(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-06-13
(45)【発行日】2022-06-21
(54)【発明の名称】評価用ワークおよび加工プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 19/18 20060101AFI20220614BHJP
G05B 19/4093 20060101ALI20220614BHJP
B23Q 15/00 20060101ALI20220614BHJP
B23C 3/16 20060101ALI20220614BHJP
G05B 19/4097 20060101ALI20220614BHJP
B23Q 17/00 20060101ALN20220614BHJP
【FI】
G05B19/18 W
G05B19/4093 Z
B23Q15/00 301B
B23C3/16
G05B19/4097 C
B23Q17/00 A
(21)【出願番号】P 2019071537
(22)【出願日】2019-04-03
【審査請求日】2020-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】趙 威
(72)【発明者】
【氏名】相澤 誠彰
【審査官】松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-097543(JP,A)
【文献】特開平04-259012(JP,A)
【文献】特開2019-040586(JP,A)
【文献】特開2012-086325(JP,A)
【文献】特開2018-128986(JP,A)
【文献】特開2013-210926(JP,A)
【文献】特開2005-157980(JP,A)
【文献】特開2005-309673(JP,A)
【文献】特開2012-068918(JP,A)
【文献】特開2018-181198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18-19/416
B23Q 15/00-15/28
B23C 3/16
B23Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線3軸と1軸以上の回転軸とを備えた多軸加工機によって加工され
、少なくとも前記多軸加工機を動作させる加工プログラムが加工面に与える影響を評価するための評価用ワークであって、
前記評価用ワークは、台状加工部と該台状加工部上に形成されるねじれ加工部とを有し、
前記ねじれ加工部に、前記影響を評価するための、前記多軸加工機が有する工具の傾きが変化
して加工する曲面部
を備えた評価用ワーク。
【請求項2】
前記曲面部は、自由曲面に形成されている、請求項1に記載の評価用ワーク。
【請求項3】
前記多軸加工機は、テーブルが直線移動するとともに回転移動するテーブル回転形の加工機、テーブルが直線移動し、ヘッドが回転移動する混合形の加工機、又はヘッドが直線移動するとともに回転移動するヘッド回転型の加工機である、請求項1
又は2に記載の評価用ワーク。
【請求項4】
直線3軸と1軸以上の回転軸とを備えた多軸加工機を駆動させ
、少なくとも前記多軸加工機を動作させる加工プログラムが加工面に与える影響を評価するための評価用ワークを作製する数値制御装置としてのコンピュータに、
台状加工部を形成する処理と、
該台状加工部上にねじれ加工部を形成する処理と、を実行させ、
前記ねじれ加工部を形成する処理において、前記影響を評価するための、前記多軸加工機が有する工具の傾きを変化させて加工する自由曲面を形成する処理
を実行させる加工プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械によって加工された評価用ワーク、加工プログラム及びデータ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
評価用ワークを用いてX,Y,Z軸の工作機械(3軸加工機)の変位評価を行う方法が、例えば、特許文献1に記載されている。 具体的には、特許文献1には、互いに直交するX,Y,Z軸を有する工作機械に対し、例えば、溝加工面を有する変位評価用ワークを、溝加工面がX軸方向に対して傾斜し、且つ、溝加工面の一端側の辺がY軸方向に対して平行な状態となるように設置し、この状態で、工具をZ軸方向には移動させずにX軸方向に移動させることによって溝加工面に直線状の溝を形成する溝加工を実施し、且つ、この溝加工を、工具をY軸方向へ順次移動させるごとに実施して各列の直線状の溝が互いに平行となるようにすることにより、Z軸方向の変位を評価する工作機械の変位評価方法が記載されている。
