(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20220614BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20220614BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220614BHJP
【FI】
B32B27/36
B29C55/12
C08J5/18 CFD
(21)【出願番号】P 2018508875
(86)(22)【出願日】2017-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2017008902
(87)【国際公開番号】W WO2017169553
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2016068297
(32)【優先日】2016-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513164624
【氏名又は名称】フラニクス テクノロジーズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 潤
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 勝也
(72)【発明者】
【氏名】沼田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】早川 章太
(72)【発明者】
【氏名】ファン ベルケル ヤスパー ガブリエル
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-200546(JP,A)
【文献】国際公開第2014/100265(WO,A1)
【文献】特開2012-229395(JP,A)
【文献】特開2012-094699(JP,A)
【文献】特開平11-010725(JP,A)
【文献】特開2014-073598(JP,A)
【文献】国際公開第2016/032330(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0011631(US,A1)
【文献】国際公開第2014/100256(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0032602(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C08J 7/00- 7/06
B29C 55/00- 55/30
B29C 61/00- 61/10
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フランジカルボン酸を主たる成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主たる成分とするグリコール成分とからなるポリエステル樹脂を主とする層を少なくとも一層以上有し、かつ面配向係数ΔPが0.005以上、0.200以下であり、厚さが1μm以上、300μm以下であり、150℃、30分の加熱収縮率がMD方向およびTD方向とも3.2%以下であり、少なくとも1種類の添加剤を含む層を有
しており、前記添加剤は、微粒子、耐熱性高分子粒子、架橋高分子粒子からなる群から選ばれる少なくとも1つの不活性粒子、蛍光増白剤、紫外線防止剤、赤外線吸収色素、熱安定剤、界面活性剤、酸化防止剤から選択される少なくとも1種以上であることを特徴とするポリエステルフィルム。
【請求項2】
面配向係数ΔPが0.100以上、0.160以下である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
上記添加剤が微粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
15μm換算の衝撃強度が0.4J以上である請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムを巻き取ってなるポリエステルフィルムロール。
【請求項6】
未延伸フィルムを縦方向および横方向に延伸し、熱固定処理における最高温度部を経た後、ただちにフィルム端部を分離する工程と、縦および横方向に弛緩熱処理を行う工程を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルムに関する。詳しくは、優れた耐熱寸法安定性、耐衝撃強度特性、易滑性、機械物性、透明性、ガスバリア性を有するポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性や機械物性に優れた熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂は、プラスチックフィルム、エレクトロニクス、エネルギー、包装材料、自動車等の非常に多岐な分野で利用されている。プラスチックフィルムのなかでも、二軸延伸PETフィルムは機械特性強度、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、光学特性などとコストのバランスに優れることから,工業用,包装用分野において幅広く用いられている。
【0003】
工業用フィルムの分野では、優れた透明性を有することから液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(FPD)向けの機能フィルムとして用いることができる。また耐加水分解性を付与したPETフィルムは太陽電池バックシート用フィルムとしても利用されており、機能性フィルム、ベースフィルムとして様々な目的で使われている。
【0004】
包装用フィルムの分野では、食品包装用、ボトル用シュリンクラベル、ガスバリアフィルム用途として利用されている。特に、ガスバリア性に優れるフィルムは、食品、医薬品、電子部品等の気密性を要求される包装材料、または、ガス遮断材料として使用され、近年需要が高まっている。
【0005】
一方、環境配慮型または環境持続型材料として、生分解性を有する樹脂やバイオマス由来の原料を用いた樹脂が注目されている。
上述の観点から、PET等の石油誘導体を代替する再生可能なポリマーを提供することを目指して、多くの検討がなされている。フランジカルボン酸(FDCA)は、熱湯における溶解性や酸性試薬に対する安定性の点で、テレフタル酸に似ており、また平面構造であることも知られていることから、FDCAとジオールとが重縮合されたフラン系の材料が提案されている(特許文献1、非特許文献1)。
【0006】
これら開示されている高分子の物性は融点のみであり、機械強度は明らかになっておらず、フランジカルボン酸ユニットを有する熱可塑性樹脂組成物が工業用、包装用フィルムの分野で使用できるか不明であった。
【0007】
ポリブチレンフランジカルボキシレート(PBF)を中心とした数種のフランジカルボン酸ユニットを有する熱可塑性樹脂組成物について、重合度を規定し電気・電子部品等の用途に使用できる高分子化合物の提案がされている(特許文献2)。さらに、還元粘度、末端酸価を規定し機械強度に優れるポリエステルの提案がされている(特許文献3,4)。
【0008】
しかしながら、特許文献2において、開示されているPBFの熱プレス成形品の透明性は低く、工業用、包装用フィルムの分野での使用は制限される。特許文献3,4に開示されているフランジカルボン酸構造の200μmシート品の機械特性について、破断伸び、破断強度ともに低く、工業用、包装用フィルムの分野で使用することは考えられなかった。
【0009】
ポリエチレンフランジカルボキシレート(PEF)、PEF誘導体およびPEF誘導体と共重合ポリエステルなどのブレンドによって得られたシートの一軸延伸フィルムの検討がなされている(特許文献5、6)。
【0010】
特許文献5では、配合物の種類、配合比率によりフランジカルボン酸ユニットを有する熱可塑性樹脂組成物からなるシートに比べて、それを5~16倍に一軸延伸したフィルムの破断伸びが向上することが記載されている。しかし、破断伸びが向上することが広く知られているシクロヘキサンジメタノール共重合PETを配合しない限り、破断伸びの大きな向上は認められず、限定的な配合比率による効果と言わざるを得ず、工業用、包装用フィルムの分野で使用されることもなかった。
【0011】
特許文献6では圧延ロールを用いて1.6倍程度に一軸延伸を行ったPEFフィルムが開示されている。ガスバリア性に優れるプラスチックフィルムであることが示されているものの、PEFのもつ化学構造由来のバリア性の利点を示したに過ぎず、包装材料として重要な機械強度は明らかになっておらず、フランジカルボン酸ユニットを有する包装用ガスバリアフィルムの分野で使用されることもなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第2551731号公報
【文献】特許第4881127号公報
【文献】特開2013-155389号公報
【文献】特開2015-098612号公報
【文献】特表2015-506389号公報
【文献】特開2012-229395号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Y.Hachihama,T.Shono,and K.Hyono,Technol.Repts.Osaka Univ.,8,475(1958)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
現在、上記特許文献に提案のフランジカルボン酸を有する樹脂組成物がPET代替として検討されている。しかし、機械特性に劣ることから、工業用、包装用フィルムに用いることができていない。さらに耐熱性、透明性の検討も行われておらず、工業用、包装用フィルムとして適用できるかが不明である。印刷、ラミネートなどの熱加工時の寸法変化の小さいフィルムを作製することが困難であった。
【0015】
また、食品包装材料の加工における連続加工性の観点から、易滑性に優れるバリアフィルムが求められているとともに、食品包装後の製品検査における異物検知や消費者の求めるデザイン性の観点から、易滑性と透明性とが高度に両立したバリアフィルムが求められる。
【0016】
さらに、印刷、ラミネートなどの後加工における連続生産性に優れ、ロール・ツー・ロールで連続加工を行うことができ、かつ、食品、医薬品、電子部品等の包装に好適に使用できる材料が求められる。
【0017】
加えて、環境意識の高まりもあり、バイオマス由来原料からなるフィルムの需要が高まってきている。
【0018】
本発明は、バイオマス由来のフランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルムからなるポリエステルフィルムであって、優れた耐熱寸法安定性、耐衝撃強度特性、易滑性、機械物性、透明性、ガスバリア性を有するポリエステルフィルムを提供することを目的とする。また、このポリエステルフィルムを巻き取ってなるフィルムロールを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
