(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】太陽電池
(51)【国際特許分類】
H01L 51/44 20060101AFI20220614BHJP
【FI】
H01L31/04 112Z
H01L31/04 130
(21)【出願番号】P 2018540255
(86)(22)【出願日】2017-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2017033858
(87)【国際公開番号】W WO2018056295
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2016184375
(32)【優先日】2016-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 明伸
(72)【発明者】
【氏名】湯川 麻由美
(72)【発明者】
【氏名】榑林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】宇野 智仁
(72)【発明者】
【氏名】浅野 元彦
(72)【発明者】
【氏名】福本 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】会田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】森田 健晴
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-072327(JP,A)
【文献】特開2004-319872(JP,A)
【文献】特開2016-195175(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0141799(US,A1)
【文献】特開2016-127093(JP,A)
【文献】米国特許第10403708(US,B2)
【文献】特表2017-504188(JP,A)
【文献】特表2016-523453(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035832(WO,A1)
【文献】Antonio Agresti et al.,Graphene-Perovskite Solar Cells Exceed 18% Efficiency: A Stability Study,CHEMSUSCHEM,2016年09月15日,Vol. 9,p.2609-p.2619,[online],[令和3年11月22日検索],インターネット<URL:https://chemistry-europe.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/cssc.201600942>
【文献】Feijiu Wang et al.,Highly stable perovskite solar cells with an all-carbon hole transport layer,Nanoscale,2016年06月,Vol. 8,p.11882-p.11888
【文献】Dan Li et al.,Graphene oxide modified hole transport layer for CH3NH3PbI3 planar heterojunction solar cells,Solar Energy,2016年06月,Vol. 131,p.176-p.182
【文献】WANG Kuo-Chin et al.,p-type Mesoscopic Nickel Oxide/Organometallic Perovskite Heterojunction Solar Cells,SCIENTIFIC REPORTS,SPRINGER NATURE,2014年04月23日,Volume 4,04756
【文献】ZIYAO Jiang et al.,Amazing stable open-circuit voltage in perovskite solar cells using AgAl alloy electrode,Solar Energy Materials & Solar Cells,Elsevier,2015年12月01日,Volume 146,p.35-43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/42-51/48
H01L 31/04-31/078
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極、光電変換層及び陽極をこの順に有する太陽電池であって、
前記光電変換層は、一般式R-M-X
3(但し、Rは有機分子、Mは金属原子、Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子である。)で表される有機無機ペロブスカイト化合物を含み、
更に、前記光電変換層と前記陽極との間に、カーボンからな
り、連続した緻密膜である拡散防止層を有
し、
前記陽極は、金属からなり、
前記光電変換層と前記拡散防止層との間に、ホール輸送層を有し、前記ホール輸送層は、P型導電性高分子又はP型低分子有機半導体を含有する