【0003】
また、5軸加工機の数値制御装置が、例えば、特許文献2に記載されている。 具体的には、特許文献2には、直線軸位置および直線軸の移動方向の組み合わせに関連付けられた直線軸起因補正量と、回転軸位置および回転軸の移動方向の組み合わせに関連付けられた回転軸起因補正量と、を記憶する方向別補正量記憶部と、各軸の移動方向を判定する軸移動方向判定部と、直線軸位置および指令直線軸移動方向に関連付けられた直線軸起因補正量と、指令による回転軸位置および指令回転軸移動方向に関連付けられた回転軸起因補正量とをそれぞれ方向別補正量記憶部から取得する移動方向別補正量取得部と、直線軸起因補正量および回転軸起因補正量に基づいて並進回転補正量を算出し、該並進回転補正量を指令直線軸位置に加算する補正部と、を備える数値制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-86325号公報
【文献】特開2017-21554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
X軸、Y軸及びZ軸の直線3軸と、1軸以上の回転軸を備えた加工機(以下、多軸加工機という)は、工具をテーブルに対して相対的に直線移動する動作を行わせるとともに、工具をテーブルに対して相対的に傾ける動作を行わせる。多軸加工機は例えば、4軸加工機、5軸加工機である。
多軸加工機は、加工プログラム、数値制御装置、及び機械等の種々の要因の影響を受け、これらの要因が加工に与える影響を評価するための評価用ワーク、加工プログラム及びデータ構造が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本開示の一態様は、直線3軸と1軸以上の回転軸とを備えた多軸加工機によって加工された評価用ワークであって、
工具の傾きが変化する曲面部と、工具の異なる角度で加工する、隣接する2つの領域を有する平面の前記2つの領域の境界部と、工具先端点の移動量に対して回転軸の移動量が大きい角部とのうちの少なくとも1つを備えた評価用ワークである。
【0007】
(2) 本開示の他の態様は、直線3軸と1軸以上の回転軸とを備えた多軸加工機を駆動させて評価用ワークを作製する数値制御装置としてのコンピュータに、
工具の傾きを変化させて自由曲面を形成する処理と、平面の隣接する2つの領域の境界部において、2つの領域間で互いに工具の異なる角度で加工する処理と、工具先端点の移動量に対して工具の回転軸の移動量を大きくして角部を形成する処理とのうちの少なくとも1つの処理を実行させる加工プログラムである。
【0008】
(3) 本開示の更に他の態様は、CADデータに基づいてCAM装置により加工プログラムを作成するCAM装置と、直線3軸と1軸以上の回転軸とを備えた多軸加工機を前記加工プログラムに基づいて駆動させて評価用ワークを作製する数値制御装置とを備えた制御システムにおける、前記CADデータのデータ構造であって、
前記評価用ワークの、工具の傾きが変化する自由曲面からなる曲面部と、工具の異なる角度で加工する、隣接する2つの領域を有する平面の前記2つの領域の境界部と、工具先端点の移動量に対して工具の回転軸の移動量が大きい角部とのうちの少なくとも1つを加工するためのデータ構造である。
【発明の効果】
【0009】
本開示の各態様によれば、加工プログラム、数値制御装置、及び機械等の種々の要因が工作機械による加工に与える影響を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】評価用ワークを作製する工作機械の制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】テーブル回転形の5軸加工機を示す斜視図である。
【
図4】ヘッド回転形の5軸加工機を示す斜視図である。
【
図5】ヘッド回転形の5軸加工機の動作を示す斜視図である。
【
図6】本開示の一実施形態の評価用ワークの平面図である。
【
図7】本開示の一実施形態の評価用ワークの正面図である。
【
図8】本開示の一実施形態の評価用ワークの背面図である。
【
図9】本開示の一実施形態の評価用ワークの左側面図である。
【
図10】本開示の一実施形態の評価用ワークの右側面図である。
【