すなわち本発明のフィルムは、(1)フランジカルボン酸を主たる成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主たる成分とするグリコール成分とからなるポリエステル樹脂を主とする層を少なくとも一層以上有し、かつ面配向係数ΔPが0.005以上、0.200以下であり、厚さが1μm以上、300μm以下であり、150℃、30分の加熱収縮率がMD方向およびTD方向とも3.2%以下であり、少なくとも1種類の添加剤を含む層を有することを特徴とするポリエステルフィルムである。
【0020】
(2)好ましくは、面配向係数ΔPが0.100以上、0.160以下である(1)に記載のポリエステルフィルムである。
【0021】
(3)好ましくは、上記添加剤が微粒子である(1)又は(2)に記載のポリエステルフィルムである。
【0022】
(4)好ましくは、15μm換算の衝撃強度が0.4J以上である(1)~(3)のいずれかに記載のポリエステルフィルムである。
【0023】
(5)好ましくは、(1)~(4)のいずれかに記載のポリエステルフィルムを巻き取ってなるポリエステルフィルムロールである。
【0024】
(6)加えて、未延伸フィルムを縦方向および横方向に延伸し、熱固定処理における最高温度部を経た後、ただちにフィルム端部を分離する工程と、縦および横方向に弛緩熱処理を行う工程を有することを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法をも包含する。
【発明の効果】
【0025】
フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルフィルムを備えたポリエステルフィルムとすることによって、優れた熱寸法安定性を有するため、工業用、包装用フィルムとして好適に使用することができる。また、さらに好ましい実施態様によれば、易滑性に優れ、耐衝撃強度特性にも優れることから、食品、医薬品、電子部品等の包装材料または、ガス遮断材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に用いるフィルム製膜装置における横延伸工程の平面図の一例。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のポリエステルフィルムは、被覆層を備えてもよい。被覆層は、上記ポリエステルフィルムの少なくとも片面に備えられる。また、薄膜層が、被覆層が積層されたポリエステルフィルムの少なくとも片面に備えられていてもよい。
【0028】
<ポリエステルフィルム>
本発明で用いられるポリエステルフィルムは、ジカルボン酸成分として主にフランジカルボン酸が含まれ、グリコール成分として主にエチレングリコールが含まれるポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂よりなる二軸配向ポリエステルフィルムである。ここで、ポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂は、エチレングリコールおよびフランジカルボン酸を主な構成成分として含有する。「主に」とは、ジカルボン酸全成分100モル%中、フランジカルボン酸が80モル%以上であり、グリコール全成分100モル%中、エチレングリコールが80モル%以上である。
【0029】
本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他のジカルボン酸成分およびグリコール成分を共重合させても良い。他のジカルボン酸成分およびグリコール成分の共重合量は、全ジカルボン酸成分あるいは全グリコール成分に対して、それぞれ20モル%未満であり、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。
上記の他のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸やイソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’-ジカルボキシビフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸等の脂環族ジカルボン酸や、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、オクタデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0030】
上記の他のグリコール成分としては、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,10-デカンジオール、ジメチロールトリシクロデカン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールC、ビスフェノールZ、ビスフェノールAP、4,4’-ビフェノールのエチレンオキサイド付加体またはプロピレンオキサイド付加体、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0031】
このようなポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂の重合法としては、フランジカルボン酸とエチレングリコール、および必要に応じて他のジカルボン酸成分およびグリコール成分を直接反応させる直接重合法、およびフランジカルボン酸のジメチルエステル(必要に応じて他のジカルボン酸のメチルエステルを含む)とエチレングリコール(必要に応じて他のグリコール成分を含む)とをエステル交換反応させるエステル交換法等の任意の製造方法が利用され得る。
【0032】
本発明で用いられるポリエステルフィルムの樹脂成分として、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィンなどのポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂とは異なる樹脂を含んでも良いが、ポリエステルフィルムの機械特性、耐熱性の点で、他の樹脂の含有量はポリエステルフィルムの全樹脂成分に対して30質量%以下、さらには20質量%以下、またさらには10質量%以下、特には5質量%以下であることが好ましく、0質量%(ポリエステルフィルムの全樹脂成分が実質的にポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂)であることが最も好ましい。
【0033】
本発明のポリエステルフィルムは少なくとも1種類の添加剤を含む層を有する。添加剤はポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂を主体とする層中に含まれていてもよく、被覆層中に含まれていてもよい。
ポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂を主体とする層中に含まれる場合においては、その層が単層構成であっても多層構成であってもよく、表層にのみ添加剤を含有するポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂層を用いた多層構成としてもよい。このようなフィルムとしては、中心層(b層)の両面に添加剤を含有する表層(a層)が共押出法により積層されてなる多層構成(a/b/a)、中心層(c)と表層の両層に添加剤を含み、各層の添加剤に濃度差をつけた構成(c/b/c)などがとり得る。
ポリエステルフィルムは少なくとも1種類の添加剤を含む層を有すればよく、特に構成は限定されない。
【0034】
本発明で用いる添加剤には、使用する目的に応じて、微粒子、耐熱性高分子粒子、架橋高分子粒子などの不活性粒子、蛍光増白剤、紫外線防止剤、赤外線吸収色素、熱安定剤、界面活性剤、酸化防止剤などが選択される。添加剤は2種以上含有させることができる。
【0035】
本発明で用いる微粒子としては任意のものが選べるが、たとえばシリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、カオリナイト、タルクなど無機粒子やその他の有機粒子が挙げられる。特に透明性の観点から、樹脂成分と屈折率が比較的近い、シリカ粒子、特に不定形シリカが好適である。
【0036】
ポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂に含まれる微粒子の平均粒径は1~10μmが好ましく、より好ましくは1.5~7μmの範囲であり、更に好ましくは2~5μmの範囲である。微粒子の平均粒径が1.0μm以上であれば、表面に易滑性付与に好適な凹凸構造を付与することができ好ましい。一方、微粒子の平均粒径が10μm以下であれば、高い透明性が維持されるので好ましい。また、ポリエステル中の不活性粒子の含有量は、0.005~1.0質量%であることが望ましく、好ましくは0.008~0.5%である。微粒子の含有量が0.005質量%以上であれば、表面層表面に易滑性付与に好適な凹凸構造を付与することができ好ましい。一方、微粒子の含有量が1.0質量%以下であれば、高い透明性が維持されるので好ましい。
【0037】
本発明で用いる紫外線吸収剤としては任意のものが選べるが、例えばベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等の有機系紫外線吸収剤、或いは粒径0.2μm以下の微粒子状の酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム等の無機系紫外線吸収剤等が挙げられる。使用する目的に応じて公知の物の中から選択して用いれば良い。
【0038】
本発明で用いる酸化防止剤としては任意のものが選べるが、芳香族アミン系、フェノール系などが挙げられる。安定剤としては、リン酸やリン酸エステル系等のリン系、イオウ系、アミン系などが挙げられる。
【0039】
また、前記ポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂の固有粘度は、0.30dl/g以上、1.20dl/g以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.55dl/g以上、1.00dl/g以下であり、さらに好ましくは0.70dl/g以上、0.95dl/g以下である。固有粘度が0.30dl/gよりも低いと、ポリエステルフィルムが裂けやすくなる。一方で固有粘度が1.20dl/gより高いと濾圧上昇が大きくなって高精度濾過が困難となり、フィルタを介して樹脂を押出すことが困難となる、また、機械特性を高くする効果が飽和状態となる。
【0040】
<被覆層>
被覆層を設ける場合には、上記ポリエステルフィルムの少なくとも片面に備えられている。被覆層は上記ポリエステルフィルムの両面にあってもよく、被覆層上にさらに被覆層を設ける多層積層構成をとっても構わない。高い透明性と優れた易滑性の両立のためには被覆層を設けることが重要である。被覆層が多層の場合は、より外側(反ポリエステルフィルム側)の被覆層に後述の粒子を含有させるのが好ましく、後述の無機粒子を含有させるのがより好ましい。
【0041】