ことを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
陰極は、透明電極であることを特徴とする
請求項1記載の太陽電池。
【請求項3】
ホール輸送層は、
P型低分子有機半導体を含有することを特徴とする
請求項1又は2記載の太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換効率が高く、長期間電圧を印加しても光電変換効率が低下しにくい太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、対向する電極間にN型半導体層とP型半導体層とを配置した積層体(光電変換層)を備えた太陽電池が開発されている。このような太陽電池では、光励起により光キャリア(電子-ホール対)が生成し、電子がN型半導体を、ホールがP型半導体を移動することで、電界が生じる。
【0003】
現在、実用化されている太陽電池の多くは、シリコン等の無機半導体を用いて製造される無機太陽電池である。しかしながら、無機太陽電池は製造にコストがかかるうえ大型化が困難であり、利用範囲が限られてしまうことから、無機半導体の代わりに有機半導体を用いて製造される有機太陽電池(例えば、特許文献1、2)や、有機半導体と無機半導体とを組み合わせた有機無機太陽電池が注目されている。
【0004】
有機太陽電池や有機無機太陽電池においては、ほとんどの場合フラーレンが用いられている。フラーレンは、主にN型半導体として働くことが知られている。例えば、特許文献3には、P型半導体となる有機化合物とフラーレン類とを用いて形成された半導体ヘテロ接合膜が記載されている。しかしながら、フラーレンを用いて製造される有機太陽電池や有機無機太陽電池において、その劣化の原因はフラーレンであることが知られており(例えば、非特許文献1参照)、フラーレンに代わる材料が求められている。
【0005】
そこで近年、有機無機ハイブリッド半導体と呼ばれる、中心金属に鉛、スズ等を用いたペロブスカイト構造を有する光電変換材料が発見され、高い光電変換効率を有することが示された(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-344794号公報
【文献】特許第4120362号公報
【文献】特開2006-344794号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Reese et al.,Adv.Funct.Mater.,20,3476-3483(2010)
【文献】M.M.Lee et al.,Science,338,643-647(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、光電変換効率が高く、長期間電圧を印加しても光電変換効率が低下しにくい太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、陰極、光電変換層及び陽極をこの順に有する太陽電池であって、前記光電変換層は、一般式R-M-X3(但し、Rは有機分子、Mは金属原子、Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子である。)で表される有機無機ペロブスカイト化合物を含み、更に、前記光電変換層と前記陽極との間に、周期表6族~15族の金属を含む金属酸化物、金属窒化物及び金属酸窒化物、並びに、カーボンからなる群より選択される少なくとも1種からなる拡散防止層を有する太陽電池である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
陰極、光電変換層及び陽極をこの順に有する太陽電池において、光電変換層に特定の有機無機ペロブスカイト化合物を用いることにより、光電変換効率の向上が期待できる。しかしながら、本発明者らは、太陽電池の製造直後は光電変換効率が高いが、太陽電池に長期間電圧を印加すると光電変換効率が低下することを見出した。この原因として、本発明者らは、太陽電池に長期間電圧を印加すると、陽極の材料(金属)が有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層内に拡散することにより、光電変換効率が低下するのではないかと考えた。
本発明者らは、光電変換層と陽極との間に、周期表6族~15族の金属を含む金属酸化物、金属窒化物及び金属酸窒化物、並びに、カーボンからなる群より選択される少なくとも1種からなる拡散防止層を設けることを検討した。本発明者らは、このような拡散防止層を設けることにより、陽極の材料(金属)が有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層内に拡散することを防止して、太陽電池に長期間電圧を印加しても光電変換効率を高いまま維持させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の太陽電池は、陰極、光電変換層及び陽極をこの順に有する。
本明細書中、層とは、明確な境界を有する層だけではなく、含有元素が徐々に変化する濃度勾配のある層をも意味する。なお、層の元素分析は、例えば、太陽電池の断面のFE-TEM/EDS線分析測定を行い、特定元素の元素分布を確認する等によって行うことができる。また、本明細書中、層とは、平坦な薄膜状の層だけではなく、他の層と一緒になって複雑に入り組んだ構造を形成しうる層をも意味する。