図11】
図6に示した評価用ワークの斜め左上方向の斜視図である。
【
図12】
図6に示した評価用ワークの斜め右下方向の斜視図である。
【
図13】3軸加工における、工具のワークの加工動作を説明するための説明図である。
【
図14】5軸加工における、工具のワークの加工動作を説明するための説明図である。
【
図15】工具の傾きが滑らかでない加工プログラムを用いたときの、5軸加工における、工具のワークの加工動作を説明するための説明図である。
【
図16】工具の傾きが滑らかでない加工プログラムを用いたときに、生ずる筋目を示す説明図である。
【
図17】5軸加工機が工具を用いて二つの角度で平面を加工するときに、工具により目標となる均一な平面が形成される様子を示す説明図である。
【
図18】機械の物理的な回転軸中心と、数値制御装置のパラメータに設定されている回転軸中心が一致していない場合に、工具により段差を有する面が形成される様子を示す説明図である。
【
図19】2つの回転軸中心が一致している場合の、工具が平面に対して垂直に配置された状態、2つの回転軸中心が一致している場合の、工具を、回転軸中心を中心点として60度回転させた状態、及び2つの回転軸中心が一致している場合の、工具を、所定の移動量だけ、工具先端がワーク上面に配置されるように移動させた状態を示す図である。
【
図20】2つの回転軸中心が互いにズレている場合の、工具が平面に対して垂直に配置された状態、2つの回転軸中心が互いにズレている場合の、工具を、回転軸中心を中心点として60度回転させた状態、及び2つの回転軸中心が互いにズレている場合の、工具を、所定の移動量だけ、工具先端がワーク上面に配置されるように移動させた状態を示す図である。
【
図21】平面の隣接する領域で、工具の傾きを異なる角度として加工した場合の様子を示す説明図である。
【
図22】直方体のワークを加工した際に、角の所で工具の傾きが90度と大きく変化する様子を示す説明図である。
【
図23】ねじれ加工部の2つの側面の境界の角で工具姿勢が急激に変化する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0012】
(第1実施形態)
まず、本開示に係る評価用ワークを作製する工作機械の制御システムについて説明する。
図1は、評価用ワークを作製する工作機械の制御システムの構成を示すブロック図である。
図1に示すように、評価用ワークを作製する工作機械の制御システム10は、CAD (Computer Aided Design)装置100、CAM (Computer Aided Manufacturing)装置200、及びCNC (Computerized Numerical Control)装置等の数値制御装置300を備えている。
【0013】
数値制御装置300により制御される工作機械は、多軸加工機である。多軸加工機は、既に説明したように、X軸、Y軸及びZ軸の直線3軸と、1軸以上の回転軸を備えた加工機であり、4軸加工機、5軸加工機等を含む。以下の説明では5軸加工機を用いた例について説明する。
図2~
図4は、X軸、Y軸及びZ軸の直線3軸と、B軸、C軸の回転2軸を備えた5軸加工機の構成例を示す斜視図である。
図2はテーブル回転形の5軸加工機を示す斜視図である。
図3は混合形の5軸加工機を示す斜視図である。
図4はヘッド回転形の5軸加工機を示す斜視図である。
図5の(A)、(B)、及び(C)は、それぞれヘッド回転形の5軸加工機の動作を示す斜視図である。5軸加工機で作製される評価用ワークの構成は後述する。
【0014】
図2に示すテーブル回転形の5軸加工機20Aは、テーブル22AをX軸、Y軸、Z軸の方向に直線移動するとともに、B軸、及びC軸の方向に回転移動する。ヘッド21Aは位置が固定される。
図3に示す混合形の5軸加工機20Bは、テーブル22BをX軸、Y軸、Z軸の方向に直線移動するとともにC軸の方向に回転移動し、ヘッド21BをB軸の方向に回転移動する。
図4に示すヘッド回転形の5軸加工機20Cは、テーブル(不図示)の位置を固定し、ヘッド21CをX軸、Y軸、Z軸の方向に直線移動するとともに、B軸、及びC軸の方向に回転移動する。ヘッド回転形の5軸加工機は
図5の(A)、(B)、及び(C)に示すようにヘッド21Cが様々な方向に向いてワーク23を加工する。
ヘッド21A、21B、及び21Cに取り付けられる工具としては例えばボールエンドミルを用いることができる。
【0015】