被覆層は、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂から選ばれた少なくとも1種の樹脂を含有することが好ましい。本発明の被覆層を構成するポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂は、ポリエステルフィルムに対して接着性を有する。上述の樹脂は単独で用いてもよいし、異なる2種以上の樹脂、例えば、ポリエステル樹脂とウレタン樹脂、ポリエステル樹脂とアクリル樹脂、あるいはウレタン樹脂とアクリル樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂として共重合ポリエステルを用いる場合、ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸成分と、グリコール成分としてエチレングリコール及び分岐状グリコールとを構成成分とすることが好ましい。前記の分岐状グリコールとは、例えば、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2-メチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-n-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-n-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、及び2,2-ジ-n-ヘキシル-1,3-プロパンジオールなどが挙げられる。
【0043】
分岐状グリコール成分のモル比は、全グリコール成分に対し、下限が10モル%であることが好ましく、より好ましくは20モル%、さらに好ましくは30モル%である。一方、上限は90モル%であることが好ましく、さらに好ましくは80モル%である。また、必要に応じて、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールまたは1,4-シクロヘキサンジメタノールなどを併用してもよい。
【0044】
芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、またはフランジカルボン酸が最も好ましい。芳香族ジカルボン酸成分は、テレフタル酸、イソフタル酸、及びフランジカルボン酸のみで構成されていてもよいが、全ジカルボン酸成分に対し、10モル%以下の範囲で、他の芳香族ジカルボン酸、特に、ジフェニルカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸を加えて共重合させてもよい。
【0045】
ポリエステル樹脂を水系塗液として用いる場合には、水溶性あるいは水分散性のポリエステル系樹脂が用いられるが、このような水溶性化あるいは水分散化のためには、スルホン酸塩基を含む化合物や、カルボン酸塩基を含む化合物を共重合させることが好ましい。そのために、前記のジカルボン酸成分の他に、ポリエステルに水分散性を付与させるため、例えば、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホナフタレンイソフタル酸-2,7-ジカルボン酸、5-(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸またはそのアルカリ金属塩などを全ジカルボン酸成分に対して1~10モル%の範囲で使用するのが好ましく、5-スルホイソフタル酸又はそのアルカリ金属塩を使用することがより好ましい。
【0046】
(ポリウレタン樹脂)
本発明で用いられるポリウレタン樹脂は、構成成分として、少なくともポリオール成分及びポリイソシアネート成分を含み、さらに必要に応じて鎖延長剤を含むことができる。熱反応型ポリウレタン樹脂を用いる場合には、例えば、末端イソシアネート基を活性水素基で封鎖(以下ブロックと言う)した、水溶性または水分散性ポリウレタンなどが挙げられる。
【0047】
ポリオール成分としては、多価カルボン酸(例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等)またはそれらの酸無水物と多価アルコール(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール等)の反応から得られるポリエステルポリオール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類やポリオレフィンポリオール類、アクリルポリオール類などが挙げられる。
【0048】
本発明のウレタン樹脂の構成成分であるポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4-ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類、キシリレンジイソシアネート等の芳香族脂肪族ジイソシアネート類、イソホロンジイソシアネート及び4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等の脂環式ジイソシアネート類、ヘキサメチレンジイソシアネート、および2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類、あるいはこれらの化合物を単一あるいは複数でトリメチロールプロパン等とあらかじめ付加させたポリイソシアネート類が挙げられる。バリア性の観点から、芳香族ジイソシアネート類、芳香脂肪族ジイソシアネート類、脂環式ジイソシアネート類、が好ましい。さらに、環状部に置換基を有する場合は、芳香環や脂環の側鎖は短鎖である方が好ましく、また、ジイソシアネート成分は対称性を有する方が凝集力が向上するため、好ましい。
【0049】
上記イソシアネート基のブロック化剤としては、重亜硫酸塩類、フェノール類、アルコール類、ラクタム類、オキシム類及びマロン酸ジメチル等のエステル類、アセト酢酸メチル等のジケトン類、メルカプタン類、尿素類、イミダゾール類、コハク酸イミド等の酸イミド類、ジフェニルアミン等のアミン類、イミン類、2-オキサゾリジン等のカルバメート系等が挙げられる。水溶性または水分散性ポリウレタンは、分子中に親水性基を有することが好ましい。そのため、使用する分子内に少なくとも1個以上の活性水素原子を有する化合物に親水性基を有するか、先述のブロック化剤に親水性を有する化合物を使用することが好ましい。使用する分子内に少なくとも1個以上の活性水素原子を有する化合物中に親水性基を有する例として、タウリン、ジメチロールプロピオン酸、カルボン酸基またはスルホン酸基を有するポリエステルポリオール、ポリオキシアルキレンポリオール等が挙げられる。また、ブロック化剤に親水性を有する化合物としては、重亜硫酸塩類、及びスルホン酸基を含有したフェノール類等が挙げられる。フィルム製造時の乾燥あるいは熱セット過程で、上記樹脂に熱エネルギーが与えられると、ブロック化剤がイソシアネート基からはずれるため、上記樹脂は自己架橋した編み目に混合した水分散性共重合ポリエステル樹脂を固定化するとともに、上記樹脂の末端基等とも反応する。特に水溶性または水分散性ポリウレタンとしては、ブロック化剤に親水性を有する化合物を使用したものが好ましい。これらのポリウレタンは、塗布液調整中の樹脂は親水性であるため耐水性が悪いが、塗布、乾燥、熱セットして熱反応が完了すると、ウレタン樹脂の親水基すなわちブロック化剤がはずれるため、耐水性が良好な塗膜が得られる。
【0050】
上記ポリウレタン樹脂において使用されるウレタンプレポリマーの化学組成としては、(1)分子内に少なくとも2個の活性水素原子を有する分子量が200~20,000の化合物、(2)分子内に2個以上のイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネート、及び、必要により含有される、(3)分子内に少なくとも2個の活性水素原子を有する鎖伸長剤を反応せしめて得られる、末端イソシアネート基を有する化合物である。
【0051】
上記(1)の分子内に少なくとも2個の活性水素原子を有する分子量が200~20,000の化合物として一般に知られているのは、末端又は分子中に2個以上のヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基あるいはメルカプト基を含むものであり、特に好ましい化合物としては、ポリエーテルポリオールおよびポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0052】
ポリエステルポリオールとしては、コハク酸、アジピン酸、フタル酸及び無水マレイン酸等の多価の飽和あるいは不飽和カルボン酸、あるいは該カルボン酸無水物等と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール及びトリメチロールプロパン等の多価の飽和及び不飽和のアルコール類、比較的低分子量のポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール等のポリアルキレンエーテルグリコール類、あるいはそれらアルコール類の混合物を縮合することにより得ることができる。
【0053】
さらに、ポリエステルポリオールとしては、ラクトン及びヒドロキシ酸から得られるポリエステル類、あらかじめ製造されたポリエステル類にエチレンオキシドあるいはプロピレンオキシド等を付加せしめたポリエステルポリオール類も使用することができる。
【0054】
前記(2)の有機ポリイソシアネートとしては、トルイレンジイソシアネートの異性体類、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類、キシリレンジイソシアネート等の芳香族脂肪族ジイソシアネート類、イソホロンジイソシアネート及び4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート類、ヘキサメチレンジイソシアネートおよび2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類、あるいは1種以上のこれらの化合物をトリメチロールプロパン等に付加させて得られるポリイソシアネート類が挙げられる。
【0055】
前記(3)の分子内に少なくとも2個の活性水素原子を有する鎖伸長剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオール等のグリコール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、およびペンタエリスリトール等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、およびピペラジン等のジアミン類、モノエタノールアミンおよびジエタノールアミン等のアミノアルコール類、チオジエチレングルコール等のチオジグリコール類、あるいは水が挙げられる。
【0056】
ウレタンプレポリマーを合成するには、通常、前記(1)と前記(2)と、さらに必要に応じて前記(3)とを用いた一段式あるいは多段式イソシアネート重付加方法により、150℃以下、好ましくは70~120℃の温度において、5分ないし数時間反応させる。前記(1)および前記(3)の活性水素原子に対する前記(2)のイソシアネート基の比は、1以上であれば自由に選べるが、得られるウレタンプレポリマー中に遊離のイソシアネート基が残存することが必要である。さらに、遊離のイソシアネート基の含有量は、得られるウレタンプレポリマーの全質量に対して10質量%以下であればよいが、ブロック化された後のウレタンポリマーの水溶液の安定性を考慮すると、7質量%以下であるのが好ましい。
【0057】