【0012】
上記陰極の材料は特に限定されず、従来公知の材料を用いることができる。本発明の太陽電池においては、後述するように上記陽極が金属からなっていてもよく、この場合、上記陰極は、透明電極であることが好ましい。
陰極材料として、例えば、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ITO(スズドープ酸化インジウム)、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-リチウム合金、Al/Al2O3混合物、Al/LiF混合物等が挙げられる。これらの材料は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0013】
上記光電変換層は、一般式R-M-X3(但し、Rは有機分子、Mは金属原子、Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子である。)で表される有機無機ペロブスカイト化合物を含む。上記光電変換層が上記有機無機ペロブスカイト化合物を含む太陽電池は、有機無機ハイブリッド型太陽電池とも呼ばれる。
上記光電変換層に上記有機無機ペロブスカイト化合物を用いることにより、太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。
【0014】
上記Rは有機分子であり、ClNmHn(l、m、nはいずれも正の整数)で示されることが好ましい。
上記Rは、具体的には例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、エチルメチルアミン、メチルプロピルアミン、ブチルメチルアミン、メチルペンチルアミン、ヘキシルメチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、ホルムアミジン、アセトアミジン、グアニジン、イミダゾール、アゾール、ピロール、アジリジン、アジリン、アゼチジン、アゼト、イミダゾリン、カルバゾール及びこれらのイオン(例えば、メチルアンモニウム(CH3NH3)等)やフェネチルアンモニウム等が挙げられる。なかでも、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ホルムアミジン、アセトアミジン及びこれらのイオンやフェネチルアンモニウムが好ましく、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ホルムアミジン及びこれらのイオンがより好ましい。
【0015】
上記Mは金属原子であり、例えば、鉛、スズ、亜鉛、チタン、アンチモン、ビスマス、ニッケル、鉄、コバルト、銀、銅、ガリウム、ゲルマニウム、マグネシウム、カルシウム、インジウム、アルミニウム、マンガン、クロム、モリブデン、ユーロピウム等が挙げられる。これらの金属原子は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0016】
上記Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子であり、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、硫黄、セレン等が挙げられる。これらのハロゲン原子又はカルコゲン原子は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、構造中にハロゲンを含有することで、上記有機無機ペロブスカイト化合物が有機溶媒に可溶になり、安価な印刷法等への適用が可能になることから、ハロゲン原子が好ましい。更に、上記有機無機ペロブスカイト化合物のエネルギーバンドギャップが狭くなることから、ヨウ素がより好ましい。
【0017】
上記有機無機ペロブスカイト化合物は、体心に金属原子M、各頂点に有機分子R、面心にハロゲン原子又はカルコゲン原子Xが配置された立方晶系の構造を有することが好ましい。
図1は、体心に金属原子M、各頂点に有機分子R、面心にハロゲン原子又はカルコゲン原子Xが配置された立方晶系の構造である、有機無機ペロブスカイト化合物の結晶構造の一例を示す模式図である。詳細は明らかではないが、上記構造を有することにより、結晶格子内の八面体の向きが容易に変わることができるため、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上すると推定される。
【0018】
上記有機無機ペロブスカイト化合物は、結晶性半導体であることが好ましい。結晶性半導体とは、X線散乱強度分布を測定し、散乱ピークが検出できる半導体を意味している。上記有機無機ペロブスカイト化合物が結晶性半導体であることにより、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上する。
【0019】
また、結晶化の指標として結晶化度を評価することもできる。結晶化度は、X線散乱強度分布測定により検出された結晶質由来の散乱ピークと非晶質部由来のハローとをフィッティングにより分離し、それぞれの強度積分を求めて、全体のうちの結晶部分の比を算出することにより求めることができる。