本実施形態では、ヘッド回転形の5軸加工機20Cを用いた例について説明するが、特にヘッド回転形の5軸加工機に限定されず、テーブル回転形の5軸加工機又は混合形の5軸加工機を用いてもよく、以下の説明はテーブル回転形の5軸加工機又は混合形の5軸加工機においても適用可能である。
【0016】
CAD装置100は、コンピュータの画面上に製図を行うCADソフトウェアを、CPUを用いて動作させる。評価用ワークの製図は2次元CAD又は3次元CADを用いて行われる。2次元CADを用いる場合には、X、Yの平面上に、評価用ワークの正面図、上面図、側面図などを作製する。3次元CADを用いる場合には、X、Y及びZの立体空間上に、評価用ワークの立体像を作成する。CADデータの構造については後述する。
【0017】
CAM装置200は、CAD装置100で作成した評価用ワークの形状に基づいて加工プログラムを作成するCAMソフトウェアを、コンピュータ上でCPUを用いて動作させる。
加工プログラムは5軸加工等の多軸加工により評価用ワークを作製するためのプログラムであり、X軸、Y軸、Z軸の情報、工具の傾き等の回転軸指令点に関する情報、工具のタイプ、工具の寸法等に関する情報、送り速度、主軸回転数等に関する情報を含んでいる。
【0018】
数値制御装置300は、指令解析部301、補間部302、及び加減速制御部303を備えている。
指令解析部301はCAM装置200によって作成された加工プログラムからX軸、Y軸、Z軸、B軸及びC軸の移動の指令を含むブロックを逐次読みだして解析し、解析結果に基づいて各軸の移動を指令する移動指令データを作成し、作成した移動指令データを補間部302に出力する。上述したように、5軸加工の加工プログラムには、回転軸指令点に、X軸、Y軸、Z軸の情報以外に工具の傾きの情報も入っており、これらの情報を用いて各軸の移動を指令する移動指令データが作成される。
【0019】
補間部302は、指令解析部301から出力された移動指令データにより指令される移動指令に基づいて、指令経路上の点を補間周期で補間計算した補間データを生成する。
加減速制御部303は、補間部302から出力された補間データに基づいて、加減速処理を行い補間周期ごとの各軸の速度を計算し、算出結果に基づくデータを、X軸サーボ制御部304、Y軸サーボ制御部305、Z軸サーボ制御部306、B軸サーボ制御部307、及びC軸サーボ制御部308へ出力する。
【0020】
X軸サーボ制御部304、Y軸サーボ制御部305、Z軸サーボ制御部306は、X軸、Y軸及びZ軸の直線3軸を駆動する3つのサーボモータ(不図示)をそれぞれ制御し、B軸サーボ制御部307、及びC軸サーボ制御部308はB軸、C軸の回転2軸を駆動する2つのサーボモータ(不図示)をそれぞれ制御する。
【0021】
X軸、Y軸、Z軸、B軸、及びC軸の各軸のサーボモータは、位置及び速度を検出する検出器を備え、この検出器からの位置フィードバック信号及び速度フィードバック信号をX軸サーボ制御部304、Y軸サーボ制御部305、Z軸サーボ制御部306、B軸サーボ制御部307、及びC軸サーボ制御部308にフィードバックし、位置及び速度のフィードバック制御を行う。各軸のサーボ制御部304~308は、位置フィードバックループ及び速度フィードバックループを構成するための位置制御部、速度制御部、トルク指令値に基づいて送り軸モータを駆動するモータ駆動アンプ等を有する。位置フィードバック及び速度フィードバックについては当業者によく知られているので詳細な説明及び図示を省略する。
【0022】
なお、数値制御装置300は、主軸回転指令を受けてスピンドルモータを回転制御して工具を駆動するスピンドル制御部を有するが、工具の移動制御とは関係がないため、ここでは説明を省略する。
【0023】
以上説明した工作機械の制御システム10において、CAD装置100、CAM装置200は一体化して1つのコンピュータで構成されてもよい。また、CAD装置100、CAM装置200は数値制御装置300に含まれてもよい。
【0024】
次に、工作機械の制御システム10を用いて加工される、本開示の一実施形態の評価用ワークについて説明する。本開示の評価用ワークは3つの評価項目を測定できるように3つの評価部を備えている。
図6は本開示の一実施形態の評価用ワークの平面図(上面図)である。
図7~
図10は本開示の一実施形態の評価用ワークの正面図、背面図、左側面図及び右側面図であり、
図6に示した評価用ワークのA方向、B方向、C方向及びD方向から見た図である。
図11及び
図12は