得られた前記ウレタンプレポリマーは、好ましくは重亜硫酸塩を用いて末端イソシアネート基のブロック化を行う。ウレタンプレポリマーを重亜硫酸塩水溶液と混合し、約5分~1時間、よく攪拌しながら反応を進行させる。反応温度は60℃以下とするのが好ましい。その後、反応混合物を水で希釈して適当な濃度にして、熱反応型水溶性ウレタン樹脂組成物とする。該組成物は使用する際、適当な濃度および粘度に調整するが、通常80~200℃前後に加熱すると、ブロック化剤である重亜硫酸塩が解離して活性な末端イソシアネート基が再生するために、プレポリマーの分子内あるいは分子間で起こる重付加反応によってポリウレタン重合体が生成する、あるいは他の官能基への付加を起こす性質を有するようになる。
【0058】
(アクリル系樹脂)
アクリル系樹脂を用いる場合の水分散性または水溶性のアクリル樹脂とは、例えば、アクリレートおよび/またはメタクリレート樹脂、あるいは、これらと、スチレンなどの不飽和二重結合を有する、アクリル樹脂と共重合可能な脂肪族化合物または芳香族化合物との共重合体が挙げられる。親水性に優れたアクリル-スチレン共重合樹脂として、乳化重合による水分散性アクリル-スチレンランダム共重合樹脂が最も好ましい。
【0059】
(粒子)
耐スクラッチ性やロール状に巻取る際や巻出す際のハンドリング性(滑り性、走行性、ブロッキング性、巻取り時の随伴空気の空気抜け性など)を改善するために、被覆層に粒子を含有させることが好ましい。これにより、本発明の積層ポリエステルフィルムは、高い透明性を保持しながら、滑り性、巻き取り性、耐スクラッチ性を得ることができる。
【0060】
粒子としては、無機粒子、有機粒子(耐熱性高分子粒子)などが挙げられる。無機粒子としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、非晶性シリカ、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、シリカ-アルミナ複合酸化物、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカなどを粒子にしたものを用いることができる。また、有機粒子としては、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル系樹脂粒子、架橋メタクリル酸メチル系粒子、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子などの耐熱性高分子粒子が挙げられる。
【0061】
これらの粒子の中でも、樹脂成分と屈折率が比較的近いため、高透明のフィルムを得やすいという点でシリカ粒子が好適である。また、粒子の形状は特に限定されないが、易滑性を付与する点からは、球状に近い粒子が好ましい。
【0062】
被覆層全量に占める粒子の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。被覆層中の粒子の含有量が20質量%を超えると、透明性が悪化し、フィルムの接着性も不十分となりやすい。一方、粒子の含有量の下限は、好ましくは0.1質量%、さらに好ましくは1質量%、特に好ましくは3質量%である。
【0063】
また、粒子が1種の場合、または2種以上の場合の主体とする粒子Pの平均粒径は10~10000nmが好ましく、特に好ましくは200~1000nmである。粒子Pの平均粒径が10nm未満の場合、耐スクラッチ性、滑り性、巻き性が悪化する場合がある。一方、粒子Pの平均粒径が10000nmを超える場合、粒子が脱落しやすくなるばかりでなく、ヘイズが高くなる傾向がある。2種以上の粒子を用いる場合で補助的に平均粒径の小さな粒子Qを添加する場合の粒子Qの平均粒径は20~150nmが好ましく、さらに好ましくは40~60nmである。平均粒径が20nm未満であると、十分な耐ブロッキング性を得ることが困難な他、耐スクラッチ性が悪化する傾向がある。
【0064】
また、粒子Pがシリカ粒子である場合、粒子Pの平均粒径が10~10000nmであると、乾式法で作製されたシリカよりなる平均一次粒径40~60nmの凝集体が被覆層から脱落しにくいため好ましい。これは製膜工程において、被覆層を塗布後、延伸工程、熱固定工程を経ることによって平たく、安定した形状にできるためと推察される。さらに粒子Pとしては、凝集状態での平均粒径と平均一次粒子との比(凝集状態での平均粒径/平均一次粒径)が4倍以上となる粒子を用いることが、耐スクラッチ性の点から好ましい。
【0065】
前記粒子は異種の粒子を2種類以上含有させても良いし、同種の粒子で平均粒径の異なるものを含有させてもよい。
【0066】
被覆層には、コート時のレベリング性の向上、コート液の脱泡を目的に界面活性剤を含有させることもできる。界面活性剤は、カチオン系、アニオン系、ノニオン系などいずれのものでも構わないが、シリコーン系、アセチレングリコール系、又はフッ素系界面活性剤が好ましい。これらの界面活性剤は、ポリエステルフィルムとの接着性を損なわない程度の範囲、例えば、被覆層形成用塗布液中に0.005~0.5質量%の範囲で含有させることも好ましい。
【0067】
被覆層に他の機能性を付与するために、各種の添加剤を含有させても構わない。前記添加剤としては、例えば、蛍光染料、蛍光増白剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料分散剤、抑泡剤、消泡剤、防腐剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0068】
本発明において、ポリエステルフィルム上に被覆層を設ける方法としては、溶媒、粒子、樹脂を含有する被覆層形成用塗布液をポリエステルフィルムに塗布、乾燥する方法が挙げられる。溶媒として、トルエン等の有機溶剤、水、あるいは水と水溶性の有機溶剤の混合系が挙げられるが、好ましくは、環境問題の点から水単独あるいは水に水溶性の有機溶剤を混合したものが好ましい。
【0069】
<薄膜層>
本発明で用いられる薄膜層は、無機化合物を主たる成分としており、無機化合物は、酸化アルミニウム及び酸化珪素の少なくとも一方である。ここでの「主たる成分」とは、薄膜層を構成する成分100質量%に対し、酸化アルミニウム及び酸化珪素の合計量が50質量%超であることを意味し、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%(酸化アルミニウム、酸化珪素以外の成分が薄膜層を構成する成分として含有されていない)である。ここでいう酸化アルミニウムとは、AlO,Al2O,Al2O3等の各種アルミニウム酸化物の少なくとも1種以上からなり、各種アルミニウム酸化物の含有率は薄膜層の作製条件によって調整することができる。酸化珪素とは、SiO,SiO2,Si3O2等の各種珪素酸化物の少なくとも1種以上からなり、各種珪素酸化物の含有率は薄膜層の作製条件によって調整することができる。酸化アルミニウム又は酸化珪素には、成分中に、特性が損なわれない範囲で微量(全成分に対して高々3質量%まで)の他成分を含んでいてもよい。
【0070】
薄膜層の厚さとしては、特に限定されないが、フィルムのガスバリア性及び可撓性の点からは、5~500nmが好ましく、より好ましくは10~200nmであり、さらに好ましくは15~50nmである。薄膜層の膜厚が5nm未満では、満足のいくガスバリア性が得られ難くなるおそれがあり、一方、500nmを超えても、それに相当するガスバリア性の向上の効果は得られず、耐屈曲性や製造コストの点でかえって不利となる。
【0071】
<ポリエステルフィルムの物性>
本発明のポリエステルフィルムの面配向係数(ΔP)は0.005以上、0.200以下であり、好ましくは0.020以上、0.195以下であり、より好ましくは0.100以上、0.195以下であり、さらに好ましくは0.110以上、0.195以下であり、一層好ましくは0.120以上、0.195以下であり、よりさらに好ましくは0.130以上、0.195以下であり、特に好ましくは0.140以上、0.190以下であり、最もこのましくは0.140以上、0.160以下である。面配向係数(ΔP)が0.005未満では、フィルムの機械特性が不十分となり、フィルムの印刷や製袋などの後加工が困難となること、後の印刷やコーティングを行うときに印刷機やコーター上でフィルムが切れることなどが発生するため好ましくない。面配向係数は、JIS K 7142-1996 5.1(A法)により、ナトリウムD線を光源としてアッベ屈折計によりフィルム面内の機械方向(MD方向)の屈折率(nx)、その直角方向(TD方向)の屈折率(ny)、および厚み方向の屈折率(nz)を測定し、下記式によって面配向係数(ΔP)を算出できる。
ΔP={(nx+ny)-2nz}÷2
両面に薄膜層が備えられている場合も同様の方法で測定できる。
【0072】
本発明のポリエステルフィルムは、150℃で30分間加熱したときの加熱収縮率(以下、単に熱収縮率という)がMD方向およびTD方向とも3.2%以下であることが好ましく、より好ましくは2.8%以下であり、さらに好ましくは2.4%以下である。熱収縮率が大きいと印刷時の色ズレ、印刷機やコーター上でのフィルムの伸びの発生により、印刷やコーティング実施が困難になったり、および高熱化でのフィルムの変形による外観不良などが発生したりする。特に、印刷機やコーターで加工する工程において、フィルムを搬送するロール間の拘束が無いため、幅方向(TD方向)に収縮しやすく外観不良となりやすい。そのため、TD方向の熱収縮率は、1.8%以下であることがより好ましく、1.5%以下であることがさらに好ましく、1.2%以下であることがよりさらに好ましく、0.9%以下であることが特に好ましく、0.6%以下であることが最も好ましい。上記熱収縮率は低いことが好ましいが、製造上の点から0.01%が下限と考える。
【0073】
本発明において、温度23℃、湿度65%下におけるポリエステルフィルムの酸素透過度は、好ましくは0.1mL/m2/day/MPa以上、1000mL/m2/day/MPa以下であり、より好ましくは0.1mL/m2/day/MPa以上、200mL/m2/day/MPa以下であり、さらに好ましくは0.1mL/m2/day/MPa以上、120mL/m2/day/MPa以下であり、さらにより好ましくは0.1mL/m2/day/MPa以上、100mL/m2/day/MPa以下である。1000mL/m2/day/MPaを超えると、フィルムを透過した酸素により物質が劣化したり食品の保存性が不良になる。また、フィルムの製造上の点から、0.1mL/m2/day/MPaが下限と考える。なお、フィルムに印刷、コーティングなどの方法および共押出しなどによる方法などを付与することで、さらに酸素透過度を改善することは可能である。
【0074】
本発明のポリエステルフィルムは、フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルそのものが高い酸素バリア性(低い酸素透過度)の特性を持つが、後で述べる延伸工程を満たすポリエステルフィルムとしたり、無機化合物を主たる成分とする薄膜層を備えることで、酸素バリア性はさらに良化する。
【0075】