上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度の好ましい下限は30%である。結晶化度が30%以上であると、上記有機無機ペロブスカイト化合物中の電子の移動度が高くなり、太陽電池の光電変換効率が向上する。結晶化度のより好ましい下限は50%、更に好ましい下限は70%である。
また、上記有機無機ペロブスカイト化合物の結晶化度を上げる方法として、例えば、熱アニール、レーザー等の強度の強い光の照射、プラズマ照射等が挙げられる。
【0020】
上記光電変換層は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、上記有機無機ペロブスカイト化合物に加えて、更に、有機半導体又は無機半導体を含んでいてもよい。なお、ここでいう有機半導体又は無機半導体は、ホール輸送層、又は、電子輸送層としての役割を果たしてもよい。
上記有機半導体として、例えば、ポリ(3-アルキルチオフェン)等のチオフェン骨格を有する化合物等が挙げられる。また、例えば、ポリパラフェニレンビニレン骨格、ポリビニルカルバゾール骨格、ポリアニリン骨格、ポリアセチレン骨格等を有する導電性高分子等も挙げられる。更に、例えば、フタロシアニン骨格、ナフタロシアニン骨格、ペンタセン骨格、ベンゾポルフィリン骨格等のポルフィリン骨格、スピロビフルオレン骨格等を有する化合物や、表面修飾されていてもよいカーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレン等のカーボン含有材料も挙げられる。
【0021】
上記無機半導体として、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ガリウム、硫化スズ、硫化インジウム、硫化亜鉛、CuSCN、Cu2O、CuI、MoO3、V2O5、WO3、MoS2、MoSe2、Cu2S等が挙げられる。
【0022】
上記光電変換層は、上記有機無機ペロブスカイト化合物と上記有機半導体又は上記無機半導体とを含む場合、薄膜状の有機半導体又は無機半導体部位と薄膜状の有機無機ペロブスカイト化合物部位とを積層した積層体であってもよいし、有機半導体又は無機半導体部位と有機無機ペロブスカイト化合物部位とを複合化した複合膜であってもよい。製法が簡便である点では積層体が好ましく、上記有機半導体又は上記無機半導体中の電荷分離効率を向上させることができる点では複合膜が好ましい。
【0023】
上記薄膜状の有機無機ペロブスカイト化合物部位の厚みは、好ましい下限が5nm、好ましい上限が5000nmである。上記厚みが5nm以上であれば、充分に光を吸収することができるようになり、光電変換効率が高くなる。上記厚みが5000nm以下であれば、電荷分離できない領域が発生することを抑制できるため、光電変換効率の向上につながる。上記厚みのより好ましい下限は10nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は20nm、更に好ましい上限は500nmである。
【0024】
上記光電変換層が、有機半導体又は無機半導体部位と有機無機ペロブスカイト化合物部位とを複合化した複合膜である場合、上記複合膜の厚みの好ましい下限は30nm、好ましい上限は3000nmである。上記厚みが30nm以上であれば、充分に光を吸収することができるようになり、光電変換効率が高くなる。上記厚みが3000nm以下であれば、電荷が電極に到達しやすくなるため、光電変換効率が高くなる。上記厚みのより好ましい下限は40nm、より好ましい上限は2000nmであり、更に好ましい下限は50nm、更に好ましい上限は1000nmである。
【0025】
上記光電変換層を形成する方法は特に限定されず、真空蒸着法、スパッタリング法、気相反応法(CVD)、電気化学沈積法、印刷法等が挙げられる。なかでも、印刷法を採用することで、高い光電変換効率を発揮できる太陽電池を大面積で簡易に形成することができる。印刷法として、例えば、スピンコート法、キャスト法等が挙げられ、印刷法を用いた方法としてロールtoロール法等が挙げられる。
【0026】
上記陽極の材料は特に限定されず、従来公知の材料を用いることができる。上記陽極の材料が上記有機無機ペロブスカイト化合物を含む上記光電変換層内に拡散しやすいもの(金属)であっても、本発明の太陽電池においては、上記光電変換層と上記陽極との間に後述するような拡散防止層を設けることにより、上記陽極の材料(金属)が上記有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層内に拡散することを防止できる。これにより、太陽電池に長期間電圧を印加しても光電変換効率を高いまま維持させることができる。即ち、上記陽極は、金属からなっていてもよい。なお、上記陽極は、パターニングされた電極であることが多い。
陽極材料として、例えば、金、銀、クロム、アルミ、チタン、白金、イリジウム等の金属が挙げられる。これらの材料は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0027】
本発明の太陽電池は、更に、上記光電変換層と上記陽極との間に、周期表6族~15族の金属を含む金属酸化物、金属窒化物及び金属酸窒化物、並びに、カーボンからなる群より選択される少なくとも1種からなる拡散防止層を有する。