図6に示した評価用ワークの斜め左上方向の斜視図及び斜め右下方向の斜視図であり、
図6に示した評価用ワークのE方向、F方向から見た図である。
【0025】
本実施形態の評価用ワーク30は、台状加工部と、ねじれ加工部とを備え、ねじれ加工部が台状加工部と接する部分は、
図11及び
図12に示すように、対向する弧状の2辺S11,S14と、対向する直線状の2辺S12,S13とからなる四角形となっている。4つの辺S11~S14から延びた4つの側面F1~F4は、台状加工部から上側に向かってねじれており、各側面F1~F4の表面の形状が変化する自由曲面を構成する。自由曲面とは、球体及び円柱などのように単純な数式では表わすことができない曲面であり、空間に交点と曲率をいくつか設定し、高次方程式でそれぞれの交点を補間した曲面をいう。
【0026】
図11及び
図12から明らかなように、ねじれ加工部の上部は、円柱状の中心部30Aと2つの側部30B1、30B2とを備えている。2つの側部30B1、30B2は円柱状の中心部30Aの周囲に形成される。
そして、評価用ワーク30は、
図11に示すように、工具の傾きが変化する曲面部31と、工具の異なる角度で加工する、隣接する2つの領域を有する平面の2つの領域の境界部32と、工具先端点の移動量に対して、回転軸の移動量が大きい角部33とを備えている。
曲面部31、境界部32、及び角部33は、本開示の評価用ワークが備える3つの評価部となる。
以下、各評価部について説明する。
【0027】
<曲面部31>
図13に示すように、3軸加工では、加工プログラムの回転軸指令点に工具24のX軸、Y軸、及びZ軸の情報だけが記載され、数値制御装置300はこの回転軸指令点に基づいて工具先端軌跡を設定し、工具24はワーク(被加工物)に対して垂直に工具先端軌跡に沿って加工していく。一方、
図14に示すように、5軸加工では、加工プログラムの回転軸指令点にはX軸、Y軸、Z軸の情報以外に工具24の傾きの情報も入っており、工具先端軌跡が同じでも、工具24の傾きを変えながら加工をしていくことが可能である。
図14において、工具24の傾きは矢印で示されている。
5軸加工で、傾きを変えながら加工を行う場合、工具の傾きが滑らかに変化する加工プログラムが望ましいが、CAM装置200の設定が適切でないと、
図15に示すように工具の傾きが滑らかでない加工プログラムができる。
【0028】
この回転軸の移動が滑らかでない箇所を「回転軸指令点の乱れ」といい、特に自由曲面で発生しやすい。
回転軸指令点の乱れが起こると、実際の加工中、回転軸指令点の乱れがある箇所の工具の動きが滑らかでなく、その結果、工具とワークの当たり方(接触部分の様子)が違って、
図16に示すような筋目となる。この問題は工具側面で加工する場合に特に発生しやすい問題である。
【0029】
本実施形態における評価用ワーク30の曲面部31は、
図11に示すように、台状加工部から延びた側面F1の一部に形成され、この側面は台状加工部から上側に向かってねじれており、側面F1の表面の形状が変化する自由曲面を構成する。曲面部31では、工具の傾きを変えながら加工を行っていくと、回転軸指令点の乱れが発生しやくなり筋目が発生する。
評価用ワーク30が備える曲面部31における筋目の発生の有無を観察することで、加工プログラムの回転軸指令点に含まれる工具の傾きが適正かどうかを評価することができる。
なお、評価用ワーク30において、
図11に示した側面F1の曲面部31を評価部としているが、
図11及び
図12に示した側面F2~F4のいずれかの側面の曲面部を評価部としてもよく、例えば
図8に示す側面F3の点線領域で示す曲面部を評価部としてもよい。
また、側面F2~F4のうちの複数の側面の曲面部を評価部としてもよい。
【0030】
<境界部32>
5軸加工機が工具を用いて二つの角度で平面を加工するときに、目標としては
図17に示すようにワーク26に均一な平面が形成されることが望ましいが、実際の加工では
図18に示すように、工具の回転軸中心位置のズレがある場合は、ワーク26の表面に段差が形成されてしまう。
図17及び
図18において、点線で示した工具部25は、実線で示した工具部25から目標とする位置に移動した工具部を示す。工具部25は、例えば、
図4のヘッド21Cにおいて、工具と、B軸方向に工具を回転可能に支持する支持部を示す。
回転軸中心位置のズレは、機械の物理的な回転軸中心と、数値制御装置300のパラメータに設定されている回転軸中心が一致していないことにより生ずる。このズレが起こると、5軸加工全体に悪影響を与え、例えば、