本発明において、温度37.8℃、湿度90%下におけるポリエステルフィルムの水蒸気透過度は、好ましくは0.1g/m2/day以上、40g/m2/day以下であり、より好ましくは30g/m2/day以下であり、さらにより好ましくは20g/m2/day以下である。40g/m2/dayを超えると、フィルムを透過した水蒸気により物質が劣化したり食品の保存性が不良になるおそれがある。なお、フィルム製造上の点から0.1g/m2/dayが下限と考える。なお、フィルムに印刷、コーティングなどの方法および共押出しなどによる方法などを付与することで、さらに水蒸気透過度を改善することは可能である。
【0076】
本発明のポリエステルフィルムは、フランジカルボン酸ユニットを有するポリエステルそのものが高い水蒸気バリア性(低い水蒸気透過度)の特性を持つが、後で述べる延伸工程を満たすポリエステルフィルムとしたり、無機化合物を主たる成分とする薄膜層を備えることで、水蒸気バリア性はさらに良化する。
【0077】
ポリエステルフィルム面内の縦延伸方向(MD方向)およびその直角方向(TD方向)の屈折率(nx)(ny)が、1.5700以上が好ましく、より好ましくは1.5800以上であり、さらに好ましくは1.5900以上であり、さらにより好ましくは1.6000以上であり、特に好ましくは1.6100以上であり、最も好ましくは1.6200以上である。nxとnyを1.5700以上とすることによって、十分なフィルム破断強度や破断伸度が得られるため、フィルムの機械特性が十分となり、フィルムへ印刷や製袋などの後加工が容易となること、後の印刷やコーティングを行うときに印刷機やコーター上でフィルムが切れることなどが発生しにくいため好ましい。なお、製造上の点や熱収縮率の点から、nxとnyは1.7000未満が好ましい。
【0078】
本発明のポリエステルフィルムは、その破断強度がMD方向及びTD方向とも75MPa以上であることが好ましい。破断強度の好ましい下限は100MPa、より好ましい下限は150MPa、さらに好ましい下限は200MPa、さらにより好ましい下限は220MPaである。破断強度が75MPa未満では、フィルムの力学的強度が不十分となり、フィルムの加工工程で伸び、ズレ等の不具合を生じやすくなるので好ましくない。製造上の点を考慮して、破断強度の上限は1000MPaである。
【0079】
本発明のポリエステルフィルムは、その破断伸度がMD方向及びTD方向とも10%以上であることが好ましい。破断伸度の好ましい下限は15%、さらに好ましい下限は20%、特に好ましい下限は30%である。破断伸度が10%未満では、フィルムの力学的伸度が不十分となり、フィルムの加工工程で割れ、破れ等の不具合を生じやすくなるので好ましくない。製造上の点を考慮して、破断伸度の上限は300%である。破断伸度の上限は、好ましくは150%、より好ましくは100%、さらに好ましくは80%である。
【0080】
本発明のポリエステルフィルムの静摩擦係数(μs)は1.0以下、動摩擦係数(μd)は1.0以下であることが好ましい。静摩擦係数(μs)は0.8以下であることがさらに好ましく、0.6以下であることがより好ましい。動摩擦係数(μd)は0.8以下であることがさらに好ましく、0.6以下であることがより好ましい。静摩擦係数(μs)又は動摩擦係数(μd)が1.0を超えると、易滑性が悪くなり、フィルム走行中に擦れによりキズやシワが発生するおそれがある。なお、静摩擦係数(μs)は、本発明の積層ポリエステルフィルムの一方の面と他方の面との静摩擦係数であり、動摩擦係数(μd)は、本発明のポリエステルフィルムの一方の面と他方の面との動摩擦係数である。
【0081】
本発明のポリエステルフィルムは、全光線透過率が75%以上であることが好ましい。フィルムの欠点となる内部異物の検出精度を向上させるためには、透明性が高いことが望ましい。そのため、本発明の積層ポリエステルフィルムの全光線透過率は75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、88.5%以上がさらに好ましく、89%以上が特に好ましい。フィルムの欠点となる内部異物の検出精度を向上させるためには、全光線透過率は高ければ高いほど良いが、100%の全光線透過率は技術的に達成困難である。
【0082】
本発明のポリエステルフィルムは、ヘイズが15%以下であることが好ましい。食品包装用途において内容物の欠点検査を行うためには、フィルムの濁りが少ないことが望ましい。そのため、本発明のポリエステルフィルムにおけるヘイズは15%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。ヘイズは低い方が好ましいが、ポリエステルフィルム固有の屈折率から、0.1%が下限であると思われる。
【0083】
本発明のポリエステルフィルムの15μm換算の衝撃(インパクト)強度(耐衝撃性)の下限は好ましくは0.4J/15μmであり、より好ましくは0.6J/15μmであり、さらに好ましくは0.8J/15μmである。0.4J/15μm未満であると袋として用いる際に強度が不足することがある。衝撃(インパクト)強度(耐衝撃性)の上限は好ましくは3.0J/15μmであり、3.0J/15μmを超えると改善の効果が飽和することとなる。
【0084】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは1μm以上、300μm以下であり、好ましくは5μm以上200μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上100μm以下であり、特に好ましくは10μm以上40μm以下である。厚さが300μmを超えるとコスト面で問題があり、包装材料として用いた場合に視認性が低下しやすくなる。また、厚さが1μmに満たない場合は、機械的特性が低下し、フィルムとしての機能が果たせないおそれがある。
【0085】
本発明のポリエステルフィルムを巻きとってロールとする場合には、その巻き長及び幅は、当該フィルムロールの用途により適宜決定される。フィルムロールの巻き長は100m以上が好ましく、より好ましくは1000m以上である。フィルムロールの幅は200mm以上であることが好ましく、より好ましく1000mm以上である。
【0086】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法について説明する。PEFペレットを用いた代表例について詳しく説明するが、当然これに限定されるものではない。
【0087】
まず、ポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂を水分率が200ppm未満となるように、乾燥あるいは熱風乾燥する。次いで、各原料を計量、混合して押し出し機に供給し、シート状に溶融押出を行う。さらに、溶融状態のシートを、静電印加法を用いて回転金属ロール(キャスティングロール)に密着させて冷却固化し、未延伸シートを得る。
【0088】
また、溶融樹脂が220~280℃に保たれた任意の場所で、樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行うことができる。溶融樹脂の高精度濾過に用いられる濾材は、特に限定はされないが、ステンレス焼結体の濾材の場合、Si、Ti、Sb、Ge、Cuを主成分とする凝集物及び高融点有機物の除去性能に優れ好適である。
【0089】
ポリエチレンフランジカルボキシレート系樹脂を主成分とする層を多層構成とすることもできる。多層構成とするには表層(a層)と中間層(b層)などの層を共押出しすることによることができる。
表層(a層)と中間層(b層)とを共押出し積層する場合は、2台以上の押出し機を用いて、各層の原料を押出し、多層フィードブロック(例えば角型合流部を有する合流ブロック)を用いて両層を合流させ、スリット状のダイからシート状に押出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。あるいは多層フィードブロックを用いる代わりにマルチマニホールドダイを用いても良い。
【0090】
次に、前記の方法で得られた未延伸フィルムを二軸延伸し、次いで熱処理を行う。
【0091】
例えば、フランジカルボン酸ユニットを有する未延伸フィルムを二軸延伸して二軸配向ポリエステルフィルムを製造する場合、MD方向またはTD方向に一軸延伸を行い、次いで直交方向に延伸する逐次二軸延伸方法、MD方向及びTD方向に同時に延伸する同時二軸延伸方法、さらに同時二軸延伸する際の駆動方法としてリニアモーターを用いる方法を採用することができる。逐次二軸延伸方法の場合、MD延伸は加熱ロールを用いて速度差をつけることでMD方向に延伸することで可能となる。加熱に赤外線ヒーターなどを併用することも可能である。引き続き行うTD延伸は、MD延伸したシートをテンターに導き、両端をクリップで把持し、加熱しながらTD方向に延伸することで可能となる。TD延伸後のフィルムは、テンター内で引き続き熱処理を行う。熱処理は、TD延伸で引っ張ったまま行うことも可能であるが、TD方向に弛緩させながら処理することも可能である。熱処理後のフィルムは、両端を切り落としてワインダーで巻き上げることも可能である。
【0092】
特許文献5、6には、1.6~16倍の一軸延伸を行ったPEF・PEF誘導体フィルムの製造方法が開示されている。しかしながら、上記開示の方法では、工業用、包装用として利用できる機械特性を達成することはできない。そこで、本願発明者らは鋭意検討を行った結果、以下のような延伸・緩和方法(i)~(ix)を行うことにより、高い機械特性を達成するに至った。また、以下の(x)に記載のとおりに薄膜層を作製することにより、高いバリア性を達成することができる。
【0093】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法について、具体的に
図1で説明する。
図1は本発明に用いるフィルム製膜装置における横延伸工程の平面図の一例である。縦延伸後のフィルムはクリップ7で両端を把持され、予熱ゾーン1、延伸ゾーン2、熱固定ゾーン3、弛緩ゾーン4および5、冷却ゾーン6を経て、下流の巻き取り工程に導かれる。
本発明のポリエステルフィルムを得るためには、熱固定処理による最高温度部を経た後、または弛緩ゾーンにて弛緩処理を行った後、ただちにフィルム端部を分離し、縦および横方向に弛緩熱処理(以下、単に弛緩処理と言う)を行うことが好ましい。これにより、熱収縮率の最大値を低く抑えることができる。
【0094】
(i)フィルムのMD方向の延伸倍率の制御
本発明で用いられるポリエステルフィルムを得るためには1.1~10.0倍の範囲でMD方向に延伸を行うことが望ましい。1.1倍以上(好ましくは1.5倍以上)でMD方向に延伸することで、面配向係数ΔPが0.005以上であるフィルムを作製することができる。好ましくは、MD方向の延伸倍率が2.5倍以上、より好ましくは3.5倍以上、より好ましくは3.8倍以上、さらに好ましくは4.0倍以上、特に好ましくは4.5倍以上である。2.5倍以上とすることで、ΔPが0.02以上、さらにはMDおよびTD方向の屈折率nx、nyが1.5700以上となり、フィルム破断強度が100MPa以上かつフィルム破断伸度が15%以上の力学的特性に優れたフィルムとすることができる。MD方向の延伸倍率が10.0倍以下であると破断の頻度が少なくなり好ましい。MD方向の延伸倍率が高いほど、熱固定工程の温度を高くすることができ、熱収縮率を下げることができる。
【0095】
(ii)フィルムのMD方向の延伸温度の制御
本発明で用いられるポリエステルフィルムを得るためには90℃以上150℃以下の範囲でMD方向に延伸を行うことが望ましい。さらに好ましくは100℃以上125℃以下である。MD方向の延伸温度が90℃以上では破断の頻度が少なくなり好ましい。150℃以下であると均一に延伸ができるため好ましい。
