芯され、スピンドル装置3の傾きが無くなる方向に、刃具8の姿勢が復元される。
【0031】
さらに、ピストン7からの押圧により、テーパ面21とは反対側に位置するピストン側テーパ面7fが外周縁32に摺接される。外周縁32は、前後両側からテーパ面21およびピストン側テーパ面7fにより摺接されて、刃具8が傾いていても、さらに迅速に調芯されて姿勢が戻り、安定した加工が可能となる
【0032】
バリ取り工具1は、
図1に示すように、圧縮性流体供給手段500を停止させたエアOFF状態では、圧縮性流体供給手段500から第1室11に圧縮性流体が供給されない。
エアOFF状態では、スプリング13のスプリング圧によって、セパレートリング10の当接面10dにピストン7の受圧面7eが当接する。
このため、スプリング圧がセンタディスク30に直接、伝えられる。よって、エアOFF状態では、スプリング圧を用いて傾きが戻り、調芯されることでスピンドル装置3の姿勢が復元される。
このように、駆動力を必要としないエアOFF状態であっても、スピンドル装置3の姿勢を復元できる。
【0033】
刃具8が傾いたときは、ピストン7からの押圧により、軸Lにスピンドル装置3の中心軸を一致させる方向に傾きが戻されて、調芯されることにより、姿勢が戻る。
エアON状態では、圧縮性流体によって、エアOFF状態では、スプリング13のスプリング圧によって、ピストン7が押圧されてセンタディスク30の外周縁32をテーパリング20のテーパ面21に摺接させる。
したがって、エアON,エアOFFいずれの状態で刃具8が傾いていても、軸Lにスピンドル装置3の中心軸を一致させる方向にスピンドル装置3の姿勢をバリ取りに適した姿勢に戻して、安定して加工できる。
【0034】
リヤカバー6aの内周面に複数のガイドピン6dが設けられた場合、複数のガイドピン6dでピストン7の後端側の外周面7mが線接触により支持されるため、ピストン7の傾きを抑制できる。また、ピストン7が傾くことで、ハウジング5やリヤカバー6aの内周面と接触して生じる摺動抵抗を低減できる。
【0035】
セパレートリング10は、内外をシールリング10a,10bで拘束されている。このため、セパレートリング10は軸Lの方向に動きにくい状態にある。
そこで、望ましくは、内周面や外周面にウェアリング50,60をシールリング10a,10bとセットで並べて配置する。
ウェアリング50,60が設けられた場合、ウェアリング50,60でセパレートリング10が支持されるため、摺動抵抗が低減する。
これにより、2カ所のシール面を有しながらも摺動性のある構造が確立される。
なお、エアON状態にあっても、瞬間的に圧縮性流体の圧力が低下して、セパレートリング10がピストン7と接触する場合がある。この場合にも、スプリング13の弾性力がセパレートリング10を介してピストン7を付勢する。そして、スピンドル装置3の姿勢を復元する作用が働く。
【0036】
[変形例1]
図5は、実施形態の変形例1のバリ取り工具201で、センタディスク130がピストン7とテーパリング20とに当接している部分の構成を拡大した要部の断面図である。
変形例1のバリ取り工具201では、センタディスク130の面部131の周縁に外周縁132が位置している。外周縁132は、径方向断面を両側面にテーパ面132a,132aを有する半円状となるように形成されている。
【0037】
センタディスク130は、外周縁132のR面133,133が、軸Lの方向で両側から挟込まれている状態で、テーパ面21やピストン側テーパ面7fとそれぞれ摺接する。
センタディスク130は、ピストン7からの押圧力により、ピストン側テーパ面7fとテーパ面21と外周縁132が摺接して、径方向の移動を抑えつつ、刃具8の姿勢が復元する。
【0038】
なお、外周縁132のR面133,133は、摺動に必要な曲率半径Rを部分的に形成していればよい。テーパ面132a,132aを有する形状によって、面部131と外周縁132とを円滑に接続することにより、充分な剛性を発揮する。
他の構成および作用効果については、実施形態のバリ取り工具1と実質的に同一であるので、説明を省略する。
【0039】
[変形例2]
図6は、実施形態の変形例2のバリ取り工具301で、センタディスク230がピストン7とテーパリング20とに当接している部分の構成を拡大した要部の断面図である。
変形例2のバリ取り工具301では、センタディスク230の面部231が中心軸に近い部分に比して、外周縁に近い部分の厚みが薄くなるように形成されている。面部231の周縁には、リング状の外周縁232が形成されている。外周縁232は、径方向断面が半円状となるように形成されている。
【0040】
センタディスク230では、外周縁232のR面233,233がピストン側テーパ面7fおよびテーパリング20に、軸Lの方向で両側から挟込まれている状態で、それぞれ摺接する。
センタディスク230は、ピストン7からの押圧力により、ピストン側テーパ面7fとテーパ面21とにそれぞれ外周縁232を摺接させて、径方向の移動を抑えつつ、調芯されて、刃具8の姿勢が復元する。
【0041】
なお、外周縁232のR面233,233は、摺動に必要な曲率半径Rを部分的に形成していればよい。外周よりも基面部31が厚くても良い。同じ厚みでも良い。
他の構成および作用効果については、実施形態のバリ取り工具1と実質的に同一であるので、説明を省略する。
【0042】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1,201,301 バリ取り工具
3 スピンドル装置
4 スピンドル
4a 取付部
7 ピストン
7e 受圧面
7f ピストン側テーパ面
8 刃具
10 セパレートリング
13 スプリング(弾性部材)
15 流路
20 テーパリング
30,130,230 センタディスク(被押圧部)
100 ハウジング空間