図18に示したように、平面に段差が形成される。
【0031】
回転軸中心位置のズレがある場合に、段差が形成されてしまう理由について、以下に説明する。簡略化のために、工具が60度回転した状態で工具先端がワーク上面に移動する指令がされた場合を例にとって説明する。
図19の(A)、(B)、及び(C)は、それぞれ、機械の物理的な回転軸中心と数値制御装置300のパラメータに設定されている回転軸中心が一致している場合の、工具が平面に対して垂直に配置された状態を示す図、工具を、回転軸中心を中心点として60度回転させた状態を示す図、及び工具を、(B)に記載の状態から所定の移動量だけ、工具先端がワーク上面に配置されるように移動させた状態を示す図である。
図20の(A)、(B)、及び(C)は、それぞれ機械の物理的な回転軸中心が数値制御装置のパラメータに設定されている回転軸中心(
図19の(A)~(C)に示した回転中心に対応する)とズレている場合の、工具が平面に対して垂直に配置された状態を示す図、工具を、回転軸中心を中心点として60度回転させた状態を示す図、及び工具を、(B)の状態から所定の移動量だけ、工具先端がワーク上面に配置されるように移動させた状態を示す図である。
【0032】
機械の物理的な回転軸中心は、工具を回転させる中心であり、例えば、
図4のヘッド21Cにおける、B軸方向に工具を回転させる中心である。
機械の物理的な回転軸中心と数値制御装置300のパラメータに設定されている回転軸中心が一致している場合は、
図19の(C)に示すように、数値制御装置300が計算した所定の移動量、具体的には工具が60度回転した状態から工具先端がワーク上面に移動するための移動量(
図19の(C)の太い矢印で示される)は適切に設定され、工具先端は
図19の(B)の工具の配置から目標とする平面上の位置に移動する。
しかし、機械の物理的な回転軸中心が数値制御装置300のパラメータに設定されている回転軸中心とズレている場合は、
図20の(C)に示すように、機械の実際の動きは工具が
図19の(C)と同じ所定の移動量(
図20の(C)の太い矢印で示される)だけ移動すると、目標とする平面上の位置から下方向にズレた位置に移動し、工具によってワークが加工されると、平面上に段差が形成されてしまう。
【0033】
本実施形態における評価用ワーク30では、
図21に示すように、台状加工部の平面を4つの領域R1~R4に分割し、隣接する領域で、工具の傾きを異なる角度として加工する。例えば、
図21に示すように、領域R1と領域R2との間で、工具がそれぞれ異なる角度で加工する。評価用ワーク30の隣接する領域R1と領域R2との境界部32での段差の出来具合を観察することで、機械の回転軸中心位置のズレを評価できる。
【0034】
なお、評価用ワーク30において、
図21に示した領域R1と領域R2との間の境界部32を評価部としているが、
図21に示した領域R1~R4のうちの2つの隣接する領域間で工具の傾きを異なる角度として加工して、その領域間の境界部(境界部32を除く)を評価部としてもよい。
また、領域R1~R4において、工具の傾きを異なる角度として加工する、隣接する領域を複数設け、それぞれの領域間の境界部を評価部としてもよい。
【0035】
<角部33>
形状によって工具姿勢が急激に変化せざるをえない場合がある。例えば、
図22に示すように、直方体のワーク27を加工した際に、角の所で工具24の傾きが90度と大きく変化し、加減速の影響により加工面に筋目が発生することがある。
工具24は角に近づくと、工具24の送り軸速度が低速から減速に移り、角で工具24を停止して工具24の姿勢を90度回転させて、回転後に工具24の送り軸速度を停止から加速に移る。工具24の回転においても、工具24は角にまで到達すると工具24の回転により工具の姿勢が固定から90度変わり、その後、工具24の姿勢は固定される。このような工具に動作で、機械に振動が発生すると、加工面に筋目が発生する。
【0036】
機械に振動が生ずるのは、力学的に次のように考えられる。モータの急激な速度変化が外乱になり、その外乱がボールねじを通して、そのボールねじの先に連結している工具に伝導され、工具は平衡位置からずれる。外乱で平衡位置からずれた工具は元に戻ろうとする。このようにして、外乱によって工具が振動する。また工具を角での回転するモータの急激な回転開始及び回転停止により、モータ及び工具に振動が発生する。なお、
図4に示す、ヘッド回転形の5軸加工機を用いているため、振動が工具又はモータに起こるが、