【0096】
(iii)フィルムのTD方向の延伸倍率の制御
本発明で用いられるポリエステルフィルムを得るためには1.1~10.0倍の範囲でTD方向に延伸を行うことが望ましい。1.1倍以上(好ましくは1.5倍以上)TD延伸することで、面配向係数ΔPが0.005以上のフィルムを作製することができる。好ましくは、TD方向の延伸倍率が3.0倍以上、より好ましくは3.5倍以上、さらに好ましくは4.0倍以上、特に好ましくは4.5倍以上である。TD方向の延伸倍率を3.0倍以上とすることで、ΔPが0.02以上、さらにはMD方向及びTD方向の屈折率nx、nyが1.5700以上となり、破断強度が75MPa以上かつ破断伸度が15%以上の力学的特性に優れたフィルムとすることができる。TD方向の延伸倍率が10.0倍以下であると破断の頻度が少なくなり好ましい。
【0097】
(iv)TD方向の延伸温度の制御
本発明で用いられるポリエステルフィルムを得るためには80℃以上200℃以下の範囲でTD方向に延伸を行うことが望ましい。さらに好ましくは95℃以上135℃以下である。TD方向の延伸温度が80℃以上では破断の頻度が少なくなり好ましい。200℃以下であると均一に延伸ができるため好ましい。
【0098】
(v)フィルムの熱固定温度の制御
本発明で用いられるポリエステルフィルムを得るためには110℃以上、220℃以下の範囲で熱固定処理を行うことが好ましい。熱固定処理の温度が220℃以下(好ましくは210℃以下)であるとフィルムが不透明になり難く、溶融破断の頻度が少なくなり好ましい。熱固定温度を高くすると熱収縮率が低減するため好ましく、120℃以上がより好ましく、140℃以上がさらに好ましく、160℃以上がまたさらに好ましく、175℃以上が特に好ましく、185℃以上が最も好ましい。熱固定処理により面配向係数ΔPが大きくなる傾向にある。
【0099】
(vi)TD方向の緩和温度の制御
本発明で用いられるポリエステルフィルムを得るためには100℃以上200℃以下の範囲でTD方向に緩和処理を行うことが望ましい。TD方向の緩和温度は、好ましくは165℃以上195℃以下、さらに好ましくは175℃以上195℃以下である。これにより、熱収縮率を低減できるため望ましい。
【0100】
(vii)TD方向の緩和率の制御
本発明で用いられるポリエステルフィルムを得るためにはTD方向の緩和率を0.5%以上10.0%以下の範囲で行うことが望ましい。TD方向の緩和率は、好ましくは2%以上6%以下である。これにより、熱収縮率を低減できるため望ましい。
【0101】
(viii)工程内弛緩処理
弛緩処理を行い、熱固定ゾーン3の最高温度を経て結晶化を施したフィルムに残る残留延伸応力を適度に除去することが好ましい。弛緩処理は、例えば、弛緩ゾーン4または5でフィルムをクリップから分離することで行うことができる。さらに、巻き取り工程の引き取り速度を横延伸工程の製膜速度より低下させることが好ましく、熱固定ゾーン3の最高温度を経た後にフィルムを冷却することなく、フィルムに弛緩処理を行うことが好ましい。
【0102】
(viii)-(A)工程内弛緩処理温度の制御
弛緩ゾーン4または5の温度は140~200℃であることが好ましく、160~180℃であることが更に好ましい。弛緩ゾーン4または5の温度が140~200℃であると150℃、30分間加熱したときの収縮率の最大値が小さくなり好ましい。140℃未満の弛緩処理では150℃、30分間加熱したときの全方位収縮率を低減することは難しく、200℃を超える弛緩処理ではフィルムの弾性率が低下することにより、フィルムの平面性が悪化してしまう。
【0103】
(viii)-(B)工程内弛緩処理率の制御
熱固定処理による最高温度部を経た後、フィルムを冷却することなくフィルム端部を分離するため、横方向には自由に弛緩することから、上記弛緩処理温度の制御により、横方向の熱収縮率は極めて低くなる。また、縦方向の熱収縮率については、下記式(1)で定義される、縦方向弛緩率と相関が高くなるため、縦方向弛緩率は1.0~15.0%であることが好ましく、3.0~10.0%であることがより好ましい。縦方向弛緩率が15.0%以下であると、フィルムの平面性に優れるため好ましい。縦方向弛緩率が1.0%以上であると、熱収縮率の最大値が小さくなり好ましい。
【0104】
縦方向弛緩率=((端部分離前のフィルム速度-巻き取り工程のフィルム速度)÷端部分離前のフィルム速度)×100(%) (1)
【0105】
(viii)-(C)工程内弛緩処理におけるフィルム端部の分離方法
フィルム端部の分離方法は特に限定されないが、弛緩ゾーン4または5に切断刃を設け、端部を切断分離する手法、弛緩ゾーン4または5内でクリップよりフィルム端部を外す方法などを用いることができる。弛緩ゾーン4または5内でクリップよりフィルム端部を外す方法では縦方向弛緩率によらず安定的に弛緩処理を行うことができるためより好ましい。
【0106】
(ix)MD方向の緩和処理
MD方向の熱収縮率を低下する方法として、テンターから出てきたポリエステルフィルム中間体を乾燥炉中に導き、乾燥炉内で加熱して、その前後の速度差によりMD方向(縦方向)の緩和処理を行う方法を用いることができる。乾燥炉は工程内に連続で設置されたものでもよく、一度巻き取った後、乾燥炉にて緩和処理を行ってもよい。また、工程内弛緩処理に代えて、MD方向の上記緩和処理を行ってもよく、両方の処理を行ってもよい。
【0107】
(x)薄膜層の作製方法
薄膜層の作製には、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティングなどのPVD法(物理蒸着法)、あるいは、CVD法(化学蒸着法)などの公知の製法が適宜用いられるが、物理蒸着法であることが好ましく、中でも真空蒸着法であることがより好ましい。例えば、真空蒸着法においては、蒸着源材料としてAl2O3とSiO2の混合物やAlとSiO2の混合物等が用いられ、加熱方式としては、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビ-ム加熱等を用いることができる。また、反応性ガスとして、酸素、窒素、水蒸気等を導入したり、オゾン添加、イオンアシスト等の手段を用いた反応性蒸着を用いてもよい。また、基板にバイアス等を加えたり、基板温度を上昇、あるいは、冷却したり等、本発明の目的を損なわない限りにおいて、作製条件を変更してもよい。スパッタ法やCVD法等のほかの作製法でも同様である。
【0108】
ポリエステルフィルムの製造工程の任意の段階で、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、被覆層形成用塗布液を塗布し、前記被覆層を形成すればよいが、未延伸あるいは一軸延伸後のポリエステルフィルムに前記被覆層形成用塗布液を塗布、乾燥した後、少なくとも一軸方向に延伸し、次いで熱処理を行って被覆層を形成するのが好ましい。
【0109】
被覆層はポリエステルフィルムの両面に形成させてもよく、一方の面にのみ形成させてもよいが、ポリエステルフィルムの一方の面に被覆層を形成し、もう一方の面には薄膜層を形成することが好ましい。被覆層形成用塗布液中における樹脂組成物の固形分濃度は、2~35質量%であることが好ましく、特に好ましくは4~15質量%である。
【0110】
この被覆層形成用塗布液をフィルムに塗布するための方法は、公知の任意の方法を用いることができる。例えば、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ダイコーター法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーコート法、パイプドクター法、含浸コート法、カーテンコート法、などが挙げられる。これらの方法を単独で、あるいは組み合わせて塗工する。
【0111】
乾燥後の被覆層の厚みは20~350nm、乾燥後の塗布量は0.02~0.5g/m2であることが好ましい。被覆層の塗布量が0.02g/m2未満であると、接着性に対する効果がほとんどなくなる。一方、塗布量が0.5g/m2を超えると、透明性が悪化する場合がある。
【0112】
本発明で用いられるポリエステルフィルムは、未延伸フィルムを機械方向及びその直角方向に延伸して延伸フィルムとする延伸工程と、上記延伸フィルムを緩和する緩和工程とを備えるポリエステルフィルムの製造方法により製造されるものであるが、上記技術思想の範囲であれば、上記具体的に開示された方法に限定されるものではない。本発明のフィルムを製造する上で重要なのは、上記技術思想に基づき、上述の製造条件について極めて狭い範囲で高精度の制御をすることである。
【0113】
本発明で用いられるポリエステルフィルムは、フィルムの破断強度、破断伸度と熱収縮率は、前述した延伸と熱処理条件を独立に、かつ組み合わせて制御することが可能である。それらは任意に選べるが、好ましい条件として、上記(i)~(ix)を組み合わせることで、面配向係数(ΔP)が0.100以上、熱収縮率がMD方向およびTD方向とも4.5%以下(好ましくは3.2%以下)、フィルム破断強度が150MPa以上(好ましくは200MPa以上、さらに好ましくは240MPa以上)、破断伸度が40%以上のフィルムを得ることが出来る。
例えば、MD方向の延伸倍率及びTD方向の延伸倍率を高くし、より高い温度で熱固定処理を行い、工程内弛緩処理により、フィルムに残る残留延伸応力を適度に除去することが面配向係数(ΔP)が0.130以上、熱収縮率がMD方向およびTD方向とも3.2%以下、フィルム破断強度が150MPa以下のフィルムを得るために有効である。具体的には、MD方向の延伸倍率を4.0倍以上(好ましくは4.5倍以上)、TD方向の延伸倍率を4.0倍以上(好ましくは4.5倍以上)にし、熱固定工程の温度を190℃以上、工程内弛緩処理を160℃で縦方向に5%弛緩することにより、面配向係数(ΔP)が0.130以上、破断強度が150MPa以上、熱収縮率がMD方向およびTD方向とも3.2%以下のフィルムを得ることが出来る。
また、緩和処理をせずともより高い温度で熱固定処理が出来る範囲で、縦方向の延伸倍率及び横方向の延伸倍率を小さくしたり、延伸温度を高くすることで分子鎖の配向を弱めることも熱収縮率の小さいフィルムを得るためには有効である。具体的には、MD方向の延伸倍率を3.5倍以上、5.0倍以下、TD方向の延伸倍率を4.0倍以上、5.0倍以下で、適切な延伸温度により熱固定工程の温度を190℃以上とすることで、面配向係数(ΔP)が0.100以上、0.130未満、破断強度が150MPa以上、熱収縮率がMD方向およびTD方向とも3.2%以下のフィルムを得ることが出来る。
【0114】
また、作製した延伸フィルム上に被覆層を組み合わせることで、面配向係数(ΔP)が0.110以上であり、熱収縮率がMD方向およびTD方向とも3.2%以下であるポリエステルフィルムとすることが可能である。
【0115】
本フィルムの延伸工程中または延伸終了後に、コロナ処理やプラズマ処理を行うことも可能である。また、樹脂や架橋剤、粒子などを適宜混合し、溶剤で溶かした液または分散液をコーティングすることで、滑り性、アンチブロッキング性、帯電防止性、易接着性などを付与することも可能である。また、本発明のフィルム中に各種安定剤、顔料、UV吸収剤など入れても良い。
【0116】