上記光電変換層と上記陽極との間に上記拡散防止層を設けることにより、上記陽極の材料(金属)が上記有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層内に拡散することを防止して、太陽電池に長期間電圧を印加しても光電変換効率を高いまま維持させることができる。
【0028】
上記拡散防止層とは、上記陽極の材料(金属)が上記有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層内に拡散することを防止する層を意味する。このためには、上記拡散防止層は、粒子の集合体からなる層や多孔質状の層ではなく、連続した緻密膜であることが好ましい。
より具体的には、例えば、太陽電池をFIB(focused ion beam:集束イオンビーム)により切断し、切断面を観察した任意の10点の透過型電子顕微鏡写真において、上記拡散防止層を挟む上下の層が接触している箇所が見られない程度の緻密さ及び連続性を、上記拡散防止層が有することが好ましい。即ち、上記拡散防止層を挟む上下の層が上記拡散防止層によって断絶されている程度の緻密さ及び連続性を、上記拡散防止層が有することが好ましい。上記拡散防止層が緻密膜ではない場合には、太陽電池の光電変換効率が低下したり、太陽電池に長期間電圧を印加すると光電変換効率が低下したりすることがある。
上記透過型電子顕微鏡としては、例えば、JEM-2010-FEF(日本電子社製)等を用いることができる。
【0029】
上記拡散防止層を形成する際には、例えば、蒸着法、スパッタリング、CVD等のドライ製膜法や、スプレーコーティング、スピンコート等のウェットコーティング等を採用することが好ましく、これにより、緻密膜を形成することができる。
【0030】
上記拡散防止層は、周期表6族~15族の金属を含む金属酸化物、金属窒化物及び金属酸窒化物、並びに、カーボンからなる群より選択される少なくとも1種からなる。
上記周期表6族~15族の金属を含む金属酸化物、金属窒化物及び金属酸窒化物は、周期表6族~15族の金属を1種含んでいてもよいし、周期表6族~15族の金属を2種以上含んでいてもよい。具体的には、例えば、酸化ニッケル、酸化モリブデン、ITO(インジウムスズ酸化物)、AZO(アルミニウム亜鉛酸化物)、GZO(ガリウム亜鉛酸化物)、窒化クロム、酸窒化インジウム、酸窒化アルミニウム等が挙げられる。
【0031】
上記周期表6族~15族の金属を含む金属酸化物、金属窒化物及び金属酸窒化物、並びに、カーボンは、導電性及びホール輸送性能を有し光電変換効率に悪影響を及ぼすことがなく、かつ、上記陽極の材料(金属)に比べると上記有機無機ペロブスカイト化合物を含む光電変換層内に拡散しにくいものである。上記周期表6族~15族の金属を含む金属酸化物、金属窒化物及び金属酸窒化物、並びに、カーボンのなかでも、太陽電池の光電変換効率が低下しにくいことから、周期表6族~15族の金属を含む金属酸化物、又は、カーボンが好ましい。導電性が高く、太陽電池の光電変換効率が低下しにくいことから、ITO、AZO、GZO、カーボンがより好ましい。上記陽極の材料(金属)の拡散を防止するために好ましい厚みの範囲内で透明性が高く、比較的安価であることから、カーボンが更に好ましい。また、上記陽極の材料(金属)の拡散を防止するために好ましい厚みの範囲内で透明性が高く、導電性が高いことから、ITOも更に好ましい。
【0032】
なお、上記陽極の材料(金属)の拡散を防止するためには、上記拡散防止層を設ける代わりに、上記周期表6族~15族の金属を含む金属酸化物、金属窒化物及び金属酸窒化物、並びに、カーボンからなる群より選択される少なくとも1種を上記陽極として製膜することも考えられる。
しかしながら、上記陽極として上記周期表6族~15族の金属を含む金属酸化物、金属窒化物及び金属酸窒化物、並びに、カーボンからなる群より選択される少なくとも1種を用いる場合には、太陽電池の抵抗が高くなり、上記拡散防止層を設ける場合のように光電変換効率を向上させることは困難である。
【0033】
上記拡散防止層は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、上記周期表6族~15族の金属を含む金属酸化物、金属窒化物及び金属酸窒化物、並びに、カーボンからなる群より選択される少なくとも1種に加えて、他の添加剤等を含んでいてもよい。
【0034】
上記拡散防止層の厚みは特に限定されないが、好ましい下限は10nm、好ましい上限は5000nmである。上記厚みが10nm以上であれば、上記陽極の材料(金属)の拡散を充分に防止することができ、光電変換効率が高くなる。上記厚みが5000nm以下であれば、上記拡散防止層の抵抗が高くなりすぎず、光電変換効率が向上し、また、透明性が高くなる。上記厚みのより好ましい下限は50nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は100nm、更に好ましい上限は500nmである。
【0035】
本発明の太陽電池は、上記陰極と上記光電変換層との間に、電子輸送層を有していてもよい。