図2に示すように、テーブル22Aが直線移動と回転移動する場合はテーブルに振動が発生し、
図3に示すように、テーブル22Bが回転移動する場合はテーブルに振動が発生するとともに、工具に振動が発生する。
このような角の箇所では、数値制御装置300による工具姿勢の制御と加減速の制御を滑らかにすることが重要となる。
【0037】
本実施形態における評価用ワーク30では、
図23に示すように、ねじれ加工部の側面F1と側面F2との境界に工具姿勢が急激に変化する鋭い角部33を設けており、角部において、工具先端点の移動量に対して、工具の回転軸の移動量が大きくなる。角部33のエッジ前後の加工面に筋目が発生するかどうかを観察することで数値制御装置の加減速制御を評価する。
なお、評価用ワーク30において、
図23に示したように、側面F1と側面F2との間の角部33を評価部としているが、
図11及び
図12に示した側面F1~F4のうちの2つの隣接する側面間の角部(角部33を除く)を評価部としてもよい。
また、側面F1~F4において、隣接する側面の角部の複数を評価部としてもよい。
【0038】
以上説明した実施形態では、3つの評価部を1つの評価用ワークに形成したが、3つの評価部のうちのいずれかを1つの評価用ワークに形成してもよく、3つの評価部のうちの2つの評価部を組み合わせて1つの評価用ワークに形成してもよい。
【0039】
また、評価用ワークは、台状加工部とねじれ加工部とを有する例に限定されず、曲面部31、境界部32、及び角部33が形成可能な形状であれば、他の形状であってもよい。例えば、回転軸指令点の乱れは、自由曲面で発生しやすいので、ねじれた側面に曲面部31を設けているが、回転軸指令点の乱れが生じるならば、凹曲面又は凸曲面を有する柱状体等であってもよい。また、評価用ワーク30は、角部33を曲面部31とともに設ける場合に適する形状であり、角部のみ、又は角部と境界部32を設ける場合には、
図22に示すような直方体を台状加工部上にねじれ加工部の替わりに設けてもよい。
【0040】
次に、既に説明した評価用ワークを作製する工作機械の制御システムに用いる加工プログラム及びCADデータ構造について説明する。
本開示の加工プログラムの一実施形態は、CAD装置100によって作成された、
図6~
図12に示す評価用ワークの形状に基づいて、CAM装置200がCAMソフトウェアを用いて作成する。
【0041】
<加工プログラム>
加工プログラムは、工具の傾きを変化させて自由曲面を形成する処理と、平面の隣接する2つの領域の境界部において、2つの領域間で互いに工具の異なる角度で加工する処理と、工具先端点の移動量に対して、工具の回転軸の移動量を大きくして角部を形成する処理とのうちの少なくとも1つの処理を実行させる加工プログラムである。
工具の傾きを変化させて自由曲面を形成する処理は、例えば、数値制御装置300を用いて、
図11に示す側面F1の曲面部31を生成する処理である。
平面の隣接する2つの領域の境界部において、2つの領域間で互いに工具の異なる角度で加工する処理は、例えば、数値制御装置300を用いて、
図21に示す台状加工部の表面の領域R1と領域R2との領域間で互いに工具の異なる角度で加工する処理である。
工具先端点の移動量に対して、工具の回転軸の移動量を大きくして角部を形成する処理は、例えば、数値制御装置300を用いて、
図23に示すように、側面F2から側面F1に角部33を介して工具が移動するときに、
図22に例示されるように、工具先端点の移動量に対して、工具の回転軸の移動量を大きくして角部を形成する処理である。
【0042】
加工プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えば、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば、光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(random access memory))を含む。
【0043】
<CADデータ構造>
CADデータ構造は、CADデータに基づいてCAM装置により加工プログラムを作成して多軸加工機を駆動させて評価用ワークを作成する、該多軸加工機の制御システムにおける、前記CADデータのデータ構造であって、
前記評価用ワークの、工具の傾きが変化する自由曲面からなる曲面部、工具の異なる角度で加工する、隣接する2つの領域を有する平面の前記2つの領域の境界部、及び工具先端点の移動量に対して、回転軸の移動量が大きい角部のうちの少なくとも1つを加工するためのデータ構造である。