また、延伸、熱処理が終了したフィルムを表面処理することで、機能を向上させることができる。例えば印刷やコーティングなどがあげられる。
【0117】
また、延伸、熱処理が終了したフィルムや表面処理されたフィルムを紙と張り合わせることで、包装体、ラベル、意匠シートなどに用いることができる。
【0118】
本願は、2016年3月30日に出願された日本国特許出願第2016-068297号に基づく優先権の利益を主張するものである。2016年3月30日に出願された日本国特許出願第2016-068297号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0119】
次に、本発明の効果を実施例および比較例を用いて説明する。まず、本発明で使用した特性値の評価方法を下記に示す。
【0120】
(1)破断強度、破断伸度
フィルムのMD方向及びTD方向に対して、それぞれ長さ140mm及び幅10mmの短冊状に試料を片刃カミソリで切り出した。次いで、オートグラフAG-IS(株式会社島津製作所製)を用いて短冊状試料を引っ張り、得られた荷重-歪曲線から各方向の破断強度(MPa)および破断伸度(%)を求めた。
【0121】
なお、測定は25℃の雰囲気下で、チャック間距離40mm、クロスヘッドスピード100mm/min、ロードセル1kNの条件にて行った。なお、この測定は5回行い、評価には平均値を用いた。
【0122】
(2)面配向係数(ΔP)
JIS K 7142-1996 5.1(A法)により、ナトリウムD線を光源としてアッベ屈折計によりフィルム面内のMD方向の屈折率(nx)、およびその直角方向の屈折率(ny)、厚み方向の屈折率(nz)を測定し、下記式によって面配向係数(ΔP)を算出した。なお、接触液はヨウ化メチレンを用いた。
ΔP={(nx+ny)-2nz}÷2
被覆層が片面の場合:被覆層と反対側の面を3回測定し、それらの平均値とした。
被覆層が両面の場合:被覆層の面を両側とも3回ずつ測定し、それらの平均値とした。
【0123】
(3)全光線透過率、ヘイズ
JIS K 7136「プラスチック 透明材料のヘイズの求め方」に準拠して測定した。測定器には、日本電色工業社製NDH-5000型濁度計を用いた。
【0124】
(4)熱収縮率(MD方向及びTD方向の熱収縮率)
測定すべき方向に対し、フィルムを幅10mm、長さ250mmに切り取り、150mm間隔で印を付け、5gfの一定張力下で印の間隔(A)を測定した。次いで、フィルムを150℃の雰囲気中のオーブンに入れ、無荷重下で150±3℃で30分間加熱処理した後、5gfの一定張力下で印の間隔(B)を測定した。以下の式より熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)=(A-B)/A×100
【0125】
(5)酸素透過率(OTR)
酸素透過度は、JIS K7126-2A法に準じて、酸素透過度測定装置(MOCON社製OX-TRAN(登録商標)2/21)を用いて、温度23℃、湿度65%の条件にて測定を行った。
被覆層と反対側の面を調湿側になるように装着した。
【0126】
(6)水蒸気透過率(WVTR)
水蒸気透過率は、JIS K7129B法に準じて、水蒸気透過度測定装置(MOCON社製PERMATRAN-W(登録商標)3/33)を用いて、温度37.8℃、湿度90%の条件にて測定を行った。
被覆層と反対側の面を高湿度側になるように装着した。
【0127】
(7)固有粘度(IV)
ポリエステル樹脂を粉砕して乾燥した後、パラクロロフェノール/テトラクロロエタン=75/25(重量比)の混合溶媒に溶解した。ウベローデ粘度計を用いて、30℃で0.4g/dlの濃度の溶液の流下時間及び溶媒のみの流下時間を測定し、それらの時間比率から、Hugginsの式を用い、Hugginsの定数が0.38であると仮定してポリエステル樹脂の固有粘度を算出した。
【0128】
(8)フィルム厚み
ミリトロンを用い、測定すべきフィルムの任意の4箇所より5cm角サンプル4枚を切り取り、一枚あたり各5点(計20点)測定してフィルム平均値を厚みとした。
【0129】
(9)包装容器の酸素透過性試験
i)呈色液の作製
水2Lと粉寒天6.6gをガラス容器に入れ95℃の湯中に容器を浸し1時間以上温め寒天を完全に溶解させた。50メッシュの金網を用いて溶液をろ過しゲル化した異物を取り除いた。溶液にメチレンブルー0.04gを加える。事前に窒素を15分以上流通させたグローブボックス内で溶液にハイドロサルファイトナトリウム1.25gを加え均一に混ぜることで呈色液(無色)を得ることができた。
ii)フィルム包装容器の作製
実施例で作製した積層ポリエステルフィルム又は比較例で作製したポリエステルフィルムにポリエステル系接着剤を塗布後、厚み40μmの線状低密度ポリエチレンフィルム(LLDPEフィルム:東洋紡社製L4102)をドライラミネートし、40℃の環境下で3日間エージングを行いラミネートフィルムとした。このラミネートフィルムを用い、内寸:横70mm×縦105mmの三方シール袋を作製した。
iii)呈色液の充填
事前に窒素を15分以上流通させたグローブボックス内で三方シール袋に約30mLの呈色液を入れ、窒素を充填した後にシーラーで袋を閉じ、呈色液が充填された包装容器を得ることができた。
iv)酸素透過性試験
寒天を室温で固めた後、呈色液が充填された包装容器を40℃の恒温室に移し72時間後の色変化を観察した。色変化について下記の基準で判定し、Aを合格とした。
A:色の変化がほとんどなかった。
B:色の変化はあるが小さかった。
C:色の変化が大きかった。
【0130】
(10)積層ポリエステルフィルムの耐熱性試験
積層ポリエステルフィルムを縦100mm×横100mmにカットしたフィルムサンプルを準備した。フィルムサンプルを130℃に加熱したオーブン内に5分入れ、外観の変化を観察した。外観変化について下記の基準で判定し、A及びBを合格とした。
A:外観の変化がほとんどなかった。
B:外観の変化が少しあった。
C:外観の変化が大きかった。
【0131】
(11)静摩擦係数(μs)及び動摩擦係数(μd)
8cm×5cmの面積にフィルムを切り出し、サンプルを作製した。便宜的にサンプルの片方の表面をA面、反対の表面をB面とした。これを大きさ6cm×5cmの底面を有する重さ1.4kgの金属製直方体底面にA面が外側になるように固定した。この時、サンプルの5cm幅方向と金属製直方体の5cm幅方向を合わせ、サンプルの長手方向の一辺を折り曲げ、金属直方体の側面に粘着テープで固定した。
次いで、同じフィルムから20cm×10cmの面積にサンプルを切り出し、平らな金属板にB面を上にして長手方向端部を粘着テープで固定した。この上にサンプルを貼り付けた金属製直方体の測定面を接するように置き、引っ張りスピード200mm/分として、23℃、65%RH条件下で静摩擦係数(μs)及び動摩擦係数(μd)を測定した。測定には東洋BALDWIN社製RTM-100を用い、静摩擦係数(μs)及び動摩擦係数(μd)はJIS K-7125に準拠して算出した。
【0132】
(12)ポリエステルフィルムロールの外観
実施例、比較例で得たフィルム原反を幅方向中心位置が巻き取りコアの中心となるようにフィルム幅300mmへスリットし、内径の3インチのコアに巻き取り速度5m/分で巻長100mになるように巻きあげて、ポリエステルフィルムロールを作製した。
ポリエステルフィルムロールの外観について、下記の基準で判定し、Aを合格とした。
A:シワ、ゲージバンドなどの外観不良が見受けられなかった。
B:ロールの一部にシワ、ゲージバンドが見えた。
【0133】
(13)被覆層の膜厚
透過型電子顕微鏡を用いて、積層ポリエステルフィルムの断面より被覆層の膜厚を測定した。
【0134】
(14)衝撃強度
株式会社東洋精機製作所製のインパクトテスターを用い、23℃の雰囲気下におけるフィルムの衝撃打ち抜きに対する強度を測定した。衝撃球面は、直径1/2インチのものを用いた。単位Jであり、測定したフィルムの厚みで測定値を割りかえし、15μmあたりの評価値を用いた。
【0135】
(15)フィルムの製膜安定性
フィルム製膜時の安定性評価として以下の指標を用いて評価を行った。
A:20分間破断なしで連続製膜を行うことができた。
B:20分間で1~2回破断やシワが発生した。
C:20分間で3回以上破断やシワが発生した。
【0136】
(16)熱加工のモデルテスト
ポリエステルフィルム上に、加工張力10kg/mを印加した状態で150℃、10分の熱処理を行った。上述のサンプルをロ-ルからカットして、平坦なテ-ブルの上に5mの長さを広げて、塗布面に蛍光灯の光を反射させて熱シワの有無を確認した。
A:熱シワは全く見られず良好であった。
B:熱シワが一部確認できた。
C:熱シワが全面に確認できた。
【0137】
(17)薄膜層の組成・膜厚
無機化合物の組成膜厚は蛍光X線分析装置(リガク社製ZSX100e)を用いて、予め作成した検量線により膜厚組成を測定した。なお、励起X線管の条件として50kV、70mAとした。
検量線は以下の手順で求めた。
酸化アルミニウムと酸化ケイ素とからなる無機化合物薄膜を持つフィルムを数種類作製し、誘導結合プラズマ発光法(ICP法)で酸化アルミニウムと酸化ケイ素それぞれの付着量を求めた。次いで、付着量を求めた各フィルムを蛍光X線分析装置(リガク社製ZSX100e、励起X線管の条件:50kv、70mA)で分析することにより各サンプルの酸化アルミニウムと酸化ケイ素との蛍光X線強度を求めた。そして、蛍光X線強度とICPで求めた付着量の関係を求めて検量線を作成した。
ICPで求めた付着量は基本的に質量であるのでこれを膜厚組成とするため以下のように変換した。
膜厚は、無機酸化薄膜の密度がバルク密度の8割であるとし、かつ酸化アルミニウムと酸化ケイ素とが混合された状態であってもそれぞれ体積を保つとして算出した。
膜中における酸化アルミニウムの含有率wa(質量%)、膜中における酸化ケイ素の含有量ws(質量%)は、酸化アルミニウムの単位面積当たりの付着量をMa(g/cm2)、酸化ケイ素の単位面積当たりの付着量をMs(g/cm2)とすると、各々下記式(1)、(2)で求められる。
wa=100×[Ma/(Ma+Ms)] (1)
ws=100-wa (2)
すなわち、酸化アルミニウムの単位面積当たりの付着量をMa(g/cm2)、そのバルクの密度をρa(3.97g/cm3)とし、酸化ケイ素の単位面積当たりの付着量をMs(g/cm2)、そのバルクの密度をρs(2.65g/cm3)とすると、膜厚t(nm)は下記式(3)で求められる。
t=((Ma/(ρa×0.8)+Ms/(ρs×0.8))×107 (3)
蛍光X線分析装置で測定した膜厚の値は、TEMで実際に計測した膜厚と近いものであった。
【0138】
(被覆層形成用塗布液Aの調合)
ジメチルテレフタレート(95質量部)、ジメチルイソフタレート(95質量部)、エチレングリコール(35質量部)、ネオペンチルグリコール(145質量部)、酢酸亜鉛(0.1質量部)、および三酸化アンチモン(0.1質量部)を反応容器に仕込み、180℃で3時間かけてエステル交換反応を行った。次に、5-ナトリウムスルホイソフタル酸(6.0質量部)を添加し、240℃で1時間かけてエステル化反応を行った後、250℃で減圧下(10~0.2mmHg)、2時間かけて重縮合反応を行い、数平均分子量が19,500で、軟化点が60℃である共重合ポリエステル(A)を得た。
【0139】