上記電子輸送層の材料は特に限定されず、例えば、N型導電性高分子、N型低分子有機半導体、N型金属酸化物、N型金属硫化物、ハロゲン化アルカリ金属、アルカリ金属、界面活性剤等が挙げられる。具体的には例えば、シアノ基含有ポリフェニレンビニレン、ホウ素含有ポリマー、バソキュプロイン、バソフェナントレン、ヒドロキシキノリナトアルミニウム、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物等が挙げられる。また、ナフタレンテトラカルボン酸化合物、ペリレン誘導体、ホスフィンオキサイド化合物、ホスフィンスルフィド化合物、フルオロ基含有フタロシアニン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化ガリウム、硫化スズ、硫化インジウム、硫化亜鉛等が挙げられる。
【0036】
上記電子輸送層は、薄膜状の電子輸送層のみからなっていてもよいが、多孔質状の電子輸送層を含むことが好ましい。特に、光電変換層が、有機半導体又は無機半導体部位と有機無機ペロブスカイト化合物部位とを複合化した複合膜である場合、より複雑な複合膜(より複雑に入り組んだ構造)が得られ、光電変換効率が高くなることから、多孔質状の電子輸送層上に複合膜が製膜されていることが好ましい。
【0037】
上記電子輸送層の厚みは、好ましい下限が1nm、好ましい上限が2000nmである。上記厚みが1nm以上であれば、充分にホールをブロックできるようになる。上記厚みが2000nm以下であれば、電子輸送の際の抵抗になり難く、光電変換効率が高くなる。上記電子輸送層の厚みのより好ましい下限は3nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は5nm、更に好ましい上限は500nmである。
【0038】
本発明の太陽電池は、上記光電変換層と上記拡散防止層との間に、ホール輸送層を有していてもよい。
上記ホール輸送層の材料は特に限定されず、上記ホール輸送層が有機材料からなっていてもよい。上記ホール輸送層の材料として、例えば、P型導電性高分子、P型低分子有機半導体、P型金属酸化物、P型金属硫化物、界面活性剤等が挙げられる。具体的には例えば、ポリ(3-アルキルチオフェン)等のチオフェン骨格を有する化合物等が挙げられる。また、例えば、トリフェニルアミン骨格、ポリパラフェニレンビニレン骨格、ポリビニルカルバゾール骨格、ポリアニリン骨格、ポリアセチレン骨格等を有する導電性高分子等も挙げられる。更に、例えば、フタロシアニン骨格、ナフタロシアニン骨格、ペンタセン骨格、ベンゾポルフィリン骨格等のポルフィリン骨格、スピロビフルオレン骨格等を有する化合物、硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化銅、硫化スズ等、フルオロ基含有ホスホン酸、カルボニル基含有ホスホン酸、CuSCN、CuI等の銅化合物等が挙げられる。なかでも、太陽電池の光電変換効率が向上することから、P型導電性高分子又はP型低分子有機半導体が好ましい。
【0039】
上記ホール輸送層は、その一部が上記光電変換層に浸漬していてもよい(上記光電変換層と入り組んだ構造を形成していてもよい)し、上記光電変換層上に薄膜状に配置されてもよい。上記ホール輸送層が薄膜状に存在する時の厚みは、好ましい下限は1nm、好ましい上限は2000nmである。上記厚みが1nm以上であれば、充分に電子をブロックできるようになる。上記厚みが2000nm以下であれば、ホール輸送の際の抵抗になり難く、光電変換効率が高くなる。上記厚みのより好ましい下限は3nm、より好ましい上限は1000nmであり、更に好ましい下限は5nm、更に好ましい上限は500nmである。
【0040】
本発明の太陽電池は、更に、基板等を有していてもよい。上記基板は特に限定されず、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス等の透明ガラス基板、セラミック基板、透明プラスチック基板等が挙げられる。
【0041】
本発明の太陽電池を製造する方法は特に限定されず、例えば、上記基板上に上記陰極、上記電子輸送層、上記光電変換層、上記ホール輸送層、上記拡散防止層及び上記陽極をこの順で形成する方法等が挙げられる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、光電変換効率が高く、長期間電圧を印加しても光電変換効率が低下しにくい太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】有機無機ペロブスカイト化合物の結晶構造の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0045】
(実施例1)
ガラス基板上に、陰極として厚み1000nmのFTO膜を形成し、純水、アセトン、メタノールをこの順に用いて各10分間超音波洗浄した後、乾燥させた。
FTO膜の表面上に、2%に調整したチタンイソプロポキシドエタノール溶液をスピンコート法により塗布した後、400℃で10分間焼成し、厚み20nmの薄膜状の電子輸送層を形成した。更に、薄膜状の電子輸送層上に、有機バインダとしてのポリイソブチルメタクリレートと酸化チタン(平均粒子径10nmと30nmとの混合物)とを含有する酸化チタンペーストをスピンコート法により塗布した後、500℃で10分間焼成し、厚み500nmの多孔質状の電子輸送層を形成した。
【0046】