【0044】
工具の傾きが変化する自由曲面からなる曲面部を加工するためのデータ構造は、例えば、
図11に示す曲面部31を作成するためのデータ構造であり、台状加工部から上側に向かってねじれており、表面の形状が変化する自由曲面を構成する側面F1の一部に形成される曲面部31を示すデータ構造である。
【0045】
工具の異なる角度で加工する、隣接する2つの領域を有する平面の2つの領域の境界部を加工するためのデータ構造は、例えば、
図21に示すように領域R1と領域R2との間で、工具によってそれぞれ異なる角度で加工される境界部32を示すデータ構造である。
【0046】
工具先端点の移動量に対して、回転軸の移動量が大きい角部のうちの少なくとも1つを加工するためのデータ構造は、例えば、
図11に示す角部33を作成するためのデータ構造であり、角部33において、側面F1と側面F2との境界に工具姿勢が急激に変化する鋭い角部33を示すデータ構造である。
【0047】
上述した実施形態は、本発明の好適な実施形態ではあるが、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【0048】
本開示による機械学習装置、制御システム及び機械学習方法、上述した実施形態を含め、次のような構成を有する各種各様の実施形態を取ることができる。
【0049】
(1)本開示の一態様は、直線3軸と1軸以上の回転軸とを備えた多軸加工機(例えば、5軸加工機20A、20B、又は20C)によって加工された評価用ワークであって、
工具の傾きが変化する曲面部(例えば、曲面部31)と、工具の異なる角度で加工する、隣接する2つの領域を有する平面の前記2つの領域の境界部(例えば、境界部32)と、工具先端点の移動量に対して回転軸の移動量が大きい角部(例えば、角部33)とのうちの少なくとも1つを備えた評価用ワーク(例えば、評価用ワーク30)である。
【0050】
(2)上記(1)に記載の評価用ワークにおいて、前記曲面部は、自由曲面に形成されてもよい。
【0051】
(3)上記(1)又は(2)に記載の評価用ワークにおいて、前記評価用ワークは、台状加工部と該台状加工部上に形成されるねじれ加工部とを有し、前記境界部は前記台状加工部の表面に形成され、前記曲面部及び前記角部は前記ねじれ加工部に形成されてもよい。
【0052】
(4)上記(1)から(3)のいずれかに記載の評価用ワークにおいて、前記多軸加工機は、テーブルが直線移動するとともに回転移動するテーブル回転形の加工機(例えば、5軸加工機20A、20B、又は20C)、テーブルが直線移動し、ヘッドが回転移動する混合形の加工機(例えば、5軸加工機20B)、又はヘッドが直線移動するとともに回転移動するヘッド回転型の加工機(例えば、5軸加工機20C)であってもよい。
【0053】
(5)本開示の他の態様は、直線3軸と1軸以上の回転軸とを備えた多軸加工機(例えば、5軸加工機20A、20B、又は20C)を駆動させて評価用ワーク(例えば、評価用ワーク30)を作製する数値制御装置(例えば、数値制御装置300)としてのコンピュータに、
工具の傾きを変化させて自由曲面を形成する処理と、平面の隣接する2つの領域の境界部において、2つの領域間で互いに工具の異なる角度で加工する処理と、工具先端点の移動量に対して工具の回転軸の移動量を大きくして角部を形成する処理とのうちの少なくとも1つの処理を実行させる加工プログラム。
【0054】
(6)本開示の更に他の態様は、CADデータに基づいてCAM装置(例えば、CAM装置200)により加工プログラムを作成するCAM装置と、直線3軸と1軸以上の回転軸とを備えた多軸加工機(例えば、5軸加工機20A、20B、又は20C)を加工プログラムに基づいて駆動させて評価用ワーク(例えば、評価用ワーク30)を作製する数値制御装置とを備えた制御システム(例えば、制御システム10)における、前記CADデータのデータ構造であって、
前記評価用ワークの、工具の傾きが変化する自由曲面からなる曲面部と、工具の異なる角度で加工する、隣接する2つの領域を有する平面の前記2つの領域の境界部と、工具先端点の移動量に対して工具の回転軸の移動量が大きい角部とのうちの少なくとも1つを加工するためのデータ構造。
【符号の説明】
【0055】
10 制御システム
20A、20B、20C 5軸加工機
30 評価用ワーク
31 曲面部
32 境界部32
33 角部