得られた共重合ポリエステル(A)の30質量%の水分散液を7.5質量部、重亜硫酸ソーダでブロックしたイソシアネート基を含有する自己架橋型ポリウレタン(B)の20質量%の水溶液(第一工業製薬製、エラストロン(登録商標)H-3)を11.3質量部、エラストロン用触媒(第一工業製薬製、Cat64)を0.3質量部、水を39.8質量部およびイソプロピルアルコールを37.4質量部、それぞれ混合した。さらに、フッ素系ノニオン型界面活性剤(DIC社製メガファック(登録商標)F444)の10質量%水溶液を0.6質量部、粒子Pとしてコロイダルシリカ(日産化学工業社製スノーテックス(登録商標)OL;平均粒径40nm)の20質量%水分散液を2.3質量部、粒子Qとして乾式法シリカ(日本アエロジル製、アエロジルOX50;平均粒径200nm、平均一次粒径40nm)の3.5質量%水分散液を0.5質量部添加した。次いで、5質量%の重曹水溶液で被覆層形成用塗布液のpHを6.2に調整し、濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)が10μmのフェルト型ポリプロピレン製フィルタで精密濾過し、被覆層形成用塗布液Aを調整した。
【0140】
(実施例1)
原料として、Avantium社製ポリエチレン2,5-フランジカルボキシレート、IV=0.90を用いた。100℃で24時間減圧乾燥(1Torr)した後、二軸押出機(スクリュー径30mm、L/D=25)に供給した。二軸押出機に供給された原料を、押出機の溶融部、混練り部、配管、ギアポンプまでの樹脂温度は270℃、その後の配管では275℃とし、Tダイ(口金)よりシート状に溶融押し出した。
【0141】
そして、押し出した樹脂を、表面温度20℃の冷却ドラム上にキャスティングして静電印加法を用いて冷却ドラム表面に密着させて冷却固化し、厚さ300μmの未延伸フィルムを作製した。
【0142】
得られた未延伸シートを、120℃に加熱されたロール群でフィルム温度を昇温した後周速差のあるロール群で、MD方向に5倍に延伸して、一軸延伸フィルムを得た。
【0143】
上記方法で調製した被覆層形成用塗布液Aをリバースロール法によって、上記一軸延伸フィルムに塗布、乾燥した。被覆層形成用塗布液Aの乾燥後の塗布量(コート量)は、0.1g/m2であった。塗布後引き続いて、得られたフィルムをテンターに導きクリップで把持し、TD延伸を行った。搬送速度は5m/minとした。ゾーン2の延伸温度は105℃、TD延伸倍率は5倍とした。次いで、ゾーン3にて200℃で12秒間の熱処理を行い、ゾーン4にて190℃で5%の弛緩処理を行った直後に、ゾーン5にて工程内弛緩温度190℃でクリップよりフィルム端部を外し、4%の縦方向弛緩率にて弛緩処理を行い、ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0144】
MD方向の延伸温度を120℃としてMD方向に5倍に延伸し、TD方向の延伸温度を105℃としてTD方向に5倍に延伸することで、熱固定温度を200℃まで高めることができた。工程内弛緩処理温度190℃で縦方向弛緩率を4%として得られたポリエステルフィルムの物性は、熱収縮率がMD方向で3.0%、TD方向で1.2%であり、破断強度がMD方向で258MPa、TD方向で250MPaであり、面配向係数(ΔP)は0.145であり、酸素透過度は85mL/m2/day/MPaであり、優れた耐熱寸法安定性、耐衝撃強度特性、易滑性、機械物性、透明性、ガスバリア性を有するポリエステルフィルムを得ることができた。
【0145】
(実施例2)
工程内弛緩処理条件を表1のように変更する以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0146】
MD方向の延伸温度を120℃としてMD方向に5倍に延伸し、TD方向の延伸温度を105℃としてTD方向に5倍に延伸することで、熱固定温度を200℃まで高めることができた。工程内弛緩温度180℃で縦方向弛緩率を9%として得られたポリエステルフィルムの物性は、熱収縮率がMD方向で2.0%、TD方向で0.5%であり、破断強度がMD方向で249MPa、TD方向で247MPaであり、面配向係数(ΔP)は0.141であり、酸素透過度は85mL/m2/day/MPaであり、優れた耐熱寸法安定性、耐衝撃強度特性、易滑性、機械物性、透明性、ガスバリア性を有するポリエステルフィルムを得ることができた。
【0147】
(実施例3)
弛緩ゾーン5に切断刃を設けフィルム端部を切断することによりフィルム端部を分離する方法を用いる以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0148】
(実施例4)
弛緩ゾーン5に切断刃を設けフィルム端部を切断することによりフィルム端部を分離する方法を用いる以外は実施例2と同様にしてポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0149】
(実施例5)
実施例1で得た塗布層を有する一軸延伸フィルムをテンターに導きクリップで把持し、TD延伸を行った。搬送速度は5m/minとした。ゾーン2の延伸温度は105℃、TD延伸倍率は5倍とした。次いで、ゾーン3にて200℃で12秒間の熱処理を行い、ゾーン4にて190℃で5%の緩和処理を行い、テンター出口位置でクリップよりフィルム端部を外し、ポリエステルフィルム中間体を得た。ポリエステルフィルム中間体を175℃の乾燥炉内にてMD方向に4%の弛緩処理を行い、ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0150】
MD延伸温度を120℃でMD方向に5倍に延伸し、TD延伸温度105℃でTD方向に5倍に延伸することで、熱固定温度を200℃まで高めることが可能となり、ポリエステルフィルム中間体を得ることができた。さらにポリエステル中間体を175℃の乾燥炉内にてMD方向に4%の弛緩処理を行って得られたポリエステルフィルムの物性は、熱収縮率がMD方向で2.8%、TD方向で1.0%であり、破断強度がMD方向で258MPa、TD方向で250MPaであり、面配向係数(ΔP)は0.144であり、酸素透過度は85mL/m2/day/MPaであり、優れた耐熱寸法安定性、耐衝撃性、機械物性、透明性、ガスバリア性を有するポリエステルフィルムを得ることができた。
【0151】
(実施例6)
熱固定温度を180℃とし、弛緩処理温度を170℃とする以外は実施例2と同様にしてポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0152】
(実施例7~9)
工程内弛緩処理を行わず製膜条件を表1のように変更する以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0153】
実施例7では、MD方向の延伸温度を110℃としてMD方向に3.8倍に延伸し、TD方向の延伸温度を105℃としてTD方向に4.5倍に延伸することで、200℃の熱固定温度で破断しない範囲で分子鎖の配向を弱め、ゾーン4にて190℃で7.5%の弛緩処理を行うことによりポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムの物性は、面配向係数(ΔP)が0.113で、破断強度がMD方向で163MPa、TD方向で158MPaといずれも比較的低く、熱収縮率はMD方向で1.9%、TD方向で0.6%である。
【0154】
実施例8では、MD延伸温度を110℃でMD方向に3.8倍に延伸し、TD延伸温度105℃でTD方向に4.5倍に延伸することで、190℃の熱固定温度で破断しない範囲で分子鎖の配向を弱め、ゾーン4にて190℃で7.5%の弛緩処理を行うことによりポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムの物性は、面配向係数(ΔP)は0.114で、破断強度がMD方向で214MPa、TD方向で237MPaといずれも比較的低く、熱収縮率はMD方向で2.9%、TD方向で0.5%となる。
【0155】
実施例9では、MD延伸温度を120℃でMD方向に4.25倍に延伸し、TD延伸温度105℃でTD方向に5倍に延伸することで、200℃の熱固定温度で破断しない範囲で分子鎖の配向を弱め、ゾーン4にて190℃で7.5%の弛緩処理を行うことによりポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムの物性は、面配向係数(ΔP)は0.120で、破断強度がMD方向で221MPa、TD方向で219MPaといずれも比較的低く、熱収縮率はMD方向で2.4%、TD方向で0.8%となる。
【0156】
(実施例10~13)
添加剤としてシリカ粒子(富士シリシア化学製、サイリシア310)を2000ppm用い、実施例1と同様の方法にて一軸延伸フィルムを作製した。得られたフィルムをテンターに導きクリップで把持し、表1に記載の条件にてTD延伸を行い、ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表1に示す。
【0157】
(比較例1)
実施例1と同様の方法にて作製した塗布層を有する一軸延伸フィルムをテンターに導きクリップで把持し、TD延伸を行った。搬送速度は5m/minとした。ゾーン2の延伸温度は105℃、TD延伸倍率は5倍とした。次いで、ゾーン3にて200℃で12秒間の熱処理を行い、ゾーン4にて190℃で5%の弛緩処理を行い、ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0158】
(比較例2)
製膜条件を表2のように変更する以外は比較例1と同様の製法にてポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0159】
(比較例3)
工程内弛緩条件を表2に記載の条件へと変更する以外は実施例1と同様の製法にてポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0160】
(比較例4)
工程内弛緩条件を表2に記載の条件へと変更する以外は実施例3と同様の製法にてポリエステルフィルムを得た。得られたフィルム物性を表2に示す。
【0161】
(比較例5)
熱固定温度を200℃、TD方向の緩和温度を190℃に変更した以外は比較例2と同様の方法で延伸したが、熱固定処理の工程で破断し延伸フィルムを得ることが出来なかった。MD延伸温度が120℃、MD延伸倍率が2.5倍で、TD延伸温度が105℃、TD延伸倍率が4.0倍である場合、熱固定温度を200℃にするとフィルムが耐えられず、破断してしまった。
【0162】
(比較例6)
添加剤としてシリカ粒子(富士シリシア化学製、サイリシア310)を2000ppm用い、表2に記載の条件にてMD延伸、TD延伸を行ったが、熱固定処理の工程で破断し延伸フィルムを得ることが出来なかった。MD延伸温度が110℃、MD延伸倍率が3.4倍で、TD延伸温度が105℃、TD延伸倍率が4.0倍である場合、熱固定温度を200℃にするとフィルムが耐えられず、破断してしまった。
【0163】
【0164】
【産業上の利用可能性】
【0165】
本発明のポリエステルフィルムは熱寸法安定性と易滑性に優れ、耐衝撃強度特性にも優れることから、食品、医薬品、電子部品等の包装材料または、ガス遮断材料を提供できる。
【符号の説明】
【0166】
1 :予熱ゾーン
2 :横延伸ゾーン
3 :熱固定ゾーン
4 :弛緩ゾーン
5 :弛緩ゾーン
6 :冷却ゾーン
7 :クリップ