次いで、ハロゲン化金属化合物としてヨウ化鉛をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させて1Mの溶液を調製した。これを上記多孔質状の電子輸送層上にスピンコート法によって製膜した。更に、アミン化合物としてヨウ化メチルアンモニウムを2-プロパノールに溶解させて1Mの溶液を調製した。この溶液内に上記のヨウ化鉛を製膜したサンプルを浸漬させることによって有機無機ペロブスカイト化合物であるCH3NH3PbI3を含む層を形成した。浸漬後、得られたサンプルに対して80℃にて30分間加熱処理を行い、光電変換層を形成した。
【0047】
次いで、光電変換層上に、低分子有機化合物(P型)であるSpiro-OMeTAD(メルク社製)の9重量%クロロベンゼン溶液をスピンコートすることにより、厚み200nmのホール輸送層を形成した。
【0048】
次いで、ホール輸送層上に、電子ビーム蒸着法により厚み500nmのカーボンからなる拡散防止層を形成した。
【0049】
得られた拡散防止層上に、抵抗加熱蒸着法により陽極として厚み100nmの金膜を形成し、陰極/電子輸送層/光電変換層/ホール輸送層/拡散防止層/陽極が積層された太陽電池を得た。
【0050】
得られた太陽電池をFIB(集束イオンビーム)により切断し、切断面を透過型電子顕微鏡(JEM-2010-FEF、日本電子社製)により観察した。任意の10点の透過型電子顕微鏡写真において、拡散防止層を挟む上下の層が接触している箇所は見られず、拡散防止層が連続した緻密膜であることが確認された。
【0051】
(実施例2~5、10~16、19、参考例1~7)
ホール輸送層、拡散防止層の種類及び厚み、並びに、陽極を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、陰極/電子輸送層/光電変換層/ホール輸送層/拡散防止層/陽極が積層された太陽電池を得た。
【0052】
(比較例1、2)
カーボンからなる拡散防止層を形成せず、表2に示すようにその他の層として厚み100nmのTiO2緻密膜、ZrO2緻密膜を形成したこと以外は実施例1と同様にして、陰極/電子輸送層/光電変換層/ホール輸送層/その他の層/陽極が積層された太陽電池を得た。
【0053】
(比較例3、4)
陽極を形成せず、表2に示すように厚み500nm、2000nmのカーボンからなる拡散防止層を形成した(カーボンからなる拡散防止層を陽極として用いた)こと以外は実施例1と同様にして、陰極/電子輸送層/光電変換層/ホール輸送層/拡散防止層(陽極)が積層された太陽電池を得た。
【0054】
(比較例5~8)
カーボンからなる拡散防止層を形成しなかったこと以外は実施例1~4と同様にして、陰極/電子輸送層/光電変換層/ホール輸送層/陽極が積層された太陽電池を得た。
【0055】
(比較例9~11)
カーボンからなる拡散防止層を形成せず、表2に示すようにその他の層として厚み500nmにカーボンナノチューブ、ITOナノ粒子、カーボンブラック(即ち、カーボンナノ粒子)を製膜したこと以外は実施例4と同様にして、陰極/電子輸送層/光電変換層/ホール輸送層/その他の層/陽極が積層された太陽電池を得た。
カーボンナノチューブ、ITOナノ粒子、カーボンブラックを製膜する際には、超音波ホモジナイザーにてカーボンナノチューブ、ITOナノ粒子、カーボンブラックの分散液を作製し、得られた分散液をスピンコートすることで製膜した。
実施例1と同様にして、得られた太陽電池をFIB(集束イオンビーム)により切断し、切断面を透過型電子顕微鏡(JEM-2010-FEF、日本電子社製)により観察した。任意の10点の透過型電子顕微鏡写真において、カーボンナノチューブ、ITOナノ粒子、カーボンブラックを製膜して得られた層を挟む上下の層は、接触している箇所が複数箇所見られた。
【0056】
<評価>
実施例、比較例及び参考例で得られた太陽電池について、以下の評価を行った。結果を表1又は表2に示した。
【0057】
(1)光電変換効率の測定
太陽電池の製造直後、太陽電池の電極間に電源(KEITHLEY社製、236モデル)を接続し、強度100mW/cm2のソーラーシミュレーション(山下電装社製)を用いて光電変換効率を測定し、得られた光電変換効率を初期変換効率とした。比較例5で得られた太陽電池の初期変換効率を基準として規格化した。
◎:規格化した初期変換効率の値が0.9以上
○○:規格化した初期変換効率の値が0.8以上0.9未満
○:規格化した初期変換効率の値が0.7以上0.8未満
×:規格化した初期変換効率の値が0.7未満
【0058】
(2)長期間電圧を印加したときの耐久性評価
太陽電池の電極間に電源(KEITHLEY社製、236モデル)を接続し、強度100mW/cm2のソーラーシミュレーション(山下電装社製)を用いて25℃で電圧を印加し、24時間経過後の光電変換効率を測定した。
◎:24時間経過後の光電変換効率が、初期変換効率に対して90%以上保持
○:24時間経過後の光電変換効率が、初期変換効率に対して80%以上、90%未満保持
×:24時間経過後の光電変換効率が、初期変換効率に対して80%未満に低下
【0059】
【0060】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、光電変換効率が高く、長期間電圧を印加しても光電変換効率が低下しにくい太陽電池を提供することができる。